パワー半導体特集 - fuji electric€¦ · 目 次 21世紀のパワーデバイス...

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昭和 40 年 6 月 3 日 第三種郵便物認可 平成 13 年 2 月 10 日発行(毎月 1 回 10 日発行)富士時報 第 74 巻 第 2 号(通巻第 791 号) ISSN 0367 - 3332 聞こえてきますか、技術の鼓動。 パワー半導体特集

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Page 1: パワー半導体特集 - Fuji Electric€¦ · 目 次 21世紀のパワーデバイス ワイドギャップ半導体 102(2) 赤木 泰文 パワー半導体の現状と動向

昭和40年6月3日 第三種郵便物認可 平成13年2月10日発行(毎月1回10日発行)富士時報 第74巻 第2号(通巻第791号) ISSN 0367-3332

聞こえてきますか、技術の鼓動。

パワー半導体特集

定価525円(本体500円)

昭和40年6月3日 第三種郵便物認可 平成13年2月10日発行(毎月1回10日発行)富士時報 第74巻 第2号(通巻第791号)

パワー半導体特集

本誌は再生紙を使用しています。

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本 社 事 務 所 1(03)5435-7111 〒141-0032 東京都品川区大崎一丁目11番2号(ゲートシティ大崎イーストタワー)

北 海 道 支 社 1(011)261-7231 〒060-0042 札幌市中央区大通西四丁目1番地(道銀ビル)東 北 支 社 1(022)225-5351 〒980-0811 仙台市青葉区一番町一丁目2番25号(仙台NSビル)北 陸 支 社 1(076)441-1231 〒930-0004 富山市桜橋通り3番1号(富山電気ビル)中 部 支 社 1(052)204-0290 〒460-0003 名古屋市中区錦一丁目19番24号(名古屋第一ビル)関 西 支 社 1(06)6455-3800 〒553-0002 大阪市福島区鷺洲一丁目11番19号(富士電機大阪ビル)中 国 支 社 1(082)247-4231 〒730-0021 広島市中区胡町4番21号(朝日生命広島胡町ビル)四 国 支 社 1(087)851-9101 〒760-0017 高松市番町一丁目6番8号(高松興銀ビル)九 州 支 社 1(092)731-7111 〒810-0001 福岡市中央区天神二丁目12番1号(天神ビル)

北 関 東 支 店 1(048)526-2200 〒360-0037 熊谷市筑波一丁目195番地(能見ビル)首 都 圏 北 部 支 店 1(048)657-1231 〒330-0802 大宮市宮町一丁目38番1号(野村不動産大宮共同ビル)首 都 圏 東 部 支 店 1(043)223-0701 〒260-0015 千葉市中央区富士見二丁目15番11号(日本生命千葉富士見ビル)神 奈 川 支 店 1(045)325-5611 〒220-0004 横浜市西区北幸二丁目8番4号(横浜西口KNビル)新 潟 支 店 1(025)284-5314 〒950-0965 新潟市新光町16番地4(荏原新潟ビル)長 野 シ ス テ ム 支 店 1(026)228-6731 〒380-0836 長野市南県町1002番地(陽光エースビル)長 野 支 店 1(0263)36-6740 〒390-0811 松本市中央四丁目5番35号(長野県鋳物会館)東 愛 知 支 店 1(0566)24-4031 〒448-0857 刈谷市大手町二丁目15番地(センターヒルOTE21)兵 庫 支 店 1(078)325-8185 〒650-0033 神戸市中央区江戸町95番地(井門神戸ビル)岡 山 支 店 1(086)227-7500 〒700-0826 岡山市磨屋町3番10号(住友生命岡山ニューシティビル)山 口 支 店 1(0836)21-3177 〒755-8577 宇部市相生町8番1号(宇部興産ビル)松 山 支 店 1(089)933-9100 〒790-0878 松山市勝山町一丁目19番地3(青木第一ビル)沖 縄 支 店 1(098)862-8625 〒900-0005 那覇市天久1131番地11(ダイオキビル)

道 北 営 業 所 1(0166)68-2166 〒078-8801 旭川市緑が丘東一条四丁目1番19号(旭川リサーチパーク内)北 見 営 業 所 1(0157)22-5225 〒090-0831 北見市西富町163番地30釧 路 営 業 所 1(0154)22-4295 〒085-0032 釧路市新栄町8番13号道 東 営 業 所 1(0155)24-2416 〒080-0803 帯広市東三条南十丁目15番地道 南 営 業 所 1(0138)26-2366 〒040-0061 函館市海岸町5番18号青 森 営 業 所 1(0177)77-7802 〒030-0861 青森市長島二丁目25番3号(ニッセイ青森センタービル)盛 岡 営 業 所 1(019)654-1741 〒020-0034 盛岡市盛岡駅前通16番21号(住友生命盛岡駅前ビル)秋 田 営 業 所 1(018)824-3401 〒010-0962 秋田市八橋大畑一丁目5番16号山 形 営 業 所 1(023)641-2371 〒990-0057 山形市宮町一丁目10番12号新 庄 営 業 所 1(0233)23-1710 〒996-0001 新庄市五日町1324番地の6福 島 営 業 所 1(024)932-0879 〒963-8033 郡山市亀田一丁目2番5号い わ き 営 業 所 1(0246)27-9595 〒973-8402 いわき市内郷御厩町二丁目29番地水 戸 営 業 所 1(029)231-3571 〒310-0805 水戸市中央二丁目8番8号(櫻井第2ビル)茨 城 営 業 所 1(029)266-2945 〒311-1307 茨城県東茨城郡大洗町桜道304番地(茨交大洗駅前ビル)金 沢 営 業 所 1(076)221-9228 〒920-0031 金沢市広岡一丁目1番18号(伊藤忠金沢ビル)福 井 営 業 所 1(0776)21-0605 〒910-0005 福井市大手二丁目7番15号(安田生命福井ビル)山 梨 営 業 所 1(055)222-4421 〒400-0858 甲府市相生一丁目1番21号(清田ビル)松 本 営 業 所 1(0263)33-9141 〒390-0811 松本市中央四丁目5番35号(長野県鋳物会館)岐 阜 営 業 所 1(058)251-7110 〒500-8868 岐阜市光明町三丁目1番地(太陽ビル)静 岡 営 業 所 1(054)251-9532 〒420-0053 静岡市弥勒二丁目5番28号(静岡荏原ビル)浜 松 営 業 所 1(053)458-0380 〒430-0945 浜松市池町116番地13(山崎電機ビル)和 歌 山 営 業 所 1(073)432-5433 〒640-8052 和歌山市鷺ノ森堂前丁17番地鳥 取 営 業 所 1(0857)23-4219 〒680-0862 鳥取市雲山153番地36〔鳥電商事(株)内〕倉 吉 営 業 所 1(0858)23-5300 〒682-0802 倉吉市東巌城町181番地(平成ビル)山 陰 営 業 所 1(0852)21-9666 〒690-0007 松江市御手船場町549番地1号(安田火災松江ビル)徳 島 営 業 所 1(088)655-3533 〒770-0832 徳島市寺島本町東二丁目5番地1(元木ビル)高 知 営 業 所 1(088)824-8122 〒780-0870 高知市本町四丁目1番16号(高知電気ビル別館)小 倉 営 業 所 1(093)521-8084 〒802-0014 北九州市小倉北区砂津二丁目1番40号(富士電機小倉ビル)長 崎 営 業 所 1(095)827-4657 〒850-0037 長崎市金屋町7番12号熊 本 営 業 所 1(096)387-7351 〒862-0950 熊本市水前寺六丁目27番20号(神水恵比須ビル)大 分 営 業 所 1(097)537-3434 〒870-0036 大分市寿町5番20号宮 崎 営 業 所 1(0985)20-8178 〒880-0805 宮崎市橘通東三丁目1番47号(宮崎プレジデントビル)南 九 州 営 業 所 1(099)224-8522 〒892-0846 鹿児島市加治屋町12番7号(日本生命鹿児島加治屋町ビル)

エ ネ ル ギ ー 製 作 所 1(044)333-7111 〒210-9530 川崎市川崎区田辺新田1番1号変電システム製作所 1(0436)42-8111 〒290-8511 市原市八幡海岸通7番地東京システム製作所 1(042)583-6111 〒191-8502 日野市富士町1番地神 戸 工 場 1(078)991-2111 〒651-2271 神戸市西区高塚台四丁目1番地の1鈴 鹿 工 場 1(0593)83-8100 〒513-8633 鈴鹿市南玉垣町5520番地回 転 機 工 場 1(0593)83-8100 〒513-8633 鈴鹿市南玉垣町5520番地松 本 工 場 1(0263)25-7111 〒390-0821 松本市筑摩四丁目18番1号山 梨 工 場 1(055)285-6111 〒400-0222 山梨県中巨摩郡白根町飯野221番地の1吹 上 工 場 1(048)548-1111 〒369-0192 埼玉県北足立郡吹上町南一丁目5番45号大 田 原 工 場 1(0287)22-7111 〒324-8510 大田原市中田原1043番地三 重 工 場 1(0593)30-1511 〒510-8631 四日市市富士町1番27号

(株)富士電機総合研究所 1(0468)56-1191 〒240-0194 横須賀市長坂二丁目2番1号(株)FFC 1(03)5351-0200 〒151-0053 東京都渋谷区代々木四丁目30番3号(新宿コヤマビル)

スイッチング電源の高効率化, 高周波化を実現。

微細加工技術,抵抗低減技術,ゲート面積低減技術を駆使した

低損失・高速パワーMOSFET

●低ゲートチャージ(Q )

 当社従来比40%

●ターンオフスイッチング損失(E  )の低減

 当社従来比75%

●高アバランシェ耐量

●パッケージの小型化を実現

富士パワーMOSFET 「Super FAP-Gシリーズ」

Super FAP-Gシリーズ

2SK3514-01 TO-2202SK3515-01MR TO-220F2SK3517-01 TO-2202SK3518-01MR TO-220F2SK3519-01 TO-2202SK3520-01MR TO-220F2SK3468-01 TO-2202SK3469-01MR TO-220F2SK3504-01 TO-2202SK3505-01MR TO-220F2SK3522-01 TO-2472SK3523-01R TO-3PF2SK3524-01 TO-2202SK3525-01R TO-220F2SK3501-01 TO-2202SK3502-01MR TO-220F2SK3450-01 TO-2202SK3451-01MR TO-220F2SK3527-01 TO-2472SK3528-01R TO-3PF2SK3529-01 TO-2202SK3530-01MR TO-220F2SK3531-01 TO-2202SK3532-01MR TO-220F2SK3533-01 TO-2202SK3534-01MR TO-220F2SK3474-01 TFP 150V 23A2SK3535-01 TFP 250V 24A 105mΩ

500V

800V

900V

8A

5A

8A

12A

14A

21A

6A

10A

17A

12A

5A

4.6A

5.5A

450V

500V

500V

500V

500V

600V

600V

600V

600V

900V

0.46Ω

0.65Ω

1.5Ω

0.85Ω

0.26Ω

1.2Ω

0.75Ω

0.65Ω

0.37Ω

1.9Ω

2.0Ω

70mΩ

2.5Ω

0.52Ω

DSS D DS(on)

off

50

40

30

200.3 0.4 0.5 0.6 0.7

従来品

R   (Ω)

600V/0.75 Ω デバイス

E (

J)at

V

=30

0V,

I =

10A

,R

=

10 Ω

DS(on)

off

ccG

D

g

Super FAP-Gシリーズ

型 式 パッケージ V I R

お問合せ先:電子カンパニー パワー半導体事業部 電話(03)5435-7160

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目 次

21世紀のパワーデバイス ワイドギャップ半導体 102(2)赤木 泰文

パワー半導体の現状と動向 103(3)関 康 和

サイリスタ内蔵パワー集積モジュール 106(6)佐 藤 卓 ・ 小林 靖幸

大容量6 in1 IGBTモジュール「EconoPACK-Plus」 110(10)渡 新一 ・ 別田 惣彦

低損失・超高速パワーMOSFET「Super FAP-Gシリーズ」 114(14)山田 忠則 ・ 黒 崎 淳 ・ 阿 部 和

ハイサイド高機能MOSFET 118(18)鳶坂 浩志 ・ 大江 崇智 ・ 市 村 武

電源用マルチチップパワーデバイス「M-POWER」 122(22)太田 裕之 ・ 寺沢 徳保

超薄型パワーSMD 127(27)梅本 秀利 ・ 古島 達弥

電子レンジ用高圧ダイオード 132(32)久保山貴博 ・ 渡島 豪人

4.5 kV高耐圧平型 IGBT 137(37)藤井 岳志 ・ 川 功 ・ 松原 邦夫

600 Vスーパー LLD 141(41)北村 祥司 ・ 松井 俊之

パワー半導体モジュールにおける信頼性設計技術 145(45)両 角 朗 ・ 山田 克己 ・ 宮坂 忠志

過渡オン状態からのダイオード逆回復現象の解析 149(49)長畦 文男 ・ 田上 三郎 ・ 桐畑 文明

パワー半導体特集

パワーエレクトロニクスを支える電力変換

用素子において,富士電機の IGBTモジュー

ルは市場で高い評価を得てきた。最近では

IGBTモジュールのさらなる大容量化が求め

られており,40 kW~ 1MWクラスと大き

な電力変換容量を扱えるものが求められるよ

うになってきた。

富士電機ではこのような大容量化への要求

に応じて新たに「EconoPACK-Plus」を製

品化する。これは徹底した小型化と,使いや

すさを追求したものでこれからの富士電機の

大容量 IGBTモジュールの標準となるもので

ある。

表紙写真は「EconoPACK-Plus」と内蔵

するデバイスの等価回路をイメージ化したも

のである。

表紙写真

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パワー半導体デバイス(以下,パワーデバイスと略す)

の発展には目覚しいものがある。1957年に米国の General

Electric 社が pnpn 構造のサイリスタの開発・実用化に成

功した。当時,SCR(Silicon-Controlled Rectifier)と呼ば

れたサイリスタの定格は 400V,16Aであった。その後,

ゲートターンオフ機能を有する GTOサイリスタへ発展し

た。一方,npn 構造のトランジスタの大容量化が進み,

1980年頃にはパワートランジスタという用語が定着した。

さらにMOSFETとパワートランジスタの長所を兼備した

IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)へ発展した。

その結果,これらのパワーデバイスを使用した電力変換シ

ステムの発展も目覚しく,現在では数Wのスイッチング

電源から 6.3 GWの直流送電(ブラジル)にいたるまで,

その応用分野も多岐にわたっている。

筆者は,1986年 2 月に 500V/50A IGBT を初めて入手

し,コロナ放電処理システムに使用する 40 kHz 5 kWの電

圧形インバータの研究に着手した。実際に IGBTを使用し

てみると,パワートランジスタに比べてドライブ回路の消

費電力がはるかに少ないこと,ターンオン・オフが高速で

あることなど,パワーデバイスとしての優れた特性を実感

した。IGBTを採用したことによって高周波インバータの

研究も順調に進み,当初の計画を達成することができた。

以後は,筆者の研究室で設計・製作する電圧形 PWMイン

バータには IGBTを使用するようになった。従来のパワー

トランジスタを使用した場合には,スイッチング周波数が

1~ 2 kHz に制限されていた。これに対して,最新の

IGBTを使用した場合には 10 ~ 20 kHz が可能であり,AC

モータ駆動システムの制御性能や電力用アクティブフィル

タの高調波補償特性を大幅に改善することができた。

IGBTの開発当時,その耐圧限界は 2kV程度と考えら

れていたので,筆者は新幹線のメインモータ駆動用インバー

タに IGBTが採用されるようになるとは夢にも思わなかっ

た。それが1999年 3 月に営業運転を開始した「700 系のぞ

み」には 2.5 kV IGBTが実際に使用されている。現在では

4.5 kV/2 kA IGBT の開発が進められており,数年後には

「のぞみ」のメインモータ駆動用インバータに採用される

のは間違いない。その結果,インバータ主回路と周辺回路

の一層の簡単化・低損失化が図られるであろう。一方,600

V,1.2 kV IGBT の低損失化の研究も進み,オン電圧は

600V 耐圧で 1.0V,1.2 kV 耐圧で 1.5V が期待されている。

21世紀のパワーデバイスは,さらなる高圧・大電流,高

速・低損失を追求した,より理想的なスイッチとして動作

するであろう。その根幹をなす新しい概念・技術は,

三次元デバイス構造

ワイドギャップ半導体

上記を融合した究極のパワーデバイス

などである。最近,2.5 kV Si-IGBT と SiC-PiN ダイオー

ドを逆並列に接続し,圧接形パッケージに組み込んだパワー

デバイスが発表された。ダイオードのターンオフ時間は

400ns,逆回復電荷は 4μCであり,ターンオフ損失は 4mJ

である。ちなみに同一条件,同一定格の Si-PiN ダイオー

ドのターンオフ損失は 130mJ である。このように,実用

化レベルにおいても SiC-PiN ダイオードの優れたターン

オフ特性が実証されており,数年先には製品化が期待され

ている。一方,SiC-MOSFETや SiC-SIT(Static Induc-

tion Transistor)の製造プロセスは極めて複雑となり,製

品化には10年以上を要すると考えられている。

日本でのシリコンカーバイド(SiC)を用いたパワーデ

バイスの実用化研究は,数年前までは世界をリードしてい

たが,現在は残念ながら欧米よりも遅れているように思わ

れる。この理由の一つに,日本では大学のパワーデバイス

研究者が欧米に比べて極端に少ないことが挙げられる。日

本のパワーエレクトロニクス技術の発展のためにも大学の

パワーデバイス研究者の増員が急務である。

ワイドギャップ半導体(シリコンカーバイド,ダイヤモ

ンド)をベースにしたパワーデバイスは,電気エネルギー

の発生・輸送・変換のあらゆる分野に画期的な技術革新を

誘発する21世紀の“Key Technology”である。日本のパ

ワーデバイスが世界をリードし,パワーエレクトロニクス

技術が発展することを期待したい。

(3)

(2)

(1)

21世紀のパワーデバイスワイドギャップ半導体

赤木 泰文(あかぎ ひろふみ)

東京工業大学大学院理工学研究科教授 工学博士

102(2)

Page 5: パワー半導体特集 - Fuji Electric€¦ · 目 次 21世紀のパワーデバイス ワイドギャップ半導体 102(2) 赤木 泰文 パワー半導体の現状と動向

関  康和

パワー半導体デバイスの研究開発

に従事。現在,松本工場半導体開

発センター半導体基盤技術開発部

長。工学博士。電気学会会員。

富士時報 Vol.74 No.2 2001

まえがき

新しい世紀の幕開けである。パワー半導体の現状と動向

について述べる前に,ここで簡単に富士電機のパワーデバ

イスについて振り返ってみたい。世界の歴史を振り返ると

20世紀後半は半導体デバイスが生まれ,大きく開花した時

期であった。1948年にショックレー,ブラッテン,バー

ディーンがトランジスタを発明した当時は,まさかこのト

ランジスタがモータを回すほどの大電流を制御しうるよう

になるとは考えもしなかったのではないだろうか。小信号

動作の信号用から始まったトランジスタデバイスは,その

後 ICへと大きく展開していく一方で,パワーデバイスへ

もその適用範囲を広げていった。この新しいパワーデバイ

スは新しい制御技術をも生み出すことになり,新たにパワー

エレクトロニクス技術として発展していくことになる。

富士電機は1972年にパワートランジスタの開発に着手す

るなど早期からパワーデバイスの開発とその制御技術の開

発に着手し,今日までこの業界を常にリードし発展させ続

けてきた。

1980年代には,待望の MOS(Metal-Oxide-Semicon-

ductor)ゲート構造のパワーデバイスが誕生している。パ

ワーMOSFET(MOS Field-Effect Transistor)が誕生し,

続いて IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が発明

された。パワーMOSFET製造技術は,当時の半導体技術

の最先端をいく技術であり,パワーデバイスでありながら

LSIレベルの清浄度のクリーンルームでの製造が必要となっ

てきた。

図1に年代ごとのデバイスのデザインルールの推移を示

す。比較のために LSIメモリを併記した。1970年代の後

半,LSIメモリが数ミクロンレベルのデザインルールであっ

た時代は,パワーデバイスのサイリスタやバイポーラトラ

ンジスタは数十ミクロンレベルであった。しかし1980年代

後半になり,MOSFETや IGBTのような MOSゲートデ

バイスが誕生すると,LSIとの差は急速に縮まり,2000年

では共にサブミクロンルールでデバイス設計されるまでに

なっている。今では,パワーデバイスも LSIと同等の清

浄度のクリーンルームや製造設備で作られるようになった。

1990年に発行した『富士時報』の「MOSゲートパワー

デバイス技術特集」(Vol.63 No.9)で,「MOSゲートパワー

デバイス技術の進歩」と題して内田がMOSFETと IGBT

を解説している。当時の富士電機では第二世代の IGBTが

製品化され,第三世代の IGBTの開発が進められていた。

ここではその後の IGBTの特性改善とインテリジェント化,

大容量化などによる IGBTの発展を予測していた。

パワーデバイスの容量も大きく進展してきた。図2は,

年代別に富士電機のパワーデバイスの容量推移を示したも

のである。1970年代にディスクリートのトランジスタから

始まり,トランジスタモジュールへ,1980年代の後半から

は IGBTモジュールへと移り,2000年には平型 IGBTで

4,500 V/2,000 Aという電力を扱うデバイスが登場してい

る。この平型 IGBTの詳細は本特集号の別稿を参照された

い。

1999年に発行した『富士時報』の「パワー半導体特集」

(Vol.72 No.3)では,重兼が「パワー半導体の現状と動向」

の中で,1998年をパワーデバイスの研究開発にとって歴史

的な年と位置づけている。その理由として,パワーデバイ

スとパワー ICに関する国際学会である ISPSD(Interna-

tional Symposium on Power Semiconductor Devices &

(1)

パワー半導体の現状と動向

103(3)

関  康和(せき やすかず)

デザインルール( m)

100

10

1

0.120001995199019851980197519701965

(年)

16M ビット

4M ビット

256k ビット

1Mビット 64k ビット

16k ビット

1kビット

サイリスタ バイポーラトランジスタ

IGBT

DRAM

MOSFET

64M ビット

図1 デザインルールの推移

Page 6: パワー半導体特集 - Fuji Electric€¦ · 目 次 21世紀のパワーデバイス ワイドギャップ半導体 102(2) 赤木 泰文 パワー半導体の現状と動向

パワー半導体の現状と動向

ICs)が第10回記念大会として京都で開催されたことを挙

げている。ISPSDは(社)電気学会と米国 IEEEによって

共催され,日本,米国,欧州の 3 地域において毎年交代で

開催され,パワー半導体では最も権威ある国際学会として

位置づけられている。1988年に開催された第 1回大会では,

わずかに31件の論文しか発表されていなかったが,第10回

記念大会では70件以上,2001年 6 月に大阪で開催予定の第

13回大会では90件以上の論文が発表されるまでになり,パ

ワーデバイス研究開発の指針を与える権威を持った学会と

なっている。富士電機も第 1回大会以来連続してすべての

ISPSDで多くの論文を発表し,高い評価を得てきた。

ここ数年の ISPSDでの発表論文についてみると,次の

3テーマについて発表数が増加している。

MOSゲートデバイス(MOSFET,IGBT,MOSゲー

トサイリスタなど)

Power IC,HVIC

SiC(Silicon Carbide)

などである。パワーデバイスの研究開発動向としてMOS

ゲートデバイスは相変わらず盛んであるが,2001年に大阪

で開催予定の ISPSDでは,次世代パワーデバイス材料と

しての SiCに関する多くの論文が採択されているのが特徴

である。

富士電機のデバイス開発の動向

半導体デバイスの開発は,微細化とデバイスデザインの

最適化の歴史である。近年,シミュレーション技術が発達

し,デバイス特性を精度よく予測しうるようになった。デ

バイスシミュレーション,プロセスシミュレーションばか

りでなく,熱伝導やストレスなども組み込んだ統合シミュ

レーションシステムもデバイス開発に大きな助けとなって

いる。富士電機は早くから種々のシミュレーションツール

を導入し,デバイス開発を促進させてきた。

本章では富士電機製パワーデバイスの開発動向の最前線

として代表的なパワーMOSFET,IGBTそしてアセンブ

リ技術について概説する。

2.1 Super FAP-Gシリーズ

パワーMOSFETについて富士電機では新たに「Super

FAP-Gシリーズ」を開発した。詳細は本特集号の別稿を

参照されたい。ユニポーラデバイスであるパワー MOS

FETは,耐圧を確保しつついかにオン抵抗を低減できる

かが最大の開発課題である。Super FAP-Gシリーズでは,

高い開発目標を掲げて開発に着手し,シリコンで達成しう

る理論限界の低オン抵抗値を狙って設計した。目標仕様を

達成するために微細加工技術を用いたのはもちろんである

が,ストライプ構造セルを用いてセル構造部の電界を最適

に緩和させ,低抵抗エピタキシャル層でも所望の耐圧を達

成できるように設計しており,低抵抗エピタキシャル層で

のシリコン理論耐圧限界にほぼ近い耐圧を達成させている。

これにより,600 V 素子では従来素子に比較して,約 1/2

の Ron・Aを達成した。また,適用の一例としてスイッチ

ング電源に使用した際にはスタンバイモードで従来製品比

で 35 %のパワーMOSFET損失の低減が実測されており,

それに伴って変換効率も 3.2 %の改善がみられる。また,

定常負荷では温度上昇値が約 20 ℃低くなるなど期待の大

(3)

(2)

(1)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

104(4)

デバイス容量(MVA)

101

100

10-1

10-2

10-320021998199419901986198219781974

(年)

ディスクリート BJT

BJTモジュール

IGBTモジュール

平型IGBT

1,400 V 300 A

1,200 V 800 A

2,000 V 400 A

3,300 V 1,200 A

2,500 V 1,800 A

4,500 V 2,000 A

図2 パワーデバイスの容量推移

解 説 パンチスルー(PT)型とノンパンチスルー(NPT)型 IGBT

IGBTの空乏層の広がり方の比較

X

E(V/cm)

X

∫ - = Edx V∫ - = Edx V

E(V/cm)

p

NPT IGBTPT IGBT

コレクタ

コレクタ

エミッタ

エミッタ

n n+ p+ p n p+

IGBTチップにおける内部構造の違いで,オフ時に

エミッタ側から広がる空乏層が,コレクタ側の p+層

に届かないものを NPT型の IGBTと呼び,コレクタ

側に形成された n+バッファ層に空乏層が届くものを

PT型の IGBTと呼ぶ。

一般的に NPT型の IGBTは FZウェーハを,PT型

ではエピタキシャルウェーハを使用している。NPT

型ではキャリヤの注入効率を下げて,輸送効率を上げ

ている。エピタキシャルウェーハを用いた PT型では,

注入効率を上げてライフタイム制御を行い,輸送効率

を下げてスイッチング速度を上げている。

Page 7: パワー半導体特集 - Fuji Electric€¦ · 目 次 21世紀のパワーデバイス ワイドギャップ半導体 102(2) 赤木 泰文 パワー半導体の現状と動向

