蠕虫感染症...2013/08/04  · 幼虫移行症&larva migrans ' 寄生虫 感染経路...

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1 蠕虫 感染症 ぜちう 防衛医学研究 感染症疫学対策研究官 教授 加來器 25年度12AIRIS 蠕虫の分類 - 単細胞 原 Protozoa -多細胞線形動物 Nematoda 扁形動物 Trematoda Cestoidea Insecta Acarina 蠕虫 線虫 吸虫 条虫 、針金 葉っ

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蠕 虫 感染症ぜんちゅう

防衛医学研究センター 感染症疫学対策研究官

教授 加來浩器

25年度12月AIRIS

蠕虫の分類

- 単細胞・・・・・・・・ 原 虫 (Protozoa)

-多細胞・・・・・・・・・線形動物線 虫 (Nematoda)

扁形動物吸 虫 (Trematoda)条 虫 (Cestoidea)

昆 虫 (Insecta)ダニ類 (Acarina)

蠕虫

線虫 吸虫 条虫

ミミズ、針金 葉っぱ テープ

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主な蠕虫の分類線虫 吸虫 条虫

1 蛔虫

2 鞭虫

3 蟯虫

4 旋毛虫

5 ズビニ鉤虫、アメリカ鉤虫

6 糞線虫

7 東洋毛様線虫

8 バンクロフト糸状虫など

9 オンコセルカ

10 メジナ虫

11 犬鉤虫・ブラジル鉤虫

12 顎口虫類

13 犬蛔虫・猫蛔虫

豚回虫、アライグマ回虫

14 アニサキス

15 広東住血線虫

16 犬糸状虫類

17 旋尾線虫

18 横川吸虫

19 肝吸虫

20 肝蛭

巨大吸虫

21 ウエステルマン肺吸虫

ベルツ肺吸虫

22 宮崎肺吸虫

23 日本住血吸虫

24 ビルハルツ住血吸虫

マンソン住血吸虫

25 鳥類の住血吸虫

26 日本海裂頭条虫

広節裂頭条虫

27 大複殖門条虫

28 マンソン裂頭条虫

及びマンソン孤虫

29 無鉤条虫

30 有鉤条虫(有鉤嚢虫)

31 アジア条虫

32 小型条虫

33 縮小条虫

34 単包条虫・多包条虫

日本での寄生虫症の現状

• かつては、国民病(土壌伝播性寄生虫症)

– 肥料として人糞の使用

– 衛生状態・栄養状態が不良

• 戦後の寄生虫撲滅作戦– 寄生虫病予防法による集団検便と集団駆虫

– 化学肥料など農業形態の近代化

– 上下水道の整備

寄生虫病予防法

寄生虫病の予防及び寄生

虫病患者に対する適正な医

療の普及を図ることによって、

寄生虫病が個人的にも社会

的にも害を及ぼすことを防

止し、もって公共の福祉を増

進することを目的

回虫、十二指腸虫、日本住血吸虫、肝臓ジストマ、その他

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• 現在では、・・・・

– 輸入感染症• 国際交流、ボーダーレス時代

– 食品由来感染症• 食品流通の拡大(生鮮食品の大量輸入)

• グルメ嗜好

• 有機農法による人糞の使用

– 動物由来感染症• ペットブーム

– 宿主要因• 高齢者社会による免疫不全疾患の増加

• 同性愛者の増加

– 無警戒状態• 一般住民• 医師、検査技師

日本での寄生虫症の現状

寄生現象

• 宿主寄生虫相互関係(host-parasite relationship)– 一定の平衡状態を保ち、互いに生命を維持する関係

寄生虫 宿主

“ある動物がある宿主に寄生して種族を維持するに至った

進化の過程で巧妙な適応がみられる”

構造上 v.s. 機能上

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• 消化器、運動器、感覚器などの退化– 不必要な器官が退化

• 吸虫類: 消化器は盲管

• 条虫類: 腸絨毛状の外皮から直接栄養を吸収

• 生殖器官の異常な発達– 種族を維持するため、体内の大部分が生殖器

– 吸虫や包虫では、中間宿主体内で幼生生殖• 1個の卵から数百~数万個の幼虫

• 固着器官などの発達– 宿主臓器に固着するため

• 鉤虫:鉤

• 吸虫:吸盤

• 条虫:吸溝

寄生虫の構造上の適応

寄生虫の機能上の適応

• 宿主からの攻撃を免れる– 寄生部位の選択

• 原虫・・・宿主細胞内、嚢子化

• 旋毛虫・・筋肉内で被嚢

• 腸管寄生虫・・・消化管内

– 表面抗原の変異• トリパノソーマ・・特異的表面糖蛋白

variant surface glycoprotein

– 宿主成分の装着• 住血吸虫・・・宿主成分の合成

血液物質やγ-glbを体表に付着

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寄生虫の機能上の適応

• 環境への適応

– 回虫の消化酵素への対応• 宿主の消化酵素を中和する抗酵素を分泌

• 強固なクチクラによる有害物質の遮断

• 宿主のエネルギー利用

– 発育段階でエネルギー代謝を変換• 回虫・・・PEPCK-コハク酸回路

回虫

蠕虫の発育と生活史

• 変態 metamorphosis

– 卵 → 幼虫 → 成虫Egg Larva Adult

「ニンフ」 ジョン・ウイリアム・ウォーターハウス

Larva Nymph Pupa– 卵 → 幼虫 、若虫、 蛹 → 成虫

・ 雌雄異体・ 雌雄同体

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分裂の方法

• 無性生殖– 二分裂・・・・・・・・・・・・・・・赤痢アメーバ、トリコモナス

– シゾゴニー(多分裂)・・・・マラリア

– 内出芽分裂・・・・・・・・・・・・トキソプラズマ

• 有性生殖– 受精・・・・・・・・・・・・・・・・・雌雄異体

生殖細胞、大小配偶子の接合

雌雄同体2個体又は同一個体の交接

– 接合・・・・・・・・・・・・・・・・・・原虫の繊毛類

– 単為生殖・・・・・・・・・・・・・・糞線虫、3倍体肺吸虫

– 幼生生殖・・・・・・・・・・・・・・吸虫類の幼虫

第一中間宿主(貝)で増殖する

生活史

• 中間宿主– 幼虫が寄生する宿主、又は無性生殖が行われる宿主

– 2つ以上ある場合は、最初を第一中間宿主

• 待機宿主– 中間宿主と終宿主の間に介在

– 寄生虫自体の発育はほとんど見られない

• 固有宿主– 成虫が寄生する宿主、又は有性生殖が行われる宿主

– 宿主特異性

非固有宿主に感染しても成熟できず、やがて死滅

– 幼虫移行症

アニサキス、犬回虫などは幼虫のまま長期間生存し、害を与える

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生活史

• 保虫宿主

人畜共通感染症では、人と動物の両者が固有宿主になる

この場合、人以外の固有動物を保虫宿主という

• 媒介者

ある種の寄生虫を体内で一定の発育又は増殖させて生物学的伝播を行う動物

寄生部位の特異性• 臓器特異性

– 体内の特定臓器や血液を選んで寄生する

• 異所寄生– 本来の寄生部位でない場所で発育寄生する

– 肺吸虫の脳組織に移行

• 迷入– 本来の寄生部位で発育が進み、成熟後に他所へ移行

– 回虫の成虫が胆管に侵入

• 転移– 増殖した一部が血流、リンパ流で他臓器へ運ばれる

– 赤痢アメーバが大腸から肝、肺で膿瘍を起こす

• 偶発寄生– 非固有宿主のヒトに認められた場合

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• ヒトを固有宿主としない寄生虫が、必要十分な環境を求めて、幼虫のまま移動すること。

• 皮膚幼虫移行症 (CLM : Cutaneous Larva Migarns)

– 皮膚爬行症 (creeping eruption)

・ 皮下の浅い部分を移動してできる線状の皮膚炎

– 移動性限局性皮膚腫脹

・ 比較的深部を移動した場合に起こる皮膚病変

• 内臓幼虫移行症 (VLM : Visceral Larva Migarns)

– 高度かつ慢性の好酸球増多症、肝臓に限局性肉芽腫

・ 後にイヌ回虫、ネコ回虫によるものと判明→ “トキソカラ”と呼称

– 拡大解釈

・ その他の線虫によるもの

幼虫移行症 (Larva migrans)

幼虫移行症 (Larva migrans)

寄生虫 感染経路 幼虫の形態 特徴的症状

主として

皮膚幼虫

移行症

ブラジル鉤虫、犬鉤虫 感染幼虫の経皮感染 侵入時のまま 皮膚爬行症

剛棘及び日本顎口虫 ドジョウ等の生食 侵入時のまま

ドロレス顎口虫 ヤマメ、フナ等の生食 侵入時のまま

主として

内臓幼虫

移行症

犬回虫、ネコ回虫 幼虫包蔵卵経口摂取 侵入時のまま 眼・内臓トキソカラ症

アニサキス類 海産魚類の生食 ある程度発育 激しい腹部症状

広東住血線虫 カタツムリ等の生食 ある程度発育 好酸球性髄膜脳炎

犬糸状虫 媒介蚊の吸血 ある程度発育 肺のcoin lesion

皮膚及び内

臓幼虫移行

有棘顎口虫 ライギョ、どじょう、フ

ナ、鶏、蛇等の生食

侵入時のまま 移動性皮膚腫瘤

移動部位臓器障害

旋尾線虫 ホタルイカ生食 侵入時のまま 皮膚爬行症、腸閉塞

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寄生虫の感染経路• 経口感染

– 寄生虫の感染型(Infective form)が飲食物とともに摂取

– 赤痢アメーバ、ランブル鞭毛虫、回虫、肝吸虫、無鉤条虫

• 経皮感染– 皮膚や粘膜を通じて幼虫などが体内に侵入

– アメリカ鉤虫、糞線虫、日本住血吸虫

• 接種感染– 吸血昆虫の刺咬時に体内に侵入

– マラリア原虫、トリパノソーマ原虫、リーシュマニア

• 輸血感染– マラリア原虫、クルーズトリパノソーマ

• 性感染– 膣トリコモナス、赤痢アメーバ、毛じらみ

• 胎盤感染– トキソプラズマ、マラリア原虫、犬の場合(犬回虫)

寄生虫の病害作用

寄生虫に感染すると、宿主である人体に機械的、化学的

刺激を与え、機能的な障害が起こり、病的状態となる。

・ 寄生虫の種類と数・ 増殖力・ 寄生部位・ 宿主側の防御免疫反応

無症状~重症

・ 宿主が防御が強いと寄生虫は生存できない・ 寄生虫の病原性が強いと、宿主を殺し、自らが寄生できない

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寄生虫の病害作用

• 機械的障害– 寄生虫の侵入、移行により各所の組織・細胞が破壊

• 梗塞・圧迫– 虫体や虫卵が、腸管、胆管、血管、リンパ管を閉塞

– 虫体が発育し腫瘤、虫嚢を形成し、周囲を圧迫

• 化学物質による害

– 虫体が出す毒素・酵素、死亡虫体や排泄物、吐物、体外酵素などの代謝産物による化学物質による障害

• 抗原作用– 虫体の出す化学物質が抗原となり、免疫反応を起こす

– 蠕虫感染では、好酸球増加

宿主の防御反応

寄生虫由来の抗原に対して、特異的抗体が産生

寄生虫は排除されない

寄生虫由来の抗原に対して、即時型、遅延型免疫

・ T細胞の増殖反応・ IgG, IgM

・ IgE

・ 好酸球の増加

原虫 蠕虫

○○××

○○○○

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線虫

線虫 吸虫 条虫

ミミズ、針金 葉っぱ テープ

形態

糞線虫

R型幼虫2mm

蟯虫雄:2~5mm雌:8~13mm

・ 糸状~ミミズ状・ 横断面は円形・ 硬い角皮(Cuticle)

回虫雄:150~310mm雌:220~350mm

・ 1本の管状の消化管・ 雌雄異体 (雌>雄)・ 数mm~1m

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線虫の分類 (臨床的な分類)

• 成虫が消化管に寄生

– 経口感染(回虫、鞭虫、蟯虫、旋毛虫、鉤虫など)

– 経皮感染(鉤虫、糞線虫)

• 成虫が血液・組織に寄生

– 昆虫媒介(バンクロフト糸状虫、マレー糸状虫など)

– 経口感染(メジナ虫、肝毛細虫)

• 幼虫が組織に寄生する(幼虫移行症)

– 経口感染(アニサキス、顎口虫、犬・猫回虫、豚回虫など)

– 昆虫媒介(イヌ糸状虫)

線虫の消化系

・ 口から肛門まで単管

・ 口は口唇又は乳頭で囲まれ

歯又は歯板を有するものもある

・ 食道は横線維の筋肉

食道の大きさと形は、種の同定に重要

・ 肛門は尾端近くで腹部に開口

雄では生殖孔が融合し総排泄腔と呼称

肛門

(感覚器)

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線虫の生殖系(雌)

・ 1本又は2分した管

・ 卵巣 輸卵管 受精嚢

・ 子宮

・ 排卵管

・ 膣

・ 陰門

肛門よりも口側

線虫の生殖系(雄)

・ 1回だけ巻くか回旋状の単管

・ 精巣 貯精嚢

・ 射精管

・ 総排泄腔

・ 交接刺

鉤虫では、交接嚢という特別の把持器官がある

雄の尾部は、腹側に巻いており雌を把持

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発育史と感染

成 虫

第1期幼虫

第2期幼虫

第3期幼虫

第4期幼虫

(第5期幼虫)

細胞分裂を繰り返し受精卵

交尾

幼虫包臓卵

孵化

線虫の感染経路

• 経口感染

– 虫卵を摂食する場合

– 幼虫を摂食する場合虫卵虫卵虫卵虫卵

幼虫幼虫幼虫幼虫

• 経皮感染

– 幼虫が直接侵入する場合

– 媒介昆虫が関与する場合

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線虫の感染経路

• 経口感染

– 虫卵を摂食する場合

– 幼虫を摂食する場合

• 経皮感染

– 幼虫が直接侵入する場合

– 媒介昆虫が関与する場合

回虫、鞭虫、蟯虫、肝毛細虫、イヌ回虫、ネコ回虫

ズビニ鉤虫、東洋毛様線虫、旋毛虫、フィリピン毛細虫、メジナ虫アニサキス類、顎口虫類、旋尾線虫イヌ回虫

ズビニ鉤虫、アメリカ鉤虫、糞線虫ブラジル鉤虫、イヌ鉤虫

バンクロフト糸状虫、マレー糸状虫回旋糸状虫、ロア糸状虫、イヌ糸状虫東洋眼虫

線虫症の病理・症状

• 重症化– 多数感染

– 本来の寄生部位以外

– 幼虫移行症

– 多種寄生虫の同時感染

• 蠕虫感染による免疫反応

– Th2細胞の誘導

• インターロイキン4 ・・・・ IgE産生に関与

• インターロイキン5 ・・・・ 好酸球増加に関与

– アレルギー反応

• アニサキスの腹部激痛

• 回虫のレフレル症候群

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幼虫移行症 (Larva migrans)

• ヒトを固有宿主としない寄生虫が、必要十分な環境を求めて、幼虫のまま移動すること。

• 皮膚幼虫移行症

–皮膚爬行症

皮下の浅い部分を移動してできた線状の皮膚炎

• 内臓幼虫移行症

–肝臓

–肺

–脳

–眼球

幼虫移行症 (Larva migrans)

寄生虫 感染経路 特徴的症状

主として

皮膚幼虫

移行症

ブラジル鉤虫、イヌ鉤虫 感染幼虫の経皮感染 皮膚爬行症

剛棘及び日本顎口虫 ドジョウなどの生食

ドロレス顎口虫 ヤマメ等淡水魚生食

主として

内臓幼虫

移行症

イヌ回虫、ネコ回虫 幼虫包蔵卵経口摂取 眼・内臓トキソカラ症

アニサキス類 海産魚類の生食 激しい腹部症状

広東住血線虫 カタツムリなどの生食 好酸球性髄膜脳炎

イヌ糸状虫 媒介蚊の吸血 肺のcoin lesion

皮膚及び内臓

幼虫移行症

有棘顎口虫 ライギョ生食 移動性皮膚腫瘤

移動部位臓器障害

旋尾線虫 ホタルイカ生食 皮膚爬行症、腸閉塞

• ヒトを固有宿主としない寄生虫が、必要十分な環境を求めて、幼虫のまま移動すること。

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線虫各論

• 成虫が消化管に寄生

– 経口感染(回虫、鞭虫、蟯虫、旋毛虫、鉤虫など

– 経皮感染(鉤虫、糞線虫)

• 成虫が血液・組織に寄生

– 昆虫媒介(バンクロフト糸状虫、マレー糸状虫、回旋糸状虫ロア糸状虫)

– 経口感染(メジナ虫)

• 幼虫が組織に寄生する(幼虫移行症)

– 経口感染(アニサキス、顎口虫、犬・猫回虫、豚回虫など)

– 昆虫媒介(イヌ糸状虫)

線虫の分類 (臨床的な分類)

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1. 回虫

Ascalis lumbricoides

消化管寄生の線虫類

ミミズのような

Round worm

消化管寄生の線虫類

回虫の疫学

• 全世界で約14億人が感染(推定)

– 小児では、多数感染で腸閉塞

• 世界に広く分布

– 温帯~熱帯にかけて特に濃厚

– 日本では• 1949年に人口の63%が感染

• 1963年以降に10%以下

• 近年、増加傾向:有機農業の復活、輸入食材、国際交流

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消化管寄生の線虫類

消化管寄生の線虫類回虫の生活史

固有宿主:ヒト、豚

・幼虫包蔵卵の経口摂取幼虫包蔵卵

・食道,胃、十二指腸を通過

・小腸で孵化、幼虫が腸管壁に侵入

・門脈~肝臓~下大静脈~右心、肺へ到達

・腹腔~肝臓~横隔膜~胸壁、肺へ到達

・肺胞、気管支、気管を上行し、咽頭へ

・嚥下され、再び小腸へ到達し、成虫へ

・雌成虫が産卵(1日に20万個)

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消化管寄生の線虫類回虫の外形

雌30cm 肛門

交接刺

陰門交接輪

雄20cm

http://bio390parasitology.blogspot.jp/2011/02/ascaris-

lumbricoides-biggest-youve-ever.html

内視鏡検査で発見されることもある

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多数感染でイレウスを起こすと手術適応

www.medicine.mcgill.ca/tropmed/txt/

消化管寄生の線虫類

単細胞卵

不受精卵

受精卵

4細胞卵(卵殻なし)

40-50µm

50-70µm

蝌蚪期卵 幼虫包蔵卵

回虫の虫卵

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消化管寄生の線虫類回虫症の症状

• 幼虫による症状

– 肝臓、肺を通過

• 初感染では症状は殆どない。

• 重複感染では、アレルギー反応

• レフレル症候群(別名、ascaris pneumonia)

– 感染後4~16日

– 咳、発熱、呼吸困難、一過性の肺浸潤影

– 好酸球増加

– 喀痰中のシャルコー・ライデン結晶

– 大循環系で全身に散布された場合

• 中枢神経系

• 痙攣、髄膜刺激症状好酸球

シャルコー・ライデン結晶

消化管寄生の線虫類回虫症の症状

• 成虫による症状

– 小腸に寄生

• 腹痛、嘔気、嘔吐、倦怠感、貧血、食欲不振(時に食欲亢進)、

異食症、発熱、下痢

• 多数感染時:栄養障害、るいそう、発育障害

– 迷入して寄生

• 胆道:胆石発作、胆管炎(右上腹部痛、黄疸、発熱)

• 膵臓:膵炎

• 虫垂:虫垂炎、腸穿孔による腹膜炎

胆石中の回虫卵 回虫性胆石

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消化管寄生の線虫類回虫症の診断

• 検便

– 雌成虫の産卵数がきわめて多い→ 直接塗抹法 OK!

