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地球環境問 ( 19 ) t=b~~i~~'~:r~1X~1'~" ~ :!: :/ h T: ~- はじめに 環境問趨と資淑間魍 酸性雨、オゾンホール、熱椛林減少、沙漠化、温暖化 傾向など、地球規棋の理境破壊は以前から逃行していた が、蚊近ようやくこれへの閑心が泄界的に高まりつつあ る。地球環挑と’.、Hえぱ、一九八六年にソ述でおこったチ ェルノプイリ原子力発化所の原子炉爆発班故による放射 能汚災も未曽打の規棋のものであり、班故から四年以上 を純たいま、ソ連内那、欧州鮎国、トルコなどで、次々 と深刻な被讐が蜘花化しつつある。 そこで木脇においては、こうした地球環 を地.球・…人にまイ・、洲って考察し、八〕わせて将 探ってみることにする。現代の環境側幽が、明ら 閉による地下資源の利州の仕方に淡くかかわっている とを考、疋るなら、披術純済諭的な視角から資源問迦を初 めて分析した一九世紀イギリスの経済学者、ジェヴォンズ の古典的労作『.刈炭…魍』に先ず第一に注目する必要が あろう。さらに、貨漱の消費は必ず庇熱・廃物の生産に 帰府するという動かし難い小実がある。そして、その背 後にあるのが撚カ学の第二法川ともエントロビー増大法 則とも呼ぼれろ物理法則である。つまり、環境問燭はエ ントロビー問畑でもあるわけだが、ドイツの物理学*ク ラウジウスがエントロピーという物理批を初めて熱カ学 1 2 4

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地球環境問題とエントロピー

( 19 ) t=b~~i~~'~:r~1X~1'~" ~ :!: :/ h T: ~-

はじめに  環境問趨と資淑間魍

 酸性雨、オゾンホール、熱椛林減少、沙漠化、温暖化

傾向など、地球規棋の理境破壊は以前から逃行していた

が、蚊近ようやくこれへの閑心が泄界的に高まりつつあ

る。地球環挑と’.、Hえぱ、一九八六年にソ述でおこったチ

ェルノプイリ原子力発化所の原子炉爆発班故による放射

能汚災も未曽打の規棋のものであり、班故から四年以上

を純たいま、ソ連内那、欧州鮎国、トルコなどで、次々

と深刻な被讐が蜘花化しつつある。

室  田

 そこで木脇においては、こうした地球環境閉魎の原凶

を地.球・…人にまイ・、洲って考察し、八〕わせて将来の槌望をも

探ってみることにする。現代の環境側幽が、明らかに人

閉による地下資源の利州の仕方に淡くかかわっているこ

とを考、疋るなら、披術純済諭的な視角から資源問迦を初

めて分析した一九世紀イギリスの経済学者、ジェヴォンズ

の古典的労作『.刈炭…魍』に先ず第一に注目する必要が

あろう。さらに、貨漱の消費は必ず庇熱・廃物の生産に

帰府するという動かし難い小実がある。そして、その背

後にあるのが撚カ学の第二法川ともエントロビー増大法

則とも呼ぼれろ物理法則である。つまり、環境問燭はエ

ントロビー問畑でもあるわけだが、ドイツの物理学*ク

ラウジウスがエントロピーという物理批を初めて熱カ学

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一橘論叢第104巻第4号(20)

