大容量蒸気タービンの材料について - hitachiu.d.c.るる9.15.0柑.45:る21.1占5...

10
U.D.C.るる9.15.0柑.45:る21.1占5 大容量蒸気タービンの材料について Materials for Large Steam Turbine 司* YasujiKawada 最近蒸気タービンほ次第に高温,高圧,大容量となりつつあり,超臨界圧力プラントが出現するまでになっ ている。こうした著しい火力の進歩に即応して日立製作所においてほ,大容量タービンの材料に関して種々の 研究および検討を行ない,できるだけ強度の高い優秀な材料の出現に努力している。本文においては材料面よ り見た場合,オーステナイト系材料を用いなくとも566℃までの一再熱タービンの製作に関Lて,日立製作所が 十分な使用標準材を有していることを述べ,あわせて耐熱材料の研究態勢と〕守来の研究方向についての私見を 述べる。 1.緒 わが国の発掘量は今後の1二葉の発展を考えると,いまだ十分とは いえず,今後ますます増大することが考えられる。また一方国内にお ける水力発電の有利な開発地点がほとんど残されていないことや, 将来において原子力発電が実用化されるようになったときこれに用 いられる原動磯が,蒸気タービンであることを考えあわせると,熱 効率の高い発電原価の安い大容量,高能率タービ/の出現が,ます ます必要になってくると考えられるn 以下においで拝者ほ,これら大容量,高能率タービンの製造に閲 し,材料面より見た場合日立製作所が十分な検.汁のもとにその使用 標準を定めていることを述べ,あわせて蒸太タービンの材料の使い わけについて述べるものである。 2.主 ∃三蒸気管はタービンの部品中最も高温にさらさ々tるため,高温に おける諸性質が良好でなくてほならない。主蒸気管材としては高温 におけるクリープ強度を増加させ黒鉛化あるいはスケーリングに対 する耐久性を増加させるなどの意味のもとにMoおよぴCrを入れ た材料を使用している。クリープ強度に関してほ,10,000時間の Rupture強度を基礎にして蒸気管の強度を決定している。これは 主蒸気管がタービンの回転部分のごとくわずかなクリープ伸びの イ♂ へ㌔ヾぜ) nU 八=∂ ハβ J付 J♂ J2 Jイ JJ 〃β P=r(2…吋己)ズ′β‾J パラメータ 月=T(20+10gf)×10‾8 450℃ 500℃ 100 1,000 10,000 100,000 32.58 34.06 35.54 37.02 600℃ 650℃ 1 700℃ 34.56 36.13 37.70 39.27 36.54 38.20 39.86 41.52 第1図 2%Cr-1Mo鋼のMaster破断曲線 38.52 40.27 42.02 43.77 日立製作所日立工場 ために,他の部rl占と接触する恐れのあるものと異なるためであ f),GE杜のA.W.Rankin氏もこの点を特に指摘している。しか し100,000時間のRupture試験を行なうことほ,試験時間として連 続10年以上を要するので実際にほ不可能なことである。このため 実用上はもっと短時間の試験を行なって100,000時間のRupture強 度を推定しているが,これにはLarson&Miller法と呼ばれる方 法があり,Master破断曲線上に整理される。日立製作所において ほ数千時間の試験時間をもってその強度の推定を行なっている。一 例として第】図に2%Cr-1Mo鋼のMaster破断曲線を示す。 第1表は,日_1ソニ製作所における主蒸気管の材料と使用範囲を示し たものである-〕すなわち399℃以下ほ炭素鋼を,400~537℃に対し てほ1%Cr-%Mo鋼を使用している。538~566℃に対してほ2% Cr-1Mo鋼を用いている。すでに述べたが主蒸気管においては,クリ ープ強度を増す意味でMoを入れ,黒鉛化あるいはスケーリングに 第1表 主蒸気管材料の温度による使用区分 度(℃) 399以下 400~537 538~565 567以上 141- (渓こ訃登二軍Y一も草 へ㌔ヾ普)ルポ購蒜 ∩=U nJ 1滋Cr一舛Mo鋼 2払Cr-1Mo鋼 オーステナイト銅 uノ 伸び、 室/〟 2β♂J♂♂〃♂β ∫β♂ 〟♂ 7(7β 度(Dc) (N∈ざ・晋)些細軽 第2図 2%Cr-1Mo鋼主蒸気管の引張および衝撃値

Upload: others

Post on 25-Mar-2021

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 大容量蒸気タービンの材料について - HitachiU.D.C.るる9.15.0柑.45:る21.1占5 大容量蒸気タービンの材料について Materials for Large Steam Turbine 河

U.D.C.るる9.15.0柑.45:る21.1占5

大容量蒸気タービンの材料についてMaterials for Large Steam Turbine

河 田 安 司*YasujiKawada

内 容 梗 概

最近蒸気タービンほ次第に高温,高圧,大容量となりつつあり,超臨界圧力プラントが出現するまでになっ

ている。こうした著しい火力の進歩に即応して日立製作所においてほ,大容量タービンの材料に関して種々の

研究および検討を行ない,できるだけ強度の高い優秀な材料の出現に努力している。本文においては材料面よ

り見た場合,オーステナイト系材料を用いなくとも566℃までの一再熱タービンの製作に関Lて,日立製作所が

十分な使用標準材を有していることを述べ,あわせて耐熱材料の研究態勢と〕守来の研究方向についての私見を

述べる。

1.緒 ロ

わが国の発掘量は今後の1二葉の発展を考えると,いまだ十分とは

いえず,今後ますます増大することが考えられる。また一方国内にお

ける水力発電の有利な開発地点がほとんど残されていないことや,

将来において原子力発電が実用化されるようになったときこれに用

いられる原動磯が,蒸気タービンであることを考えあわせると,熱

効率の高い発電原価の安い大容量,高能率タービ/の出現が,ます

ます必要になってくると考えられるn

以下においで拝者ほ,これら大容量,高能率タービンの製造に閲

し,材料面より見た場合日立製作所が十分な検.汁のもとにその使用

標準を定めていることを述べ,あわせて蒸太タービンの材料の使い

わけについて述べるものである。

2.主 蒸 気 管

∃三蒸気管はタービンの部品中最も高温にさらさ々tるため,高温に

おける諸性質が良好でなくてほならない。主蒸気管材としては高温

におけるクリープ強度を増加させ黒鉛化あるいはスケーリングに対

する耐久性を増加させるなどの意味のもとにMoおよぴCrを入れ

た材料を使用している。クリープ強度に関してほ,10,000時間の

Rupture強度を基礎にして蒸気管の強度を決定している。これは

主蒸気管がタービンの回転部分のごとくわずかなクリープ伸びの

イ♂

へ㌔ヾぜ)

