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道徳授業の改善に向けた指導のポイント

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平成22年6月14日(月) 平成22年度広島県道徳教育指導資料作成委員会 分野別作成部会(第2回) 道 徳 教 育 係 1 小・中学校における道徳の指導 (1) 小学校学習指導要領,中学校学習指導要領(平成20年3月告示)から 【 道徳教育と道徳の時間の役割 】 *「虫の音,小鳥の歌が美しいのも,人間の方に聞く支度があるからである。」 大仏 次郎『石の言葉』

全教育活動を通して行う道徳教育 道徳の時間の指導 道徳的実践をめざす(外面化) 道徳的実践力をめざす(内面化) ・道徳的行為として 具体的に表れるもの ・道徳的心情,道徳的判断力, 道徳的実践意欲と態度 ・~ができる ・~ができた ・~したい ・~しようとする気持ち

☆「第1章 総則」の「第1 教育課程編成の一般方針」の2 学校における道徳教育は,道徳の時間を要として学校の教育活動全体を通じて行うものであり,道徳 の時間はもとより,各教科,外国語活動(※中学校なし),総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて,児童(生徒)の発達の段階を考慮して,適切な指導を行わなければならない。 道徳教育は,教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき,人間尊重の精神と生 命に対する畏敬の念を家庭,学校,その他社会における具体的な生活の中に生かし,豊かな心をもち,伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と国土を愛し,個性豊かな文化の創造を図るとともに,公共の精神を尊び,民主的な社会及び国家の発展に努め,他国を尊重し,国際社会の平和と発展や環境の保全に貢献し未来を拓く主体性のある日本人を育成するため,その基盤としての道徳性を養うことを目標とする。 道徳教育を進めるに当たっては,教師と児童(生徒)及び児童(生徒)相互の人間関係を深めるとと もに,児童が自己の生き方についての考えを深め(生徒が道徳的価値に基づいた人間としての生き方に ついての自覚を深め),家庭や地域社会との連携を図りながら,集団宿泊活動(職場体験活動)やボラ ンティア活動,自然体験活動などの豊かな体験を通して児童(生徒)の内面に根ざした道徳性の育成が 図られるよう配慮しなければならない。その際に,特に児童が基本的な生活習慣,社会生活上のきまり を身に付け,善悪を判断し,人間としてしてはならないことをしないようにすることなどに配慮しなけ ればならない。(その際,特に生徒が自他の生命を尊重し,規律ある生活ができ,自分の将来を考え, 法やきまりの意義の理解を深め,主体的に社会の形成に参画し,国際社会に生きる日本人としての自覚 を身につけるようにすることなどに配慮しなければならない。) ☆「第3章 道徳」の「第1 目標」 道徳教育の目標は,第1章総則の第1の2に示すところにより,学校の教育活動全体を通じて,道徳 的な心情,判断力,実践意欲と態度などの道徳性を養うこととする。 道徳の時間においては,以上の道徳教育の目標に基づき,各教科,外国語活動(※中学校なし),総 合的な学習の時間及び特別活動における道徳教育と密接な関連を図りながら,計画的,発展的な指導に よってこれを補充,深化,統合し,道徳的価値の自覚及び自己の生き方についての考えを深め(道徳的 価値及び人間としての生き方についての自覚を深め),道徳的実践力を育成するものとする。 ※ ( )は中学校

道徳授業の改善に向けた指導のポイント

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(2) 学校段階における重点の明確化と道徳教育(小・中学校学習指導要領解説-道徳編-(平成20年8月)より) 道徳教育は全ての学校段階において一貫して取り組むべきものであり,幼稚園,小・中・高等学校の学校段階や小学校の低・中・高学年の各学年段階ごとにその重点を明確にし,より効果的な指導が行われるようにする必要がある。 (3) 道徳性の発達と指導のポイント ☆ 学習指導要領解説 道徳編から 道徳性の発達は,他者や社会と調和した形で自分の個性を発揮できるようになることである。 【 道徳性の発達のために必要な力 】

○幼 稚 園:規範意識の芽生えを培う ↓ ○小 学 校:生きるうえで基盤となる道徳的価値観の形成を図る指導を徹底するとともに自己の 生き方についての指導を充実する ↓ ○中 学 校:思春期の特質を考慮し,社会とのかかわりを踏まえ,人間としての生き方を見つめ させる指導を充実する ↓ ○高等学校:社会の一員としての自己の生き方を探求するなど人間としての在り方生き方につい ての自覚を一層深める指導を充実する

