平成18年度 国際的な事業再編成及び...

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日機連18高度化―19 平成18年度 国際的な事業再編成及び 技術提携事例研究報告書 平成19年3月 社団法人 日本機械工業連合会 株式会社 メ デ ィ ア ゲ イ ン この事業は、競輪の補助金を受けて実施されたものです。 http://keirin.jp

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Page 1: 平成18年度 国際的な事業再編成及び 技術提携事例研究報告書国際的な事業再編成及び 技術提携事例研究報告書 ... 仏GDFと仏Suezの合併計画(2006年2月~)

日機連18高度化―19

平成18年度

国際的な事業再編成及び

技術提携事例研究報告書

平成19年3月

社団法人 日本機械工業連合会

株式会社 メ デ ィ ア ゲ イ ン

この事業は、競輪の補助金を受けて実施されたものです。

http://keirin.jp

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我が国機械工業における技術開発は、戦後、既存技術の改良改善に注力することから

始まり、やがて独自の技術・製品開発へと進化し、近年では、科学分野にも多大な実績

をあげるまでになってきております。

しかしながら世界的なメガコンペティションの進展に伴い、中国を始めとするアジア

近隣諸国の工業化の進展と技術レベルの向上、さらにはロシア、インドなどBRICs

諸国の追い上げがめざましい中で、我が国機械工業は生産拠点の海外移転による空洞化

問題が進み、技術・ものづくり立国を標榜する我が国の産業技術力の弱体化など将来に

対する懸念が台頭してきております。 これらの国内外の動向に起因する諸課題に加え、環境問題、少子高齢化社会対策等、

今後解決を迫られる課題も山積しており、この課題の解決に向けて、従来にも増してま

すます技術開発に対する期待は高まっており、機械業界をあげて取り組む必要に迫られ

ております。 これからのグローバルな技術開発競争の中で、我が国が勝ち残ってゆくためにはこの

力をさらに発展させて、新しいコンセプトの提唱やブレークスルーにつながる独創的な

成果を挙げ、世界をリードする技術大国を目指してゆく必要があります。幸い機械工業

の各企業における研究開発、技術開発にかける意気込みにかげりはなく、方向を見極め、

ねらいを定めた開発により、今後大きな成果につながるものと確信いたしております。

こうした背景に鑑み、当会では機械工業に係わる技術開発動向等の補助事業のテーマ

の一つとして株式会社メディアゲインに「国際的な事業再編成及び技術提携事例研究」

を調査委託いたしました。本報告書は、この研究成果であり、関係各位のご参考に寄与

すれば幸甚です。

平成19年3月

社団法人 日本機械工業連合会

会 長 金 井 務

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東西冷戦終結後の90年代前半から、欧米先進諸国では大型の企業買収、合併が頻発

し、産業界の再編成が進行しています。近年では、米英仏独などの主要国に加え、中東

欧など新たなEU加盟国やロシア、中国、インドなどの新興工業国企業をも巻き込んだ

世界的な事業や技術の合従連衡が行われています。わが国でも昨年の王子製紙による北

越製紙に対する敵対的買収提案などに見られるように、国内での事業再編成の動きが顕

在化しております。

こうしたグローバルな企業間競争や買収・合併などが益々激しくなる中、今年5月よ

り、いわゆる「三角合併」が解禁され、今後様々な経済的、政治的、社会的問題や紛争

が惹起される可能性は高まっております。

このときにあたり、政府・民間企業共に欧米や中国、インドにおける事業再編成の主

要なケースを調査、分析し問題点をあらかじめ整理し対策を講じるための基礎資料を作

成することは喫緊の課題であると存じます。

このような経緯から、この度、社団法人日本機械工業連合会より「国際的な事業再編

成及び技術提携事例研究」の調査委託を頂き、現下の課題に応えるべくここにその研究

成果をまとめた次第です。

関係各位の皆様にご高覧賜り、ご参考となれば幸甚です。

平成19年3月

株式会社メディアゲイン

代表取締役 小川 勝正

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【目次】

1.日機連、金井 務会長の序・・・・・・・・・・・・・(P.1)

2.メディアゲイン、小川 勝正代表取締役の序・・・・・(P.2)

3.目次・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(P.3)

4.事業運営組織・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(P.6)

5.報告書本文

第1章 鉄鋼業界再編に関する報告書・・・・・・・・・(P.8)

1.鉄鋼業界再編図

2.鉄鋼業界上位5社の動向

3.業界再編ケーススタディ

(ⅰ)《JFEの誕生》 日本鋼管(NKK)・川崎製鉄の経営統合(2003年4月)

(ⅱ)米鉄鋼業界再編の経緯

4.業界再編と政府の関わり

(ⅰ)アルセロール・ミタル

(ⅱ)新日本製鐵(1970年創立)

第2章 製薬業界再編に関する報告書・・・・・・・・・(P.29)

1.製薬業界再編図

2.製薬業界上位5社の動向

3.業界再編ケーススタディ

(ⅰ)ヘキスト(ドイツ)とローヌ・プーラン(フランス)合併による

アベンティス誕生(98年12月)

(ⅱ)ロシュ(スイス)による中外製薬の買収(01~02年)

(ⅲ)巨大企業合同・IGファルベン誕生(1925年・独)の誕生

4.業界再編と政府の関わり

(ⅰ)サノフィ・サンテラボによるアベンティス買収問題

(ⅱ)新日本製鐵

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第3章 化学業界再編に関する報告書・・・・・・・・・(P.46)

1.化学業界再編図

2.化学業界上位5社の動向

第4章 自動車業界再編に関する報告書・・・・・・・・(P.54)

1.自動車業界再編図

2.自動車業界上位5社の動向

3.業界再編ケーススタディ

(ⅰ)独ダイムラー・ベンツと米クライスラーの合併による

ダイムラークライスラーの誕生(1998年の5月)

4.業界再編と政府の関わり

(ⅰ)米GMによる韓国大宇自動車買収問題(2001年9月)

第5章 紙パ業界再編に関する報告書・・・・・・・・・(P.69)

1.紙パ業界再編図

2.紙パ業界上位5社の動向

3.業界再編ケーススタディ

(ⅰ)UPM-Kymmene(フィンランド)とインターナショナル・ペーパー(米国)による

チャンピオン・インターナショナル(米国)の

買収合戦の経緯(2000年2~6月)

(ⅱ)Stora Enso(フィンランド)による Vision グループ(ブラジル)買収(2006)

第6章 石油業界再編に関する報告書・・・・・・・・・・(P.81)

1.石油業界再編図

2.石油業界上位5社の動向

3.業界再編ケーススタディ

(ⅰ)エクソン・モービル合併(1999)

4.業界再編と政府の関わり

(ⅰ)トタルフィナ(仏・ベルギー)による

エルフ・アキテーヌ(仏)買収の経緯(1998年12月~2000年2月)

(ⅱ)中国石油(CNOOC)によるユノカル(アメリカ)買収失敗問題

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(ⅱ)ガスプロム(ロシア)によるサハリン2プロジェクト参入の経緯

第7章 電力業界再編に関する報告書・・・・・・・・・・(P.98)

1.電力業界再編図

2.電力業界上位5社の動向

3.欧州統一エネルギー市場の創設を巡る攻防

4.業界再編ケーススタディ

(ⅰ)イベルドロラによるスコティッシュ・パワー買収提案(2006年11月)

5.業界再編と政府の関わり

(ⅰ)仏 GDF と仏 Suez の合併計画(2006年2月~)

(ⅱ)独 Eon による Endesa(スペイン)の買収計画(2006年2月~)

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【事業運営組織】

組織図

専務執行役員 高橋 前雄

ビジネスインテリジェンスアドバイザリーサービス部(調査・分析)

シニアアドバイザー 野間 健

シニアアドバイザー 畔蒜 泰助

シニアアソシエイト 松本 徹

シニアアソシエイト 世良 裕之

シニアアソシエイト 才口 実希

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鉄鋼業界再編に関する報告書

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①業界再編図(1-1)

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①業界再編図(1-2)

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①業界再編図(1-3)

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②上位5社の動向(2-1)

①売上(10億ドル)※為替は年度末の終値で換算

05年度 04年度 03年度 02年度 01年度

Mittal 28.1 22.2 9.6 7 5.4

Arcelor 38.6 40.7 32.5 27.8 ―

新日鉄 33 31.6 22.9 19.4 22.3

POSCO 21.7 19.3 11.7 10.1 8.3

JFE 26.1 26.1 23.3 ― ―

――2,4732,8033,014JFE

2,7822,8062,8903,0203,142POSCO

2,6142,9903,2733,2793,395新日鉄

―4,4004,2804,4504,665Arcelor

1,8632,4542,7444,2074,989Mittal

01年度02年度03年度04年度05年度

②粗鋼生産量(万トン)

――15.415.823.5JFE

8.610.512.115.717.4POSCO

9.7815.617.226.2新日鉄

―6.28.914.613.5Arcelor

―2.43.512.313.4Mittal

01年度02年度03年度04年度05年度

③株式時価総額(10億ドル)※年度末終値基準

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②上位5社の動向(2-2)

④ROS(売上高当期純利益率)

05年度 04年度 03年度 02年度 01年度

Mittal 16.80% 27.60% 13.50% 9.90% -0.70%

Arcelor 13.40% 10.50% 2.80% 2.90% ―

新日鉄 14% 11% 5.90% 2.50% 0.60%

POSCO 27.20% 25.50% 21.20% 15.60% 12.80%

JFE 16.70% 16.40% 8.80% ― ―

――6.50%13.10%14.60%JFE

4.60%6.30%11.10%19.20%17.60%POSCO

0.40%6.10%4.80%9.80%13%新日鉄

―3.01%2.99%10.60%12.18%Arcelor

-0.50%8.80%12.80%32%15.20%Mittal

01年度02年度03年度04年度05年度

⑤ROA(総資本利益率)

――15.90%18.70%28.60%JFE

8.40%10.20%16.20%26.30%22.50%POSCO

3%6.10%4.80%20.70%24%新日鉄

―1.01%6.17%22.02%24.60%Arcelor

15.40%18.20%25.20%30.50%32.60%Mittal

01年度02年度03年度04年度05年度

⑥ROE(株主資本利益率)

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③業界再編ケーススタディ(3-1)

(ⅰ)《JFEの誕生》 日本鋼管(NKK)・川崎製鉄の経営統合(2003年4月)

1.目的

グローバルな競争時代における生き残りを目的に、経営規模の拡大と効率の最大化を果たすため経営統合。

2.背景

90年代後半以降の世界的な自動車業界の再編(6大グループ化)、鉄鉱石業界の再編(3大グループ化)、さらに

中国鉄鋼メーカーの躍進などの国際環境の中、わが国では業界トップの新日鐵以外、従来の企業規模ではグローバル

な競争に勝ち残ることが困難となり、業界2位の日本鋼管(NKK)と同3位の川崎製鉄は2001年12月経営統合に関する基

本合意書を締結した。

とりわけ2001年1月の日産自動車による鋼板調達シェアの見直し(カルロス・ゴーンCEOの「日産リバイバルプラ

ン」)で、従来同じ芙蓉グループ内企業として25%程度のシェアを確保していたNKKが10%に落とされ、新日鐵が60%

に突出(従来28%)したことにNKK経営陣が強い危機感を覚えたことが経営統合へのきっかけとなったといわれている。

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③業界再編ケーススタディ(3-2)

3.統合の経緯1912年 日本鋼管株式會社(NKK)が川崎市に設立される。1950年) 川崎重工業株式會社から製鉄部門が分離独立して、川崎製鉄株 式會社(川鉄)が神戸市中央区に設立

される。2000年4月 NKKと川鉄の千葉(千葉市)、川崎(川崎市)、水島(倉敷市)、福山(福山市)の4製鉄所の立地条

件を活用した製鉄所運営の効率化を推進するため、物流・補修・購買関連分野の協力について検討。9月に合意。

2000年10月 NKKのLSI設計事業、電子デバイス事業を富士通に譲渡し撤退。2001年4月 製鉄及びエンジニアリング事業をコア事業とした、グループ会社も含めた全面的な経営統合を行なう

ことについて両社が基本的に合意。2001年4月1日 NKKの重工部門を分離して住友重機、川崎重工、日立造船と合併、スチールプランテックとなる。2001年12月 経営統合について基本合意書を締結。グループ名を「JFEグループ」とする。2002年5月に統合契約書

調印。2002年1月 NKKの米国子会社ナショナル・スチールを、米国USスチールに売却。2002年3月 川鉄のリース子会社を東京リースに売却。2002年9月26日 NKK 1,000株に対し、ジェイエフイーホールディングス75株、川鉄1,000株に対し、同100株の比率で株

式を移転。9月27日 ジェイエフイーホールディングス設立登記。2002年10月1日 NKKの造船部門を分離して日立造船と合併、ユニバーサル造船となる。2003年4月1日 NKK、川鉄の両社を分割、鉄鋼事業をJFEスチール(継承会社は川鉄)、エンジニアリング事業をJFE

エンジニアリング(継承会社はNKK)、化学事業を新設のJFEケミカル、NKKの都市開発事業を新設のJFE都市開発、NKKの基盤技術研究所を新設のJFE技研に再編。川鉄子会社の川崎マイクロエレクトロニクスをジェイエフイーホールディングスの子会社とする。

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【第一ステップ】株式の移転 2002年

9月26日

移転をなすべき日

9月27日

JFEホールディングス

設立登記日

【第二ステップ】傘下会社の再編

2003年4月

*JFEホームページより

*統合後の財務指標については別紙をご参照ください。

③業界再編ケーススタディ(3-3)

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③業界再編ケーススタディ(3-4)

4.統合の結果

NKKが抱える重工部門やLSI事業など不採算部門を切り離し、NKKの鉄鋼部門

を事実上川崎製鉄に吸収させたことで、きわめて効率の良い経営・生産体

制が構築され、実質統合初年度の2003年3月期決算では経常利益2,183億円

を達成し、新日鐵(同688億円)を超えた。

2001年12月、鉄鋼業界3位、4位の住友金属工業と神戸製鋼所は新日鐵と資

本業務提携を結び、日本の鉄鋼業界は新日鐵連合対JFEの2強時代に突入し

た。

グローバルな展開として、新日鐵は仏ユジノール(02年合併によりアルセ

ロール)と01年1月に自動車鋼板分野で提携し、従来から関係の深い韓POSCO

とは株式持合いを強化している。JFEも、米AKスティールや独ティッセン・

クルップと同じく自動車鋼板分野で提携している。

鉄鋼流通分野では2001年10月に伊藤忠と丸紅が「伊藤忠丸紅鉄鋼」を設立

三菱商事と日商岩井も2002年5月「メタルワン」を設立し、高炉業界の再編

に対応する動きを見せた。

NKK・川崎製鉄の統合と相前後して、両社のメインバンクである富士銀行と

第一勧業銀行が興銀と共に「みずほホールディングス」を設立して統合

(2000年9月)を果たしている。

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③業界再編ケーススタディ(3-5)

(ⅱ)米鉄鋼業界再編の経緯ここでは02年2月、米投資会社W.L.Ross & Coの米鉄鋼会社LTV社買収による米International Steel Groupの誕生

から、04年10月、蘭鉄鋼会社Ispat社とLNM Holgings社(両社とインド系企業家のラクシュ・ミタル氏が支配)の米ISG社買収による蘭ミタル・スチールの誕生までの経緯を分析する。

1.政府の関与の仕方02年3月、米ブッシュ政権は、長年の構造的な苦境に喘ぐ米国内の鉄鋼産業に対し、国際的な競争力回復に不可欠な

改革を実施する為の「一時的な猶予期間」を与えるべく、3年間の期限付きで国内鉄鋼産業への一時的な救済策(セーフカード)を発動、14品目の鉄鋼製品に8~30%の追加関税を課した。これが、その後の米鉄鋼業界の再編を促進させる一つの契機となった。

