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ナノ炭素材料 (カーボンナノチューブ、グラフェン) の排出・暴露評価の手引き 技術研究組合 単層 CNT 融合新材料研究開発機構(TASC) 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 安全科学研究部門 2017 年 2 月 初版 (2017 年 3 月一部加筆)

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ナノ炭素材料 (カーボンナノチューブ、グラフェン) の排出・暴露評価の手引き

技術研究組合 単層 CNT融合新材料研究開発機構(TASC)

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 安全科学研究部門

2017年 2月 初版 (2017年 3月一部加筆)

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ナノ炭素材料(カーボンナノチューブ、グラフェン)の排出・暴露評価

の手引き

技術研究組合 単層 CNT 融合新材料研究開発機構(TASC)

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 安全科学研究部門

<お問い合わせ> E-mail:

執筆担当

小倉 勇 (国研)産業技術総合研究所 安全科学研究部門 排出暴露解析グループ

技術研究組合単層 CNT 融合新材料研究開発機構(TASC) (兼)

本書は、(国研)産業技術総合研究所安全科学研究部門 WEB サイトよりダウンロード可能です。

https://www.aist-riss.jp/

本書は、(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から委託した「低炭素社会を実現

するナノ炭素材料実用化プロジェクト」(P10024)による研究成果です。

2017 年 2 月 28 日 初版

2017 年 3 月 9 日 一部加筆:

概要の図 4 及び 3 章の図 3.1 追加 3 章の節番の入れ替え

3.7 CNT 複合材料の切削試験・破砕試験 追加

3.8 CNT 含有ゴムの耐候性試験及び摩耗試験 追加

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本書について

カーボンナノチューブ(carbon nanotube: CNT)やグラフェン等のナノ炭素材料は、従来の材料と

は異なる新たな物理的・化学的性質を持つ革新的素材として注目されています。しかし、ナノ炭

素材料はサイズが極めて小さいことや形状が特殊であることから、これまでの化学物質にはない

特有の生体影響が引き起こされる可能性への懸念もあるのが現状です。技術革新のスピードが速

く、安全性に関する知見も構築途上の状況では、事業者は予防的な考えに基づき、自主的な安全

管理に取り組むことが重要です。特に、ナノ炭素材料の適切な安全管理のためには、そのライフ

サイクル(製造、加工、使用、廃棄)における排出及び作業者等への暴露量を把握する必要がありま

す。

そこで、(国研)産業技術総合研究所(以下、産総研)及び複数の企業の参加によって 2010 年に設

立された技術研究組合単層 CNT 融合新材料研究開発機構(Technology Research Association for

Single Wall Carbon Nanotubes: TASC)は、(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託

事業「低炭素社会を実現するナノ炭素材料実用化プロジェクト」(2010~2016 年度)において、CNT

などのナノ炭素材料を取り扱う事業者の自主安全管理を支援するために、簡便な排出・暴露評価

技術の開発を進めてきました。その成果の一つとして、CNT を主に粉体として取り扱う作業環境

における気中 CNT の計測方法やその事例をまとめて、2013 年に「カーボンナノチューブの作業

環境計測の手引き」(日本語版、英語版)を公表しました。

しかし、ナノ炭素材料は、粉体として取り扱うときだけでなく、その複合材料等の応用製品の

切断、摩耗、破砕などのプロセスにおいても排出する可能性があります。そこで、今回、上記の

手引きを改訂し、対象を CNT 粉体からその複合材料、さらにグラフェンに広げ、ナノ炭素材料が

複合材料として使われた場合に、切断、摩耗、破砕などのプロセスにより排出するナノ炭素材料

を計測する手法やその事例を含めた「ナノ炭素材料の排出・暴露評価の手引き」を作成しました。

現状において、ナノ炭素材料の排出・暴露評価手法は、まだ課題も多く、定まったものはあり

ませんが、各事業所の自主安全管理の参考として、ご活用いただければ幸いです。また、今後の

改訂のためにコメント等いただければ幸いです。

本書の他に、CNT の安全性試験のための試料調製と計測、および細胞を用いたインビトロ試験

の手順をとりまとめた「安全性試験手順書」、CNT やグラフェンなどのナノ炭素材料の簡易・迅

速な培養細胞試験とそれを補完する動物実験の評価手法と実施例をとりまとめた「ナノ炭素材料

の安全性試験総合手順書」を作成しています。また、TASC または産総研から提供しているスー

パーグロース単層 CNT、eDIPS-単層 CNT、剥離グラフェンに関して、安全性に関する既存情報、

産総研から提供された情報、および TASC 独自で実施した評価結果を「ケーススタディ報告書」

としてとりまとめています。本書と併せて各事業所の自主安全管理の参考としてご活用いただけ

れば幸いです。なお、本書および「安全性試験手順書」、「ナノ炭素材料の安全性試験総合手順

書」、「ケーススタディ報告書」は、産総研安全科学研究部門 WEB サイト(https://www.aist-riss.jp/)

より無償でダウンロード可能です。

2017 年 2 月

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目 次

本書について ................................................................................................................................................................................... 3

目 次 .................................................................................................................................................................................................. 4

概要 ..................................................................................................................................................................................................... 5

1. ナノ炭素材料の排出・暴露評価の現状と課題 ......................................................................................................... 10

1.1 排出・暴露計測等の国際動向 ................................................................................................................................. 10

1.2 許容暴露濃度 ................................................................................................................................................................ 12

1.3 現状と課題 ...................................................................................................................................................................... 13

2. 気中ナノ炭素材料の計測方法 ........................................................................................................................................ 16

2.1 エアロゾル計測器 ......................................................................................................................................................... 16

2.2 捕集後に定量分析 ....................................................................................................................................................... 18

2.3 捕集後に電子顕微鏡観察 ........................................................................................................................................ 23

2.4 目的別にみた各計測法の適用例 .......................................................................................................................... 31

2.5 ナノ炭素材料と母材の混合物からなる粒子の計測 ....................................................................................... 35

3. 計測事例 .................................................................................................................................................................................. 38

3.1 CNTの炭素分析による定量 .................................................................................................................................... 39

3.2 ブラックカーボンモニタと光散乱式粉じん計の CNTに対する応答の評価 ........................................... 41

3.3 バックグラウンド粒子存在下でのエアロゾル計測器による計測(CNT粉末の移し替え摸擬) ....... 43

3.4 模擬排出試験による粒径分布や形態の確認................................................................................................... 45

3.5 単層 CNTの製造現場での計測事例 ................................................................................................................... 49

3.6 CNT複合材料の摩耗粉じんの炭素分析による定量..................................................................................... 52

3.7 CNT複合材料の切削試験・破砕試験 ................................................................................................................. 56

3.8 CNT含有ゴムの耐候性試験及び摩耗試験 ...................................................................................................... 61

3.9 CNT複合材料の混練・ペレット化を行う施設における計測事例 .............................................................. 67

3.10 ナノ炭素材料塗布シートの切断工程におけるナノ炭素材料の計測事例 ........................................... 75

3.11 グラフェンの炭素分析による定量 ........................................................................................................................ 82

3.12 グラフェン粉末の移し替え模擬 ............................................................................................................................. 84

3.13 グラフェン集積膜の切断模擬 ................................................................................................................................ 88

参考文献 ........................................................................................................................................................................................ 92

略語表 ............................................................................................................................................................................................. 99

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概要

1 章では、ナノ炭素材料の排出・暴露評価の現状と課題についてまとめた。

現状において、気中に飛散したカーボンナノチューブ(CNT)やグラフェンを含むナノ材料の計測

は、エアロゾル粒子の計測分野で発展してきた方法に基づき、リアルタイムエアロゾル計測器に

よる計測や、フィルタ等で捕集した粒子の化学分析、電子顕微鏡観察が主に行われている。

CNT については、法的な拘束力のある規制値ではないが、いくつかの機関・団体から許容暴露

濃度(注:用語や位置づけは各国機関によって若干異なる)が提案されている(約 1~50 µg/m3;表

1.2.1 参照)。これらの許容暴露濃度は、質量濃度の値として決められており、一般に吸入性粉じん

(肺の奥まで入らないような粗大粒子を除いた値:ISO 7708 の定義で 4 µm 粒子 50%カット)相当の

値として提案されている。グラフェンの許容暴露濃度に関する報告、勧告等はまだない。

課題としては、排出量や暴露量を測定・管理するために適切な尺度や計測法の選定、対象ナノ

炭素材料とバックグラウンド粒子との識別、複合材料としてのナノ炭素材料の排出の計測などが

ある。

2 章では、気中ナノ炭素材料の計測方法についてまとめるとともに、目的別にみた各計測法の

適用例や、ナノ炭素材料粉体び複合材料の摩耗粉の現実的な排出・暴露管理の例を示した。

気中ナノ炭素材料の計測方法は、1. エアロゾル計測器(粉じん計、ブラックカーボンモニタな

ど;表 2.1.1 参照)、2. 捕集後に定量分析(炭素分析など;表 2.2.1 参照)、3. 捕集後に電子顕微鏡観

察(捕集方法は表 2.3.1 参照)の 3 つに大きく分けられる。各計測法の長所・短所及び有用性を表 1

に、排出・暴露評価の目的別にみた各計測法の適用例を図 1 に示す。一般に、許容暴露濃度との

比較に焦点が置かれることを想定すると、図 1 の中の(3)、そして(5)が重要になると考えられる。

ナノ炭素材料粉体の現実的な排出・暴露管理方法の例として、図 1 の中の(3)と(5)の併用の例を図

2 に示す。現場の排出・暴露管理として、年に数回①「炭素分析」を実施し、日常的なチェック

は②「小型・簡易なエアロゾル計測器」で行うというように、正確な方法と簡易な方法の状況に

応じた使い分けが、現実的なひとつの方法と考えられる。

表 1 各計測法の長所・短所及び有用性 長所 短所 有用性

(携帯型)エアロゾル計測器 簡易、安価、時間応答、

リアルタイム

ナノ炭素材料以外の粒子

との識別

空間・時間分布の把握、

日常暴露管理

捕集後に定量分析 ナノ炭素材料の定量 数時間のフィルタ捕集、

高価分析装置

許容暴露濃度との比較

捕集後に電子顕微鏡観察 ナノ炭素材料の特定、形

態把握

粒子捕集、観察費用

(手間、時間)

ナノ炭素材料の存在確

認、形態把握

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図 1 排出・暴露管理の目的別にみた各計測法の適用例

図 2 ナノ炭素材料粉体の現実的な排出・暴露管理方法の例

ナノ炭素材料が複合材料として使われたときなど、ナノ炭素材料と母材の混合物からなる粒子

が発生する場合には、ナノ炭素材料が母材から脱離した状態か、母材に包まれた状態かによらず、

ナノ炭素材料の総量を炭素分析などにより計測し、その暴露量がナノ炭素粉体の許容暴露濃度を

超えないように管理することが現実的なひとつの方法と考えられる。図 3 に CNT を対象とした場

合の例を示す。飛散粒子と元の複合材料で CNT の割合が変わらないとみなせる場合(例えば、電

子顕微鏡で飛散粒子の形態を確認して、CNT の脱離がほとんど見られない場合)には、母材を含め

た粉じん濃度の計測・管理が、日常の排出・暴露管理としても有効と考えられる。

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図 3 CNT と母材の混合物からなる粒子の現実的な排出・暴露管理方法の例

3 章では、TASC で実施した計測・評価事例を示した。事例の種類と対象物質から見た各事例の

位置づけを図 4 に示す。

図 4 TASCで実施した計測・評価事例 番号は節番を表す。

3.1 節では、炭素分析による CNT の定量例を示した。CNT は主に元素状炭素として検出され、

炭素分析により CNT の定量は可能であると考えられた。ただし、一部の CNT はヘリウム雰囲気

下で高温にしたときにある割合が気化してしまうことがあり、注意が必要と考えられた。

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3.2 節では、ブラックカーボンモニタと光散乱式粉じん計の CNT に対する応答の評価結果(炭素

分析との比較)を示した。ブラックカーボンモニタ及び光散乱式粉じん計の濃度表示値は、実際の

CNT 濃度より低く、過小評価となる可能性があり、あらかじめ対象とする CNT の想定される凝

集状態における応答係数(換算値)を得ることが正確な CNT 濃度の推定に必要と考えられた。また、

ブラックカーボンモニタは、比較的クリーンな環境や、CNT 濃度が相対的に高い場合には、メー

カー推奨のフィルタ交換頻度の 1/10 程度の負荷量においても応答は数十%低下する可能性があり、

フィルタの交換頻度を早める又は応答の低下をあらかじめ考慮するなどの対応が必要と考えられ

た。

3.3 節では、バックグラウンド粒子存在下でのエアロゾル計測器による CNT 計測例を示した。

一般に、小さな粒子ほどバックグラウンド濃度が高く、また、排出 CNT の多くは凝集しているこ

とから、光散乱式粒子計数器(OPC)によるミクロンサイズの粒子個数濃度や、ブラックカーボンモ

ニタによるブラックカーボン質量濃度が、排出凝集 CNT の検出に有効と考えられた。

3.4 節では、簡易な模擬排出試験(試験管かくはん)により、CTN 飛散時の粒径分布や形態の計測

事例を示した。CNT の多くはサブミクロンからミクロンサイズに凝集した状態であり、チューブ

径の細い単層 CNT はネット状や綿状、チューブ径の細い多層 CNT は羊毛状、チューブ径の太い

多層 CNT は棒状の形態であった。

3.5 節では、単層 CNT の製造現場での計測事例を示した。炭素分析により、剥離工程及び袋詰

めの際に囲いの中で捕集した総粉じんにおいてのみ、わずかに元素状炭素が検出され、燃焼温度

別の検出割合から、検出された元素状炭素は飛散した CNT に対応すると考えられた。電子顕微鏡

観察において、剥離工程及び袋詰めの際に囲いの中で捕集したサンプルでは、CNT の凝集粒子と

見られるミクロンサイズの粒子が観察された。

3.6 節では、CNT と母材(樹脂など)が混ざった状態の粒子について、炭素分析による CNT と母

材の分離定量の有用性や限界を評価した。炭素分析により、多くの樹脂は定量することが可能で

あった。ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアミド 12、ポリブチレンテレフタレート、ポリア

セタールと CNT との複合材料(CNT 含有率 1~10%)の摩耗粉は、炭素分析により CNT をほぼ分離

定量することができた。一方、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン

テレフタレート、ポリアミド 6 は、CNT との完全な分離定量は難しかった。樹脂に含有した CNT

は、元の CNT 粉体よりやや低い温度で燃焼する傾向が見られた。

3.7 節では、様々な CNT 複合材料の切削試験及び破砕試験の事例を示した。切削時及び破砕時

には、摩擦熱により発生した母材の揮発成分の凝縮粒子と考えらえるナノサイズ粒子の発生が見

られた。飛散粒子の電子顕微鏡観察において、母材と CNT の混合粒子(粒子の表面に CNT が飛び

出た粒子)が多くの場合観察された。母材から脱離した CNT は、樹脂中における CNT の分散状態

が悪い複合材料において観察された。

3.8 節では、多層 CNT 含有スチレン・ブタジエンゴムの耐候性試験(紫外線照射)及び摩耗試験の

事例を示した。耐候性試験では、紫外線による劣化によりゴムに亀裂が生じ、その亀裂から CNT

が確認された。摩耗後の試験片表面に CNT の先端らしきものが確認されたが、CNT の明確な露

出は認められなかった。堆積摩耗粉及び飛散摩耗粉からは、脱離した CNT 又は CNT が露出した

粒子は観察されなかった。

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3.9 節では、CNT 複合材料の混練・ペレット化を行う施設での計測事例を示した。CNT 凝集体

または CNT を含む粒子の飛散が電子顕微鏡観察により確認された。ただし、炭素分析の結果より、

作業者がいるエリアの濃度は、許容暴露濃度より低い濃度であった。CNT の小分けで使われたド

ラフトチャンバー、混練機への CNT 投入で使われた囲いと局所排気装置は、CNT の暴露を効果

的に抑制していることが確認された。

3.10 節では、ナノ炭素材料を塗布したシートの切断を行っている施設での計測事例を示した。

切断部近傍(約 10 cm)及び離れた場所(対照地点)の粒子を計測したが、ナノ炭素材料の排出は認め

られなかった。

3.11 節では、炭素分析によるグラフェンの定量例を示した。グラフェンは主に元素状炭素とし

て検出され、すべてを燃焼させるのには高温で時間をかける必要があったが、炭素分析によりグ

ラフェンの定量は可能であると考えられた。

3.12 節では、グラフェン粉末の移し替え模擬時の計測事例を示した。グラフェン粉末の移し替

えにより、数百 nm~数 μm の大きさのグラフェン凝集粒子の飛散が起きることが確認された。エ

アロゾル計測器及び炭素分析により、グラフェン粉末の飛散を検出できることが確認された。デ

ジタル粉じん計やブラックカーボンモニタの計測値は、対象とするグラフェンにより感度補正が

なされていない場合には、過小評価となる可能性があることが示された。

3.13 節では、グラフェン集積膜の切断時の計測事例を示した。集積膜の切断時に捕集した粒子

の電子顕微鏡観察において、層状の粒子(グラフェンかどうかは不明)が一部確認されたが、エアロ

ゾル計測器や炭素分析では検出できないレベルであり、集積膜の切断時のグラフェンの飛散は非

常に起きにくいと考えられた。

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1. ナノ炭素材料の排出・暴露評価の現状と課題

本章では、ナノ炭素材料の排出・暴露評価の現状と課題について整理する。1.1 節では排出・暴

露計測等の国際動向、1.2 節では許容暴露濃度、1.3 節では現状と課題についてまとめる。

1.1 排出・暴露計測等の国際動向

現状において、気中に飛散したカーボンナノチューブ(carbon nanotube: CNT)やグラフェンを含

むナノ材料の計測は、エアロゾル粒子の計測分野で発展してきた方法に基づき、リアルタイムエ

アロゾル計測器による計測や、フィルタ等で捕集した粒子の化学分析、電子顕微鏡観察が主に行

われている。

・ナノ材料全般に関して

作業環境におけるナノ材料のキャラクタリゼーションに関連する国際標準化機構(International

Organization for Standardization: ISO)文書として、2008 年に ISO TR12885「ナノテクノロジーに関

する労働環境において健康と安全を守るために実施すべきことのまとめ(技術報告書)」が出されて

いる。この文書では、質量・個数・表面積濃度や粒径分布の計測、サンプル捕集の仕方、高アス

ペクト比の粒子の計測等、利用可能なキャラクタリゼーション手法が網羅的にまとめられている。

また、米国 NIOSH (National Institute for Occupational Safety and Health)が 2009 年に出した文書

(NIOSH 2009)においても、利用可能なキャラクタリゼーション手法について詳細にまとめられて

いる。

ナノ材料の作業環境計測に関する具体的な手順としては、各国・機関から似たような階層的ア

プローチが提案されている。2009 年に出された米国 NIOSH の NEAT (Nanoparticle Emission

Assessment Technique) (NIOSH 2009; Methner et al. 2010a)や経済協力開発機構(Organisation for

Economic Co-operation and Development: OECD)の作業部会のガイダンス文書(OECD 2009)では、ま

ず、携帯型のリアルタイム計測器である凝縮式粒子計数器(condensation particle counter: CPC)と光

散乱粒子計数器(optical particle counter: OPC)で計測を実施し、濃度の上昇がみられた場合、より詳

細な計測として、フィルタ捕集粒子の電子顕微鏡観察や化学分析、個人暴露量の計測、壁や床等

の表面の汚染状況調査等を行うという流れを提案している。実際に NIOSH のグループは、本方法

によって、ナノ材料を取り扱う 12 施設(多層 CNT 2 施設、カーボンナノファイバ(CNF) 2 施設含む)

での計測事例を報告している(Methner et al. 2010b)。CPC は粒径別の値は得られないが、およそ 10

~1000 nm の粒子の総個数濃度が計測でき、OPC はおよそ 300 nm~10 µm の粒子の個数濃度を粒

径別に計測することができるので、これら 2 台の装置で、ナノサイズからミクロンサイズまでの

広い範囲の粒子を計測することができ、また、これらの装置は、小型で携帯型のものがあり、比

較的安価である。

ドイツの諸機関によるナノサイズ粒子を対象とした作業環境評価方法に関する文書(IUTA 等

2011)では、まず、階層 1 で「ナノサイズ粒子が出る可能性があるのか情報収集」、次に階層 2 で

「CPC などで許容暴露濃度やベンチマーク値、バックグラウンドを超えるかを評価」、そして階層

3 で「走査型移動度粒径測定器(scanning mobility particle sizer: SMPS)、リアルタイム粒子解析装置

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(fast mobility particle sizer: FMPS)、CPC による計測及びフィルタなどによる捕集粒子の詳細分析(電

子顕微鏡観察、化学分析)」を行うという流れを提案している。

オーストラリアの The International Laboratory for Air Quality and Health, Queensland University

of Technologyが作成、Safe Work Australia 発行の文書(The International Laboratory for Air Quality and

Health 2012)では、ナノ材料の作業環境評価において、簡易な計測器として、CPC と OPC に加え

て、光散乱式の粉じん計を利用している。また、SMPS やナノ粒子表面積計による計測及びフィ

ルタ捕集粒子の詳細分析(電子顕微鏡観察、化学分析)の適用事例を示している。

経済産業諮問委員会(Business and Industry Advisory Committee: BIAC)の提案により OECD作業部

会で取りまとめられた調和された階層的アプローチ(OECD 2015)もほぼ上記を踏襲した内容とな

っている。

階層的アプローチとは異なるアプローチとして、2016 年に、米国 NIOSH は、60 を超える施設

で調査をしてきた経験から、上記 NEAT(これを NEAT1.0 とする)を改良した NEAT2.0 を提案して

いる(Eastlake et al. 2016)。NEAT1.0 はナノ材料の排出(排出が起こりうる作業の特定)に焦点を当て

ていたが、NEAT2.0 では作業者の暴露に焦点を当て、作業者の吸入域におけるフィルタサンプリ

ングによる一日を通した暴露量の評価を重視している。作業環境の基礎情報を収集すること、一

日を通したサンプリングと作業ごとのサンプリングを並行して行うこと、バックグラウンドのサ

ンプリングを並行して行うこと、作業者の吸入域、発生源、作業環境において、主として開放型

のフィルタホルダで総粉じんを捕集して、元素分析、電子顕微鏡観察により対象とするナノ材料

への暴露を定性・定量的に評価すること、許容濃度との比較や凝集粒子の寄与の把握などのため

に、必要に応じてサイズを分けて粒子(吸入性粉じん等)を捕集すること、補完的に CPC、OPC、

光散乱式粉じん計などの小型エアロゾル計測器のセットを利用し、継続的な記録とバックグラウ

ンドとの同時計測による比較により、排出ピークなどの情報を得ること、対象ナノ材料の対象領

域外への流出の指標として、必要に応じて拭き取りサンプルの分析を行うことなどが提案されて

いる。

・CNTに関して

Safe Work Australia (2010)は、10 nm 径の多層 CNT を対象に、電子式低圧インパクタ(electrical low

pressure impactor: ELPI)及び SMPS による CNT 応答を確認し、また、ELPI の各段あるいは金コー

トしたポリカーボネートフィルタ(孔径 100 nm; アスベスト ISO14966 の改良)によって CNT を捕

集し、電界放射型の走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope: SEM)による観察が可能なこと

を示している。

米国 NIOSH は、許容暴露濃度との比較のための計測法として、ディーゼル粒子測定などのため

に開発されたエアロゾル炭素分析法(NIOSH5040 法)の利用を提案している(NIOSH 2013)。実際に

NIOSH のグループは、本方法によって CNT 及び CNF 取り扱い施設での計測事例を報告し、その

有効性を示している(Birch et al. 2011; Dahm et al. 2012)。日本の(独)労働者健康安全機構労働安全衛

生総合研究所のグループも、本方法を用いて、CNT 取扱い施設の計測を行っている(鷹屋ら 2010;

Takaya et al. 2012)。

CNT 中に不純物として含まれる金属触媒を指標として、CNT の検出・定量を行った事例も多く

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報告されている(Maynard et al. 2004; Birch et al. 2011; R’mili et al. 2011; Rasmussen et al. 2013; Reed

et al. 2013)。OECD の作業部会では、実用的で費用対効果が高いモニタリング方法として、この方

法を取りまとめた文書を 2016 年 11 月に発行している(OECD 2016)。

その他、多くの CNT 作業環境計測事例では、エアロゾル計測器による計測や、捕集粒子の電子

顕微鏡観察、エネルギー分散型 X 線分析(energy dispersive x-ray spectroscopy: EDX)が行われている

(Han et al. 2008; Bello et al. 2008; Tsai et al. 2009b; Johnson et al. 2010; Dahm et al. 2013)。フィルタ捕

集粒子の電子顕微鏡観察において、CNT の繊維数又は CNT 凝集体の数を数えて、気中の個数濃

度を推定した事例もある(Han et al. 2008; Lee et al. 2010; Ogura et al. 2011)。

厚生労働省が 2016 年 3 月に「がん原性指針」の対象物質に追加した特定の多層 CNT(がんその

他の重度の健康障害を労働者に生ずるおそれのあるものとして厚生労働省労働基準局長が定める

もの)の作業環境測定の方法としては、炭素分析法と高速液体クロマトグラフ法が挙げられている

(厚生労働省 2016)。高速液体クロマトグラフ法とは、CNT へマーカーを吸着させ、吸着したマー

カーを高速液体クロマトグラフィーで計測する方法である。

・グラフェンに関して

グラフェンに関する排出・暴露評価事例はまだ少ない。米国 NIOSH はグラフェンの製造施設に

おいて、エアロゾル計測器による評価を行っている(Lo et al. 2011; Heitbrink et al. 2015)。Lee et al.