(1) 他者と調和的な関係を保ち,自分なりの目標を持って,人間人間人間人間らしくよりよくらしくよりよくらしくよりよくらしくよりよく生きていこうとする気持ち (2) 自他の欲求や感情,状況を受容的受容的受容的受容的・・・・共感的共感的共感的共感的にににに理解理解理解理解する力, (3) 自分の欲求や行動を自分で調整調整調整調整しつつ,共共共共にににによりよい未来をつくっていこうとする力

【道徳性の発達】 ○ 他律から自律への方向をとる。(基本的に) ○ 判断能力から見ると ・結果を重視する見方から動機をも重視する見方へ ・主観的な見方から客観性を重視した見方へ ・一面的な見方から多面的な見方へ など 自分自身を見つめる能力 相手のことを考える能力や相手のことを思う能力 感性や情操の発達 社会的な経験や実行能力 社会的な期待や役割の自覚 など

道徳性の育成(特に,基本的な生活習慣,規範意識,自他の生命の尊重,自分への信頼感, 他者への思いやりなど) ※課題:法やルールの意義やそれらを遵守することなどの意味を理解し, 主体的に判断し,適切に行動できる人間を育てることなど

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【 子どもの発達段階ごとの重視すべき課題 】(子どもの徳育の充実に向けた在り方について(報告)から) 発達段階 重 視 す べ き 課 題 乳幼児期 ・愛着の形成 ・人に対する基本的信頼感の獲得 ・基本的な生活習慣の形成 ・十分な自己の発揮と他者の受容による自己肯定感の獲得 ・道徳性や社会性の芽生えとなる遊びなどを通じた子ども同士の体験活動の充実 小学校 低学年 ・「人として,行ってはならないこと」についての知識と感性の涵養や,集団や社会のルールを守る態度など,善悪の判断や規範意識の基礎の形成 ・自然や美しいものに感動する心などの育成(情操の涵養) 学童 期 小学校 高学年 ・抽象的な思考の次元への適応や他者の視点に対する理解 ・自己肯定感の育成 ・自他の尊重の意識や他者への思いやりなどの涵養 ・集団における役割の自覚や主体的な責任意識の育成 ・体験活動の実施など実社会への興味・関心を持つきっかけづくり 青年 前期 中学校 ・人間としての生き方を踏まえ,自らの個性や適性を探求する経験を通して,自己を見つめ,自らの課題と正面から向き合い,自己の在り方を思考 ・社会の一員として他者と協力し,自立した生活を営む力の育成 ・法やきまりの意義の理解や公徳心の自覚 青年 中期 高等 学校 ・人間としての在り方生き方を踏まえ,自らの個性・適性を伸ばしつつ,生き方について考え,主体的な選択と進路の決定 ・他者の善意や支えへの感謝の気持ちとそれにこたえること ・社会の一員としての自覚を持った行動 2 「道徳の時間」の指導 (小・中学校学習指導要領 解説 道徳編から) (1) 基本方針 小 学 校 中 学 校 道徳の時間においては,各教科,外国語活 動,総合的な学習の時間及び特別活動における道徳教育と密接な関連を図りながら,年間指導計画に基づき,児童や学級の実態に即して,人間味のある適切な指導を展開しなければならない。 道徳教育の要としての道徳の時間は,学校の教育活 動全体を通じて行う道徳教育を補充,深化,統合する時間であり,年間指導計画に基づき,生徒や学級の実態に即し,道徳の時間の特質に基づく適切な指導を展開しなければならない。 ア 道徳の時間の特質を理解する。 イ 信頼関係や温かい人間関係を基盤におく。 ウ 児童が自己への問い掛けを深め,未来に夢や希望をもてるようにする。 エ 児童の発達や個に応じた指導を工夫する。 オ 道徳の時間が道徳的価値の自覚を深める要となるよう工夫する。 カ 道徳教育推進教師を中心とした指導体制を充実する。 キ 児童とともに考え,悩み,感動を共有し,学び合うという姿勢をもつ。