パワー半導体の現状と動向

きなデバイスである。本シリーズは 150Vから 900Vまで

のラインアップを計画しており,2000年度から2001年度に

かけて順次製品化していく予定である。

2.2 IGBTの動向

富士電機は IGBTを1988年から製品化を始め,市場に供

給してきた。数年間隔で,世代交代を繰り返しながら,第

一世代,第二世代そして新第三世代と特性改善は急速に進

められてきた。まさに20世紀の最後の10年間は IGBTの全

盛期であり,21世紀に入ってもなおこの動きは当分続くも

のと予想している。従来の第一世代から新第三世代までの

IGBTチップはエピタキシャルウェーハを用い,なおかつ

ライフタイム制御によりスイッチングスピードをコントロー

ルする中での特性改善であった。次の世代の IGBTチップ

は,エピタキシャルウェーハを使用せずに,FZ(Float-

ing Zone)ウェーハを用い,なおかつライフタイム制御を

しない NPT(Non-Punch Through)型や PT(Punch

Through)型を開発している。富士電機では1999年に

1,200V IGBTモジュールにおいて第四世代 IGBT Sシリー

ズとして NPT型チップを用いた IGBTモジュールを製品

化した。

600Vや 1,200 Vクラスの IGBTチップでは,FZウェー

ハを用いたチップを作成しようとすると,ウェーハの厚さ

を従来のおよそ 1/3 以下にしなければならず,これを実現

するためにはウェーハプロセス技術においても大きな技術

革新が必要である。富士電機ではこの FZウェーハを用い

た IGBTチップ技術開発に注力し,第四世代の 1,200 V

IGBTモジュール Sシリーズを皮切りとして,順次 FZ化

していく予定である。

本特集号の別稿ではさらにこの第四世代の次の新世代

IGBTチップを用いて,新たなパッケージとした「Econo

PACK-Plus」を紹介している。これは大容量化に対応し

たもので,富士電機では 1,200 V,225 Aから 450 Aまで

の系列化を計画している。この EconoPACK-Plusでは,

今回新たに開発した FZウェーハを用いた PT型のチップ

を採用して大幅な特性改善を実現させた。また同時に使用

するダイオードも改善を加え,総合的に損失を大きく低減

させている。

図3に 1,200V,300Aの IGBTモジュールを使用した際

のインバータでの損失低減推移を示す。これは 55 kWの

インバータでの一例を示したものであるが,1990年に製品

化した第二世代(Lシリーズ)から1994年に製品化した新

第三世代(Nシリーズ)へ,そして1999年に製品化した第

四世代(Sシリーズ)と今回の新世代 IGBTモジュールで

の損失低減推移を示している。

2.3 アセンブリ技術

パワーデバイスでは,パワーチップとそのアセンブリ技

術はデバイス技術の両論である。近年特にパワーマネジメ

ントの観点から,チップで発生する熱をどのように扱うの

かが強く求められるようになってきた。特に高信頼性をど

のように確保していくのかが最も重要なことである。

富士電機ではこれまでもパワーデバイスの信頼性につい

て積極的に研究開発を進めてきた。本特集号では新たな視

点から,モジュール構造におけるパワーサイクル寿命を詳

細に解析し,ワイヤボンディングの問題,はんだクラック

の問題などモジュールの信頼性を阻害する原因と対策を追

究している。またこの解析結果と環境対策を十分に意識し

て,高信頼性を有する SnAg 系鉛レスはんだを新たに開

発した。これまでの鉛はんだであっても,十分なパワーサ

イクル耐量は確保されているが,この新しい SnAg 系鉛

レスはんだを適用したモジュールではさらに高いパワーサ

イクル耐量を示すことを確認している。この新しいはんだ

を富士電機のパワートランジスタモジュールに順次適用し,

さらに信頼性の高いモジュールを製品化する予定である。

あとがき

パワー半導体技術は急速な速さで進歩しており,一刻た

りとも気を休めることを許さない。冒頭でも述べたが,20

世紀の最後の10年は大きな変化が押し寄せた。まさにパワー

デバイスのルネッサンスともいうべき時代であり,筆者も

その渦中にいることのできる幸せを感じている一人である。

本稿では開発動向の最前線として,パワーMOSFET,

IGBT,アセンブリ技術などを紹介したが,そのほかにも

パワーデバイスのインテリジェント化技術も欠かせない重

要な技術である。これらの技術なくしてお客様のパワーデ

バイスの「使いやすさ」の実現はないとまで考えている。

われわれ自身がこの「使いやすさ」を実現させ,なおか

つ品質に対して「Quality is our message」と宣言し,

お客様に十分に満足していただける製品を提供していく所

存である。

参考文献

Fujii, T. et al. 4.5 kV-2000A Power Pack IGBT. Proceed-

ings of ISPSD’00. 2000, p.33-36.

(1)

105(5)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

消費電力(W)

400

300

VCE(sat)

Eoff

Eon

55kWインバータ T j =125 ℃ I o=112 Armsf o=50 Hz, fc=6 kHzφ cos =0.85

200

100

0

第二世代 (Lシリーズ)

新第三世代 (Nシリーズ)

第四世代 (Sシリーズ)

新世代 IGBT

図3 各世代 IGBTモジュール(1,200 V,300 A)を用いた

インバータ損失比較

Page 8: パワー半導体特集 - Fuji Electric€¦ · 目 次 21世紀のパワーデバイス ワイドギャップ半導体 102(2) 赤木 泰文 パワー半導体の現状と動向

佐藤  卓

IGBTモジュールの開発・設計に

従事。現在,富士日立パワーセミ

コンダクタ(株)松本事業所開発設

計部。

小林 靖幸

IGBTモジュールの開発・設計に

従事。現在,富士日立パワーセミ

コンダクタ(株)松本事業所開発設

計部。

富士時報 Vol.74 No.2 2001

まえがき

IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)は,近年の

飛躍的なパワーエレクトロニクスの発展に伴って,主に産

業分野において,従来のバイポーラトランジスタに代わっ

て大きな注目を浴び,世代を重ねるにつれ発展してきた。

IGBTは特にインバータ装置へ適用する目的で,複数個の

IGBTチップ,ダイオードチップを搭載し,絶縁板および

ベース板とともにパッケージ化された IGBTモジュールと

して,産業,交通,家電などの幅広い分野で適用されてき

ている。

また,IGBTモジュールはインバータ装置の小型化,高

性能化への要求から,さらなるハイブリッド化を行うこと

を目的に,インバータ回路に加え,入力電流の整流回路,

回生用のダイナミックブレーキ回路を 1パッケージ内に収

めたパワー集積モジュール(PIM:Power Integrated

Module)に発展してきている。

富士電機では,すでに Nシリーズ IGBT-PIMを1995年

に,さらに第四世代 Sシリーズ Econo PIMを1999年に発

売しているが,市場からはさらなる高機能化への要求が高

まってきた。本稿においては,Econo PIMに直流中間コ

ンデンサへの突入電流制御回路用サイリスタを内蔵した

PIMについて紹介する。

インバータ回路の構成とPIMの課題

図1に電圧形インバータの回路構成を示す。インバータ

回路には,用途により幾つかの種類があるが,電圧形イン

バータ方式は,現在市場で最も多く適用されているもので

ある。この中で,パワー半導体デバイスが適用されている

ものは,交流電流を整流し直流電流に変換するコンバータ

回路部,直流電流を PWM(Pulse Width Modulation)制

御により交流電流を出力するインバータ回路部,モータの

回生動作時に発生するエネルギーによる電圧の上昇を抑制

するダイナミックブレーキ回路部がある。

これらの各回路部は,インバータ装置の容量に応じ,単

独のトランジスタチップを内蔵するディスクリートトラン

ジスタ,ダイオード製品, 1 個組~ 7個組のトランジスタ

モジュール,ダイオードモジュールなどが選定されるが,

比較的小容量の分野においては,それぞれの部品への回路

配線が複雑になることや,インバータ装置への実装の手間

がかかること,さらにこの部分がインバータの主回路にあ

たることから,絶縁や放熱設計に多大な労力がかかること

が問題となっていた。

このため,インバータの主回路部を一つのパッケージに

収めた PIMが製品化されてきた。

この PIMの市場要求を満足し,適用拡大を図るために

は,以下のような課題がある。

低損失化による高効率化

モジュール外形の小型化

ピン形状端子によるはんだ付け実装の容易化

温度センサ内蔵によるチップ温度保護の確実化

系列充実による同一外形インバータへの適用拡大

周辺回路部を 1パッケージに取り込んだ高機能化(6)

(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

(1)

サイリスタ内蔵パワー集積モジュール

106(6)

佐藤  卓(さとう たく) 小林 靖幸(こばやし やすゆき)

入力

出力

駆動回路

突入電流 制御回路部 コンバータ

回路部 インバータ回路部

ダイナミック ブレーキ 回路部

保護回路

制御回路

図1 電圧形インバータの回路構成

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サイリスタ内蔵パワー集積モジュール

サイリスタ内蔵PIMの開発

章で述べた課題に対し,富士電機はこれまでインバー

タ回路の主回路を構成するパワー半導体素子を一つのパッ

ケージに収めた PIMの製品開発を促進し,系列化してき

た。今回,これらの製品にさらに直流中間コンデンサの突

入電流制御回路用のサイリスタを内蔵した製品を開発した。

本製品の特徴を以下に述べる。

3.1 インバータ装置のさらなる小型化と簡素化を実現

近年,インバータ装置のさらなる小型化,簡素化の要求

は強く,製品の小型化の課題はもちろんのこと,装置全体

としての小型化が一番の課題であり,製品開発においては

周辺回路を踏まえた総合設計が重要となる。従来インバー

タ装置では,図2に示すように中間コンデンサの突入電流

を抑制する回路として充電抵抗と電磁開閉器などのメカニ

カルリレーが適用されてきた。しかし,富士電機はさらな

る装置の小型化,簡素化に向け,メカニカルリレーに替わっ

てこれまでの PIMにさらに直流中間コンデンサの突入電

流制御回路用のサイリスタを内蔵した製品を開発した。こ

れにより,従来メカニカルリレーで入力電圧ごとに必要だっ

た個別設計を共通簡素化するとともに装置の大幅な小型化

を可能にした。図3に示すように,従来のインバータ回路

部,ダイナミックブレーキ回路部のパワー素子のみで構成

されているモジュール製品では,整流回路,メカニカルリ

レーが別途必要となり,本製品は従来製品と比較すると,

装置の小型化が非常に容易となったことが分かる。また,

半導体素子を使用しコンタクタ接点フリー化を実現したこ

とにより,高信頼性,接点開閉時のノイズ低減,機械接点

では対応しきれない瞬時停電復帰時の突入電流抑制などを

実現した。

3.2 製品の特徴

豊富な製品系列

600 V/20 ~ 100 A,1,200 V/10 ~ 50 A,1,400 V/15 ~

50Aの系列化(パッケージ 2 種類)

最新の第四世代 IGBTチップを採用し低損失化

全電極端子がピン形状でプリント基板にはんだ付け実

装が容易

薄型かつ小型のパッケージで適用装置の小型化が可能

3.3 第四世代 IGBTチップ適用による低損失化

IGBTモジュールはその高速スイッチング性能から適用

範囲を拡大してきたが,近年さらなる特性改善が求められ

てきている。具体的には,装置の小型化,低騒音化,省エ

ネルギー化,装置の信頼性寿命向上などの要求があり,こ

れらの要求から,IGBTモジュールには低損失化が強く求

められている。

本製品では,第四世代 IGBTチップ,および順電圧(VF)

を低減させた FWD(Free Wheeling Diode)を搭載する

ことにより,図4に示すように 600V系,1,200V系,1,400

V 系それぞれにおいてインバータ動作時の発生損失を N

シリーズ PIMと比較して約 20 %改善している。

第四世代 IGBTチップは,セルの微細化技術を適用し,

(4)

(3)

(2)

(1)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

107(7)

突入電流 制御回路

入力

i ①

i ①

i si s

VDC

VDC

i ②

i ②

充電抵抗

0

サイリスタ オン

中間

コンデンサ

図2 突入電流制御回路と動作波形

図3 一般的な従来インバータの構成との比較

(a)従来構成〔IGBTモジュール+ダイオードモジュール+メカニカルリレー〕

(b)サイリスタ内蔵PIM

発生損失(計算結果)(W)

70

60

50

40

30

20

10

0第四世代 IGBT

Nシリーズ IGBT

(a)600V/100A IGBT実機発生損失内訳(計算結果)

リカバリー損失

ターンオン損失

ターンオフ損失

F 損失 V

CE(sat)損失 V

(11 kW  100%負荷)

(3φ PWM)

cos =0.9φ oI =49 Arms

cf =10 kHz

dcE =300 V

GEV =±15 V

gR =24 Ω

j =125 ℃ T

発生損失(計算結果)(W)

40

20

30

10

0第四世代 IGBT

Nシリーズ IGBT

(b)1,200V/50A IGBT実機発生損失内訳(計算結果)

リカバリー損失

ターンオン損失

ターンオフ損失

F 損失 V

CE(sat)損失 V

シミュレーション 条件

シミュレーション 条件

(7.5 kW  100%負荷)

(3φ PWM)

cos =0.9φ oI =16 Arms

cf =10 kHz

dcE =600 V

GEV =±15 V

gR =24 Ω

j =125 ℃ T

図4 インバータ動作時の発生損失比較

Page 10: パワー半導体特集 - Fuji Electric€¦ · 目 次 21世紀のパワーデバイス ワイドギャップ半導体 102(2) 赤木 泰文 パワー半導体の現状と動向

サイリスタ内蔵パワー集積モジュール

コレクタ - エミッタ間飽和電圧(VCE(sat))とターンオフ損

失(Eoff)のトレードオフを改善した結果,Nシリーズに

比べ,同一の Eoffにおける VCE(sat)を約 0.5 V 低下させる

ことができた。

また,1,200 V,1,400 V 両系列では,IGBTチップに

NPT(Non-Punch Through)技術を採用し,ターンオフ

損失の温度依存性を低減した。これにより,実動作時のイ

ンバータ発生損失の低減が可能になった。

3.4 ピン端子構造の採用

従来,パワーモジュールとインバータ装置周辺回路との

接続は,制御端子部ではコネクタまたははんだ付け,主回

路部ではバスバーまたはプリント基板にねじ止めが主流で

あった。しかし,PIMが適用される容量帯においては,

生産コスト削減への強い要求があり,プリント基板へ主回

路,制御回路ともに配線し,パワーモジュールも一括して

はんだフローを行う方式が主流となってきている。本製品

では,同一面上に主回路,制御回路両方の端子を配列し,

全端子を細型のピン形状とすることにより,この方式への

対応を行っている。

108(8)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

107.5

92.7取付穴φ4.5 (2か所)

取付穴φ4.5 (2か所)

51

42

23.5

17

0.5min

0.5min

3.5

122

(a)M713

(b)M714

110

94.5

58

65.5

70

17

3.5

23.5

図6 M713,M714パッケージの外形図5 M713,M714パッケージの外観

表1 サイリスタ内蔵 IGBT-PIMの系列一覧

型 式

インバータ部 ブレーキ部 コンバータ部 サイリスタ部

V(V)

600

1,200

1,400

600

1,200

1,400

69

120

200

300

400

75

110

180

240

360

110

180

240

360

1.8

2.1

2.2

1.1

1.1

1.1

20

20

30

50

50

15

15

15

25

25

15

15

25

25

20

30

50

75

100

10

15

25

35

50

15

25

35

50

CES I(A)

C

7MBR 20SC 060

7MBR 30SC 060

7MBR 50SC 060

7MBR 75SD 060

7MBR100SD 060

7MBR 10SC 120

7MBR 15SC 120

7MBR 25SC 120

7MBR 35SD 120

7MBR 50SD 120

7MBR 15SC 140

7MBR 25SC 140

7MBR 35SD 140

7MBR 50SD 140

600

1,200

1,400

V(V)

CES I(A)

C I(A) FSMV

(V) RRM

V

(V)

DRM

VRRM

800

1,600

1,600

V代表値 (V)

CE(sat) V代表値 (V)

FM I(A) T(AV)

20

30

50

75

100

10

15

25

35

50

15

25

35

50

20

30

50

75

100

10

15

25

35

50

15

25

35

50

140

210

350

525

700

105

155

260

360

520

155

260

360

520

225

275

563

750

1,050

145

200

290

390

530

200

290

390

530

I(A)

OV(V) RRM

800

1,600

1,600

P(W)

C I(A) TSM

Page 11: パワー半導体特集 - Fuji Electric€¦ · 目 次 21世紀のパワーデバイス ワイドギャップ半導体 102(2) 赤木 泰文 パワー半導体の現状と動向

サイリスタ内蔵パワー集積モジュール

また,本製品においては,制御端子へのコネクタ接続に

も対応し,制御端子のピン端子は IPM(Intelligent Power

Module)などを接続する場合に用いられる,汎用コネク

タが使用可能な 2.54mmピッチの金めっき端子とし,コ

ネクタ実装時に確実な実装を行うためのガイドピンもケー

ス 2 点に設けている。

3.5 小・中容量品の系列化

本製品の系列は,第四世代 IGBTチップを用い,Econo

PIMと同様の高密度実装を実現した小型・薄型パッケー

ジの M713,M714の 2タイプを開発した。表1に系列の

一覧を,図5~7にパッケージの外観および外形,等価回

路を示す。

あとがき

以上,富士電機が新規開発したサイリスタ内蔵 IGBT-

PIMの製品概要と新技術,ならびにその適用技術につい

て紹介した。本 PIMを適用した場合,インバータ装置の

さらなる性能向上,小型化,高付加価値化が可能である。

今後はさらに,周辺回路を取り込んだ IPMとの融合,

放熱設計の最適化による外形の小型化などに取り組み,

IGBT-PIMの用途の拡大に貢献する所存である。

参考文献

沖田宗一ほか . 第四世代 IGBT-PIM. 富士時報. vol.72,

no.3, 1999, p.191-194.

(1)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

109(9)

20 (Gu)

13 (Gx)

14 (Gb)

19 (Eu)

7 (B)

3 (T)

21 (P) 22

(P1)

25

26

2 (S)

23 (N)

24 (N1)

10 (EN)

1 (R)

4 (U)

18 (Gv)

12 (Gy)

17 (Ev) 5

(V)

16 (Gw)

11 (Gz)

15 (Ew) 6

(W)

8 9

図7 サイリスタ内蔵 IGBT-PIMの等価回路

Page 12: パワー半導体特集 - Fuji Electric€¦ · 目 次 21世紀のパワーデバイス ワイドギャップ半導体 102(2) 赤木 泰文 パワー半導体の現状と動向

渡 新一

IGBTモジュールの開発・設計お

よび応用技術の開発に従事。現在,

富士日立パワーセミコンダクタ

(株)松本事業所開発設計部。

別田 惣彦

IGBTモジュールの構造開発・設

計に従事。現在,富士日立パワー

セミコンダクタ(株)松本事業所開

発設計部。

富士時報 Vol.74 No.2 2001

まえがき

近年,産業用インバータなどの電力変換装置において,

40 kW~ 1MWクラスの大電流品の要求が高まっており,

これに使用される電力変換用半導体素子(パワーデバイス)

にはさらなる小型化,高性能化,高信頼性化,大電流化,

使いやすさが求められている。これらの要求に対し,富士

電機は大電流定格の IGBT(Insulated Gate Bipolar Tran-

sistor)インバータブリッジ回路を一つのパッケージで構成

できる「EconoPACK-Plus」(図1参照)を製品化する。本

稿ではこの製品の系列と特徴,素子技術について紹介する。

EconoPACK-Plus の系列と特徴

富士電機はすでに 1,200 V 系にて第四世代 IGBTを適用

した「EconoPACK」(PIM:Power Integrated Module)

/「PC-PACK」(6 個組)を 10 ~ 100Aの電流領域で製品

化し,装置の小型化や組立工程の簡略化などの要求に対応

してきている。今回,大電流定格素子である EconoPACK-

Plusの開発をほぼ完了した。この EconoPACK-Plusは先

に記述したさまざまな市場ニーズを満足するために次の項

目を特徴とする素子として設計されている。

定格:1,200V/225 ~ 450Aを系列化予定

小型化:従来品使用時の約 1/2の使用面積(図2参照)

使いやすさ:プリント基板実装型構造で大電流定格ま

で 6 個組化(図3参照)

高信頼性化:サーミスタ内蔵により温度保護精度が向

上(図3参照)

大電流化:オン電圧の温度特性が正のため並列接続が

容易であり,なおかつ,並列接続を目的としたパッケー

ジ設計されており,図4に示す並列接続による大電流定

格化が容易

高性能化:小型化による熱集中を改善するために効果

的なチップレイアウトを行い,さらに新世代の IGBTチッ

プ/新 FWD(Free Wheeling Diode)を新規開発・適用

することで発生損失を従来品に対して約 20 %低減を達

成(図5参照)

次章からはこの EconoPACK-Plusの開発における技術

的概要について紹介する。

新世代 IGBTチップの適用

1,200 V 系において富士電機は,注入効率を上げ,輸送

効率を下げることを目的とした PT(Punch Through)構

造 IGBT〔図6 参照〕において,ライフタイムコントロー(a)

(6)

(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

大容量6 in1 IGBTモジュール「EconoPACK-Plus」

110(10)

渡 新一(よしわたり しんいち) 別田 惣彦(べつだ のぶひこ)

図1 EconoPACK-Plus の外観

図2 EconoPACK-Plus と従来品のサイズ比較

1,200 V/400 A1個組×6個

(a)従来品1,200 V/450 A6個組×1個

(b)EconoPACK-Plus

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大容量6 in1 IGBTモジュール「EconoPACK-Plus」

ル,微細化などで特性改善を進め,1988,1990,1994年に

第一,第二,新第三世代(Nシリーズ)IGBTモジュール

を製品化した。その後,注入効率を下げ,輸送効率を上げ

るコンセプトの NPT(Non-Punch Through)構造 IGBT

〔図6 参照〕の特性改善を行うことによって,1999年に

第四世代 IGBTモジュール(Sシリーズ)を製品化してい

る。

今回の新世代 IGBTチップは n-層の抵抗値低減を目的

に FZ(Floating Zone)ウェーハを最適な厚さに研磨し,

図6 に示すように裏面からのイオン注入を行うことで,

n 層(空乏層を止めるための拡散層)/p 層(ホール注入

層)を形成した PT-IGBT構造を有する半導体素子である。

この新世代 IGBT適用により図7に示すようにオン電圧

/Eoff 損失ともに飛躍的な性能改善が可能である。また,

新世代 IGBTは図8に示すようにオン電圧が正の温度特性

を持ち大電流定格品への適応に非常に適した素子である。

新 FWDチップの特徴

新 FWD素子は図9 に示す表面構造を持ち,アノード(b)

(c)

(2)

(b)

(1)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

111(11)

C5

〔インバータ部〕

(a)外形図

(b)等価回路図

〔サーミスタ部〕

G5E5

G6

U

- E6

C3

G3E3

G4

V

- E4

C1T1

110

T2

G1E1

G2

W

- E2

122

137

150

222222505050

162

17

22

U WV

G5 E5

G6 E6

G3 E3

G2 E2

G1 E1

T1 T2

G4 E4

C1C3C5

図3 EconoPACK-Plus の外形図および等価回路図

EconoPACK-Plus 1,200V/450A×1

EconoPACK-Plus 1,200V/450A×31,200V/1,350A

図4 EconoPACK-Plus の並列接続例

ターンオフ損失(mJ/pulse)

12

10

8

6

4

2

03.43.23.02.8

新第三世代 (Nシリーズ)

第四世代(Sシリーズ)

新世代IGBT

Pシリーズ

2.62.42.22.01.8VCE(sat) (V)at 125 ℃

T j =125 ℃

Vcc=600 VI c =50 ARg =24 Ω Vge=±15 V

1,200 V/50 Aデバイス

図7 各世代 IGBTの VCE(sat)-Eoff トレードオフ比較

インバータ損失(W)

〔 CE(sat)+ off + on+ F+ rr 損失〕

VE

EE

V

400

200

0

rrEFV

onE

offE

CE(sat) V

j = 125 ℃ Td = DC 600 VU

o = 242 ArmsIo = 50 Hzf

c = 6 kHzf= 0.85cosφ

= 1λ

1,200 V/450 A 素子

第四世代 (Sシリーズ)

新世代 IGBT+FWD

約20%

図5 インバータ動作時の発生損失比較

GE

n- n

p

p

p+

GE

n-

p

p

p+

GE

C

C

C

(a)PT-IGBT (b)NPT-IGBT (c)新世代IGBT

n+ n+ n+ n+ n+ n+

n-

n+

pp+

p+

図6 IGBTチップの構造比較

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大容量6 in1 IGBTモジュール「EconoPACK-Plus」

からの少数キャリヤ注入をコントロール(低注入化)する

ことで図 に示すようなソフトな逆回復特性を有す。さ

らに大電流定格品への適用を狙いオン抵抗の温度特性を

図 に示すように改善したうえ,図 のように従来 FWD

並みのオン電圧-Errトレードオフ特性を有する FWD素

子である。また,この新 FWD適用により,アノードから

の少数キャリヤ注入を抑える効果で図 のように IGBTの

ターンオン損失を低減させることが可能である。

EconoPACK-Plus の特徴

5.1 EconoPACK-Plus の系列

本製品では欧米市場で対応が必要な AC480V 入力系イ

ンバータまでに適用できる 1,200 V 系素子を 225A,300A,

450Aで系列化する。

13

1211

(c)10

112(12)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

アノード

p

n-

n+

カソード

(a)従来FWD

アノード

p p p

n-

n+

カソード

(b)新FWD

図9 FWDチップの構造比較

3

(a)ターンオン波形

2

V GE(20 V/div)

V CE(200 V/div)

0.2 s/div

I C(100 A/div)

1

(c)逆回復波形

2

V CE(200 V/div)

I F(100 A/div)

3

(b)ターンオフ波形

2

V GE(20 V/div)

T j=125 ℃ VCC=600 V, VGE=±15 V,

I =225 ARg=6.3 Ω

V CE(200 V/div)

I C(100 A/div)

1,200 V/225 A  EconoPACK-Plus

0.2 s/div

0.1 s/div

図10 EconoPACK-Plus のスイッチング波形

I F(A)

VF(V)

100

75

50

25

032

(a)従来FWD (1,200 V/75 A)

(b)新FWD (1,200 V/75 A)

1

125 ℃ 室温

0

I F(A)

VF(V)

100

75

50

25

0321

125 ℃

室温

0

図11 FWDの出力特性比較

5

4

3

2

1

0

新FWD

従来FWD

2.752.502.252.001.751.501.25

VF(V)at 125 ℃

Err(mJ/pulse)

逆回復損失

Vcc=600 V, I F=75 ATj=125 ℃ 1,200 V/75 A-FWD素子

図12 FWDのVF-Err トレードオフ比較

CE:250 V/div, F:50 A/div

VI

j=125 ℃ Tcc=600 V, V F=75 AI

1,200 V/75 A-FWD素子

CEV

FI

時間:0.5 s/div

従来FWD

新FWD

図13 ターンオン波形比較

I Cコレクタ電流 (A)

VCEコレクタ -エミッタ間電圧 (V)

100

75

室温 125 ℃

50

25

03.02.52.01.51.00.50

VGE測定条件:+ =15 V1,200 V/75 A 素子

図8 新世代 IGBTの出力特性

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大容量6 in1 IGBTモジュール「EconoPACK-Plus」

5.2 パッケージの特徴

本製品の構造的な特徴としては,次の項目が挙げられる。

全型式 6個組モジュール

インバータへの制御端子部実装をはんだフロー方式に

よって可能にするためにはんだ付けが可能なピン端子構

造を採用

富士電機製品である EconoPACK/PC-PACKと同様,

小型,薄型パッケージで装置の小型・軽量化が可能

全 8か所にポジショナを付けたことによってプリント

基板の製品上面実装が容易

5.3 内部構造

EconoPACK-Plusは EconoPACK/PC-PACKと同様,

主端子をはんだ付けにて DBC(Direct Bonding Copper)

基板に接合するのではなく,ワイヤで接合する構造となっ

ており,これによってパッケージ構造の簡易化,小型・軽

量化,組立工数の削減を実現している。さらに,IGBT/

FWDチップを適切に配列させることにより効果的な熱分

散を可能にする工夫や,上下アームの IGBT素子を均等に

配置することでターンオン時の過渡電流バランスを改善し,

ターンオン損失の増加が起こらない工夫などがなされてい

る。

また,EconoPACK-Plusのパッケージは約 20 nHの低

内部インダクタンスを実現しており,図 のように速い

ターンオフで低いスパイク電圧という相反する性能を実現

している。

今後の展望

本稿では,1,200V 系の素子技術について述べたが,600

~ 1,700 V 系についても同一コンセプトで新世代素子の開

発が進んでおり,これらを EconoPACK-Plusのみでなく

EconoPACK/PC-PACKにも適用し,さらなる系列の拡

大を行っていく計画である。

あとがき

さまざまな新技術が適用される EconoPACK-Plusは,

既存の適用分野はもちろん,新分野への適用,装置の性能

向上,設計の容易性に寄与するものと考える。富士電機は

今後さらなる技術革新を重ね,パワーデバイスの高性能化,

高機能化,高信頼性化に取り組み,多様化する市場要求に

最適化された製品を開発・供給し,パワー分野のさらなる

発展に貢献していく所存である。

参考文献

大日方重行ほか. 高精度電流センス IGBT. 平成 6 年電気

学会電子・情報・システム部門大会. A-5-9, 1994, p.97-98.

