看護師を対象としたレジリエンス研究の動向 -...

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Ⅰ.緒言 レジリエンスという語は,イギリスにおいて1600 年代から「跳ね返る,跳ね返す」という意味で使用 され,1800年代になると「圧縮された後,元の形, 場所に戻る力,柔軟性」の意味で使用されるように なった(加藤,2009).1970年代からは,過酷な環 境や状況の中で生育したにもかかわらず,精神病理 学的にはそれほど重篤な障害を残さずに生育した子 どもの特性を表す用語として,防御と抵抗力を意味 する概念として用いられた(石井,2009). レジリエンスに関する初期の研究の大部分は1970 年代の小児精神医学領域のものであり,貧困,親の 精神疾患といった不利な生活環境のため,後の生活 困難の危険性があると判断された子どもに焦点を当 てたものだった.1980年代から,精神疾患に対する 126 日看管会誌 Vol. 17. No. 2, 2013 資料 看護師を対象としたレジリエンス研究の動向 ALiterature Reviewon Research Trends in Resilience for Nurses 關本翌子 1) 亀岡正二 2) 冨樫千秋 2) Asuko Sekimoto 1) * Shoji Kameoka 2) Chiaki Togashi 2) Key words : resilience, nurse, literature review キーワード: レジリエンス,看護師,文献検討 Abstract The aimof this study was to analyze previous published literatures on resilience for nurses and to fur- ther explore study methods to improve resilience among nurses in Japan. Using the PUBMEDand Igaku Chuo Zasshi Database so that 24 literatures were selected, and resilience studies were conducted among nurses in Japan. These studies were classified studies about factors which constitute resilience, about factors enhance the resilience in nurses, related to resilience of nurse, and relationship between factors of nurse and resilience in patients and their family. These studies have suggested factors that affect resilience and positive impact of resilience among nurses. It is important to identify the strongest factors to influence resilience for nurses in order to further explore method to improve resilience. 要 旨 過去に行われた看護師を対象にしたレジリエンスについての研究を調査し,今後のわが国で の看護師を対象としたレジリエンスの研究方法についての資料を得ることを目的とした.PUB- MEDと医学中央雑誌で検索を行い,合計24論文を対象論文とした.国内の看護師対象のレジ リエンス研究は8件であった.①レジリエンスを構成する因子に関する研究,②看護師のレジ リエンスを促進させる因子に関する研究,③看護師のレジリエンスに関連する要因の研究,④ 患者・家族のレジリエンス支援に関わる看護師の要因に関する研究に分類された.看護師のレ ジリエンスに影響を与える要因や,レジリエンスのポジティブな影響については,これまでの 研究で明らかになっている.今後は,看護師のレジリエンスに何が一番強い影響を与えるのか を明らかにして,レジリエンスを高める方法を検討する必要性が示唆される. The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Polieies Vol. 17, No. 2, PP126-135, 2013 受付日:2012年4月16日  受理日:2013年8月23日 1) 独立行政法人国立がん研究センター National Cancer Center East 2) 目白大学大学院 看護研究科 Mejiro UniversityGraduate Scholl at Nursing *責任著者 Correspondingauthor: e-mail [email protected]

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Ⅰ.緒言

 レジリエンスという語は,イギリスにおいて1600年代から「跳ね返る,跳ね返す」という意味で使用され,1800年代になると「圧縮された後,元の形,場所に戻る力,柔軟性」の意味で使用されるようになった(加藤,2009).1970年代からは,過酷な環境や状況の中で生育したにもかかわらず,精神病理

学的にはそれほど重篤な障害を残さずに生育した子どもの特性を表す用語として,防御と抵抗力を意味する概念として用いられた(石井,2009). レジリエンスに関する初期の研究の大部分は1970年代の小児精神医学領域のものであり,貧困,親の精神疾患といった不利な生活環境のため,後の生活困難の危険性があると判断された子どもに焦点を当てたものだった.1980年代から,精神疾患に対する

126 日看管会誌 Vol. 17. No. 2, 2013

資料

看護師を対象としたレジリエンス研究の動向A Literature Review on Research Trends in Resilience for Nurses

關本翌子 1) * 亀岡正二 2) 冨樫千秋 2)Asuko Sekimoto1) * Shoji Kameoka2) Chiaki Togashi2)

Key words : resilience, nurse, literature review

キーワード: レジリエンス,看護師,文献検討

AbstractThe aim of this study was to analyze previous published literatures on resilience for nurses and to fur-ther explore study methods to improve resilience among nurses in Japan.Using the PUBMED and Igaku Chuo Zasshi Database so that 24 literatures were selected, and 8resilience studies were conducted among nurses in Japan.These studies were classified studies about factors which constitute resilience, about factors enhance the resilience in nurses, related to resilience of nurse, and relationship between factors of nurse and resilience in patients and their family. These studies have suggested factors that affect resilience and positive impact of resilience among nurses. It is important to identify the strongest factors to influence resilience for nurses in order to further explore method to improve resilience.

