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TOPICS 48 SOKEIZAI Vol.52 2011No.9 ㈳ 日本ダイカスト協会 西  直 美 GIFA 2011報告 -日本 ダイカスト 協会視察団の見学記- 1.はじめに 2011年 6 月28日~ 7 月 2 日の会期 5 日間にわたっ てドイツの Düsseldorf で 4 年に 1 度開かれる世界最 大の国際鋳造機器・技術展 GIFA2011が開催された。 ㈳日本ダイカスト協会では、6 月25日成田発~ 7 月 2 日成田着までの、6 泊 8 日の日程で視察団を派遣した。 München ~ Uzwil(スイス)~ Biberach ~ München ~ Werdorl ~ Düsseldorf ~ Frankfurt まで合計約 1,000 kmをバスで移動する強行軍であった。GIFAの視察 に先駆けて ㈱ JSW & Buhler Machinery 様のコーディ ネートにより 4 社の工場を視察した。 2.視察概略 ㈳日本ダイカスト協会の GIFA への視察団派遣は 今回で連続 4 回目となる。視察団は、筑波ダイカスト 工業㈱会長の増渕茂麿氏を団長として総勢 22人で構 成された。 6月25日(土):成田出発 6 月26日(日): 終日・・・ヒース教会、ノイシュバンシュタイン城を 見学(観光) 6 月27日(月): 午前中・・・ Bühler Druckguss AG を見学。 ・小麦の製粉機械やチョコレートの生産機械など グラインディング技術をベースとした機械が 60%以上の世界的なシェアを持っている会社、 ダイカストマシンは 20 % のシェア。 午後・・・個人会社としては欧州で No.1 のダイカスト メーカーである Handtmann 見学。 太陽光発電のDC/ACコンバータハウジング(16 kg)のダイカストやロストフォームプロセスを見学。 6 月28日(火):午前中・・・ BMWを見学 ・アルミニウム合金及びマグネシウム合金の生産 ラインを見学し、大物の自動車ボディ部品やエ ンジンブロックなどの生産現場を見学。技術力 の高さを痛感。 午後・・・ Hagen に移動(約 600 km) 6月29日(水): 午前中・・・ Georg Fischer Auto-motive AG(世界的 な自動車部品メーカー)見学。 ・鋳造~トリミング~ショットブラスト~後加工 までのオートメーション生産。材料開発、製造 開発、設計開発を一体とした提案型影響を実施。 後・・・ GIFA 会場へ移動 ・夕方 Bühler Druckgus AG のブースでのパー ティに全員参加。 6 月30日(木):終日・・・ GIFA 見学 ・GIFAは、厳密には GIFA(国際鋳造機器・技 術展WFO技術フォーラム併催)、METEC(国 際金属製造機材・技術展 コングレス併催)、 THERMPROCESS(国際工業炉・熱応用技術 展)、NEWCAST(国際精密鋳造品展)の 4 見 本市の同時開催である。出展者数は 1,958団体 で、83 か国から 79,000 人の来場者があった。今 回特に注目されたのは、NEWCASTで中国企 業が出展会社の 2/3 近くを占めており、製品の 展示というより商談が目的の小さなブースが多 いようであった。急激に成長している中国の底 力を感じた。 夕方・・・ドイツ鋳造協会の Mr.Klügge 氏と増渕団長、 事務局でミーティングを行う。 7月1日(金):Frankfurt 空港に移動 7月2日(土):成田着 3. 工場見学 3.1 ビューラー社(Bühler Druckgus AG)見学 ビューラー社(Bühler AG)は、スイスのUzwill の 田園地帯に立地している。同社は、1860年創業で現 在の売上高は約19 億スイスフラン(1,840億円)、社員 数は約 8,000人である。写真 1 にビューラー社前での ビューラースタッフと視察団との集合写真を示す。 ビューラー社のダイカストマシンは、質実剛健なこ とで知られ、また SSM(セミソリッド)ダイカストで

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48 SOKEIZAI Vol.52(2011)No.9