– 雌が雄より多く寄生している。

– 雌だけの寄生の場合は、不受精卵のみ

– 雄だけの寄生の場合は、虫卵は陰性

• X線胃腸透視

– 成虫が陰影欠損

– 成虫が造影剤を飲むと腸管が観察される

• 内視鏡

回虫の腸管

十二指腸の回虫

消化管寄生の線虫類回虫症の治療

• 抗寄生虫薬療法

• パモ酸ピランテル(コンバントリン)

10mg/kg 1回投与

• メベンダゾール

1日 200mg ×2 3日間投与

• アルベンダゾール(海外)

• レフレル症候群

• ステロイドが有効

(100mg錠)

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2. 鞭虫

Trichuris trichiura

消化管寄生の線虫類

whipworm

消化管寄生の線虫類

鞭虫の疫学

• 全世界で約10億人が感染(推定)

– そのうち8~13%が有症者

– 重症の下痢で年間1万人が死亡

• 世界に広く分布

– 温暖湿潤な地方

– 日本では• 0.1%以下

• 心身障害者施設などで集団的に高い感染率

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消化管寄生の線虫類鞭虫の生活史

固有宿主:ヒト、豚

・幼虫包蔵卵の経口摂取

・食道,胃、十二指腸を通過

・小腸で孵化、幼虫が放出

・大腸、盲腸で成虫へ

・体全部を粘膜に固定させ交尾

・雌成虫が産卵(1日に3000~20,000個)

幼虫包蔵卵

雌雄とも、前体部を粘膜に入れて体を支え、自由に交尾、産卵することができる。

盲腸粘膜に群がる鞭虫

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鞭虫の外形

雄:30~45mm雄:35~50mm

消化管寄生の線虫類鞭虫の虫卵

回虫の受精卵

40-50µm

50-70µm

鞭虫卵

22-30µm

50-54µm

両端に栓があり“岐阜提灯様”

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27

消化管寄生の線虫類鞭虫症の症状

• 少数では症状がない又は軽い

• 多数感染の場合

– 腹痛、嘔吐、倦怠感、体重減少

– しぶり便をともなった粘血便、下痢 (別名 Trichuris dysentery)

• 盲腸周囲炎、腸管潰瘍

– 著名な貧血、異食症

– 脱肛

• 検査結果

– 好酸球増加はほとんどない!

消化管寄生の線虫類鞭虫症の診断

• 症状からの鑑別診断

– 重症の場合、アメーバ赤痢、急性虫垂炎を間違えることがある。

• 検便

– 雌成虫の産卵数が回虫ほど多くない→ 集卵法を用いる

• 直腸鏡

– 偶発的に、成虫が観察されることがある。

ホルマリンーエーテル法

沈渣

ホルマリン層

糞便層

エーテル層

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消化管寄生の線虫類鞭虫症の治療

• 抗寄生虫薬療法

• メベンダゾール

1日 200mg ×2 3日間投与

(100mg錠)

(1) 1日2回、3日間投与で有効性を示す。

(2) 消化管からの吸収は極めて低く、虫体に直接作用する。

(3) 虫体のグルコース取り込み阻害により、駆虫効果を示す。

(4) 妊婦への投与は、禁忌

3. 蟯虫

Enterobius vermicularis

消化管寄生の線虫類

pin worm

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29

消化管寄生の線虫類

蟯虫の疫学

• 世界に広く分布

– 熱帯よりもむしろ温帯と寒帯に多い

• 人口の密集と屋内生活に関係

– 家族内感染、施設内感染

– 学校、難民収容施設、心身障害者施設

• 日本でも

– 幼児期から学童にかけて、5~20%が感染している。

蟯虫症の臨床像(小児)

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30

消化管寄生の線虫類蟯虫の生活史

固有宿主:ヒト

・幼虫包蔵卵の経口摂取幼虫包蔵卵

・食道,胃、十二指腸を通過

・小腸で孵化、成虫は盲腸に寄生

・雌は、夜間睡眠中に肛門から這い出し周辺の皮膚に全ての卵

(約1万個)を産み付けたあとに死ぬ。または、・・・

・手指、下着、寝具を介して経口感染

・肛門周辺で孵化した幼虫が、肛門、から体内へ侵入 (逆行性感染)

♀45日で成熟

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31

消化管寄生の線虫類蟯虫(成虫)の外形の特徴

雌 8~13mm

雄 2~ 5mm

頭部の角皮が膨隆(cuticular expansion)

尾部が巻く、交接刺が1本

http://www.reesepharmaceutical.com/pinworm_picture.html

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32

http://www.marksimonianmd.com/pin-worms/

2歳女児の肛門周囲の蟯虫

http://www.bodyfixer.com/article/worms/pinworms.htm

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33

消化管寄生の線虫類蟯虫の虫卵

回虫の受精卵

40-50µm

50-70µm

蟯虫卵

26µm

55µm

“柿の種様”で幼虫が入っている

消化管寄生の線虫類蟯虫症の症状

• 少数では症状がない又は軽い

• 多数感染の場合

– 腹痛、下痢、虫垂部位の小潰瘍、粘膜の出血、急性虫垂炎

– 肛門部・会陰部の痛み、痒み、皮膚掻破のためのびらん、湿疹

• 肛門から出た雌成虫の迷入

– 膀胱炎

– 膣炎

– 腹腔内肉芽腫形成

• 検査結果

– 軽度の好酸球増加がみられることがある

虫垂炎組織内での蟯虫卵

幼虫の逆行性感染とは別物!

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消化管寄生の線虫類蟯虫症の診断

• 虫卵検査

– 肛門検査法 ・・・・・・・・糞便からは検出できない

– セロファンテープ法

セロファンテープ法による虫卵検査

起床直後の用便前3~4日連続して検査

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消化管寄生の線虫類蟯虫症の治療

• 抗寄生虫薬療法

• パモ酸ピランテル(コンバントリン)

大人:50mg/回

小児:5~10mg/kg/回

• 予防

• 小児の手、指の清潔

• 下着の清潔

• 部屋の掃除 (虫卵は20℃で40日生存)

• 寝具の日干し(虫卵は直射日光に弱い)

(100mg錠)

駆虫のポイント

・駆虫剤は、家族全員を対象にする- 家族内での再感染に留意

・用量・用法- 大人は1回量5錠(50mg)、 小児は10mg/kg換算- 第10~14日目に2回目を投与

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駆虫のポイント

(1)駆虫後2週間は、部屋の掃除を徹底する。

(2)子供の布団を日なたに干す。

(3)爪を短く切る。爪かみをさせない。

(4)蟯虫陽性の子供は、朝起きたらすぐに浴場で肛門を洗浄し、

清潔な下着に換える。

4. 旋毛虫

Trichinella spiralis

消化管寄生の線虫類

コイル状にスピンしている!

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消化管寄生の線虫類

旋毛虫の疫学

• 5種類に分類– T. spiralis, T. britoni, T. nativa, T. nelsoni, T. pseudospiralis

• 世界の温帯に分布– 特に欧米で多い

• 1995年 レバノン 豚肉 44名

• 1993年 フランス 輸入馬肉 538名

• 日本では• 1974年 青森県岩崎村 ツキノワグマの刺身 15名(ハンター)

• 1980年 北海道札幌市 ヒグマの刺身(ルイベ) 12名(料理店)

• 1982年 三重県四日市 ツキノワグマ冷凍肉の刺身 60名(料理店)

• 1984年 タイで感染・発症し、国内で診断された例

• 1986年 島根県 カナダからの輸入豚肉の喫食で感染

全世界推定年間:1万人致死率:0.2%

宗教上、豚肉の摂取が禁止されている地域では発生が少ない

トルコで、牛のミンチ肉に不法に豚肉が混じられて感染した事例あり

青森県での事例

• 1974年4月、青森県西海岸の岩崎村(現、西津軽群深浦町)でクマ肉の刺身を食べた人がトリヒナ症(旋毛虫症)を集団発症した。

• 4月30日、同村で120㎏の雄のツキノワグマを射殺し、同夜猟友会員等約30名がその生肉を食べた。そのうち18名は肉及び肝臓を生食している。また、残りの肉を持ち帰り、2名が生食した。

• 5月下旬、その内15人が蕁麻疹様の発疹に始まり、発熱、全身の筋肉痛、眼周囲の浮腫が出現し、検査の結果、好酸球増加症が確認された。(潜伏期18~43日)

• これらの患者が全員クマ肉を食べていることから、弘前大学の寄生虫学教室が旋毛虫症を疑って、残されていたクマ肉を調べたところ、旋毛虫幼虫を多数検出した。

弘前大学

山口富雄,八木沢誠ら;我が国で初めて発症をみた旋毛虫症について、日本医事新報. 2668, 16-21 (1975)

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発病年月 州 患者数 原因食品 備考

1997年12月 モンタナ 5 クマの干し肉

1998年10-12月 オハイオ 8 クマの焼肉1998年3月にカナダの北オンタリオで獲物となったクマで、10月13日に当地の教会でのバーベキューで食べられた。

1999年3-5月 イリノイ 2豚肉ソーセージ、豚の干し肉

自家製品

2000年1月 イリノイ 2豚肉ソーセージ、スモークト・ポーク

ユーゴスラビア(海外)で食べたもの

2000年8-9月 アラスカ 4 クマ肉のフライ2000年8月にアラスカで獲物となったクマで、キャンプ用ストーブで調理された。

2001年5月 カリフォルニア 2自家用あるいは農場から直接入手の豚肉

生食

2001年5-6月 カリフォルニア 6自家用あるいは農場から直接入手の豚肉

生食

2001年8月 カリフォルニア 2 クマの焼肉2001年6月にアラスカで獲物となったクマで、バーベキューでメディアム・レアで食べられた。

2001年11月 カリフォルニア 2 クマの肉 生で食べられた。

計 33

原因食品別旋毛虫感染症(トリヒナ症)集団発生:(アメリカ合衆国1997-2001年)

種 遺伝子型 ホスト 配布

T.spiralis T1 哺乳類 全世界

T. nativa

T2 哺乳類北極とアメリカ、ヨーロッパとアジアの亜寒帯地域

T6 哺乳類 北極とアメリカの亜寒帯地域

T. britoviT3 哺乳類

ヨーロッパ、アジア北部と西部アフリカの温帯地域

T8 哺乳類 南アフリカとナミビア

T. pseudospiralis T4 哺乳類と鳥類 全世界

T. murrelliT5 哺乳類 北アメリカの温帯地域

T9 哺乳類 日本

T. nelsoni T7 哺乳類 東部及び南部アフリカ

T. papuae T10 哺乳類や爬虫類 パプアニューギニア

T. zimbabwensis T11 哺乳類や爬虫類 サハラ南部

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Tsp: Trichinella spiralis

TpsN:Trichinella pseudospiralis

TpsP:Trichinella pseudospiralis

TpsA:Trichinella pseudospiralis

Tpa:Trichinella papuae

Tzi:Trichinella zimbabwensis

Tna:Trichinella nativa T2

Tb:Trichinella britovi T3

Tm:Trichinella murrelli T5

Tne:Trichinella nelsoni T7

T6:Trichinella genotype T6

T8:Trichinella genotype T8

T9:Trichinella genotype T9

旋毛虫の地理的分布

旋毛虫の分類

T. spiralis

T. Pseudospiralis (USA)

T. zimbabwensis

T. papuae

T. nelsoni

T. britovi

T. murrelli

T. T9

T. T8

T. nativa T2

T. T6

T. Pseudospiralis (Caucasus)

T. Pseudospiralis (Australia)

被嚢を形成し、哺乳類にのみ感染

被嚢を形成せず哺乳類と爬虫類に感染

被嚢を形成せず哺乳類と鳥類に感染

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スッポン料理を食べてT.papuaeに感染

• 2008年 5月下旬 台湾の日本料理店

• スッポンを生で摂取した2グループで集団発生(8人発病)

– 5月21日会食の20人の台湾人グループ(5人発病)

– 5月27日会食の3人の日本人グループ(3人発病)

• 病原体:Trichinella papuae

• 経緯

– 2グループは、日本料理店でスッポンの生の肉・血・肝臓・卵を食べた。

– 患者8人の潜伏期は6-15日(中央値8日)

– 筋肉痛7人(88%)、発熱7人(88%)、気分不快5人(63%)、眼瞼浮腫3人(38%)

– スッポンは養殖されたもので、病死した豚の肉が餌として与えられていた。

この病死した豚がTrichinella papuae に感染していた可能性が指摘

ワニ料理を食べてT.zimbabwensis, T.papueに感染?

• 1995年 ジンバブエ– ナイル-クロコダイルの筋肉中 にTrichinella zimbabwensis を検出

– 人間へ感染例は報告なし

• 2004年 パプアニューギニア– 海水ワニでTrichinella papuae を検出

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41

消化管寄生の線虫類旋毛虫の生活史

固有宿主:ヒト、豚、イノシシ、ねずみ

・被嚢幼虫の経口摂取

・食道,胃、十二指腸を通過

・小腸で幼虫が脱嚢し、腸管粘膜内で4回脱皮し、成虫へ

・雌成虫は、感染後4-7日後には幼虫を産出 (平均 約500匹)

・大循環で全身の筋肉に散布

・横縞筋に侵入した幼虫だけが被嚢化・脂肪沈着、石灰化しても中で生存

(同時に、中間宿主)

消化管寄生の線虫類旋毛虫の外形

筋肉圧平標本 嚢からでた幼虫1mm

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42

消化管寄生の線虫類旋毛虫症の症状

• 侵入期(幼虫が脱嚢し成虫となって新生幼虫を産出する時期)

– 嘔気、嘔吐、腹痛、下痢

• 幼虫移行期(全身の横縞筋に侵入する時期)

– 好酸球増加

– 顔面浮腫、眼窩周囲浮腫、皮疹、発熱、肺炎様症状

– 心筋障害、心不全(心筋内で破壊される幼虫による)

• 被嚢期(幼虫が被嚢化する時期)

– 横縞筋の炎症が著明

– 筋肉痛(特に咀嚼筋、呼吸筋)、けいれん、リウマチ様症状

– 脳炎、髄膜炎(中枢神経へ移行したものによる)

• 回復期(被嚢幼虫が石灰化され回復に向かう時期)

消化管寄生の線虫類旋毛虫症の診断

• 虫卵検査

• 筋肉生検

• 三角筋、上腕二頭筋、大胸筋、腓腹筋

• 筋肉圧平標本による観察

• 人工消化液による幼虫の回収

• 免疫診断法

• 抗体の検出

• 遺伝子診断法

• 旋毛虫類(5種)の同定

(×)・・・・・・・・虫卵は排泄されない!

