バイオ医薬品の有害事象を機械学習で予測、 患者の qol 向上に...

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ソリューション概要 ○プロファイル 1928 年に設立された公立大学法人 横浜市立 大学は、国際総合科学部と医学部の 2 学部、 5 研究科を横浜市内 4 キャンパスに展開し、 附属 2 病院を擁する総合大学として、実践力の ある数多くの優れた人材を輩出しています。また、 再生医療研究や、2006 年に 開 設 さ れ た ゲノム・ プロテオーム医学研究の中心となる先端医科学 研究センター、医学と理学を融合させた生命医 科学研究科など、横浜市立大学ならではの取り 組みを通じ、世界へ発信する大学づくりを進めて いきます。 ○導入製品とサービス Microsoft Azure - Virtual Machines - Machine Learning ○パートナー企業 株式会社オークファン ○導入メリット オンプレミスと比較して柔軟性が高くコストの 低いシステムを実現 初めて利用する学生でも簡単に機械学習の分析モ デルを作成可能 大規模データの解析にも、Azure の機能拡張 で対応できる ○ユーザー コメント Azure は使い勝手も良く、環境構築やコスト面 のみならず、リソース共有の面でもメリットが 大きいです。今後は、さまざまな大学、研究機関と のコラボレーションにより、大規模データの 解析などを通じてさらに研究内容を深掘りし、 一つでも多くの知見を患者さんの手元に届けてい きたいです」 公立大学法人 横浜市立大学 大学院生命医科学研究科 プロテオーム科学 薬学博士 特任助教 太田 悠葵 公立大学法人 横浜市立大学 導入背景とねらい 新薬開発にも役立つ「有害事象」の解析、 予測に機械学習のアプローチを取り入れたい がんや難病などの治療に期待される「バイオ医薬品」は、遺伝子組換え技術を利用し、微生物 や動物などの培養細胞によって作られます。バイオ医薬品の創薬研究を行う、公立大学法人横 浜市立大学 ( 以下、横浜市立大学 ) 大学院生命医科学研究科 プロテオーム科学 薬学博士 教授 川崎 ナナ 氏は、研究のテーマについて次のように話します。 「医薬品開発では、医薬品をヒトに投与する前に、実験動物などを使った安全性の試験をします。 しかし、バイオ医薬品は動物と人間との結果の差が大きく、安全性に関する十分な情報が得ら れないことがあり、臨床試験で予期せぬ有害事象が出るケースがあります。また、医薬品の作 用には個人差があるので、承認後に、臨床試験では気づかなかった有害事象が明らかになる可 能性もあります」 ( 川崎氏 ) そこで、既に承認済みで患者さんに利用されているバイオ医薬品の臨床上の有害事象のデータ をコンピューターで分析すれば、どのような人がどのような使い方をしたときに有害事象が起き やすいか、予測できるのではないかと考えました。 当初は、PMDA ( 医薬品医療機器総合機構 )FDA ( アメリカ食品医薬品局 ) などが公開している、 承認済医薬品で確認された有害事象の情報を用いていましたが、医学的な知識を欠く自分たちが、 公開データだけを使っても、得られる結果には限界があります。そこで、横浜市立大学に着任した のを機に、臨床の先生のご指導をいただきながら、さらに臨床データも利用して、研究を発展さ せたいと考えました。現在は、「国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 委託研究費 平成 27 年度医薬品等規制調和・評価研究事業の支援を受けて研究を実施しています」 ( 川崎氏 ) バイオ医薬品の有害事象を機械学習で予測、 患者の QOL 向上に貢献する研究のシステム基盤に Microsoft Azure を採用 公立大学法人 横浜市立大学 先端医科学研究センター ( 以下、先端医科学研究センター ) は、 ゲノム解析センター、プロテオーム解析センター、セローム解析センターを中心にがん、生活習 慣病などの克服を目指した基礎研究と、その成果を臨床に応用する橋渡し研究を推進していま す。平成 27 4 月にプロテオーム解析センター長に着任した川崎 ナナ教授は、医薬品の安全性 確保や、新薬開発などに役立てるために、遺伝子組換え技術を応用して製造された「バイオ医薬 品」を使用した際の各種データを解析する研究に取り組んでいます。こうした中で、機械学習を用 いた分析を行うためのシステム基盤に採用されたのが、Microsoft Azure でした。

