第6講 ニュートリノ振動 - osaka...
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2009.02.09-10 島根大学集中講義 1
第6講
ニュートリノ振動
1.ニュートリノ振動とは2.大気ニュートリノ振動3.太陽ニュートリノ振動4.物質振動5.KAMLAND実験
6.K2K実験
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1.ニュートリノ振動とは?
ニュートリノには香りの固有状態が3種類あるが、時間と共に
香りの違う状態が出現する現象をニュートリノ振動という。
大気ニュートリノ(νμ
)振動は、1998年神岡地下実験施設で発見された。
2002年にはカナダSNOグループが、太陽ニュートリノ(νe
)振動を確認した。
ニュートリノ振動は、素粒子標準理論を越える確定的な、初めてのそして唯一の実
験証拠である。
観測されるのは、
質量固有状態は、
大気ニュートリノ振動
太陽ニュートリノ振動
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ニュートリノの香り固有状態は一般に質量固有状態の重ね合わせである。
時間発展は質量固有状態で行われニュートリノ質量は小さいから、
簡単のため2体混合とすると、混合のパラメターは1個のθ
で表される。
ニュートリノ振動は、混合がありかつ質量差があるとき発生する。
ニュートリノ振動公式
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エネルギーと距離を適当に選ぶことにより、種々のΔm2 の領域の実験ができる。
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信号が見えれば振動曲線が書けるが、振動が見つからなかったときは、
平面で除外領域のみ判る。
(i)
(ii)
振動曲線
振動曲線の範囲が実験誤差以内として90°回転すると、変数許容範囲が描ける
Lが大きくなると曲線は平均される
(i)
(ii)
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2.大気ニュートリノ
スーパーカミオカンデ:
岐阜県神岡鉱山地下1000mにある5万トンの水タンク
50cm 光電子増倍管(フォトマルティプライヤー) タンク表面にある1万個のフォトマル
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大気ニュートリノ信号検出原理
反跳核子は遅くて見えない。電子とミューオンはチェレンコフ光を発する。
太陽ニュートリノ信号
低エネルギー(~1-10 MeV) νe
ν
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電子は物質と相互作用をしてシャワーを起こし輪郭がぼやける。Stopping muon の作る
リングパターンくっきりとした輪郭
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高速の突き抜け粒子はべた塗りの円となる。
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大気ニュートリノ
1次宇宙線は銀河から来る高速の陽子 p と(わずかな)原子核
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• 電子ニュートリノとミューオンニュートリノの観測数比
•
•
実験結果 R<1
はニュートリノ振動の可能性を示す。
•
ただし,理論値は地表での宇宙線ミューオン強度から、逆算したもので
•
不定性が大きく(>30%)、学界は懐疑的であった。
ニュートリノ振動最初の徴候
)2|)/()( (
03.061.0|)/()(
|)/()(
ュレーションモンテ・カルロ シミ ≈++⇒=
±=++
++=
MCee
MCee
DATAee
MC
R
νννν
νννννννν
μμ
μμ
μμ
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ニュートリノは地球表面で一様に作られる。同じ立体角中には同じだけのニュートリノ数がある。ただし水平方向は大気圏の厚さが無視できずニュートリノ数は増える。地球はニュートリノに対し透明なので、上から来るニュートリノと下から来るニュートリノ数は立体角が同じなら同じ。上下非対称分布はニュートリノ振動の証拠
電子ニュートリノ分布は上下対称であるがミューニュートリノは非対称
赤線=電子ニュートリノ、緑線=ミューニュートリノ、黒丸=データ
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太陽中心では熱核融合反応が起きている。
pp チェイン温度2000万度以下(太陽など)で盛んな過程
CNOサイクル高温の星(青白い星)の中の過程
3.太陽ニュートリノ
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強度変化のみ。エネルギー・方向は判らない。
SuperK、SNO検出器はニュートリノ望遠鏡
∵
ニュートリノのエネルギーと飛来方向が判る。
太陽ニュートリノスペクトル
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太陽ニュートリノ観測のパイオニア
R.Davis: 小柴教授と共にノーベル賞受賞
米国南ダコタ州ホームステイク鉱山地下1620m に設置した太陽ニュートリノ検出器
:液体2塩化炭素C2 Cl4 615 トン検出器
太陽ニュートリノの謎観測値は理論値の~1/3(2002年にSNOがニュートリノ振動と確定した。)
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太陽ニュートリノ観測 Davis以降全てのグループがニュートリノ欠損を報告。
太陽ニュートリノ
強度測定真中の橙棒が理論予想値左右の黒棒が各実験グループのデータ
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スーパーカミオカンデ検出器による太陽ニュートリノデータ
信号
太陽方向(cosθ=0)に信号が見える。
雑音
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SNO は太陽ニュートリノ欠損がニュートリノ振動であることを証明した。
ニュートリノ振動であれば、νe 欠損は νμ
, νt 出現となっているはず。
重水(D=pn)標的を使えば3種類の反応を同時に検出できる。
平面上で上記3つの式を解いて一点で交われば仮定が正しい。
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4. ニュートリノ物質振動(=屈折現象) (太陽の中)