Onishi, Y. et al. Analysis on Device Structure for Next

Generation IGBT. Proceeding of the 10th ISPSD. 1998,

p.85-88.

中島修ほか . 小・中容量産業用 NPT-IGBTモジュール .

富士時報. vol.71, no.2, 1998, p.112-116.

Laska, T. et al. The Field Stop IGBT(FS-IGBT)-A

New Power Device Concept with a Great Improvement

Potential. Proceeding of the 12th ISPSD. 2000, p.355-358.

(4)

(3)

(2)

(1)

(b)10

(3)

(4)

(3)

(2)

(1)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

113(13)

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山田 忠則

パワーMOSFETの開発・設計に

従事。現在,富士日立パワーセミ

コンダクタ(株)松本事業所開発設

計部。

黒崎  淳

パワーMOSFETの開発・設計に

従事。現在,富士日立パワーセミ

コンダクタ(株)松本事業所開発設

計部。

阿部  和

パワーMOSFETの開発・設計に

従事。現在,富士日立パワーセミ

コンダクタ(株)松本事業所開発設

計部。

富士時報 Vol.74 No.2 2001

まえがき

高度情報化社会の進展に伴い各家庭にはパソコン,イン

ターネット端末,携帯電話型インターネット端末,BSディ

ジタル対応テレビなどが急速に普及し始めている。また,

これらの情報サービスを支えるインターネットサーバや高

速通信回線などのインフラストラクチャーの整備と改革も

急速に進展している。これらに伴って電気エネルギー消費

量は年平均 2.5 ~ 3.0 %の伸び率で増加し続けており,地

球温暖化の一因となることが懸念されている。そこで,ス

イッチをオン状態のまま長時間稼動して使うことの多い

OA機器の待機時消費電力の抑制を目的として1995年に国

際エナジースタープログラムがスタートしている。さらに

1997年の COP3(The 3rd Session of the Conference of

the Parties:地球温暖化防止京都会議)において制定され

た「トップランナー方式」による省エネルギー対策,およ

び改正省エネルギー法に電気業界,企業は取り組まなけれ

ばならない状況となった。

省エネルギー対策の対象は,エアコン,テレビ,照明器

具などの家電製品およびコンピュータ,ディスプレイモニ

タ,プリンタなどの OA機器である。これらの機器の電

力変換部には,高効率が特徴であるスイッチング電源が適

用されているが,このような省エネルギー化の動向を反映

してさらなる高効率化,低損失化,待機電力の低減へのニー

ズが厳しいものになってきている。

本稿では,このような市場動向を踏まえて開発した低損

失,超高速スイッチング対応の新型パワー MOSFET

「Super FAP-Gシリーズ」の特徴について,その概要を

紹介する。

パワーMOSFETへの要求特性

図1~3にスイッチング電源の代表的な 3 種類の方式に

ついて,パワーMOSFETの損失シミュレーション解析を

行った結果を示す。

自励式フライバックコンバータ(RCC:Ringing Choke

Converter)は,出力に応じてスイッチング周波数が変化

する特徴があり,軽負荷ではスイッチング周波数が 300

低損失・超高速パワーMOSFET「Super FAP-Gシリーズ」

114(14)

山田 忠則(やまだ ただのり) 黒崎  淳(くろさき あつし) 阿部  和(あべ ひとし)

発生損失(W)

5.0

スイッチング周波数(kHz)

400

2.5 200

0 0

スイッチング周波数

5.02.50出力電流 o(A) I

Po =75 W/MOSFET(600 V/0.75 Ω)

:ターンオン損失 :ターンオフ損失 :オン抵抗損失 :ドライブ損失 :トータル損失

図1 自励式フライバックコンバータの損失シミュレーション

結果

発生損失(W)

5.0

2.5

05.02.50

出力電流 o(A) I

f Ps =100 kHz/ o =75 W/MOSFET(600 V/0.75 Ω)

:ターンオン損失 :ターンオフ損失 :オン抵抗損失 :ドライブ損失 :トータル損失

図2 他励式フライバックコンバータの損失シミュレーション

結果

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低損失・超高速パワーMOSFET「Super FAP-Gシリーズ」

kHz 以上になる。このため軽負荷状態では,ターンオフ

損失がトータル損失の約 80 %,ゲート駆動損失がトータ

ル損失の約 18 %を占めている。定格負荷動作時(出力電

流 3.9A)においては,スイッチング周波数が 100 kHz 以

下となり,オンデューティも大きくなるためオン抵抗損失

とターンオフ損失が同程度になる。

他励式フライバックコンバータは自励式フライバックコ

ンバータとは異なり,スイッチング周波数は固定値で制御

されている。軽負荷時はターンオフ損失がトータル損失の

約 83 %を占めており,定格負荷時(出力電流 3.9A)も約

74 %を占めている。全負荷領域においてターンオフ損失

の占める割合が大きい。

フォワードコンバータは他励式フライバックコンバータ

と同様に,スイッチング周波数は固定である。軽負荷時は

ターンオフ損失がトータル損失の約 90 %を占めている。

定格負荷時(出力電流 8A)は,ターンオフ損失がトータ

ル損失の約 50 %を占めている。また,出力電流が大きく

なるに従いオン抵抗損失の占める割合が増加し,定格負荷

時ではトータル損失に対して約 32 %を占める。

各コンバータの損失シミュレーション解析から,スイッ

チング電源の低損失化,待機電力の低減を図るためのパワー

MOSFETへの重要要求特性をまとめると次の 3 項となる。

ターンオフ損失の低減

オン抵抗損失の低減

ドライブ損失の低減

損失シミュレーションにおけるスイッチング周波数は,

現在の一般的な電源のスイッチング周波数で解析を行った

結果である。今後,スイッチング電源のさらなる小型化を

実現するために,スイッチング周波数の高周波化の進展が

予測されている。その場合にはターンオフ損失の低減,ド

ライブ損失の低減の重要性がさらに増すこととなる。

設計施策

以上のようにスイッチング電源用パワーMOSFETの重

要要求特性として,ターンオフ損失の低減とオン抵抗損失

の低減が挙げられるが,ターンオフ損失とオン抵抗損失の

間にはトレードオフの関係があり,オン抵抗損失とターン

オフ損失の低減を両立させるためには,トレードオフの改

善が必要不可欠であった。

図4に新型パワーMOSFET「Super FAP-Gシリーズ」

のターンオフ損失とオン抵抗のトレードオフ特性の改善を

示す。

Super FAP-Gシリーズでは三つの新開発技術の組合せ

によって,従来製品と同一のオン抵抗特性 Ron・Aにおい

てターンオフ損失半減を実現している。このトレードオフ

特性を実現した具体的な設計施策について,以下に述べる。

3.1 低RDS(on)設計

500 V 以上の中・高耐圧パワー MOSFETのオン抵抗

RDS(on)特性は,その約 90 %以上をエピタキシャル層抵抗

で構成されている。よって低オン抵抗を実現しようとした

場合,エピタキシャル層の比抵抗値を小さくすることで可

能となるが,この方法ではドレイン -ソース間耐圧 Vbが

低下するという問題がある。

従来の多角形セル構造では,セル構造部の電界が高く,

高比抵抗のエピタキシャル層を用いていたため図5の①に

示す Vbと Ron・Aの特性であった。

Super FAP-Gシリーズでは,セル構造部の電界を緩和

するために,図6に示すストライプセル構造を適用してい

る。

さらに超微細加工技術を応用した高精度加工技術を適用

することにより,表面ドレイン層の幅の低減と,pウェル

の深さ,幅およびドーピングプロファイルを最適化するこ

とでセル構造部の電界を緩和している。

この設計によりチップセル部は耐圧確保することができ,

従来に比べ低い比抵抗値のエピタキシャル層が使用可能に

なった。

(3)

(2)

(1)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

115(15)

発生損失(W)

10

5

01050

出力電流 o(A) I

f Ps =100 kHz/ o =100 W/MOSFET(600 V/0.75 Ω)

:ターンオン損失 :ターンオフ損失 :オン抵抗損失 :ドライブ損失 :トータル損失

図3 フォワードコンバータの損失シミュレーション結果

60

50

40

Super FAP-G

従来製品

30

206 10 14 18 22

R ADS(on)・

E〔 cc=300 V, D=10 A時〕

VI

off( J)

図4 ターンオフ損失 -オン抵抗のトレードオフ特性

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低損失・超高速パワーMOSFET「Super FAP-Gシリーズ」

3.2 耐圧構造設計

セル構造部の電界を緩和する設計が確立でき,低比抵抗

のエピタキシャル層を用いることが可能となったが,この

低比抵抗のエピタキシャル層を用いると,従来設計の耐圧

構造では耐圧構造部の電界が高くなってしまい,セル部で

発生する耐圧が出せないアンバランスの問題が生じる。

低比抵抗のエピタキシャル層を用いて耐圧構造部での電

界を緩和させ耐圧を確保するために,不等間隔ピッチの多

段ガードリング構造(OGR:Optimized Guard-Ring)を

新しく開発し適用している。

ガードリングピッチとガードリング本数は,耐圧構造部

の電界シミュレーションを行い,セル構造部より電界が低

く,個々のガードリング間隔に対する最適設計を行ってい

る。前述のストライプ構造によるセル構造部設計と OGR

による耐圧構造部設計の組合せにより,低い比抵抗値のエ

ピタキシャル層を用いて高耐圧を実現することが可能となっ

た。Ron・Aとドレイン -ソース間耐圧 Vbの関係は,図5

の②に示すレベルまで改善でき,従来製品の約 1/2の低オ

ン抵抗特性が実現できた。

3.3 低Qgd 設計

ターンオフ損失は,ドレイン -ゲート間の帰還容量 Crss

の充電時定数により決まり,ターンオフ損失を低減するた

めには,充電時定数であるゲート -ドレイン間チャージ

Qgdを低減する必要がある。

RDS(on)と Qgdの間にはトレードオフ関係があり,セル

設計上,ゲート電極面積を大きくすれば,J-FET抵抗は

低減できるが,Crssが大きくなり Qgdが大きくなる関係を

持っている。

Super FAP-Gシリーズでは,このトレードオフを改善

するために,超微細加工技術を応用したポリシリコンの高

精度加工技術により,ゲート電極面積を低減するセル設計

としている。一方,J-FET 抵抗層に対しては,表面 n形

不純物のドーピングプロファイルの最適化により,J-FET

抵抗の増加を抑制する設計としている。

以上のセル設計施策の結果,同一オン抵抗における Qgd

は,従来製品の約 1/3の低 Qgd 特性が実現できた。また,

ドライブ損失を決めるゲートチャージ Qgは,従来製品の

1/2 以下の特性が実現できた。

図7に同一オン抵抗におけるゲートチャージ特性の測定

比較結果を示す。

製品の特徴

表1に今回開発した Super FAP-Gシリーズの代表機種

の定格特性を示す。パワーMOSFETの損失を示す性能指

数として,オン抵抗 RDS(on)とゲート -ドレイン間チャー

ジQgdの積を規定してある。

今回開発した代表機種における性能指数は 5.75 Ω・nC

であり,従来の同一オン抵抗の製品に比較して約 3倍の性

能を有している。

本シリーズのラインアップとしては,ドレイン -ソース

間耐圧 450 ~ 900Vクラスを計画しており,パッケージも,

新たに国際標準規格である JEDEC TO-247 準拠パッケー

116(16)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

RA

on・

1

0.1

0.01

Vb(V) 2,0001,000500300

①従来製品

②SuperFAP-G

図5 Vb と Ron・Aの関係

SiO2

SiO2

SiO2

SiO2

n+

n-

Al-Si

  ポリ シリコン   ポリ シリコン

  ポリ シリコン

Al-Si

n+

n-

n+

n+ p

n+ n+

p

n+ p n

n

n

n

n+ n+

n+ pp

ドレイン

ゲート ソース

図6 Super FAP-Gのストライプセル構造VGS(V)

Q g(nC) ゲートチャージ 100806040200

15

従来製品

Super FAP-G

10

5

0

図7 ゲートチャージ特性(600 V/0.75Ωデバイス)

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低損失・超高速パワーMOSFET「Super FAP-Gシリーズ」

ジを系列化する計画である。

図8に TO-247パッケージ製品の外観を示す。

スイッチング電源への適用例

今回開発した Super FAP-Gシリーズの参考仕様例とし

て,フォワードコンバータ回路への適用結果(参考値)を

表2に示す。

スタンバイモードにおいて,パワーMOSFETの損失は

従来製品比 35 %低減されており,変換効率も 3.2 %改善

されている。

定常負荷においては,従来製品より小型パッケージであ

るが,温度上昇が約 20 ℃低い結果となっており,ヒート

シンクサイズの小型化が可能になる。従来製品と同一温度

上昇とした場合には,約 20 %の出力アップが可能になる。

また,市販されているフライバックコンバータ回路適用

の ACアダプタへ Super FAP-Gシリーズを搭載した場合

の EMI測定結果(参考値)を図9に示す。パワーMOSFET

を低 Qgd 化,言い換えれば高速スイッチング化した場合

懸念されるノイズ特性についても,伝導ノイズは同等レベ

ルであり,放射ノイズもピーク値で+2dB程度にとどまっ

ており,CISPR Pub.22 Class B 規格をクリアしている。

あとがき

以上,富士電機が低損失,超高速スイッチングパワー

MOSFETとして新規開発した Super FAP-Gシリーズの

開発技術と製品概要について紹介した。

この Super FAP-Gシリーズは,電子機器の高効率化,

待機電力の低減,単位容積あたりの出力アップ,システム

の小型化に貢献できるものと確信する。

さらに今回の開発で得られた技術をベースとし,100 ~

250Vの中耐圧パワーMOSFETへの水平展開を図り,42

V 系 DC-DCコンバータ用高周波スイッチング対応の系列

を拡充していく計画である。

富士時報 Vol.74 No.2 2001

117(17)

図8 TO-247パッケージの外観

表1 代表機種の定格特性

項 目 2SK3450-01

600 V

±12 A

115W

3~5 V

0.65Ωmax

34 nC

12.5 nC

11.5 nC

5.75Ω・nC

VDS

I D

PD

VGS(th)

RDS(on)

Qg

Qgs

Qgd

性能指数 Ron・ Qgd

2SK3504-01

500 V

±14 A

115W

3~5 V

0.46Ωmax

33 nC

12.5 nC

10.5 nC

3.68Ω・nC

表2 フォワードコンバータ適用動作結果(参考値)

(a)軽負荷モード( =2W, ) Po =130 kHzfc

項 目 変換効率 ηDC-DC分 類

31.90%

MOSFET損失 Ploss

1.28W

35.10% 0.82W

MOSFET温度上昇 Δ Tc

5.8℃

2.6℃

従来製品 600 V/0.75Ω/ TO-3PF

Super FAP-G 600 V/0.75Ω/ TO-220F

(b)定格負荷モード( =125W, ) Po =130 kHzfc

項 目 変換効率 ηDC-DC分 類

81.40%

MOSFET損失 Ploss

8.31W

83.30% 4.47W

MOSFET温度上昇 Δ Tc

54.0℃

34.1℃

従来製品 600 V/0.75Ω/ TO-3PF

Super FAP-G 600 V/0.75Ω/ TO-220F

EMCレベル(dB V)

50

45

40

35

30

25

20

15

10

5

030020010090807060

周波数(MHz)

(a)放射妨害電界強度測定結果

(b)雑音端子電圧測定結果

504030

70

60

50

40

30

20

10

01周波数(MHz)

CISPR22 Class B

CISPR22 Class B

0.5 10 3050.1

EMRレベル(dB V/m)

図9 EMI 測定結果(参考値)

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鳶坂 浩志

インテリジェントパワーデバイス

の開発・設計に従事。現在,富士

日立パワーセミコンダクタ(株)松

本事業所開発設計部。

大江 崇智

インテリジェントパワーデバイス

のチップ開発・設計に従事。現在,

富士日立パワーセミコンダクタ

(株)松本事業所開発設計部。

市村  武

インテリジェントパワーデバイス

のチップ開発・設計に従事。現在,

富士日立パワーセミコンダクタ

(株)松本事業所開発設計部。

富士時報 Vol.74 No.2 2001

まえがき

自動車電装業界では,「安全」「燃費向上」をキーワード

として,電子制御システムの大規模化が進められている。

このため自動車電装メーカーは,ECU(Electronic Con-

trol Unit)の基本性能を向上させ,なおかつ小型,低コス

ト化することを切望している。自動車電装メーカーの ECU

に対する要求は次のとおりである。

電子制御システム全体の大規模化に伴う,ECUの小

型・薄型化

電子制御システム全体の大規模化に伴う,ワイヤハー

ネスの低減

ECUの低コスト化

ECUの高性能化(安全性,快適性の向上)

ECUの高信頼性化

そして,この ECUを構成している半導体素子にも同様

の要求がある。これら ECUに対する要求を ECUに使用

される半導体に対する要求に置き換えたものを以下にまと

める。

半導体の小型・薄型・ SMD(Surface Mount De-

vice :表面実装デバイス)化

トータルコストダウンへの対応可能(高機能化)

半導体デバイスの高性能化(過電流保護,過熱保護機

能の内蔵)

半導体デバイスの高信頼性化

富士電機では,上記の半導体デバイスへの要求に対応す

る新製品,ハイサイド高機能 MOSFET(Metal-Oxide-

Semiconductor Field-Effect Transistor)F5045Pを開発中

である。

高機能MOSFETは駆動・制御・保護などの回路と,パ

ワーデバイスをワンチップ化することで,従来の個別部品

の組合せに比べ,電子部品の実装スペースの低減と信頼性

の高いシステムを可能とするデバイスである。

製品の紹介

2.1 主要特性の紹介

ハイサイド高機能MOSFET F5045Pパッケージの外観

を図1,最大定格を表1,電気的特性を表2,論理表を表

3,回路ブロックダイヤグラムを図2に示す。さらに主な

特徴を以下に紹介する。

過電流,過熱検出機能による負荷短絡保護機能内蔵

インダクタンス負荷ターンオフ時の逆起電圧に対する

電圧クランプ(L 負荷クランプ)回路内蔵によるインダ

クタンス負荷高速動作可能

出力段パワーMOSFETの低損失化

マイクロコンピュータ直接駆動可能

システム自身のフェイルセイフ対応として,入力端子(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

(2)(1)

(4)

(3)

(2)

(1)

(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

ハイサイド高機能MOSFET

118(18)

鳶坂 浩志(とびさか ひろし) 大江 崇智(おおえ たかとし) 市村  武(いちむら たけし)

図1 F5045Pパッケージの外観

表1 F5045Pの最大定格( c=25℃) T

項 目

ドレイン- ソース電圧

電  源  電  圧

出  力  電  流

入  力  電  圧

接 合 部 温 度

保  存  温  度

記号

VDS

VCC

I out

VIN

Tj

Tstg

V-0.3~ +0.3CC

定 格

33/50

33/50

1

150

-55~+150

条 件

DC/0.25s

DC/0.25s

DC

単位

V

V

A

V

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ハイサイド高機能MOSFET

開放時の出力オフ機能内蔵

自己分離型 CMOS/DMOS(Complementary MOS

/Diffusion MOS)プロセス採用

SOP-8 SMDパッケージ採用による小型・自動実装対

低動作電源電圧〔Vcc(min)= 3V〕

低スタンバイ電流〔Icc(max)= 150μA〕

オン状態保持用として 2 入力端子構成

2.2 用 途

F5045Pは ECUのメインリレー駆動用途を中心に,油

圧ソレノイドバルブ,ランプ,モータなどの制御用に開発

したデバイスである。

なお,F5045Pは,出力段パワーデバイスには nチャネ

ルMOSFETを使用し,ゲート昇圧用チャージポンプ回路

を内蔵しているハイサイド形の半導体素子である。ハイサ

イド方式のメリットは,①負荷の電食を回避できる,②負

荷状態をモニタして,フィードバック制御をかけたい用途

における,モニタ回路の設計が容易である(ECU設計者

はモニタ回路の GND電位基準で設計できる),などがあ

り,これらのメリットを生かしたい用途には最適なデバイ

スである。

特 性

3.1 低動作電源電圧

F5045Pにて ECUメインリレーを制御する場合,F5045P

の Vcc 端子はバッテリーに直接接続される。これは低温時,

エンジン始動時などにおいて自動車のバッテリー電圧が最

悪 3V程度まで低下することがあり,そのようなときでも

素子の基本的なオンオフ動作が必要であるということを意

味する。

F5045Pは低動作電源電圧を実現するため,素子のゲー

ト酸化膜厚と周辺回路を最適化した。F5045Pと従来のハ

イサイドデバイスである F5044H(定格:50 V/3 A/120

mΩ/SOP-8パッケージ IPS)のオン抵抗の電源電圧依存

性を図3に示す。チャージポンプ回路を用いたハイサイド

デバイスでは,電源電圧が低下すると,チャージポンプ回

路のゲート昇圧能力が低くなり,オン抵抗が上昇する。上

記の最適化により,従来のデバイスよりオン抵抗が上昇し

始める点が低電圧側にシフトしていることが分かる。さら

に,電源電圧を 0 Vから徐々に上昇させたときの F5045P

の動作波形を図4に示す。Vccが約 2.5V 以上で Vcc 電圧波

形と OUT電圧波形が等しくなり,素子がオン動作をして

(10)

(9)

(8)

(7)

(6)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

119(19)

表3 F5045Pの論理表

正 常 動 作

備 考

過電流検出

過 熱 検 出

入力端子    開放

IN1

L L H H

L L H H

L L H H

Open Open L

Open H

IN2

L H L H

L H L H

L H L H

Open L

Open H Open

OUT

L H H H

L ※ ※ ※

L L L L

L L L H H

自己復帰 ※:出力電流制限モード

自己復帰

各入力端子は入力プルダウン内蔵 しているため,入力Open は   = LOWを意味する。 VIN

表2 F5045Pの電気的特性

項 目

動作電源     電圧

静止電源     電流

入 力 電 圧

入 力 電 流 (1チャネル   あたり)

オ ン 抵 抗

過電流検出

過 熱 検 出

スイッチ   ング時間

L負荷   クランプ     電圧

〈注〉特に表記なきものは =25℃の条件である。 TC

記 号

VCC

I CC

VIN(H)

VIN(L)

VIN(H)

VIN(L)

I IN(H)

I OC

Ttrip

Vclamp

tt /on off

RDS(on)

=-40~     +105℃

TC

=-40~     +105℃

TC

=-40~     +105℃

TC

=13 VVCC

=3~5 VVCC

=-40~     +105℃

TC=3~5 VVCC

=-40~     +105℃

TC>5 VVCC

=-40~     +105℃

TC>5 VVCC

=26Ω RL=0 VVIN

=13 VVCCまたは =5 V

VIN1VIN2

=13 VVCC

=13 VVCC

=13 VVCC

=13 VVCC=26Ω RL

=13 VVCC=10mHL

=0.5 AI out

条 件〈注〉

規格値

最 小

3

3.5

2

150

0.7× VCC

-(50- VCC

単位

V

V

V

V

V

V

Ω

A

A

最 大

33

150

1.5

12

0.60

120/40

0.3× VCC

-(60- V) ) CC

A

s

IN2

IN1

OUT

Vcc

GND

静止電源電流 低減回路

L負荷 クランプ回路

内部 電源回路

過熱検出 回路

過電流 検出回路

レベル シフト ドライバ

ロジック

図2 F5045Pの回路ブロックダイヤグラム

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ハイサイド高機能MOSFET

いることが分かる。最低動作電源電圧の温度依存性を図5

に示す。最低動作電源電圧が従来品 F5044Hと比較して約

2.0 V 小さくなっており,F5045Pは Tc=-40 ~+105 ℃

において広範な動作電源電圧 3~ 33Vを実現できる。

3.2 静止電源電流の低減

自動車電装システムの大規模化に伴い,ユニット全体の

オフ時のスタンバイ電流を 3mA以下に低減させたいとい

う希望がある。このため,個々の半導体の静止電源電流を

小さくする必要がある。F5045Pはこの要求に対応するた

め,図6に示すような内部電源回路をデバイスのオフ時に

切断する回路(静止電源電流低減回路)を付加した。静止

電源電流が大きい原因の一つに,内部電源により動作する

入力回路部のインバータに nチャネルMOSFET(NMOS)

のみを用いていることがあげられる。静止電源電流を低減

させるためには,この回路に CMOSを用いることが有効

である。NMOSインバータと CMOSインバータの特徴を

表4に示す。しかしながら表2に示すように,本デバイス

の入力しきい値電圧は,3 ~ 33 Vの電源電圧範囲と,

Tc=-40 ~+105 ℃の温度範囲をカバーする必要があり,

温度依存性を小さくしなければならない。このため,CM

OSインバータの採用は不適当であるため,オフ時に入力

回路部の NMOSインバータを切断する方式を採用した。

この静止電源電流低減回路により静止電源電流を従来のハ

イサイドデバイス 3mA(max)から Tc=-40 ~+105 ℃

の範囲において 150μA(max)にすることができる。

3.3 入力保持機能

F5045Pは,制御回路内に OR論理回路を付加し,2 入

力構成とした。このため F5045Pは,IN1 端子の入力信号

ライン(例えばイグニッションスイッチ)が確定していな

いようなときでも,IN2 端子のオン信号により,そのオン

状態の保持が可能である。これにより F5045Pは,ECU

のメインリレー制御といった,さまざまな状況下でもオン

状態保持が要求されるシステムにおいて,特別な外部回路

を付加せずに使用することができるデバイスである。

3.4 サージ耐量

F5045Pは ESD(Electro-Static Discharges:静電破壊)

試験において,C=150 pF,R=150 Ωの条件下,ECU組

120(20)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

オン抵抗 DS(on)(Ω)

R

電源電圧 cc(V) V

j=25 ℃ T

3.0

2.5

2.0

1.5

1.0

0.5

020

F5045P

F5044H

151050

図3 オン抵抗の電源電圧依存性

最低動作電源電圧 cc(min)(V)

V

温度 j(℃) T

DS(on)=2.45 Ω R

6.0

5.0

4.0

3.0

2.0

1.0

0200150100500-50-100

F5044H

F5045P

図5 最低動作電源電圧の温度依存性

F5045P

Vcc

OUT

10 ms/div

GND

(b)測定回路図

(a)動作波形

IN2

IN1

Vcc :2 V/div

V V V cc≒2.5 Vにおいて cc= OUT となり, 素子がオンしていることが分かる。  

VOUT :2 V/div

図4 F5045P低電源電圧時の動作波形

内部電源 回路

静止電源電流低減回路

IN1

IN2レベルシフト ドライバ

Vcc

OUT

GND

図6 F5045P入力部の回路

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ハイサイド高機能MOSFET

込み状態で 15 kV 以上の耐量を持つデバイスであり,従来

の富士電機製自動車電装用インテリジェントパワーデバイ

スと同等の実力を持っている。

あとがき

インテリジェントパワーデバイスの新製品として F50

45Pの概要,特性などについて述べた。自動車電装分野の

ECUメインリレーに使用されることを前提に,本製品を

紹介してきたが,高機能MOSFETシリーズはその汎用性

の高さから各種用途への応用が可能である。

今後富士電機では,さまざまな用途に対応できるインテ

リジェントパワーデバイスの系列拡大と,さらなる性能向

上のための技術確立を推進していく所存である。

参考文献

木内伸ほか. SOP-8パッケージハイサイド IPS. 富士時報.

vol.72, no.3, 1999, p.168-171.

