放送で使われる敬語と視聴者の意識 - nhk.or.jp ·...

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50 JUNE 2009 はじめに NHK放送文化研究所(以下,文研)では, 2009(平成 21)年1月に「放送で使われる敬語」 をテーマに全国調査を行った。この調査の結 果を中心に「放送で使われる敬語」と視聴者の 敬語への意識について考える。第 1章,2 章を 山下が,第 3 章を田中が執筆した。調査の概要・ 単純集計は文末に掲げた。 第 1 章 放送敬語とは 1-1 敬語についての考え方 敬語については,国の国語審議会および文 化審議会から,戦後3回,建議または答申が 出され,国としての考え方が示されている。 1952(昭和27)年:「これからの敬語」 国語審議会・建議 2000(平成12)年:「現代社会における敬意表現」 国語審議会・答申 2007(平成 19)年: 「敬語の指針」文化審議会・答申 1952 年「これからの敬語」は戦後の民主主 義社会の中で,それまで必要以上に煩雑な点 があった敬語を平明・簡素なわかりやすい現代 的なものとするために示されたものである。各 人の基本的人格を尊重することを旨とし,敬語 の過剰使用を避けることが示されている。 2000 年の「現代社会における敬意表現」は, 現代社会におけるコミュニケーションが,相互 尊重の精神に基づき,敬語と敬語以外のさまざ まな表現で自己表現するためのものであること を呼びかけたものである。敬語以外の敬意表 現も相互尊重の中では必要な配慮であることを 述べている。 2007年の「敬語の指針」では,敬語が人間 関係や場の状況に対する気持ちのあり方を表 現するものであり,日本語には必要不可欠なも のであるとしている。そのうえで,「尊敬語」「謙 譲語Ⅰ」「謙譲語Ⅱ(丁重語)」「ていねい語」「美 化語」の 5 つの分類を示し,それぞれの使い方 を提案している。 こうした国の考え方を元に,NHKでは放送 で使う敬語について,番組の出演者・出席者 に対して失礼にならず,視聴者にも不快感を抱 かれない範囲で,なるべく敬語の使用を控えめ にすることを基本としている。 「放送で使う敬語」 について,菅野謙・竹田スエ(1974)は次のよ うにまとめている。 「放送」で使う特殊性を持った敬語は「放送 敬語」として,放送表現の中でさまざまな工夫 放送で使われる敬語と視聴者の意識 平成 20 年度「ことばのゆれ」全国調査から メディア研究部(放送用語) 田中浩史 / 山下洋子 「放送で使う敬語」は「放送メディア」の特性 によって規定されており,一般的な敬語使用とは 異なる考え方や使用が求められることがある。

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50  JUNE 2009

はじめに

NHK放送文化研究所(以下,文研)では,2009(平成21)年1月に「放送で使われる敬語」をテーマに全国調査を行った。この調査の結果を中心に「放送で使われる敬語」と視聴者の敬語への意識について考える。第1章,2章を山下が,第3章を田中が執筆した。調査の概要・単純集計は文末に掲げた。

第 1 章 放送敬語とは1-1 敬語についての考え方敬語については,国の国語審議会および文化審議会から,戦後3回,建議または答申が出され,国としての考え方が示されている。1952(昭和 27)年:「これからの敬語」 国語審議会・建議

2000(平成 12)年:「現代社会における敬意表現」 国語審議会・答申

2007(平成 19)年:「敬語の指針」文化審議会・答申

1952年「これからの敬語」は戦後の民主主義社会の中で,それまで必要以上に煩雑な点があった敬語を平明・簡素なわかりやすい現代的なものとするために示されたものである。各人の基本的人格を尊重することを旨とし,敬語の過剰使用を避けることが示されている。

2000年の「現代社会における敬意表現」は,現代社会におけるコミュニケーションが,相互尊重の精神に基づき,敬語と敬語以外のさまざまな表現で自己表現するためのものであることを呼びかけたものである。敬語以外の敬意表現も相互尊重の中では必要な配慮であることを述べている。2007年の「敬語の指針」では,敬語が人間関係や場の状況に対する気持ちのあり方を表現するものであり,日本語には必要不可欠なものであるとしている。そのうえで,「尊敬語」「謙譲語Ⅰ」「謙譲語Ⅱ(丁重語)」「ていねい語」「美化語」の5つの分類を示し,それぞれの使い方を提案している。こうした国の考え方を元に,NHKでは放送で使う敬語について,番組の出演者・出席者に対して失礼にならず,視聴者にも不快感を抱かれない範囲で,なるべく敬語の使用を控えめにすることを基本としている。「放送で使う敬語」について,菅野謙・竹田スエ(1974)は次のようにまとめている。

「放送」で使う特殊性を持った敬語は「放送敬語」として,放送表現の中でさまざまな工夫

放送で使われる敬語と視聴者の意識平成 20 年度「ことばのゆれ」全国調査から

メディア研究部(放送用語) 田中浩史/山下洋子

「放送で使う敬語」は「放送メディア」の特性によって規定されており,一般的な敬語使用とは異なる考え方や使用が求められることがある。

51JUNE 2009

や検討がなされているのである。

1-2 先行研究文研ではこれまでに「放送敬語」について,いくつかの調査・研究を行っている。稲垣文男・竹田スエ(1975),稲垣文男・竹田スエ・石野博史(1976)および,稲垣(1977)で①放送敬語の基本は「平明・簡素」,②場面や相手に応じて,表情やしゃべり方などで,ていねいになりすぎず,ざっくばらんにもならない工夫が必要,とまとめられた。「皇室」や「国賓」に対しての敬語については,石野博史(1976,1977,1986),木佐敬久(1993)が,「皇太子さま結婚の儀」などの実際の放送をテキストに問題点を整理する研究を行った。また,「放送敬語」を離れて,「敬語」への意識や使い方についても「現代人の言語環境調査」などで調査を行った(石野博史・稲垣文男(1987),安平美奈子(1992),加治木美奈子(1996))。くわしくは,文末の参考文献参照のこと。

第 2 章 「ことばのゆれ」調査の結果放送で使われる敬語については,視聴者から意見が寄せられたり,番組制作者から疑問が寄せられたりすることが多い。そこで「ことばのゆれ」全国調査1)で,「放送(テレビ)」でアナウンサーが使う「放送敬語」について調べることとした2)。

2-1 インタビュー・対談番組での紹介・説明インタビューや対談番組で,司会者であるアナウンサーがゲストをどのように紹介し,説明するのがよいかを聞いた。全部で7つの場面について聞いているが,いずれも,あてはまるものをいくつでも答えてもらうようにした。

①部内の上司・紹介の場面

テレビ番組で,Aアナウンサーが番組ゲストであるテレビ局の社長「山田太郎」を紹介する場合,どのようにいうのがよいと思うかを聞いた。回答は以下の5項目である。

視聴者に,同じ会社の人を紹介するのに敬意表現を使うのかという問題である。Aアナウンサーにとってゲストの社長は「上司」にあたり,敬語を付けて表現したくなる場面である。

全体では社長に対しての敬意表現を使わない「社長の山田太郎です」が多い。

年代別にも同様の結果である。しかし,20歳代はほかの年代に比べて,「社長の山田太郎

1. 社長の山田太郎さんです2.山田太郎社長です3. 社長の山田太郎です4.この中にふさわしいものはない5.わからない

図 1 「社長に○○」部内(上司)紹介の場面(全体)

図 2 「社長に○○」部内(上司)紹介の場面(年代別)

0 20 40 60 80 100

どちらともいえない

そう思う 

良識を持った 人と知り合う

友人をつくる

困難や悲しみ を癒す

心の安らぎや 幸福感が得られる

(%)

(%)

(M.A.)

50.1 16.5 14.7 18.8

44.8 18.4 17.3 19.4

23.2 22.2 32.8 21.8

15.8 27.4 31.9 24.9

そうは思わない

わからない・無回答

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この中にはない・ わからない

社長の山田太郎です

山田太郎社長です

社長の山田太郎さんです 19

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(%)

0

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60歳~50~59歳40~49歳30~39歳16~29歳

女性男性

28 34 37

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19 25 28

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0102030405060708090100

60歳以上50歳代40歳代30歳代20歳代

(%)

43 44 46 4743 44

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1

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20

1

35

19

1

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2

28

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29

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2

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22

2

33

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2

(%)

0

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60

《反感》=反感をもっている《無感情》=特に何とも感じていない《好感》=好感をもっている《尊敬》=尊敬の念をもっている

2008年2003199819931988198319781973

平成

(%)

0

10

20

30

40

50

1989-92 

84-88 

79-83 

74-78 

69-73 

64-68 

59-63 

54-58 

49-53 

44-48 

39-43 

34-38 

29-33 

24-28 

19-23 

14-18 

09-13 

04-08 

1899-1903 

1898~

2008年2003年1998年1993年1988年1983年1978年1973年

社長の山田太郎です

山田太郎社長です

社長の山田太郎さんです

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25

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57

22

20

73

14

14

66

18

17

58

20

18

社長の山田太郎です山田太郎社長です社長の山田太郎さんです

52  JUNE 2009

さんです」と社長に「さん」を付けて紹介するという回答が多く,「さん」を付けないという人はやや少ない。一方,40歳以上は,若い年代に比べて「社長の山田太郎です」と答える人が多く,「さん」を付けるという人は少ない。②部内の上司・説明の場面

社長を紹介したあと,番組で社長にしてもらうこと(「社長の話を聞く」ということ)をアナウンサーが視聴者に説明する場面では,どのようにいうのがよいかを聞いた。

意見が分かれたが,「お聞きします」がやや多い。「お聞きします」も「うかがう」も「聞く」の謙譲語である。「うかがう」のほうが敬意がやや重い。「うかがう」を使うほどではないが,軽めの謙譲語を使い,上司である相手をうやまう感じを出すべきだと考えられたようだ。「紹介」も「説明」も,視聴者に部内の人のことを伝えており,敬語を使わないのが一般的だが,「説明」の場面は,社長と対面している感覚が強く,敬語を使ってもおかしくないと考えられたのだろう。年代別に見てみる。40歳代を境にして上の年代では「社長にお聞きします」「おうかがいし