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43

消化管寄生の線虫類旋毛虫症の治療

• 抗寄生虫薬療法

• メベンダゾール

1日 300mg ×3 3~5日間投与

• 重症例への対処療法

• ステロイドの短期間投与

(100mg錠)

鞭虫の時よりも量・期間が多い

5. 鉤虫

Ancylostoma duodenale ズビニ鉤虫

Necator americanus アメリカ鉤虫

消化管寄生の線虫類

hook worm

死後に背側に反り返って“釣り針状”になる

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44

消化管寄生の線虫類

鉤虫の疫学

• 全世界で約13億人が感染(WHO推定)

– 回虫に次いで2番目

– 感染により鉄欠乏性貧血の患者 3600万人• 1年間に6500人 死亡

• 北緯36度~南緯30度に分布

– ズビニ鉤虫• 温帯地方、高地

• ヨーロッパ、地中海沿岸、南米西岸、北インド、中国北部、日本

– アメリカ鉤虫• 熱帯、亜熱帯

• アフリカ、東南アジア、カリブ海周辺、南太平洋の諸国

消化管寄生の線虫類鉤虫の生活史

固有宿主:ヒト

・F型幼虫の経皮的侵入

・血液を介して心臓、肺へ

・肺胞、気管支、気管

・雄と雌が交尾

・雌成虫が産卵(ズビニ鉤虫:1日に1万~数万個)(アメリカ鉤虫:1日に5千~1万個)

・小腸上部で2回脱皮後、成虫(第5期)

・咽頭、食道、胃

・F型幼虫の経口摂取

ズビニ鉤虫のみ

・第3期幼虫腸壁に侵入

・血液~肺・腹腔~肺

ラブジチス型:R型

フィラリア型:F型

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45

鉤虫の外形

雌 雄

交接刺2本

交接嚢

精巣

貯精嚢

射精管

前立腺

陰門

子宮

卵巣

口腔

双器腺 排泄腺

食道

鉤虫の特徴 死後硬直(rigor mortis)

ズビニ鉤虫

体長: 10-13mm

体幅: 0.6-0.7mm

体長: 8-11mm

体幅: 0.4-0.5mm

アメリカ鉤虫

体長: 10-12mm

体幅: 0.2-0.5mm

体長: 6-8mm

体幅: 0.2-0.3mm

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46

鉤虫の特徴 頭部の構造

ズビニ鉤虫 アメリカ鉤虫

2対の歯牙 歯板

消化管寄生の線虫類

回虫の受精卵

40-50µm

50-70µm

鉤虫卵

35-47µm

57-76 µm

回虫よりやや大きい薄い卵殻”

鉤虫症の虫卵

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47

消化管寄生の線虫類鉤虫症の症状

• 幼虫による症状

– 皮膚侵入時

• 強い掻痒感を伴う点状皮膚炎(皮膚爬行症)

• 数日で消失

• 肥えかぶれ、肥えまけ

– 肺胞侵入時

• レフレル症候群

• 回虫や糞線虫に比して軽い

– 経口侵入後

• 若菜病(アレルギー反応)

– 山陰地方

– 大根の間引き菜のような若菜の浅漬けを食べた直後に、嘔気、嘔吐

– 2-3日後に、咽頭の掻痒感・違和感、喘息様の咳嗽発作

– 無熱、一ヶ月以上続く

若菜漬

消化管寄生の線虫類鉤虫症の症状

• 成虫による症状

– 鉄欠乏性貧血

• 腸粘膜に咬着し吸血

• 吸血量

– ズビニ鉤虫: 1日1成虫あたり、0.2 ml

– アメリカ鉤虫: 1日1成虫あたり、 0.03ml

• 顔面蒼白、動悸、息切れ、めまい

• 爪の変形(扁平、匙状)

– 異食症

• 木炭、生米、土壁、タオル

鉄欠乏性貧血による匙状爪

30隻で症状が出現1日

0.2×30=6ml の失血1ヶ月

6×30=180ml の失血

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消化管寄生の線虫類鉤虫症の診断

• 症状から診断の手がかり

– 鉄欠乏性貧血、好酸球増多症、異食症ある。

• 検便

– 雌成虫の産卵数が回虫ほど多くない→ 集卵法を用いる

– 飽和食塩水浮遊法

– 鉤虫卵は比重が小さいので、浮上させる

飽和食塩水

飽和食塩水

表面張力で盛り上がった部分

カバーバラスを接触させる

消化管寄生の線虫類鉤虫症の診断

• ズビニ鉤虫とアメリカ鉤虫の鑑別

– フィラリア型幼虫の観察

– 濾紙培養法により、卵から孵化させる

・鉤虫卵・東洋毛様線虫卵・糞線虫のラブジチス型

フィラリア型の感染幼虫に発育させる

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消化管寄生の線虫類鉤虫症の治療

• 抗寄生虫薬療法

• パモ酸ピランテル(コンバントリン)

10mg/kg 1回投与

• メベンダゾール

1日 200mg ×2 3日間投与

• アルベンダゾール(海外)

(100mg錠)

“回虫と同じ”

6.糞線虫

Strongyloides stercoralis

消化管寄生の線虫類

単為(処女)生殖 parthenogenesis

ラブジチス型幼虫

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50

仏:ツーロン

コーチシナ(現在のベトナム)

1876 年フランスのツーロンで、海軍軍医Normand が、当時フランス植民地であったコーチシ

ナ(現在のベトナム南部)で重症の下痢、いわゆる“コーチシナ下痢”にかかった仏兵の大便から

新しい小虫を発見、これから雌雄の成虫ができるのをみて、これらが腸に寄生していると推定した。

つづいて、同じ病気で死亡した者の腸壁を調べ、前者とは明らかに異なる線虫の成虫を発見した。

これらを検討したBavayは、両者を別種とみなし、前者にはAnguillula stercoralis(‘大便中

のウナギ様小虫’の意味)、そして後者にはA.intestinalis(腸内のウナギ様小虫)という学名を

与えたが、後に両者は完全に同一種であることが明らかとなった。

糞線虫の発見!

消化管寄生の線虫類

糞線虫の疫学

• 全世界で約2億人が感染(WHO推定)

• 世界で広く感染

– 熱帯、亜熱帯、時に寒冷地• 高温多湿で衛生状態が悪い地方

– 日本では• 沖縄、南西諸島、九州

– かつて、福岡の炭坑地帯

• 心身障害者施設、刑務所などで集団発生

• 重複感染

– HTLV-1(成人性T細胞性白血病ウイルス)

– HIV(後天性免疫不全症候群ウイルス)

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51

R型

F型 F型

R型幼虫

寄生世代

固有宿主:ヒト

自由世代

寄生世代成虫(雌成虫のみ)

糞線虫の生活史 消化管寄生の線虫類

6666

孵化

R型幼虫

自由世代成虫(雄・雌)

単為生殖による産卵

腸管内で孵化

F型幼虫F型幼虫

自家感染腸管粘膜肛門周囲皮膚から侵入

10

直接発育

間接発育♂

♀ ♀

♀♀

寄生世代成虫自由世代成虫

(雌)(雌)(雄)

ラブジチス型食道に2箇所の膨大部がある

フィラリア型

食道が棍棒状で、末端の球部のみ膨大

糞線虫(成虫)の比較

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52

消化管寄生の線虫類

回虫の受精卵

40-50µm

50-70µm

腸管内で、孵化しラブジチス型

幼虫となるために、糞便中には、

虫卵は検出されない!

糞線虫の虫卵

消化管寄生の線虫類糞線虫症の症状

• 幼虫による症状

– 皮膚侵入時

• ほとんど反応なし

• 稀に、点状出血、掻痒感が出現することがある。

– 肺胞侵入時

• レフレル症候群

• 成虫による症状

– 腸管寄生

• 粘膜の浮腫、萎縮、好酸球の浸潤

• 下痢、嘔吐、腹痛、腹部膨満感、食欲不振,体重減少

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消化管寄生の線虫類糞線虫症の症状

• 成虫による症状

– 腸管全域に寄生→過剰感染

• 消耗性疾患、栄養不良、免疫抑制剤、ステロイド、ATL・HIVによる

免疫力低下

– 播種性糞線虫症

• フィラリア型幼虫が全身組織に散布される

– 皮膚、肝臓、腎臓、肺、脳

– 敗血症(腸内細菌)

• 成虫が気管支上皮に定着して産卵

– 喀痰中にラブジチス型幼虫が検出

• 蕁麻疹様の皮膚爬行症

– 肛門~会陰部

喀痰中の幼虫

播種性糞線虫症の患者の皮膚

消化管寄生の線虫類糞線虫症の診断

• 症状から診断の手がかり

– さまざまな消化器症状、呼吸器症状、皮膚症状、神経症状

– 白血球増加、好酸球増多症(重症例ではむしろ低下)

• 検便

– ラブジチス型幼虫を見つける

– 遠心分離法(ホルマリン-エーテル法)

– 普通寒天培地法

– ろ紙培養法による鑑別

ホルマリン-エーテル法

沈渣

ホルマリン層

糞便層

エーテル層

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消化管寄生の線虫類糞線虫症の治療

• 抗寄生虫薬療法

• イベルメクチン(ストロメクトール)

• 1回投与量 200µg/kgを2週間間隔で2回

• チアベンダゾール

• 25~50mg/kg/日 (分2~3)で3日間

• 高い駆虫率

• 副作用が強い(嘔気、倦怠感)

静岡県伊東市川奈の土壌から分離され

た放線菌 Streptomyces avermitilis

の発酵産物から分離

7.東洋毛様線虫

• Trichostrongylus orientalis

消化管寄生の線虫類

今今今今からからからから100年前年前年前年前に日本で発見され、東北地方などの寒冷地に広く分布する。中国、朝鮮半島にもみられるが台湾に少ない。

芥川龍之介斎藤 茂吉

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神保孝太郎博士

1913(大正2)年 東洋毛様線虫を発見・発表

• まず東京大学内科教室で調査

– 入院患者、病院使役人、院外者146名を対象

– アンチホノレミンとエーテルを用いる独自の集卵法

– 十二指腸虫卵(鉤虫卵)に良く似た寄生虫卵を49名 (33.6%)から検出し、

その形状を記載

• その後13屍体を調査

– 主として十二指腸内容物

– 19隻 (その内の16名が女性)の成虫を採集

– その形態を詳細に観察し、人体寄生虫である東洋毛様線虫として発表

5~10日後に環境中

でラブジチス型からフィラリア型へ変化

糞便中に排泄された虫卵

好適な条件下(湿潤、温暖、日蔭)では数日で孵化してラブジチス型へ

感染型

診断を行うステージ

東洋毛様線虫の生活環

消化管寄生の線虫類

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消化管寄生の線虫類

東洋毛様線虫症の症状

• ほとんどの例が無症状

• 多重感染の場合

• 胃腸症状(腹痛、下痢、嘔気)

• 頭痛、全身倦怠感

• 貧血

• 好酸球増加症(唯一の手がかりとなることがある)

消化管寄生の線虫類東洋毛様線虫の虫卵

回虫の受精卵

40-50µm

50-70µm

東洋毛様線虫卵(16-32細胞卵)

40-50µm

75~95µm

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8.バンクロフト糸状虫マレー糸状虫

Wuchereria bancrofti

Brugia malayi

組織寄生の線虫類

リンパ系糸状虫症の疫学

• 全世界で約1億2千万人が感染(WHO推定)

– バンクロフト糸状虫• 熱帯、亜熱帯

– マレー糸状虫• マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム

• フィリピン、中国、韓国、インド

組織寄生の線虫類

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リンパ系糸状虫症の疫学

• 蚊が媒介

– 発展途上国ではトイレ、下水で蚊が大発生

• かつての日本では、・・・

– 分布• バンクロフト糸状虫は、北海道を除く全土で

• マレー糸状虫は、八丈小島にのみ

– 1962年からフィラリア対策→1970年代後半に根絶

組織寄生の線虫類

異本病草紙

12世紀

組織寄生の線虫類

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下村観山 「辻説法」(1892)

組織寄生の線虫類

下村観山 「辻説法」 (1892)

組織寄生の線虫類

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葛飾北斎の絵

組織寄生の線虫類

成虫がリンパ管に寄生

雌成虫が被鞘したミクロフィラリアを産出リンパ流又は血流へ

蚊の吸血感染型幼虫(L3)の注入

蚊の吸血ミクロフィラリアの取り込み

ミクロフィラリアは鞘を脱ぎ、の中腸を貫通し胸筋へ

2回脱皮

蚊の頭部、口鼻部へ移動

リンパ系フィラリア症

バンクロフト糸状虫:1年

マレー糸状虫:3ヶ月

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組織寄生の線虫類

リンパ系フィラリア症の媒介蚊の種類

• イエカ属

• ハマダラカ属

• ヤブカ属

• ヌマカ属

• ハマダラカ属

• ヤブカ属

バンクロフト糸状虫 マレー糸状虫

マレー糸状虫バンクロフト糸状虫

リンパ系糸状虫の比較

‐ ミクロフィラリア ‐

組織寄生の線虫類

200-300µm

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リンパ系フィラリア症の症状

• 急性期症状

– 悪寒戦慄を伴う熱発作(filarial fever)

• リンパ管炎、リンパ節炎を合併

• 成虫の寄生部位より遠位に進行(リンパの流れに逆行性)

• バンクロフト糸状虫では、精索炎、睾丸炎を見ることがある

• 慢性期症状

– 象皮病

• バンクロフト糸状虫では足から大腿部まで

• マレー糸状虫では膝から下

組織寄生の線虫類

かつて、“くさふるい”

象皮病

バンクロフト糸状虫 vs マレー糸状虫

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リンパ系フィラリア症の症状

• 慢性期症状

– 乳び尿(リンパ流が尿路系と交通)

• バンクロフト糸状虫のみ

• 血液が混じると“乳び血尿”

– 膀胱内で血液成分が分離しゼリー状

– 尿道閉塞→排尿障害

– 陰嚢水腫

• バンクロフト糸状虫のみ

• 初期はやわらかい

• 次第に陰嚢の皮膚が硬化

組織寄生の線虫類

乳び尿

陰嚢水腫

リンパ系フィラリア症の症状

• 熱帯性肺好酸球増加症

– ミクロフィラリアに対する過剰反応

– 呼吸器症状

• 咳、胸痛、喘息様発作

– 検査

• 著明な好酸球増加

• IgE上昇

– 胸部X線

• 肺浸潤陰影

組織寄生の線虫類

・ ただし、末梢血中にミクロフィラリアは検出されない・ レフレル症候群と鑑別が必要

フィラリア治療薬(ジエチルカルバマジン)により改善

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リンパ系フィラリア症の診断

• 末梢血中のミクロフィラリアの検出

• 夜間周期性(午後10時から午前2時)

• 種の同定

• フィラリア抗原を検出するキットの使用

組織寄生の線虫類

バンクロフト糸状虫 マレー糸状虫

有鞘で、尾部は徐々に細くなる。

尾端に核を有さない。

有鞘で、尾端近くに膨大部がある。

膨大部にも核を有する。

リンパ系フィラリア症の治療

• 抗寄生虫薬療法

• ジエチルカルバマジン(商品名;スパトニ

ン)

6mg/kgを1日1回投与×12日

• イベルメクチン(商品名:ストロメクチン)

• 対処療法

• ステロイド

• 外科療法

• 象皮病

• 陰嚢水腫

組織寄生の線虫類

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9.回旋糸状虫(オンコセルカ)

Onchocerca volvulus

組織寄生の線虫類

組織寄生の線虫類

平成18年6月WHO ジュネーブ本部前にて

オンコセルカ腫瘤

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オンコセルカ症の疫学

• 主としてアフリカ、中南米にも

– 世界で感染者数は約1800万人

– 失明者は、27万人

• 媒介昆虫(ブユ)の発生地域である河川流域

組織寄生の線虫類

ブユ(Black fly)が吸血時に感染幼虫を注入

皮下組織

3ヶ月から1年で成虫へ

皮下結節中の成虫(寿命10年以上)

雌が産出した鞘を持たないミクロフィラリアは、全身の皮膚及び結合組織内のリンパ組織内で検出されるが、偶発的に、血液、尿、喀痰から検出されることもある

ブユの吸血

ミクロフィラリアの取り込み

ミクロフィラリアは、中腸を貫き胸筋へ

感染幼虫がブユの頭部、口鼻部へ移動

オンコセルカの生活史

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67

オンコセルカ腫瘤内の回旋糸状虫

雌:410mm×0.35mm 雄:30mm×0.16mm

オンコセルカ症の症状

• 成虫が形成する皮下結節

– オンコセルカ腫瘤

• 1cm以下~鶏卵大

• 頭部、肩甲骨部、胸部、腸骨稜部、股関節部

組織寄生の線虫類

アフリカ、ベネズエラ:腰から上

その他の中米:頭部

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オンコセルカ症の症状

• 皮膚炎

– 皮膚掻痒感→ 慢性化により皮膚の肥厚

– アフリカでは脱色素斑(Leopard skin)

– ソケイ部の皮膚の垂れ下がり(hanging groin)

組織寄生の線虫類

Leopard skin Hanging groin

オンコセルカ症の症状

• 河川盲目症

– 角膜炎

– 虹彩毛様体炎

– 網膜炎

– 視神経萎縮

– 失明

組織寄生の線虫類

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69

オンコセルカ症の診断

• 検皮法により皮膚からミクロフィラリアを検出

• 針先で皮膚をテント状に持ちあげ、出血しないように皮膚

小片を切り取る

• 組織片を培養液に浸すと、ミクロフィラリアが湧出する

組織寄生の線虫類

オンコセルカのミクロフィラリア

オンコセルカ症の治療・予防

• 抗寄生虫薬療法

• イベルメクチン(商品名:ストロメクチン)

150µm/kg 1回投与

• オンコセルカ腫瘤の摘出

• 川にすむブユの幼虫対策

• 殺虫剤散布

組織寄生の線虫類

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Page 71: 蠕虫感染症...2013/08/04  · 幼虫移行症&Larva migrans ' 寄生虫 感染経路 幼虫の形態 特徴的症状 主として 皮膚幼虫 移行症 ピョザラ鉤虫、犬鉤虫