nU

八=∂

ハβ

J付

2β J♂ J2 Jイ JJ Jβ 〃β

P=r(2…吋己)ズ′β‾J

パラメータ 月=T(20+10gf)×10‾8

時 間 450℃ 】 500℃

100

1,000

10,000

100,000

32.58

34.06

35.54

37.02

600℃ 】 650℃ 1 700℃

34.56

36.13

37.70

39.27

36.54

38.20

39.86

41.52

第1図 2%Cr-1Mo鋼のMaster破断曲線

38.52

40.27

42.02

43.77

日立製作所日立工場

ために,他の部rl占と接触する恐れのあるものと異なるためであ

f),GE杜のA.W.Rankin氏もこの点を特に指摘している。しか

し100,000時間のRupture試験を行なうことほ,試験時間として連

続10年以上を要するので実際にほ不可能なことである。このため

実用上はもっと短時間の試験を行なって100,000時間のRupture強

度を推定しているが,これにはLarson&Miller法と呼ばれる方

法があり,Master破断曲線上に整理される。日立製作所において

ほ数千時間の試験時間をもってその強度の推定を行なっている。一

例として第】図に2%Cr-1Mo鋼のMaster破断曲線を示す。

第1表は,日_1ソニ製作所における主蒸気管の材料と使用範囲を示し

たものである-〕すなわち399℃以下ほ炭素鋼を,400~537℃に対し

てほ1%Cr-%Mo鋼を使用している。538~566℃に対してほ2%

Cr-1Mo鋼を用いている。すでに述べたが主蒸気管においては,クリ

ープ強度を増す意味でMoを入れ,黒鉛化あるいはスケーリングに

第1表 主蒸気管材料の温度による使用区分

温 度(℃)

399以下

400~537

538~565

567以上

【 141-

(渓こ訃登二軍Y一も草

へ㌔ヾ普)ルポ購蒜

∩=UnJ

主 蒸 気 管 材 料

炭 素 鋼

1滋Cr一舛Mo鋼

2払Cr-1Mo鋼

オーステナイト銅

uノ枚

さ強

伸び、

室/〟 2β♂J♂♂〃♂β ∫β♂〟♂ 7(7β

温温 度(Dc)

(N∈ざ・晋)些細軽

第2図 2%Cr-1Mo鋼主蒸気管の引張および衝撃値

Page 2: 大容量蒸気タービンの材料について - HitachiU.D.C.るる9.15.0柑.45:る21.1占5 大容量蒸気タービンの材料について Materials for Large Steam Turbine 河

570 昭和38年3月 日 立 論評 第45巻 第3号

畑作

β

へ叫∈ヾ音)

芸鶉

7占が川畑問72仙欄間∂βがcズ2時間/

、ご・、∠_ /

甜〆Cズ/時間

7鰍/鯛、\\、-ここ、、\、ミニミキ、、-、-

/♂♂ (♂ββ

横 断 日寺 問(カ)

叫♂♂♂

第3図 2妬Cr-1Mo鋼の焼入焼戻材のクリーフ

破断曲線(600℃)

U

男卓

/,2(フβ

ろ♂ββ

∂ββ

ざββ

4ββ

2ββ

β

〃∫

〔F

…/し

/ /♂ /β2 /〆

時 間 (∫)

第4図 2%Cr-1Mo鋼のCCT曲線と予熱温度を

変えた場合の冷却曲線との関係

対する耐久性を増加させるためにCrを入れるが,溶接件の点もあ

わせ考察するとCrほあまり増さない方がよい。

弟2図は2%Cr-1Mo鋼の高温強度を示す。引張強さは400℃ま

では温度の上昇につれてわずかに降下するが,それ以上になると急

減する。衝撃値は500~600℃で減少を示すが絶対値ほ高い。弟3

図は1,000℃から抽焼入れ後680,720℃またほ760℃で各時間焼

戻した試料のクリープ破断曲線を示す。焼戻温度が低いと短時間側

でほ高い破断応力を示すが,長時間側でほ急に減少する。720℃で

焼戻したものは全般的にゆるやかな曲線を示し,長時間側で高い破

断応力を有する。さらに焼戻し温度が上昇して760℃になると曲線

ほ急傾斜を示し,低応力で破断する憤向を示す。したがって,これ

らの結果からほ焼戻温度720℃が最もよいことがわかる。このこと

は鋼管を溶接した際の後熱処理に重要な指針を与える。

弟4図はCr-Mo鋼の連続冷却変態図と予熱温度を替えた場合の

熱影響部の冷却曲線との関係を示し,第5図ほ単層溶接部の掛ず試

験結果である。これから予熱温度を__l二げると溶接熱影響部の組織が

改善されるので曲げ角度が増加し靭性(じんせい)の増すことがわか

る。

3.タービンケーシングおよび主弁類ボディ

主蒸気管についで高温になるのほ主塞止弁,再熱塞止弁,中間阻

止弁など主弁類のホディおよぴケーシングの材料である。鋳鋼ケー

シングにおいてほ,その鋳造時にクラックの発生する場合があるの

でその構造はできるだけ簡単な構造をして,その製造上また検査上

作業のしやすい形状にする必要がある。また構造上その軸方向に温

度変化があるので作業のLやすい形状をとるとともに経済性をもた

nU

n‖U

ハリ

バリ

(しモ)仙月

‖y〃

α

へ0召)嘩肛一缶亜

「■■.■∃「.〆

/β♂L----+------一一一-+----------+一---------+-一一--]

