チーム医療と看護管理者の役割 -...
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� 日看管会誌 Vol 11, No 2, 2008
The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol 11, No 2, pp 6─16, 2008
Ⅰ.はじめに
2006年4月の診療報酬改定は医療構造改革が正念場を迎え「今までの医療の終わり」の始まりといわれる衝撃的なものだった.発表された2012年に始まる療養病床の再編成は多くの病院・患者にとって死活の問題である.2007年日本看護管理学会第11回大会を高知で開催するにあたり,「高知の医療は日本の縮図」「高知で成功すれば日本の医療が変わる」といわれている土地から何を発信すればよいか考えた.そこでメインテーマを「変化する医療のかたちと看護の創造」,サブテーマを「流れ・循環・個からの拡がり」とした.やや不明確で抽象的な表現だが,要は急性期医療,回復期,医療療養,介護療養,在宅へと医療提供体制の流れの中をめぐる患者さんと医療者がどう幸せに生き抜いていくか,看護サービスは個からの出発であるが,どう自立し自らを拡大し自己実現させていくかについて検討したいと思ったのである.患者や看護職を支援する管理のあり方にはさまざまな切り口があるが結局「質の高い効率的な保健医療のシステムづくり」が求められており,その方法として「チームアプローチ」と「地域連携」の重要性が各方面でいわれている.しかし,まだ
まだ真の「チーム医療」と「連携」は緒についたばかりで看護の創造が期待されている.今回は高知県と当会の事例をたたき台に,「変化する医療のかたちと看護の創造」について,チーム医療と看護管理者の果たす役割に焦点を当て,報告する.
Ⅱ.高知県の医療・介護の状況
1.経済基盤の脆弱さと医療・介護医療や看護の業界で高知県といえばベッド数が最も多く,平均在院日数も全国トップということは常識で,それはそのまま諸外国と比較した日本の姿でもある(表1).どうしてこのような結果に
表1 平均在院日数・病床数各国比較
平均在院日数(全病床)
病床数(人口1,000人あたり)
高知県 56.1 24.4日本 36.4 14.3ドイツ 10.9 8.9フランス 13.4 7.7イギリス 7.6 4.2アメリカ 6.5 3.3
(出典:ODCD Health Data 2005・国民衛生の動向2006参照)
医療法人近森会(常務理事・看護部長)
チーム医療と看護管理者の役割Team Medical Care and Role of Nursing Administrator
梶原和歌Waka Kajihara
論点:変化する医療のかたちと看護の創造 ─流れ・循環・個からの拡がり─
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なったのであろうか.高知県はかつて陸の孤島と呼ばれていた.橋が架かりインターネットの普及などで辛うじて今は全国と繋がっている.県の総面積は7,105 km2で全国第18位.しかしその83.3%が森林で,山地が多く平坦な土地が少なくて産業用地や可住区が少ない.地域産業が育ちにくいという経済基盤の脆弱さ,特に農林水産業の一次産業を国が育成するのではなく輸入により賄うという方針をとってきたため主たる産業が第三次産業となっている.製造業は全国最下位,公共事業の圧縮で建設業も最下位に落ち込んでいる.地域経済の発展があってこそ,そこに雇用と所得の増加がおこり文化やスポーツの振興があって人々が定住するわけだが,その根幹が崩れ若者は県外に出て働き,県内に残る者は必然的に高齢者が多くなり,生活のために高齢でも女性でも仕事のある者は働かねばならず,介護の手を公的システムに委ねたいというニーズがあった.一方,護送船団方式で護られた医療は社会的入院を受け入れる格好の土壌となっていた.