要 旨 過去に行われた看護師を対象にしたレジリエンスについての研究を調査し,今後のわが国での看護師を対象としたレジリエンスの研究方法についての資料を得ることを目的とした.PUB-MEDと医学中央雑誌で検索を行い,合計24論文を対象論文とした.国内の看護師対象のレジリエンス研究は8件であった.①レジリエンスを構成する因子に関する研究,②看護師のレジリエンスを促進させる因子に関する研究,③看護師のレジリエンスに関連する要因の研究,④患者・家族のレジリエンス支援に関わる看護師の要因に関する研究に分類された.看護師のレジリエンスに影響を与える要因や,レジリエンスのポジティブな影響については,これまでの研究で明らかになっている.今後は,看護師のレジリエンスに何が一番強い影響を与えるのかを明らかにして,レジリエンスを高める方法を検討する必要性が示唆される.

The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Polieies Vol. 17, No. 2, PP 126-135, 2013

受付日:2012年4月16日  受理日:2013年8月23日1) 独立行政法人国立がん研究センター National Cancer Center East2) 目白大学大学院 看護研究科 Mejiro University Graduate Scholl at Nursing*責任著者 Corresponding author: e-mail [email protected]

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防御因子と抵抗力を意味する概念として,成人の精神医学に導入され始めた.その後,臨床心理学,健康心理学,不登校中学生の回復(日高,尾崎,2007),児童期における精神的回復力(下川,室田,2009)など教育学へと分野を広げていった. 医療の現場では,さまざまな健康障害によって過大なストレスが生じる.がん体験者のレジリエンスは,対処戦略を見出すことで自己統制を行い,がんを受容し,QOL向上やエンパワメントを高める(砂賀,二渡,2011).久保らは,親族,医師,看護師など病気についての話し相手がいる筋ジストロフィー患者家族介護者のレジリエンスは高く,レジリエンスが高い家族介護者はマネジメント力も高いことを明らかにした(久保ら,2010). 中野らは,理学療法学科学生のレジリエンス特性が,実習での対人ストレスイベントの中でも,対人劣等と対人摩耗を抑制することを示した(中野ら,2011).森らは,レジリエンスの高い大学生は自己教育力(問題意識,主体的思考,学習の仕方,自己評価,計画性,自主性,自己実現)のすべてが高いことを見出し,レジリエンスを高めることは自己教育力としての生きる力を高揚させるとしている(森ら,2002). 困難を乗り越えて適応していくレジリエンス特性は看護師に求められる特性であり,看護師のレジリエンスが解明されれば,バーンアウト予防はもちろん,心身健康の維持に貢献するとともに,看護ケアの質の向上も期待できる. しかし,看護師を対象とした研究は少なく,看護師のレジリエンスについては未だに不明な点も多い.

Ⅱ.目的

 看護師を対象としたレジリエンスに関する研究の文献検討を行い,今後のわが国での看護師を対象としたレジリエンスの研究についての示唆を得る.

Ⅲ.方法

1. 文献検索方法 医学中央雑誌で,キーワードを①「看護師」,②

レジリエンス,③原著論文,④最新5年以内(2007年~2011年)で検索を行ったところ,29件であった.PUBMEDで,① Nurse,② Resilience,④で検索した結果,155件であった.この184件のうち,患者・家族,看護学生を対象としている論文,レビュー・総説を除き,横断研究を行っていた12件,質的研究を行っていた10件と介入研究2件を対象論文とし,目的・内容ごとに分類した.

Ⅳ.結果

 文献調査の内容を表 1 に示した.看護師を対象としたレジリエンスの研究は,国内では8件,国外では16件であった.①レジリエンスを構成する因子に関する研究4件,②看護師のレジリエンスを促進させる因子に関する研究7件,③看護師のレジリエンスに関連する要因の研究9件,④患者・家族のレジリエンス支援に関わる看護師の要因に関する研究4件であった.

1. レジリエンスを構成する因子に関する研究 文献1では,レジリエンスを「逆境からの心理的回復力」と定義して因子分析を行い,「肯定的な看護の取り組み」「対人スキル」「プライベートでの支持の存在」「新奇性対応力」に分類した. 文献2では,レジリエンスを構造している因子を,「たくましさ」「自然な選択」「丈夫な感情」「対処能力と挑戦」「再編成と再充電」「客観的に自己の感情をみつめること」に分類した. 文献3では,レジリエンスが,「環境から得られるものを最大限に利用すること」「構え」「事実への適応」の3つのコアとなるプロセスによって形成されているとした. 文献4は,「臨床における専門的知識」「ホリスティックケアにおける目標感覚」「積極的な姿勢」「ワークライフバランス」は高齢者ケア看護師のレジリエンスの重要な決定要素であることを明らかにした.