ア 道徳の時間の特質を理解する。 イ 信頼関係や温かい人間関係を基盤におく。 ウ 生徒の内面的な自覚を促す指導方法を工夫する。 エ 生徒の発達や個に応じた指導方法を工夫する。 オ 道徳の時間が道徳的価値の自覚を深める要となるよう工夫する。 ・体験を生かすなどの多様な指導方法の工夫をする ・他の教育活動との関連を図る工夫 カ 道徳教育推進教師を中心とした指導体制を充実する。 キ 指導に当たっての基本的姿勢について理解を深め指導に当たる。

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(2) 道徳の時間の特質 ※ 子どもが主体的に道徳的価値の内面化をすすめることができる道徳授業

道徳授業は 「 か・き・く・け・こ 」 【 道徳の時間を進めるときの構え 】 ○ 子どもの発言を「ほめる」から「認める」へ・・・自由に何でも言える雰囲気を ○ 教える構えではなく心を耕す構えで・・・・・・・教師も自分を語る「共育」の構えを ○ よりよくなろうとする子どもを信頼して・・・・・1時間での変容を期待しすぎない (3) 児童生徒から見た道徳の授業 ○ 子どもたちが「楽しい」「ためになる」と感じる授業 ○ 子どもたちが「楽しくない」「ためにならない」と感じる授業

小 学 校 中 学 校 道徳の時間は,児童一人一人が,一定の道徳的価値の含まれるねらいとのかかわりにおいて自己を見つめ,道徳的価値の自覚及び自己の生き方についての考えを発達の段階に即して深め,内面的資質としての道徳的実践力を主体的に身に付けていく時間である。 道徳の時間は,生徒一人一人が,一定の道徳的価値の含まれるねらいとのかかわりにおいて自己を見つめ,道徳的価値を発達の段階に即して内面的に自覚し,それに基づいた人間としての生き方についての自覚を深め,主体的に道徳的実践力を身に付けていく時間である。

・先生の話ばかりで面白くない。 ・文章を読んで感想を書くだけだから。 ・自分の人生に役立ちそうもない。 等

【小学校】○今まで気付かなかった大切なことに気付いたり,感動したりすることができる。 ○資料が興味深く,心をうつものが多い。 ○自分の体験と重ね合わせて考えてみたり,自分だけでなく他の人もそうなんだなあと感じたりすることが多い。 【中学校】○今,悩んでいる生き方の課題に合致した内容である。 ○自由で活発な話し合いができる。 ○自分のよさ,友だちのよさが認識できる。 ○今まで,気付かなかったりしたことに気付いたり,感動したりできる。 ○一つのことを,じっくりと考え自分を見つめられること。

特質① 児童生徒一人一人が自己を見つめる 特質② 児童生徒が価値を内面的に自覚する(自己の考え,人間としての生き方) 特質③ 児童生徒が主体的に道徳的実践力を身に付けていく きける・いえる かんがえられる集団へ か・・・感動,葛藤 き・・・共感,疑問,気付き,驚き く・・・食い込み け・・・経験の振り返りと生かし こ・・・交流,こだわるな

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【 道徳の時間の構想 】 学習指導要領 解説 (学習指導案作成) ○ねらいの検討 ○指導の要点の明確化 ○資料の吟味(※) ○学習指導過程の構想 ・発問 ・全体の展開 ○一人一人を生かす工 夫 ○板書計画 ○事前・事後の押さえ や指導 ねらいとする価値に気付かせ,どのようにして道徳的価値の自覚を深めさせていくかを考えるには,資料分析を欠かすことはできない。主人公の道徳的な見方や考え方について,資料中のどの場面に着目して,どのように考えさせていくかが重要だからである。そのためには,扱う資料について多面的に検討することが必要なのである。 【 資料の吟味 】小・中学校学習指導要領解説 道徳編から

・観察,アンケートなど ・社会の要請,担任の思いなど

・活用する場面を明確に ・子どもの実態,道徳 ・子どもの意識の流れに 性の傾向をもとに 沿って一貫性を ・各段階のねらいを 明確に 例 ・役割演技の活用 ・資料提示の方法 ・学習シートの工夫 ・討議の形式や方法 など

子どもの実態をつかむ 教師の願いをまとめる 資料を選ぶ 資料分析をする 発問の構成を考える 指導過程を考える 段階における指導方法を工夫する 事前指導・事後指導について考える