2005年の高知県人口は809,000人だが,30年後の2035年にはマイナス16%で680,000人に減少すると試算されている.しかも65歳以上人口でみると15%増,75歳以上人口は43%増となり,反対に15歳から64歳までの生産年齢人口はマイナス32%になると推定されている.つまり現在高齢者1人を現役世代24人で支えているのが,1.4
人で支えねばならないという高齢化率の高い独居老人の多い状況にある.老人医療費でみると1位福岡県,2位北海道,3位高知県で958,000円(全国平均821,000円),介護保険1号被保険者あたり介護給付費251,000円で12位(全国平均219,000
円)である.現在ほとんど満床で埋まっている高知県の療養病床は2007年4月現在7,592床(介護療養2,830床・医療療養4,762床)で,国の基本的指針により4,500床が再編対象とされている.一般病床も基準病床11,734床に対して15,503床と多く,特に中央医療圏への一極集中が問題となっている.経済面でも県内総生産の1%にあたるこの削減をどう受け止め,安心安全の環境へ変化させ
ていくかが課題である.
2.高知県国保指導課医療費適性化チーム上記によると高知県療養病床の入院患者の状況
は〈医療区分1:54.6%・区分2:36.4%・区分3:8.9%〉である.また平成18年高知県世論調査でも「介護が必要になった場合,どのような生活スタイルを希望するか?」に対し「自宅(借家をふくむ)で介護サービスを受けたい」人が59.9%で全国約54%に比し多く,次いで「個室の特別養護老人ホームなどの介護保健施設で生活したい」が22.7%,「個室ではない安価な特別養護老人ホームなどの介護保健施設で生活したい」が13.1%である.病気を治し,障害があっても住み慣れた地域で安心安全に暮らしたいという意向が明確である.医療区分1の患者や今後増加が見込まれる後期高齢者への対応として,県の短期的・具体的取り組み課題には以下があげられる.〈課題1〉 在宅医療の充実強化:在宅療養支援診
療所の充実・訪問看護の充実〈課題2〉 在宅介護の充実強化:施設の在宅支援
機能の強化・ケアマネジャーの質の向上
〈課題3〉 医療と介護の連携強化:ケアカンファレンス体制の確立と普及・地域リハ連絡表の活用・地域包括支援センターの機能強化
〈課題4〉 日常生活を支える仕組み・見守りの充実・食や移動手段の確保・閉じこもり予防のための生きがいづくり
〈課題5〉 高齢者の住まいの確保:住まいの相談窓口の確保・バリアフリーリフォームの推進・高齢者向け住宅の登録促進
〈課題6〉 認知症対策の充実:認知症に対する正しい知識の普及・相談体制の充実・専門医の育成
この課題から,看護職の役割は病院・施設・在宅と他方面で機能の発揮が期待されていることがわかる.
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Ⅲ.当会のチーム医療
近森会のチーム医療の流れを整理すると以下のようになる.
第1期: 救急医療をチームアプローチでスタートし量的拡充でリハビリ重視へ
第2期: 徹底したチームアプローチの強化でリハビリ・急性期医療の展開
第3期: DPC(日本独自の診断群分類)による質的転換でチームアプローチは組織横断的協業からダイナミックな効率的医療へ
1.法人内のマンパワー拡充と機能分化医療法人近森会は2007年8月現在3つの病院と
2つの在宅支援複合施設で構成されている.チーム医療の観点からこれまでの沿革を振り返ってみると,1947年~1950年代は典型的な開業医の病院で,スタッフは医師と准看護師がすべての業務を行っていた.1964年救急病院認定告示から医師・准看護師に加え,薬剤師・臨床検査技師・放射線技師・医療ソーシャルワーカー(以下SW)・事務職などのコメディカルが登場した.1973年透析の開始で臨床工学技師(以下ME)が加わる.1974年リハビリテーションを開始し理学療法士(以下PT),1980年に言語聴覚士(ST)と作業療法士(OT)と,ほぼ全職種が田舎の個人病院に布陣されていた.以後さらに近森病院本院・近森リハビリテーション病院・近森病院第二分院へと機能を特化させながらマンパワーを充実させてきた.人事・システム・経営は一元化されているが,診療・運営は各施設に委ねられ,委員会活動や教育研修は法人全体で行うものや,各施設で行うものなど重複多彩である.救急車で搬送された患者に必要な場合は,急性期グループ・リハグループ・精神科グループと各院が連携継続医療を展開することになり,広い意味のチームアプローチといえよう.運動会やバレーボール,ソフトボール大会,新人歓迎会や忘年会は近森会全体・各院・各チー
ム・各科・各部署と競い合い,チームごとに乾杯を重ねお酒が強くなる.これらは付録の遊びであるがチーム医療の成功には欠かせない円滑な意思疎通に寄与している.数は力,チームを構成するにはまずメンバーが必要である.1983年と2007
年の主な職種別変化を表2に示す.