木内伸ほか. インテリジェントパワー MOSFET. 富士時

報. vol.70, no.4, 1997, p.222-226.

(2)

(1)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

121(21)

表4 NMOSインバータとCMOSインバータの特徴

回路図

長 所

短 所

NMOSインバータ

™電流源とMOSFETの最適設計  により,入力しきい値電圧の  温度依存性を小さくできる。 ™動作電源電圧範囲が広い。

™消費電流が大きい。

™消費電流が小さい。

™入力しきい値電圧がMOSFET  に依存するため温度依存性が  ある。 ™動作電源電圧範囲が狭い。

CMOSインバータ

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太田 裕之

スマートパワーデバイスの開発・

設計に従事。現在,富士日立パ

ワーセミコンダクタ(株)松本事業

所開発設計部。

寺沢 徳保

スマートパワーデバイスの開発・

設計に従事。現在,富士日立パ

ワーセミコンダクタ(株)松本事業

所開発設計部。

富士時報 Vol.74 No.2 2001

まえがき

近年,地球温暖化対策として省エネルギー化が重要視さ

れ,情報通信機器や家庭用電化製品の消費電力の低減が求

められている。

そのため,それらに広く使われているスイッチング電源

は高効率化が必要不可欠となってきており,特に常時電源

を投入したまま使用される機器では,待機状態での消費電

力が全体の消費電力の 20 ~ 30 %にもなるため,待機時の

消費電力の削減が求められている。

さらに,これらの機器が接続される電源系統の品質維持

のため,スイッチング電源は入力電流高調波規格を満足す

る必要もある。

そのため,富士電機では一つのコンバータでこれらの要

求に対応できる一体トランス方式のスイッチング電源技術

を開発し,その制御用デバイスとして専用マルチチップパ

ワーデバイス「M-POWER」(図1)を商品化したので,

その概要を紹介する。

特 徴

一体トランス方式のスイッチング電源とM-POWERの

特徴を以下にまとめる。

高効率:スナバエネルギー回生

待機時入力電力 3W以下:エナジー 2000 適合

低高調波電流:高調波規制 IECクラス D適合

低ノイズ:ソフトスイッチング動作

ワールドワイド対応

各種保護機能の充実

オールシリコン構造による高信頼性の確保

一体トランス方式コンバータ

3.1 回路構成

図2に一体トランス方式コンバータの回路構成を示す。

基本的には主巻線 N1と二次巻線 N2とはフライバック結

合となっており,その他の特徴的な回路は大きく二つに分

けられる。

第 1の回路はソフトスイッチング動作のための回路で,

主スイッチである主 MOSFET Q1と並列に,補助 MOS

FET Q2を接続し,ソフトスイッチング用コンデンサ C2

の電荷をトランス回生巻線 N4で回生する ZVT(Zero

Voltage Transition)方式のソフトスイッチング回路であ

る。

第 2の回路は高調波対策回路で,トランスの巻線 N3と,

ダイオード D1,D2,リアクトル L1から構成されるワンコ

(7)

(6)

(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

電源用マルチチップパワーデバイス「M-POWER」

122(22)

太田 裕之(おおた ひろゆき) 寺沢 徳保(てらさわ のりほ)

IC

Tr

C1

M-POWER

AC 80~288 V

C2

C3

Q1 Q2D2

D4

D3

D1

N3N1

N4L1

N2

図2 一体トランス方式コンバータの回路構成

図1 M-POWERの外観

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電源用マルチチップパワーデバイス「M-POWER」

ンバータ方式の高調波対策回路である。

そして図2の回路構成において,キーデバイスといえる

Q1,Q2と制御 IC(破線内部)をワンパッケージにしたデ

バイスがM-POWERである。

3.2 ZVT方式ソフトスイッチング動作

ZVT方式のソフトスイッチング回路を図3に示す。こ

の回路動作を①~③の期間に分けて簡単に説明する。

期間T1 ~ T2

Q1をオンする前に Q2をオンし,コンデンサ C2に蓄え

られていた電荷をトランス Trの N4 巻線を介して放電す

る。このとき,N4 巻線に VN4が印加され,N1 巻線にも

VN1が誘起されるため VN1が電源電圧 VC1より大きくなる

と電流 irが流れ,C2に蓄えられていた電荷は C1に回生さ

れる。また,N4 巻線電流 iN4は Tr 励磁電流となる。

期間T2 ~ T3

VC2が零電圧になったあと Q1をオンすることで,Q1の

オンは零電圧スイッチング(ZVS)となる。電流 iN4は

VN4を逆起電圧として減少し,やがて零電流となる。次に

T3で Q2をオフすると,Q2は ZVSとなる。

期間T4 ~ T5

T4で Q1がオフする。このとき並列に接続した C2の電

圧が零電圧であるため,Q1は ZVSとなる。

図4に入力電圧に対する効率特性を示す。また比較のた

め,コンデンサ C2の電荷をトランス Trの励磁インダク

タンスの共振を利用して回生するタイプの RCC(Ringing

Choke Converter)方式との効率の比較を示す。入力電圧

200 V 時に,ZVT 方式が 86.4 %で RCC 方式が 84.3 %と

2.1 %の効率向上が達成されている。

3.3 高調波対策回路

高調波対策回路の動作を図5に示す。

昇圧巻線N3の効果

Q1がオフ時に昇圧巻線 N3には電圧 VN3が発生し,こ

の電圧 VN3と入力電圧絶対値| Vin |の和の電圧が C1の

電圧 VC1より高いとき(VN3 +| Vin |> VC1)に電流 i3

を流し,従来のコンデンサインプット電流(iinc)より入

力電流の導通角を広げることができる。

リアクトル L1の効果

N3 巻線のみでは,入力電圧 Vinが高いとき相対的に導

通角が狭まり効果が小さくなる。そのため,リアクトル

L1の回路を付加し,Q1がオンのときに,入力電源→ D1

(または D2)→ Q1の経路で電流 i2を流すことができる。

i2は入力電圧が高いほど大きな電流となり,大きな効果が

得られる。

つまり,一体トランス方式の高調波対策回路は,入力電

圧が低いときには主に N3 巻線の効果で,入力電圧が高い

ときには主に L1の回路の効果で高調波を改善する。この

(2)

(1)

(1)

(3)

(2)

(1)

(1)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

123(23)

vDSQ1

v GSQ1

vDSQ2

vDSQ1

vGSQ2vGSQ2

vC1

vC2

vN1

vN4

i r

i N4

i DQ1

v GSQ2

v DSQ1

i DQ1 i DQ1

VRS

T1 T2 T3 T4T5

i N2i N2

N2

N4 D3

Q2

C2

N1

C1

Tr

Q1

図3 ZVT方式ソフトスイッチング回路

η (%)

90.0

86.4

85.084.3

80.0 (53 kHz) (60 kHz)

(88 kHz) (102 kHz)

(106 kHz)

ZVT方式 (60 kHz固定)

RCC方式

( )内は動作周波数

75.0

70.030025020015010050

V in(V)

図4 入力電圧に対する効率特性(Po = 100W)

vin+ vN3

v in

v N3

VC1

v inv C1

i in= i 2+ i 3

i incnv

i in i 3 i 1

i 2

i 2

Tr

C1+

C2Q1

C3

D2

D4

D1

N1

N3

L1

N2

図5 高調波対策回路の動作

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電源用マルチチップパワーデバイス「M-POWER」

結果,入力電圧が 80 ~ 288Vの幅広い範囲で入力高調波

電流を規格値以下に抑えることができる。

図6に入力電流高調波を示す。図6から,入力電流の高

調波電流は IECクラス Dの規格を満足していることが分

かる。

M-POWER

4.1 内部ブロックと各端子機能

図7にM-POWERの内部ブロックを示す。M-POWER

は主 MOSFET Q1,補助 MOSFET Q2と制御 ICのマル

チチップ構成となっている。

表1に各端子機能を示す。端子に複数の機能を持たせる

ことで 7 端子と少ない端子数を達成している。

4.2 制御 IC

M-POWERに用いた制御 ICの特徴を以下に記す。

カレントモード PWM(Pulse Width Modulation)タ

イプの電源用制御 ICである。

Q1,Q2 用に二つのドライブ段を持ち,ZVT方式のソ

フトスイッチング動作のため,Q2を Q1より 300 ns 程

度前にオンさせる機能を有する。

CMOS(Complementary MOS)プロセスの採用によ

り低消費電力である。

ヒステリシス特性を持つ制御電源端子(Vcc)の低電

圧誤動作防止(UVLO:Under Voltage Lock-Out)回

路を内蔵している。

(4)

(3)

(2)

(1)

124(24)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

in(A)

I

高調波次数 N

1.6

1.2

0.8

0.4

01 3

クラスD

5 7 9

図6 入力電流高調波

VREF (5V)

Vcc

Fc

COMP

GND S

D1 D2

30V

UVLO

Vcc (SAVE)

2R

R

ISCP

OCCP

SCCP

OHCP

OSC

OV

Control IC Block

LV(5V)Controlled Block

ONE TIME LATCH

1sec Timer

OUT1

OUT2

Q2

Q1VLL (5V)

S RS-FF R QB

T1

T2

図7 M-POWERの内部ブロック図

表1 各端子機能

端子 番号

1 D1

記 号

主MOSFETのドレイン

2 D2補助MOSFETの ドレイン

3 S

主MOSFETのソース

名 称

主MOSFETのドレイン

補助MOSFETのドレイン

主MOSFETのソース

補助MOSFETのソース

電流センス

補助MOSFETのソース

Q1電流の電圧変換値入力 過電流・短絡保護検出入力

4 Vcc

制御電源 制御電源入力

待機信号入力 制御電源電圧値で通常モード と待機モードが切り換わる。

5 GND

GND 制御電源のGND

電流センスGNDパワー素子電圧入力端子の GND

6 Fc

キャリヤ周波数設定 外付け容量で周波数設定

同期信号入力 端子電圧を0 Vでターンオフ 同期

7 COMP 制御信号入力 フィードバック信号入力

機 能

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電源用マルチチップパワーデバイス「M-POWER」

4.3 MOSFETドライブ

制御 ICの出力部は,CMOSインバータ構成の出力ドラ

イバ回路を内蔵し,MOSFETのゲートを Vcc 電圧までフ

ルスイングすることができる。MOSFETと制御 ICは直

接接続されゲート抵抗は,制御 IC出力段の CMOSオン抵

抗で決めている。そのためMOSFETと制御 IC 間のイン

ピーダンスおよび配線インダクタンスは非常に小さくなっ

ており,MOSFETのドライブ遅れが小さく,また出力段

シンク時のインピーダンスも小さいため誤動作の発生もな

い。

4.4 待機動作

M-POWERは,待機動作時にスイッチング周波数を約

20 kHzに下げて発生損失を低減する待機モードを備えて

いる。図8に通常運転から待機運転への切換り動作を示す。

M-POWERの VCCを,通常動作時には 15 Vに待機動作

時には 12Vに設定することで待機動作に切り換える。

図9に,出力電力 Po = 1W待機動作時の発生損失を示

す。比較のため RCC 方式の発生損失を合わせて示す。ス

イッチング周波数を 20 kHzに低減し,ZVT方式のソフト

スイッチング動作を行うことで発生損失を RCC方式の 3.5

Wから 1.5Wに低減でき,エナジー 2000に適合している。

近年,サブ電源を設けて待機動作時の発生損失を低減する

方式が一般的になりつつある。しかし,M-POWERを用

いることにより,サブ電源が不要となるため,小型,低コ

ストな電源システムが構築できる。

4.5 各種保護機能

表2に M-POWERの保護機能を示す。M-POWERは

過電流保護(OC),短絡保護(SC),過電圧保護(OV),

過熱保護(OH)と 4 種類の保護機能を内蔵し,各保護機

能にラッチ停止機能を設けた。過電流保護(OC)に関し

てはパルスごとに電流制限を行い,電流制限が連続したと

きはさらにラッチ停止する。

富士時報 Vol.74 No.2 2001

125(25)

不足電圧停止 9V

通常モード 待機モード

設定周波数:30~150 kHz 20 kHz

vcc通常動作 15V切換電圧 13V待機動作 12V

図8 待機運転への切換り動作

発生損失(W)

5

4

3

2

1

0提案回路 (20 kHz)

RCC方式 (20 kHz)

その他  (切換回路)

駆動電力 ダイオード

トランス

素子

図9 待機動作時の発生損失(Po = 1W) 2.54

制御ICQ2

Q115.0 min

26.0

20.0 max 4.5

COMPFcGNDVccSQ2Q1

図10 M-POWERの内部構造図

表2 M-POWERの保護機能

保護機能 検 出 検知レベル

3-5番端子電圧

ラッチ停止

1秒タイマ

1回検出

1回検出

1秒タイマ

3-5番端子電圧

4-5番端子電圧

過電流保護 (OC)

短 絡 保 護 (SC)

過電圧保護 (OV)

過 熱 保 護 (OH)

制御 IC温度

過電流保護動作電圧 ( V ):0.9 V(標準) oc

パルスバイパルス動作電圧 ( V ):0.95 V(標準) pp

短絡電流保護動作電圧 ( V ):1.5 V(標準) sc

過電圧保護動作電圧 ( V ):22 V(標準) CCH(OFF)

過熱保護動作温度 ( T ):150℃(最大) j(OH)

表3 系列の代表特性

型 式 主MOSFET 補助MOSFET 制御 IC

VDS

F9202LA

F9203LA

F9206L

F9207L

F9208L

700 V

700 V

700 V

700 V

700 V

RDS(ON)

1.2 Ω

0.8 Ω

1.2 Ω

0.8 Ω

0.8 Ω

VDS

800 V

RDS(ON)

2.0 Ω

VCC(ON)

10 V

800 V 2.0 Ω 16.5 V

Tj(OH)

125~ 150℃

150℃~

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電源用マルチチップパワーデバイス「M-POWER」

ラッチ停止機能は異常時に制御 ICの出力をシンク状態

に保持し確実にスイッチングを停止させ保持するシステム

となっており,フェイルセイフな電源を構築可能である。

なお過熱保護および過電流保護によるラッチ停止には約1

秒のタイマが設けられており,電源起動時負荷側に挿入さ

れた電解コンデンサへの充電電流などの過電流に対しては,

保護が動作しないようになっている。

4.6 パッケージ構造

図 にM-POWERの内部構造を示す。

構造面における特徴を下記する。

パッケージサイズは TO-3PLと同等サイズとした。

最も発熱する Q1 部は放熱特性を重視し,フレームを

裏面に出した構造とした。そして発熱の少ない Q2と制

御 IC部をフルモールド構造にすることで,各チップの

放熱および各チップ間の絶縁を確保した。

セラミック基板などの配線基板を使用せず,各チップ

を別々のフレームに搭載し,その間をアルミワイヤで接

続したディスクリート構造をとり,シンプルで信頼性の

高い構造とした。

4.7 系 列

M-POWERはワールドワイド入力に対応した MOS

FETの耐圧(VDS)およびオン抵抗(RDS(ON))と,制御

ICの起動電圧(VCC(ON)),過熱保護動作温度(Tj(OH))

の組合せで表3のようなラインアップとした。

あとがき

富士電機が開発した,一体トランス方式のコンバータと

M-POWERを紹介した。このシステムは高効率・低待機

電力・低高調波電流・小型・フェイルセイフなスイッチン

グ電源構築が可能であり,機器の省エネルギー化,高信頼

性化に貢献できるものと確信している。

今後はさらに広範囲な電源用途にマッチする系列を開発

し,より使いやすい製品としていく所存である。

参考文献

五十嵐征輝ほか. ソフトスイッチング方式マルチチップパ

ワーデバイス. 電気学会産業応用部門大会. 1999, no.288.

(1)

(3)

(2)

(1)

10

126(26)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

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梅本 秀利

小容量ダイオードの開発・設計に

従事。現在,富士日立パワーセミ

コンダクタ(株)松本事業所開発設

計部。

古島 達弥

小容量ダイオードの開発・設計に

従事。現在,富士日立パワーセミ

コンダクタ(株)松本事業所開発設

計部。

富士時報 Vol.74 No.2 2001

まえがき

インターネットなどによる急激な情報化社会の発展に伴

い,携帯電子機器や情報通信の分野では,さらなる小型・

軽量化,省エネルギー化,高効率化が求められている。特

に,ノートパソコン,携帯電話,各種民生・通信機器など

には,バッテリー電源から必要な直流電圧を作り出す

DC-DCコンバータが搭載されており,今後も,さらなる

小型・軽量化が追求されることが予測されている。

これら電子機器の主要構成部品である半導体デバイスと

しては,従来から SMD(表面実装デバイス)が主として

使用されているが,今後,さらなる小型・軽量化を達成す

るためには,この SMDを可能な限り小型・薄型化してい

く必要がある。

今回,富士電機ではこれらの要求に対し,超薄型パワー

SMD「SDシリーズ」,「TFP(Thin Flat Package)シリー

ズ」(図1参照)を開発,製品化を行ったのでその内容を

紹介する。

富士電機製パワーSMDの特長とアプリケー

ション

2.1 定格電流ー素子高さ,素子占有面積

富士電機では,従来,1Aクラスの SCシリーズ,5 ~ 7

Aクラスの Kパック(Dパック)シリーズ,10 ~ 30A

クラスの Tパック(D2パック)シリーズを開発・系列化

している。

今回,新たに開発した 3Aクラスの SDシリーズと 20

~ 30Aの TFPシリーズは,電源の小型・薄型化に対応

するために素子の高さおよび基板に取り付けたときの占有

面積を改善した点に大きな特長を持っている。これらにつ

いて,図2 に定格電流ー素子高さ,図2 に定格電流ー

素子占有面積の関係を示す。

SDシリーズは,素子高さ 1.2 mmで従来の 3Aクラス

SMDと比較して 60 %の薄さになっており,基板占有面

積も従来より 1クラス下の 1 ~ 2Aクラスと同等の面積ま

で小型化している。一方,TFPシリーズは,素子高さ 2.8

mmと Tパック(D2パック)と比較して 62 %と薄型化

を達成しており,基板取付け占有面積も Tパックの 72 %

まで小さくした高密度実装に対応可能な製品である。

2.2 アプリケーション

今回開発した超薄型 SMD SDシリーズと TFPシリーズ

の主なアプリケーションを表1に示す。SDシリーズは,

素子高さ 1.2 mmで定格電流 3Aと超薄型大電流 SMDと

いう特長から,小型・薄型携帯機器やノートパソコンなど

の大電流薄型機器に対して非常に有効なパッケージである。

また,TFPも定格電流 20 ~ 30Aでかつ高さ 2.8mmと超

薄型・大電流 SMDのため,通信機器用電源,サーバシス

テム電源といった小型・薄型の DC-DCコンバータに有効

なパッケージである。

パッケージの開発

今回開発した SDシリーズと TFPシリーズのパッケー

ジの概略は次のとおりである〔外形寸法図は,図3 ,

を参照〕。

(b)(a)

(b)(a)

(1)

超薄型パワーSMD

127(27)

梅本 秀利(うめもと ひでとし) 古島 達弥(ふるしま たつや)

図1 超薄型パワーSMDの外観

SDシリーズ

TFPシリーズ

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超薄型パワーSMD

3.1 超薄型SMD SDシリーズ

今回の SDシリーズの開発に対しては,市場の小型・薄

型化に対応し,かつ 2 端子型で 3Aの定格電流を確保する

ことを最大の目的として開発を行った。従来の SMDパッ

ケージは,3Aという電流定格に対して製品高さが 2mm

と厚く,放熱性も改善の余地があった。そこで,これらの

課題を解決するためにパッケージの放熱設計の最適化とチッ

プサイズの最適化を図り,超薄型・大電流パッケージを開

発した。特に,放熱設計は重要であり,いかにチップから

発生する熱を外部へ放散するかがポイントである。構造的

には,裏面のアノードとカソードの両電極をフラットに形

成した外部電極フラット構造を適用している。この構造は,

半導体チップから発生する熱を最短距離で積極的に外部基

板へ放熱できるという特長を持っており,小型 SMDに対

し有効な構造である。しかも,基板への自動実装に関して

も外部電極が基板取付面にほぼフラットとなるため,安定

し効率的な実装ができることが挙げられる。さらに,薄型

化を実現するために,材料的には高密着性の高熱伝導低応

力樹脂を適用し,同時にモールド樹脂の厚さに対しても十

分な検討を行った。

3.2 超薄型SMD TFPシリーズ

TFPシリーズは,20 ~ 30Aという大電流パッケージ

のため,SDシリーズと同様,放熱特性が最も重要な設計

ポイントである。構造設計としては,裏面フラット構造の

適用により,カソード電極,アノード電極からの放熱特性

富士時報 Vol.74 No.2 2001

128(28)

表1 主なアプリケーション

パッケージ

SD  シリーズ

TFP  シリーズ

主なアプリケーション

降圧型コンバータ(ノートパソコン) 逆流防止回路(ノートパソコン,ディジタルスチルカメラ など) DC-DCコンバータ(通信機器) ACアダプタ(携帯電話)

DC-DCコンバータ(通信機器,サーバシステム用電源) 小型・薄型の電源

1

10

10

1

100

1 10 100

SCタイプ

SCタイプ

Kパック (Dパック)

Kパック (Dパック)

Tパック (D2パック)

Tパック (D2パック)

SDシリーズ

SDシリーズ

TFPシリーズ

TFPシリーズ

素子高さ h(mm)

素子占有面積 S(mm2)

定格電流 I o(A)

1 10 100定格電流 I o(A)

(a)定格電流と素子高さ (b)定格電流と素子占有面積

図2 パッケージ寸法の比較

5

40.5 0.5

1.5

2.5

(0.8)(0.8)

0.2

1.2 max

9

7

9 10

(5.7)

(2.1)

(2.2)

10

2.8

0.4

0.41 1 1 1

0.2

3.6 0.5

0.5

3.2

0.8

4

はんだめっき

4

321

(a)SDシリーズ

(b)TFPシリーズ

図3 外形寸法図

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超薄型パワーSMD

を改善した。特に,このアノード電極は,従来の Tパッ

ク(D2パック)とは異なり,リード端子構造を幅広く設

計し,リード部からの放熱特性を向上させている。また,

材料設計としては,放熱特性を向上させるために,高熱伝

導かつ温度ストレスにも十分耐量を確保できるような低応

力樹脂を選定し適用した。

信頼性設計

表面実装デバイスの信頼性に関して注意すべき重要なポ

イントは,①実装時のはんだ付け熱ストレス耐量,②温度

サイクルとパワーサイクルの耐量,③耐湿性などが挙げら

れる。そこで,今回の構造設計では,これらの信頼性に対

する向上を図るため,積極的にシミュレーションを活用し

た。

4.1 シミュレーションによる設計諸元の最適化

SDと TFPの両シリーズとも超薄型を特長としており,

実使用上における熱ストレス耐量の向上が必要不可欠であ

る。今回の開発では,新たな解析手法としてシリコンチッ

プ,はんだ,モールド樹脂などの主要部材について,①物

性値の温度依存性を考慮した「弾塑性熱応力シミュレーショ

ン」,②「弾塑性温度サイクルシミュレーション」,③「過

渡熱シミュレーション」などを効果的に組み合わせて実施

した。そして,これらの結果を設計仕様に反映し,目標品

質を十分確保できる設計諸元を選定した。以下に,今回適

用したシミュレーション結果の代表例を記す。

4.1.1 チップ下はんだ厚の検討

図4 に SDシリーズの構造モデルを使用したチップ下

はんだ厚とパワーサイクル耐量のシミュレーション結果を

示す。上記の結果からチップ下はんだ厚が最も信頼性に影

響することが分かり,この結果に基づいて,目標とするパ

ワーサイクル耐量を満足するはんだ厚を設計仕様に反映さ

せ,実際の信頼性試験においても上記に対応する結果を確

認した。

4.1.2 チップ厚さの検討

図4 に TFPシリーズの構造モデルを使用したシリコ

ンチップ厚とチップ下はんだの塑性ひずみ量についてのシ

ミュレーション結果を示す。チップ厚を薄くするほど,チッ

プ下はんだ内の塑性ひずみが低減され信頼性が向上するこ

とから,このデータを基に目標とするパワーサイクル耐量,

温度サイクル耐量を満足するチップ厚を求め,設計仕様を

決定した。そして,実際に信頼性試験を実施し,シミュレー

ションの検証を行った。

(b)

(a)

129(29)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

例1:SDシリーズ構造 例2:TFPシリーズ構造

パワーサイクル耐量(サイクル)

薄い 厚い 厚い チップ下はんだ厚( m) シリコンチップ厚( m)

チップ下はんだの塑性ひずみ(%)

(a)チップ下はんだ厚と信頼性の関係

薄い

(b)シリコンチップ厚と信頼性の関係

温度サイクル

パワーサイクル

図4 シミュレーション検討結果

表2 製品型式

パッケージ

SDシリーズ

SBD

LLD

SBD

TFPシリーズ

SD883-0220 V/3 A,

計画中

V =0.39 VF

MS808C0660 V/30 A, V =0.58 VF

MS888C0220 V/30 A, V =0.39 VF

MS838C0330 V/30 A, V =0.45 VF

MS838C0440 V/30 A, V =0.53 VF

MS838C09

MS838C10

90 V/30 A

100 V/30 A

SD833-0330 V/3 A,

計画中

計画中

計画中

V =0.46 VF

SD883-0440 V/3 A, V =0.45 VF

SD833-0440 V/3 A, V =0.51 V

LLD

MS906C2200 V/20 A, V =0.98 VF

MS906C3

MS906C4

300 V/20 A

400 V/20 A

SD833-06

SD833-09

SD903-02

SD903-04

F

60 V/3 A

90 V/3 A

200 V/2 A

400 V/2 A

種 類 型 式 定 格 備 考

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超薄型パワーSMD

4.2 実使用を想定した評価方法の適用

今回の薄型 SMDの評価としては,実使用を考慮した評

価方法を適用した。具体的には,2 種類の実装基板(ガラ

スエポキシ基板とアルミ基板)を使用して,実際に温度ス

トレスに対する品質の確認を行った。また,シミュレーショ

ンの適用から,基板の違いにより温度ストレスが加えられ

たときの基板の反り方と反り量が異なること,およびチッ

プ下はんだの塑性ひずみへの影響に違いが生じることが分

かり,実際の評価結果と検証を行った。さらに,これらの

データをアプリケーションデータとしてまとめ,活用でき

るようにした。

富士時報 Vol.74 No.2 2001

130(30)

表3 開発製品の定格特性

項 目 記 号

VRRMせん頭  繰返し   逆電圧

平均順電流 方形波 デューティ=1/2

正弦波,10ms, 1発

接合-リード間

接合-ケース間

=3 A

最大定格

電気的特性

条 件

SDシリーズ TFPシリーズ

SD883-02

20

3

70

-40~+125

-40~+125

0.39

2

12

シングル

SBD

IO

サージ電流 I FSM

接 合 温 度 Tj

保 存 温 度 Tstg

順 電 圧 VF

逆 電 流 I R

I F

= VR VRRM=20 V* VR

=12.5 AI F

=10 AI F

熱 抵 抗

結   線

Rth(j-l)

Rth(j-c)

SD883-04

40

3

70

-40~+125

-40~+125

0.45

*1

12

シングル

SD833-03

30

3

70

-40~+150

-40~+150

0.46

1

12

シングル

SD833-04

40

3

70

-40~+150

-40~+150

0.51

1

12

シングル

MS808C06

60

30

150

-40~+150

-40~+150

0.58

3

1.2

ツイン

SBD

MS906C2

LLD

200

20

80

-40~+150

-40~+150

0.95

200

2

ツイン

単位

V

A

A

V

℃/W

mA

A

SD883-02SD883-04

SD833-03SD833-04

10

1

0.1

0.010 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

(a)Vシリーズ

10

1

0.1

0.010 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7

(b)Aシリーズ

j =125℃ T j =150℃ T

j =25℃ T j =25℃ T

F(A)

順電流 I

F(A)

順電流 I

順電圧 F(V) V 順電圧 F(V) V

図5 SDシリーズの順方向特性

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超薄型パワーSMD

定格特性および電気的特性

5.1 定格特性

今回開発した 2 端子 SDシリーズと TFPシリーズの製

品型式を表2に示す。また,これら開発製品の定格特性を

表3に示す。SDシリーズは,低 VF SBD(Schottky Bar-

rier Diode)Vシリーズ,および 30V,40Vアバランシェ

保証 SBDの Aシリーズを系列化し,アプリケーションに

合った最適 SBDの選択が可能である。

また,TFPシリーズは,5V 以上の高出力電圧整流用と

して 60 V SBD,および 200 V LLD(Low Loss Fast Re-

covery Diode)を系列化した。

5.2 電気的特性

SDシリーズの代表的な電気的特性として 20V,40V V

シリーズ,および 30 V,40 V Aシリーズの順方向特性を

それぞれ図5 , に示す。

また,TFPシリーズの代表としては,60 V/30A SBD

の順方向特性および逆方向特性をそれぞれ図6 , に示

す。

あとがき

今回,富士電機が開発した超薄型パワー SMD 2 端子

SDシリーズと TFPシリーズについて紹介した。これら

のデバイスは,携帯電子機器,および通信機器の小型・軽

量化を実現していくうえで最適なデバイスであり,富士電

機では,これらのパッケージ製品の系列化とさらなる性能

の向上を目指した製品開発を推進していく考えである。

参考文献

岩原光政ほか. 電源用ダイオード. 富士時報. vol.68, no.7,

1995, p.390-393.