2.看護師のレジリエンスを促進させる因子に関する研究

 文献5では,出会いと承認から得られる発展的な

127日看管会誌 Vol. 17. No. 2, 2013

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128 日看管会誌 Vol. 17. No. 2, 2013

表1 看護師対象のレジリエンスの研究

結     果目  的測定項目研究デザイン

対象者出 典文献番号

因子分析の結果,「肯定的な看護への取り組み」「対人スキル」「プライベートでの支持の存在」「新奇性対応力」の4因子が抽出された.また,信頼性については,Cronbachのα係数を算出した結果,十分な内的整合性が確認され,妥当性については,自尊感情尺度およびハーディネス・パーソナリティ尺度とは正の相関,バーンアウト尺度およびベック抑うつ自己評価尺度とは負の相関を得ることができた.

看護師レジリエンス尺度の信頼性と妥当性を明らかにする.

看護師レジリエンス尺度(全32項目),自尊感情 尺 度,ハ ーディネス・パーソナリティ尺度,バーンアウト尺度,ベック抑うつ自己評価尺度

横断研究

大学附属総合病院に勤務する看護師429名

井 原 ら(2011)日本

レジリエンスを構成する因子に関する研究

1.レジリエンスの構造が6つのテーマに描写された.たくましさ,自然な選択,丈夫な感情,対処能力と挑戦,再編成と再充電,客観的に自己の感情をみつめることであった.活力は,重症熱傷病棟の患者の看護において感情的トラウマに耐えるというレジリエンスの構造だった.知識は看護の体験と学部の看護教育を結び付けて考えることができるレジリエンスの構造だった.

熱傷看護師が不幸な体験に反応する構造からレジリエンスを構成している概念を質的研究によって調査することを目的としている.

-質的研究(インタビュー)

ニューサウスウェールズの重症熱傷病棟に就職した7人の熱傷看護師

Kornhab-er & Wilson(2011)オーストラリア

中心のカテゴリーは,専門職としてのレジリエンスを築くことであり,救急ケアの中で粘り強く働くために,環境から得られるものを最大限に利用すること,構え,事実への適応の3つのコアとなるプロセスによって,社会的なプロセスが中心に現れた.レジリエンスの理論は急性期医療の看護師のためのキャリアの永続性を理解し,促進するための制度的枠組みを提供している.

学士号を持つ救急ケア看護師が,どのようにして,そこで粘り強くキャリアを開発した結果と構造の特色,社会の状況の中での救急ケアの背景の変化,交渉の挑戦,適合を理解しているか明らかにする.

-質的研究

急性期病院に勤務する学士号を持つ新人看護師19名

Hodges,et.al.(2010)アメリカ

臨床における専門的知識,ホリスティックケアにおける目標感覚,積極的な姿勢,ワークライフバランスは高齢者ケア看護師のレジリエンスの重要な決定要素であることが明らかになった.高齢者ケアにおける看護師のレジリエンスを促進させるものは,固有の関係性の意味づけを長い期間維持することであった.経験を振り返り,検証する機会だけでなく,ストレスを和らげるためのユーモアを提供する合議的なサポートは福利を促進し,職場でのレジリエンスを構築する.

高齢者ケアにおける,職場のレジリエンスを現象学的な方法で明らかにすることを目的とした.

-質的研究

オーストラリアの高齢者施設で働く9名の公認看護師

Camero-n,& Brownie (2010)オーストラリア

インタビューで収集したデータを分析した結果,4つのテーマのカテゴリーに分けられた.転職,新しい学び,支持と助言,専門的職務の確立と統合であった.それはコミュニティ内の独立した作業のレベルにもかかわらず,参加者は,その発達上のニーズを識別し,出会いと承認から得られる開発ニーズ,サポート環境がレジリエンスを発達させる助けとなっていた.

地域や中間施設で働いている有資格看護師の直面する挑戦,専門職の認定と役割の認知,効果的な支援構造を明らかにする.

-質的研究(インタビュー)

地域看護師7名と退院調整看護師3名

Maxwell, et.al.(2011)イギリス

2.看護

参加者の間にレジリエンスを発展させる共通のプロセスがあることが明らかになった.新人看護師は,社会的構造の中で,重要な学びの時間を費やしている.積極的な体験のなかで,彼らは仕事場での実際の経験とプロフェッショナルナースの意見の間の不

長期的なキャリアとレジリエンスをサポートするための発展となり得ると推定される教育的戦略と,急性期病院における新しい学士号を-質的研究

急性期病院に勤務する新人看護師

Hodges,et al.(2008)6

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129日看管会誌 Vol. 17. No. 2, 2013

一致にますます気づき始め,関係とスキルと,より多くの能力を感じ始める.