2.チーム医療の質的強化:チームアプローチの構造1)多職種病棟配属体制によるチーム医療20年前は,医師から各セラピストにリハビリの指示が出され,看護師は訓練室に患者を送迎する役割であった.訓練室でできるADLと実際の病床でしているADLに差があることが議論された時代を経て,1995年から朝の申し次ぎにリハスタッフも参加するようになった.1996年からPT・OT・ST・SWなどリハ部が病棟配属となり,専任の医師・看護師・CW(介護福祉士)を含め病棟担当制となった.したがって当然組織のあり方も変化し,1ユニット30床を医師・看護師長(または主任)・リハ部代表(チーフ)の3者が合同で病棟運営を行っていた.そして2006年の診療報
表2 職種別23年間の変化
1983年 2007年 増減
医師看護師(保健師含む)准看護師介護福祉士(看護補助含む)薬剤師放射線技師臨床検査技師臨床工学技師理学療法士作業療法士言語聴覚士臨床心理士医療ソーシャルワーカー診療技術助手歯科衛生士管理栄養士その他職員
2139129621291911222241901290
9146164862517292010181243312315107
70422▲65241381019897922127
▲173317
合計 435 1,160 741
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酬改定後また新たな組織変容を試みている.それは疾患別の算定日数が制限されたり除外規定が加わったりしたことへの柔軟な対応策としてユニットマネージャーが置かれるようになったことである.ユニットマネージャーはチームアプローチによる適切なリハビリが提供されているかどうかの評価をすること,病床コントロールと訓練の単位時間や加算の管理など現場管理の役割,そして教育の役割を担うことになった.リハ病院6ユニットのユニットマネージャーになるのは医師とは限らず,現在は看護師3名・PT・OT・SWが1名ずつである.能力と適性により優れたサポーターがユニットマネージャーになっているところがリハ組織の特徴である(図1).急性期本院においても同様に栄養士・薬剤師・
SW・PT・OT・ST・CEが病棟担当制となり,協働場面が増え情報交換も早くなり,治療のための生産性向上と効率のアップとなっている.多職種が病棟に配属されることは組織体制を創
造的に創り出していくことになる.2)クリニカルパスの普及
(1)アウトカム志向:学会当日は急性期本院で使用している脳内出血のパスを紹介することでチーム医療の質的向上を述べたが,ここでは最近
作成された脳卒中回復期リハ・クリニカルパスを通してチーム医療を述べる.すべてのチームの最終アウトカムは,①ADLを獲得し在宅生活に移行できる,②サービスなどを利用し社会生活の充実が図れる,③再発を起こさない・予防ができる,④大きな合併症がない,と設定されている.このアウトカムはさらに入院経過日数に順じて,①身体的アウトカム,②ADL面のアウトカム,③精神的社会的アウトカム,の視点から具体的なゴールを目指す.チームを構成する各職種ごとに,医師は何をするか,SW・PT・OT・ST・歯科衛生士・管理栄養士・薬剤師は何をするかが設定されている.看護はこれら専門職との情報交換や実践の協働を通して,①バイタルチェック,②栄養評価,③褥瘡対策に関する診療計画,④ADL能力評価(FIM採点),⑤ADL自立への支援(食事・排泄・移動・整容・更衣・入浴・コミュニケーション),⑥転倒の危険性の評価,⑦摂食嚥下状態の評価と管理,⑧内服薬自己管理評価,⑨精神面へのサポート,⑩生活指導・合併症の管理,⑪家族介護指導の11項目がチェックしやすい記録となっている.この構図をみると各専門職の奥の深いアプローチが看護師の行う看護と交叉し,それらを統合して評価するために24時間最
PT主任1名
OTリーダー
1名
STリーダー
1名
Ns主任
1名
専従Dr
1名
ユニットマネージャー
1名
Nsリーダー
1名
CWリーダー
1名
SW
1名
Ns10名
CW6名
PT7名
OT6名
ST2名
病棟運営
スタッフ配置 1ユニット:30床
図1 近森リハビリテーション病院の各ユニット
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も患者の側でともに生活をする看護師の役割が可視化されている(図2).(2)カンファレンス:チーム医療確立の基盤は診療システムがどうなっているかである.図3は精神科のシステムであるが,他科もほぼ同様のプロセスをたどる.入院目標の決定から退院後の外来フォローアップにいたるまでさまざまの必要なカンファレンスが介入される.全職種の代表が毎朝集まり情報交換とベッドコントロールを行う全体ミーティング,ケースの診療会議は週1回確実に開かれ,全職種の合意が図られていく.各専門
職が自分の役割と残された課題をどうオーバーラップさせつつ解決していくか討議されるプロセスは気づきの連続で,カンファレンスの醍醐味といえよう.脳卒中回復期リハ・クリニカルパスではパスにカンファレンスが組み込まれているので患者にもチームメンバーにもきわめて親切な計画表といえる.