に導入したのが、ジェヴォンズの『石炭問題』刊行と同

年の一八六五年であることは、偶然とは言え、興味深い

このため、本稿でも一八六五年前後の時期に議論の重点

をおきつつ、そこから今日の環境問趨のありかを照射し

てみたい。1

 生物が創造した地球環境と資源

 人間の生活を物質やエネルギーの面から見るなら、大

気と水が周囲にあり、生態系の営みから食糧が得られ、

排泄物を土壌や水系にもどすことで、世代交代を繰り返

してきた。さらに、世界のいくつかの地域においては、

旧来からの鉄や金、銀などに加えて、一〇〇年ほど前か

ら石炭や石油などの地下資源の利用が活発になってきて

いる。それぱかりか、近年に至っては、ウラニウムを用

いた原子力発電を行っている国も少なくない。

 そうした地下資源の利用が、ささやかな利用の範囲を

はるかに超えて濫用の域に達したことから今日の地球環

境間題がひきおこされている点については後述するとし

て、そもそも二〇世紀も末に近い今日まで人類の生存を

可能にしてきた地球環境はどのようにして形成されたの

か。本節では、先ずこのことを簡単にふりかえってみた

い。現状を考えるためにはあまりにも迂遠過ぎると恩え

るかもしれないが、地球史をぬきにして地球環境の現状

も将来も語り得ないのである。

 天地創造については、世界各地に様々な神話があるが、

ここ数一〇年にわたる諸科学の知見の累積に従えぱ、地

球という天体の起源は、約四六億年前に求められるとさ

れる。地球上でこれまでに採集された様々な隈石と現在

の地球を構成している諸物質との比較・検討などにより、

コンドライトと呼ばれるタイプの隈石が原始地球になっ

たものと考えられる。そして、一挙にか、あるいは継続

的に長期にわたってかについては学説が分かれるようで

あるが、とにかくその内部から高温のガスが大量に噴出

した。その主体は水蒸気と炭酸ガスであり、その他に窒

素ガスやアルゴンをはじめとする不活性ガスがあった。

さらにそれらのガスには、塩酸ガス、硫酸、フッ酸など

の酸も混じっていたと考えられている。

 厳密さを欠くことを恐れずにわかりやすく言えぱ、こ

の高温ガスの噴出は、今日の地球における火山の爆発と

似たようなもので、ただ規模がより巨大であったと考え

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(21)地球環境間題とエントロビー

てよかろう。そして、この灼熱の原始地球からは、宇宙

空間に向けて熱の放出が続いた。この結果、水蒸気は冷

えて雨が降り統き、これが原始の海を形成した。この海

は、塩酸、硫酸などを溶かしこんでいて、強酸性であっ

たと考えられる。しかし、海底を構成する岩石中にはア

ルカリ性物質もあるので、この強酸性の海水はそうした

物質を溶かして、次第に中性の海に近づいていった。

 原始の海ができて以降の地球大気の主成分は炭酸ガス

であった。ところで、化学的に言うと、炭酸ガスは酸性

の水には溶けない。だが、上記のようにして海が中性に

なると、炭酸ガスはそこに溶けこみはじめ、炭酸イオン

となる。この炭酸イオンは、海水中のカルシウム・イオ

ンと反応して石灰岩(909を主成分とする物質)に

なり、それにマグネシウム・イ才ンが加わると苦灰岩

(O里彗o貝(09)冊を主成分とする物質)になる。こうして

大量に生成された石灰岩や苦灰岩は海底に沈澱する。そ

して、その分だけ大気中の炭酸ガスは減少していった。

 この結果、今から四〇億年前くらいまでに、地球大気

は、酸素が皆無かほとんど無いことを別とすれば、窒素

の多い現在の大気に近いものになった。そのころまでに、

海水の量も今目の量に近くなり、その塩分組成も今日の

ものに近くなったと考えられている。

 近年の微化石研究の著しい進展の成果によれぱ、今か

ら三八億年前より古くはないが三五億年前より新しくは

ない時期の海中に、最初の生物が誕生したものと想像さ

れる。これは、細胞はあるが核の無い原核生物と呼ばれ

るもので、具体的には藍藻やバクテリァ類である。この

原核生物は、後に誕生する真核生物に比べれば単純な構

造をしているが、それでも葉緑素(クロロフィル)を持

っていて、光合成を行うことができる。光含成を化学反

応式で示せぱ

  ひO○岬十α曽岨O+津H斗ミ哨1--↓Oo曽富○藺十①○岨

であり、光エネルギーの存在下で、炭酸ガス六モルと水

六モルから、ブドウ糖一モルと酸素ガス六モルが生成さ

れる反応である。光合成を行う原核生物の登場によって、

海水中で酸素が生成されはじめた。

 とはいえ、そうした酸素の量は当初はわずかであり、

初期の海にはたくさん溶けていた鉄イオンや硫黄を酸化

する方向でおおかた消費されてしった。このことを今日

の人間の立場から見れぱ、初期の生物が光合成によって

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’橋論叢第104巻第4号(22)

創出した酸素が、鉄鉱床をつくるのに貢献したのである。

海水中に希薄に拡散している鉄イオンは、それ自身とし

ては資源とはなりえないが、酸化鉄として固定されて凝

集すると資源になる可能性をもつわけだ。

 さて、長期にわたって持続する海中での光合成により、

二五億年前くらいから、大気中にも酸素が放出されはじ

めたと考えられている。原核生物は、醸酵だけによって

生き、光合成で酸素を生産しはするものの、他方でそれ

を吸収するという意味での呼吸は行わない。これに対し、

一四億年前ころに、大気中の酸素濃度が現在の一〇〇分

の一くらいにまで高まったところで、やはり海中に輿核

生物が誕生したとされる。これは、呼吸を行う点で物質

やエネルギーの新陳代謝を原核生物より活発に行う生物

であり、細胞には核があ乱。遺伝を司るDNA(デオキ

シリボ核酸)は、原核生物の場合、細胞内のあちこちに

分散しているのに対し、真核生物の場合、それは核の中

に保護されている。

 これよりずっと後になって登場する複雑な被子植物や

哺乳動物などももちろん真核生物であるが、当初に増加

した真核生物は、単細胞生物であったろう。今日観察で

きる真核の単紬胞生物の代表としては、ク回レラのよう

な緑藻類、アマノリ、テングサなどの紅藻類があるが、

要するにそれらに類する生物が海中に繁茂するようにな

った。

 この結果、光合成が増々盛んになり、これに伴って酸

素の生成量が増えると、大気中の酸素濃度も高まった。

太陽から発して地球に屈く紫外線は、薄く拡散している

酸素分子(9)とは反応しないが、その濃度が高まると

オゾン(o蜆)をつくる。実験的には、大気中の酸素濃度

が現状の一〇の一くらいになるとオゾンの生成がはじま

ると言う。その半面で、紫外纏には、オゾンを分解して

酸素にして、その際に自らはエネルギーを失ってしまう

という性質もある。このため、高空に才ゾン層があると、

それは、地表に屈くはずの紫外線を遮断する効果をもつ

ことになる。

 太陽エネルギーの一部を成す不可視の紫外線は、生物

にとっては毒性の強いエネルギーである。タンバク質は、

波長○・二九ミクロン前後の紫外線、核駿は、波長○・

二六ミクロン前後の紫外線をそれぞれ吸収して壊れる。

これに対して、オゾン層はO・二~O・三六、・、クロンの

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(23)地球環境問題とエント回ビー

紫外線を吸収して無害化する性質をもっている。

 要するに、オゾン層がなけれぱ、生物は陸上では生き

られない。だが、水は紫外線を吸収する。生物が陸上で

はなく、先ず海水中に誕生して繁栄しはじめたのは、一

つにはこのためである。しかし、大気中の酸素濃度が今

日の約一〇分の一になったと推定される四億年前までに

は、高空にかなりのオゾン層が形成され、新たに陸上生

物が登場した。

 地質学では、五億九千万年前までを先カンブリア時代

と言い、その後二億四、八O○万年までを古生代とし、

その後六、五〇〇年前までを中生代、そして、それ以降

を新生代と呼ぷ。古生代半ぱのデボン紀には、完全に陸

上型のシダ類が大繁茂し、やがて大木、巨木が林立する

ようになった。さらに中生代は、恐竜に食物を与え得る

ほど生物界が豊饒な時代となった。恐竜群の突然の消滅

は、微惑星群の地球への衝突によるとする学説が最近は

有カであり、もしそうだとすれば、地上の生物全体が一

時期大幅に衰退したことであろうが、新生代には再ぴ動

植物類が繁栄し、多種多様となった。

 こうした時代の生物の遺体がバクテリアによって分解

されれぱ、最終的には上記の光合成の式を逆転した形の

反応により炭酸ガスが生成されるが、分解以前に土砂に

おおわれた有機物は、堆積作用により、地下あるいは海

底深くに押し沈められ、そこで強カな地圧・地熱の作用

を受けて、やがて石炭や原油へと転化していった。

 生物学上のヒト科という意味での人間の誕生は四〇〇

万年前ころと推定される。六〇万年前には氷河期が訪れ、

厳しい寒さが地上をおおったが、哺乳動物は寒さへの耐

性が強く、人間はその時期をのりこえた。人間が意識的

に火を扱いはじめたのがいつかは不明だが、そのことが

人間とそれ以外の動物とを区別する重要な要因になった

ことは確かであると言ってよかろう。

■ 地下資源濫用時代のはじまり

 種々様々な生物にとって住みよい地球環境が、生物自

身によって創造されてきたこと、今日のいわゆる先進工

業諸国の人間が大量に消費している諸資源も、その大半

はおおむね生物起源であることなどは、既に前節でみた

通りである。そうした地球環境は一定不変ではない。そ

れ自身が生物の産物である以上、生物活動のパターンが

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橋論叢 第104巻 第4号 (24)

