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被災地の営農再開・農業再生に向けた研究をどう進めるか? ―福島農業復興を日本農業振興へ― 大学院技術経営研究科長・農学部 野中昌法(新潟大学自然科学系) 1.復興調査・研究を始めたきっかけと私たちの姿勢 ー知の統合として復興・調査研究プログラムー 20114月、福島第一原発から40 km離れた福島県二本松市NPO法人ゆうきの里東和ふるさと づくり協議会(約270名)は「今年は農業が無理ではないか?栽培しても農産物は食べられないので はないか?売れないのではないか?子供たち、孫たちは生活できるのか?」多くの不安の中、4月下 旬、すべての農家の水田では代かきが始まり、田植えが行われ、畑では夏野菜の種まきが始まった。 私たち日本有機農業学会有志が2011 5 月上旬福島市、相馬市、南相馬市、飯館村、二本松市 東和地区を訪問した時、このNPO法人では消費者・企業の応援で線量計が送られ、 4 月末までに 80ヵ所の農地の空間線量(1メートル高さ)を農家自ら測定して、マップ化していた。 その後、2011 5 月から、農家との共同作業で野中が中心となって、二本松市東和地区で東京 農工大学農学部木村園子ドロテア准教授、横山正教授、茨城大学農学部小松崎将一准教授、中 島紀一名誉教授・前農学部部長、横浜国立大学大学院環境情報研究院金子信博教授、福島大 学うつくしまふくしま未来センター小山良太准教授、小松知未特任助教、新潟大学農学部原田直 樹准教授、吉川夏樹准教授、村上拓彦准教授、藤村忍准教授、新潟大学RI総合センター長内藤 眞医学部教授、後藤淳准教授、日本原子力機構大貫敏彦博士らが参加して復興プログラムと調 査研究が始まった(資料1.メンバーと役割分担)。他に、ゆうきの里東和は東京農工大学農学部調 査研究チーム(代表横山正教授)にも全面的な協力を行っている。2012 8 月から、南相馬市でも 予備調査が始まり、現在、2014 4 月からの作付に向けて本格的な調査を行っている。私たちが確 認している基本的姿勢は以下のとおりである。また、大学は教育機関として農学分野の放射能問題 を解決できる人材育成も任務である。 2013 4 月まで、延べ200 日以上、学生も含めて延べ約 400 名が東和・南相馬市で調査に入っている。 ①.主体はあくまでも、農家である。農家が取り組む取り組みへのサポーとであること。農家が自主的 に取り組むことで成果が上がる。 ②.まず、「測定」することを復興・振興の起点とする。農業復興、そして振興が最終目的であること。 ③.地元の安心感をつくること。地元で愛される農業・農産物生産を優先すること。 ④.生産者・消費者・流通・学者が一体となって理解を深める機会を設け、様々なバリアフリーを作 ること。 ⑤.最後に、研究者・農家報告会では議論でなく、「実践ノウハウ」の共有を行うこと。 2.現場重視の復興プログラム調査・研究(2011年5月~2013年3月) このプログラムではまず、里山森林の樹種や標高、地形の違い、水田・畑11枚の詳細な汚染マ ップの作製を目指した(資料2.水田 11枚の汚染マップ一例)。その後、里山森林、森林資源、里 山から流れる水、水が流れる用水・河川、そして、その水を利用する水田や畑、そこで作られる稲や 大豆、各種野菜、そして収穫物が料理され食卓に並ぶまで、まず地元で農家の人たちが安全で安

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被災地の営農再開・農業再生に向けた研究をどう進めるか?