(2016)は、グラフェンの製造施設において、エアロゾル計測器、エアロゾル炭素分析法(NIOSH5040

法)、捕集粒子の電子顕微鏡観察により、グラフェンの排出・暴露を評価している。

・CNT複合材料に関して

CNT 複合材料の機械加工や摩耗、劣化(主に紫外線)時の CNT 含有粒子の排出については、近年

多くの研究報告がなされている。気中への排出粒子の計測では、エアロゾル計測器がしばしば使

われるが、エアロゾル計測器では CNT とそれ以外の粒子を識別することができず、また、粒子の

発生は CNT の含有の有無によらない場合が多い。排出粒子の特定、CNT の脱離の有無、CNT の

露出などの評価は、多くの場合、電子顕微鏡観察に頼っており、定量的な評価はほとんどなされ

ていない。特殊な方法としては、あらかじめ CNT を鉛イオンでラベル化することにより、摩耗粉

の表面に露出した CNT と脱離した CNT を定量した例がある(Schlagenhauf et al. 2015a)。

米国非営利機関 ILSI (International Life Sciences Institute)が主催する“NanoRelease Consumer

Products” プロジェクトでは、多層 CNT 樹脂を対象とした排出評価を行っており、その成果が報

告されている(Canady et al. 2013; Nowack et al. 2013; Froggett et al. 2014; Kingston et al. 2014; Kaiser

et al. 2014; Harper et al. 2015)。プロジェクトの成果を基に ISO/TC229/WG3 で標準化の新規提案が

検討されている。

1.2 許容暴露濃度

CNT については、法的な拘束力のある規制値ではないが、いくつかの機関・団体から許容暴露

濃度(注:用語や位置づけは各国機関によって若干異なる)が提案されている(表 1.2.1)。これらの許

容暴露濃度は、質量濃度の値として決められており、一般に吸入性粉じん(肺の奥まで入らないよ

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うな粗大粒子を除いた値:ISO 7708 の定義で 4 µm 粒子 50%カット)相当の値として提案されてい

る。CNT は、多くの場合凝集しているが、これらの許容暴露濃度の導出の元になった動物試験の

多くは、凝集粒子で試験されたものである。ただし、NEDO プロジェクト(P06041)「ナノ粒子特性

評価手法の開発」(中西 2011)では、ある程度 CNT を分散させた状態で動物試験を行っている。凝

集状態による影響の違いはあまり明確でない。

英国 British Standard (2007)や独国 IFA (2009)は、許容暴露濃度が決められていない繊維状粒子に

ついてはアスベストの本数ベースの許容暴露濃度の 1/10 (0.01 fibers/cm3)をとりあえずのベンチマ

ークとすることを提案している。ただし、CNT は一般に凝集した状態で存在しており、多くの場

合、アスベストのように繊維の本数が数えられるような形態をしていない。

グラフェンの許容暴露濃度に関する報告、勧告等はまだない。

日本産業衛生学会(2016)による黒鉛(グラファイト)の許容濃度の勧告値は、吸入性粉じんが 0.5

mg/m3、総粉じん(ここでは捕集器の入口における流速を 50~80 cm/s として捕集した粉じん)が 2

mg/m3である。

表 1.2.1 CNTの作業環境における許容暴露濃度等

機関・団体・会社 材料 許容暴露濃度等(µg/m3) 備考

産総研等

NEDO プロジェクト

(P06041)「ナノ粒子特性評

価手法の開発」(中西 2011)

CNT 30 (吸入性粉じん) 1 日 8 時間、週 5 日、15 年程度の亜慢性

の暴露を想定した値であり、10 年程度

のうちに見直すことを前提としている。

米国 NIOSH

(NIOSH 2013)

CNT・CNF 1 (吸入性粉じん) Recommended Exposure Limit (REL),

TWA

欧州“ENRHES”プロジェク

ト(EC 2010)

CNT 0.7-30 Derived No effect level (DNEL)

Bayer 社(Pauluhn 2010) 自社多層 CNT 50 Occupational Exposure Limit (OEL), TWA

Nanocyl 社(Luizi 2009) 自社多層 CNT 2.5

Aschberger et al. (2011) CNT 1-2 Indicative No-Effect Level (INEL)

TWA: time weighted average 時間加重平均

1.3 現状と課題

・排出量や暴露量を測定・管理するために適切な尺度や計測法

CNT はチューブ外径・内径・層数、形態、凝集状態、不純物(CNT 以外の炭素、触媒金属)等が

さまざまであり、単一の尺度ではその多様な性質を表すことができない。グラフェンも、同様に

厚み(層数)、シートサイズ、形態、凝集状態、不純物等がさまざまである。現状では、それらの各

要素と有害性との関係が明らかでなく、健康影響を評価するためにどのような尺度が適切なのか

定まっていない。一般にナノ材料は、質量で比較すると、より少量で有害影響がみられ、難溶解

性の粒子では、その表面積やかさ体積の大きさが有害性と関連しているとする説がある(Maynard

& Kuempel 2005; Pauluhn 2011)。

現状では、CNT 及びその他ナノ材料の有害性試験が質量濃度を基準に実施・評価されているこ

とから、それらの許容暴露濃度は質量濃度として決められている(表 1.2.1 参照)。CNT は、表面積

やかさ体積が大きいこともあり、その許容濃度は、一般的な粉じんの許容濃度(日本産業衛生学会

(2016)の吸入性粉じんの許容濃度は、結晶質シリカが 30 µg/m3、第 1~3 種粉じんが 500~2000

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µg/m3)に比べて、一番厳しい結晶質シリカと同等か、より厳しい値となっている。したがって、

CNT の許容暴露濃度との比較を目的とした計測では、低濃度の質量濃度の計測が必要になり、よ

り感度の高い計測技術や、バックグラウンド粒子との識別、長時間のサンプリング等が必要にな

る。

CNT は、多くの場合凝集しているが、現在提案されている許容暴露濃度は、凝集粒子を含んだ

(事実上、凝集粒子を主とした)総量としての値である。凝集状態による有害性の違いはまだ明確で

ないが、呼吸器系への沈着部位や沈着率は、凝集状態によって変わってくる(数十 nm の粒子は、

サブミクロンからミクロンサイズの粒子に比べて、肺胞への沈着率が数倍高くなる)。今後、凝集

状態による有害性の違いなどが明らかになってきた場合や、より分散しやすい CNT が開発されて

凝集していない状態での飛散が主となるような場合には、凝集状態(粒子サイズ)の違いを考慮した

計測・評価が必要になってくる可能性がある。また、質量濃度以外の尺度が用いられる可能性が

ある。

許容暴露濃度との比較以外に、発生源の把握、暴露管理対策の効果の評価等を目的とした計測

では、必ずしも許容暴露濃度に揃えて質量濃度を計測する必要はなく、現状で利用可能な計測技

術を考えた場合、特にサイズ別の情報を得る場合には、個数濃度の計測が一般に有効と考えられ

る。CNT が単独の一本の繊維として、グラフェンが一枚のシートとして、気中に飛散する可能性

は一般に低いと考えられるが、様々な凝集状態をとることから、ナノサイズからミクロンサイズ

までの広い粒径範囲の計測が望まれる。

今後、ナノ炭素材料の応用が進み、中小企業を含む様々な事業所でナノ炭素材料が取り扱われ

るようになるとすると、日常的な暴露管理には、より安価・簡易な計測方法が望まれる。

・対象ナノ炭素材料とバックグラウンド粒子との識別

工場などの作業現場では、さまざまなバックグラウンドのエアロゾル粒子が存在し、また作業

に付随して対象とするナノ炭素材料以外の粒子の発生が同時に起こる場合がある。特に多くのエ

アロゾル計測器は、対象とするナノ炭素材料とその他の付随粒子やバックグラウンド粒子を識別

できず、同じように計測してしまうので、作業ありと作業なしの比較や、発生源近傍と対照地点

との比較などが重要となる。一般に、ナノ炭素材料は凝集しやすいため、サブミクロンからミク

ロンサイズの粒子では濃度増加がみられるが、ナノサイズの粒子はバックグラウンド濃度が相対

的に高いこともあり、濃度増加がみられないことが多い。ナノサイズの粒子の排出の有無や排出

粒子の粒径分布を知るためには、バックグラウンド粒子のない模擬排出試験であらかじめ粒径分

布を確認しておくという方法がある。また、サブミクロンからミクロンサイズに凝集した粒子の

排出が主であるならば、それを指標とした計測を行うことが有効と考えられる。

バックグラウンド粒子との分離・識別技術として、ナノ炭素材料の場合には、炭素分析(NIOSH

2013)の利用によって、炭素以外の粒子と分離・計測ができる。ただし、燃焼由来の炭素粒子の影

響を受ける可能性はある。エアロゾル計測器としては、炭素などの光吸収性物質に特異的な応答

をもつブラックカーボンモニタ(black carbon monitor: BCM)がある。また、ナノ炭素材料内に不純

物として含まれる触媒金属を指標として計測するという方法(OECD 2016)や CNT へマーカーを吸

着させて、高速液体クロマトグラフィーにより計測する方法も提案されている(厚生労働省 2015)。

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ナノ炭素材料の存在や形態を正確に確認するためには、最終的には電子顕微鏡観察に頼らざるを

得ない。

・複合材料としてのナノ炭素材料の排出

ナノ炭素材料が複合材料として、樹脂などに混ざった状態で使われる場合、その加工や摩耗、

破砕に伴い、ナノ炭素材料が樹脂や分散剤、バインダーと結合した状態で飛散する可能性がある。

そのような状態のナノ炭素材料の有害影響はまだ明確でないが、CNT 複合材料の摩耗粉の有害性

は CNT そのものよりも低い、または CNT を含まない母材と変わらないという結果が報告されて

いる(Wohlleben et al. 2011, 2013; Ging et al. 2014; Schlagenhauf et al. 2015a, b)。その一方で、CNT 複

合材料の摩耗粉の気管内投与で、CNT 粉体と同様に肝臓への影響が認められたという報告もある

(Saber et al. 2016)。樹脂や分散剤、バインダーと結合した状態のナノ炭素材料と、そこから脱離し

たナノ炭素材料、更に樹脂自体の破片(加工・摩耗粉等)が混在するときに、それらの識別計測は難

しい。

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2. 気中ナノ炭素材料の計測方法

気中ナノ炭素材料の計測方法は、エアロゾル計測器、捕集後に定量分析、捕集後に電子顕微鏡

観察等の方法がある。2.1~2.3 節に各計測法についての詳細を記す。また、2.4 節では目的別にみ

た各計測法の適用例について、2.5 節ではナノ炭素材料が複合材料として使われた時など、ナノ炭

素材料と母材の混合物からなる粒子を計測する場合について記す。

2.1 エアロゾル計測器

携帯型で比較的安価な市販のエアロゾル計測器として、表 2.1.1 のような計測器がある。各計測

器のおよその対象粒径範囲を図 2.1.1 に示す。

OECD の作業部会のガイダンス文書(OECD 2009)では、ナノ材料の作業環境評価の予備的な調査

に凝縮式粒子計数器(CPC)と光散乱式粒子計数器(OPC)を用いることが提案されている。CPC (約

0.01~>1 µmの粒子総個数濃度を計測)とOPC (およそ 0.3~10 µmの粒子個数濃度を粒径別に計測)

の併用によって、ナノサイズからミクロンサイズまでの広い範囲の粒子を個数濃度で計測するこ

とができる。また、The International Laboratory for Air Quality and Health (2012)や米国 NIOSH

(Eastlake et al. 2016)は、ナノ材料を計測するための簡易な計測器として、CPC と OPC に加えて、

光散乱式粉じん計を利用している。光散乱式粉じん計は、多くの粉じん作業環境計測で一般に用

いられているものであり、エアロゾル粒子のおよその質量濃度が計測できる。さらに、これらに

加えて、ナノ炭素材料を対象とした場合には、ブラックカーボンの質量濃度が計測できるブラッ

クカーボンモニタ(black carbon monitor: BCM)も有用な計測器と考えられる。近年、小型のブラッ

クカーボンモニタが開発・販売されている。

ただし、これらのエアロゾル計測器(特に BCM 以外)は、測定対象粒子とその他の粒子との識別

ができないという問題があり、バックグラウンド粒子や作業に伴い発生する他の粒子(たとえば、

燃焼に伴う生成粒子、モータからの発生粒子、磨耗や摩擦による生成粒子等)を同様に検出してし

まう。BCM は、光吸収性粒子に対してのみ感度をもつので、その他 3 種に比べ、バックグラウン

ド粒子の影響は小さいが、燃焼プロセスで発生する煤などの光吸収性粒子を同様に検出してしま

う。いずれにおいても、作業現場で実際に計測する際は、作業前後(もしくは作業なし)と作業中の

比較又は作業現場(発生源近傍)と対照地点(発生源から離れた場所や屋外など)の比較(可能であれ

ば複数の同一計測器による同時計測)によって、バックグラウンド濃度の寄与を考慮して、ナノ炭

素材料の飛散に伴う濃度増加を評価することが重要となる。なお、複数の同一計測器を用いる際、

同一計測器でも応答に機差がある場合があるので、あらかじめ同じ場所で機差をみておき、必要

に応じて結果の補正を行うことが重要である。

対象ナノ炭素材料の飛散時のサイズ分布や、計測器の対象ナノ炭素材料に対する応答(感度)につ

いて、あらかじめ模擬排出試験などによって確かめておくと、計測器の選定や計測値の解釈がし

やすくなる。一般にナノ炭素材料は凝集しており、粉末状で取り扱うハンドリング(たとえば、開

封、秤量、移し替え、注ぎ込み等)においては、サブミクロンからミクロンサイズの凝集粒子とし

ての排出が主であることが多い(小倉&蒲生 2011)。その検出には、サブミクロンからミクロンサ

イズの粒子に対して応答を示す OPC や粉じん計、BCM の使用が適していると考えられる。

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表 2.1.1 携帯型で比較的安価な市販の計測装置

名称 計測項目 原理など 有用性や限界

光散乱式粒子

計数器

(optical particle

counter: OPC)

サブミクロ

ンからミク

ロンサイズ

粒子(約 0.3~

10 µm*)の個

数濃度

試料空気をポンプで吸引し、空気中の粒子をレ

ーザーによる光散乱で計測する。散乱光の強度

から粒子のおよその大きさを、散乱光のカウン

トから粒子の個数を計測する。

凝集ナノ炭素材料の排出が

主の場合に適している。個数

とおよその粒子の大きさが

分かる。バックグラウンド粒

子との識別が問題であるが、

粒径別にみることができる

ので、ナノ炭素材料の飛散を

検出しやすい。50~200 万円*

凝縮式粒子計

数器

(condensation

particle

counter: CPC)

ナノからサ

ブミクロン

サイズ粒子

(約 0.01~>1

µm*)の個数

濃度

計測の基本原理は上記 OPC と同じだが、試料空

気をアルコールなどの過飽和雰囲気下に導入

し、粒子にアルコールなどの蒸気を凝縮させて

小さな粒子を大きく成長させることで、OPC で

は計測できない小さな粒子まで計測することが

できる。ただし、粒子の大きさの情報は得られ

ない。

分散したナノ炭素材料の取

扱い時など、ナノサイズの小

さな粒子の排出が予想され

る場合に適している。ただ

し、バックグラウンド粒子と

の識別が問題。100~150 万円*

粉じん計 サブミクロ

ンからミク

ロンサイズ

粒子(>約 0.1

µm*)の質量

濃度(近似値)

計測器の原理は、「光散乱方式」、「振動子方

式」等、数種類ある。比較的小型で安価な「光

散乱方式」の粉じん計は、試料空気をポンプで

吸引し、レーザー照射領域を通過させ、粒子群

の散乱光量を検出する。エアロゾル粒子の質量

濃度と散乱光量がほぼ直線的に比例することを

利用し、エアロゾル粒子のおよその質量濃度や

相対的な濃度変化を計測できる。対象ナノ炭素

材料のより正確な質量濃度を得るためには、そ

のナノ炭素材料に対する感度をあらかじめ把握

しておく必要がある(3.2 節、3.12 節参照)。

感度の補正をすれば、許容濃

度(質量濃度)との比較がある

程度可能。ただし、バックグ

ラウンド粒子との識別が問

題。30~100 万円*

ブラックカー

ボンモニタ

(black carbon

monitor: BCM)

(アセロメータ

ーなど)

ブラックカ

ーボン質量

濃度(近似値)

ブラックカーボンなどの光吸収性粒子の質量濃

度を計測する装置。ブラックカーボンが光を吸

収する性質を利用し、フィルタ上に連続的に粒

子を捕集しながら、そこに照射した光の減衰量

を検出する事によって、ブラックカーボンエア

ロゾル粒子の質量濃度を計測する。対象ナノ炭

素材料のより正確な質量濃度を得るためには、

そのナノ炭素材料に対する感度をあらかじめ把

握しておく必要がある(3.2 節、3.12 節参照)。

感度の補正をすれば、許容濃

度(質量濃度)との比較がある

程度可能。また、光吸収性粒

子に対してのみ感度をもつ

ので、バックグラウンド粒子

の寄与を受けにくく、ナノ炭

素材料の排出が検出しやす

い。ただし、粒子負荷量と共

にに感度が低下したり、散乱

性エアロゾル粒子の干渉に

よって感度が変化したりす

る(3.2 節、3.12 節参照)。100~

万円*

*およその値であり、メーカーや性能によって異なる。

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図 2.1.1 各計測装置のおよその対象粒径範囲

一方、ナノ炭素材料の分散液がミストとして飛散するような場合には、ナノ炭素材料はより小

さな粒子として飛散する可能性がある。そのような場合には、CPC を利用することで 10 nm(球形

相当)程度までの小さな粒子を計測することができる。ただし、クリーンルームのような環境を除

けば、バックグラウンドにナノサイズの粒子は多く存在するため(一般の室内環境や大気では数千

~数万個/cm3程度のエアロゾル粒子が遍在している)、対象粒子であるナノ炭素材料の僅かな排出

の検出は難しい場合が多い。

バックグラウンド粒子の影響もあり、エアロゾル計測器では、概して許容暴露濃度レベルの検

出は難しい。しかし、エアロゾル計測器は、瞬間的な濃度上昇が把握できるので、発生源近傍の

ピーク濃度を把握し、管理するという使い方が考えられる。

上記の計測器以外の携帯型計測装置として、平均粒子サイズとおよその個数濃度が分かる拡散

荷電に基づく粒子計測装置が市販されている(Fierz et al. 2011; Buonanno et al. 2014)。また、上記の

計測器より高価になるが、100 nm より小さな粒子を含む粒径別の個数濃度が得られる計測器とし

て、走査型移動度粒径測定器(SMPS)、リアルタイム粒子解析装置(FMPS)、電子式低圧インパクタ

(ELPI)等がある。また、0.5~10 µm の粒子の粒径別の個数濃度が得られる計測器としてエアロダ

イナミックパーティクルサイザ(aerodynamic particle sizer: APS)がある。ただし、バックグラウンド

粒子の影響を受けるのは、上記装置と同様である。

TASC で実施した、BCM 及び光散乱式粉じん計の CNT に対する応答の評価例を 3.2 節で示す。

また、CPC、OPC、光散乱式粉じん計及び BCM による飛散 CNT 及び飛散グラフェンの検出例を

それぞれ 3.3 節、3.12 節で示す。

2.2 捕集後に定量分析

現状において、CNT の許容暴露濃度は、1.2 節に示したとおり、質量濃度の値として決められ

ている。ナノ炭素材料の質量濃度の定量方法(表 2.2.1)としては、最も簡単なのは、フィルタで捕

集したナノ炭素材料の質量をウルトラミクロ天びんなどで測定することであるが、ナノ炭素材料

とバックグラウンド粒子の分離識別はできず、また、検出下限は概して高い。多くのケースで有

効と考えられるのは、ナノ炭素材料を炭素の量として定量する炭素分析である。また、ナノ炭素

材料中に不純物として含まれる金属触媒などを指標として元素分析を行う方法もある。さらに、

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CNT に対して選択性や感度が高い方法として、CNT へマーカーを吸着させて、高速液体クロマト

