[火力発電設備用材料] Ⅵ.タービン用材料 1.蒸気 …...2016/09/12  ·...

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38 000 はじめに 火力発電の大型化,高効率化に伴い,その主要部品は 技術的改善・改良が進められてきた。そのなかで,材料 技術は重要な基礎要素技術であると考えられる。タービ ンの材料技術は,使用環境に適した材料の開発・改良, 高品質素材の製造技術および強度,溶接,耐食性等の材 料データの蓄積・評価など多岐にわたる。これら材料技 術は当初,欧米からの技術提携として導入されたが,そ の後の関係者の努力により,現在では世界のトップレベ ルまで達するようになったと言っても過言ではない。 本章では,火力タービン,USCタービンおよびガス タービンのロータシャフト(軸)・ロータホイール(円 板)・ブレード・ケーシング・蒸気弁・締付ボルト,燃 焼器等の主要部材を中心に,タービン用材料の慨要蒸気 タービンとガスタービンに分けて紹介する。 1.火力タービン用材料 火力タービンの高効率化に伴い,現在では,主蒸気圧 力24.1MPa・温度600℃,再熱蒸気温度600℃級が大 容量機として一般化している。また単機出力の増大に伴 い,ロータシャフト,ケーシング,蒸気弁の各部材は大 型化している。図1は,50Hz用600MWタービン本体 の組立断面図である。蒸気タービンの低圧段翼には40 インチを超える長翼を装着する必要もあり,定格回転数 では約300t/翼1枚以上の大きな遠心力をロータシャ フトに付加することとなり,低圧翼および低圧ロータ シャフトには引張強度と靭性の優れた材料が使用されて いる。また,ほとんどのタービンの高圧および中圧の入 口蒸気温度は538℃から600℃級であり,ロータシャフ ト,ブレード,ケーシング,蒸気弁などは高温における クリープ破断強度と靭性に優れた材料が使用されてい る。表1は,火力大型タービン主要部材の適用材料と要 求される主な特性を示したものである。主に低合金耐熱 鋼は高圧・中圧ロータシャフト,ケーシング,蒸気弁, 締付ボルトに使用され,蒸気条件の高温化に伴い12Cr 耐熱鋼が高圧・中圧ロータシャフト,ブレード,ノズル, 締付ボルトに使用されるようになっており,低合金高強 度鋼が低圧ロータシャフトに使用される。 また,現在供用されている既設火力タービンに対して, 定検時に部材の経年劣化を定量的に検査評価する余寿命 診断が行われており,劣化部材の計画的な更新による [火力発電設備用材料] Ⅵ.タービン用材料 1.蒸気タービン 入門講座 写真1 工場組立中の50Hz 用600MW 火力タービン 図1 50Hz 用600MW 火力タービンの組立断面図

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火 力 原 子 力 発 電

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000

はじめに

火力発電の大型化,高効率化に伴い,その主要部品は

技術的改善・改良が進められてきた。そのなかで,材料

技術は重要な基礎要素技術であると考えられる。タービ

ンの材料技術は,使用環境に適した材料の開発・改良,

高品質素材の製造技術および強度,溶接,耐食性等の材

料データの蓄積・評価など多岐にわたる。これら材料技

術は当初,欧米からの技術提携として導入されたが,そ

の後の関係者の努力により,現在では世界のトップレベ

ルまで達するようになったと言っても過言ではない。

本章では,火力タービン,USCタービンおよびガス

タービンのロータシャフト(軸)・ロータホイール(円

板)・ブレード・ケーシング・蒸気弁・締付ボルト,燃

焼器等の主要部材を中心に,タービン用材料の慨要蒸気

タービンとガスタービンに分けて紹介する。

1.火力タービン用材料

火力タービンの高効率化に伴い,現在では,主蒸気圧

力24.1MPa・温度600℃,再熱蒸気温度600℃級が大

容量機として一般化している。また単機出力の増大に伴

い,ロータシャフト,ケーシング,蒸気弁の各部材は大

型化している。図1は,50Hz用600MWタービン本体

の組立断面図である。蒸気タービンの低圧段翼には40

インチを超える長翼を装着する必要もあり,定格回転数

では約300t/翼1枚以上の大きな遠心力をロータシャ

フトに付加することとなり,低圧翼および低圧ロータ

シャフトには引張強度と靭性の優れた材料が使用されて

いる。また,ほとんどのタービンの高圧および中圧の入

口蒸気温度は538℃から600℃級であり,ロータシャフ

ト,ブレード,ケーシング,蒸気弁などは高温における

クリープ破断強度と靭性に優れた材料が使用されてい

る。表1は,火力大型タービン主要部材の適用材料と要

求される主な特性を示したものである。主に低合金耐熱

鋼は高圧・中圧ロータシャフト,ケーシング,蒸気弁,

締付ボルトに使用され,蒸気条件の高温化に伴い12Cr

耐熱鋼が高圧・中圧ロータシャフト,ブレード,ノズル,

締付ボルトに使用されるようになっており,低合金高強

度鋼が低圧ロータシャフトに使用される。

また,現在供用されている既設火力タービンに対して,

定検時に部材の経年劣化を定量的に検査評価する余寿命

診断が行われており,劣化部材の計画的な更新による

[火力発電設備用材料]

Ⅵ.タービン用材料1.蒸気タービン

入門講座

写真1 工場組立中の50Hz用600MW火力タービン

図1 50Hz用600MW火力タービンの組立断面図

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Ⅵ.タービン用材料

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Vol. 67 No.9 585

タービンの信頼性向上と維持が一般化している。 

1.1 口一夕シャフト(軸)

現在製造されている大型タービンロータシャフトは,

一体鍛造素材から削り出す方式のものが大部分を占めて

おり,低圧ロータシャフトでは600t級の鋼塊による胴

径2.6mを超す大型のものも実用化されている。旧来は

タービンロータシャフト素材の製造技術上の制約から焼

ばめ方式による大型ロータが供用されてきたこともあっ

たが,蒸気条件の向上と長大翼の採用による高効率化と

大容量化に対応したロータシャフト製造技術の進歩に

よって大型モノブロックロータシャフトの実用化がはか

られ,現在の主流になっている(1)。さらに製鋼技術の

進歩により,清浄度が高く経年的に脆化しないロータ

シャフト材の実用化(2)(3)や異材もしくは共材からなる

ロータシャフト材を溶接により接合した溶接構造ロータ

シャフトが実用化(4)されている。

1.1.1 ロータシャフト材の製造方法

溶解精錬工程では塩基性電気炉が使用されており,ス

ラグ等による精錬技術の進歩により,機械的性質上好ま

しくないP,S等の不純物低減や成分調整がより正確に行

えるようになっている。

造塊工程では,ポロシティや介在物の原因となる溶鋼

中のガス成分を低減するため,真空脱ガス処理や真空鋳

造が行われている。さらにCrMoV鋼や12Cr鋼ロータ

では非金属介在物や偏析発生を避けるため,Siを使用

しない真空カーボン脱酸が行われている。また,コン

ピュータによる鋼塊の凝固解析により,偏析を防止する

鋼塊形状や押湯形状の適正化ならびに押湯処理技術の改

部品名 代表鋼種および相当規格 要求される主な特性

高圧・中圧タービン

ロータシャフト

1Cr-1Mo-0.25V鋼 (ASTM A470 Cl.8)12Cr-Mo-V-Ta-N鋼12Cr-Mo-V-Nb-N鋼12Cr-Mo-W-V-Nb-N鋼12Cr-Mo-W-V-Nb-N-Co-B鋼

クリープ(破断)強度 延性 靱性熱疲労強度 高温安定性 大型鍛造品製造性

ブレード・ノズル

12Cr鋼 (AISI 403, SUS403

クリープ(破断)強度 延性 靱性 疲労強度 耐食性 高温安定性

12Cr-Mo-W-0.3V鋼 (AISI 422, SUS616)12Cr-0.6Mo-0.3V-0.4Nb-N鋼 (H46)12Cr-Mo-W-V-Nb-N鋼Ni基超合金

ケーシング・蒸気弁

1Cr-1Mo-0.2V鋼 (ASTM A356 Gr8・9, SCPH23)

クリープ(破断)強度 延性 靱性 熱疲労強度 高温安定性 溶接性

1Cr-0.5~1Mo鋼 (ASTM A356 Gr6, SCPH21, 22)1.25~2.25Cr-1Mo鋼 (ASTM A356 Gr10, SCPH32)12Cr鋼12Cr-Mo-W-V-Nb-N鋼9Cr-1Mo-V-Nb鋼 (火SFVAF28)

締付ボルト

1Cr-1Mo-V鋼

クリープ(破断)強度 延性 靱性 応力緩和特性 疲労強度

12Cr-Mo-W-0.3V鋼 (AISI 422, SUS616)12Cr-0.6Mo-0.3V-0.4Nb-N鋼 (H46)Ni基超合金

低圧タービン

ロータシャフト 3-3.5Ni-Cr-Mo-V 引張強度 延性 溶接性大型鍛造品製造

ブレードノズル

12Cr鋼 (AISI 403, SUS403)