―福島農業復興を日本農業振興へ―

大学院技術経営研究科長・農学部

野中昌法(新潟大学自然科学系)

1.復興調査・研究を始めたきっかけと私たちの姿勢

ー知の統合として復興・調査研究プログラムー

2011年4月、福島第一原発から40 km離れた福島県二本松市NPO法人ゆうきの里東和ふるさと

づくり協議会(約270名)は「今年は農業が無理ではないか?栽培しても農産物は食べられないので

はないか?売れないのではないか?子供たち、孫たちは生活できるのか?」多くの不安の中、4月下

旬、すべての農家の水田では代かきが始まり、田植えが行われ、畑では夏野菜の種まきが始まった。

私たち日本有機農業学会有志が2011年5月上旬福島市、相馬市、南相馬市、飯館村、二本松市

東和地区を訪問した時、このNPO法人では消費者・企業の応援で線量計が送られ、4月末までに

約80ヵ所の農地の空間線量(1メートル高さ)を農家自ら測定して、マップ化していた。

その後、2011年5月から、農家との共同作業で野中が中心となって、二本松市東和地区で東京

農工大学農学部木村園子ドロテア准教授、横山正教授、茨城大学農学部小松崎将一准教授、中

島紀一名誉教授・前農学部部長、横浜国立大学大学院環境情報研究院金子信博教授、福島大

学うつくしまふくしま未来センター小山良太准教授、小松知未特任助教、新潟大学農学部原田直

樹准教授、吉川夏樹准教授、村上拓彦准教授、藤村忍准教授、新潟大学RI総合センター長内藤

眞医学部教授、後藤淳准教授、日本原子力機構大貫敏彦博士らが参加して復興プログラムと調

査研究が始まった(資料1.メンバーと役割分担)。他に、ゆうきの里東和は東京農工大学農学部調

査研究チーム(代表横山正教授)にも全面的な協力を行っている。2012年8月から、南相馬市でも

予備調査が始まり、現在、2014年4月からの作付に向けて本格的な調査を行っている。私たちが確

認している基本的姿勢は以下のとおりである。また、大学は教育機関として農学分野の放射能問題

を解決できる人材育成も任務である。2013年4月まで、延べ200日以上、学生も含めて延べ約400

名が東和・南相馬市で調査に入っている。

①.主体はあくまでも、農家である。農家が取り組む取り組みへのサポーとであること。農家が自主的

に取り組むことで成果が上がる。

②.まず、「測定」することを復興・振興の起点とする。農業復興、そして振興が最終目的であること。

③.地元の安心感をつくること。地元で愛される農業・農産物生産を優先すること。

④.生産者・消費者・流通・学者が一体となって理解を深める機会を設け、様々なバリアフリーを作

ること。

⑤.最後に、研究者・農家報告会では議論でなく、「実践ノウハウ」の共有を行うこと。

2.現場重視の復興プログラム調査・研究(2011年5月~2013年3月)

