エントロピーで自然現象の - nikkan...要点 box 11 10 第1章...

要点 BOX 10 11 ●第1章 エントロピーって何だろう ●環境問題や経済・情報分野でも使われる ●本質とは、いろんな自然現象に潜んでいる普遍 的な性質 使使1 エントロピーで自然現象の本質をとらえる 1 この本では トコトンやさしく楽しく エントロピーを解説します 工学分野 情報分野 環境分野 経済分野 モータ 太陽光発電 風力発電 発電機 エンジン エントロピー パソコン テレビ 携帯

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Page 1: エントロピーで自然現象の - Nikkan...要点 BOX 11 10 第1章 エントロピーって何だろう 環境問題や経済 ・ 情報分野でも使われる 本質とは、いろんな自然現象に潜んでいる普遍

要点BOX

1011

●第1章 エントロピーって何だろう

●環境問題や経済 ・ 情報分野でも使われる●本質とは、いろんな自然現象に潜んでいる普遍

的な性質

いろんな分野で使われる

エントロピー

 みなさんは「エントロピー」という言葉を聞いたこと

があるでしょうか。エントロピーという言葉は、もと

もと工学の分野からでてきた物理の概念でしたが、

その後、環境問題の議論に用いられたり、経済分野

や情報分野にも使われるようになっており、一般の啓

蒙書もたくさん出版されています。

 理工系の大学では、基礎科目の「熱力学」という科

目で教えられます。「エントロピー」をかなりの人が聞

いたり、学んだことがあるはずなのですが、わかった

という実感をもっている人はとても少ないのではないで

しょうか。ヨーロッパの学生が、エントロピーがどうし

ても理解できなくて『増えようと減ろうと勝手にし

やがれエントロピー』と書いたという逸話も残されてい

ます。そのエントロピーという考え方を、この本では

トコトンやさしく、具体的な例を用いて、みなさんに

理解していただくことを目的としています。

 エントロピーはいろいろな分野で用いられていると言

いましたが、この本では物理・化学で用いられるエン

トロピーについてのみ説明します。つまり、対象は自

然現象です。

 それでは、なぜエントロピーなどというものを考え

るのでしょうか。それは、エントロピーが自然現象の

深い本質をとらえているからなのです。 

 自然現象はいくつかの原理にしたがって起こっていま

す。私たちはそのすべてを知ったわけではありませんが、

人類は長い歴史を歩む中で、いろんなことを明らかに

してきました。

 原理や本質というのも何か漠然としていてわかりに

くいものですが、ここでは、いろんな自然現象に潜ん

でいる普遍的な性質と思っていただけばよいでしょう。

そして、エントロピーは、まさに、人類が長い時間を

かけて見つけてきた自然現象に潜む本質の1つなので

す。

エントロピーで自然現象の本質をとらえる

エントロピーで自然現象の

本質をとらえる

1

この本ではトコトンやさしく楽しくエントロピーを解説します

工学分野

情報分野

環境分野

経済分野

モータ

太陽光発電

風力発電

発電機

エンジン

エントロピー

パソコン

テレビ

携帯

増えようと

減ろうと

勝手にしやがれ

エントロピー

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要点BOX

1213

●第1章 エントロピーって何だろう

本質をとらえて悟りを開くために

●エントロピーは、普遍的な概念●普遍的な立場から個々の現象をとらえられるよ

うになる

 本質が普遍的な性質だとして、「本質をとらえる」

とはどういうことなのでしょうか。

 本質をとらえるのは、なにも科学者だけの専売特

許ではありません。むしろ、東洋にはもっと古くから

本質をとらえるためのプロセスを修行として体系付け

てきた歴史があります。たとえば、禅もその1つです。

禅というのは、問答や修行によって物事の本質をとら

え悟さ

りを開くものと言ってよいでしょう。その悟りを