βr /♂β 2♂β J♂♂ 〃ββ

予熱温度(OcJ

第5図 2%Cr-1Mo鋼の溶接部の曲げ試験結果

第2去 ケーシングおよびバルブボディ用材料の

温度による使用区分

温 度(℃)1 ケーシソグおよぴパルプボディ用材料

399以下

400~440

441~584

585以上

炭 素 鋼

%Mo 鋼

1仇Cr-1Mo鋼またほ1仏Cr-1Mo-仏Ⅴ銅

オーステナイト鋼

せた構造として蒸気室部分を上下に分割して溶接により一体とする

構造がとられている。したがってケーシング用材料の場合その高温

強度の優秀さと同時に良好な溶接性を有する材料でなくてはならな

い。

第2表は日立製作所におけるタービンケーシング材およびバルブ

ボディ材の使用標準を示したものである。

ケーシソグ材においては黒鉛化防止のためにCrを加えているが,

Cr含有量が増すと溶接性の困難が伴うし,また,Crを増加してもか

ならずしも高温強度は伴わない。むしろCr含有量は1%程度に押え

てⅤを添加する方が有効である。したがって崇鉛化防止のためには

Crを1%程度入れる。なお製鋼の際にはAlによる脱酸を行なわず,

Tiによる脱酸を行なうなどの方法も講ずる。また,低温における靭

性を失うことなく,高温における Rupture舐度の高いものを得る

必要があるので,最良の熱処理温度および時間を各材料につきS曲

線を求め,それを基にして定めることはもちろんであるが,そのほ

かケーシソグと蒸気宝あるいはバルブとパイプの間のように溶接に

より接続さjlる個所があるので,これら鋳鋼材の溶接性および溶接

前後における熱処理に関しても十分に検討する必要がある。日立製

作所においてほ溶接棒の検討を含めたこれら一連の研究を行ない,

信頼性のもてる作業基準にしたがってその製作を行なっている。

Cr-Mo-Ⅴ鋼の溶接にその例をとると,これに較似した成分の低

水素形の溶接棒を使用するが溶接に光だち250~300℃で十分に予

熱を行ない溶接の際にCrack発生の原因となる水素の拡散を十分

にしてやる。これにより溶接部の境界層に逃げ場を失った水素が,

袴閉されCrack発生の原田となるのを防ぐ。また,溶接部ほ溶接

後十分な焼戻しを行ない,残留応力の除去を行なう。このような予

熱,後熱を行なうことにより完全な溶接が行なわれ,また,溶接の

際の残留応力により使用中ケーシングの変形するのも防ぐことがで

きる。

また2%Cr-1Mo鋼に例をとり最高加熱温度1,200℃からの連続

冷却変態図と予熱したときの溶接熱影響部の冷却曲線を示すとそれ

ぞれ葬る図および弟4図のようになる。これによると予熱なしでは

熱影響部の冷却速度ほ速く,組織ほ大部分マルテンサイトで著しく

かたいが,予熱温度の上昇とともに冷却速度ほ小さくなり,マルチ

ソサイトは減少しベイナイト変態量が増し一方かたさは低下してじ

ん性が増す。予熱温度の決定に当たってはこれら金相学的検討に加

えて,さらに拘束き裂性試験を実施する。これによると溶接後溶接

-142一

Page 3: 大容量蒸気タービンの材料について - HitachiU.D.C.るる9.15.0柑.45:る21.1占5 大容量蒸気タービンの材料について Materials for Large Steam Turbine 河

大 容 量 蒸 気 タ

ク卓

八β♂♂

タ♂♂

βββ

7(フβ

イ♂♂

J〃β

2ββ

/ββ

β

月cJ

r

第6図

仰〃〃

〃∂∫

へ㌔ヾ卓)只

つに料材のソピー

√+F

√+β

血J/呵

聖去菓季血品Tg

/ク /β2 /βJ /〆

時 間 (∫)

2%Cr-1Mo鋼の恒温変態岡

シセ〟0

2(フ′/〟β

/Cr

/ど「始〟β

r:々∂〃〟/〃温度

f:時間(わ)

C一∫feeJ

/〟〃乙〃レ

/er/〟β

く々〟β紹レ

/〆

JC√ヰ〃〟β!〃′

2β Jβ J2 J〃 J♂ J』 イ♂

P二丁(Z川野…′〆J

第7図 各種鋳鋼のMaster破断曲線

〃√∈ヾ晋)仙潔蝋石

(訳)

pせ..も草

′′

/

/

〆′

/

引張鼓さ

リノ枚

伸び

d

p

衝撃値

/♂β 2(7(7 J♂β 〃ββ ∫ββ ♂ββ

温 度 (0(;リ

(N尽ぐ、たT暑)撃謝仙世

β

β

2

β

第8図 Cr-Mo-Ⅴ鋳鋼の高温における機械的性質

部は収縮するが予熱しないものほ約1時間後に急に膨張し,ここで

き裂を生ずる。しかし200℃予熱を行なった場合にはき裂ほ発生せ

ずひずみ変化ほ収縮のみを示した。この予熱配度ほ200~300℃が

適当であるが,溶接物の拘束度の大小により若干変動する。

後熱処掛こついてほ後熱温度が低い場命熱影響部の組織が不安定

でその使用期間中に焼戻しが進行するので範度低下が大となり,高

すぎると炭化物反応によってフェライト地中のCr+Moが炭化物

中に移行し,地の合金濃度が蒔くなり,炭化物も凝集して球状化し

強度が低下する。2ガCr-1Mo鋼の場合ほ720℃付近で後熱したも

のがよい。

弟7図は各種鋳鋼のMaster破断曲線を示す。Mo-Ⅴ鋳鋼ほ比較

い て 571

〃〃釦

〃β♂

(N∈月\晋)

衝風冷却

/〃ク0山

2β♂○仙

r:舶∩々/〃温度

亡:【時間(/り

〟 2♂ 2β J♂ J2 Jヲ4 ∫♂ Jβ 4♂

ク=r(2β+~8gりズ′βづ

第9図1CrlMo崩Ⅴ鋳鋼のMaster破断特性

∧β♂β

β♂β

淵仰β

(UO)

β+一r

β+〃十み

織粗

かたさ(〟β)tまブβ

r+F+P

へイ)

/

ハレ

ハし

一月

人ハ

√+F

ハレ

rr十月U

.4っ∠

F十β+指洲

F+P

F+P十β仰

/ /♂ /β2 /〆 /β4

1持 恕∃ (∫)

第10図 Cr-Mo-Ⅴ鋼の恒温変態図

/β∫

的良好な高温強度を有するが,高温で長時間使用すると組織中の炭

化物が黒鉛化する傾向を示すのであまり高温でほ使用できない。炭

化物の黒鉛化を防1Lするには1%鎚度のCrの添加が最も有効であ

ることはすでにのべた。

Crを1%程度含ませることにより焼入性は著しく良好となるが,

それだけ添接上の困難さをます。フェライト系鋳鋼の中で最も高温

強度の大きい鋼種ほCr-Mo一Ⅴ鋳鋼である。

弟8図はCr-Mo-Ⅴ鋼の高温強度を示し,弟9図は焼入冷却速度

がMaster破断特性に及ばす影響を示す。引張強さは温度の上昇と

ともに減少するが550℃でなお50kg/mm2に及ぷ高い強度を有し

ており,衝撃値は200℃で最高値に達し,550℃で谷をつくるが,

その値は8kg-m/cm2で高い,Master破断曲線上にて明らかなよ

うに,衝風冷却のものが屈も大なる高温強度を有し,冷却速度600,

200℃/hの順で減少している,すなわち焼入冷却速度が大きいほど

高温強度ほ高い。

第10図ほCr-Mo-Ⅴ鋳鋼の恒温変態図を示す。図にて明らかな

ように,焼入れ時の冷却速度が遅くなると組織がかわりかたさが減

少する。前述せるようにこの冷却速度による組織の変化が高温強度

に重要な関係をもつので,実製品においては形状肉厚を考慮し,良

好な枚械的性質が得られるよう特殊な冷却法をくふうしている。

タービンケーシングのように複雑な形状を有している部材の設計

にあたってほ以上のほかに熱疲労強度が問題となる。これほタービ

ンの起動停止に伴う熱ひずみの繰り返しによる疲労によりケーシン

グに経年き裂が発生するおそれのあるためである。タービンの高温

高圧化や,また運転面で従来以上の急速起動が望まれている現状か

らみて熱ひずみを小さくするような設計上の改善を必要とすること

ほもちろんであるが,材料の熱疲労強度についても十分なる検討を

行なう必要がある,

弟11図は温度振幅』rとそれによって生ずる塑性ひずみ』亡♪の

ー143-

Page 4: 大容量蒸気タービンの材料について - HitachiU.D.C.るる9.15.0柑.45:る21.1占5 大容量蒸気タービンの材料について Materials for Large Steam Turbine 河