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10.メジナ虫

Dracunculus mediensis

組織寄生の線虫類

Aesculapius and Hygeia

Guinea worm

WHOのマーク

メジナ虫の疫学

• アフリカ~中近東~インド– 1947年 推定4800万人

• アフリカ:1500万人

• インド :3000万人

– 1986年 WHO総会でメジナ虫撲滅作戦開始(推定:360万人)

– 1997年 18カ国(報告:7万2千人)

組織寄生の線虫類

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メジナ虫の生活史 組織寄生の線虫類

第3期幼虫を有す

るケンミジンコの経口摂取

ケンミジンコが死ぬと幼虫が遊離し、腸管を貫通し、皮下組織や後腹膜の結合組織へ移動。3ヶ月で成虫へ。

雄は、交尾後に死亡。雌は、感染後10~12ヶ月で幼

虫を子宮に満たし、下肢の皮下に移動する。

水疱を形成し、やがて破裂した傷口から這い出て、幼虫を放出する。

雌虫体の先端部が破れ、子宮から数千~数万個の第1期幼虫が放出

第1期幼虫がケンミジンコに食べられる。

幼虫が2回脱皮し、第3期幼虫になる。

メジナ虫症の症状

• 雌成虫が皮下に移動

– 掻痒感、嘔気、喘息様の症状

• 雌成虫が皮下に到着

– 丘疹、硬結、水疱

– 潰瘍の形成

– 虫体の排泄(激痛)

組織寄生の線虫類

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73

組織寄生の線虫類

水疱の形成

水疱の破裂と幼虫の放出

雌の頭部付近に丘疹が

でき、2~7cmの硬結とな

り、次第に激痛を伴う水

疱が形成される

組織寄生の線虫類

・ 雌成虫が傷口から数週間かけて這い出てくるが、激痛を伴う。

35-100 cm、 虫体は白く、円筒形で、多数の幼虫を内蔵した二重の卵巣を有す。

・ 傷口が破傷風の原因となることもある。

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74

メジナ虫症の治療

• 物理的な除去

• 少しずつ巻き取る

• 激痛のために一日数cmしか巻き取れない

• 薬物療法

• メトロニダゾール、サイアベンダゾールを使うと

痛みが減少し、排虫促進効果がある。

組織寄生の線虫類

マッチ棒を用いて巻き取る

線虫の分類 (臨床的な分類)

• 成虫が消化管に寄生

– 経口感染(回虫、鞭虫、蟯虫、旋毛虫、鉤虫など)

– 経皮感染(鉤虫、糞線虫)

• 成虫が血液・組織に寄生

– 昆虫媒介(バンクロフト糸状虫、マレー糸状虫、回旋糸状虫)

– 経口感染(メジナ虫)

• 幼虫が組織に寄生する(幼虫移行症)

– 経皮感染(ブラジル鉤虫、イヌ鉤虫)

– 経口感染(イヌ回虫、アニサキス、顎口虫、広東住血線虫、旋尾線虫等)

– 昆虫媒介(イヌ糸状虫)

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75

• ヒトを固有宿主としない寄生虫が、必要十分な環境を求めて、幼虫のまま移動すること。

• 皮膚幼虫移行症 (CLM : Cutaneous Larva Migarns)

– 皮膚爬行症 (creeping eruption)

・ 皮下の浅い部分を移動してできる線状の皮膚炎

– 移動性限局性皮膚腫脹

・ 比較的深部を移動した場合に起こる皮膚病変

• 内臓幼虫移行症 (VLM : Visceral Larva Migarns)

– 高度かつ慢性の好酸球増多症、肝臓に限局性肉芽腫

・ 後にイヌ回虫、ネコ回虫によるものと判明→ “トキソカラ”と呼称

– 拡大解釈

・ その他の線虫によるもの

幼虫移行症 (Larva migrans)

幼虫移行症 (Larva migrans)寄生虫 感染経路 特徴的症状

主として

皮膚幼虫

移行症

ブラジル鉤虫、犬鉤虫 感染幼虫の経皮感染 皮膚爬行症

剛棘及び日本顎口虫 ドジョウ等の生食

ドロレス顎口虫 ヤマメ、フナ等の生食

主として

内臓幼虫

移行症

犬回虫、ネコ回虫 幼虫包蔵卵又は、牛、鶏内の

幼虫の経口摂取

眼・内臓トキソカラ症

豚回虫、アライグマ回虫 豚・アライグマ回虫症

アニサキス類 海産魚類の生食 激しい腹部症状

広東住血線虫 カタツムリ等の生食 好酸球性髄膜脳炎

犬糸状虫 媒介蚊の吸血 肺のcoin lesion

皮膚及び内

臓幼虫移行

有棘顎口虫 ライギョ、どじょう、フナ、鶏、蛇

等の生食

移動性皮膚腫瘤

移動部位臓器障害

旋尾線虫 ホタルイカ生食 皮膚爬行症、腸閉塞

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76

11.ブラジル鉤虫及びイヌ鉤虫による

皮膚爬行症

幼虫が組織寄生

フィラリア型幼虫の経皮感染

感染経路

・ブラジル鉤虫のF型幼虫

・イヌ鉤虫のF型幼虫

症状 皮膚爬行症

幼虫のままやがて死滅する

侵入局所の掻痒・発赤ではじまり、2-3日で爬行状となり、やや盛り上がって水疱形成することがある

Page 77: 蠕虫感染症...2013/08/04  · 幼虫移行症&Larva migrans ' 寄生虫 感染経路 幼虫の形態 特徴的症状 主として 皮膚幼虫 移行症 ピョザラ鉤虫、犬鉤虫

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larva currens (racing larva)

rapid migration of this larva in the skin www.itg.be/.../images/prevs/CD_1004_028c.jpgwww.amda.or.jp

糞線虫の皮膚爬行症との違い

急速に移動する

鉤虫(成虫)の歯牙・歯板の比較

固有宿主:イヌ、狐、狼などイヌ科動物

固有宿主:イヌ、ネコ 固有宿主:ヒト

固有宿主:ヒト

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幼虫移行症 (Larva migrans)寄生虫 感染経路 特徴的症状

主として

皮膚幼虫

移行症

ブラジル鉤虫、犬鉤虫 感染幼虫の経皮感染 皮膚爬行症

剛棘及び日本顎口虫 ドジョウ等の生食

ドロレス顎口虫 ヤマメ、フナ等の生食

主として

内臓幼虫

移行症

犬回虫、ネコ回虫 幼虫包蔵卵又は、牛、鶏内の

幼虫の経口摂取

眼・内臓トキソカラ症

豚回虫、アライグマ回虫 豚・アライグマ回虫症

アニサキス類 海産魚類の生食 激しい腹部症状

広東住血線虫 カタツムリ等の生食 好酸球性髄膜脳炎

犬糸状虫 媒介蚊の吸血 肺のcoin lesion

皮膚及び内

臓幼虫移行

有棘顎口虫 ライギョ、どじょう、フナ、鶏、蛇

等の生食

移動性皮膚腫瘤

移動部位臓器障害

旋尾線虫 ホタルイカ生食 皮膚爬行症、腸閉塞

12.顎口虫による幼虫移行症

幼虫が組織寄生

有棘顎口虫 Gnathostoma spinigerum

剛棘顎口虫 Gnathostoma hispidum

日本顎口虫 Gnathostoma nipponicum

ドロレス顎口虫 Gnathostoma doloresi

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幼虫包蔵卵が池に入る

虫卵の排泄

剛棘顎口虫の固有宿主ドロレス顎口虫の固有宿主

ぶた、いのしし

有棘顎口虫の固有宿主

イヌ、ネコ科の動物

卵のふたが開いて第1期幼虫が放出ケンミジンコに取り込まれ第2期幼虫へ (第1中間宿主)

第2中間宿主内で第3期幼虫へ

保虫宿主

感染した第2中間宿主を固有宿主が経口摂取

固有宿主内で成虫へ

顎口虫症・皮膚・眼・内臓・脳神経系

顎口虫の生活史

日本顎口虫の固有宿主: いたち

有棘顎口虫のヒト(第2中間宿主)への感染

• 第1中間宿主であるケンミジンコの飲みこみ

– 汚染された水の摂取

• 第2中間宿主であるさまざまな動物の生食

– 魚類

• カムルチイ・ライヒイ(雷魚)、なまず、どじょう、どんこ、うなぎなど

– 両生類

• トノサマガエル、ウシガエル

– 爬虫類

• シマヘビ、ヤマカガシ、まむし、シロマダラ

– 鳥類

• ゴイサギ・アオサギなど、カイツブリ、コガモ、アヒル、かわせみ、鶏、ふく

ろう、オオタカ

– 哺乳類

• イタチ

(雷魚:別名snake head)

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有棘顎口虫による移動性限局性皮膚腫脹

頬部腫脹のため歯科医を受診 眼瞼周囲腫脹のため眼科医を受診

有棘顎口虫による皮膚爬行症

Aに始まり、矢印の方向に移動し

て、Bで消えた。

皮膚科を受診し、Bの部分を切開

したが虫は得られず、翌日その近

くに新しい病変が出現。

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• 喉頭付近へ侵入– 浮腫のため呼吸困難

• 眼窩へ侵入– 視力低下、蜂窩織炎、眼球突出

• 眼球へ侵入– 失明

• 脳脊髄へ侵入– 麻痺、死亡

• 肺へ侵入– 気胸、喀血、虫体の喀出

• 腎臓に侵入– 血尿

有棘顎口虫による移動部位臓器障害

• 診断のはじめ– 病歴、旅行歴、職歴、食事歴の聴取

– 臨床症状(移動性限局性腫脹、皮膚爬行症)

– 血液像(白血球増加、好酸球増多)

• 虫体の摘出– 皮膚爬行症の場合は可能のことも有る

– 皮膚腫脹部を外科的に摘出しても幼虫を証明できないことが多い

• 移動性限局性腫脹の鑑別診断– 肺吸虫の皮下寄生

– マンソン孤虫症

有棘顎口虫症の診断

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その他の顎口虫症の症状と感染経路

• 症状:皮膚爬行症

• 感染経路:第2中間宿主、保有宿主の生食

– 剛棘顎口虫・・・・・・・・・・ 輸入どじょう(台湾、韓国、中国)

– ドロレス顎口虫・・・・・・・ ヤマメ、フナ、鯉

– 日本顎口虫・・・・・・・・・・ どじょう、なまず

どじょうの踊り食い

ブラックバス

日本顎口虫による皮膚爬行症

(日本のいのししは高率に感染)

(日本には定着していない)

(日本のいたちに感染)

湖沼に生息するオオクチバス(ブラックバス)の刺し身を食べた女性(60歳)が、寄

生虫病の一種「日本顎口虫症」を発症したことが、国内で初めて確認された。ブラック

バスの料理法はインターネットでも紹介され、愛好家も増えているが、専門家は「生食

だけは絶対に避けて」と警告している。

この女性は昨年5月、秋田市内の貯水池で近所の人が釣ったブラックバスをもらい、

刺し身で食べた。約2週間後、おなかに赤い斑点が3か所現れ、太さ2―3ミリの線状

の腫れが、最長約50センチになった。腫れは寄生虫薬で2か月後に治まったが、検

査した秋田大は、女性が冷凍していたバスの切り身から、長さ約1ミリの日本顎口虫

の幼虫7匹を発見。この池で捕獲したバス9匹中6匹からも、この虫が見つかった。

日本顎口虫は淡水魚に寄生し、生で食べると感染、消化管から皮膚表面へと移動しながら、みみず腫れを起

こす。通常は重症化しないが、ライギョやドジョウの生食で感染する「有棘(ゆうきょく)顎口虫」は、皮膚に大き

なこぶができたり、まれに脳に虫が侵入して脳炎を起こすことがある。

ブラックバスは、被害に悩む自治体や漁協が再放流しないよう呼びかけ、インターネットで釣り人が「生で食

べた」と紹介する例も後を絶たない。秋田大医学部の吉村堅太郎教授(寄生虫学)は「ブラックバスは感染し

た他の魚を食べる。有棘顎口虫が寄生する可能性もあり、食べる時は必ず火を通して」と話している

ブラックバスブラックバスブラックバスブラックバス生食生食生食生食しししし、、、、寄生虫病寄生虫病寄生虫病寄生虫病「「「「顎口虫顎口虫顎口虫顎口虫」」」」初初初初のののの発症発症発症発症〔〔〔〔読売新聞読売新聞読売新聞読売新聞〕〕〕〕2002 年 4 月 04 日

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幼虫移行症 (Larva migrans)寄生虫 感染経路 特徴的症状

主として

皮膚幼虫

移行症

ブラジル鉤虫、犬鉤虫 感染幼虫の経皮感染 皮膚爬行症

剛棘及び日本顎口虫 ドジョウ等の生食

ドロレス顎口虫 ヤマメ、フナ等の生食

主として

内臓幼虫

移行症

犬回虫、ネコ回虫 幼虫包蔵卵又は、牛、鶏内の

幼虫の経口摂取

眼・内臓トキソカラ症

豚回虫、アライグマ回虫 豚・アライグマ回虫症

アニサキス類 海産魚類の生食 激しい腹部症状

広東住血線虫 カタツムリ等の生食 好酸球性髄膜脳炎

犬糸状虫 媒介蚊の吸血 肺のcoin lesion

皮膚及び内

臓幼虫移行

有棘顎口虫 ライギョ、どじょう、フナ、鶏、蛇

等の生食

移動性皮膚腫瘤

移動部位臓器障害

旋尾線虫 ホタルイカ生食 皮膚爬行症、腸閉塞

13-1 イヌ回虫・ネコ回虫による幼虫移行症

幼虫が組織寄生

イヌ回虫の幼虫包蔵卵

ネコ回虫の幼虫包蔵卵

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イヌ回虫(Toxocara canis)の生活史

:感染性虫卵(幼虫包蔵卵)による感染 :待機宿主内の幼虫による感染

イヌ回虫症の臨床像

• 小児期に発症

• 眼症状が現れやすい

– 片眼性

– 斜視

– 視力障害

– 失明

– 白色瞳孔

• 他組織に肉芽腫病変

– 肝

– 心臓

– 肺

– 腎

– 脳

– 横紋筋

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イヌ・ネコにおける寄生虫類の保有状況(埼玉県)

1999年5月~2007年12月にかけての埼玉県

衛生研究所と動物指導センターによる調査

• イヌ(906頭)

– 350頭(38.6%)が何らかの寄生虫に感染

– 113頭(12.5%)がイヌ回虫卵陽性

• ネコ(1,079頭)

– 465頭(43.1%)が何らかの寄生虫もぁ㎜背㎜

– 235頭(21.8%)がネコ回虫卵陽性

http://www.pref.saitama.lg.jp/page/toxocariasis.html

感染の予防

イヌ・ネコ回虫卵が含まれる糞を土中に埋めても、感染力が長期間にわたり持続している。

– イヌ・ネコの飼い主は、ペットの糞を持ち帰り、適切に処理する

– 砂場で遊んだあとは、手を良く洗う

– ペットと遊んだあとは、手を良く洗う

– 放し飼いの鶏の肝臓や筋肉を、生では食べない

– 牛の肝臓や筋肉を生では食べない

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13-2.ブタ回虫・アライグマ回虫による幼虫移行症

幼虫が組織寄生

• 50歳男性 鹿児島県曽於郡在住

• 主訴:発熱、全身倦怠感

– 2003年6月12から40℃の発熱、全身倦怠感

– 近医を受診し、WBC 15,000/µl、CRP4.7 ㎎/dl、胸部XPで右下肺野にスリガラス状陰影を認め入院、抗生剤により7月11日に軽快退院

– 8月11日の経過観察で、自覚症状は乏しいがスリガラス陰影が再増悪

ブタ回虫幼虫移行症による好酸球性肺炎の 1 例感染症学雑誌 第78巻 第12号床島 眞紀 芦谷 淳一 中里 雅光(宮崎大学医学部第3内科)

アルベンタゾール治療後8月11日の胸部CT像

– 10月8日再診時、WBC 8900/µl、好中球58%、好酸球5%

– 気管支内視鏡による気管支肺胞洗浄でリンパ球29%、好酸球26%、薬剤性肺炎は否定

– 末梢血中の好酸球増加は認められなかったが、IgE 1,208 IU/ mlと上昇

– 血清寄生虫抗体検査(Multi dot – ELISA法)でブタ回虫陽性

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ブタ回虫

• ほとんどの例が無症状

– 好酸球増加症(唯一の手がかりとなることがある)

• 多重感染の場合

– 全身倦怠感、発熱

– 肺炎、好酸球性髄膜脳炎・脊髄炎、ブドウ膜炎

アライグマ回虫

• 北米では

– 劇症型の脳幼虫移行症(主に乳幼児、2歳以下男児が多い)

• 片麻痺、運動失調、発熱、髄膜脳炎症状、昏睡、腹痛、発育障害など

– 片側性びまん性亜急性視神経網膜炎(主に成人)