ます」が減り,「聞きます」が増えている。ここは敬語を使わなくても問題のない場面設定である。また「おうかがいします」は二重敬語と指摘され,伝統的には誤用とされる。40歳以上は,敬語の使用として模範的な回答を選んでいるといえるだろう。一方,20歳代では,「うかがいます」よりも「おうかがいします」が多い。「おうかがいします」は前述のとおり伝統的には誤用とされるが,「敬語の指針」(2007・文化審議会)が「習慣として定着している二重敬語」の例にあげており,現在では,必ずしも誤用とはいえない。誤用でないとすれば「おうかがいします」は「うかがいます」「お聞きします」よりていねいな表現と考えられる。若い年代は,よりていねいな表現を選ぶつもりでこの語を選んだのだろう。③大臣・説明の場面

番組のゲストに「政治家」であり「大臣」である人を呼び,政策について話してもらう場面である。番組でゲストが行うことを,視聴者にアナウンサーが説明するのに,どのようにいうのがよいと思うかを聞いた。

1. 社長に聞きます2. 社長にうかがいます3. 社長におうかがいします4. 社長にお聞きします5.この中にふさわしいものはない6.わからない

1. 山田太郎大臣に政策について聞きます2.山田太郎大臣に政策についてうかがいます3.山田太郎大臣に政策についておうかがいします4.山田太郎大臣に政策についてお聞きします5.この中にふさわしいものはない6.わからない

図 3 「社長に○○」部内(上司)説明の場面(全体)

図 4 「社長に○○」部内(上司)説明の場面(年代別)

0 20 40 60 80 100

どちらともいえない

そう思う 

良識を持った 人と知り合う

友人をつくる

困難や悲しみ を癒す

心の安らぎや 幸福感が得られる

(%)

(%)

(M.A.)

50.1 16.5 14.7 18.8

44.8 18.4 17.3 19.4

23.2 22.2 32.8 21.8

15.8 27.4 31.9 24.9

そうは思わない

わからない・無回答

0 20 40 60 80 100

この中にはない・ わからない

お聞きします

おうかがいします

うかがいます

聞きます 19

28

19

3

34

(%)

(M.A.)

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この中にはない・ わからない

社長の山田太郎です

山田太郎社長です

社長の山田太郎さんです 19

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62

3

0102030405060708090100

お聞きしますおうかがいしますうかがいます聞きます

60歳以上50歳代40歳代30歳代20歳代

(%)

0102030405060708090100

60歳以上50歳代40歳代30歳代20歳代

(%)

(%)

0

10

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1989-92 

84-88 

79-83 

74-78 

69-73 

64-68 

59-63 

54-58 

49-53 

44-48 

39-43 

34-38 

29-33 

24-28 

19-23 

14-18 

09-13 

04-08 

1899-1903 

1898~

2008年2003年1998年1993年1988年1983年1978年1973年

社長の山田太郎です

山田太郎社長です

社長の山田太郎さんです

56

44

12

29

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73

14

14

66

18

17

58

20

18

女性男性

53JUNE 2009

「おうかがいします」が多い。年代差はあまりないが,「おうかがいします」が30歳代で特に多く,40歳代で少ない(20歳代:49%,30歳代:52%,40歳代:38%,50歳代:46%,60歳以上:40%)。また「聞きます」は40歳代がほかの年代よりやや多い(20歳代:2%,30歳代:2%,40歳代:8%,50歳代:6%,60歳以上:7%)。④大臣に直接語りかける場面

番組のゲストとして出演している「政治家」であり「大臣」である人に,Aアナウンサーが直接話しかける場面である。大臣に話し始めのきっかけをつくることばとしてはどのようにいうのがよいと思うかを聞いた。

全体では「お聞かせください」が多く,「お話しください」が続いている。目上の人に直接話す場面であるということで,「お~する」の謙譲語が選ばれた。年代差はあまりないが,年代があがるにしたがって,「お聞かせください」が少なくなり,一方,「聞かせてください」「話してください」はやや増えている。

若い年代ほど,ていねいな表現を選び,年代があがるにしたがって,簡素な表現も選ぶようになっている。この場面は,相手が目上であっても,「政治家」「大臣」という存在である。ていねいすぎる表現を使うと,相手におもねった感じを与えてしまうため,ことばの選び方が難しい。かなり古い調査だが,1977年に放送で使われる敬語について,現場のアナウンサーと視聴者,有識者それぞれに調査を行った(稲垣ほか)。「教育長」に話を聞く場合に,「うかがう」を使うかどうかを聞いたところ,アナウンサーは,「うかがう」はていねいすぎるという印象を持っていることがわかった。これは,相手に問う内容によっては,敬語を使うと迫力や問い詰める感じが失われると考えるためである。しかし,視聴者や有識者は「うかがう」で問題がないと答えた。立場に関係なく,相手は外部の人

1. 政策について聞かせてください2. 政策についてお聞かせください3. 政策について話してください4. 政策についてお話しください5.この中にふさわしいものはない6.わからない

図 7 「大臣,○○」大臣・直接の場面(年代別)

図 5 「大臣に○○」大臣・説明の場面(全体)

図 6 「大臣,○○」大臣・直接の場面(全体)

0 20 40 60 80 100

どちらともいえない

そう思う 

良識を持った 人と知り合う

友人をつくる

困難や悲しみ を癒す

心の安らぎや 幸福感が得られる

(%)

(%)

(M.A.)

50.1 16.5 14.7 18.8

44.8 18.4 17.3 19.4

23.2 22.2 32.8 21.8

15.8 27.4 31.9 24.9

そうは思わない

わからない・無回答

0 20 40 60 80 100

ふさわしいものはない・わからない

お聞きします

おうかがいします

うかがいます

聞きます 5

27

44

3

27

(%)

(M.A.)

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この中にはない・ わからない

社長の山田太郎です

山田太郎社長です

社長の山田太郎さんです 19

18

62

3

0 20 40 60 80 100

どちらともいえない

そう思う 

良識を持った 人と知り合う

友人をつくる

困難や悲しみ を癒す

心の安らぎや 幸福感が得られる

(%)

(%)

(M.A.)

50.1 16.5 14.7 18.8

44.8 18.4 17.3 19.4

23.2 22.2 32.8 21.8

15.8 27.4 31.9 24.9

そうは思わない

わからない・無回答

0 20 40 60 80 100

この中にはない・ わからない

お話しください

話してください

お聞かせください

聞かせてください 11

66

6

3

21

(%)

(M.A.)

0 20 40 60 80 100

この中にはない・ わからない

社長の山田太郎です

山田太郎社長です

社長の山田太郎さんです 19

18

62

3

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お話しください

話してください

お聞かせください

聞かせてください

60歳以上50歳代40歳代30歳代20歳代

(%)

0102030405060708090100

お聞きしますおうかがいしますうかがいます聞きます

60歳以上50歳代40歳代30歳代20歳代

(%)

0

10

20

30

40

50

1989-92 

84-88 

79-83 

74-78 

69-73 

64-68 

59-63 

54-58 

49-53 

44-48 

39-43 

34-38 

29-33 

24-28 

19-23 

14-18 

09-13 

04-08 

1899-1903 

1898~

2008年2003年1998年1993年1988年1983年1978年1973年

お話しください話してくださいお聞かせください聞かせてください

76

19

53

75

19

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19

146

71

20

11

5

55

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8

54  JUNE 2009

0 20 40 60 80 100

どちらともいえない

そう思う 

良識を持った 人と知り合う

友人をつくる

困難や悲しみ を癒す

心の安らぎや 幸福感が得られる

(%)

(%)

(M.A.)

50.1 16.5 14.7 18.8

44.8 18.4 17.3 19.4

23.2 22.2 32.8 21.8

15.8 27.4 31.9 24.9

そうは思わない

わからない・無回答

0 20 40 60 80 100

この中にはない・わからない

教えてくださいます

教えてもらいます

教えていただきます 74

14

4

12

(%)

(M.A.)

0 20 40 60 80 100

この中にはない・ わからない

社長の山田太郎です

山田太郎社長です

社長の山田太郎さんです 19

18

62

3

であり,目上である。敬語は必要であると考える人が多かった。現在も視聴者の考え方として,1977年と大きな違いはないようだ。⑤料理番組で講師を紹介する場面

料理番組で,アナウンサーが講師を紹介するのにどのようにいうのがよいと思うかを聞いた。

回答にある,「いただく」は,「もらう」の謙譲語である。放送では,相手を高め,こちらを低めすぎていると考えられる場合がある。視聴者の中には「この講師に教えてもらいたい」わけでもないのに,「放送局が勝手にこの講師を選んだ」という意識があり,違和感がある人もいるようだ。また,「もらう」はやや乱暴な感じを与えるかもしれない。「くださる」は「くれる」「与える」の尊敬語である。相手を高めてはいるが,「いただく」よりは対等な立場という感覚もあるだろう。実際の放送では,どの表現も出てくるが,「今日の講師は山田洋子さんです」とことばを工夫することもできる。

調査の結果,全体では「いただきます」が圧倒的に多い結果となった。年代差はほとんど見られなかった。

「いただく」と「くださる」の使い方については,放送用語委員会でも指摘されている(参考:吉沢信(2009)「放送用語委員会(福岡)」『放送研究と調査』第59巻4号p.117)。動作の主体が相手にあると考えれば「くださる」になり,動作の主体がこちら側と考えれば「いただく」になる。今回の場合は,「アナウンサーと番組を見ている視聴者がともに山田洋子さんに料理を教えてもらう」つまり主体はこちら側にあり,「いただく」を使ったほうが違和感はないと考えられたのだろう。⑥一般視聴者の夫妻の紹介