572 昭和38年3月 論評立 第45巻 第3号

αβ/

β▲‖‖l′

∩肌

屯叫勺煙暗礁本ノJ型劉

β.βββ/

♂一仇

(〃〃Uハ仏

(忍勺)彗紫確も〇撃剥

/●/Cr/〟βシ々レ鋳鋼

△Z乃ん′♂鋳鋼

ロゴどイ♂

0/β-βステンレス鯛

下限う三度れ=/ββ○(フ(一定)

2(7♂ Jα7 ∠7♂♂ ∫♂♂ 仰

温度振幅dT(0ぐJ

第11図 温度振幅と塑性ひずみ振幅

● 7(フr/〟¢く〃レ鋳鋼

ム ケう〟8 鋳鋼○ ∫βイ♂8

∫〟β「

-ヽ、

-▲、-、

●0

丘ヽ、-▲

も、七、0

● も、-

、1L・、

下限温度乃=/♂♂。c(一定)‾、;-

/〆 /♂J /β一

く り返し数(〟)

第12図 塑性ひずみ振幅と破断繰返数

大きさの関係を示すものである。これにより同じ』Tによって生ず

るd∈♪の大きさが材料によって著しく異なることがわかる。この図

からわかるように鋳鋼の中では降伏点の高い1Cr-1Mo一%Ⅴ鋼がほ

かの鋼と比べて塑性ひずみが生じにくい点で有利である。なぜなら

ば,試験片に加熱冷却を与えそれに伴う塑性ひずみのくり返しを試

験片にき裂が生ずるまで続け,半サイクル間に生ずる塑性ひずみ

d三タとき裂発生までの繰返数〃との関係を求めたのが弟12図であ

り,同国から譲っかるように両者の関係は両対数グラフ上でははとん

ど直線となり数式的には次式で表わされるからである。

〃α』三戸=点

4.タービンロータ

ターピソロータは第1段ノズルを通過した彼の蒸気が触れるため

ケーシソグほど温度ほ高くならないが,そのかわり遠心力および蒸

気の衝撃により大きな応力を受けるため俊秀な高温強度を必要とす

る。また,高速回転体であるため高温における曲りに対して絶対に

安定であることが必要となる。さらに単一機において大容量の発電

を行なうため,最終段にほ長巽を使用するので特に大きな遠心力が

発生し,そのため従来に対して回転破壊漉さに対しても十分なる考

慮をほらう必要がある。

従来ロータ材には,油焼入による材料が用いられてきたが,油焼入

をした材料は焼入の際急冷により,大きな内部応力を残しやすく,

また均一な材質を得ることが困難であるため,最近の高温,高圧,

大形ターピソロータ材にほすべて空冷によるNormalizingTemper

を行なっている。

この場合S曲線においてArl変態のNoseが短時間側にあると空

冷により粗大なフェライトが出るので,Arl変態点のNoseが長時

間値にあることが,焼入性の良いことは自明である。また,その熱

pり

ハLり

(へEO.\Fト叫こ

僻謁撃

室衝

βββ タJβ ろβββ ろβ∫♂

魔 人 温 度(○(り

第13図 Cr-Mo-Ⅴ鋼の衝撃値と焼入温比

ββ

へ㌘)埠頸寒鮒恒世峠

∩‖UフJ

2(7

放面澤稗温度

レ′′

Jββ ガJβ 1ββ♂ 川ケβ

焼 入 温 度(OcJ

第14囲 Cr-Mo-Ⅴ鋼の破両道移温度と焼入温度

処準巨温度によっても高温強度,すなわちクリープ破断強度が異なっ

てくるが,日立製作所においては,ロータ材に閲し焼入温度および

焼戻温度の影響を種々調奄した結果,切欠感度についても長時間の

破断強度について,その屈も優秀な性状を示す温度をもって処理し

ている。

ここで,ロータ材の焼入および焼戻温度の決定にあたっての各種

特性検討を,Cr-Mo-Ⅴ鋼について述べてみよう。

策13図ほ某温の衝撃値と焼入温度の関係を示したものであり,

焼入況度が高くなるにつれて低下する。弟14図は破面遷移温度に

及ばす焼入温度の影響を示したものであり,焼入温度の上昇ととも

に高くなる傾向を示す。第15図は引張試験特性に及ぼす焼入温度

の影響を調べたものである。こjtにより,焼入温度の上昇とともに

引張強さ,降伏ノ烹が若干高くなり伸び,絞りは道に低くなることが

わかる。弟1る図ほクリープ強さに対する影響である。平滑クリー

プ破断強度においては,焼入温度の低下とともにクリープ破断菰さ

が低くなり,特に焼入院度900℃における低下が著しい。逆に,ク

ー144-

Page 5: 大容量蒸気タービンの材料について - HitachiU.D.C.るる9.15.0柑.45:る21.1占5 大容量蒸気タービンの材料について Materials for Large Steam Turbine 河

大 容 量 蒸 気 タ ー ビ ン の 材 料 に つ い て 573

へN∈E\君)他市蛸一肌.≠半憩

rJ

一4

∩′J

フL

(㌔)

▲よ

∵さ

+C強張

コLJ

降伏臭

紋リ

㍗+下

♂ β♂β gJβ 仰♂ロ ろβ∫β

焼 入 温 度(Oc)

第15図 Cr-Mo-Ⅴ鋼の引張試験特性と

焼入温度

(U

nレ

一‖リ

コU

っ∠

(り爪こ・山L)

