2.タービン・発電機及び付帯設備 3.蒸気タービンの効率向上に … · oct....

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67 Vol. 66 No.10 1.まえがき 毎年多くの新しい蒸気タービンが運開し長年運転を続 けやがて老朽化,性能が低下,不適合の発生頻度の高く なってくる。弊社でも今までに運開したタービンの合計 は国内外合わせて2000台を越え,老朽タービンの数も 増え,改造や更新による蒸気タービンの効率向上,延命 対策の需要は高い。 改造や更新における蒸気タービンの効率向上について は,現状のタービンの状態を正確に把握することが第一 歩である。 次に,解決,改善したい問題と性能向上による経済性 を検討し,これに即した計画を立てることが重要である。 問題の解決,改善のために,検査や分析を行ない改善 案の提案を行うと共に,新たに開発した新型フレーム, 翼列やシール,軸受等の新技術を投入し,蒸気タービン の効率向上,更新を検討する。これらについて紹介して いく。 2.改造,更新工事の例 2.1 蒸気タービンの現状把握 蒸気タービンの一生の略図を図1に示す。故障率は, 一般的にバスタブカーブで示され,おおよそ10万時間 (運開後15年程度)経過すると劣化が顕著になる傾向が ある。 この時期を目安に,改造,更新工事の計画を図2に基 づいて計画する例を紹介する。赤着色が主にメーカが対 応する部分である。まず,精密点検と呼ばれる劣化が進 行していると思われる部位の検査(表1参照)を行なう。 精密点検で得たデータの他,図2に示す運転データ,定 検記録,設計評価,製造記録等を基に蒸気タービンの余 623 4.火力発電プラント構成機器の保守・診断技術 2.タービン・発電機及び付帯設備 3.蒸気タービンの効率向上に関して(改造や更新) Efficiency of the Steam Turbine (Remodeling and Updating) 三菱日立パワーシステムズ㈱ 榎 本 裕 基 図1 蒸気タービンの一生 Yuki ENOMOTO (MITSUBISHI HITACHI POWER SYSTEMS, LTD) 原稿受付 平成27年8月24日

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Page 1: 2.タービン・発電機及び付帯設備 3.蒸気タービンの効率向上に … · Oct. 2015 溶射することで,運転時のシールクリアランスを小さく

4.火力発電プラント構成機器の保守・診断技術 2.タービン・発電機及び付帯設備 3.蒸気タービンの効率向上に関して(改造や更新)(榎本 裕基)

67

Vol. 66 No.10

1.まえがき

毎年多くの新しい蒸気タービンが運開し長年運転を続

けやがて老朽化,性能が低下,不適合の発生頻度の高く

なってくる。弊社でも今までに運開したタービンの合計

は国内外合わせて2000台を越え,老朽タービンの数も

増え,改造や更新による蒸気タービンの効率向上,延命

対策の需要は高い。

改造や更新における蒸気タービンの効率向上について

は,現状のタービンの状態を正確に把握することが第一

歩である。

次に,解決,改善したい問題と性能向上による経済性

を検討し,これに即した計画を立てることが重要である。

問題の解決,改善のために,検査や分析を行ない改善

案の提案を行うと共に,新たに開発した新型フレーム,

翼列やシール,軸受等の新技術を投入し,蒸気タービン

の効率向上,更新を検討する。これらについて紹介して

いく。

2.改造,更新工事の例

2.1 蒸気タービンの現状把握

蒸気タービンの一生の略図を図1に示す。故障率は,

一般的にバスタブカーブで示され,おおよそ10万時間

(運開後15年程度)経過すると劣化が顕著になる傾向が

ある。

この時期を目安に,改造,更新工事の計画を図2に基

づいて計画する例を紹介する。赤着色が主にメーカが対

応する部分である。まず,精密点検と呼ばれる劣化が進

行していると思われる部位の検査(表1参照)を行なう。

精密点検で得たデータの他,図2に示す運転データ,定

検記録,設計評価,製造記録等を基に蒸気タービンの余

623

4.火力発電プラント構成機器の保守・診断技術

  2.タービン・発電機及び付帯設備

   3.蒸気タービンの効率向上に関して(改造や更新)       Efficiency of the Steam Turbine (Remodeling and Updating)