ねらい の再検討 道 徳 の 時 間 を ど う 構 想 す る か

・展開(流れの中心) ・導入 ・終末

【小学校】 資料について,ねらいとのかかわりで道徳的価値がどのように含まれているかについて検討する。例えば,人物が登場する読み物資料の場合,資料中の登場人物の行為や心の動き,資料に対する児童の感じ方や考え方などを分析し,どのようにすれば児童の学習意欲を高め,道徳的価値の自覚を深めることができるかなどについて多面的に検討する。 【中学校】 ねらいとのかかわりで道徳的価値がどのように含まれているか,生徒の実態に適合しているか,更に資料をどのように活用すれば,生徒の学習意欲を高め,授業に深まりと広がりをもたせることができ,道徳的価値及びそれに基づいた人間としての生き方についての自覚を深めさせることが可能かどうかなどの観点から検討を加える。例えば,読み物資料を利用する場合,資料の筋を追って登場人物の心情の変化を推し量るだけでなく,人間としての生き方に関わって生徒に何を考えさせるのかという視点で資料を吟味することが大切である。

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【 道徳の時間で陥りやすい発問での問題 】 ※ 次のような発問は,授業の雰囲気を損ねたり,深まりが得られない場合もあるので留意したい。

3 読み物資料の利用 (1) 多様な読み物資料を生かした指導(小学校学習指導要領 解説 道徳編から) 多様な読み物資料による学習指導(中学校学習指導要領 解説 道徳編から) (2) 資料内容に基づく分類

1 「~してしまったことはないか」などと,マイナス経験を問い,暗い導入になる。(懺悔させる発問) 2 「~はどうしたか」「~は何か」という閉じられた発問を繰り返し,浅い読解になる。 (資料の筋を追う発問) 3 「~はなぜか」などと,理由や原因を繰り返し問い,内面の掘り下げが弱くなる。 4 「~の気持ちはどうか」と心情を平板に問い続け,授業のメリハリや中心が弱くなる。 5 「これからどうするか」などと決意を求め,押しつけ的な印象を残す。 6 その他 ・「明日から絶対に~すると約束できますか」(答えられない発問) ・「もしあなたなら飛び込んで助けますか」(行為のみを問題にする発問) ・「主人公のとった行動をどう思いますか。」(漠然とした発問) 道徳の時間では,登場人物の道徳的な行為を含んだ読み物資料を用いることが広く見られる。しかし,同じ読み物資料でも,詩,長文の物語や伝記,劇,実話,意見文など,多様な形式のものを用いることもできる。その資料を学習指導で効果的に生かすには,登場人物への共感を中心とした展開にするだけでなく,資料に対する感動を大事にする展開にしたり,迷いや葛藤を大切にした展開,知見や気付きを得ることを重視した展開,批判的な見方を含めた展開にしたりするなど,資料の特徴を生かした指導の手順や学習過程の工夫が求められる。 道徳の時間では,登場人物の道徳的な行為を含んだ読み物資料を用いることが広く見られる。しかし,同じ読み物資料でも,詩,長文の物語や伝記,戯曲,実話,論説文,インターネットによる資料など,多様な形式のものを用いることもできる。したがって,読み物資料を学習指導の中で効果的に生かすには,登場人物への共感を中心とした展開にするだけでなく,資料に対する感動を大事にする展開にしたり,迷いや葛藤を大切にした展開,知見や気付きを得ることを重視した展開,批判的な見方を含めた展開にしたりするなど,その資料の特質に応じて,資料の提示の仕方や取り扱いについて一層工夫が求められる。

① 実践資料・・・基本的生活習慣の確立や礼儀作法の定着に関するもので,その習得実践を直接志向する内容をもつもの。 ② 知見資料・・・価値や行動規範を具体的に提示し知識理解を求めるもの。 (価値理解を深める内容をもつ) ③ 葛藤資料・・・登場人物の心の葛藤に結末を与えず未解決の状態にとどめておき,自分ならその葛藤状況をこう解決する,と判断させるもの。(対立葛藤場面を中心に構成) ④ 感動資料・・・学習者の心情に訴え,感動を引き起こして実践意欲を高めるもの。 ※ 内容を厳密に吟味すれば,二つ以上の類型に同時に当てはまる場合もあるが,一つの類型に分類され位置付けられる。 ※ 「資料類型」:宮田丈夫(1966)『道徳教材の類型と指導』明治図書による (ただし,宮田は「資料」とせず,「教材」という語を用いている。)