持つ看護師のプロフェッショナルレジリエンスのありのままを質的に調査することを目的とした.

アメリカ師のレジリエンスを促進させる因子に関する研究

6名の参加者は月ごとのワークショップと学習グループを形成した.介入後,参加者はポジティブな人格と専門的な結果,自己信頼,自己認知,コミュニケーションとコンフリクトを解決するスキルの増加を報告した.参加者は,パーソナルレジリエンスの戦略とキーとなる特色についてさらに学ぶ期間,創造と学習に基づく経験,共に批判的な反応に没頭し持ち寄ることで,普段の職場の環境から切り離された.

仕事上の教育プログラムの介入が看護師と助産師の間のパーソナルレジリエンスの維持と強さ,開発に向けて効果があるか明らかにした.

自己信頼度,自己認識,コミュニケーションとコンフリクト解決のスキル

介入研究6名の看護師と助産師

Mcdon-ald,et al.(2011)オーストラリア

Grotbergの唱えるレジリエンスの3要素【I am(肯定的自己理解)】,【I can(自己効力感】,【I have(社会的資源)】を深められるよう,ソーシャルスキルと自己効力感を高める心理的介入を行った結果,「愛情を注いでいるものがある」「頼りにできる人がいる」【I have(社会的資源)】,「どう気持ちを切り替えるか」【I can(自己効力感】などの6項目があがった.

レジリエンスに着目して,看護師の適応的な側面を向上させる.

心理検査 IUE,VAS,ソーシャルスキル,自己効力感

介入研究

脳卒中・脊髄損傷・神経難病などの疾患患者が入院するユニットに勤務する看護師18名

近 藤 ら(2010)日本

開発した精神的回復力尺度は10項目, 3因子「肯定的未来志向」「関心の多様性」「感情調整」から構成された.更に,精神的回復力の因果モデルとして,「良好な支援認知」「良好な自己認知」「ソーシャルスキル効力感」の3要素が独立変数群としてあり,それらが従属変数である「レジリエンス」に影響しているという4因子構造モデルが構築された.

レジリエンスの中核概念である精神的回復力に着目し,看護師のレジリエンスを高めるプロセスの因果モデルを構築する.

レジリエンス,ソーシャルスキル効力感,情緒支援認知,自己知覚

横断研究一般病院に勤務する看護師331名

谷口,宗像(2010)日本

深夜勤務の期間は,夕方の比較的早い時間に睡眠をとり,早朝から敏感になる傾向が反映されていた.倦怠感がある看護師は中途覚醒が眠気と疲れになる傾向が関連し,柔軟性のある看護師は日ごとの変則的な睡眠と仕事の両方が可能であるという印象であった.たくましさはストレスの多いライフイベントに対するレジリエンスに関連していた.

各個人のパーソナリティの変化が,交替勤務を忍耐と連想するか,交替勤務の様々なタイプを適切であると連想することが可能であるかどうか,調査することを目的とした.

柔軟性,倦怠感,ハーディネス

横断研究

2交替か3交替のどちらかの勤務をしている1505名の看護師

Natvik,et al.(2011)ノ ルウェー

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3つのカテゴリーと7つの構成要素が明らかになった.支援行為:安全の感覚,所属感と激励,複雑な学習:分担と反映,開発の行為:専門職としての認識を持つことと人材開発の促進であった.教育グループの指揮は,彼らの仕事上のストレスへのレジリエンスを完成するための強さを提供した.

看護師の資格取得1年後,看護教育期間を履行し,教育グループの監督の下,どのように考えたかの変遷のプロセスを明らかにする.

-質的研究(インタビュー)

スウェーデンの資格をとって1年後の看護師18名

Arvids-son,et al.(2008)スウェーデン

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データからは5つのテーマが現れた.a)特に脅威を感じる仕事の移動初期における挑戦としてのコミュニケーション,b)アメリカと中国間のプロフェッショナル看護師の予測される価値観と使命やコンフリクトの違い,c)主流からの排除,不平等と差別,d)レジリエンスと学習,希望に向かうことを通しての変化,e)文化の不一致,であった.

アメリカの医療機関での中国から移民した看護師の体験と学びを通して,適応と変化を明らかにすることを目的とした.