番組に一般の人(夫妻)がゲストとして登場する場合,「夫」にあたる人と「妻」にあたる人をアナウンサーが紹介するのにそれぞれどの言い方がよいと思うかを聞いた。第三者の配偶者の呼び方をどのようにすべきかの問題である。配偶者の呼び方にはさまざまな言い方があるが,放送という公的な場面で第三者が呼びかける場合には,どの言い方にも違和感のある人がおり,ことばの選択に困る。たとえば,「主人」「旦那」「奥」という表現は旧時代的な考え方によるもので,違和感があるという視聴者の声を聞くこともある。また,「奥さま」「奥さん」は,もともと「武家の妻」のことを意味することばであり,これを武家以外の「妻」の立場の人全員に使うことがおかしいという指摘もあるようだ。一方,「夫」「妻」は,配偶者のことをいう一般的なことばだが,「自分」の配偶者のことをいうときに使う「自称」のことばであるという考え方をする場合がある。現在,実際の放送では,「夫」「妻」を使うことが多くなっている。そのほか,「山田太郎さんと花子さんです」と名前だけを紹介するという工夫もできる。回答項目は次のとおりである。

1.山田洋子さんに教えていただきます2.山田洋子さんに教えてもらいます3.山田洋子さんがお教えくださいます4.この中にふさわしいものはない5.わからない

図 8 「先生に○○」講師・紹介の場面(全体)

55JUNE 2009

0 20 40 60 80 100

どちらともいえない

そう思う 

良識を持った 人と知り合う

友人をつくる

困難や悲しみ を癒す

心の安らぎや 幸福感が得られる

(%)

(%)

(M.A.)

50.1 16.5 14.7 18.8

44.8 18.4 17.3 19.4

23.2 22.2 32.8 21.8

15.8 27.4 31.9 24.9

そうは思わない

わからない・無回答

0 20 40 60 80 100

この中にはない・ わからない

奥様

奥さん 36

54

3

8

(%)

(M.A.)

0 20 40 60 80 100

この中にはない・ わからない

社長の山田太郎です

山田太郎社長です

社長の山田太郎さんです 19

18

62

3

0 20 40 60 80 100

どちらともいえない

そう思う 

良識を持った 人と知り合う

友人をつくる

困難や悲しみ を癒す

心の安らぎや 幸福感が得られる

(%)

(%)

(M.A.)

50.1 16.5 14.7 18.8

44.8 18.4 17.3 19.4

23.2 22.2 32.8 21.8

15.8 27.4 31.9 24.9

そうは思わない

わからない・無回答

0 20 40 60 80 100

この中にはない・わからない

旦那様

旦那さん

ご主人様

ご主人 69

15

4

3

6

6

(%)

(M.A.)

0 20 40 60 80 100

この中にはない・ わからない

社長の山田太郎です

山田太郎社長です

社長の山田太郎さんです 19

18

62

3

「夫」紹介

「妻」紹介

今回,質問文と回答を作成する際,「夫」の呼び方と「妻」の呼び方でそれぞれ対応できるように選びたいと考えた。ところが,現在実際に使われているであろう「妻」の呼び方のパターンは「夫」の呼び方より少なく,対応させることができなかった。

(夫の紹介)

まず夫の紹介の場面である。「ご主人」が圧倒的に多い結果となった。年代差および男女差はあまり見られない。女性のほうが「旦那様」「ご主人様」という,よりていねいなことばを多く選ぶようだが,この男女差は小さい。

(妻の紹介)

次に妻を紹介する場面である。夫の紹介は「ご主人」が多かったのに対して,妻の紹介は「奥様」が選ばれた。夫の紹介に比べると回答は割れており,「奥さん」が「奥様」に続いている。妻の紹介については年代差と男女差がある。男性よりも女性のほうが「奥様」というていねいな表現を選ぶ人が多い。男性は,「奥さん」を選ぶ人が女性よりも多い。

1.ご主人の山田太郎さんです2.ご主人様の山田太郎さんです3. 旦那さんの山田太郎さんです4. 旦那様の山田太郎さんです5.夫の山田太郎さんです6.この中にふさわしいものはない7.わからない

1. 奥さんの山田洋子さんです2. 奥様の山田洋子さんです3.妻の山田洋子さんです4.この中にふさわしいものはない5.わからない

図 11-1 「妻」の紹介(男女別)

図 11-2 「夫」の紹介(男女別)

図 10 「妻」の紹介(全体)

図 9 「夫」の紹介(全体)

0 20 40 60 80 100

どちらともいえない

そう思う 

良識を持った 人と知り合う

友人をつくる

困難や悲しみ を癒す

心の安らぎや 幸福感が得られる

(%)

(%)

50.1 16.5 14.7 18.8

44.8 18.4 17.3 19.4

23.2 22.2 32.8 21.8

15.8 27.4 31.9 24.9

そうは思わない

わからない・無回答

0 20 40 60 80 100

奥さん

奥様

妻 8 9

59 49

41 32

女性男性

0 20 40 60 80 100

どちらともいえない

そう思う 

良識を持った 人と知り合う

友人をつくる

困難や悲しみ を癒す

心の安らぎや 幸福感が得られる

(%)

(%) (%)

50.1 16.5 14.7 18.8

44.8 18.4 17.3 19.4

23.2 22.2 32.8 21.8

15.8 27.4 31.9 24.9

そうは思わない

わからない・無回答

0 20 40 60 80 100

奥さん

奥様

妻 8

56

75

36

1614

6871

9

59 49

41 32 女性

男性

女性男性

0 20 40 60 80 100

ご主人

ご主人様

旦那さん

旦那様

56  JUNE 2009

年代別に見ると,年代があがるにしたがって「奥さん」が多くなり「奥様」が減っている。60歳以上では,「奥さん」と「奥様」が同じように選ばれている。夫と妻それぞれの紹介の場面を比べてみる。夫の紹介では「ご主人」が選ばれて,妻の紹介では「奥様」が選ばれている。「妻」のほうがていねいにいうべきと考えられているのだろうか。語の対応で考えてみると,そういうわけでもなさそうだ。「奥様」は「ご主人様」「旦那様」に対応している。一方,「奥さん」は相手への親しみがこもっている感じのする語である。「ご主人」にも対応するが,よりくだけた感じのある「旦那さん」にも対応していると考えられる。放送という,正式な場面ではくだけすぎていると判断する人が多かったため,選ばれなかったのだろう。反対に放送で「奥様」はかたすぎるともいえるが,放送ではくだけた言い方よりはかたい言い方のほうが違和感がないと考えられたのだろう。「妻」「夫」は,いずれも少ない。「妻の○○」「夫の××」という言い方は,第三者からされると違和感があるのだろう。

2-2 ニュースで使うことば続いて,ニュースで使うことばについて聞いた。ニュース文章を2文示し,どちらの言い方

が自分の考えに近いかを選んでもらった。今回,質問に選んだ語は,いずれも放送現場や視聴者から問い合わせがあったものである。ニュースは,中立的な表現をこころがける必要がある。そのため,「です・ます」体を使うことと皇室への敬語以外に,敬語表現はあまり使われない。こうしたニュース独特の文体は,戦前の資料にすでに見られる。NHKの部内資料『ニュースの文体及び語法』(1935(昭和10)年)で以下のように決められている。・総理大臣以下の行動については,すべて「~しました」を用いる

・文の結びは「です」「います」調を基本とする・形容句・副詞句の敬語は不要・「ましたが」「ましたので」などの敬語は必要・「ますると」「ますれば」は使わない・「いたしました」は使わない・「られる」は受け身にも敬語にも用いられるが,主として受け身に用いる など戦後も同様の考え方で検討・工夫を重ね,平明・簡素で,中立的な表現というニュース文体が確立した。ニュースで使われる表現や文体は,一般的なことばの選び方と異なる場合が多くある。そのため,違和感を訴える問い合わせが寄せられることがある。今回の調査では,その中から,ニュースで「ていねいな表現」を使うことについての意識を調べることとした。①「娘」か「娘さん」か

2004年,北朝鮮による拉致事件の被害者・曽我ひとみさんが北朝鮮に残してきた家族と再会したことを伝えるニュースで次のような表現が使われた。「曽我ひとみさんと夫のジェンキンスさんや2

図 12 「妻」の紹介(年代別)

0102030405060708090100

妻奥様奥さん

60歳以上50歳代40歳代30歳代20歳代

(%)

(%)

0

10

20

30

40

50

1989-92 

84-88 

79-83 

74-78 

69-73 

64-68 

59-63 

54-58 

49-53 

44-48 

39-43 

34-38 

29-33 

24-28 

19-23 

14-18 

09-13 

04-08 

1899-1903 

1898~

2008年2003年1998年1993年1988年1983年1978年1973年

64

29

8

64

30

6

61

31

8

54

37

8

43

43

9

社長の山田太郎です山田太郎社長です社長の山田太郎さんです

0102030405060708090100

お聞きしますおうかがいしますうかがいます聞きます

60歳以上50歳代40歳代30歳代20歳代

(%)

44

12

29

19

39

11

3023

34

30 23

15

33

18

30 21

322723

17

57JUNE 2009

話し手の性別に関係なく「娘さん」というほうがよいと答える人が多い。曽我ひとみさんのニュースを見ての視聴者の反応と同じ結果になった。

年代差はあまりない。男女差もあまりないが,女性のほうが「娘さん」とていねいな表現を選ぶ人がやや多く,男性のほうが「娘」を選ぶ人がやや多い。特に男性の20歳代で,「娘さん」が少なく「娘」が多い。話し手の性別によって言い方をかえたほうがよいという人は少ない。②「腹」か「おなか」か

ズボンをはいた女性の「尻」の部分を携帯電話のカメラで撮影したことがわいせつにあたるかどうかが争われる裁判が行われた,というニュースを伝える際に,「尻」とすべきか,「おしり」とすべきかの問い合わせがあった。「腹」「尻」「胸」「ほほ」「額」は「おなか」「おしり」「おっぱ

図 13 「娘/娘さん」のニュースでの言い方(全体)

図 14 「娘/娘さん」のニュースでの言い方(男女別)

0102030405060708090100

妻奥様奥さん

60歳以上50歳代40歳代30歳代20歳代

(%)

62

28

8

63

30

6

60

31

8

54

36

8

43

42

9

この中にはない・わからない

男女「娘さん」

男女「娘」

男性「娘」,女性「娘さん」

女性「娘」,男性「娘さん」

5 3 6

13

74%

0 20 40 60 80 100

どちらともいえない

そう思う 

良識を持った 人と知り合う

友人をつくる

困難や悲しみ を癒す

心の安らぎや 幸福感が得られる

(%)

(%)

(M.A.)