• 感染の機会がはっきりしない

幼虫移行症 (Larva migrans)寄生虫 感染経路 特徴的症状

主として

皮膚幼虫

移行症

ブラジル鉤虫、犬鉤虫 感染幼虫の経皮感染 皮膚爬行症

剛棘及び日本顎口虫 ドジョウ等の生食

ドロレス顎口虫 ヤマメ、フナ等の生食

主として

内臓幼虫

移行症

犬回虫、ネコ回虫 幼虫包蔵卵又は、牛、鶏内の

幼虫の経口摂取

眼・内臓トキソカラ症

豚回虫、アライグマ回虫 豚・アライグマ回虫症

アニサキス類 海産魚類の生食 激しい腹部症状

広東住血線虫 カタツムリ等の生食 好酸球性髄膜脳炎

犬糸状虫 媒介蚊の吸血 肺のcoin lesion

皮膚及び内

臓幼虫移行

有棘顎口虫 ライギョ、どじょう、フナ、鶏、蛇

等の生食

移動性皮膚腫瘤

移動部位臓器障害

旋尾線虫 ホタルイカ生食 皮膚爬行症、腸閉塞

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14.アニサキス類による幼虫移行症

幼虫が組織寄生

・ Anisakis simplex

・ Pseudoterranova decipiens

・ Anisakis physeteris

アニサキス類の生活史

胃アニサキス症

腸アニサキス症

体長:2~3cm

第1中間宿主

第2中間宿主

胃内で2回脱皮第3期幼虫

魚の摂取後2~3日後に1回脱皮第4期幼虫

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アニサキス類第3期幼虫の鑑別

突歯

レネット細胞

腸盲嚢

突歯

尾突起尾突起 あり なし あり

胃から摘出されたA.simplex

サバの内臓に寄生するアニサキス幼虫 アニサキス幼虫(胃内視鏡)

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アニサキス症の病態

幼虫

人体内侵入

感作されていないヒト 感作されているヒト

異物反応

肉芽腫形成

膿瘍内肉芽腫化

消化管壁

膿瘍形成

腹腔内

崩壊・吸収 感 作

腹腔内

崩壊・吸収 アレルギー反応

消化管壁

消化管痙攣

緩和型アニサキス症 劇症型アニサキス症

蜂窩織炎

アニサキス症の臨床像

胃アニサキス(96%) 腸アニサキス(4%)

・魚の生食後2~8時間後

・急激な腹部の激痛、心窩部痛

・悪心、嘔吐

・蕁麻疹、アナフィラキシーショック

・下腹部の不快感→激しい限局的な疼痛

・腸閉塞・悪心、嘔吐・蕁麻疹、アナフィラキシーショック

・自覚症状はほとんどない

・他の疾患で摘出した組織標本

で偶然に見つかる

・自覚症状はほとんどない

・他の疾患で開腹したときに偶然

にみつかる

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治療と予防

• 治療

– 鎮痛剤、ステロイドの使用

– 胃アニサキス症の場合は、内視鏡的に摘出• 幼虫は、1週間程度で死んで吸収される

• 予防

– 幼虫は60℃では数秒で死滅(70℃では瞬時に)

– 低温には強い• -20℃で24時間以上冷凍

– 酸には抵抗性• シメ鯖のように食酢で処理しても死なない

幼虫移行症 (Larva migrans)寄生虫 感染経路 特徴的症状

主として

皮膚幼虫

移行症

ブラジル鉤虫、犬鉤虫 感染幼虫の経皮感染 皮膚爬行症

剛棘及び日本顎口虫 ドジョウ等の生食

ドロレス顎口虫 ヤマメ、フナ等の生食

主として

内臓幼虫

移行症

犬回虫、ネコ回虫 幼虫包蔵卵又は、牛、鶏内の

幼虫の経口摂取

眼・内臓トキソカラ症

豚回虫、アライグマ回虫 豚・アライグマ回虫症

アニサキス類 海産魚類の生食 激しい腹部症状

広東住血線虫 カタツムリ等の生食 好酸球性髄膜脳炎

犬糸状虫 媒介蚊の吸血 肺のcoin lesion

皮膚及び内

臓幼虫移行

有棘顎口虫 ライギョ、どじょう、フナ、鶏、蛇

等の生食

移動性皮膚腫瘤

移動部位臓器障害

旋尾線虫 ホタルイカ生食 皮膚爬行症、腸閉塞

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15.広東住血線虫による幼虫移行症

幼虫が組織寄生

広東住血線虫の生活史

2週間で第3期幼虫になる

成虫は肺動脈に寄生

孵化した幼虫が気管、消化管を経て糞便中へ排泄

摂取された第3期幼虫

胃→門脈→心臓→全身→くも膜下腔(約1ヶ月)

→脳静脈→肺動脈中枢神経へ

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アフリカマイマイは、1930年代に沖縄に人為的に持ち込ま

れた東アフリカ原産の大型陸生貝類の一種であり、1945年

以降は野外でも定着し、沖縄本島をはじめ宮古、八重山群島、

奄美大島に分布を拡大している。本貝は、蔓延防止のために

未発生地域未発生地域未発生地域未発生地域へのへのへのへの持持持持ちちちち出出出出しはしはしはしは法律法律法律法律でででで規制規制規制規制されているされているされているされている。。。。

アフリカマイマイ

スクミリンゴガイは南アメリカ原産の淡水性巻き貝で、日本に

は1981年ごろ食用として移入された。しかし、需用もなく養

殖業は長続きせず、後に野生化したスクミリンゴガイが稲やレ

ンコンなど農作物を食害している。 乾燥に強い貝で、土中で

越冬する。

スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)

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http://idsc.nih.go.jp/iasr/18/207/graph/dt2078.gif

民間療法(ナメクジの生食)・夜尿症、喘息の治療・腰痛

民間療法(ヒキガエルの肝の生食)・精力強化

広東住血線虫の臨床像

• 潜伏期– 2~3週間

• 症状

– 好酸球性髄膜脳炎• 髄膜刺激症状(頭痛、悪心、嘔吐、項部硬直、Kernig徴候)

• 発熱

• 知覚障害

• 眼筋麻痺

• 意識障害

• 鑑別疾患

– 脳有鉤嚢虫症

– 肺吸虫症

– イヌ回虫

– 顎口虫

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幼虫移行症 (Larva migrans)寄生虫 感染経路 特徴的症状

主として

皮膚幼虫

移行症

ブラジル鉤虫、犬鉤虫 感染幼虫の経皮感染 皮膚爬行症

剛棘及び日本顎口虫 ドジョウ等の生食

ドロレス顎口虫 ヤマメ、フナ等の生食

主として

内臓幼虫

移行症

犬回虫、ネコ回虫 幼虫包蔵卵又は、牛、鶏内の

幼虫の経口摂取

眼・内臓トキソカラ症

豚回虫、アライグマ回虫 豚・アライグマ回虫症

アニサキス類 海産魚類の生食 激しい腹部症状

広東住血線虫 カタツムリ等の生食 好酸球性髄膜脳炎

犬糸状虫 媒介蚊の吸血 肺のcoin lesion

皮膚及び内

臓幼虫移行

有棘顎口虫 ライギョ、どじょう、フナ、鶏、蛇

等の生食

移動性皮膚腫瘤

移動部位臓器障害

旋尾線虫 ホタルイカ生食 皮膚爬行症、腸閉塞

16.犬糸状虫による幼虫移行症

幼虫が組織寄生

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(別名:Heartworm)

・ イヌの右心室、肺動脈に寄生

イヌ糸状虫のヒトへの感染

・ ミクロフィラリアを産出

・ 夜間吸血性の蚊に取り込まれる

・ 蚊の体内で、第3期幼虫になる

・ 蚊(トウゴウヤブカ)が吸血時に第3期幼虫を注入

・ ヒト体内では幼虫移行症→肺に肉芽腫形成

肺イヌ糸状虫症による肉芽腫

肺がんの診断のもと摘出された肺臓の病理切片から

虫体が発見される場合がほとんど

幼虫の切片

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幼虫移行症 (Larva migrans)寄生虫 感染経路 特徴的症状

主として

皮膚幼虫

移行症

ブラジル鉤虫、犬鉤虫 感染幼虫の経皮感染 皮膚爬行症

剛棘及び日本顎口虫 ドジョウ等の生食

ドロレス顎口虫 ヤマメ、フナ等の生食

主として

内臓幼虫

移行症

犬回虫、ネコ回虫 幼虫包蔵卵又は、牛、鶏内の

幼虫の経口摂取

眼・内臓トキソカラ症

豚回虫、アライグマ回虫 豚・アライグマ回虫症

アニサキス類 海産魚類の生食 激しい腹部症状

広東住血線虫 カタツムリ等の生食 好酸球性髄膜脳炎

犬糸状虫 媒介蚊の吸血 肺のcoin lesion

皮膚及び内

臓幼虫移行

有棘顎口虫 ライギョ、どじょう、フナ、鶏、蛇

等の生食

移動性皮膚腫瘤

移動部位臓器障害

旋尾線虫 ホタルイカ生食 皮膚爬行症、腸閉塞

17.旋尾線虫 幼虫タイプ・テン

Type X larva of the suborder

Spirurina

幼虫が組織寄生

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旋尾線虫

• 生活史は解明されていない

– 固有宿主は、海の哺乳類か鳥類

• 幼虫はType1~Xlllに分類

– ホタルイカから検出されるのは、TypeX(テン)

• 1988年ころより、患者が急増

– 1988年~94年:皮膚爬行症32例、腸閉塞20例、眼寄生1例が報告

– 1999年12月28日 食品衛生法施行規則の一部改正

– 2000年6月21日 厚労省がホタルイカの取り扱いに注意するよう通知

ホタルイカの踊り食い

旋尾線虫の幼虫は加熱に弱く、冷凍の場合はー30度、24時間でほぼ死滅する

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皮膚爬行症旋尾線虫による症状

腸閉塞

眼侵入

吸虫

線虫 吸虫 条虫

ミミズ、針金 葉っぱ テープ

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教育内容

• 吸虫総論

– 形態

– 生活史

– 診断と検査法

• 各論

– 消化管に寄生の吸虫類

– 肝臓に寄生する吸虫類

– 肺組織に寄生する吸虫類

– 血管に寄生する吸虫類

青:消化器系

黄:排泄系

黒:卵黄系

緑:雄性生殖系

赤:雌性生殖製

形態

・ 雌雄同体 (住血吸虫を除く)(hermaphrodi

・ 中間宿主内で無性生殖(幼生生殖)

・ 扁平葉状、舌状、小豆、糸状

・ 2個の吸盤(ジストマ:口に似ている)

・ 口吸盤・ 腹吸盤・ 異型吸虫のみ生殖吸盤

・ 消化管は盲端

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吸虫の構造

・ 消化器系

・ 体前端の口

・ 咽頭

・ 食道

・ 左右2つの腸管:盲端

・ 排泄系

・ 柔組織内の炎細胞でろ過

・ 集合管

・ 体後部の排泄嚢

・ 排泄孔から外界へ

吸虫の構造

・ 神経系

・ 体表面に種々の感覚器が散在

・ 食道を取り囲んだ1対の神経節

・ 数本の縦走した神経線維

・ 環状に走る神経線維

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吸虫の構造・ 雌性生殖器系

・ 卵巣

・ 輸卵管

・ 卵形成腔

・ 子宮

・ 付属器官

卵黄腺

卵形成腔

メーリス腺(卵殻形成)

吸虫の構造・ 雄性生殖器系

・ 精巣

・ 小輸精管

・ 輸精管

・ 貯精嚢

・ 射精管

・ 陰茎

陰茎嚢

輸精管

小輸精管

子宮輸精管

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原則論: 自個体の精子によって、受精することはできない。子孫を残すためには、他の個体から精子をもらう必要がある。(相互受精)

雄雌のペアが必要!

例外: ベルツ肺吸虫は処女生殖を行う。ペアは必要ない。

吸虫の生活史

1個の虫卵

ミラシジウム幼若スポロシスト

第1中間宿主内(淡水性巻貝)

セルカリア(0.2mm)

終宿主

第2中間宿主内(魚類、カニ類等)

メタセルカリア

住血吸虫のみ

発育スポロシスト

(多数の母レジアを有する)

娘レジア

(多数のセルカリアを有する)

母レジア

(多数の娘レジアを有する)

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吸虫の生活史

・ 生殖

・ 固有宿主では有性生殖

・ 中間宿主では幼生生殖

・ 二世吸虫

・ 世代交代

・ 中間宿主を通常2つ持つ

1個の虫卵内のミラシジウムが、第1中間宿主内で増殖し数百匹のセルカリアになり、それらが第2中間宿主に入って、メタセルカリアになる。

1個のメタセルカリアは、終宿主内で1匹の成虫となる。

吸虫の生活史

・ 終宿主の中では

・ メタセルカリア(被嚢幼虫)は、第2中間宿主とともに経口摂取

‐ 胃→小腸→脱嚢→寄生部位へ

‐ 成虫となり虫卵を排泄

・ 住血吸虫の場合は、経皮的に侵入し、寄生部位へ

‐ 成虫となり虫卵を排泄

有蓋が特徴

蓋はない、棘がある

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吸虫の分類 (臨床的な分類)

• 消化管に寄生の吸虫類

– 横川吸虫

• 肝臓に寄生する吸虫類– 肝吸虫

– 巨大吸虫

– 肝蛭

• 肺組織に寄生する吸虫類– ウエステルマン肺吸虫、宮崎肺吸虫

– ベルツ肺吸虫

• 血管に寄生する吸虫類– 日本住血吸虫、マンソン住血吸虫、ビルハルツ住血吸虫

– ムクドリ住血吸虫

吸虫の分類 (臨床的な分類)

• 消化管に寄生の吸虫類

– 横川吸虫

• 肝臓に寄生する吸虫類– 肝吸虫

– 巨大肝蛭

• 肺組織に寄生する吸虫類– ウエステルマン肺吸虫、宮崎肺吸虫

– ベルツ肺吸虫

• 血管に寄生する吸虫類– 日本住血吸虫、マンソン住血吸虫、ビルハルツ住血吸虫

– ムクドリ住血吸虫

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18. 横川吸虫

Metagonimus yokogawai

消化管に寄生する吸虫

横川吸虫とは?

• 1911年(明治44年)に、台北帝国大学の横川定教授が台湾

のアユの鰓から新しいメタセルカリアを見つけ、それをイヌ

に与えたところ、成虫が得られた。

• さらに、ヒトからも同じものを確認した。

• 日本全国に広く分布していることが知られた。

消化管に寄生する吸虫

1mm

1患者から、30,462匹駆虫した一部アユの鱗に寄生するメタセルカリア

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107

横川吸虫の生活史消化管に寄生する吸虫

カワニナが虫卵を食べる

横川吸虫の第1中間宿主

カワニナ

消化管に寄生する吸虫

・ホタルの幼虫の餌

・肺吸虫の第1中間宿主でもある

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108

横川吸虫の第2中間宿主

アユ

消化管に寄生する吸虫

白魚(サケ、マスの仲間)

素魚(ハゼの仲間)

シラウオ

横川吸虫の症状

• 少数寄生の場合

– 無症状のことが多い。

• 多数寄生の場合

– 腹痛、下痢、時に粘血便

• 小児では、成人に比して症状が激しい

消化管に寄生する吸虫

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109

埼玉県衛生研究所での調査

• 2001年および2002年に、各地から入荷した生のシラウオを購入– 約200g入りのパック

– ランダムに100~200尾を抽出

• シラウオをそのまま板ガラス2枚の間に挟んで圧平し、実体顕微鏡下で観察

• 検出されたメタセルカリアは、形態観察と計測を行い同定

http://www.pref.saitama.lg.jp/A04/BA30/target/tantou/rinsyou/food-kiseichu/food-kiseichu2/yokogawai.htm

消化管に寄生する吸虫

埼玉県衛生研究所での調査

• 結果

– 生シラウオのメタセルカリア陽性率

• 19パック中15パック (78.9%)

• 総数2,300尾中537尾(23.3%)

• メタセルカリアの寄生率は、産地によって差が認められた。

• 一部を除き運動性が認められ、生存していた

• 結論

– シラウオの生食による横川吸虫症感染の危険性が示唆された。

写真:シラウオにみられる横川吸虫のメタセルカリア

http://www.pref.saitama.lg.jp/A04/BA30/target/tantou/rinsyou/food-kiseichu/food-kiseichu2/yokogawai.htm

消化管に寄生する吸虫

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110

横川吸虫の診断

回虫の受精卵

40-50µm

50-70µm

横川吸虫卵

16-18µm

28-32µm

肝吸虫の虫卵との鑑別が重要

消化管に寄生する吸虫

横川吸虫の治療

“吸虫の特効薬” プラジカンテル(商品名:ビリトリシド)

・ 1回20mg/kg を1日1~2回 1日 経口投与

使用禁忌‐ 本剤へのアレルギーの前歴‐ 有鉤のう虫(条虫)症の人‐ リファンピシンの服用中

消化管に寄生する吸虫

(1錠中に600mg含有)

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111

吸虫の分類 (臨床的な分類)

• 消化管に寄生の吸虫類

– 横川吸虫

• 肝臓に寄生する吸虫類– 肝吸虫

– 巨大吸虫

– 肝蛭

• 肺組織に寄生する吸虫類– ウエステルマン肺吸虫、宮崎肺吸虫

– ベルツ肺吸虫

• 血管に寄生する吸虫類– 日本住血吸虫、マンソン住血吸虫、ビルハルツ住血吸虫

– ムクドリ住血吸虫

肝臓に寄生する吸虫

19. 肝吸虫

Clonorchis sinensis

蘭 Orchis

肝臓に寄生する吸虫

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112

肝吸虫とは?

