廃棄物・排水の利用を考える 独立行政法人 国立環...
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-未来を拓く環境研究-
微生物を利用したバイオマスの資源化技術微生物を利用したバイオマスの資源化技術--廃棄物・排水の利用を考える廃棄物・排水の利用を考える--
独立行政法人 国立環境研究所水土壌圏環境研究領域 珠坪一晃
National Institute for Environmental Studies
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お話しする内容お話しする内容
1. バイオマス資源化技術開発推進の背景
2.バイオマスの定義と有機性廃棄物の排出状況
3.微生物を利用した廃棄物の資源化技術の現状
4.廃糖蜜からのバイオエタノール生産の省エネ効果
5.有機性排水(希薄なバイオマス)の資源循環処理への取り組み
6.まとめ2
お話しする内容お話しする内容
1. バイオマス資源化技術開発推進の背景
2.バイオマスの定義と有機性廃棄物の排出状況
3.微生物を利用した廃棄物の資源化技術の現状
4.廃糖蜜からのバイオエタノール生産の省エネ効果
5.有機性排水(希薄なバイオマス)の資源循環処理への取り組み
6.まとめ3
循環型社会形成への気運が高まりつつある。
天然資源の消費が抑制され、環境への負荷が低減される社会
1.製品等が廃棄物等となることを抑制
2.排出された廃棄物等はできるだけ資源として適正に利用
3.利用不能なものは適正処分が徹底される
循環型社会基本法が制定、施行(平成13年1月)された。
家電リサイクル法,食品リサイクル法など(循環型社会の実現に向けた道程を示すもの)
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バイオマス・ニッポン総合戦略 (平成14年12月に閣議決定)
バイオマス資源を有効活用していくための国家戦略
地球温暖化防止、循環型社会形成等の観点から、関係府省が協力
して、バイオマスの利活用推進に関する具体的取組や
行動計画を決定。
有機性廃棄物(バイオマス)の資源循環利用
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お話しする内容お話しする内容
1. バイオマス資源化技術開発推進の背景
2.バイオマスの定義と有機性廃棄物の排出状況
3.微生物を利用した廃棄物の資源化技術の現状
4.廃糖蜜からのバイオエタノール生産の省エネ効果
5.有機性排水(希薄なバイオマス)の資源循環処理への取り組み
6.まとめ6
バイオマスとは?「バイオマス(biomass)」は、[バイオ(bio=生物、生物資源)]と「マス(mass=量)」からなる言葉で、「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」とされています。
・未利用バイオマス稲わら、もみ殻、林地残材(間伐材)
・資源作物大豆、トウモロコシ、イモ類
・廃棄物系バイオマス(量的に多い)古紙、家畜排せつ物、食品廃棄物、下水・し尿汚泥
=有機性資源と理解することが出来る。7
我が国における主な有機性廃棄物の排出量*
(*平成12年度 環境白書)
種別 排出量(1,000t/年)
家畜排せつ物 91,000食品廃棄物 19,000廃棄紙 14,000黒液 14,000
下水汚泥 76,000し尿汚泥 32,000
製材工場等残材 6,100林地残材 3,900
建設発生木材 4,800農作物非食用部 13,000
= 水分を多く含む、ウエットバイオマスの排出量が多い。
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・腐敗性であるため埋め立て処理が困難
・水分を多く含むので焼却処理の効率が悪い
・有機性廃棄物の適正処理の必要性ロンドン条約改正法(平成19年4月):液状廃棄物(し尿、浄化槽汚泥、焼酎カス他)の海洋投棄、洋上焼却を禁止
ウエットバイオマス(有機性廃棄物)の特徴:
微生物を利用した処理・資源化技術の開発と実用化が進行(環境低負荷、省エネルギー)
資源循環型処理のニーズの高まり
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お話しする内容お話しする内容
1. バイオマス資源化技術開発推進の背景
2.バイオマスの定義と有機性廃棄物の排出状況
3.微生物を利用した廃棄物の資源化技術の現状
4.廃糖蜜からのバイオエタノール生産の省エネ効果
5.有機性排水(希薄なバイオマス)の資源循環処理への取り組み
6.まとめ10
メタン生成細菌(Methanosaeta sp.)