引張強度 延性 靱性 疲労強度

12Cr-Mo-V鋼 (X20CrMoV121)12Cr-Ni-Mo-V-N鋼15Cr-Ni-Cu鋼17-4PH(SUS630)Ti-6Al-4V

ケーシング 炭素鋼 引張強度 延性 溶接性

表1 火力大型タービン主要部品の適用材料

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善が行われている。

鍛造工程では,鋼塊中心部のポロシティ圧着や鋳造組

織の緻密化ならびに鋼塊中心部とロータシャフト中心を

合わせた同芯鍛造等,鋼塊中心部まで十分な鍛錬効果を

付与するための10,000tを超える鍛造プレスによる鍛

造技術と条件が確立されている。

熱処理工程では,適正な機械的特性を付与するととも

に良好な超音波透過性を得るために,結晶粒を微細均一

化する焼入れ,焼戻し調質熱処理が行われている。均一

加熱のため,回転式竪型炉が適用される場合もある。

ロータシャフト材の内部品質確認のためには,外表面

や中心孔での機械的特性試験に加えて,l mmφ程度ま

ての欠陥検出精度を持った高感度超音波探傷が行われて

いる。

1.1.2 ロータシャフト材に要求される特性と材料

高温特性が重視される高圧・中圧ロータシャフトに対

しては,均一なクリープ破断強度・靭性・熱疲労強度を

重視して油焼入れ等の熱処理条件の最適化と不純物や非

金属介在物の低減化をはかったCrMoV鋼や,エレクト

ロスラグ再溶解法による12Cr鋼が使用(13)されている。

さらに12Cr鋼ロータシャフト材では,ジャーナル部の

摺動特性改善のために異種金属ブッシュを焼ばめした

ロータの他に,異種金属をロータジャーナル部に肉盛溶

接したロータシャフトも使われている。写真2は,

12Cr鋼ロータジャーナル部の肉盛溶接を示している。

低圧ロータシャフト材に対しては高い引張強度と優れ

た破壊靭性を重視して,水噴霧焼入れ等の熱処理条件の

最適化や不純物の低減化を行い,真空カーボン脱酸処理

をした3~3.5NiCrMoV鋼が使用(2)(5)(7)~(13)されている。

また現在,タービンコンパクト化のために大型高低圧

一体型ロータが開発されており,成分調整と熱処理条件

の改善により従来のCrMoV鋼と同等のクリープ破断強

度を高中圧部に持たせるとともに,低圧部の高靭性化を

はかった2~2.5CrNiMoV(W)鋼(2)~(10)が使用されて

いる。写真3は,大型高低圧一体型ロータを示している。

1.2 ブレード

1.2.1 ブレード材の製造方法

ブレード材は,鍛造または圧延角材からの削り出し,

または型鍛造等の方法で製造される。清浄な鍛造鋼塊と

するために1次溶解で成分調整や不純物除去を行ったの

ち,さらに介在物を減少させるため真空アーク再溶解や

エレクトロスラグ再溶解などの2次溶解が行われている。

鍛造工程では,十分な鍛圧効果を付与し緻密な金属組

織を得る。

熱処理工程では,適正な条件で焼入れ・焼戻し(溶体

化・時効)処理を行い良好な機械的性質と金属組織を付

与している。

1.2.2 ブレード材に要求される特性と材料

高圧・中圧タービンブレード材は,高いクリープ破断

強度,疲労強度,耐食性,金属組織の高温長時間安定性,

さらに良好な振動減衰特性が重視されており,これらに

適したブレード材としてマルテンサイト系12Cr耐熱鋼

が使用されている。また,高圧初段のノズルや動翼には

蒸気中の微細な固体粒子による経年的なエロージョンを

防止するために,プラズマコーティングや拡散コーティ

ングによる表面硬化処理(14)(15)が行われている。

低圧最終段ブレードは,ブレードの長大化に伴い,高い

引張強度を有する13Cr鋼,12CrMoV鋼,12CrNiMoVN

鋼や15CrNiCu鋼等の高強度鋼および比重の小さいTi-6

Al-4V材が使用されるとともに,強度試験や回転振動試

験による信頼性検証が行われている。さらに,翼前縁の水

滴エロージョンを防止するために,前縁へのステライト貼

付けや火炎焼入れ,高周波加熱焼入れによる表面硬化処

理や水滴分離スリット設置等の対策が行われている。

写真2 12Cr耐熱鋼ロータジャーナル部の肉盛溶接

写真 3 大型高低圧一体型タービンロータ

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1.3 ケーシング

1.3.1 ケーシングの製造方法

ケーシング鋳造では,適切な鋳造方案とコンピュータ

による凝固解析により,製品本体から押湯に向けて指向

性凝固を行わせ欠陥発生を防止している。

溶解は塩基性電気炉で,脱りん,脱硫,脱酸および成

分調整と出鋼温度の調整が行われる。

適切な機械的性質と金属組織を付与するために焼きな

らし・焼戻し熱処理が行われ,焼きならし後の冷却は通

常,均一な強制空冷が行うが,厚肉のCrMo鋳鋼,

CrMoV鋳鋼および12Cr耐熱鋳鋼では,良好なクリー

プ破断強度や延性等の適切な機械的特性を得るために浸

油冷却が行われる場合もある。

1.3.2 ケーシング材に要求される特性と材料

高温蒸気が流入する高圧・中圧ケーシング材は経年的

な変形と割れを防止するために,良好なクリープ破断強

度と熱疲労強度ならびに耐酸化性が要求されるととも

に,構造溶接や補修溶接に対する溶接性が重視される。

このための高圧・中圧ケーシング材としては,CrMo鋳

鋼,CrMoV鋳鋼,さらにクリープ破断強度に優れた

12Cr耐熱鋳鋼が使用条件に合わせて使用されている。

1.4 その他のタービン部材

1.4.1 蒸気弁

主蒸気および再熱蒸気の弁ケーシングには,クリープ

破断強度に優れたCrMo鋳鋼,CrMoV鋳鋼および12Cr

耐熱鋳鋼が使用条件に合わせて使用されている。さらに

品質向上をはかった鍛造弁も使用されている。弁体や弁

棒には耐熱鋼が使用され,弁棒の摺動部には高温酸化や

凝着を防止する目的で表面硬化(窒化)処理が行われて

いる(14)(15)他,弁座にはステライト肉盛等を行い摩耗を

防止している。

1.4.2 ノズルボックス・ノズルダイヤフラム

ノズルボックスやノズルダイヤフラムは,ロータやブ

レードとの間隙を保持するために経年的な変形を低減化

する必要があり,クリープ強度の優れたCrMo鋼や

CrMoV鋼,および12Cr鋼が使用されている。

1.4.3 締付ボルト

高圧・中圧タービンケーシングや蒸気弁ケーシングの

締付ボルトには,クリープ破断強度に優れさらに経年的

に締付カが低下しにくい(応力緩和の小さい)材料とし

てCrMoV鋼や12Cr耐熱鋼が使われている。特に,高

温部の高い締付力が要求される部位にはNi基超合金が

使われている。

2.USCタービン用材料

2.1 USCタービンの開発計画

2.1.1 蒸気条件の変遷

蒸気条件の高温・高圧化は,この1世紀にわたる蒸気

タービンの歴史の中で熱効率改善に大きく貢献してき

た。図2に蒸気タービンの蒸気条件の変遷を示す(16)。

1955年から1965年頃にかけて蒸気条件が飛躍的に上

昇し,1967年には超臨界圧(SC:Super Critical)の

図2 火力発電プラントの蒸気条件の変遷(16)

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24.1MPa・538/566℃の水準に達した。しかし,その

後しばらくは新たな蒸気条件の向上は見られなかった。

この間,2度にわたる石油危機によって石油の供給・価

格が不安定になったこと等から,脱石油化,高効率化へ

の機運が急速に高まった。また,国連気候変動枠組条約

締約国会議(COP)に見られるように,化石燃料の燃焼

に伴って排出される二酸化炭素が地球温暖化の原因の一

つであると考えられるようになったため,火力発電の高

効率化に対する要求も高まり,技術開発が積極的に進め

られた。図3は,蒸気条件の向上における各開発ステッ

プに対応した熱効率の向上値を示したものである。蒸気

条件の超々臨界圧(USC:Ultra Super Critical)化に

よって熱効率が向上することを示している。なお,本稿

ではSCとは蒸気圧力が22.1MPa以上かつ主蒸気温度

が566℃以下のもの,USCとは超臨界圧であるものの

うち,主蒸気が566℃を超えるものとしている(経済産

業省が平成25年4月25日に公表した「最新鋭の発電技

術 の 商 用 化 及 び 開 発 状 況(BAT:Best Available

Technologyの参考表)」による)。

2.1.2 USCタービンの開発

USCタービンの開発は,1950年代に米国およびヨー

ロッパで進められたが実用化に至らなかった。図4は,

USC実用化を目指した日本におけるUSCタービン材料

(含ボイラー材料)の開発工程を簡単にまとめたもので

ある。

我が国における蒸気タービンのUSC技術開発は1980

年頃から検討され始め,電力と国内タービンメーカとの

共 同 研 究 に お い てPhase-1(1980年 ~1993年),

Phase-2(1994年 ~2000年)と 開 発 が 行 わ れ た。

Phase-1は,STEP-1とSTEP-2とに分けて行われ

た。STEP-1 で は 蒸 気 条 件 を31.4MPa,

593/593/593℃とし,当時のSC向け材料を改良した

フェライト系耐熱鋼を適用した。STEP-2では蒸気条

件を34.3MPa,649/593/593℃とし,650℃近くの高

温に耐えられるようオーステナイト系耐熱鋼を適用し

図 4 USCタービンの開発工程(16)

図 3 蒸気条件と熱効率

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た。Phase-1の開発では回転体試験が電源開発㈱高砂

火力発電所にて,また,実証試験が電源開発㈱若松石炭

利用技術試験所において実施され,材料の健全性や運用

上の適用性等が評価された。Phase-2においては蒸気

条件を30MPa,630/630℃とし,600℃を超える高い

温度であったが,実用的な運用・経済性を目指して新し

いフェライト系耐熱鋼が開発された。

このようなUSC材料の開発成果もあり,1989年には

31MPa・566/566/566℃の蒸気条件を有する世界初

の本格的USCタービンである川越1・2号700MW(17)

が運転開始した。本タービンの組立断面図を図5に示す。

その後も蒸気温度が593℃以上のプラントが相次いで運

転開始され,現在では600/630℃のプラントも計画さ

れている。

一方,海外では米国においてEPRI(電力中央研究所)

が中心となって,1985年~1991年に大規模なUSCボ

イラ・タービン開発プロジェクト(18)が実施された。こ

のプロジェクトには,米国,日本およびヨーロッパのメー

カが参画し,国際的なレベルで研究開発が実施された。

タービンに関するプロジェクトでは我が国のタービン

メーカで開発してきた高温材料が有力候補材として取上

げられ,評価の対象となった。

ヨーロッパにおいては,主なタービンメーカ・素材メー

カ等が参画し,COST501,COST522,COST536プ

ロジェクト(19)としてUSC(600℃級)タービン材料の研

究開発を実施した。

2.2 USCタービンの設計と材料開発

2.2.1 設計要求と材料

表2はPhase-1,Phase-2の開発に適用された主

要部品の材料を示したものである(16)。Phase-1の

STEP-1,STEP-2共に回転試験と実証試験が行われ,

回転試験では高温材料の耐熱性検証と設計技術の確立が

図られ,試験後の金属組織的劣化・損傷評価及び寿命評

価により実機運用上も問題ない範囲内にあることが確か

図5 川越火力1・2号タービンの組立断面

Phase-1Phase-2回転体試験 実証試験

Step-1 Step-2 Step-1 Step-2

高温部ロータ

改良 12Cr鋼(12CrMoVNbNW

鍛鋼 )

オーステナイト鋼(改 A286鍛鋼 )

12Cr鋼(12CrMoVNbN鍛鋼)

オーステナイト鋼(改 A286鍛鋼 )

新型 12Cr鋼(12CrMoVNbNWCoB鍛

鋼 )

高温部羽根

12Cr鋼(12CrMoVNbN鍛

鋼)

Ni基合金(R26),オーステナイト鋼(A286)

Ni基合金 (R26),12C鋼 (12CrMoVW鍛鋼 ,

12Cr鍛鋼 )

Ni基合金 (R26), オーステナイト鋼 A286, W545)

新型 12Cr鋼(12CrMoVNbWCoB鍛

鋼 )

ケーシング オーステナイト鋼 (SUS316鋳鋼 ) 12Cr鋼(12CrMoVNbN鋳鋼)

オーステナイト鋼(SUS316H鍛鋼 )

改良 9Cr鋼 (火 SFVAF29)

蒸気弁 オーステナイト鋼 (SUS316H鋳鋼 ) オーステナイト鋼 (SUS316H鍛鋼 )新型 12Cr鋼

(12CrMoVNbNWCoB鍛鋼 )

蒸気配管・フランジ

オーステナイト鋼 (SUS316鋼管 ) オーステナイト鋼 (SUS316H鍛鋼 ) 改良 9Cr鋼 (火 SFVAF29)

表2 USCタービン開発 (Phase-1,P hase-2)に適用された主要部品の材料

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Sep. 2016590

められた。実証試験については,STEP-1 で約

1万4千時間,STEP-2て約5千時間の運転が行われ,

設計技術確立のためのデータ取得や効率・信頼性の検証

が行われた。STEP-1,STEP-2共に設計・製造に対

する有益な知見が得られ,大型USCの実現が技術的に

可能であることが示された。一方,STEP-2において

は600℃を超える蒸気条件において,従来12Cr系のフェ

ライト鋼では強度が不足すると考えられていたこともあ

り,クリープ強度の高いオーステナイト鋼が適用された

が,熱膨張の大きさに起因した繰返し熱応力を考慮する

必要性など,運用上の制約も議論された。

 Phase-2においては,600℃以上の蒸気条件にお

いてもフェライト系鋼を用いるということが目標の一つ

に掲げられ,630℃級で適用可能な新しい12Crフェラ

イト系鋼の開発が進められた。このような新しい12Cr

鋼に対しては,Phase-2において回転試験と要素試験

が実施された。このような試験を経て健全性が検証され

たことから蒸気温度600/610℃のプラントにも実機適

用されている。

630℃を超える蒸気条件に対しては,フェライト鋼よ

りクリープ強度の優れたオーステナイト鋼の適用も考え

られ,熱膨張係数を低くすべく改良もなされている。

ここでは,実際にUSCタービンの主要部品に適用さ

れている材料の現状について述べる。

2.2.2 高温ロータシャフト材

566℃までの蒸気条件のタービンでは,高温部のロー

タ シ ャ フ ト 材 と し て12Cr鋼(12CrMoVNbN鋼,

12CrMoVTaN鋼)が用いられているが,593℃以上の

USCタービンロータでは従来12Cr鋼の合金元素の最適

化や固溶強化元素であるWを添加した改良型の12Cr鋼

(12CrMoWVNbN鋼)が実機適用されている。改良型

の12Cr鋼は,化学成分や熱処理条件の最適化だけでな

く,大型素材としての健全性確保のための精練法として

VCD(真空カーボン脱酸)やESR(エレクトロスラグ再

溶解)が適用されている。改良型の12Cr鋼の成分の特

徴は,Mo当量(Mo+1/2W)が約1.5%付近に高めら

れていることと,C量が従来材に比べて低目に設定され

ていることである。また,凝固時に粗大NbNの晶出を

防止したり,δフェライトの析出を防止するためにCr

当 量(Cr+6Si+4Mo+l.5W+11V+5Nb-40C-30

N-4Ni-2Mn)を低目にしている。

また,Phase-2においては,630℃域までの蒸気温

度を目指しつつ,経済性・運用性が重視されたフェライ

ト鋼が開発され,この温度域で十分な強度を有する新し

い12Cr鋼(12CrMoWVNbNCoB鋼)が実機適用されて

いる。改良型の12Cr鋼(12CrMoWVNbN鋼)をより高

温化した新しい12Cr鋼ではMo量を低減,W量を増加

し,さらにCoやBを添加したことが特徴である。Co

はδフェライトの生成を抑制し,W量増加,B添加によ

り高温クリープ強度を高めている。

欧州においては,COST(CO-operation in Science

and Technology) 501プログラム(1986~1997年)にお

い て,蒸 気 温 度600 ℃ ま で の 温 度 域 に 向 け て

12CrMoWVNbN鋼(COSTE),12CrMoVNbN鋼(COST

F),12CrMoVNbNB鋼(COST B2)が開発され,続いて,

COST522(1998~2003年)で は620 ℃ 対 応 とし て,

COST B 2 鋼 を ベ ー ス にCoを 添 加 し た

12CrMoVNbNCoB鋼(COST FB2)が開発された。そ

の後,COST536(2004~2009年)では630~650℃級を

目標として長時間のクリープ試験が行われてきている。

2.2.3 低圧ロータシャフト材

大容量火力タービンの低圧ロータシャフトには,引張

強さが高く,かつ,靱性に優れた3.5NiCrMoV鋼が一

般に使用されている。この材料は脆化を促進させるNi

を3~3.5%含有することから,約350℃以上の温度域

で長期間加熱されると「焼戻し脆化」が進行する弱点を

持っている。そのため,以前は低圧タービンの入口温度

を脆化温度以下に冷却する構造が採られていたが,これ

は熱効率の低下要因の一つであった。しかし,再熱蒸気

温度が600℃レベルのUSCタービンにおいては低圧

タービンの入口温度がさらに上昇するため,焼戻し脆化

感受性の小さな低圧ロータシャフト材が必要とされてい

た。焼戻し脆性の脆化メカニズムの解明や,大型鋼塊の

品質向上に対する改善努力が相まって,焼戻し脆化感受

性の小さなスーパークリーン低圧ロータシャフト材が開

発され実用に供されている。その特徴は,脆化の主原因

であるP, S, As, Sn, Sb等の不純物を極低下させるとと

もに,脆化促進元素であるSi,Mnも極低下させたことで

ある。また,低圧ロータは高圧ロータに比較して寸法・

重量が大きく,高純度と機械的性質を満足した大型鋼塊

の製造技術を確立している。

このスーパークリーン低圧ロータシャフトは,USC

タービンである川越火力に世界で初めて実用化(20)され

て以来,多くのプラントで採用されている。

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Ⅵ.タービン用材料

45

Vol. 67 No.9 591

2.2.4 高温用ブレード材

USC以前の蒸気条件のタービンでは高温用ブレード

材として,12Cr鋼(12CrMoVNbN鋼や12CrMoWV鋼)