グラフィー(high performance liquid chromatography: HPLC)により計測する方法も提案されている

(Ohnishi et al. 2013, 2016; 厚生労働省 2015)。なお、厚生労働省が 2016 年 3 月に「がん原性指針」

の対象物質に追加した特定の多層 CNT(がんその他の重度の健康障害を労働者に生ずるおそれの

あるものとして厚生労働省労働基準局長が定めるもの)の作業環境測定の方法としては、炭素分析

法と HPLC 法が挙げられている(厚生労働省 2016)。

その他として、ラマン分光法を用いたサブナノグラムの捕集 CNT を計測する装置が市販されて

いる(Bieri 2016)。

なお、ナノ炭素材料の一種といえるフラーレンについては、溶媒に溶解して、HPLC で定量可

能である(JIS Z8981 等参照)。

表 2.2.1 ナノ炭素材料の主な定量方法

方法 有用性や限界

質量分析 フィルタでエアロゾル粒子を捕集し、ウルトラミ

クロ天びんによってフィルタ質量の増加分を秤量

する。

簡易であるが、ナノ炭素材料とバックグラウンド

粒子の分離識別はできない。検出下限は概して高

い。バックグラウンド粒子の濃度が低く、また、

対象物の濃度がある程度高いときのみ適用可能。

炭素分析 フィルタでエアロゾル粒子を捕集し、加熱燃焼さ

せて、CO2 (又はそれを還元した CH4)などを測定す

ることによって、ナノ炭素材料を炭素の量として

定量する。カーボンエアロゾル分析(NIOSH5040

法、IMPROVE 法)など。

炭素以外のバックグラウンド粒子との分離識別が

可能。加熱・燃焼条件によって、有機炭素や、燃

焼プロセスで発生する煤などとの分離もある程度

可能。カーボンエアロゾル分析(NIOSH5040 法、

IMPROVE 法)では特に前処理を必要としない。

元素分析 フィルタでエアロゾル粒子を捕集し、ナノ炭素材

料中に不純物として含まれる金属触媒などを測定

することによって、ナノ炭素材料の量を推定。

ICP-AES、ICP-MS 等。

金属含有率が既知(一定)で、比較的高い場合にのみ

適用可能。一般に、溶液に溶かす前処理が必要。

HPLC 法 フィルタでエアロゾル粒子を捕集し、フィルタを

溶解して CNT を抽出後に、CNT にマーカーを吸着

させ、吸着したマーカーの量を HPLC で定量する

ことで、CNT の量を定量する。

CNT への選択性が高いマーカーで、CNT をある程

度選択的に定量。高感度。前処理が必要。対象と

する CNT ごとに検量線が必要。表面コーティング

や樹脂等への加工のない状態の CNT のみ適用可

能。

(a) 質量分析

テフロン繊維などの吸湿やガス吸着の影響を受けにくいフィルタでエアロゾル粒子を捕集

し、捕集前後のフィルタの質量をウルトラミクロ天びんで秤量することによって、捕集された

エアロゾル粒子の質量濃度を求める。この方法は、最も簡易ではあるが、ナノ炭素材料とバッ

クグラウンド粒子の分離識別はできないので、クリーンルームに近い実験室などバックグラウ

ンド粒子の濃度が低く、また、対象物の濃度がある程度高いときのみ適用可能である[参考:

一般環境の吸入性粉じん濃度は 10~50 μg/m3程度である]。この方法の定量下限は、フィルタ

サンプルの捕集積算流量にもよるが、およそ数十 µg/m3である。TASC で実施した単層 CNT の

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製造現場での計測事例を 3.5 節で示す。

(b) 炭素分析

炭素分析は、比較的高感度で、定量性があり、炭素以外のバックグラウンド粒子との分離識

別ができる点で、CNT やグラフェン等のナノ炭素材料の定量方法として、信頼性のある適した

方法と考えられる。試料を加熱燃焼させて、CO2 (又はそれを還元した CH4)を測定することに

よって炭素量を求める。

炭素分析の例として、米国 NIOSH が気中の CNT やカーボンナノファイバ(CNF)の定量方法

として推奨している NIOSH 5040 法(NIOSH 2003; 2013)や、環境大気試料の炭素成分分析に広く

適用されている IMPROVE (Interagency Monitoring of Protected Visual Environments)法がある

(Chow et al. 1993)。これらの方法は、カーボンエアロゾルの有機炭素と元素状炭素の分別定量

法である(図 2.2.1)。石英フィルタに捕集したサンプルをヘリウム雰囲気下で段階昇温させて有

機炭素を蒸発分離し、続いて酸素存在下で段階昇温させて元素状炭素を燃焼・気化させる。加

熱によって蒸発・気化した炭素成分は、触媒によって CO2へと酸化され、更に別の触媒によっ

て CH4へと還元された後、水素炎イオン化検出器(flame ionization detector: FID)によって検出す

る。ナノ炭素材料は、主に元素状炭素の画分に検出される。一般環境におけるバックグラウン

ドの元素状炭素濃度は、通常、数 µg/m3以下である。この方法の定量下限は、フィルタサンプ

ルの捕集積算流量にもよるが、およそ 1 µg/m3前後であり、NIOSH (2013)の提案する CNT 及び

CNF の推奨暴露限界(recommended exposure limit: REL) 1 µg/m3は、この定量下限の値を基に決

められている。TASC で実施した CNT の炭素分析による定量例を 3.1 節で、樹脂存在下におけ

る CNT の炭素分析による定量例を 3.6節で、グラフェンの炭素分析による定量例を 3.11節で、

作業現場や模擬試験での計測事例を 3.5、3.9、3.10、3.12、3.13 節で示す。

図 2.2.1 カーボンエアロゾル分析の例

以下に本方法についての考慮点をいくつか示す。

・ヘリウム雰囲気下で段階昇温させた際に、有機物の一部は炭化して、元素状炭素として検出

される。通常、カーボンエアロゾル分析法では、フィルタの光学特性(光反射又は透過)をモ

ニタして、炭化した有機成分が元素状炭素と同様に光を吸収すると仮定した補正を行う。し

かし、ミクロンサイズのナノ炭素材料凝集体がフィルタ上へスポット状に捕集された場合、

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補正が適切に行われない可能性がある。また、特に元素状炭素濃度が低いときには、炭化補

正のわずかなばらつきが大きな誤差をもたらす可能性がある。安全性評価の観点からは元素

状炭素(ナノ炭素材料)の過小評価を避ける必要があり、光学補正は行わない方がよいかもし

れない。光学補正を行わない場合でも、炭化の寄与が対照サンプルと同等(すなわち、炭化

に寄与する有機成分の存在が対照サンプルと同等)であるとすれば、対照サンプルとの比較

から、炭化の寄与を考慮することが可能である。

・カーボンエアロゾル分析の装置は、光学補正を行うために、フィルタの一部を切り抜いて導

入する仕様となっている。そのため、正確な値を得るためには、フィルタ上への均一な粒子

捕集が必要となる(もしくはフィルタ全ての測定のために複数回の分析が必要になる)。しか

し、肺まで到達しない粗大粒子を取り除くために、前段にインパクタやサイクロンを用いた

場合、特にミクロンサイズの大きなナノ炭素材料凝集体はフィルタ上へ均一に粒子捕集され

ない(中心に集中する)可能性がある。ここで、光学補正を行わない場合には、フィルタ全体

を折りたたんで計測装置に入れて、フィルタ全量の測定を行うという方法をとることができ

る。これによって、フィルタ上への不均一な粒子捕集による誤差がなくなり、また、絶対量

が増えるので感度が上がるというメリットもある。TASC による検討では、φ37 mm のフィ

ルタを折りたたんで、計測装置に入れることで、フィルタ全量の測定が可能であることを確

認している(Hashimoto et al. 2013)。

・NIOSH 5040 法の標準的な昇温条件では、ヘリウム雰囲気下で 310~870℃、酸素存在下で 550

~870℃の設定で、一測定が約 15 分である。IMPROVE 法では、ヘリウム雰囲気下で 120~

550℃、酸素存在下で 550~800 (又は 850)℃の設定で、一測定が約 30 分である。米国 NIOSH

は NIOSH 5040 法に基づく昇温条件を、(独)労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所の

小野らは、IMPROVE 法に基づく昇温条件を CNT 測定に採用している(Ono-Ogasawara &

Myojo 2011; Ono-Ogasawara et al. 2013)。

・IMPROVE 法では、ヘリウム雰囲気下で温度を高くしない分、保持時間が長めになる。ヘリ

ウム雰囲気下での保持時間が長くなると、炭化が起きやすくなり、元素状炭素が過大になる

場合がある。

・一部の CNT はヘリウム雰囲気下で高温にしたときに、ある割合が気化してしまう場合があ

る(3.1 節、3.6 節参照)。Doudrick et al. (2012)は、CNT の欠陥量の指標として用いられている

ラマンスペクトルの G バンドと D バンドの強度比(G/D 比)が低いものほど、ヘリウム雰囲

気下で消失しやすいことを報告している。そのような CNT を元素状炭素として検出する場

合には、その消失分を考慮して値を算出するか、IMPROVE 法ベースの昇温条件を採用する

必要がある。

・太い径(およそ数十 nm 以上)の多層の CNT やある種のグラフェンでは、最高温度を 900℃以

上に上げる必要がある(3.1 節、3.11 節参照)。あらかじめ、使用する昇温条件において、対

象ナノ炭素材料の燃焼温度を確認しておくことが望ましい。燃焼温度は、現場サンプルでの

ナノ炭素材料とそれ以外の炭素との識別にも役立つ(例 3.5 節の図 3.5.1)。

・石英フィルタは空焼き(例:900℃で 3 時間)することで、ブランク濃度を減少させることがで

きる。ただし、プラスチック製の容器やフィルタホルダに数日間保管した場合、有機炭素濃

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度(及びその炭化に伴う元素状炭素濃度)が増加する場合がある。

・ナノ炭素材料の複合材料の摩耗、加工、破砕などのプロセスでは、ナノ炭素材料と母材(樹脂

など)が混ざった状態の粒子の飛散が起こりうる。炭素分析により、ナノ炭素材料と母材を

分離識別するためには、母材成分の気化のために分析時間を長めにする必要があるかもしれ

ない。または、あらかじめ別のオーブンでナノ炭素材料が気化・分解しない温度で加熱処理

して、母材成分を減らしておく必要があるかもしれない。樹脂存在下における CNT の炭素

分析による定量例を 3.6 節で示す。

(c) 元素分析

フィルタでエアロゾル粒子を捕集し、ナノ炭素材料中に不純物として含まれる金属触媒など

を指標として、誘導結合プラズマ発光分光分析(inductively coupled plasma - atomic emission

spectrometry: ICP-AES)や誘導結合プラズマ質量分析 (inductively coupled plasma - mass

spectrometry: ICP-MS)等で測定することによって、ナノ炭素材料の量を推定する。あらかじめ

ナノ炭素材料中の金属含有率を求めておく必要があり、その含有率が飛散時も一定であると仮

定して、ナノ炭素材料の量を計算する。金属含有率が低い場合や、そのばらつきが大きい場合、

本方法の適用は難しいかもしれない。適用例として、米国 NIOSH のグループは、ICP-AES を

用いて、鉄やニッケルを指標として、CNT や CNF 濃度を推定している(Maynard et al. 2004; Birch

et al. 2011)。検出下限は、金属含有率や粒子捕集量、バックグラウンド存在量等に依存するが、

Birch et al. (2011)による報告では、炭素分析よりも定量下限は劣るとしている。OECD の作業部

会では、実用的で費用対効果が高いモニタリング方法として、この方法により CNT を計測す

る方法を取りまとめた文書を 2016 年 11 月に発行している(OECD 2016)。そのケーススタディ

において、気中の金属触媒は CNT の存在の定性的な指標となるが、定量的指標にはならなか

ったとしている。

(d) HPLC 法

CNT に対して選択性や感度が高い方法として、CNT へマーカーを吸着させて、HPLC により

計測する方法が提案されている(Ohnishi et al. 2013, 2016; 厚生労働省 2015)。フィルタでエアロ

ゾル粒子を捕集し、フィルタを溶解して CNT を抽出後に、CNT にマーカー(ベンゾ[ghi]ペリレ

ン)を吸着させ、吸着したマーカーの量を HPLC で定量することで、CNT の量を定量する。CNT

への選択性が高いマーカーで、CNT をある程度選択的に定量できる。感度は炭素分析より高い

と考えられる。対象とする CNT ごとに検量線が必要となる。表面コーティングや樹脂等への

加工のない状態の CNT のみ適用可能である。

いずれにおいても検出下限は、捕集積算流量(=捕集流量×捕集時間)に依存する。検出下限を下

げるためには、フィルタへの捕集流量を可能な限り上げることが有効である(ただし、フィルタの

圧力損失や粒子捕集効率を考慮する必要はある)。逆に濃度が高そうな場合には、過剰捕集を避け

るために捕集流量を下げるなどの対応が必要である。

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いずれにおいても、対照サンプル(非作業時や発生源から離れた地点でのサンプルやブランクサ

ンプル)との比較が重要である。

許容暴露濃度は、一般に吸入性粉じん(肺の奥まで入らないような粗大粒子を除いた値:ISO

7708 の定義で 4 µm 粒子 50%カット)相当の値として提案されている。吸入性粉じん相当の濃度を

得るためには、サイクロンやインパクタで粗大粒子を取り除いた後のエアロゾル粒子をフィルタ

で捕集する必要がある。サイクロンやインパクタ、フィルタホルダ、配管は、帯電粒子の損失を

防ぐために導電性のものが望ましい。注意として、インパクタを用いた場合には、ノズル通過時

の高速気流や捕集面への衝突に伴い凝集粒子の分散が起こり、粗大粒子の一部は除去されずフィ

ルタに捕集される可能性がある(山本&菅沼 1983; 山田ら 2013)。また、インパクタは、過剰捕集

の際に捕集粒子の再飛散や粒子の跳ね返りが起こる可能性がある。そのような場合、吸入性粉じ

んとしては、濃度は過大(安全側の評価)となる。サイクロンによるせん断力はインパクタほど強く

ないと考えられるが、同様に一部分散が起こる可能性はある。

より安全側の評価として、吸入性粉じんではなく、開放型のフィルタホルダで総粉じん(日本産

業衛生学会(2016)の許容濃度等の勧告では、流速を 50~80 cm/s として捕集した粉じんを総粉じん

として定義しているが、本書では開放型のフィルタホルダで捕集したものを総粉じんとする、以

下同様)を捕集したり、より大きな粒子まで捕集できる吸引性粉じんサンプラー(100 μm の粒子を

50%捕捉)で粒子を捕集したりしても良いかもしれない。肺に入らない大きさであっても、作業環

境等の汚染の観点では重要である。サイクロンやインパクタを用いない場合は任意に流量を設定

できるので、捕集流量を増加させることで、検出下限を下げることができる。

カスケードインパクタを用いて、粒径別に粒子を捕集すれば、粒径別のナノ炭素材料濃度の情

報が得られる。(独)労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所の小野ら(Ono-Ogasawara & Myojo

2011; Ono-Ogasawara et al. 2013; 厚生労働省 2015)は、カスケードインパクタを用いて粒径別に元

素状炭素濃度を得ることで、CNT とバックグラウンドの燃焼由来の元素状炭素とを分離識別する

方法を提案している。

長期的な汚染状況を把握するために、気中に浮遊している粒子だけではなく、床や壁面に沈着

する粒子(あるいは沈着している粒子)を捕集して、炭素分析や元素分析を行うという方法も考えら

れる。

ナノ炭素材料だけではなく、ナノ炭素材料製品中に含有する炭素不純物及び金属不純物の飛散

を評価したい場合にも、上記の炭素分析及び元素分析はそれぞれ有効と考えられる。

2.3 捕集後に電子顕微鏡観察

ナノ炭素材料の存在や形態を確認するためには、最終的には、電子顕微鏡観察に頼らざる得な

い場合が多い。ナノ炭素材料の観察のための電子顕微鏡は、走査型電子顕微鏡(SEM)と透過型電

子顕微鏡(TEM)に大きく二分されるが、SEM の方が粒子捕集は楽であり、立体的に凝集したナノ

炭素材料の観察に向いている。CNT の 1 本 1 本まで見えるかどうかは、電子顕微鏡の性能に依存

するが、分解能があまりよくない場合には、細い単層 CNT の 1 本 1 本までは見えず、バンドル(束)

状の形態として観察される。一般に TEM の方が SEM より分解能は高いが、TEM の場合は、TEM

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グリッド上の支持膜によって、細い単層 CNT の 1 本 1 本までは、観察が難しい場合が多い。

SEM、TEM のいずれにおいても、あらかじめ、取り扱うナノ炭素材料の形態、見え方を把握し

ておくことで、捕集エアロゾル粒子中のナノ炭素材料を特定しやすくなる。CNT は、その特徴的

な形態から、他の粒子との識別がある程度可能である。触媒金属を含むナノ炭素材料の場合には、

SEM や TEM にオプションで付属するエネルギー分散型 X 線分析装置(energy dispersive x-ray

spectroscopy: EDX)を利用することで、ナノ炭素材料の特定がより正確になる。

電子顕微鏡観察の成否は、粒子捕集方法に依存するところが大きい。SEM と TEM で粒子捕集

方法は異なってくる。TEM の場合には、気中のナノ炭素材料を TEM 観察用のグリッドに乗せる

必要がある。特殊な装置や前処理を必要としない比較的簡単な電子顕微鏡観察のための粒子捕集

方法として、表 2.3.1 のような方法がある。

表 2.3.1 電子顕微鏡観察のための比較的簡易な粒子捕集方法 方法 有用性や限界

ポリカーボネートフィルタ 表面が滑らかで均一径の円筒状孔を

持つポリカーボネートフィルタによ

って粒子を捕集する

SEM 用

簡易、定量性あり

孔径より小さな粒子もほぼ捕集可能

インパクタ 粒子の慣性衝突を利用して粒子を捕

集するインパクタを用いて、その粒

子捕集部に TEM グリッドを貼り付

けることによって、TEM グリッド上

に粒子を捕集する。

TEM 用(SEM も可)

小さな粒子の捕集は難しい。

捕集面において粒子の重なりが起きる。

多孔カーボン支持膜 TEM グ

リッド

均一径の多数の穴(孔)をもつ多孔カ

ーボン支持膜 TEM グリッドに空気

を通して、粒子を捕集する。

TEM 用(SEM も可)

簡易

孔径より小さな粒子もある程度捕集可能

(a) ポリカーボネートフィルタ

表面が滑らかで均一径の円筒状孔を持つポリカーボネートフィルタによってエアロゾル粒子を

捕集する。SEM 観察時のチャージアップを防ぐために、エアロゾル粒子捕集後のフィルタには、

金、白金、オスミウム等の導電性薄膜コーティングを施す。もしくはエアロゾル粒子捕集前のフ

ィルタにあらかじめコーティングしておく。捕集後にコーティングをした方が、SEM 観察時のエ

アロゾル粒子の紛失が起こりにくい(SEM 資料室のコンタミの原因)。ただし、エアロゾル粒子は

コーティング膜に覆われた状態となり、膜の厚さによっては微細な表面構造は見えにくくなる可

能性がある。

ポリカーボネートフィルタは、孔径が小さなフィルタほど、捕集効率は高くなるが、圧力損失

も大きくなり、流せる空気量は小さくなる。孔径より大きな粒子は物理的に 100%捕集され、孔径

より小さな粒子も、さえぎりや慣性衝突、拡散の効果によってある割合がフィルタ上に捕集され

る。SEM で観察できるのは、基本的にフィルタ前面に捕集された粒子であるため、フィルタ前面

への粒子捕集効率が重要になる。各孔径のフィルタについて、フィルタ前面への粒子捕集効率に

関する情報を表 2.3.2 にまとめる。また、TASC で実施したフィルタ前面への粒子捕集効率の評価

事例を下記の囲みに示す。これらの捕集効率は球形(または球形に近い)粒子に対する結果であるが、

CNT のような非球形粒子の捕集効率は、概して球形粒子よりも高いと考えられる(大谷&瀬戸

2009)。

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フィルタ前後の圧力損失をモニタリングすることで、フィルタのホルダへのセット不良(空気漏

れ)や破れ、孔径のロット間の違いなどなどを確認することができる。

ポリカーボネートフィルタによって捕集したCNTやグラフェンのSEM観察例を3.4節の図3.4.3、

3.5 節の図 3.5.2、3.7 節の図 3.7.3 及び図 3.7.6、3.9 節の図 3.9.3、3.12 節の図 3.12.4 に示す。

表 2.3.2 ポリカーボネートフィルタ前面の粒子捕集効率

0.08 µm

ニュークリポア

フィルタ

0.2 µm

ニュークリポア

フィルタ

0.4 µm

ニュークリポ

アフィルタ

0.8 µm

ニュークリポア

フィルタ

1 µm

ニュークリポ

アフィルタ

孔径[µm] 0.059 ± 0.008a 0.17 ± 0.01a 0.29 ± 0.05a 0.72 ± 0.18a 1

孔密度

[pores/cm2] 7.0 × 108 2.9 × 108 9.7 × 107 1.8 × 107 2 × 107

有孔率[%] 1.9 6.3 6.4 7.3 16

厚み[µm] 6 10 10.6 10.5 11

試験条件と捕集効率

線流速[cm/s] 1.9 8.4 1.5 8.6 3.7 3.7 18.4 5

圧力損失[kPa] 6.3 25 2.3 12 2.4 0.8 4 0.8–1

最小捕集

効率 b [-]

0.79±0.17

(30 nm

PSL);

0.61±0.08

(30 nm Ag)

0.72±0.08

(30 nm

PSL);

0.69±0.15

(20 nm Ag)

0.79±0.08

(30 nm

PSL);

0.76±0.15

(30 nm PSL)

0.60±0.08

(30 nm

PSL);

0.64±0.08

(30 nm Ag)

0.22±0.08

(42–75 nm

KCl)

0.27±0.03

(42–75 nm

KCl)

0.15±0.02

(42 nm

KCl)

0.30

(80 nm

PSL)

出典 TASC

(Ogura et al. 2016) Cyrs et al. (2010)

Chen et al.

