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顕彰事業 All Japan Organization of Social Contribution 2008 100 101 2008年社会貢献活動年間報告書 「社会貢献をしない自分たちなど考えら 社会貢献活動で重要なことは「継続」していくことにあ ると誰もが口にし、そのための努力をしている。 しかし、フシミコーポレーションの場合は、継続のため の施策をなにもしなくても、社員たちがどんどん活動を すすめる。年間を通じて数えきれないほど活動している が、同社の場合は「何をしているか」ではなく「何故して いるか」に注目して報告する。社員たちを引っ張る代表 取締役 専務の深谷倫光さんは「みんな心から楽しんで やっているからです。人のためになり、感謝されることの 気持ち良さが活動を後押ししています」と言う。 それまでもさまざまなボランティア活動を行ってきた同 社だが、十二年前に深谷さんは企業のありかたというこ とから見直すことにした。まず、社員たちに入社の動機 を聞いた。返ってきたのは「稼ぎたいから」という経済的 な理由がほとんどだった。深谷さんは残念だった。「稼ぐ ためだけの仕事、お金に振り回されるだけの人生では寂 しいではないですか」彼らの将来はそれでいいのか。親 御さんや家族はいろいろな期待を持って彼らを育ててき たはずだ。であれば、少なくとも、自分の仕事に誇りを 持ち、家族にも自慢し、この会社に入って本当に良かっ たと思ってくれるようにしたいと感じたのだという。 もともと深谷さんは教職を目指していた。その根底で いつも「生きる喜び」とはなんだろうと自問していた。人 は心の生き物だ。人に喜んでもらうことが人の本来の生 きる意味だと考えた。たくさんの「ありがとう」を言っても らえるような人間を目指すべきだと。 社会貢献活動のきっかけはむしろ社員たちの教育、成 長を願ってのことだった。もちろん、最初は抵抗もあっ た。なぜ、休みに地域貢献をしなくてはならないのか。 最初の数年間、深谷さんはひとりひとりに話しかけて考 えを説明し、いっしょに汗を流して楽しさを共感しなが らの葛藤の日々だった。 「人に感謝されるということが、どれだけ自分を鼓舞する か体験すればわかります。どんなに理解されなくてもき っとわかってくれると信じて伝え続けてきました。そうす る中で、人は誰でも喜ばれる存在なんだ、自分は決して 一人じゃなかったんだ、沢山の愛や支えがあったんだ と、素敵な自分の可能性に出会うことができます」大切 なことは、一人ひとりの将来をより具体的にイメージする ことだという。「こんなふれあいができればいいな、この 人にはこんな役割を任せたいな」ということを明確にビ ジョンにして伝えれば社員たちにも必ず伝わる。この12 年間で深谷さんは確信したそうだ。 今では地域委員会もできて、社員たちが自主的に新た な貢献活動を考え出すようになった。仕事の分担をシフ トし、休日に集まって打合せなどを行っている。全て社 員たちの自主的な活動だ。 「そういう姿を見ると、涙が出てきますね、12年前の私の イメージよりもずっと進んでいます」と深谷さんは感慨深 く振り返る。社員たちは成長し、深谷さんがいなくても 積極的に前進し、変化にも強いチームになった。たくま しく頼もしいチームになりつつある。社会貢献活動と社 員教育が見事に一致しているのだ。同社の貢献活動は あまりにも数が多いため、ここではあえて紹介はしない。 ただ、同社にはエピソードがたくさんある。 ある社員は最寄り駅からホールまでの経路にあるゴミ を毎日すべて拾って通勤する。あるお客様はホールで 元気に挨拶をされて自殺を思いとどまったと感謝をして くれた。また、末期癌のお客様の奥様がお店に来られ て、「主人はここで過ごすのが一番の楽しみなので、余 命いくばくもないがよろしくお願いします」と伝えていっ た。亡くなられた際には、スタッフはみんなで線香をあ げお別れを告げたそうだ。 同社のホールに寄ってみた。スタッフたちはスキップ するような足取りでホールを動き、お客さまに声をかけ ていた。「ありがとうございます」があちこちに聞こえる。 お客さまへの気配りやおもてなしがそこここに感じられ た。正直驚いてしまうほどだ。 「地域に愛されるホール」、言葉でいうと薄っぺらくなっ てしまうが、そのひとつの理想型がここにある。 組合員ホール部門 フシミコーポレーション 株式会社 代表取締役 専務 深谷倫光 のりみつ さん 最優秀賞 愛知県 フシミコーポレーション 株式会社 「社内ボランティアによる総合的社会貢献」事業 年間を通じて様々な活動を行っている 同社が発行している社内報 選考理由 社会貢献活動審査委員会 委員 野口昇フシミコーポレーションの社会貢献活動 は、20年前から継続実施されている。経 営者自身の指導力の下に、社員のボラン ティアグループが組織され、植樹、干潟 や河川の清掃活動、マラソンやフットサ ルなどのスポーツ・イベント、中学生バス ケットボール大会など多様な活動を支援 してきている。これらの活動には、社員が ボランティアとして参加し、地域社会の福 祉や青少年の健全育成に顕著な貢献を してきた。この社会貢献が20年という長 期間にわたって継続実施され、その事業 総額が8千万円に達することに敬意を表 したい。 れない!」社員教育と地域貢献が融合した驚きの取り組み

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顕彰事業 All Japan Organization of Social Contribution 2008