このプログラムではまず、里山森林の樹種や標高、地形の違い、水田・畑1枚1枚の詳細な汚染マ

ップの作製を目指した(資料2.水田1枚1枚の汚染マップ一例)。その後、里山森林、森林資源、里

山から流れる水、水が流れる用水・河川、そして、その水を利用する水田や畑、そこで作られる稲や

大豆、各種野菜、そして収穫物が料理され食卓に並ぶまで、まず地元で農家の人たちが安全で安

心なシステムを構築して、地域コミュニュケーションの復興を目指したが、それだけでなく地域農業振

興まで視野に入れた計画を作製した(資料3.復興プログラム調査・研究概要)。

私たちの調査結果は2011年12月、2012年2月、2012年7月、2012年12月、2013年1月、2013

年2月に農家向け説明会を開催した。その中で2013年2月9日、福島県や二本松市農家約300名

に対して大規模な中間発表会を開催した。

その様子はUstream http://www.ustream.tv/recorded/29137292 で見ることができる。

調査地域である阿武隈山地は花崗岩を母材として土壌が生成され、東和地区は特に花崗岩で

もペグマタイトと呼ばれるカリ長石を多く含む岩石が風化したマサ土からできている。このマサ土は保

水力と保肥力があるために里山森林資源を循環させた有機農業の適地でもあり、この地域は農書

が多数あり民間農家技術が発達し、農家が前向きに取り組む姿勢が昔から養われてきた。

2013年4月までの調査結果概要を説明する。

① 細な汚染マップから言えること

東和地区:水田は1200ヶ所の土壌表面 1 cmと 1 mの空間線量測定が行われた(資料2.水田

1枚1枚の汚染マップ一例)。これを見て判ることは同じ地域でも数十メートル離れると空間線量が異

なること、山に囲まれた、標高の高い棚田で高くなること、休耕田で高くなること、等である。また、畦

道の1 m間隔の測定でも山側で高くなること、棚田最下流の水田水口土樹とこの水田横の用水桝

沈殿汚泥で顕著に高くなること、この農家の聞き取りではこの下流の水田では大雨時、用水からあ

ふれた水の新規負荷が多かったこと、等が判った(資料4.畦道の空間線量測定(2012年8月)と棚

田上流と下流水田汚染(2011年8月))。

現在、里山森林の樹種別、標高別、地形の違いによる詳細な空間線量マップを作成中である。

南相馬市太田川流域:大田川流域道路空間線量を示した(資料5.資料6.南相馬市太田川流

域空間線量)。横川ダムに蓄えられている水は農業用水として利用されてきた。その利用方法は多

様である。横川ダム上流域森林汚染は深刻で、下流に行くに従い、大きく低下する。

②里山森林の汚染と除染対策

2011年9月、事故から6ケ月経過した森林調査を開始した。標高400 m付近の同じ等高線上で

隣接して生育するコナラ、赤松、スギの落葉層とA層土壌を調べた。その中でコナラ林では97%が

落葉層に蓄積していて下層へ移行していなかった(資料7.森林の汚染状況)。赤松林、杉林では

コナラ林と比べると、落葉層の蓄積量が半分以下と低くなるが、やはり落葉層に95%以上蓄積して

いた。

これらの結果を受けて、2011年12月から2012年10月まで、このコナラ林でリッターバック試験を

行なった。その結果、新しく落ちた落葉に下層から菌根菌やカビにより放射性セシウムが吸い上げら

れることが分かり、ウッドチップを一定期間敷いて、その後取り除いてバイオマスとし利用する除染法

が提案され、2013年5月から、試験が行われている(資料8.森林除染対策、ウッドチップを用いた

森林除染 )。

③里山棚田の汚染状況と用水による新規負荷と低減対策

2011年調査では東和(6地域)と新潟県魚沼(4地域)・阿賀(4地域)の水田土壌と稲の稲藁・籾

殻・玄米の多くの水田が水口で高くなる傾向を示した。2012年調査では東和地区で16地域に調査

地点を増やし、国や県とは異なる方法(水口・中央・水尻)で試験を行った。2011年9月23日、二本

松市小浜で当時の暫定基準値1 kg当たり500ベクレルを超えた玄米がみつかった時、二本松市に

滞在中であったので直ちに知り合い農家を通じて現地見学と農家聞き取りを行った。この聞き取りで

森林と水の影響が大きいと確信した。

2011年と2012年調査を総合すると、a.土壌中の放射性セシウム含量は稲わら、もみ殻、玄米、

精米の放射性セシウム含量と相関がない、b.2012年、玄米中の放射性セシウム含量は確実に減少

している、c.水田土壌中の減衰速度は理論値より早い、d.水田内の分布は水田により異なるが、水

口で高くなる傾向は2012年顕著となった、e.2012年稲わらへの移行係数は水口で高くなる傾向を

示した(資料9.10. 2011年と2012年水田の挙動)。

長年、ボカシとげんき堆肥(牛フン堆肥)を施用してきた有機水田(交換性カリウムが20 mg以上)

ではゼオライト、もみ殻、クン炭、カリ肥料による、低減効果は全くないことが判った(資料11 有機水

田の資材の影響)。

2012年、4地域で流域特性の違いによる稲作栽培期間中の新規負荷として農業用水が稲作に

与える影響を調査した(資料12.資料13.農業用水に注目した放射性Csの挙動の調査、資料14.