50.1 16.5 14.7 18.8

44.8 18.4 17.3 19.4

23.2 22.2 32.8 21.8

15.8 27.4 31.9 24.9

女「娘」,男「娘さん」

そうは思わない

わからない・無回答

0 20 40 60 80 100

この中にはない・わからない

社長の山田太郎です

山田太郎社長です

社長の山田太郎さんです 19

18

62

3

0 20 40 60 80 100

この中にはない・わからない

男女・娘さん

男女・娘

男・娘,女・娘さん

男「娘」,女「娘さん」この中にはない・わからない男女「娘さん」

男女「娘」

女・娘,男・娘さん男性

女性 77115 5

70 41573

2

人の娘との再会はきのう,インドネシアのジャカルタで行われた日朝外相会談で合意され,具体的な日時や場所について調整が進められることになりました」この「娘」という言い方が乱暴ではないか,という問い合わせが視聴者から何件か寄せられた。視聴者の意見としては,「『娘』では,犯人扱いをしているようで違和感がある」「ひとさまの娘さんを『お宅の娘』とはいわない。『娘』という表現は不快である」「曽我さんの『娘』と呼び捨てにするのは,常軌を逸しているのではないか」というものであった。「娘」というのは「呼び捨て」とはいえない。「女の子供」を指す一般名詞であり,そこにマイナス,プラスのどちらの意味も含まない。しかし,前述の「妻」「夫」と同様で,「娘」「息子」は,自分の「もの」をいうときに使うことばであり,人の「もの」をいうときに使うと抵抗感が生じるようだ。今回の調査では,アナウンサーがニュースで使う表現として,自分の考えに近いものを1つ選んでもらった。

1.女性が言う場合には aだが,男性が言う場合にはbで表現する

2.男性が言う場合には aだが,女性が言う場合にはbで表現する

3.女性でも男性でもa4. 女性でも男性でもb5.この中にはない6.わからない

宇宙飛行士の山崎直子さんには,

a.6歳の娘がいます。

b.6歳の娘さんがいます。

58  JUNE 2009

い」「ほっぺた」「おでこ」とことばをやわらかくしたり,子どもが使うことばで言い換えたりすることができる。ニュースでは,こうしたやわらかい表現は使わず,ほとんどの場合「腹」「尻」などの表現を使う。問い合わせでは,服の上から「尻周辺」を写真に撮ったことを強調したい。「尻」では,どうしても裸の状態を思い浮かべてしまい,違和感があるとのことだった。一方で,「おしり」ということばに生 し々さを感じるという声もある。ここは「の部分」ということばを添えて「尻の部分」とあいまいにすることで落ち着いた。調査では「腹」と「おなか」で聞いた。

回答の選択肢は「娘/娘さん」と同じで,どれか1つ選んでもらった。

話し手の性別に関係なく「おなか」というべきだと答える人が多かった。「娘/娘さん」よりは回答が割れており,「腹」と答える人も多い。話し手の性別によって言い方をかえるという答えは「娘」よりはやや多い。「おなか」は,「もと中世女性語」であるとの語釈をのせる辞書(『大辞林』第3版)もある。女性専用のことばであるという意識が残っているのだろう。またやや幼い表現であるという意識のある語でもある。ニュースというかしこまった場面での

ことばには適さないという意識が働いたことが想像できる。

男女差はほとんどない。「腹」と答える人は年代があがるにしたがって減っている。ニュースで「ていねいな表現」を必ず使ってほ

しいということではない。また反対にニュースだからていねいな表現は絶対に「使わない」でほしいというわけでもない。語によって違和感のない表現を選ぶようにしてほしいという視聴者の気持ちの表れが調査結果につながったのだろう。「腹/おなか」については,1987年「第1回言語環境調査」でも聞いている(石野・稲垣(1987))。東京と大阪それぞれの16歳以上の男女対象であり,調査文も異なるため単純に比較はできないが,ここでも「腹」よりも「おなか」と答える人が多い結果であった(「腹」東京24%,大阪21%,「おなか」東京67%,大阪72%)。視聴者の意識が変化したわけではないようだ。

2-3 一般的な場面での敬語の使い方放送敬語を離れて,一般的な場面での敬語の使い方について聞いた。職場の帰り際に,目上の人に「お疲れさまでした」「ご苦労さまでした」というねぎらいのこ

a.おなかを強く打って死亡しました。b. 腹を強く打って死亡しました。

図 15 「腹/おなか」のニュースでの言い方(全体)

図 16 「腹/おなか」のニュースでの言い方(年代別)

0102030405060708090100

妻奥様奥さん

60歳以上50歳代40歳代30歳代20歳代

(%)

62

28

8

63

30

6

60

31

8

54

36

8

43

42

9

この中にはない・わからない

男女「腹」

男女「おなか」

男性「おなか」,女性「腹」

女性「おなか」,男性「腹」

7 91

53%

30

この中にはない・わからない

男女「娘さん」

男女「娘」

男性「娘」,女性「娘さん」

女性「娘」,男性「娘さん」

5 3 6

13

74%

(%)

女性「おなか」,男性「腹」

男性「おなか」,女性「腹」

この中にはない・わからない

男女「腹」男女「おなか」

0 20 40 60 80 100

この中にはない・わからない

男女「腹」

男女「おなか」

男性「おなか」、女性「腹」

女性「おなか」、男性「腹」60歳以上

50歳代

40歳代

30歳代

20歳代 38 550

35 74710

31 5549

30 45510

24 105510

2

1

1

1

1

6

(%)

女性「おなか」,男性「腹」

男性「おなか」,女性「腹」

この中にはない・わからない

男女・娘さん男女「おなか」

0 20 40 60 80 100

この中にはない・わからない

男女「腹」

男女「おなか」

男性「おなか」,女性「腹」

女性「おなか」,男性「腹」60歳以上

50歳代

40歳代

30歳代

20歳代 38 550

35 64710

31 4549

30 45510

24 115510

2

1

1

1

1

6

59JUNE 2009

とばをかけることについての意識である。「ねぎらい」という行為は,「目上」から「目下」にするものだ。そのため,「お疲れさま」「ご苦労さま」いずれの表現も「目上」にはすべきでないというのが伝統的な考え方である。しかし,「ご苦労さまでした」はねぎらいだが,

「お疲れさまでした」は「感謝」の気持ちを表しており,目上に使っても問題はない,と考える人もいるようだ。「敬語の指針」(2007・文化審議会)では,第1案:「上司に対しては『どうもありがとうございました(大変助かりました)』と感謝の表現をすればよい」第 2 案:「『お疲れさま』は『ねぎらい』の気持ちをこめて使われる表現ではあるが,いっしょに仕事をした後など,お互いに声を掛け合うような場面にも多く用いる表現である。『お疲れさま』ではなく『お疲れさまでございました』などのていねいな言い方であれば,だれに対しても使える表現である」この2つの見解を示している。目上の人に「お疲れさまでした」「ご苦労さまでした」ということばを使うことについて,

「目上に『お疲れさま』『ご苦労さま』は失礼」という伝統的な考えを持つ人は少なく,「ご苦労さま×,お疲れさま○」が多い結果となった。

年代別に見ても同じ傾向である。「敬語の指針」の考え方を裏付ける結果となった。年代別には,30歳代で「ご苦労さま×,お疲れさま○」が多く,50歳以上になると少ない。「目上でも『お疲れさま』『ご苦労さま』はおかしくない」という人は,20歳代と50歳以上でやや多い。目上の人に「お疲れさまでした」と「ご苦労さまでした」を使うことについては,過去に何回か調査している。1987年「第1回言語環境調査」と1996年「第10回言語環境調査」である。いずれの調査も質問形式が異なるため単純に比較することはできないが,どちらの調査でも「ご苦労さま」「お疲れさま」ともに,目上の人に使うこと,また目下からいわれることに多くの人が違和感を持っていないことがわかる3)。今回の調査では,「お疲れさま」も「ご苦労さま」も認めるという意見はあまり多くない(28%:全体)。「ご苦労さま」は目上の人に使うのは失礼であるという意識が,前回調査から今回までの10年程度の間に広まったとも考えられる。

(やました ようこ)

図 17 「お疲れさま」「ご苦労さま」の使い方(全体・年代別)

(%)

女・娘,男・娘さん

0 20 40 60 80 100

この中にはない・わからない

男女・娘さん

男女・娘

男・娘,女・娘さん

男・娘,女・娘さんこの中にはない・わからない男女・娘さん

男女・娘

目上に「お疲れさま」「ご苦労さま」失礼

お疲れは×,ご苦労は○

この中にはない・わからない

目上に「お疲れさま」「ご苦労さま」おかしくない

ご苦労は×,お疲れは○

女・娘,男・娘さん男性

女性 77115 5

70 41573

2

0 20 40 60 80 100

この中にはない・わからない

目上に「お疲れさま」「ご苦労さま」おかしくない

ご苦労は×,お疲れは○

お疲れは×,ご苦労は○

目上に「お疲れさま」「ご苦労さま」失礼60歳以上

50歳代

40歳代

30歳代

20歳代

総数 28 744

27 446716

26 25910 3

29 847610

30 113713 9

271215 40 6

813

(%)

