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ADC12 合金ダイカストにおける介在物の発生過程 579 技術報告 ADC12合金ダイカストにおける介在物の発生過程 高木 航* 吉田 誠** ReviewPaper J. JFS Vol. 83 No 10(2011) pp. 579 585 Formation of Inclusions During ADC12 Alloy Die Cast Process. Keywords: ADC12, die casting, alumim 自動車向けアルミニウムの素材別需要構成を見てみる と, 2010 年ではその約 55% がダイカ ス ト材である 1 〕.近 年,軽量化を目的として,ダイカストの薄肉化が進められ ている.それに伴って,ダイカスト製品の さ らなる高品質 化が望まれている. ダイカストに用いられるアルミニウム 合金は,使用後リ サイクルによりダイカスト用のアルミニウム合金として再 生される.従来より切粉を溶湯に混合し,揖梓することで 溶湯中の介在物を増やす方法が知られているため,もし加 工工場で発生する切粉をリサイクルに利用する場合,同様 に溶湯中の介在物が増加する懸念がある. アルミニウム合金ダイカスト中に存在する介在物は,そ の大きさがマイクロメートルオーダからミリメートルオー ダであり,その大きさによって アルミニウム合金の強さや 伸びに有害な影響を与えること が知 られている 3 ).また, インゴット状態で介在物量が少なくても, インゴ ットを溶 かしてダイカストする一連の過程の中で介在物が増えるこ とが懸念されている.しかし, ダイカ ス トプロセス中のど こでどの程度介在物が増えるのかはわかっていない. 2006 2008 年度ダイカストの高品質化研究部会(安斎 浩一部会長), 2009 年度からのダイカストの品質及び生 産性向上技術研究部会(神戸洋史部会長)では,共同の 研究テーマとして, nsADc12 アルミニウム合金(以下 ADC12 合金とする)を利用したダイカスト製造過程中の 介在物の発生を取り扱った.本報告では,「介在物と破断 チル層」についての従来の研究を振り返り,その後共同研 究について報告する. 2. 介在物と破断チル層についての従来の研究 アル ミニウム合金中の介在物量を計測する上で主に用い られている Kモー j レド法,そ して介在物の一種として数 受付日:平成23 1 31 日,受理日;平成23 9 78 Kou Takagi* and Makoto Yoshida** えられるものの,発生原因が異なる破断チル層について従 来の研究をまとめた. 2. 1 K モーノレド法 溶湯処理の中でも厄介な問題と して残されてきた介在物 の問題には,介在物の挙動が十分理解できていないこと, また,その原因として介在物の測定が困難であることが大 きな要因になっていた.そこで,鋳物・ダイカストの溶湯 の介在物測定において簡易な手法である, Kモールド法が 世界的に用いられるようになった幻. 測定対象の溶湯から採取した試料を破断して,破面中に 見られる介在物を評価,測定する破面検査法は,鋳物・ダ イカストにおいて古くから一般的に行われており,通常は 製品の検査などに利用されることが多かった.この方法 を,溶湯中の介在物評価のための試験方法として確立した のが,日本軽金属(株)の北岡らが開発した“ K モールド法” であるの. 「町一--ー 一ー τ ァー 0 I U > ー』ーーーーーマ, 240 300 I r- -↓九一一-- _ 11 w 。、 s g; 1 k モールドの形状.寸法 (単位: mm) *早稲田大学大学院創造理工学研究科 Graduated school of Creative Science and Engineering, Waseda University 榊早稲田大学各務記念材料技術研究所 Waseda Universit TheKagami Memorial Laboratory for Materials Science

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Page 1: 技術報告 ADC12合金ダイカストにおけ ... - J-STAGE

ADC12合金ダイカストにおける介在物の発生過程 579

技術報告ADC12合金ダイカストにおける介在物の発生過程

高木 航* 吉田 誠**

Review Paper

J. JFS Vol. 83 No 10 (2011) pp. 579~585

Formation of Inclusions During ADC12 Alloy Die Cast Process.

Keywords: ADC12, die casting, alumim

緒 言

自動車向けアルミニウムの素材別需要構成を見てみる

と, 2010年ではその約 55%がダイカ スト材である1〕.近

年,軽量化を目的として,ダイカストの薄肉化が進められ

ている.それに伴って,ダイカスト製品のさらなる高品質

化が望まれている.