• 1874年に、Mc Connelがカルカッタで、剖検により胆管から

はじめてこの虫を発見した。

• 1877年に、石坂が岡山県帯江新田村(現在の倉敷市)で、

ある農夫の剖検により肝臓から多数の虫体を得た。

• 人体寄生虫として日本全国に広く分布していることが知ら

れた。

肝臓に寄生する吸虫

秋田、宮城、新潟

茨城、群馬、埼玉、 千葉、 長野

愛知、岐阜、石川、三重、滋賀

京都、大阪、兵庫、岡山、広島、山口

福岡、佐賀、熊本

黄牛病として有名

幕末から明治にかけて、黄牛村(現在の登米市津山町柳津黄牛)には「黄牛病」と呼ばれる原因不明の病が流行し、村人たちは恐怖におののいていた。父を黄牛病で亡くした鈴木安右衛門(ヤス)は、村を病の恐怖から救うために医師の高屋養仙とともに黄牛病を根絶するための努力を続けていた。ある日、ヤスは山で怪我をした横山村のハ

ルという娘を助けて村まで送り届けるが、病がまん延する黄牛村に偏見を持っていた村人たちはヤスを追い返してしまう。病に苦しむ人々を救うために前向きに生きているヤスの姿にハルは惹かれていくが、ハルには弥彦という許嫁がいた。黄牛病の研究を続けるヤスと養仙は、病の原因究明には「腑分け(解剖)」が必要という結論に達する。しかし当時、腑分けされるのは処刑された罪人のみであり、実現は困難だった。混迷する黄牛の人々とヤス。そこへ再びハルが訪れ、二人は気持ちを確かめ合う。しかし、ヤスは自らが黄牛病に侵されていることを知る・・・。

肝臓に寄生する吸虫

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113

宮城県本吉郡津山町黄牛の音声寺近く

鈴木安右衛門記念碑鈴木安右衛門記念碑鈴木安右衛門記念碑鈴木安右衛門記念碑

肝臓に寄生する吸虫

タイ肝吸虫の患者の黄疸

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114

肝吸虫の生活史肝臓に寄生する吸虫

肝吸虫の中間宿主

マメタニシ

第1中間宿主

モツゴ(鯉科の淡水魚)

第2中間宿主

ウグイ、モツゴ、ヒガイ、タモロコ、鯉、フナなど

肝臓に寄生する吸虫

Page 115: 蠕虫感染症...2013/08/04  · 幼虫移行症&Larva migrans ' 寄生虫 感染経路 幼虫の形態 特徴的症状 主として 皮膚幼虫 移行症 ピョザラ鉤虫、犬鉤虫

115

肝吸虫の成虫

・ 細長く柳葉状

・ 扁平

・ 10-25mm×3-5mm

肝臓に寄生する吸虫

肝吸虫症の病態と症状

• 少数寄生の場合

– ほとんど無症状

• 多数寄生の場合

• 初期

– 肝吸虫の成虫胆管枝を塞栓

– 胆汁のうっ滞

– 虫体の刺激による胆管壁と周囲の慢性炎症

• 晩期

– 肝組織間質の増殖

– 肝細胞の変性、萎縮、壊死

– 肝硬変

肝臓に寄生する吸虫

食欲不振、全身倦怠感、下痢

腹部膨満、肝腫大

症状

腹水、浮腫、黄疸、貧血

症状

Page 116: 蠕虫感染症...2013/08/04  · 幼虫移行症&Larva migrans ' 寄生虫 感染経路 幼虫の形態 特徴的症状 主として 皮膚幼虫 移行症 ピョザラ鉤虫、犬鉤虫

116

肝吸虫の診断

肝吸虫卵

15-17µm

27-32µm

16-18µm

28-32µm

横川吸虫卵

・陣笠状で卵殻から横に突出

・下部がややふくれている。

・後極に結節状の小突起

肝臓に寄生する吸虫

ミラシジウム

肝吸虫の治療

使用禁忌‐ 本剤へのアレルギーの前歴‐ 有鉤のう虫(条虫)症の人‐ リファンピシンの服用中

“吸虫の特効薬” プラジカンテル(商品名:ビリトリシド)

・ 1回20mg/kg を1日2回 2日 経口投与

(1錠中に600mg含有)

肝臓に寄生する吸虫

Page 117: 蠕虫感染症...2013/08/04  · 幼虫移行症&Larva migrans ' 寄生虫 感染経路 幼虫の形態 特徴的症状 主として 皮膚幼虫 移行症 ピョザラ鉤虫、犬鉤虫

117

20 肝蛭、肥大吸虫など

・ヨーロッパ・オーストラリア

動物がやせ衰え、肉、皮、羊毛など経済損失が大きい

胆石発作様の上腹部痛

肝臓に寄生する吸虫

Page 118: 蠕虫感染症...2013/08/04  · 幼虫移行症&Larva migrans ' 寄生虫 感染経路 幼虫の形態 特徴的症状 主として 皮膚幼虫 移行症 ピョザラ鉤虫、犬鉤虫

118

・中国、台湾・ベトナム・タイ・マレーシア・インド

腹痛、下血など

消化管に寄生する吸虫

吸虫の分類 (臨床的な分類)

• 消化管に寄生する吸虫類– 横川吸虫

• 肝臓に寄生する吸虫類– 肝吸虫

– 肥大吸虫

– 肝蛭

• 肺組織に寄生する吸虫類– ウエステルマン肺吸虫(3倍体、 2倍体 )

– 宮崎肺吸虫

• 血管に寄生する吸虫類– 日本住血吸虫、マンソン住血吸虫、ビルハルツ住血吸虫

– ムクドリ住血吸虫

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21. ウエステルマン肺吸虫及びベルツ肺吸虫

Paragonimus westermanii

肺に寄生する吸虫類

エルウィン・ベルツ博士

• 1849(嘉永 2) 年 南ドイツのビーティヒハイムで生誕

• 1872(明治 5) 年 ライプツイヒ大学終了

日本人留学生との出会い

• 1876(明治 9) 年 横浜港着 東京医学校内科教師として赴任

• 1879(明治12)年 肺吸虫の人体寄生を確認

• 1881(明治14)年 荒井花と結婚

• 1890(明治23)年 「草津」に土地を買う。保養サナトリウム建設の構想

• 1891(明治24)年 箱根・富士屋ホテル女中のあかぎれを見てベルツ水を作成

• 1902(明治35)年 東京大学在職26年の教師生活を終える。

3年間宮内省侍医局顧問

• 1907(明治40)年 東京大学にベルツ・スクリバ両教授の胸像建立

• 1908(明治41)年 皇太子の診察のため、伊藤博文の要請で来日

• 1913(大正 2) 年 ベルツ、ドイツで動脈瘤により死去(64歳)大阪・盛香薬館が発売したベルツ水の広告

草津温泉 西の河原公園

肺に寄生する吸虫類

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120

ウエステルマン肺吸虫

• 1878年 オランダのアムステルダム動物園で死亡したトラ(インド産)の肺か

ら発見され、1881年ハンブルグの動物園のトラからも採取されて、Kerbert

が非常に詳しく記載した。

• 人体寄生例は、1879年に、台湾でRingerが、日本ではBaelzが検出した。

• 本虫は、アジアの野獣、ことにネコ科の動物に広く寄生することが明らかと

なった。中でもトラは、最適の宿主であって、熱帯地方ばかりでなくシベリア

トラにも寄生している。また、ヒトにもよく感染し、タイ、フィリピン、中国、台

湾、韓国、日本は流行地である。

• 染色体が2倍体(2n=22)のものと、3倍体(3n=33)のものがあり、後者

を区別して、ベルツ肺吸虫と呼称されることも有る。

– ベルツ肺吸虫は、3倍体であるので受精する必要が無く、立派な精巣を持ちな

がら単為生殖(処女生殖)を行う!

肺に寄生する吸虫類

ウエステルマン肺吸虫(3倍体、2倍体の違い)

3倍体(3n=33) 2倍体(2n=22)

第1中間宿主 カワニナ カワニナ

第2中間宿主モクズガニ(稀にサワガニ)

サワガニ(稀にモクズガニ)

世界での

分部台湾、韓国、日本

(モクズガニの原産地に一致)

中国、フィリピン、韓国、台湾、日本、

タイ、マレーシア、スマトラ、スリランカ、

インドなど

日本での

分布◎

(秋田、千葉、静岡、石川など)

成虫の大きさ 大きい 小さい

生殖

単為(処女)生殖(受精嚢に精子がいない)

有性生殖(受精嚢に精子がいる)

1匹でも肺に虫嚢を形成できる2匹で肺に虫嚢を形成

(1匹では虫嚢を形成できない)

肺に寄生する吸虫類

Page 121: 蠕虫感染症...2013/08/04  · 幼虫移行症&Larva migrans ' 寄生虫 感染経路 幼虫の形態 特徴的症状 主として 皮膚幼虫 移行症 ピョザラ鉤虫、犬鉤虫

121

ウエステルマン肺吸虫2倍体、3倍体(ベルツ肺吸虫)の違い

メタセルカリア1匹ずつを感染させた実験結果(ネコに感染させて200日後)

・成虫になり、虫嚢を形成・虫嚢内で産卵・外界で発育

・成虫になるが虫嚢は作らず・胸腔内を徘徊しながら産卵・外界で発育できない

3倍体 2倍体

3倍体:モクズカニ

2倍体:サワガニ

第2中間宿主 カワニナ

第1中間宿主

肺に寄生する吸虫類

横川吸虫との違い!

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122

蓋が開き始める

九州大学出版会図説 人畜共通寄生虫症より

肺に寄生する吸虫類

ミラシジウムが現れる

九州大学出版会図説 人畜共通寄生虫症より

肺に寄生する吸虫類

Page 123: 蠕虫感染症...2013/08/04  · 幼虫移行症&Larva migrans ' 寄生虫 感染経路 幼虫の形態 特徴的症状 主として 皮膚幼虫 移行症 ピョザラ鉤虫、犬鉤虫

123

ミラシジウムは、体全部を拡げて膜に密着

九州大学出版会図説 人畜共通寄生虫症より

肺に寄生する吸虫類

ミラシジウムは、体を伸縮させたり前後左右に振って幕を全部を拡げて膜を破ろうとする

九州大学出版会図説 人畜共通寄生虫症より

肺に寄生する吸虫類

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124

ミラシジウムは、勢いよく泳ぎ回る

九州大学出版会図説 人畜共通寄生虫症より

肺に寄生する吸虫類

3倍体:モクズカニ

2倍体:サワガニ

第2中間宿主 カワニナ

第1中間宿主

肺に寄生する吸虫類

Page 125: 蠕虫感染症...2013/08/04  · 幼虫移行症&Larva migrans ' 寄生虫 感染経路 幼虫の形態 特徴的症状 主として 皮膚幼虫 移行症 ピョザラ鉤虫、犬鉤虫

125

セルカリアの形態学的相違

肺吸虫 肝吸虫・横川吸虫 住血吸虫

肺に寄生する吸虫類

3倍体:モクズカニ

2倍体:サワガニ

第2中間宿主 カワニナ

第2中間宿主

肺に寄生する吸虫類

Page 126: 蠕虫感染症...2013/08/04  · 幼虫移行症&Larva migrans ' 寄生虫 感染経路 幼虫の形態 特徴的症状 主として 皮膚幼虫 移行症 ピョザラ鉤虫、犬鉤虫

126

ウエステルマン肺吸虫の第2中間宿主

モクズガニ

サワガニ

3倍体2倍体

鰓に寄生するメタセルカリア

肺に寄生する吸虫類

ウエステルマン肺吸虫の感染経路

• 第2中間宿主に付着したメタセルカリアの摂食– モクズガニの場合

• オボロ汁(風土料理)

• カニ団子、カニ味噌、カニとうふ

– サワガニの場合

• 生食やから揚げとして摂食(料亭など)

• 蕁麻疹や虫垂炎の民間療法:つぶして塗布

• 熱さましの民間療法:生の汁

• 待機宿主の筋肉内の幼虫の摂食– イノシシの生肉の摂食

• 中国では、“酔蟹”

酔蟹(スイシエ)

• “サワガニの塩漬け入りソムタム”

ソムタム(タイ料理:青パパイアサラダ)

肺に寄生する吸虫類

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127

肺吸虫症の臨床像

• 胸部肺吸虫症

– 潜伏期:2~3ヶ月

– 咳嗽、胸痛、胸部圧迫感

– 血痰

– 気胸、胸水の貯留、胸膜炎

断層撮影

肺に寄生する吸虫類

http://www.miyazaki-med.ac.jp/parasitology/parasitic%20diseases/Pw%20CT.jpg

肺吸虫症の臨床像

• 脳肺吸虫症

– 脳腫瘍型:てんかん発作、視力障害

– 髄膜脳炎型:発熱、頭痛、嘔気・嘔吐、突然の四肢麻痺

• 皮下肺吸虫症

– 移動性皮膚腫瘤(好酸球増多を伴う)

• 腹部肺吸虫症

– 腹膜刺激症状

– 異所寄生の見られた部位の症状

• 腹腔、腹膜、腸間膜、大網、胃、腸壁、肝臓、腎臓、すい臓、横隔膜、縦隔膜、心嚢、胸腔、眼窩、卵管壁、子宮、膀胱、陰嚢、精巣上体、

肺に寄生する吸虫類

Page 128: 蠕虫感染症...2013/08/04  · 幼虫移行症&Larva migrans ' 寄生虫 感染経路 幼虫の形態 特徴的症状 主として 皮膚幼虫 移行症 ピョザラ鉤虫、犬鉤虫

128

ウエステルマン肺吸虫の診断

回虫の受精卵

40-50µm

50-70µm

ウエステルマン肺吸虫卵

50-55µm

80-90µm

小蓋

集卵法(遠心分離)・ 喀痰・ 糞便

鶏卵型

肺に寄生する吸虫類

肺吸虫の治療

“吸虫の特効薬” プラジカンテル(商品名:ビリトリシド)

・ 1回20mg/kg を1日2回 2日 経口投与

使用禁忌‐ 本剤へのアレルギーの前歴‐ 有鉤のう虫(条虫)症の人‐ リファンピシンの服用中

(1錠中に600mg含有)

肺に寄生する吸虫類

Page 129: 蠕虫感染症...2013/08/04  · 幼虫移行症&Larva migrans ' 寄生虫 感染経路 幼虫の形態 特徴的症状 主として 皮膚幼虫 移行症 ピョザラ鉤虫、犬鉤虫

129

22.宮崎肺吸虫

Paragonimus miyazakii

肺に寄生する吸虫類

ヒトは、非固有宿主なので成虫にはならない終宿主は、イタチ、テン、狸、イヌ、ネコ

大きさはコーヒー豆と同じくらい

虫卵

ミラシジウム

第1中間宿主ホラアナミジンニナ

第2中間宿主サワガニ

メタセルカリア

母レジア

娘レジア

セルカリア

宮崎肺吸虫の生活史

終宿主イタチ、テン、狸、イヌ、ネコ

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130

ヒトへの感染

• 第2中間宿主の摂食

– サワガニの生食

• から揚げで感染した例も報告

• 待機宿主の摂食

– イノシシ肉の生食

症状・診断・治療

• 幼虫移行症

– 気胸、胸水、膿胸

– 著明な好酸球増多症

• 免疫学的診断法

– Ouchterlony法

– ELISA法

– 免疫電気泳動法 ゲル内沈降反応

• プラジカンテルによる治療

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131

吸虫の分類 (臨床的な分類)

• 消化管に寄生する吸虫類– 横川吸虫

• 肝臓に寄生する吸虫類– 肝吸虫

– 肥大肝蛭

• 肺組織に寄生する吸虫類– ウエステルマン肺吸虫(3倍体、 2倍体 )

– 宮崎肺吸虫

• 血管に寄生する吸虫類– 日本住血吸虫、マンソン住血吸虫、ビルハルツ住血吸虫

– ムクドリ住血吸虫

23. 住血吸虫症

日本住血吸虫:Schistosoma japonicum

マンソン住血吸虫:Schistosoma mansoni

ビルハルツ住血吸虫:Schistosoma haematobilium

桂田富士郎博士

明治37年(1904)「日本住血吸虫」の発見により、一躍全国に博士の名が知れわたった。

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132

住血吸虫とは?

• 血管内に寄生し、産卵された大量の卵が寄生部

位の組織を栓塞するので、その部位が壊死・脱

落する。

– 日本住血吸虫:肝硬変

– マンソン住血吸虫:肝硬変

– ビルハルツ住血吸虫症:排尿困難

• 雌雄異体・・・・・・雌雄抱擁状態

疫学• 熱帯地域で、マラリアに次ぐ大きな寄生虫症

– 東南アジア、中国:日本住血吸虫

– アフリカ、南米:マンソン住血吸虫

– アフリカ:ビルハルツ住血吸虫

Global distribution and control status of schistosomiasis.

