アアイソザイムイソザイム - 先生の検査室...

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アイソザイム アイソザイム 101 同一の生化学反応を触媒する複数の酵素ファミリーをいいます。 各々の濃度および相互の割合は細胞小器官、臓器毎に異なります。 ■アイソザイムの検査の目的 病変部位の診断 アイソザイムの種類によって細胞内或いは臓器の局在が異なることから、アイソザイムの種類を明らかにすること で、病変部位の診断が可能となります。 病気の質的診断 細胞内の局在が異なる成分は、障害の程度により逸脱のしやすさが異なるため、障害の程度や性質を調べることが 出来ます。 酵素アノマリーの診断 1 種類の酵素活性のみが異常高値或いは異常低値を示す例や、病態生理学的に関連ある検査項目との間に乖離が見ら れる場合、酵素結合性免疫グロブリンの存在や酵素のサブユニット欠損が考えられます。 悪性腫瘍の診断 特定のアイソザイムの異所性産生や過剰の産生から悪性腫瘍の診断に役立つこともあります。 ■検査の進め方 病変部位の診断 病気の質的診断 酵素アノマリーの診断 悪性腫瘍の診断 乖離 相関

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Page 1: アアイソザイムイソザイム - 先生の検査室 メディック¥常者例:陽極側よりAlb、MB、MMとピークを作りますが、 正常例ではMMが大部分で活性値が低く、ピークも低い。CK結合性免疫グロブリン例:CK結合性Igの例で、MMと

アイソザイムアイソザイム

101

同一の生化学反応を触媒する複数の酵素ファミリーをいいます。各々の濃度および相互の割合は細胞小器官、臓器毎に異なります。

■アイソザイムの検査の目的  病変部位の診断   アイソザイムの種類によって細胞内或いは臓器の局在が異なることから、アイソザイムの種類を明らかにすることで、病変部位の診断が可能となります。

  病気の質的診断

   細胞内の局在が異なる成分は、障害の程度により逸脱のしやすさが異なるため、障害の程度や性質を調べることが出来ます。

  酵素アノマリーの診断

   1 種類の酵素活性のみが異常高値或いは異常低値を示す例や、病態生理学的に関連ある検査項目との間に乖離が見られる場合、酵素結合性免疫グロブリンの存在や酵素のサブユニット欠損が考えられます。

  悪性腫瘍の診断

   特定のアイソザイムの異所性産生や過剰の産生から悪性腫瘍の診断に役立つこともあります。

■検査の進め方

総活性の測定

アイソザイム測定

病変部位の診断

病気の質的診断

酵素アノマリーの診断

悪性腫瘍の診断乖離

相関

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Page 2: アアイソザイムイソザイム - 先生の検査室 メディック¥常者例:陽極側よりAlb、MB、MMとピークを作りますが、 正常例ではMMが大部分で活性値が低く、ピークも低い。CK結合性免疫グロブリン例:CK結合性Igの例で、MMと

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● LDアイソザイム LDは生体内のあらゆる組織に存在しているため、この上昇は種々の疾患、病態で観察されます。したがって、病態ならびに由来臓器を考えるためには、LDアイソザイム分析が必要となります。

■ヒト組織中の LDアイソザイム心筋 1(57)>2(32) 骨格筋 5(42)>4(25)、3(24)赤血球 1(38)、2(35)>3(25) 皮膚 5(80)>>4(15)脳 2(32)、1(28)>3(19) 肺 5(43)、4(31)>3(19)腎 1(46)、2(33)>3(14) リンパ節 3(36)>2(22)、4(20)肝 5(85)>>>4(9)

1~5:LDアイソザイム 1~5 型    ( )内:LDアイソザイム%

■上昇する LDアイソザイムとその原因となる疾患、推定される由来細胞、LD/AST 比LDアイソザイム 推定される由来細胞 原因となる疾患 LD/AST比1、2型優位 心筋 心筋梗塞 10 前後

赤血球 溶血性貧血、巨赤芽球性貧血 50 ~ 100腫瘍細胞 卵巣 ・精巣 ・縦隔の胚細胞性腫瘍 100 以上

2、3型優位 骨格筋 筋ジストロフィー、多発性筋炎など慢性遊出 20 以下リンパ球 膠原病、ウイルス感染症 20 ~ 40腫瘍細胞 白血病、リンパ腫、肺癌、神経芽腫など 40 ~ 100 以上