(2013) a 電子顕微鏡観察により得た実際の孔径

b フィルタ前面への捕集効率(フィルタ内部への捕集は含まない)

PSL:ポリスチレンラテックス粒子;Ag:銀粒子;KCl:塩化カリウム粒子

TASCで実施したフィルタ前面の粒子捕集効率の評価結果(Ogura et al. 2016a; 小倉ら 2016)

TASC では、孔径 0.08 µm 及び 0.2 µm のポリカーボネートフィルタ(ニュークリポアフィルタ、

GE Healthcare)を用いて、フィルタ前面の粒子捕集効率を評価した。これらの孔径は、小型ポンプ

で吸引ができる程度の圧力損失で、できるだけ小さなものとして選択した。フィルタホルダ

(No.1209、ポール・コーポレーション、φ25 mm 用、有効ろ過面積:3.7 cm2)を用いて、孔径 0.08

µm フィルタでは流量 0.3、1.0 L/min、孔径 0.2 µm フィルタでは流量 0.3、1.5 L/min における粒子

捕集効率を評価した。粒子捕集後のフィルタは、その中央部と周囲で、粒子捕集密度に大きな差(偏

り)がないことを確認した。粒子捕集効率の結果を図 2.3.1 に示す。最大透過粒径はいずれにおい

ても大体 30 nm付近であり、そのときの捕集効率(最小捕集効率)は 0.6~0.8であった。孔径 0.08 µm

と 0.2 µm のフィルタを比較した場合、最小捕集効率には大きな差がなく、圧力損失は孔径 0.2 µm

のフィルタの方が低いことから、孔径 0.2 µm のフィルタの方がより使いやすいように思われる。

参考として、フィルタの圧力損失の計測結果を表 2.3.3 に示す。ここで注意が必要なのは、フィ

ルタホルダのサポートスクリーン(図 2.3.2)の使用により圧力損失が異なることである。サポート

スクリーン自体の圧力損失は非常に小さく無視できるレベルであるのに対し、フィルタの圧力損

失はサポートスクリーンを使用したときに高くなる傾向があり、その比は流量の増加に伴い増加

した(表 2.3.3)。サポートスクリーンありの場合、流量の増加に伴いフィルタとサポートスクリー

ンが密着し、その部分の孔の出口がふさがれて空気が流れにくくなることで、圧力損失が高くな

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ると考えられた。実際、サポートスクリーンを用いて、孔径 0.08 µm のフィルタで流量 1.5 L/min

という比較的圧力損失が高い状態で粒子を捕集した場合には、サポートスクリーンのあるところ

はほとんど粒子が捕集されていなかった(図 2.3.2 の右下)。これらの結果は、サポートスクリーン

ありの場合、流量(及び圧力損失)の増加に伴い有効ろ過面積は減少し、有効ろ過部へ向かう空気

の線流速は上昇する(よって、捕集効率は変わる)ことを意味する。このように、サポートスクリ

ーンの使用には注意が必要である。ポリカーボネートフィルタ自体は薄いので、サポートスクリ

ーンがない場合には、流量を上げすぎると破れることもあるが、流量を上げすぎなければ、サポ

ートスクリーンなしでも O リングで固定することで、粒子捕集は可能であると考えられる。Cyrs

et al. (2010)は、アスベストサンプリング用のポリプロピレン導電性カセットを用いて、サポート

スクリーンなしで、フィルタを二つの O リングに挟んで固定する方法を採用している。

サポートスクリーンの有無による線流速の比は、その圧力損失比にほぼ等しいと考えられるの

で、サポートスクリーンを使用した場合の線流速は、その圧力損失比から推算することができる。

図 2.3.1 の結果は、サポートスクリーンを使用した場合のものであるが、表 2.3.3 の圧力損失比よ

り、その時の線流速を推算すると、以下のようになる。

孔径 0.08 µm フィルタ

流量 0.3 L/min:みかけ 1.4 cm/s → 実際 1.9 cm/s 1.4 倍(圧力損失比より)

流量 1.0 L/min:みかけ 4.5 cm/s → 実際 8.4 cm/s 1.9 倍(圧力損失比より)

孔径 0.2 µm フィルタ

流量 0.3 L/min:みかけ 1.4 cm/s → 実際 1.5 cm/s 1.1 倍(圧力損失比より)

流量 1.5 L/min:みかけ 6.8 cm/s → 実際 8.6 cm/s 1.3 倍(圧力損失比より)

このようにサポートスクリーンの有無による条件の違いは、圧力損失を考慮することにより、

比較できると考えられる。

図 2.3.1 ポリカーボネートフィルタ前面の粒子捕集効率

フィルタ:ニュークリポアフィルタ(孔径 0.08 及び 0.2 µm、φ25 mm)

フィルタホルダ:Pall No.1209 (有効ろ過面積:3.7 cm2)、サポートスクリーン使用

PSL:ポリスチレンラテックス粒子、Ag:銀粒子

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表 2.3.3 ポリカーボネートフィルタの圧力損失:サポートスクリーンありとなしの比較

流量

[L/min]

圧力損失[kPa]

比[-]

サポートスクリーンあり

サポートスクリーンなし

孔径 0.08 µm ニューク

リポアフィルタ

0.3 6.3±0.7 4.6±0.3 1.4±0.15

1.0 25.2±1.6 13.5±0.6 1.9±0.13

孔径 0.2 µm ニュークリ

ポアフィルタ

0.3 2.3±0.1 2.1±0.2 1.1±0.06

1.0 8.0±0.4 6.6±0.5 1.2±0.05

1.5 12.0±0.7 9.4±0.7 1.3±0.05

平均値±標準偏差(n=10)

フィルタホルダ:Pall No.1209 (有効ろ過面積:3.7 cm2)

図 2.3.2 フィルタホルダのサポートスクリーンと高流量で粒子を過剰捕集したフィルタの写真

(b) インパクタ

粒子の慣性衝突を利用して粒子を捕集するインパクタを用いて、その粒子捕集部に TEM グリ

ッド等を貼り付けることによって、粒子を捕集することができる(Birch et al. 2011)。粒子をサイズ

ごとに分級することができる多段のカスケードインパクタを使えば、粒子を粒径別に捕集するこ

ともできる。インパクタでは、狭い範囲に粒子が集中して捕集されるために、短い時間で、多く

の粒子を捕集することができる。ただし、捕集面において粒子の重なりが起きたり、加速・衝突

に伴い凝集粒子の分散が起きたりする可能性がある。また、より小さな粒子まで捕集するために

は、より低圧にする必要があり、大型の真空ポンプが必要になる。

(c) 多孔カーボン支持膜 TEM グリッド

均一径の多数の穴(孔)をもつ多孔カーボン支持膜 TEM グリッド(Lacey, Holey, Quantifoil 等)に空

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気を通して、エアロゾル粒子を捕集する方法(図 2.3.3)が、Lyyränen et al. (2009)やフランスの INERIS

(French National Instiute for Industrial Environment and Risks)の研究グループ(R’mili et al. 2013)によ

って、開発・提案されている。孔径が小さいほど、捕集効率は高くなるが、圧力損失も大きくな

り、支持膜はやぶれやすくなる。孔径より大きな粒子は物理的に 100%捕集され、孔径より小さな

粒子も、さえぎりや慣性衝突、拡散の効果によってある割合が支持膜上に捕集される。市販品の

孔径は、メーカー表示値と実測値では若干のずれがあり、また、特に孔径が小さいものはロット

によってばらつきがあるようである。また、TEM グリッド自体が金属メッシュ(格子)になってお

り、メッシュによって有孔率が異なるので、支持膜の有効ろ過面積も異なってくる。よって、メ

ッシュが異なると、空気流量[L/min]が同じでも、支持膜に対する線流速[cm/s]は異なり、捕集効率

も異なってくるので注意が必要である。R’mili et al. (2013)は、多孔カーボン支持膜の破損やサン

プリング時間、レイノルズ数を考慮して、流量 0.3 L/min を採用している。R’mili et al. (2013)及び

TASC が実施した多孔カーボン支持膜 TEM グリッドによる粒子捕集効率の評価結果を表 2.3.4 に

まとめる。また、粒径別の捕集効率の結果の例を図 2.3.4 に示す。最大透過粒径は 15~50 nm であ

った。粒子捕集原理は「(a)ポリカーボネートフィルタ」と基本的に同じだが、孔径はポリカーボ

ネートフィルタに比べて大きいため、粒子捕集効率はポリカーボネートフィルタよりは低い。そ

れでも、最小捕集効率は 3%を超え、広い粒径範囲の粒子を捕集できるので、TEM 用の粒子捕集

方法としては、他の方法と比べても有用性は高いと考えられる。なお、上記の捕集効率は球形(ま

たは球形に近い)粒子に対する結果であるが、CNT のような非球形粒子の捕集効率は、概して球形

粒子よりも高いと考えられる(大谷&瀬戸 2009)。

支持膜は非常に薄く、破れやすいので、取り扱いに注意する必要がある。多孔カーボン支持膜

TEM グリッドの前後の圧力損失をモニタリングすることで、TEM グリッドのホルダへのセット

不良(空気漏れ)や破れ、孔径のロット間の違いなどを確認することができる。

多孔カーボン支持膜 TEM グリッドによって捕集した CNT の TEM 観察例は 3.4 節の図 3.4.4、

3.7 節の図 3.7.2 に示す。

図 2.3.3 多孔カーボン支持膜 TEMグリッドによるナノ炭素材料の捕集

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表 2.3.4 多孔カーボン支持膜 TEMグリッドの粒子捕集効率

Holey Carbon Films

on 400 mesh

Copper Grid

(Agar Scientific)

Quantifoil R1.2/1.3

on 400 mesh

Copper grid

(Agar Scientific)

Quantifoil R1.2/1.3

on 200 mesh

Copper grid

(Agar Scientific)

Quantifoil R0.6/1

on 200 mesh

Copper grid

(Agar Scientific)

多孔カーボン支持膜

孔径[µm] 0.15–5 (実測値) 1.2 (表示値),

1.3 (実測値)

1.2 (表示値),

1.7±0.060 (実測値)

0.6 (表示値),

0.93±0.17 (実測値)

孔密度[pores/cm2] 2.9 × 107–1.1 × 108 1.3 × 107 1.6 × 107 3.9 × 107

有孔率[%] 40–65 17 35 27

厚み[µm] ~0.02 ~0.02 ~0.02

銅メッシュ

孔径[µm] 44 44 100 100

有孔率[%] 50 50 64 64

厚み[µm] 12 12 16 16

試験条件と捕集効率 a

流量[L/min] 0.3 0.3 0.3 0.3

線流速[m/s]

1.6 (みかけ)

3.2 (メッシュ有孔

部のみ)

1.6 (みかけ)

3.2 (メッシュ有孔部

のみ)

1.6 (みかけ)

2.5 (メッシュ有孔

部のみ)

1.6 (みかけ)

2.5 (メッシュ有孔

部のみ)

圧力損失[kPa] ? ? 1.1±0.14 1.7±0.51

最小捕集効率[-]

・0.18±0.06 b

(15 nm NaCl)

・0.19±0.08 b

(20 nm Cu)

・0.15±0.04 b

(20~30 nm NaCl)

・0.16±0.08 b

(20 nm Cu)

・0.031±0.0021c

(30 nm PSL)

・0.050±0.0059 b

(30 nm PSL)

・0.052±0.025 b

(50 nm KCl)

・0.053±0.0010 c

(30 nm PSL)

・0.098±0.017 b

(30 nm PSL)

・0.080±0.026 b

(15 nm KCl)

出典 R’mili et al. (2013) TASC (Ogura et al. 2014)

a TEM グリッドホルダ(Mini Particle Sampler, MPS, Ecomesure, Janvry, France)と銅リング(hole grid Cu 2000 μm,

Agar Scientific、外径 3.05 mm、内径 2.0 mm)を使用。 b 凝縮式粒子計数器(CPC)により TEM グリッドの粒子透過率を計測。 c 凝縮式粒子計数器(CPC)による導入粒子個数計数と、電子顕微鏡観察による TEM 上に捕集された粒子個数計

数より捕集効率を計算。

NaCl:塩化ナトリウム粒子、Cu:銅粒子、PSL:ポリスチレンラテックス粒子、KCl:塩化カリウム粒子

図 2.3.4 多孔カーボン支持膜 TEMグリッドの粒子捕集効率 グリッド:Quantifoil R1.2/1.3 on 200 mesh Copper grid (Agar Scientific, 孔径 1.7 µm)

グリッドホルダ:Mini Particle Sampler (MPS, Ecomesure, Janvry, France)

流量 0.3 L/min の条件において、凝縮式粒子計数器(CPC)により TEM グリッドの粒子透過率を計測した結果。

KCl:塩化カリウム粒子、PSL:ポリスチレンラテックス粒子

出典:Ogura et al. (2014)

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(d) その他

その他の方法として、静電捕集(Ku et al. 2007; Bello et al. 2008)、熱泳動による捕集(Bello et al.

2008; R’mili et al. 2011)、拡散による捕集(Tsai et al. 2009a,b)、フィルタ溶解(アスベストの計測に用

いられている方法:セルロース混合エステルフィルタによって粒子捕集後アセトンでフィルタを

溶解し、TEM グリッドに転写)(Han et al. 2008; Methner et al. 2010b; Dahm et al. 2012)等の方法があ

る。基本的に TEM 用に捕集したサンプルは、SEM にも利用可能である。

長期的な汚染状況を把握するために、気中に浮遊している粒子だけではなく、床や壁面に沈着

する粒子(あるいは沈着している粒子)を捕集して、電子顕微鏡で観察するという方法も考えられる

(たとえば、導電性の両面テープでほこりを捕集して SEM 観察するなど)。

手間はかかるが、捕集流量、捕集効率、捕集面積、観察視野面積、視野面積あたりのナノ炭素

材料個数から、気中でのナノ炭素材料の個数濃度が計算で得られる。ただし、粒子の捕集効率は(凝

集)粒子サイズに依存する。安全側の評価として、過小評価を避けるために、捕集効率の最小値を

使うなどの方法が有効かもしれない。ナノ炭素材料の有無を議論する場合にも、気中個数濃度の

検出下限値を示すことが望まれる(参考:JISK3850-3、ISO 10312)。TASC で実施した作業現場での

事例を 3.9 節、3.10 節で示す。

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2.4 目的別にみた各計測法の適用例

2.1~2.3 節に示した各計測法の長所・短所及び有用性を表 2.4.1 にまとめる。また、排出暴露管

理の目的別にみた各計測法の適用例を図 2.4.1 に示す。一般に、許容暴露濃度との比較に焦点が置

かれることを想定すると、図 2.4.1 の中の(3)、そして(5)が重要になると考えられる。

表 2.4.1 各計測法の長所・短所及び有用性 長所 短所 有用性

(携帯型)エアロゾル計測器 簡易、安価、時間応答、

リアルタイム

ナノ炭素材料以外の粒子

との識別

空間・時間分布の把握、

日常暴露管理

捕集後に定量分析 ナノ炭素材料の定量 数時間のフィルタ捕集、

高価分析装置

許容暴露濃度との比較

捕集後に電子顕微鏡観察 ナノ炭素材料の特定、形

態把握

粒子捕集、観察費用

(手間、時間)

ナノ炭素材料の存在確

認、形態把握

図 2.4.1 排出・暴露管理の目的別にみた各計測法の適用例

以下に、図 2.4.1 の(1)~(5)のそれぞれについての説明を記す。

(1) 飛散ナノ炭素材料のサイズや形態の把握及び計測法の有効性の確認

必要に応じて、あらかじめ、模擬試験などによって、飛散ナノ炭素材料のサイズや形態を把握

したり、計測法の有効性を確認する。実際の作業現場では、さまざまなバックグラウンドエアロ

ゾル粒子の存在によって、ナノ炭素材料の計測は難しいことが多い。そこで、実験室において、

バックグラウンド粒子のない(又は少ない)状態で、簡易な模擬排出試験を行うことで、対象材料の

飛散しやすさや、飛散時の粒径分布・形態を把握することができれば、どのような計測や対策が

有効であるか、あらかじめ確認することができる。たとえば、ミクロンサイズの凝集粒子として

の排出が主であるのであれば、作業現場では、そのサイズを対象とした計測や対策を行えばいい。

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また、各計測法で実際にナノ炭素材料が計測可能かどうか、そして、どのような応答を示すかを

あらかじめ確認しておくことで、より正確な現場計測が可能になる。

簡易な模擬試験の例として、TASC で実施した、試験管かくはん法による飛散 CNT の粒径分布

及び形態の測定例を3.4節に、BCMと光散乱式粉じん計のCNTに対する応答の評価例を3.2節に、

グローブボックス内での CNT やグラフェンの移し替え模擬の例を 3.3、3.12 節に、グローブボッ

クス内でのグラフェン集積膜の切断の例を 3.13 節に示す。

(2) 発生源(場所、時間、作業)及び空間・時間分布の把握

必要に応じて、エアロゾル計測器を用いて、エアロゾル粒子の発生の有無や、その場所、時間、

作業、濃度の空間分布や時間分布を把握する。エアロゾル計測器の選定及びナノ炭素材料に対す

る応答は、(1)の結果が参考になる。エアロゾル計測器は、一般にナノ炭素材料とその他の粒子と

の識別が困難という問題があり、ナノ炭素材料以外のエアロゾル粒子の発生がある場合や、相対

的にバックグラウンド濃度が高く、ナノ炭素材料の排出濃度が低い場合には、エアロゾル計測器

によるナノ炭素材料の検出は難しいかもしれない。しかし、エアロゾル計測器は、秒又は分単位

の濃度情報が得られるので、瞬間的な粒子排出や、各作業と濃度との対応の把握などには適して

いる。バックグラウンド濃度との比較が重要であり、可能であれば、対照地点との同時サンプリ

ングが望まれる。複数の同一装置で同時に、発生源近傍、作業環境、バックグラウンド等を計測

することで全体を把握しやすくなる。また、工学的暴露対策の内側(囲いの中や局所排気装置の吸

入部等)と外(界面等)で同時に計測を行うことにより、工学的暴露対策の効果を確認することがで

きる。

(3) 排出ナノ炭素材料の定量、許容暴露濃度との比較

フィルタに粒子を捕集して、炭素分析などによってナノ炭素材料を定量して、許容暴露濃度と

比較する。サンプリングポイントや時間の設定は、(2)の結果が参考になる。許容暴露濃度は、一

般に吸入性粉じん相当の濃度として提案されているので、サイクロンやインパクタで肺の奥まで

入らないような粗大粒子を取り除いた後の粒子をフィルタで捕集する。あるいは、より安全側の

評価として、サイクロンやインパクタを使わず開放型のフィルタホルダで総粉じんを捕集する、

または、より大きな粒子まで捕集できる吸引性粉じんサンプラー(100 μm の粒子を 50%捕捉)で粒

子を捕集するという選択肢もある。肺に入らない大きさであっても、作業環境等の汚染の観点で

は重要である。サイクロンやインパクタを用いない場合は任意に流量を設定できるので、捕集流

量を増加させることで、検出下限を下げることができる。また、吸入性粉じんと総粉じん(または

吸引性粉じん)を同時に計測することで、大きな粒子から小さな粒子までの排出の実態がより明確

になる。総粉じんや吸引性粉じんの方が、吸入性粉じんより濃度が高くなる分、ナノ炭素材料の

検出の点で有利であり、計測法(ナノ炭素材料の飛散が計測できること)の検証としても有用である。

吸入性粉じん用のサイクロンやインパクタ、流量制御機能付きのポンプなどは作業者の個人暴露

濃度の計測を目的とした小型・携帯型のものが開発・販売されており、目的に応じて、個人暴露

濃度、作業環境濃度のどちらの計測も可能である。

暴露とは直接関係しないが、あえて、発生源近傍や工学的暴露対策の内側(囲いの中や局所排気

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装置の吸入部等)など、ナノ炭素材料が飛散していると想定される場所もあわせて計測を行うこと

により、計測法の検証や工学的暴露対策の効果の確認となる。

定量下限以上の値を得るためには、数時間の粒子捕集が必要になる場合がある。得られるナノ

炭素材料の定量値はその間の平均濃度である。補足情報として、濃度の時間変化の情報を得るた

めには、フィルタ捕集と同時にエアロゾル計測器による計測を行うことが有効といえる。また、

ナノ炭素材料の定量値と計測器の計測濃度の関係を把握しておけば、エアロゾル計測器によって、

およそのナノ炭素材料の濃度が把握できるようになり、「(5)日常の暴露管理」で役立つと考えられ

る。また、「(4)電子顕微鏡観察による排出ナノ炭素材料の存在や形態の確認」を同時に行うことで、

得られた濃度が、本当にナノ炭素材料に基づくものであるのかを確認することができる。たとえ

ば、炭素分析では、ナノ炭素材料以外の燃焼由来の元素状炭素などを検出してしまう可能性があ

る。特に合成炉からは、対象とするナノ炭素材料以外の煤の発生が起こりうる。

バックグラウンド粒子も含めた濃度が、許容暴露濃度以下であれば問題ないといえるが、許容

暴露濃度を超える場合には、バックグラウンド粒子の寄与分を正確に求めるために、対照サンプ

ルとの比較が望まれる。

(4) 電子顕微鏡観察による排出ナノ炭素材料の存在や形態の確認

必要に応じて、電子顕微鏡観察で排出ナノ炭素材料の存在や形態を確認する。サンプリングポ

イントや時間の設定は、(2)や(3)の結果が参考になる。上述のように炭素分析などで得られた濃度

が本当にナノ炭素材料によるものなのか、そして、本当にナノ炭素材料の排出は起きているのか

最終的に判断したいとき、さらに、形態を知りたいときには、電子顕微鏡による観察が役立つ。

また、粒子捕集量や観察視野面積にもよるが、炭素分析で検出下限未満となるような低濃度の場

合でも、電子顕微鏡観察でナノ炭素材料が検出できることがあり、より低濃度の場合のナノ炭素

材料の存在確認にも有用と思われる。暴露とは直接関係しないが、あえて、発生源近傍や工学的

暴露対策の内側(囲いの中や局所排気装置の吸入部等)など、ナノ炭素材料が飛散していると想定さ

れる場所もあわせて計測を行うことにより、計測法(ナノ炭素材料の存在が確認できること)の検証

や工学的暴露対策の効果の確認となる。

(5) 日常の暴露管理

日常的に(3)(あるいは(4))の計測を行うのは必ずしも現実的ではなく、日常の暴露管理では、簡

易でリアルタイムで計測値が得られるエアロゾル計測器の利用が望まれる。エアロゾル計測器で

あれば、もし万が一、なにかしらの故障や過失などによって(たとえば、局所排気装置の故障やス

イッチの入れ忘れ等)、知らず知らずのうちにナノ炭素材料の排出が起きたとしても、リアルタイ

ムでそれに気づくことが可能である。計測器の選定は、(1)や(2)の結果が参考になる。エアロゾル

計測器の表示値とナノ炭素材料の濃度との関係(エアロゾル計測器のナノ炭素材料に対する応答

係数)が上記の(1)や(3)で把握できている場合には、エアロゾル計測器によって、およそのナノ炭素

材料の濃度を把握することができる。ただし、工程や作業内容が大きく変わった場合や、定期的

には、(3)(あるいは(4))の計測を行うことが望ましいと考えられる。

バックグラウンド粒子の影響もあり、エアロゾル計測器では、許容暴露濃度レベルの検出は難

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しいかもしれない。しかし、エアロゾル計測器は、瞬間的な濃度上昇が把握できるので、発生源