㈳日本ダイカスト協会 西  直 美

GIFA 2011報告-日本ダイカスト協会視察団の見学記-

1.はじめに      2011年 6 月28日~ 7 月 2 日の会期 5 日間にわたってドイツの Düsseldorf で 4 年に 1 度開かれる世界最大の国際鋳造機器・技術展 GIFA2011が開催された。㈳日本ダイカスト協会では、6月25日成田発~ 7月 2日成田着までの、6泊 8日の日程で視察団を派遣した。München ~ Uzwil(スイス)~ Biberach ~ München~Werdorl~Düsseldorf~Frankfurtまで合計約1,000 kmをバスで移動する強行軍であった。GIFAの視察に先駆けて㈱JSW & Buhler Machinery様のコーディネートにより 4社の工場を視察した。 

2.視察概略      ㈳日本ダイカスト協会の GIFA への視察団派遣は今回で連続 4回目となる。視察団は、筑波ダイカスト工業㈱会長の増渕茂麿氏を団長として総勢 22人で構成された。 6月25日(土):成田出発 6 月26日(日): 終日・・・ ヒース教会、ノイシュバンシュタイン城を

見学(観光) 6 月27日(月): 午前中・・・ Bühler Druckguss AG を見学。  ・ 小麦の製粉機械やチョコレートの生産機械など

グラインディング技術をベースとした機械が60%以上の世界的なシェアを持っている会社、ダイカストマシンは 20%のシェア。

 午後・・・ 個人会社としては欧州でNo.1 のダイカストメーカーであるHandtmann 見学。

  ・ 太陽光発電のDC/ACコンバータハウジング(16 kg)のダイカストやロストフォームプロセスを見学。

 6月28日(火):午前中・・・ BMWを見学  ・ アルミニウム合金及びマグネシウム合金の生産

ラインを見学し、大物の自動車ボディ部品やエンジンブロックなどの生産現場を見学。技術力の高さを痛感。

  午後・・・ Hagenに移動(約600km) 6月29日(水): 午前中・・・ Georg Fischer Auto-motive AG(世界的

な自動車部品メーカー)見学。  ・ 鋳造~トリミング~ショットブラスト~後加工

までのオートメーション生産。材料開発、製造開発、設計開発を一体とした提案型影響を実施。

  午後・・・ GIFA会場へ移動  ・ 夕方 Bühler Druckgus AG のブースでのパー

ティに全員参加。 6月30日(木):終日・・・ GIFA見学  ・ GIFAは、厳密には GIFA(国際鋳造機器・技

術展WFO技術フォーラム併催)、METEC(国際金属製造機材・技術展 コングレス併催)、THERMPROCESS(国際工業炉・熱応用技術展)、NEWCAST(国際精密鋳造品展)の 4 見本市の同時開催である。出展者数は 1,958団体で、83か国から 79,000人の来場者があった。今回特に注目されたのは、NEWCASTで中国企業が出展会社の 2/3 近くを占めており、製品の展示というより商談が目的の小さなブースが多いようであった。急激に成長している中国の底力を感じた。

  夕方・・・ ドイツ鋳造協会のMr.Klügge氏と増渕団長、事務局でミーティングを行う。

 7月 1日(金):Frankfurt 空港に移動 7月 2日(土):成田着

3. 工場見学     3.1 ビューラー社(Bühler Druckgus AG)見学 ビューラー社(Bühler AG)は、スイスのUzwill の田園地帯に立地している。同社は、1860年創業で現在の売上高は約19 億スイスフラン(1,840億円)、社員数は約 8,000人である。写真 1にビューラー社前でのビューラースタッフと視察団との集合写真を示す。 ビューラー社のダイカストマシンは、質実剛健なことで知られ、また SSM(セミソリッド)ダイカストで

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も先陣をきってきた技術力の優れた会社である。しかし、同社の主力は食品関係設備で、小麦の製粉機(世界シェア66%)を始め、チョコレートを製造する機械(同65%)、ペットフード(同60%)やパスタ(同50%)を製造する機械などがある。ダイカストマシンの世界シェアは 20%である。 ダイカストマシンの生産は、スイスの本社を含めて世界で 6 拠点{本社、オーストリア、アメリカ(旧 Prince)、中国(2 箇所)、日本(JSW&Buhler Machinery)}で行っており、ダイカストマシンのサイズは型締め力 100 t ~ 4,400 t で、本社工場で組立可能なサイズは 1,400 t まで、それ以上のものはユーザーの工場に持ち込んでから組立と調整を行っている。同社の生産台数は年間150台である。最近では、省スペース、省エネルギーを特徴とした写真 2に示すような 2プラテン(固定プレートと可動プレートのみ)の生産に力を入れており、その比率は 1,000 t 以上のクラスでは 70%とのことであった。

