adc12ダイカストのばり発生予測 - j-stage

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ダイカスト金型の変形シミュレーションによる ADC12 ダイカストのぼり発生予測 121 研究論文 ダイカスト金型の変形シミュレーションによる ADC12 ダイカストのばり発生予測 山県系 裕* 船橋弘旭柿 谷川昌司*料新川真人* ResearchArticle J. jFS, Vo l. 86 No. 2(2014) pp. 121-126 Prediction of Flash by Computer Simulation of Die Distortion in High-Pressure Die Casting of JIS ADC12 Hiroshi Yamaga ぽ, Hiro Fun ashm Shoji Tanikawa*** and Makoto Nikawa* The thickness and position of flash in the high pressure die-casting of a flat shape p twas a na1 yzed by FEM. letemper- ature distribution of the die was determined by FDM stsimu 1a tion and the therma l1 y generated gap between the movable die and stationary one was predicted. The distortion of the whole die-cast machine as we l 1 as the die was lculated.The ef- fect of the internal pressure on the gap during injection was evaluated as hydrostatic pressure exerted on edie -ca vity. The position and thickness of flash were found to be directly correlated wi thoseof the predicted gap because these were we l1 coincided wi thoseobserved in the actual p 紅t. Th e flash thickness corresponded to gap thickne swhen injection speed was decelerated by plunger braking at the hydrostatic pressure value of 20 MPa,担 dat 60 MPa without the braking. It was concluded atthe developed simulation method npredict the position and thickness of flash with sufficient a uracy. Keywords : die-casting flash die distortion FEM ADC12 1.緒言 鋳造品の製造工程において発生するばりは,後行程にお いて除去しなければならず生産活動上極めて問題となる. また,ばりは型寿命の低下の原因にもなる 1) ばりが発生する原因としては,成形中の金型合わせ面に 隙聞が発生し,その隙聞に溶融金属が流入することが考え られる.隙聞が発生する要因としては,①金型の鋳造中の 熱膨張,②経年劣化,③不適切な金型構造,④過大な鋳造 圧力が考えられる.このうち,経年劣化はほぼ不可避的な 要因であり対応策としては定期的なメンテナンスしかな い.過大な鋳造圧力としては,人為的ミスと不適当な方案 設計を鋳造条件で補おうとする場合に発生する.鋳造中の 熱膨張は鋳造という製造方法の原理に起因する問題であ り,対策としては熱膨張分を考慮した金型設計が考えられ る.不適切な金型構造に対する対策としては,鋳造中の溶 湯の状態や金型変形状態を把握し,設計に反映させること が必要である. 経年劣化以外のばり発生への対策を考える場合には,鋳 造中の金型変形状態や溶湯の状態を適切に評価すること が不可欠である.金型変形状態を評価した報告としては, 金型の表裏の剛性に着目した熱変形に関する報告 2) や熱 ひずみを抑制する金型構造に関する報告3) 変形を抑制す る金型構造に関する報告心などがある.また,鋳造中の 溶湯圧力や金型隙間量を直接測定した例が報告されてい 5) このように,金型の変形を評価する場合には鋳造中 の温度変化や圧力変化に伴う金型の弾性変形を考慮する ことが重要である. しかしながら,ダイカストのような高 温・高圧環境下においてこれらの値を直接測定することは 困難であり,測定できても特定の箇所の情報が得られるの みである.さらに,特定箇所の測定結果から金型全体の変 形挙動を検討することは難しい.そのため,コンビュータ シミュレーションの活用が有力である.シミュレーション の結果を設計に反映させることによってばり発生を抑制 し,またはばりを不可避に発生させることによる金型の損 耗を抑制できると期待できる. しかしながら,コンピュー タシミュレーションにより金型の変形を推定しばり発生 状況を評価することは,業界では一部行われているが,体 系的な研究報告例は少ない. 本研究は,コンビュータシミュレーションによりダイカ スト金型の変形状態を評価し,みきり面聞の隙間量および 発生位置の計算結果から鋳造品のばり発生予測が可能で 受付目:平成25 8 6 日,受理日:平成25 12 13 CReceivedon August 6 2013; Aαepted on Decemb 13 2013) 岐阜大学工学部 Faculty of Engin 白血1&, Gifu University 岐阜大学大学院工学研究科 Student of Graduate Sc hool of En leering Gifu University 柿事 寿金属工業(株) KOTOBUKIK ZOKUKOGYO Co. Lt d.