変れぱ環境は変るかもしれない。他方、生物活動のバタ

ーンに変化がなくても、無生物的な天然現象が環境を変

えることもある。太陽黒点の犬変化、地球の火山の爆発

などがその例である。

 とはいえ、近年盛んに議論されるようになった地球環

境間題が、そのような環境変化の一般論のことでないの

はもちろんである。それは、人間活動による環境破壊、

ないし環境汚染の問題であり、そこでの被壊ないし汚染

とは、人間を含む諸生物にとって住みにくい方向への環

境変化のことである、と言ってよかろう。そのような意

味での環境汚染には様々なタイプがあるが、単純化を恐

れずに言えぱ、次の三つに大別されるであろう。

   H 生物的汚染

   ⇔化学的汚染

   目 放射能汚染

 人間の行為がもたらす第一のタイプの生物的汚染とは、

沙漢化タイプの環境破壊圭言い換えてもよいもので、森

林を過採しての無理やりの農耕地拡大、遇放牧などによ

って生じる。その代表例が古代メソポタミァ文明や古代

地中海文明であり、今日その跡地には沙漢か、たとえ沙

漢ではないにせよ著るしく植生が貧困な地帯が広がって

いる。エジプトのビラミッド群を建造するには、岩石の

加工や輸送のために莫大な量の木材が伐採されたものと

推定されている。一般的に言って、巨大な文明が隆盛を

極めた地域ほど沙漢化が深刻である。

 日本の場合、巨大文明を築く試みはなされなかったが、

森林へのかなり大きな負担をかけたものとして、奈良の

大仏建立(建設七四七-七四九、開眼七五二)がある。

これには、大量の鋼を鋳造し、さらにそれを金箔でおお

う作業が必要であった。そこでの銅の精錬に使われた木

炭は、当時の記録から約八○Oトンであったことがわか

る。木炭研究家の岸本定吉によると、これが当時採用さ

れたものと想像される伏焼き法で製炭されたものとする

と、約一〇〇ヘクタールの森林伐採が行われたはずだと

いう。なお、これは鋳造だけの話であり、それ以外の作

業にもかなりの木炭が使われたはずである。この結果、

奈良盆地周辺の山々の森林はかなり貧困になった。

 さらに、この大仏を金箔で飾るには、金を水銀とのア

マルガムにする必要があり、この作業に動員された人々

の間に水銀中毒などの被害があったのではないかと言わ

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(25) 地球環境問題とエント回ビー

れている。そこでの水銀は無機水銀であり、水俣病の原

因物質である有機水銀よりは毒性が少いが、既に古代日

本においても、地上での生物的汚染の域を超えて、地下

資源起源の化挙的汚染の端緒はあったと言えよう。

 とはいえ、巨大文明への志向の無かった日本では、明

治時代になるまでは、広域にわたる生物的汚染や化学的

汚染は記録されなかった。

 次に欧州史をふりかえってみると・イギリスの場合・

九世紀くらいから石炭の利用がはじまったことは確実視

されている。当初は火葬用の燃料という位置づけだった

らしいが、やがて他の分野でも薪の代替品として使われ

るようになる。しかし、石炭をそのまま燃やす場合、そ

れは黒い媒煙を出し、薪に比べて著るしく汚い燃料たら

ざるをえない。このため、大気を汚染する石炭の消費を

規制しようとする意識も芽生えた。イングランド王のエ

ドワードー世(向o老胃o戸旨s-ごミ)は、一三〇六

年、石炭の使用禁止令を発した。そして、違反者を極刑

に処すとし、実際に一件の処刑例があったという。

 フランスでは、石炭が空気を消滅させると考えられた

時期があるといい、しかも衣服を汚し、健康を害すると

して、都会での石炭使用が禁止されたこともある。

 とはいえ、こうした禁令の実施は長続きしなかったよ

うである。今日知られている史上最古のレンガ焼きは、

紀元前五〇〇〇年頃のメソポタミアにあるというが、石

造ないし木造建築が普通だった欧州の場合、二二、一四

世紀ころから、オランダを中心にレンガ建築が普及しは

じめる。この動きはイギリスにも伝播し、一五世紀以降、

レンガ焼きが盛んになっていった。そのためには、良質

の燃料である薪である必要はなく、石炭で十分であった。

このため石炭需要は増大し、その採堀と輸送は、次第に

一つの産業の様相を強めていく。

 ところで、カスティリアのイザベル女王(-竃σ9卜

着胃1ご睾)の庇謹も得たイタリアの航海者コロンブス

(O~艮O暑實OO-目目99宝胃1ご畠)らが動カ源とし

ては風カを用いて、今日の北米大陸東岸の島々に到達し

たのが一四九二年であるが、それ以降、スペイン人勢カ

のアメリカ大陸進出の勢いはすさまじかった。とりわけ、

今日の南米ボリピァに当る地域のポトシで銀鉱が発見さ

れるや、先住民インディオを強制労働に駆り出しての銀

山開発にり、犬量の銀貨が欧州にもたらされ、そこでの

42?

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一橋諭叢 第104巻 第4号 (26)