農業用水を介した新規流入可給態画分Cs量の評価)。本調査では異なる流域特性から流れる水

に含まれる可給態画分として溶存態とイオン交換態・有機物結合態、粒子結合態に分画して、1リッ

トル当たり0.001ベクレルまで測定した。また、1年を通した水量、灌漑用水取水高、水田の減水深も

測定した。更に、これら用水中に含まれる放射性セシウムが稲栽培に与える影響を調べた。

農業用水中に含まれる放射性セシウムは増水時には平常時の2倍から115倍に増加し、その10

〜30%は可給態放射性セシウムであった。森林から直接流れる用水は有機物結合画分が、棚田最

下流の用水は溶存態・イオン交換態が多くなった。

稲の栽培期間中を通した玄米1 kg当たりの新規負荷量は34〜212ベクレルとなった。この地域の

水田は栽培期間中を通して減水深が小さい。栽培期間中の水の流入は900 mmの水田では玄米

1kg当たりの新規負荷量は212ベクレルとなり、平野部の水の流入が多い水田では常時モニタリン

が必要である。

私たちは従来通りの稲作管理法で十分であること、カリウム過剰による食味などを注意しながら、

増水時に水で運ばれる新規負荷を注意すること、を農家に提案している。

④畑・大豆の汚染と低減対策

東和地区約300ヶ所の畑の調査では土壌中の放射性セシウムは土壌1 kg当たり、最低150ベク

レル〜最高7600ベクレルまで大きく変動した、つまり、同じ地域でも場所と管理方法で大幅に異な

ること、畑でも土壌中の放射性セシウムと作物のその濃度は相関がないことが判った。その中で豆か

ら最も高い値を検出した土壌は2200ベクレルであった。この地域では無肥料で豆が作られている圃

場が多く、土壌肥沃性は低い、2012年から最も高い値を出した圃場を使用して、豆の種類(麹いら

ず、黒豆、青豆、小豆、香り豆)、カリ肥料、交換性カリウム、土壌水分などの違いと共生微生物によ

る影響を調べたが、カリ肥料の効果は劇的でなかったので、現在継続試験を行なっている。

また、この300ヶ所の土壌肥沃性と作物の放射性セシウムの関係も整理している。

⑤ゆうき元気の効果、桑の汚染、稲架がけ乾燥、タケノコ

長年、東和地域で作られ、使用されてきた有機堆肥(ゆうき元気)を10アールあたり0.5トン施用し

て、葉ダイコンとカブの放射性セシウムが30〜40%低減した。

ゆうきの里東和では特産の桑の葉を用いた健康食品として桑茶を販売してきた。樹皮に吸着した

放射性セシウムは5月以降、新芽に移行することが明らかになった。5月カリ肥料を葉面施用したが、

低減効果は僅かであった。2013年桑の木の更新を行う予定である。

水稲の機械乾燥と稲架がけ乾燥では玄米中の放射性セシウム濃度は同じであることも明らかに

なった。タケノコでは新規成長する部位で高くなることが明らかになった。

⑥風評被害は情報隠ぺいから始まる

ゆうきの里東和では私たちと東京農工大学農学部チームの調査研究に対して、NPO法人あげて

の共同作業と日常的な情報交換により、調査結果は全て公表してきた(資料15.ゆうきの里東和

里山再生計画・災害復興プログラムと協同した、農家向け説明会)。また、私たちの調査結果は常

に農家に報告して、共に対策を協議することで今までの農家の経験に対する裏付けと技術力も高め

ることもできる。今回の放射能汚染問題は農家と共にノウハウを議論できない、農家を阻害した調査

研究では意味がない。

ゆうきの里東和では2011年3月から、生産物の測定と研究者との共同復興研究の情報発信を行

なってきた。2012年度の調査では野菜847検体調査して食品基準値100 Bq/kg乾重を超えた野菜

は1点、97.5%は25 Bq/kg乾重以下である。果物58検体中100 Bq/kg乾重を超えたのは1点であ

るが、25 Bq/kg乾重以下の果物は46.6%である。また、豆類24検体では100 Bq/kg乾重を超えた

ものはなく、25 Bq/kg乾重以下の豆類は83.3%となっている。全体では検出限界値10 Bq/kg乾重

で測定して、不検出(N.D.)は野菜で86.7%、果物・豆類・山菜・加工食品などを合計すると68.9%

となっている。これらの結果は農家と消費者に全て公開している。