Control unsuccessful Control successful

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133

日本住血吸虫ビデオ

• フィリピンレイテ島における状況

• 日本住血吸虫の感染環

• 日本における対策

• ・・

セルカリアが巻貝から水中へ放出され、自由遊泳巻貝の中の

スポロシスト

ミラシジウムが

淡水産巻貝へ侵入

卵からミラシジウムアが放出

糞便中

皮膚を貫通

セルカリアが尾部を失い、シストソムラとなる

血流、リンパ流により全身を循環

毛細管→門脈へ到達し

成虫へ

雌雄合体型の成虫が移動し、腸間膜静脈などで産卵、卵は肝臓へ(一部腸壁から脱落し糞便へ

日本住血吸虫の生活環

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134

セルカリアの構造

頭部尾部

きび

岐尾セルカリア

住血吸虫症の初期症状

– セルカリア性皮膚炎– 多数侵入した時は、5-10日後に咳が続き、倦怠感、

食欲不振、微熱などの初期症状が出現することがある。

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135

日本住血吸虫の移行経路

セルカリアは尾を捨てて体だけ侵入

血液、リンパ流で静脈に入り,心臓へ

肺動脈を経て肺組織へ到達

腸間膜動脈から腸壁の毛細血管を経てへ

心臓へと戻り,大循環へ

門脈系へ到着

自力で組織内を移動

横隔膜、肝臓を経て

成熟した虫が腸粘膜を破壊して卵が糞便中へ排泄

成虫の構造

• 雌: 25×0.3mm 細くて長い

– 全身の大半が子宮• 運動能力が退化

• 咽頭筋も退化

• 雄:15×0.5mm 太くて短い

– 前半部は、円筒状

– 後半部は、鞘状で抱雌管を形成

“マントで包むように雌を抱いている”

“産卵場所まで雌を運ぶ必要がある”

“雌の栄養摂取を補助する必要がある”

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136

日本住血吸虫の症状

• セルカリア侵入時– 皮膚炎

– 多数侵入した時

• 5-10日後に咳が続き、倦怠感、食欲不振、微熱

• 急性期– 消化器症状

• 腸粘膜の梗塞性損傷により、粘血便

• 下痢、発熱、好酸球増多

• 慢性期– 消化器症状

• 肝腫、脾腫、肝硬変、腹水、貧血

– 脳症状

• 虫卵の脳血管を塞栓し

• てんかん様発作、頭痛、運動麻痺、視力障害(中国の日本住血吸虫症の患者)

24 ビルハルツ住血吸虫

マンソン住血吸虫

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137

マンソン住血吸虫とビルハルツ住血吸虫の分布

セルカリアが巻貝から水中へ放出され、自由遊泳巻貝の中の

スポロシスト

ミラシジウムが

淡水産巻貝へ侵入

卵からミラシジウムアが放出

糞便中 尿中

皮膚を貫通

セルカリアが尾部を失い、シストソムラとなる

血流、リンパ流により全身を循環

毛細管→門脈へ到達し

成虫へ

雌雄合体型の成虫が移動するA,Bの場合は、腸間膜静脈などで産卵、卵は肝臓へ(一部腸壁から脱落し糞便へ)Cの場合、膀胱、肛門周囲静脈で産卵、卵は膀胱、尿道などへ(一部尿中へ排泄)

住血吸虫の自然生活史

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138

ビルハルツ住血吸虫の症状

• セルカリア侵入時– 日本・マンソン住血吸虫に同じ

• 急性期– 頭痛、腰部の鈍痛、全身倦怠感、好酸球増多

– 排尿時の灼熱感

– 尿意頻数

• 慢性期– 血尿

– 排尿困難

– 腎盂炎

– 膀胱がん

(ビルハルツ住血吸虫症患者の血尿)

3つの住血吸虫の中間宿主

ビルハルツ住血吸虫マンソン住血吸虫日本住血吸虫

宮入貝 Biomphalaria glabrata Bulinus trucatus

淡水性の巻貝

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139

3つの住血吸虫卵

ビルハルツ住血吸虫マンソン住血吸虫日本住血吸虫

糞便 尿糞便

住血吸虫の治療

“吸虫の特効薬” プラジカンテル(商品名:ビリトリシド)

・ 1回20mg/kg を1日2回 2日 経口投与

使用禁忌‐ 本剤へのアレルギーの前歴‐ 有鉤のう虫(条虫)症の人‐ リファンピシンの服用中

(1錠中に600mg含有)

肺に寄生する吸虫類

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140

25 鳥類の住血吸虫

鳥類住血吸虫のセルカリアによる掻痒性皮膚炎

・セルカリア皮膚炎は強い掻痒感を伴う湿疹で、数日間持続する

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141

• ムクドリ住血吸虫

– 湖岸病

• 島根県宍道湖

– 固有宿主:ムクドリ、マガモ、すずめ、カラス

– 中間宿主:ヒラマキモドキ

• Trichobilharzia physellae

– 水田皮膚炎

• 島根県隠岐島

– 固有宿主:カモ

– 中間宿主:モノアラガイ

• Trichbilharzia brevis

– 水田皮膚炎

• 日本国内で広く分布

– 固有宿主:アヒル

– 中間宿主:ヒメモノアラガイ

水田皮膚炎による色素沈着

モノアラガイ

吸虫:Trematodes(=flatworms)

肺吸虫

肥大吸虫肝蛭

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142

条虫

線虫 吸虫 条虫

ミミズ、針金 葉っぱ テープ

教育内容

• 条虫総論

– 形態

– 生活史

– 診断と検査法

• 各論

– 成虫が消化管に寄生

– 幼虫が組織に寄生

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143

形態

・ テープ状・ 数mm~10m

・ 外被・ 栄養を吸収、分泌・排泄・ 消化管は有さない

・ 片節連体(Strobila:ストロビラ=chain)・ 頭節 (scolex)・ 頸部(neck)

・ 片節(proglottids)

・ 雌雄同体・ 成熟片節に1対ずつ

(大複殖門条虫は2対ずつ)

・ 自家受精又は他家受精

(1)未熟片節(2)成熟片節(3)受胎片節 (円葉類)

老熟片節 (擬葉類)

条虫の構造(外被)

脊椎動物の腸上皮細胞 条虫の外被の細胞

線虫の体表面は,

分泌物で構成!

宿主の消化液から

守るために、体外

酵素をだしてい

る!

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144

条虫の構造(頭片節)

擬葉類 円葉類Pseudophyllidea Cyclophyllidea

吸溝のみ 吸盤、鉤、額嘴(bothrium)

条虫の構造(成熟片節)

擬葉類 円葉類Pseudophyllidea Cyclophyllidea

1:生殖孔、2:膣、3:陰茎嚢、4:輸精管、5:精巣、6:子宮、7:子宮口(産卵口)、8:卵巣、

9:卵黄腺、10:メーリス腺、11:卵形成腔

・子宮口なし・生殖孔が片節側面に開口

・子宮口あり・生殖孔が片節腹面に開口

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145

条虫の構造(成熟片節)

・ 子宮口が無いので、卵ができると子宮が大きくなり、

ついに片節全体を占拠し、他の臓器は退化する

・ 片節が壊れて、卵が遊離する

・ 未熟なまま排卵される

・ 水に入ってから、六鉤幼虫になる

・ 繊毛をもつのでコラシジウムという

擬葉類 円葉類Pseudophyllidea Cyclophyllidea

子宮孔生殖孔

生殖孔

子宮

子宮

卵巣

卵巣

コラシジウム

六鉤幼虫

幼虫被殻

A:縮小条虫 (幼虫被殻が薄い)

B:無鉤条虫 (幼虫被殻が厚い)A

B

卵殻

条虫の構造(卵)

擬葉類 円葉類Pseudophyllidea Cyclophyllidea

卵細胞と卵黄細胞 六鉤幼虫

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146

条虫の構造

・ 神経系

・ 頭節に中枢、全片節が統合

・ 神経管が片節側方を後方に走

る ・ 各片節で連合枝を形成

・ 排泄系

・ 各片節の柔組織に散在する炎細胞

・ 毛細管

・ 片節を縦走する排泄管を通じて、外界へ

条虫の生活史

擬葉類 円葉類Pseudophyllidea Cyclophyllidea

終宿主

第1中間宿主

第2中間宿主

終宿主

中間宿主

卵卵卵卵

卵 卵卵卵卵

卵C

CCC

C

コラシジウム

Pro

プロセルコイド

Plero

プレロセルコイド

成虫

嚢虫、共尾虫、包虫、擬嚢尾虫

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147

・ 円葉類

・ 六鉤幼虫を有する卵

・ 中間宿主は1つ

・ 中間宿主では嚢虫などを形成する

‐ 嚢虫(シスチセルカス)

‐ 共尾虫(コヌルス)

‐ 包虫(エキノコッカス)

‐ 擬嚢尾虫(シスチセルコイド)

・ 擬葉類

・ 虫卵は水中でコラシジウムに発育

・ 第1中間宿主の中で、プロセルコイドになる

・ 第2中間宿主のなかで、プレロセルコイドとなる

・ プレロセルコイドを食べた終宿主の腸管内で成虫に発育

包虫(単包条虫の幼虫)

嚢虫(有鉤条虫の幼虫)

条虫の生活史

・ プラジカンテル(ビルトリシド)

・ 投与前処置

‐ 前夜の夕食は、消化が良いもの

‐ 就眠前に緩下剤を投与し、翌朝十分な排便を促す

・ 投与

‐ 当日の朝食は軽食

‐ プラジカンテル20~30mg/kgを1回内服させる

‐ 投与後2時間後に、塩類下剤(硫酸マグネシウム等)

‐ 便意を我慢させ、一気に排便させる。

‐ 全便を採取し(便は少ない)、便を5~10回水で洗う

‐ 便の残渣中に頭節を採取する

‐ 頭節を採取されなかった場合には、2~3ヵ月後に虫卵検査を行う

条虫の駆虫法

プラジカンテルは、虫体を融解させてしまうので下剤にて早急に虫体の排泄を試みる

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148

・ ガストログラフィン法 (有鉤条虫の場合の駆虫法)

・ 投与前処置

‐ 前夜の夕食は、消化が良いもの

‐ 就眠前に緩下剤を投与し、翌朝十分な排便を促す

・ 投与

‐ 当日の朝食は絶食

‐ 透視下で十二指腸カテーテルを用いて、下行脚まで挿入

‐ 200mlガストログラフィン注入

‐ 10分後にさらに100ml注入

‐ 虫体が下降するのを確認し、一気に排便させる。

‐ 虫体が下降しなければ、再度100ml追加注入する。

条虫の駆虫法

条虫の分類 (臨床的な分類)

• 成虫が消化管に寄生– 裂頭条虫類

• 日本海裂頭条虫、広節裂頭条虫、大複殖門条虫、(マンソン裂頭条虫)

– テニア類• 無鉤条虫、有鉤条虫

– 膜様条虫類• 小型条虫、縮小条虫

• 幼虫が組織に寄生– 包虫によるもの

• 単包虫、多包虫

– 嚢尾虫によるもの• 有鉤嚢虫症

– プレロセルコイドによるもの

• マンソン孤虫症

円葉類

擬葉類

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条虫の分類 (臨床的な分類)

• 成虫が消化管に寄生– 裂頭条虫類

• 日本海裂頭条虫、広節裂頭条虫、大複殖門条虫、(マンソン裂頭条虫)

– テニア類• 無鉤条虫、有鉤条虫

– 膜様条虫類• 小型条虫、縮小条虫

• 幼虫が組織に寄生– 包虫によるもの

• 単包虫、多包虫

– 嚢尾虫によるもの• 有鉤嚢虫症

– プレロセルコイドによるもの

• マンソン孤虫症

26.日本海裂頭条虫 と 広節裂頭条虫

Diphyllobothrium nihonkaiense

Diphyllobothrium latum

おいしいきし麺

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150

日本海裂頭条虫の疫学

• 歴史

– マスの摂食の歴史とともに古くから記載

– 奈良時代の便所の遺跡から虫卵が発見

– かつて、広節裂頭条虫とみなされていたが、研究の結果、独立種になる。

• 国内分布

– かつては、サクラマス、カラフトマスの取れる河川流域

– 流通機構の発達とともに、全国的に患者が見られる

日本海裂頭条虫の生活史

サクラマスの筋肉内のプレロセルコイド

サクラマス

カラフトマス

プレロセルコイド

熊 イヌ

虫卵

コラシジウムケンミジンコないのプロセルコイド

終宿主

第1中間宿主

第2中間宿主

成虫

成虫は5~10m

小腸上部に寄生100万個/日産卵

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151

日本海裂頭条虫による症状

• 無症状

– 虫体の一部が排泄されて気づくことが多い

– 突然、下痢、腹痛を起こすこともある

• 検査

– 時に、好酸球増多症

(新選病草子:鱒を生食し、8,9尺の条虫が2,3匹でてきた。箸に巻き取る方法が昔から用いられた。)

広節裂頭条虫の疫学

• 世界分布

– 北欧

• フィンランド

• バルト海沿岸諸国

• アイルランド

– 第2中間宿主の生息地

• 河川、湖に生息する淡水魚

*日本海裂頭条虫の場合は、回遊する

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Pike

(カワカマス)

Burbot

カワメンタイ:タラ科の淡水魚

プレロセルコイド

成虫

イヌ

虫卵

コラシジウムケンミジンコないのプロセルコイド

終宿主

第1中間宿主第2中間宿主

広節裂頭条虫の生活史

成虫は5~10m

小腸上部に寄生100万個/日産卵

広節裂頭条虫による症状

• 裂頭条虫性悪性貧血

– バルト海沿岸で2%

– ビタミンB12と胃液中の内因子との結合を阻害し、

遊離したビタミンB12を吸収する。

• 消化器症状

– 悪心、嘔吐、腹痛、腹部不快感

– 下痢、軟便、食欲不振、体重減少

– 多数寄生による腸閉塞

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153

裂頭条虫の診断

• 片節

未熟片節(ヘマトキシリン染色) 成熟片節(カルミン染色)未熟片節(未染色)

・ 大複殖門条虫との鑑別は、片節の圧平標本で可能

・ 日本海裂頭条虫と広節裂頭条虫との鑑別は、陰茎嚢と貯精嚢の位置関係で行う

裂頭条虫卵の診断

回虫の受精卵

40-50µm

50-70µm

日本海裂頭条虫 又は広節裂頭条虫卵

45-50µm

65-70µm

小蓋

集卵する必要ない楕円形

消化管に寄生する条虫類

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154

その他の海洋性裂頭条虫の人への感染

日本では、海産魚類の刺身、寿司が好んで食される。鯨、アザラシ、オットセイの海洋性哺乳類の裂頭条虫の人体寄生が散発している。

1 米子裂頭条虫

2 太平洋裂頭条虫

3 シャチ裂頭条虫

4 カメロン裂頭条虫

5 スコットランド裂頭条虫

6 アザラシ裂頭条虫

27. 大複殖門条虫Diplogonoporus grandis

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155

疫学

• 日本で発見

– 1984年、長崎の炭鉱夫から第1例が報告

• 分布

– 高知、静岡、島根、鳥取、長崎、福岡から報告が多い• イワシの産卵海域に近い海岸地帯で多く発生

– 東北、北海道からは報告なし

• 喫食歴

– イワシの内臓、刺身、稚魚の生食

– イワシが第2中間宿主か?

大複殖門条虫の生活史

成虫:3~6m

終宿主:鯨、ヒトなど

第1中間宿主(プロセルコイド)

第2中間宿主いわし?

(プレロセルコイド)

経口摂取

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156

裂頭条虫の診断

• 片節

片節ごとに、生殖器を2組づつ有する‐3組の生殖器を持った片節を持つものも少なくない

片節は、頸部で新生されるほか、成熟片節からも分節される

条虫の分類 (臨床的な分類)

• 成虫が消化管に寄生– 裂頭条虫類

• 日本海裂頭条虫、広節裂頭条虫、大複殖門条虫、(マンソン裂頭条虫)

– テニア類• 無鉤条虫、有鉤条虫

– 膜様条虫類• 小型条虫、縮小条虫

• 幼虫が組織に寄生– 包虫によるもの

• 単包虫、多包虫

– 嚢尾虫によるもの• 有鉤嚢虫症

– プレロセルコイドによるもの

• マンソン孤虫症

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157

28. マンソン裂頭条虫とマンソン孤虫Spirometra erinaceieuropaei (成虫)Sparganum mansoni(幼虫)

食べ物ではない!

マンソン裂頭条虫の疫学

• 以前は、Diphyllobothrium mansoniと呼称

• 日本を含む世界中のイヌ・ネコに寄生

• ヒトが感染した場合

– 稀に、腸管内で成虫になる

– 通常は、成虫にならずに幼虫のまま体内を移行する

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158

マンソン裂頭条虫の生活史

ケンミジンコとともにプロセルコイドが摂取

カエル、蛇とともにプレロセルコイドが摂取

又は

ヒトの腸壁から、体内を自由

に動き回る

・ 皮下組織・ 肝臓・ リンパ節・ 肺、胸膜・ 脳・ 目

中には、稀に腸内にとどまりそのまま成虫になる虫もいる

マンソン孤虫の外科的除去

乳房に生じた腫瘤の切開創

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159

マンソン孤虫の外科的除去

大陰唇に生じた腫瘤の切開創

マンソン裂頭条虫の診断

• 幼虫の場合

– 幼虫移行症

– 鑑別疾患として

• 顎口虫症

• 肺吸虫症

• 成虫の場合

– 排泄された虫卵

移動しない皮下腫瘤・エキノコックス・有鉤嚢虫症

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マンソン裂頭条虫の虫卵診断

回虫の受精卵

40-50µm

50-70µm

マンソン裂頭条虫卵

35µm

70µm

消化管に寄生する条虫類

・ややとがった紡錘系

・左右不対象

・卵殻は薄い

・蓋が有る

幼虫が組織に寄生する条虫類

条虫の分類 (臨床的な分類)

• 成虫が消化管に寄生– 裂頭条虫類

• 日本海裂頭条虫、広節裂頭条虫、大複殖門条虫、(マンソン裂頭条虫)

– テニア類• 無鉤条虫、有鉤条虫

– 膜様条虫類• 小型条虫、縮小条虫

• 幼虫が組織に寄生– 包虫によるもの

• 単包虫、多包虫

– 嚢尾虫によるもの• 有鉤嚢虫症

– プレロセルコイドによるもの

• マンソン孤虫症

Page 161: 蠕虫感染症...2013/08/04  · 幼虫移行症&Larva migrans ' 寄生虫 感染経路 幼虫の形態 特徴的症状 主として 皮膚幼虫 移行症 ピョザラ鉤虫、犬鉤虫

161

29. 無鉤条虫Taenia saginata

ひも状の 太った

別名:beef tapeworm

“角がある”

無鉤条虫の疫学

• 世界の食肉圏に広く分布

– アメリカ、南米、ロシア、東欧

– アジア(北部中国、韓国)

• 宗教や食習慣に関連

– イスラム教徒には多い

– ヒンズー教徒には分布しない

• 国内ではまれ

– 輸入感染症

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162

・ 体長:3~7m

・ 最大幅:7~12mm

・ 総片節数:約1000個・ 頭節:4個の吸盤

鉤がない

成虫

虫卵又は受胎片節が環境中へ

牛:角あり

環境中の虫卵又は受胎片節を

食すると感染する

ヒトのみが固有宿主

成虫は小腸内に寄生

頭節が小腸に吸着

六鉤幼虫が孵化

し、小腸壁を貫通

し筋肉中へ移行

六鉤幼虫が筋肉内で

孵化し、嚢尾虫となるヒトは、生肉又は不十分

な加熱の肉を食して感染

腸管内で片節が破壊されたときには、検便にて虫卵が検出される

無鉤条虫の生活史

Page 163: 蠕虫感染症...2013/08/04  · 幼虫移行症&Larva migrans ' 寄生虫 感染経路 幼虫の形態 特徴的症状 主として 皮膚幼虫 移行症 ピョザラ鉤虫、犬鉤虫

163

無鉤条虫の感染経路

• 嚢尾虫を含む牛肉の摂食

– 生やきのステーキ

– 生肉

– 刺身(ユッケ)

– ホルモン料理

– 焼肉料理

おいしいユッケ

ジューシーなT-bone steak

無鉤条虫による症状

• 無症状のこともある

– 虫体の一部が排泄されて気づく

• 腹部症状

– 虫体の機械的刺激、排泄物の刺激→腸管の炎症性変化

– 腹痛、肛門部不快感・掻痒感

• 臍部中心の鈍痛、痙攣様疼痛

• 悪心、倦怠感、体重減少、食欲不振、・・・

– 合併症

• 鼻咽頭迷入、胆嚢内迷入、虫垂炎、胆石様発作、腸閉塞

• 検査

– 感染後2~4ヶ月

• 好酸球増多症(10%以上)

• IgA,IgEの上昇

アレルギー反応が関与か?