3.DPCによる質的転換とチームアプローチ1)質的転換は医療機能の絞り込みから近森会では1996年頃までは新館建築,老人保
図2 脳卒中回復期リハ・クリニカルパス(入院時歩行群)
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健施設・在宅総合ケアセンターの創設などハード面の拡充と外来患者と入院患者を増やし出来高制度の中で収入を増やしていった.この時代右肩上がりの経済背景の裏で医師・看護師たちは非常に疲れてきていた.平均在院日数短縮による病床回転の速さ,さばいても,さばいても処理しきれない外来患者と入院患者への対処で限界にきていた.その後経済はデフレ社会となり,診療報酬もマイナス改定となり厳しい緊張が続いた.このとき理事長のとった選択は逆紹介の推進と地域医療支援病院として急性期医療に徹するという方針だった.この推進役を果たしたのが地域医療連携室で,この部門の会議をはじめ合同運営会議などは組織の縦ラインとして各職種構成で開催されている.病院の特性を外傷センター・ハートセンター・消化器病センター・脳卒中センターとし,その機能をサポートする部門としての画像診断センターなどのサブセンターが動き,各種委員会は組織横断的に調整役を担っている(図4).
2)各職種がその専門性に徹する(1)看護は患者の看護に徹する:診療材料・医薬品・滅菌・ハウスキーピングは外部委託する.
ME機器の管理・教育は臨床工学技師・発生源入力のオーダリング・看護支援システムに支えられ,看護と診療の補助・他部門との調整に徹することができた.(2)薬剤師の変化:医薬分業やSPD(診療現場の物品物流管理)で薬剤師本来の業務に専念する.薬剤アレルギーに対する問診・持参薬の鑑別診断・TPN(高カロリー輸液)の混注開始・後発薬剤の導入そして薬剤適正使用の推進のため効果や評価・説明を行う作業により,病棟担当制となった.(3)臨床工学技師の変化:①血液浄化チームによる約20種100台の血液浄化全般作業,②急性期CEチームによる人工心肺・人工呼吸器・IABP
(大動脈内バルーンパンピング)・その他関連機器10種100台の運用管理,③保守管理チームによるME機器約30種600台の中央管理・取り扱い教育,④CAPD(腹膜透析)活動などで活躍している.(4)管理栄養士の変化:聴診器で聴き・目で見・話し・手で触れる栄養士となっている.2005
年NST(栄養サポートチーム)を立ち上げ,入院
早朝の全体ミーティング(情報交換とベッドコントロール)
診療会議(毎週1回)
入院 退院
入院目標の決定
入院時担当者カンファレンス
担当者カンファレンス
退院後フォロー方針確認・検討
退院時担当者カンファレンス
外来ミーティングフォローアップ
主治医別カンファレンス(毎週1回)
NSTカンファレンス(毎月1回)
褥瘡ラウンド・対策委員会(毎月1回)
外来通院
図3 第二分院の診療システム