また、研究者はコメ、野菜、大豆を含めた全ての農産物が検査機器の限界(5 Bq/kg乾重)を目

指して前述調査を基に農家と協働で工夫して、その対策を実施している。このため2012年、震災前

と比べると直売店では92%、全体の売上では85%まで回復した。

このように森林・農地・水・農産物と農産物を調理品の徹底した放射性セシウム検査とその公表は

農家が作った農産物を安心して孫まで田舎料理として食べさせることができること(多くの専門家と

地元農家が共同して、ゆうきの里東和で測定した農産物は安心との認識がNPO法人会員以外にも

広がっている)、安心して地域や都会の消費者に販売できること、これらにより、原発事故直後に破

壊された家族や地域のコミュニュケーションも復活してきた。

しかし、どうしても解決できない問題がある。農地や森林が汚染されていることで、農産物から不検

出(検出限界値5 Bq/kg以下)であるのに、福島農産物が買い叩かれることである。福島農家は安く

買い叩かれ、販売価格は事故以前と変わらないケースが出てきている。私は日本人のモラルとして、

現在世界で最も食の安全が確認されている福島農産物を事故以前の状態より良くするシステムを

社会的責任として作るべきと考えている(資料16.新潟大学と東芝が共同したフィールドサーバー導

入による安全で高品質栽培管理(営農技術普及))。

3.2013年度の4月以降調査予定

東和地区では木質チップによる森林除染、水田において用水により水口から新規負荷した放射

性セシウムの水田内における広がりと稲への吸収形態、慣行栽培と有機栽培の違い、大豆(品種の

違いも含めた)に吸収される放射性セシウムの形態、流域特性の異なる南相馬市では地元農家と

JAの協力により、2013年3月から、東和地区と同じように横川ダムから流入する水に含まれる放射

性セシウムが稲栽培に与える影響等を調べ始めた。これは2014年作付に向けての調査である。

4.福島農業復興は日本農業振興のモデルケースになる

「農学」栄えて、「農業」滅ぶ、との言葉、「農学」研究が細分化して、「木を見て、森を見ない」テー

マに多くの研究者が興味を持つようになって久しい。今、農学を教育・研究する大学としても、今回

の農業復興・振興調査研究は森林・農地・河川まで含めたダイナミックな調査と農家の自立・地域

づくりを組み合わせた本来の農学である総合農学の観点が必要である。

私たちはゆうきの里東和・南相馬における農業復興・調査研究は本来の「農学」研究・教育が復

権であるし、福島農業復興・振興のモデルケースになると考える。2005年のNPO法人結成の際、

「ゆうきの里東和宣言」では「わたしたちは、君の自立、ぼくの自立がふるさとの自立、輝きとなる住民

主体の地域再生の里づくりをすすめます。わたしたちは歴史と文化の息づく環境を守り育て、人と人、

人と自然の有機的な関係と顔の見える交流を通して、地域資源循環のふるさとをここに宣言します。」

と書かれている。NPO結成後、36名の新規就農者を積極的に受け入れ、若手農家と共に地域づく

りを行ってきた。東日本大震災後も6名の新規就農者を受け入れた。

今回の私たちの復興・調査研究は新規就農者を中心とした交流拠点「あぶくま農と暮らし塾(塾

長中島紀一前茨城大学農学部長)」も結成され、農業振興に大学研究者・企業・都会の市民も積

極的に関わり始めた(⑭持続可能な社会をつくる共生の時代へー農の力と市民の力による地域づく

りー 一般財団法人CSOネットワーク(2013))。また、福島農業復興に自ら志願する福島県出身の

新潟大学農学部学生も現れた。

福島農業復興は日本農学復権と農業振興に結びつけなければならない。

5.福島農業復興と科学者の姿勢

最後に、水俣病被害者救済を長年続けられ、2012年6月11日に亡くなられた原田正純氏が「こ

れは私の遺言書です。」と、戴いた本『マイネカルテ 原田正純聞書』[石黒2008]の

最後の言葉を引用する。

『水俣の教訓を残してゆくために、忘れてはならない視点がある。第1は、弱者の立場で考える

ことだ。政策や研究とは、そもそも弱者の立場を基本にすべきである。第2は、バリアフリーだ。