100 101

顕彰事業

顕彰事業

2008年社会貢献活動年間報告書

「社会貢献をしない自分たちなど考えら

社会貢献活動で重要なことは「継続」していくことにあ

ると誰もが口にし、そのための努力をしている。

しかし、フシミコーポレーションの場合は、継続のため

の施策をなにもしなくても、社員たちがどんどん活動を

すすめる。年間を通じて数えきれないほど活動している

が、同社の場合は「何をしているか」ではなく「何故して

いるか」に注目して報告する。社員たちを引っ張る代表

取締役 専務の深谷倫光さんは「みんな心から楽しんで

やっているからです。人のためになり、感謝されることの

気持ち良さが活動を後押ししています」と言う。

それまでもさまざまなボランティア活動を行ってきた同

社だが、十二年前に深谷さんは企業のありかたというこ

とから見直すことにした。まず、社員たちに入社の動機

を聞いた。返ってきたのは「稼ぎたいから」という経済的

な理由がほとんどだった。深谷さんは残念だった。「稼ぐ

ためだけの仕事、お金に振り回されるだけの人生では寂

しいではないですか」彼らの将来はそれでいいのか。親

御さんや家族はいろいろな期待を持って彼らを育ててき

たはずだ。であれば、少なくとも、自分の仕事に誇りを

持ち、家族にも自慢し、この会社に入って本当に良かっ

たと思ってくれるようにしたいと感じたのだという。

もともと深谷さんは教職を目指していた。その根底で

いつも「生きる喜び」とはなんだろうと自問していた。人

は心の生き物だ。人に喜んでもらうことが人の本来の生

きる意味だと考えた。たくさんの「ありがとう」を言っても

らえるような人間を目指すべきだと。

社会貢献活動のきっかけはむしろ社員たちの教育、成

長を願ってのことだった。もちろん、最初は抵抗もあっ

た。なぜ、休みに地域貢献をしなくてはならないのか。

最初の数年間、深谷さんはひとりひとりに話しかけて考

えを説明し、いっしょに汗を流して楽しさを共感しなが

らの葛藤の日々だった。

「人に感謝されるということが、どれだけ自分を鼓舞する

か体験すればわかります。どんなに理解されなくてもき

っとわかってくれると信じて伝え続けてきました。そうす

る中で、人は誰でも喜ばれる存在なんだ、自分は決して

一人じゃなかったんだ、沢山の愛や支えがあったんだ

と、素敵な自分の可能性に出会うことができます」大切

なことは、一人ひとりの将来をより具体的にイメージする

ことだという。「こんなふれあいができればいいな、この

人にはこんな役割を任せたいな」ということを明確にビ

ジョンにして伝えれば社員たちにも必ず伝わる。この12

年間で深谷さんは確信したそうだ。

今では地域委員会もできて、社員たちが自主的に新た

な貢献活動を考え出すようになった。仕事の分担をシフ

トし、休日に集まって打合せなどを行っている。全て社

員たちの自主的な活動だ。

「そういう姿を見ると、涙が出てきますね、12年前の私の

イメージよりもずっと進んでいます」と深谷さんは感慨深

く振り返る。社員たちは成長し、深谷さんがいなくても

積極的に前進し、変化にも強いチームになった。たくま

しく頼もしいチームになりつつある。社会貢献活動と社

員教育が見事に一致しているのだ。同社の貢献活動は

あまりにも数が多いため、ここではあえて紹介はしない。

ただ、同社にはエピソードがたくさんある。

ある社員は最寄り駅からホールまでの経路にあるゴミ

を毎日すべて拾って通勤する。あるお客様はホールで

元気に挨拶をされて自殺を思いとどまったと感謝をして

くれた。また、末期癌のお客様の奥様がお店に来られ

て、「主人はここで過ごすのが一番の楽しみなので、余

命いくばくもないがよろしくお願いします」と伝えていっ

た。亡くなられた際には、スタッフはみんなで線香をあ

げお別れを告げたそうだ。

同社のホールに寄ってみた。スタッフたちはスキップ

するような足取りでホールを動き、お客さまに声をかけ

ていた。「ありがとうございます」があちこちに聞こえる。

お客さまへの気配りやおもてなしがそこここに感じられ

た。正直驚いてしまうほどだ。

「地域に愛されるホール」、言葉でいうと薄っぺらくなっ

てしまうが、そのひとつの理想型がここにある。

組合員ホール部門

フシミコーポレーション株式会社

代表取締役専務

深谷倫光のりみつ

さん

最優秀賞

愛知県 フシミコーポレーション 株式会社「社内ボランティアによる総合的社会貢献」事業

年間を通じて様々な活動を行っている

同社が発行している社内報

ウェルフェアコンサー

ト(上)と植樹活動

の様子(左)

選考理由

社会貢献活動審査委員会委員

野口昇氏

フシミコーポレーションの社会貢献活動は、20年前から継続実施されている。経営者自身の指導力の下に、社員のボランティアグループが組織され、植樹、干潟や河川の清掃活動、マラソンやフットサルなどのスポーツ・イベント、中学生バスケットボール大会など多様な活動を支援してきている。これらの活動には、社員がボランティアとして参加し、地域社会の福祉や青少年の健全育成に顕著な貢献をしてきた。この社会貢献が20年という長期間にわたって継続実施され、その事業総額が8千万円に達することに敬意を表したい。

れない!」社員教育と地域貢献が融合した驚きの取り組み

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