3.2 ハンツマン社(Handtmann) ハンツマン社は、ドイツ南部の Biberach にあるダイカストメーカーで、1880年頃に創設された個人会

社である。売上高は、5億ユーロ(550億円)、社員数は 2,600人である。工場は、Biberach、Annaberg、Kosice、Slovakia に合計で 6箇所保有している。 ダイカストマシンは、250 t~4,000 t が 65台あり、1,000 t クラスがほとんどである。工場内の写真撮影は禁止されていたので、写真 3に同社のカタログに掲載されている工場内の写真を示す。ダイカストは、年間で 38,000 t の生産を行っている。主な得意先は、BMW、Volkswagen & Audi、Mercedes Benz、OPELなどである。生産しているダイカストは、シリンダーブロック、オイルパン、ミッションケースなどの自動車部品が中心であった。自動車以外には、写真 4に示す太陽光発電のコンバータハウジング(約16kg)を大量に生産していた。MünchenからUzwil(スイス)に移動する際の道路沿いの多くの民家や牛小屋の屋根などには太陽光発電パネルが敷き詰められており、再生可能エネルギーへの取り組みが盛んに行われていた。ハンツマン社で生産されていたハウジングはこれらに使用されるとのことであった。ハンツマン社は、ダイカスト、切削加工、組付けまでの一貫生産をフルサービスと呼び、その強みをアピールしていた。また、鋳造シミュレーション、FEM解析、塩水噴霧テストなどの設備を保有し、品質保証を行っている。

写真 1 Bühler AGでの視察団集合写真

写真 2 Bühler Druckgus AGの 2プラテンダイカストマシン

写真 4 太陽光発電のコンバータハウジング

写真 3 Handtmann社の工場(同社カタログより)

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 同社はダイカスト以外に、重力金型鋳造(年間1,500 t)、砂型鋳造(年間500 t)なども行っている。また、アルミニウム合金のロストフォームプロセスが 2ラインあり、年間約1,600 tを生産している。

3.3 BMW社 BMW社はドイツを代表する自動車メーカーの一つであり、今回の見学はMünchen の北東 50kmに位置するLandshutにあるBMW Light Metal Foundryで、鋳造のみで完成車の組み立ては行っていない。1989年の創業で 2001年よりマグネシウム合金ダイカストも生産を行っている。社員は1,280人、面積320,000m2で、生産量は年間45,000 tで、売上高は2億380万ユーロ(約262億円)である。 同社では、シリンダーブロック、サスペンション、車体フレームなどを生産している。 見学した生産ラインは、マグネシウム合金製シリンダーブロックとアルミニウム合金製のハッチバックサポートフレームであった。前者は、2007年のGIFAでも展示されていた写真 5に示す製品である。エンジンブロックのシリンダー部分は過共晶Al-17%Si合金を用いて低圧鋳造し、それに表面処理を施してダイカストマシンに設置し、マグネシウム合金で鋳ぐるんで一体化してシリンダーブロックを生産している。