0 20 40 60 80 100

この中にはない・わからない

男女・娘さん

男女・娘

男・娘,女・娘さん

男・娘,女・娘さんこの中にはない・わからない男女・娘さん

男女・娘

女性「おなか」,男性「腹」

男性「おなか」,女性「腹」

この中にはない・わからない

男女・娘さん男女「おなか」

女・娘,男・娘さん男性

女性

0 20 40 60 80 100

この中にはない・わからない

男女「腹」

男女「おなか」

男性「おなか」,女性「腹」

女性「おなか」,男性「腹」60歳以上

50歳代

40歳代

30歳代

20歳代 38 550

35 64710

31 4549

30 45510

24 115510

2

1

1

1

1

6

1.目上の人に「お疲れさまでした」「ご苦労さまでした」というのは失礼だ

2.「お疲れさまでした」は失礼だが,「ご苦労さまでした」はおかしくない

3.「ご苦労さまでした」は失礼だが,「お疲れさまでした」はおかしくない

4.目上の人に「お疲れさまでした」 「ご苦労さまでした」というのはおかしくない

5.この中にはない6.わからない

60  JUNE 2009

第 3 章 「お」の付くことばについて3-1 美化語について私たちは日常生活の中で,「私はお弁当を持って行きます」や「この料理にはお塩を少 入々れます」などと,名詞に「お」や「ご」を付けた言い方をよく使う。2007年に出された文化審議会の「敬語の指針」4)の分類では,これら「お」や「ご」の付くことばなどを,尊敬語や謙譲語,ていねい語などと区別して,「ものごとを美化して述べるもの」=「美化語」と分類している。本稿でもこれにしたがって,「お」の付くことばを「美化語」と分類して話を進めるが,放送では,この「お」や「ご」の付くことば=「美化語」をどの程度使ってよいかが常に問われている。実際の放送では放送開始当初から,こうした「美化語」が料理番組やインタビュー番組などの中で敬語のひとつとして使われてきた。文研では,これまでもこの「美化語」に対する視聴者意識をさぐる調査を行ってきたが,今回の「ことばのゆれ調査」でも「美化語」に関する意識を調査している。放送でアナウンサーが使う「美化語」に対する視聴者の意識を考察する。

3-2 調査結果今回の調査では,名詞(体言)に「お」を付けたことばのうち,放送でよく使われる10のことばについて,アナウンサーが放送で使った場合に,「おかしくない」と感じるものはどれかを複数回答でたずねた。次がその問いである。

3-3 調査結果の分析単純集計結果をグラフ化し,回答者数に占める割合(%)と実数を示した(図18)。今回の調査語については,放送の中で使われる頻度や,問い合わせの多さ,かつての調査語などを参考に10語を選び出した。結果を見ると,放送でアナウンサーが使う「お」の付くことばについて,「おかしくない」という人と,「抵抗感のある人」の割合は,調査語によってばらつきがあることがわかる。

① 「お」を付けて使ってもおかしくないことばは,

  「お正月」「お金」「お酒」

調査語の中で,「正月(84%)」「金(かね)=貨幣(83%)」「酒(76%)」については,7割~8割以上の多くの人が「おかしくない」と感じている。これらは,放送でアナウンサーが使う「美化語」のひとつとして,視聴者に相当程度認知

Q. 放送でアナウンサーが使うことばについておたずねします。アナウンサーは男性,女性いずれの場合も含みます。 次のことばの中で,放送で,例えば「砂糖」を「お砂糖」というように,「お」を付けて言っ

てもおかしくないものはどれですか。いくつでも選んでください。

1.ビール 2.酢 3.正月 4.みかん 5.台所 6.なべ7.金(=貨幣) 8.ソース 9.酒10.天気 11.この中にはない12.わからない

図 18 「お」を付けて言ってもおかしくない語

0 20 40 60 80 100

どちらともいえない

そう思う 

良識を持った人と知り合う

友人をつくる

困難や悲しみを癒す

心の安らぎや幸福感が得られる

(%)

(%)

(%)

(%)

(%)

(M.A.)

50.1 16.5 14.7 18.8

44.8 18.4 17.3 19.4

23.2 22.2 32.8 21.8

15.8 27.4 31.9 24.9

そうは思わない

わからない・無回答

0 20 40 60 80 100

この中にはない・わからない

旦那様

旦那さん

ご主人様

ご主人 70

84 1,109(人)(実数)

1,095

1,003

748

629

594

152

91

60

42

22

83

76

57

48

45

12

7

5

3

15

4

3

6

6

0 20 40 60 80 100

2ビール

この中にはない

ソース

みかん

台所

なべ

天気

金(かね)

正月

61JUNE 2009

されていると判断してもよさそうである。「おかしくない」と感じる背景を考えてみると,「正月」については,「風俗慣習として大切な行事だから」,また「金(かね)」は「実生活で生殺与奪をにぎる大切なものだから」,「酒」は「邪気などを払い清める大切なもの」ということばの持つイメージがあるのかもしれない。「お」の付く名詞(美化語)に関しては,「お」や「ご」を付ける前のことば自体に対する感情や敬意の念があり,ことばをきれいにするだけでなくその思いを明確に表現しているのだ,とする一般的な議論がある。たとえば,「お酒」は清めの儀式に使う神聖なものであり,酒に対する敬意がそのことばを使う人の頻度を決めているし,「お料理」は「料理」を作ってくれる人に対する感謝や,食材となって人の命を支えてくれる生き物に対する感謝の念が込められているのだ,などという見解である。しかしこの調査においては,回答の選択根拠を調査していないため,ことば自体の内包する意味や心情の問題と,実際にことばを使うときの頻度の問題とを関連させて述べる根拠がない。今後も議論や調査を重ねたい。

② アナウンサーが放送の中で使うことが支持されなかったことばは「おビール」,

「おソース」,「おみかん」,「お台所」

「ビール(3%)」「ソース(5%)」「みかん(7%)」「台所(12%)」については,「お」を付けてアナウンサーが話すには,抵抗感や違和感が強いことばといえる。「ビール」については,回答した1,320人のうち,「おビール」という言い方をアナウンサーがすることに,「おかしくない」という回答を選んだ人はわずか42人しかおらず,女性の20歳代,30歳代,60歳代以上の人が選んでいる。

この「おビール」については,飲食店などで使われ始め,特定の世界では定着している面もあって「違和感を覚えない」という人も一定程度いると思われる。しかし,「おかしくない」と感じる人が3%しかいないという結果を見ると,広く社会で一般化していることばとはいえないであろう。結果から推測すれば,これらをアナウンサーが放送の中で使うと「おかしい」と思われる語に挙げられる。調味料の「ソース」に「お」を付けた「おソース」は,「おかしくない」という回答が5%であり,女性の中では支持が多いものの,全体ではなじみが薄いといえる。果物の「みかん」に「お」を付けて「おみかん」と呼ぶ人は「おビール」や「おソース」に比べれば,「おかしくない」という人が少し多いようだが一般的とはいえない。「台所」に「お」を付けた「お台所」は,若い世代に支持する人が多く,女性に限れば,やはり20歳代,30歳代と60歳代以上の人が「おかしくない」と感じている。

③ 視聴者の中で判断が分かれる語は,「酢/お酢」,「天気/お天気」,「なべ/おなべ」

「酢(57%)」「天気(48%)」「なべ(45%)」などは,「おかしくない」と感じる人と,アナウンサーが放送で使うことばとしては「おかしい」と感じる人がほぼ半数ずつに分かれていて,今まさに「ゆれている語」といえそうである。放送のことばとしてふさわしいかどうか,慎重な判断が求められる。同じ調味料の「おソース」はほとんど支持されていないのに,「酢」となると「お酢」という言い方をアナウンサーにも認める人が多い。「す」という1音節のことばゆえに「お」が付きやすいということがあるのかもしれないし,「ぞんざい」な感じをなくすために「お」を付けているのかもしれない。

62  JUNE 2009

調味料の中でも「おかしい」と感じるものと「おかしくない」と感じるものに,これだけの差があるということは,分野別・グループ別の基準があって,それに沿って人々が「お」を付けたり付けなかったりしているわけでもなさそうである。そうすると,料理に関する語には「お」を付けるが,無生物には「お」を付けないというような,グループ化や規則化ができない。つまり,それぞれの美化語を使うかどうかは,それらをどういう場面で使うのか,などを考えながら個別に判断せざるを得ないのである。

3-4 いくつかの傾向分析ただ,今回の調査結果からは,「美化語」をめぐるいくつかの特徴的な傾向がうかがえるので,ここで3点指摘したい。

① 放送でアナウンサーが使う「美化語」について期待する意識は女性が男性よりも強い

今回の「ことばのゆれ調査」を性別で見てみると,「お」の付くことばを「おかしくない」と考える人の割合は,男性よりも女性のほうが多い。図19に示したとおり,特に「お正月」では女性87%に対して男性は80%,「お金」については86%対79%と,いずれも女性の方が男性を7ポ

イント上回っている。過去の調査を見ても,「お」の付くことばに対する女性のこの“肯定的”“容認的”な姿勢・傾向は続いている。名詞に付ける「お」は,一般に尊敬の対象となっていた「宮」「寺」「城」「正月」などに付けられたのが始まりで,室町時代になって「女房ことば」として,表現をていねいに,上品にするために使われるようになった,とされる5)。そこに次の2つの大きな要素が加わって,「お」の付くことばが現代に定着するようになったのではないかと考える。ひとつは,いわゆる「幼稚園ことば(幼児向け言葉)」である。大正時代から50年あまりも幼稚園教育に携わってきた幼児教育の関係者によれば,「昔の幼稚園では,子どもたちにできるだけていねいなことばづかいを教えようという方針から,どのことばにも「お」を付けてていねいにしようという傾向があり,それが現在まで続いている」という。「お集まり」「お絵かき」「お花」「おこしかけ」「おすべり」「おハンカチ」などがその例である6)。もうひとつは,「料理ことば」である。女性が多くを担っていた台所の料理の場面で,できるだけ上品に言いたいという心理が働き,「おイモ」「おソース」「お紅茶」「お砂糖」「お醤油」「お酢」「おダイコン」「お味」などのように使われた。こうした社会生活上の役割から,女性が多く関わる分野で,「お」の付くことばをより積極的に使ってきた歴史があり,この傾向が今も続いているため,女性のほうが男性よりも「美化語」を受け入れる意識が強く働いているものと思われる。