○ 実践資料 ○ 知見資料 ○ 葛藤資料 ○ 感動資料

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(3) 資料の活用類型 ◎ 資料利用の留意点(資料の内容との関連で) 内容が外国や歴史的に古いもので,児童生徒になじ みのないものであれば,社会状況,地理的条件,歴史 的背景などの解説を加えて用いる必要がある。 4 道徳的価値の自覚と発問 道徳の時間は,高められたねらいとする道徳的価値に照らして今までの自己を見つめ,道徳的価値について自覚を深めることをねらう学習の時間である。

「うそをついてはいけない」 「約束やきまりは守らなければいけない」 ・・・など道徳的価値の一つ一つについてみれば,子どもたちは知っていることが多く,また,具体的な行動についてもどうしたらよいか知っているができないことも多い。道徳的価値についての自覚を深めるということは,知識として知っていることだけではない。知識として知っている道徳的価値が,自分とのかかわりの中で自分自身の生き方として本当に大切であると感じ,意識することである。また,子どもたちが単に行為や行動の問題として受けとめることではなく,自分はどんな人間か,どんな人間になりたいかなど,人間の生き方にかかわり,自らの行動や行為の基準となる価値観を自分の内面に問いかけその在り方を変えていくことである。 自覚を深める発問は,道徳の時間の指導を考える場合,中心的課題であり,子ども自身が自らの内面に問いかけをするような発問の工夫が重要である。 「自覚」とは,自分自身を他人や外界と区別し,自己を客観化し,自己を意識することである。道徳の時間では,資料に登場する人物や友人の意見や感じ方,考え方と自分の感じ方,考え方,行動や意欲などを比較・対比することによって自己を客観的に見ることができる。そのためには,

(1) 自分自身の感じ方や考え方を明確にしておくことが大切である。ねらいとする道徳的価値にかかわる,たてまえでない,本当の自分自身の実感や本音に基づく感じ方や考え方,気持ち,行動のあり方や生き方などに気付かせることが必要であり,そのための発問が考えられなければならない。 (2) 資料中の登場人物や友人などの様々な表現(発言・行為など)を人間の持つ弱さ醜さや美しさ,気高さ,悩みや苦しみ,喜びや感動など,人間らしさを基に自分を投影したり共感したりさせて,自分とかかわらせ,その中でより積極的に,主体的に道徳的な行為や生き方について感じさせたり,考えさせるような発問の工夫が必要である。 (3) 話合いを中心とする学習活動では,自他とのかかわりの中でそれぞれに比較したり,対比したりしながら,ねらいとする道徳的価値に気付き,深く感じたり考えたり,理解させるような発問が必要である。 (4) 自らにも道徳的価値(よりよく生きようとする)を求める心があり,道徳的価値の実現の喜びがあることに気付かせるような発問を考えることが大切である。

資料の利用方法はさまざまに考えられるが,それぞれの資料のもつ特質に基づいて,活用の仕方を類型化する考え方がある。 ① 共感的活用・・・資料の内容(登場人物の言動など)に共感させて,自分の価値観(授業でね らいとする価値に関しての価値観)に気付かせ,自覚を促すもの。 ② 批判的活用・・・批判的にとらえさせて自分を振り返ったり,道徳的価値をより深くとらえさ せようとするもの。(互いの意見を交わし合わせることを通して) ③ 感動的活用・・・深い感動を得させるもの。(子どもの感動を特に重視) ④ 範例的活用・・・一つの範例的事例として受け取らせようとするもの。 ※ 「資料の活用類型」:青木孝頼(昭和50年秋)全国小学校道徳教育研究会全体講演で提唱。 ※ 同じ資料でありながら指導者によって異なる活用の仕方が選択される。 指導者には,資料内容の分析理解にとどまらず,その背景など幅広い事前の資料研究が重要である。

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このように,人間のあるがままの姿とかかわり,子どもたちが自分自身の実感や本音を大切にし,それをよりどころに自らの内面に問いかけ,人間としての生き方,在り方にかかわる道徳的価値に気付き,理解できると,その道徳的価値に照らして今までの自分はどうであったのか,今の自分は,これからどうしていけばよいのかなど,自らを見つめ振り返るための発問が必要となる。それは,自覚をするためには自分を他と比較したり,対比し,その上で断定することが必要であるからである。 自己を断定することは,自分の考え方や感じ方のよさや,浅さや狭さ,鈍さなどに気付き,また,価値を実現することのできなかったことにかかわり,なぜできなかったのかという反省や価値を実現したり,自分の内面に気付き豊かになった喜びや自身を持ち,さらによりよい自分になりたいという意欲を持つことに発展する。それはまた,自分自身の持つ価値観の組織化や再構成,価値観の形成につながり,やがて,人格化され,自らの生き方・在り方として生かされていくものであろう。 したがって,自己を見つめ,振り返るための発問を準備することは,より自覚を深めるためには欠かすことはできない。