素人を寄せ付けない専門家の壁、研究者同士の確執、行政間の壁などが、患者救済 や病像

研究をどれだけ阻害してきたか、私は目の当たりにしてきた。第3は、現場に学ぶということだ。

事実は現場にしかないのである。』

福島農業、復興と振興は水俣病の教訓から学び、問われるのは科学者の姿勢である。

今回のこのようなシンポジュウムで農家の意見も聞きながら進めることは非常に大切である。福島

農業復興に関わるすべての研究者、農家の情報交換は今後共に進めて行きたい。

6.謝辞

本調査研究は三井物産環境基金助成金(復興助成、復興研究)、新潟大学・学長裁量経費

(災害特別)、内田エネルギー科学振興財団助成金、佐々木環境技術振興財団助成金で行っ

ている。

@2011年3月から現在までの活動と参考資料の一部を記載する。

1.学会発表・論文、雑誌発表・著書

①二本松東和地域の里山・水田・畑の放射能汚染の実態と取り組み、第12回、日本有機農業

学会大会資料(北海道大学)共著99-100(2011)

②放射性汚染の状況と対策に対する指針の提言、共著 同上(2011)

③農家に知って欲しい放射能汚染の話し、そして何ができるか? JA教育文化、家の光協会 7

月号 (2011)

④放 射 能 汚 染 、今 考 えたいこと、私 たちにできること、「旬 」がまるごと、ポプラ社 、7・9月 号

(2011)

⑤放射能に克つ農の営み-ふくしまから希望の未来へ(コモンズ)、分担123-152第2章農の営

みで放射能に克つ(2012)

⑥知っておきたい放射能汚染(座談会)、婦人之友、婦人之友社 11月号 (2011)

⑦福島第一原発事故後の新潟県内水田における土壌中放射性セシウムの垂直及び水平分布、

共著 第49回 アイソトープ・放射線 研究発表会(2012)

⑧福島第一原発事故による里山-農地生態系の放射性セシウム汚染~ 福島県二本松市にお

ける水田土壌及び水稲の放射能濃度 共著 ~第49回 アイソトープ・放射線 研究発表会

(2012)

⑨Soil radiocesium distribution in rice fields disturbed by farming process after the

Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant accident, Science of the Total

Environment、共著Vol438,242-247(2012)

⑩福島原発事故の放射能汚染 問題分析と政策提言(世界思想社)、分担 103-122 第7章

里山森林から農地までの汚染実態と低減対策 (2012)

⑪放射性セシウム除染と戦略的農地資源保全 農業農村工学会論文集 共著 No282、91-97

(2012)

⑫放射能汚染の実態と対策―調査から見えてきたことー、有機農業研究 Vol4 12-15(2012)

⑬Radio-cedium accumulation during decomposition of leaf litter in a deciduous

forest after the Fukushima NPP accident, Geophysical Research Abstracts,共著

Vol.15 (2013)

⑭持続可能な社会をつくる共生の時代へー農の力と市民の力による地域づくりー

一般財団法人CSOネットワーク(2013)

⑮原発事故被害・被災地の農業復興と振興 月刊 地方自治 6月号(2013)

⑯原発事故からの農業再生 共生社会システム学会研究 第7巻 (2013)

2.福島県農家との共同した農業復興・振興活動

①二本松市東和地区約270名の農家と2011年5月から復興プログラムを始めている。

下記ホームページで公開している。

http://www.touwanosato.net/kyougikai-p.html

②二本松市東和地区約270名の農家と2011年9月から始めた農業復興研究

③「農の営みと農業振興」~放射能を測って里山を守る~ 中間報告会

2013年2月9日福島県二本松市東和文化センター(農家約250名参加)