へN∈Rヾ普)只竣「

へ㌔ヾ旦)只嘆

〔∈亡ヾ卓)べ頓

√∈ら、き〕只増

√ら月\音)尺均

トト.■ト..■■L■■L■L

ハリ

∬卯朋

〃け畑′

ガ仰∬

〃り

1月欠 試番:βJ

、ユー---------、、

イ =/〆 ブ イ 占、β/〆 2 4 ざβが ∠ 〃Jβ′βJ

破 断 粥 間 =り

切欠

⊥____+ + ⊥

β'β/♂J ノ

(P

㌦L…

湖卯

l脚

刀川

"肌血

甜化

〟♂ ∂2∫ 氏タ♂ β7∫ 7♂♂

娩戻温度(Ocノ

第17図 Cr-Mo-Ⅴ鋼の衝撃値と焼戻温度

リープ破断伸びは焼入温度の低いほどすぐれている。切欠クリープ

破断試験結果においてほ,長時間において焼入温度が高くなるにつ

れて低下する。

すなわち,Cr-Mo-Ⅴ鋼の焼入温度をあまり高くすると,引張強

さ,平滑クリープ破断強度ほ高くなるが,衝撃値,平滑クリープ破

断伸び,切欠クリープ破断強さが低下するので,あまり高くとりえ

ない。また,焼入温度が低すぎても平滑クリープ強度が低くなる。

∂、βノβ2 2 イ

破 断

平滑

試番:.クJ

日尋 問 =‖

切欠

β/β2 ノ イ わーβ′・7′・ノL一∠

破 断 的 間 り=

平、骨

、仏、うこて∵-----------十刀タ 0

方♂/〆 ク

L\㌔ゴミゴ

]【__L

イ ∫ β

般 断 日寺/J・7 /

問 (/‖

J〃

tヴj

4 ♂β/β一 2

試番:/♂♂

〃Jβ/♂j

Jムー∂/Jす ご J∂■β/〟∫

言式番ニ/Jわ`

♂ わ'βノ/ノイ ノ 〃 占、β/〃∫

ど 〃 ♂β/〆 ∠ 〃 ββ〟J∠ 〃 =〝イ 2

破 断 時 間 ==

第16囲 Cr一九40-Ⅴ鋼の切欠クリープ破断強度(550℃)

に及ぼす焼入温度の影響

ハレ2

(N巨貞\9これ潮鵠一仰

■咄芋盟

ノヰ

プJ

っム

/

(宗)

コ繋

h一も草

さ強張

コーノ

臭伏降

りノ絞

、申

〃 ∫β/βj

〝♂ J2∫ 甜β ♂7∫ 7(7(7

煉 炭 温度(Oc)

第18図 Cr-Mo-Ⅴ鋼の引般試験特性と焼戻温度

第17図ほ衝撃値と焼戻温度の関係を示したものであり,焼戻

温度の上昇とともに大きな値を示し,675℃において最大値を示

【 145 【

Page 6: 大容量蒸気タービンの材料について - HitachiU.D.C.るる9.15.0柑.45:る21.1占5 大容量蒸気タービンの材料について Materials for Large Steam Turbine 河

574 昭和38年3月 立

す。弟18図は引張試験特性に及ぼす焼戻温度の影響をホす。焼戻

温度の上昇に伴い引張強さと降伏点は減少するが,伸び,絞りは増

大する。第19図はクリープ強さに対する焼戻温度の影響を示した

ものである。平滑クリープ破断強度においては長時間における推定

強度ほはぼ同じ値を示すが,その中間点においては,焼戻温度の低

甜卯

∬〃朋

へ叫賢トい\音)只増

〃仰

∬〃甜

(Nモモ旦)R頓

畑卯

∬乃甜

√毎やゼ)尺山崎

上♂♂♂

切欠

中′骨

健「ヽJ

評 論 第45巻 第3号

い方がクリープ破断強度ほ高い。切欠クリープ破断強度においては

長時間側において焼戻温度の低い方がクリープ破断強度ほ低い。す

なわち,組織変化ほ焼戻温度が低いはど大きく,また,平滑材より

も切欠材の方が大きい。

ロータはその構造上,平滑部,切欠部のいずれをも有しているので

ノ即♂♂ /♂仇♂♂♂

ざJβ磯

坪欠

年〉骨

Jβ〟〟

切欠

平滑

/戊βββ /♂仏β〟β

占、7.ケ機

、------------、

+〃〉ル/ハ

紺卯

l柑ガ甜

へN∈ヾぜ〕只増

占フ∫

/功βββ /♂拐α妙

お∫β

β7J

、--、

、--、

、--、、

J〝♂ 1β♂♂ 即ββ /β.〃ββ j仇βββ /β仇βββ

破 断 時 間 (力)

第19図 Cr-Mo-Ⅴ鋼の切欠クリープ破断強度(550℃)

に及ばす焼戻温度の影響

/ケーーシング

蒸気流入方向

m

ダイヤフラム

‾‾‾ノ

レート

一夕

第20図 巽植込秋合邦の形状

その双方の強度比がひとしく,かつ強度値の高い焼戻温度

がよいことになる。以上における検討によれば660℃付近

で焼戻すと良いクリープ破断特性が得られる。

このように,一つの讃淵◆の焼入れ,焼戻温度の決定につ

いても,ロータ材にかぎらず,その部材に必要な各種特性

に対する廃人および焼戻温度の影響を十分調査の上決定す

る必要がある。

日立製作所においてほ,各標準使用材についてこのよう

な各種研究を行ない,綿密な検討のもとで,部材の熱処理

温度の決定を行なっている。

高圧タービンロータほ,遠心力による応力を受けると同

時に高温にさらされるので,高温における曲りに対して絶

対に安定であることが必要となる。

このためには,ロータの各部応力が過大とならぬよう設

計時に十分留意することが必要である。構造的にほ,弟

20図に示すようなくら形ダブテイルほ,最大応力のかかる

部分が直接蒸気にふjtないので構造的に有利である。

日立製作所においてほ,ロータの鍛造時と機械加工後に

HeatIndication Testを施行することにより,高温におけ

るロータの安定性を調査して使用しており,今までにこの

点でトラブルを引き起こしたことはない。

また,低圧ロータにおいては最終段に長翼を使用するた

めロータに発生する応力は高くなり,その回転破壊強さに

対して十分なる考慮を払う必要があるが,この点に関して

は最近の種々な研究により,靭性の高い材料が回転破壊強

さの大きいことが立証されている。

弟21図および弟22図はGE杜C.J,Boyle氏ほかが発

表したロータ材の回転破壊装置による内周に鋭い切欠を有

する車盤の回転破壊強さと衝撃値および遷移温度との関係

を表わしたものであり,靭性の高い(あるいは,遷移温度

の低い)材料ほど回転破壊強さの大きいことがわかる。なおここで

述べた遷移温度とはⅤノッチシヤルピー衝撃試験において脆性破断

面と靭性破断面の比が50%となる温度のことをいう。

舞3表ほ口1互鞋廷作所のロータ材の温度に対する使用標準を示して

いる。すなわち315℃以下ほ炭素鋼を,469℃までほNi-Mo-Ⅴ鋼

仁蝶.淀\Ru+′bm二世吊潔チ胡掛

ノ′

ハU

β

・′

・/

、〃}

爪八じ

一斗

(∠

nU

〔仇

ハ肌

【 146 【

/●

′●

/i .■/ ●

.:′エ//●● ■●

●○●

′■

2 ブ イ ∫ ♂7ββ/♂ 2β Jβ イ♂ガ紺7♂ /ββ

t′ノ・ソテンヤルピーエネルギーー(F亡-/.ム)