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患者全員を週1回スクリーニングして,栄養状態の悪い患者へのNST介入は年間1,700~1,800人に達し,介入件数では全国1位になっている.ICUやCCUなどの重症病棟へは週2回のラウンド,経口・経腸栄養の促進などで輸液の減少に寄与している.(5)医師の変化:専門の診療科での診療以外にチーム医療を重視する医師が増え積極的に委員会活動のリーダーシップをとり,多くの職種を巻き込みチームメンバーの育成とその委員会活動の活性化に力を発揮している.例えば心肺蘇生委員会やBLS・ICLS・ACLS・AHA認定のための研修,呼吸管理チーム・感染対策委員会と ICT・医療安全・クリニカルパス委員会・近森会教育マネジメントシステム・栄養サポートチーム・褥瘡対策チームなどである.(6)口のリハビリテーション:摂食嚥下障害をもつ患者に適切な口のリハビリテーションを行い口から食べる楽しみの回復と栄養の確保を行う.口腔ケアや咽頭ケアの徹底で二次感染を予防するという取り組みは,急性期病棟はむろんリハ病棟など院内全体のうねりとなって院内認定制度に発展し,現在122名の認定者がうまれている.各職種の役割は医師(診断・評価・判断・リスク管理),看護師・介護士(口腔ケア・歯と歯根部ブラッシング),PT(首の柔軟な運動・体幹の筋力
確保・呼吸筋・腹筋運動・呼吸訓練・排痰訓練),OT(安全な坐位訓練・食事動作訓練),管理栄養士(栄養状態評価・栄養治療計画・食感・食形態・食欲亢進の工夫),ST(発生・構音訓練・口唇・舌運動・頸運動),歯科衛生士(口腔内衛生環境の改善および指導)である.これらのチームアプローチの活動を眺めてみると個々の専門職がその実力を個々に発揮するだけでなく互いに影響を受け創造的な活動・エネルギーに発展するということである.
3)DPCの登場とチーム医療DPC1日包括払いではコストの削減と質のアップが求められている.質のアップはスタッフの増員とシステム設備の充実によって実現できる.看護師の増員は7対1看護料や摂食嚥下療法の点数に結びつく.医師の増員は救急医療管理加算の充実や手術件数の増加につながる.しかし経費で最も高いのが医師の人件費と数の多い看護職の人件費である.医師と看護師のみの構成ではなく多職種の参入でチーム医療を行うことが効率的な医療を行うことになる.つまりNSTの介入で栄養状態を改善し,薬の使用率を低下する.またジェネリック薬品の導入を採用することでコストを下げる.薬や検査の外来移行,診療材料の効率化と切り下げ,検査・給食・リネン寝具の外部契約,口のリハビリや栄養で合併症を予防し,リハビリに
腎透析センター
ハートセンター
外傷センター
近森病院 消化器病センター脳卒中センター
リハビリテーションセンター
呼吸器気胸センター
形成外科センター
栄養サポートセンター
内視鏡センター
画像診断センター
調整役委員会活動医療安全感染対策口のリハビリ褥瘡対策呼吸管理
NST栄養サポートセンター
各種会議合同運営会議地域医療連携薬事・OP室・CCU・ICU・HCU運営会議システム運営
図4 近森病院組織概念図
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よってADLを改善する.ADLの改善で長期入院が予防でき在院日数が短縮する.ベッド回転が速くなり患者数が増加する.電子カルテの導入や新CTスキャンなどのシステム・設備のさらなる充実に取り組むというプラスのDPCサイクルで効率的な医療がさらに進むということになる.以上のことから,チーム医療の充実を図るか否かが病院の方向性を左右するという結論になる.当会の運営をDPCサイクルにまとめたものが近森正幸の図5である.チーム医療に関係する診療報酬で看護職に近い項目を示したのが表3である.