 後者は、写真 6に示すような BMWで最も大きいダイカスト製品で、BMW 5-series“Gran Turismo”に搭載されているハッチバックサポートフレームである。サイズは L:1,230mm、W:1,250mm、H:390 mmで質量は 11.6kg である。この製品は鋳造から仕上げまでが自動ライン化されていた。製品は、鋳造後ハンガーに吊られ CNC加工場に移動し、専用冶具にて歪みなどを検査、数台のCNCに順番にセットし加工を行っていた。 その他、4,000 t ダイカストマシンを用いてストラットタワー(約16kg)の 2個取りや、サイドフレームの一体化など大型で、高精度、高品質のダイカストを行っていた。いずれも高真空ダイカストによる生産である。 先のハンツマン社もそうであったが、比較的大型のダイカストマシンが多かったこともあり、ダイカストマシンへの給湯はラドルを用いた給湯は皆無で、全てエア加圧式と思われる給湯装置が用いられていた。また、BMWでは合金は溶湯購入が行われており、工場内には溶湯搬送のための容器がおいてあった。事実、BMW社に移動する高速道路でその搬送車を見かけた。 3.4 ジョージフィッシャーオートモーティブ社    (Georg Fisher Automotive AG) ジョージフィッシャーオートモーティブ社は、スイスに本部があるジョージフィッシャーグループに属している。ジョージフィッシャーグループは配管、精密加工機、鋳造の事業部で構成されている。その中で、今回訪問したジョージフィッシャーオートモーティブ社は鋳造を担当している企業である。同社の売上高は年間11.2億ユーロ(1,232億円)、社員は 5,500人で、ダイカスト(アルミニウム合金、マグネシウム合金)だけでなく、アルミニウム合金の砂型鋳造、金型鋳造(重力、低圧)、鋳鉄の製造を行っている。ダイカスト製品は、自動車製品が多く、ステアリングナックル、ドアフレーム、トランスミッションケース、エンジンブロック、サスペンションアーム、ギヤボックスなどを生産している。生産拠点は、ドイツ、オーストリア、中国に12箇所あり、研究所を3 箇所に保有する世界トップクラスの総合鋳造メーカーである。同社のダイカスト製品は、Volkswagen、BMW、Mercedes、Renault S.A.S.、VOLVO、Ford、PEUGEOT、MAZDA、Citroen、PORSCHEなど多くの自動車メーカーに納入されている。 今回訪問した工場は、GIFA会場のあるDüsseldorfから東に100km ほど離れたWerdorl にある。写真 7に同社前でのジョージフィッシャーオートモーティブスタッフと視察団との集合写真を示す。同工場は従業員381人、ダイカストマシン21台、マシニングセンター

写真 5 マグネシウム合金製シリンダーブロック

写真 6 ハッチバックサポートフレーム

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19台でエンジンブロック、ギヤボックス、トランスミッションケースなどを製造している。この工場のダイカストマシンはビューラー社の2,800 t・2 プラテンマシンなどほとんどが大型マシンである。生産量は年間 22,000 t である。 ダイカストの製造ラインは、鋳造~トリミング~ショットブラストまで完全自動化されており、ロボット、コンベアにより無人で搬送される。エンジンブロックは、荒加工、耐圧検査まで無人で行われている。また、鋳造条件などの15項目が常にオンラインで管理され、トレーサビリティも徹底されていた。 ダイカストマシンの横にはオイル循環式の金型温調機(2 系統制御)が 4 ~ 5 台配置され、金型の場所にもよるが 90~220℃で温度制御していた。ヨーロッパの水は硬度が高いため、冷却回路の水垢の堆積に対する対応としてオイル循環式の温調機を用いて、冷却や加熱を行っていると考えられる。プランジャーチップは、Cu-Be 製が多く、スリーブは日本のものに比較してかなり太く、肉厚であった。同様に金型も堅牢で、可動の母型がスペーサーまで一体となっており、ダブルシリンダーによる引抜中子が用いられていた。金型寿命は、エンジンブロックで15万ショット(ウオータージャケットは 2~ 3万ショット)、ミッションケースで 10~11万ショット程度だそうである。 ダイカストの不良率は、エンジンブロックを例にすると、工場内で 5~ 6%、ユーザーでの最終気密不良が約 1%と少ない。高速射出速度は、4~ 5m/s で非常に速く(そのために金型が堅牢になっていると思われる)、充填時間が短くなることが不良率の低い要因の一つと考えられる。 ジョージフィッシャーオートモーティブ社に限らずヨーロッパでは、自動車メーカーからの要求に応じて、部品メーカーやダイカスターが製品設計から取り組む

ため、ダイカストとしての品質の作り込みがしやすい。特に、同社では、材料開発、設計開発、プロセス開発に取り組み、自動車メーカーに提案しているとのことであった。

4.GIFA & NEW CAST      GIFAは、ドイツの Düsseldorf で 4 年に 1 度開かれる世界最大の国際鋳造機器・技術展で、厳密にはGIFA(国際鋳造機器・技術展 WFO技術フォーラム併催)、METEC(国際金属製造機材・技術展 コングレス併催)、THERMPROCESS(国際工業炉・熱応用技術展)、NEWCAST(国際精密鋳造品展)の 4 見本市の同時開催である。今回で12回目になる。会場は、図 1に示すように17ホールに分かれており、GIFAが 5、7、9~13、15~17の10ホール、NEW CASTが13、14の 2 ホールであった。