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Page 1: ADC12ダイカストのばり発生予測 - J-STAGE

ダイカスト金型の変形シミュレーションによるADC12ダイカストのぼり発生予測 121

研究論文ダイカスト金型の変形シミュレーションによる

ADC12ダイカストのばり発生予測

山県系 裕* 船橋弘旭柿

谷川昌司*料新川真人*

Research Article J. jFS, Vol. 86, No. 2 (2014) pp. 121-126

Prediction of Flash by Computer Simulation of Die Distortion in High-Pressure Die Casting of JIS ADC12

Hiroshi Yamagaぽ, Hiro必 Fun油ashm,Shoji Tanikawa*** and Makoto Nikawa*

The thickness and position of flash in the high pressure die-casting of a flat shape p紅twas ana1yzed by FEM.百letemper-ature distribution of the die was determined by FDM四 stsimu1ation, and the thermal1y generated gap between the movable die and stationary one was predicted. The distortion of the whole die-cast machine as wel1 as the die was伺 lculated.The ef-fect of the internal pressure on the gap during injection was evaluated as hydrostatic pressure exerted on出edie-cavity. The position and thickness of flash were found to be directly correlated wi也 thoseof the predicted gap because these were wel1 coincided wi出 thoseobserved in the actual p紅t.The flash thickness corresponded to gap thickne渇swhen injection speed was decelerated by plunger braking at the hydrostatic pressure value of 20 MPa,担dat 60 MPa without the braking. It was concluded也atthe developed simulation method伺 npredict the position and thickness of flash with sufficient a∞uracy.

Keywords : die-casting, flash, die distortion, FEM, ADC12

1.緒言

鋳造品の製造工程において発生するばりは,後行程にお

いて除去しなければならず生産活動上極めて問題となる.

また,ばりは型寿命の低下の原因にもなる1)

ばりが発生する原因としては,成形中の金型合わせ面に

隙聞が発生し,その隙聞に溶融金属が流入することが考え

られる.隙聞が発生する要因としては,①金型の鋳造中の

熱膨張,②経年劣化,③不適切な金型構造,④過大な鋳造

圧力が考えられる.このうち,経年劣化はほぼ不可避的な

要因であり対応策としては定期的なメンテナンスしかな

い.過大な鋳造圧力としては,人為的ミスと不適当な方案

設計を鋳造条件で補おうとする場合に発生する.鋳造中の

熱膨張は鋳造という製造方法の原理に起因する問題であ

り,対策としては熱膨張分を考慮した金型設計が考えられ

る.不適切な金型構造に対する対策としては,鋳造中の溶

湯の状態や金型変形状態を把握し,設計に反映させること

が必要である.

経年劣化以外のばり発生への対策を考える場合には,鋳

造中の金型変形状態や溶湯の状態を適切に評価すること

が不可欠である.金型変形状態を評価した報告としては,

金型の表裏の剛性に着目した熱変形に関する報告2)や熱

ひずみを抑制する金型構造に関する報告3) 変形を抑制す

る金型構造に関する報告心などがある.また,鋳造中の

溶湯圧力や金型隙間量を直接測定した例が報告されてい

る5) このように,金型の変形を評価する場合には鋳造中

の温度変化や圧力変化に伴う金型の弾性変形を考慮する

ことが重要である. しかしながら,ダイカストのような高

温・高圧環境下においてこれらの値を直接測定することは

困難であり,測定できても特定の箇所の情報が得られるの

みである.さらに,特定箇所の測定結果から金型全体の変

形挙動を検討することは難しい.そのため,コンビュータ

シミュレーションの活用が有力である.シミュレーション

の結果を設計に反映させることによってばり発生を抑制

し,またはばりを不可避に発生させることによる金型の損

耗を抑制できると期待できる. しかしながら,コンピュー

タシミュレーションにより金型の変形を推定しばり発生

状況を評価することは,業界では一部行われているが,体

系的な研究報告例は少ない.