5型優位 骨格筋 急性の筋崩壊 20 以下肝細胞 肝炎 5 以下腫瘍細胞 肺癌、前立腺癌、子宮癌、胃癌、乳癌、結腸癌など 5 ~ 40

■ LDアイソザイムパターンと評価の例

⊕ ⊖

⊕ ⊖

⊕ ⊖

⊕ ⊖

総活性300単位、LD/ AST=13.6各分画の間隔も等しく正常の分画像です。

LDH1LDH2LDH3LDH4LDH5LDASTALTCKALP

31.836.222.65.04.430022186782

1、2型優位(1>2)総活性930単位、LD/ AST=10.6心筋からの酵素遊出がもっとも考えられ、心筋梗塞の例です。

LDH1LDH2LDH3LDH4LDH5LDASTALTCK

47.833.413.52.72.69308810175

LDH1LDH2LDH3LDH4LDH5LDASTALTCK

3.54.13.118.171.2

1650095503900154

LDH1LDH2LDH3LDH4LDH5LDASTALTCK

19.035.730.410.24.7905452332

著しい5型上昇。LD、AST、ALTの上昇を伴っています。LD/ AST=1.7、急性の劇症肝炎の例です。このような例では5型の後ろにもExtra band としてADH活性が染色されます。

2、3型優位LD総活性905単位、LD/ AST比は20.1ですが白血病などでもみられるパターンです。血液学的な検査を必要とします。

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Page 3: アアイソザイムイソザイム - 先生の検査室 メディック¥常者例:陽極側よりAlb、MB、MMとピークを作りますが、 正常例ではMMが大部分で活性値が低く、ピークも低い。CK結合性免疫グロブリン例:CK結合性Igの例で、MMと

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●ALPアイソザイム ALPアイソザイムは大別すると胎盤、小腸、肝その他の 3種に分けられます。これらを電気泳動すると 6~ 7種の分画に分離することができ、このパターンの変化から障害臓器の推定、病態解析が可能となります。

■アルカリフォスファターゼのアイソザイムと病態アイソザイム 由   来 出現する病態

ALP 1 肝・胆管細胞膜と結合した高分子ALP 閉塞性黄疸、転移性肝癌、細胆管の炎症、脂肪肝

ALP 2 胚由来、低分子(正常成人の主体) 各種の肝・胆道系疾患

ALP 3 骨由来(小児の主体) 骨髄像、悪性腫瘍の骨転移、甲状腺疾患、慢性腎不全

ALP 4 胎盤由来 妊娠、腫瘍、(肺癌、卵巣癌で多い)

ALP 5 小腸由来 脂肪食後(血液型O、B型)肝硬変、慢性腎不全、糖尿病

ALP 6 ALP結合性免疫グロブリン 潰瘍性大腸炎

■ALPアイソザイムパターンと評価の例

⊕ ⊖ ⊕ ⊖

⊕ ⊖ ⊕ ⊖

ALPγ-GTLAPT-Bill

250121160.6

正常成人の分画例であり、主要な分画はALP2=肝由来であり、ごくわずかのALP3を含みます。

2

3

20 30

ALPγ-GTLAPT-Bill

192211580.4

ALP、AP(LAP)、γGTは正常域であっても、ALP分画ではALP1を含みます。健常の分画ではなく、細胆管炎とか肝内SOLが考えられます。

2

1

5

3

74 28

ALPγ-GTLAPT-Bill

150030237 0.4

ALPの上昇は、主因はALP3です。ALP1がわずかに認められること、ALP2が総活性との割合で上昇していることから、肝内SOLも考えられる例です。

2

1

3

24 75

ALPγ-GTLAPT-Bill

3104

2570.3

ALP4のピークはシャープです。この例でのALPの上昇は胎盤由来のCAPの上昇です。

1

2

5

3+4

24 72 3

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Page 4: アアイソザイムイソザイム - 先生の検査室 メディック¥常者例:陽極側よりAlb、MB、MMとピークを作りますが、 正常例ではMMが大部分で活性値が低く、ピークも低い。CK結合性免疫グロブリン例:CK結合性Igの例で、MMと

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●AMY ヒトアミラーゼは、膵臓アミラーゼと唾液腺アミラーゼからなっています。膵臓アミラーゼの上昇は、何らかの膵疾患に結びついていますが、唾液腺アミラーゼの上昇から特定の疾患を推定することは困難です。したがってアミラーゼアイソザイムは膵由来のアミラーゼかそれ以外かの判定に用いられます。