森本哲弘ほか. 低順電圧のショットキーバリヤダイオード.

富士時報. vol.72, no.3, 1999, p.172-175.

(2)

(1)

(b)(a)

(b)(a)

(2)

131(31)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

MS808C06 MS808C06F(A)

順電流 I R(mA)

逆電流 I

順電圧 F(V) V 逆電圧 R(V) V

10

100

1

0.1

0.010 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2

(a)順方向特性

10-2

10-1

100

101

102

103

0 10 20 30 40 50 60

(b)逆方向特性

70 80

j =150℃ T

j =150℃ T

j =125℃ T

j =125℃ T

j =100℃ T

j =100℃ T

j =25℃ T

j =25℃ T

図6 TFPシリーズの順方向特性と逆方向特性

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久保山 貴博

高圧ダイオードの開発・設計に従

事。現在,富士日立パワーセミコ

ンダクタ(株)松本事業所開発設計

部。

渡島 豪人

高圧ダイオードの開発・設計に従

事。現在,富士日立パワーセミコ

ンダクタ(株)松本事業所開発設計

部。

富士時報 Vol.74 No.2 2001

まえがき

電子レンジの年間生産台数は,全世界で約 4,000 万台と

10年前の 2 倍近く,今後も堅調な伸びが見込まれている。

電子レンジは,マグネトロンの発振により電磁波を発生

させ食品を加熱する。このマグネトロンの発振に直流高電

圧が必要であり,その整流回路に高圧ダイオードが使用さ

れる。

これまで富士電機では,テレビ用高圧ダイオードで培っ

た技術を基盤とし,電子レンジ用高圧ダイオード系列を製

品化し市場に供給してきている。

最近の電子レンジの主な技術動向として,マグネトロン

高周波出力の高出力化による調理時間の短縮,高圧出力回

路の高周波化による高機能・多機能化などがあげられる。

調理室(庫内)の有効容積率の増加(電子レンジ本体の小

型化かつ調理室の大型化)も大きな流れである。さらに,

待機時および調理時の消費電力の抑制などの省エネルギー

化への関心も高くなっている。

このように多様化する技術動向にあわせ,電子レンジの

電源回路の主要構成部品である高圧ダイオードへも従来の

要求性能以上に,①高耐圧・高サージ耐量性,②高速性へ

の対応などの要求が厳しくなってきている。

富士電機では,このような要求にこたえるために,商用

周波駆動型対応品「ESJC15-10」「ESJC16-09」「ESJC16-

12」,高周波駆動型対応品「ESJC34-08」を新たに開発し

た(図1)。

本稿では,今回開発した電子レンジ用高圧ダイオードの

概要について紹介する。

電子レンジに使用される高圧電源回路

図2に電子レンジ用高圧電源部の基本回路を示す。

マグネトロンは磁界によって電子流を制御する二極管で

あり,加えられた磁界と陽極の正電圧による電界とによっ

て電子に回転運動を与え,電磁波を高効率に発生させるも

のである。また,マグネトロンは陽極電圧が一定の電圧に

達すると陽極電流が急激に立ち上がる特性を持っている。

このような性質を持つマグネトロンの動作に対しては,常

に安定した電流を流し続ける必要がある。そのため二次側

高圧電源回路は,高圧コンデンサと高圧ダイオードを組み

合わせた構成となっている。

二次側高圧電源回路は,現在,①一次側の入力周波数そ

のままで二次側の高圧トランスを駆動させる方式(商用周

波駆動型)と,②一次側の回路構成をトランジスタによる

電子レンジ用高圧ダイオード

132(32)

久保山 貴博(くぼやま たかひろ) 渡島 豪人(わたしま たけと)

マグネ トロン

高圧ダイオード

高圧ダイオード

マグネ トロン

(b)高周波駆動型電子レンジ

(a)商用周波駆動型電子レンジ

図2 電子レンジ用高圧電源部の基本回路

図1 電子レンジ用高圧ダイオードの外観

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電子レンジ用高圧ダイオード

スイッチング回路とし二次側高圧トランスを高周波で駆動

させる方式(高周波駆動型)との二つに分けられる。現在,

高周波駆動型の周波数は 30 ~ 35 kHzが主流となっている。

高圧ダイオードへの要求特性

図3に一般的な電子レンジの電源投入時からマグネトロ

ン定常動作時までのダイオードへの印加電圧・電流波形を

示す。

電源投入直後からマグネトロンの正常な発振が起こるま

でに数秒を要し,この間は電流が流れずトランスの二次側

は無負荷状態となるため,ダイオードに印加される電圧は

定常時(約 4kV)に比べ高電圧(約 6kV)となる。ダイ

オードのアバランシェ電圧が印加電圧より低い場合,ダイ

オードの逆損失は膨大なものとなる。したがって,電源投

入時の印加電圧以上のアバランシェ電圧が必要となる。ま

た,電源投入時や定常動作への移行時にマグネトロンの異

常動作による放電が起こることが指摘されており,このと

きに回路に発生するサージ過電圧は 20 kV 以上の非常に高

い電圧であるといわれている。このサージ過電圧に対する

破壊耐量も高圧ダイオードへの重要な要求特性である。

マグネトロンの定常動作時に高圧ダイオードの順方向に

は 300 ~ 400mA程度の電流が流れるが,特に商用周波駆

動型では,電子レンジ出力の高出力化に伴い,この順電流

が増加する傾向にある。さらに,電子レンジの有効容積率

の改善により電源回路部の省スペース化が進み,高圧ダイ

オードの周囲温度は高くなる傾向にあり,高圧ダイオード

の発生損失を低減させ発熱を抑える必要がある。商用周波

駆動型においては高出力化にあわせ,増大する順電流によ

る損失(順損失)を低く抑えることが最も重要である。

一方,電源を高周波駆動にすると,電子レンジにとって

は,①高圧トランス,コンデンサの小型・軽量化によるセッ

ト本体の軽量化,有効容積率の改善,②出力の無段階連続

調整による調理メニューの増加などのメリットが得られる。

高周波駆動型は 30 ~ 35 kHzと従来の商用周波駆動型の

500 倍程度の周波数で駆動している。このため,高圧ダイ

オードは従来の順損失のほかにスイッチング動作による損

失(スイッチング損失)を小さくすることが重要となる。

図4に示すように,ダイオード損失の中で,順損失,逆損

失に周波数依存性はないが,スイッチング損失は周波数が

高くなるにつれ急激に増加する傾向があり,高周波動作に

おいては発生損失中,最も大きなウエートを占めることと

なる。今後は,高周波出力の高出力化に向け,出力電流が

増加すると同時に,より高周波駆動が必要とされることが

予想されることから,ダイオードのスイッチング特性を向

上し,スイッチング損失を抑えることが高周波駆動型電子

レンジへの適用において最重要項目といえる。

以上をまとめると,電子レンジ用高圧ダイオードへの要

求特性は,

高サージ耐量化

順損失の低減

スイッチング損失の低減(高周波駆動型)(3)

(2)

(1)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

133(33)

0 V

0 A

(a)商用周波駆動型ー電源投入時~定常動作時

V:2 kV/divI :0.5 A/divt :500ms/div

0 V

0 A

(b)商用周波駆動型電子レンジー定常動作時

V:2 kV/divI :0.5 A/divt :5ms/div

0 V

0 A

(c)高周波駆動型電子レンジー定常動作時

V:2 kV/divI :0.4 A/divt :10μs/div

図3 高圧ダイオード電圧・電流波形

ダイオード発生損失 (W)

W

駆動周波数 (kHz) f

j=100 ℃ T

5

4

3

2

1

10 25

スイッチング損失

順損失

逆損失

50 75 100

図4 駆動周波数とダイオード発生損失

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電子レンジ用高圧ダイオード

となる。

設計施策

高圧ダイオードの構造は,図5に示すように高耐圧化を

図るため,ダイオードチップの積層構造をとっている。高

圧ダイオードの基本的な設計緒元としては,積層数(Nj),

チップ面積(S),シリコン基板抵抗(ρ),p+/n+不純物

拡散深さ(xj),高抵抗層幅(WB)などが挙げられる。

4.1 商用周波駆動型

富士電機では,これまで商用周波駆動型電子レンジ用高

圧ダイオードとして高耐圧・高サージ耐量化を実現した

「ESJC13-09B」「ESJC13-12B」を製品化している。これ

らのチップ設計を基盤とし,さらに許容電流を増加するた

め,高圧ダイオードの順電圧を低減させ,同時に電子レン

ジ用高圧ダイオードへの重要要求であるサージ耐量を向上

することをあわせて検討した。

一般には順電圧を低く抑える方法としては,Njの低減

が最も効果的であり,低コスト化にもつながる手法である。

しかし,このことは素子全体の耐圧とサージ耐量を減少さ

せることとなる。そこで,順電圧の低下とサージ耐量の向

上を両立させるために,Sと Njの最適化を図った。

まず順損失による高圧ダイオードの接合温度上昇(Δ

Tj)について,Sおよび Njとの関係について調査した

(図6)。この結果から,順電流(400mA)によるΔTjが

70 ℃以下となる Nj,Sを導出した。同時にサージ耐量に

ついても従来品以上の耐量を確保することを前提とし,xj

およびWBを最適化し,最終仕様を決定した。

以上の施策から,低損失かつ高サージ耐量といった要求

特性を満たした「ESJC15-10」「ESJC16-09」「ESJC16-12」

を開発した。

4.2 高周波駆動型

高周波駆動型電子レンジでは高周波化が年々進んでいる

ことから,スイッチング損失の低減を図るべく,短逆回復

時間(trr)化が重要要求特性である。一般に短 trr 化には,

Auや Ptなどの重金属をライフタイムキラーとして拡散

する方法が用いられる。しかし,ライフタイムキラー拡散

は,trrは短縮されるが順電圧が増加するといったトレー

ドオフ要因を持っている(図7)。順電圧が増加すること

は順損失の増加,すなわちダイオード損失の増加を意味す

る。そこで,順電圧を増加させることなく短 trr 化を図る

べく,次の施策を行った。

まずライフタイムキラーとして,①高温雰囲気での動作

において発生損失の少ない Ptを選定した。さらに,trrお

よび VFを低く抑えるため,②WBの狭小化を検討した。

しかし,このことはサージ耐量および素子耐圧の低下を招

くことから,これらを抑えるために,③ライフタイムキラー

拡散条件の最適化による短 trr 化,④ xjの最適化による

サージ耐量の向上を同時に行った。

以上の設計施策により,順損失の低減とスイッチング損

失の低減を両立した「ESJC34-08」を開発した。

製品概要

開発品の外観は図1に示した。

商用周波駆動型については表1,表2に,高周波駆動型

については表3,表4にそれぞれの絶対最大定格,電気的

特性を示す。

5.1 「ESJC15-10」「ESJC16-09」「ESJC16-12」

開発品は,高出力電子レンジの出力電流のレベルである

400mAの順電流(Io)を流した場合,従来品に比べそれ

ぞれ 10 %ほど接合温度上昇を低く抑えている(図8)。

134(34)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

リ-ド線 リ-ド線 接合ろう材(はんだ)

モールド樹脂 ダイオードチップ

積層数( j) N

図5 高圧ダイオードの構造

順電圧 F(V)

V

少ない← ライフタイムキラー拡散量 →多い

11.0

10.5

10.0

9.5

9.0

8.5

8.0

逆回復時間 rr(ns)

t

rrt

fV

100

90

80

70

60

図7 ライフタイムキラー拡散量とVF,trr

接合温度上昇  j(℃)

ΔT

少ない← 積層数  j →多い N

80

75

70

65

60

チップ面積 :小 チップ面積 :中 チップ面積 :大

SSS

図6 積層数,チップ面積と接合温度上昇

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電子レンジ用高圧ダイオード

また,サージ耐量特性においては従来品に対し約 30 %

の改善を図った(図9)。 5.2 「ESJC34-08」

開発品は,従来品と比較すると trrは約 20 %短くなって

おり,同時に順電圧についても 10 %の低減を図っている

富士時報 Vol.74 No.2 2001

135(35)

表1 商用周波駆動型の絶対最大定格

項 目 記号

定 格

ESJC 15-10

定格せん頭  逆耐電圧

VRRM

I o

I FSM

I RSM

Tj

Tg

順方向  出力電流

過渡せん頭   逆電流

過渡せん頭   順電流

ESJC 16-09

ESJC 16-12

10 9

単位

kV

mA

mA

A

12

400 480

100

30

430

20 30

接合部温度 130

保 存 温 度

*放熱は,厚さ 0.6 mm,面積 50×50(mm)以上のフィンにカソード  端子をねじ止めし,風速 0.5 m/s 以上の風冷を条件とする。

-40~+130

条 件

50 Hz, 半波平均値,

50 Hz, 半波波高値,

方形波波高値,

a≦60℃* T

a=25℃ 1発, T

p=1ms, W

a=25℃ 1発, T

表2 商用周波駆動型の電気的特性( Ta=25℃)

項 目 記号

定 格

ESJC 15-10

順方向  電圧降下

VF

I R

Vz

逆方向  漏れ電流

アバラン  シェ電圧

ESJC 16-09

ESJC 16-12

≦9 ≦8

単位

V

A

kV

≦10

≦5 ≦5 ≦5

≧11 ≧9.5 ≧9.5

条 件

F =350mAI

R= V RRMV

z=100 AI

表3 高周波駆動型の絶対最大定格

記号

VRRM

I o

I FSM

I RSM

Tj

Tg

単位

kV

mA

mA

A

項 目

定格せん頭  逆耐電圧

順方向  出力電流

過渡せん頭   逆電流

過渡せん頭   順電流

接合部温度

保 存 温 度

定 格

ESJC34-08

8

350

100

15

120

-30~+130

条 件

l ≦110℃ T

W=1ms,方形波波高値, Ta =25℃ T

W=10ms,三角波波高値, Ta =25℃ 1発,

1発,

T

表4 高周波駆動型の電気的特性( Ta=25℃)

項 目 記号

順方向電圧降下 VF

I R

Vz

逆方向漏れ電流

逆方向回復時間

単位

V

A

s

定 格

ESJC 34-08

≦13.5

≦10

≦0.15

条 件

F =350mAI

F =100mA, 90%回復

I R =100mAI

R=8.0 kVV

接合温度上昇  j(℃)

ΔT

順電流 o(mA) I

100

90

80

70

60

50

40

30

20

10

05004003002001000

開発品 ESJC16-12

従来品 ESJC13-12B

開発品 ESJC16-09

従来品 ESJC13-09B

図8 順電流と接合温度上昇

アバランシェエネルギー耐量  (J) WS

発生頻度 (pcs.)

N16

12

8

4

0

6.05.65.24.84.44.03.63.2

従来品 ESJC13-09B

16

12

8

4

0

開発品 ESJC16-09

16

12

8

4

0

従来品 ESJC13-12B

16

12

8

4

0

開発品 ESJC16-12

図9 アバランシェエネルギー耐量分布

F(V)〔 F=350mA〕

VI

rr(ns)〔 F/ R=100/100mA,90%回復〕 t I I

a=100 ℃ T10

9

開発品 ESJC34-08

従来品 ESJC30-08

8

7400380360340320300280260

図10 trr -VF 相関(代表値)

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電子レンジ用高圧ダイオード

(図 )。また,サージ耐量特性においても従来品と同等以

上のサージ耐量を有している(図 )。低損失設計による

温度上昇の抑制とともにマグネトロンの異常動作によるサー

ジ過電圧への耐量も向上した信頼性の高い製品となってい

る。

あとがき

以上,富士電機の電子レンジ用高圧ダイオードについて

紹介した。

今回の開発で得られた技術を基盤とし,今後はさらに市

場ニーズに合致した高機能・高信頼性を有する製品開発に

向け,技術のレベルアップを図る所存である。

11

10

136(36)

富士時報 Vol.74 No.2 2001発生頻度 (pcs.)

N

16

12

8

4

0

従来品 ESJC30-08

16

12

8

4

0

開発品 ESJC34-08

アバランシェエネルギー耐量  (J) WS4.44.03.63.22.82.42.01.6

図11 アバランシェエネルギー耐量分布

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藤井 岳志

半導体パワーデバイスの研究開発

に従事。現在,(株)富士電機総合

研究所デバイス技術研究所。電気

学会会員。

川  功

半導体パワーデバイスの研究開発

に従事。現在,(株)富士電機総合

研究所デバイス技術研究所。電気

学会会員。

松原 邦夫

電力変換装置,パワーデバイスの

研究開発に従事。現在,(株)富士

電機総合研究所デバイス技術研究

所。電気学会会員。

富士時報 Vol.74 No.2 2001

まえがき

産業,電気車両,変電設備といった従来 GTO(Gate

Turn-Off)サイリスタが主に用いられてきた分野に対し,

近年は高耐圧・大容量 IGBT(Insulated Gate Bipolar Tran-

sistor)の適用が進展している。IGBT 素子の適用が進ん

でいる主な理由としては,GTOサイリスタと比較し,電

圧駆動方式であるため取扱いが容易であることと,広い安

全動作領域を持つといった利点があるためである。

大規模で公共性の高いシステムにおいては,高い機械

的・電気的信頼性が必要とされる。このような要求に対し,

高い信頼性を持つ 2.5 kV/1.0 kA 平型 IGBT,2.5 kV/1.8

kA 平型 IGBTを開発し,産業用・車両用システムへの適

用を進めてきた。これらの平型 IGBT素子は高い機械的長

期信頼性を実現しており,また高いラプチャー耐量ととも

に,平型構造の特長を生かし,直列接続による装置適用が

容易に可能となっている。

IGBTの適用が広がるに伴い,IGBT 素子へのさらなる

高耐圧・大容量化が求められており,2.5 kV 平型 IGBTの

技術を進展させ,さらに高耐圧・大容量の 4.5 kV/2.0 kA

平型 IGBT,4.5 kV/1.2 kA 平型 IGBTの開発を行ってきて

いる。

本稿では 4.5 kV/2.0 kA,4.5 kV/1.2 kA 平型 IGBTのデ

バイスデザイン,電気特性につきその概要を報告する。

デバイスデザイン

2.1 パワーパック IGBTの構造と特徴

4.5 kV 平型 IGBTは角形セラミックパッケージを用いて

いる。図1に 4.5 kV/2.0 kA 平型 IGBT,図2に 4.5 kV/1.2

kA 平型 IGBTの外観を示す。パッケージサイズは 4.5

kV/2.0 kA 平型 IGBT が 175 × 175 × 26(mm),4.5

kV/1.2 kA 平型 IGBTが 140 × 140 × 26(mm)である。

エミッタ,コレクタ両電極から冷却可能な両面冷却構造と

なっている。また,高いラプチャー耐量を実現したハーメ

チックシール構造になっている。

図3に平型 IGBTに内蔵される IGBT素子,ダイオード

素子の外観を示す。IGBTチップ,ダイオードチップは

個々の独立したモリブデン製コレクタ(カソード)電極端

子の上に配置され,それぞれが個々に独立した素子として

働くように設計されている。この形状で,4.5 kV/2.0 kA

平型 IGBTの場合,パッケージ内部に IGBT素子が16個,

フリーホイーリングダイオード(FWD)として働くダイ

オード素子が 9 個内蔵される。また,4.5 kV/1.2 kA 平型

IGBTの場合 IGBT素子が11個,ダイオード素子が 5 個内

蔵される。この内部構造をマルチコレクタ構造と呼称する。

マルチコレクタ構造を採用することにより,4.5 kV 平型

4.5 kV高耐圧平型 IGBT

137(37)

藤井 岳志(ふじい たけし) 川  功(よしかわ こう) 松原 邦夫(まつばら くにお)

図1 4.5 kV/2.0 kA 平型 IGBTの外観

図2 4.5 kV/1.2 kA 平型 IGBTの外観

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4.5 kV高耐圧平型 IGBT

素子のように多数のチップを内蔵する場合においても,パ

ワーサイクルといった長期信頼性に対し高い信頼性を実現

している。

2.2 チップデザインと特徴

4.5 kV 平型 IGBTに内蔵される,4.5 kV IGBTチップと

ダイオードチップの外観を図4に示す。IGBTチップ,ダ

イオードチップとも 21.5 × 21.5(mm)のチップサイズで

ある。

IGBTチップはパンチスルータイプの構造を採用してい

る。裏面側の n+バッファ層,p+コレクタ層は厚さを薄く

して形成され,不純物濃度をコントロールすることにより,

裏面層からの注入を抑制し,特性の最適化を図っている。

また,ダイオードチップは,特に逆回復時の波形振動を

抑制することに重点を置き,構造の最適化を図っている。

2.3 IGBTおよびダイオードチップの高破壊耐量化

4.5 kV IGBTチップは高いターンオフ耐量を実現するた

めに,次に示す設計を行っている。

一点目は,IGBTの制限電流をラッチアップ電流値より

低く設定することである。ターンオフ時の IGBTチップの

破壊は,主に寄生サイリスタのラッチアップ現象に起因す

る。そのため,IGBTの制限電流を低く設計し,寄生サイ

リスタのラッチアップ電流より低くすることで,ターンオ

フ耐量を向上させることが可能となる。

二点目は,ターンオフ時のダイナミックアバランシェ現

象を抑制することである。ターンオフ時にチップの活性領

域の一部で電界強度が上昇し,かつターンオフ電流が集中

することでダイナミックアバランシェ現象を引き起こす。

4.5 kV IGBTチップでは,現象を抑制するよう構造の最適

化を図っている。

高耐圧・大容量のインバータシステムにおいてもコンパ

クト化が進められ,スナバ回路なしや,回路インダクタン

ス成分の減少などが図られている。そのため,フリーホイー

リングダイオードに対しても,高い逆回復時の耐量が求め

られている。

4.5 kVダイオードチップは,逆回復時の破壊現象を解析

し,電流が集中する部分の構造を見直すことでチップ内部

のキャリヤの分布を改善し,逆回復特性の向上を実現して

いる。

富士時報 Vol.74 No.2 2001

138(38)

図3 内蔵 IGBT素子,ダイオード素子の外観

IGBT ダイオード

図4 IGBTチップ,ダイオードチップの外観

IGBT ダイオード

項 目 記 号

コレクタ- エミッタ間電圧

ゲート - エミッタ間電圧

直 流 コ レ ク タ 電 流

パ ル ス コ レ ク タ 電 流

最 大 コ レ ク タ 損 失

接   合   部   温   度

圧    接    力

定 格

4,500

±20

2,000

2,000

4,000

4,000

10,000

-40~+125

55~70

単位

V

V

A

A

A

A

W

kN

VCES

VGES

I c

Pc

T

j

I c

I c(pulse)

I-

c(pulse)

項 目 記 号

コレクタ-  エミッタ間    遮断電流

ゲート-  エミッタ間    漏れ電流

ゲート-  エミッタ間  しきい値電圧

最小

標準

最大

100

単位

mA

ー ー ±10 A

6.0 ー 8.0 V

ー 5.7 ー V

ー 4.3 ー V

ー 1.5 ー s

I CES

試験条件

VGE=0 VVCE =4,500 V

VCE =0 V

VCE =20 VI c =2.0 A

VGE=15 VI c =2,000 A

VGE=±20 V

T j=125℃

T j=125℃

I GES

VGE(th)

コレクタ-  エミッタ間    飽和電圧

VCE(sat)