-質的研究

アメリカの医療機関で働く中国の9人の看護師

Xu,et al.(2008)アメリカ

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看護師

3. 看護師は他の看護師にアプローチする以前に,相互作用の潜在的な成功を推測するために開発したスキルとのお互いの複雑な交渉の連続を通して職場で舵をとっていた.何人かもまた,仕事の役割を受け入

職場での専門職間の人間関係が看護師にどのような影響を及ぼすのかという事実と,認識された事実-質的研究

オーストラリアの病院に勤務する3病棟

Duddle & Bought-on(2007)13

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130 日看管会誌 Vol. 17. No. 2, 2013

れ,仕事場でのコンフリクトを解決するためにレジリエンスを発展させていた.

が看護師の相互作用に及ぼす影響を探索することを目的とした.

の看護師オーストラリア

のレジリエンスに関連する要因の研究

支持的で余裕を創りだすための職場での会話の可能性と知覚された役割,障壁を乗り越えた決定,職務満足,看護師と助産師のパーソナルレジリエンスは,職場の協働行動を引き上げることができる.

看護師と助産師と彼らの同僚の間における支持的,支持的ではない職場での会話を探索する.

フォーカスグループインタビ ュ ー(質的研究)

オーストラリアの病院に勤務する看護師と助産師10名

McDon-ald,et al.(2010)オーストラリア

14

職務満足は,4.45点で,道具開発者(4.61)と他の研究(4.47)よりも低かった.スキルの認知の高い群は,他よりもストレスへの立ち直りが強かった.ストレスレジリエンスは,職務満足,ある状況により生じたストレス,心理学的エンパワメントの予測因子となった.

看護師の職務満足と職務継続意思に心理レジリエンスが及ぼす影響について明らかにする.

職務継続意思,職務満足(専門的な環境,自律性,仕事の価値観)エンパワメント,職務ストレス,ストレスレジリエンシー

横断研究

ウエストバージニア州の5つの急性期病院に勤務する看護師464名

Larrabee,I. H., et al.(2010)アメリカ

15

32人の看護師は高いレジリエンスと高い職務満足を報告した.専門的で高い社会的地位にいる看護師ほど高い職務満足を報告した.医師と看護師の相互作用が,職務満足の下位尺度で低い値を示した.看護師の専門的地位に伴う職務満足は,レジリエンススコアによって説明できることを示した.

精神科看護師の職務満足とレジリエンスの関係を明らかにする.

レジリエンス尺度,職務満足尺度,給料,専門的地位,自律性尺度

横断研究

都市のメディカルセンターの入院病棟に勤務する精神科ナース32名

Matos,et al.(2010)オーストラリア

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全米の ICU看護師から無作為に抽出した3,500名に郵送で調査を依頼し,欠損のないデータ744名の看護師を対象とした.心理的レジリエンスの存在は,ICUナースにおいて,バーンアウト症候群,心的外傷後ストレス障害を減少させることに独立して関連していた.

ICUに勤務する看護師の健全な精神とレジリエンスの存在の関係を明らかにする.

心理的外傷スケール,不安・抑うつ尺度,バーンアウト尺度,Conner-David-sonレジリエンス尺度

横断研究全 米 の ICUに勤務する看護師744名

Mealer,et al.(2011)アメリカ

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心理的ストレス反応にもっとも大きな影響を及ぼす因子として「レジリエンスの高さ」があり,負の相関がみられた.次に,「仕事の要求度が大きい」「対人葛藤が高い」「技能の低活用」の順に正の相関があり,「年齢が高い」「職場内サポート」とは負の相関がみられた.「職場環境の悪さ」「職場外サポート」「性別」では有意な影響はみられなかった.

精神科医療従事者の職業性ストレス関連要因の特徴を明らかにし,困難状況においてレジリエンスが職業性ストレスや暴力被害といかに関連するかを分析する.

職場ストレッサー,ストレス反応,ソーシャルサポート(上司サポート,同僚サポート,家族・友人サポート,レジリエンス尺度

横断研究精神医療に従事する看護師598名

猪 狩 ら(2010)日本

18

仕事の後の肯定的な感情に影響する変数はレジリエンスと合意,看護師 ·医師関係であった.医師と看護師の相互作用だけでは直接ケアタスク達成の満足度には影響しないが,レジリエンスと合意と医師と看護師の相互作用が,間接的なケアとタスク達成の満足度に影響を及ぼした.

仕事前から仕事の後の正と負の感情の変化と毎日のタスク達成の満足度の関係を明らかにする.

仕事前後の正と負の感情,毎日のタスク達成の満足度,医師と看護師の相互関係,心理的回復度

横断研究

アメリカ中西部の829名の看護師から選ばれた60名の看護師

Gabriel,et al.(2011)アメリカ

19

救命救急病棟の看護師14名にインタビューを行った.核となる概念は,死の過程へのサポート, 4つのメジャーなテーマは,側にいること,傾聴,死が近づいていることを知らせること,看取りのケアであった.看護師の仕事は,生と死の間の旅路の橋渡しをすること,レジリエンスと強さを与えること,患者が全人的ケアを受けられることを保障するために障害に打ち勝つことを助けることであった.