【 一般的な指導過程と発問 】 段階 発問のはたらき 発 問 の 種 類 導 入 気付 く ○主題に対する意欲付け ○学習の雰囲気づくり ○ ねらいに向けての動機付け ・興味・関心を起こさせる発問 ・ねらいに関する経験や事実を問う発問 ・資料にかかわる発問や説明 ・考える視点をそろえ,課題の共通化を図る発問(助言) ☆ 資料の理解にかかわる発問 ☆ 人間の自然性にかかわる発問 ☆ ねらいとする道徳的価値にかかわる発問 ○道徳的価値に気付かせる ○道徳的価値を追求し,そのよさを受け入れ,それをもつ喜びに目をむけさせる。(多くの場合,中心発問として位置付く) 展 開 前 段 ね ら い と す る 価 値 の 追 求

○問題の意識化,共通化を図る ○自分なりの感じ方や考え方をもたせる ○多様な価値観に出会わせる ○他と比較し考えさせる ○改めて自分の感じ方や考え方をもたせる ・資料中の事実や場面,状況,あらすじを問う発問 ・資料提示後の感想,考え方,意見,問題点を問う発問 (登場人物の心情,判断,考えなど) ・それに対する動機や心情,理由,意欲などを問う発問 ・児童生徒の発言や反応を生かした発問 ・視点の転換や方向付け,発想の糸口を与える発問 ・自分の考え方はどうなのか,どれに近いのかを問う発問 ☆ ねらいとのかかわりで,自分自身を見つめ,自分の問題として受け止めさせる発問 展

開 後 段

自 分 を見つめる ○ねらいとする価値に照らして今までの自分を見つめさせる ・ねらいとする価値にかかわって,今までの自分を見つめさせる発問

直接経験を問う(~したことがあるか,~されたことがあるか) 間接経験を問う(見たこと,聞いたこと) ・そのときの気持ちや考え等を問う ・今,そのことをどう思うかを問う 終 末 まとめる ○生活への移行,発展への意欲化 ○まとめる ・今日の授業についての感想を問う ・今日の授業で強く心に残ったことを問う

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5 道徳の時間における発問の類型 (1) 事実や経験などを問う。 導入導入導入導入でねらいに気付かせたり,視点をそろえる場合や,展開後段展開後段展開後段展開後段で自己を見つめさせる場合に使われることが多い。 「・・・したことがあるか。」「・・・をどう思うか。」「・・・を知っているか。」 「どんなことだったのか。」「何が問題なのか。」 など (2) 場面状況を問う。 「だれとだれが出てきたのか。」「そのときの様子は。」「だれがどうしたのか。」 など 展開前段展開前段展開前段展開前段で問われることが多い。資料提示が適切で児童生徒にその場面・状況等がイメージできれば必要のないこともある。 (3) 心情を問う。 展開前段展開前段展開前段展開前段で資料中の人物に託して自分の思いや感じ方を語らせたり,展開後段展開後段展開後段展開後段で自己を見つめ,振り返る際などに使われ,基本発問や中心発問となる重要な発問である場合が多い。 「どこに心を打たれたか。」「どんな気持ちなのだろう。」「そのときの気持ちは。」 「どんな感じ。」「どう思ったのだろう。」 など (4) 考えや理由,関連や判断を問う。 前項前項前項前項とととと同様同様同様同様の使われ方が多く,重要な発問である。 「なぜ・・・したのか。」「そのときどんなことを考えていたのか。」 「なぜそう考えるの。」「そのことをどう考えるの。」 「○○と比べて,どっちがどう。」「どうすればいいの。」 など (5) 予想や原則を問う。 展開前段展開前段展開前段展開前段とととと後段後段後段後段のののの間間間間に用いられることが多く,児童生徒の意見や発言を整理したり,まとめたり,秩序付けたりするときにも使われる。 「もし自分だったらどうするの。」「それから後どうしたろう。」 「そのことはいつでも,どこでも,だれでもいいのかな。」「まとめてみると。」 など (6) 子どもの反応を生かしながら問う。 いわゆる「切り返し」とか「揺さぶり」の発問と呼ばれるものであるが,児童生徒の反応(表現・発言等)を使うので,児童生徒自身にかかわりが深く,適切な発問は児童の主体的な学習に効果的である場合が多く,彼らの感じ方や考え方を深めたり,広げたりすることができる。 また,考えるヒントを与えたり,視点の変換や方向付けをすることもできる重要な発問。 「○○さんは・・・といっているがみんなはどう思う。」 「○○さんの意見について考えてみよう。」 「君はそれでいいの。先生は△△と思うがどうだろう。」 「君は・・・と考えたんだね。とか,児童生徒の発言をそのまま繰り返す。」 「発言を要約する。」「発言の内容を明確にして問い直す。」 など