ダイカストに用いられるアルミニウム合金は,使用後リ

サイクルによりダイカスト用のアルミニウム合金として再

生される.従来より切粉を溶湯に混合し,揖梓することで

溶湯中の介在物を増やす方法が知られているため,もし加

工工場で発生する切粉をリサイクルに利用する場合,同様

に溶湯中の介在物が増加する懸念がある.

アルミニウム合金ダイカスト中に存在する介在物は,そ

の大きさがマイクロメートルオーダからミリメートルオー

ダであり,その大きさによってアルミニウム合金の強さや

伸びに有害な影響を与えることが知られている3).また,

インゴット状態で介在物量が少なく ても, インゴットを溶

かしてダイカストする一連の過程の中で介在物が増えるこ

とが懸念されている.しかし, ダイカストプロセス中のど

こでどの程度介在物が増えるのかはわかっていない.

2006~2008年度ダイカストの高品質化研究部会(安斎

浩一部会長), 2009年度からのダイカストの品質及び生

産性向上技術研究部会(神戸洋史部会長)では,共同の

研究テーマとして, nsADc12アルミニウム合金(以下

ADC12合金とする)を利用したダイカスト製造過程中の

介在物の発生を取り扱った.本報告では,「介在物と破断

チル層」についての従来の研究を振り返り,その後共同研

究について報告する.

2. 介在物と破断チル層についての従来の研究

アルミニウム合金中の介在物量を計測する上で主に用い

られている Kモーjレド法,そ して介在物の一種として数

受付日:平成23年1月31日,受理日 ;平成23年9月78

Kou Takagi* and Makoto Yoshida**

えられるものの,発生原因が異なる破断チル層について従

来の研究をまとめた.

2. 1 Kモーノレド法

溶湯処理の中でも厄介な問題と して残されてきた介在物

の問題には,介在物の挙動が十分理解できていないこと,

また,その原因として介在物の測定が困難であることが大

きな要因になっていた.そこで,鋳物・ダイカストの溶湯

の介在物測定において簡易な手法である, Kモールド法が

世界的に用いられるようになった幻.

測定対象の溶湯から採取した試料を破断して,破面中に

見られる介在物を評価,測定する破面検査法は,鋳物・ダ

イカストにおいて古くから一般的に行われており,通常は

製品の検査などに利用されることが多かった.この方法

を,溶湯中の介在物評価のための試験方法として確立した

のが,日本軽金属(株)の北岡らが開発した“Kモールド法”

であるの.

「町一--ー 一ーτァー0 I U >

ー』ーーーーーマ,-240

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図1 kモールドの形状.寸法 (単位: mm)

*早稲田大学大学院創造理工学研究科 Graduated school of Creative Science and Engineering, Waseda University 榊早稲田大学各務記念材料技術研究所 Waseda UniversitぁTheKagami Memorial Laboratory for Materials Science

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580 鋳造工学 第83巻(2011)第 10号

(a)

図2 Kモールドによる介在物の観察例

(a):介在物が極めて多い試料

(b):介在物が殆どない試料

表1 Kモールド法による介在物の判定

級 K値 清浄度の判定 鋳造可否の判定

A <0.1 清浄な溶湯 鋳造しでも良い

B 0. 1~0. 5 lまlまj膏j争な;容j畢 できれば処理した

ほうが良い

c 0. 5~1. 0 やや汚れている溶湯 処理の必要がある

D 1. 0~10 汚れている溶湯 ,,

E >10 著しく汚れている溶湯 ,,

北岡らはKモールド法に関して次のような研究を行っ

た以下,原著を引用する.園 p)に示す試験片採取用の

Kモールドに測定対象の溶湯を流し込み,得られた 36×

6×240mmの凝固した薄肉平板試料をハンマなどで36×

6×20~40mmの小片に破断する.

園2に示されるような破断面2)に観察される介在物の数

を,目視あるいは3倍~ 10倍のルーペを用いて求め, 1

小片(2破面〉あたりの介在物数平均値を“K値”として

表示する.目的によっては介在物の大きさを区別して数え

ることもあるが,通常は,大きさに関係なく単純に観察さ

れる介在物の数を数える.必要に応じて観察時に拡大鏡

(3~5倍程度),実体顕微鏡(10~40倍程度)などを利用

して精度を高めることができる.