経済活動の拡大を促進した。

 この強大なスペインの対抗勢カとなるのがイギリスで

ある。その動きを牽制しようとしたフェリペ■世(黒一-

甘o月ごミーご湯)は、大艦隊(後に無敵艦隊と呼ぱ

れる)を編成し、一五八八年、この艦隊はフランドル駐

留の陸箪をイギリスに移そうとしてドーバ、海峡に向っ

た。これに対し、イギリス側は、動きの早い小型船と火

船を繰り出し、悪天候にも助けられて撃遇に成功した。

 フェリペn世は直ちに海軍を再編成し、スペインはこ

の「ドーバーの海戦」での敗北後も、約四〇年間にわた

り大西洋の制海権を握り続けたというが、趨勢から言え

ぱ、イギリスの影響カは拡大方向にあった。このイギリ

スにおける経済活動の拡張は、燃料としての薪や、製鉄

用遼元剤としての木炭の需要を増やした。また、船の建

造に要する木材もかなりの量にのぼったものと思われる。

例えぱ、当時の標準的な戦艦である七四門軍艦一隻をつ

くるのにカシの木約一、○○○本が必要だったという。

このため、森林掴渇の可能性も一都で顕在化しはじめ、

エリザベスー世(自一墨一Uo芽一ご簑-ま8)は、特定の

都市周辺での森林伐採禁止令を発している。

 石炭についてみると、先述のようにレンガ焼成炉の燃

料としての消費量が増えたぱかりか、そのレンガを用い

ることにより、室内の空気を汚さずにすむ暖炉や煙突が

設計・開発され、このため家庭用としても石炭が使える

という相乗効果が生じ、この結果、世界で初めてイギリ

スにおいて石炭産業が成立することになった。

 日本の場合、記録上古いものとしては、神功皇后伝説

の中に石炭への言及があるものの、その後あまり使われ

た形跡がない。ところで、江戸時代に入ると、製塩、製

                  ○き宇吉

陶、寺社建築などでの木材多用により、尽山(森林酒

渇)を招来する恐れが、瀬戸内地方を中心に生じてきた。

これに対して、陽明学者の熊沢蕃山(ニハ一九-ニハ九

一)は、稜極的な植林を含む森林保全論を展開し、以後、

          とめ中ま

徳川幕府や各地の諸藩は留山(森林伐採禁止区域)など

の制度を設け、全国的に森林保全が図られることになっ

た。他方、以前から石炭の存在が知られていた九州の筑

豊地方では、元禄時代(一九八八-一七〇四)に石炭採

掘がはじまり、薪炭(薪と木炭)の代りになるとされた

ものの、悪臭を嫌う人々が多かったらしく、あまり普及

しなかった。まとまった量の石炭が消費されるようにな

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(27)地球環境間魑とニントロピー

ったのは明和年間(一七六四-一七七二)になってから

で、主として製塩業における薪の代替品としてであった。

 中国の場合、紀元前一、○○○年ころから石炭が使わ

れていた圭言われる。二二世紀に中国各地を旅したベネ

チァのマルコ・ポー口(旨彗8勺o-9嵩睾ーごミ)は、

「中国では至るところに黒い石があり、人々はそれを採

掘して燃料にしている。これにより大量の木材の節約が

なされている」という主旨の記録を残している。古代文

明以来、相対的に森林の乏しくなった中国では、石炭の

消費最は、日本などより歴史的にはるかに犬きかったも

のと思われる。

 さてここで・再ぴイギリスに話をもどすと・そこでは・

地表に露出していたり、地下浅層にある炭層が掘り尽さ

れるに伴い、坑道を深く掘り進めざるをえなくなった。

そして、一七世紀半ぱ以降、地下深くに大量に湧出する

地下水が、興隆しはじめた石炭産葉の阻害要因になりは

じめていた。炭鉱に隈らず、金属鉱山などにおいても、

地下水汲み上げの動力としては、従来、人カと畜カが中

心であった。だが湧水量が増えると、人畜カの範囲では

揚水が不可能となる。

 この間題解決の方向としてイギリスの技術者たちが注

目したのは、当時フランスで進んでいた蒸気カによる揚

水の理論である。水を加熱すれぱ、水蒸気となって膨張

する。それを冷やせぱ、凝結してもとの液体の水へと収

縮する。貴族の庭園に質水をつくるような場合、それは

サイフォン現象を利用するが、このためには先ず水を高

い所にもち上げておくことが必要で.ある。この揚水用動

カ源として、フランスの技術者たちは、上記のような水

の加熱・冷却によるその膨張・収縮の過程を利用する様

々な試みを行っていた。

 イギリスの経済学者ジェヴォンズ(峯…里昌ω.言くo-

易一畠畠-冨。。N)の著作『石炭問魑』によれば、一七世紀

の同国においては、こうした揚水の理論や実験に蒲目し、

それを炭鉱排水に応用しようとする人々が出現した。そ

の中で最も画期的な潜想を得たのがセーヴァリ(↓ぎ目-

富ω竃害さま8-ミご)である。彼は、水を加熱する

ための燃料として石炭そのものを用いるような機関(エ

ンジン)を考案し、一六九八年に特許をとった。彼が試

作した機関本体は実用に耐えなかったらしいが、石炭を

用いて石炭を手に入れるという論理を明確に述べたのは

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一橋論叢 第104巻 第4号 (28)

彼が最初である。

 彼の設定した目的を現実に炭鉱現場で実現することに

成功したのはニューコメン(-一〇ヨ婁之窒8ヨ雪一宗3

ーくs)であり、一七二一年のことである。これは、シ

ーソーのように動く腕木の一端の下にビストン・シリン

ダー系があり、他端の下に揚水ポンプがあるかなり大型

の装置である。シリンダーの下にはボイラーがあり、石

炭を燃やしてそれを外側から加熱すると、内部の水が水

蒸気となる。それはパイプを通ってシリンダー内に入り、

そこの空気を追い出してしまう。この縞果、ビストンが

押し上げられ、腕木はポンプ側に傾く。次に、シリンダ

ー下都の小孔から少量の水を内部に噴射すると、そこに

充満していた水蒸気は一挙に凝結して液体の水となり、

そこは真空に近い空間となる。このため、外都の大気圧

によってピストンは押し下げられ、腕木はシリンダー側

に傾く。そこで再びボイラーが水蒸気が送られてくる。

そして、以上の過程が繰り返されることで、揚水ポンプ

は上下方向の往復運動を行い、地下水を地上に汲み出す

のである。

 この蒸気機関は、大気圧と真空の差の範囲で作動する

ので、今日ではニューコメンの大気圧機関と言われる。

そのための燃料としては、良質の石炭である必要はなく、

商品価値の無いものとして従前には鉱口周辺に積み上げ

ておくくずの石炭で十分であった。機関に加える熱の熱

量に対してそれから得られるカ学的な仕事の量の比率を

熱効率と言うが、ニューコメンのそれは一%にも満たな

い低率であった。しかし、人畜カでは汲み揚げ切れない

炭鉱の地下水が、ただ同然のくず炭を燃やすことで揚水

でき、その結果、商品価値のある石炭が得られるのであ

るから、経済的にみてこれは成功であった。特許をもっ

ているのはセーヴァリであるから、ニューコメンは勝手

にそうした機関を製造・販充することはできなかったが、

セーヴァリと組んで会社をつくることで特許の壁をこえ

た。そして、この大気圧機関は、イギリス各地の炭鉱の

みならず、大陸欧州の諸炭鉱や金属鉱山に普及していく。

 さて、当時のイギリスにおいては、石炭と並んで鉄に

対する需要も伸ぴていた。製鉄用の還元剤は木炭である

から、同国は、森林の豊窟なスウェーデンやロシアから

鉄を輸入していたが、国内での木炭製鉄も盛んであった。

このため製鉄面で森林澗渇を招く可能性があった。そこ

430

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(29)地球環境間題とエントロビー

で、石炭を還元剤とする試みがなされたようであるが、

木炭に比べて著しく不純物の多い石炭では、実用に耐え

る鉄をつくることはできなかった。これに対して、石炭

を乾留してコークスをつくり、それを還元剤とする製鉄

に成功したのがダヅドリー(U邑U目2oきご遣1H竃企)