☆ ねらいを明確に,焦点化する 児童生徒の実態を理解,把握し,教師自身の考えを明らかにして,道徳的心情,判断力,実践意欲・態度のどこに重点をおくのかを明らかにしておく。 ☆ 何を,いつ,どこで,なぜ問うのかを明確にする ☆ どう問うのかを考える

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(7) 自己を見つめ,振り返らせる発問 一般的には展開展開展開展開のののの後段後段後段後段で使われることが多く,ねらいとする道徳的価値にかかわり,今までの自分の経験(直接経験・間接経験)を問い,自己を振り返り,見つめ,価値の一般化や自覚を図ることに用いられる。その際,ただ行為や事実のみでなく,そのとき,それに対する自分の感じ方や考え方,価値観などについて問うことが大切である。 (8) 本時のまとめの発問 本時の授業で心に強く響いたり,心に残っていることを問うとか,授業の感想を問う。本時のまとめまとめまとめまとめのみでなく,意欲意欲意欲意欲とととと態度態度態度態度につなげるにつなげるにつなげるにつなげることも考える。 6 発問の工夫のポイント ねらいとする道徳的価値にかかわり,自己を意識させるための発問をどう工夫するかが発問のポイントとなる。 (1) 何について,どう意識させるかを考える。 子どもの実態をよく把握し,実態に即し,ねらいを焦点化しておくことが大切である。 ○ 意識の対象として道徳的心情をねらうのか,道徳的判断力に焦点を置くのか,道徳的実践意欲と態度を重点とするのか。 ○ 例えば 「友だちと仲良くし,助け合う」という内容項目では,「友だちとは」 ということに重点を置くのか,「仲良く」 ということにか,「助け合う」 に焦点を置くのか,などを検討しておくことが必要であり,それによって発問の構成も異なってくる。 さらに,発問の発展性や一貫性という観点から基本発問,中心発問,補助発問等の発問相互の関係も吟味しておくことが重要である。 (2) 何をどう発問するのかを明確にする。 道徳の時間では,一般的に資料を通しねらいとする道徳的価値の追求が行われる。資料には人間のもつ心の弱さや醜さ,美しさや正しさ,そして,その中で悩んだり苦しんだりする姿や行為が描かれ,そこにはキーポイントとなるような表現がされていることが多い。 その資料をどう読むか,見るかが重要である。教師の読みや願いと子どもの読みや見方・考え方は必ずしも一致するとは限らず,むしろ相違があることが多いのではないか。そこで,教師は子どもにその資料をどう読ませ,どう見させるか,資料提供の工夫や,いつ,どこで,何のために,何について,どう発問するか,を考えることが大切である。 (3) 子どもの心を理解した発問 自覚し,意識するのは一人一人の子どもであり,その子どもは一人一人生育歴も生活環境も異なり,ものの見方,考え方,価値観や性格等も違っている。平素から子どもの心を理解し,温かな人間関係に包まれた学級の雰囲気や教師との人間関係の必要なことはいうまでもないが,授業中は特に,教師が事前に客観的に把握している実態や心より,授業中の子ども一人一人のこだわりや心のゆれ・動き (例えば,どんなことに,なぜこだわるのか。どこで心がゆれたり動いたのか,それはなぜか。などを言語表言語表言語表言語表現現現現のみでなく,表情表情表情表情やややや態度態度態度態度などから) に留意しながら発問していくことが重要である。 (4) 子どもにとってわかりやすい発問 学習は子ども一人一人の中で成立する。したがって,漠然とした発問ではなく,子どもが今何を問われているのかがわかりやすく,自分の問題として主体的に考えようとするような発問でなければならない。