K値は以下のように算出される.

K値=S/n (2.1)

K: 1小片に認められた介在物数(ヶ/片)

s:nケの小片に認められた介在物数の合計(ヶ)

n:観察した小片の数(片)

従来の研究を踏まえて設定された K値と溶湯品質のグ

レード分けの例を,表 1のように示すの.

Kモールドに関連する実験の結果より,北岡らは次のよ

うに報告している.

・介在物の大半は酸化物である.

・介在物が多いほど,機械的特性の低下に及ぼす影響は

大きい.

・適正な溶湯処理は確実に介在物量を低下させ,溶湯を

清浄化する.酸化物の分離にはフラックスがきわめて

有効である.

-介在物はガスと異なり,介在物自身では殆ど拡散せず,

溶湯中に偏在することが多い.

2.2 破断チル層

以下,破断チル層について岩堀らの論文5)を引用する.

大多数の横型コールドチャンパダイカスト機で製造した

Abnonnal struc旬re.

' Normal structure.

'

園3 ADC12合金中の異常組織(破断チル層)

30 。25

。。;ニ~.口。

机~担J 15

Ill'

l 0 r--O easting g拍ds.。向nn&r.

•• abnorn唱tf恒国町e.5

。2.70 2.71 2.72 2.73 2.74 2.75

比重

図4 ADC12合金の引張強さ

鋳物内に,図3に示すような異常組織(破断チJレ層)が存

在する.これは溶湯がダイカスト機のメタル・スリープ内

で,スリープ壁面にふれて急速に温度低下して凝固層を形

成し,それが射出プランジャにより剥離・破断されて,鋳

物内に巻き込まれて生成したものである.これを破断チル

層と呼ぶ.海外ではコールドフレーク(coldflake)と呼ば

れることもある6).

岩堀ら訪は, ADC12合金において,注湯温度を 610。'C,臼O。c.670℃の3条件で分けて鋳造し,破断チル層の数量

を変量させた実験を行った.

ダイカストは製品部及びランナ部から小型引張試験片を

採取し, 10トン万能試験機により引張試験を行い,実体

強さを評価した.

実体強さに及ぼす破断チル層の影響は,あらかじめ研

磨し破断チル層の存在を確認した部位から,試験片の平

行部内に破断チル層を含むように引張試験片を採取して

評価したの.

比重と引張強さの関係図を国4に示すように,試験片の

破断部近傍における比重は 2.71~2.74の聞に分布し,そ

のときの引張強さは17~30kg:t'mm2の聞に分布している5).

ダイカストの強さは鋳造方案及び鋳物肉厚により変動する

ことが知られているが, ADC12合金の場合はおよそ 25~

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ADC12合金ダイカストにおける介在物の発生過程 581

~国腐蹴繍一土三」 凶

図5 走査型電子顕微鏡で観察された引張試験片の破面写真

(a):正常な破面,(b):異常な破面

30

古里20匂~bl)

""' 色白

" 』

~ 10 · ~ 也Jト司

φ

\ 、

。。 20 40 60 80 100

Area fraction of scattered s甘UC伽re%

園6 平行部内に破断チル層を含む試験片の引張強さと欠

陥面積率の関係図

30kgf/mm2との報告があるの.それに比べ,岩堀らの実験

で得られた引張強さは 30kgf/mm2を上限に,大きなばら

つきを有している.比重が小さい試験片において引張強さ

が低いのは,ひけ,ガスなどの鋳造欠陥に起因すると考え

られるが,特にランナ部から採取した試験片では,比重が

2.73以上と相対的に高いにもかかわらず,引張強さの低い

ものが多い.

図4中の黒印は,引張試験後の破面に異常が認められた

試験片である.相対的に強さが低いこれらの試験片の破面

には,図 5(b)に示すように,通常の(相対的に強さが高い)

試験片の破面(図5(a))に比べて平滑で脆性的な破面を

呈している5),

図6は,平行部内に破断チル層を含む試験片の引張強さ

を示す5).破断チル層を含まない健全組織部では,図4より,

平均25kgf/mm2の引張強さを示す. しかし,破面に破断

チル層が存在する場合,その正射影面積率(引張試験後,

試験片の破面に認められた破断チル層の,破面全体に対す

る面積割合)の増加にほぼ比例して,引張強さは低下する.