救命救急診療での終末期の意思決定における看護師の役割の概念枠組みを明らかにする.

インタビュー(質的研究)

救命救急病棟の看護師14名

Bach, V.,et al.(2009)カナダ

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ニーズ,サポート環境がレジリエンスを発達させる助けとなっていることを明らかにした. 文献6では,新人が仕事場での実際の経験と卓越した看護師の意見の間の不一致に気づき,人間関係とスキルから,より多くの能力を感じ始めることで,レジリエンスが促進することを明らかにした. 文献7では,ワークショップの開催と学習グループの形成などの教育的介入を行った結果,ポジティブな人格と自己信頼,パーソナルレジリエンスの維持,なかでも,自己認知「I am(肯定的自己理解)」が増加したと報告している. 文献8では,Grotbergの唱えるレジリエンスの3要素「I am(肯定的自己理解)」「I can(自己効力感)」「I have(社会的資源)」を深められるよう,ソーシャルスキルと自己効力感を高める心理的介入を行った結果,「愛情を注いでいるものがある」「頼りにできる人がいる」「I have(社会的資源)」「どう気持ちを切り替えるか」「I can(自己効力感)」など

の6項目があがったとしている. 文献9では,精神的回復力の因果モデルとして,「良好な支援認知」「良好な自己認知」「ソーシャルスキル効力感」の3要素が独立変数群としてあり,それらが従属変数である「レジリエンス」に影響しているという4因子構造モデルを構築した.

3.看護師のレジリエンスに関連する要因の研究 文献13では,アメリカの医療機関に移民した中国の看護師が適応を促進するための影響要因として,レジリエンスと学習を明らかにしていた. 文献14では,専門職間のコンフリクトの解決のためにレジリエンスを発展させることが影響しているとした. 文献15では,看護師と助産師のパーソナルレジリエンスは,職場の協働行動を引き上げることができると報告している. 文献16では,精神科病棟に勤務する看護師は高い

131日看管会誌 Vol. 17. No. 2, 2013

患者・家族のレジリエンス支援項目について因子分析を行った結果,3因子が抽出され「患者家族I am」「患者家族 I can」「患者家族 I have」と命名した.患者家族のレジリエンス支援項目に影響があった要因は,主に看護職者による患者のレジリエンス支援の実施で,個人の要因の影響については「患者家族I am」が「看護経験年数」と,「患者 I have」が「祖父母の介護経験」から弱い影響を受けていた.

看護職者による患者家族のレジリエンスを引き出す支援,およびその影響する背景要因を明らかにする.

患者・家族のレジリエンス支援項目

横断研究

300床以上の13病院の経験年数3年目以上の看護師341名

新 田(2010)日本

21患者・家族のレジリエンス支援に関わる看護師の要因に関する研究

4.

患者のレジリエンス支援尺度の3因子および全項目の信頼性は,Cronbachのα係数を求める方法で行った.看護職者の患者のレジリエンスを引き出す支援には,専門的認知や職務キャリア認知と並んで,看護者個人の危機的人生体験が機能していることを報告した.

看護職者の行っている患者へのレジリエンス構造を明らかにする.

レジリエンス支援尺度

横断研究看護職者748名

石 井 ら(2007)日本

22

341名(回収率47.7%)から回答が得られ,303名を有効回答とした.患者や家族へのレジリエンス支援の必要性の認知の差は,子どもの入院体験のあり群がなし群に比べ「患者 I can」と「患者 I have」が有意に高かった.配偶者の有無,子どもの有無,介護体験の有無,死別体験の有無では有意差はなかった.また「患者家族 I am」と「患者家族 I can」のいずれも,看護経験年数6年未満群よりも12年以上群のほうが有意に高かった.

看護職者のライフキャ リアと職務キャリアにより,レジリエンス支援の必要性の認知に差があるかを明らかにする.

ライフキャリア,職務キャリア,患者レジリエンス支援,患者家族レジリエンス支援

横断研究

300床以上の13病院の経験年数3年目以上の看護師341名

北 尾(2010)日本

23

341名(回収率47.7%)から回答が得られ,303名を有効回答とした.「患者 I am」と「患者家族 I am」は,実施頻度および必要性の得点分布にばらつきがあり,中央値も低い結果であった.「患者 I have」と「患者家族 I have」はほとんどの看護職者が必要性は感じていたが,実施頻度にばらつきがみられ,実施に結びついていない現状であった.患者レジリエンス因子の必要性と実施頻度の相関は,「患者 I am」と「患者I can」でかなり強い相関がみられた.

看護職者の患者および家族のレジリエンス支援の必要性認知の相互関係を明らかにする.