であり、ニハ六〇年代のころである。とはいえ、彼はそ

れを事業化するには至らなかった。森林は減少しつつあ

るもの、当時はまだ木炭が決定的に高価というわけでは

なかったからであろうと言われている。コークス製鉄が

本格化しはじめるのは一八世紀に入ってからで、ダービ

ー1世(>σ轟す嘗目U彗σ}一一SooIH冒N)が、 一七〇

九年ころこれに着目し、息子(>σ量ぎ昌U彗耳月ミ旨

ーミ3)がその事業を引き継いだ。

 つまり、ニューコメンの大気圧機関がイギリスをはじ

めとする欧州諸国に普及していくのと同じ時期に、やは

りイギリスにおいてコークス製鉄が開始されたのである。

こうして石炭は、薪炭の代替燃料としてだけでなく、木

炭の代替還元剤として鉄をつくる上でも重要な役割を果

しはじめる。そして、石炭と鉄が、産業革命を欧米各地

に伝播させるエネルギー源と素材の中心となったのであ

る。

 ニューコメンの大気圧機関は、一八世紀後半、ワヅト

(旨昌。聰峯顯昇ミさ1-o。岩)によって改良され(復水器

のシリンダーからの分離など)、さらに同世紀末から一

九世紀初頭にかけてトレビシク(室oぎ邑宇薯岸巨9

一ミー1H0.o。ω)の高圧蒸気機関が登場した。これら一連の

改良は、熱効率の上昇だけでなく、機関本体の小型化や

高速作動にもつながり、この結果、定置動カ源として出

発した蒸気機関を、移動動カ源として、すなわち交通・

輸送部門でも利用しようとする動きが出てくる。すなわ

ち、アメリカの発明家フルトン(射ogユ句巳一昌一HN3

1Ho。ご)は、フランスでの蒸気船実験に成功して帰国し、

ワヅトの蒸気機関で動く外輸船ク一7モント号を建造し、

一八〇七年、これは、ハドソン川にてニューヨーク市と

オルバニーの間二四〇kmを三二時間で航行し、実用の

ものとしては世界初の旅客蒸気船となった。イギリスで

は、スティーブンソン(ΩooHo有oω誌勺}⑦易o戸ミo0Hl-oo抽oo)

が、トレビシクに続いて蒸気機関車の実用化をめざし、

一八三〇年にはリバプールとマンチェスター間で営業運

転にこぎっけた。

431

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一橋論叢 第104巻 第4号 (30)

 こうした蒸気船や蒸気機関車は、初期の開発者の意図

としては旅客用であったが、結果的には、少量の石炭の

消費により大量の石炭を遠方まで運ぷことができるよう

になったという意味での重要性をもつ。つまり、一九世

紀以降の蒸気機関は、採堀段階だけでなく、輸送を含め

ての石炭の石炭による拡大再生産を可能にしたのである。

皿 エントロピー法則と石油文明

 熱を仕事に転化する機械のことを一般に熱機関圭言う。

そうした熱機関について、燃料の経済を考えるなら、熱

効率がその指標となる。この熱効率を上げるにはどうす

ればよいか。それは無限に上昇しうるものなのか。それ

とも上限があるのか。蒸気機関が普及する過程では、当

然そのような疑問が生じる。この問題に理論的に取り

組んだのがフランスのカルノー(留a9、■o戸ミぎー

畠簑)である。職業的な意味での学者ではなかった彼は、

研究結果を一八二四年に私的な小冊子の形でバリで出版

したが、可逆過程という理想状態を想定したそこでの分

析によると、熱効率を決めるのは、最終的には機関の入

口と出oの温度のみである。機関の材質その他の諸条件

は、この間題にはいっさい無関係であり、入口温度と出

口温度の違いが大きいほど熱効率は上昇する。

 このカルノーの研究を知ったイギリスの物理学者ケル

ビン螂(■o己穴色く貝一〇。睾-岩oN)は、一八四八年、

カルノーの分析で重要な役割を占めている摂氏温度プラ

スある定数として示される量を絶対温度と規定した。さ

らに、ケルビン経由でカルノーの研究を知ったドイッの

物理学者クラウジウス(肉邑昌Ω竃閉巨9富竃lHo。。。。。)

は、一八五〇年、外的な作用を加えない限り、熱は高温

物体から低温物体の方向に一方的に移動するのみであり、

その逆はないことを物理学上の公理として認めることを

提案した。翌年には、ケルビンも同様の主張を掲げた。

エネルギーの保存則が熱カ学の第一法則と呼ぱれるのに

対して、上記の公理はやがて熱カ学の第二法則と呼ばれ

るようになる。

 さらにクラゥジゥスは、一八六五年、つまり、ジェヴ

ォンズがロンドンで『石炭問題』を刊行した年に、チュ

ーリヒ哲学会において一つの論文報告を行った。その中

で彼は、熱エネルギーの状態を表わす物理量として、熱

量を絶対温度で除した量をエントロビーと命名した。熱

432

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(31) 地球環境間題と工。・トロピー

ぱ高温物体加ら低温物体へと一方方向にしグ移跡しない

という上記の公理を、このエントロビーという物理量を

用いて定式化すると、外部から何らの作用もないシステ

ム(物理学では孤立系圭言う)においては、エントロビ

ーは増大する一方である(少なくとも減少しない)、と

いうことになる。そして、その増大は、システムに固有

のある最大値に達するまで続くであろう。ケルビンは既

にそうした状態を想定して「熱死」(ま等ρ窒艘)という

概念を考えていたが、クラウジウスによれぱ、それはエ

ントロビー最大状態を意味することになる。

 熱カ学のその後の展開に即して言えぱ、熱エネルギー

だけでなく、物質もまたエントロピーをもつ。すなわち、

ある絶対温度状態にある物質のエントロピーとは、それ

が最初仮に絶対零度であったとして、それに徐々に熱を

加えてものとすると、それに伴ってエントロビーも加わ

ることになる。そして、その物質が当該温度になるまで

に受け取るエントロピーの総計値をその温度の下でのそ

の物質のエントロピーと定義するのである。

 このように考える時、エントロピーとは熱や物質の基

本属性であることがわかる。また、そうである以上、熱

や物質が空間的に移動すれぱ、それに伴ってエントロビ

ーも移動するのである。

 以上、議論がやや抽象的になったが、直観的に言えぱ、

エントロビーとは熱や物質の「汚れ」圭言うに近い物理

量であり、熱や物質の拡散の指標である。熱湯の入って

いるやかんに氷の塊りを放りこんでしぱらく放置すると、

全体がぬるま湯になる。それが、熱湯と氷をひとまとめ

にしたシステムにおける「熱死」であり、人間の経済的

な都合から見れぱ、その価値は小さい。熱湯はお茶やコ

ーヒーを飲みたいとき役立ち、氷はものを冷やすのに使

える。しかし、ぬるま湯では水としての価値しかない。

他方、初めぬるま湯が入っているやかんをただ放置して

おいたら、いつの間にかその一部が熱湯になり、残りが

氷になっていた、などということはない。この点を公理

として認めたのが熱カ学の第二法則、別名エントロビー

増大の法則なのである。

 近年世界的に憂慮されるようになったいわゆる「地球

温暖化」は、ここでの「熱死」を想いおこさせる。つま

り、地球全体がぬるま湯のようになってしまうことが懸

念されていると言ってもよい。

334

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一橋論叢第104巻第4号(32)

 蒸気機関の発明と普及は、人間が薪炭の代りに石炭を

犬量に消費することを可能にした。そして、その熱効率

の研究からエントロビーという物理量が定義されること

になったわけだが、この物理量には増大則が伴っており、

どうやらその増大則は、今日の地球温暖化問題と無関係

ではないのである。

 さて、ここで再ぴ歴史に話をもどすと、製鉄用還元剤

を得るために右炭乾留が次第に大規模に行われるように

なると、その過程で副生する石炭ガスに注目する人々が

現われた。スコツトランドの発明家マードツク(峯自{.