Ⅳ.チーム医療と看護管理者の役割
1.チーム医療によって生産性を高める役割看護の専門性は保助看法により診療の補助・療
養上の世話と規定されている.その適切な実施のために根拠に基づいた看護判断・看護過程の展開・看護ケア技術の提供がある.患者と家族への説明・傾聴・安全・安心・安楽の支援などを看護
者としての自覚と責任ある行動で実施することが今日の基準である.また看護管理者には安全管理・防災管理・情報管理・業務管理・人事管理・人権擁護倫理管理・そしてコスト管理などがある.これらの管理業務が数字になって現れるのが経営実績である.当会がチーム医療を重視する中で把握した実績の1例を紹介する(表4〜表6).
─DPCでは人を入れ良質で効率的な医療をするほど楽になる─
プラスのDPCサイクル
スタッフの増員システム設備の充実
スタッフ看護師↑:入院基本料(7:1)導入,摂食機能療法算定+
医師↑:救急医療管理加算の充実+
管理栄養士↑:食事の増加、栄養管理実施加算算定+
リハビリ↑:リハビリ単位数,ADL加算の増加システム・設備電子カルテの導入:カルテ,フィルム管理費用↓新CTスキャン導入:CAGから造影CTスキャンへ
コスト減少
患者数増加
利益のup
医療の質のup
手術リハビリ食事ICUHCU
医療機能のしぼり込みによる出来高部分の上乗せ単価のup
DPC→在院日数短縮,ベッド稼動率低下に対応可能
更なる利益のup 更なる収入のupとコスト減少:利益のup
スタッフ,システムの充実
チーム医療で分業と協業労働生産性のup患者一人あたりの人件費率↓
・薬価の切り下げ・薬使用量の減少・ジェネリック薬品の導入・薬,検査の外来移行・診療材料の切り下げ・フィルム包括化・画像・検査の稼働率upで 1件あたりリース料↓人件費↓・査定の減少etc.
図5 プラスのDPCサイクル
表3 チーム医療に関係する項目の算定金額(平成18年度近森会実績)
項目および点数 金額(単位:千円)
①摂食機能療法(185点) 67,521②リハビリ総合計画評価料(480点) 29,918③栄養管理実施加算(12点) 28,020④ 地域連携診療計画管理料 (1,500点) 退院時指導料(1,500点)
1,9652,550
⑤医療安全対策加算(50点) 3,663⑥褥瘡患者管理加算(20点) 939
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2.チーム医療における看護のポジションから調整機能を発揮する役割各職種が各々に専門性をもって分立的分業を
行っていた時代から各職種が協業する時代になったことを,上田敏は『目で見るリハビリテーション医学』で示している(図6).しかし実際の病棟における生活の場からこの協
業場面をよく見ると図7になる.患者と家族の最も近い距離に24時間関わっているのは看護師であり,療養病棟では介護福祉士が加わって,人間が生きていくための基本的援助を提供している.そしてその生活を充実・重厚に治療的援助で関わっているのが医師と各種コメディカルである.1日のうち医師の関わる時間は多くても60分,コ
表4 近森病院入院データおよび職員数(H17─H19)急性期338床
H17 H19(4月~6月) 増減 増減率
平均在院日数(日) A 15.15 15.33 0.18 1.2%
病床稼働率 93.8% 95.0% 1.2% 1.3%
1人あたり入院単価(円) B 60,584 68,818 8,234 13.6%
1人あたり入院総医療費(円) A×B 917,848 1,054,980 137,132 14.9%
入院収入合計(千円)(1か月平均) 584,237 670,290 86,053 14.7%
職員数 医師 69 79 10 14.5%
看護職 359 377 18 5.0%
診療技術職 82 102 20 24.4%
PT・OT・ST 49 49 0 0.0%
事務職他 71 76 5 7.0%
合計 630 683 53 8.4%
表5 近森病院第二分院診療データおよび職員数(H17─H19)精神科専門病院104床
H17 H19(4月~6月) 増減 増減率
平均在院日数(日) A 80.55 95.78 15.23 18.9%
病床稼働率 88.4% 93.5% 0.05% 5.8%
1人あたり入院単価(円) B 17,782 17,591 -191 -1.1%
1人あたり入院総医療費(円) A×B 1.432.340 1,684,866 252,526 17.6%
入院収入合計(千円)(1か月平均) 49,725 51,887 2,162 4.4%
人員数 医師 6 6 0 0.0%
看護職 59 56 -3 -5.1%
診療技術職 9 11 2 22.2%
OT 7 8 1 14.3%
その他 6 6 0 0.0%
合計 87 87 0 0.0%
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メディカルが最高の単位をとったとしても9単位180分である.時間の長さ・頻度という量的なものではなく心理的・社会的な人間関係の深さ・浅さ・信頼度で計るものだという意見があるかもしれない.その手の専門職としては臨床心理士・心理カウンセラーなどが存在している.彼らとアポイントをとり,情報交換して日々の生活行動につ
なげうるのは看護ではないだろうか.家庭における父親の存在が医師,母親の存在が看護師,他職種は兄弟姉妹・叔父叔母・家庭教師などのポジションと考えると,偉大な母親役割から看護師の仕事が見えてくる.