第21園 内周に切欠を有する車盤の回転破壊強さと

衝撃値との関係

Page 7: 大容量蒸気タービンの材料について - HitachiU.D.C.るる9.15.0柑.45:る21.1占5 大容量蒸気タービンの材料について Materials for Large Steam Turbine 河

大 容 量 蒸 気 タ

第3表 口ーター材料の温度による使用区分

ビ ン の 材 料 に つ い て

第4表 ノズル巽材料の温度による使用区分

575

温 度(℃)l ロー

タ 材 料

315以下

316~469

470以上

ノ.∫

フん

β

4

-ん

nu

〃)

只鯖で只増G烈匝箭潔昏判≠

炭 素 鋼

NトMo-Ⅴ鋼またはNトCr-Mo-Ⅴ鋼

Cr-Mo-Ⅴ鋼

′ノ■■

//咋●`ノ餌.r′

ノ・.lヽノ//●

暮ノー

_____一一一一-ヅノ′

一一一一一一一一-一一一-‾‾‾‾【‾

-2♂β -/ββ β /♂♂ 2β〟

試験‡孟度-i畢諸法度 くロ√)

第22国 内用に切欠を有する車盤の回転破壊強さと

遷移温度との関係・

√∈で雪ぺ填-キルト爪

壬hq\/‥レ

(U〃仙

‥=レ一‖U〃ハ.ハし

〃Jβ ∫♂β 脚 甜♂ β仰

温 度(Oc)

J♂β

第23図 NトMo-Ⅴ鋼およびCr-Mo一Ⅴ鋼の

100,000時間ラブチャー応力

またほNi-Cr¶Mo一Ⅴ鋼を使用し,470℃以上になるとCr-Mo-Ⅴ鋼

を使用する。

Cr-Mo-Ⅴ鋼はNi-Mo-Ⅴ鋼に比べて,高温強度が著しく良好であ

り,Arl変態開始点ほ高温長時間側にあるため焼入性は良好であ

る。

しかしCrの含有量が高いのでスラグなどが出やすいが,これに

対しては真空鋳造法を使用しているので問題はなく,また変態点が

高いため高温均一加熱を要するので特殊加熱炉を用いており,焼入

速度の調節に対してほ回転冷却設備によっている。

舞】2図はNi-Mo一Ⅴ銅およぴCr-Mo一Ⅴ鋼の100,000時間強度

を示したものであり,Cr-Mo一Ⅴ鋼が高温強度にすぐれていること

がわかる。

日立製作所においては,ロータ材のクリープ強度ほ実際の巻即品に

ついてそれぞれチェックを行なっており,その高温強度については

特に注意を払っている。その結果をCr-Mo一Ⅴ鋼550℃におけるク

リープ破断強度に例をとると第13図に示すとおりである。クリー

プ破断強度ほ材料のバラツキが非常に大きく,弟24図を例にとる

と30kg/mm2の応力のもとでの寿命ほ最低100時間に対して最大

4,000時間と実に数十倍もの開きがある。この寿命における材料の

バラツキほ特に注意する必要があり,高温部材のクリープ強度を論

ずる場合に忘れてはならない点である。

温 度(℃) ズ ル 異 材 料

399以‾F

400~479

480~509

510~538

539以上

㌔十‡∴

uh

13Cr 銅

13Cr鋼またほ15Cr-Mo銅

15Cr-Mo 鋼

15Cr-Mo納またはCr-Co鋼

Cr-Co銅,Cr-Mo-Co-Ⅴ鋼またほオーステナイト鋼

2 イ Jβ ′ イ ∂■〟 2 4 ♂ β ブ イ ♂ ♂ノJ /β♂ 4α材 ノ戊αか 必玖J山一

破 断 日寺 間(カ)

第24図 Cr-Mo-Ⅴ鋼550℃のクリープ破断強度

日立製作所においては,ロータ材にかぎらず,高温部材のクリー

プ破断強度のバラツキを知るため,十数チャージにおよぶ数多くの

試験を行ない,これらの試験結果を統計学的に処理している。すなわ

ち,確率紙上における試験値を破断の確率p→0あるいほP→100%

の極限値にむかって外そうしばらつきの範囲を知るのである。

当該鋼種の許容応力を決定する場合には,単に平均値のみで論議

するのではなくて,このようにして試験結果の期待されるちらばり

の範囲を考慮に入れて決定するのである。

5.ノ ズ ル 翼

ノズル巽ほ静止体であるため後述するタービン巽のように,遠心

力による応力ほ受けない。ただし第1段に関しては低温にさらされ

るし,また,最近のように高温,高圧,大容量のタービンにおいて

はその大きな圧力差により,かなり高い曲げ応力を受けるので高温

強度の優秀な材料を使用する必要がある。

ノズル巽は一般にダイヤプラム本体に溶接されるのでその溶接性

が良好であることが必要である。このためにほC含有量はせいぜい

0.1%以下としなければならないが一方黒鉛化に対する耐久性を増

加させる必要があり,また,ノズル翼端部におけるEdge Vibration

なども考慮に入れるとかなり高いCr量を有する材料を用いること

になる。このためノズル異材は他の部材に比べて一般に焼入性は悪

く,降伏点ほかなり低いものとなるが,この点に関してはノズル巽

はその構造上1段のダイヤプラムに多数植込まれているので,1個

のノズル巽のみ過大な応力がかからぬようにすることの方が有利な

点より考えてなんら問題ほない。それゆえ日立製作所においては,

ノズル異材として化学的組成ベースの材料を使用し機械的性質ほ硬

度のみをその規定値として指定している。

弟4表は日立製作所のノズル翼材の温度に対する使用基準を示し

ている。

る.ター ビ ン翼

タービン異材としては,通常12Cr鋼が用いられるが,高温,高

応力になると12Cr-Mo-W-Ⅴ鋼が用いられる。タービン異材に12

Cr鋼が用いられるのほ高温特性が優秀であるとともに,ダンピン

グキャパシティの大きいこともその大きな理由の一つである。

舞25図ほ他鋼種と12Cr鋼のダンピングキャパシティを比較し

て表わしたものであり,12Cr鋼のダンピングキャパシティが大き

いことがわかる。このダソピソグキャパシティの大きいということ

は,タービン巽材としてはぜひ必要な特性である。なぜならば共振

-147-

Page 8: 大容量蒸気タービンの材料について - HitachiU.D.C.るる9.15.0柑.45:る21.1占5 大容量蒸気タービンの材料について Materials for Large Steam Turbine 河