開くまでに3段階あるそうです。

 第1段階「山を見るに是れ山、水を見るに是れ水

なりき」

 第2段階「山を見るに是れ山にあらず、水を見る

に是れ水にあらず」

 第3段階「山を見るにただ是れ山、水を見るにた

だ是れ水なり」

 第1段階は修行もしていない状態で、山を見たら

山にしか見えないし、水を見たら水にしか見えないと

いう、ごく普通の状態です。それが修行を積んでい

くと、山を見てもそれは山に見えず、水を見てもそ

れは水に見えなくなってくると言います。この段階は、

個々の山や水を普遍的な立場からとらえることがで

きるという段階です。この普遍性が、本質と深く関

わっていて、普遍的な立場から個々の現象をとらえる

ことができる段階になります。そして、個々の現象は、

それだけを見ればみんな個々バラバラですが、いったん

その普遍性を身に付けたあとでは、現象の見方が異

なるというのが、悟りを開いた第3段階なのです。

 エントロピーは、普遍的な概念であり、個々の現象

を注意深く見て、そこから人間が掬す

い出した本質な

のです。いったんエントロピーのとらえ方を習得すれ

ば、一見無関係な現象を統一的な観点からとらえる

ことができ、どこが普遍的でどこが個別的なのか、

それがわかるようになります。それが「本質をとらえる」

ということではないでしょうか。

3つのステップで

悟りは開ける

本質をとらえて

悟りを開くために

2

これが悟りを開いた状態だね

雨山

太陽

若い小僧

僧侶

悟りを開いた老師

第1段階

第2段階

第3段階

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要点BOX

1415

●第1章 エントロピーって何だろう

「自然に」発熱し温かくなる

「自然に」冷めていく

変化には方向性がある

●自然現象の変化には方向性がある●変化の方向性こそエントロピーがとらえている

本質

 自然現象の本質は1つではありません。残念なが

ら人類はまだ、すべてをそれ1つでとらえられるよう

な本質を見つけ出していません。それではエントロピ

ーのとらえている本質とはいったい何でしょうか。次の

ような具体的な自然現象を考えてみましょう。

①コップにお湯を入れると、「自然に」冷めて周りの温

度と同じになる。

②水に水性インクを一滴たらすと、「自然に」インク

は広がっていく

③使い捨てカイロの袋を開けて空気に触れさせると、

「自然に」発熱して温かくなり、最後は周りの温度

と同じになる(使い捨てカイロの中の鉄粉が、空気

中の酸素と反応して錆びる時に熱を出します)。

 いずれも、身近に経験することだと思います。大

切な点がいくつかあります。まずは  線で示したよ

うに何かしら状況(条件といいます)を設定してあげる

と、「自然に」その後の変化が進んでいくということで

す。そして、みなさんは、その設定した条件を変え

ない以上、現象は一方向にのみ進み、決して逆方向

に起こらないことを知っているはずです。

 たとえば、冷めて周りの温度と同じになったコップ

の中の水が、「自然に」元のお湯のように熱くなるこ

とはありませんよね。いったん水に広がったインクが、「自

然に」一カ所に集まって濃いインクになることはありま

せんね。使い捨てカイロがいったん使って冷たくなって

しまったら、「自然に」また温まり、使えるようになる

ことはないですね。これらの現象からわかることは、

条件が設定されると、現象は「自然に」進んでいくと

いうこと、さらに、「自然に」元の状態に戻ることはな

いことです。

 一方向にしか変化が進んでいかないので、このことを

「変化には方向性がある」といいます。実は、この変

化の方向性こそ、エントロピーがとらえている、自然

現象の本質なのです。

自然現象は

「自然に」進んでいく

エントロピーが

とらえる本質とは

3

これがエントロピーと関係あるんだね

1滴の水性インク

お椀の中の水

「自然に」水性インクが広がって水にうすく色がつく

冷たくなったカイロ

条件を設定すると 変化が進んでいく自然に

逆向きは起こらない

温かくなったカイロ