② 視聴者は,自分で使う場合よりも,アナウンサーに「美化語」を多く使うことを期待している

ここで,「美化語」に関する過去の調査結果

図 19  傾向分析 1 「お」が付いても         「おかしくない」ことば(男女別)

0102030405060708090100

妻奥様奥さん

60歳以上50歳代40歳代30歳代20歳代

(%)

62

28

8

63

30

6

60

31

8

54

36

8

43

42

9

この中にはない・わからない

男女「腹」

男女「おなか」

男性「おなか」,女性「腹」

女性「おなか」,男性「腹」

7 91

53%

30

この中にはない・わからない

男女「娘さん」

男女「娘」

男性「娘」,女性「娘さん」

女性「娘」,男性「娘さん」

5 3 6

13

74%

女性 女性 お正月 87 13 お金 86 14男性 男性 お正月 80 20 お金 79 21

87% 86%

80% 79%

「お正月」

「お金」

63JUNE 2009

と今回の調査結果を比較してみたい。1996(平成8)年の「言語環境調査」7)と今回の「ことばのゆれ調査」8)で,視聴者の「美化語」に対する意識の違いを読み取ってみる。両調査には,ともに美化語に関する調査が含まれているが,質問のしかたが異なっている。1996年調査では,「あなたが“お”の付くことばを使うときにおかしくないと思うものはどれか」と,日常生活の中で視聴者自身が使う「美化語」意識をたずねているが,今回2009年調査では「アナウンサーが放送で使ってもおかしくないものはどの語か」と,放送上でアナウンサーが使う美化語に対する意識をたずねている。このため,両調査を単純に比較することはできないが,次に説明するように,視聴者は,ふだん日常生活の中で自分が使う「美化語」よりも,放送でアナウンサーが使う「美化語」に対してより大きな期待を寄せていることがうかがえる。

図20に見るように,1996年調査では,「正月/お正月」でいえば,女性の83%の人が「お」の付くことばを使っているが,今回の調査(2009年)では87%である。また男性は51%から80%になっている。そのほかの語でもこの傾向は同様に見られる。

この数字の変化には,両調査の間(13年)の経年変化と質問のしかたの違いが表れているが,とりわけ質問の違いが回答のしかたに大きく影響したのではないかと思われる。つまり,日常生活での視聴者自身の「美化語」使用感覚と,放送でアナウンサーが使う「美化語」に対する視聴者側の受け止め方の違いが反映されていると見るべきであろう。この視点で,調査結果を再度検討してみると,96年調査よりも今回調査の結果のほうが,いずれも数字が高くなっており,視聴者は,自分が使う美化語よりも,アナウンサーが放送で使う「美化語」に対して,より大きな期待を抱いていることがうかがえる。放送局(特にNHK)のアナウンサーに,より模範的な日本語を強く求める傾向は,前回の2007年度「ことばのゆれ」調査結果9)からも読み取ることができる。視聴者は,模範的な日本語の使い手としてのアナウンサーに,できるだけ「美化語」を多く使うことを望んでいるものと考えられる。これから先は推論になるが,今回の調査結果から,男性の「美化語」への接近傾向がうかがえると見るのは,うがちすぎであろうか。前述したように,1996年調査と今回の調査では,「正月/お正月」で言えば,男性は51%から80%と数字が大幅に増えている。男女差で言えば,その差は32ポイント差から7ポイント差になっている。男性の回答数字に見られるこのような急激な増加の背景には,経年変化やアナウンサーへの期待のほかに,もうひとつ別の要素があるのではないかと思う。それが,男性の「美化語」への接近傾向ではないか。つまり,社会状況の変化に伴って,男性も子育てに参加するようになり,子どもの幼稚園への送り迎えや幼稚園行事への参加の中で「幼稚

図 20 傾向分析 2 「お」が付いても   「おかしくない」ことば(「お正月」・調査比較)

83% 87%

51%80%

1996年調査女

2009年調査女

64  JUNE 2009

園ことば」を使うようになったこと,家庭でも家事の分担が進んで男性が厨

ちゅうぼう

房に入って料理をする機会が増えたため,主に女性たちが使っていた「料理ことば」を学習して使うようになったことなどを背景に,男性が「美化語」を抵抗なく使い始めていると考えられるのだ。時代としては「美化語」を女性だけの特有なことばづかいとすることはできなくなっていると考える。さらに調査研究を深めたい。

③「美化語」を強く意識するのは,高齢者世代よりむしろ若い世代である

次に年齢別に見てみると,たとえば「お正月」を「おかしくない」という人は,20歳代が90%,30歳代が87%,・・・60歳以上が82%となり,若い世代から中高年層になるに従って「おかしくない」という回答が減少している。「正月」に「お」を付ける「お正月」についても,20歳代,30歳代の若い世代の人が各年代の中で最も高い支持率を示している。また「お金」で見ても,30歳代が88%と各年代の中で最も高い割合で

あり,全体として,中高年層よりも若年層の方が「美化語」をより積極的に受け入れ,放送の中でもアナウンサーが使うことに違和感を示していない。このことは「お酒」ということばでも同様で,若い世代ほど,「お」の付くことばを使うことについて「おかしくない」とする傾向が強い。これは,調査前の仮説とは全く逆の結果となった。つまり,“中高年層はていねいで上品なことばづかいを志向する傾向が強いため,中高年層ほどアナウンサーが放送で使う「美化語」を「おかしくない」とする回答が多いのではないか”と予測したが,反対の結果であった。なぜ,若い世代に「美化語」を支持する傾向が強いのかについて考えてみると,ひとつの見方として,若い世代も相当程度「敬語の必要性」を認識していて,日本社会における人間関係のあるべき姿の投影として,「美化語」の積極的使用を求めている,と見ることもできる。今回の調査結果の大きな特徴のひとつと言える。

3-5 NHK 部内資料に見る       美化語基準と実際

1934(昭和9)年にNHKの放送に使うことばや表現の基準を決める放送用語委員会が発足してからまもなく,1940年10月に部内用指導資料として出された『NHK業務局報道部告知』にある料理番組の放送台本に,当時の「美化語の基準」が示されている。そこから,食材や調味料のうち「お」を付けた表現を拾い出してみると,次のようになる。・「お」を付けて講師が発言したものお鍋,お塩,お汁,お米,お酢,お弁当,お惣菜,お漬物,お魚・「お」を付けずに講師が発言したもの

図 21 傾向分析 3 「美化語」に対する意識の世代差

(%)

9087858082

8688

838280

818279

7570

0 20 40 60 80 100

60 歳以上50 歳代40 歳代30 歳代20 歳代

お酒

お金

お正月

65JUNE 2009

昆布出し汁,寒天,枝豆,醤油,砂糖,葛,片栗粉,牛肉,生姜,牛蒡,鍋,水,白ゴマ,鰹節,キャベツ,鶏肉,漬物,佃煮,梅干,らっきょう,ウリ,胡瓜, 茄子,味噌漬,煮豆,黒豆,うづら豆,とうなす,トマト,たまねぎ,さといも,さつまいも,このように,魚や惣菜の個別の品目には「お」を付けず,グループを総称する集合名詞に「お」を付けようとする傾向が見えるが,一方で,同じ調味料でも「塩」や「酢」には「お」を付け,「醤油」「砂糖」などには「お」を付けないなど,基準そのものが当時の習慣や講師の話しぐせなどで揺れていることもうかがえる。一方,昭和31年度にアナウンサー養成のためにつくられたNHKアナウンス部編の「アナウンサー養成テキスト」によれば,敬語についての注意として次のように書かれている。

1974年の『現代敬語と放送』10)では,<「お」を付けてよいものと,「お」を付けずに済ましうるもの>の一覧表が掲げられており,「お」を付けてよいものが49語に対して,「お」を付けない語は121語にも上っている。しかし1967年のテレビニュースの調査結果を見ると,「お」を付けないことばとされていても,実際には「お」を付けて話されていた記録もある。

1952年の文部省(当時)の「これからの敬語」の基本方針では,「女性のことばでは,必要以上に敬語または美称が多く使われている(たとえば「お」の付けすぎなど)。この点,女性の反省自覚によって,しだいに純化されることが望ましい」と述べられており,放送でも,できる限り「お」を付けないように基準を設けてはいたが,実際には「お」を付けた美化語が,常態的に基準を超えて頻繁に使われていた様子がうかがえる。

3-6「お」「ご」の乱用問題敬語の問題では,NHKに寄せられる投書や各種新聞雑誌などの指摘でも,以前から「お」や「ご」に関するものが多い。中でも「お」の付く名詞の“乱用”を戒めるものが目立つ。1967年の新聞の投書欄に寄せられたものは,一般の視聴者がテレビの料理番組の講師を皮肉って次のように書いている。

NHKでは戦後数回にわたって,物事をていねいに言うために付ける「お」を乱用しないように,放送の基準をつくることを目的として整理を重ねた経緯がある。その結果,1951年4月にまとめられたものを見ると,物事をていねいに言うために付ける「お」は,放送で省きうるものはすべて省くという原則を立て,およそ180項目の用例について,「お」を付けてよいものと付けずに済ましうるもの,として使い方を示している(表1)。

テレビの料理教室などで,女の先生が盛んにやっています。 『・・・それから,おダイコン,おネギ,おナス,おイモを適当に切り,お酢を加えて,お塩,お醤油でお味をおつけになり・・・』なんとまあ,“お”つけことばの多いことであることか。

「お」・・・女性語,幼児語に「お」の付け過ぎがある。おリンゴ,お遊戯,お魚,おビール,おコーヒー,お歌 などいずれも「お」は不用*「おはぎ」「お鉢」「お櫃」など「お」がついて一語となっているものはそのまま