576 昭和38年3月 論評立 第45巻 第3号

試験温度 帯温

2

㌔:†≠、いヒト叶へ八u八′ノも

/Z C√鯛

C′〟ひ鯛

仙C′〟0鈍

化Cr鯛

2 4 ♂ β /♂ /2 /4 /β /β

せん断ひずみ角(鮎d)川‾4

第25図 各鋼種のダンピソグキャパシティ

/2Cr鋼(〃8クββ)

ワム

/

〃V

ハ仏

(モモいそ、)二£加リ

ββ∬♂ 仰β 八方ββ 2,βββ 之ガ♂

日吉 闇 (わ)

第28図 リラキゼイショソクリープ試験説明図

っ∠

聖k†仙♪ソ「上井へ八℃∧一一へ

叫I

/2C/1銅(〟82`グ♂)

せん断ひずみ角2りJイ舶d

斤r /♂♂ 2β♂ Jββ 4♂♂ J抑 βββ

濃 度 (Oc)

第26図 ダンピングキャパシティに及ぼす硬度の影響

叩即〃

7

3

へヽ月\旦こ尺填-阜≠○卜爪しさミ

J(し〔∠/

/2C■「ノ材口川/レ

4ββ イ∫β ∫♂β J∫♂ 飢7♂

温 度(Oc)

第27図12Crおよび12Cr-Mo【W-Ⅴ鋼の100,000

時間ラブチャー応力

時の巽の最大振動応力は対数減衰率で表わした巽のダンピングキャ

パシティに逆比例するからである。

弟2る図ほ硬度の違いによるダソピソグキャパシティの相違を比

較したものである。図でわかるように12Cr鋼においては硬度の低

い方がダンピングキャパシティは大きい。一方12Cr鋼においては

一般に硬度の高い材料の方が疲労限ほ高いので疲労限よりみた場合

にほ,硬度の高い方がよいことになる。したがって12Cr鋼といえ

どもその組成範囲,熱処理などは上記二つの相反する条件をどちら

もその使用にさしつかえないように適切に定める必要がある。

タービン巽のように高温で高応力を受ける部材ほクリープ破断応

力を基準にして設計するのが最も適切である。弟27図は12Crお

よび12Cr-Mo-W-Ⅴ鋼の高温における105時間クリープ破断試験

の結果を示したものである。第27図でわかるように12Cr-Mo-W-

叩∬∬

7

J

/

へ㌔ヾ晋)べ頓

知潜

/2C′/2Crん′∂〝レ

ノ/

/2CrCo

4β∂ イJβ Jββ J∫β 甜β

温 度(Oc)

第29図12Cr材の残留応力

Ⅴ鋼は538℃でなお20kg/mm2以上の高強度を有している。

タービン入口蒸気温度が566℃となった場合には,第1段および

再熱後の2段ないし3段程度までが12Cr-Mo-W-Ⅴ鋼となるが,

これらの材料の選定は個々の場合について,それぞれ翼の応力と材

料の破壊程度をにらみあわせて決定する必要がある。

7.締付ボルト

タービンケーシングおよび主弁類などの締付ボルトは,毎年の解

放検査のたびに締めなおす必要がある。締付ボルトは使用中高温に

さらされるのでその材料の選定に際してほ,折損に対し安全性を有

し,その使用期間中にクリープ伸びを生じ締付力の不足を生じない

材料を選ばなければならない。折掛こ対する検討としては部材の切

欠クリープ破断強度を検討すべきであるし,蒸気もれに対してほ,弾

性および塑性の全体の伸びを一定にして行なうRelaxation-Creep

試験により得られる残留応力によって決定するのが良い。

この試験ほ第28図に示したように全体の伸びを一定に押えて

Loadを次第に減少して行く方法で測定される。この方法にはStep-

down法と呼ばれる方法と,自動式の方法があるが,日立製作所に

おいてほその双方とも使用している。これによって得られた伸び

0.2%で10,000時間の残留応力を基準にしてボルトの設計が行なわ

れる。(実際には,年間の稼動率も考慮に入れて設計することもあ

る。)

第29図ほ高温における12Cr-Mo-W-Ⅴ鋼などの10,000時間の

残留応力を示したものであり,12Cr-Mo-W-Ⅴ鋼が高温において

すぐれた値を示している。

弟5表ほ日立製作所におけるボルト材の使用基準を示したもので

ある。

なおボルト材に関してほ,その折損事故を未然に防ぐため点検時

に硬度チェックを行なったり,解放検査の際抜き取ったボルトに対

しては磁粉探傷検査を行なうなど,その保守には万全の対策を立て

-148一

Page 9: 大容量蒸気タービンの材料について - HitachiU.D.C.るる9.15.0柑.45:る21.1占5 大容量蒸気タービンの材料について Materials for Large Steam Turbine 河

大 容 量 蒸 気 タ ー ビ ン の 材 料 に つ い て 577

第5表 ボルト材料の温度による使用区分

温 度(℃)l ボ ル ト 材 料

315以下

316~510

510以上

炭 素 鋼

Cr-Mo-Ⅴ 銅

12Cr-Mo-W-Ⅴ鋼

【〃U

ハ〃

ハU

(‖U

ハ‖

′4

っJ

ゥL

▼ノ

へNEヾや)尺増廿†磐帖増

只増珊琴嘩讃-トトト小○トー「■へ

ている。

\_(。)。′一仏-〝一レ鋼グノプラカヤ

(占J(ノ′

曲線(.与し了』0〔リ

蔓l月

必要綿イ寸応プ_丁

J♂♂♂ ヱβ〟 即β♂ 4βββ 即J♂ 即♂♂ 7♂〟♂ 且J仙r浅J脚・r二・rrJ

日毒 問 川)