2.政府が関与した理由・背景米鉄鋼産業は長期的な苦境の中にあり、97年以降では42社が破産申請を行い、8万人以上の労働者が影響を受けてい

る。こうしたなかでブッシュ大統領は02年3月、3年間の期限付きでセーフガードを発動し、14品目の鉄鋼製品に8~30%の追加関税が課した。ブッシュ政権はこの措置を「国内鉄鋼産業が国際的な競争力の回復に不可欠な改革を実施する“一時的な猶予期間”を与える為のもの」と説明した。なお「ブッシュ政権は米大統領選における鉄鋼産業の政治的な重要性を鑑みて、これに支援を与える為にセーフ

ガードを発動したのであり、これはむしろ弱い企業を助け、逆に業界再編を遅らせた」と指摘する向きもある。(『みずほ米州インサイト―米鉄鋼輸入制限撤廃が意味するもの~ますます強まる「選挙シフト」~―』03年12月9日発行 みずほ総合研究所)とはいえ、一連の再編を主導した米ISG社のウィルバー・ロス(Wilbur Ross)会長自身(ISG社はロス氏率いる米投

資会社W.L.Ross & Coが米鉄鋼会社LTV社買収して誕生)が「それ(ブッシュ政権による関税引き上げ)はとても重要だった。我々の場合、ブッシュ大統領がこれを発表する直前にLTV買収に踏み切ったが、それは、彼が何か重要な決断を下すと予測されたからだ。それなしに、我々はLTVを買収することはなかっただろう」と述べている。(03年3月14日付英FT紙)このことからも、動機の如何は別にして、ブッシュ政権によるセーフガードの発動が、その後の米鉄鋼産業の再編を促す起爆剤になったのは間違いないであろう。

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③業界再編ケーススタディ(3-6)

3.関係者・当事会社の対応・破綻企業の再生を得意とする米投資家ウィルバー・ロス氏がその後の米鉄鋼産業の再編を主導。02年2月、同氏

率いる米W.L.Ross & Coは、約一年前に米破産法第11条の適用申請した米鉄鋼大手LTV社を2億ドル相当の債務ご

と1億2500万ドルで買収した。

・W.L.Ross & CoのLTV社買収によって誕生したISG社は、その後、やはり米破産法第11条の申請企業の米第三位の

鉄鋼会社Bethlehem Steel社(03年5月8日)をはじめとする米鉄鋼会社・事業を相次いで買収。一時は米U.S. Steel

社を抜いて、米国最大の鉄鋼会社に躍り出た。(cf)U.S.Steel社は03年5月20日、米National Steel社を

買収して米最大の鉄鋼会社の座をISG社から再び取り戻した。

・なお、米ISG社を軸として、米国鉄鋼産業の再編が一挙に進んだもう一つの背景として、同社が、買収企業が抱える

退職者への諸々の給付金(所謂レガシー・コスト)の切り離しに成功し、また、買収企業の労働組合を束ねる全米

鉄鋼労働組合(USWA)との間で、現従業員を対象とした生産性向上のためのインセンティブ導入を組み合わせた柔

軟な労働協約の締結に漕ぎ着けたことが挙げられる。総額130億円とも言われるレガシー・コストの存在は企業を破

産に追い込むと共に、その後の合併等による業界再編の妨げとなっていたが、ISG社が作った先例がその後の業界再

編を促すスタンダードとなった。

・04年10月、インド系企業家ラクシュ・ミタル氏は、自らの支配下にあるオランダを本拠とする鉄鋼会社Ispat社と

LNM Holiding社を通じて、米投資会社W.L.Ross & Coから米ISG社を約450億ドル(現金と株式の組み合わせ)で買収

した。これにより、世界最大の鉄鋼会社ミタル・スチールが誕生すると共に、W.L.Ross & Coを率いる米投資家

ウィルバー・ロス氏はこの合併会社ミタル・スチールの取締役に就任した。

・なお、ミタル氏率いる蘭Ispat社とLNM Holding社による米ISG社の買収に対して、米ブッシュ政権並びに全米鉄鋼労

働組合がこれに反対する声明・行動を見せた形跡はない。

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④業界再編と政府の関わり(4-1)

(ⅰ)アルセロール・ミタル

1.政府の関与の仕方2006年1月27日、ミタルがアルセロールに買収提案を行った直後、主にフランスとルクセンブルグの政府当局者が、

議会、またはマスメディアを通じ、同提案に対し相次ぎ懸念を表明した。2月1日には、シラク仏大統領とドビルパン仏首相は、パリでルクセンブルグのユンケル首相と会談し、「アルセロール買収」反対で共同歩調を取ることを確認している。但し、ルクセンブルグ政府がアルセロールの最大株主(5.6%)であるのに対し、フランス政府は同社の株式を保有しておらず、後者は懸念を表明する以外、本件に介入する手段はなかった。一方、ルクセンブルグ政府は敵対的買収に直面した企業が株主の同意なしで買収防止措置を講じることの出来る法案を検討したが、これは成立しなかった。

2.政府が関与した理由・背景【文化・人種摩擦】非ヨーロッパ人、インド生まれのラクシュ・ミタル氏による欧州の名門鉄鋼メーカー買収という文化的、人種的違

和感が買収提案に懸念を表明したフランス、ルクセンブルク政府当局者の心情の根底に存在したことは否定できない。因みに、5月、アルセロールが、同じ白人系のロシア人、アレクセイ・モルダショフ率いる露鉄鋼会社セベルスターリへの株式売却によって、ミタルによる買収を回避するプランを打ち出した際には、フランス、ルクセンブルグ政府当局者は共に好意的な反応を示していた。

【雇用問題】当時、フランスでは約3万人が、ルクセンブルグでは約6千人がアルセロールに雇用されていた。ミタルは世界

15カ国に工場を保有するグローバル企業であり、コストの安い地域・環境を求めてドライなリストラを敢行する恐れがあり、失業問題の発生が政府当局に懸念された。ただミタル会長が「雇用維持」方針をたびたび打ち出したことで、ミタルへの懸念の声も徐々にトーンダウンしていった。

3.関係者の対応6月2日、欧州委員会は、ミタル・スチールによるアルセロール買収の新提案(下記参照)を、ミタルが買収後に

一部工場を売却することを条件に承認した。欧州連合(EU)の欧州委員会競争政策総局は、合併規則に基づき、EU域内でのM&A案件の承認権限を持つ。欧州委員会のネーリー・クルス委員(競争政策担当)は、当初から「公正競争確保の立場からのみ計画を審査する」と述べ、雇用問題への懸念などを理由にミタルによるアルセロール買収提案に反対するフランス、ルクセンブルグ政府を牽制していた。

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④業界再編と政府の関わり(4-2)

4.当事会社の対応1月28日 アルセロールは、前日のミタルによる買収提案を正式に拒否。4月4日 アルセロールは4月4日、近い将来予想されるミタル側からの株式公開買い付け(TOB)に備えるべく、

増配方針を改め前年比約2.8倍の一株当たり1.85ユーロに引き上げると発表。これとは別に50億ユーロ相当の株主還元を実施すると発表。

5月9日 ミタル、買収額引き上げの可能性を正式に表明。5月18日 ミタル、各国金融当局への買収手続き完了を受けてTOB開始。5月19日 ミタル、買収額を3割以上引き上げて(258億ユーロ)現金部分の比率を上げた新買収案を発表。

一方、アルセロールは同日、自社株買いの承認取得を目指した臨時株主総会が定足数に達せず。5月21日 アルセロール、臨時取締役会でミタルの新提案を協議、検討の姿勢示す。5月25日 アルセロール、臨時取締役会でセベルスターリとの合併計画を決定。5月26日 アルセロール、セベルスターリとの合併計画を発表。5月31日 ミタルのアドバイザーの米ゴールドマン・サックスの呼びかけによって、アルセロールの全株主の

1/3以上に署名された要望書をアルセロールに送付。セベルスターリとの合併計画の承認を求める臨時株主総会の開催を要求。ゴールドマン・サックスの呼びかけに、アルセロール株を所有する多くの英米ヘッジファンドが応じ、これに署名した。(※)

6月2日 欧州委員会、ミタルによる買収新提案を条件付で承認。6月11日 アルセロール、ミタルによる新買収提案を正式に拒否。但し、新たな提案がなされればこれを検討すると

共に、セベルスターリとの合併計画については臨時株主総会で承認を得ることを約束。6月18日 アルセロールはセベルスターリとの合併計画に関する臨時株主総会の開催をキャンセル。6月21日 セベルスターリ、アルセロールの株主の懸念を和らげるべく、買収提案条件の修正を表明。6月25日 アルセロール取締役会、ミタル・スチールとの合併を全会一致で決定。

(※) 06年6月26日付け英FT紙はジョン・プレンダー氏の『アルセロール、ミタル、そしていつものヘッジ・ファンドの容疑者たち(Alcelor, Mittal and the usual hedge fund suspects)と題したコラムを掲載。蘭ミタルが、露セベルスターリとのアルセロール買収合戦で勝利する上で、英米のアクティビスト(モノ言う株主)系ヘッジ・ファンドが、ミタルのアドバイザーを務める米投資銀行ゴールドマン・サックスと連携して決定的な役割を果たした事実を指摘している。このように「買収を狙う企業が、アクティビスト系ヘッジ・ファンドと緊密に連携して挟み撃ちでターゲット企業を攻略する」というケースが見られる。要注意である。

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④業界再編と政府の関わり(4-3)

(ⅱ)新日本製鐵(1970年創立)

1.背景

1934年(昭和9年)官営八幡製鐵所、釜石製鉄、輪西製鉄、富士製鋼、九州製鋼、三菱製鉄が合同、日本製鉄が設立

された。従業員45,000人、粗鋼生産国内シェア52%の巨大企業となった。

敗戦後、1947年(昭和22年)GHQ指令により過度経済力集中排除法が制定され、日本製鉄は1950年に八幡製鉄と富士

製鉄に分離解体された。以来両社は激しい競争を繰り広げながらも、永野重雄、稲山嘉寛の両社幹部は再統合への悲

願を持ち続けていた。また昭和30年代、鉄鋼業界は、乱売合戦と過剰な設備投資で共倒れの危機にあり、トップ2社は

業界の共存共栄のため何らかの対策を講ずる必要に迫られていた。

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④業界再編と政府の関わり(4-4)

2.行政(通産省、公正取引委員会)、政治家・議会の関与の仕方とその理由・背景

・通産省

日本は60年代の高度経済成長により1964年IMF8条国への移行、OECDへの正式加盟など、先進国入りした。これに伴

い、輸入の部分自由化を開始、1967年からは資本の自由化の開始が迫っていた。

通産省は、1966年事務次官に就任した山本重信が中心となって、欧米企業に比して自己資本比率の低い借金体質の

日本企業がいかに資本自由化に立ち向かうかの対策立案を急いでいた。67年、通産省は第一次自由化措置として、

50%の資本参加を認める業種、100%の資本参加を認める業種を発表、鉄鋼業は競争力の高い分野として100%自由化

業種に指定された。

山本次官は1968年3月に八幡製鉄・稲山社長、富士製鉄・永野社長、興銀・中山頭取と会談し、「八幡・富士の合併

は自由化に対抗できるモデルケース」として合併支援を約束した。国際化、自由化の荒波に対抗できる企業を作り出

す必要性を強く感じていた通産省の総意であった。合併上の壁は独占禁止法を管轄する公正取引委員会の動向であり、

山本は同じ行政官庁である公取・山田委員長への水面下での根回しを担当したが、頑強な抵抗にあい、難航した。同

時にNKKなど同業界内の説得にあたり賛同を取り付けた。

当時の資本自由化というグローバリズムに対抗するべく、日本企業の規模や技術力を強化するための巨大合併を積

極的に推進し、日本の産業を守ろうとしたのが通産省の立場であった。

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④業界再編と政府の関わり(4-5)

・公正取引委員会1968年5月、両社は公取に対し合併趣意書を提出。内容は、合併により過剰設備投資による過当競争を断ち切る、技

術開発力が強化される、国際競争力が強化される、という3点が柱であった。公取は両社からの資料提出、意見聴取など事前審査を行い、一部品目(ブリキ、レール、鋼矢板、鋳物銑)につい

て独禁法に抵触するおそれがあると結論付けた(69年2月)が、両社は69年3月合併期日を6月1日とする合併契約書に調印した。5月7日公取山田委員長は、独禁法第15条「当該合併によって一定の取引分野における競争を実質的に制限すること

となる場合」合併をしてはならない、との規定に基づき、「合併中止」を勧告、東京高裁に緊急停止命令を申請した。両社は6月1日の合併を取り下げ、「和解」とも言うべき「同意審決」を公取に申請し、10月30日の審決発表まで一

種の法廷闘争を展開する。両社は、寡占の弊害、価格の吊り上げ、を危惧する公取の合併反対論に対し、上記4品目の生産・販売部門や関係会

社をライバル社に売却したり、系列から外したり、技術供与を行うなど、あらゆる手段で疑念の解消に努めた。10月30日公取山田委員長は同意審決により両社の合併を正式に承認した。これらの背景に以下のような当時の状況があった。両社の合併は、1968年(昭和43年)4月16日毎日新聞にスクープされたが、それ以前の同年2月より山本通産次官は

山田公取委員長に極秘に会って合併についての説明を行い、問題点を洗い出していた。稲山社長も山田委員長に会っていたが、4月16日のスクープにより山田委員長は態度を硬化させたといわれる。1959年三井物産と第一物産合併、1964年新三菱重工業、三菱日本重工業、三菱造船が合併、三菱重工復活、1966年

日産自動車、プリンス自動車合併、1967年石川島播磨重工、呉造船所合併、1969年川崎重工、川崎航空機工業、川崎車両合併、など旧財閥系をはじめとした大型合併が続出、経済の民主化、競争維持政策の守護者としての公正取引委員会の存在が形骸化していたことから、戦後最大規模の八幡・富士合併を認めると独禁政策自体不要になるという危機感が強かったといわれる。

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④業界再編と政府の関わり(4-6)

・政治家・議会合併スクープ直後の国会答弁。

椎名悦三郎通産大臣「市場占有率は40%に近づくといっても、国際的に門戸が開放されている現在、それだけで独

占だと論ずるべきでない。合理的な体系ができれば国民経済にプラスだろう」

宮沢喜一経済企画庁長官「現状では、八幡・富士合併で管理価格ができるとは思わないし、合併で競争が制限され

るとは考えられない。事後に価格などの報告を求め、監視を続けていけばよいことではないか」

一方野党・社会党は商工委員会などで合併反対、競争維持を主張、公取委員を追及し、与党・自民党は合併推進の

立場から同じく公取委員をつるし上げた。

同意審決審議中の膠着状態の間、大平正芳通産大臣は極秘に山田委員長ならびに他委員と接触し、合併推進への根

回しを行っている。

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④業界再編と政府の関わり(4-7)

3.関係者の反応・鉄鋼業界業界3位のNKK (日本鋼管)赤坂武社長は山本通産次官の打診に対し「八幡と富士が過当競争でね、非常に困ってい

ます。骨肉の争いというか。ぜひ二社の合併を推進してもらいたいと、私も考えています」(稲山嘉寛『私の鉄鋼昭和史』)というように、基本的に業界挙げて賛成。公取が問題視した4品目の独禁法違反疑惑についても、NKKは富士製鉄釜石のレール生産設備の譲渡を受け、鋳物銑では神戸製鋼が八幡・東田六号高炉を借り受けるなどして新日鉄の独占シェア落としに協力した。

・学界内田忠夫、館龍一郎両東大教授、建元正弘京大教授などの近代経済学者や独禁法学者である正田彬慶大教授らは

「競争が有効に働いている多くの分野に安易な合併と競争制限の機運を誘発し、将来の日本の社会の発展に重大な支障をきたすおそれがある」と68年6月15日に声明を発表し、合併に反対した。ただ大学紛争の時期とも重なりその後学者の目立った反対は見られなかった。

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④業界再編と政府の関わり(4-8)

4.合併までの経緯(時系列)1857(安政4) 釜石で、日本初の洋式溶鉱炉の出銑に成功1886(明治19) 釜石で、田中長兵衛が出銑に成功1897(明治30) 農商務省、八幡に製鉄所の建設を着工1901(明治34) 官営八幡製鐵所操業開始1909(明治42) 北海道炭礦汽船株式會社輪西製鐵場創業1934(昭和9) 2月1日、日本製鐵株式會社創立