 主催者側の発表では、今回の出展は1,958団体で、来場者は 83か国から79,000人であったそうだ。ちなみに日本からの来場者は480人であった。前回に比較して海外出展者や来場者の占める比率が高く、特に中国の出展者数は 2007年の 25社から 301社へと 10倍以上、インドは同15社から 80社へと 5倍以上増加した。また、海外からの来場者の割合は 54%と、2007年を上回り、特にインド、イタリア、フランス、オーストリア及びアメリカらの来場者が多かった。 そもそもGIFAは「商談の場」としての位置づけであり、事実、今回の最高額の商談は、5,400万米ドルの取引で、ドイツの鋳造機械メーカーとウズベク鉄道会社の間で成立したそうである。また、ドルトムントに拠点を置く誘導電気炉生産者も、世界で最も大きな溶解炉をインドの鉄鋼会社との間で契約したそうだ。 以下にダイカスト関連の主な展示状況を示す。

写真 7 Georg Fischer Automotive AG前での視察団の集合写真      

図 1 GIFA会場見取り図

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4.1 ダイカストマシン 今回の視察でお世話になった Bühler Druckguss AG は、写真 8に示すように 2プラテンダイカストマシンCARAT130Lean をドライ運転していた。同マシンは、高精度の射出動作と鋳ばり発生の少ない高速射出を特長としている。このダイカストマシンは、高真空ダイカスト仕様(Vacu2)になっており、排気量の約80%はスリーブ上部から行い、補助的にキャビティ上部のチルベントから排気する方式である。

 2プラテンマシンは先に紹介したように省スペース、省エネルギーを特徴としている。型締め力が大きいほどそのメリットは大きい。同社以外にもイタリアのItalpress Industrie S.p.A や Idra s. r. l でも 2 プラテンダイカストマシンを展示していた。 亜鉛合金用のダイカストマシンでは、ドイツのOskar Frech GmbH+Co.KGが Frech gating systemを展示していた。詳細は不明であるが、可動型から製品が押出される時点で製品がランナー部と切り離されていた。製品を見るとゲート部は仕上げの必要がないほどきれいであった。また、スロバキアのTitus Group, Lama Avtomatizacija d. o. o では、写真 9に示すような 4方向のマルチスライド金型を取り付けた型締め力

写真 8 Bühler Druckgus AGのブース

写真 9 Titus Group, Lama Avtomatizacija d.o.oの   マルチスライド亜鉛合金用ダイカストマシン

2 tの小型ホットチャンバーダイカストマシンを展示していた。一般的なホットチャンバーマシンとは異なり、大変コンパクトな設計になっており、ショットサイクルは 2 s程度で小さく複雑な形状のねじや小型のホイールバランスウェイトなどが生産できる。 日本からは、宇部興産機械(写真10)、ヒシヌママシナリー(写真11)が、ブースを設けていた。ダイカストマシンの展示はしてないが、パネルやカタログなどでそれぞれの技術をアピールしていた。

写真10 宇部興産機械のブース

写真11 ヒシヌママシナリーのブース

4.2 合金材料 ダイカスト用の合金では、自動車の足回り部品やボディ部品などの重要保安部品に適用が拡大しているRHEINFERDEN ALLOYS GmbH & Co.KG のブースが注目を集めていた。同社は、ドイツにある会社で、「Silafont-36」、「Magsimal-59」、「Castasil-37」などのアルミニウム合金が著名である。特に Silafont-36 は靱性、延性を阻害するFe含有量を0.12%以下にして、Mnを0.5~0.6%加えることで耐焼付き、耐型侵食性を向上させた合金で、T6 や T7 などの熱処理によって機械的特性を調整でき、溶接性にも優れている。高真空ダイカストと組み合わせることで、BMW、Volkswagen & Audi、Mercedes Benz などのエンジンクレードルやスペースフレームの結合部に使用される。

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今回のGIFAで展示されていた写真12のAUDI A8 のサイドメンバーや写真 6に示したBMWのバックドアなどは最近の用途例である。また、Magsimal-59 はMg 5.5%、Si 2.2%を含有する合金で、鋳造のままで熱処理しなくても高強度、高延性が得られ、写真 13に示したPorsche G1“Panamera”のドアインナーやリヤクロスメンバーなどに使用されている。また、Castasil-37 はMgの含有量を0.06%程度に大幅に減らした合金で、強度は犠牲にしても熱処理なしで延性、鋳造性に優れ、高温使用下でも時効による寸法変化しない特徴があり、自動車のAピラーやドアのインナーフレームなどに使用される。日本では、伊藤忠非鉄マテリアルが代理店として輸入・販売を行っている。