VGE =15 V

VGE=±15 VR g(on) =1.0 Ω R g(off) =0.7 Ω

I c =2,000 AT j=125℃

ダイオード     順電圧

VF

Vcc=2,600 VI c =2,000 AT j=125℃

I F =2,000 ATj=125℃

ターンオン特性

ターンオフ特性

逆 回 復 特 性

t on

t r

t off

t f

di- /dt=9,000 A/ s

t rr

表1 4.5 kV/2.0 kA平型 IGBTの定格および特性

(b)電気的特性

(c)熱特性

項 目

IGBT

FWD

記 号

th(j-f) R

th(j-f) R熱抵抗

最小 標準

単位

℃/W

℃/W

試験条件

両面冷却 ー

ー ー

最大

0.010

0.017

ー 0.85 ー s

ー 3.5 ー s

ー 1.9 ー s

ー 1.0 ー s

(a)最大定格( =25℃) Tj

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4.5 kV高耐圧平型 IGBT

4.5 kV平型 IGBTの特性

3.1 最大定格および特性

4.5 kV/2.0 kA 平型 IGBTの最大定格および特性を表1

に,4.5 kV/1.2 kA 平型 IGBTの特性を表2に示す。

3.2 飽和電圧特性

4.5 kV/2.0 kA 平型 IGBTの VCE・IC 特性および VF・ IF

特性を図5に,4.5 kV/1.2 kA 平型 IGBTの同特性を図6に

示す。両方の素子ともに,接合温度が高くなると IGBTの

コレクタ- エミッタ間飽和電圧が上昇する傾向を持ってい

るが,これは素子の並列接続を行う場合には電流分担の調

139(39)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

項 目 記 号

コレクタ- エミッタ間電圧

直 流 コ レ ク タ 電 流

パ ル ス コ レ ク タ 電 流

最 大 コ レ ク タ 損 失

接   合   部   温   度

圧    接    力

定 格

4,500

±20

1,200

1,200

2,400

2,400

7,100

-40~+125

35~45

単位

V

V

A

A

A

A

W

kN

I c

Pc

T

j

I c

I c(pulse)

I-

c(pulse)

項 目 記 号

コレクタ-  エミッタ間    遮断電流

ゲート-  エミッタ間    漏れ電流

ゲート-  エミッタ間  しきい値電圧

最小

標準

最大

65

単位

mA

ー ー ±10 A

6.0 ー 8.0 V

ー 5.4 ー V

ー 4.5 ー V

ー 2.4 ー s

I CES

試験条件

VGE=0 VVCE =4,500 V

VCE =0 V

VCE =20 VI c =2.0 A

VGE=15 VI c =1,200 A

VGE=±20 V

T j=125℃

T j=125℃

I GES

VGE(th)

コレクタ-  エミッタ間    飽和電圧

VCE(sat)

VGE =15 V

VGE=±15 VR g(on) =1.5 Ω R g(off) =1.0 Ω

I c =1,200 AT j=125℃

ダイオード     順電圧

VF

Vcc=2,600 VI c =1,200 AT j=125℃

I F =1,200 ATj=125℃

ターンオン特性

ターンオフ特性

逆 回 復 特 性

t on

t r

t off

t f

=5,500 A/ st rr

表2 4.5 kV/1.2 kA平型 IGBTの定格および特性

(b)電気的特性

(c)熱特性

(a)最大定格( =25℃) Tj

項 目

IGBT

FWD

記 号

th(j-f) R

th(j-f) R熱抵抗

最小 標準

単位

℃/W

℃/W

試験条件

両面冷却 ー

ー ー

最大

0.014

0.030

ー 1.6 ー s

ー 3.6 ー s

ー 2.1 ー s

ー 0.74 ー s

VCES

VGESゲート - エミッタ間電圧

di- /dt

0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0

2,000

1,800

1,600

1,400

1,200

1,000

800

600

400

200

00 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0

j=25 ℃ T j=125 ℃ T

飽和電圧 CE(sat)(V) V

コレクタ電流 c(A)

I

2,000

1,800

1,600

1,400

1,200

1,000

800

600

400

200

0

順電流 F(A)

I

j=25 ℃ Tj=125 ℃ T

順電圧 F(V) V

(a) CE・ C 特性  V I

(b) F・ F 特性  V I

図5 4.5 kV/2.0 kA 素子の出力特性

1,200

1,000

800

600

400

200

00 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0

1,200

1,000

800

600

400

200

00 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0

j=25 ℃ T j=125 ℃ T

コレクタ電流 c(A)

I

飽和電圧 CE(sat)(V) V

j=25 ℃ Tj=125 ℃ T

順電流 F(A)

I

順電圧 F(V) V

(b) F・ F 特性  V I

(a) CE・ C 特性  V I

図6 4.5 kV/1.2 kA 素子の出力特性

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4.5 kV高耐圧平型 IGBT

整機能として作用するので有利である。

3.3 スイッチング特性

4.5 kV/2.0 kA 平型 IGBTのコレクタ-エミッタ間飽和

電圧(VCE(sat))とターンオフ損失(Eoff)のトレードオフ

の関係を図7に,4.5 kV/1.2 kA 平型 IGBTの同関係を図8

に示す。

4.5 kV/2.0 kA 平型 IGBTにおいて直流定格電流 2,000A

を遮断した際のターンオフ時間は,VCE(sat)= 5.7 Vの素

子で 3.5μsである。また,4.5 kV/1.2 kA 平型 IGBTにお

いて直流定格電流 1,200Aを遮断した際のターンオフ時間

は,VCE(sat)= 5.4Vの素子で 3.6μsである。

図9に 4.5 kV/2.0 kA 平型 IGBTの大電流ターンオフ耐

量の動作波形を示す。直流電圧 2,600 V,試験温度 125 ℃,

スナバ回路なしの条件において,定格電流の 2 倍より大き

いコレクタ電流 4,500Aのターンオフに成功している。4.5

kV 平型 IGBTは高いターンオフ能力を持つことを可能と

している。

あとがき

4.5 kV/2.0 kAおよび 4.5 kV/1.2 kAの定格を持つ平型

IGBTに採用した技術の概要と,その性能について述べた。

これらの素子は,現在 IGBTの適用が進展している高耐

圧,大容量の変換システムの分野において,より高い耐圧

を持つ IGBT素子の実用化要求に対応している。また今後

さらに,GTOサイリスタに置き換わっていくデバイスと

しての性能を持つ。

高速性,信頼性の観点からも,高耐圧・大容量分野での

IGBT素子の適用は進むと予想される。開発した 4.5 kV 平

型 IGBTのさらなる改善と,システムへの適用を図ってい

く所存である。

参考文献

一条正美ほか. 大容量車両用・産業用平形 IGBT. 富士時

報. vol.71, no.2, 1998, p.123-127.

Takahashi, Y. et al. Ultra high-power 2.5 kV-1800 A

Power Pack IGBT. in Proceedings of ISPSD’97. 1997,

p.233-236.

Koga, T. et al. Ruggedness and Reliability of 2.5 kV-1.8

kA Power Pack IGBT with a Novel Multi-Collector

Structure. in Proceedings of ISPSD’98. 1998, p.437-440.

Yoshikawa, K. et al. A Novel IGBT Chip Design Con-

cept of High Turn-off Current Capability and High Short

Circuit Capability for 2.5 kV Power Pack IGBT. in

Proceedings of ISPSD’99. 1999, p.177-180.

Fujii, T. et al. 4.5 kV-2000 A Power Pack IGBT(Ultra

High Power Flat-Packaged PT type RC-IGBT). in Pro-

ceedings of ISPSD’00. 2000, p.33-36.

(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

140(40)

ターンオフ損失 off(mJ)

E

飽和電圧 CE(sat)(V) V

d=2,600 VEc=2,000 AIj =125 ℃ T

9,000

8,000

7,000

6,0006.56.05.55.0

図7 4.5 kV/2.0 kA素子のトレードオフの関係

V0 VGE:20 V/div

VCE:1,000 V/div

I CE:1,000 A/div

t:1 s/div

0 V, 0 A

図9 大電流ターンオフ耐量波形

ターンオフ損失 off(mJ)

E

飽和電圧 CE(sat)(V) V

d=2,600 VEc=1,200 AIj =125 ℃ T

6,000

5,000

4,000

3,0006.05.55.04.5

図8 4.5 kV/1.2 kA素子のトレードオフの関係

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北村 祥司

小容量ダイオードの開発設計に従

事。現在,富士日立パワーセミコ

ンダクタ(株)松本事業所開発設計

部チームリーダー。

松井 俊之

小容量ダイオードの設計開発に従

事。現在,富士日立パワーセミコ

ンダクタ(株)松本事業所開発設計

部主任。

富士時報 Vol.74 No.2 2001

まえがき

富士電機は,電源用途向け整流ダイオードとして,低損

失高速ダイオード(LLD:Low Loss fast recovery Diode)

やショットキーバリヤダイオード(SBD:Schottky

Barrier Diode)など各種ダイオードの製品化,系列化を

図ってきた。現在,①低損失・高効率,②低ノイズ,③小

型・軽量を基本コンセプトに特色のあるチューンアップ製

品の開発を行っている。本稿では,スイッチング電源用の

整流ダイオードとして,逆電圧が 600Vでかつ超高速,ソ

フトリカバリーを特徴とする 600 Vスーパー LLDを新た

に開発したので紹介する。

背 景

商用電源を使用している電子回路に採用されている

AC-DC変換では,半導体デバイスを用い,小型・軽量化

を特徴とするスイッチング電源が多く使用されている。そ

の入力整流部には,コンデンサインプット型整流回路が多

く用いられているが,これがひずみの大きな電流波形を発

生させ,高調波電流の発生源となり,機器誤動作や電力供

給の力率低下などの問題を引き起こしている。そして近年

新たに高調波ノイズに対するガイドラインが設けられ,力

率を改善するコンバータへの要求が高まっている。しかし

これらのコンバータでは,付加した力率改善回路のスイッ

チング損失によりさらなる損失増加が懸念されている。

力率改善回路は,整流回路にチョッパ回路を接続して,

入力電流を正弦波状に制御し波形改善を図るものである。

その制御方式としては,リアクトル電流を不連続とする方

式と連続とする方式がある。電流不連続方式は,制御回路

が簡単で小容量電源(< 200W)に主に用いられる。この

場合は,ダイオードのスイッチング損失は問題とならず,

順損失低減のためのさらなる低順方向電圧(VF)化が要

求される。電流連続方式は,主に数百 kW以上の電源に

用いられ,この場合は順方向通電時でのスイッチオフ

(MOSFETオン時)となるため,スイッチング損失,高

調波ノイズの発生低減が最も重要となり,そのためには,

ダイオードの逆回復電流の低減およびソフトリカバリー化

が必要になる。さらに順損失低減のための低 VF 化は当然

である。図1に代表的な昇圧チョッパ型力率改善回路と電

600 Vスーパー LLD

141(41)

北村 祥司(きたむら しょうじ) 松井 俊之(まつい としゆき)

I

V

I

V

インダクタ L

ダイオード D

Qスイッチング素子 MOSFET

チョッパ回路 整流器 AC ライン

平滑コンデンサ

CH 1 100 V/div CH 2 2 A/div

50 ns/div CH 1 100 V/div CH 2 2 A/div

50 ns/div

負荷

図1 力率改善回路と波形

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600 Vスーパー LLD

流連続方式での,MOSFETオン時(ダイオードオフ時)の

ダイオード DとMOSFET Qでの電流・電圧波形を示す。

今回は,市場要求から電流連続方式用 600V LLDの開

発を行った。その要求特性をまとめると以下のとおりであ

る。

低逆回復電流

ソフトリカバリー

低 VF

素子設計

3.1 素子構造

図2に 600 Vスーパー LLDの素子断面構造を示す。基

本構造は,n+基板上に低濃度の n-層を形成後,p+層を不

純物拡散で形成する pin 構造であり,さらにライフタイム

キラーを導入している。耐圧構造は,外周のガードリング

とパッシベーション膜で構成する。

逆回復特性は,pin 構造の最適化で改善を図る。特に,

逆回復電流と順方向電圧(VF)とのトレードオフ改善が

ポイントである。pin 構造の設計パラメータとしては,p+

層不純物濃度,p+層拡散深さ(xj),n-層厚さ(Wb)など

を考慮し,後述するシミュレーション解析を基に新規設計

を行った。また,逆耐圧 600Vの確保はガードリング配置

の最適化で達成した。

3.2 逆回復特性

図3にダイオードの逆回復特性の電流・電圧波形を示す。

ダイオードが順バイアスされているとき,順方向電流(IF)

に比例した蓄積電荷(Qrr)を持つ。MOSFETオンでダ

イオードが電流転換するとき,IFは回路のインダクタン

スと電圧で決まる速さ(dIF/dt)で減少する。しかしなが

ら,上記 Qrrのためダイオードとその周辺回路を循環する

逆電流(ピーク電流:IRP)が流れ,この電流が損失を発

生させる。Qrrがなくなり逆電流がなくなるまでの時間を

逆回復時間(trr)とし,さらに図のように t1,t2を定義す

る。ソフト性は,S= t2/t1で表現する。Sが小さい素子で

は,逆方向電流 I= IRPとなった後,急激に電流が減少し,

図3に示したように電圧の跳ね上がりを生じ,これがノイ

ズ発生の原因となる。したがって緩やかに減少するソフト

リカバリー(S> 1)の特性が必要となる。

3.3 シミュレーション

開発効率化のため,逆回復特性のデバイスシミュレーショ

ンを実施した。まず図2に示した構造での,ライフタイム

キラー条件を変えた 2素子(1,2)について,二次元シミュ

レーション結果と,実測結果との整合の一例を図4 に示

す。シミュレーションには,各層の厚み,不純物分布,さ

らに電子,ホールに対するライフタイム分布を考慮してい

る。1,2ともに計算値は実測値とよく一致し,逆回復特

性のシミュレーション手法の妥当性を示している。図4

は,上記計算でのホール濃度分布を示す。逆回復電流は

n-層内のホール濃度に依存することが分かる。

図5は,n-層厚さ(Wb)を変えた 2 素子(a,b)の逆

回復特性のシミュレーション結果を示す。図5 の逆回復

波形では,aはソフトリカバリー(S= 1.3),bはハード

リカバリー(S= 0.7)となっている。図5 , にはこ

の素子の逆回復時のホール分布の時間経過を示している。

逆回復電流が,IRPに達した後に n-層と n+基板間にホー

ルが残っていれば空乏層が緩やかにのびてソフトリカバリー

特性となることが分かる。このように LLDの過渡特性は

ホール分布に強く依存することがシミュレーションから確

(c)(b)

(a)

(b)

(a)

(3)

(2)

(1)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

142(42)

電極

電極

n+

ガードリング

パッシベーション膜

n-

p+

W b

x j

図2 素子断面構造

I(A)

ホール濃度(cm-3)at = F(5A)

II

5

4

3

2

1

0

2

(a)実測結果との整合 (b)ホ-ル濃度分布

1

時間(ns)

21

jx bW

-1

-2

-3

-4

-50 50 100 150 706050403020100

1020

1019

1018

1017

1016

1015

1014

1013

:実測値 :計算

表面からの深さ( m)

図4 逆回復特性シミュレーション(1)

IF

I RP

I

V

dtdIF

t 1S=

t 2

Qrr

t rr

t1 t2

VF

VPK VR

t

t

ソフト性

0

0

図3 ダイオードの逆回復特性

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600 Vスーパー LLD

認できる。以上のような手法で,各種設計パラメータによ

る逆回復特性の変化を調査した。図6にその一例として,

3種類の n-層厚さ(Wb)(a > b > c)で,p+層濃度およ

びライフタイム分布を変化させたときの 100 ℃での順方向

電圧(VF)と逆回復電流ピーク値(IRP)の相関を示す。

VFと IRPはトレードオフの関係にあることが分かる。こ

こで図中の境界はソフトリカバリーとハードリカバリーの

境界(S= 1)を示す。n-層が厚くなればソフト性が増す

が,VF - IRPトレードオフは悪化する。

したがって,設計指針としては VF - IRPトレードオフ

改善とソフト性を両立させるよう,パラメータの最適化を

図ることになる。

素子特性

力率改善回路用途として,新規 LLDを設計,試作した。

本素子は,上記シミュレーション結果を参考にして,p 層

濃度,拡散深さ,キャリヤライフタイム,n-層厚さ(Wb)

の最適化を図ったものである。図7に一連の試作結果の逆

回復電流ピーク値(IRP)(従来品との比で表示)と順方向

電圧(VF)の測定値を示す。従来品に比べて,IRPは大幅

143(43)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

I(A)

x j

x j

Wb

① =0t② = RPI I③ RPから7 ns後 I④ RPから13 ns後 I⑤ RPから20 ns後 I

表面からの深さ( m)

-3

-2

-1

0

1

2

3

4

5

1018

1017

1016

1015

1014

1013

1012

1011

1010

300250200150時間(ns)

濃度(cm-3)

(a)逆回復波形

(b)素子aのホール分布の時間経過

100

b

② ③ ④ ⑤

Wb

表面からの深さ( m)

1018

1017

1016

1015

1014

1013

1012

1011

1010

濃度(cm-3)

(c)素子bのホール分布の時間経過

50

a

0

図5 逆回復特性シミュレーション(2)

I RP(A)

V F(V)

Wb:a

S=1

4.54.03.53.02.52.01.5

ハードリカバリー

ソフトリカバリー

100 ℃

1.00.50

6.0

5.0

cb

4.0

3.0

2.0

1.0

0

図6 逆回復特性シミュレーション(3)

RP/ RP(従来品)

II

F(V) V

1.1

1.0従来品

開発品

0.9

0.8

0.7

0.6

0.5

0.4

0.3

0.2

図7 開発品試作結果

0

IF =5 AdIdt =-100 A/ s

図8 逆回復特性電流波形

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600 Vスーパー LLD

に低減されていることが分かる。また,ソフト性も改善さ

れている。図中の矢印のポイントの逆回復特性波形を図8

に示す。従来品に比べ,IRPは 40 %以上低減され,ソフト

リカバリーな特性(S= 1.3)が得られている。

また図9に順方向特性を,図 に逆方向特性を示す。

表1に開発品と従来品の特性比較結果を示す。この表か

ら分かるように,従来品より VFは少々増加しているもの

の,逆回復特性(trr,IRP)は,25 ℃,100 ℃とも大幅に

改善されている。

実装試験結果

サーバ電源の力率改善回路を模擬した実装試験装置を用

い,開発品の特性向上を確認した。図 にダイオードと

MOSFETでの電流・電圧波形を示す。MOSFETのター

ンオン損失の低減により,MOSFETの温度上昇は,従来

品実装時より,10 ℃程度の低減を確認した。

あとがき

以上,力率改善回路用に開発を行った 600 Vスーパー

LLDについて概要を紹介した。今回の開発は,5A,8A,

10A 定格を予定しており,製品外形は TO-220,TO-3P

を用意している。この分野は今後ますます市場を拡大して

いくことが予測されており,さらなる低損失化,高性能化

のためダイオードの特性改善を図り,系列化を進めていく

予定である。

11

10

富士時報 Vol.74 No.2 2001

144(44)

順方向電流 F(A)

I

順方向電圧 F(V) V

j =25 ℃ T

j=25 ℃ Tj =100 ℃ T

j =125 ℃ T

j =125 ℃ T

j =100 ℃ T

10

5

1

0.1

0.5

0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0

:従来品 :開発品

図9 順方向電流・電圧特性

0

I

V I

V 0

(a)600 V LLD波形 (b)MOSFET波形

50 s 50 s

図11 実装試験での波形

逆方向電流 R(mA)

I

逆方向電圧 R(V) V

j =25 ℃ T

j =25 ℃ T

j =125 ℃ T

j =100 ℃ T

j =100 ℃ T

j =125 ℃ T

10-1

10-2

10-3

10-4

10-50 100 200 300 400 500 600 700

従来品

開発品

図10 逆方向電流・電圧特性

表1 特性比較表(実測例)

項目 条 件

25℃

開発品

1.5

2.8

35

60

1.4

2.3

VF

I R

従来品

4.5

1.3

50

70

2.7

4.5

F =10 AI25℃

25℃

100℃

25℃

100℃

t rr

I RP

F =5 AI/dl =100 A/ sdt

R=600 VV

単位

V

ns

ns

A

A

A

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両角  朗

パワー半導体デバイスの構造およ

び実装技術開発に従事。現在,松

本工場半導体開発センター半導体

基盤技術開発部。日本材料学会会

員。

山田 克己

パワー半導体パッケージ開発,組

立要素技術開発に従事。現在,松

本工場半導体開発センター半導体

基盤技術開発部マネージャー。電

気化学会会員。

宮坂 忠志

パワー半導体モジュールの開発・

設計に従事。現在,富士日立パ

ワーセミコンダクタ(株)松本事業

所開発設計部マネージャー。

富士時報 Vol.74 No.2 2001

まえがき

パワー半導体モジュールの市場は,汎用インバータ,サー

ボモータ制御,工作機械,エレベータなどにとどまらず,

電気自動車や太陽光・風力・燃料電池発電システムなどの

実用化により,新たな用途に広がろうとしている。

富士電機は各種パワーモジュール製品を開発し,これら

市場にこたえてきたが,今後は市場の広がりとともにこれ

らパワーモジュール製品に対する要求性能は,今以上に多

様化あるいは高度化することは確実である。

本稿では,市場要求の中で重要視されるパワーサイクル

寿命に関して,IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)

モジュールにおける長寿命化への取組みについて紹介する。

寿命評価技術と破壊メカニズム

2.1 パワーサイクル試験

IGBTモジュールにおける動作寿命の推定には,パワー

サイクル試験(断続通電試験)が適用される。試験は

IGBTモジュールを放熱フィンに固定した状態で通電・遮

断の電気的負荷を与え,IGBTチップの接合温度(Tj)を

上昇・下降させることにより熱ストレスを発生させ,破壊

するまで行うものである。また,パワーサイクル試験には

ΔTjパワーサイクルとΔTcパワーサイクル(熱疲労寿命

試験)がある。

ΔTjパワーサイクルは,図1に示すように接合温度を

比較的短時間の周期で上昇・下降させる試験であり,主に

アルミワイヤ接合部およびシリコンチップ下はんだ接合部

の寿命を評価するものである。これに対して,ΔTcパワー

サイクルは,同じく図1に示すようにケース温度(Tc)が

任意の温度に到達するまで通電し,ケース温度が任意の温

度に到達した時点で通電を止め,ケース温度が通電前の状

態に戻るまでの周期を 1サイクルとして繰り返す試験であ

る。こちらは主に絶縁基板と銅ベース間のはんだ接合部お

よびシリコンチップ下はんだ接合部の寿命を評価するもの

である。

2.2 ΔTj パワーサイクル試験における破壊メカニズム

図2に富士電機製 IGBTモジュールの構造を示す。シリ

コンチップと絶縁基板との接合に従来から Pb 基はんだを

用いている。この Pb 基はんだを用いた製品のパワーサイ

クル試験における破壊は,次のとおりである。

ΔTjがおよそ 100℃以上では図3に示すように,シリコ

ンチップとアルミワイヤの線膨張係数差によって発生する

せん断応力により接合界面に亀裂が発生する。この亀裂の

進展によりワイヤがはがれ破壊に至る。このときの破壊形

態を図4に示す。エミッタ電極におけるアルミワイヤ接合

部はワイヤの接合形状の痕跡(こんせき)が鮮明な状態で

はく離していることが分かる。これは,アルミワイヤ接合

部が金属疲労により破壊に至ったことを現しているもので

パワー半導体モジュールにおける信頼性設計技術

145(45)

両角  朗(もろずみ あきら) 山田 克己(やまだ かつみ) 宮坂 忠志(みやさか ただし)

I c

t

I c

t

通電

通電

遮断

遮断

T

T j

Tf

ΔTj

ΔTj パワーサイクル

ΔTc パワーサイクル

t

T

Tc

Tf

ΔTc

t

図1 パワーサイクル試験における動作条件

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パワー半導体モジュールにおける信頼性設計技術

ある。一方,はんだ接合部は超音波顕微鏡による非破壊観

察および断面観察により,シリコンチップ外周部から面方

向に 1mm程度の亀裂が確認される。

これに対して,ΔTjが 80℃以下では図3に示すように,

シリコンチップと絶縁基板の線膨張係数差によって発生す

るせん断ひずみによりはんだ接合部に亀裂が発生し,この

亀裂の進展により接合温度が上昇し破壊に至る。このとき

の破壊形態を図4に示す。アルミワイヤ接合部は所々にア

ルミワイヤの焼損痕がみられる。一方,はんだ接合部はシ

リコンチップ全域に亀裂が確認される。アルミワイヤの焼

損痕は,はんだ接合部の亀裂進展に伴う熱抵抗の増大によ

り,シリコンチップの温度上昇が次第に大きくなることに

よってワイヤが溶断破壊したものである。

したがって,従来構造である Pb 基はんだ品のパワーサ

イクル寿命は,ΔTjがおよそ 100℃以上の比較的動作温

度の高い領域においてははんだがほとんど劣化しないため,

アルミワイヤ接合部が寿命を支配し,ΔTjがおよそ 80℃

以下の比較的動作温度の低い領域においてははんだ接合部

が寿命を支配している。

ΔTj パワーサイクル寿命の長寿命化

章から,パワーサイクル寿命の長寿命化には高ΔTj

領域においてはアルミワイヤ接合部寿命を,低ΔTj 領域

においてははんだ接合部寿命を主体に改善する必要がある

ことが分かる。一方,フィールドにおいては 100℃以下の

比較的低い温度領域で使用されることがほとんどであるた

め,この温度領域におけるパワーサイクル寿命を向上させ

ること,すなわちはんだ接合部寿命の改善が実使用上必要

である。

3.1 はんだ接合部の長寿命化

はんだ接合部の疲労寿命を延ばすには,接合部に発生す

るせん断ひずみを小さくするのが最も有効な方法である。

一般的に,Pb 成分の多いはんだは高ひずみ範囲での寿命

が長く,Sn 成分の多いはんだは低ひずみ範囲での寿命が

長いといわれている。熱応力解析から,シリコンチップと

絶縁基板との接合部においては,発生するひずみは 1 %以

下と比較的小さいことから,Sn 成分の多いはんだの適用

が有効であることが推察できる。さらに,はんだ接合部に

発生するひずみははんだの剛性に関係があり,降伏強度

(塑性変形に対する抵抗力)の大きなはんだの方がひずみ

が小さい。したがって,同一温度条件であれば Sn 成分の

多いはんだは降伏強度が大きいため,長寿命化には有効で

ある。

3.1.1 鉛レスはんだ材料の検討

はんだ材料の検討には環境への配慮から Pbを含まない

はんだの適用を前提に,SnAg 系はんだを基本組成として

選定した。これは,SnAg 系はんだの特性が鉛レスはんだ

の中では比較的バランスが良いという理由からである。し

かし,SnAg 系はんだに限らず鉛レスはんだは Pb 基はん

だに比べて濡れ性が劣るといった欠点がある。そこで種々

の添加元素と添加量の最適化を行うことにより,Pb 基は

んだと同等レベルの濡れ性を達成し,機械的特性および濡

れ性の優れた SnAg 系鉛レスはんだを新たに開発した。本

はんだ材料の特性を表1に示す。

3.1.2 熱応力解析によるはんだ接合部寿命の推定

新たに開発した SnAg 系はんだと Pb 基はんだについて

二次元弾塑性熱応力解析によりはんだ接合部に発生するひ

ずみを求め,寿命推定を行った。解析結果を表2に示す。

(2)

(1)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

146(46)

銅はく

銅ベース

シリコーンゲル シリコン チップ

アルミ ワイヤ

はんだ

はんだ

絶縁基板 セラミックス

銅はく

図2 IGBTモジュールの断面構造

ΔT j≧100 ℃

亀裂 亀裂

シリコンチップ

はんだ接合部 (超音波顕微鏡観察)

アルミワイヤ接合部 はんだ接合部 (断面)