〔官営八幡製鐵所と輪西製鐵(株)・釜石鉱山(株)・三菱製鐵(株)・富士製鋼(株)・九州製鋼(株)・東洋製鐵(株)との製鉄合同による〕

1939(昭和14) 日本製鐵株式會社広畑製鐵所を設置1950(昭和25) 4月1日、過度経済力集中排除法にもとづき日本製鐵株式會社を解体、第2会社として八幡製鐵株式會

社(八幡製鐵所)、富士製鐵株式會社(室蘭・釜石・広畑の各製鐵所・川崎製鋼所)、日鐵汽船株式會社、播磨耐火煉瓦株式會社としてそれぞれ発足

1955(昭和30) 八幡製鐵が光製鐵所を設置1958(昭和33) 富士製鐵と中部財界との共同出資で東海製鐵株式會社を創立、八幡製鐵が戸畑製造所を設置1961(昭和36) 八幡製鐵が堺製鐵所を設置1963(昭和38) 八幡製鐵が工作本部を設置1965(昭和40) 八幡製鐵が君津製鐵所を設置1967(昭和42) 富士製鐵が東海製鐵(株)を吸収合併、名古屋製鐵所と改称1968(昭和43) 八幡製鐵、八幡鋼管(株)を吸収合併1970(昭和45) 3月31日、新日本製鐵株式會社発足1971(昭和46) 富士三機鋼管(株)を吸収合併、大分製鐵所を設置

*新日鐵ホームページより

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④業界再編と政府の関わり(4-9)

*新日鐵ホームページより

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製薬業界再編に関する報告書

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①業界再編図(1-1)

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①業界再編図(1-2)

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①業界再編図(1-3)

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①業界再編図(1-4)

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①業界再編図(1-5)

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②上位5社の動向(2-1)

①売上(10億ドル)※為替は年度末の終値で換算

05年度 04年度 03年度 02年度 01年度

Pfizer(米) 51.2 52.5 44.7 32.9 28.9

Johson & Johnson(米) 50.5 47.3 41.8 36.2 32.3

Glaxo Smith Kline(英) 37.2 38.2 37.5 34.1 29.7

Bayer(独) 23.1 17.2 22.7 28.2 34.0

Sanofi-Aventis(仏) 23.0 10.9 ― ― ―

―――3983Sanofi-Aventis(仏)

2914131322Bayer(独)

153113133134144Glaxo Smith Kline(英)

181159150188178Johson & Johnson(米)

248188254202171Pfizer(米)

01年度02年度03年度04年度05年度

②株式時価総額(10億ドル)※年度末終値基準

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②上位5社の動向(2-2)

③ROS(売上高当期純利益率)

05年度 04年度 03年度 02年度 01年度

Pfizer(米) 22.4% 26.6% 7.2% 36.4% 34.4%

Johson & Johnson(米) 25.9% 26.0% 23.3% 24.2% 23.1%

Glaxo Smith Kline(英) 25.2% 25.0% 28.7% 31.5% 29.5%

Bayer(独) 10.3% 8.1% -3.9% 5.1% 5.5%

Sanofi-Aventis(仏) 10.5% 16.3% ― ― ―

―――4.8%4.8%Sanofi-Aventis(仏)

5.8%6.5%-9.7%6.1%14.4%Bayer(独)

41.3%59.4%58.0%70.2%65.8%Glaxo Smith Kline(英)

24.0%26.4%27.1%27.3%28.2%Johson & Johnson(米)

42.5%45.7%5.9%16.6%12.3%Pfizer(米)

01年度02年度03年度04年度05年度

⑤ROE(株主資本利益率)

―――2.8%3.3%Sanofi-Aventis(仏)

4.5%3.7%-3.1%4.9%7.6%Bayer(独)

46.8%49.5%39.3%25.0%25.2%Glaxo Smith Kline(英)

13.9%15.3%14.0%15.1%17.1%Johson & Johnson(米)

25.4%25.3%2.7%11.3%9.8%Pfizer(米)

01年度02年度03年度04年度05年度

④ROA(総資本利益率)

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③業界再編ケーススタディ(3-1)

(ⅰ)「ヘキスト(ドイツ)とローヌ・プーラン(フランス)

合併によるアベンティス誕生(98年12月)」

1.目的・両社とも規模の拡大

独ヘキストマネージメント・ボードメンバーのホルスト・ウエッシェ氏の見解

「質・量ともに世界でのトップ、リーディング企業になるため。グローバル市場でリーディング企業になるためには、

十分な規模と一定の営業利益が必要。成長を維持するには、年間20億ドル以上の研究開発費が必要。ヘキストとローヌ・

プーランの98年度実績をもとにすると、アベンティスグループの売上高は177億ユーロ(一ユーロは約104円)、研究開発

費は27億ユーロの規模になる」(99年12月15日付日経産業新聞)

2.背景90年代以降、医薬品業界において、欧米企業を中心とした大型かつ国境を越えた合併・買収が相次ぎ、売上高で「100億

ドル」、研究開発費で「20億ドル」を目指す動きが活発となっている。医薬品の研究開発に巨額の費用がかかることに加

え、さらに今後の主戦場である生命科学、バイオの分野への巨額の投資も不可欠で、その為にも規模の拡大が不可避と

なっているからだ。

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③業界再編ケーススタディ(3-2)

3.合併の経緯・1998年10月末~11月、独ヘキストと仏ローヌ・プーランの合併観測が浮上。・1998年12月1日、独ヘキストと仏ローヌ・プーランは、医薬・農薬を中心とした生命科学部門を合併し、新会社「アベンティス」を設立することで合意した。新会社の売上高は約200億ドルで、このうち医薬品分野が約140億ドル。≪新会社は独仏両社が折半出資する持ち株会社で、本社を仏北東部のストラスブールに置く。独フランクフルトに医薬品本部、仏リヨンに農薬本部を置く予定。新会社の社長にはヘキストのユンゲル・ドルマン社長が就任、副社長にはローヌ・プーランのジャンルネ・フルトゥ会長が就任。両社は化学部門を切り離し、生命科学部門に特化する≫・1999年2月、独ヘキストの株式24.5%を保有する最大株主のクェイト石油会社が、仏ローヌ・プーランとの合併計画に疑問を呈した。合併承認には、ヘキストの株主75%の賛成が不可欠。・1999年3月16日、独ヘキストは最大株主のクェイト石油会社の支持を得るべく、当初、完全合併を予定していた2001年或いは2002年という期日を大幅に早め、年内に完全合併を実現すると発表した。・1999年5月14日、独へキスト最大株主のクェイト石油会社は、同社と仏ローヌ・プーランとの新たな合併計画を承認した。・1999年7月16日、独ヘキストの臨時株主総会は、仏ローヌ・プーランとの合併を承認した。・1999年10月26日、独ヘキストと仏ローヌ・プーランは、両社の合併手続きを発表した。合併はローヌ・プーラン1株に対し、ヘキスト株1.333を割り当てる公開買い付けを実施。・1999年12月15日、ローヌ・プーランが臨時株式総会を開き、先に臨時株式総会を開いたヘキスト側に続き承認を得た。これにより、独ヘキストと仏ローヌ・プーランの合併による世界最大級(当時)の生命科学会社アベンティスが発足した。・1999年12月17日、米連邦取引委員会(FTC)は、プラスティック製品を生産するロディア社株の保有率を5%未満にするほか、「トロイビン阻止因子」の医薬品関連の資産を第三者に売却することを条件に、独ヘキストと仏ローヌ・プーランの合併を認めると発表した。

4.結果両社は創業時からの化学事業を切り捨てて、医薬品・農薬関連を中心とした生命科学会社アベンティスを創設した。

これにより、合併発表時には売上高で世界第2位に躍り出た。だが、その後の米英企業の相次ぐ合併で、2001年初頭の時点では、世界第5位にまで後退した。そして2004年初頭、仏サノフィ・サンテラボに敵対的株式公開買い付け(TOB)を仕掛けれら、これを嫌ったアベンティスは、スイスのノバルティスと接触するも、フランス政府の介入もあって、結局同社は、仏サノフィ・サンテラボに買収されることとなった。

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③業界再編ケーススタディ(3-3)

(ⅱ)「ロシュ(スイス)による中外製薬の買収(01~02年)」

1.目的・ロシュ:日本市場での販路の確保、規模の拡大、ライバル企業からの買収防衛米国に次ぐ世界第2位の医薬品市場である日本市場での足場強化が主目的。また、長く独自路線を堅持してきた結果、

規模の点でも欧米ライバル企業に遅れをとっていた。そんな中01年5月には、ライバルのスイス製薬大手ノバルティスに議決権つき株式の20%を取得されていた。

・中外製薬:規模の拡大、海外市場での販路の確保、外資系企業からの買収防衛グローバルな競争時代のなかで生き残っていくのに不可欠な巨額な研究開発資金を確保し、海外販売網を手に入れ

ることが主目的。また01年9月の時点で、外国人持ち株比率が44.9%に達し、中外製薬経営陣には、外資系企業による買収の懸念も高まっていた。結局、ロシュに発行済み株式の50.1%を明け渡し、同社の傘下に入る道を選択したが、それでも、中外製薬は、国内外で独自の研究開発や製造販売を続け、独自性を維持する形の経営統合となった。

2.背景上記の独ヘキストと仏ローヌ・プーランの合併と背景は基本的に同じ。なおこの時期、日本国内では、医療制度の

改革の一環として薬価引き下げが大きく進んだ。その為、国内市場に頼れない各社は、海外への新規市場を開拓せざるを得ず、これも中外への傘下に入るという決断をするもう一つの背景となった。

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③業界再編ケーススタディ(3-4)

3.統合の経緯・2001年12月、スイスの製薬大手ロシュと日本の製薬10位の中外製薬は、ロシュが中外の発行済み株式の50.1%を取得し傘下に収めると発表した。合併計画は以下の通り。≪ロシュグループと事業が競合する中外の米診断薬子会社ジョン・プローブをスピンオフした上で、ロシュが中外の発行済み株式の約10%を対象に公開買い付けを実施(一株あたりの買い付け額は2,316円を下回らない額)。その後に中外とロシュ日本法人の日本ロシュが合併、存続会社の中外が第三者割当増資を実施してロシュが中外の発行済み株式の50.1%を取得する≫・2002年5月、10月をメドに合併する中外製薬とスイス系製薬会社の日本ロシュは、両社併せて国内に6つある研究所のうち二つを閉鎖し、7つの工場も4箇所に統合すると発表した。・2002年5月、中外製薬は、診断薬販売を手がける全額出資子会社、中外診断科学の全株式を富士レビオに売却すると発表した。診断薬開発を手がける米子会社、ジェン・プローブ者との資本関係切り離しに伴う措置。日本ロシュと合併するのに伴い、診断薬事業をやめ医療用医薬品事業に経営資源を集中させる。・2002年6月、中外製薬は10月1日付けの合併を予定しているスイスの製薬会社ロシュによる株式公開買い付け(TOB)の買い付け価格が一株あたり2,800円に決まったと発表した。・2002年8月16日、スイスの製薬大手ロシュは、中外製薬への株式公開買い付け(TOB)を16日に開始した。期限は9月19日まで。TOBは100%子会社のロシュ・ファームホールディング・ビー・ヴィ(オランダ)を通じて実施する。TOB価格は一株当たり2,800円。買い付け総額は840億円。・2002年10月1日、中外製薬は日本ロシュと正式に合併した。

4.結果

これは第10位以内の日本の医薬品会社が外資系企業に買収された初めてのケース。ロシュは、中外製薬の買収によって、世界第2位の日本市場で第5位に浮上した。なお、この合併劇により、特に日本政府が動いた形跡はない。むしろ、薬価引き下げなどを通じて、規模の面でも国際競争力に乏しい日本の医薬品業界の再編を、間接的に促したとさえいえるだろう。

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③業界再編ケーススタディ(3-5)

(ⅲ)巨大企業合同・IGファルベン(1925年・独)の誕生

1.目的

第一次大戦中の1916年、ドイツの主要化学産業(染料、製薬、爆薬など)8社は戦争経済体制の一環として、各社の

独立性を保ちながらも単一の利益共同体(ドイツ・タール染料製造所利益共同体)を結成した。同共同体は、戦後、

在外資産の差し押さえ、国内工場施設の接収などで国際競争力を失ったが、ハイパーインフレ下の経済状況の中、

労働問題の解決、技術開発力の強化、世界市場の奪還、などを実現するには、各社の垣根を取り払い、完全な単一企

業として再出発するべきだとして1925年IGファルベン(Interessengemeinschaft Farben-industrie

Aktiengesellschaft)を設立し、米デュポン、米アライド・ケミカル、英ICIと並ぶ世界4大化学企業として復活し

た。

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③業界再編ケーススタディ(3-6)

2.経緯1850年代に誕生したドイツ化学・染料産業は、20世紀初頭までに先行していた英仏企業を追い越し、世界市場で支配

的な地位を築き、同時に医薬品など関連分野にも進出した。この間、各種製品カルテルの形成と崩壊を繰り返した後、バイエル社のデュースベルクの主導の下、企業間協調を

目指す交渉が行われ、1904年バイエルとBASFを中心とする利益共同体(3社同盟)と、ヘキストを中心とする資本結合(3社連合)の二つの独占体が成立した。これにはアメリカで進行していたトラスト・ムーブメント(合同運動)で誕生したスタンダード・オイルやUSスティールなどの大企業群を、目の当たりに見聞したデュースベルグの1903年の訪米経験が元になっているといわれている。世界最大の化学企業として台頭していた米デュポンに対抗するには、ドイツ化学産業を合同させなければならない、と当時デュースベルグは覚書を残している。1914年第一次大戦が勃発、戦争の長期化に伴い、戦時総動員体制確立のため化学工業においても主要企業を包摂する

単一の利益共同体(ドイツ・タール染料製造所利益共同体)が形成された。化学企業各社は火薬、爆薬、毒ガスなど軍需品生産に特化、政府の資金援助もあって企業規模を拡張し、高い利益率を確保した。1918年ドイツ敗戦により、化学産業は国内的には軍需から民需への転換、占領に伴う工場接収、原料や燃料の不足、

賃金の上昇、8時間労働制などで打撃を受け、国外的には英米仏スイスなどのライバル企業の発展、保護主義的関税政策の発動など、厳しい環境におかれた。戦時につくられ、戦後も維持された利益共同体は加盟各社の独立性を保ちながらも、技術交換の促進、過大投資の抑

制、小工場の閉鎖などの合理化を図り、1923年には染料の世界シェア50%を達成し、企業業績も回復した。1923年のフランス・ベルギー軍によるルール地方占領で、ドイツ国内では史上空前のインフレが発生、ドイツ産業界

全体に「産業合理化」の嵐が吹き荒れた。化学産業も操業短縮、解雇、減資、低配当などで対応したが、各社の独立性を優先する利益共同体方式での合理化では、その限界に突き当たっていた。それは技術革新が急速で、世界市場で勝ち残るには常に機動的な開発投資を迫られる化学産業の宿命でもあった。1925年、バイエルのデュースベルグとBASFのボッシュが中心となって、利益共同体は企業合同を果たし、IGファルベ

ンという巨大化学トラストが創設された。

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③業界再編ケーススタディ(3-7)

3.結果

IGファルベンは資本金11億ライヒスマルクで当時ドイツ最大、従業員数10万人に達した。ドイツ化学工業の投下資

本の50%、売上の30%、輸出の50%、就業者の30%を占めた。

海外子会社は93カ国に、間接的な資本参加や販売会社も含めると447社を数えた。

英国最大の化学会社ICI(Imperial Chemical Industries, Ltd)は、IGファルベン設立への対抗策として1926年、

4社が合同して設立された。

IGファルベンは第二次大戦中、戦争経済を主体的に支えた「戦犯企業」として戦後米英仏ソ占領軍により解体され

た。

1951年、旧IGファルベンはバイエル、BASF、ヘキストの三社に分割されて再出発した。

バイエルは製薬業界世界4位、BASFは化学業界世界トップ、ヘキストは1999年仏製薬大手ローヌ・プーランと合併

しアヴェンティスとなり、さらに2004年仏サノフィ・サンテラボと合併して製薬業界世界5位のサノフィ・アヴェン

ティスとなって、IGファルベンの命脈を今に伝えている。

参考文献

『現代ドイツ化学企業史』工藤章著 ミネルヴァ書房(1999)