里目竃員ooo打ミ宝-畠$)は、木材や石炭から発生す

るガスが照明用に適していることに気づき、一八○○年

にはガス燈実験に成功した。以後、石炭ガスは街路燈の

燃料としてイギリスで普及しはじめ、ドイツではさらに

工場や家庭内の照明にも使われはじめた。一方、アメリ

カなどで、地上に浸出している原油を加熱する際に分離

してくる軽質の油の一部-今日の言葉で灯油と呼ぱれ

るものーが、やはり媒の少ないすぐれた燈火燃料とし

て役立つことがわかった。

 当時までの欧米における燈火燃料としては鯨油が多用

されており、これにより鯨の乱獲・酒渇がおこる恐れが

あった。石炭ガスや灯油の燈火利用は、鯨にとってはさ

しあたり福音だったと言えよう。さらに、石炭ガスにつ

いてみると、それは別方向の技術へもつながっていく。

 蒸気機関は、その燃料がシリンダーの外部で燃焼する

という特徴をもつが、これに対して燃料がその内部で燃

える機関を内機燃関という。内燃機関の端緒は、中国の

火箭などを含めて古くからあったと圭言えるが、これを

遊具や兵器の域を超えた動カ技術にしようという人間の

意識は、やはり蒸気機関の普及に刺激されて生じたもの

のようである。イギリスで先ずそうした試みがなされ、

さらに一八六〇年、フランスの発明家ルノワール(言彗

-.目1■竃oぎ畠竃lH8o)は、石炭ガスを燃料とする

内燃機関の実用化に成功した。これは、工場の小規模動

カ源として同国各地に普及した圭言う。熱効率三%程度

と推測されるこの機関は、さらにドイツの技術者オヅト

ー(旨ぎ-彗ω>.O津9Ho。竃-H0。胃)らによって改良さ

れ、効率上昇をみた。

 ところで、原油から得られる灯油が燈火用に多用され

はじめたことは先述の通りだが、この灯油生産は揮発油、

434

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(33)地球環境問題とエント回ビー

すなわちガソリンを副生させる。そして、蒸発しやすく

引火しやすいこの油は、当初は扱いに困る厄介物であっ

た。しかし、ドイツの技術者ダイムラi(OO堅一きb嘗1

ざ一①、・畠室-s8)は、一八八三年、石炭ガスではなく、

ガソリンで作動する内燃機関の開発に成功した。これは・

燃料の面で画期的であっただけでなく、低速・大型・鈍

重という従来の内燃機関の常識を超え、高速・小型・軽

量であり、現代の高速ガソリン機関の出発点となるもの

であった。さらに、一八九七年、やはりドイツのディー

ゼル(勾邑o=冒霧gHo。㎞o。-岩ご)は、重油で作動する

内燃機関を実用化し、後日これは主として軽油利用の機

関として広範に普及する。

 一九世紀後半の状況としてもう一つ注目されるのは、

電磁気現象が物理挙的に解明されるようになったことで、

これにより水力発電が可能となった。経済活動の中で蒸

気機関の駆動する機械の役割が大きくなるにつれ、石炭

輸送には不便だが水利の便がある地域では、水カによっ

ても同じ機械が動かせるため、従来をはるかに上回る規

模の水カ利用が行われるようになったのである。

 こうした蒸気機関と水カ発電の並用状況の中に徐々に

内燃機関が浸透していく初期の時代に、日本の場合、公

害の原点と言われる足尾銅山鎮毒事件がおこっている。

銅鉱の精錬工程から放出される亜硫酸ガスは酸性雨とな

って周辺の山々の森林を枯死させ、硫酸鋼などの毒物は

川に流れこんで下流の禺畑を汚染した。

 さらに、化学兵器に加えて核兵器も用いた第二次世界

大戦後になると、石油文明が石炭文明に迫り、やがて追

いぬき、環境汚染は、旧来の局地的な汚染の域を越えて

広域化した。とりわけ、自動車の普及は、公害の被害者

と加害者の区別をあいまいにした。これに加えて、一般

家庭で使われるスプレーや冷蔵庫のフロンガスが、いつ

の間にか高空に達してオゾン層を壊しているなど、汚染

は日常化し、しかも地球規模に達している。

w

フロメデウス皿世は登場するか

 先述のエントロピー増大法則は、もともと物理学から

生れたものであるが、人間の経済活動も、根底において

はこの法則に沿って営↓、{れている。このことを初めて体

系的に明らかにしたのは、一九〇六年にルーマニァに生

れ、一九四〇年代以降アメリカで活躍している数理経済

534

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一橋論叢 第104巻 第4号 (34)

学者のジ冒ージェスクレーゲン(一6。プo気、Ω。o,oq.8巨.