エタノール発酵酵母(Saccharomyces cerevisiae)
微生物(細菌、酵母など)を利用した有機性廃棄物の処理、有価物生産(発酵)の特徴
長所: 使用エネルギーが少ない(低コスト)、環境への影響が少ない(物理化学処理との比較)
短所: 安定した処理・生産性能が得られにくい(制御が困難)、処理対象物の質・量的な変化に対応しにくい
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微生物を利用した廃棄物の資源化技術
1.メタン発酵処理
殆どの有機性廃棄物(生ごみ、余剰汚泥、し尿等)、高濃度産業排水の処理に適用可能
実規模メタン発酵槽
嫌気性微生物群(酸素不要)による有機物分解(減量化)とメタンガス回収
・処理有機物の70-90%がメタンに転換、燃焼による電気・熱の生産、都市ガスへ混合
・余剰汚泥(微生物)発生量が少ない12
生ごみ・食品廃棄物処理メタン発酵施設
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生ごみ・食品廃棄物処理メタン発酵施設(詳細)
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家畜糞尿など畜産廃棄物のメタン発酵
オランダ、デンマーク、ドイツなど
日本国内:
・京都府八木町バイオエコロジーセンター(牛ふん尿、豚ふん尿、おから、わら、おがくず)計画45トン/日
・別海資源循環施設(北海道別海町)
乳牛ふん尿など
45-50トン/日
メタン発酵槽(約1500m3)
[写真提供:(独)寒地土木研究所]15
微生物を利用した廃棄物の資源化技術
2. 発酵による有価物の生産(エタノール、乳酸など)
セルロース、デンプンを含む糖質系の有機廃棄物(木材、生ごみ、紙ごみ)
前処理(微細化、不純物除去)
化学反応、酵素(微生物)による糖化
微生物による各種発酵
L-乳酸(生分解プラスチックの原料)、エタノール、水素、アセトン・ブタノールなど 16
北九州市 エコタウン(生ごみからL-乳酸を製造)
生分解プラスチックL-乳酸(精製後)生ごみ
糖質成分の発酵
80%発酵残渣(メタン発酵・コンポスト)
17[写真提供:九州工業大学 白井義人 教授]
我が国におけるバイオエタノールの生産・利用の実証試験
農林水産省ホームページより 18
バイオエタノールの生産工程:
サトウキビ、廃糖蜜、トウモロコシ、イモ類、木質バイオマス、など
前処理・糖化
酵母による発酵
蒸 留
脱 水
99.5%燃料エタノール
10%エタノール
95%エタノール多量に蒸留廃液が排出
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微生物を利用した資源物質生産:
・将来有望な技術であり今後の研究開発に期待。
・資源物質生産に伴い発生する廃液などの後処理まで
考慮した省エネルギー(CO2発生抑制)効果の評価が
必要。
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お話しする内容お話しする内容
1. バイオマス資源化技術開発推進の背景
2.バイオマスの定義と有機性廃棄物の排出状況
3.微生物を利用した廃棄物の資源化技術の現状
4.廃糖蜜からのバイオエタノール生産の省エネ効果
5.有機性排水(希薄なバイオマス)の資源循環処理の取り組み
6.まとめ21
バイオエタノール(バイオマス由来輸送燃料)生産の現状
・アメリカ :生産量1235万キロリットル/年(原料:トウモロコシ)
・ブラジル: 1200万キロリットル/年以上(原料:サトウキビ)
・日本 :0.7万キロリットル/年(当面、廃糖蜜や規格外農産物から)3%エタノール混合燃料(E3)の利用:実証段階
全てのガソリンがE3化すると180万キロリットル/年が必要
ブラジル、東南アジア地域からの輸入?
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エタノール生産国であるタイにおける蒸留廃液の排出量や廃液処理の現状を調査
協力:コンケン大学、タイ工業省 サトウキビ課
タイ王国
・原料は、主として廃糖蜜(当面の日本でのバイオエタノール生産原料と同じ)
・国王主導によるバイオエタノール燃料導入(E10燃料)(農民の収入増加、エタノール輸入量の削減)
・新規のバイオエタノール製造プラントが次々と建設
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バイオエタノール製造廃液の排出状況の調査
廃液の殆どが第一蒸留行程より排出
プラント A:アユタヤ
プラント B:コンケン
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廃糖蜜
酵母による発酵
第一蒸留
第二蒸留
脱 水
99.5%エタノール
10%エタノール
60% エタノール
95%エタノール
廃液1
廃液2
十数年前に建設(古い施設)
一昨年に建設(新しい施設)
エタノール蒸留廃液・1 Lのエタノール生産に対して約10倍量の廃液が発生・有機物濃度が非常に高い(100-300 gCOD/L)・着色があり難分解
153万kL/年(2007年度予定)のエタノール生産に伴い10倍量( 1,530万kL )の廃液が発生
= 3,360 万人/年の負荷量(生活排水換算)国内の実証試験(沖縄県 宮古島)においても適切な廃液処理法の開発が必要であると報告されている。
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プラント A, B:安定化池廃液処理の方法
安定化池(嫌気)高温・高濃度の廃液の排出
十数個の池を順次流下、最終的には乾燥・排泥 26
プラント A: アユタヤ
降雨により廃液が流出
廃液の生分解反応も殆ど生じていない
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プラント B: コンケン
安定化池での廃液滞留時間が約1年と長いため、一部の有機物が分解しメタンへと転換
安定化池で発生したメタンの燃焼