この両者の関係から,破断チル層の面積率が 100%の場合,

すなわち破断チル層と通常組織の界面強さを外挿し推定す

ると,約9kgf/mm2と著しく低くなることが推定される.

以上の結果から,岩堀らは次のように報告している.

-破断チル層は,ダイカストの実体強さ低下の原因と

なっている.

・ダイカスト内に巻き込まれた破断チル層と通常組織と

の界面強さは約9kgf/mm2と推定され,通常組織部の

強さに比べて著しく低い.

2.5 Kモールド法と破断チル層についてのまとめと課題

Kモールド法と破断チル層についての従来研究をまとめ

ると,以下のようになる.

・鋳物・ダイカストの溶湯の介在物測定において,簡易

な手法である, Kモールド法が有用である.

・介在物・破断チル層が多いほど,機械的特性低下に影

響は大きい.

3.共同研究実験方法

共同研究では,ダイカストプロセス中{元湯→ラドル→

スリーブ(ナマコ)→ランナ→製品部→オーバフロー}の

介在物量の変化を,相当 K値を計測することで調査した.

また,その値を種々の製品等で比較した.なお,実験に用

いた製品は実製品であるため,詳細な鋳造条件,製品形状

などは秘匿されている.

ここで相当 K値とは,破面の面積が6mm×36mm×2

面= 432mm2 (裏面と表面をセットで1破面とし,表面の

みあるいは裏面のみの場合は 0.5破面とする)の Kモール

ド試験片を基準とし,その全観察面積中の全検出介在物数

の比を出したものである.相当K値の算出式は,全検出

介在物数をS,全観察面積(mm2)/432(mmりをAとすると,

SIAで表される.すなわち,

全検出介在物数/(全観察面積/432)

=全検出介在物数/全観察面積×432=相当K値

の式で計算される.この値が大きいほど,単位面積中に介

在物が多いことを意味する.

また, K3, KIOとは, K値を測定する際のルーペの

倍率の違いを表す.K3は3倍のルーペ, KIOは10倍の

jレーぺを用いてK値を測定した時の値である.ダイカス

トプロセス中に,例えば K3の値が減少し KIOの値が増

加した場合,粗大な介在物が減少し,微細な介在物が増

加している.すなわち,介在物がより細かくなったこと

を意味する.

この K値測定においてカウントされる介在物の最小の

大きさは,破面状態や観察道具による影響,個人差による

影響,その他の影響等々により,若干,差が出てくるが,

北岡によれば,条件が良い場合の感覚的,実績レベルでは,

K3ではおおよそ 50μ,m程度からほぼ検出可能, KIOでは

おおよそ 30μ,m程度からほぼ検出可能とのことである.

また,北岡によれば,「良い条件」とは,観察道具(照

明が十分に明るい,より大きなレンズ)がよく,マトリッ

クスが平滑で介在物が検出しやすく,介在物が黒色に近い

場合などを指す.また,ある程度観察に慣れた人聞が観測

する場合とのことである.

なお,以降の結果で示す相当 K値は全て,破面の面積

を概算した値である.画像分析などにより正確に面積を計

測したわけではないため,面積で言うと ±50mm2,相当

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582 鋳造工学 第83巻(2011)第 10号

表2 コー/レドチャンパ(型締力500tonf)を用いて作製したダイカストの実験パラメータ

採取先 製品 サンプノレ サンプノレ採取方法

東芝製 サーモスタットケー 配湯口ス

保持炉の配湯口組lから、 Kモールド採取

コールド 保持炉 保持炉のラドノレ扱出し日制lから、 Kモーノレド採取

チャンハe ( 1個取り) 保持炉端 保持炉のラト、ノレ汲出し口側、

5 0 0ト熱電対設置部分近傍から、 Kモーノレド採取

ラドノレ ラドノレで汲まれた溶湯から、 Kモーノレド採取

ナマコ シリンダー内で凝固させる

製品 量産品を採取する

合金工場 元湯 元湯(可傾炉側)から、 Kモーノレド採取

可傾炉 (元湯温度: 680℃)

表3 コーJレドチャンパ(型締力500tonf)を用いて

作製したダイカストの鋳造条件

の破面の相当 K値を,日本軽金属(株)に依頼して測定し

た.実験パラメータの詳細を表2に示す.また,鋳造条件

を表3に示す.供試材料はADC12合金である.ピストンf歪 申70mm

溶湯温度 672℃

高速速度 1.5 mis

射出遅延 0.8 mis

チルタイム 7s

チップ潤滑剤 油性

K値で言うと ±5%程度の誤差が生じている可能性がある.