『スケール・アンド・スコープ』チャンドラー著 有斐閣(1993)

『ドイツ化学工業史序説』加来祥男著 ミネルヴァ書房(1986)

『イー・ゲー・ファルベンの対日戦略』工藤章著 東大出版(1992)

『ヒトラーの特許戦略』ライマン著 ダイヤモンド社(1983)

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④業界再編と政府の関わり(4-1)

(ⅰ)「サノフィ・サンテラボによるアベンティス買収問題」

1.政府の関与の仕方【コメント発表】・2004年3月16日、ラファラン仏首相のコメント「TOBが国益を損なわないように注視している。スイス企業がアベンティスを買収すると同社が持つ生物テロ対策に不可欠な世界有数のワクチン部門が失われ、安全保障上問題がある」・2004年5月4日、サルコジ仏経済財務産業大臣のコメント「統合の仲介は政府として当然。自由市場を支持するが、自国産業が消滅してはいけない」

【政治家の直接介入】・2004年4月25日、サルコジ仏経済財務産業大臣が直接介入サノフィ・サンテラボによる買収額を当初の470億ユーロから14%引き上げ、約540億ユーロとさせ、拒否の姿勢をとり続けていたアベンティスに 終的に買収提案を受諾させた。

2.政府が関与した理由・背景【安全保障問題】・アベンティスが持つ細菌兵器などバイオテロを防ぐ上で不可欠なワクチン部門が、隣国とはいえスイス企業にわたることへの危機感を政府が強く意識していた。

【セクターチャンピオン主義】・当時、ラファラン首相は、フランスが保護育成すべき戦略重点産業として輸送、航空宇宙、医薬、通信を上げていた。製薬・医療分野に長い伝統を誇る同社として世界2位~3位の製薬企業が海外企業に買収されることは、国策上耐えられなかった。

3.関係者の反応

労組をはじめ国内世論もフランス企業同士の合併を支持した。

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④業界再編と政府の関わり(4-2)

4.当事者の対応(時系列)

・2004年1月26日サノフィ・サンテラボはアベンティスに対しTOBを実施すると発表。実現すれば売上高で世界3位の巨大製薬企業に。・2004年1月27日アベンティスは断固拒否、ノバルティス(スイス、世界6位)と接触へ・2004年3月16日ラファラン仏首相「TOBが国益を損なわないよう注視している。スイス企業がアベンティスを買収すると同社が持つ生物テロ対策に不可欠な世界有数のワクチン部門が失われ、安全保障上の問題がある」・2004年3月17日ノバルティスが仏金融当局にアベンティスとの統合を検討中と通知、実現すれば世界第2位の製薬企業に・2004年3月23日ノバルティスは、仏政府の介入を受けない条件でアベンティスとの経営統合交渉をはじめる、と発表・2004年4月25日アベンティスはサノフィ・サンテラボの買収提案受け入れを決定。フランス政府の仲介で、サノフィ・サンテラボは買収額を当初の470億ユーロから14%引き上げ、約540億ユーロとし、拒否の姿勢をとり続けていたアベンティスも最終的に受諾した・2004年4月25日ノバルティス(スイス)は「フランス政府の強力な介入を受けてアベンティスとの交渉を中止する」と発表・2004年5月4日サルコジ仏経済財務産業大臣「統合の仲介は政府として当然。自由市場を支持するが、自国産業が消滅してはいけない」

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化学業界再編に関する報告書

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①業界再編図(1-1)

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3

①業界再編図(1-2)

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①業界再編図(1-3)

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①業界再編図(1-4)

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①業界再編図(1-5)

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②上位5社の動向(2-1)

②株式時価総額(10億ドル)※年度末終値基準

05年度 04年度 03年度 02年度 01年度

Dow Chemical(米) 42.3 47.5 38.0 27.1 32.0

BASF(独) 28.1 21.2 19.7 19.6 27.3

Royal Dutch/Shell(英蘭) 211.2 158.8 149.0 189.9 ―

Exxon Mobil(米) 344.4 328.1 269.2 234.1 267.5

Total(仏) 153.6 138.1 88.5 109.4 ―

17.5(18)18.2(18)20.1(17)24.9(16)27.7(11)Total(仏)

15.9(7)16.4(8)20.1(8)27.7(9)31.1(12)Exxon Mobil(米)

14.2(8)15.2(8)15.1(7)29.4(11)34.9(11)Royal Dutch/Shell(英蘭)

24.7(85)25.2(83)30.7(81)38.1(82)43.6(82)BASF(独)

28.0(100)27.6(100)32.6(100)40.1(100)46.3(100)Dow Chemical(米)

01年度02年度03年度04年度05年度

①売上(10億ドル)※売上は化学品のみ※カッコ内は総売上に占める、化学品の割合

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②上位5社の動向(2-2)

③ROS(売上高当期純利益率)

05年度 04年度 03年度 02年度 01年度

Dow Chemical(米) 9.7% 6.9% 5.3% -1.4% -1.4%

BASF(独) 13.6% 12.9% 8.0% 8.2% 3.7%

Royal Dutch/Shell(英蘭) 7.0% 5.8% 4.8% 4.5% 6.5%

Exxon Mobil(米) 9.7% 8.4% 8.4% 5.3% 7.0%

Total(仏) 16.7% 13.6% 12.2% 9.8% 12.1%

12.1%11.8%15.9%19.2%22.6%Total(仏)

7.0%7.2%12.0%12.9%17.3%Exxon Mobil(米)

6.5%5.8%6.0%7.3%8.6%Royal Dutch/Shell(英蘭)

3.7%8.4%7.4%12.9%17.7%BASF(独)

-1.4%-1.0%4.1%6.0%9.8%Dow Chemical(米)

01年度02年度03年度04年度05年度

④ROA(総資本利益率)

22.5%18.4%26.0%33.0%35.0%Total(仏)

21.3%15.5%26.2%26.4%33.9%Exxon Mobil(米)

15.4%14.2%16.3%22.0%26.7%Royal Dutch/Shell(英蘭)

36.6%9.3%6.0%12.7%18.6%BASF(独)

-3.8%-4.4%18.8%22.7%29.4%Dow Chemical(米)

01年度02年度03年度04年度05年度

⑤ROE(株主資本利益率)

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自動車業界再編に関する報告書

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①業界再編図(1-1)

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①業界再編図(1-2)

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①業界再編図(1-3)

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②上位5社の動向(2-1)

①売上(10億ドル)※為替は年度末の終値で換算

05年度 04年度 03年度 02年度 01年度

GM(米) 192.6 193.5 185.8 177.8 169.0

トヨタ(日) 177.7 173.2 161.2 151.3 125.7

FORD(米) 178.1 171.6 164.1 162.5 160.5

VW(独) 106.4 115.3 106.1 93.4 77.6

ダイムラー・クライスラー(独) 168.9 184.1 166.1 160.8 134.6

436445426465480ダイムラー・クライスラー(独)

510501502509521VW(独)

700697672679681FORD(米)

605662682723797トヨタ(日)

758832824899920GM(米)

01年度02年度03年度04年度05年度

②生産台数(万台)

46.0 30.5 41.9 45.3 43.2 ダイムラー・クライスラー(独)

20.4 13.1 16.8 18.9 15.8 VW(独)

28.6 13.0 23.2 19.9 14.6 FORD(米)

106.3 84.3 128.6 134.3 196.7 トヨタ(日)

33.8 20.9 25.5 16.6 31.3 GM(米)

01年度02年度03年度04年度05年度

③株式時価総額(10億ドル)※年度末終値基準

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②上位5社の動向(2-2)

④ROS(売上高当期純利益率)

05年度 04年度 03年度 02年度 01年度

GM(米) -5.4% 1.4% 1.5% 1.1% 0.7%

トヨタ(日) 8.9% 9.0% 9.6% 8.2% 7.7%

FORD(米) 1.2% 2.1% 0.5% 0.1% -3.3%

VW(独) 1.8% 1.2% 1.8% 4.6% ―

ダイムラー・クライスラー(独) 3.4% 4.0% 4.1% 4.6% -0.8%

-0.6%3.6%3.1%3.1%2.5%ダイムラー・クライスラー(独)

―4.3%1.4%1.2%2.3%VW(独)

-1.9%0.1%0.2%1.2%0.8%FORD(米)

3.1%3.8%5.5%5.1%5.2%トヨタ(日)

0.1%0.5%0.6%0.5%-2.1%GM(米)

01年度02年度03年度04年度05年度

⑤ROA(総資本利益率)

-1.5%14.5%1.2%7.3%7.8%ダイムラー・クライスラー(独)

―10.5%6.2%20.0%18.9%VW(独)

-70.0%-17.5%4.2%21.7%15.4%FORD(米)

7.8%10.4%15.2%13.6%14.0%トヨタ(日)

3.0%25.4%15.2%10.2%-72.3%GM(米)

01年度02年度03年度04年度05年度

⑥ROE(株主資本利益率)

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③業界再編ケーススタディ(3-1)

(ⅰ)「独ダイムラー・ベンツと米クライスラーの合併によるダイムラー・クライスラーの誕生(1998年5月)」

1.目的グローバル市場を舞台とした国境なき大競争時代への突入に備え、アジアなどの成長市場を含むグローバルな生産、

開発、販売体制の構築とコスト競争力の強化。

2.背景1990年代後半、米国株価は上昇し続ける中、資本がボーダレスに駆け巡る米国主導の経済のグローバル化が一挙

に進んだ。これに、欧州通貨統合が重なり、国境を越えた企業のM&Aブームが巻き起こった。その一方、97年のアジア通貨危機を切っ掛けに、自動車生産は世界的な供給過剰の状態に陥った。その結果、自動車

メーカーは、規模の拡大によるコスト競争力強化の必要性に迫られた。

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③業界再編ケーススタディ(3-2)

3.統合の経緯・1998年1月初旬 独ダイムラー・ベンツ側が、米クライスラー側に両社の統合を打診。以後、両社の経営統合に向けた極秘交渉が開始された。

・1998年5月7日 独ダイムラー・ベンツと米クライスラーが合併、新会社ダイムラー・クライスラーを設立すると発表した。

・1998年5月7日 米ホワイトハウスのマカリー報道官は、15-17日に英国のバーミンガムで行われる主要国首脳会議(サミット)では「(独ダイムラー・ベンツと米クライスラーの合併について)合併に関して協議することはあっても、特定企業の合併に時間を割くとは思わない」と述べた。

・1998年5月8日 欧州委員会のファンミールト委員(競争政策担当)は、独自動車メーカーのダイムラー・ベンツと米クライスラーの合併計画について「何も問題はない」との見解を示した。

・1998年5月14日 独ダイムラー・ベンツの臨時監査役会は、先に合意した米クライスラーとの合併を審議し、満場一致で承認した。

・1998年5月28日 ドイツの全国金属産業労組(IGメタル)は、米クライスラーと独ダイムラー・ベンツの合併後、新会社ダイムラー・クライスラーの監査役会の一議席を、全米自動車労組(UAW)のヨキッチ議長に与えることに合意した。ダイムラー・クライスラーは20人からなる監査役会を持つドイツ企業となり、監査役のうち10人は従業員の代表、三人は組合代表となる。

・1998年7月30日 米クライスラーは声明で、独ダイムラー・ベンツとの420億ドル規模の合併案が、米連邦取引委員会(FTC)の調査をクリアし、両社が合併計画を進めることが認められた、と発表した。

・1998年8月6日 独ダイムラー・ベンツは、米クライスラーとの合併について、クライスラー株1株につき新会社「ダイムラー・クライスラー」の0.6235株と交換する方針を明らかにした。これにより、ダイムラー株主は、新会社株の58%、クライスラー株主は42%を保有する。クライスラーのイートン会長とダイムラーのシュレンプ社長が新会社の共同会長 兼 共同最高経営責任者(CEO)に就任する。また、同社の本拠地として、合併前の両社の本社所在地の2ヶ所を登録する。

・1998年9月18日 独ダイムラー・ベンツは、シュツットガルトで臨時株主総会を開き、99.89%の承認票を得て、米クライスラーとの合併が承認された。また同日、米クライスラーも米国で臨時株主総会を開き、独ダイムラー・ベンツとの合併が承認された。

・1998年11月17日 独ダイムラー・ベンツと米クライスラーとの合併によるダイムラー・クライスラーが正式に発足した。

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③業界再編ケーススタディ(3-3)

4.結果

独ダイムラー・ベンツと米クライスラーを合わせた年間売上高は約1300億ドル、税引き前利益は69億ドル。株価時

価総額は920億ドル。研究開発費は71億ドル。従業員数は42万1000人となり、売上高では、トヨタ自動車を抜き、米GM、

米フォード・モーターに次ぐ世界第三位の自動車メーカーとなった(当時)。

両社の合併によるダイムラー・クライスラーの誕生は、その後の仏ルノーによる日産自動車の事実上の合併や、

独ダイムラー・クライスラーによる三菱自動車への出資、米GMによる韓国の大宇自動車の合併など、世界規模で展開

された自動車産業の大再編の嚆矢となった。

なお、両社の合併にはじまる自動車産業における国境なき大競争時代への突入は、同時に、これまで米国内の失業

問題と絡んで、大きな政治問題でもあった自動車分野の産業政策からの政府の退場を意味した。本合併にも米政府が

関与することは全くなかった。

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③業界再編ケーススタディ(3-4)

(ⅰ)日産自動車・ルノー合併

1.目的1998年、バブル崩壊以後の経営の失敗から2兆円を超える有利子負債を抱え、運転資金に事欠くようになった業界

第2位の日産自動車が、枯渇する資金調達と、経営再構築を目的に、1999年6400億円の資金提供を約束した仏ルノーとの資本提携を行い、事実上ルノー傘下となった。

2.経緯日産自動車は1966年に合併したプリンス自動車の伝統を引き継ぎ「技術の日産」と呼ばれ業界2位の地位を保ってい

たが、技術偏重の社風、稚拙な販売政策、計画性のない海外戦略、強力な労働組合と社内権力闘争などにより、オイルショック以来業界トップのトヨタに大きく業績を引き離されていた。バブル崩壊以降、ホンダに2位を奪われ、財務体質も急激に悪化し、1998年には連結ベースで海外を含めて4兆2千億

円もの有利子負債を抱えたことから経営危機説が市場でささやかれた。日産経営陣は危機打開のため、海外自動車メーカのフォードや、ダイムラー・ベンツなどと資本提携、合併交渉を

行ったが条件面で折り合わず、最終的に1999年3月仏ルノーの提示した6430億円もの資金提供に合意し、ルノー傘下(現在日産株の44%をルノーが握る)となった。

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③業界再編ケーススタディ(3-5)

3.時系列1994.06 中国向け配給会社「日産汽車(中国)有限公司」を香港に設立1994.06 UAEのドバイに統括会社「中東日産会社」を設立1997.05 米国日産自動車製造、デカード市のエンジン・トランスミッション新工場で生産を開始1997.06 ニッサン・ヨーロピアン・テクノロジー・センター(エスパーニャ)社設立1998.04 宇宙航空事業部「富岡事業所」完成、5月稼動開始1999.03 フランスのルノーと提携、ルノー傘下に。6月にルノー副社長のカルロス・ゴーン(現CEO)が最高執行責任

者 (COO) に就任し、リバイバル・プランを発表。1999.06 富士工場及び自動変速機・無段変速機開発部門を分離独立、トランステクノロジー株式会社

(現:ジヤトコ株式会社)を設立。2001.06 ゴーンが社長兼最高経営責任者(CEO)に。2001.12 ルノーとのアライアンスによる共同工場がブラジルに完成。2002 リバイバルプランの目標達成を宣言。セドリック、グロリア、ローレルおよびサニーなどの車種を廃止。2003 ローレル&セフィーロの後継車ティアナ投入。2004.09 日産自動車、今年度の国内販売モデル6車種を披露。2005.04 従来の車種別販売会社制撤廃、全販売会社(レッドステージ&ブルーステージ)ですべての車種の購入が可能