本研究は,コンビュータシミュレーションによりダイカ

スト金型の変形状態を評価し,みきり面聞の隙間量および

発生位置の計算結果から鋳造品のばり発生予測が可能で

受付目:平成25年8月6日,受理日:平成25年12月13日 CReceivedon August 6, 2013; Aαepted on Decembぽ 13,2013)

市 岐阜大学工学部 Faculty of Engin白血1&, Gifu University

柿 岐阜大学大学院工学研究科 Student of Graduate School of En伊leering,Gifu University

柿 事 寿金属工業(株) KOTOBUKIK町ZOKUKOGYO Co., Ltd.

Page 2: ADC12ダイカストのばり発生予測 - J-STAGE

第 86巻 (2014)第2号鋳造工学

コンピュータシミュレーションは,鋳造工程における金

型温度変化および鋳造中の金型変形状態を解析することを

目的に行った.このとき,シミュレーションに用いる材料

物性値には温度依存性を考慮し, ]MatProを用いて百ble1

の組成から物性値を算出した.

3.1 金型入れ子温度解析

鋳造シミュレーションソフト (ADSTEFANVer. 2011)に

より解析を行った.実鋳造における①溶湯射出,②キュア

リング,③型聞き,④鋳物取出し,⑤エアプロー・離型剤

塗布,⑥型閉じを lサイクルとして 20サイクル分の湯流

れ・冷却解析を行い,金型温度の安定状態を算出した.こ

のとき, 3次元デジタイザ (ATOSm,参照点位置合わせ

精度 12μm)により実取得した金型形状に冷却構造を再現

させた金型モデルを使用した10) また,鋳物と金型聞の

熱伝達係数は,使用した金型や鋳物形状が同じであるこ

と,鋳造条件も同一であることから,既報10)にて同定し

た8.4kW/(m2K)とした.なお,熱伝達係数は,周囲環境

や金型と鋳物聞に生成されるエアギャップが均一でないと

考えれば温度依存性を考慮する等の議論が必要となる場合

もある.本研究においては,実用上,熱伝達係数を環境や

接触抵抗の変化に影響を受けない一定値として定義した.

3.2 金型変形解析

3.2.1 解析モデル

実験に使用したダイカストマシンの機構および緒元を

CADデータにより極力忠実に再現した11) これは,ダイカ

ストマシンの変形が金型の変形に影響を及ぼすことを無視し

ないためである.解析モデルは, 3次元デジタイザにより取

得した金型入れ子とマシン全体により構成される.Fig.2に

解析モデルの詳細図を示す.この各部の材質としては,一

般構造用鋼, SKD61等,実際のダイカストマシンと同様に

なるように設定した.Table2に各材質の物性値を示す.

マシンの各構成要素聞の拘束条件は,マシンの状況を再

現するように設定した.例えば,固定側金型入れ子は,ダ

イホルダに挿入されて使用される.また,金型入れ子が挿

入されたダイホルダは,固定側プラテンに冶具によりボルト

122

2.

コンビュータシミュレーション方法3. あるか検討した.鋳造シミュレーションにより金型温度分

布を評価し,金型変形解析時の温度境界条件に適用した.

その後, FEMによりダイカスト時における金型の変形解

析を実施した.このとき,金型を変形させる因子のひとつ

として,ダイカスト機の構造が予想される.成形機の構造

を考慮した検討事例は,プレス成形や射出成形においては

報告されている凪 7) また,ダイカストにおいても報告例

がある8.9) 本研究においても金型を実装したダイカスト

機全体を解析モデルとして金型変形 FEM解析を行った.

シミュレーション結果の妥当性は,鋳造品に発生したばり

の厚さおよび位置を比較・検討することで評価した.

実験方法

実験は,コンビュータシミュレーションにおける境界条

件を決定すること,またばり発生状況を評価することを目

的に行った.

2.1 鋳造実験

トグル型締め構造の 2450kN油圧式ダイカストマシン

により行った.条件としては,溶湯温度 6600

C,鋳造圧力

60MPa,低速射出速度 0.3m/s,高速射出速度1.7m/sとし

た.Fig.1に1ショ ット時における射出速度の概念図を示

す.溶湯を高速で型内に射出して鋳造を完了 (Fig.1(a))

させて,意図的に大きなばりを発生させる実験と,溶湯充

填直前に射出速度を減速 (Fig.1 (b))させて,ぼりを抑制

する実験を実施した.

鋳造品は,平板形状の ADC12製製品である.

