スーパーカミオカンデ、ニュートリノ、 そして宇宙...
TRANSCRIPT
全学自由研究ゼミナール
平成23年12月7日
東京大学宇宙線研究所
神岡宇宙素粒子研究施設
数物連携宇宙研究機構
中畑 雅行
ホームページ:http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/~nakahata/
今日の話の内容
ニュートリノとはどのような粒子(先週の復習)
ニュートリノはどこから飛んでくるのか?
太陽から飛んでくるニュートリノ
超新星爆発とニュートリノ
参考文献
「ニュートリノ天体物理学入門」(ブルーバックス) 小柴 昌俊 著
「地底から宇宙をさぐる」(岩波科学ライブラリー) 戸塚 洋二 著
「百億個の太陽」 NHK「宇宙」プロジェクト編 (NHK出版)
「宇宙 その始まりから終わりへ」(朝日新聞社) 杉山 直 著
「なっとくする 宇宙論」(講談社) 二間瀬 敏史 著
「科学入門 E=mc2は美しい」 戸塚洋二 著
現在見つかっている素粒子の種類
素粒子と力 強い力 弱い力 電磁気力 重力
ニュートン1
998年7月
号
素粒子とそれらに働く力
電荷
第1世代
第2世代
第3世代
レプトン
0 ne nm nt
-1 e m t
クォーク
2/3 u c t
-1/3 d s b 強い力
電磁力
弱い力
ニュートリノ
地球
ニュートリノ
ニュートリノは物質となかなか反応しない
たくさんニュートリノが飛んでくれば、実験装置で希
に反応してくれる。
他のじゃまな宇宙線は地表で停止する。
地球を通過する間
に反応する確率は、
0.0000000002程度 (太陽ニュートリノの場合)
他の
宇宙線
地下に大きな実験装置を作るのが最適
ニュートリノはどこから飛んでくるか ?
太陽や星 超新星 宇宙線
大気ニュートリノ
ニュートリノはビッグバンの直後にもたくさん作られた
ビッグバン
宇宙の膨張
銀河形成
クォーク、電子、そしてニュートリノが作られた
http://map.gsfc.nasa.gov/
ビッグバンの時に生まれたニュートリノは、現在、
約300 個/cm3の密度で存在する。
太陽ニュートリノ
太陽内部
中心核
太陽の熱源は中心核で起きている核融合反応。
その核融合反応の際にニュートリノが生まれる。
太陽の熱源について
1937年にHans Betheは、熱核融合反応の理論を発展させ、太陽の熱源に関する理論を発表した。
太陽が持つ重力エネルギー:
J108.31098.6
)1099.1()(107.6 41
8
230213112
m
kgskgm
R
GM
太陽が放出するエネルギー: (太陽定数:1.96cal/cm2/分を使って)
sec/J108.3min//96.1)105.1(44 2622132 cmcalcmLD
したがって、約1015秒=3x107年後には太陽はエネルギーを使い果たしてしまうはず。しかし、実際には太陽の年齢は隕石などの観測から45億ぐらいであることがわかっていた。
それ以前にあった太陽エネルギーの謎:
太陽での核融合反応
p + p → 2H+e++νe p + e-+ p → 2H +νe
2H + p → 3He + γ
3He+ 3He →4He+ 2p 3He +4He → 7Be +γ
7Be + e- → 7Li + νe 7Be + p → 8B + γ
7Li + p → 2 4He 8B → 8Be* + e++ νe
8Be* → 2 4He
99.75% 0.25%
86% 14%
99.85% 0.15%
3He+p→4He+e++νe
pp連鎖反応と呼ばれる
太陽での核融合反応
中間過程を省略すると、一連の核融合反応は、
4 p He + 2e+ + 2ne
陽子4つ
ヘリウム 陽電子2つ
ニュートリノ
2つ
+ +
太陽ニュートリノのエネルギースペクトル
(モデルによる計算)
p + p → 2H+e++νe p + e-+ p → 2H +νe
2H + p → 3He + γ
3He+ 3He →4He+ 2p 3He +4He → 7Be +γ
7Be + e- → 7Li + νe 7Be + p → 8B + γ
7Li + p → 2 4He 8B → 8Be* + e++ νe
8Be* → 2 4He
99.75% 0.25%
86% 14%
99.85% 0.15%
pp-連鎖反応
3He+p→4He+e++νe
全太陽ニュートリノ強度は、660億ne/sec/cm2
エネルギーの単位について
MeV = メガ電子ボルト
= 106 電子ボルト
106 Vの電位差で電子を加速した時に電子が持つエネルギー
1電子ボルト = 1.6 x 10-19 J なので
MeV = 1.6 x 10-13 J に相当する。
ところで相対性理論によれば、E=mc2なので
質量もエネルギーの単位で表す。
例えば、電子の質量は 0.511 MeV.