上から見ると
横から見ると
領域分けにしてしまいバラバラ
領域は重なっていても役割は異なる
PTOT
STNsSW
PTOT
STSW
Ns
協業分立的分業
(引用 上田敏:目で見るリハビリテーション医学 第2版)図6 分立的分業から協業へ
患者・家族
介護福祉士
Ns
Dr
PT
SW
臨床工学技士
検査技師
放射線技師管理栄養士
OT
ST歯科衛生士
薬剤師
図7 24時間全人的に関わる人はだれ?
表6 近森リハビリテーション病院入院データおよび職員数(H17─H19)回復期リハ180床
H17 H19(4月~6月) 増減 増減率
平均在院日数(日) A 87.34 78.68 -8.66 -9.9%
病床稼働率 97.6% 98.4% 0.79% 0.8%
1人あたり入院単価(円) B 32,840 37,068 4,228 12.9%
1人あたり入院総医療費(円) A×B 2,868,246 2,916,510 48,265 1.7%
入院収入合計(千円)(1か月平均) 175,484 199,153 23,669 13.5%
職員数 医師 10 7 -3 -30.0%
看護職 83 67 -16 -19.3%
介護職 32 42 10 31.3%
理学療法士 43 47 4 9.3%
作業療法士 37 55 18 48.6%
言語療法士 16 21 5 31.3%
医療ソーシャルワーカー 8 8 0 0.0%
その他 18 17 -1 -5.6%
合計 247 264 17 6.9%
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3.現在のチーム医療の限界を乗り越える役割チーム医療の特徴は患者中心の発想であり人間
関係の塊である.異なる職種が共通の目標のためにチームを組み,異なる知識・実践を展開して患者の願いに応えなければならい.チーム医療の限界は組織的な要因と人間関係的要因に分かれる.組織的なものとしては,まず組織のトップの考え方,組織化と運営がどうなっているかである.人間関係的要因としてはまだ残存している医師の病とその正反対にある身分確立のできていない職種の自己防衛的狭量さであり,看護職に不足しているのは主体性の確立である.看護師長の具体的な役割は,①まず看護の基本的な役割がどう遂行されているか,ケアの実態やADL・患者家族の声や調査研究からそのレベルを把握する,②看護職でなくてもよい業務を委譲して本来業務の時間管理をする,③欠落している常識やマナーの改善でよい人間関係を築けるようになるサポートと,人間性を高める学びの機会をつくることが必要である.
Ⅴ.おわりに
変化する医療のかたちはもうそこまで来ている.道州制が敷かれ高知県はなくなるかもしれない.医療のかたちも変化するであろう.その変化に看護のみの独善性で対応しても成功しない.叡智を集めたチームアプローチで次なる地域連携を目指し,人々の健康な生活の確保を護っていかなければならないと考える.
引用・参考文献厚生統計協会(2007)国民衛生の動向,54(9),460─467井上浩之(2007)高知県の療養病床再編成と地域医療連携:高知県看護協会研修会資料.
近森正幸(2007)病院らしい病院としてあり続けるために:近森病院入社式資料.
近森病院クリニカルパス大会(2007)脳卒中回復期パス資料集.
上田敏(1994)目で見るリハビリテーション医学第2版,11,東京大学出版会.