に今回使用した材料の組成代表値を示す.

Table 1

駅周

Fig. 1 Schematic image of changing injection speed by

controlling impact pressure.

時ほ

d

w

1

c

d

h

e

ゐEtw

n

Hv

m-m

、lノ

LU

ノ't

Low speed High speed '←四4Fl

川'

Time

(a) Without controlling lffipact pressure

Chemica1 compositions of ADC・12(mass%). Table 1

Z人

2.2 ばり発生状況の評価

ばりは発生位置と厚さにより評価した.鋳造後,室温

下で冷却された鋳造品に発生したばりの厚さをマイクロ

メータにより測定した.また,ばりの発生位置は目視によ

り確認した.FE analysis model of die-casting machine. Fig.2

Page 3: ADC12ダイカストのばり発生予測 - J-STAGE

ダイカスト金型の変形シミュレーションによるADC12ダイカストのばり発生予測 123

Table 2 Physical properties of materials.

Steel rorgeneral SKD61 FCD500 SS5C

SlruClUre

Density(kglml) 7850 7曲。 7100 7加。

C同 fficientofthennnl

"P間引加 1.20 1.50 1.00 1.20

xIOOS(IIK)

Young・smodulus (GPn) 200 206 173 205

Pois剛山mlio 0.30 0.30 0.30 0.30

で締結される.この場合の拘束条件は,以下のように考えた.

①金型入れ子は,ダイホルダにより X,Y方向に拘束さ

れている.

②金型入れ子は,ダイホルダにより Z(+)方向への移

動に対して拘束されている.Z (ー)方向への拘束は

なく,動くことが可能.このときの金型入れ子とダイ

ホルダ聞の摩擦係数は,両者の聞には油が存在すると

考え, 0.1とした.

③冶具は,ダイホルダのX,Y,Z方向への移動を拘束し

ている.

④冶具は,プラテンに対してX,Y,Z方向に移動しない.

3.2.2 解析方法

汎用有限要素解析ソフト (ANSYSWorkbench Ver. 14.0)

により弾性変形解析を行った.鋳造中に金型が変形する要

因としては,型締め力,金型温度および型内圧力であると

考えられる.

型締め力は,使用したダイカストマシンの型締め構造を

考慮し,可動側トク勺レ部に最大型締め力が作用するように

設定した.

金型温度は,金型入れ子温度解析 (FDM)の結果を FEM

解析モデルの初期金型入れ子温度とした.マッピングツー

ル (ADSTEFAN下MAP)によりメッシング後の接点情報に

金型入れ子温度解析の結果を統合することによって設定し

た.このとき,入れ子以外の部分は環境温度 (220C)とした.

型内圧力は,本来であれば実際の状況を反映させるべき

であるが,高温下における事内圧力変化を測定することは

困難である.そこで,実操業状態を想定して鋳造圧力の設

定値を参考にし,入れ子キャピティに対して均等に圧力が

作用するように0,20,40,60MPaと変化させて解析を行った.

3.2.3 金型変形解析によるばり発生評価方法

ばりを直接コンビュータシミュレーションにより算出す

ることは困難である.そこで,入れ子みきり面聞の隙間量

とその位置を FEM解析により算出し,この隙聞にばりが

発生すると考えて検討を行った.その後,コンピュータシ

ミュレーションにより算出したみきり面間隙間量およびそ

の位置と実際に鋳造品に発生したばりの厚さおよびその位

置を比較した.なお,この時算出されるみきり面閣の隙聞

は,鋳造サイクル中の最大隙間量であり,高温の金型の熱

膨張量と鋳造圧力および型締め力による金型変形量が重ね

合わせられた値となる.一方,鋳造品に実際に発生したば

りは室温まで冷却された状態で測定を行っている.そのた

め,算出した隙間量と実測したぽりとの対応を厳密に考え

る場合には,ばりの高温時(最大隙間量発生時の温度)に

おける熱膨張量を考慮する必要があると考えられる. しか

しながら,使用した材料の線膨張係数と最大の温度変化か

ら計算すると,室温下において 0.100mmのばりに相当す

る隙間量は最大で 0.101mm程度とその差は極めて少ない.

このことから,ばりについては熱膨張を考慮せず,室温下

のばり厚さの実測結果と熱膨張量を考慮した鋳造中のみ

きり面隙間量の計算結果を比較した.