が古くから用いられて来たが,593℃のUSCタービン

に対しては,ロータシャフトと同様に,よりクリープ破

断強度の優れた鋼が用いられている。ブレードはロータ

シャフトと異なり小型の圧延または鍛造品であり,製鋼

プロセスにおける成分偏析の懸念が少ないため,ロータ

シャフトでは少量添加に留めざるをえなかった偏析傾向

の強いNbを高めることができる。ブレード材はロータ

シャフト材よりも室温から高温に至るまで設計要求強度

が高いのでこのような元素の添加がなされる。改良型の

12Cr系鋼高温用ブレード材はロータシャフト材の場合

と同様に各タービンメーカによって異なるが,基本的に

はNb(C, N)の析出強化とWによる固溶強化を利用した

12CrMoWVNbN鋼である。

また,600℃を超える温度に対しては,CoやBを添

加し高温強度を高めた新しいタイプの12Cr系鋼やオー

ステナイト系耐熱鋼,Ni基超合金を用いている。

2.2.5 ケーシング・蒸気弁

高圧・中圧タービンケーシングや,主蒸気止め弁・蒸

気加減弁等の蒸気弁は,形状が複雑であることから通常

は鋳造で製造される。主蒸気止め弁・蒸気加減弁につい

てはケーシングに比較すると形状や大きさが製造しやす

いことから,品質面を考慮して鍛造品とする場合もある。

また,ケーシング,弁については高温強度のみならず,

材料には構造溶接や補修溶接に対する溶接性も重要な要

素である。USC以前の蒸気条件のタービンにおいては,

CrMoV鋳鋼材や2.25CrMo鋳鋼材が使われている。

ケーシングや蒸気弁は内圧が負荷される部品であるが,

一方で,内圧に耐えられるよう肉厚を大きくし過ぎると

起動停止時の過渡状態において過大な熱応力が発生する

ことも考えられる。すなわち,過度な厚肉構造にはでき

ないことから,温度・圧力が高いUSCタービンの場合は,

より高温強度の高い材料が必要である。材料強度,製造

性,溶接性等の特性を考慮すると,フェライト・マルテ

ンサイト系耐熱鋳鋼の12CrMoVNbN鋳鋼が適用されて

いる。Phase-1の時点では,この鋼種はタービンケー

シング等の大型かつ複雑形状の鋳鋼品としての製造・使

用実績がなかったため,内部性状等の品質および材料強

度に優れた鋳鋼部品の製造技術の確立が不可欠であっ

た。化学成分や熱処理条件の最適化,実機規模のモデル

ケーシングの試作・検証を経て,USCプラント初期で

は川越火力1・2号機のタービンケーシング,蒸気弁お

よびノズルボックスに適用(21)(22)された。また,その後,

さらに高いクリーブ破断強度を得るために,ロータシャ

フト材と同じ考え方でWの固溶強化を利用した改良型の

12Cr鋳鋼(12CrMoWVNbN鋳鋼)が開発され(23)(24),

蒸気弁等に実用化している。さらに,Phase-2におい

ては,ケーシングや蒸気弁向けに,CoやBを添加し高

温強度を高めた新しいタイプの12Cr系鋳鋼が開発され

ている。

2.2.6 蒸気配管材

高温の蒸気が流れる配管用の材料としては,従来の蒸

気条件のタービンにおいては,2.25CrMo鋼が多く用い

られてきたが,蒸気の温度・圧力の上昇とともに,より

高いクリープ破断強度を有する材料の適用が必要とな

る。Phase-1,Phase-2の蒸気条件に対しては,9

Cr鋼(9Cr2Mo鋼,改良9Cr1Mo),SUS316等の

オ一ステナイト鋼が適用され,典型的な商用機において

は9Cr系鋼が用いられている。

2.2.7 締付ボルト材

 タービンケーシング,蒸気弁,フランジ等の締付ボ

ルトは,高温・高圧の蒸気の漏洩を防止するために必要

な部品であり,クリープ強度や応力緩和特性を考慮して

材料が選定される。USCの蒸気条件に対しては,12Cr

鋼(12CrMoVNbN鋼や12CrMoWV鋼),Ni基超合金

が用いられる。

2.3 USCタービンの現状と動向

火力発電プラントの性能や熱効率の向上は常に耐熱材

料の進歩と共に進展してきた。USCタービンの発展の

ためには優れた高温強度を有する耐熱材料が必要不可欠

であったことから,9~12Cr鋼のフェライト系耐熱鋼

の研究は著しく進歩し,新しい材料が相次いで開発され

てきた。製鋼技術と耐熱材料研究の長年にわたる発展に

より,わが国は耐熱鋼開発分野で世界をリードし,

EPRIやヨーロッパのUSC開発プロジェクトにも大きく

貢献してきた。大型事業用実用プラントとしては,世界

初の本絡的USCタービンである川越1・2号以降,徐々

に主蒸気温度,再熱蒸気温度を向上し,今後は,主蒸気

600℃,再熱蒸気600℃超級が,当面,主流になると考

えられる。また,700℃級の蒸気条件を目指した

A-USC(Advanced-Ultra Super Critical)化の研究開

発も2008年から国家プロジェクトとして進められてお

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火 力 原 子 力 発 電

46

Sep. 2016592

り,Ni基超合金によるロータ用大型鍛造品の試作にも

成功している。このように,これまでに培った材料技術,

新しく開発された耐熱材料が実用プラントで使用され,

実績を積重ねることは,材料の開発研究がさらに大きく

発展してゆくだけでなく.将来のより高温化に向けての

技術の進歩を加速することになると思われる。

(本論文に掲載の商品の名称は,それぞれ各社が商標

として使用している場合があります)

参 考 文 献

(1) 高澤,三木:「高効率火力発電技術を支える高

中圧蒸気タービンロータの開発」日本製鋼所技報

No.65(2014) p.1

(2) 土山ほか:「2Cr-Mo-V鋼の機械的性質におよぼ

す化学成分の影響」(大型高低庄一体型2Cr鋼ロータ

の開発 第1報)材料とプロセス(1992) CAMP-ISIJ

(3) 久野ほか:「大容量火力発電用蒸気タービンの新技

術」日立評論Vol. 62 No.4(1980-4)

(4) 浅井,齊藤,村上:「大容量・高温化対応蒸気

タービンの溶接ロータ」 東芝レビュー Vol.65 No.8

(2010) p.12

(5) 東ほか:「スーパークリーン2.5%Ni-Cr-Mo-V鋼

高低圧一体型ロータの製造とその特性」材料とプロセ

ス(1991)CAMP-ISIJ

(6) Y.Yoshioka et al:「Superclean 3. 5N i-Cr-

Mo-V Steel for Low pressure Rotors」EPRI

Conference(1991)California

(7) Y. Fuku i et al:「Development of Superclean

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(8) M.Yamada et al:「Development of Integral

High-Pressure-Low-Pressure Combination

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Steam Turbines」 Symposium on Materials for

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(10) 辻ほか:「高低圧一体型蒸気タービン用新耐熱2

1/4Cr-Mo-V鋼の開発」鉄と鋼(1990)ISIJ

(11) 辻ほか:「最大径φ1950mmの高低圧一体型蒸気

タービンロ-タ用新耐熱鋼2 1/4Cr-Mo-V鋼 の性

状」鉄と鋼(1992) ISIJ

(12) W. Wiemann et al:「Advanced 2%CrMo

NiWV Steel for Rotors with Enhanced Requ

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(13) 松村ほか:「2Cr-Mo-V鋼による実機タービン

ロータの製造とその評価」(大型高低圧一体型 2

Cr 鋼ロータの開発 第2報)材料とプロセス(1992)

CAMP-ISIJ

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Erosion Damage in Large Steam Turbines」

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(16) 山田ほか:火力原子力発電 52 (2001) p.15

(17) H. Nomoto et al: Proc.3rd Int Conf Improved

Coal-Fired Power Plants(1991)

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Conf.48(1986) p.51

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(20) R. I.Jaff eeほか:火力原子力発電39(1988) p.607

(21) 宮崎ほか:火力原子力発電37(1986) p.65

(22) 中村ほか:火力原子力発電39(1988) p.985

(23) 山田ほか:鉄と鋼76(1990)p.1084

(24) W. Gysel et al:Proc. 3rd Int Conf.Improved

Coal-Fired Power Plants(1991)

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Ⅵ.タービン用材料

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Vol. 67 No.9 593

ガスタービンは内燃機関の一種である。圧縮機で常圧

の10-30倍程度まで圧縮された空気を燃焼器に導き,燃

料を加えて燃焼させ,高温・高圧の燃焼ガスを発生させ

る。この燃焼ガスをタービンで膨張させ,燃焼ガスの持

つ熱エネルギーを仕事に変換して出力を得る。図1 (1)

に代表的な発電用ガスタービンの断面図を示す。

図1 ガスタービン構造断面図(1)

( M501J形ガスタービン)

燃焼器やタービンは長時間高温燃焼ガスに曝されるた

め,高い耐熱強度や耐酸化性を有する耐熱超合金

(Superalloy)が適用されている。本節ではガスタービ

ン材料の特徴である耐熱超合金を中心としつつ,産業用

ガスタービンに適用される材料の概要を紹介する。

先に本超合金が適用される産業用ガスタービンについ

て簡単に述べる。

1.産業用ガスタービンの歩みと現状(2)

ガスタービンは1900年代に開発が本格化した。航空

機では1930年にF. Whittleがターボジェットエンジン

の特許を出願したのを皮切りに開発が進み,1937年に

試作機のテスト飛行が成功した(3)。

一方,産業用ガスタービンでは1939年にブラウン・

ボベリ社(Brown Boveri,スイス)が世界初の産業用

ガスタービンを開発し,ヌーシャテル(Neuchatel,ス

イス)に発電容量4MWの単純サイクル一軸型GTを建

設した。同年第2次世界大戦が勃発。戦時中に進歩した

航空機用ガスタービン技術を用いて,戦後,産業用ガス

タービン開発が進められた。

日本では1949年に戦前に試作されたガスタービンの

試験運転が石川島芝浦タービン㈱(現㈱東芝)で実施さ

れ,産業用ガスタービンの開発が始まった。

1957年に富士電機製造㈱(現富士電機㈱)が,事業

用発電として国産初となる発電容量2MWの発電用ガ

スタービンを北海道電力㈱豊富発電所に納品した。また,

1950年代後半より,排ガスを再燃させるタイプのボイ

ラと組み合わせた複合発電方式が検討された。1968年

に丸住製紙㈱川之江工場で発電容量32.9MWの三菱重

工業㈱製MW-191形ガスタービンを用いた排気再燃式

複合サイクル発電所が建設され,1971年には四国電力

㈱坂出発電所にて発電容量30MWの三菱重工業㈱製

MW-301形ガスタービンを用いた発電容量225MWの

排気再燃式複合発電所が建設された。

1980年代タービン入口ガス温度が増加し,排ガスボ

イラを組み合わせた複合発電方法(ガスタービンコンバ

インドサイクル発電プラント:GTCC)が誕生した。 

 1981年に日本国有鉄道(現,東日本旅客鉄道㈱)社は,

日立製作所-General Electric社製のMS9001Bによる

国内初のGTCC発電所(141.3MW)を建設した。

1984年に東北電力㈱は,三菱重工業㈱製MW-701D形

ガスタービンによる世界初の事業用LNG焚きGTCC発

電所である,東新潟火力発電所3号系列(1,090MW)