■アミラーゼアイソザイムと疾患P型 AMYの上昇 急性膵炎      総活性高値

          主バンドはP1 他に P2、P3 が検出

慢性膵炎      総活性中程度~軽度上昇

膵癌、膵嚢炎、胆道系炎症性疾患

⎫|⎬|⎭

P ≫ S

P > S

S型 AMYの上昇 流行性耳下腺炎、総活性高値術後性高アミラーゼ血症外傷後、ショック後、熱傷後腫瘍産生AMY上昇(肺癌、卵巣癌など)

⎫||⎬||⎭

P ≪ S

P型、S型の上昇 慢性腎不全肝硬変、慢性肝炎の一部

P > SP < S

*慢性膵炎(進行時)、末期癌は低アミラーゼでP<Sとなります。

■AMYアイソザイムパターンと評価の例

〈正常パターン〉図 1で示したようにP1、S1 が主要バンドです。S約 60%、P約 40%といずれへの偏位もありません。

総活性の上昇が著しく、又P型上昇の例です。大部分が、P1、P2 であり、P2 が出現していることで急性膵炎を考える例です。

総活性上昇の著しいS型上昇の例です。P1 をごくわずかに認めるのみです。術後高アミラーゼ血症などで多いパターンです。

総活性上昇軽度、試料採取後に時間が経過し、S1 → S4、P1 → P2 まで多くのサブバンドが観察された例です。S型の上昇の著しい例です。

⊕ ⊖

121

212 9

350 8

434 1

S2

P1

S1 ⊕ ⊖

113

235 3

359 3

P1

P2

⊕ ⊖

158

229 2

359 1

452

S1

S3

S2

P1

⊕ ⊖

112 0

215 4

319 9

435 3

54 3

613 1

S1

S2S3

S4

P2

P1

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●CK 血清中のCKは心筋及び骨格筋において臨床上頻繁に測定されます。CKの生体内分布は他の逸脱酵素に比較して臓器特異性が高くアイソザイム分析を行った場合、さらにその特異性は高められ有用な情報を得ることができます。

■主な組織におけるCK活性及びアイソザイム分画組  織 活性(U/g) MM(%) MB(%) BB(%)

骨格筋(腓腹筋) 3,281 100 0 0骨格筋(外肋間筋) 1,894 99 < 1 < 1心筋(右房) 356 76 22 2脳 157 0 0 100腎 15 12 0 88肝 3.8 90 6 4

■CKアイソザイムが異常を示す主な疾患CK-MBの出現・増加 CK-BB異常分画出現

急性心筋梗塞 悪性過高熱筋ジストロフィー症 Reye 症候群筋炎 新生児新生児 悪性腫瘍Reye 症候群 免疫グロブリン結合

■CKアイソザイムパターンと評価の例

健常者例:陽極側よりAlb、MB、MMとピークを作りますが、正常例ではMMが大部分で活性値が低く、ピークも低い。

CK結合性免疫グロブリン例:CK結合性 Ig の例で、MMとMBの間の異常ピークです。持続的な高CK血症のアイソザイム依頼で見出されます。

心筋梗塞例:CK-MBが 14%と増加しています。LDのアイソザイム分画では、LDH1、2 分画が増加しています。このような例ではCK-MBの免疫学的な定量が経過の観察には重要です。また心筋中のMB含量は全CK量の 20%に過ぎず、MBが 30%を越えて血清中で増加するような例はありません。

筋ジストロフィー症:CKの著しい上昇と、わずかにMBを認める例です。このCK-MBはジストロフィー症の筋に由来するもので、心筋のものではありません。LDのアイソザイムパターンを付しましたが、2、3型の上昇であり、ジストロフィーに特徴的です。

⊕ ⊖

ALB0

MB0

CKLD

MM100

%

90290

⊕ ⊖

ALB1

MB3

MM 96

%

⊕ ⊖

⊕ ⊖

ALB1

MB14

CKLD

MM86

%

1780770

LD51.5 35.2 11.5 1.1

LDV0.7

%

⊕ ⊖

⊕ ⊖

ALB 0

MB2

CK LD

MM98

%

10520  2660

LD23.0

LDV5.9

%

7.4

25.1

38.6

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