近傍のピーク濃度を管理していくことで、作業環境全体の平均濃度を許容濃度未満に管理してい

くことが可能と考えられる。

許容暴露濃度に基づく暴露管理に焦点を置いた場合のナノ炭素材料粉体の現実的な排出・暴露

管理方法の例として、図 2.4.1 の中の(3)と(5)の併用の例を図 2.4.2 に示す。現場の排出・暴露管理

として、年に数回①「炭素分析」を実施し、日常的なチェックは②「小型・簡易なエアロゾル計

測器」で行うというように、正確な方法と簡易な方法の状況に応じた使い分けが、現実的なひと

つの方法と考えられる。

図 2.4.2 ナノ炭素材料粉体の現実的な排出・暴露管理方法の例

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2.5 ナノ炭素材料と母材の混合物からなる粒子の計測

ナノ炭素材料の複合材料の摩耗、加工、粉砕などのプロセスでは、ナノ炭素材料と母材(樹脂な

ど)が混ざった状態の粒子の飛散が起こりうる(図 2.5.1:CNT 複合材料の場合)。この場合、エアロ

ゾル計測器では、およそのサイズごとの情報は得られるが、A~F のいずれの形態かは判別できな

い。一般に、摩耗、加工、粉砕などのプロセスでは、ナノ炭素材料の含有の有無によらず、エア

ロゾル粒子が発生する(Ogura et al. 2015b)。また、摩擦熱により、母材成分が気化凝縮したナノサ

イズ粒子が発生する場合も多い(Ogura et al. 2013b)。よって、エアロゾル計測器では、ナノ炭素材

料自体の排出を把握することは概して難しい。フィルタに捕集後に質量分析する場合においても、

同様である。

図 2.5.1 CNT複合材料の摩耗等により排出されうる粒子の例 A:母材から脱離した CNT 単体

B:母材から脱離した CNT 凝集体

C:母材と CNT の混合粒子:CNT が露出した(突き出た)状態

D:母材と CNT の混合粒子:CNT が露出していない状態

E:母材自体の摩耗粉(CNT を含まない)

F:摩擦熱などで母材成分が気化凝縮したナノサイズ粒子(CNT を含まない)

炭素分析では、対象とするナノ炭素材料と母材の組み合わせにもよるが、酸素なし及びありの

条件で段階昇温する(または、あらかじめ前処理により母材を取り除く)ことにより、ナノ炭素材料

と母材をある程度分離定量することができる(3.6 節参照)。ただし、その場合においても、A~D

のナノ炭素材料の総量は分かるが、いずれの形態かは分からない。すなわち、母材から完全に脱

離したナノ炭素材料と母材に含有した状態のナノ炭素材料の分離定量はできない。また、母材の

種類によっては、ナノ炭素材料と分離が難しいものもある(例えば、ポリカーボネートやポリエー

テルエーテルケトン;3.6 節参照)。

元素分析は、不純物として炭素以外の金属粒子などを含む場合でないと適用できないが、母材

を溶解することができれば、ナノ炭素材料の量を推定できる。しかし、炭素分析と同様に、A~D

のナノ炭素材料の総量は分かるが、いずれの形態かは分からない。

A~F のような形態の把握は、電子顕微鏡観察に頼らざる得ない(ただし、D と E は外見からは

判別できない)。

ナノ炭素材料の複合材料の摩耗粒子の有害性を評価した研究は限られているが、CNT 複合材料

の摩耗粉の有害性は CNT そのものよりも低い、または CNT を含まない母材と変わらないという

結果が報告されている(Wohlleben et al. 2011, 2013; Ging et al. 2014; Schlagenhauf et al. 2015a, b)。そ

の一方で、CNT 複合材料の摩耗粉の気管内投与で、CNT 粉体と同様に肝臓への影響が認められた

という報告もある(Saber et al. 2016)。

これらの現状において、ナノ炭素材料と母材の混合物からなる粒子の現実的な排出・暴露管理

の一つの方法は、ナノ炭素材料が母材から脱離した状態か、母材に包まれた状態かによらず、A~D

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のナノ炭素材料の総量を計測し、その暴露量がナノ炭素粉体の許容暴露濃度を超えないように管

理することである。

図 2.5.2 に CNT を対象とした場合の例を示す。概要は以下の通りである。

1. 炭素分析により飛散粒子中の CNT と母材を可能な限り分離定量し、図中の A~D の CNT を

あわせた暴露量が許容暴露濃度を超えないように管理する。

2. 母材と CNT の完全な分離定量ができない場合には、CNT の総量に母材の寄与を一部含む値で

管理する。

3.飛散粒子と元の複合材料で CNT の割合が変わらないとみなせる場合(例えば、電子顕微鏡で飛

散粒子の形態を確認して、CNT の脱離がほとんど見られない場合)には、上記 1 や 2 の代替あ

るいはそれらの検証として、炭素分析による母材(または母材+CNT)の定量値から、CNT の

割合を考慮して、CNT の量を推定する。例えば、元の複合材料における CNT の含有率が 1%

であれば、母材の定量値の 1/99 (母材+CNT の定量値の 1/100)を CNT の量と推定する。

4. 必要に応じて、電子顕微鏡観察で飛散粒子の形態や存在割合を把握する。

1 については、炭素分析の代わりに元素分析を用いて A~D の CNT の総量を推定してもよいか

もしれない。また、3 については、炭素分析の代わりに質量分析を用いて、母材+CNT(+バック

グラウンド粒子)の定量値を基に CNT の量を推定してもよいかもしれない。

3 の方法は、上記 1 や 2 の代替の方法であるが、排出濃度が低くて CNT の検出が難しい場合に

有効な方法と考えられる。この方法は、例えば、CNT の含有率が 1%で、CNT の許容暴露濃度を

30 μg/m3としたときに、母材と CNT を含めた粒子(図 2.5.1 の A~F)への暴露量を 3 mg/m

3で管理

することと同じである。粉じん障害防止規則における粉じんの管理濃度は 3 mg/m3 (遊離けい酸 0%

の場合)、日本産業衛生学会(2016)による第 3 種粉じん(有機粉じん等)の許容濃度は 2 mg/m3 (吸入

性粉じん)であることから、母材を含めた粉じん管理・粉じん対策が適切に行われていることが一

つの目安になるといえる。

日常の排出・暴露管理でも、母材を含めた粉じんを管理することが簡易で有効な方法と考えら

れる。母材+エアロゾルの量はエアロゾル計測器でも計測することができる。1 や 2(または 3)のた

めの粒子捕集の際に、あわせてエアロゾル計測器の計測を行い、CNT や母材の濃度とエアロゾル

計測器の応答との関係を把握しておけば、エアロゾル計測器で日常の管理が可能になると考えら

れる。

ヒト健康の観点からは、肺の奥まで入らないような粗大粒子を除いた吸入性粉じんでの管理が

重要となる。ただし、ナノ炭素材料の複合材料の摩耗、加工、粉砕などの多くのプロセスで発生

する粒子は、肺に入らない大きな粒子の排出が多いと考えられる。より安全側の評価として、吸

入性粉じんではなく、開放型のフィルタホルダで総粉じんを捕集したり、より大きな粒子まで捕

集できる吸引性粉じんサンプラー(100 μm の粒子を 50%捕捉)で粒子を捕集したりしても良いかも

しれない。肺に入らない大きさであっても、作業環境等の汚染の観点では重要である。また、吸

入性粉じんと総粉じん(または吸引性粉じん)を同時に計測することで、大きな粒子から小さな粒子

までの排出の実態がより明確になる。総粉じんや吸引性粉じんの方が、吸入性粉じんより濃度が

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高くなる分、ナノ炭素材料の検出の点で有利であり、計測法の検証としても有用である。

図 2.5.2 CNT と母材の混合物からなる粒子の現実的な排出・暴露管理方法の例

炭素分析により飛散粒子中のナノ炭素材料と母材を可能な限り分離定量するためには、あらか

じめ対象とするナノ炭素複合材料の摩耗粉等について、炭素分析の条件を検討する必要がある(3.6

節参照)。予備検討で考慮・注意すべき点を以下に示す。

・対象とするナノ炭素材料粉体、母材となる樹脂の摩耗粉、それらの複合材料の摩耗粉について、

それぞれ炭素分析を行い、どの画分で分離するのがよいか検討する。

・樹脂に含有したナノ炭素材料は、元のナノ炭素材料粉体よりやや低い温度で燃焼する傾向があ

るので注意する。

・ナノ炭素材料に対して母材の量が多いので、母材が検出レンジを超えないように、母材の分解

温度付近をゆっくり昇温するようにする。

・バックグラウンドやブランクサンプルで検出される低沸点の有機炭素との分離も考慮した昇温

条件が望ましい。

・母材の量が多い場合など、あらかじめ別のオーブンでナノ炭素材料が気化・分解しない温度で

加熱処理して、母材成分を減らしておく方法もある(この場合、母材の定量はできない)。

・複合材料の摩耗粉の質量(秤量値)にナノ炭素材料の含有率を掛け合わせた値と、複合材料の摩耗

粉の炭素分析により得られたナノ炭素材料の定量値が一致するかを確認する。

・ナノ炭素材料と母材の分離が難しい場合においても、どの程度過大(または過小)になるかを確認

する。

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3. 計測事例

本章では、TASC で実施した計測・評価事例を示す。事例の種類と対象物質から見た各事例の

位置づけを図 3.1 に示す。

図 3.1 TASCで実施した計測・評価事例 番号は節番を表す。

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3.1 CNTの炭素分析による定量

炭素分析によって CNT の定量が行えるかどうかを確認するために、数十~<200 µg の CNT 粉末

を金(または白金)のホイルに載せ、ウルトラミクロ天秤で秤量後にカーボンエアロゾル分析装置

(CAA-202M-D, Sunset Laboratory Inc., USA)により炭素量を定量し、炭素量と秤量値を比較した

(Hashimoto et al. 2013)。

炭素分析の昇温条件はNIOSH5040法を参考に表 3.1.1のように設定した(参考:2.2節の図 2.2.1)。

ただし、チューブ径が数十 nm を超える太い多層 CNT は、870℃では燃焼しきらなかったため、

Myojo et al. (2009)を参考に最高温度を上げた。

得られた炭素量とウルトラミクロ天秤による秤量値の比を表 3.1.2 に示す。ヘリウム雰囲気下で

検出された炭素を有機炭素、酸素存在下で検出された炭素を元素状炭素、その合計を総炭素とし

て表した。秤量値に対する炭素の温度別検出割合を図 3.1.1 に示す。総炭素量と秤量値の比は、製

造元による炭素純度の公称値とほぼ同じか、それより若干低かったが、水分やガスの吸着等を考

慮すると、ほぼ妥当な結果と考えられた。CNT は主に元素状炭素として検出されたが、一部の CNT

は、ヘリウム雰囲気下でも高温にしたときに数%~十%程度が検出された。Doudrick et al. (2012)

は、CNT の欠陥量の指標として用いられているラマンスペクトルの G バンドと D バンドの強度

比(G/D 比)が低いものほど、ヘリウム雰囲気下で消失しやすいことを報告している。このような

CNT の場合には、その消失分を考慮して値を算出するか、ヘリウム雰囲気下で高温にしない

IMPROVE 法ベースの昇温条件を採用する必要があると考えられる。ヘリウム雰囲気下における

CNT の消失については、3.6 節もの事例も参照されたい。

表 3.1.1 炭素分析の昇温条件

単層 CNT & 細い多層 CNT * 太い多層 CNT

キャリアガス 時間[s] オーブン温度[°C]

時間[s] オーブン温度[°C]

He 80 310

60 310

He 80 475

60 475

He 80 615

60 615

He 100 870

110 870

He 45 550

45 550

2% O2/He 45 550

45 550

2% O2/He 45 625

45 625

2% O2/He 45 700

45 700

2% O2/He 45 775

45 775

2% O2/He 45 850

45 850

2% O2/He 120 870

480 920

2% O2/He – –

480 950

*NIOSH5040 法

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40

表 3.1.2 炭素分析による CNT定量の評価

製品名、グレード、

製法

チューブ

径 a

[nm] 炭素純度

a

有機炭素/

秤量値 b

元素状炭素/

秤量値 b

総炭素/

秤量値 b

単層CNT-1 NIST SRM2483 0.69–1.0 93% (TGA) 5.20.9% 760.5% 811%

単層CNT-2 Aldrich 704113,

SWeNT, CG 100,

CoMoCAT

0.7-1.3 >90% (TGA) 3.30.2% 780.4% 810.6%

単層CNT-3 NanoIntegris,

Super pure, HiPco 0.8–1.2 >95% (TGA) 6.70.4% 760.8% 831%

単層CNT-4 Nanocyl, NC1000,

CVD 2 ≥70% (TGA) 6.51.3% 650.6% 722%

単層CNT-5 産総研 Super-

growth 3 99% (TGA) 1.30.2% 960.6% 970.6%

多層CNT-1 Aldrich, 724769,

SWeNT SMW 100,

CoMoCAT

6–9 >95% (TGA) 1.60.2% 950.2% 970.4%

多層CNT-2 Nanocyl,

NC7000,CVD 9.5 90% (TGA) 3.50.6% 831% 871%

多層CNT-3 CVD 13 ≥95% (ashing) 127% 828% 940.6%

多層CNT-4 CVD 44 >99.9% (metal

content:326 ppm) 1.00.6% 1000.5% 1010.7%

多層CNT-5 CVD 70 >99% (fluorescence

X-ray analysis) 0.440.04% 980.8% 990.8%

出典:Hashimoto et al. (2013) a 主に製造元の公称値 b 平均 標準偏差(n=3–7).

NIST: National Institute of Standards and Technology; SWeNT: SouthWest NanoTechnologies; CoMoCAT: cobalt–

molybdenum catalyst process; HiPco: high-pressure carbon monoxide process; CVD: 化学気相成長法; TGA: 熱重量

分析

図 3.1.1 秤量値に対する炭素の温度別検出割合:単層 CNT(上)、多層 CNT(下)

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41

3.2 ブラックカーボンモニタと光散乱式粉じん計の CNTに対する応答の評価

簡易計測装置であるブラックカーボンモニタ(BCM)と光散乱式粉じん計について、飛散 CNT に

対する応答の評価を行った(Hashimoto et al. 2013)。試験管に 1 cm3程度の CNT を入れて、かくは

ん器でかくはんさせながら、清浄空気を流すことで CNT をエアロゾル化し、サイクロン(吸入性

粉じん用:4 µm 粒子で 50%の透過率)によって粗大粒子をカットした(3.4 節の図 3.4.1 参照)。エア

ロゾル化した CNT の平均凝集粒子サイズは、1~4 µm であった。希釈やかくはん強度を変化させ

たり、ジルコニアビーズを用いたりすることで、適度に発生濃度を調整した。発生した CNT エア

ロゾルを BCM (microAeth® Model AE51, AethLabs, USA; 波長 880 nm)と粉じん計(Dusttrak II 8530,

TSI Inc., USA)によって計測するとともに、比較のためにφ37 mm の石英フィルター(粉じん計内に

セット)を使用して CNT を捕集し、カーボンエアロゾル分析装置(CAA-202M-D, Sunset Laboratory

Inc., USA)によって、CNT を元素状炭素として定量した。それぞれ 5 種の単層 CNT 及び多層 CNT

について評価した。

簡易計測装置の CNT に対する応答は、炭素分析による元素状炭素濃度に対してそれぞれ線形の

応答がみられた(図 3.2.1)。しかし、その濃度比(応答係数)は、CNT の種類によって異なり、多く

の場合、BCM でおよそ 0.1~1、粉じん計でおよそ 0.1~2 であり、簡易計測器の濃度表示値は、

実際の CNT 濃度より過小となることが多かった。これらの装置の応答は、凝集粒子サイズに依存

し、凝集粒子サイズが大きくなるほど、応答係数は低くなる傾向が見られた(図 3.2.2)。また、BCM

は、光散乱性エアロゾル粒子の共存(干渉)下でのブラックカーボン濃度で校正されており、相対的

に共存粒子が少ない状況下では、低めの応答を示すことが報告されている(Petzold et al. 1997)。粉

じん計についても、本装置の校正に使われた米国アリゾナテストダスト(ISO 12103-1, A1 test Dust)

との屈折率の違いが応答の違いの一因となっている。

さらに、BCM については、フィルタへの粒子負荷量の増加に伴い応答が低下することが知られ

ているが、メーカー推奨のフィルタ交換頻度の 1/10 程度の負荷量においても応答は数十%低下す

ることが粉じん計の値との比較によって確認された。これについても、光散乱性の共存エアロゾ

ル粒子が相対的に少ない状況が関係していると考えられる。現実の作業環境においても、比較的

クリーンな環境や、CNT 濃度が相対的に高い場合には、同様の傾向を示す可能性がある。

以上の結果から、これらの装置を使用する際の注意点を以下にまとめる。

・BCM 及び光散乱式粉じん計の濃度表示値は、実際の CNT 濃度より低く、過小評価となる可能

性がある。あらかじめ対象とする CNT の想定される凝集状態における応答係数を得ることで正

確な CNT 濃度の推定が可能と考えられる。

・BCM は、比較的クリーンな環境や、CNT 濃度が相対的に高い場合には、メーカー推奨のフィ

ルタ交換頻度の 1/10 程度の負荷量においても応答は数十%低下する可能性がある。フィルタの

交換頻度を早める又は応答の低下をあらかじめ考慮するなどの対応が望まれる。

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42

図 3.2.1 簡易計測装置の飛散 CNTに対する応答例

(AIST スーパーグロース CNT)

出典:Hashimoto et al. (2013)

図 3.2.2 飛散 CNTの凝集粒子サイズと応答係数の関係 出典:Hashimoto et al. (2013)

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43

3.3 バックグラウンド粒子存在下でのエアロゾル計測器による計測(CNT粉末の移し

替え摸擬)

バックグラウンド粒子存在下でのエアロゾル計測器による飛散 CNT の計測例として、バックグ

ラウンド粒子(屋外大気粒子)を流入させたグローブボックス内で、約 100 cm3 (約 8 g)の多層 CNT

(SWeNT SMW 100, Sigma-Aldrich; チューブ径: 6-9 nm)を 1 分おきに別の容器に移し替える模擬作

業を 30 分間繰り返し行い(図 3.3.1)、グローブボックス内空気のエアロゾル粒子を凝縮式粒子計数

器(CPC; model 3007, TSI Inc., USA)、光散乱式粒子計数器(OPC; model 3330, TSI Inc., USA)、光散乱

式粉じん計(Dusttrak II 8530, TSI Inc., USA)、ブラックカーボンモニタ(BCM; microAeth® Model

AE51, AethLabs, USA; 波長 880 nm)により連続的に計測した。また、比較のために、φ37 mm の石

英フィルター(粉じん計内にセット)を使用して CNT を捕集し、カーボンエアロゾル分析装置

(CAA-202M-D, Sunset Laboratory Inc., USA)によって、CNT を元素状炭素として定量した。

各装置による計測濃度の時間変化を図 3.3.2 に示す。OPC の 0.47 µm 以上の粒径及び光散乱式粉

じん計や BCM では、移し替え作業(15:30–16:00)に伴い、濃度増加が認められた。一方、CPC 及び

OPC の 0.3–0.47 µm の粒径では、作業に伴う濃度変化はみられなかった。一般に、小さな粒子ほ

どバックグラウンド濃度が高く、また、排出 CNT の多くは凝集していることから、CPC では排出

CNT の検出は難しいと考えられる。CNT が主に凝集した状態で排出される場合、OPC によるミ

クロンサイズの粒子濃度や、BCM による濃度は、相対的にバックグラウンド濃度が低いことから、

排出 CNT の検出に有効と考えられる。

なお、フィルタに捕集した CNT の炭素分析によって求めた気中 CNT 濃度(30 分間の作業+その

後 10 分の計 40 分間の平均値として計算)は約 300 µg/m3であった。エアロゾル計測器による計測

値と炭素分析による CNT 濃度の関係をあらかじめ把握しておくことで、エアロゾル計測器による

計測値から、ある程度 CNT 濃度の予測が可能と考えられる。

図 3.3.1 移し替え模擬作業

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図 3.3.2 CNT移し替え作業の計測

15:30~16:00 まで作業

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45

3.4 模擬排出試験による粒径分布や形態の確認

CNT の飛散時の粒径分布を確認するために、簡易な試験管かくはん法(Maynard et al. 2004; Ogura

et al. 2009)によって CNT を飛散させて(図 3.4.1)、走査型移動度粒径測定器(SMPS; model 3936L72,

TSI Inc., USA)、エアロダイナミックパーティクルサイザ(APS; model 3321, TSI Inc., USA)、光散乱

式粒子計数器(OPC; model 3330, TSI Inc., USA)によって、飛散粒子の個数濃度粒径分布を計測した

(Hashimoto et al. 2013)。計測結果の例を図 3.4.2 に示す。粒径分布は、ナノサイズからミクロンサ

イズまでの広い範囲にわたる分布であった。

さらに、CNT の飛散時の形態を確認するために、あらかじめ白金パラジウムを約 2 nm の厚さ

で蒸着したポリカーボネートフィルタ(ニュークリポアメンブレン、孔径 80 nm、孔密度 6×108個

/cm2、φ25 mm)をステンレス製フィルタホルダ(有効ろ過面積 3.7 cm

2)に入れて、流量 0.5 L/min で

飛散 CNT を捕集した。SEM による観察写真の例を図 3.4.3 に示す。また、多孔カーボン支持膜 TEM

グリッド(Quantifoil R0.6/1, 孔径 0.6 µm (実際は若干大きい)、孔密度 3.9×107個/cm

2、φ3.05 mm)

を銅リング(内径 2 mm、φ3.05 mm)とともにステンレス製の専用ホルダ(Mini-Particle Sampler:

MPS®, Ecomesure, Janvry, France)に入れて、流量 0.3 L/min で飛散 CNT を捕集した。TEM による観

察写真の例を図 3.4.4 に示す。多くは、サブミクロンからミクロンサイズに凝集した粒子であった。

CNT はその種類やチューブ径によって見え方が異なり、チューブ径の細い単層 CNT はネット状

や綿状、チューブ径の細い多層 CNT は羊毛状、チューブ径の太い多層 CNT は棒状の形態であっ

た。

図 3.4.1 試験管かくはん法による飛散 参考:Maynard et al. (2004); Ogura et al. (2009)

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図 3.4.2 試験管かくはん法によって飛散した粒子の個数濃度粒径分布 粒子サイズは、それぞれの計測器の測定原理に基づく球形相当の粒径である。

(a) Sigma-Aldrich SWeNT CG 100 単層 CNTs (チューブ径: 0.7-1.3 nm); (b) NanoIntegris HiPco 単層 CNTs (チューブ