4.実験結果

4.1 鋳造実験後のばり発生状況

Fig.3に射出速度減速有り・無しの場合の鋳造品外観を

示す.多くのばりが確認されたが,射出速度減速無しでの

(a) With controJling impact pressure

(b) Without controJling impact pressure

Fig. 3 Appearance of flash generated泊 casting.

Page 4: ADC12ダイカストのばり発生予測 - J-STAGE

124 鋳 造 工学第86巻 (2014)第2号

Table 3 Averl砥:ethickness of flash at each point.

With co附 。IlingimpaCI preSSllω

0β78

0.087

0.066

0.375

Wilhout cont同 llingimpaCI pl'cssure

0.092

0.131

0.110

0.382

鋳造品のほうが大きなばりが発生した.

Table3に射出速度減速有り・無しともに発生したばり

のうち特に顕著な 4か所 (Fig.3中①・④)のばりの平均厚

さを示す.射出速度減速無しでの鋳造品のばりは,大きい

のみならず厚いことが分かる.

4.2 金型変形解析による隙間量

Fig.4に解析により算出されたみきり面聞の隙開発生状

況を示す.図中,破線で因われた領域は鋳造品キャピティ

である.また,図中の番号は Fig.3のばり測定位置に対応

している.図より,製品部周辺で隙聞は均一には発生して

いないことが分かる.また,入れ子外周に向かうほど隙聞

が大きくなっている.なお,図中④の位置において他より

大きな隙間となっているが,これは使用した金型の初期状

態から存在している隙間であり,この箇所にのみ大きな圧

力が作用したものではない.

<0.05 (nml)

0.05 -0.30 (mru)

> 0.30 (mm)

Fig. 4 Ana1ysis result of gap between die inserts.

Fig.5に各測定位置における隙間量と型内圧力の関係を

示す.いずれの測定位置においても型内圧力の増加ととも

に隙間量は増加している.なお,測定位置④の値が大きい

のは,実験の初期から金型に存在する隙聞が原因である.

また,型内圧力がゼロの場合でも隙聞が発生している.こ

れは,温度による金型熱変形と型締め力による金型変形が

重ね合わされた結果として隙聞が発生していることを示

唆している.

504ろ O 。 O ~

50却

lopo凶口 問 ③

ムPoint② oPoint@

0.101. 自。合

20 40 60

Inte111al pressure, .MPa

Fig. 5 Change of gap between die inserts with intema1

pressure.

4.3 鋳造品のばり厚さと隙間量

Fig.6に射出速度の減速無しで鋳造した鋳造品のばり厚

さと金型変形解析により算出した隙間量を比較した結果

を示す.隙間量は,型内圧力として 60MPaが作用すると

して計算を行った.図より,各測定位置においてばり厚さ

と隙間量は近い値を示した.

Fig.7に射出速度の減速有り・無しで鋳造をしたときの

鋳造品のばり厚さと金型変形解析により算出した隙間量

との関係を示す.射出速度の減速有りの鋳造品ばり厚さ

は,鋳造圧力 20MPaにおける隙間量,減速無しの鋳造品

ばり厚さは,鋳造圧力 60MPaにおける隙間量と対応させ

ている.図より,射出速度の減速有り・無しにかかわらず,

鋳造品のばり厚さは隙間量の計算結果の値とほぼ一致し

ている.このことは,コンビュータシミュレーションにお

いて実用上は鋳造圧力を適度に設定することで隙間量を

算出することができるとともに,その計算結果からばりの

発生位置とその厚みを推定することが可能であることを

示唆している.

E 0.50

g Ml「Ezpmshtbigdoω s -; ~ ~~ I ,_Cal.(臼 p)

4g J 2 4 0.35 5 副 0.30 宅 0.25

喜iE MO 号e 0.15

ri: ~ 0.10 含 O.ωc,:, O.∞

① ② ③ ④

Measurement point

Fig. 6 Comparison of the actual flash thickness with

the ca1culated gap between die inserts. Casting test was

carried out without controlling impact pressure. Gap

was ca1culated at an intema1 pre舗町'eof60MPa.