に。セドリック・グロリア後継車としてフーガ誕生。ゴーンが親会社のルノーの会長兼CEOに就任、日産の会長兼CEOも兼務。

2005.04 2004年度も過去最高の業績を達成、新中期計画「日産バリューアップ」を発表2005.09 日産180(リバイバル・プラン)終了。2006 日米市場で販売台数が急落。

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③業界再編ケーススタディ(3-6)

4.結果カルロス・ゴーンCOOは、1999年10月に発表された「日産リバイバルプラン」計画に基づき大掛かりなリストラを開

始した。東京都武蔵村山市の村山工場、京都府宇治市の日産車体京都工場などの閉鎖、余剰資産の売却、余剰人員の削減、

子会社の統廃合や取引先の統合、原材料の仕入の見直しを断行した。さらに車種ラインナップの見直し、デザインの刷新を行い、積極的に新車を投入した結果、販売台数が増加。国内シェアでは第2位の座を奪回し、約2兆円あった国内有利子負債も2003年6月に返済し、日産復活といわれた。しかし2005年度から2006年度にかけて販売不振に陥り、特に国内での販売不振が顕著である。ゴーンは日産自動車の建て直しの功績で、2005年4月からは親会社ルノーCEOも兼務。現在はゴーンCEOの指揮下、

日産自動車出身の志賀俊之がCOO(最高執行責任者)となっている。日産自動車の3カ年経営計画「日産180」(全世界での売上台数100万台増、8%の営業利益率の達成し、自動車関連の

実質有利子負債返済)における販売台数目標達成のために、計画終了(2005年9月30日)前に集中して新型車投入を行ったため、計画終了以降の国内や北米市場での販売台数が低迷し始めている。ルノーとの提携効果は、2社共通の「アライアンス・Cプラットフォーム」を使用するルノー・メガーヌの開発や、

車台やエンジン、トランスミッションなどの部品の共通化、購買の共同化などを通じてのコストダウンなどにあらわれている。メキシコなどでルノー車を日産ブランドで販売、その逆なども行っている。2005年1月、ルノー会長のルイ・シュヴァイツァーが、「2010年までに日産自動車とともに世界市場の10%のシェア

を確保し、年間400万台の生産を達成する」という目標を掲げた。2006年現在、ルノーが日産の株の44パーセントを所有し、日産はルノー株の全体の15パーセントを所有しているが、

議決権保有比率の割合から、事実上ルノーが主導的立場にある。

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13

業績・財務データの推移連結ベース(1999~2005年度)

日産バリューアップ配当政策 グローバル販売台数

③業界再編ケーススタディ(3-7)

売上高 営業利益/売上高営業利益率

当期純利益(損失) 自動車事業実質手許資金

*日産自動車ホームページより

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④業界再編と政府の関わり(4-1)

(ⅰ)「米GMによる韓国・大宇自動車買収問題(2001年9月)」

1.政府の関与の仕方大宇自動車を含む大宇グループが破綻寸前に追い込まれた時点で、同グループの主要な債権者の韓国第一銀行や

ソウル銀行は公的資金の投入によって国有化されていたことから、韓国政府は、企業構造調整委員会や金融監督委員会などを通じて、大宇自動車の売却を含む大宇グループの再建計画の策定・実施に深く関与。紆余曲折の結果、韓国政府は、大宇グループの中核企業である大宇自動車の米GMへの売却をおこなった。

2.政府が関与した背景・理由1999年7月、韓国第二位の大宇グループが、1997年のアジア通貨危機を契機とする韓国経済危機の結果、総額

60兆ウォン(約5兆4000億円)に上る負債を抱え、事実上の破綻状態に陥った。大宇グループの倒産は韓国金融システム全体への影響が極めて大きく、また、失業問題という国内政治問題とも密接に絡んでいた為、韓国政府は、金融監督委員会を通じて、大宇自動車を中核とする大宇グループの再建計画の策定・実施に深く関与せざるを得なかった。

3.関係者の反応【国内の債権銀行団】国内の債権銀行団の多くが、公的資金の投入によって国有化されていたことから、韓国の金融機関などで構成され

た企業構造調整委員会が、韓国政府機関である金融監督委員会の監督下で、海外債権団との債務繰り延べや資産売却に関する交渉に当たった。

【海外債権銀行団】韓国政府内では一時、翌年4月に議会選挙を控え、雇用の確保という国内政治問題を優先すべく、国営銀行を通じて

大宇グループの一時的に国有化による救済というシナリオも検討された。しかし、同グループの債権の15%を占める海外債権銀行団は、資産・事業売却による再建計画を強く主張、これを実施させた。

【労働組合】当初、大宇自動車など韓国の自動車メーカー四社の労働組合は、雇用が脅かされるとの不安から、同社の海外売却

に対して激しい反対運動を展開したが、結局、これを阻止することは出来なかった。

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④業界再編と政府の関わり(4-2)

4.当事者の対応(時系列)・1999年7月 大宇グループが総額60兆ウォン(約5兆4000億円)の負債を抱え、破綻状態に陥った。・1999年7月27日 金融監督委員会は、大宇グループの再建計画が、国内債権銀行団主導で策定されると発表された。・1999年7月30日 金融監督委員会は、大宇グループの再建計画の策定を、その国内債権銀行団に任せるとの決定を取

り消すと発表した。・1999年8月初頭 韓国政府が国内政治的配慮から、国営銀行を通じて、大宇グループを国有化し、これを救済すると

の観測が浮上。・1999年8月3日 国内債権銀行団は、大宇グループが提出した事業再建計画は不十分であるとして、これを却下した。・1999年8月5日 海外債権銀行団は、大宇グループが99億ドルの対外債務の支払いを履行できなければ、同グループ

に対して法的措置を取ると発表した。・1999年8月6日 大宇自動車は、昨年頓挫した米GM社との戦略的関係の構築に関する交渉を再開すると発表した。・1999年8月10日 大宇グループの労働組合は、出来る限り多くの事業存続のチャンスを高めるべく、同グループの解

体を支持すると発表した。・1999年8月16日 金大中・韓国大統領は、テレビで「大宇グループの債権を断固として実行する」と断言した。・1999年8月17日 国内債権銀行団は、大宇グループの中核企業である大宇自動車を除くすべてのグループ企業を年内

に売却すると発表した。・1999年11月1日 大宇グループの創始者でオーナーの金宇中会長が引退すると発表した。・1999年12月14日 米GM社が、大宇自動車買収の意向を正式に発表した。・1999年12月22日 金融監督委員会は、大宇自動車を競争入札により売却する方針を決めた。・2000年6月27日 大宇自動車の第一次競争入札が締め切られ、独ダイムラー・クライスラー-韓国・現代自動車の

企業連合、米GM伊フィアットの企業連合、米フォード・モータースの3グループが入札した。・2000年6月28日 大宇構造調整協議会は、大宇自動車買収の国際入札で米フォード・モーターに優先交渉権を与える

と発表した。・2000年9月15日 大宇構造調整協議会は、大宇自動車の米フォード・モーターへの売却交渉が決裂したと発表した。・2000年10月初旬 米GMは、大宇構造調整推進協議会に対して、大宇自動車を一括で買収するとの意向書を提出した。・2001年5月30日 米GMは、大宇自動車の買収に向け、条件などを盛り込んだ買収提案書を債権銀行団に提出した。・2001年9月21日 米GMは、大宇自動車の債権銀行団幹事行の韓国産業銀行との間で、大宇自動車を買収することで

合意、覚書に調印した。

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紙パ業界再編に関する報告書

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①業界再編図(1-1)

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①業界再編図(1-2)

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①業界再編図(1-3)

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②上位5社の動向(2-1)

①売上(10億ドル)※為替は年度末の終値で換算

05年度 04年度 03年度 02年度 01年度

International Paper(米) 24.0 23.3 22.1 22.3 24.0

Stora-Enso(フィンランド) 17.5 16.5 16.2 17.0 11.8

SCA(スウェーデン) 15.6 12.2 10.7 9.2 7.3

Koch Industries Georgia-Pacific部門(独) 非公開 19.6 19.6 23.2 25.0

P&G 紙パ関連部門(米) 11.8 10.7 9.9 11.8 11.9

116.7 114.6 135.1 133.6 189.5 P&G

非公開非公開非公開非公開非公開Koch Industries Georgia-Pacific部門(独)

8.3 7.3 8.7 8.4 8.8 SCA(スウェーデン)

11.5 8.7 11.4 10.6 12.0 Stora-Enso(フィンランド)

20.7 16.5 19.6 18.0 17.0 International Paper(米)

01年度02年度03年度04年度05年度

②株式時価総額(10億ドル)※年度末終値基準

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②上位5社の動向(2-2)

③ROS(売上高当期純利益率)

05年度 04年度 03年度 02年度 01年度

International Paper(米) 2.4% 3.0% 1.2% 1.5% -5.1%

Stora-Enso(フィンランド) -0.7% 5.7% 3.9% -1.4% 10.9%

SCA(スウェーデン) 2.0% 6.6% 9.0% 10.0% 12.0%

Koch Industries Georgia-Pacific部門(独) 非公開 非公開 非公開 非公開 非公開

P&G 19.2% 19.1% 18.1% 16.5% 12.0%

13.7%16.3%17.9%17.2%17.7%P&G

非公開非公開非公開非公開非公開Koch Industries Georgia-Pacific部門(独)

8.8%8.3%7.2%5.9%1.4%SCA(スウェーデン)

7.1%-0.9%2.6%4.3%0.5%Stora-Enso(フィンランド)

-3.2%1.0%0.8%2.1%2.0%International Paper(米)

01年度02年度03年度04年度05年度

④ROA(総資本利益率)

24.3%31.7%32.0%37.5%41.5%P&G

非公開非公開非公開非公開非公開Koch Industries Georgia-Pacific部門(独)

13.0%12.6%10.1%7.0%0.8%SCA(スウェーデン)

10.4%-2.8%1.7%9.2%-1.6%Stora-Enso(フィンランド)

-10.6%-8.8%3.9%-0.4%13.2%International Paper(米)

01年度02年度03年度04年度05年度

⑤ROE(株主資本利益率)

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③業界再編ケーススタディ(3-1)

(ⅰ)「UPM-Kymmene(フィンランド)とインターナショナル・ペーパー(米国)によるチャンピオン・インターナショナル(米国)の買収合戦の経緯(2000年2~5月)」

1.目的

フィンランドにおける二大紙パルプ企業の一つ、UPM-Kymmeneが米チャンピオン・インターナショナル(以下、CI)

買収を企てた主目的は、規模の拡大によるコスト競争力の強化と、世界最大の紙パルプ市場の北米市場への本格進出

にあった。だがこの企ては、やはり北米市場を中心にその生産・販売体制の強化を進める世界最大の紙・パルプ企業、

米インターナショナル・ペーパー(以下、IP)との買収合戦に敗れ、阻まれた。

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③業界再編ケーススタディ(3-2)

2.背景

90年代後半以降、世界的な紙・パルプ産業の再編が急速に進んだのは、大きく分けて3つの背景がある。

・紙・パルプ産業は、特に成熟市場で、周期的な供給過剰とそれに伴う価格低下という構造的問題に直面している。・北米、欧州、日本といった先進国市場が成熟化する一方、アジア・東欧・ロシアといった新興市場は、低コストの生産拠点としても消費市場としても急成長している。

・北欧、カナダなどの森林資源保護の動きが活発化してる上、新興市場での需要増が重なり、原料調達が年々困難になっている。以上を背景として、次の3つのパターンのM&Aケースが見受けられる。

①先進国市場における国内企業同士の合併による再編②欧米のトップ企業による海外市場での企業買収③原料調達を主目的とした原料生産国での企業買収なお、早くから自国外の市場を意識して、原料調達から生産・販売活動に至るグローバルなサプライチェーンの構

築を志向しているのは、特に欧州企業である。これに対して、米国企業は、自国の市場規模が世界最大ということもあり、比較的に、国内企業とのM&Aを優先する傾向にある。例えば、日本企業の海外売上比率は1割未満。UPM-KymmeneやStora Ensoといった欧州企業は海外売上比率が7~8割と極めて高い一方、IPに代表される米国企業は3割程度に止まっている。本ケースは「フィンランドのUPM-Kymmeneが、米CIの買収によって、世界最大の紙パルプ市場への進出を企てたが、同国市場内での再編を主導する米IPも同社の買収合戦に参戦し、結局、後者が勝利した」という意味で、②と①の組み合ったパターンといえるだろう。

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③業界再編ケーススタディ(3-3)

3.統合の経緯(時系列)・2000年2月17日 UPM-Kymmeneは米チャンピオン・インターナショナル(CI)と、株式交換方式(CI株1株あたりUPM株1.99株)により65億ドルで買収する、と発表した。

・2000年4月25日 米インターナショナル・ペーパー(IP)は、米CIに対して、現金と株式交換の組み合わせ(CI株1株当たり現金43ドルと21ドル相当のIP株1株)により、62億ドルで買収する提案を行った。この時点で、UPM-Kymmeneの買収提案は、株価並びにユーロの下落により65億ドルから53億ドルに目減りしていた。また、CIの主要株主たる機関投資家も、同社経営陣に対して、6月14日の株主総会でUPM-Kymmeneの買収提案に反対する意思を伝えた。

・2000年5月7日 米CIは、UPM-Kymmeneと米IPに対して、最終の買収条件を提示するよう呼び掛けた。・2000年5月8日 米IPは、米CIの買収条件の引き上げが可能かどうか、同社の財務状況を精査すべく、同社と守秘義務協定を締結した、と発表した。

・2000年5月9日 UPM-Kymmeneと米IPは、米CIに対して、最終の買収提案を行った。それぞれの条件は、UPM=KymmeneがCI株1株あたり70ドルだったのに対し、米IPのそれはCI株1株あたり75ドル(但し、現金と株式の組み合わせ)だった。

・2000年5月12日 米CI取締役会は、米IPからの買収提案の受け入れを決定。UPM-Kymmeneは米CIの買収合戦から撤退すると発表した。買収金額は、現金と株式を合わせて73億ドル。

4.結果米CIの買収により、米IPの北米地域でのオフィス用紙市場のシェアは23%から33%へ、世界全体での8.7%から

13%へと上昇した。また、これにより、米IPは、雑誌や財務諸表で使用されるコート紙でも、北米市場で9%から22%、世界全体でも2.5%から9%へとそのシェアを拡大させた。

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③業界再編ケーススタディ(3-4)

(ⅱ)Stora Enso(フィンランド)によるVisionグループ(ブラジル)買収(2006)

1.目的ラテン・アメリカ市場におけるStora Ensoが得意とする上質紙シェアの拡大と、ブラジル森林資源の確保を狙った

買収。

2.背景90年代後半の大規模なM&Aを経て、グローバルトップ企業としての地位を確立した欧州企業は、ここに来てM&Aによ

る規模の追求から既存事業の再編・集約により効率性の改善に努めつつ、BRICsを中心とする成長市場において事業拡大を図るという新たなステージに移行しつつある。ブラジルの大手製紙・製材メーカーであるVinson Indústria de Papel Arapoti Ltda. と Vinson EmpreendimentosAgricolas Ltdaは、紙パルプ業界世界1位のインターナショナル・ペーパー(IP)の100%現地子会社であった。IP社は、近年経営資源を非コート紙と包装用紙・パッケージ部門に集中させており、コート紙生産と製材が主業務

のブラジルの2子会社は、経営戦略外の存在となっていた。一方、Stora Ensoは上質紙(コート紙、出版用紙等)分野を得意品目としており、同社のシェアが低いラテン・

アメリカ市場におけるVisionグループの上質紙生産設備に関心を持っていた。同時にVisionグループが持つ5万ヘクタールに及ぶ森林も、原料の現地調達の観点から魅力的であった。近年環境問題から北欧、カナダなどの森林資源保護が叫ばれる中、ブラジル、ウルグアイなど南米に眠る豊富な森

林資源の獲得を紙パルプ業界各社は狙っている。なお、ケーススタディー(ⅰ)で、以下のような、90年代後半以降の紙・パルプ業界におけるM&Aの3つのパターンを

列記した。①先進国市場における国内企業同士の合併による再編②欧米のトップ企業による新興市場も含めた海外市場での企業買収③原料調達を主目的とした原料生産国での企業買収本ケースはこの②と③が組み合わさったパターンといえるだろう。