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Post on 05-Jul-2020

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ソリューション概要

○プロファイル1928 年に設立された公立大学法人 横浜市立大学は、国際総合科学部と医学部の 2 学部、5 研究科を横浜市内 4 キャンパスに展開し、附属 2 病院を擁する総合大学として、実践力のある数多くの優れた人材を輩出しています。また、再生医療研究や、2006 年に開設されたゲノム・プロテオーム医学研究の中心となる先端医科学研究センター、医学と理学を融合させた生命医科学研究科など、横浜市立大学ならではの取り組みを通じ、世界へ発信する大学づくりを進めていきます。

○導入製品とサービス・ Microsoft Azure - Virtual Machines - Machine Learning

○パートナー企業株式会社オークファン

○導入メリット・ オンプレミスと比較して柔軟性が高くコストの 低いシステムを実現・ 初めて利用する学生でも簡単に機械学習の分析モ デルを作成可能・ 大規模データの解析にも、Azure の機能拡張 で対応できる

○ユーザー コメント「Azure は使い勝手も良く、環境構築やコスト面のみならず、リソース共有の面でもメリットが大きいです。今後は、さまざまな大学、研究機関とのコラボレーションにより、大規模データの解析などを通じてさらに研究内容を深掘りし、一つでも多くの知見を患者さんの手元に届けていきたいです」

公立大学法人 横浜市立大学大学院生命医科学研究科プロテオーム科学 薬学博士特任助教太田 悠葵 氏

公立大学法人 横浜市立大学

導入背景とねらい新薬開発にも役立つ「有害事象」の解析、予測に機械学習のアプローチを取り入れたい

がんや難病などの治療に期待される「バイオ医薬品」は、遺伝子組換え技術を利用し、微生物や動物などの培養細胞によって作られます。バイオ医薬品の創薬研究を行う、公立大学法人横浜市立大学 (以下、横浜市立大学 ) 大学院生命医科学研究科 プロテオーム科学 薬学博士 教授

川崎 ナナ 氏は、研究のテーマについて次のように話します。

「医薬品開発では、医薬品をヒトに投与する前に、実験動物などを使った安全性の試験をします。しかし、バイオ医薬品は動物と人間との結果の差が大きく、安全性に関する十分な情報が得られないことがあり、臨床試験で予期せぬ有害事象が出るケースがあります。また、医薬品の作用には個人差があるので、承認後に、臨床試験では気づかなかった有害事象が明らかになる可能性もあります」 (川崎氏 )

そこで、既に承認済みで患者さんに利用されているバイオ医薬品の臨床上の有害事象のデータをコンピューターで分析すれば、どのような人がどのような使い方をしたときに有害事象が起きやすいか、予測できるのではないかと考えました。

当初は、PMDA (医薬品医療機器総合機構 )、FDA (アメリカ食品医薬品局 ) などが公開している、承認済医薬品で確認された有害事象の情報を用いていましたが、医学的な知識を欠く自分たちが、公開データだけを使っても、得られる結果には限界があります。そこで、横浜市立大学に着任したのを機に、臨床の先生のご指導をいただきながら、さらに臨床データも利用して、研究を発展させたいと考えました。現在は、「国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 委託研究費

平成 27 年度医薬品等規制調和・評価研究事業の支援を受けて研究を実施しています」 (川崎氏 )

バイオ医薬品の有害事象を機械学習で予測、患者の QOL 向上に貢献する研究のシステム基盤にMicrosoft Azure を採用

公立大学法人 横浜市立大学 先端医科学研究センター (以下、先端医科学研究センター ) は、ゲノム解析センター、プロテオーム解析センター、セローム解析センターを中心にがん、生活習慣病などの克服を目指した基礎研究と、その成果を臨床に応用する橋渡し研究を推進しています。平成 27 年 4 月にプロテオーム解析センター長に着任した川崎 ナナ教授は、医薬品の安全性確保や、新薬開発などに役立てるために、遺伝子組換え技術を応用して製造された「バイオ医薬品」を使用した際の各種データを解析する研究に取り組んでいます。こうした中で、機械学習を用いた分析を行うためのシステム基盤に採用されたのが、Microsoft Azure でした。

公立大学法人 横浜市立大学

こうした研究は、当初はオンプレミスで、オープン ソースの統計分析ソフト「R」を用いて行われていました。川崎氏と共に研究に携わる横浜市立大学 大学院生命医科学研究科 プロテオーム科学 薬学博士