Page 5: ADC12ダイカストのばり発生予測 - J-STAGE

研究では,金型温度をより正確に測定し,その結果を鋳

造シミュレーションに反映させることによって熱伝達係

数を算定し,実際の金型温度分布に近い状態を定義でき

た.また,ダイカストマシンに金型が実装されている状態

をモデル化し,大規模なシミュレーションを実施した.こ

れらにより金型の熱膨張と型締め力による金型変形解析

を実現できた (Fig.5).鋳造圧力による金型変形への影響

については,鋳造条件の結果を使用して金型キャピティ面

に静水圧状態で作用するものとして検討した.本研究にお

いては,射出速度の滅速が無い場合で 60MPa(鋳造条件の

100%),有る場合で 20MPa(鋳造条件の 33%)の圧力を型

内に作用させた場合にばりの実測値とよい一致を示した

(Fig.7).射出速度は,プランジャーにプレーキをかける

ことによって制御される.これによりばり発生時点におけ

る実際の型内圧力は小さくなる可能性がある.また,溶湯

の状態変化や鋳造方案によっても圧力損失は生じると考

えられる.さらに,固相の混ざった液相の圧力損失やプラ

ンジャーのサージ圧の問題等も考えられる.本研究にて実

施した鋳造圧力の定義が適切であるかについては検討の

余地があるが,ダイカストマシンのプレーキ特性や鋳造方

案による圧力損失分を最大圧力に対して小さく見積もる

(今回の場合は 1/3程度)ことによって実用上十分妥当な

結果が得られると考えられる.より精度のよい解析を行う

ためには,鋳造圧力についても実測し,その結果をシミュ

レーションに反映させることにより可能になると考えら

れる.その場合,半凝固・半溶融状態の溶湯内を介して伝

播するプランジャーからの圧力を評価する必要がある.

本研究で対象とした形状は,平板状の比較的小型なもの

である.より複雑かっ大型な形状について検討する場合に

想定される問題としては,ダイカストマシンまで含めた大

規模シミュレーションが必要であるかという点になる.本

研究では,ダイカストマシンの構造に起因する金型変形状

態を推定するために大規模解析を行った.金型の剛性が低

く,弾性変形が大きな場合にはダイカストマシンの変形の

影響が表れることは付記しておきたい.

125 ダイカスト金型の変形シミュレーションによるADC12ダイカストのぼり発生予測

With Withωt Point ∞n凶 l∞ntrol

O ⑩

ム ゐ

口[J

0 。ω②@④

0.50

g E 0.40

3 匂Ql

.50.30 ω .てコ

= a 0.20 E O ~

号0.100

ダイカスト品に発生するばりの予測手法を目的として,

コンピュータシミュレーションにより金型聞の隙間量を

算出し,隙間量とばり厚さとの対応について検討した.隙

間量を算出するために,金型がダイカスト機に実装された

状態をモデル化し,金型温度,ダイカスト機からの型締め

力および鋳造圧力を再現した熱変形シミュレーションを

行った.得られた結果をまとめると以下のようになる.

1) ダイカストマシンの構造を再現したシミュレーション

を実施することによって,型締め力に起因する金型変

形を計算することができた.

2) 算出された金型聞の隙間量と鋳造品のばりの厚さ

は,ほぽ一致した.

3) 射出速度の減速有り・無しとした場合のぼり厚さは,

言結6.

0.50

Fig. 7 Comparison of the actual flash thickness with

出ecalculated gap between die inserts. Casting test was

carried out with/without controlling impact pressure.

Gap was calculated at an intemal pressure of 20 or

60MPa.

5.

0.40

今回の検討モデルにおいては,算出された隙間量が

0.05mm以下の箇所では,鋳造品にばりの発生が確認でき

なかった (Fig.4,Fig.3).金型聞に 0.05mm以上の隙聞が

発生した場合にばりが発生するという報告があり 12) 今回

の研究結果はこの報告結果と合致している.高速・高圧で

鋳造される場合であっても,金型隙間量にはばりが発生し

ない閥値が存在することを示している.