3.1 コールドチャンパ(型締力500tonf)におけるダイ

カストプロセス中{元湯→ラドル→スリープ(ナ

マコ)→ランナ→製品部→オーバフロー}の相当

K値調査

ダイカストプロセス中{元湯→ラドル→スリーブ(ナ

マコ)→ランナ→製品部→オーバフロー}における相当 K

値の変化を調査するため,製品を量産しているコールド

チャンパ(型締力 500tonf)を用いてダイカストプロセス

中の各段階でサンプルを採取した.そして,作製した試料

3.2 コールドチャンパ(型締力 90tonf)におけるダイ

カスト条件の違いが相当K値に及ぼす影響

手ぐみで給湯する際の落差及びチップ潤滑剤が相当 K

値に及ぼす影響を調査するため,手ぐみで給湯する際の落

差(5cmor 15.5cm)及びチップ潤滑方法(油性 or粉体)

を変えて作製したナマコ,ショートショット,製品部の試

料を実験用コールドチャンパ(型締力9仇onf)を用いて作

製した.そして,作製した試料の破面の相当 K値を,日

本軽金属(株)に依頼して測定した.実験パラメータの詳

細を表4に示す.また,鋳造条件を表5に示す.供試材料

はAl-8% Si-0.4 % Mg合金である.

また,ナマコ及びショートショットの写真を図7に示す.

3.3 種々の製品等における元湯,ランナ部,製品部の

相当K値調査

ADC12合金製またはADClO合金製の種々の製品等にお

いて, Kモールド(元湯),ランナ部,製品部の試料を集め,

表4 コールドチャンパ(型締力90tonf)を用いて作製したダイカストの実験パラメータ

製品 サンプル

平板 ナマコA

(!個取り}

同トショットB

ナマコC

ナマコD

ショートシヨ7トE

保持炉F

製品G

製品H

ナマコJ

保持炉E

サンプノレ採取方法

落差5cmから給湯し、

シリンダ内で凝固させる

低速で、ゲート通過直後を狙って、

プランジャ停止させる

落差 I5. 5 c mから給湯し、

γリンダ内で凝固させる

落差5c mから給湯し、

シリンダ内で凝固させる

低速で、ゲート通過直後を狙って、

プランジャ停止させる

実験開始時、保持炉中央から、

KモーJレドを係取する

粉体でシリング断熱の状態で、

ダイカストする

油性滴下の状態で、ダイカストする

落差 I5. 5 c mから給湯し、

γリ:.--!/内で輝固させる

実験終了時、保持炉中央から、

Kモールドを採取する

チップ潤滑方法

油性摘下

油性滴下

油性滴下

粉体でシリンダ断熱

粉体でシリンダ断熱

粉体でシリンダ断熱

油性滴下

粉体でγリンダ断熱

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ADC12合金ダイカストにおける介在物の発生過程 583

図7 試料破断箇所

(a):ナマコ破断箇所(縦線部で破断)

(b):ショートショット B,E破断箇所(縦線部で破断)

"'薄苦( 680°C)

配湯口

保持炉

保持炉端部

ラドJレ

ナマコA

ナマコ日

ビスケット

ビスケ‘ノト下部

ビスケット上部

ランナ

ウ2ーート1

今・-ート2

製品〈薄肉部〉

減圧用ランナA(入口 )18 減圧用ランナ日目

減圧用ランナC

;威圧用ランナD

Z証EE用ランブーE

減圧用ランナF

1i:~5

10 20

648 43.2

3674 ~

52.2

4464

30 40 50 60 70

相当K値

図8 ダイカストプロセス中(元湯~オーバフローまで)のK値の変化

表5 コーJレドチャンパ(型締力90tonf)を用いて

作製したダイカストの鋳造条件

ピストン径i 申40mm

溶湯温度 678。C

鋳造圧力 76MPa

低速速度 0.3 mis

高速速度 2.1 mis

射出遅延 く1.0mis

チルタイム 5 s

チップ潤滑剤 油性

万力で固定し,自在レンチで掴んで折り曲げ,破面を作製

した.その後,日本軽金属(株)に依頼して画像分析によ

る破面の面積測定,介在物数の測定を行い,相当 K値を

算出した.また,介在物の低減にどの程度の効果があるか

を調査するため,高真空高速充填ダイカスト及びフィルタ

付きの層流充填ダイカストの試料も用意し,測定を行った.