勾o晶彗)である。彼の様々な議論の中には、仮に「プ

ロメテウス論」と呼んでおく興味深い議論がある。

 プロメテウスそれ自身は、ギリシャ神話に登場する神

々の一員である。彼は天上界から火を盗み、それによっ

て地上の土人形に生命を吹きこみ、人類を誕生させた火

の神である。オリンポス山に住む神々の主神ゼウスは、

この盗みに激怒し、彼をコーカサス山にしばりつけた。

身動きできない彼に禿鷹が群がって肝臓を食いちぎり、

彼はそこで最期を迎えた。

 ジ目ージェスクレーゲンは、この神話に因んで、火の

利用を覚えた人類のことをプロメテウスー世と呼んでい

る。そこでの経済的な含意は、人閲がひとたび薪の一端

に着火することに成功すれば、その火は自ら薪全体に燃

え広がっていき、そこには火の自己再生産がみられると

いうことである。さらにジ目ージェスクレーゲンは、セ

ーヴァリとニューコメンの蒸気機関にプロメテウス■世

の名を冠している。かつて石炭が人畜カの役入によって

産出されていたのに対し、彼らの開発した蒸気機関は、

石炭の投入による石炭の産出を可能にしたのであるから、

この命名は確かに理にかなっている。さらに、石油によ

る石油の再生産を可能にした内燃機関も、そこでの石油

の発熱が、石炭の場合と似た燃焼という化学反応に依っ

ている点で、このプロメテウスn世の範囲内の技術と言

ってよかろう。そして、一九世紀、二〇世紀におけるフ

ロメテゥスn世の活躍は、世界史的にみても実にめざま

しいものであった。

 ところが、その活躍の結果は、二〇世紀も末に近い今

日、地球規模での環境汚染となって人類やその他の諸生

物の生存を脅しはじめている。この危機に国際的に対応

すべく、世界各国の政府レベルでも「地球環境問題」の

議論が盛んになっているが、そこでの焦点は、一つには

オゾン層を被壊するフロンガスをどうするかという点で

あり、もう一つは温暖化をどう阻止するかという点であ

る。

 温室効果を促進するガスには様々なものがあるが、主

因は炭酸ガスということになっている。しかし、その増

加は、まさに現代文明を支えているプロメテウスn世の

活躍それ自身によってもたらされているのである。この

ため、■世の利便さを保ちつつ、しかも皿世の欠陥をも

634

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(35)地球環境問題とエントロビー

たない技術を求める声があっても不恩議ではない。日本

の場合、それは、いわゆる「石油代替エネルギー」への

期待として示されている。ジ目ージェスクレーゲンの文

脈に置き換えれぱ、これは、プ回メテウス皿世到来への

期待と圭言えよう。

 日本の場合、石油代替エネルギーの主役は原子カとい

う考え方がある。核兵器や医療用の放射線利用以外の原

子カの利用は主として原子カ発電(原発)であるから、

これについて上記の論点を検討してみよう。地殻にはか

なりの量の天然ウランが希薄に分散している。天然ウラ

ンはウラン醐、獅、脳の三種類から成り、構成比は各々

九九二一七六%、O・七二%、○・○〇五七%である。

これらのうちウラン獅は、中性子の作用で核分裂をおこ

す性質をもつ。そして、その一グラムが、俗に”死の

灰。と呼ぱれる核分裂生成物に転化する際に石油ニトン

の発熱量に相当する高温の熱エネルギーを放出する。二

の熱でボイヲーの水を温めて水蒸気をつくり、それで蒸

気タービンを回転させて発電を行うのが原発である。

 他の事情をいっさい無視して以上のみをとりあげるな

ら、原子カが石油の代替になるような錯覚に陥りかねな

い。しかし、上記構成比からわかるように、ウラン獅を

一グラム含む天然ウランの量は一四〇グラム以上であり、

しかも、この地上のどこにも純粋な天然ウランの塊りが

ころがっているなどということはないのであって、莫大

な量のウヲン鉱石を採堀・輸送・精錬してはじめて天然

ウランが抽出されるのである。そうしたウラン鉱石の採

堀と加工の諸段階は、大量の石油(そして部分的には石

炭)の消費によってはじめて可能となる。また、日本の

原発の大半は、ウラン獅の濃度を天然状態の○・七二%

から三%程度にまで高めたいわゆる濃縮ウランを核燃料

としているが、それはアメリカからの輸入品である。同

国での濃縮工程はきわめて電カ集約的であり、その濃縮

工場は尊用の石炭火カ発電所から電カを得ている。

 つまり、海外で石油、石炭を大量に消費して製造され

る濃縮ウランが、これまた石油で動く船に積まれて日本

に入港し、その港から石油で動くトラヅクに積みかえら

れて各地の原発に運ぱれるのである。したがって、核燃

料そのものが石油、石炭の産物なのであって、核燃料が

核燃料を再生産するという仕組みは存在しない。これに

プロメテゥス皿世の役割を期待するのはどだい無理な話

437

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一橋論叢 第104巻第4号(36)

である。さらに、原発という構造物を建設・維持するに

も、それが主として鉄をコンクリートの塊りである以上、

それらを鉄鉱石と石灰岩からつくり、補修するにも大量

の石油、石山灰を要する。発電後に残り続ける高低さまざ

まなレベルの放射性毒物の長期保管に必要な設備もまた、

石油、石炭の産物たらざるをえない。

 なお、天然ウランの大半を占めるウラン醐は、半減期

が地球史の長さに近い四五・五億年という放射性物質で

あり、非核分裂性であるが、中性子の作用を受けるとそ

の幾分かが核分裂性のプルトニウム㎜に転化する。これ

を核燃料の一部とし、その核分裂から生じる中性子によ

りウラン㎜をさらに多くのプルトニウムに転化しようと

いうのが高速増殖炉である。既存の多くの原発が、速度

の比較的遅い熱中性子を利用するのに対して、この炉は

高速中性子の増殖を狙っているためにこの名がある。こ

れによって、天然ウランの利用効率を高めようというわ

けだが、この炉は、一九四五年、長崎に投下されたプル

トニウム爆弾のように核爆発を引きおこしやすい超極隈

技術であり、安定した発電技術として定着する可能性は

絶望槻されている。

 核分裂はだめでも、将来は核融合発電があるという期

待にも問趨が多い。近年世界的に話魑となっている案験

室での低温核融合の場合、仮に事実それがおこっている

としても、発生するエネルギーは微量であり、それに石

油に代るほどの大量のエネルギーを期待すれぱ巨大量の

特殊な希少物質が必要となり、それらの採取・加工等に

大量の石油・石炭が消費されることになるであろう。

 これに対し、古くから期待されている高温の制御核融

合の場合、地球の三〇万倍もの質量をもつ太陽において

はじめて持続的に進行している核反応をこの地上で実現

しようという根本的な無理がある。超高温のプラズマが

この場合の着火剤の役割を荷うはずだが、それが四散し

てしまえぱ融含反応はスタiトしない。そこで、一億度

と圭言われる高温プラズマを一定空間内に閉じこめる必

要がある。しかし、そのよ、つな超高温に耐える物質は存

在しないから、期待の大きいトカマク方式の場合、ドー

ナツ形の容器内に人工的に強力な磁場をつくり、そこに

閉じこめようとする。その磁場は、巨大出力の電カ投入

によりつくらざるを得ず、そうした電力や設備は、結局

のところ石油、石山灰からつくらざるをえない。トカマク

臭38

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(き7)地球環境問題とエント叱一

以外のレーザー核融合などの場合も類似の問題をもつ。

太陽で核融合がうまくい。.ているのは、地球の三〇万倍

もの重カが高温プラズマを太陽表面にひきとめているか

らであることを忘れたくないものである。

 ところで、核融合を含めて原子カには見通しがないと

しても、太陽エネルギーがあるではないかという意見が

ある。しかし、もしそれが光電池(太陽電池とも言う)