 日本では、アルミニウム合金では約95%がADC12で、それ以外の材料の使用比率は低い。ヨーロッパにおいてもトランスミッションケースやシリンダーブロックなど多くの部品では日本のADC10相当合金の使用が多いが、鋳造が難しいとされるMagsimal-59などのAl-Mg系合金もかなりうまく鋳造できている。残念ながら同合金は日本では鋳造するノウハウが蓄積されておらず、今後研究する必要性があると考える。

4.3 金型 GIFAの会場で目についたのは、ダイカスト金型が

展示されていたことであった。日本では、金型にはノウハウが詰まっているため展示することはほとんどない。写真14は、その一例で自動車の足回り部品の高真空ダイカスト金型の可動型である。金型にはガイドピンは設置されておらず、おも型の三箇所に四角柱状の溝が掘られており、ここに固定側からの四角柱の突起が侵入して金型を合わせる方式で、さらに固定型と可動型がインローになっている。工場見学でも多くの金型がこのような構造をしていた。また、この金型は通常の入れ子型とは異なり、直彫型である。注目されるのはランナー形状で、ビスケットから扇形にいくつものランナーが彫られ、製品部にファンゲートでつながっている。鋳造の湯流れの基本である「スムーズな流れ」を文字通り実践している方案である。

 ヨーロッパでは金型の温度調節にオイル循環装置を用いることが多い。日本では金型の予熱は捨打ちによる場合が多いが、ヨーロッパでは温調機により金型を予熱して、鋳造し始めからの品質確保が行われている。しかも、温調用オイル回路は、入れ子だけでなくおも型にも配置され、型温を安定させて入子の変形を防止し、鋳ばりの発生や製品の変形などを防いでいる。また、ヨーロッパの水は硬水であるため、冷却目的でもオイルを用いる。そのため、GIFAでは多くの会社が金型温調機を展示していた。また、オイルによる温調は専用媒体が必要で、オイル漏れの発生や媒体の交換によ

写真12 Silafont-36を使用した AUDI A8のサイドメンバー

写真13 Magsimal-59を使用した Porsche G1“Panamera” のドアインナー

写真14 自動車の足回り部品の高真空ダイカスト金型の可動型

写真15 スイスの Vakuum Druckguss Service社の   タイフーンチャンネル構造の真空バルブ

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る廃液処理などの問題があるため、オイルの替わりに0.6MPa程度の高圧水を150℃前後まで加熱して、これを熱媒体として循環させるシステムも展示されていた。 その他、ヨーロッパでは高真空ダイカストが以前から普及しており、GIFAでも数社が真空バルブ・真空装置・チルベントなどを展示していた。写真15にスイスのVakuum Druckguss Service 社のタイフーンチャンネル構造の真空バルブの例を示す。これは、台風での空気の流れを参考にして開発された興味深い真空バルブである。

4.4 ダイカスト製品 今世紀に入って日本でも高真空ダイカストが実用化され、自動車の足回りやボディ部品への適用が進んできており、ヨーロッパと同レベルの技術力が得られたと思いながら工場見学とGIFAに望んだが、実際はそうではなかった。ヨーロッパの高品質ダイカストは、日本に比較して大型で薄肉である。 写真16に示すストラットタワーは自動車の前輪の上部にあるタイヤハウスで、日産自動車が 2007年にGT-R に搭載したストラットハウジングと同様な製品であるが、3.3 で述べたように BMWではこれを4,000 tのダイカストマシンで2個取りしていた。また、BMWに限らず、スイスのDGS Druckguss Systeme AG や 3.4 で紹介したGeorg Fisher Automotive AGなどでも生産されている。

 写真17に示した自動車のドアフレームはGeorg Fisher Automotive AGで生産されているもので、下部のインナーフレーム(サイズはL:1,110mm、W:852mm、H:261mmで、質量は 3.6kg である)はMagsimal-59、上部のフレームはマグネシウム合金ダイカストでボルト締結されている。 その他、自動車のボティへのダイカストの適用はかなり進んでいるが、一方でアルミニウム合金ダイカストからハイテンに材料置換された事例もある。写真18は、第三世代のAUDI A8 のスペースフレームで、中央の柱(センターピラー)は第二世代のフレームで