を建設した。

GTCCは,燃料の燃焼熱を熱源とするガスタービン

のブレイトンサイクルを高温側のサイクルとし,低温側

のサイクルにはガスタービン排ガスの熱回収によって得

られた蒸気によるランキンサイクルを用いることによ

り,作動温度域を高温から低温まで広げて,総合熱効率

の改善をはかるものである。高温側サイクルであるガス

タービンの入口ガス温度を高温化すれば,ガスタービン

自身の効率向上に加え,ガスタービン排ガスの温度が上

昇し,低温側サイクルである蒸気サイクルの効率も向上

されるため,プラント総合効率を大きく向上させること

が可能となる。

このため発電用ガスタービンは大容量化と共に,入口

ガス温度の高温化が積極的に進められてきた。即ち,

1950年頃におけるタービン入口ガス温度は650℃程度

であったが,1980年代には1100℃へ増加し,1990年

代に1500℃まで向上した。

2004年より1700℃級高効率ガスタービン開発研究

2.ガスタービン

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火 力 原 子 力 発 電

48

Sep. 2016594

が国家プロジェクトとして発足し,現在も推進されてい

る。(4) この開発成果を活用し,世界初のタービン入

口ガス温度1600℃級の産業用ガスタービン(M501J/

M701J形ガスタービン:三菱日立パワーシステムズ㈱)

が開発された(1)。 

図2は発電用ガスタービンの開発時期とタービン入口

ガス温度との関係を示したものである(5)。世界各国が

国家プロジェクトを発足させ,ガスタービン高温化技術

の向上に弛まぬ努力を払っている様子が窺える。

図2 ガスタービン開発時期と入口温度の相関(5)

また排ガス中のNOx値環境規制や,熱効率向上によ

る総CO₂排出量の低減効果により,GTCCは火力発電

設備においてクリーンな発電設備として認められてい

る。さらに近年シェールガス田開発などで,GTCC主

燃料である天然ガス供給が拡大された背景もあり,火力

発電設備の主機としての期待が益々高まっている。

2.ガスタービン高温化への対応

タービン入口ガス温度の高温化において問題となるの

は,高温燃焼ガスにさらされる燃焼器やタービン動静翼

におけるクリープによる変形や損傷,熱疲労や高サイク

ル疲労による損傷,高温酸化による減肉,高温腐食であ

る。これらに対処するために,冷却構造の改良と共に,

より高温特性の優れた材料や耐熱コーティングの研究開

発が鋭意なされてきた。

2.1 耐熱超合金の開発

高温に耐える材料,即ち耐熱超合金(Superalloy)

の開発は1900年以降活発に進められてきた。超合金は

最も多く含有する合金元素を基準として,鉄基超合金,

コバルト(Co)基超合金,ニッケル(Ni)基超合金の3種

類に大別される。ここでは各超合金の開発経緯に関し,

概要を整理して報告する。

(1) 鉄基超合金 (6),(7),(8

1919年米国で航空機用ターボ過給機の開発が活発化

し,高強度を有する耐熱合金要求が高まった。当初過給

機のホイール材としてバネ鋼(SAE6150)を用いたが,

耐熱温度は約565℃(1050F)が限界であった。1933

年にCr,Ni,Co,Wを添加したオーステナイト耐熱鋼17W

合金が開発され,耐熱温度は約704℃(1300F)と約

140℃上昇した。更なる耐熱温度の上昇を検討した結果,

Co基鋳造合金へと推移した。これは(2)項で述べる。

一方,17W合金系統の固溶強化及び微細な炭化物等

で強化される弱析出強化型鉄基超合金は,ディスク合金

向けなどに開発が続けられた。この結果,17W合金か

らWを除き,Mo添加等の組成調整を実施した16-25-

6合金,Nb・Tiを添加して組成調整した19-9DL合金,

さらにCo・Mo・Nbを添加して組成調整したLCN-

155合金が開発された。ここで16-25-6合金,19-9

合金はHot-Cold Workingと呼ばれる加工硬化処理,

即ち,15-30%の歪を与えて再結晶温度以下で歪取焼き

なまし処理強化する場合がある。しかし加工硬化処理温

度以上になると軟化が促進されて強度が低下する懸念が

あり,また大型ディスクでは均一加工歪を与えることが

難しいため,現在ではあまり使われていない。

またAl,Tiを添加することで微細なγ’相を析出させ

て強化する,強析出型鉄基超合金も生み出された。この

系統の合金は第2次世界大戦時にドイツで生まれた

Tinider合金を起源とし,Tinider合金に約3%程度Mo

入れて靱性を改善したDiscaloy合金,さらに靱性を向

上させるため少量のVを添加したA286/G68合金があ

る。

しかしながら,鉄基超合金はTi,Alが多すぎると脆化

相を発生しやすくなるため,徐々にNi,Crを増量させて

材料の安定性を増す方向で開発が進められた結果,鉄の

含有量はNiの含有量と逆転するようになった。D-979や

K-42B,Refractaloy26,IN-706はこの思想から開発

された耐熱合金で,Ni-Fe基合金と呼ばれることもある。

表1は上述の鉄基超合金の組成を纏めたものである。

徐々にNiの含有量が増加する傾向が窺える。

(2) Co基超合金(6),(7),(8),(9)

Co基超合金は米国が主体となり開発された耐熱超合

金である。1900年代初期にE. Haynesが設立した

「Haynes Stellite Works」がCo-Cr合金を商用化し,

工具鋼として販売した。またHaynes社とAustenal

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Ⅵ.タービン用材料

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Vol. 67 No.9 595

Laboratory社(現Alcoa Howmet社前身)が,Co-Cr合

金にMo・Cを添加して歯科用に改良したVitallium合金

を開発するなど,Co基超合金の適用が広がっていた。

第2次世界大戦中に米国のジェットエンジン過給機用

合金開発の中でインゴット鋳造用鋳型が余ったため,

Vitallium合金を鋳込んだところ,本合金だけが全ての

試験を合格した。(10) そこで,Vitallium合金にNi・Fe

を添加して組成改良した結果,Haynes Stellite No21

合金(HS21)が開発されたという逸話が残っている。

この後,HS21をベースとして,Mo・Feの固溶強化

をWに置き換えて組成調整したHS25(L-605)合金

やHS31(X-40)合金が開発され,X40は後にC量が

半減されたX45合金に改良された。またL-605合金に

Ni含有量を増加させてHA188合金が開発され,さらに

Taを添加して強化したMarM-302,MarM-322合金が

開発された。1960年代にはMarM-302合金にTi,Zrを

微量添加して組成調整したMarM-509合金が開発され,

1985年にはW・Ni・Feを添加したFSX-414合金が開

発された。

Co基超合金は融点が高く,高温域での運用に耐えや

すい傾向があった。またCo基超合金は20~30wt%程

度のCrを含有するため,高温腐食(Hot Corrosion)

に強く,ガスタービンの運転環境下における腐食問題に

も対応できた。また優れた耐熱疲労性を有し,溶接性が

良好であったため,Ni基超合金が開発される1950年台

までは航空用ガスタービンのタービン用合金として使用

されていた。現在でもガスタービンの静翼材料として用

いられている。

一方で,Co基超合金は幾つかの問題があった。

まず,Coの供給安定性である。Coはアフリカ大陸の

カッパ―ベルトで多く産出され,世界供給量の約半分を

担っている。しかし1950年頃より主要産出国である中

央アフリカで紛争等が生じ,幾度かに渡りCoの安定供

給に深刻な問題が発生したため,Coを敬遠する傾向が

形成された。

次は高温強度向上の限界である。Co基超合金の主な

強化機構は炭化物析出強化と固溶強化である。よって,

高温強度向上には添加元素の増加が不可避であるが,長

時間運用に対する組成安定性を考慮すると強化には限界

があった。

このため大型真空溶解が開発され,Ni基超合金のγ’

相析出強化機構が十全に機能を発揮できる環境が整う

と,高温材料の開発競争はNi基超合金が主流となり,

Ni基超合金の耐熱強度はCo基超合金を上回るように

なった。

表2は上述のCo基超合金の組成を纏めたものであ

る。単純な固溶強化系加え,Ta,Tiを添加した炭化物析

出強化系などが誕生したが,Ni基超合金ほど発展でき

ていない様子がうかがえる。

2006年に石田,佐藤の報告(11)によりCo基超合金へ

のγ’相析出強化が可能であることが示された。Co基超

合金の更なる合金開発に繋がるかが期待される。

合金名 C Cr Ni Co Fe Mo W Ta Nb Ti AI B Zr Hf Mn Si V その他

初期開発超合金

(参考)SAE6150(6)

0.45 1 ― ― Bal. ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 0.25 ―

17W(6) 0.45 14 19 19 Bal. ― 2.5 ― ― ― ― ― ― ― 0.6 0.6 ― ―

弱析出硬化型超合金

16-25-6(8) 0.08 16 25 ― Bal. 6 ― ― ― ― ― ― ― ― 1.35 0.7 ― 0.15N

19-9DL(8) 0.3 19 9 ― Bal. 1.25 1.2 ― 0.4 0.3 ― ― ― ― 1.1 0.6 ― ―

LCN-155(8) 0.15 21 20 20 Bal. 3 2.5 ― 1 ― ― ― ― ― 1.5 0.5 ― 0.15N

強析出硬化型超合金

Tinider(8) 0.04 14.7 26.1 ― Bal. ― ― ― ― 2.26 0.15 ― ― ― 1 0.73 ― ―

Discaloy(8) 0.04 13.5 26 ― Bal. 2.75 ― ― ― 1.75 0.1 ― ― ― 0.9 0.8 ― ―

A286/G68(6) 0.05 15 26 ― Bal. 1.75 ― ― ― 2 0.2 ― ― ― 1.35 0.95 0.3 ―

強析出硬化型超合金

(Ni+Fe基合金)

D-979(8) 0.05 15 45 ―Bal.(27)

4 4 ― ― 3 1 0.01 ― ― 0.6 ― ― ―

K-42B(8) 0.03 18 42 22Bal.(14)

― ― ― ― 2.1 0.2 ― ― ― 0.7 0.7 ― ―

Refractaloy 26(8)

0.03 18 38 20Bal.(16)

3.2 ― ― ― 2.6 0.2 ― ― ― 0.8 1 ― ―

IN706(21) 0.03 16Bal.(39)

― 37 ― ― ― 2.9 1.8 ― ― ― ― ― ― ― ―

表1 代表的な鉄基超合金の化学組成 (%)

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火 力 原 子 力 発 電

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Sep. 2016596

(3) Ni基超合金 (6),(7),(8),(9)

1905年に米国でA. L. Marshが80Ni-20Cr合金(ニ

クロム材)を開発した。これは耐熱ワイヤー材として現

在も使用されているNi基超合金である。1929年に英国

のBedfordとPilling,Mericaがニクロム合金に少量の

AlとTiを添加すると非常にクリープ強度の高い合金が

得られることを発見し,特許を取得した (12)。 

こ の 研 究 か ら1941年 にTiとAlを 添 加 し た

Nimonic80合金を開発。その4年後にNimonic80A合

金を開発し,さらにCoを添加したNimonic90合金

(1945年)も開発された。但し,この強化機構であるγ’

相の存在は,1951年にTaylorとFloydが電子顕微鏡(走

査型電子顕微鏡(SEM)は1937年頃に完成)を用いて

研究したレポートが発表されるまで判らなかった。

米国では1936年にNi基超合金であるHastelloyA及

びB合金を開発した。しかしながら,Crが含まれてお

らず耐酸化性に劣っていた。

1952年にNimonic90合金組成系にMoを追加して組

成改良したWaspaloy合金が開発され,ガスタービン動

翼材として用いられた。この合金は鍛造材であり,素材

鋳込み後に鍛造を施し,微細結晶化させる必要があった。

しかしながら当時の大気溶解技術では,合金中のAl,Ti

の酸化を抑えきれず,大量製造は困難を極めた。そこで

真空溶解技術の向上が急務となり,同年12月31日に米

国でF.N.Darmaraによる真空溶解技術の実用化が始ま

る(13)など,真空溶解が急速に量産へ適用された。この

結果,酸化物等の不純物の影響を抑えることができるよ

うになり,Waspaloy合金の生産性が一気に向上した。

この真空溶解技術は,Ni基超合金の開発を強力に後

押しした。1950年代には,Hastelloy X合金(1952年),

M-252合金,Udimet 500合金,IN713C合金などが次々

に開発された。

高温強度向上を検討する中で,強度のバラツキは重要

な問題であった。様々な検討の結果,極微量のボロン

(B)とジルコニウム(Zr)を添加することにより,強度

のバラツキを低減し,さらにはクリープ破断強度をさら

に高められることを見出した。これは両元素の化合物が

結晶粒界の隙間を埋めることで,結晶粒界の密着性を向

上させることや,粒界の滑りを抑制する等の効果によっ

て,粒界が強化されるためと考えられた (14)。

真空溶解技術や粒界強化技術の向上により,Al,Ti等

の添加量が益々増加するにつれて,合金組成の改良は難

度を増していった。Al,Tiや固溶強化元素を多量に入れ

た結果,長時間加熱によりクリープ強度を低下させる有

害な析出相(σ相など)が認められるようになったた

めである。この有害相はTCP相(Topologically Close

Packed phases)と呼ばれた。

1950年代にBeckらの研究(15)によって,σ相の発生

と金属原子間の空孔数に相関があることが示され,

1938年にPaulingが研究した原子空孔理論と合わせて

σ相が出る組成の予測計算方法が検討され始めた。この

結果,1960年代にPHACOMP法など,TCP相の析出

を予測する計算方法が開発された (14,15,16) 。これらの予

測計算手法は実験結果から得られる物性値を用いるた

合金名 C Cr Ni Co Fe Mo W Ta Nb Ti AI B Zr Hf Mn Si V その他

初期検討合金(参考)Vitallium(7)