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③業界再編ケーススタディ(3-5)

3.統合の経緯・2003.05 Stora Enso、ブラジルAracruz Celulose社とVeracelユーカリ・パルプ生産工場(年産90万トン)建設で合

意。・2005.08 Veracel工場生産チップがStora Ensoフィンランド工場に初入荷。・2005.09 Stora Enso、ブラジルとウルグアイに各10万ヘクタールの植林用地を購入。・2005.09 Stora Enso、Veracel第二工場建設を発表。・2006.08 Stora Enso、インターナショナル・ペーパー社(米)よりVinson Indústria de Papel Arapoti Ltda. とVinson Empreendimentos Agricolas Ltdaの株式100%を購入することで合意。総額415百万ドル。コート紙生産設備(年産20.5万トン)と製材設備(年産15万立方メーター)、さらに5万ヘクタールの土地(うち3万ヘクタールが植林用地)を含む。

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③業界再編ケーススタディ(3-6)

4.統合の結果Stora Ensoは、インターナショナル・ペーパー社(米)よりVinsonIndústria de Papel Arapoti Ltda. と Vinson

Empreendimentos Agricolas Ltdaを買収することによりラテン・アメリカ市場唯一の上質紙メーカーとなり、進出が遅れていた同市場での存在感を増した。さらに2003年より続けている南米での森林資源確保戦略を前進させることができた。

2004年度 地域別売上高Stora Enso 欧州(除くフィンランド) 40%

フィンランド 30%北米 17%アジア 9%その他 4%

IP 米国 72%欧州 12%環太平洋 10%その他 6%

5.その他業界関係者によれば、日本の紙・パルプ市場の成長性には限りがあることから、今後、我が国の紙・パルプ企業が、

欧米企業の買収対象となる可能性は限りなく低い。むしろ、我が国の紙・パルプ企業の課題は、国内市場に過度に依存した現状から脱却し、グローバルなサプライチェーンを構築できるかにある。

※(ⅰ)及び(ⅱ)の参考文献Mizuho Industry Focus『グローバル化への対応を迫られる日本の紙パルプ産業~新たな成長戦略の構築に向けて~』

※紙パルプ業界の再編で国家が関与するケースは見当たらない。よって、「業界再編と国家の関わり」は省略する。

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石油・ガス業界再編に関する報告書

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①業界再編図(1-1)

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①業界再編図(1-2)

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①業界再編図(1-3)

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②上位5社の動向(2-1)

①売上(10億ドル)※為替は年度末の終値で換算

05年度 04年度 03年度 02年度 01年度

Exxon Mobil(米) 358.9 291.2 237.0 204.5 208.7

Royal Dutch/Shell(英蘭) 306.7 266.3 201.9 179.4 122.4

British Petroleum(英) 249.5 285.0 232.5 178.7 175.0

Chevron(米) 193.6 150.8 119.5 98.3 103.9

Conoco-Phillips(米) 179.4 135.0 104.2 56.7 24.8

18.2 36.2 45.1 75.0 87.6 Conoco-Phillips(米)

96.3 69.7 90.5 123.5 129.1 Chevron(米)

200.7 144.3 174.6 221.3 233.2 British Petroleum(英)

206.3 149.0 158.8 210.6 211.2 Royal Dutch/Shell(英蘭)

299.8 241.0 263.9 380.5 371.6 Exxon Mobil(米)

01年度02年度03年度04年度05年度

②株式時価総額(10億ドル)※年度末終値基準

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②上位5社の動向(2-2)

③ROS(売上高当期純利益率)

05年度 04年度 03年度 02年度 01年度

Exxon Mobil(米) 10.0% 8.4% 8.4% 5.3% 7.0%

Royal Dutch/Shell(英蘭) 70.0% 5.8% 4.8% 4.5% 6.5%

British Petroleum(英) 13.1% 12.8% 11.0% 8.2% 9.8%

Chevron(米) 7.2% 8.6% 6.1% 1.1% 3.7%

Conoco-Phillips(米) 7.6% 6.0% 4.4% 1.2% 6.4%

4.5%0.9%5.5%8.7%12.7%Conoco-Phillips(米)

4.9%1.4%9.0%13.9%11.2%Chevron(米)

10.3%7.9%10.8%13.2%15.7%British Petroleum(英)

32.8%22.6%27.4%10.3%12.1%Royal Dutch/Shell(英蘭)

10.4%7.2%12.0%12.9%17.2%Exxon Mobil(米)

01年度02年度03年度04年度05年度

④ROA(総資本利益率)

11.5%-0.9%13.7%19.0%25.6%Conoco-Phillips(米)

9.6%3.5%19.9%29.4%22.4%Chevron(米)

10.1%10.7%18.2%22.4%28.2%British Petroleum(英)

15.4%14.2%16.3%22.0%26.7%Royal Dutch/Shell(英蘭)

20.9%15.5%26.2%26.4%32.4%Exxon Mobil(米)

01年度02年度03年度04年度05年度

⑤ROE(株主資本利益率)

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③業界再編ケーススタディ(3-1)

(ⅰ)エクソン・モービル合併(1999年)

1.目的世界規模での巨額の投資を続けながら、企業体質を強化し、規模を拡大するため、エクソンは買収金額753億ドルで

モービルを買収、合併後の新会社の売上高は2,031億ドル(24兆円・当時)のスーパー・メジャーを誕生させた。

2.背景97年アジア経済危機、ロシア危機、中南米通貨危機の発生、イラクの石油輸出再開、98年OPECの原油増産などによ

り、世界的に原油需要が減退して石油価格が下落(97年1バレル=18ドル、98年1バレル=12ドル)、精製・販売マージンも著しく低下した。98年の6大メジャー上流部門の利益は前年比57%減を記録した。また、90年代に米国および欧州でガソリン販売競争が激化、薄利多売のローコスト・スタンドが欧州に出現し、価

格破壊が進行した。欧州市場ではエンジンオイル販売でBPとモービルが業務提携を行い、米国市場ではシェルとテキサコが精製・販売部門で提携し、それぞれコスト削減と競争力強化に取り組んでいた。こうした厳しい環境の中でも国際競争力を増強しつつ一定の収益を確保し、世界の有望鉱区への巨額の開発投資を

続けていくためには、強靭な財務体質と企業規模の拡大が必要とされた。世界最大のオイル・メジャーであるエクソンにとって、98年8月のBP・アモコの巨大合併発表後、提携相手としては

仇敵ロイヤル・ダッチ・シェルを除けば当時これに次ぐ売上のモービルしか選択肢がなく、モービルの持つLNG事業の取り込みも含め、シナジー効果が発揮できるモービルとの合併に踏み切った。ジョン・D・ロックフェラーが1882年に結成したスタンダード・オイル・トラストが、1911年反トラスト法によって

分割され、エクソンの前身スタンダード・ニュージャージー、モービルの前身スタンダード・ニューヨークなど34社に分割されたが、今回の両社の巨大合併はスタンダード・オイルの再来といわれた。

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③業界再編ケーススタディ(3-2)

4.結果エクソン・モービルは98年の合併以来順調な成長を遂げている。モービルを中心に9,000人の人員削減を行い、業務や投資の効率化を徹底させた。英ファイナンシャル・タイムズ紙が毎年発表する世界の巨大企業の時価総額ランキング「FT500」における同社の順位と金額

は下記の通り。2001年 3位 2,998億ドル2002年 3位 2,410億ドル2003年 3位 2,719億ドル2004年 2位 2,912億ドル2005年 1位 3,589億ドルこのように石油業界はもとより全世界の産業界のトップ企業として君臨している。エクソン・モービルの合併は、2000年の金融界の大型合併であるJPモルガン・チェース誕生の遠因ともなっており、世界経済

に大きな影響を与えた。日本においてはエクソン、モービル両系の販売企業が合併し売上2兆8千5百億円(05年度)の「東燃ゼネラル石油」を中心と

したエクソンモービルグループを形成、新日石・ジャパンエナジー、出光興産に次ぐ第3位グループとなった。

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④業界再編と政府の関わり(4-1)

(ⅰ)「トタルフィナ(仏・ベルギー)による

エルフ・アキテーヌ(仏)買収の経緯(1998年12月~2000年2月)」

1.政府の関与の仕方

【黄金株の権利を利用】

仏政府は、エルフ・アキテーヌ(以下、エルフ)の所謂“黄金株”を保有。これにより、仏政府は、他企業が同社

の10%、20%、33%以上の株式を買収するか、或いは、取締役会での議決権を獲得する場合、これを承認又は拒否す

る権利を有していた。

1999年7月、トタルフィナがエルフ買収計画を発表した直後、Christian Pierret仏産業相がこの買収提案に反対し

ないと表明。その一方で、同産業相は「その他の企業がエルフに買収提案を行った場合は政府の承認を必要とする」

とわざわざ言及。これにより、仏政府は、フランスの二大石油会社のトタル(その直前にベルギーの石油会社

ペトロフィナを買収し、トタルフィナと改称)とエルフの大合併を後押しする方針を示した。

なお、エルフは、トタルフィナの買収提案を拒否。これを敵対的買収と呼び、この買収提案に必死の抵抗を試みた。

エルフは、トタルフィナからの買収話が浮上するまで、伊最大のエネルギー企業ENIとの合併交渉を水面下で行ってい

た。

だが、仏政府は黄金株の権利行使をちらつかせつつ、トタルフィナ以外の企業のエルフ買収をけん制。エルフがENI

などの第三勢力と合併することで、トタルフィナからの敵対的買収の企てを阻止するという作戦(ホワイトナイトに

よる買収防衛策)を事実上、封じ込めた。それゆえ、エルフとしては、トタルフィナへの逆・買収提案や、仏金融当

局への提訴などで必死の抵抗を試みたが、それも時間稼ぎに過ぎず、最終的に、上方修正されたトタルフィナの買収

提案を受け入れざるを得なかった。

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④業界再編と政府の関わり(4-2)

2.政府が関与した理由・背景【エネルギー安全保障】&【セクターチャンピオン主義】98年8月に英BPと米アモコが、同年12月に米エクソンと米モービルが合併発表。英米で巨大な石油企業が相次ぎ誕生

する中、仏政府としても、これらの英米系の巨大石油企業からの買収攻勢に飲み込まれない巨大石油会社を自国に誕生させる必要性を感じていた。また、これは仏政府が今日まで持ち続けている「セクターチャンピオン主義」の一環ともいえるだろう。

3.関係者の反応【欧州委員会】98年7月28日、EU域内によける資本の移動の自由を掲げる欧州委員会は、エルフの買収防衛の為に制定された黄金株

に関する法律を、仏政府が維持し続けている事に対し、法的手続きを開始した。これにより、欧州委員会は、エルフとトタルフィナの買収合戦に、第三勢力が参入して来ることを企図した節があるが、結局、これは実現しなかった。

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④業界再編と政府の関わり(4-3)

4.当事者の対応(時系列)・1999年7月5日 トタルフィナはエルフに対して、株式交換方式(エルフ株3に対してトタル株4)による430億ドル相当の買収提案を行った。

・1999年7月19日 エルフはトタルフィナに対して、株式と現金の組み合わせ(トタルフィナ株5に対してエルフ株3と現金190ユーロ)と、新合併会社の三分割(石油・天然ガス・化学)という内容からなる逆・買収提案を行った。

・1999年7月21日 仏金融当局は、トタルフィナによるエルフ買収提案には法律上問題がないとの判断を下した。・1999年7月23日 エルフは、「トタルフィナによるエルフ買収提案には法律上問題がない」との仏金融当局の判断の是非を問うべく、パリ裁判所に対して提訴を行った。

・1999年7月29日 仏金融当局は、エルフによるトタルフィナ買収提案には法律上問題がないとの判断を下した。・1999年7月30日 エルフはトタルフィナが不適切な会計手法を使っており、その財務状況は今公開されている以上に悪い筈だ、との声明を発表した。

・1999年8月5日 エルフは、トタルフィナがエルフ買収提案に際し使っている会計手法を精査すべく、早急な仏会計監査会議の開催を求める声明を発表した。

・トタルフィナは、エルフによるトタルフィナ買収提案には法律上問題がないとの仏金融当局の判断の是非を問うべく、パリ裁判所に対して提訴を行った。

・1999年8月18日 パリ裁判所は、トタルフィナにおるエルフ買収提案を差し止めない、との判断を下した。・1999年8月19日 トタルフィナは、エルフの株主に対して、エルフ経営首脳が臨時株式総会で提案する予定のトタルフィナ買収資金の調達を目的とした増資計画を否決するよう呼び掛ける声明を発表した。

・1999年8月23日 エルフは9月3日に予定していた臨時株主総会の開催を10月15日まで延期すると発表した。・1999年9月6日 エルフは、トタルフィナとの合併提案を受け入れる際の諸条件を明らかにした。・1999年9月10日 エルフは、トタルフィナに対し、買収条件の改善に関する具体案を文書で送付してくれるよう求めた。

・1999年9月14日 トタルフィナとエルフは、株式交換方式(エルフ株13に対して、トタルフィナ株19)による520億ドル相当の合併計画を発表した。

・1999年10月6日 欧州委員会は、独占禁止法の観点から、トタルフィナによる520億ドルでのエルフ買収計画を調査する、と発表した。

・2000年2月9日 欧州委員会は、トタルフィナによるエルフ買収計画を承認すると発表した。

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④業界再編と政府の関わり(4-4)

(ⅱ)「中国海洋石油(CNOOC)によるユノカル(アメリカ)買収失敗問題」

○中国海洋石油(本社香港 CNOOC)

1988年、中国政府の石油産業振興政策に基づき設立された国営石油、天然ガスの採掘、開発、製造企業。2001年、

香港株式市場に上場。中国沿岸4海域に権益を持つ。売上694億人民元(04年)、石油・天然ガス埋蔵量23億6千万バレ

ル(04年)。

○ユノカル(現シェブロン、05年に買収)

1980年設立のユニオン・オイルが前身。買収前は米石油業界第9位、売上82億ドル(04年)、従業員64,000人。北米、

アジア、カスピ海に権益。石油・天然ガス埋蔵量17億5千万バレル(04年)。

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④業界再編と政府の関わり(4-5)

1.議会、行政の関与の仕方(時系列)・2005年1月7日、中国海洋石油(CNOOC)が米石油大手ユノカルの買収を検討。CNOOCはユノカルのアジア事業に関心(05年1月7日FT報道)。

・米シェブロン・テキサコ(米石油2位)がユノカル買収の可能性(3月4日)。・シェブロン・テキサコがユノカル買収を決定、総額180億ドルで、株式交換と現金払いで6ヶ月以内に。ユノカルのアジア市場での潜在力とカスピ海沖合い油田が魅力(4月4日)。

・ユノカルは新たな買収提案を受けたCNOOCと話し合いを始める承諾をシェブロンから得たと発表(6月23日)。・スノー米財務長官「CNOOCによるユノカル買収提案について、米国の安全保障上の問題を米政府が審査する」と発言、米政府は米包括通商法のエクソン・フリオ条項に基づき、外国企業による米社買収案件を審査し、阻止できる権限を持っている。ボーカス民主党上院財政委員会筆頭理事「中国の挑戦が米国民を神経質にしている」(6月23日)。

・CNOOCの買収条件はシェブロンより1株当たり2ドル高い67ドルに設定。買収資金185億ドルのうち30億ドルは自己資金、残りは借り入れでまかなう。買収につき、CNOOC役員会メンバー8人のうち民間出身の4人の非常勤董事が反対したが、国策優先派董事長らが押し切る(6月23日)。

・ボドマン米エネルギー長官「海外企業による買収が安全保障に抵触しないか検討する必要がある」(6月23日)。・ウルジー元CIA長官「中国はエネルギー覇権を狙っている」、エクソン・モービル・レイモンド会長「米企業の中国事業に支障が出かねないので差し止めは大きな過ちになる」(6月23日)

・マクレラン米大統領報道官「買収提案について注視している」(6月27日)。・シェブロンによるユノカル買収について米証券取引委員会(SEC)が了承(6月29日)。・米下院、CNOOCによるユノカル買収を米政府が認めないようにする来年度予算法案修正事項を賛成333票、反対92票で可決(6月30日)。