径: 約 1 nm); (c) 多層 CNTs (チューブ径: 約 13 nm); (d) 多層 CNTs (チューブ径: 約 50 nm)

出典:Hashimoto et al. (2013)

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47

図 3.4.3 ポリカーボネートフィルタを用いて捕集した飛散 CNTの SEM観察写真

(a) Sigma-Aldrich SWeNT CG 100 単層 CNTs (チューブ径: 0.7-1.3 nm); (b) NanoIntegris HiPco 単層 CNTs (チューブ

径: 約 1 nm); (c) 多層 CNTs (チューブ径: 約 13 nm); (d) 多層 CNTs (チューブ径: 約 50 nm)

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図 3.4.4 多孔カーボン支持膜 TEMグリッドを用いて捕集した飛散 CNTの TEM観察写真 (a) Sigma-Aldrich SWeNT CG 100 単層 CNTs (チューブ径: 0.7-1.3 nm); (b) NanoIntegris HiPco 単層 CNTs (チューブ

径: 約 1 nm); (c) 多層 CNTs (チューブ径: 約 13 nm); (d) 多層 CNTs (チューブ径: 約 50 nm)

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49

3.5 単層 CNTの製造現場での計測事例

パイロットスケールの単層 CNT 合成プラントにおいて、CNT の合成工程の基板回収、CNT の

基板からの剥離・袋詰め工程の間、以下の計測を行った(Ogura et al. 2013a)。なお、それぞれの工

程は局所排気装置のある囲いの中で自動運転で行われていた。暴露の有無にかかわらず、排出の

有無を把握するために、囲いの内外及び数メートル離れた対照地点(部屋中央)で計測を行った。

(a) 総粉じんの質量濃度

ポンプで空気を吸引し(流量 10 L/min)、鉛直下向きの開放型のフィルタホルダ(有効捕集面

積 9.6 cm2)を用いて、粒子をテフロンフィルター(孔径 2 µm、φ37 mm)に捕集し、ウルトラ

ミクロ天びん(SE2-F, Sartorius, Germany)で粒子の質量を分析した。

(b) 総粉じんの元素状炭素濃度

ポンプで空気を吸引し(流量 3 L/min)、鉛直下向きの開放型のフィルタホルダ(有効捕集面

積 9.6 cm2)を用いて、粒子を石英繊維フィルタ(φ37 mm)に捕集し、カーボンエアロゾル分析

装置(CAA-202M-D, Sunset Laboratory Inc., USA)によって、元素状炭素の質量を分析した。

(c) 吸入性粉じんの元素状炭素濃度

ポンプで空気を吸引し(流量 2.75 L/min)、サイクロンで大きな粒子を除去して(空気力学径

4 µm の粒子が 50%カット)、吸入して肺まで到達する大きさの粒子を石英繊維フィルタに捕

集し、カーボンエアロゾル分析装置によって、元素状炭素の質量を分析した。

(d) SEM による形態観察

ポンプで空気を吸引し(流量 0.5 L/min)、ステンレス製フィルタホルダ(有効ろ過面積 3.7

cm2)を用いて、あらかじめ白金パラジウムを蒸着したポリカーボネートフィルタ(ニュークリ

ポアメンブレン、孔径 80 nm、孔密度 6×108個/cm

2、φ25 mm、GE Healthcare)にエアロゾル

粒子を捕集し、電界放射型の SEM で CNT の有無や形態を観察した。

「(a) 総粉じんの質量濃度」の結果を表 3.5.1 に、「(b) 総粉じんの元素状炭素濃度」の結果を表

3.5.2 に、「(c) 吸入性粉じんの元素状炭素濃度」の結果を表 3.5.3 にまとめる。

「(b) 総粉じんの元素状炭素濃度」の剥離工程及び袋詰め(囲いの中)では、定量下限未満である

が、検出下限を超える値がみられた。そのサンプルについての元素状炭素の燃焼温度別の検出割

合を図 3.5.1 に示す。また、図 3.5.1 には、実験室で行った同 CNT の模擬的な排出試験(3.4 節の図

3.4.1)から得た結果も合わせて示した。剥離工程及び袋詰め(囲いの中)のサンプルでは、模擬排出

試験と同様に、700~850℃のあたりの燃焼温度での検出割合が高く、よって、検出された元素状

炭素は、飛散した CNT にほぼ対応していると考えられた。

「(b) 総粉じんの元素状炭素濃度」の剥離工程及び袋詰め(囲いの中)以外は、全てにおいて検出

下限未満であり、「(a) 総粉じんの質量濃度」で<約 20 µg/m3、「(b) 総粉じんの元素状炭素濃度」

及び「(c) 吸入性粉じんの元素状炭素濃度」で<約 2 µg/m3であった。

「(d) SEM による形態観察」においても、剥離工程及び袋詰めの際に囲いの中で捕集したサン

プルでは、CNT の凝集粒子と見られるミクロンサイズの粒子が観察された(図 3.5.2)。その他の場

所、工程では、CNT と見られる粒子は観察されなかった。

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50

<まとめ>

炭素分析により、剥離工程及び袋詰めの際の囲いの中で捕集した総粉じんにおいてのみ、わず

かに元素状炭素が検出され、燃焼温度別の検出割合から、検出された元素状炭素は飛散した CNT

に対応すると考えられた。電子顕微鏡観察において、剥離工程及び袋詰めの際の囲いの中で捕集

したサンプルでは、CNT の凝集粒子と見られるミクロンサイズの粒子が観察された。

表 3.5.1 (a) 総粉じんの質量濃度

工程、測定場所 捕集時間

[分]

流量

[L/min]

積算流量

[L]

粒子捕集量

[µg]

気中粒子

質量濃度

[µg/m3]

合成工程:基板回収(囲いの中) 69 10 683 <13 <19

合成工程:基板回収(囲いの外) 68 10 683 <13 <19

剥離工程及び袋詰め(囲いの中) 132 10 1338 <13 <9.7

剥離工程及び袋詰め(囲いの外) 132 10 1326 <13 <9.8

部屋中央 270 10 2706 <13 <4.8

'<'の付いた値は検出下限(ブランクサンプルのばらつきの標準偏差の 3 倍)未満。

表 3.5.2 (b) 総粉じんの元素状炭素濃度

工程、測定場所 捕集時間

[分]

流量

[L/min]

積算流量

[L]

元素状炭素

捕集量

[µg]

気中元素状

炭素濃度

[µg/m3]

合成工程:基板回収(囲いの中) 69 3.0 206 <0.42 <2.1

合成工程:基板回収(囲いの外) 68 3.0 206 <0.42 <2.1

剥離工程及び袋詰め(囲いの中) 132 3.0 403 (0.84) (2.1)

剥離工程及び袋詰め(囲いの外) 132 3.0 400 <0.42 <1.1

部屋中央 270 3.0 770 <0.42 <0.55

'<'の付いた値は検出下限(ブランクサンプルのばらつきの標準偏差の 3 倍)未満、括弧の値は検出下限以上

定量下限(ブランクサンプルのばらつきの標準偏差の 10 倍)未満。

表 3.5.3 (c) 吸入性粉じんの元素状炭素濃度

工程、測定場所 捕集時間

[分]

流量

[L/min]

積算流量

[L]

元素状炭素

捕集量

[µg]

気中元素状

炭素濃度

[µg/m3]

合成工程:基板回収(囲いの中) 69 2.75 188 <0.42 <2.3

合成工程:基板回収(囲いの外) 68 2.75 187 <0.42 <2.3

剥離工程及び袋詰め(囲いの中) 132 2.75 366 <0.42 <1.2

剥離工程及び袋詰め(囲いの外) 132 2.75 363 <0.42 <1.2

部屋中央 270 2.75 756 <0.42 <0.56

'<'の付いた値は検出下限(ブランクサンプルのばらつきの標準偏差の 3 倍)未満。

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51

図 3.5.1 元素状炭素の燃焼温度別の検出割合:

「CNTの模擬排出」と「剥離工程及び袋詰め(囲いの中)で捕集した総粉じん」の比較 剥離工程及び袋詰めサンプルについては、ブランクを差し引いた値。

図 3.5.2 剥離工程及び袋詰めの際に囲いの中で捕集した粒子の SEM観察写真

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52

3.6 CNT複合材料の摩耗粉じんの炭素分析による定量

CNT 複合材料の摩耗、加工、粉砕などのプロセスでは、CNT と母材(樹脂など)が混ざった状態

の粒子の飛散が起こりうる。そこで、CNT と母材の分離定量方法として、炭素分析の有用性や限

界を評価した(Ogura et al. 2015a; Ogura et al. 2016b)。炭素分析では、検出した CNT が母材から脱離

した状態か、母材に包まれた状態かを判別することはできないが、安全側の評価として、それら

の CNT 総量が許容濃度を超えないかどうかを確認するようなケースを想定した。また、飛散粒子

における CNT と母材の割合が、元の複合材料と同じであるとみなせる場合、母材の定量値から

CNT の量を推算することもできると考えられるので、CNT だけでなく、母材の定量もあわせて行

うことを考えた。

各種試料の摩耗粉等を金ホイル又は石英フィルタに載せ、ウルトラミクロ天秤で秤量後にカー

ボンエアロゾル分析装置(CAA-202M-D, Sunset Laboratory Inc., USA)により炭素量を定量し、炭素

量と秤量値を比較した。炭素分析の昇温条件は NIOSH5040 法及び IMPROVE 法を参考にし、母材

と CNT の分離をよくするために、ヘリウム雰囲気下の保持時間を長めに設定した(表 3.6.1)。母材

は、有機炭素の画分(表 3.6.1 の画分の OC1~5)と元素状炭素の初めの画分(EC1)として、CNT は元

素状炭素の残りの画分(EC2~EC6)として分離定量することを想定し、その可否を評価した。

各試料について、得られた炭素量とウルトラミクロ天秤による秤量値の比を表 3.6.2 に示す。炭

素量は、OC1~5、EC1、EC2~6、総炭素(すべての画分の合計)に分けて示した。

まず、CNT 粉体のみを分析した場合、「総炭素量と秤量値の比」は、炭素純度とほぼ整合した

値が得られた。しかし、CNano Flotube9000 やナノシル NC7000 を NIOSH5040 法ベースの昇温条

件で分析したときには、OC1~5 としてそれぞれ 83%、31%が検出された。一部の CNT がヘリウム

雰囲気下で検出されることは 3.1 節でも見られたが、保持時間を長めに設定したことで、より割

合が増えていると考えられた。これらの CNT を、ヘリウム雰囲気下で高温にしない IMPROVE 法

ベースの昇温条件で分析した場合には、主として EC2~6 で検出された。このように、ヘリウム雰

囲気下で消失しやすい CNT を元素状炭素(EC2~6)として検出する場合には、その消失分を考慮し

て値を算出するか、IMPROVE 法ベースの昇温条件を採用する必要があると考えられる。一方、

TASC スーパーグロース(SG)-CNT の場合は、いずれの昇温条件においても、主として EC2~6 で

検出された。

次に、樹脂のみを分析した場合、「総炭素量と秤量値の比」は、樹脂中の炭素元素の割合とほぼ

整合した値が得られた。ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)12、PA6、ポリ

ブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアセタール(POM)は OC1~5、もしくはさらに EC1 として検

出され、EC2~6 としてはほとんど検出されず(<約 1%)、EC2~6 として検出される CNT とは分離が

ほぼ可能であると考えられた。一方、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)

は、いずれの昇温条件においても数十%が EC2~6 として検出され、CNT の燃焼温度と重なること

から、CNT との分離定量は難しいと考えられた。さらに、ポリエチレンテレフタレート(PET)も

約 4%が EC2~6 として検出され、CNT との完全な分離定量は難しいと考えられた。

CNTとの分離定量がほぼ可能と考えられた樹脂についての複合材料(CNT含有率は 1~10%)の摩

耗粉を分析した場合、PS、PP、PA12、PBT、POM との複合材料では、「EC2~6 と秤量値の比」が

CNT 含有率とほぼ整合しており(誤差は<25%)、CNT の分離定量がほぼ可能であることが示された。

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一方、PA6 との複合材料については、「EC2~6 と秤量値の比」が CNT 含有率より低いか、ばらつ

きが大きかった。この原因として、CNT はより低い温度で EC1 として燃焼してしまっていると考

えられた。実際、樹脂に含有した CNT は、元の CNT 粉体よりやや低い温度で燃焼する傾向が見

られている。一例を図 3.6.1 に示す。その理由として、CNT がより分散した状態となり燃焼しや

すくなる(酸素と接触しやすくなる)ことや、混練の際に CNT に欠陥ができることなどが考えられ

る。

<まとめ>

・炭素分析により、一部の CNT はヘリウム雰囲気下で高温にしたときに、ある割合が気化してし

まうことが確認された。そのような CNT を元素状炭素として検出する場合には、その消失分を

考慮して値を算出するか、IMPROVE 法ベースの昇温条件を採用する必要があると考えられた。

・炭素分析により、多くの樹脂を定量することができた。すなわち、母材成分の定量が可能であ

った。

・炭素分析により、PC、PEEK、PET は、その一部が元素状炭素(EC2~6)として検出され、CNT の

燃焼温度と重なることから、CNT との完全な分離定量は難しかった。

・PS、PP、PA12、PBT、POM と CNT との複合材料(CNT 含有率 1~10%)の摩耗粉は、炭素分析に

より CNT をほぼ分離定量することができた。一方、PA6 と CNT との複合材料(CNT 含有率 1~2%)

の摩耗粉は、炭素分析により CNT を十分に分離定量することができなかった。

・樹脂に含有した CNT は、元の CNT 粉体よりやや低い温度で燃焼する傾向が見られた。

表 3.6.1 炭素分析の昇温条件

NIOSH5040 法ベース IMPROVE 法ベース 1 IMPROVE 法ベース 2

キャリアガ

ス 時間[s]

オーブン温度[°C]

時間[s] オーブン温

度[°C]

時間[s]

オーブン温度[°C]

OC1 He 80 310

180 120 300 250

OC2 He 80 475

180 250 600 450

OC3 He 80 615

300-540 450 600 500

OC4 He 300 (240*) 870

540-580 550 300 550

OC5 He 45 550

– – – –

EC1 2% O2/He 45 550

300 550 300 550

EC2 2% O2/He 45 625

210 700 120 600

EC3 2% O2/He 45 700

540 870 120 650

EC4 2% O2/He 45 775

120 900 240 700

EC5 2% O2/He 45 (300*) 850 (870*)

– – 180 (600*) 870

EC6 2% O2/He 110 (120*) 870 (900*) – – – –

* スーパーグロース(SG)-CNT のとき

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表 3.6.2 炭素分析による CNT定量の評価

試料 昇温条件 OC1-5/

秤量値 a

EC1/

秤量値 a

EC2-6/

秤量値 a

総炭素/

秤量値 a

CNT粉末

CNano、Flotube9000、純度>95% NIOSH5040 法ベース 8313% 0.240.06% 219% 1043% CNano、Flotube9000、純度>95% IMPROVE法ベース2 0.70.5% 00% 940.5% 950.6%

Nanocyl、NC7000、純度 90% NIOSH5040 法ベース 3116% 1.00.1% 5714% 893% Nanocyl、NC7000、純度 90% IMPROVE法ベース2 0.50.5% 1.20.3% 894% 914%

TASC、SG-CNT、純度 99% NIOSH5040 法ベース 7.30.8% 0.20.2% 952% 1022% TASC、SG-CNT、純度 99% IMPROVE法ベース1 2.81.6% 0.050.15% 963% 992%

樹脂

PS、炭素 92% NIOSH5040 法ベース 945% 0.020.02% 0.10.08% 955% PS、炭素 92% IMPROVE 法ベース 924% 0.510.51% 00% 924% PP、炭素 86% NIOSH5040 法ベース 874% 0.20.3% 0.040.04% 874% PP、炭素 86% IMPROVE法ベース2 824% 1.30.4% 0.20.2% 844% PC、炭素 76% NIOSH5040 法ベース 591% 0.91.0% 160.7% 772% PC、炭素 76% IMPROVE法ベース1 511% 5.51.3% 172% 733%

PEEK、炭素 79% NIOSH5040 法ベース 392% 0.50.5% 380.8% 783% PEEK、炭素 79% IMPROVE法ベース1 0.91.1% 2.40.7% 796% 825% PA12、炭素 72% IMPROVE法ベース2 682% 4.31.9% 0.30.1% 723% PA6、炭素 64% IMPROVE法ベース2 581% 1.20.2% 0.20.1% 592% PBT、炭素 65% IMPROVE法ベース2 633% 1.70.9% 1.10.2% 664%

POM、炭素 40% IMPROVE法ベース2 380.6% 0.050.04% 0.040.05% 380.7% PET、炭素 63% IMPROVE法ベース b 532% 3.22.0% 3.70.6% 602%

CNT複合材料

SG-CNT/PS、CNT: 5% NIOSH5040 法ベース 965% 0.120.03% 3.90.4% 1005% SG-CNT/PS、CNT: 5% IMPROVE法ベース1 842% 0.870.22% 3.80.2% 892%

Flotube9000/PP、CNT: 1% IMPROVE法ベース2 801% 0.700.13% 1.00.05% 811% Flotube9000/PP、CNT: 2% IMPROVE法ベース2 822% 0.640.32% 2.00.07% 842%

NC7000/PP、CNT: 1% IMPROVE法ベース2 802% 0.570.15% 1.00.1% 822% NC7000/PP、CNT: 2% IMPROVE法ベース2 792% 0.460.14% 1.70.1% 812% SG-CNT/PP、CNT: 1% IMPROVE法ベース2 802% 0.920.24% 1.00.05% 821% SG-CNT/PP、CNT: 2% IMPROVE法ベース2 793% 0.930.06% 1.60.1% 823%

Flotube9000/PA12、CNT: 4% IMPROVE法ベース2 651% 3.30.6% 3.90.08% 721% Flotube9000/PA12、CNT: 10% IMPROVE法ベース2 591% 3.50.6% 9.30.1% 720.7%

Flotube9000/PA6、CNT: 2% IMPROVE法ベース2 570.8% 2.10.8% 1.30.2% 600.5% SG-CNT/PA6、CNT: 1% IMPROVE法ベース2 594% 2.80.2% 0.30.1% 634% SG-CNT/PA6、CNT: 2% IMPROVE法ベース2 542% 3.60.6% 1.71.2% 592%

Flotube9000/PBT、CNT: 4% IMPROVE法ベース2 602% 2.10.5% 4.00.2% 661% PBT-Flotube9000/PBT、CNT: 6% IMPROVE法ベース2 583% 1.60.6% 5.40.3% 653%

Flotube9000/POM、CNT: 1% IMPROVE法ベース2 380.8% 0.220.03% 0.90.04% 390.7% NC7000/POM、CNT: 1% IMPROVE法ベース2 391% 0.210.04% 0.80.05% 401% SG-CNT/POM、CNT: 1% IMPROVE法ベース2 431% 0.240.03% 1.00.06% 442%

a 平均 標準偏差(n=>3) b 3.10 節の表 3.10.1 の昇温条件

PS:ポリスチレン、PP:ポリプロピレン、PC:ポリカーボネート、PEEK:ポリエーテルエーテルケトン、

PA:ポリアミド、PBT:ポリブチレンテレフタレート、POM:ポリアセタール、

PET:ポリエチレンテレフタレート

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図 3.6.1 CNT(Flotube 9000)粉体、PA12及びそれらの複合材料の炭素分析のチャート

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3.7 CNT複合材料の切削試験・破砕試験

様々な CNT 複合材料(表 3.7.1)について、切削試験及び破砕試験(岡山大学大学院自然科学研究

科後藤邦彰教授との共同実施)を行った。

表 3.7.1 切削試験・破砕試験の対象複合材料

母材 CNT CNT 含有率 切削試験 破砕試験

ポリブチレンテフタレート

(PBT) CNano Flotube9000

6% 〇 〇

4% 〇 〇

ポリアミド(PA)12 CNano Flotube9000 10% 〇 〇

4% 〇 〇

ポリカーボネート(PC) CNano Flotube9000 1% 〇 〇

Nanocyl NC7000 数% 〇 〇

ポリプロピレン(PP) Nanocyl NC7000 数%(劣分散) 〇 〇

ポリスチレン(PS)

Nanocyl NC7000 数% (劣分散) 〇 〇

Nanocyl NC7000 7.5% 〇 -

Nanocyl NC7000 7.5% (劣分散) 〇 -

TASC SG-CNT 5% 〇 -

TASC SG-CNT 5% (劣分散) 〇 -

(1) 切削試験(Ogura et al. 2015b; Ogura et al. 2013b 他)

マイクログラインダー(図 3.7.1)を用いて、複合材料を切削した。ボックスには清浄空気を導入

するとともに、ボックス内空気を吸引し、走査型移動度粒径測定器、光散乱式粒子計数器、凝縮

式粒子計数器により、排出粒子の濃度やサイズ分布を計測した。また、ポリカーボネートフィル

タ(ニュークリポアフィルタ)及び多孔カーボン支持膜 TEM グリッドを用いて飛散粒子を捕集し、

走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)で飛散粒子の形態を観察した。

結果の概要を以下に示す。

・CNT 複合材料の切削時には、ナノサイズからミクロンサイズの粒子の個数濃度の上昇が見ら

れた。しかし、CNT 含有なしの母材の切削時にも、ほぼ同様な個数濃度の上昇が見られた。

サーモデニューダーを使うことで、ナノサイズ粒子は 99.9%以上削減されたことから、ナノ

サイズ粒子は、切削時の摩擦熱により発生した母材の揮発成分の凝縮粒子であると考えられ

た。

・ナノサイズ粒子については、計測器では多く検出されるのに対し、電子顕微鏡観察ではその

存在が確認できなかった。ナノサイズ粒子は、電子顕微鏡観察時の減圧および電子線により、

揮発してしまうと考えられた。

・飛散粒子の電子顕微鏡観察において、母材と CNT の混合粒子(粒子の表面に CNT が飛び出た

粒子)が多くの場合観察された(図 3.7.2、図 3.7.3 の a))。母材からほぼ脱離した CNT 主体の粒

子(主に CNT 凝集体)は、樹脂中における CNT の分散状態が悪い複合材料において観察された

(図 3.7.3 の b), c), d))。

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図 3.7.1 切削試験の概要

図 3.7.2 CNT複合材料の切削による飛散粒子の電子顕微鏡写真(TEM)

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図 3.7.3 CNT複合材料の切削による飛散粒子の電子顕微鏡写真(SEM)

(2) 破砕試験(Ogura et al. 2016c 他)