三菱日立パワーシステムズ㈱ 榎 本 裕 基*

図1 蒸気タービンの一生

*Yuki ENOMOTO(MITSUBISHI HITACHI POWER SYSTEMS, LTD)原稿受付 平成27年8月24日

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寿命診断を実施する。寿命が来た部品や性能低下の状況

を把握した上で,性能,運用改善,問題解決のために必

要な改造等,必要な換装範囲を検討する。一方で予算や

更新工事期間等の制約,経済性を踏まえて計画されるの

が一般的である。

2.2 改造,更新工事の技術

改造工事においては,新しい性能改善技術の適用のみ

でなく,既存蒸気タービンがそれぞれ抱えている性能低

下の原因を分析し,問題の解決検討,改造専用のタービ

ンを設計し改良,交換することも行なわれる。

2.2.1 現状問題の分析と解決

性能劣化の原因に,車室の経年劣化による変形のため,

シール間隙の増加や,水平面からのリークが発生する場

合がある。この様な場合は,車室の水平面を加工し,新

品の状態に戻した加工例として,車室水平面に肉盛溶接

後,水平面の加工を実施した例を図3に示す。車室の変

形が修正され,精度の高い間隙調整が可能となり,性能

向上に寄与すると共に,分解,組み立ても容易となる。

図3 水平面加工の例(左:肉盛後水平面外観 右:加工後水平面外観)

2.2.2 冷却セルの設置

停止前のターニング時に,HP,IPタービンにて温度

が高い蒸気が上半部に集まり,上半車室温度が高くなり,

車室が猫反り変形を起こす場合がある。主に変形の大き

い車室中央部でシールの重接触が発生し,性能低下につ

ながる。

この対策として図4に示す冷却セルを車室に設置する。

温度差が付くタービン停止直後から自然対流の空気冷却

により上下車室温度差を小さくし,車室変形によるフィ

ンの接触を軽減する(図5参照)。弊社実証発電設備計

測結果を図6に示す。真空破壊後もシール間隙が一定に

保たれていることが分る。

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表1 余寿命診断の構成

部品 部位 劣化要因 検査項目

主要弁MSV,GVRSV,ICV

内面クリープ 組織検査

硬度測定

低サイクル疲労 微視き裂観察法硬度測定

高温蒸気入口管 溶接部 クリープ

組織検査硬度測定UT,MT

ノズル室 コーナー部クリープ 組織検査

硬度測定

低サイクル疲労 微視き裂観察法硬度測定

ノズル,静翼 プロファイル部 エロージョン 目視検査

ボルト(車室,弁)

クリープ 組織検査

低サイクル疲労硬度測定UT,MT衝撃検査

図2 改造、更新工事判断プロセスの例

図6 実証設備によるシール間隙計測結果

図5 冷却セル動作原理

図4 冷却セル実施例

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2.2.3 改造用新フレームの開発

改造用新フレームの1例を図7に示す。この新フレー

ムでは既存の配管の位置や,軸受,車室の固定点は変更

せず外車を流用し内部換装により性能向上を行なった。

新フレームでは次の技術で性能改善を図ることが多

い。

・�調速段の反転によるエネルギー損失の低減または効

率の低い調速段の廃止

・ダミー蒸気リークの低減

・翼列速度比の最適化

改造後

改造前(色塗り部が改造対象)