・米下院でユノカル買収をめぐる公聴会開催、中国脅威論に基づく反対意見相次ぐ(7月13日)。・CNOOC、米紙に公平な判断を求める広告掲載(7月13日)。・ドーガン米民主党上院議員、CNOOCによるユノカル買収を差し止める法案提出、「石油と天然ガスは国家の戦略資源だ。外国政府が所有すべきでない。共産党の一党支配にある政府にユノカルを委ねるのはおろかといわざるを得ない」(7月15日)。

・シェブロン買収額を170億ドルに引き上げ、ユノカル取締役会が支持(7月19日)。・米上院、包括エネルギー法案を可決、CNOOCによるユノカル買収を困難にするための条項も盛り込まれた(7月29日)。

・CNOOCはユノカル買収を断念したと発表、「米国内の政治的環境は、買収の不確実性を高め、受け入れがたいリスクを生じさせた」(8月2日)。

・ユノカル株主総会はシェブロンによる買収提案を賛成多数で承認(8月10日)。

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④業界再編と政府の関わり(4-6)

2.議会、行政が関与した理由・背景・米議会は、CNOOCを民間企業とは見ておらず、中国政府の国策遂行企業と捉え、今回の買収劇を中国国家によるアメリカエネルギー産業に対する重大な挑戦と受け止めた。さらに、近年の中国製品の大量流入に伴う米国製造業の衰退から、選挙区で失業問題などを抱える民主党系議員が、同様な中国企業の経済攻勢と言う危機感から、積極的に反対に動いた。

・米大統領や行政府は直接的な反対を表明しないかたちで、議会の動きを半ば黙認するような姿勢を示した。自由貿易、自由市場経済を推進する立場のブッシュ政権としては議会の動きにストップをかける可能性もあったが、石油・天然ガスは戦略物資であり、米共和党内の親中国ロビーや、GM、IBM、ゴールドマンサックスなどの親中国派企業からの声にも影響を受けなかった。

3.関係者の反応CNOOCは買収に際し、ゴールドマンサックス、JPモルガン・チェースとアドバイザー契約を結び、米議会に強い人脈

を持つPR会社とも契約し、米国内でPR活動を行った。また、同業者であるエクソン・モービルはじめGM、IBMなど、中国で活動するビッグ・ビジネスのトップは、自由貿易の建前から、民間企業の活動に対する感情的な反対論への疑念をマスメディアで表明した。議会内の自由貿易派の一部議員から賛同の声も上がっている。議会の圧倒的多数の買収反対論には、二つの要素が含まれているものと考えられる。石油という重要戦略物資に関

する買収だったこと、共産主義国である黄色人種の国である中国の石油企業だったこと。これがアメリカの草の根市民の感情を逆なでしたことを議員は敏感に感じたのだろう。

4.当事者CNOOCとユノカルの対応CNOOC役員会では、アメリカ人の対中感情を知る民間出身役員が買収強行に反対したが、政府側役員が「国益」を掲

げて押し切ったと言われている。米中貿易が拡大し、経済関係が強固になっているとの過信からか、GMなど大企業や親中派ロビーの賛同で買収できると考えたCNOOCの対応はアメリカ一般国民の感情に無頓着だったといえよう。ユノカルはCNOOCとシェブロンを競わせ、自社の価値を上げようと考えたが、買収問題が経済価値上のものから政治

問題に拡大したため、CNOOCが買収価格を高めてきたにも拘らず、これに応ずることも世論上で不可能となり、結局シェブロンへの身売りに全面的に賛同せざるを得なくなった。

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④業界再編と政府の関わり(4-7)

(ⅲ)「ガスプロム(ロシア)によるサハリン2プロジェクト(※)参入の経緯」

≪前書き≫

今後の世界の石油・ガス産業の再編トレンドを把握するには、従来の欧米メジャーだけではなく、自国のエネル

ギー需要を満たすべく、積極的なエネルギー獲得外交を展開している中国やインド、そして、自国が保有する抱負な

エネルギー資源を外交上のツールとして積極的に行使し始めたロシアなど新興国家のエネルギー企業の動向も併せて

追っておく必要がある。

本件は、世界最大の天然ガス企業ガスプロムが、ロシア政府の側面援助を受けつつ、米エクソン・モービルと並ぶ

石油メジャーの一つ、ロイヤル・ダッチ・シェル(以下、シェル)に対し、同社が事実上支配するエネルギー開発事

業「サハリン2プロジェクト」の経営権を譲渡するよう要求する、という興味深いケースである。

(※)サハリン北部東岸のビルトン・アストフスコエとルンスコエの2鉱区(推定原油埋蔵量11億バレル、天然ガス18兆立方フィート)の開発

計画。オペレーターはサハリン・エナジー(英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル55%、三井物産25%、三菱商事20%の合弁会社)である。

1.政府の関与の仕方

ロシア天然資源省の関連組織である天然資源監督局が環境保全に問題があるという理由で、サハリン2プロジェク

トの認可を差し止めようとの動きを見せつつ、これを梃子に、同プロジェクトのオペレーターであるサハリン・

エナジー(シェル55%、三井物産25%、三菱商事20%)、取り分け最大株主のシェルに対して、同プロジェクトの経

営権を露天然ガス独占企業体ガスプロムに譲渡するよう迫っている。

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④業界再編と政府の関わり(4-8)

2.政府が関与した理由・背景【国家戦略】プーチン政権下のロシアは、ガスプロムを中心として、エネルギー資源の国家統制を積極的に進めているが、その

最大の狙いは、先進国が言うところのエネルギー安全保障というより、その豊富なエネルギー資源を外交上のツールとして積極的に行使して、自国の国際的影響力の復活を目指すところにある。【ソ連時代に締結した不利な開発条件の見直し】サハリン2プロジェクトは、ソ連崩壊後、ロシアがまだ財政的に困難な状況にあった時代に締結した「生産分与協

定(PSA)」に基づいた契約である。PSAのもとでは、開発者は探鉱・開発・生産に投じたコストを、プロジェクトの初期収益から優先的に回収できる、という開発者に非常に有利な契約である。実際、サハリン・エナジーの最大株主であるシェルは05年7月、同プロジェクトの事業経費を従来の100億ドルから200億ドルに修正すると発表していた。

3.関係者の反応2008年からスタートして、将来的には、自国の天然ガス消費量の約10%に相当する液化天然ガス(LNG)をサハリ

ン2プロジェクトから輸入する計画を立てている日本の電力・ガス会社並びに日本政府は、同プロジェクトの行方に対して相次いで懸念を表明した。これに対し、ロシア政府は、ガスプロム幹部を早々に日本に派遣し、日本政府並びに電力・ガス会社に対しては、

「2008年というLNG輸出開始計画が遅れることはない」と直接説明している。

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④業界再編と政府の関わり(4-9)

当事者の対応(時系列)・2005年7月 ガスプロムは、シェルが保有するサハリン・エナジーの株式25%+1株を取得する代わりに、同社が100%保有する西シベリアの天然ガス鉱区の権益の50%をシェルに譲渡することで基本合意に達していた。

・2005年7月 シェルは、サハリン2プロジェクトの事業経費を従来の100億ドルから200億ドルに修正すると発表した。・2006年9月5日 ロシア天然資源省の関連組織である天然資源監督局が、サハリン2の環境保全に問題があるとして、パイプライン建設を承認した2003年の同省省令の取り消しと業務停止を求める訴えをモスクワ地区裁判所に起こした。

・2006年9月18日 ロシア天然資源省は、上記省令を取り消すと発表した。・2006年9月19日 サハリン・エナジーは、ロシア天然資源省によるサハリン2プロジェクトの工事承認の取り消し決定に対し、見直しを求めて同省と交渉に入る意向を発表した。

・2006年9月26日 トルトネフ天然資源相は、同省が工事の承認を取り消したサハリン2プロジェクトに関して、9月27日から10月25日まで新たな環境調査を実施するとともに、サハリン・エナジーと解決策について交渉する考えを表明した。また、「それまでは工事取り消し決定は発行しない」と述べた。

・2006年10月4日 ロシア大統領府の専門家会議議長のアルカディ・ドボルコビッチ氏は、英ロ商工会議所主催のモスクワ会議で講演し、「サハリン2計画の第二段階の事業費を倍の200億ドルにしたいというシェルの要求は受け入れられない。シェルはPSAを維持し、従来経費の枠内で実施するか、経費倍増ならPSAを破棄して優遇措置のない通常事業にするか、権益の売却するか、いずれかを選択すべきだ」と述べた。

・2006年10月17日 ロシアのフリステンコ産業エネルギー相は、サハリン2の事業費が倍増している件について「ロシアが負担をこうむるべきではない」と述べた。

・2006年10月20日 サハリン・エナジーは、ロシアのトルトネフ天然資源相に書簡を送り、違反行為があったとされる環境対策について包括的な改善計画を来週提出すると述べた。

・同日 ロシアのプーチン大統領は、欧州連合首脳との会談後の記者会見で、サハリン・エナジーが求めているサハリン2の事業経費倍増計画について、ロシアの利益にならないとこれを批判した。

・2006年10月24日 甘利明経済産業相と来日中のオランダのウェイン経済省が会談し、サハリン2問題に関して、日蘭両国が連携を強化することで合意した。

・2006年10月25日 ロシアのトルトネフ天然資源相は、サハリン2について、「プロジェクト全体をとめるのは正しくない」と述べ、事業を継続させる考えを表明した。

・2006年12月8日 ガスプロムのミレル社長が、シェルのファンデルフェール社長と会談し、サハリン2プロジェクトの主導権を譲るよう要求した。

・2006年12月12日 ガスプロムのメドベージェフ会長(ロシア第一副首相)は、サハリン2の権益取得について「五割超を取得することが重要」と述べ経営権の取得を目指していることを正式に認めた。また、シェルとの交渉は「速いテンポで進んでおり合意は近い」との見通しを明らかにした。

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欧州電力・ガス業界再編に関する報告書

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2

①業界再編図(1-1)

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①業界再編図(1-2)

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4

①業界再編図(1-3)

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①業界再編図(1-4)

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②上位5社の動向(2-1)

①売上(10億ドル)※為替は年度末の終値で換算

05年度 04年度 03年度 02年度 01年度

E.ON(独) 62.8 85.7 56.4 39.8 61.2

EDF(仏) 61.9 62.4 56.4 50.6 36.2

Suez(仏) 50.3 26.9 48.2 49.5 29.0

RWE(独) 49.1 60.5 52.6 50.7 29.1

東京電力 42.9 45.2 46.3 43.4 40.1

25.9 26.1 30.8 32.8 33.6 東京電力

20.0 11.9 24.4 53.1 48.5 RWE(独)

37.0 12.5 19.7 52.8 50.0 Suez(仏)

――――103.2 EDF(仏)

35.2 29.3 44.1 58.0 76.0 E.ON(独)

01年度02年度03年度04年度05年度

②株式時価総額(10億ドル)※年度末終値基準

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②上位5社の動向(2-2)

③ROS(売上高当期純利益率)

05年度 04年度 03年度 02年度 01年度

E.ON(独) 7.7% 8.6% 8.5% -1.9% 3.2%

EDF(仏) 15.8% 13.3% 15.2% 10.7% 11.9%

Suez(仏) 9.4% 9.8% 8.0% 8.0% 9.5%

RWE(独) 9.1% 9.3% 4.8% ― ―

東京電力 8.1% 8.0% 6.3% 5.5% 6.5%

2.3%1.9%2.2%2.9%3.1%東京電力

――2.1%4.2%3.5%RWE(独)

4.5%4.4%4.5%6.2%4.8%Suez(仏)

3.5%3.5%4.6%4.0%4.7%EDF(仏)

2.6%-0.6%3.5%3.5%3.4%E.ON(独)

01年度02年度03年度04年度05年度

④ROA(総資本利益率)

9.2%7.3%6.3%9.0%11.1%東京電力

――10.5%21.5%19.7%RWE(独)

14.4%-8.1%-31.3%21.6%15.2%Suez(仏)

8.8%3.4%4.5%18.8%17.4%EDF(仏)

8.3%11.1%16.8%13.7%19.0%E.ON(独)

01年度02年度03年度04年度05年度

⑤ROE(株主資本利益率)

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③欧州統一エネルギー市場の創設を巡る攻防 (3-1)

欧州電力・ガス業界再編を巡るケーススタディーを行う前に、欧州委員会が欧州電力・ガス業界再編を巡るケーススタディーを行う前に、欧州委員会が20072007年年

77月の実現を目指している欧州統一エネルギー市場創設を巡る諸々の動向を確認したい。月の実現を目指している欧州統一エネルギー市場創設を巡る諸々の動向を確認したい。

1.欧州委員会が目指す欧州統一エネルギー市場

・EUは2003年に定めた指令(法律)で、07年7月までに全ての消費者が自由に電力・ガスの供給会社を選べるようにする

電力・ガス市場の完全自由化(=完全競争状態にある欧州統一電力・ガス市場の創設)の方針を決定している。

・ところが完全自由化の期限を目前に控え、電力・ガス市場の完全自由化のプロセスは遅々として進んでいない。依然と

して、各国では少数の巨大なエネルギー企業が市場を支配しており、国境を越えた競争が少ない。また、国境を越えて

電力・ガスを融通可能にする供給インフラの整備も遅れている。

・欧州委員会はバロッソ委員長とクロース競争政策担当委員を中心に、期限までの完全自由化実現に向けた懸命のキャン

ペーンを展開中。勿論、エネルギー企業間の国家横断的な企業再編にも支持の立場である。

・欧州委員会は、欧州エネルギー市場の完全自由化という目標を達成すべく、「欧州統一エネルギー規制機構の創設」と

「エネルギーの生産・供給とインフラを併せ持ち、各国で寡占的な立場にある独Eon、独RWE、仏EdF、仏GdF、伊Enelと

いった統合エネルギー会社の分割」の2つを政策上の切り札と位置づけている。

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③欧州統一エネルギー市場の創設を巡る攻防 (3-2)

2.ロシア・ファクターとナショナル・チャンピオン主義の台頭・現在、欧州はガス需要の約3割をロシアに依存しているが、06年初頭、ロシアがウクライナへのガス供給を一時停止したことで、ロシア産天然ガスの安定供給に対する不安を欧州諸国内に呼び起こした。

・欧州委員会は、EUが一致団結してロシアとの交渉に当たるべく、欧州エネルギー戦略≪露ガスプロムが支配する天然ガスPLへのアクセス権を欧州諸国のエネルギー企業に開放する代わりに、ガスプロムなどのロシア企業にも欧州ガス卸売市場への参入を認めるというもの≫を策定し、ロシア政府との交渉に臨んだが、ロシア側はこれを拒否した。

・その結果、欧州各国は独自に露ガスプロムとの天然ガス供給契約の個別交渉に臨まざるを得ない状況にある。それ故、露ガスプロムのような外部の超巨大企業と対抗するには、EU内に巨大なナショナル・チャンピオン企業の創設が不可欠である、との主張が高まっており、フランス政府やスペイン政府などは、国内に強大なエネルギー企業を保有していないと、露ガスプロムとの交渉に太刀打ちできないとして、国内でのナショナル・チャンピオン企業創設の根拠としている。

・実際、ドイツ政府は2002年、欧州委員会並びに国内の公正取引委員会の反対を押し切って、Eonにガスパイプラインを保有するRuhrgasの買収を容認した。ドイツは同社を軸に、ロシアとの長期のエネルギー関係を構築することに成功している。

・これに対して、欧州委員会は、ナショナル・チャンピオン企業の創設ではなく、国家間の競争を導入しつつ、全欧州規模のエネルギー・メジャーの創設を促すことで、EU全体として露ガスプロムとの交渉に臨むべき、と主張している。

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③欧州統一エネルギー市場の創設を巡る攻防 (3-3)

3.時系列・2006年4月4日、欧州委員会は国内市場で圧倒的なシェアを有する強大なエネルギー企業に対して、国内でのグリップを緩めるよう命じた。

・2006年5月、欧州委員会は、Eon(ドイツ)、RWE(ドイツ)、GdF(仏)他、幾つかの欧州において圧倒的な欧州エネルギー企業に対して、独占禁止法違反の疑いで、相次いで査察を行った。