おさる,おじぎ,おしめり,お城,お正月,お歳暮,おたがい,お天気,お得意先,おなじみ,お墓,お花畑,お花見,お祭り

66  JUNE 2009

表 1 「お」を付けてよいものと付けずに済ましうるもの

無印の項目は,「お」を付けていいもの,「お」が付くもの*印の項目は,「お」を付けずに済ましうるもの菅野謙・竹田スエ「現代敬語と放送」,『NHK 放送文化研究年報』第 19 集,1974(昭和 49)年 7月10日 刊

*味 *酒屋 *せんべい *菜〔ナ〕 *便利*医者 *酒 *雑煮 おなか *弁当*祝い *さじ お供え(供えもち) *仲人 *盆*うち《家》 *座敷 *そば *なべ *盆(仏教)*うどん *刺し身 *そば屋 *なんど《納戸》 お参り*書きぞめ *札〔サツ〕 お太鼓 *肉 お負け*かきもち *さつまいも *台所 *肉屋 *豆*かぐら *砂糖 おたま(たまじゃくし) お握り おまるお飾り おざなり おだんご *人形 *まんじゅう(正月の飾り物の総称)お菓子 お産 *乳 *熱〔ネツ〕 *見合い (母乳 ,牛乳 ,やぎの乳)おかず *塩 お茶 *年始 *水*金〔カネ〕 *七夜 お茶うけ *年始回り *店*かま《釜》 おしめ お茶菓子 *念仏 *みそ*かゆ *じゃがいも *茶の間 お葉(野菜の菜類) *みそ汁おかわ(便器) *しゃくし *茶わん *墓参り *みやげ*客 おしゃぶり *中元 おはぎ *迎え火*客間 おしゃべり *中日 お化け *麦*経 *しゃもじ *つけ物 *はし *結び(にぎり飯)*悔やみ おしゃれ *通夜 おはじき おむつおくるみ *しょうゆ おつゆ おはち(飯びつ) お目ざ*玄関 *食事 *つり(つり銭) *火 おめでた*紅茶 *しり《尻》 おでき *ビール *もち《餅》*香の物 *汁 *寺 *干菓子 *野菜*コーヒー お汁粉 *寺参り *彼岸 *夜食*小ざら *汁粉屋 おでん お浸し おやつ*こたつ おしろい *豆腐 おひつ お湯*粉 *白酒(シロザケ) *豆腐屋 *火ばし *夕食*米 *酢 *年玉 *火ばち *湯のみ*米屋 *吸い物 *とそ お昼(昼食) *ようかんおこわ *すし《鮓》 *土びん *披露 *嫁入り*献立 *すまし《清汁》 *友だち お札(神社などの) *料理*裁縫 *炭 *どんぶり お古 おわん《椀》*さかな *赤飯 *ふろ《風呂》*さかな屋 おせっかい *ふろ屋 おぜん《膳》 *へや

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放送で「お」を付けることばの基準をつくるということは,非常に難しいことである。特に,一語一語について「これはよい」「これは悪い」という細部にわたる基準をつくると,かえってそれにとらわれすぎて,実際の放送の場面では悪影響を生ずることも想像できる。

3-7 放送における「美化語」の使用基準現在NHKでは,『ことばのハンドブック第2版』(NHK放送文化研究所編)で次のように記している。

きわめてゆるやかな基準であるため,さらに何らかの客観的な基準が求められることも現実としてある。これまでに示された基準と語例だけでは,よりどころとして不十分である。ここに示されていない一つ一つの語例が「お」「ご」を付けてよいのか,省いたほうがよいのかが分からないからである。NHKの放送用語委員でもあった故柴田武氏

は,個々の単語についての「お」の付き具合を調べ,できるだけ多くの単語にグレードを付けるための調査を行っている11)。この柴田氏の調査を元に,NHKでは1975年に「放送用語論」12)

で「美化語の選別基準」について次のようにまとめている。①外来語に「お」は付きにくい②「お」で始まる語には付きにくい③長い語には付きにくい④悪感情の語には付きにくい

⑤色,自然に関する語などには付きにくい⑥食事,心の動き,感情,体の働きに関する語などには付きやすい⑦女性の日常生活であまり使わない語には付きにくい

「美化語」については,こうした考え方を元に,それぞれの美化語をどういう場面で使うのかなどを考えながら個別に判断せざるをえない。放送では今後も,ことば一つ一つに対する視聴者の意識を注意深く調べながら,放送で使ってもよいのかどうかの判断を重ね,できるだけそれぞれの美化語にグレードを付けてグループ化する調査研究を重ねていくべきものと考える。

(たなか ひろふみ)

注:1)文研では,1991 年から年に 1回から 2回,「ことばのゆれ」全国調査を行っている。新しいものと古いものとが互いに影響しあって共存しているような「ゆれのある」ことばについての意識を調べる調査である

2)「です・ます」体もていねい語であり,敬語に含まれるが,この報告では,これらを「敬語」とは考えず論じる。たとえば,「聞きます」「もらいます」も「です・ます」を使った「敬語」表現ではあるが,この報告では「敬語のない表現」とした

3)1987 年「第 1回現代人の言語環境調査」「目上の人に『ご苦労さまでした』と言うのは失礼だ」「そう思う」28%(東京),26%(大阪),「そうは思わない」63%(東京),64%(大阪)。「目上の人に『お疲れさまでした』と言うのもやはり失礼だ」「そう思う」14%(東京),16%(大阪),「そうは思わない」78%(東京),74%(大阪)。1996 年「第 10 回現代人の言語環境調査」「(部下が部長に)ご苦労さまでした」「おかしい」39%,「おかしくない」57%

4)文部科学省文化審議会答申(2007 年 2 月)の「敬語の指針」では,敬語の形を,尊敬語,謙譲語Ⅰ,謙譲語Ⅱ(丁重語),ていねい語,美化語に分

 「お」の付くことば 「お」を付けると不自然に感じさせるかどうかは,ことばにより,人により様々であるが,「お」を使いすぎると,話の調子や文体にまで影響が及ぶことになるので注意しなければならない。

68  JUNE 2009

類し,「美化語」とは,「ものごとを,美化して述べるもの」とし,「お酒」「お料理」などを例示している

5)1975『放送用語論』(NHK放送文化研究所編)。第 2部第 9章「お」「ご」の乱用

6)1975『放送用語論』(NHK放送文化研究所編)大正時代から 50 年あまり幼稚園教育に携わってきた山村きよ氏の見解による

7)「第 10 回現代人の言語環境調査(日本人と話しことば)」(1996 年 3 月),個人面接法により全国 20 歳以上の男女 1,800 人を対象に実施,有効回答数 1,251(回収率 69.5%)

8)「ことばのゆれ調査」(2009 年 1 月)個別面接聴取法(層化副次(二段)無作為抽出法)で,全国 20 歳以上の男女 2,000 人を対象に実施 有効回答数 1,320(回収率 66.0%)

9)塩田雄大・太田眞希恵・山下洋子(2008)平成19 年度「ことばのゆれ」調査『放送研究と調査』第 58 巻 6 号

10)菅野謙・竹田スエ(1974)「現代敬語と放送」『NHK放送文化研究年報』第 19 集

11)柴田武(1957)「『お』の付く語・付かない語」『言語生活 7月号』。柴田氏の「お」の使われる範囲と程度についてのこの調査研究は,NHKの『日本語アクセント辞典(昭和 26 年版)』に掲載されている 4万 7,000 語の 7 分の 1を系統的無作為抽出法で抜き出し,さらにその中から,特殊な語を除き,4,830 語を調査語として,東京に住む 18 人の主婦の内省法で,各語について「お」の付く程度を調査した

12)放送用語班(1975)『放送用語論』第2部第9章「放送での敬語~ 4「お・ご」の乱用」

参考文献:文研資料(年代順)・放送用語班(1935)『ニュースの文体及び語法』部内資料

・放送用語班(1957)『放送用語参考辞典』部内資料・菅野謙(1972)「放送で使う敬語の性格」『放送研究と調査』第 22 巻 12 号

・菅野謙・竹田スエ(1974)「現代敬語と放送」『NHK 放送文化研究年報』第 19 集・稲垣文男・竹田スエ(1975)「アナウンサーと敬語」『放送研究と調査』第 25 巻 10 号・放送用語班(1975)「放送での敬語」『放送用語論』部内資料

・稲垣文男・竹田スエ・石野博史(1976)「視聴者

からみたアナウンサーの敬語(1)(2)」『放送研究と調査』第 26 巻 10 号 11 号

・石野博史(1976)「英女王訪日報道の敬語」『放送研究と調査』第 26 巻 2 号

・大石初太郎(1977)「わたしの望むこれからの放送敬語」『放送研究と調査』第 27 巻 6 号

・石野博史(1977)「ニュースの敬語~国賓などの場合~現場からの一報告」『放送研究と調査』第27 巻 5 号

・稲垣文男(1977)「これからの放送敬語~アナウンサーの敬語を中心に」『NHK放送文化研究年報』第 22 集

・稲垣文男(1983)「敬語~理念と実際の矛盾」『放送研究と調査』第 33 巻 7 号

・浅井真慧(1985)「君は,あいさつできますか~「若者と敬語」調査から」『NHK 放送文化研究年報』第 30 集

・石野博史(1986)「放送のことば(皇室・外国王室に対する敬語)」『放送研究と調査』第 36 巻 8号

・石野博史・稲垣文男(1987)「現代人と敬語(第1回言語環境調査から)」『放送研究と調査』第 37巻 7 号

・石野博史・丸田実・土屋健(1989)「ことばの正しさ美しさ(第 3回言語環境調査から)」第 39 巻8 号

・安平美奈子(1992)「「敬語」に自信がありますか(第 6 回言語環境調査から)」『放送研究と調査』第 42 巻 5 号

・木佐敬久(1993)「「結婚の儀」とテレビの皇室敬語~「場」による敬語のていねい度」『放送研究と調査』第 43 巻 11 号

・加治木美奈子(1995)「「ご苦労さま」の使用にみる現代人の人づきあい観~『ことばてれび』視聴者の反響から探る」『放送研究と調査』第 45 巻 11号

・加治木美奈子(1996)「“日本語の乱れ”意識は止まらない(第 10 回現代人の言語環境調査から②)」『放送研究と調査』第 46 巻 9 号

文研以外資料・『問題な日本語』北原保雄編(大修館書店)・『私たちと敬語』国立国語研究所編「新『ことば』シリーズ 21」

・『大人の敬語コミュニケーション』蒲谷宏(ちくま新書)

69JUNE 2009

平成 20 年度「ことばのゆれ」調査

Q1 あなたがテレビを見ている場合の話としてお考えください。テレビの出演者のことばづかいについてうかがいます。

(1)あなたがいま見ているテレビ番組に,Aアナウンサーという人が出ています。また,その番組に「山田太郎」というテレビ局の社長も出ています。この人は,仕事の上では,Aアナウンサーの「上司」にあたります。さて,テレビでAアナウンサーが,この「山田太郎」という人を紹介する場合,どのように言うのがよいと思いますか。あてはまるものをいくつでもお答えください。(M.A.)