図7 改造フレーム例

3.性能改善要素技術

性能改善工事では,最近の性能改善技術を適用する。

本節では,これらの技術を紹介する。なお,弊社では旧

三菱型と旧日立型の技術があり,これらを並列して記載

する。今後はこれらの技術の使い分け,統合を推進する

予定である。

3.1 翼列性能

3.1.1 高性能翼列

旧三菱では,第一世代の平行翼列から捩り翼,バウ型

翼と発展し,現在最新の数値流体解析技術を駆使した第

4世代の翼列を適用している(図8参照)。一方,旧日

立でも,同様の進化を遂げており,これらの翼列をそれ

ぞれ最適の場面で適用していく。

図8 旧三菱 第三世代3次元翼から第四世代翼へ

3.1.2 LP最終翼列

流動解析技術の向上や,データの蓄積により強度の向

上,さらに,最終翼のドレンエロージョンに対する対策

が施されている。既存のLPタービンに対して,換装用

の新しい旧三菱型,旧日立型の両方の最終翼群および

ロータが用意されている。これらより適宜最適の形式を

選定,適用してロータ,翼列換装を実施している。

3.2.高性能シール

シールの最新技術の代表4例を以下に紹介する。旧三

菱,旧日立から引き継がれたものがある。これらを組み

合わせて実機に適用することもある。

3.2.1 ACCシール

ビリンスシールセグメントを半径方向に移動可能な構

造としたものである。起動停止動作中およびタービン停

止中にはばね力でセグメントを浮上させてロータとラビ

リンスシール間のクリアランスを大きく保ち,タービン

の負荷上昇時にはシール差圧を利用してシールセグメン

トを中心方向に所定位置まで移動させ,定格負荷運転中

にはクリアランスを小さく保つものである.

図9 ACCシールメカニズム

起動及び停止時

クリアランス大

ロータ

シールセグメント

定格時

クリアランス小

ロータ

シールセグメント

蒸気圧力

3.2.2 アブレイダブルシール

シールリング内面に,削れやすいアブレイダブル材を

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溶射することで,運転時のシールクリアランスを小さく

することができる(図10参照)。相手側のシールと接触

した場合でも,アブレイダブル材は摩擦による温度上昇

が小さく,ロータ熱曲りによる軸振動等の防止が可能。

図10 アブレイダブルシール外観および概略図

アブレイダブルシール材料のミクロ組織

多孔性構造⇒低摩擦熱

フィン付ローター

アブレイダブルシール

3.2.3 ボルテクスシェダー

蒸気流れの上流側にディンプル構造を設置したもの

(図11参照)。このディンプル構造により,乱流および

渦を形成し,シール上流側の圧力を低下させ,リーク蒸

気量の低減を図るものである。

図11 ボルテクスシェダー外観および概略図

3.2.4 ガーディアンシール

シールフィンの一部を,接触した場合にも過大な熱や

振動が発生しないガーディアンポストに置き換えたもの

(図12参照)。シール部とロータが仮に接触した場合で

も,ガーディアンポストが先に接触するため,シールフィ

ンの損傷防止,クリアランスの維持が可能である。

図12 ガーディアンシール外観および概略図

蒸気流れ

コイルばね

ガーディアンポスト(テーパ無し)

ばね力

3.3 その他の効率向上

3.3.1 低損失軸受

直接潤滑軸受の適用により,軸受損失を低減すること

により出力が増加する。例としてジャーナル軸受に採用

する4パッド直接潤滑ジャーナル軸受,およびスラスト

軸受に採用するノズル噴射タイプ直接潤滑スラスト軸受

を図13に示す。

噴射ノズル

図13  直接潤滑軸受外観(左:4パッド直接潤滑ジャーナル軸受,右:ノズル噴射タイプ直接潤滑スラスト軸受)

4.まとめ

蒸気タービンの改造や更新による性能向上につき,余

寿命診断実施,問題の把握から問題の解決検討,新技術

による更なる性能向上までの概略を紹介した。

弊社では,今後も問題解決,性能向上のための新フレー

ムや要素技術の開発を旧三菱,日立の技術を融合しなが

ら進める予定である。また,今後はICT(Information�

&�Communication�Technology)の適用も含めより適

切で快適な改善提案を進めていく所存である。

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