高真空高速充填ダイカストの試料は Al・10Si-0.3Mg合金,

フィルタ付きの層流充填ダイカストの試料は AC4CH合金

を用いて製作した.なお,各サンプルの破面数はKモー

ルドの試料を除いて全て 0.5破面(片面のみ)である.

4.結果と考察

4. 1 コールドチャンパ(型締力 500tonf)におけるダイ

カストプロセス中{元湯→ラドル→スリーブ(ナ

マコ)→ランナ→製品部→オーバフロー}の相当

K値調査

ダイカストプロセス中{元湯→ラドル→スリーブ(ナ

マコ)→ランナ→製品部→オーバフロー}における相当 K

値の変化を,図8に示す.図8によると, K3値が元湯か

らナマコまでおおよそ 1前後だったのが,ビスケット部か

ら急激に増えて 10を超え,その後ゲート部まで上昇し続

けおおよそ 40となる. しかし,製品部でその値はおおよ

そ30まで減少し,オーバフロー部に入るとさらに急激に

減少して 10未満となる.KlO値は K3値よりもそれぞれ

5~10ほど高い値だが,傾向としては全く同じである.

K3値, KlO値ともにゲート部まで徐々に増えた後,製

品部において減少していることから,ゲート通過時に介在

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584 鋳造工学 第 83巻(2011)第 10号

ナマコA{油性、落差5cm)

ナマコC(油性、港差15.5cm)

ナマコD(粉体、務差5cm)

ナマコJ(粉体、落差15.5cm)

ショートショットB(油性)

ショートショットE{粉体)

製品目(池性ダイカスト)

製品G(粉体ダイカスト)

KモールドF(実験開始時、保持炉)

KモールドK(実験終了時、保持炉)。 20

I :~~。|58. 9

81. 5

20. 5

~o 60 相当K値

80

図9 潤滑剤の種類と手ぐみで給湯する際の落差が,相当K値に及ぼす影響

ナマコA(油性、落艶5cm)

ナマコC(ftlI性、落差15.5cm)

ナマコD{粉体、務差5cm)

ナマコJ(粉体、落差15.5cm)

ショートショットB{油性}

ショートショットE{粉体)

製品H(油性ダイカスト)

製品G(粉体ダイカスト)

KモールドF{実験開始時、保持炉}

KモールドK(実験終了時、保持炉)

υ・

-1d

’I-

K

K

-一・・一

1. 94 3. 32

1. 82

2. 64 .」』品

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 相当K値

国10 潤滑剤の種類と手ぐみで給湯する際の落差が,相当K値に及ぼす影響 CK値0~4までを拡大)

物が破壊されて細かくなっていることがわかる.これは,

K3値に対する KIO値の比率が上昇している(ランナ部ま

では K3:KIOはほぼ 1:1であったが,ゲートを通過して

製品部に入ると K3:KIOは約2:3になる)ことからも示

唆されている.

4.2 コールドチャンパ(型締力的tonf)におけるダイ

カスト条件の違いが相当K値に及ぼす影響

手ぐみで給湯する際の落差及びチップ潤滑剤が相当 K

値に及ぼす影響を図9に示す.図9のうち,相当K値が

1~10の範囲を拡大したものを図 10に示す.図 10による

と,油性より粉体の方がK3値, KIO値ともに低い.油性

の相当K値に対して粉体の相当K値は,ナマコでは約2割,

製品では約7割程度減少する.

また,図 10において,手汲みによるスリープへの給湯

時の落差の変化による相当K値の差を見ると,落差5cm

の時と比べて,落差15.Scmの方は相当K値が2割程度増

加する傾向にある.

4.3 種々の製品等における元湯,ランナ部,製品部の

相当K値調査

種々の製品等における元湯,ランナ部,製品部の相当K

値を,表6に示す.表6によると,どの試料においても

Kモールド(元湯)の K3値は約1程度で,ランナ(ゲー

ト通過前)では K3値は約 10を超える.製品部に入ると,

ランナに比べて K3よりも KIOの値が大きくなる.すなわ

ち,ゲート通過時に介在物が破壊されて細かくなることが

示唆された.