1. (ア)「社長の山田太郎さんです」 ‥‥‥‥‥‥ 18.9 % 2. (イ)「山田太郎社長です」 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 18.2 3. (ウ)「社長の山田太郎です」 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 61.7 4. (エ)この 3 つの言い方の中に, ふさわしいものはない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥0.9 5. わからない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥2.1

(2)(1)の紹介のあとに続くことばについてうかがいます。では,テレビでAアナウンサーが,この「山田太郎」に話を直接聞く場合,視聴者であるあなたにどのように説明するのがよいと思いますか。あてはまるものをいくつでもお答えください。(M.A.)

1. (ア)「社長に聞きます」 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 19.1 % 2. (イ)「社長にうかがいます」 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 28.3 3. (ウ)「社長におうかがいします」 ‥‥‥‥‥‥ 19.4 4. (エ)「社長にお聞きします」 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 34.4 5. (オ)この 4 つの言い方の中に, ふさわしいものはない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥1.3 6. わからない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥2.2

(3)あなたがいま見ているテレビ番組に,Aアナウンサーという人が出ています。また,その番組にゲストとして,

「山田太郎」という「政治家」で「大臣」である人も出ています。この人に,政策についての話を聞く場面です。さて,テレビでAアナウンサーが,この「山田太郎」という人の話を聞くことを説明するのに,どのように言うのがよいと思いますか。あてはまるものをいくつでもお答えください。(M.A.)

1. (ア)「これから,山田太郎大臣に政策について 聞きます」 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥5.4 % 2. (イ)「これから,山田太郎大臣に政策について うかがいます」 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 27.0 3. (ウ)「これから,山田太郎大臣に政策について おうかがいします」 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 44.2

4. (エ)「これから,山田太郎大臣に政策について お聞きします」 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 27.3 5. (オ)この 4 つの言い方の中に, ふさわしいものはない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥0.5 6. わからない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥2.4

(4)(3)のあとに続く表現についてうかがいます。では,Aアナウンサーが,この「山田太郎」に直接話を聞く場面で,「山田太郎」に対して,Aアナウンサーはどのようなことばを使うのがよいと思いますか。あてはまるものをいくつでもお答えください。(M.A.)

1. (ア)「山田大臣,政策について 聞かせてください」 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 10.7 % 2. (イ)「山田大臣,政策について お聞かせください」 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 66.1 3. (ウ)「山田大臣,政策について話してください」 ‥‥5.8 4. (エ)「山田大臣,政策についてお話しください」 ‥ 21.1 5. (オ)この 4 つの言い方の中に, ふさわしいものはない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥0.4 6. わからない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥2.8

(5)あなたがいま見ているテレビの料理番組に,Aアナウンサーという人が出ています。その番組に「山田洋子」という「講師」が出ています。この人が料理を教える場面です。さて,Aアナウンサーが「山田洋子」という人を紹介する場合,どのように言うのがよいと思いますか。あてはまるものをいくつでもお答えください。(M.A.)

1. (ア)「山田洋子さんに教えていただきます」 ‥ 73.9 % 2. (イ)「山田洋子さんに教えてもらいます」 ‥‥ 13.6 3. (ウ)「山田洋子さんがお教えくださいます」 ‥ 11.7 4. (エ)この 3 つの言い方の中に, ふさわしいものはない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥1.7 5. わからない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥2.2

(6)あなたがいま見ているテレビ番組に,Aアナウンサーという人が出ています。その番組には,一般の方でご夫妻である人(「山田太郎・洋子」)もゲストとして出ています。さて,Aアナウンサーが「山田太郎」「洋子」という 2 人を紹介する場合,どのように言うのがよいと思いますか。あてはまるものをいくつでもお答えください。

a)まずは,「山田太郎」を紹介する場合はどうですか。(M.A.) 1. (ア)「ご主人の山田太郎さんです」 ‥‥‥‥‥ 69.4 % 2. (イ)「ご主人様の山田太郎さんです」 ‥‥‥‥ 14.7 3. (ウ)「旦那さんの山田太郎さんです」 ‥‥‥‥‥4.0 4. (エ)「旦那様の山田太郎さんです」 ‥‥‥‥‥‥6.1 5. (オ)「夫の山田太郎さんです」 ‥‥‥‥‥‥‥‥5.6 6. (カ)この 5 つの言い方の中に, ふさわしいものはない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥0.7 7. わからない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥2.7

b)「山田洋子」を紹介する場合はどうですか。(M.A.) 1. (ア)「奥さんの山田洋子さんです」 ‥‥‥‥‥ 36.0 % 2. (イ)「奥様の山田洋子さんです」 ‥‥‥‥‥‥ 54.1 3. (ウ)「妻の山田洋子さんです」 ‥‥‥‥‥‥‥‥8.2 4. (エ)この 3 つの言い方の中に, ふさわしいものはない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥0.4 6. わからない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥2.6

【調査の概要】

1. 調査時期 平成 21(2009)年 1 月 9 日~ 25 日2. 調査方法 調査員による個別面接聴取法3. 抽出方法 層化副次(二段)無作為抽出法4. 調査対象 満 20 歳以上の男女(全国)2,000 人5. 調査有効数(率) 1,320 人 (66.0%)

70  JUNE 2009

Q2 ニュースでの表現についてうかがいます。(1)女性宇宙飛行士がスペースシャトルで宇宙に行くこと

が決まったことを伝えるニュースで,アナウンサーが話すことばとしてお考えください。この 2 つの言い方について,お考えに近いものを 1 つ選んでください。

a.「宇宙飛行士の山崎直子さんには,6 歳の娘がいます」b.「宇宙飛行士の山崎直子さんには,6 歳の娘さんがいます」

1. (ア)女性が言う場合にはaだが, 男性が言う場合には b で表現する ‥‥‥‥2.7 % 2. (イ)男性が言う場合にはaだが, 女性が言う場合にはbで表現する ‥‥‥‥6.1 3. (ウ)女性でも男性でもa ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 13.0 4. (エ)女性でも男性でもb ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 73.6 5. この中にはない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1.3 6. わからない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥3.3

(2)次の場合も,ニュースでアナウンサーが話すことばとしてお考えください。この 2 つの言い方について,お考えに近いものを 1 つ選んでください。

a.「おなかを強く打って死亡しました」b.「腹を強く打って死亡しました」

1. (ア)女性が言う場合にはaだが, 男性が言う場合には b で表現する ‥‥‥‥9.4 % 2. (イ)男性が言う場合にはaだが, 女性が言う場合にはbで表現する ‥‥‥‥1.4 3. (ウ)女性でも男性でもa ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 52.7 4. (エ)女性でも男性でもb ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 29.7 5. この中にはない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥3.1 6. わからない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥3.7

Q3 放送でアナウンサーが使うことばについておたずねします。アナウンサーは男性,女性いずれの場合も含みます。次のことばの中で,放送で,例えば「砂糖」を「お砂糖」というように,「お」を付けて言ってもおかしくないものはどれですか。いくつでも選んでください。(M.A.)

1. (ア)ビール ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥3.2 % 2. (イ)酢 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 56.7 3. (ウ)正月 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 84.0 4. (エ)みかん ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥6.9 5. (オ)台所 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 11.5 6. (カ)なべ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 45.0 7. (キ)金

かね(=貨幣) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 83.0

8. (ク)ソース ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 4.5 9. (ケ)酒 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 76.0 10. (コ)天気 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 47.7 11. この中にはない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1.7 12. わからない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥0.8

Q4 仕事などの帰り際ぎわ

に,目上の人に「お疲れさまでした」「ご苦労さまでした」と言うことについて,あなたのお考えに近いものはどれですか。1 つだけ選んでください。

1. (ア)目上の人に「お疲れさまでした」 「ご苦労さまでした」というのは失礼だ ‥ 12.9 % 2. (イ)「お疲れさまでした」は失礼だが, 「ご苦労さまでした」はおかしくない ‥‥‥7.9 3. (ウ)「ご苦労さまでした」は失礼だが, 「お疲れさまでした」はおかしくない ‥‥ 43.9 4. (エ)目上の人に「お疲れさまでした」 「ご苦労さまでした」というのは おかしくない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 28.2 5. この中にはない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1.6 6. わからない ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥5.5

サンプル構成

全 体性  別 年齢

男 性 女 性 20 歳代 30 歳代 40 歳代 50 歳代 60 歳以上

1,320 人 614 706 154 227 213 259 467

100.0% 46.5 53.5 11.7 17.2 16.1 19.6 35.4

全 体男 女

20 歳代 30 歳代 40 歳代 50 歳代 60 歳以上 20 歳代 30 歳代 40 歳代 50 歳代 60 歳以上

1,320 人 81 102 86 118 227 73 125 127 141 240

100.0% 6.1 7.7 6.5 8.9 17.2 5.5 9.4 9.6 10.7 18.2