特任助教 太田 悠葵 氏は、以下のように語ります。

「以前在籍していた国立医薬品食品衛生研究所でも、医薬品の安全性研究に取り組んでいましたが、当初はそれほどデータが複雑でなく、データ量も多くなかったため、オンプレミス上で構築した環境で十分でした。しかし、横浜市立大学に移り、公開情報に加えて臨床で得られた情報も扱うことになり、データ量がかなり増えることになりました。また有害事象に加えて、プロテオーム (タンパク質 ) や、血液検査結果の数値など複数の数値を解析することも視野に入れると、オンプレミスでのシステム構築には限界があると考えました」 (太田氏 )

導入の経緯システムの柔軟性と手続きのシンプルさからクラウドを選択手厚いサポートも導入の決め手に

研究を行う基盤としてクラウド サービスの利用を検討した経緯について、太田氏は続けます。

「オンプレミスで環境を構築する場合、サーバーなどのハードウェア購入に手続きの時間がかかります。クラウドであればすぐに利用を開始でき、費用も使っただけ支払う形なので、コスト削減につながることがわかったのです。リソースの拡張も容易だったので、将来のさらなるデータ増にも対応できます。さらに、これまでの統計解析に加え、新たな解析手法として機械学習による予測をしたいと考えたため、その点からもクラウド

サービスの利用がふさわしいと考えました」 (太田氏)

では、Azure を導入する決め手はどこにあったのでしょうか。太田氏は、「サポートの手厚さ」を挙げます。

「Azure を含め、競合他社のサービスを比較検討し、研究に向いたサービ

スを検討しました。Azure の機能である Machine Learning はグラフィカルで使い勝手が良く、1 時間単位での課金ということでコスト面での優位性がありました。何より、導入前の相談から手厚くサポートをいただき、安心して任せられると感じました」

マイクロソフトからの紹介で、プロジェクトに参加することになったのが、機械学習による分析モデルの設計、構築を専門に手がける株式会社オークファン 技術統括部 執行役員 部長 得上 竜一 氏です。同氏はこのプロジェクトの意義を次のように話します。

「私はこれまで、マーケティングやプロモーションなどの分野で機械学習に携わることが多く、このような医療分野の研究支援というのは初めての経験でした。このプロジェクトはいわば、ビジネス上の商業的価値創出から、社会的価値創出という分野への挑戦ですので、非常に意義を感じました。

最初に行ったのは、データを見ながら、投薬後の有害事象を推定するためにはどういう手段がとれるかの検討です。データを眺めると繰り返し出てくるデータを発見したので、何か重要な法則を導き出せるのではと感じました。その後は、Azure Machine Learning を使って機械学習モデルを設計し、検証しながら精度を高めていきました」 (得上氏 )

導入の成果使い勝手の良さや手間なく低コストで環境が構築できる利便性は、共同研究などで他大学などとリソースを共有する場面でも威力を発揮 システム基盤として Azure を選定したのち、2015 年の春ごろから機械学習による解析プロジェクトが開始されました。Azure の導入メリットについて、太田氏は次のように話します。

「Azure の使い勝手は非常に良く、初めて利用する学生でも簡単に扱

公立大学法人 横浜市立大学 大学院医学研究科がん総合医科学主任教授市川 靖史 氏

株式会社オークファン技術統括部執行役員 部長得上 竜一 氏

公立大学法人 横浜市立大学 大学院生命医科学研究科プロテオーム科学 薬学博士特任助教太田 悠葵 氏

公立大学法人 横浜市立大学大学院生命医科学研究科プロテオーム科学 薬学博士教授 /先端医科学研究センタープロテオーム解析センター長川崎 ナナ 氏

えるのが魅力的です。たとえば、工学部で機械学習を学んできた学生であっても、一から環境を構築するのはたいへんです。しかし、Azure

Machine Learning は、学生でも簡単に機械学習のモデルを作ることができます」

現在、Azure 上では Machine Learning のほかに Virtual Machines

も統計解析ソフトをインストールして使っています。両方のシステムは、毎朝 7 時から夜 7 時まで稼働しており、従量課金によるコスト メリットを享受しています。

「他の大学と共同研究する機会があるのですが、Azure であれば大学ごとにオンプレミスでサーバーを立てる必要がないため、環境構築やコスト面から有利ですし、リソース共有の面でも利便性が高いです」 (太田氏 )