のような半導体技術への期待であるとすれぱ、それは・

地下資源の濫用、そして石油ないし石炭の多用という佳

格を免れえない。性能の優れた半導体であれぱあるほど、

不純物の除去などのために危険な物質を多用し、地下水

汚染や、事故の際の毒ガス災害などが懸念される。これ

に対して、究極の太陽エネルギー利用は、水素ガス利用

の燃料電池だという考えもある。水素は普通は水の電気

分解でつくるが、これでは化石燃料の代替とは言えない。

そこで、太陽エネルギーに水を直接分解させよう圭言う

のである。だが、水の熱分解に要する温度は摂氏四、五

〇〇度と極めて高い。地上で集められ得る太陽エネルギ

ーの最高温度は三、五〇〇度であるから、そこには千度

ものギャヅプがある。このギャヅプを埋めようとすれぱ・

また何らかの形で石油、石炭の補助が必要となり、緒局

のところ、燃料電池も石油文明の産物の一つにとどまら

ざるを得ないであろう。

 ジェヴ才ンズの『石炭問題』は、石油を部分的な例外

として、石炭の代替になるエネルギー源はあり得ないこ

とを明らかにした圃期的な労作であるが、彼の一世紀以

上も昔の洞察は、「石油代替エネルギー」をめぐる今日

の議論を検討する上で依然として有効なのである。ジ目

ージェスクレーゲンについて言えぱ、彼は、一個の太陽

電池の提供するエネルギーから、化石燃料の助けなしに

複数の太陽電池が生産されることはない、圭言う主旨を

述べているが、まさにそのような意味においてプロメテ

ゥス皿世は到来し得ないのである。

   むすぴ-二一世紀は森林の時代

 地球環境問題の主因であるプロメテウス■世を超越す

る皿世が登場することはないとすれば、人間の経済活動

は、今後ともある程度までは、既存のn世に依存せざる

を得ない。この場合、注意を要するのは、長い地質時代

の生物の遺産である石炭や原油は、確かに有限であるが、

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一橋論叢 第104巻 第4号 (38)

埋蔵量は莫大であり、コストをかけさえすれぱいくらで

も採堀できて、環境悪化を促進するということである。

加えて、天然ガスについては、必ずしも生物起源ではな

く、地球深層の炭素分から今も無機的に合成されている

という説がある。したがって、地下にあるエネルギー資

源はほとんど無尽蔵に近いにもかかわらず、その消費を

削減していくことが将来に向けての重要課題となる。こ

のためには、たとえぱコージェネレーシ冒ンは利用価値

の高い技術である。

 火カ発電の熱効率は、今日では三〇%を超えるものの、

高々四〇%にしかならない。つまり、火力発電所で燃や

される石炭や重油の発熱量を仮に一〇〇とするとき、そ

のうち電磁気現象を介して人間社会にとって有用な仕事

に転化するのは、最高でも四〇であり、残りの六〇ない

しそれ以上は、温排水や水蒸気の形をとって海や大気中

に捨てられているわけだ。他方、工場で必要となるスチ

ーム供給や、オフィス、家庭等での暖房、給湯などは、

日本やそれ以外の国々では、従来、各々専用の熱供給設

備と熱源からまかなうのが普通であつた。これに対して、

 一つのシステムから熱と電カの両者を供給できるのがコ

ージェネレーシ冒ン、すなわち日本語で熱併給発電、な

いし熱電併給と言われる技術である。これによれぱ、従

来捨ていた廃熱のかなりの部分が、有用な熱として利用

できるから、熱の利用率をうまくすれぱ七〇~八O%く

らいにまで高めることができる。また、こうした技術的

なレベルでの省エネルギーに限らず、複雑な技術を介さ

ず、不必要なことに化石燃料、天然ガスその他の資源を

使わないという意味での省エネルギー.省資源を進める

ことの意義は、今後いっそう大きくなるであろう。

 さらに・これまで活躍し過ぎたn世に代って、プロメ

テウスー世にも再度の活躍をしてもらう準備をすること

が、二一世紀に向けての重要課題である。つまり、世界

的な森林減少傾向に歯止めをかけ、そこからさらに進ん

で森林の増加を図つて、薪炭を現代的に活かすことであ

る・既に沙漢化の著しい国々の場合は別として、日本や

アメリカなどでは、・人間が森林を活用することによって

逆に森林を保全しようという意識が強化され得る。薪を

燃やせぱやはり炭酸ガスが放出されるが、成長期の森林

は炭酸ガスを吸収する。そうした森林と大気の間の炭素

循環の中に人間の経済活動が入りこんでいくことが大切

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〈39)地球環境間魑とエントロビー

である。そうし.て森林の拡大が図られるならぱ、土壌の

保水カが増し、水力利用の可能性も増大することになる。

早くもアメリカでは、電カ会社が廃材利用の火カ発電に

のり出すなどの例が出てきている。これと同時に、エネ

ルギー林業としての植林も一都で活発化してきている。

 森林を減らす国や地域は衰退し、逆にそれを増やす国

や地域は豊かになるであろう。つまり、良い意味におい

ても悪い意味においても、二一世紀は森林の時代となる

のである。

   〔参考文献〕

 本稿は・一般的によく知られている事笑や挙説を中心に

まとめたものであり・詳細な文献注を記すことは、紙数の

制隈もあるので省略する。ただし、個々のテーマに興味あ

る読者のために、入手しやすい邦語図書をいくつか挙げて

おく。

 地球史については秋山雅彦『大気のおいたち』(音木書

店)が簡潔で読みやすい。古代文明の沙漢化に関する古典

としてはV・力ーターとR・デール共著『土と文明』(家

の光協会)がある。日本での森林保全政策や木質系燃料の

歴史については、牧野和春『森林を蘇らせた日本人』(N

HKプヅクス)や岸本定吉『木炭の博物誌』(総合科学出

版)がある。ジェヴォンズの『石炭問題』は、残念ながら

邦訳がないので、解説として拙著『エネルギーとエントロ

ピーの経済学』(東洋経済)を挙げておく。蒸気機関と熱

挙については、力ードウェル『蒸気機関からエントロビー

へ』(平凡社)に詳しく、さらに、小野周他編『(仮題)熱学

第二法則の展開』(朝倉書店)が近く刊行の予定である。

内燃機関の開発史については、富塚蒲『動カ物語』(岩波

新書)が要領を得ている。

 近代的な公害の出発点については東海林吉郎・菅井益鄭

『通史 足尾鉱毒事件 一八七七-一九八四』(新曜社)が

あり、石油文明下の環境被壊については、宇井純『公害原

諭』(亜紀書房)はじめ、多数の文献がある。原発間題に

ついては、槌田敦『石油と原子カに未来はあるか』(亜紀

書房)、土井淑平『環境と生命の危機』(批評社)などがあ

り、経済的側面からの分析としては拙著『新版 原子カの

経済挙』(目本評論社)がある。最近の地球環境問魍の概

観としては、R.プラウン編著『地球白書 89190』(ダ

イヤモンド社)が適切であろう。事典としては、環境庁長

官官房総務課編『地球環境キーワード事典』(中央法規)

が便利である。ジ目ージェスクレーゲン『経済挙の神話』

(東洋経済)は、資源・環境問題を考える場合の理諭的基

礎として決定的に重要である。将来展望については、槌閏

敦『エントロピーとエコロジー』(ダイヤモンド社)がすぐ

れており、文科系挙生や一般読者にとってもわかりやすい。

                 (一橋犬単教授)

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