0.35 28 ― Bal. ― 6 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

固溶強化系

Haynes Stellite No.21(6)

0.25 27 2.5 Bal.≦2.0

5.5 ― ― ― ― ― ― ― ― 0.7 0.7 ― ―

Haynes Stellite No.25(8)

(L-605)0.1 20 10 Bal. ― ― 15 ― ― ― ― ― ― ― 1.5 0.5 ― ―

Haynes Stellite No.31(32)

(X-40)0.5 25.5 10.5 Bal. ― ― 7.5 ― ― ― ― 0.01 ― ― ― ― ― ―

X-45(32) 0.25 25.5 10.5 Bal. ― ― 7.5 ― ― ― ― 0.01 ― ― ― ― ― ―HA-188(21) 0.05 22 22 Bal. 1.5 ― 14 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 0.08LaFSX-414(21) 0.25 29 10 Bal. 1 ― 7 ― ― ― ― 0.01 ― ― ― ― ― ―

固溶強化+Ta、Ti添加炭化物析出

MarM-302(8) 0.85 21.5 ― Bal. ― ― 10 9 ― ― ― 0.005 0.2 ― 0.1 0.2 ― ―MarM-322(8) 1 21.5 ― Bal. ― ― 9 4.5 ― 0.75 ― ― 0.2 ― 0.1 0.1 ― ―MarM-509(21) 0.6 24 10 Bal. ― ― 7 3.5 ― 0.2 ― ― 0.5 ― ― ― ― ―

強化系 ECY768(32) 0.6 23.5 10 Bal. ― ― 7 3.5 ― 0.25 0.18 ― ― ― ― ― ― ―

表2 代表的な Co基超合金の化学組成 (%)

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Ⅵ.タービン用材料

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Vol. 67 No.9 597

め,幾度かの改良が重ねられた結果,現在でも合金組成

を検討する重要な計算手法となっている。

この結果,1960年代から70年代に初期産業用ガス

タービンにおけるタービン部品の主要合金が開発され

た。IN718合金(1962年),IN625合金(1964年),

Rene80合金やIN713LC合金(1965年),IN738LC合

金(1969年),IN792合金(1971年),NimonicC263

合金(1971年)などである(17)。

また,組成予測計算による検討の結果,Ni基超合金

にAl,Tiの添加量を増加させる場合,材料の相安定性を

向上させるためには,Crの添加量を減少させなければ

ならないことが判明した。これはクリープ破断強度の向

上と,耐酸化性はトレードオフの関係になることを示唆

するものであった。このため更に高温耐熱合金の実用化

のためには,翼表面(外表面のみならず,内面も含む)

の耐酸化性を向上させなければならず,耐酸化コーティ

ングの検討が急速に進んだ。これに関しては後述する。

1970年代に入ると,脆化相抑制を考慮しても,強化

元素の過度な添加が延性の著しい低下を引き起こすよう

になり,長時間実運転における信頼性を考慮すると,こ

れ以上合金組成改良のみでのクリープ破断強度向上を図

ることが難しくなった。超合金の耐用温度の上昇とター

ビン入ロガス温度の上昇傾向は一致しなくなり,タービ

ン入ロガス温度の上昇は冷却設計技術と遮熱コーティン

グの効果が重要視されるようになる。

超合金の組成改良に関する基礎が固まる中で,合金

メーカ及び産業用ガスタービンメーカは,各種強度や延

性,耐酸化性を考慮した独自の耐熱超合金を開発した。

Martin Marietta社はMarM247合金を開発した。本合

金は後にCannon-Muskegon社が改良し,CM247LC

合金を開発した。General Electric社は動翼用材料

GTD111合金,静翼用材料GTD222合金を開発した。

三菱重工業㈱は動翼用材料MGA1400合金,静翼用材

料MGA2400合金,燃焼器用Tomilloy合金を開発した。

日立製作所では静翼用材料HGTN4合金を開発した。

次に,超合金に対する更なるクリープ強度向上の方向

性を示したのが,精密鋳造技術で開発された結晶制御技

術である(18)。1964年にPratt&Whitney社が一方向凝固

(Directly Solidifi ed:DS)鋳造方法の開発を着手した。

DS鋳造法は結晶粒界を竹の繊維束の様に一方向へ成長

させることで,翼高さ方向のクリープ破断強度を強化す

る技術である。本DS鋳造法は1969年から軍用航空エ

ンジンに適用され,1974年から商用航空機エンジンに

も適用され始めた(19)。

産業用ガスタービンでは,General Electric社が

1887年にMS5002の1段動翼にGTD111DS合金を世

界で初めて適用した。その後,各社が続き,三菱重工業

㈱では1994年にMF111ガスタービンのタービン1段

動 翼 にMGA1400DS合 金 を 採 用 し た。 そ の 後,

1500℃級大型ガスタービンの1段・2段動翼へ

CM247LCDS合金及びMGA1400DS合金が採用され

た (20)。現在では殆どの産業用ガスタービンメーカが

タービン前方段などにDS鋳造法で製造した動翼を適用

している(21)。

またPratt&Whitney社は単結晶材料も開発した。単

結晶材は結晶粒界が無く,結晶方位をコントロールでき

れば,最も高強度な材料を製造することができる。

単結晶材料はPratt&Whitney社がPWA1480合金,

1483合金(第1世代),PWA1484合金(第2世代)を

開発した。General Electric社はReneN4合金(第1

世代。この後,本合金をベースとして後方段用DS合金

GTD-444合金が開発された),ReneN5合金(第2世代。

粒界強化元素であるC,B,Hfを少量含み,ある程度の方

位差の結晶粒界を許容する),ReneN6(第3世代)を

開発した (21)。Cannon Muskegon社はCMSX2合金

(第1世代),CMSX4合金(第2世代),CMSX10合金

(第3世代)を開発している。日立製作所㈱はYH61合

金(22)(第2世代)を開発した。最近は日本の物質・材

料研究機構(NIMS)がSC合金開発を主導しており,

TMS-173合金/138合金(第4世代),TMS-162合金

/196合金(第5世代)合金まで開発されている (23)。

単 結 晶 動 翼 は1990年 にSolar社 が10MW級

Mars100にCMSX-4合金(第2世代)を単結晶翼と

して初めて搭載した。General Electric社はH型ガス

タービンにSC翼を適用している (21)。

NIMSでは現在第6世代合金の開発を実施している。

SC合金はガスタービンの更なる高温化に対応できる重

要な技術であり,今後の発展が期待される。

一方,単結晶合金はクリープ強度の向上のため,非常

に高価なレアメタルであるレニウム(Re)やルテニウム

(Ru)を添加しており,調達性に関しては課題がある。

そこで高価なレアメタルを含まない単結晶の開発も検討

されており,例えば三菱重工業㈱とNIMSが開発した

TMS1700合金(MGA1700合金)合金は経済性を重視

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Sep. 2016598

してReを無添加にした高強度合金である。

表3は上述のNi基超合金の組成を纏めたものである。

合金代表例だけでもかなりの数に上る。鍛造合金から,

鋳造合金,最新の単結晶合金へと移りゆく中で,特にγ’

強化元素であるTi,Al,Ta,Nbの含有量が徐々に増加し,

さらにRe,Ruの希土類元素が用いられる傾向を読み取

ることができる。

図3は耐熱超合金の代表的なミクロ組織を開発歴史順

に並べたパノラマ図(9)である。図の上段には強化に寄

与する相を示し,下段にはTCP相など劣化相が示され

ている。下の年代には代表的な開発合金名が記されてい

る。上述のように,1950年代以降からγ’相等の析出

量が著しく増加し,1970年代以降から結晶制御が始

まった様子が詳細に描きこまれている。

また図4は各合金のクリープ破断強度を開発時期別に

整理し,上述のクリープ破断強度向上に関する開発経緯

を示したものである。1950年代まではTi,Alの添加量も

少なく,Moなどの固溶強化で耐熱温度を増加させてい

るが,頭打ちになっている。50年から70年にかけては

合金名 C Cr Ni Co Fe Mo W Ta Re Ru Nb Ti AI B Zr Hf Mn Si V その他

初期開発超合金

代表例

(参考)Nichrome   (ニクロム) ― 20 Bal. ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

Nimonic80(6) 0.05 20 Bal. ― 0.5 ― ― ― ― ― ― 2.3 1 ― ― ― 0.7 0.5 ― ―Nimonic80A(8) 0.1 20 Bal. 2 5 ― ― ― ― ― ― 2.2 1.1 ― ― ― ― ― ― ―Nimonic90(8) 0.13 20 Bal. 18 5 ― ― ― ― ― ― 2.4 1.5 ― ― ― ― ― ― ―HastelloyA(7) ― ― Bal. ― 20 20 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―HastelloyB(7) ― ― Bal. ― 5 28 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

950年代

開発超合金

代表例

HastelloyX(8) 0.1 22 Bal. 1.5 18.5 9 0.6 ― ― ― ― ― ― ― ― ― 0.5 0.5 ― ―

Waspaloy(8) 0.07 19.5 Bal. 13.5 2 4.3 ― ― ― ― ― 3 1.4 0.006 0.09 ― 0.5 0.5 ―0.03S

0.1CuM-252(8) 0.15 19 Bal. 10 ― 10 ― ― ― ― ― 2.6 1 0.005 ― ― 0.5 0.5 ― ―

Udimet500(21) 0.07 18.5 Bal. 18.5 ― 4 ― ― ― ― ― 3 3 0.006 0.05 ― ― ― ― ―IN713C(21) 0.12 12.5 Bal. ― ― 4.2 ― ― ― ― 2 0.8 6.1 ― ― ― ― ― ― ―

1960年代以降

開発超合金

代表例

IN718(8) 0.04 19 Bal. ― 18 3 ― ― ― ― 5.2 0.8 0.6 ― ― ― 0.2 0.3 ― 0.1CuIN625(8) 0.05 22 Bal. ― 3 9 ― ― ― ― 4 ― ― ― ― ― 0.15 0.3 ― 0.1CuRene80(21) 0.17 14 Bal. 9.5 ― 4 4 ― ― ― ― 5 3 0.015 0.05 ― ― ― ― ―IN738LC(21) 0.11 16 Bal. 8.5 ― 1.7 2.6 1.7 ― ― 0.9 3.4 3.4 0.01 0.05 ― ― ― ― ―IN792(21) 0.08 12.5 Bal. 9 ― 1.9 4.1 4.1 ― ― ― 3.8 3.4 0.02 0.1 ― ― ― ― ―

NimonicC263(8) 0.06 20 Bal. 20 0.4 6 ― ― ― ― ― 2.1 0.4 ― ― ― ― ― ― ―IN939(21) 0.15 22.4 Bal. 19 ― ― 2 1.4 ― ― 1 3.7 1.9 0.01 0.1 ― ― ― ― ―CM247LC(21) 0.07 8.1 Bal. 9.2 ― 0.5 9.5 3.2 ― ― ― 0.7 5.6 0.015 0.02 1.4 ― ― ― ―

GTメーカー各

開発超合金

代表例

GTD111(21) 0.1 14 Bal. 9.5 ― 1.5 3.8 2.8 ― ― ― 4.9 3 ― ― ― ― ― ― ―GTD222(21) 0.1 22.5 Bal. 19 ― ― 2 1 ― ― 0.8 2.3 1.2 0.008 ― ― ― ― ― ―MGA1400(21) 0.08 14 Bal. 10 ― 1.5 4.3 4.7 ― ― ― 2.7 4 ― ― ― ― ― ― ―MGA2400(21) 0.15 19 Bal. 19 ― ― 6 1.4 ― ― 1 3.7 1.9 ― ― ― ― ― ― ―Tomilloy(21) 0.07 22 Bal. 8 ― 9 3 ― ― ― ― 0.3 1 ― ― ― ― ― ― ―

SC超合金

第1世代

PWA1480(23) ― 10 Bal. 6 ― ― 4 12 ― ― ― 1.5 5 ― ― ― ― ― ― ―PWA1483(23) 0.07 12.2 Bal. 9 ― 1.9 3.8 5 ― ― ― 4.1 3.6 ― ― ― ― ― ― ―ReneN4(23) ― 12.8 Bal. 9 ― 1.9 3.8 4 ― ― 0.5 4.2 3.7 ― ― ― ― ― ― ―CMSX2(23) ― 8 Bal. 5 ― 0.6 8 6 ― ― ― 1 5.6 ― ― ― ― ― ― ―