Ustream にて報告会を公開

http://www.ustream.tv/recorded/29137292

④「ふくしま新発売」(福島県)野菜ソムリエ藤田が聞く、2013年2月11日対談、

「営農活動による福島農業振興について」ホームページにアップ

http://www.new-fukushima.jp/

3.2012年の主なマスコミ取材と記事・放送等

2012年4月17日 福島民友新聞

2012年6月20日 NHKクローズアップ現代 出演

http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3216.html

2012年12月1日 フランス・ドイツ共同テレビARTE ドキュメント放送 出演

http://www.arte.tv/fr/japon-terres-souillees/7092024,CmC=7092028.html

2013年2月4日 TBS報道の魂「それでも希望の種をまく~福島農家2年目の試練~」 出演

http://www.tuf.co.jp/channel/pg.cgi?id=112

2013年3月10日 NHKラジオ、19:20~20:00 震災特集 出演

「希望の種を撒きたい」 http://www.nhk.or.jp/radiosp/kibounotane/

2013年3月17日 読売新聞 この人欄で紹介

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/niigata/feature/niigata1304178587046_02/index.htm

2

1

被災地の営農再開・農業再生に向けた研究をどう進めるか?

農研機構シンポジュウム

5月15日・コラッセ福島

野中昌法(新潟大学)

資料1.参加メンバー(2011年~2012年)ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会(理事長・副理事長他270名)新潟大学(野中昌法教授・とりまとめ)

原田直樹准教授(土壌環境学) 吉川夏樹准教授(農業水利学・GIS)村上拓彦准教授(森林科学・GIS) 藤村忍准教授(栄養科学)内藤眞教授(RI総合センター長) 後藤淳助教(RI総合センター)他

茨城大学小松崎将一准教授(作物学) 中島紀一教授(農業技術・政策)飯塚理恵子研究員(農業技術・政策)

東京農工大学木村ドロテア園子准教授(土壌学) 横山正教授(植物栄養学)

横浜国立大学金子博信教授(土壌生態学)

福島大学小松知未特任助教(農業経営)

日本原子力開発機構大貫敏彦博士(バイオアクチノイド科学)

市民放射能測定所長谷川浩博士(農産物測定)

他、大学院生・学生延べ400名

40

kikakuren
長方形

4

3

知の統合による2011年~2012年調査全容1.徹底した汚染マップの作成(新潟大学農学部・RI総合センター)

森林落葉・農地の汚染状況を知る(ゆうきの里東和・新潟大学)森林再生を行う(横浜国立大学)

2.森林・溜池から流れる水の汚染状況を知る(新潟大学・東京農工大学)

3.農業用水の汚染状況を知る(新潟大学)4.水田の汚染と稲への移行を知る・上流棚田から下流棚田への移動

(新潟大学)、稲架がけの影響(茨城大学)イネ品種(東京農工大学)5.畑の汚染と作物への移行を知る(新潟大学・茨城大学)

大豆(土壌と場所による違い)・タケノコ6.げんき堆肥・げんきぼかしの効果(有物物の効果)(東京農工大学)

野菜・果樹7.桑の汚染と移行(新潟大学)、植物・作物の分布(原子力開発機構)8.川の上流から下流への移動・川魚・動物への移行(東京農工大学)9.農産物検査、地域で食べ物を作り、食べることの意義、消費者に安心

感(市民放射能測定所・茨城大学・福島大学)

私たちの基本姿勢

1.主体はあくまでも、農家である。農家が取り組む取り組みへのサポーとであること。農家が自主的に取り組むことで成果が上がる。

2.まず、「測定」することを復興・振興の起点とする。農業復興、そして振興が最終目的であること。

3.地元の安心感をつくること。地元で愛される農業・農産物生産を優先すること。

4.生産者・消費者・流通・学者が一体となって理解を深める機会を設け、様々なバリアフリーを作ること。

5.最後に、この報告会は議論でなく、「実践ノウハウ」の共有を行うこと。

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新潟大学農学部教授 野中昌法 追加資料新潟大学農学部教授 野中昌法 追加資料

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