世界で最初の太陽ニュートリノ実験 ホームステイク鉱山でのデービスらによる実験
615トンのC2Cl4 で満たされたタンク。
Neutrino Astrophysics J.N.Bahcall
タンクからアルゴンを回収して数を測る。
37Cl+ ne → 37Ar+e-
実験開始: 1968
反応のエネルギーしきい値は、0.814MeV.
デービスらの実験:観測方法
37Cl+ ne → 37Ar+e-
反応でできる37Arは半減期が35日。
そこで、約80日おきにArを回収した。
回収の方法は、ヘリウムガスによるバブリング。
回収した37Arは放射線検出器によって測る。
測定された37Arの生成率は1日約0.4~0.5原子だった。
これは太陽モデルからの予想値の約1/3だった。
太陽ニュートリノ問題
カミオカンデ (1983-1996)
地下1000mに設置された
3000トンの水タンク。
1000本の直径50cm-光電子増
倍管を使って実験。
カミオカンデの動作原理
以下の水面波と同じ現象
超光速 → チェレンコフ光の発生
(水中の光の速度
= c/n = c/1.33)
e
池に落とした石からの波紋 水面波の速度よりも速く泳ぐアヒル
観測された事象例
オレンジ色の小さな丸は光を受けた光電子増倍管
光電子増倍管が光を受けた時間情報からニュートリノが反応した場所が分かる。
チェレンコフ光のリングパターンから粒子が飛んだ方向が分かる。
太陽ニュートリノ
電子
n + e n + e
散乱した電子を捕らえる
カミオカンデによる方法
電子の質量(0.5MeV)に比べて、太陽ニュートリノのエネルギー(約10MeV)が大きいため、前方に弾き飛ばされる。(10円玉で1円玉を弾くように。)
太陽ニュートリノ方向分布
1987年1月 – 1988年5月まで 450日間 のカミオカンデのデータ
捕らえた太陽ニュートリノは50個程度
デービスらの結果を確認し、太陽ニュートリノ強度が理論値の約半分しかないことを示した。
太陽モデル予想値
スーパーカミオカンデによる精密観測(1996年~)
50,000トンの水タンク (42m高さ, 直径40m)
11,146本の50cm光電子増倍管
内面の40%を増倍管の光電面が覆う。
1000m 地下. (旧カミオカンデから200mの場所)
カミオカンデの30倍の大きさ
1996年4月よりデータ取得。
スーパーカミオカンデの内部
1996年1月(給水中)
チェレンコフ光のパターンを捕らえる
42
m
39.3 m
ニュートリノ
弾き飛ばされた電子 (太陽ニュートリノの場合)
スーパーカミオカンデが捉えた太陽ニュートリノ
太陽方向との相関
天球座標系での太陽の軌跡
スーパーカミオカンデでの太陽ニュートリノ現象 1996年から2001年まで
太陽方向との相関
22,400 太陽ニュートリノ現象
(15 現象/日)
観測された強度は太陽モデルからの予想値の41% 。
Sudbury Neutrino Observatory (SNO)
1000トンの重水(D2O)
12.01m径アクリルケース
1700トンH2O
内水槽
5300トンH2O
外水槽
17.8m直径の増倍管サポート構造
9456本の20cm径増倍管
カナダのサドバリー、2092mの地下
SNOでの太陽ニュートリノ観測
3種類の反応を捕らえる。
荷電カレント(CC)反応 ne + d p + p + e-
(1-1/3cosq)の方向分布
電子ニュートリノのみに感度
中性カレント(NC)反応
nx + d nx + p + n 中性子を捕らえる
全ニュートリノに感度
電子散乱 n+ e- n + e-
neとnm、ntから~1/6.5の寄与
スーパーカミオカンデとSNOから求めた電子ニュートリノ、ミューとタウニュートリノの強度
ES = e +0.15 m,t SK ES = 2.350.09 [x106/cm2/s]
CC = e SNO CC = 1.680.09
SNO NC = 5.210.47 NC = e + m+ t
(cf. SSM(BP2004) = 5.79±1.3) 得られた全強度: exp = 5.4±0.3
±
SK SNO CC
SNO NC
(BP2004)
ニュートリノの種類が変わる (ニュートリノ振動)
nm nt
ne
電子ニュートリノ
ミューニュートリノ タウニュートリノ
太陽ニュートリノ
生まれた時は電子ニュートリノ
地球まで飛んでくる間に……
ミュー、タウニュートリノに変わってしまう。
ニュートリノ振動が太陽ニュートリノ問題の答えであるのとが、2001年にわかった。
超新星SN1987A
我々の銀河
太陽
大マゼラン星雲
小マゼラン星雲
17万光年彼方
http://science.nasa.gov/newhome/headlines/ast15jul99_1.htm
Visible energy (MeV)
Time JT: 1987 Feb 23 16:35:35 (±1min)
UT: 7:35:35
バックグラウンドレベル
ne + p e+ + n
カミオカンデが捉えた超新星のデータ
秒
ニュートリノのエネルギー(MeV) 13秒間に11個のニュートリノを捕らえた。
その瞬間に通り抜けて行ったニュートリノの数は、 1000億個/cm2
超新星爆発の分類
I型:スペクトル中に水素線がない。
II型:スペクトル中に水素線がある。
I型は、さらに
Ia型:Siの吸収線あり。
Ib型: Heの吸収線あり。
Ic型:Si, Heも見えない。
と細分化されている。
Ia型は、連星系をなす3Msun~8Msunの星が進化の過程で質量放出によって水素の
外層を失って、中心に残った炭素の白色矮星が爆発的に燃える現象。放出エネルギーは約1051erg。私の講義で議論するニュートリノ放出を伴う超新星爆発は重力崩壊型と呼ばれるものであり、Ib,Ic,II型の超新星爆発に相当する。
星の一生
NHK出版「百億個の太陽」 P52
白色矮星
中性子星
ブラックホール
軽い星
~ Msun
~ 10xMsun
~ 25xMsun
>30xMsun
星の質量
超新星爆発
重い星は元素の生成工場
4個の水素原子核からヘリウム
(4p → 4He+2e++2ne ) 太陽の中央程度の温度、密度(107K、150g/cm3)
3個のヘリウムから炭素
(3 4He → 12C) 更に高い温度、密度
(108K、104g/cm3)
超高温度、高密度
酸素からケイ素、鉄 16O+16O → Si, Mg, S, Ar, Ca…
Si + Si → Cr, Fe, Ni…..