また,ランナには相当 K値にして 10程度の破断チJレ層

がほぼ必ず存在する.ゲートを通過すると,その値は約O

になる.すなわち,介在物の場合と同様に,ゲート通過時

に破断チル層も破壊されることが示唆された.

高真空高速充填ダイカストのランナ部は一般ダイカス

トよりも K3値が低いが, KIO値が高い.すなわち,介

在物が細かくなっている.製品についても同様の傾向が

見られる.

Page 7: 技術報告 ADC12合金ダイカストにおけ ... - J-STAGE

ADC12合金ダイカストにおける介在物の発生過程 585

表6 種々の製品等における元湯,ランナ部,製品部の相当K値

製品A(A0012) 製品B(AD012) 製品C(ADC10)

相当K値 Kモールド ゲート 製品 Kモールド ゲート 製品 Kモールド ゲト |製品

K3 1 9 33.7 8.8 17 47.5 。。 。。 35.• I 1s.1 KIO 2.4 82.4 155.5 3.6 77.7 172.8 0.1 58

破断チル層のみ 。 4.8 。 。。 4.3 。。 。 6.8 I 4.8

製品D(ADC12) 製品E(ADC12) 製品F(ADC12)

相当Ki直 Kモールド ゲート 製品 Kモールド ランナ 製品 Kモールド | ランナ | 製品

K3 2.4 15.5 21.5

KIO 3.6 25.0 32.3

破断チル層のみ 。 3.7 。

製品G(AD012) 製品H(AD012)

相当K値 Kモールド 製品 Kモールド ランナ

K3 0.5 21.4 0.5 0.9

KIO 1.0 49.0 1.2 2.2

破断チJレ層のみ 。 1.6 。 。

フィルタ付きの層流充填ダイカストの場合, K3値,

KIO値,破断チル層全てにおいてほとんどOであった.

4.4 まとめ

4.1~4.3項の結果より,保持炉の相当 K値を低く抑

えても,ダイカストプロセス中で相当 K値は次第に高く

なっていく. しかし,ゲート通過時に介在物・破断チル層

が破壊されて細かくなり,相当K値がまた低くなること

も明らかになった.

5.結 E司

本報告では,ダイカストプロセス中{元湯→ラドル→ス

リーブ(ナマコ)→ランナ→製品部→オーバフロー}の

介在物量の変化を,相当K値を計測することで調査した.

また,その平均的な値を種々の製品等で比較した.それに

より,以下のことがわかった.

1. ダイカストプロセス中の相当 K値の推移を見ると,

元湯→ナマコ→ビスケット部→ランナ部→ゲート部

まで K3値は増加していくが,製品部に入ると K3値

は減少し, KIO値が増加する.すなわち,ゲート通

過時に介在物が破壊されて細かくなっている.

2.チップ潤滑剤は油性よりも粉体の方が,製品でのK

値が0.2程度低くなる.

3.種々の製品を調査した結果,破断チル層は,ランナ

部でほぼ必ず見られる.ただし,多くはゲートで破

壊され,製品に混入することは少ない.

謝辞

全体を通してご指導いただいた,北岡山治博士に深く

感謝の意を表します.また本報告にご協力いただいた

2006~2008年度ダイカストの高品質化研究部会(安斎浩

一部会長),及び2009年度からのダイカストの品質及び

生産性向上技術研究部会(神戸洋史部会長)の参加委員

に深く感謝の意を表します.

また, リョービ(株),日本軽金属(槻には多大な御協力を

いただきました.深く感謝の意を表します.

また,本報告のデータ解析には,現大連理工大学の陳思

2.0 9.0 4.7 0.1 I 10.1 I 73.o 2.5 153 1921 o.4 I 31.7 I 14田 7

。 4.3 1.6

製品川AD012)高真空高速充填 フィルタ付属流充填(Al 1051 0.3Mg) (AC4CH)

Kモールド ゲート ランナ ランナ | 製品 KモーJレド |製品

0.3 37.8 16.9 o.3 I s4 13 78.3 29.9 0.1

。 8.1 4.7

氏に御協力をいただきました.深くお礼申し上げます.

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