最近経験したsalter-harrisⅡ 型骨端線離開の2例
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整 形 外 科 と 災 害 外 科
38:(2)595~597,1989.
最 近 経 験 したSalter-HarrisⅡ 型 骨端 線 離 開 の2例
博愛病院整形外科
平 川 訓 己 ・高 田 尚 文
中 村 達 彦
Salter-Harris Type II Traumatic Separation
of the Epiphyseal Cartlage Plate: A Report of Two Cases
by
Kunitsugu Hirakawa, Naohumi Takata and Tatsuhiko Nakamura
Department of Orthopedic Surgery,
Hakuai Hospital, Yonago, Japan
Two cases of Salter-Harris Type ‡U separation of the epiphyseal cartilage plate were treated at
our hospital.
Case 1. A 6-year-old boy fell from a swing and injured his left knee. Radiographs showed a Type
II fracture of the distal femoral epiphysis with anterior displacement. Manipulative reduction was
attemped and immobilization was applied with a plaster cast to the flexed leg.
Case 2. A 13-year-old boy injured his right ankle while playing Judo. Radiographs showed a
Type ‡U fracture of the distal tibial epiphysis with posterior displacement, together with a spiral
fracture of the lower fibula. Manipulative reduction was attempted and a plaster cast immobilization
was applied. These two cases were treated conservatively with satisfactory results.
は じ め に
骨端線 離開の頻度 は一般的 に小児骨折 の15%程 度
である と言われてい るが滅 多に遭遇 しない4).最近われ
われは外傷 に よる下 肢のSalter-HarrisⅡ 型骨端線離
開の2例 な経験 したので症例 な供覧 し,若 干の文献的
考察な加 えて報告す る.
症 例
症例1:6才,男.幼 稚園で ゆりかごブランコで遊
んでいて転落 し,左 大腿骨遠位骨端線離開 な来 し来院
した.初 診時左大腿骨遠位骨端は前方 に転位 し,骨 幹
端内側 に三角形の骨片 な残 して骨折 してお りSalter-
HarrisⅡ 型 を呈 していた(図1,A).ケ タラール筋注
全身麻酔 な行 いイメージ透視下に徒手整復 な行 った.
整復 は容易で膝関節過屈 曲位で整復位は安定 していた.
大腿か ら下腿 前面にギプスシーネな当て大腿部 ならび
に下腿で巻 き込みギブス固定 な行 った.ギ ブス固定3
日後,緩 みを生 じたため再度膝屈曲位 にギブス固定な
行 った(図1,B).受 傷3週 目にギブス更新 を行 い
Cylinder castと し2本 杖 にて免荷歩行 とした.4週6
に軽量の樹脂Cylinder castに 変更 し,2本 杖荷重 とし
て退院 した.固定 は8週 間行い骨癒合 は良好であった7
固定除去後1週 間で可動域制限はな くな り受傷後3カ
月で疾走可能 とな った.受 傷後5カ 月のエ ックス線像
では骨癒合 は良好で骨端線の閉鎖 は見 られ無 い(図1,
C).脚 長差,内 外反変形な ども見 られない.
症例2:13才,男.部 活動で柔道練習 中,相 手 に足
な掛 けられ転びそ うにな り立 ち直 ろうとした時,右 足
関節 に激痛 な来 し転倒 した.右 脛骨遠位 に骨端線 にか
かる螺線骨折が あ りSalter-HarrisⅡ 型骨端線離 開な
呈 していた.骨 端 は後方へ転位 し腓骨骨折 な伴 ってい
た(図2,A).一 晩鋼線牽引 な行 ったが整復 不充分で
翌 日腰椎麻酔下 に徒手整復 し解剖学的整復位 を得 られ
ギブス固定 な行 った.受傷2週 後PTBギ ブスに更新し
2本 杖 で退院 した.5週 目にヒール付ギプス とし,1
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A A
B B
C
図1症 例1:6才,男.A:受 傷時,B:徒 手整復,
膝屈曲位にギプス固定,C:受 傷5カ 月後
カ月半でギプス除去 し1本 杖歩行 とした.受 傷2カ 月
のエ ックス線像で は,骨 癒合 は良好 で変形 は見 られな
い.肢 行は無 く痛み もない,可 動域 は背屈20度,底 屈
は50度 であった.受 傷3カ 月後,右 足関節 は可動域制
限 もなく何 ら障害 を残す ことな く,エ ックス線像 も骨
端線閉鎖や変形は見 られず良好な経過 を示している(図
2,B).