属性(性別・年齢・看護経験年数),患者レジリ エンス支援尺度, 患者家族レジリエンス支援

横断研究

300床以上の13病院の経験年数3年目以上の看護師341名

常 松(2010)日本

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レジリエンスと高い職務満足を報告し,専門的で高い社会的地位にいる看護師ほど高い職務満足を報告し,医師と看護師の相互作用が,職務満足の下位尺度で最も低い値を示した.看護師の専門的地位に伴う職務満足は,レジリエンススコアによって説明できることを示した. 文献17では,心理的レジリエンスの存在が,ICUナースのバーンアウト症候群,心的外傷後ストレス障害を減少させることを報告している.

4.患者・家族のレジリエンス支援に関わる看護師の要因に関する研究

 文献21では,患者・家族のレジリエンス支援項目に影響があった要因は,主に看護職者による患者のレジリエンス支援の実施で,個人の要因の影響については「患者家族 I am」が「看護経験年数」と,「患者 I have」が「祖父母の介護経験」から弱い影響を受けていると報告した. 文献22では,看護職者が患者のレジリエンスを引き出す支援には,専門的認知や職務キャリア認知と並んで,看護者個人の危機的人生体験が機能していることを報告している. 文献23では,患者や家族へのレジリエンス支援の必要性の認知の差は,子どもの入院体験のあり群がなし群に比べ「患者 I can」と「患者 I have」が有意に高く,「患者家族I am」と「患者家族I can」のいずれも看護経験年数6年未満群よりも12年以上群のほうが有意に高かったと報告した.患者のレジリエンス因子の必要性は相互にかなり強い相関があり,患者家族のレジリエンス因子の必要性とも結びついていたが,「患者家族I am」は「患者家族I am」のみの相関であったことを明らかにしている. 文献24では,「患者家族 I can」と,「患者家族 I have」は他の因子と相関していたが,「患者家族 I am」は「患者 I am」のみ相関し,患者家族レジリエンスの中では相関がなかったと報告している.

Ⅴ.考察

 看護師を対象としたレジリエンスに関する研究論文を対象論文とし,看護師のレジリエンスに関する動向を明らかにし,今後の研究の示唆を得ることを

目的に文献検討を行った.「看護師レジリエンス尺度の開発に関する研究」では,井原ら(2011)が,レジリエンス尺度に関す る Jewら(1999),小塩ら(2002)の先行研究を検討し,そのうえで Jackson(2007),Hutchinson(2006)がリストアップした,看護師の置かれた状況や逆境要因を反映し,「新奇性追求」「感情調整」「肯定的な未来志向」「社会性」「プライベートの充実」に注目して32項目の尺度を作成した. レジリエンスを「逆境からの心理的回復力」と精神的健康度の一つを示す概念として捉え,その他の要因である「自尊感情尺度」「バーンアウト尺度」「ベック抑うつ自己評価尺度」「ハーディネス・パーソナリティ尺度」を測定用具として用いていることは,適切であると考え,表面妥当性については評価できる.これらの測定用具が看護師のレジリエンスの概念項目に適切な標本を備えていると考える.精神科医,臨床心理士,看護部管理職,経営学者などの専門家パネルも利用しており,内容妥当性についても評価できる.またレジリエンス全体および下位尺度は,「自尊感情尺度」「ハーディネス・パーソナリティ尺度」と正の有意な相関,「バーンアウト尺度」「ベック抑うつ自己評価尺度」と負の有意な相関を示し,測定用具は妥当と判断でき,基準関連妥当性についても評価できる. レジリエンスという概念が抽象化しているため妥当性を確立することは難しいが,他の構成概念とどのような関係にあるのかということについて予測し,4因子を仮定し主因子法・Promax回転による因子分析を行い,最終的な因子パターンと因子間相関を示しており,構成概念妥当性においても評価できる. 因子構造の検討(主因子法による因子分析),内的整合性の検討(α係数算定による信頼性分析),および相関分析(外的尺度との相関係数算出による妥当性検討)を行ったα係数による信頼性と相関係数による妥当性の検討を行った結果,十分な信頼性と妥当性を有することが示されている. 3件の論文で得られた結果と井原の研究結果を比べて,人間関係,サポート環境と「良好な支援認知」,出会いと承認から得られる発展的ニーズと「ソーシャルスキル効力感」,ポジティブな人格や自己信頼と「良好な自己認知」など,質的な研究でプ