108 mmφ×51 mm のステンレス製容器を持つ高速回転式小型粉砕機(図 3.7.4)を用いて、複合材

料のペレットを一試験に当たり 1個または 5個粉砕した。粉砕機回転数は 7,900 r/minまたは 18,750

r/min とし、砕料に加わる荷重を変えて試験を行った。粉砕時間は、総回転数が 14,000 回になるま

でとした。装置には清浄空気を導入するとともに、装置内空気を吸引し、光散乱式粒子計数器及

び凝縮式粒子計数器で粒子個数濃度の経時変化を計測した。また、一部の試料については、走査

型移動度粒径測定器によるナノサイズ領域の粒径分布の計測を行うともに、ポリカーボネートフ

ィルタまたは多孔カーボン支持膜 TEM グリッドを用いて飛散粒子を捕集し、SEM で飛散粒子の

形態を観察した。

結果の概要を以下に示す。

・回転数を上げて、粉砕力を上げることにより、多くの場合、発塵量は増加した。特にナノサ

イズの粒子は大きく増加した。

・粉砕は、主に、摩擦熱によるナノサイズ粒子の発生と、機械的粉砕によるサブミクロンから

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ミクロンサイズ粒子の発生が起きていると考えられた。機械的粉砕は初期には主に体積粉砕

が起き、その後表面粉砕が起きていると考えられた。この傾向は、CNT の有無によらず、母

材単体の場合でも同様であった。

・飛散粒子の電子顕微鏡観察における形態別割合を図 3.7.5 に示す。母材と CNT の混合粒子(粒

子の表面に CNT が飛び出た粒子)が多くの場合観察された(図 3.7.6 の a)や b))。母材からほぼ

脱離した CNT 主体の粒子(主に CNT 凝集体)は、樹脂中における CNT の分散状態が悪い複合

材料において観察された(図 3.7.6 の c)や d))。この傾向は、上記の切削試験と同様であった。

・5 個粉砕した際の飛散粒子(総粉じん)の割合は、投入試料質量の 0.02%未満(検出限界未満)で

あった。

図 3.7.4 粉砕機の概要

図 3.7.5 粉砕試験における飛散粒子の形態別割合 粉砕機回転数 18,750 r/min の時

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図 3.7.6 CNT複合材料の破砕による飛散粒子の電子顕微鏡写真

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3.8 CNT含有ゴムの耐候性試験及び摩耗試験

多層 CNT 含有スチレン・ブタジエンゴム(SBR)及びその対照としてカーボンブラック(CB)含有

SBR について、耐候性試験(紫外線照射)及び摩耗試験を行った(京都大学松井康人准教授との共同

実施)。

(1) 耐候性試験

耐候性試験の条件は以下の通り。

・光源:キセノンランプ

・放射照度:180 w/m2

・照射時温度:63±3℃

・照射時湿度:50±5%

・160 時間照射(太陽光約 4 ヶ月分の紫外線放射エネルギーに相当)

対象試料を表 3.8.1 に以下に示す。

表 3.8.1 耐候性試験の対象試料

No. 母材 添加物 phr a

1

SBR

CNT

(Nanocyl NC7000)

10

2 20

3 CB

(対照)

10

4 20 a 母材質量 100 に対する添加物の質量

耐候性試験あり/なしの試験片表面の電子顕微鏡写真を図 3.8.1 に示す。耐候性試験ありの試料

は、いずれにおいても、紫外線による劣化によりゴムに亀裂が生じていた。CNT 含有試料におい

ては、その亀裂から CNT が確認された。

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図 3.8.1 耐候性試験あり/なしの試験片表面の電子顕微鏡写真

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(2) 摩耗試験

摩耗試験は、チャンバー内においてテーバー試験機により行った(図 3.8.2)。摩耗条件は以下の

通り。

・摩耗輪:CS-10 (TABER INDUSTRIES)

・摩耗輪の幅:14 mm

・重り:1 kg ×2

・回転速度:72 rpm

・走行速度:11.3 m/min

・総回転数:1000 回(及び 9999 回)

対象試料を表 3.8.2 に以下に示す。

図 3.8.2 テーバー摩耗試験

表 3.8.2 摩耗試験の対象試料

No. 母材 添加物 phr a 耐候性試験

1

SBR

CNT

(Nanocyl

NC7000)

10 なし

2 20 なし

3 10 あり

4 20 あり

5

カーボンブラ

ック(対照)

10 なし

6 20 なし

7 10 あり

8 20 あり a 母材質量 100 に対する添加物の質量

1000 回転の摩耗試験時の気中粒子をリアルタイム粒子解析装置(FMPS)、走査型移動度粒径測定

器(SMPS)、光散乱式粒子計数器(OPC)によって計測した。粒径別個数濃度の結果を図 3.8.3に示す。

摩耗試験中の気中粒子個数濃度はチャンバー内バックグラウンド値とほぼ同じレベルであった。

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気体試料導入装置を用いた誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)による CNT 中のコバルト(残留触

媒金属成分の一つ)の検出においても、バックグラウンド値に対して有意な増加は認められなかっ

た。

1000 回転の摩耗後の CNT 含有試料の試験片表面、堆積摩耗粉、飛散摩耗粉の電子顕微鏡写真

を図 3.8.4~6 に示す。CNT 含有試料においては、摩耗後の試験片表面に CNT の先端らしきものが

確認されたが(図 3.8.4)、CNT の明確な露出は認められなかった。摩耗後の堆積摩耗粉の中には、

摩耗輪の研磨剤由来と見られる滑らかな粒子が確認されたが(図 3.8.5)、脱離した CNT 又は CNT

が露出した粒子は観察されなかった。飛散摩耗粉においても、脱離した CNT 又は CNT が露出し

た粒子は観察されなかった(図 3.8.6)。耐候性試験の有無や CNT 含有量により、磨耗状態の明確な

差は見られなかった。9999 回転まで摩耗した場合においても、上記の結果は変わらなかった。

なお、本試験においては、摩耗輪の研磨剤由来の粒子の寄与により、試料の摩耗量を正確に求

めることができなかった。改善策として、ダイヤモンドコーティング摩耗輪の利用などが考えら

れる。

図 3.8.3 摩耗試験中の気中粒子の粒径別個数濃度 1000 回転の摩耗試験時の 15 分間の平均値。

誤差範囲:3σ (σ:15 分間の標準偏差、バックグラウンド(BG)は 5 分間)。

1~8 は試料 No. (表 3.8.2 参照)。

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図 3.8.4 摩耗後の試験片表面の電子顕微鏡写真

図 3.8.5 堆積摩耗粉の電子顕微鏡写真

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図 3.8.6 飛散摩耗粉の電子顕微鏡写真

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3.9 CNT複合材料の混練・ペレット化を行う施設における計測事例

CNT 複合材料の混練・ペレット化を行う施設において、CNT の飛散を評価した(京都大学大学

院工学研究科松井康人准教授との共同実施)。なお、本調査の結果の一部(エアロゾル計測器による

結果と触媒金属を指標にした CNT の定量)は、Kato et al. (投稿中)で報告している。

<方法>

(1) 対象材料

・多層 CNT (繊維径:約 5–15 nm、炭素純度:90%)とポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポ

リカーボネート(PC)の複合材料(CNT 含有率は数%)

(2) 対象工程と測定点

対象工程は下記①~④であった。部屋の見取図及び測定点を図 3.9.1 に示す。

①CNT の小分け(ドラフトの中) (10:28~10:41)

測定点 1:ドラフトの中

測定点 2:ドラフトの外(開口部近く)

測定点 3:部屋中央

②混練機への CNT の投入(投入部には囲いと局所排気) (13:08~13:16)

測定点 4:投入部の囲いの中

測定点 5:投入部の囲いの外

測定点 3:部屋中央

③CNT の混練・ペレット化(二軸混練押出機による混練・ストランド化・ペレット化) (CNT/PS:

14:29~15:02; CNT/PP:15:05~15:18; CNT/PC: 15:56~16:11).

測定点 6:混練機近傍

測定点 7:ペレタイザー近傍

測定点 3:部屋中央

④混練機導入部の掃除(15:42~15:44)

測定点 6:混練機近傍

本施設は、PC の複合材料の製造を主としているが、今回の調査では、PS、PP について、あえ

て CNT が飛散しやすいと思われる条件として、分散状態の悪い条件で混練・ストランド化を行っ

た。

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図 3.9.1 部屋の見取図及び測定点

(3) 測定項目

(a) エアロゾル計測器

光散乱式粒子計数器(OPC)及びブラックカーボンモニタ(BCM)によりエアロゾル粒子を計

測した。

(b) 炭素分析

ポンプで空気を吸引し(流量 3 L/min)、開放型のフィルタホルダー(有効捕集面積 9.6 cm2)を

用いて、総粉じんを石英繊維フィルタ(Model 2500 QAT-UP、φ37 mm、PALL Corporation)に捕

集した(流速は 5.2 cm/s)。また、ポンプで空気を吸引し(流量 2.75 L/min)、サイクロン(GS-3、

SKC Inc.;空気力学径 4 µm の粒子 50%カット)で大きな粒子を除去して、吸入して肺まで到

達する大きさの粒子(吸入性粉じん)を石英繊維フィルタに捕集した。カーボンエアロゾル分析

装置(CAA-202M-D、Sunset Laboratory Inc.)で捕集粒子中の炭素量を測定し、ポンプによる積

算空気吸引量を考慮して、気中での有機炭素及び元素状炭素濃度を求めた。炭素分析の温度

設定条件を表 3.9.1 に示す。

トラベルブランク(現場にもっていった未使用フィルタ)の値(平均値±標準偏差, n=8)は、有

機炭素(画分 OC1 省く)が 21±0.75 µg/filter、元素状炭素が 0.10±0.08 µg/filter であった。粒子

を捕集したルタについては、トラベルブランクの平均値を差し引き、トラベルブランクの標

準偏差の 3 倍を検出下限、10 倍を定量下限とした。

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69

表 3.9.1 炭素分析の温度設定条件

画分 キャリアガス 時間[s] オーブン温度[℃]

OC1 He 80 310

OC2 He 80 475

OC3 He 80 615

OC4 He 300 870

OC5 He 45 550

EC1 2% O2/He 45 550

EC2 2% O2/He 45 625

EC3 2% O2/He 45 700

EC4 2% O2/He 45 775

EC5 2% O2/He 45 850

EC6 2% O2/He 110 870

(c) 粒子の形態観察

ポンプで空気を吸引し(流量 1 L/min)、ポリカーボネートフィルタ(ニュークリポアフィル

タ、孔径 0.2 µm、φ25 mm、GE Healthcare)でエアロゾル粒子を捕集した。フィルタの一部を

切り取り、電子顕微鏡用の試料台にカーボン両面テープで貼り付け、オスミウムコーターで

オスミウム金属被膜コーティング(約 2 nm)を施した後、電界放射型走査電子顕微鏡(Quanta

250FEG, FEI Company)で粒子の形態を観察した。

<予備検討>

炭素分析の予備検討として、CNT 粉末、PS、PP、PC について、炭素分析により得られる値を

評価した。それらのチャートを図 3.9.2 の a)~d)に示す。また、ウルトラミクロ天秤による秤量値(質

量)に対する検出された炭素量の割合を表 3.9.2 に示す。

CNT 粉末は、有機炭素として検出された割合が秤量値の 18%、元素状炭素として検出された割

合が秤量値の 66%、合計 84%であった。合計の値は、CNT 純度の 90%より若干低いが、ほぼ妥当

な値であった。このように、CNT については、全炭素の 8 割程度が元素状炭素として検出できる

ことを確認した。

PS 及び PP は、そのほとんどが有機炭素として検出され、CNT とは分離識別が可能と考えられ

た。一方、PC は、元素状炭素として 17%が検出され、CNT と検出温度が重なることから、CNT

との分離識別は難しいと考えられた。

これらの結果より、現場で捕集した粒子の元素状炭素の値は、CNT だけでなく、PC の寄与も

含んだ値として取り扱うことにした。また、有機成分としては、いずれにおいても OC1 の画分で

ほとんど検出されなかったことから(図 3.9.2 の a)~d)参照)、現場で捕集した粒子の有機炭素の値は、

OC1 を省いた値で評価することにした。

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70

図 3.9.2 炭素分析のチャート

a~d は原材料の粉体を分析したもの。e~h は現場で捕集した総粉じんを分析したもの。

表 3.9.2 秤量値(質量)に対する炭素量の割合

有機炭素(OC)計 元素状炭素(EC)計 合計

CNT 粉末(n=3) 18±4% 66±6% 84±4%

PS (n=5) 105±7% 0.1±0.1% 105±7%

PP (n=5) 101±5% 0.2±0.3% 101±5%

PC (n=5) 79±2% 17±2% 102±3%

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<結果>

(1) 計測器によるエアロゾル計測結果

CNT の小分け時には、ドラフトの中(測定点 1)においてのみ、BCM で濃度増加が観測された。

混練機への CNT の投入時には、投入部の囲いの中(測定点 4)においてのみ、OPC 及び BCM で

濃度増加が観測された。

混練・ペレット化時には、特に機械の立ち上げ時に、混練機近傍(測定点 6)で OPC の瞬間的な

濃度増加が観測された。

混練機導入部の掃除の際には、混練機近傍(測定点 6)でOPCの瞬間的な濃度増加が観測された。

詳細は、Kato et al. (投稿中)を参照されたい。

(2) エアロゾル粒子の炭素濃度の結果

フィルタに捕集したエアロゾル粒子の炭素分析により得られた有機炭素濃度及び元素状炭素濃

度の結果を表 3.9.3 に示す。また、代表的なサンプルについての炭素分析のチャートを図 3.9.2 の

e)~h)に示す。総粉じんの元素状炭素濃度は、CNT の小分け時のドラフトの中(測定点 1)と混練機

への CNT 投入時の囲いの中(測定点 4)で特に高かった。これらの場所は、作業者の暴露とは直接

関係しない場所であり、CNT 粉体の飛散が想定される場所である。一方、作業者がいるドラフト

の外や囲いの外、部屋中央では、定量下限または検出下限未満であった。また、吸入性粉じんで

見ると、ドラフトの中や囲いの中においても、元素状炭素濃度は検出下限未満であった。飛散し

た CNT 粉体の多くは、肺に入りにくい大きさに凝集した状態であると推察される。

混練・ペレット化や混練機導入部の掃除の際には、若干の元素状炭素濃度が検出されたが、CNT

が 8 割の感度であることを考慮しても、産総研が提案する CNT の吸入性粉じんの許容暴露濃度

30 µg/m3を下回るレベルであった。また、予備検討での結果の通り、これらは PC の寄与も含む値

である。なお、触媒金属(コバルト)を指標にした CNT の定量値は、測定点 3 近くの部屋中央にお

いて、全作業時間の総粉じんとして 0.9 µg/m3であった(Kato et al. 投稿中)。

表 3.9.3 エアロゾル粒子の炭素濃度

総粉じん 吸入性粉じん

工程 測定点

吸引

空気量

[L]

有機炭素

濃度 a

[µg/m3]

元素状炭素

濃度

[µg/m3]

吸引

空気量

[L]

有機炭素

濃度 a

[µg/m3]

元素状炭素

濃度

[µg/m3]

CNT 小分け

1 203 190 940 54 (52) <4.6

2 209 (26) (2.0) 53 (110) <4.7

3 205 <11 <1.2 54 <42 <4.6

混練機への

CNT 投入

4 131 83 540 35 <65 <7.2

5 132 <17 <1.9 35 <64 <7.1

3 132 <17 <1.9 35 (97) <7.1

混練・

ペレット化

6 964 16 6.7 b 256 (16) (1.4b)

7 1158 22 6.1 b 309 37 6.1 b

3 1151 16 3.2 b 309 60 (1.4 b)

混練機の掃除 6 35 <64 (15 b) 8.8 <260 <28 b

'<'の付いた値は検出下限未満の値、括弧の値は検出下限以上定量下限未満の値。 a OC1 を省いた値。 b PC の寄与を含むと考えられる。

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(3) フィルタに捕集したエアロゾル粒子の電子顕微鏡観察

フィルタに捕集したエアロゾル粒子の代表的な電子顕微鏡写真を図 3.9.3 に示す。凝集してない

CNT は観察されず、CNT の凝集体と見られる粒子(図 3.9.3 の a~c)、CNT 凝集体とその他の混合

粒子(図 3.9.3 の d)、表面に CNT が突き出た粒子(図 3.9.3 の e, f)が観察された。

「CNT 主体の粒子」と「その他主体の粒子」に分けて、その検出個数を表 3.9.4 にまとめる。

それらを合わせた粒子群(ここでは「CNT 粒子」と呼ぶ)の検出個数から、「CNT 粒子」の気中個数

濃度を以下の式により推算し、結果を表 3.9.4 中に示した。

C=N×A/(a×Q×E)

ここで、C:「CNT 粒子」の気中個数濃度[個/L]、N:「CNT 粒子」の観察総視野面積当たりの検

出個数[個]、A:フィルタの有効ろ過面積 370 mm2、a: フィルタの観察総視野面積[mm

2]、Q: 吸引

空気量[L]、E:フィルタの粒子捕集効率[-](0.2 μm より大きな粒子は 1、0.2 μm より小さな粒子の

最小捕集効率は約 0.6 (2.3 節の図 2.3.1 参照);ここでは、0.2 μm より大きな粒子が主だったので 1

を用いて計算)。

また、JIS K3850-3、ISO10312 を参考に計算した気中個数濃度の 95%信頼区間を、表 3.9.4 中に

あわせて示した。

表 3.9.4 CNT粒子の気中個数濃度.

工程 測定点

吸引

空気量[L]

観察総

視野面積 a

[mm2]

CNT 粒子の

検出個数

[個] CNT 粒子の

気中個数濃度 b

[個/L] CNT

主体

その他

主体 計

CNT 小分け

1 19 2.2 4 3 7 61 (24-125)

2 20 3.3 0 0 0 0 (<17)

3 20 2.4 0 0 0 0 (<24)

混練機への

CNT 投入

4 13 2.4 2 3 5 62 (20-150)

5 13 5.0 0 1 1 5.9 (0.15-33)

3 13 4.9 0 1 1 5.9 (0.15-33)

混練・

ペレット化

6 73 4.0 4 0 4 5.1 (1.4-13)

7 113 3.5 6 8 14 13 (7.1-22)

3 113 4.4 2 4 6 4.5 (1.6-10)

混練機の掃除 7 3 2.3 0 0 0 0 (<157) a フィルタの有効ろ過面積 370 mm2のうち SEM で観察した総視野面積 b 括弧の数字の範囲は、ポアソン分布 95%信頼区間(参考:JIS K3850-3、ISO10312)。

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図 3.9.3 フィルタに捕集したエアロゾル粒子の代表的な電子顕微鏡写真

注:黒い丸はフィルタの穴

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<まとめ>

CNT 凝集体または CNT を含む粒子の飛散が電子顕微鏡観察により確認された。ただし、炭素

分析の結果より、作業者がいるエリアの濃度は、産総研が提案する CNT の吸入性粉じんの許容暴

露濃度 30 µg/m3より低い濃度であった。前述の通り、今回の調査では、PS、PP について、あえて

CNT が飛散しやすいと思われる条件で混練・ストランド化を行った。よって、今回得られた結果

はワーストケース的なものと考えられる。

CNT の小分けで使われたドラフトチャンバー、混練機への CNT 投入で使われた囲いと局所排

気装置は、CNT の暴露を効果的に抑制していることが確認された。

<得られた教訓や課題>

・作業者の暴露とは直接関係しないが、CNT の飛散が想定される場所(ドラフトの中や囲いの中)

で計測を行うことにより、CNT の飛散があれば計測できることの検証ができ、暴露抑制対策が

適切に行われていることが確認できた。

・ワーストケース的な評価を行うことで、普段の状況を知ることはできなかったが、それでも許

容濃度は超えないことは確認できた。

・炭素分析では、CNT と PC との完全な分離定量ができなかったが、安全側の評価として、PC の

寄与も含む元素状炭素濃度が許容濃度を超えないかどうかを確認することで、現場の管理は可能

であると考えられた。

・捕集効率が明確なニュークリポアフィルタにより粒子を捕集し、電子顕微鏡観察で個数を数え、

気中濃度に換算することで、CNT の飛散量を定量的に表すことができた。電子顕微鏡での CNT

検出は、どの程度観察に時間(費用)をかけるかにもよるが、炭素分析では検出できないような場

合でも、CNT を検出することができる(より検出感度が高い)ことが示された。

・吸入性粉じんの元素状炭素濃度は多くで検出下限未満であったが、検出下限値をさらに下げる

ためには、高流量ポンプと高流量用の吸入性粉塵サイクロンを用いて、サンプリング流量をでき

る限り大きくすることが有効と考えられる。

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75

3.10 ナノ炭素材料塗布シートの切断工程におけるナノ炭素材料の計測事例

ナノ炭素材料を塗布したシートの切断を行っている施設において、切断工程におけるナノ炭素

材料の飛散を評価した。

<方法>

(1) 材料

・ナノ炭素材料塗布ポリエチレンテレフタレート(PET)シート

多層 CNT(繊維径 5-20 nm)約 10%含有、その他炭素材料、分散剤、バインダー等

シート厚み 36 μm うち塗工層(片面のみ)厚み 11 μm

(2) 工程

・ナノ炭素材料を塗布していない PET シートの両端の切断 (片側当たり計 309.1 m)

・ナノ炭素材料を塗布した PET シート両端の切断 (片側当たり計 341.7 m)

カットスピード 15 m/min

(3) 測定

部屋の見取図を図 3.10.1 に、サンプリング口の概要を図 3.10.2 に、測定概要を図 3.10.3 に示す。

測定は、①切断部近傍(切断部から約 10 cm)と②離れた場所(対照:切断部から約 5 m)で行った。

図 3.10.1 部屋の見取図

図 3.10.2 サンプリング口の概要

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図 3.10.3 測定概要

(4) 測定項目

(a) エアロゾル計測器

凝縮式粒子計数器(CPC)及び光散乱式粒子計数器(OPC)によりエアロゾル粒子を計測した。

(b) 炭素分析

ポンプで空気を吸引し(流量 10 L/min)、開放型のフィルタホルダー(有効捕集面積 9.6 cm2)

を用いて、総粉じんを石英繊維フィルタ(Model 2500 QAT-UP、φ37 mm、PALL Corporation)

に捕集した(流速 17 cm/s)。また、ポンプで空気を吸引し(流量 8.7 L/min)、サイクロン(GK4.162

(RASCAL), Mesa Labs, Inc.;空気力学径 4 µm の粒子 50%カット、φ47 mm フィルタ用をφ37

mm フィルタ用に改造)で大きな粒子を除去して、吸入して肺まで到達する大きさの粒子(吸入

性粉じん)を石英繊維フィルタに捕集した。カーボンエアロゾル分析装置(CAA-202M-D、

Sunset Laboratory Inc.)で捕集粒子中の炭素量を測定し、ポンプによる積算空気吸引量を考慮し

て、気中での有機炭素及び元素状炭素濃度を求めた。炭素分析の温度設定条件を表 3.10.1 に

示す。NIOSH ベースの温度設定条件の場合、CNT が有機炭素として一部検出されたことから、

IMPROVE ベースの温度設定条件を採用することにした。また、各成分の分離(PET 成分のテ

ーリング等)を考慮して、各温度の保持時間は長めに設定した。

トラベルブランク(現場にもっていった未使用フィルタ)の値(平均値±標準偏差, n=10)は、

有機炭素(画分 OC1 は省く)が 25±9 µg/filter、元素状炭素が 1.0±0.9 µg/filter であった。粒子

捕集フィルタについては、トラベルブランクの平均値を差し引き、トラベルブランクの標準

偏差の 3 倍を検出下限とした。

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表 3.10.1 炭素分析の温度設定条件 画分 キャリアガス 時間[s] オーブン温度[℃]