ΔT j≦80 ℃

亀裂 亀裂

シリコンチップ

はんだ接合部 (超音波顕微鏡観察)

アルミワイヤ接合部 はんだ接合部 (断面)

図4 Pb基はんだ品における破壊形態

せん断応力

シリコンチップ(Si) はんだ 絶縁基板

アルミワイヤ (Al)

〈線膨張係数〉  Al:23.6×10-6/ ℃  Si:3.5×10-6/ ℃

ΔT j≧100 ℃

亀裂 亀裂

せん断ひずみ はんだ

シリコンチップ(Si)

アルミワイヤ

絶縁基板(Al2O3)

〈線膨張係数〉  Si :3.5×10-6/ ℃  Al2O3:7×10-6/ ℃

ΔT j≦80 ℃

亀裂 亀裂

図3 パワーサイクル試験における破壊メカニズム

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パワー半導体モジュールにおける信頼性設計技術

同一温度条件で比較した場合,SnAg 系はんだは Pb 基は

んだに比べて発生ひずみが小さく,寿命も延びていること

が分かる。これは,SnAg 系はんだの機械的特性によるも

のであり,降伏強度が Pb 基はんだに比べて 2.4 倍と高く,

さらにクリープ強度が Pb 基はんだに比べて高いためであ

る。

3.2 ΔTj パワーサイクル寿命の検討

SnAg 系はんだを用いた IGBTモジュールのパワーサイ

クル寿命を明らかにするため,各種動作温度(ΔTj)条件

で試験を行った。寿命は各動作温度による破壊値をワイブ

ル確率紙にプロットし,1 %不良率の値を求めた。また,

動作温度はサーモビュアと熱電対を用いて接合温度,ケー

ス温度および冷却フィン温度を測定し任意に設定した。図

5は,1,200 V/75A 系 IGBTモジュールの 60℃,80℃お

よび 110℃における試験結果である。60℃では 130 万サ

イクル,80℃では17万サイクル,110℃では 3 万サイクル

の寿命を有していることが分かる。

3.3 SnAg系はんだ適用製品の破壊メカニズム

ΔTjが 60℃および 110℃のパワーサイクル試験におけ

る破壊形態観察によれば,110℃ではエミッタ電極におけ

るアルミワイヤの焼損が激しく,はんだの劣化も顕著であ

る。これに対して,60℃ではアルミワイヤの焼損痕はみ

られず,ワイヤの接合形状の跡が鮮明に残っている。一方,

はんだには亀裂の発生がみられるものの非常に軽微である。

これらの破壊形態から,SnAg 系はんだのパワーサイク

ル寿命においては,ΔTjがおよそ 110℃以上の領域では

はんだ接合部の劣化寿命が支配的であり,ΔTjがおよそ

60℃以下の領域ではアルミワイヤ接合部の劣化寿命が支

配的であると推察できる。これは,2.2節で述べた Pb 基

はんだの破壊メカニズムとは異なるものである。さらに,

はんだ接合部の亀裂進展形態も SnAg 系はんだは Pb 基は

んだと異なっている。塑性変形しやすい Pb 基はんだの場

合,亀裂は図6に示すように応力集中部であるはんだフィ

レット部を起点にせん断応力の作用方向に進展するが,降

伏強度の大きい SnAg 系はんだはシリコンチップ中央部

直下付近を起点にほぼ同心円状に亀裂が進展する。また,

SnAg 系はんだにおける亀裂の特徴は,はんだの厚さ方向

に対して平行な縦割れまたは網目状を呈し,Snの結晶粒

界を選択的に進展する。これらのことから,Pb 基はんだ

の劣化がひずみによる塑性変形で進行するのに対して,Sn

Ag 系はんだは熱劣化(組織変化)によって進行するもの

と考えられる。

SnAg系はんだ適用製品のパワーサイクル寿命

曲線

4.1 アルミワイヤ/はんだ接合部寿命と製品寿命の関係

これまでの検討から,SnAg 系はんだのパワーサイクル

における製品寿命は図7に示すように,アルミワイヤ接合

部の寿命とはんだ接合部の寿命およびこれらの混在領域か

ら成っていることが分かった。そこで,パワーサイクル試

験における破壊寿命の詳細解析およびはんだ接合部・アル

ミワイヤ接合部の応力計算により,アルミワイヤ接合部と

はんだ接合部の疲労寿命をそれぞれ算出した。そして,得

られた各接合部寿命と IGBTモジュール製品の寿命とを同

147(47)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

表1 SnAg系はんだ材料(開発品)の特性

特性項目

降伏強度(MPa)

伸 び(%)

クリープ速度(%/h)

濡れ広がり(%)

濡れ角(度)

濡れ力(mN)

機械的特性

接 合 性

SnAg系 (開発品)

Sn3.5Ag

53

19

0.09

100

17

0.39

Pb基 (従来品)

22

25

1.30

100

9

0.41

38

18

0.20

50

27

0.36

表2 はんだ接合部における熱応力解析結果

はんだ はんだ接合部寿命(サイクル)

2.0×107

2.7×105

2.7×105

5.0×104

SnAg系 (開発品)

Pb基 (従来品)

Δ Tj(℃)

50

80

50

80

Δ γ (%)

0.14

0.22

0.23

0.36

累積故障率(%)

破壊値 (サイクル) t

j=110 ℃ ΔT j=80 ℃ ΔT j=60 ℃ ΔT99.5

95

70

40

10

1

0.1104 105 106

図5 SnAg系はんだ品のパワーサイクル試験結果

(1,200 V/75 A)

亀裂 亀裂 シリコンチップ

Pb基はんだ

亀裂

シリコンチップ

SnAg系はんだ SnAg系はんだの破壊形態 (超音波顕微鏡観察)

図6 はんだの亀裂進展形態

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パワー半導体モジュールにおける信頼性設計技術

一グラフ上に合成すると図8のような関係が得られる。こ

れにより,はんだ接合部の寿命は製品寿命と近い位置にあ

ることが分かる。これに対して,アルミワイヤ接合部の寿

命はΔTjが 50℃付近で製品寿命と交差し,この温度以下

で製品寿命を下回る関係にある。

したがって,ΔTjが 50 ℃以下の領域においてははんだ

の疲労劣化はほとんど起きず,アルミワイヤ接合部の疲労

劣化寿命が製品寿命となる。また,ΔTjが 50℃以上の領

域においては,本検討でははんだ接合部の寿命が製品寿命

を上回る位置関係にあるが,実際は製品寿命とほぼ同一線

上に位置するものと考える。

4.2 SnAg系はんだ適用製品のパワーサイクル信頼性

4.1節から,SnAg 系はんだを適用した IGBTモジュー

ルのパワーサイクル寿命曲線はΔTjが 50℃に屈曲点を持

ち,表3に示すように Pb 基はんだを適用した従来品より

も長寿命化を達成している。特に,100℃以下の比較的動

作温度の低い領域においては寿命の差が顕著である。長寿

命化の達成は,3.1節で述べた SnAg 系はんだの機械的特

性の改善および Pb 基はんだと同等レベルの濡れ性の確保

によるものと考える。

あとがき

以上,パワー半導体モジュールにおける信頼性設計につ

いて,パワーサイクル寿命の長寿命化への取組みを紹介し

た。今回,はんだ材料として機械的特性および濡れ性に優

れた SnAg 系鉛レスはんだを新たに開発し,本はんだを

適用した製品の信頼性の向上を図った。このパワーサイク

ル寿命の向上により,顧客においては装置の小型化および

低コスト化などに寄与できることを期待するものであり,

今後ますます過酷になる市場要求にこたえていく所存であ

る。

参考文献

北野誠ほか. Pb-Sn 系はんだの低サイクル疲労強度. 溶接

学会マイクロ接合研究委員会資料. MJ-85, 1985, p.5.

山下満男ほか. 鉛フリーはんだ材料における評価技術. 富

士時報. vol.73, no.9, 2000, p.488-492.

(2)

(1)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

148(48)

j(℃) ΔT

パワーサイクル寿命(サイクル)

はんだ接合部 寿命支配領域

アルミワイヤ 接合部寿命 支配領域

アルミワイヤ 接合部寿命 支配領域

 ワイヤ/  はんだ  接合部寿命  支配領域 (混在領域)

はんだ接 合部寿命 支配領域

Pb基はんだ品

SnAg系はんだ品

図7 パワーサイクル寿命と劣化モードの関係パワーサイクル寿命(サイクル)

109

アルミワイヤ 接合部寿命

SnAg系はんだ 接合部寿命

製品寿命

108

107

106

105

104

10310 50 100 200

j(℃) ΔT

図8 SnAg系はんだ製品におけるパワーサイクル寿命曲線

表3 累積故障率=1%におけるパワーサイクル寿命

動作温度 SnAg系はんだ(開発品)

適用製品

2.5×104

1.3×106

8.0×107

Pb 基はんだ(従来品) 適用製品

1.7×104

1.8×105

5.0×106

Δ Tj=100℃

Δ Tj= 60℃

Δ Tj= 30℃

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長畦 文男

IGBTモジュールの開発・設計に

従事。現在,富士日立パワーセミ

コンダクタ(株)松本事業所開発設

計部チームリーダー。電気学会会

員,日本信頼性学会会員。

田上 三郎

パワー半導体素子の設計および半

導体デバイスシミュレータの開発

に従事。現在,松本工場半導体開

発センター半導体基盤技術開発部

チームリーダー。

桐畑 文明

パワー半導体素子の研究開発に従

事。現在,松本工場半導体開発セ

ンター半導体基盤技術開発部マ

ネージャー。理学博士。応用物理

学会会員,物理学会会員,電気学

会会員,表面科学会会員。

富士時報 Vol.74 No.2 2001

まえがき

産業用や車両用電力変換装置への IGBT(Insulated

Gate Bipolar Transistor)モジュールの適用には,内蔵さ

れている FWD(Free Wheeling Diode)の動作挙動が影

響を与える。特に,高耐圧の FWDでは,逆回復時の高ス

パイク電圧発生とその振動現象の抑制が重要な課題となっ

ている。FWDを的確に使いこなすという観点から,FWD

の通常の動作状態,すなわち IGBTのスイッチング動作に

応じて FWDがオフ状態→順回復(過渡オン状態)→定常

オン状態→逆回復→オフ状態の繰返し動作の範ちゅうを飛

び超え,FWDの極限動作状態,すなわち過渡オン状態か

らすぐさま逆回復過程に移行する動作状況(以下,微少パ

ルス逆回復と呼ぶ)までの広い範囲の動作挙動を十分理解

する必要がある。

本稿では,1,800 V/800A IGBTモジュールにおける,

FWDの通流幅が 1μs 以下のきわめて短い微少パルス逆回

復現象について,実測波形観測を含めて二次元デバイスシ

ミュレーションによるデバイス内部挙動を解析した結果を

報告する。

微少パルス逆回復現象

実験に用いた 1,800 V/800A IGBTモジュールは,大容

量インバータや電気鉄道への適用を狙って製品化したもの

であり,FWD部はパンチスルータイプの FWDチップを

12並列して構成されている。

図1に,1,800 V/800A IGBTモジュールにおける逆回

復時のスパイク電圧(Vsp)および逆電圧の傾き(dVR/dt)

の順電流通流幅(tw)依存性を示す。Vspおよび dVR/dtは,

tw > 5μsの領域ではほぼ一定であるが,5μs 以下から増

加傾向を示し,tw < 1μsで急増する特徴的な様相を示す。

また,接合温度(Tj)に対する依存性が,tw=1μsをほぼ

境界として逆転する傾向を示す。

図2に,Tj=125 ℃での逆回復波形の tw 依存性を示す。

twが短くなると Vspが顕著に現れ,特に tw=0.5μsでの逆

回復波形では素子耐圧を超えるきわめて高い Vspおよび

dVR/dtの発生と同時に,逆電圧と電流の振動が観測され

るようになる。

微少パルス逆回復現象の解析

3.1 デバイスシミュレーション

短時間オン状態での FWDの過渡的な順回復および逆回

復現象を把握するために,二次元デバイスシミュレーショ

ンを行った。図3に,解析に用いたシミュレーションモデ

(3)

(2)(1)

過渡オン状態からのダイオード逆回復現象の解析

149(49)

長畦 文男(ながうね ふみお) 田上 三郎(たがみ さぶろう) 桐畑 文明(きりはた ふみあき)

スパイク電圧 sp(V)

V

2,500

2,000

1,500

1,000

500

0

順電流通流幅 w( s) t

cc=900 VVF =180 AI

1001010.1

j= 25 ℃ Tj= 75 ℃ Tj=125 ℃ T

j= 25 ℃ Tj= 75 ℃ Tj=125 ℃ T

80,000

60,000

40,000

20,000

0

順電流通流幅 w( s) t

cc=900 VVF =180 AI

1001010.1

逆電圧傾き   R / (V/ s)

dt

dV

図1 スパイク電圧・逆電圧傾きの順電流通流幅(tw)依存性

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過渡オン状態からのダイオード逆回復現象の解析

ルと FWDの断面構造を示す。シミュレーション条件は,

1,800 V/800 A IGBTモジュール内に並列接続される

FWD12チップの定常状態の順電圧(VF)がすべて同一の

場合(均一動作)と,VFに差がある場合(不均一動作)

の 2 水準を設定し解析を行った。

3.1.1 均一動作解析

図4および図5に,シミュレーションで得られた tw=0.4

μsにおける均一動作での順回復および逆回復波形を示す。

順回復過程では 27 Vの過渡順電圧発生後,指数関数的に

電圧が減少するが,高い VFを維持した過渡オン状態から

逆回復過程に転じている。逆回復過程では高い Vspおよび

dVR/dtと電圧・電流の振動が見られ,図2に示す実際の

電圧・電流波形と同じ傾向を示す。

図6に,均一動作における過渡オン状態および定常オン

状態での nベース中の少数キャリヤの濃度分布を示す。n

ベース領域のキャリヤ濃度が,過渡オン状態では定常オン

富士時報 Vol.74 No.2 2001

150(50)

0

0

電流

(a) t w=0.5 s

電流:200 A/div,電圧:500 V/div,時間:100 ns/div逆回復条件: VCC =900 V, I F=180 A, Tj=125℃

電圧

0

0

電流

(b) t w=1.4 s

電圧

0

0

電流

(c) t w=20 s

電圧

図2 逆回復波形の tw 依存性(Tj = 125℃)

GDUSW-IGBT

DUT-1  =1チップ N

DUT-2  =11チップ N

20nH

20nH

20nH

20nH

50nH

(a)シミュレーションモデル

(b)FWDの断面構造

30nH

5nH

アノード カソード

n-層 p層 n+層

VCC

100 H

図3 シミュレーションモデルと FWDの断面構造

ダイオード電流(A)

ダイオード電圧(V)

0 3,000

-500 2,000

-1,000 1,000

-1,500 0

cc=900 VV

F=3.6V(12チップ) V時間:100 ns/div逆回復条件: cc=900 V, f=190 A, j=25 ℃, w=0.4 s

V IT t

F=190 AIw=0.4 st

図5 均一動作での逆回復波形

ダイオード電流(A)

400

ダイオード電圧(V)

40

200 20

0 0

-200 -20

-400 -40

cc=900 VVF =190 AIj =25 ℃ Tw =0.4 stF =3.6 V  (12チップ)

V

時間( s) 0.10.0-0.1-0.2-0.3-0.4

順回復電圧

電圧

電流

図4 均一動作での順回復波形

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過渡オン状態からのダイオード逆回復現象の解析

状態に比べて約 1けた低い濃度となっている。

上記の解析結果から,オンパルス幅が長い tw > 5μsの

領域では,nベース領域のキャリヤが十分注入された定常

状態となっており,Vspおよび dVR/dtはオンパルス幅に

対し依存性を示さずほぼ一定となる。また,接合温度が高

いほど少数キャリヤの長寿命化により逆回復電流が増加し,

Vspおよび dVR/dtは減少する傾向を示す。

一方,オンパルス幅が短い領域では nベース中へのキャ

リヤの注入がまだ過渡的であるため,キャリヤ濃度の少な

いことが原因で,Vspおよび dVR/dtオンパルス幅依存性

を示す。特に,tw < 1μsではキャリヤの注入レベルがき

わめて少ない状態にあり,キャリヤの不足を補うために逆

電圧が急激に上昇することで電流を流そうとする作用が働

く。発生した高い逆電圧と nベース中に残存するキャリ

ヤによりダイナミックアバランシェが起こり,電圧波形に

いったん dVR/dtが減少するショルダー部が生ずる。図2

の では逆電圧が約 1,500Vのポイントにおいてショルダー

部が発生している。ショルダー部の後完全にキャリヤがは

き出されることで,FWDはコンデンサ(C)状態となり,

外部回路のインダクタンス(L)との間で共振を開始し得

る回路に切り換わる。この結果,電圧および電流の振動と

一層高い Vspと dVR/dtが同時に発生する。

以上のように,微少パルス逆回復現象は,nベース中へ

のキャリヤの注入が過渡状態であることから,キャリヤ濃

度が少なくなっていることに依存した現象となっている。

3.1.2 不均一動作解析

図3に示すシミュレーションモデルにおいて,1チップ

のみ FWDの VFが低い不均一動作の解析を行った。図7

および図8に,シミュレーションで得られた tw=0.3μsに

おける不均一動作での順回復および逆回復波形を示す。順

回復過程では,過渡順電圧は FWDチップの VFにほとん

ど依存性を示さないが,VFの違いによる順電流のアンバ

ランスが見られる。一方,逆回復過程では,VFの低いチッ

プにおいて逆回復電流の遅れと電流集中が起こっている。

すなわち,VFの低いチップへの逆回復電流の集中は,こ

のチップでダイナミックアバランシェが起こりやすくなる

ことを示す。キャリヤのはき出し後は,均一動作と同様に

LC 共振状態に移行する。

図9に,逆回復過程での VFの低いチップの VFの高い

チップに対する電圧差と電流差を示す。この差は,チップ

間の電圧・電流のやりとりの様子を表す。VFの低いチッ

プが LC 共振状態に移行後,VFの高いチップとの間で,

きわめて高い周波数での電圧および電流の共振動作をして

いる様相が分かる。この高い振動は,モジュール内のチッ

プ間での電圧・電流のやりとりを示すものである。

(a)

151(51)

富士時報 Vol.74 No.2 2001

過渡オン状態

カソード面 アノード面

1018

1014

1010

定常オン状態

単位(cm-3)

カソード面 アノード面

1018

1014

1010

ホール濃度

図6 均一動作での少数キャリヤ濃度分布

cc=900 VVF =170 AIj =25 ℃ Tw =0.3 stF =3.6 V(1チップ) VF =4.2 V(11チップ) V

時間( s)

ダイオード電圧(V)

1チップあたりダイオード電流(A/チップ)

40

30

20

10

0

-10

-20

-30

-40-0.30 -0.25 -0.20 -0.15 -0.10 -0.05 0 0.05

1チップあたり電流

電圧

順回復電圧

Di-1( F=3.6 V) VDi-2( F=4.2 V) V

図7 不均一動作での順回復波形

逆回復条件: cc=900 V, F =170 A, j=25 ℃, w=0.3 sV I T tFWDチップ F 条件: F=3.6 V(1チップ), F=4.2 V(11チップ) V V V

時間( s)

トータル逆回復電流(A)

1チップあたり逆回復電流(A/チップ)

300

逆回復電圧(V)

3,000

200 2,000

100 1,000

0 0

-100 -1,000

-200 -2,000

-300 -3,0000.00 0.02 0.04 0.06 0.08

(a)逆回復波形(時間:20ns/div)

0.10 0.12

1チップあたり逆回復電流

トータル逆回復電流(12チップ)

逆回復電圧 Di-1( F=3.6 V) VDi-2( F=4.2 V) V

時間( s)

1チップあたり逆回復電流(A/チップ)

60

逆回復電圧(V)

3,000

40 2,500

1,500

20 2,000

0

-20 1,000

-40 500

-60 00.06 0.07 0.08 0.09 0.10

(b)逆回復波形(時間:10ns/div)

0.11 0.12

1チップあたり逆回復電流

逆回復電圧 Di-1( F=3.6 V) VDi-2( F=4.2 V) V

Di-1ショルダ-部

図8 不均一動作での逆回復波形

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過渡オン状態からのダイオード逆回復現象の解析

3.2 微少パルス逆回復での破壊現象

微少パルス逆回復が起こると,電圧の振動と定格電圧を

大幅に超える高い Vspと dVR/dtが同時に発生し,デバイ

スにとって破壊に至る危険な動作状態になる。

図 に 1,800 V/800A IGBTモジュールにおける典型的

な微少パルス逆回復による破壊時の波形を,図 にこのと

き破壊した FWDチップの損傷部の代表的な SEM(Scan-

ning Electron Microscope)写真を示す。図 で観測され

た破壊は,過大な Vspが印加された時点で最初の破壊が起

こり,その後電源電圧(Vcc)の印加約 3μsの期間を経て

完全な短絡破壊に至っていることを示す。図 に示すガー

ドリング部領域のくさび状損傷痕跡(こんせき)は,きわ

めて高い Vspと dVR/dtが同時に印加されたことによる,

電圧破壊モードであることの証拠である。

あとがき

本稿では,微少パルス逆回復現象に関連した過渡オン状

態から逆回復が起こる極限状態の FWDの挙動および破壊

現象まで含めて,詳細に述べた。微少パルス逆回復現象は,

半導体デバイスとしての物理現象そのものであり,キャリ

ヤの注入過程の過渡的な状態からの逆回復では素子定格を

超える高い Vspと dVR/dtが同時に発生し,素子破壊が起

こり得ることを示した。短時間オン状態となるような異常

な動作状態を避けることが,素子適用上重要である。

富士電機では,今後ともデバイス動作として考え得る極

限状態までの現象に目を向け,デバイス動作の深い理解の

もとにパワーデバイスの高性能化・高信頼性化に取り組み,

パワーエレクトロニクス産業のさらなる発展に貢献してい

く所存である。

参考文献

Nemoto, M. et al. Study on Voltage Oscillation Phenom-

enon in High Power P-i-N Diode. Proceedings of ISPSD

’98. 1998, p.305-308.

根本道生ほか. P-i-Nダイオード低電流逆回復時における

振動現象の解析. 電気学会研究会資料. EDD-96-115, 1996,

p.115-121.

宮下秀仁ほか. IGBTモジュール. 富士時報. vol.70, no.4,

1997, p.231-236.

(3)

(2)

(1)

11

10

11

10

富士時報 Vol.74 No.2 2001

152(52)

時間( s)

チップ間の逆回復電流差

-[ R(Di-1)- R(Di-2)](A/チップ)

JJ

チップ間の逆電圧差

[ R(Di-1)- R(Di-2)](V)

VV

20 200

15 150

10 100

5 50

0 0

-5 -50

-10 -100

-15 -150

-20 -2000.06 0.07 0.08 0.09 0.10 0.11 0.12

逆回復条件: cc=900 V, F =170 A, j=25 ℃, w=0.3 sV I T tFWDチップ F 条件: F=3.6 V(1チップ), F=4.2 V(11チップ) V V V

図9 不均一動作でのチップ間の電圧・電流のやりとりの様相

チップ活性領域 チップ端部

図11 FWDチップガードリング部損傷の代表SEM写真

0

0

電流

破壊点

電流:250 A/div,電圧:500 V/div,時間:500 ns/div逆回復条件: VCC =750 V, I F=200 A, Tj= 25℃, tw=0.6 s

電圧

図10 典型的な微少パルス逆回復による破壊時の波形

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環境・情報・サービス・コンポーネントをキーワードとして、新しい技術の時代を拓こうとしています。

豊かな地球社会のために

富士電機は、今、

主な営業品目情報・通信・制御システム,水処理・計測システム,電力システム,放射線管理システム,FA・物流システム,環境システム,電動力応用システム,産業用電源,車両用電機品,クリーンルーム設備,レーザ機器,ビジョン機器,電力量計,変電システム,火力機器,水力機器,原子力機器,省エネルギーシステム,新エネルギーシステム

主な営業品目磁気記録媒体,パワートランジスタ,パワーモジュール,スマートパワーデバイス,整流ダイオード,モノリシックIC,ハイブリッドIC,半導体センサ,サージアブソーバ,感光体およびその周辺装置

主な営業品目自動販売機,コインメカニズム,紙幣識別装置,貨幣処理システム,飲料ディスペンサ,自動給茶機,冷凍冷蔵ショーケース,ホテルベンダシステム,カードシステム

主な営業品目電磁開閉器,操作表示機器,制御リレー,タイマ,ガス関連機器,配線用遮断器,漏電遮断器,限流ヒューズ,高圧受配電機器,汎用モールド変圧器,電力制御機器,電力監視機器,交流電力調整器,検出用スイッチ,プログラマブルコントローラ,プログラマブル操作表示器,多重伝送機器,インダクションモータ,同期モータ,ギヤードモータ,ブレーキモータ,ファン,ポンプ,ブロワ,汎用インバータ,サーボシステム,加熱用インバータ,UPS,ミニUPS

流通機器システムカンパニー

電子カンパニー

電機システムカンパニー

機器・制御カンパニー

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154(54)

カンパニー別営業品目

富 士 時 報

編集兼発行人

発 行 所

印 刷 所

発 売 元

谷 恭 夫

富 士 電 機 株 式 会 社技 術 企 画 室

富士電機情報サービス株式会社

株 式 会 社 オ ー ム 社

平 成 13 年 1 月 30 日 印 刷

平 成 13 年 2 月 10 日 発 行

定価 525 円(本体 500 円・送料別)

2001 Fuji Electric Co., Ltd., Printed in Japan (禁無断転載)

〒141 -0032 東京都品川区大崎一丁目 11 番 2 号

〒151 -0053 東京都渋谷区代々木四丁目 30 番 3 号

(ゲートシティ大崎イーストタワー)

(新宿コヤマビル)

〒101 -8460 東京都千代田区神田錦町三丁目 1 番地

電 話(03)3233 -0641振替口座 東京6-20018

電 話(03)5388 -8241

編 集 室 富士電機情報サービス株式会社内「富士時報」編集室

〒151 -0053 東京都渋谷区代々木四丁目 30 番 3 号(新宿コヤマビル)

電 話(03)5388 -7826FAX(03)5388 -7369

第 巻 第 号74 2

電子カンパニー

流通機器システムカンパニー

電機システムカンパニー情報・通信・制御システム,水処理・計測システム,電力システム,放射線管理システム,FA・物流システム,環境シス

テム,電動力応用システム,産業用電源,車両用電機品,クリーンルーム設備,レーザ機器,ビジョン機器,電力量計,

変電システム,火力機器,水力機器,原子力機器,省エネルギーシステム,新エネルギーシステム

機器・制御カンパニー

電磁開閉器,操作表示機器,制御リレー,タイマ,ガス関連機器,配線用遮断器,漏電遮断器,限流ヒューズ,高圧受配

電機器,汎用モールド変圧器,電力制御機器,電力監視機器,交流電力調整器,検出用スイッチ,プログラマブルコント

ローラ,プログラマブル操作表示器,多重伝送機器,インダクションモータ,同期モータ,ギヤードモータ,ブレーキモー

タ,ファン,ポンプ,ブロワ,汎用インバータ,サーボシステム,加熱用インバータ,UPS,ミニUPS,

磁気記録媒体,パワートランジスタ,パワーモジュール,スマートパワーデバイス,整流ダイオード,モノリシック IC,

ハイブリッド IC,半導体センサ,サージアブソーバ,感光体およびその周辺装置

自動販売機,コインメカニズム,紙幣識別装置,貨幣処理システム,飲料ディスペンサ,自動給茶機,冷凍冷蔵ショーケー

ス,ホテルベンダシステム,カードシステム

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富士電機における最近のパワー半導体開発の経過を振り返る。こ