研究に用いる臨床データは、患者さんの同意を得て収集され、倫理審査などで科学的、倫理的な妥当性を審査され、匿名化等で個人情報保護に十分配慮されたうえで活用されています。川崎氏はデータの「質」という点について、以下のように言及します。

「公開情報に含まれる膨大な数の副作用情報が、機械学習により、一瞬でグラフィカルに可視化されたことに驚きました。この手法を今後は臨床データに応用し、患者さんに還元していきたいと考えています」

そして、臨床医として研究を監修する横浜市立大学 大学院医学研究科

がん総合医科学 主任教授 市川 靖史 氏は、この研究の意義について次のように話します。

「臨床医という立場にいる我々は、どの医薬品にどういった有害事象があるかは経験的に知っています。今回 Azure を使った解析結果を見せてもらって、これまで経験的に知っていたことが、裏付けのあるデータとして示されたということに新鮮な驚きを感じました。また、ある医薬品についていくつかの有害事象があるというときに、それぞれの有害事象の要因やその関連性などの相関関係が、データを基に可視化されたということにも意義を感じます」 (市川氏 )

今後の展開医薬品と患者さんの満足度 (QOL) という観点からも、研究に大きな期待

Azure を活用した今後の展望について、太田氏は以下のように話します。

「今後は扱うデータがさらに増えていくでしょう。そこで、Azure の機能である大規模データの解析を行う Hadoop (HDInsight) などを利用して、さらに研究内容を深掘りしていきたいです」 (太田氏)

本研究範囲の広がりについて、川崎氏は、大学内外との連携について以下のように話します。

公立大学法人 横浜市立大学

「公開データを使った有害事象の分析モデルについては、他の大学や研究機関からもアクセス可能ですので、他機関とのコラボレーションも視野に入れています。臨床データは国の指針に従った取り扱いと厳重な管理が必要ですので、活用に制限がありますが、大学内の臨床の現場で活用していただけるように精度を高めていきたいと思います」 (川崎氏)

得上氏は、研究データを患者さんに還元していく重要性を話します。

「今は予測モデルの設計という段階ですが、今後は、もっと具体的に、治療を通じて臨床の現場にいる先生方や患者さんのお手元に知見を届けていきたいです」 (得上氏)

最後に市川氏は、「有害情報のデータが、臨床の現場で、治療方針を立てる際に参考になっていくのが理想」と語ります。

「臨床の現場で、医薬品の投与と有害事象に関する『時間的な連続性』を把握することには限界があります。たとえば、抗がん剤であれば、2 週間に 1 回、3 週間に 1 回投与するものなどがあります。有害事象の説明をして、投与していつ、どれくらい気持ち悪かったかを聞くのですが、これが翌日であれば抗がん剤が影響するかもしれませんが、何日も経って発生していたら、別の要因かもしれません。

そこで、たとえば、服薬した患者さんが気持ち悪さを感じたときに、それを患者さん自身が入力するしくみがあれば、そうした DB と、川崎先生、太田先生の研究が相まって、将来的には有害事象の頻度、出方などをどう考えるかを加味して患者さんに対する治療方針を立てていくことが可能になるかもしれません。特に、私たちが扱うような『がん』という病気に対しては重要な研究になると思います」 (市川氏)

今後も、横浜市立大学の医薬品の品質安全性に関する研究基盤として、オープンで拡張性の高いプラットフォームである Azure が果たすべき役割は大きくなっていくことでしょう。

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導入についてのお問い合わせ本ケース スタディは、インターネット上でも参照できます。http://www.microsoft.com/ja-jp/casestudies/本ケース スタディに記載された情報は制作当時 (2016年1月 ) のものであり、閲覧される時点では、変更されている可能性があることをご了承ください。本ケース スタディは情報提供のみを目的としています。Microsoft は、明示的または暗示的を問わず、本書にいかなる保証も与えるものではありません。製品に関するお問い合わせは次のインフォメーションをご利用ください。■インターネット ホームページ http://www.microsoft.com/ja-jp/■マイクロソフト カスタマー インフォメーションセンター 0120-41-6755(9:00 ~ 17:30 土日祝日、弊社指定休業日を除く )※電話番号のおかけ間違いにご注意ください。*記載されている、会社名、製品名、ロゴ等は、各社の登録商標または商標です。*製品の仕様は、予告なく変更することがあります。予めご了承ください。

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