・2006年9月12日、バロッソ欧州委員会委員長は、エネルギー生産者又は供給者が全ての供給ネットワーク(送電網&ガスパイプライン)を売却し、できれば、欧州統一のエネルギー規制当局の創設に繋がる新たな法律を検討していると発表した。現法律では、エネルギー生産者又は供給者は、子会社(別会計かつ別経営陣が条件)に供給ネットワークを保有することを認めている。

・2006年9月28日、クロース欧州委員(競争政策担当)は市場の自由化と排他的な商慣行を終わらせる為に、巨大な欧州エネルギーグループを解体するのが望ましいと述べた。

・2006年10月23日付英FT紙によると、 マクリービー欧州委員(国内市場担当)はドイツ政府に対して、Eonに対する黄金株を廃止する方法を示すよう依頼した。現在、他企業はドイツ政府の承認なしに、Eonを買収することは出来ない。

・2006年10月30日、クロースは、エネルギーの生産・供給とインフラを併せ持つ独Eon、独RWE、仏EdF、仏GdFといった統合エネルギー会社の分割を求めた。

・2006年12月8日付英FT紙によると、独仏両政府は「独Eon、独RWE、仏EdF、仏GdFといった企業を強制的に解体しようとの政策は受け入れられない」との意向を欧州委員会に伝えた。

・2006年12月13日付英FT紙によると、欧州連合の公正取引当局は独Eon、独RWE、独EnBW、スウェーデンのVattenfallの4社の査察を実施した。

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④業界再編ケーススタディ(4-1)

(ⅰ)イベルドロラによるスコティッシュ・パワー買収提案(2006年11月)

1.目的

2007年7月のEU加盟25カ国の大部分で実施される国内電力市場の完全自由化を前に、スペイン第2位の電力会社

イベルドロラ(Iberdrola)は国内外の同業他社から買収される前に英国第5位のスコティッシュ・パワー(Scottish

Power)を買収して規模を拡大(合併後欧州第3位になる予定)し、今後のEU電力市場での戦いに備える。両社は再生可

能エネルギーに力を入れており、風力発電では大手電力業者となる。

2.背景

2000年、スペイン電力1位のエンデサと同2位のイベルドロラはが友好的合併計画を発表した。これに対しスペイン

政府は両社の合併により市場シェアが80%を超えるため、資産売却などのシェア引き下げ策を勧告し、発電・小売な

ど各分野のシェアを50%以下に抑える方針を打ち出した。両社はこれでは合併効果を出せないと反発、2001年合併計

画は白紙に戻った。

スコティシュ・パワーは1999年米電力大手パシフィコープを買収したが、2005年同社を買値より安く手放している。

また、2005年E.On(独)から買収提案を受けたが不成功に終わっている。このように近年規模拡大に失敗しておりEU電

力完全自由化を前に生き残り戦略を検討中だった。

2006年2月に欧州電力1位のE.Onは、スペイン電力1位のエンデサ買収を提案したが、スペイン政府は19もの買収条件

をE.Onに提示した。欧州委員会は、これを競争阻害行為としてスペイン政府に警告を行い、未だに買収の行方は混沌

としている。

こうした欧州電力業界の戦国時代にあって、イベルドロラはスコティッシュ・パワーとの合併を通じて規模の拡大、

シェア確保を図り、生き残りをかける。

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④業界再編ケーススタディ(4-2)

3.統合の経緯

2006年11月8日 スコティッシュ・パワーはイベルドロラから総額164億ユーロでの買収提案を受けたと発表。

2006年11月28日 イベルドロラはスコティッシュ・パワーをTOBにより買収すると発表、買収額は172億ユーロ。スコ

ティッシュ・パワー1株あたり現金400ペンス(約5.9ユーロ)とイベルドロラの新株0.1646株を割り当

てる(合計777ペンス相当)。スコティッシュ・パワーの既存株主は新会社の21%の株式を保有するこ

ととなる。同日のロンドン市場でスコティッシュ・パワー株は0.8%下落、マドリッド市場では

イベルドロラ株も2.11%下がっており、市場は合併効果に疑問を持っているといわれている。

2006年12月5日 イベルドロラ経営陣はスコットランドを訪問、合併に伴うスコティッシュ・パワー従業員の雇用問題

とイベルドロラにスペイン政府が与えている税制優遇措置に関して、ジャック・マコーネル・

スコットランド担当大臣などと協議した。同大臣は合併への賛意を表したが、スコットランド国民党

は合併に反対しており、ヨーロッパ競争政策委員会に書簡を送っている。

4.統合の結果

現在TOB進行中で合併は未定である。

合併が成功した場合、新会社の時価総額は約640億ユーロとなり、欧州電力1位E.On、2位EDF(仏)に次ぐ第3位の

エネルギー企業が誕生する。発電能力は36,600メガワット、電力供給拠点は2,100箇所となる。

両社は環境負荷の小さい再生可能エネルギーの技術開発に力を入れており、特に風力発電分野では世界有数となる。

なお、イベルドロラの買収条件が現金と株式の組み合わせのため、他社が現金での買収を提案する可能性もあり、

バッテンファール(スウェーデン)、EDFなどが対抗買収提案をするという予測も出ている。

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⑤業界再編と政府の関わり(5-1)

(ⅰ)「仏GdFと仏Suezの合併計画(2006年2月~)」

1.政府の関与の仕方2006年2月22日、伊Enelが仏Suezの買収を検討しているとの報道がなされると、その3日後の25日、仏ドビルパン首

相が、仏Suezと仏GdF(政府が株式の70%を保有)の合併計画を進めると発表した。仏政府が伊Enelによる仏Suez買収を阻止すべく、直接介入して、仏GdFとの合併計画を発表・推進したのである。

2.政府が関与した背景・理由【エネルギー安全保障】ドビルパン首相は「エネルギー供給を保障することは国益に適う」とエネルギー安全保障の論理を前面に掲げた。

同首相は「経済愛国主義(economic patriotism)」という表現を積極的に使った。【ナショナル・チャンピオン主義】上記「エネルギー安全保障」の論理を補強する材料として、欧州エネルギー市場で益々影響力を高める露ガスプロ

ムと供給量並びに価格交渉で対抗するには、国内に巨大なエネルギー企業を創設する必要がある、との論理を展開した。

3.関係者の反応【欧州委員会】

欧州統一エネルギー市場の創設を目指す欧州委員会は、EU内での国家横断的なエネルギー企業の再編を支持する立場であり、それ故、伊Enelによる仏Suezの買収阻止に動いた仏政府に対して懸念を表明した。だが、欧州委員会は、この仏政府の動きを阻止し得る法的権限を持っておらず、一応、型通りの調査を行ったうえ、結局、11月15日、一部企業の売却を条件に、仏Suezと仏GdFの合併を承認した。【ベルギーのエネルギー規制当局】仏Suezと仏GdFは、ベルギーのエネルギー市場にも大きな利権を持っており、独占禁止法の観点から、ベルギーのエ

ネルギー規制東京は、仏GdFに対して、一部の利権の売却を求めた。【労働組合】

国営GdFと民間企業のSuezの合併は、 GdFの民営化に繋がるとして、雇用問題に強い懸念を抱くGdFの欧州労働組合がこれに強く反対し、合併承認の取締役会開催の期日を来年まで延期する、との仏裁判所の決定を勝ち取った。

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⑤業界再編と政府の関わり(5-2)

4.当事者の対応(時系列)・2006年2月22日、エネルはベルギー電力最大手Electrabelを傘下に収める仏Suezに対し、TOBを仕掛ける可能性を否定しないと発言。

・2006年2月25日、仏ドビルパン首相は、スエズと仏GdF(GDF)の合併計画を進めると発表した。同首相は合併推進について「他国に依存しないエネルギー確保は国家戦略であり、そのためには必要な手段を使う」と表明。仏政府は伊エネルによるスエズ買収は国益を損なうと判断、スエズとGDFの合併によって同買収の阻止に動いた。なお、エネルの狙いはベルギー電力最大手Electrabelであり、ベルギー政府はエネルの計画に好意的だった。

・2006年2月27日、スエズと仏GdFは、両者の合併手続きを今年後半までに完了させると発表。GDFがスエズを事実上吸収合併する。統合新会社「スエズ・ガズ・ド・フランス(仮称)」の合計売上高は約640億ユーロとなり、欧州最大級の総合エネルギー会社となる。ただし、合併には政府にGDFの株式の70%以上を保有するよう義務付けた現行法の改正が必要。ブルトン経済財務産業相は27日、二、三ヶ月中に法改正を目指すと表明。合併後も政府が34‐35%の株式を保有し続ける。

・2006年3月1日、仏ドビルパン首相は、スエズとGDFの合併計画について「政府の意思は明確だ。フランスのエネルギー自給を保障し、国益を守り、公共サービスの使命を果たすことだ」と述べた。また、エネルギー政策と民営化に関連して、フランス電力(EDF)については「特に原子力の領域は国の管理下に置かねばならない」との考えを示した。

・2006年3月2日、伊エネルは欧州連合に対して、仏Suezと仏GdFの合併計画に異議を申し立てる書簡を送付したことが明らかになった。エネルは、仏二社の合併計画は外資の買収を妨げる動きだとし資本移動の自由化を定めたEU法令に違反すると主張した。また、イタリア政府もトレモンティ経済相を欧州委員会に派遣し、介入を求めた。欧州委員会の報道官は「合併計画を詳細に検討し、対応を決める」と述べた。

・2006年3月3日、欧州連合(EU)のマクレービー欧州委員(域内市場担当)がフランス政府に対し、明確な説明を要請する書簡を送ったことが明らかになった。フランス政府に17日までの回答を求めた。

・2006年3月6日、欧州委員会のネーリー・クルス委員(競争政策担当)は仏Suezと仏GdFの合併計画に関して「仏国内でチャンピオン企業をつくろうとする政策に断固反対する」と述べた。同委員はエネルギー産業の保護に一定の理解を示しながら「域内市場4億5千万人の消費者にとって競争も必要だ」と指摘し、EU企業の競争力強化が各国国民の利益につながるとの考えを示した。

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⑤業界再編と政府の関わり(5-3)

・2006年3月8日、伊エネルは、仏SuezとGDFの合併計画に関して、欧州連合(EU)の判断を待つと述べた。・2006年3月9日、仏Suezのメストラレ会長兼最高経営責任者(CEO)は決算記者会見で、「仏GdFとの合併こそが社員や株主にとって最高の価値を生み出す」と述べ、伊エネルによる同社買収を拒否する姿勢を鮮明にした。

・2006年3月16日、仏GdFのシレリ会長兼最高経営責任者(CEO)は決算記者会見で、仏Suezとの合併は「最高のプロジェクトだ」と強調した上で、ガス・電力市場の独占につながるとの懸念に対して「他の大手の対抗勢力として逆に競争を活性化できる」と反論した。

・2006年3月23日、フランス議会の上院で、仏企業を敵対的買収から守るための新法が与党の賛成多数により成立した。時価を大幅に下回る株式を引き受ける権利を付与するポイズンピル(毒薬条項)を仏企業に認める条項を盛り込んだもの。新法は買収阻止策として、仏企業を買収する意向がある企業に対して仏金融市場監督当局に事前にその意思を伝えることを義務付けた、いわゆる「ダノン条項」を盛り込んだ。「毒薬条項」の行使には株主総会の開催が必要となるが、重要事項に求められる「三分の二以上の賛成」ではなく「過半数の賛成」で行使できる。

・2006年3月24日、仏シラク大統領は記者会見で「フランスが保護主義的だというのは作り話だ。(仏Suezと仏GdF二社は)半年以上前から交渉していた」と反論した。

・2006年6月20日、欧州連合(EU)の欧州委員会は、仏Suezと仏GdFの合併計画について詳細な調査を開始する方針を固めた。仏とベルギーのエネルギー市場で競争条件を阻害する恐れがあるため。

・2006年9月7日、仏Suezと仏GdFの合併に必要な法案の審議が仏国民議会(下院)で始まった。・2006年9月27日、仏下院は、仏GdFへの政府出資比率を現行の80%殻34%に引き下げることを認める法案を賛成多数で可決した。両社は年内の合併を目指す。

・2006年11月14日、欧州委員会は仏Suezと仏GdFの合併計画を、ベルギーでの関連会社の株式売却などを条件に承認した。

・2006年11月20日、仏裁判所は、仏Suezと仏GdFの合併計画をより詳しく検討したいので合併合意を承認する取締役会の開催を来年(2007年)まで延期してほしい、とのGdFの欧州労働組合の要求を認めた。

・2006年12月25日現在、仏Suezと仏GdFの合併計画はペンディングとなっている。

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⑤業界再編と政府の関わり(5-4)

(ⅱ)「独EonによるEndesa(スペイン)の買収計画(2006年2月~)」

1.政府の関与の仕方

2006年2月21日、独Eonがスペイン電力大手Endesaを約291億ユーロ(すべて現金)で買収する提案を発表すると、ス

ペイン政府は24日、エネルギー会社買収を当局が審査、拒否できる規制を導入。また、スペインのサパテロ首相は直

接、独メルケル首相とEon会長に反対の意向を表明した。更に、7月28、スペインの国家エネルギー委員会(CNE)が独

EonによるEndesa買収承認に当たって、同国内の760メガ(メガ=100万)ワット相当の発電能力を手放すことなど19項

目の留保条件を提示した。

2.政府が関与した背景・理由

【雇用問題】

サパテロ首相は「市場原理は重要だが、政府にとっては国民がより重要だ」と述べた。

【エネルギー安全保障】

サパテロ首相は、独Eon幹部に対して、「Endesaは国家の戦略セクター」と言い切った。また、独Eonによるエンデ

サ買収に19項目の留保条件を提示したスペイン当局も、その理由を「国民の安全保障上のリスク」と述べた。

【ナショナル・チャンピオン主義】

スペイン政府は、05年9月に表明されていたスペイン系のGas Natural によるEndesa買収提案を支持した。

3.関係者の反応

【欧州委員会】

欧州統一エネルギー市場の創設を目指す欧州委員会は、EU内における国家横断的なエネルギー企業の再編を支持し

ており、EonによるEndesa買収計画も積極的に支持する一方、これを阻止しようとしたスペイン政府に対しては、欧州

司法裁判所への提訴の意向を表明した。

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⑤業界再編と政府の関わり(5-5)

4.当事者の対応(時系列)・2006年2月21日、独Eonはスペイン電力大手Endesaを291億ユーロで買収する提案を発表した。・2006年2月24日、スペイン政府は、エネルギー会社買収を当局が審査、拒否できる規制を導入した。・2006年4月25日、欧州委員会は、独Eonによるスペイン電力大手Endesaの買収を承認した。・2006年7月28日、スペインの国家エネルギー委員会(CNE)が独EonによるEndesa買収承認に当たって、同国内の760メガ(メガ=100万)ワット相当の発電能力を手放すことなど19項目の留保条件を提示した。

・2006年8月25日、欧州委員会は、スペイン政府が外資による企業買収を妨げ、資本の移動の自由化などを定めたEU法令に違反したとの仮判定を下し、これをスペイン政府に伝えた。

・2006年9月25日、スペインの建設大手AccionaがEndesaの株式を10%まで買収し、これを25%まで引き上げる意向であることが明らかになった。

・2006年9月26日、欧州委員会は、スペインのエネルギー当局が独Eonに課した買収条件はEU法令に反するとの判断を正式に提示した。

・同日、スペイン政府は、独EonによるEndesa買収を容認するよう方針を転換した。・2006年10月16日、独Eonがスペイン建設大手Accionaを訴えた事が明らかになった。・2006年10月18日、欧州委員会は、独EonによるEndesa買収を妨害しているとして、当局が買収を阻める規制の撤廃などに応じなければ、スペイン政府を欧州司法裁判所に提訴すると表明した。

・2006年11月3日、スペイン政府は、Endesa買収の条件として独Eonに課した19項目の条件を取り下げると発表した。・2006年11月6日、独Eonはスペイン政府が19項目の条件を取り下げるとの決定を下したことを歓迎し、これを受け入れると表明した。

・2006年12月25日現在、独EonとEndesaは最後の条件交渉を行っている最中である。

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