人間の行動は動詞で表現されるが,その動詞を修飾して内面的な心の動きを表現するのは副詞や副詞句である。そこに注目して発問を構成することで,道徳的価値への深い迫り方が可能になる。

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① 何を問うているのかが明確であること ア 事実認識や場面・状況を問うのか 過去の経験に想起や資料のどこを,どう見るか。イメージがわくようにする。 いつ,どこで,だれが,何を,どうして,どうなった。 など イ 思考を促したり,考えや心情を深めるための発問なのか。 なぜ,どうして,そのときの気持ちは,どんな考えで,どちらが, どうしたろう。 など (a)心情を問う。・・・ ハッと驚く。これは大変だと気付く。そんなことあるの。 ○○に心を打たれた。感動した。それはなぜだろう。自分にもあるのか など。 (b)関係性を問う。・・・ なぜ,どうして,どのようになど。因果関係や関連条件,構造などを とらえさせる。 (c)原則性を問う。・・・ どこでも,いつでも,だれでもなど。 (d)人間性(価値観)を問う。・・・ 動機やきっかけ,理由や原因,登場人物の考えや心情,その ことの意味などを問う。 (e)自己を問う。・・・直接経験,間接経験。 ウ 判断を迫る発問なのか。 どっちが,なぜ,どうするのか。 など ② どのように問うか。 ア わかりやすく問う。 →何を問うているのか,何をどう答えればよいのか,発問の意図が的確に子どもに伝わるように。 イ 考えやすく問う。 →何をどう考えればよいのかを明確にする。(考えるための条件や着眼点,問題の焦点を明確にする。) 例えば,「どのようなことを」という問いは,どちらかといえば価値観を問い, 「どんなときに」という問いは,状況や判断にかかわり, 「どのようにした」というような問いは,行為や意志を問うことになる。 ウ 答えやすく問う。 →人間の持つ自然性(弱さや醜さなど)や価値への気付きを大切に。 自他のプライドや人格を傷つけたり,秘密に触れるような発問はさける。 エ 多様な価値観が出るように問う。 →正誤や一定の回答を求めるものではなく,自分の経験等に照らし,様々な感じ方や考え方の出るように。 オ 発展性や一貫性のある問いを →前の発問が次の発問の条件になったり,きっかけとなり,次第に広まり,深まり,自己を見つめるように。 ☆ 道徳の授業に際して,これらの発問のポイントをどう組み合わせていくかが大切である。 しかし,そのそのそのその組組組組みみみみ合合合合わせはわせはわせはわせは,,,,心心心心のののの問題問題問題問題にかかわるにかかわるにかかわるにかかわる道徳道徳道徳道徳のののの時間時間時間時間ではではではでは,,,,そのときそのときそのときそのとき,,,,そのそのそのその場場場場でででで異異異異 なりなりなりなり,,,,どこでもどこでもどこでもどこでも,,,,いつでもいつでもいつでもいつでも通通通通ずるようなずるようなずるようなずるような万能万能万能万能なななな方法方法方法方法はないはないはないはない。。。。

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【 引用文献 】 ・文部科学省(平成20年)「小学校学習指導要領」 ・文部科学省(平成20年)「中学校学習指導要領」 ・文部科学省(平成20年)「小学校学習指導要領解説 道徳編」 ・文部科学省(平成20年)「中学校学習指導要領解説 道徳編」 ・文部科学省(平成14年)道徳教育推進指導資料『小学校 心に響き,共に未来を拓く道徳教育の展開』 ・文部科学省(平成14年)道徳教育推進指導資料『中学校 心に響き,共に未来を拓く道徳教育の展開』 ・文部科学省(平成21年)「子どもの徳育の充実に向けた在り方について(報告)」 【 参考文献 】 ・大西文行編(1991)『新・児童心理学講座9 道徳性と規範意識の発達』金子書房 ・日本道徳性心理学研究会編(1992)『道徳性心理学』北大路書房 ・小寺正一/藤永芳純(2001)『新版道徳教育を学ぶ人のために』世界思想社 ・瀬戸真(編)(昭和61年)「新道徳教育実践講座・1 自己を見つめる」教育開発研究所 ・青木孝頼(昭和63年)『道徳で心を育てる先生』図書文化社 ・押谷由夫(1999)『新しい道徳教育の理念と方法』東洋館出版社 ・廣瀬 久(1999)『道徳的価値の自覚を深める発問の工夫』明治図書