物質中の光は屈折率により波長が変わる。屈折は入射波と前方散乱波の干渉効果。
ニュートリノもまた物質中では屈折率nを持つ。
結果的にニュートリノ質量は物質中では真空中と違う質量を持つ。
νμ
は電子と散乱し難く実効的に質量は変わらない。
混合がなければ νe と νμ
は別れている。
混合があると質量固有状態
は、
νe とνμ
との混合状態となり、固有質量は
交わらない。太陽中心では太陽表面では
であるので、
中心で作られたνe は、外に出るときはνμ
になる。太陽の中でのニュートリノ質量
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補足:
物質中での質量の導き方
(1):
真空中での質量固有状態をν1 , ν2 とし、νe ,νμ
はを観測される香りの固有状態とする。すなわち
質量固有値を m12, m2
2で表す。理由は
と近似でき、基準点を変えることにより第1項を、さらに分母の2Eもまた共通の規格化因子として省略できるからである。
混合がなければ、香りの固有状態 νe , νm は質量固有状態 ν1 , ν2 に一致する。
混合がある場合、香りの状態に対するハミルトニアンは、対角行列ではなく一般形を次のように現す。
質量固有値と混合角が分かっている場合には、次のように表すことができる。
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補足:
物質中での質量の導き方
(続き):
物質中では、物質との相互作用があるので、ハミルトニアンが
のように変更される。 δm はZ0交換による反応の寄与で νe , νμ
に共通であるが、
は交換による反応で、電子との散乱では νe にのみに寄与する。変更されたハミルトニアンの
質量固有値を解けば
となる。もし混合がなければ (θ=0)、質量固有値は
となり、電子ニュートリノの質量は、電子数密度 ne の関数となり、先の図の点線を再現する。
混合があれば解は実線で表され二つの解が交わることはない。負符合解は ne の小さいところでは νe 、ne の大きいところでは νμ
となり、正符号解は逆となる。
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太陽ニュートリノの強度だけ測ると、tan2θ−Δm2 平面で3角形の許される領域が得られる。
物質効果のニュートリノ振動に与える効果一つの線は同じ減衰を与える。大きな減衰は3角形領域となる。
ニュートリノ強度の一つの観測値を得ると3角形の許容領域が得られる。
SuperKはエネルギースペクトル、昼夜変化
も測れるので、より厳しい制限を与えた。
加速器実験を含む全世界データ
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世界中の太陽ニュートリノデータを集めて、解が4つに絞られた。
解を求めるには、より精密な太陽ニュートリノ観測を行うか、
あるいは地上で、原子炉からのニュートリノ振動を見る。
太陽ニュートリノ
=
原子炉ニュートリノ=
CPT 保存を仮定すれば同じこと
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5.KAMLAND実験 太陽ニュートリノ振動解を決定。
原子炉ニュートリノ ( ) を見る。
KAMIOKANDE(SuperKの前身)跡地に設置した1000トンの液体シンチレータータンク
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KAMLAND:
ニュートリノ源(ウラニウムベータ崩壊などの
)
日本中にある原子炉全て。距離と方向運転時間が判るので飛来ニュートリノ強度も判る。ほとんど180km付近に集中している。
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カムランド実験:
太陽ニュートリノ振動の
LMA
解を特定した。
ニュートリノ振動が見えた!
実際の原子炉分布を考慮
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6.K2K 実験:
加速器実験でニュートリノ振動を初めて見た。
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KEK
SuperKAMIOKANDE
250km
ニュートリノビーム
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K2K実験は加速器を使って初めてニュートリノ振動を見た。結果はスーパーKAMIOKANDE実験結果を再確認。ほぼ同じ頃やや遅れて、アメリカでもMINOS実験を行いやはり同じ結果を得た。
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結 論
スーパーカミオカンデ実験の発見したニュートリノ振動は複数の実験により確認された。
標準モデルを越える初めての、そして今のところ唯一の現象。
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ニュートリノ振動では質量の2乗差Δm2ij =m2
i -m2j と混合角のみ判る。
観測される電子ニュートリノやミューオンニュートリノなどは混合状態。3種類のニュートリノでは
通常階層
逆階層質量階層:
ニュートリノのみ極端に小さい
mν
≠0 標準理論外。 しかし、質量が他に比べ極端に小さい 新たな謎
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シーソーメカニズム
以下の方程式はマヨラナニュートリノの時成立する。N1 =左巻き、N2 =右巻きニュートリノ。
mR >>mD , mL ~0 の時
次の質量行列を持つニュートリノの固有解は
固有状態ニュートリノ(ν’)はほとんど左巻きであるが、右巻き
成分をわずかに持つ。質量が負なのは構わない。適当な変換で正にできる。
mR を大きくとればmν’
を小さくできる。(シーソーメカニズム)
すなわち、ニュートリノ質量が小さいのは右巻き質量が大きいからで、非常に高エネルギー領域の物理の情報を含むと考えられている。
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ニュートリノ振動:
終わり
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予備スライド
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2009.02.09-10 島根大学集中講義 40
2009.02.09-10 島根大学集中講義 41
2009.02.09-10 島根大学集中講義 42
2009.02.09-10 島根大学集中講義 43