れまでの富士電機におけるパワー半導体としてのトランジスタや

IGBTの開発経緯などを,デザインルールの推移や,デバイス容量

の推移などの図を用いて概説する。また開発の最前線として代表的

なパワー MOSFET,IGBT,そしてアセンブリ技術について,そ

れぞれ Super FAP-Gシリーズ,EconoPACK-Plus,そして SnAg

系の新はんだ材料におけるモジュールの信頼性について概説する。

パワー半導体の現状と動向

関  康和

富士時報 Vol.74 No.2 p.103-105(2001)

産業用インバータなどの電力変換装置においては,装置の小型化,

高信頼性化の要求が高まってきている。このたび,富士電機では,

入力ダイオードブリッジ,出力 IGBTブリッジ,ダイナミックブレー

キ用 IGBT,ケース温度保護用サーミスタに加え,直流中間コンデ

ンサの突入電流制御用のサイリスタを 1パッケージに封入した製品

を開発し,装置設計の簡素化を可能とした。

サイリスタ内蔵パワー集積モジュール

佐藤  卓 小林 靖幸

富士時報 Vol.74 No.2 p.106-109(2001)

産業用インバータなどの電力変換装置では 40 kW~ 1MWクラ

スの大容量品の需要が高まっており,これに使用される電力変換用

半導体素子にはさらなる小型化,高信頼性化,大電流化,高性能化,

使いやすさが求められている。これらの要求に対し富士電機は,大

電流定格 6個組 IGBTモジュール「EconoPACK-Plus」を製品化す

る。この製品は新世代 IGBT/FWD適用による従来比約 20 %の損

失改善(高性能化),サーミスタ内蔵による高精度な温度検出(高

信頼性化),従来比約 50 %のベース面積削減(小型化),並列接続

容易なパッケージ,チップ特性(大電流化)を実現する。

大容量6 in 1 IGBTモジュール「EconoPACK-Plus」

渡 新一 別田 惣彦

富士時報 Vol.74 No.2 p.110-113(2001)

電気・電子機器に対する省エネルギー対策が進む中,これらの機

器に搭載されているスイッチング電源に対しても,いままで以上の

低消費電力化,高効率化,低待機電力化のニーズがある。富士電機

ではこのようなニーズを踏まえ,高精度加工技術を用いてストライ

プセル設計の最適化を行い,オン抵抗 -ターンオフ損失のトレード

オフ特性を改善することで,低損失,超高速スイッチングを実現し

たパワーMOSFETを開発・製品化した。

低損失・超高速パワーMOSFET「Super FAP-Gシリーズ」

山田 忠則 黒崎  淳 阿部  和

富士時報 Vol.74 No.2 p.114-117(2001)

自動車用電子制御装置は年々増加の一途をたどっており,自動車

電装メーカーでは,その小型,高性能,低コスト化を切望している。

このたび,駆動・制御・保護などの回路と,パワーデバイスをワン

チップ化したハイサイド高機能MOSFET F5045Pを開発中である

ので紹介する。F5045Pの特徴は次のとおりである。①定格・パッ

ケージ:50V,1A,SOP-8,②過電流・過熱検出機能の内蔵,③

最低動作電源電圧 3V,④静止電源電流 100μA,⑤オン状態保持用

として 2 入力端子構成。

ハイサイド高機能MOSFET

鳶坂 浩志 大江 崇智 市村  武

富士時報 Vol.74 No.2 p.118-121(2001)

スイッチング電源は低消費電力,高調波・ノイズの低減など環境

への配慮が求められている。そのため一つのコンバータでこれらの

要求に対応できる電源を開発し,専用マルチチップパワーデバイス

「M-POWER」として商品化した。特徴は次のとおりである。

高効率:スナバエネルギー回生

待機時入力電力 3W以下でエナジー 2000 適合:サブ電源不要

高調波規制 IECクラス D適合:アクティブフィルタ回路不要

ラッチ停止付き保護による保護機能の充実(4)

(3)

(2)

(1)

電源用マルチチップパワーデバイス「M-POWER」

太田 裕之 寺沢 徳保

富士時報 Vol.74 No.2 p.122-126(2001)

インターネットなどによる急激な情報化社会の発展に伴い,携帯

電子機器や情報通信の分野では,さらなる小型・軽量化,省エネル

ギー化,高効率化が求められている。これらの市場要求に対応すべ

く,放熱特性を確保したフラットリード構造を適用し,かつ,素子

高さを従来品の約 60 %まで薄くした大電流・超薄型パワー SMD

「SDシリーズ」および「TFPシリーズ」を開発・製品化したので,

その概要について報告する。

超薄型パワーSMD

梅本 秀利 古島 達弥

富士時報 Vol.74 No.2 p.127-131(2001)

最近の電子レンジの技術動向として,高周波出力の高出力化,高

周波駆動型電子レンジの駆動周波数の増加がある。また,調理室

(庫内)の有効容積率の改善に伴い,電源スペースは狭小となり,

使用される高圧ダイオードには今まで以上の低損失駆動が求められ

る。一方,マグネトロンの異常放電による高サージ耐量の確保も必

要とされる。富士電機ではこのような背景を踏まえ,低損失かつ高

サージ耐量を実現した新規チップ設計による電子レンジ用高圧ダイ

オードを開発した。

電子レンジ用高圧ダイオード

久保山貴博 渡島 豪人

富士時報 Vol.74 No.2 p.132-136(2001)

富士時報論文抄録

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Abstracts (Fuji Electric Journal)

W ith the rapid growth in power electronics in recent years, the

power module used in inverters has been required to be compact-pack-

aged and more reliable. In addition to the existing devices such as

input diode bridge, output IGBT bridge, dynamic braking IGBT, and

thermistor for overheating protection, the newly developed integrated

power module incorporates a thyristor for suppressing surge current

on charging the DC bus capacitor. This compact-package module sim-

plifies the design of inverter systems.

Integrated Power Modules with Thyristor

Taku Sato Yasuyuki Kobayashi

Fuji Electric Journal Vol.74 No.2 p.106-109 (2001)

This paper reviews Fuji Electrics recent development of power

semiconductor devices. The circumstances of our development of

transistors and IGBTs as power semiconductor devices are outlined,

citing the graphs of changes in the design rule and the device capacity.

Also with regard to power MOSFETs, IGBTs, and the assembly tech-

nology standing in the forefront of power device development, the

paper gives a brief description of Super FAP-G series, EconoPACK-

Plus, and the reliability of power modules due to the new Sn-Ag-base

solder respectively.

Present Status and Trends of Power Semiconductors

Yasukazu Seki

Fuji Electric Journal Vol.74 No.2 p.103-105 (2001)

As energy-saving measures for electric and electronic equipment

have been developed, also the switched mode power supply are

required to improve power consumption, efficiency, and energy con-

sumption on standby. To meet these requirements, Fuji Electric opti-

mized the stripe cell design using high-precision processing technology

and improved characteristics through tradeoff between on-resistance

and turnoff dissipation; thus the new power MOSFET that realized

low-dissipation, high-speed switching was developed and marketed.

Power MOSFET “Super FAP-G Series” for Low-Loss, High-Speed Switching

Tadanori Yamada Atsushi Kurosaki Hitoshi Abe

Fuji Electric Journal Vol.74 No.2 p.114-117 (2001)

There has been a growing demand for high-current inverters in

the 40 kW to 1 MW class. Requirement of power devices used in them

are small size, high reliability, high current rating, high efficiency, and

easy handling. Fuji Electric is developing the high-current 6 in 1 IGBT

module EconoPACK-Plus to meet these requirements. Compared

with conventional modules, the new module will realize about 20% loss

reduction, more accurate temperature sensing with the built-in ther-

mistor, about 50% base area reduction, IGBT/FWD characteristics opti-

mized and package design for easy parallel connection.

Large Capacity 6 in 1 IGBT Module “EconoPACK-Plus”

Shin-ichi Yoshiwatari Nobuhiko Betsuda

Fuji Electric Journal Vol.74 No.2 p.110-113 (2001)

Environmental considerations, such as reduction in energy dissipa-

tion, input current distortion and noise, are necessary for switching

power supply. Fuji Electric has developed power supply that can meet

these requirements with one converter and put it on the market as

application specific multichip power device M-POWER. The outstand-

ing features are (1) High efficiency by regenerating snubber energy (2)

Standby input power less than 3W, conforming to Energy 2000; sub-

power supply not required (3) Harmonic regulation in accordance with

IEC class D; no active filter circuit required (5) Protective function

using latched shutdown.

Multichip Power Device M-POWER for Power Supply

Hiroyuki Ota Noriho Terasawa

Fuji Electric Journal Vol.74 No.2 p.122-126 (2001)

Electronic control equipment for automobiles increases every year

and car-electrics manufacturers desire reduction in size and cost as

well as high performance. Fuji Electric has been developing the high-

side intelligent power MOSFET F5045P with drive, control and pro-

tection circuits, and a power device integrated on a chip. Its outstand-

ing features are (1) Ratings and package : 50 V, 1 A ; SOP-8

(2) Built-in detective functions against overcurrent and over tempera-

ture (3) Minimum operation voltage : 3 V (4) Standby current: 100μA

(5) Two input terminals provided to keep ON state.

High-Side Intelligent Power MOSFET

Hiroshi Tobisaka Takatoshi Ooe Takeshi Ichimura

Fuji Electric Journal Vol.74 No.2 p.118-121 (2001)

The technical trend of recent microwave ovens is an increase in

high-frequency output and an increase in drive frequency for high-fre-

quency driven microwave ovens. The improvement of the effective

capacity ratio of a cooker unit gives only a smaller space for the power

supply, and its high-voltage diode is required to perform lower dissipa-

tion drive. On the other hand, high surge-proof capacity caused by

abnormal magnetron discharge must be ensured. Under these circum-

stances, Fuji Electric has developed a high-voltage diode for microwave

ovens using a newly designed chip that realizes low dissipation and

high surge-proof capacity.

High-Voltage Diode for Microwave Ovens

Takahiro Kuboyama Taketo Watashima

Fuji Electric Journal Vol.74 No.2 p.132-136 (2001)

W ith rapid progress in the information-oriented society by the

internet, etc. further improvements in size and weight, energy con-

sumption, and efficiency are required in the field of portable electronic

appliances and communication equipment. To meet these market

requirements, Fuji Electric has developed and put on the market the

new large-current, super thin power SMD (surface mounted device)

SD series and TFP series . These series use a flat lead construc-

tion with enough radiation characteristics and the device height is

about 60% in thickness compared with the conventional power SMD.

Super Thin Power Surface Mounted Devices

Hidetoshi Umemoto Tatsuya Furushima

Fuji Electric Journal Vol.74 No.2 p.127-131 (2001)

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IGBT素子の高耐圧・大容量化の要求に対し,4,500 Vの耐圧で

2,000Aおよび 1,200Aの電流容量を有する平型 IGBTを開発した。

パッケージ構造の改善と,内蔵する IGBT,ダイオードチップの設

計の最適化により,高い長期信頼性を実現するとともに,素子の高

破壊耐量化が図られている。また,高いラプチャー耐量を持ち,平

型構造を生かした直列接続による装置適用が容易となっている。現

在さらなる素子特性の改善と,システムへの適用を進めている。

4.5 kV高耐圧平型 IGBT

藤井 岳志 川  功 松原 邦夫

富士時報 Vol.74 No.2 p.137-140(2001)

スイッチング電源においては,最近の高調波ノイズ規制の動きも

相まって,力率改善回路への要求が高まっている。

力率改善回路のスイッチング損失を低減し,低ノイズとするには,

ダイオードの逆回復電流の低減とソフトリカバリーが重要なポイン

トとなる。そのため,素子動作シミュレーション技術を活用し,素

子構造の最適化を図ることで,逆回復電流を従来レベルの約半分で,

しかもソフトリカバリーな 600Vスーパー LLDを開発した。

600Vスーパー LLD

北村 祥司 松井 俊之

富士時報 Vol.74 No.2 p.141-144(2001)

パワー半導体モジュールの信頼性において最も重要視されるパワー

サイクル信頼性について,寿命向上のための設計技術を紹介する。

シリコンチップ接合部に Pb 基はんだを用いる IGBTモジュールの

パワーサイクル寿命は,実使用温度域でははんだ接合部の寿命が支

配的である。そこで,はんだ接合部寿命の改善を行うべく,高強度

で濡れ性に優れた SnAg系鉛レスはんだ材料を新たに開発した。シ

リコンチップ接合部に新開発の SnAg 系はんだを適用し,パワーサ

イクル寿命の向上を達成した。さらに,破壊メカニズムを明らかに

した。

パワー半導体モジュールにおける信頼性設計技術

両角  朗 山田 克己 宮坂 忠志

富士時報 Vol.74 No.2 p.145-148(2001)

FWDにおいてその通電期間が 1μs 以下で起こるクリティカルな

逆回復現象を,1,800 V/800A IGBTモジュールを用いて実験的に

調べた。この場合,きわめて高い dv/dtとスパイク電圧および電

圧・電流の振動が観測される。この現象は短い通電期間による,n

ベース中へのキャリヤ注入が少ないことに起因する。また,電圧・

電流の振動は FWDチップの完全な空乏化と,外部回路間の LC共

振である。このように,素子の定格電圧を超える高いスパイク電圧

は,FWDチップエッジのガードリング部にくさび状損傷を残す素

子破壊に通じる。

過渡オン状態からのダイオード逆回復現象の解析

長畦 文男 田上 三郎 桐畑 文明

富士時報 Vol.74 No.2 p.149-152(2001)

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To meet the requirement of IGBTs for high voltage and large

capacity, Fuji Electric developed flat-packaged IGBTs of 4.5 kV, 2,000 A

and 1,200 A. The improvement of package construction and the opti-

mization of built-in IGBTs and diode chip design realize high reliability

for a long period as well as high durability against element destruction.

The IGBTs have high durability against rupture and facilitate applica-

tion to equipment by series connection making good use of the flat con-

struction. Now further improvement in element characteristics and

application to systems are under development.

New 4.5 kV High-Power Flat-Packaged IGBTs

Takeshi Fujii Koh Yoshikawa Kunio Matsubara

Fuji Electric Journal Vol.74 No.2 p.137-140 (2001)

W ith the recent movement for the regulation against harmonic

noise, switching power supply is required more severely to use a

power-factor-improved circuit. The keys to reduce switching loss and

noise in the power-factor-improved circuit are reduction in diode

reverse recovery current and soft recovery. Fuji Electric made good

use of diode behavior simulation technology to optimize the diode con-

struction and developed a 600 V low-loss fast-recovery diode (600 V

Super LLD). This has about a half of reverse recovery current com-

pared with the conventional level and moreover soft recovery.

New 600 V Super LLD

Shoji Kitamura Toshiyuki Matsui

Fuji Electric Journal Vol.74 No.2 p.141-144 (2001)

W ith regard to power cycling reliability, which is regarded as most

important among the reliability of power semiconductor modules, this

paper describes a design technology to lengthen the span of life. On a

level of actual working junction temperature, the power cycling life of

IGBT modules using lead-base solder to join silicon chips depends on

the life of soldered parts. To improve the life of soldered parts, Sn/Ag-

base lead-free solder material of high strength and superior wettability

was newly developed. This new solder improved the power cycling

life, and in addition, the failure mechanism was clarified.

Reliability Design Technology for Power Semiconductor Modules

Akira Morozumi Katsumi Yamada Tadashi Miyasaka

Fuji Electric Journal Vol.74 No.2 p.145-148 (2001)

The critical reverse recovery phenomenon of a free wheeling

diode (FWD) occurring after an on-pulse current flow shorter than 1μs

is experimentally produced with a 1,800 V/800 A IGBT module. In this

case, extremely high dv/dt, spike voltage and voltage-current oscilla-

tion are observed. This phenomenon is originated from smaller carrier

injection into the n-base layer within a short on-pulse period. The

oscillation is due to LC resonance between the completely depleted

FWD chips and the inductance of external circuit. Thus the generation

of high spike voltage over the voltage ratings signifies the destruction

of a semiconductor device like a wedge-shaped damage on the guard

ring region of the FWD chip edge.

Analysis of Diode Reverse Recovery Behavior at a Transient On-State Condition

Fumio Nagaune Saburo Tagami Fumiaki Kirihata

Fuji Electric Journal Vol.74 No.2 p.149-152 (2001)

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本 社 事 務 所 1(03)5435-7111 〒141-0032 東京都品川区大崎一丁目11番2号(ゲートシティ大崎イーストタワー)

北 海 道 支 社 1(011)261-7231 〒060-0042 札幌市中央区大通西四丁目1番地(道銀ビル)東 北 支 社 1(022)225-5351 〒980-0811 仙台市青葉区一番町一丁目2番25号(仙台NSビル)北 陸 支 社 1(076)441-1231 〒930-0004 富山市桜橋通り3番1号(富山電気ビル)中 部 支 社 1(052)204-0290 〒460-0003 名古屋市中区錦一丁目19番24号(名古屋第一ビル)関 西 支 社 1(06)6455-3800 〒553-0002 大阪市福島区鷺洲一丁目11番19号(富士電機大阪ビル)中 国 支 社 1(082)247-4231 〒730-0021 広島市中区胡町4番21号(朝日生命広島胡町ビル)四 国 支 社 1(087)851-9101 〒760-0017 高松市番町一丁目6番8号(高松興銀ビル)九 州 支 社 1(092)731-7111 〒810-0001 福岡市中央区天神二丁目12番1号(天神ビル)

北 関 東 支 店 1(048)526-2200 〒360-0037 熊谷市筑波一丁目195番地(能見ビル)首 都 圏 北 部 支 店 1(048)657-1231 〒330-0802 大宮市宮町一丁目38番1号(野村不動産大宮共同ビル)首 都 圏 東 部 支 店 1(043)223-0701 〒260-0015 千葉市中央区富士見二丁目15番11号(日本生命千葉富士見ビル)神 奈 川 支 店 1(045)325-5611 〒220-0004 横浜市西区北幸二丁目8番4号(横浜西口KNビル)新 潟 支 店 1(025)284-5314 〒950-0965 新潟市新光町16番地4(荏原新潟ビル)長 野 シ ス テ ム 支 店 1(026)228-6731 〒380-0836 長野市南県町1002番地(陽光エースビル)長 野 支 店 1(0263)36-6740 〒390-0811 松本市中央四丁目5番35号(長野県鋳物会館)東 愛 知 支 店 1(0566)24-4031 〒448-0857 刈谷市大手町二丁目15番地(センターヒルOTE21)兵 庫 支 店 1(078)325-8185 〒650-0033 神戸市中央区江戸町95番地(井門神戸ビル)岡 山 支 店 1(086)227-7500 〒700-0826 岡山市磨屋町3番10号(住友生命岡山ニューシティビル)山 口 支 店 1(0836)21-3177 〒755-8577 宇部市相生町8番1号(宇部興産ビル)松 山 支 店 1(089)933-9100 〒790-0878 松山市勝山町一丁目19番地3(青木第一ビル)沖 縄 支 店 1(098)862-8625 〒900-0005 那覇市天久1131番地11(ダイオキビル)

道 北 営 業 所 1(0166)68-2166 〒078-8801 旭川市緑が丘東一条四丁目1番19号(旭川リサーチパーク内)北 見 営 業 所 1(0157)22-5225 〒090-0831 北見市西富町163番地30釧 路 営 業 所 1(0154)22-4295 〒085-0032 釧路市新栄町8番13号道 東 営 業 所 1(0155)24-2416 〒080-0803 帯広市東三条南十丁目15番地道 南 営 業 所 1(0138)26-2366 〒040-0061 函館市海岸町5番18号青 森 営 業 所 1(0177)77-7802 〒030-0861 青森市長島二丁目25番3号(ニッセイ青森センタービル)盛 岡 営 業 所 1(019)654-1741 〒020-0034 盛岡市盛岡駅前通16番21号(住友生命盛岡駅前ビル)秋 田 営 業 所 1(018)824-3401 〒010-0962 秋田市八橋大畑一丁目5番16号山 形 営 業 所 1(023)641-2371 〒990-0057 山形市宮町一丁目10番12号新 庄 営 業 所 1(0233)23-1710 〒996-0001 新庄市五日町1324番地の6福 島 営 業 所 1(024)932-0879 〒963-8033 郡山市亀田一丁目2番5号い わ き 営 業 所 1(0246)27-9595 〒973-8402 いわき市内郷御厩町二丁目29番地水 戸 営 業 所 1(029)231-3571 〒310-0805 水戸市中央二丁目8番8号(櫻井第2ビル)茨 城 営 業 所 1(029)266-2945 〒311-1307 茨城県東茨城郡大洗町桜道304番地(茨交大洗駅前ビル)金 沢 営 業 所 1(076)221-9228 〒920-0031 金沢市広岡一丁目1番18号(伊藤忠金沢ビル)福 井 営 業 所 1(0776)21-0605 〒910-0005 福井市大手二丁目7番15号(安田生命福井ビル)山 梨 営 業 所 1(055)222-4421 〒400-0858 甲府市相生一丁目1番21号(清田ビル)松 本 営 業 所 1(0263)33-9141 〒390-0811 松本市中央四丁目5番35号(長野県鋳物会館)岐 阜 営 業 所 1(058)251-7110 〒500-8868 岐阜市光明町三丁目1番地(太陽ビル)静 岡 営 業 所 1(054)251-9532 〒420-0053 静岡市弥勒二丁目5番28号(静岡荏原ビル)浜 松 営 業 所 1(053)458-0380 〒430-0945 浜松市池町116番地13(山崎電機ビル)和 歌 山 営 業 所 1(073)432-5433 〒640-8052 和歌山市鷺ノ森堂前丁17番地鳥 取 営 業 所 1(0857)23-4219 〒680-0862 鳥取市雲山153番地36〔鳥電商事(株)内〕倉 吉 営 業 所 1(0858)23-5300 〒682-0802 倉吉市東巌城町181番地(平成ビル)山 陰 営 業 所 1(0852)21-9666 〒690-0007 松江市御手船場町549番地1号(安田火災松江ビル)徳 島 営 業 所 1(088)655-3533 〒770-0832 徳島市寺島本町東二丁目5番地1(元木ビル)高 知 営 業 所 1(088)824-8122 〒780-0870 高知市本町四丁目1番16号(高知電気ビル別館)小 倉 営 業 所 1(093)521-8084 〒802-0014 北九州市小倉北区砂津二丁目1番40号(富士電機小倉ビル)長 崎 営 業 所 1(095)827-4657 〒850-0037 長崎市金屋町7番12号熊 本 営 業 所 1(096)387-7351 〒862-0950 熊本市水前寺六丁目27番20号(神水恵比須ビル)大 分 営 業 所 1(097)537-3434 〒870-0036 大分市寿町5番20号宮 崎 営 業 所 1(0985)20-8178 〒880-0805 宮崎市橘通東三丁目1番47号(宮崎プレジデントビル)南 九 州 営 業 所 1(099)224-8522 〒892-0846 鹿児島市加治屋町12番7号(日本生命鹿児島加治屋町ビル)

エ ネ ル ギ ー 製 作 所 1(044)333-7111 〒210-9530 川崎市川崎区田辺新田1番1号変電システム製作所 1(0436)42-8111 〒290-8511 市原市八幡海岸通7番地東京システム製作所 1(042)583-6111 〒191-8502 日野市富士町1番地神 戸 工 場 1(078)991-2111 〒651-2271 神戸市西区高塚台四丁目1番地の1鈴 鹿 工 場 1(0593)83-8100 〒513-8633 鈴鹿市南玉垣町5520番地回 転 機 工 場 1(0593)83-8100 〒513-8633 鈴鹿市南玉垣町5520番地松 本 工 場 1(0263)25-7111 〒390-0821 松本市筑摩四丁目18番1号山 梨 工 場 1(055)285-6111 〒400-0222 山梨県中巨摩郡白根町飯野221番地の1吹 上 工 場 1(048)548-1111 〒369-0192 埼玉県北足立郡吹上町南一丁目5番45号大 田 原 工 場 1(0287)22-7111 〒324-8510 大田原市中田原1043番地三 重 工 場 1(0593)30-1511 〒510-8631 四日市市富士町1番27号

(株)富士電機総合研究所 1(0468)56-1191 〒240-0194 横須賀市長坂二丁目2番1号(株)FFC 1(03)5351-0200 〒151-0053 東京都渋谷区代々木四丁目30番3号(新宿コヤマビル)

スイッチング電源の高効率化, 高周波化を実現。

微細加工技術,抵抗低減技術,ゲート面積低減技術を駆使した

低損失・高速パワーMOSFET

●低ゲートチャージ(Q )

 当社従来比40%

●ターンオフスイッチング損失(E  )の低減

 当社従来比75%

●高アバランシェ耐量

●パッケージの小型化を実現

富士パワーMOSFET 「Super FAP-Gシリーズ」

Super FAP-Gシリーズ

2SK3514-01 TO-2202SK3515-01MR TO-220F2SK3517-01 TO-2202SK3518-01MR TO-220F2SK3519-01 TO-2202SK3520-01MR TO-220F2SK3468-01 TO-2202SK3469-01MR TO-220F2SK3504-01 TO-2202SK3505-01MR TO-220F2SK3522-01 TO-2472SK3523-01R TO-3PF2SK3524-01 TO-2202SK3525-01R TO-220F2SK3501-01 TO-2202SK3502-01MR TO-220F2SK3450-01 TO-2202SK3451-01MR TO-220F2SK3527-01 TO-2472SK3528-01R TO-3PF2SK3529-01 TO-2202SK3530-01MR TO-220F2SK3531-01 TO-2202SK3532-01MR TO-220F2SK3533-01 TO-2202SK3534-01MR TO-220F2SK3474-01 TFP 150V 23A2SK3535-01 TFP 250V 24A 105mΩ

500V

800V

900V

8A

5A

8A

12A

14A

21A

6A

10A

17A

12A

5A

4.6A

5.5A

450V

500V

500V

500V

500V

600V

600V

600V

600V

900V

0.46Ω

0.65Ω

1.5Ω

0.85Ω

0.26Ω

1.2Ω

0.75Ω

0.65Ω

0.37Ω

1.9Ω

2.0Ω

70mΩ

2.5Ω

0.52Ω

DSS D DS(on)

off

50

40

30

200.3 0.4 0.5 0.6 0.7

従来品

R   (Ω)

600V/0.75 Ω デバイス

E (

J)at

V

=30

0V,

I =

10A

,R

=

10 Ω

DS(on)

off

ccG

D

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Super FAP-Gシリーズ

型 式 パッケージ V I R

お問合せ先:電子カンパニー パワー半導体事業部 電話(03)5435-7160

Page 62: パワー半導体特集 - Fuji Electric€¦ · 目 次 21世紀のパワーデバイス ワイドギャップ半導体 102(2) 赤木 泰文 パワー半導体の現状と動向

昭和40年6月3日 第三種郵便物認可 平成13年2月10日発行(毎月1回10日発行)富士時報 第74巻 第2号(通巻第791号) ISSN 0367-3332

聞こえてきますか、技術の鼓動。

パワー半導体特集

定価525円(本体500円)

昭和40年6月3日 第三種郵便物認可 平成13年2月10日発行(毎月1回10日発行)富士時報 第74巻 第2号(通巻第791号)

パワー半導体特集

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