図2症 例2:13才,男.A:受 傷 時,B:受 傷3カ
月後
考 察
大 腿 骨 遠 位 骨 端 線 離 開 の発 生 頻 度 はPetersonに よ
る と全 骨 端 軟骨 板 損 傷 の1.2%で あ る3).受 傷 原 因 は古
くは馬 車 の車 輪 に引 き ず られ 膝 を過 伸 展 強 制 され る
Wagon wheel injuryが 多 か った が,最 近 の 報 告 で は
自動車 事 故,ス ポー ツ,転 落 な どが 多 い2)5).わ れ われ
の症 例1は ブ ラ ン コ よ り転 落 し膝 を過 伸 展 され た と思
わ れ る.Salter-HarrisⅡ 型 の治 療 はほ とん どが保 存 的
に行 われ る.Lombardoは24例 中1例 の み にK-Wire
に よる固 定 を行 っ て い る.Ⅲ 型,Ⅳ 型 で は観 血 的整 復
を要 す る例 もあ る.固 定 期 間 はLombardoで4か ら16
週平 均7.5週,Stephensで6か ら20週 平 均9.5週 で あ
る.わ れ わ れ は8週 の 固 定 を行 った,合 併 症 は下 肢 短
縮 や 内外 反 変形 が あ り,1cm以 上 の 短縮 はLombardo
で56%,Stephensで33%,5度 以上 の内 外 反変 形 は
Lombardoが27%出 現 した と報告 してい る2)5).
脛 骨 遠位 骨端 線 離 開 の発 生 頻 度 は 全骨 端 軟 骨板 損 傷
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の11%を 占める3).本 骨折は交通事故,転 落,ス ポー
ツな どの直達外力に より起 こる.Diasら は足の位 置 と
加 わる外力の方向か ら分類 しているが,わ れわれの症
例 は回外 した足に外旋力が加わり遠位脛骨骨端のType
Ⅱ骨折 に腓骨骨折 な伴 う回外一外旋型Grade2に 相 当
する1).本骨折 もほとんどが保存的 に治療される.Spiege1
はSalter-HarrisⅡ 型91例 すべてを保存的に治療 して
いる.観 血的治療 の対象 となるのは整復位保 持の困難
な場合あ るいはⅢ,Ⅳ 型の整復 困難 なものである.固
定期間は4か ら6週 で充分である8).合併症 は短縮 と内
外反変形である.Spiege1はⅡ 型 の66例 中に0.4cmか
ら1.3cmの 短縮 な9例(13.6%)に,5度 以上 の変形
は6例(9%)に 見 られ た と報告 している6).Salter-
HarrisⅡ 型骨端線離開は成長軟骨の肥大細胞層で起 こ
る.治 療は早期 に可能な限 り解剖学的に正確 な整復 を
愛護的に行 い整復位保持 を確実 にす ることである8).し
か し骨端線早期閉鎖 とな るものもあ るので経過観察な
要す る7).
ま と め
最近外傷 による下肢のSalter-HaeeisⅡ 型骨端線離
開の2例 を経験 し,保 存 的治療で良好 な結果 な得たの
で若干の文献的考察 な加 え報告 した.
文 献
1) Dias, L. S. et al.: Physeal injuries of the ankle in
children. Clin. Orthop. 136: 230, 1978.
2) Lombardo, S. J. et al.: Fractures of the distal
femoral epiphyses. J. Bone Joint Surg. 59-A: 742,
1977.
3) Peterson, C. A. et al.: Analysis of the incidence of
injuries to the epiphyseal growth plate. J. Trauma
12: 275, 1972.
4) Salter, R. B. et al.: Injuries involving the epi-
physeal plate. J. Bone Joint Surg. 45-A: 587, 1963.
5)Stephens, D. C. et al.: Traumatic separation of
the distal femoral epiphyseal cartilage plate. J.
Bone Joint Surg. 56-A: 1383, 1974.
6) Spiegel, P. G. et al : Epiphyseal fractures of the
distal ends of the tibia and fibula. J. Bone Joint Surg.
60-A: 1046, 1978.
7)東 田紀彦:骨 端線(軟 骨板)損 傷.整 形 外科,38:
1607:1987.
8)鳥 越雄喜:足 関節部骨端損傷 と足部損傷.整・ 災外,
28:903,1985.
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