SC超合金

第2世代

PWA1484(23) ― 6 Bal. 10 ― 2 6 9 3 ― ― ― 5.6 ― ― 0.1 ― ― ― ―ReneN5(21) 0.05 7 Bal. 7.5 ― 1.5 5 6.5 3 ― ― ― 6.2 0.004 ― 0.15 ― ― ― ―CMSX4(23) ― 6.5 Bal. 9 ― 0.6 6 6.5 3 ― ― 1 5.6 ― ― 0.1 ― ― ― ―

SC超合金

第3世代

ReneN6(23) ― 4.2 Bal. 12.5 ― 1.4 6 7.2 5.4 ― ― ― 5.75 ― ― 0.15 ― ― ― ―CMSX10(23) ― 2 Bal. 2 ― 0.4 5 8 6 ― 0.1 0.2 5.7 ― ― 0.03 ― ― ― ―

SC超合金

第4世代

TMS-173(23) ― 2.8 Bal. 5.6 ― 2.8 5.6 5.6 6.9 5 ― ― 5.6 ― ― 0.1 ― ― ― ―TMS-138(23) ― 2.9 Bal. 5.8 ― 2.9 5.8 5.5 4.9 ― ― 5.8 ― ― ― 0.1 ― ― ― 3Ir

SC超合金

第5世代

TMS-162(23) ― 2.9 Bal. 5.8 ― 3.9 5.8 5.6 4.9 6 ― ― 5.8 ― ― 0.1 ― ― ― ―TMS-196(23) ― 4.6 Bal. 5.6 ― 2.4 5 5.6 6.4 5 ― ― 5.8 ― ― 0.1 ― ― ― ―

表3 代表的な Ni基超合金の化学組成 (%)

図3 耐熱超合金ミクロ組織の歴史的変遷(9)

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Ⅵ.タービン用材料

53

Vol. 67 No.9 599

真空溶解技術によってTi,Al含有量が増加し,さらにNb

やTa,W等が添加されて強度向上が図られるも,これも

頭打ちとなる。70年以降DS/SC化技術によって更なる

高温強度の向上が図られ,現在へ続いている様子が窺え

る。

このように,Ni基の耐熱超合金はタービン入口温度

の向上を支えるため,様々な技術を駆使して開発されて

きた。正にガスタービンの高温化(高効率化)と材料の

開発は車の両輪であった。現在も性能向上のためにター

ビン入口温度の向上は日々研究されており,今後もガス

タービンの性能向上を支えるべく,耐熱超合金が更なる

進歩を遂げることを切に願うものである。

2.2 Ni基超合金の高温強度強化機構

上述のように現在の耐熱超合金はNi基超合金が主流

であるが,ここで開発経緯にて紹介された高温強化機構

について,以下に概要を説明する。

(1) γ’相による析出強化

 Ni基超合金の代表的な強化機構である。オーステナ

イトγ相内に金属間析出物であるγ’相(ガンマプライ

ム)が微細析出することで,転位の移動を阻害する障害

物として機能し,強化する機構である。γ’相は母相で

あるγ相と同じ面心立方格子(FCC)であるため,母相

との整合性が高く,その効果により強い強化作用が発揮

される。γ’相の基本的な構成元素はNi3Alである。こ

の構成元素に他の元素(例えばNi側にCo,Al側にTa

やTi,Nbなど,両方にFe,Cr,Moなど)が固溶するとγ’

相の格子定数を増加させ,強度向上効果が高まる(14, 22)。

γ’相は,基本的に構成元素であるAl,Ti,Ta,Nb等を

増加させるにつれて析出量が増加するため,強化度合が

高まる傾向にある。但し,これらの材料を過度の添加は

母材の延性を低下させ,長時間運用における材料の相安

定性が低下するため,最適な配合量を定める必要がある。

Ruを添加すると上記元素の添加限界を緩和する作用が

あると考えられている。このため,最新の単結晶材料で

はγ’相の析出量増加によるクリープ強度向上のために

添加されている。

上述のように,γ’相は合金組成によって析出量をコ

ントロールできるユニークな金属間析出物である。この

γ’相による析出強化が発見されたことが今日の最先端

ガスタービンを支えている。

一方,別の金属間析出物を強化に用いる例もある。

IN718合金はNbを添加させてNi3Nbの形態をとる  

γ″相(ガンマダブルプライム)による析出強化を図っ

ている。γ″相は体心正方格子(BCT)であり,γ’

相と比較すると母相との整合性は無い。しかし熱処理(時

効)による析出が遅い傾向があり(8),大型インゴット

のように熱処理時の冷却速度が一様に成り難い素材で

あっても,著しい偏析等が無ければ,析出状態を一様に

しやすい特徴がある。IN718合金はディスク合金として

現在も運用されている。

図4 動翼材クリープ破断耐用温度の歴史(19)

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火 力 原 子 力 発 電

54

Sep. 2016600

(2) γ相の固溶強化(19)

 合金母相となるオーステナイト相(γ相)を強化

させる方法で,Niよりも原子半径の大きい,若しくは

小さい原子を添加することで原子間の歪を生じさせ,転

位の移動度を低下させる。Mo,W,Reが代表的な固溶強

化元素である。Crも若干ではあるが,固溶強化にも寄

与する。但しこれらの固溶強化元素の添加量が多すぎる

と材料組織に脆化相(TCP相)が析出し易くなり,長

時間運用における材料の相安定性が低下する。よって合

金設計では最適な配合量を計算する必要がある。

(3) 熱処理

γ’相による高温強度向上と適切な材料延性の維持を

図るためには,適切な大きさのγ’相を母相に析出さ

せる必要がある。このため,適切な熱処理を与えてγ’

相の析出粒子サイズ及び析出数を制御しなければならな

い。不適切な熱処理条件によりγ’相のサイズが大き

くなりすぎても,小さくなりすぎても,高温クリープ強

度は低下する (24)。

過度な熱処理(長時間運用もこれに属する)を経た場

合にも同様の強度低下が現れる。これはγ’相同士が

元素拡散により合体して成長するためである。結果とし

てγ’相は粗大化し,総析出数が減少するため,転位の

移動を阻害しにくくなる。

この場合,適正な熱処理を与えて,γ’相の析出状態

を適正な状態に戻すことができる。これが高温部品補修

プロセスにおける「再熱処理」工程である。但し,再熱

処理ではクリープ変形等の形状変化や,酸化によるダ

メージは回復されないため,長時間運転翼の継続運用に

は十分な評価が必要である。

(4) 粒界強化元素の添加(8, 14)

カーボン(C)はメタルの溶融温度近傍でTi,Nb,Ta

と結合したMC炭化物を構成する。700~900℃程度で

はCrやMoなどと結合しM6CやM23C6の微細な炭化

物(M,Cr,Mo等)として粒界に形成する。この微細炭

化物を結晶粒界に析出させることで粒界の滑りを抑え,

クリープ破断強度を向上させ,かつ延性を高める。

但し,長時間加熱すると炭化物が過度に成長し,逆に

合金の延性を低下させる。基本的に適正な熱処理を実施

することで,炭化物の粒界析出状態を回復させることが

できるが,著しく炭化物が成長した場合は通常の熱処理

での回復が難しい場合があるため,事前に材料評価を実

施して確認することが望ましい。

B,Zrは代表的な粒界強化元素である。これらを極微

量添加することで,材料の延性が向上し,クリープ破断

強度も向上する。

特にBは合金添加元素の中で最も小さい元素で,結晶

粒界に生じる隙間にB化合物として析出して結晶粒界の

隙間を埋めていると同時に,結晶粒界間の楔として機能

していると考えられる。Zrは粒内・粒界の硫黄(S)

と化合して安定化し,引いては,粒界の融点降下を抑え

る働きがあると考えられる。一方,BやZrの添加量が

多くなると融点を低下させる効果が表れるため,合金へ

の配合量は極めて微量である。

(5) 結晶制御(18, 21)

結晶制御は鋳造技術の一種で,凝固方向をコントロー

ルすることで結晶成長方向を制御する手法である。普通

鋳造法と結晶制御方法の違いを図5に示す。

図5 普通鋳造翼, DS翼,S C翼鋳造方法比較 (21)

普通鋳造合金(図5(a))におけるクリープ破断試

験では,応力方向に垂直な結晶粒界面で破壊することが

多い。このため応力に垂直な結品粒界を除去すれば高温

強度を向上できるという思想から,結晶粒界を一方向に

揃 え て 成 長 さ せ る, 一 方 向 凝 固(Directional

Solidifi cation: DS) が開発された(図5(b))。

DS製造方法を簡単に紹介する。冷却されたプレート

上に鋳型を設置し,鋳型のみを金属の融点以上まで加熱

させる。この鋳型に溶解した合金を注ぎ込み,凝固しな

い高い温度に維持しつつ,徐々に加熱域から鋳型を一方

向(下向き)へ移動させる。徐々に引き下げられた鋳型

内では,水冷プレートから結晶が成長し,凝固面と溶解

した金属の間(固液界面)に発生する一定方向の温度勾

配によって連続的に一方向へ凝固が進んだ結果,DS合

金が形成される。

単結晶(Single Crystal: SC)は,上記DS製造技術

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Ⅵ.タービン用材料

55

Vol. 67 No.9 601

をベースとし,初期結晶が成長する部分にセレクターと

呼ぶ螺旋若しくはジグザグな形状を付与することによ

り,単一の結晶のみを選択し,これを成長させる手法で

ある(図5(c))。

しかしガスタービンのタービン翼は複雑構造を有して

おり,一定方向の温度勾配を全ての部位で維持すること

が難しく,結晶のコントロールは容易ではない。タービ

ン翼が大型化すると製造難度はさらに増加する。このた

め翼全体の結晶を制御し,より品質の高い翼を製造する

ために,バイパス法と呼ばれる別の部位からオリジナル

結晶を導入する手法など,鋳造技術の改善が図られてい

る。産業用ガスタービンの大型化への対応も含めた,様々

な高温部品に対してDS/SC翼が製造できるように,結

晶制御技術は現在も進歩し続けている。

2.3 ガスタービン高温部品のコーティング技術

 Ni基超合金の中で最も高いクリープ強度を有する

単結晶合金は,一方で耐腐食性や酸化性が低い問題を有

している。ここでは本問題への対策として,表面の耐腐

食・耐酸化性向上や,遮熱効果を付与できるコーティン

グ技術について述べる。

(1) 耐腐食・耐酸化コーティング(21,25,26)

産業用ガスタービンの特徴の一つとして,多種多様の

燃料が使用できることがあげられる。したがって燃料中

のナトリウム(Na),硫黄(S),バナジウム(V)等

による高温腐食が問題となることがある。特に燃料中に

若干含まれるSと,同じ燃料中,もしくは外部から混入

するNaと反応して生成されるNa2SO4溶融塩は典型的

な腐食物質である。Na2SO4溶融塩は650℃付近でタ

イプⅡ高温腐食(低温硫化腐食),900℃付近でタイプ

Ⅰ高温腐食(高温硫化腐食)を引き起こす。但し,

950℃以上では溶融塩が蒸発するため,腐食よりも酸化

が支配的になる。

高温腐食性を改善するには,合金中のCr量を増加さ

せることが有効である。Crが合金に多く含まれている

と,合金の表面に緻密かつ安定なCr酸化被膜(Cr2O3)

が形成され,それが合金を保護するために,耐高温腐食

性が改善されるからである。

しかしながら高温強度を高めるためγ‘相の析出量

を多くしたNi基超合金では,高温組織安定性,すなわ

ち実機使用中にσ相等の有害なTCP相が析出しない組

成とするためにCr量を抑えざるをえず,したがって耐

高温ガス腐食性が低下する傾向にある。

このため,タービン動・静翼は耐腐食性向上のために

耐腐食コーティングの施工が従来からなされてきた。

タービン入ロガス温度が低い場合は,基材合金表面に

Crを拡散浸透させて強化するクロマイズ処理が適用さ

れてきた。

一方で,ガスタービンの性能向上のために,タービン

入口温度が上昇するにつれて,耐食性だけではなく,耐

酸化性も向上させなければならなくなった。高温環境下

では,Cr酸化物よりもAl酸化物(Al2O3)が強固な酸

化被膜を形成し,耐酸化性が向上するため,Al量の増

加が必要となる。しかし上述のCrの議論と同様に,合

金組成上Al添加量のみを増やすことには限界がある。

そこで,Cr酸化物やAl酸化物を緻密に形成しやすく,

また過度な酸化被膜が形成されないように酸化速度を遅

くするためY等の希土類元素を添加したMCrAIY合金

(M:Ni,Co等)が開発され,低圧プラズマ溶射法(Low

Pressure Plasma Spray; LPPS*)や高速フレーム溶

射法(High Velocity Oxygen Fuel / High Velocity

Oxy-Fuel; HVOF)等で基材合金表面にコーティングす

る手法が主流となっている。

また,更なる耐酸化性向上策として,MCrAlYコーティ

ング上にAl拡散処理を付与した耐腐食コーティングも

開発されている。MCrAlY合金は様々な組成が研究され

ており,現在も継続して改良が進められている。

(*:真空プラズマ溶射 Vacuum Plasma Spray:

VPSとも言う)

(2) 遮熱コーティング(27, 28)

1970年代以降,冷却設計技術の向上と共に発展した

技術が遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating;

TBC)である。本技術は「陶磁器の釉薬」のようにセ

ラミックを溶解させて表面を覆う発想から生み出され

た。1950年代の航空エンジンの排気口などに「釉薬」

と同等のセラミックが施工され,各種検証が実施された。

ガス炎を利用するフレーム溶射法が開発されて,釉薬か

らセラミック溶射へと切り替えられ,現在のコーティン

グに近づいた。

1963年,Pratt&Whitney社は航空機エンジンの燃焼

器にフレーム溶射によってTBCを施工した。初期の

TBCはNi-Al材を耐酸化コーティングとし,その上に

ジルコニア-マグネシウム系セラミックを遮熱コーティ

ングとして施工する2層コーティングであった。

1970年代にプラズマ溶射が商用化され,ガス炎より

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火 力 原 子 力 発 電

56

Sep. 2016602

も多大な熱量を発生させるプラズマガスを用いることで

セラミックの付着効率が向上し,ガスタービンへの遮熱

コーティングの適用が加速された。また同年代後半には

電子ビーム物理蒸着(Electron Beam - Physical

Vapor Deposition; EB-PVD)技術が開発され,緻密

かつ微細柱状晶構造を有する遮熱コーティングが形成で

きるようになった。TBC組織内の微細な縦割れ構造は

Praxair社も研究を進め,プラズマガス溶射でも形成で

きる方法(Dense Vertical Coating; DVC)を開発した。

製造技術の向上に伴い,様々なセラミック材料を用い

た遮熱コーティングが研究され始めた。この結果,

1970年後半にジルコニア-イットリア系セラミックが

TBCに有効であることが示され,その最適組成構成も

提案された。

1980年代に上述の施工技術や材料組成を組み合わせ

た研究がなされ,各社で遮熱コーティング施工の研究が

進んだ。三菱重工業㈱/三菱日立パワーシステムズ㈱で

は,従来TBCよりも高い耐熱性・遮熱性を有する新型

TBCを開発し,1600℃ガスタービンに適用している。(29) このようにTBCの開発はガスタービン入口温度向

上に重要な役割を担っている。

また,耐熱コーティングは運転中に剥離が生じる場合

があり,この原因究明や寿命検討は耐熱コーティング施

工メーカや各種研究機関にて進められている。

原因の一つにはアンダーコートの酸化層成長

(Thermally grown Oxide: TGO)などが提唱されてい

る(30)が,現在でも明確なTBCの剥離メカニズムは明瞭

ではなく,様々な研究が続けられている。正確な寿命予

測検討に今後の研究成果が期待される。

またニューヨーク州立大では溶射被膜の物性を直接計

測する手法を検討している(31)。 既に「溶射その場被膜

特性計測装置(In situ Coating Properties Sensor;

ICP)といった溶射被膜の剛性などを直接計測できる装

置が市販されており,溶射品質管理などにおいても,今

後さらに技術の改善が期待される。

3.ガスタービンの構造と材料について(21,32)

本項ではガスタービンを構成する各部に適用されてい

る具体的な材料について述べる。ガスタービンは構造上,

圧縮機・燃焼器・タービンと3種類に分割され,タービ

ンはガスノズルとなる静翼,回転体である動翼,動翼を

支えるディスクの3つに分けられる。この5種類の部品

に適用されている代表的な材料を以下に示す。また高温

部品である燃焼器及びタービン部品(動翼,静翼,ディ

スク)に関して,要求される特性を表4に纏めた。

3.1 圧縮機

圧縮機は一般に軸流圧縮機と遠心圧縮機などがある

が,大型発電用ガスタービンは軸流式が主流である。発

電用ガスタービンの大容量化が進むにつれ,圧縮機の圧

力比・流量は増加しつつある。圧縮された空気温度が増

加するため,圧縮機後方段(高圧側)は使用温度が高い

ものの,タービン側と比較すると十分低温である。よっ

て,ステンレス鋼を主体として使用されている。

前方段動翼(低圧側)は翼サイズが大きく,より高い

遠心力が作用する。よって引張強度(疲労強度),靱性,

耐食性の観点から,マルテンサイト系ステンレス鋼(12

~13% Cr鋼),マルテンサイト系析出硬化型ステンレ

ス 鋼(SUS630;17-4PH鋼,Custom450;GTD-

450)が使用されている。

後方段動翼(高圧側)は翼サイズが小さいので遠心応

力は減少するが,使用温度が増加する。よって12% Cr

鋼にMo等強化元素を添加して高温強度を改善した材料

が適用されている。

静翼では12~13%Cr鋼が主体であるが,後方段では

部品 要求される特性

1)燃焼器 "耐高温ガス腐食性 クリープ破断強度 熱疲労強度 高温組織安定性高サイクル疲労強度 溶接性 板金加工性 高融点"

2)タービン

(A)静翼 "熱疲労強度 クリープ強度 耐高温ガス腐食性 高温組織安定性溶接性 鋳造性(鋳造合金)"

(B)動翼"クリープ強度 クリープ破断強度 熱疲労強度 高サイクル疲労強度耐高温ガス腐食性 靱性 高温組織安定性 鍛造性(鍛造合金)鋳造性(鋳造合金)"

(C)ディスク "クリープ強度 クリープ破断強度 高サイクル疲労強度 熱疲労強度 靱性 降伏強度(中心部) 鍛造成形性"

表4 主要部品に要求される特性

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Ⅵ.タービン用材料

57

Vol. 67 No.9 603

使用温度の上昇に対応するため高温強度を高めた耐熱鋼

などの適用例もある。

これらの圧縮機に使用される合金組成を表5に示す。

合金名 C Cr Ni Co Fe Mo W Ta Nb Ti AI B Zr Hf Mn Si V その他

燃焼器材料

HastelloyX(8) 0.1 22 Bal. 1.5 18.5 9 0.6 ― ― ― ― ― ― ― 0.5 0.5 ― ―HA-230(21) 0.1 22 Bal. ― ― 2 14 ― ― ― 0.3 ― ― ― ― ― ― 0.02LaGTD222(21) 0.1 22.5 Bal. 1.9 ― ― 2 1 0.8 2.3 1.2 0.008 ― ― ― ― ― ―IN-617(21) 0.07 22 Bal. 12.5 ― 9 ― ― ― 0.3 1 ― ― ― ― ― ― ―Tomilloy(21) 0.07 22 Bal. 8 ― 9 3 ― ― 0.3 1 ― ― ― ― ― ― ―

NimonicC263(8) 0.06 20 Bal. 20 0.4 6 ― ― ― 2.1 0.4 ― ― ― ― ― ― ―HA-188(21) 0.05 22 22 Bal. 1.5 ― 14 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 0.08LaFSX-414(21) 0.25 29 10 Bal. 1 ― 7 ― ― ― ― 0.01 ― ― ― ― ― ―

表6 燃焼器に使用される合成組成(%)

合金名 C Cr Ni Co Fe Mo W Ta Nb Ti AI B Zr Hf Mn Si V その他

タービン静翼材料

X-40(32) 0.5 25.5 10.5 Bal. ― ― 7.5 ― ― ― ― 0.01 ― ― ― ― ― ―X-45(32) 0.25 25.5 10.5 Bal. ― ― 7.5 ― ― ― ― 0.01 ― ― ― ― ― ―FSX-414(21) 0.25 29 10 Bal. 1 ― 7 ― ― ― ― 0.01 ― ― ― ― ― ―MarM-509(21) 0.6 24 10 Bal. ― ― 7 3.5 ― 0.2 ― ― 0.5 ― ― ― ― ―ECY-768(21) 0.6 23.5 10 B ― ― 7 3.5 ― 0.25 0.18 ― ― ― ― ― ― ―IN-713C(21) 0.12 12.5 Bal. ― ― 4.2 ― ― 2 0.8 6.1 ― ― ― ― ― ― ―IN-738LC(21) 0.11 16 Bal. 8.5 ― 1.7 2.6 1.7 0.9 3.4 3.4 0.01 0.05 ― ― ― ― ―Rene 80(21) 0.17 14 Bal. 9.5 ― 4 4 ― ― 5 3 0.015 0.05 ― ― ― ― ―IN-939(21) 0.15 22.4 Bal. 19 ― ― 2 1.4 1 3.7 1.9 0.01 0.1 ― ― ― ― ―GTD222(21) 0.1 22.5 Bal. 19 ― ― 2 1 0.8 2.3 1.2 0.008 ― ― ― ― ― ―MGA2400(21) 0.15 19 Bal. 19 ― ― 6 1.4 1 3.7 1.9 ― ― ― ― ― ― ―MarM-247(21) 0.15 8.4 Bal. 10 ― 0.7 10 3 ― 1 5.5 0.015 0.05 1.5 ― ― ― ―Rene 108(21) 0.08 8.3 Bal. 9.5 ― 0.5 9.5 3 ― 0.7 5.5 ― 0.01 1.5 ― ― ― ―LCN-155(21) 0.15 21 20 20 Bal. 3 2.5 ― 1 ― ― ― ― ― 1.5 0.5 ― 0.15NSHC 20(21) 0.55 19 39 ― Bal. ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

CMSX-4(SC)(23) ― 6.5 Bal. 9 ― 0.6 6 6.5 ― 1 5.6 ― ― 0.1 ― ― ― ―ReneN5(SC)(21) ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

表7 タービン静翼に使用される合金組成(%)

合金名 C Cr Ni Co Fe Mo W Ta Nb Ti AI B Zr Hf Mn Si V その他

圧縮機動静翼材料(21)

12Cr鋼/AISI 403

0.11 12 ― ― Bal. ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

12Cr-Nb鋼/AISI 403Cb

0.15 12 ― ― Bal. ― ― ― 0.2 ― ― ― ― ― ― ― ― ―

12Cr鋼 0.09 10.5 0.5 6 Bal. 0.8 ― ― 0.3 ― ― 0.08 0.04 ― ― ― 0.2 ―12CrMo鋼 0.23 12 0.5 ― Bal. 1 ― ― 0.03 ― ― ― ― ― ― ― 0.3 ―

13Cr鋼 0.2 12.5≦0.80

― Bal. ― ― ― ― ― ― ― ― ― 0.5 0.3 ― ―

13CrMo鋼 0.2 13≦0.80

― Bal. 1 ― ― ― ― ― ― ― ― 0.5 ― ― ―

2.5Ni12CrMo鋼 0.1 12 2.5 ― Bal. 1.8 ― ― 0.05 ― ― ― ― ― ― ― 0.3 0.03N5Ni15CrMo鋼 0.04 15 5 ― Bal. 1.6 ― ― 0.25 ― ― ― ― ― ― ― ― 1.5Cu

Custom 450≦0.05

15 6.5 ― Bal. 0.75 ― ―≧8×C(*)

― ― ― ― ― ― ― ― 1.55Cu

SCS 24 ― 16.5 4 ― Bal. ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 3.3CuSUH 616 0.22 12 0.75 ― Bal. 1 1 ― ― ― ― ― ― ― ― ― 0.25 ―析出硬化型ステンレス鋼

≦0.05

15 6.5 ― Bal. 0.75 ― ―≧8×C(*)

― ― ― ― ― ― ― ― 1.5Cu

15Ni17Cr鋼 0.12 17 15 ― Bal. 0.25 0.3 ― ― 0.5 ― ― ― ― ― ― ― ―SUS630 ― 16.5 4 ― Bal. ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 4Cu17-4PH鋼 0.1 15.5 4.2 ― Bal. ― ― ― ― 0.1 0.1 ― ― ― ― ― ― 3.4CuTi-6AI-4V ― ― ― ― 0.3 ― ― ― ― Bal. 6 ― ― ― ― ― 4 ―

表5 圧縮機動静翼に使用される合金組成(%)

*:Nb量はC添加量の8倍以上であることを示す。

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火 力 原 子 力 発 電

58

Sep. 2016604

3.2 燃焼器

燃焼器は最も高温の燃焼ガスにさらされるため表4に

示したとおり,クリープ破断強度の他,耐酸化性や耐食

性の高い材料が求められる。このため,Cr量が約20%

以上含有されている。また,燃焼器は薄板溶接構造物で

あるため,板金加工性,溶接性が要求される。このため,

燃焼器用鍛造合金はC量が0.1%以下に抑えられている。

表6に示すとおり,燃焼器材としては,Hastelloy

X,HA-188,Nimonic 263,Tomilloyなどの圧延材が

使用されている。このほかにCo基超合金(FSX-414)