はダイカストであったものが、ハイテンのボルト締結に替わっている。ダイカストでは自動車の側突強度が不足していたため、ハイテンに置換された。ハイテンは、1,000MPa 級の引張強さが得られ、アルミニウム合金ダイカスト(300MPa)の 3 倍以上である。もちろん、コストの問題もあるものと考えられる。このように、自動車の軽量化はダイカストにとって追い風となっていたが、種々の材料を適材適所に使用するマルチマテリアル化が今後進行すると思われる。 日本からのNEW CAST へのダイカスターの出展は、リョービ(写真19(a))と本田金属技術&メッツ(写真20)であった。リョービでは、トランスミッション

写真16 高真空ダイカストで生産されたBMWのストラットタワー

写真17 Georg Fisher Automotive AGで生産された自動車のドアフレーム       

写真18 第三世代のAUDI A8のスペースフレーム

写真19 リョービのブースと崩壊性中子を使用した製品

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系の組み立て部品や EV、HV関連部品などを展示し、中でもタイミングギヤカバー(b)は同社の得意とする崩壊性砂中子(c)を使用しており世界的に優れた技術で来場者から注目を集めていた。

4.5 産学連携 ドイツでは大学と企業の共同研究が盛んに行われており、GIFAでは7.0 ホールに21の大学がブースを出展していた。ダイカスト関連では、Hochschule Aalen-Gießerei Technologie Aalen や Gießerei-Institut der RWTH Aachen などが注目された。 Hochschule Aalen では、写真21に示すようにキャビティに溶湯を充填した後、製品が凝固する前に、まだ凝固していない製品中央部を高圧ガスで押出して中空部を形成するGIT(gas injections technik)法を紹介していた。本方法は現在も開発中であるが、射出成形においてはガスアシスト法として量産使用されている。また、排気溝の間隙を可変としたチルベントやゲート部に移動ピストンを設置して、ゲート厚さを可変として真空引き、溶湯射出、増圧、型開きの各段階に応じて適切な厚さにする可変ゲートシステムを開発している。いずれも、企業との共同研究である。

 Gießerei-Institut der RWTH Aachenでは、写真22に示すようにプレス鉄板とアルミニウム合金ダイカストのコンポジットとして、鉄板の穴部や周囲溝に

アルミニウム合金を充填して接合する、いわゆる「鋳ぐるみ」によって薄肉のリブ構造部品を形成する技術VarioStruct を開発中である。4.4 で述べたマルチマテリアル化技術の一種として注目される。 日本では、産学連携が叫ばれて久しいがダイカスト関連の研究を行っている大学が少ないこともあり、十分な共同研究開発体制が取られていないのは大変残念である。日本のダイカスト技術が世界、特にヨーロッパと互角に進展するためには、これらの共同研究体制を充実することが大切であることを痛感した。

5.おわりに      4年に 1 度の鋳物関係の世界一の祭典であるGIFAはすっかり定着した感がある。世界中から多くの出展者、来場者があった。日本も、震災で大変な時ではあるが 500人近い人が参加した。残念ながら、日本企業が出展したのはわずかに10数社であった。それに引き替え、中国のGIFAへの出展は301社(2007年25社)、インドが 80社(前回15社)も出展しており、中国、インドの躍進が目立った GIFAであった。ただし、中国は国の支援があったので中小企業が多く出展できたとのことであった。 1000年に一度と言われる大震災及び福島第一原発の事故の収束への道のりは遠いが、今回の見学先の会社及びドイツ鋳造協会のMr.Klügge氏からも励ましの言葉をいただいた。日本のダイカストのレベルアップをはかり、4年後の GIFA2015 には日本発の新技術を持ってドイツに乗り込みたいものである。 最後に、社団法人日本ダイカスト協会の団長をお引き受けいただいた筑波ダイカスト工業㈱の増渕茂麿会長に御礼を申し上げるとともに、GIFA視察団に参加していただいたメンバーの方々に感謝の意を表する。また、工場見学をコーディネートしていただいた㈱ JSW & Buhler Machinery の北村和夫社長及び杉山正課長に感謝の意を表する。その他、レポートをまとめるにあたりご協力いただいた方々に感謝の意を表する。

写真20 本田金属技術とメッツのブース

写真21 Hochschule Aalenで開発中のガスインジェクション

写真22 Gießerei-Institut der RWTH Aachenで開発中のVarioStruct