本研究は,鋳造品のばりの発生を予測する手法を目的と

している.本来であれば金型変形により発生する金型合わ

せ面の隙聞に溶湯が流入し,ばりが生成される状況を直接

シミュレーションすることが理想的である.例えば,充

填時間について提唱されている関係式ωを適用できれば,

シミュレーションにより充填中の溶湯温度の変化を算出

し,それにより推定される圧力と表面張力からばりを直接

シミュレーションできる可能性がある. しかしながら,溶

湯は金型内で液相状態から固相状態に相変態する.そのた

め,温度変化に伴う流動抵抗の変化等の機械的性質を正確

に把握することが必要となる.また,極めて厚さが薄い粘

性流体の非定常解析方法が必要になる等,ばりを直接解析

により予測することは困難であると考えられる.そこで,

本研究では金型変形解析の結果として算出される金型聞

の隙間量に着目し,ばりの発生位置および厚さを間接的に

評価できないかを検討した.その結果,両者は極めて良好

な一致をみせた (Fig.6, Fig. 7). このことより,金型聞の

隙間量を評価することによって発生するばりを推定する

ことは可能であると考えられる.

金型聞の隙間量を評価するためには,金型温度分布,型

締め力および鋳造圧力を適切に定義する必要がある.本

0.10 0.20 0.30

Flash thickness‘mm

察考

Page 6: ADC12ダイカストのばり発生予測 - J-STAGE

126 鋳造工学第86巻 (2014)第2号

金型内に鋳造圧力の 339も包OMPa), 1∞% (60MPa)で

静水圧が作用すると仮定した場合とよい一致を示した.

4) キャピティ付近において 0.05mm以上の隙聞が発生

する箇所では,実際にばりが発生した.

5) 熱変形シミュレーションにより金型聞の隙聞を算出し,

その結果からばりの発生を予測する本手法は,実用上有

効な精度であると考えられる.

謝辞

本研究は,平成22・24年度戦略的基盤技術高度化支援事

業(課題名:鋳放し高精度を有するアルミニウム合金ダイ

カスト鋳造品の生産技術の開発・確立)により行われた.

関係各位に謝意を表します.

鋳造シミュレーションについてご協力いただいた茨城

目立情報サービス(株)殿,物性値の計算についてご協力い

ただいた(株)ユーイーエス・ソフトウェア・アジア,木島

秀弥様に感謝いたします.

重量考文献

1)西直美:型技術27(2012) 18.

2)生井亨,菊地政郎,大沢嘉昭:鋳物51(1979) 142.

3)小林範久,中嶋勝司,浜口達彦,石黒康文:鋳物講演

大会講演概要集 131(1997) 100.

4)大村正吾,鎌田光春,神蔵一義,川越秀太,茂泉

健:日本鋳造工学会第 158回全国講演大会講演論文集

(2011) 75.

5)植木徹.田代政巳,田島淳郎,加藤栄光,八下田健次,

神戸洋史:2010日本ダイカスト会議論文集 (2010)157.

6)高村正人,大浦賢一,須永秀行,桑原利彦,牧野内明武,

Cristian Teodousiu :塑性と加工47(2006) 64.

7)是津宏之,鈴木裕,竹中龍夫,金城盛JI頂:日本機械学

会論文集C編 63(1997) 214.

8) Aswin K. Choudhury, Sanjay Dedhia, Horacio Ahuett-

Grarza, R. Allen Miller: NADCA位叩sactions(1997) 103.

9) Ab凶i出 C凶yapa出i,Vinod Kesavan, R. Allen Miller: DIE

CAST別GENGINEER 44 (2000) 60.

10)谷川昌司,原田雅行,山県系裕,新川真人,山岡充昌,

員鍋孝顕:日本ダイカスト会議論文集 (2012),99.

11)重永佳郎,山県系裕,新川真人,谷川昌司:型技術ワーク

ショップ2012講演論文集 (2012),68.

12)型技術協会, (財)素形材センター:調査報告書454-2

(1994) 49.

13) D. E AlIsop, D. Kennedy: Pressure Diecasting, part 2: The

technology of the国 stingand the die (Oxford: Pergamon

Press) (1983) 45

補遺

金型みきり面聞の隙聞は,面に作用した応力状態と関係

があると推定される. Fig.Aは,型内圧力 60MPaが作用

したときのみきり面上の垂直応力分布を表している.入れ

子の外側ほど応力が低く,入れ子同士が強く接触してい

ないことが分かる.これは,みきり面聞の隙聞の計算結果

(Fig.4)と合致する.

SO(MPa)

S~世a)

o (MPa)

Fig. A Pressure distribution on die insert.