も使用されている。サイロ型燃焼器ではオ一ステナイト

系ステンレス鋼も使用されている。

3.3 タービン静翼

タービン第1段静翼は動翼以上の高温の燃焼ガスにさ

らされるが,遠心力が加わらないため作用応力は動翼よ

りも低い。タービン静翼に要求される主な特性を表4に

示す。タービン静翼材は表7に示すとおり,Ni基超合

金だけではなく,Co基超合金も広範囲に適用されてい

る。これはCo基超合金が溶接補修性に優れているため

である。また近年のガスタービン入口温度増加に伴い,

DS静翼やSC静翼も開発されている。

合金例としては,Ni基超合金としてGTD222,

MGA2400,IN939,IN-738LC,Rene80,IN-

713C,MarM247,ReneN5などがあり,Co基超合金

ではFSX-414,X45,ECY768,MarM509などがある。

また入口温度が低くかつ後方段静翼であれば,鉄基超

合金やオーステナイト系ステンレス鋼が使用される場合

もある。

3.4 タービン動翼

タービン動翼は高温の燃焼ガスにさらされ,かつ高い

遠心力や振動応力が加わるため,ガスタービンの中で最

も苛酷な条件で使用される部品であり,ガスタービンの

高温化は冷却技術の発展とともに,タービン動翼材の発

展により達成されてきた。タ一ビン動翼の材料には表4

に示すように, 高いクリープ破断強度が要求されるとと

もに耐食性や高サイクル疲労強度などの特性が要求され

る。過去においては,Co基超合金が使用された例はあ

るが,現在では表8に示すとおり,殆ど全てNi基超合

金が使用されている。これは,Ni基超合金の高温強度

がCo基およびFe基超合金に比べて高いためである。

従来は,鍛造翼が使用されてきたが,タービン入ロガ

ス温度の上昇に伴い,より高温強度の高い材料とするた

め,γ’相生成元素であるAlとTiを多く添加した合金

を用いた精密鋳造翼が使用されるようになった。

さらにクリープ破断強度を向上させるため,タービン

の前方段動翼では,DS翼やSC翼が採用されている。

近年ガスタービンの大型化に伴い,DS翼の適用範囲は

先方段のみならず,後方段長大翼にも適用されつつある。

使用される合金例としては,GTD-111(DS/CC),

MGA1400DS/CC,IN-738LC,Rene80,ReneN5

(SC),PWA1483(SC)CMSX-4(SC),MarM-

247LC(DS/CC),IN-792,IN-713C等である。

また,最新ガスタービンのタービン入口温度は,合金

の許容温度を大きく超えるため,タービン動静翼は圧縮

合金名 C Cr Ni Co Fe Mo W Ta Re Ru Nb Ti AI B Zr Hf Mn Si V その他

タービン動翼材料

Inconel X-750(21) 0.04 15.5 Bal. ― 7 ― ― ― ― ― 1 2.5 0.7 ― ― ― ― ― ― ―IN-700(21) 0.06 15 Bal. 17 ― 5 ― ― ― ― ― 3.5 4 0.03 ― ― ― ― ― ―IN-713C(21) 0.12 12.5 Bal. ― ― 4.2 ― ― ― ― 2 0.8 6.1 ― ― ― ― ― ― ―IN-738LC(21) 0.11 16 Bal. 8.5 ― 1.7 2.6 1.7 ― ― 0.9 3.4 3.4 0.01 0.05 ― ― ― ― ―IN-792(21) 0.08 12.5 Bal. 9 ― 1.9 4.1 4.1 ― ― ― 3.8 3.4 0.02 0.1 ― ― ― ― ―IN-939(21) 0.15 22.4 Bal. 19 ― ― 2 1.4 ― ― 1 3.7 1.9 0.01 0.1 ― ― ― ― ―Rene 80(21) 0.17 14 Bal. 9.5 ― 4 4 ― ― ― ― 5 3 0.015 0.05 ― ― ― ― ―Udimet-500(21) 0.07 18.5 Bal. 18.5 ― 4 ― ― ― ― ― 3 3 0.006 0.05 ― ― ― ― ―

Udimet-520(21) 0.04 19 Bal. 12.5≦2.0

6.2 1 ― ― ― ― 3.1 2 ― ― ― ― ― ― ―

MarM 247(CC/DS)(21)

0.15 8.4 Bal. 10 ― 0.7 10 3 ― ― ― 1 5.5 0.015 0.05 1.5 ― ― ― ―

CM-247LC(DS)(21) 0.07 8.1 Bal. 9.2 ― 0.5 9.5 3.2 ― ― ― 0.7 5.6 0.015 0.02 1.4 ― ― ― ―GTD111(CC/DS)(21)

0.1 14 Bal. 9.5 ― 1.5 3.8 2.8 ― ― ― 4.9 3 ― ― ― ― ― ― ―

MGA1400(21) 0.08 14 Bal. 10 ― 1.5 4.3 4.7 ― ― ― 2.7 4 ― ― ― ― ― ― ―CMSX-4(SC)(21) ― 6.5 Bal. 9 ― 0.6 6 6.5 3 ― ― 1 5.6 ― ― 0.1 ― ― ― ―ReneN5(SC)(21) 0.05 7 Bal. 7.5 ― 1.5 5 6.5 3 ― ― ― 6.2 0.004 ― 0.15 ― ― ― ―PWA 1483(SC)(21) 0.07 12.2 Bal. 9 ― 1.9 3.8 5 ― ― ― 4.1 3.6 ― ― ― ― ― ― ―

表8 タービン動翼に使用される合金組成(%)

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Ⅵ.タービン用材料

59

Vol. 67 No.9 605

機から抽気した空気で内部・外部を冷却することにより,

タービン翼のメタル温度を許容温度以下に抑える必要が

ある(1),(33)。 このような中空構造を形成するために,

精密鋳造の中子が必要になる。この中子はセラミックで

形成されており,鋳込み後に溶解・除去されて中空構造

が形成される。図6に産業用大型ガスタービンのタービ

ン1段動翼に採用された冷却構造例を示す(2)。

図6 G形タービン(1500℃級)1段動翼構造例(2)

上述のタービン翼の冷却技術はタービン入口温度向上

に必須の技術であるが,冷却空気が多量に使用されると,

ガスタービンの熱効率向上に繋がらない。よって,限ら

れた空気を効率良く冷却に用いることができる内部冷却

構造が必要とされている。

この構造を製造するには,中子の製造技術のみならず,

鋳型の造形や鋳込み,中子除去方法,検査を含めた一連

の鋳造技術の向上・革新が求められる。このためには精

密鋳造メーカとガスタービンメーカが連携し,鋳造技術

を高めていくことが益々重要になると考える。

品質検査技術では,設計者が考える複雑な構造の内部

形状や品質を保証する技術が必要となるであろう。今後

は高精度なCT検査等,複雑化する内部冷却通路検査技

術の発展が望まれる。

3.5 タービンディスク

タービンディスク材に要求される主な特性を表4に,

代表的なタービンディスク材を表9に示す。タービン

ディスク材の外周部では,クリープ破断強度,熱疲労強

度等の高温強度が,中心部では,靱性,降伏強度等が要

求される。タービンディスク材には,Ni基超合金,Fe

基超合金の他12Cr系鋼および低合金鋼が使用される。

 大型タービンでは,製造性 ・コスト等の点より低合

金鋼,中型タービンでは,Fe基組合金または12Cr系鋼.

小型タービンでは,Ni基またはFe基超合金が使用され

る傾向にある。また,大型タービンでは,通常,低合金

鋼ディスクを圧縮機から取った空気で冷却して使用して

いる。使用される低合金鋼の例としては,3.5NiCrMoV

鋼 や3Ni2CrMoV鋼,10CrMoWVNbN鋼,HGTD-

1鋼(12Cr鋼),1Cr1.25Mo0.25V鋼等である。

一方でタービン入口温度の増加に伴い,IN-706合金

やIN718合金などのNi基超合金が大型タービンディス

ク材として用いられるようになった。三菱日立パワーシ

ステムズ㈱はIN718合金を改良したFX-550合金を開発

し,大型Ni基鍛造ディスクの適用を検討している (34)。

大型タービンディスク用のインゴットは十数トンにも

なるが,偏析や酸化物等の不純物混入の無い清浄なイン

ゴットを製造するためには,VIM(真空誘導溶解)+

ESR(エレクトロスラグ再溶解)+VAR(真空アーク

溶解)からなるトリプルメルト溶解法が適用されている。

これに加えて,偏析を抑えるような合金組成の改善も実

施されている。また,大型インゴットに対して均一な歪

を与えて鍛造を実施するための大型鍛造プレス設備が必

要となる。

このように過去製造が難しかったNi基超合金の大型

ディスクが実用化されるようになり,今後のガスタービ

ン入口温度の向上に寄与している。

合金名 C Cr Ni Co Fe Mo W Ta Nb Ti AI B Zr Hf Mn Si V その他

タービンディスク材料

3.5NiCrMoV鋼(21) 0.29 1.7 3.5 ― Bal. 0.35 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ≦0.15 ―3Ni2CrMoV鋼(21) 0.15 1.8 3 ― Bal. 0.6 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 0.06 ―10CrMoWVNbN鋼(21) 0.12 10.3 0.75 ― Bal. 1 1 ― ― ― ― ― ― ― ― ― 0.2 0.05N1Cr1.25Mo0.25V鋼(21) 0.3 1 0.5 ― Bal. 1.3 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 0.25 ―2.3Ni12CrMoV鋼(21) 0.13 11.5 2.3 ― Bal. 1.5 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 0.3 0.03N

HGTD-1(21) 0.1 11.5 2.3 ― Bal. 2 ― ― 0.08 ― ― ― ― ― ― ― 0.2 0.06N

Waspaloy(8) 0.07 19.5 Bal. 13.5 2 4.3 ― ― ― 3 1.4 0.006 0.09 ― 0.5 0.5 ―0.03N0.1Cu

A286/G68(6) 0.05 15 26 ― Bal. 1.75 ― ― ― 2 0.2 ― ― ― 1.35 0.95 0.3 ―IN706(21) 0.03 16 Bal. ― 37 ― ― ― 2.9 1.8 ― ― ― ― ― ― ― ―IN-718(8) 0.04 19 Bal. ― 18 3 ― ― 5.2 0.8 0.6 ― ― ― 0.2 0.3 ― 0.1Cu

表9 タービンディスクに使用される合金組成(%)

038-061-入門講座.indd 59038-061-入門講座.indd 59 2016/09/15 9:53:292016/09/15 9:53:29

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火 力 原 子 力 発 電

60

Sep. 2016606

4.将来のガスタービン用高温材料の展望

<セラミックス基複合材料(35,36,37)>

セ ラ ミ ッ ク 基 複 合 材 料(Ceramic Matrix

Composites; CMC)はアルミナ(Al2O3)系と炭化

珪素(SiC)系の2種類のマトリックスと強化繊維を組

み合わせた複合材料である。通常のセラミックと比べて

破壊抵抗値が高く,Ni基超合金と比較して重量が軽い。

 Ni基超合金を超える耐熱温度を有するが,材料によっ

て差があり,Al2O3系CMCの耐用温度は1,000℃であ

るが,SiC系CMCでは耐熱温度は1,000℃を超える環

境での運用が可能と考えられており,各種検討が進んで

いる。HYPRプロジェクトではジェットエンジンのテー

ルコーンを用いてタービン入口温度1,700℃,排気温度

1,300℃の運転条件にて15分間の燃焼試験を行い,試験

後の部材健全性を検証しており,適用化に向けた研究が

進められている。

欧米ではSiC系CMCが航空エンジンのアフターバー

ナーフラップ等に適用されており,今後はタービン部品

等への適用について,鋭意研究が進められている。IHI

㈱ではSiC系CMC材料でタービン動静翼を試作し,各

種検証を実施している。

しかし,長時間における運用に関しては,SiCマトリッ

クスとSiC繊維界面の酸化劣化が生じるため,耐酸化性

の向上が必須である。このため,表層に耐環境コーティ

ング(Environmental Barrier Coating;EBC)を施工

することで長時間信頼性を向上させる研究が実施され,

実用化に向けて検討が進められている。また製造プロセ

スが複雑で長く,コストが高い傾向があるため,製造性

の改良も必要と考えられる。このように課題はあるもの

の,Ni基超合金を超える耐熱性を有する将来の耐熱材

料として,今後の技術開発が期待される。

5.おわりに

以上のように火力タービン,USCタービンおよびガス

タービンのロータ・ブレード・ディスク・ケーシング,

燃焼器等の主要部材に関して,材料開発経緯や製造技術,

各部材へ適用されている具体的な材料,要求される特性

と特徴などを述べてきた。これらの合金は使用温度条件

により低合金~高合金~超合金へとバラエティに富んで

いる。次世代を担う新合金や新製造方法の開発は,先進

技術を追い求める設計者の熱意と要求,材料研究者の地

道な努力,そして素材製造メーカの製造技術と協力が

あって,成功に至るものである。また新合金や新製造方

法の実用化には,様々な検証や長時間データの取得が必

要であり,実機への適用には長い年月が必要となる。こ

のように新合金や製造方法の開発は様々な困難を極める

が,火力タービン,USCタービンおよびガスタービン

の高効率化にとって,材料の進歩は最も重要な要素技術

の一つであり,日々続けられる性能高効率化に寄与でき

るよう,材料開発・製造技術向上に向けた継続的な研究

が強く望まれる。

最後に,発電プラントに携わる方々へタービン・ガス

タービン材料のご理解を頂き,材料開発や製造技術向上

へのご協力を頂ければ幸いである。   

参 考 論 文

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