第30図 Cr-Mo-Ⅴ鋼特性説明図

また締付力に対しても細心の注意を払って作業を行なって

いる。

ボルトの設計に対して必要な材料特性と設計時の検討をくわしく

示したのが第30図である。曲線(a)ほクリープ破断強度を,曲線

(b)は応力弛緩を,また点線は設計的に必要なボルトの締付応力を

示す。すでに述べたように,ボルトほその使用期間小に折損せずしか

も蒸気もjlが生じないように設計する必要があるが,弟30図上でこ

のことを説明するとたとえば,点検までの使用時間を7,000時間(年

間稼動率80%)とすると常にノ、汰A>B>Cの関係が成立する必要

があることを示す。また,この検討においてほ,初期締付応力と応

力弛緩の関係,締付を繰り返した場合のクリープ破断強度の変化お

よび応力弛緩特性の変化などを綿布に調査,検討する必要がある。

さらに,過去において目立聾豊作所が使用したことのあるCr-Co-

W-Ⅴ鋼は,最近の使用実績により高温で使用した場合経年変化を

起こし,多少脆化の進行がみられたが,これは脆化の進行のみられ

たものを早期に摘出し再熱処理を行なえば,材力は再び使用前と同

等となり再度の使用に耐えることが判明している。

これなどは,経年変化を起こす部材が常に監視を必要とする好例

であり,設計者が常にその材料の必要とする特性と使用中における

材料特性の変化をみきわめ,たとえ設計後といえども,常にその部

材の必要とすべき特性の変化を適正にみきわめる必要のあることを

示しているといえよう。

8.耐熱鋼の研究

発電所の経済性に決定的な影響を及ぼすのほ蒸気温度であり,こ

れを高くするほど熱効率ほ上界し,発電原価が安くなる。前項まで

に述べてきたように566℃までの主蒸気温度に対してほ,綿密な設

計を行なうとともに溶接,熱処理を行なうことにより高価なオース

テナイト系材料を使用しなくとも,フェライト系の材料で十分製造

できるが,566℃をこえるとタービン耐熱材料に多量のオーステナ

イト系耐熱鋼を使用せざるを得ないのが今日の蒸気動力界の状態で

ある。

オーステナイト系鋼の高価なのに比し,フェライト系鋼ほ廉価で

あり十分採算性があるため,将来新しい低価格のフェライト系耐熱

鋼が開発されて566℃以上の温度に対しても十分な強度を有するよ

うになれば,火力発電界も次の段階に進み大発展をとげることがで

きる。この意味において日立金属株式会社安来工場で開発されすで

に小形部品に使用されているTAF鋼などはそのトップを行くもの

といえる。この566℃の壁を破り次の段階に進むためには,ぜひと

も低価格の耐熱鋼を開発する必要がある。

また,一方たとえば高温,高圧下で溶解凝固させ微細かつ安定な

結合を有するものや,転位などの存在しない金属ができ,それが十

分採算のとれる価格のものであれば,その強度ほさらに向上し蒸気

動力界も飛躍的大発展をとげうるものと考えられる。

この点に関しては材料メーカーと設計者および研究者との間で綿

密な連絡をとり,強力に研究開発を進めることが必要である。

9.緒 言

以上で主としてタービンの主要部材料に閲し,高温における諸性

質について述べかつ口立製作所における566℃までの標準使用材に

ついて設計面よりみた材料の使用例を述べた。また,材料面よりみ

た場合,大幅な原価低減を計り,より高い効率と信薙副生をうるため

には566℃以上の温度に耐えるフェライト系鋼の開発,研究が必要

であり,この点の問題追求のため設計者を含めた関係者が努力的に

研究推進の体制をとる必要のあることを照介した。

終わりに臨み日立研究所より貴重なデータの供与を受けたので,

関係各位に深甚な謝意を表する次第である。

参 鳶 文 献

(1)横田:日立評論 38,65(昭31-12)

(2)Design and Fabrication of Steam,Pipingby A.W.Ran‾

kin,The WeldingJournal,June(1951)

(3)Higb Temperature Properties and Characteristic's of a

Ferritic Steam Piping Steel,by A.W.Rankin,Trans.

ASME(1951)

(4)Sign拍cautProgressin TbeDevelopment ofLargeSteam

Turbine and Generator,Rotors,by C.J.Boyle他,ASME

Paper(1962)

一--149-

Page 10: 大容量蒸気タービンの材料について - HitachiU.D.C.るる9.15.0柑.45:る21.1占5 大容量蒸気タービンの材料について Materials for Large Steam Turbine 河

578

特許 舞286679号

特 許 の 紹 介

両 用 停 車 検

一般に鉄道車両においては,停車により行なわれるべき操作を運転者または車掌が手動で行なっているが,この操作を自動化しまた

車両の自動制御を行なうためには車両の停車をなんらかの方法で検

出することが不可欠となる。この発明はこの点にかんがみてなされ

たもので,速度計装置に速度継電器および絶縁間げきをおいて導体

セグメソトを取り付けた回転体を組み合わせ,被制御回路に連接す

る2個の限時継電器の切り換えを導体セグメントとブラシとにより

行なうようにしたことを特長とする。

速度継電器は速度計発電機の出力がほとんど零になったとき接点

を閉じ,出力が発生すれば開くようにされている。速度が低下して

速度計発電機の出力が速度継電器を動作状態に保ち得ない程度に低

下すると,速度継電器の接点が閉じて+端子よりブラシに電流が流

れる。さらに速度が低下して図示のように導体セグメントが2個の

ブラシを接続した範囲内で停止した場合は,絶縁間げきがブラシを

通過した瞬間から一定時間を経ると,いずれか一方の限時継電器の

接点が閉じて下方の端子を経て被制御回路が閉路される。絶縁間げ

きがブラシの位置で停止した場合は,2個の限時継電器が同時に動

作して上記の場合と同様に被制御回路を閉路する。

したがって停辛の検出および停車時に行なわれるドアの開き,ス

テップの送り出し,台車空気ばねの調整などを自動的に行なうこと

ができる。

特許 第294875号

掃 除 機

この発明ほ主として道路用掃除車に使用されるもので,吸引口の

先端部に地面に接する掻取装置を回動可能に設けて,地面に付着し

た異物および吸引しがたい異物などを掻取り除去するとともに,地

面の凹凸あるいは地面に固定された障害物などがある場合には上方

に回動して吸引口の損傷を防止するようにしたものである。

掻取羽根2および隔壁3は一体となって吸引ダクトに通ずる吸引

口1の先端部を形成し,腕4,ピソ5,リンク6,ゼソ7,腕8を

介して本体に支持され,ピン5を中心として反時計方向に,ピン7

を中心として時計方向にそれぞれ回動可能である。

この装置が定常位置で前進する場合,腕4,リンク6ほバネ11,

12によりそれぞれストッパー9,10に押し付けられ,掻取羽根2ほ

地面に接触しているため,異物は掻取羽根2により掻取られ吸引口

1を経て所定の位置に搬送される。

前進時,抜取羽根2が地面に固定された障害物に当たった場合,

掻取羽根2,隔壁3は腕4を介しバネ11の押付力に抗してピソ5を

中心に反時計方向に回動し,障害物上を通過するとバネ11の反溌力

により定常位置に復す。

後進時,掻取羽根2が障害物に当たった場合,掻取羽根2,隔壁

3は腕4,ピン5,リンク6を介しバネ12の押付力に抗してピソ7

を中心に時計方向に回勤し,障害物上を通過するとほね12の反揆プJ

により定常位置に復す。

補償呆

装 置

速度指示計

速度計発電一義

絶縁間げき

ー150-

中 丸 良 郎・滝 上

速度維電畳

回転体

フプブラシ

ブラシ

導体セグメント

β

β

3

限酵鮭電景

ハレ/

//

限脾継雷呈

端子/

内 海 昭 夫

′ノ