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ロセスを踏まえてのデータではあるが,共通性がある内容もあり,一般化できると考えられる.しかし,一施設の大学附属総合病院に勤務する看護師を対象にしており,他の対象との比較ができず,今後,一般化するためには,さらに対象を広げて検討していく必要がある.「レジリエンスを促進させる因子に関する研究」では,谷口ら(2010)が,「良好な支援認知」「良好な自己認知」「ソーシャルスキル効力感」の3要素が独立変数群としてあり,それらが従属変数である「レジリエンス」を決定していることを報告している.探索的因子分析で得られた精神的回復力尺度の信頼性をクロンバック(Cronvbach)のα係数を求めて評価し,全体のα係数は.8106を示し,信頼性は保たれているといえる.レジリエンスを高めるプロセスは,「良好な支援認知」→「ソーシャルスキル効力感」→「レジリエンス」へ,また,「良好な支援認知」→「良好な自己認知」→「レジリエンス」という逐次的な因果構造を持つことが明らかにされたが,レジリエンスがどのような過程で学習されるのかは,横断データによる因果推論では限界がある.近藤ら(2010)が,Grotbergの唱えるレジリエンスの3要素「I am(肯定的自己理解)」「I can(自己効力感)」「I have(社会的資源)」を深められるよう,ソーシャルスキルと自己効力感を高める心理的介入を行った結果,「愛情を注いでいるものがある」「頼りにできる人がいる」などの「I have(社会的資源)」「どう気持ちを切り替えるか」などの「I can(自己効力感)」などの6項目があがったとしており,谷口(2010)が報告した,安心して自分の本音を伝えて,受けとめてもらえるといった「良好な支援認知」については報告されていない. 「看護師のレジリエンスに関連する要因の研究」においては,問題解決,適応力において,良い効果や結果を出す一つの因子としてレジリエンスが報告されている.適応においては,レジリエンスだけではなく,挑戦,コミュニケーション,価値観などが影響している(Xu & Gutierrez, 2009).また職場でのコンフリクトを解決するための手段としてレジリエンスを発展させており,どちらが影響因子になるかは明らかにされていない(Duddle & Boughton, 2007).また職場の協働行動を引き上げる因子として,コミュニケーション,役割知覚,意思決定など

が関与しており,レジリエンスが単独で影響していることは明らかにされていない(McDonald, 2010). 今回,国内の論文8件と,海外論文16件を検討したところ,看護師特有の逆境要因を考慮した,看護師独自のレジリエンス尺度を開発しているのは井原(井原ら,2011)だけであった.海外の論文は,レジリエンスの構造を質的なインタビューから分析しているものが多い.国内では質的な研究は見当たらず,心理的な尺度であるだけに,横断的な研究では限界があり,プロセスの中でレジリエンスがどのように変化したかという研究も必要と考える. これまでの研究で明らかになっていないことは,看護師のレジリエンスに何が一番強く影響するのか,看護師のレジリエンスが独自に何かに影響しているか,ということである. 今後の研究課題は,レジリエンスの高い群と低い群の要因の分析を行うことである.またどのような支援体制が必要なのか検討するために,一般化できる量的な研究も必要である.

Ⅵ.研究の限界

 今回の文献検討では,対象文献が少ないこと,対象者の幅が狭く限られていたこと,質的な研究が多かったことから,レジリエンスに影響を及ぼす要因ごとの比較ができなかったこと,共有できるレジリエンスについての定義が存在しないことから,レジリエンスを高めるための介入については明確にできなかった.しかしレジリエンスが看護師の精神的負担の軽減,職務継続,職場の協働の引き上げと関連があることがわかり,今後の看護師教育・支援・人材育成に意義のある概念であると考える.

Ⅶ.結論

 医学中央雑誌と PUBMEDで,キーワード①「看護師」,②「レジリエンス」で文献検索を行い,看護師対象のレジリエンスについて考察し,今後のわが国での看護師を対象としたレジリエンスの研究の示唆を得ることを目的としてレビューを行った.その結果,以下のことが明らかになった.

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1,看護師を対象としたレジリエンスの研究は,国内では8件,国外では16件であった.

2,「レジリエンスを構成する因子に関する研究」では,「肯定的な看護への取り組み」「対人スキル」「プライベートでの支持の存在」「新奇性対応力」の4因子のほかに,たくましさ,対処能力などが因子としてあがった.

3,「看護師のレジリエンスを促進させる因子の研究」では,承認,サポート環境,教育的・心理学的介入などがレジリエンスを促進させていた.

4,「看護師のレジリエンスに関連する要因の研究」では,レジリエンスが,新しい環境への適応,専門職間のコンフリクトの解決,職場の協働行動を引きあげることに影響していた.

5,「患者・家族のレジリエンス支援に関わる看護師の要因に関する研究」では,看護経験年数,専門職的認知・職務キャリア認知,看護師個人の危機的人生体験が患者・家族のレジリエンス支援に影響されていた.

6,今後の研究課題は,レジリエンスの高い群と低い群の要因の分析を行うこと.どのような支援体制が必要なのか検討するために,一般化できる量的な研究も必要である.

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