OC1 He 300 250

OC2 He 600 450

OC3 He 600 500

OC4 He 300 550

EC1 2% O2/He 300 550

EC2 2% O2/He 120 600

EC3 2% O2/He 240 700

EC4 2% O2/He 180 800

EC5 2% O2/He 300 870

EC6 2% O2/He 300 920

(c) 粒子の形態観察

ポンプで空気を吸引し(流量 1 L/min)、ポリカーボネートフィルタ(ニュークリポアフィル

タ、孔径 0.2 µm、φ25 mm、GE Healthcare)でエアロゾル粒子を捕集した。フィルタの一部を

切り取り、電子顕微鏡用の試料台にカーボン両面テープで貼り付け、オスミウムコーターで

オスミウム金属被膜コーティング(約 2 nm)を施した後、電界放射型走査電子顕微鏡(Quanta

250FEG, FEI Company)で粒子の形態を観察した。

<予備検討>

予備検討として、CNT 粉末、その他炭素材料粉末、バインダー、分散剤、PET シート、ナノ炭

素材料塗布 PET シート、ナノ炭素材料塗工液について、炭素分析により得られる値を評価した。

ウルトラミクロ天秤による秤量値(質量)に対する検出された炭素量の割合を表 3.10.2 に示す(固

体試料のみ)。CNT 粉末は、元素状炭素として検出された割合が秤量値の 93%、有機炭素と元素状

炭素を合わせた合計が 95%であり、得られた炭素量はほぼ妥当な値であった。このように、本 CNT

は炭素分析で元素状炭素として定量が可能であることを確認した。一方、その他炭素材料粉末に

ついて得られた割合(元素状炭素 79%、合計 83%)はやや低い値であったが、約 8 割は元素状炭素

として検出できることを確認した。その他炭素材料粉末の検出炭素量がやや低い理由として、分

析の最高温度でも燃焼が不十分であったと考えられる(後述の図 3.10.4 参照)。PET については、

その構成元素(C10H8O4)nから炭素は約 63%であり、得られた炭素量(合計 59%)はほぼ妥当な値と考

えられた。ナノ炭素材料塗布 PET シートは、ナノ炭素材料が塗布されたことを反映し、PET シー

トに比べて元素状炭素の割合が高かった。

各試料について、画分ごと(表 3.10.1 の OC1~4、EC1~6)の検出割合(総検出炭素量当たりの割

合)を図 3.10.4 に示す。CNT 粉末は主に EC3~EC4 の画分に検出された。一方、その他炭素材料粉

末は、主に EC4~EC6 の画分で検出された。分散剤や PET シートは、その一部が EC1~EC3 で検

出された。このように CNT とその他炭素材料、そしてその他の成分は、同じ画分で検出されるた

め、完全に分離定量することは難しかった。

ナノ炭素材料塗布 PET シートにおける各成分の含有率に基づき、各成分の炭素分析の結果を足

し合わせたものと、実際のナノ炭素材料塗布 PET シートの炭素分析の結果との比較(質量当たりの

割合)を図 3.10.5 に示す(ただし、液体のバインダー及び分散剤については、質量に対する検出炭素

量の値が得られなかったので、100%と仮定して計算した)。それらの結果は、有機炭素については

ほぼ一致した。一方、元素状炭素については、各成分の和で EC4 が高く、実際のナノ炭素材料塗

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布 PET シートで EC1~3 が高かった。ただし、元素状炭素の総量(EC1~EC6 の合計)で見ると、各成

分の和が 22%、実際のナノ炭素材料塗布 PET シートが 20%で大きくは違わなかった。炭素分析で

は、CNT 凝集粉体よりも分散させた CNT の方が、より低い温度で検出されることがあり、今回

の場合も、CNT 粉末を分析した場合には EC4 の割合が高かったが、CNT を分散させた場合には、

より低い温度の EC3 や EC2 にシフトしている可能性がある。

これらの結果より、現場で捕集した粒子については、CNT やその他炭素材料の量の目安として、

EC3~EC6 の値を使うのではなく、より安全側な値として、CNT やその他炭素材料以外の成分の

寄与も含む元素状炭素の総量(EC1~EC6 の合計)を用いることにした。また、有機成分の量の目安

として、いずれにおいても OC1 ではほとんど検出されなかったので、OC1 を省いた値(OC2~OC4

の合計)を使うことにした。なお、表 3.10.2 の通り、ナノ炭素材料塗布 PET シートの炭素分析では、

質量に対して 20%が元素状炭素として検出されており、CNT の含有率は約 10%であることから、

CNT と他の成分(PET 含む)が塗布シートにおける含有率の比率を保ったまま一緒に排出される場

合においては、元素状炭素の約半分が CNT の寄与となると考えられる。

表 3.10.2 秤量値(質量)に対する炭素量の割合

有機炭素(OC)計 元素状炭素(EC)計 合計

CNT 粉末 2% 93% 95%

その他炭素材料粉末 4% 79% 83%

PET シート 51% 8% 59%

ナノ炭素材料塗布 PET シート 44% 20% 64%

図 3.10.4 総炭素量に対する各画分の割合

図 3.10.5 質量に対する各画分の割合:ナノ炭素材料塗布 PETシートと各成分の和の比較

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<結果>

(1) 計測器によるエアロゾル計測結果

PET シート及びナノ炭素材料塗布 PET シート切断時の計測器によるエアロゾル計測結果を図

3.10.6 に示す。0.01~>1 µm の粒子に感度を持つ CPC では、切断部近傍で瞬間的な濃度の上昇が

みられているが、切断時と必ずしも対応していないことから、切断に伴い発生した粒子ではなく、

何かしらの作業(準備等)や切断以外の装置の稼働等に伴い発生した粒子であると考えられる。0.3

~10 µm の粒子に感度を持つ OPC では、切断部近傍と対照地点で差がなく、切断に伴う粒子発生

は認められなかった。

図 3.10.6 切断時のエアロゾル計測結果(個数濃度) 10 秒平均値

P1~2:PET シート切断の時間、C1~4:ナノ炭素材料塗布 PET シート切断の時間

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(2) エアロゾル粒子の炭素濃度の結果

フィルタに捕集したエアロゾル粒子の炭素分析により得られた有機炭素濃度及び元素状炭素濃

度の結果を表 3.10.3 に示す。

CNT 及びその他炭素材料は炭素分析において主に元素状炭素として検出され、またその他成分

の一部も元素状炭素として検出されるが、総粉じん、吸入性粉じんの両方ともに、元素状炭素濃

度はすべてにおいて検出下限未満であった。このように切断工程のごく近傍(約 10 cm)において、

さらに総粉じんで見ても、産総研が提案する CNT の吸入性粉じんの許容暴露濃度 30 µg/m3を下回

っていた。また、有機炭素濃度(OC1 省く)もすべて検出下限未満であった。

表 3.10.3 エアロゾル粒子の炭素濃度

工程 測定場所

総粉じん 吸入性粉じん

吸引

空気量

[L]

有機炭素*

濃度

[µg/m3]

元素状炭素

濃度

[µg/m3]

吸引

空気量

[L]

有機炭素*

濃度

[µg/m3]

元素状炭素

濃度

[µg/m3]

PET シート 切断近傍 211 <125 <13 189 <139 <15

対照地点 224 <118 <12 190 <138 <15

ナノ炭素材

料塗布 PET

シート

切断近傍 239 <110 <12 213 <123 <13

対照地点 242 <109 <12 205 <128 <14

*OC1 を省いた値。

(3) フィルタに捕集したエアロゾル粒子の電子顕微鏡観察

ナノ炭素材料塗布 PET シート切断時に切断部近傍で捕集した粒子の電子顕微鏡写真を図 3.10.7

に示す。CNT はその形態から、もし存在すれば比較的容易に認識できると考えられるが、CNT と

見られる粒子(CNT が露出した混合粒子を含む)は観察されなかった。なお、解析の検出下限値は

以下の囲みのようになる。

未検出時におけるポアソン分布の片側 95%信頼上限界に相当する濃度 C (今回の解析の検出下

限に相当する濃度)は以下の式で表される(参考:JIS K3850-3、ISO10312)。

C=2.99×A/(a×Q×E)=100 個/L

ここで、A:フィルタの有効ろ過面積 370 mm2、a: 観察総視野面積 0.77 mm

2、Q: 吸引空気量 23.8L、

E:フィルタの粒子捕集効率(0.2 μm より大きな粒子は 1、0.2 μm より小さな粒子の最小捕集効率

は約 0.6 (2.3 節の図 2.3.1 参照);ここでは 0.6 を用いて計算)。

これより、今回の解析の検出下限値は 100 個/L となる。

その他、ナノ炭素材料塗布 PET シート切断時に対照地点で捕集した粒子、PET シート切断時に

切断部近傍及び対照地点で捕集した粒子についても、電子顕微鏡観察を行ったが、特に変わった

粒子は観察されなかった。

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図 3.10.7 ナノ炭素材料塗布 PETシート切断時に切断部近傍で捕集した粒子の電子顕微鏡写真

注:黒い丸はフィルタの穴

<まとめ>

ナノ炭素材料塗布 PET シート切断時に、切断部近傍(約 10 cm)及び離れた場所(対照地点)の粒子

を計測したが、ナノ炭素材料の排出は認められなかった。

<今後の課題等>

炭素分析の温度設定条件では、NIOSH ベースの温度設定条件だと CNT が有機炭素として一部

検出されたことから、IMPROVE ベースの温度設定条件を採用し、また、各成分の分離(PET 成分

のテーリング等)を考慮して、各温度の保持時間は長めに設定した。しかし、分析時間を長くする

ことで、分析中における有機炭素の炭化の割合が増し、トラベルブランクの元素状炭素の値も高

くなり、検出下限が高くなってしまった。今回の評価のように、ナノ炭素材料の飛散がほとんど

想定されない場合(出ないことを検証するような場合)には、有機炭素の炭化が起きにくい保持時間

は短めの分析条件が望ましいかもしれない。

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3.11 グラフェンの炭素分析による定量

炭素分析によってグラフェンの定量が行えるかどうかを確認するために、数十~<200 µg のグラ

フェン粉末を石英フィルタに載せ、ウルトラミクロ天秤で秤量後にカーボンエアロゾル分析装置

(CAA-202M-D, Sunset Laboratory Inc., USA)により炭素量を定量し、炭素量と秤量値を比較した。

炭素分析の昇温条件は NIOSH5040 法及び IMPROVE 法を参考に表 3.11.1 のように設定した。得

られた炭素量とウルトラミクロ天秤による秤量値の比を表 3.11.2 に、炭素分析のチャートを図

3.11.1 に示す。ヘリウム雰囲気下で検出された炭素を有機炭素、酸素存在下で検出された炭素を

元素状炭素、その合計を総炭素として表した。総炭素量と秤量値の比は、炭素純度とほぼ同等の

値が得られた。グラフェンは主に元素状炭素として検出されたが、すべてを燃焼させるのには高

温で時間をかける必要があった。

このように、炭素分析によりグラフェンの定量は可能であると考えられた。

表 3.11.1 炭素分析の昇温条件

NIOSH5040 法ベース IMPROVE 法ベース

キャリアガス 時間[s] オーブン温度[°C]

時間[s] オーブン温度[°C]

He 80 310

150 250

He 80 475

150 450

He 80 615

150 500

He 180 870

150 550

He 45 550

– –

2% O2/He 45 550

150 550

2% O2/He 45 625

150 700

2% O2/He 150 700 (800*)

300 800

2% O2/He 300 800 (870*)

600 870

2% O2/He 300 870 (920*)

600 920

2% O2/He 120 (300*) 920 (950*) (300*) (950*)

* 集積膜のとき

表 3.11.2 炭素分析による CNT定量の評価

製品名、グレード、

製法

膜厚

[nm] 炭素純度

a

有機炭素/

秤量値 b

元素状炭素/

秤量値 b

総炭素/

秤量値 b

グラフェンナノ

パウダー8 nm

イーエムジャパン、

G-11、劈開 8 99.9% 1.62.0% 997% 1016%

グラフェンナノ

パウダー12 nm

イーエムジャパン、

G-12、劈開 12 99.2% 1.50.3% 962% 971%

グラフェンナノ

パウダー60 nm

イーエムジャパン、

G-13、劈開 60 98.5% 1.00.7% 972% 982%

グラフェンナノ

パウダー5-30 nm

イーエムジャパン、

G-14、劈開 5-30 97% 3.92.4% 894% 933%

グラフェン集積膜 TASC、液相プロセ

スにより黒鉛を剥離 20 97% 5.01.0% 956% 1006%

a 主に製造元の公称値、代表値 b 平均 標準偏差(n=3–4)、グラフェンナノパウダー5-30 nm は NIOSH5040 法ベースの結果、その他は

IMPROVE 法ベースの結果。

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図 3.11.1 グラフェンの炭素分析のチャート

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3.12 グラフェン粉末の移し替え模擬

グラフェン乾燥粉末の取り扱い時の飛散の例として、市販の剥離グラフェン(グラフェンナノパ

ウダー、G-14S、イーエムジャパン株式会社、比表面積:60 m2/g、純度:97%、平均フレーク厚:

5-30 nm、平均粒径(側部):~5-25 μm)を用いて、移し替えの模擬操作を行い、その飛散性を評価

するとともに計測技術の有用性を確認した(図 3.12.1)。

試験は、清浄空気を導入したグローブボックス内において、下記 i)、ii)の操作を 1 分ごとに交

互に 15 回繰り返した(所要時間:約 30 分)。

i) ステンレス製容器(小)に入った剥離グラフェン約 100 cm3(約 24 g)を、ステンレス製容器(大)に移

す(上部から落下)。

ii) ステンレス製容器(大)に集められた剥離グラフェンを、ステンレス製容器(小)に移す(注ぎ込む)。

移し替え操作の間、ボックス内の空気中に飛散した剥離グラフェンを、エアロゾル計測器によ

り計測した。濃度の経時変化を図 3.12.2 に示す。模擬操作開始(16:30)から濃度は上昇し、特に、

容器(小)から容器(大)への移し替え(落下)時に濃度のピークが見られた。デジタル粉じん計による

計測値は、手違いで記録がなされていなかったが、700~800 μg/m3程度の値を示していた。

石英フィルタに捕集した吸入性粉じんの炭素分析により、吸入サイズのグラフェンの総発じん

量は 580 μg と計算された。これは元の粉末の質量の 0.0025%に相当する。また、試験時のボック

ス内空気中の元素状炭素濃度(発じん量を 30 分間分の積算空気流量で割った値)は 1.9 mg/m3であ

った。この値は、デジタル粉じん計やブラックカーボンモニタによる計測値より高かった。デジ

タル粉じん計やブラックカーボンモニタは、対象とするグラフェンにより感度補正がなされてな

い場合には、過小評価する可能性がある。

走査型移動度粒径測定器(SMPS)と OPC により得られた飛散粒子の粒径分布を図 3.12.3 に示す。

球形相当として 100 nm 以下の粒子はほとんどなく、数百 nm~数 μm の大きさの粒子が主であっ

た。ポリカーボネートフィルタにより捕集した飛散粒子の SEM 観察においても、数百 nm~数 μm

の大きさのグラフェン凝集粒子が多く観察された(図 3.12.4)。

<まとめ>

グラフェン乾燥粉末の移し替えにより、数百 nm~数 μm の大きさのグラフェン凝集粒子の飛散

が起きることが確認された。エアロゾル計測器及び炭素分析によりグラフェン粉末の飛散を検出

できることが確認された。デジタル粉じん計やブラックカーボンモニタの計測値は、対象とする

グラフェンにより感度補正がなされていない場合には、過小評価となる可能性があることが示さ

れた。

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図 3.12.1 移し替え模擬操作による飛散試験の概要

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図 3.12.2 剥離グラフェンの移し替え模擬操作時の飛散粒子濃度の経時変化

CPC や OPC の粒子サイズは、厳密なものではなく、およその球形相当のサイズである。

ブラックカーボンモニタの値は時間と共に少しずつ低下しているが、高負荷による感度低下と思われる。

図 3.12.3 剥離グラフェンの移し替え模擬操作時の飛散粒子の粒径分布

移し替え操作 30 分間の平均値。粒子サイズは厳密なものではなく、およその球形相当のサイズである。

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図 3.12.4 移し替えの模擬操作により飛散した剥離グラフェンの形態(SEM像)

参考:フィルタに空いた穴(孔)の径は 0.2 μm

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3.13 グラフェン集積膜の切断模擬

剥離グラフェンの集積膜の切断時における飛散性を評価した(図 3.13.1)。

試験は、清浄空気を導入したグローブボックス内において、剥離グラフェン(TASC 作製、膜厚:

平均約 20 nm、炭素純度約 97%)の集積膜(φ37 mm、プレス後 3.8 枚分(計 183 mg)、プレス前 1.7

枚分(計 84 mg))をはさみで可能な限り細かく切断した。また、比較のためにはさみの空切り(1 回/

秒、1 時間)を行った。

エアロゾル計測器によるボックス内の空気中粒子濃度の計測結果を図 3.13.2 に示す。切断開始

前と比べて、切断時の粒子濃度の上昇はほとんど見られず、はさみの空切り時の方が濃度は高か

った。CPC で瞬間的な濃度上昇が少し見られたが、作業中を通しての継続性はなく、これは、手

袋を大きく動かした際に瞬間的にボックス内が負圧となり、ボックス外の粒子が隙間から流入し

たものと考えられた。

石英フィルタに捕集した吸入性粉じんの炭素分析では、元素状炭素量は検出下限未満であった。

吸入サイズのグラフェンの発じん量は、プレス後 3.8 枚切断とプレス前 1.7 枚切断のそれぞれにお

いて<0.45 μg となり、元の集積膜の質量のそれぞれ<0.0002%、<0.0005%であった。切断後の破片

の大きさは均一ではなかったが、大体 1 mm×5 mm 程度の大きさであったことから、仮にすべて

1 mm×5 mm に切断したと仮定すると、集積膜 1 枚当たりの総切断長さは約 1.3 m となる。この値

を使って集積膜 1 m 切断当たりの元素状炭素の発じん量を計算すると、プレス後 3.8 枚切断とプ

レス前 1.7 枚切断の結果から、それぞれ<0.09 μg/m、<0.2 μg/m となる。試験時のボックス内空気

中の元素状炭素濃度(発じん量を切断時の積算空気流量で割った値)は、プレス後 3.8 枚切断時が

<0.7 μg/m3、プレス前 1.7 枚切断時が<1.4 μg/m

3であった。

切断した集積膜の切断面の SEM 観察写真を図 3.13.3 に示す。切断面はミクロに見ると平面では

なく、重なりあったグラフェンの層が確認された。ポリカーボネートフィルタで捕集した飛散粒

子の SEM 観察では、層状の粒子が一部確認されたが(図 3.13.4)、剥離グラフェンかどうかの判断

は難しかった。

<まとめ>

集積膜の切断時に捕集した粒子の SEM 観察において層状の粒子(剥離グラフェンかどうかは不

明)が一部確認されたが、計測器や炭素分析では検出できないレベルであり、集積膜の切断時のグ

ラフェンの飛散は非常に起きにくいと考えられた。

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図 3.13.1 剥離グラフェンの集積膜の切断試験の概要

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図 3.13.2 剥離グラフェンの集積膜の切断時の飛散粒子濃度の経時変化

16:30 から開始。CPC や OPC の粒子サイズは、厳密なものではなく、およその球形相当のサイズである。

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図 3.13.3 剥離グラフェンの集積膜(プレス後)の切断面(SEM像)

図 3.13.4 剥離グラフェンの集積膜(プレス後)の切断時に捕集した気中粒子の形態(SEM像) 参考:フィルタに空いた穴(孔)の径は 0.2 μm

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略語表 APS aerodynamic particle sizer エアロダイナミックパーティクルサイザ

BCM black carbon monitor ブラックカーボンモニタ

CNF carbon nanofiber カーボンナノファイバ

CNT carbon nanotube カーボンナノチューブ

CPC condensation particle counter 凝縮式粒子計数器

EDX energy dispersive x-ray spectroscopy エネルギー分散型 X 線分析

ELPI electrical low pressure impactor 電子式低圧インパクタ

FID flame ionization detector 水素炎イオン化検出器

FMPS fast mobility particle sizer リアルタイム粒子解析装置

HEPA high efficiency particulate air (filter) 高性能(フィルタ)

HPLC high performance liquid chromatography 高速液体クロマトグラフィー

ICP-AES inductively coupled plasma - atomic

emission spectrometry

誘導結合プラズマ発光分光分析

ICP-MS inductively coupled plasma - mass

spectrometry

誘導結合プラズマ質量分析

ISO International Standard organization 国際標準化機構

NEDO New Energy and Industrial Technology

Development Organization

新エネルギー・産業技術総合開発機構

NIOSH National Institute for Occupational Safety

and Health

(米国)国立労働安全衛生研究所

OEL occupational exposure limit 職業暴露限界

OPC optical particle counter 光散乱式粒子計数器

REL recommended exposure limit 推奨暴露限界

SEM scanning electron microscope 走査型電子顕微鏡

SMPS scanning mobility particle sizer 走査型移動度粒径測定器

TASC Technology Research Association for

Single Wall Carbon Nanotubes

技術研究組合単層 CNT 融合新材料研究開

発機構

TEM transmission electron microscope 透過型電子顕微鏡

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ナノ炭素材料(カーボンナノチューブ、グラフェン)の排出・暴露評価の手引き

初版 2017年 2月

2017年 3月一部加筆

技術研究組合 単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)

〒305-8565 茨城県つくば市東 1-1-1

(国研)産業技術総合研究所つくば中央第五事業所内

国立研究開発法人 産業技術総合研究所、安全科学研究部門

〒305-8569 茨城県つくば市小野川 16-1

本書の複製・転載、および記載内容に関するご意見・ご要望は、(国研)産業技術総合研究所安全

科学研究部門までお問い合わせください。

<お問い合わせ> E-mail:

本書の内容は、(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託研究である「低炭素社会を

実現するナノ炭素材料実用化プロジェクト」(P10024)の成果です。

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本書は、(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から委託した「低炭素社会を実現するナノ炭

素材料実用化プロジェクト」(P10024)による研究成果です。