炭素から酸素、ネオン、ナトリウム、マグネシウム
(12C +a→16O, 12C+12C → 20Ne, 23Na, 24Mg…)
各燃焼過程の時間と温度
燃焼過程 時間 温度
H燃焼 106.8 年 6 x 107 K
He燃焼 105.7 年 2.3 x 108 K
C燃焼 103.8 年 9.3 x 108 K
Ne燃焼 1 年 1.7 x 109 K
O燃焼 0.5 年 2.3 x 109 K
Si燃焼 ~1日 4.1 x 109 K
25 Msunのシミュレーション
核融合反応では鉄までできる
質量数:A
原子番号:Z
中性子数:N (=A-Z)
陽子質量: mp
中性子質量: mn
ある原子核の質量:mA
核子あたりの結合エネルギー =
56Fe
(mA – mp・Z – mn・N)
A 核反応はこの値が大きくなる方へ進む。
Aの小さい方からは核融合、Aの大きい方からは核分裂。
超新星爆発直前の星の内部構造 内側から、
鉄
ケイ素
酸素
炭素
ヘリウム
水素
超新星爆発では、中心の鉄の核が一気につぶれて、中性子星やブラックホールになる。
重力崩壊型超新星の爆発機構
重力崩壊
H
He C+O
Si
Fe
n n
n
n
ニュートリノ・ トラッピング コアのバウンス
n
n n
n
n
n n
n
中性子星
衝撃波がコアで発生 衝撃波が外に伝播 超新星爆発
コアを重力崩壊させ、その解放された重力エネルギーで外層を吹き飛ばす。
佐藤勝彦先生
超新星SN1987A
ニュートリノの信号:2月23日16時35分35秒(日本時間)
2月23日18時22分
まだ、光では輝いていない。 (A.Jones (IAU circular 4340))
2月23日19時38分
光で初めて見えた。この時、6等級。 (R.H.McNaught (IAU circular 4316))
光による観測
2月24日14時31分 Ian Sheltonが5等級の天体が現れたことを発表
2月24日10時26分から3時間の25cm望遠鏡を用いた観測で発見。
爆発後 爆発前
中性子星
中性子星は半径が10km位だが太陽程度の重さを持つ星。
中心部の密度は、1cm3が
~400000000000000 グラム。
一つの巨大な原子核
1054年に超新星爆発をおこしたカニ星雲
星の周りの物質が吹き飛ばされている
中心部には高速回転するパルサーがある。(毎秒30回、回転している)
ハッブル望遠鏡
元素の周期律表
これらの元素は星の超新星爆発の瞬間に作られた。
ビッグバンで生まれた粒子
星の成長過程でできる
元素はいつ何処で生まれたのか
ビッグバン直後の元素合成
今の元素存在比
質量数 100 200 ビッグバーン直後に生まれたのは、水素、ヘリウム、重水素程度である 金
まとめ
ニュートリノは素粒子のひとつ。
ニュートリノと物質との相互作用は非常に弱い。
太陽では4つの陽子からヘリウムができる核融合反応が起きている。その際にニュートリノが生まれる。
太陽で生まれた電子ニュートリノは地球に飛んでくる間にミューニュートリノ、タウニュートリノに変わってしまう。(ニュートリノ振動)
超新星爆発にともなうニュートリノをカミオカンデは捕らえた。スーパーカミオカンデが銀河中心の超新星爆発を捕らえれば、 10000発ぐらいのニュートリノが捕まるはず。
超新星爆発は、我々の身のまわりの元素の源である。