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バイオエタノール工場
メタン(温室効果ガス)
安定化池廃液
エタノールを利用することによる炭酸ガス発生抑制効果
1.52 kgCO2 /L-エタノール
有機物の3割程度(105L-CH4/L-エタノール)がメタンへ転換すると仮定安定化池より発生するメタンガスの炭酸ガス換算量
- 6.28 kgCO2 /L-エタノール
・廃糖蜜を原料とするバイオエタノールの増産は温暖化を促進(- 4.76 kgCO2 /L-エタノール)
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適切な廃液処理法(メタン発酵など)の導入
エタノールを利用することによる炭酸ガス発生抑制効果
1.52 kgCO2 /L-エタノール
有機物の5割程度(175 L-CH4/L-エタノール)がメタンへ転換廃液処理・メタンガスの回収による炭酸ガス発生抑制効果
0.5 kgCO2 /L-エタノール
・廃糖蜜を原料とするバイオエタノールの生産は温暖化防止に寄与(2.02 kgCO2 /L-エタノール)
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お話しする内容お話しする内容
1. バイオマス資源化技術開発推進の背景
2.バイオマスの定義と有機性廃棄物の排出状況
3.微生物を利用した廃棄物の資源化技術の現状
4.廃糖蜜からのバイオエタノール生産の省エネ効果
5.有機性排水(希薄なバイオマス)の資源循環処理への取り組み
6.まとめ31
生活排水・産業廃水(=希薄バイオマス)の排出と処理
多量の有機性排水が発生=生ごみと同等の有機物量(生活排水 141億m3/年*, 産業排水111億m3/年* )
*2003国土交通省土地・水資源局資料
・曝気のための莫大な電力消費(国内電力消費の0.6%)・膨大な余剰汚泥の発生(有機系産廃の40%)
CO2発生量 700-1000万 ton/年(京都議定書:2010年までに8000万トン削減)
現状の有機性排水処理
好気性微生物処理,活性汚泥
(工場・下水処理場等)
水環境保全に寄与
・排水処理の省エネ化が必要(未利用バイオマスとしての資源循環利用) 32
排水の省エネ・資源循環処理へのキーテクノロジー
嫌気排水処理:メタン発酵
・微生物の増殖が遅い(好気微生物の数十倍)
・酸素供給の必要が無い
・メタンの回収が可能
・余剰汚泥(微生物)発生量が少ない
・消費エネルギーが少ない
・エネルギーの生産(資源循環)
問題点 ・処理が不安定・処理時間が長い・処理水質が悪い
問題点 ・処理が不安定・処理時間が長い・処理水質が悪い
・基礎的処理技術の開発・微生物学的知見の収集・実証試験(産学連携)
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メタン発酵の排水処理分野での利用拡大を目指して
常温(10-20℃)で多量に排出される排水処理への適用は困難
メタン生成細菌:・土壌・水田などの自然環境、反芻動物の胃などに生息・殆どが中温性(35-37℃が至適温度)、高温性(55-65℃)の細菌
自然環境(水田など)で存在が知られている常温対応のメタン生成細菌を利用出来ないか?
増殖の遅い細菌を利用するための基礎研究・開発
課題:増殖が遅い(倍加時間:10-14日)
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生物膜(メタン生成細菌群の凝集塊)を利用した処理技術の開発
・嫌気微生物の持つ、付着・凝集能力と栄養共生を利用し生物膜を形成させる(低温細菌集積の場とする)
・排水と生物膜の接触を促しつつ低温排水への適用を試みた
有機性排水
2 mm
処理水メタン
水温10-20℃でのメタン発酵処理が可能に
10 µm
低温対応のメタン生成細菌(Methanospirillum sp.)の明確な集積化を確認(世界初)
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循環
実験室規模装置による排水の無加温メタン発酵処理
排水の処理(有機物分解)に伴ってメタンガスが生成
バイオガス
有機性排水実験室規模メタン発酵排水処理装置
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得られたバイオガスの利用
・ガスタービンによる燃焼=電気・熱の回収
・都市ガスに混合させて利用(新潟県長岡市など)
バイオガス(メタン濃度70%)の燃焼の様子37
多くの開発途上国
・排水の未処理排出による水環境の悪化
・エネルギー(電力)供給が不安定
・排水処理にコストをかけることが出来ない
嫌気排水処理を核とした省エネ型排水処理技術の開発と展開への期待
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低濃度排水の省・創エネ型処理技術の開発
民間企業、大学との連携
鹿児島県霧島市下水処理場に実証試験装置(処理量50 m3/日)を設置し、性能評価を開始
嫌気排水処理槽
(残存有機物、窒素、病原菌除去)
後段好気処理槽
下水
浄化処理水
メタン回収
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お話しする内容お話しする内容
1. バイオマス資源化技術開発推進の背景
2.バイオマスの定義と有機性廃棄物の排出状況
3.微生物を利用した廃棄物の資源化技術の現状
4.廃糖蜜からのバイオエタノール生産の省エネ効果
5.有機性排水(希薄なバイオマス)の資源循環処理への取り組み
6.まとめ
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6.まとめ
・有機性廃棄物、排水の省エネ処理や資源としての
利用は重要であり、様々な処理・資源化技術に関する
研究開発の推進が期待される
嫌気性下水処理実証施設(霧島市)
・資源物質の生産に伴い発生する廃液や廃棄物の
処理方法や、その環境負荷も含めた技術評価が必要
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