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164

無鉤条虫の診断

• セロファン肛門周囲検査法による虫体検出

– 有鉤条虫との区別はできない

• 排泄された受胎片節

– 不透明乳白色

– 運動性あり

– 子宮側枝が15~20本以上

• 駆虫時に頭節の無鉤を確認

染色した受胎片節

無鉤条虫又は有鉤条虫の虫卵診断

回虫の受精卵

40-50µm

50-70µm

無鉤条虫卵 又は有鉤条虫卵

30-43µm

30-43µm

消化管に寄生する条虫類

単包虫単包虫単包虫単包虫のののの虫卵虫卵虫卵虫卵にににに似似似似ているているているている!!!!

Page 165: 蠕虫感染症...2013/08/04  · 幼虫移行症&Larva migrans ' 寄生虫 感染経路 幼虫の形態 特徴的症状 主として 皮膚幼虫 移行症 ピョザラ鉤虫、犬鉤虫

165

30.有鉤条虫Taenia solium

ひも状の

別名:pig tapeworm

“角がない”

有鉤条虫の疫学

• 世界の食肉圏に広く分布

– 中南米(特にメキシコ、チリ)、南アフリカ

– インド、東南アジア、中国、韓国

• 宗教や食習慣に関連

– イスラム教徒には少ない

• 国内ではまれ

– ほとんどなし

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166

・ 体長:2~5m

・ 最大幅:7~12mm

・ 総片節数:1000個以下・ 頭節:4個の吸盤

鉤、額嘴がある

成虫

虫卵又は受胎片節が環境中へ

環境中の虫卵又は受胎片節を

食すると感染する

ヒトのみが固有宿主

成虫は小腸内に寄生

頭節が小腸に吸着

六鉤幼虫が孵化

し、小腸壁を貫通

し筋肉中へ移行

六鉤幼虫が筋肉内で

孵化し、嚢尾虫となる

腸管内で片節が破壊されたときには、検便にて虫卵が検出される

豚:角なし

虫卵を摂取

筋肉、皮膚、脳な

どで有鉤嚢尾虫を

形成

ヒトは、生肉又は不十分

な加熱の肉を食して感染

有鉤条虫の生活史

孵化した六鉤幼虫が次々に腸管壁を通過し有鉤嚢尾虫を形成(自家感染)

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167

有鉤嚢尾虫(シスチセルカス)

球形、楕円球形(レモン型)、半透明、水胞状の嚢状体で、中に水溶液を満たしている。反転した頭節が内蔵されている。

有鉤条虫の感染経路

• 嚢尾虫を含む豚肉の摂食

– 生やきの肉

– 生肉

• 虫卵に汚染された食べ物(野菜など)、飲料水

– 不衛生な食堂での喫食

• 自家感染

– 保虫者の肛門周囲に付着している虫卵の摂取

– 受胎片節から遊離した虫卵から孵化した六鉤幼虫の

感染

嚢尾虫そのものは、45-50℃

の加熱、‐2℃以下で死滅する

が、肉内のものは残っている可

能性がある。(‐10℃で4日以

上)

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有鉤条虫による症状

• 成虫による症状は、無鉤条虫に同じ

– 腹部膨満感、悪心、腹痛、下痢、便秘などの消化器症状

• 有鉤嚢虫症

– 皮下・筋肉

• 無痛性隆起

• 平滑、弾性硬

– 脳

• てんかん、痙攣

• 水頭症

• 髄膜炎

– その他

• 目、肺、肝、腎など

有鉤嚢虫症(小腫瘤)

有鉤条虫の診断

• セロファン肛門周囲検査法による虫体検出

– 無鉤条虫との区別はできない

• 排泄された受胎片節

– 不透明乳白色

– 運動性あり

– 子宮側枝が7~13本

• 駆虫時に頭節の有鉤を確認

染色した受胎片節

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“角がある”(牛) “角がない”

“鉤が無い”(無鉤条虫) “鉤が有る”(有鉤条虫)

子宮枝が多い 子宮枝が少ない

31. アジア条虫Taenia asiatica

2010年から国内でも患者発生・鉤がない→無鉤条虫に似ている・豚に関連→有鉤条虫に似ている

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170

アジアアジアアジアアジア条虫症発生相次条虫症発生相次条虫症発生相次条虫症発生相次ぐぐぐぐレバーのレバーのレバーのレバーの生食生食生食生食でででで感染感染感染感染 国内定着国内定着国内定着国内定着のののの可能性可能性可能性可能性

2011.05.31

これまで日本には分布しないと考えられていたサナダムシの一種「アジア条虫」に感染した患者が昨年6月以降、関東地方の1都5県で計15人確認された。この寄生虫は主に豚を中間宿主とし、幼虫が寄生した肝臓(レバー)を生食したり、加熱不十分な状態で食べたりすると感染する。

患者はいずれも海外の流行地への渡航歴が無く、国内にアジア条虫が定着している可能性も出てきた。

折しも、生の牛肉を使ったユッケを食べ、腸管出血性大腸菌O111に感染した集団食中毒事件が不安を広げている。専門家は「生肉にはさまざまな感染の危険が潜む。必ず加熱して食べるべきだ」と警鐘を鳴らす。

同研究所寄生動物部の山崎浩室長は、念のため検査を2度繰り返した。結果は2度ともアジア条虫だった。 だが、驚きはまだ続いた。7月上旬、栃木県の独協医大から持ち込まれた寄生虫もアジア条虫と判明。その後も確認が相次ぎ、今年2月までに群馬、栃木、埼玉、東京、神奈川、千葉で計15人もの患者が見つかった。

http://www.47news.jp/feature/medical/2011/05/post-543.html

ヒトに感染するテニア属条虫の生活環

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171

寄生部位は豚肉でなく“豚レバー”

虫卵又は受胎片節が環境中へ

環境中の虫卵又は受胎片節を

食すると感染する

成虫は小腸内に寄生

六鉤幼虫が孵化

し、小腸壁を貫通

し肝臓へ移行

六鉤幼虫が肝臓内で

孵化し、嚢尾虫となるヒトは、生肉又は不十分

な加熱の肉を食して感染

アジア条虫の生活史

T.asiaticaT.asiaticaT.asiaticaT.asiatica

腸管内で片節が破壊されたときには、検便にて虫卵が検出される

2~3か月後成虫となる

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172

• 症状

– 軽微な下痢程度、腹痛はほとんどない

– 嚢虫症にはならない

– 不愉快

• 片節が便とともに排泄

• 片節が肛門からもぞもぞと自発的に排泄される

• 治療

– プラジカンテル

– ガストログラフィンによる駆虫

条虫の分類 (臨床的な分類)

• 成虫が消化管に寄生– 裂頭条虫類

• 日本海裂頭条虫、広節裂頭条虫、大複殖門条虫、(マンソン裂頭条虫)

– テニア類• 無鉤条虫、有鉤条虫

– 膜様条虫類• 小型条虫、縮小条虫

• 幼虫が組織に寄生– 包虫によるもの

• 単包虫、多包虫

– 嚢尾虫によるもの• 有鉤嚢虫症

– プレロセルコイドによるもの

• マンソン孤虫症

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173

32. 小型条虫Hymenolepis nana

別名:dwarf tapeworm

コビト

ハムスター

小型条虫の疫学

• 世界中に広く分布するが、特に温暖な地方に多い

– 東欧(サマルカンド)

– 南米、地中海沿岸諸国

– インド

– ハワイ諸島

• 小児での感染率が高く、成人ではまれ– 保育園、幼稚園での集団発生の危険性

• 国内では皆無– かつては集団検診で1%程度

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174

・ 体長:1~3cm

・ 最大幅:1mm以下・ 総片節数:約200個・ 頭節:4個の吸盤

額嘴、鉤

成虫

腸管内での自家感染

六鉤幼虫が虫卵が糞便に排泄

ネズミノミ、穀類昆虫に摂取

4日後には、昆虫

内でシスチセルコイド(擬嚢尾虫)になる

ヒト又はネズミが、シスチセルコイドに感染した昆虫を摂取

六鉤幼虫の入った虫卵を直接摂取

小型条虫の生活史

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175

小型条虫の自家感染

六鉤幼虫が孵化

腸絨毛内に寄生

擬嚢尾虫(シスチセルコイド)になる

腸絨毛を破壊し遊離

腸に固着し成虫になる

糞便とともに外界へ

一部は腸内へ

小型条虫による臨床像

• 症状

– 少数感染:無症状のこともある

– 多数感染:下痢、腹痛、悪心、嘔吐、頭痛、異味症、虫体の排泄

• 予防

– 床の清掃、ネズミの駆除

– 集団検診による患者の早期発見、治療

– 食べ物の汚染、便器、手拭などの汚染防止

• 治療

– プラジカンテル

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176

小型条虫の虫卵診断

回虫の受精卵

40-50µm

50-70µm

小型条虫卵

消化管に寄生する条虫類

50µm

40µm

33. 縮小条虫Hymenolepis diminuta

別名:rat tapeworm

ネズミ

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177

縮小条虫の疫学

• 世界中に広く分布するネズミの条虫

・ 体長:20~60cm

・ 最大幅:3.5mm

・ 総片節数:約600個・ 頭節:4個の吸盤

痕跡状の額嘴、無鉤

成虫

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178

六鉤幼虫が虫卵が糞便に排泄

ネズミノミ、穀類昆虫に摂取

4日後には、昆虫

内でシスチセルコイド(擬嚢尾虫)になる

ヒト又はネズミが、シスチセルコイドに感染した昆虫を摂取

六鉤幼虫の入った虫卵を直接摂取

縮小条虫の生活史

腸管内での自家感染はない

縮小条虫による臨床像

• 症状

– 下痢、腹痛(一般に軽い)

• 診断

– 虫卵の確認

• 治療

– プラジカンテル

• 予防

– 小型条虫に同じ

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縮小条虫の虫卵診断

回虫の受精卵

40-50µm

50-70µm

縮小条虫卵

消化管に寄生する条虫類

85µm

60µm

条虫の分類 (臨床的な分類)

• 成虫が消化管に寄生– 裂頭条虫類

• 日本海裂頭条虫、広節裂頭条虫、大複殖門条虫、(マンソン裂頭条虫)

– テニア類• 無鉤条虫、有鉤条虫

– 膜様条虫類• 小型条虫、縮小条虫

• 幼虫が組織に寄生– 包虫によるもの

• 単包虫、多包虫

– 嚢尾虫によるもの• 有鉤嚢虫症

– プレロセルコイドによるもの

• マンソン孤虫症

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34. 包虫属 エキノコックス

単包虫 Echinococcus granulosus

多包虫 Echinococcus multilocularis

イヌ類が終宿主

エキノコックスの疫学

• 単包条虫 Echinococcus granulosus

– 全世界

– 日本では、九州、四国などの温暖な地方

• 多包条虫 E. multilocularis

– 北半球のみに分布• ユーラシア大陸の北部、中央ヨーロッパ、旧ソ連

• トルコ~中国北アメリカのツンドラ地帯~中央部穀倉地帯

– 日本では、北海道、東北地方などの寒冷の地方

• フォーゲル包条虫 E. vogeli

– 中南米のみ

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181

エキノコックスの世界分布

単包虫

多包虫

フォーゲル包虫

単包虫と多包虫の違い(成虫)

精巣

陰茎嚢

卵黄腺

卵巣

子宮

虫卵

単包虫 多包虫

・ 体長 : 大きい(3~6mm)・ 片節 : 3個 時に4個・ 頭節 : 4個の吸盤、額嘴、鉤・ 未熟片節 : 1個・ 受胎片節 : 虫卵が充満

・ 体長 : 小さい(1.2~3.7mm)・ 片節 : 2~5個 時に6個・ 頭節 : 4個の吸盤、額嘴、鉤・ 未熟片節 : 2個・ 受胎片節 : 虫卵が充満

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182

エキノコックスの生活史

成虫が小腸に寄生

糞便中に虫卵を排泄

孵化し六鉤幼虫が腸管壁に侵入

血流、リンパ流

多包虫 単包虫

身体各所で包虫を形成

終宿主(イヌ、狐、ネコ科動物)

虫卵の摂取

中間宿主

(羊,牛,馬,豚,ヤギ,鼠)

包虫(臓器)の摂取

原頭節がシストから遊離

頭節が小腸壁に固着

ヒトへの単包虫感染終宿主

中間宿主

卵の経口接種

胃を通り小腸で孵化

六鉤幼虫が門脈から肝臓へ

単包虫に発達

原頭節が血管に入り心臓へ

肺にとどまり二次包虫形成

肺から全身へ(心臓、脳、皮下)

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183

終宿主

中間宿主

ヒトへの多包虫感染

卵の経口接種

胃を通り小腸で孵化

六鉤幼虫が門脈から肝臓へ

多包虫に発達

原頭節が血管に入り心臓へ

肺にとどまり二次包虫形成

肺から全身へ(心臓、脳、皮下)

単包条虫

M: 母包虫 Mother cyst

D: 娘包虫 Daughter cyst

1:角皮層 cuticular layer

2:胚層 germinal layer

3、4:繁殖胞 brood capsule

5:原頭節 protoscolex

6:包虫砂 hydatid sand

と多包条虫の発育の違い

母包虫の壁から外側に向かって、多数の娘包虫ができ、次々に外方に新生して、組織を浸潤する

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単包虫と多包虫の臨床像単包虫 多包虫

嚢状で単包性、液状 スポンジ状、粘液状

単包虫と多包虫の臨床像単包虫 多包虫

Page 185: 蠕虫感染症...2013/08/04  · 幼虫移行症&Larva migrans ' 寄生虫 感染経路 幼虫の形態 特徴的症状 主として 皮膚幼虫 移行症 ピョザラ鉤虫、犬鉤虫

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感染源と予防

• 感染源:身近にいるイヌの大便

– 卵が飲み水に侵入、生食される野菜に付着

• 感染予防

– 手洗いの励行

– 加熱処理

– 感染イヌの治療(プラジカンテル)

– イヌに生肉を与えない

– 野犬対策

単包虫又は多包虫の虫卵

回虫の受精卵

40-50µm

50-70µm

無鉤条虫卵 又は有鉤条虫卵

30-43µm

30-43µm

幼虫が組織に寄生する条虫類

単包虫卵 又は多包虫卵

35µm

35µm

比較的抵抗が強く・乾燥に12日耐える・水中では4ヶ月生存

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診断

– X線、超音波、CTなどの画像診断

• 他の疾患との鑑別が重要

– 免疫血清学的診断

– 穿刺して、包虫砂を確認

• 転移

• アナフィラキシーショック

治療

• 治療

– 摘出可能なものは外科手術

– PAIR:Puncture of percutaneously,Aspiration of fluid,

Introduction of protoscolicidal agent, and Reaspiration

– 不可能なものは、薬物療法

イヌ(エキノコッカスの成虫)には、プラジカンテル!

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主な蠕虫の分類線虫 吸虫 条虫

1 蛔虫

2 鞭虫

3 蟯虫

4 旋毛虫

5 ズビニ鉤虫、アメリカ鉤虫

6 糞線虫

7 東洋毛様線虫

8 バンクロフト糸状虫など

9 オンコセルカ

10 メジナ虫

11 犬鉤虫・ブラジル鉤虫

12 顎口虫類

13 犬蛔虫・猫蛔虫

豚回虫、アライグマ回虫

14 アニサキス

15 広東住血線虫

16 犬糸状虫類

17 旋尾線虫

18 横川吸虫

19 肝吸虫

20 肝蛭

巨大吸虫

21 ウエステルマン肺吸虫

ベルツ肺吸虫

22 宮崎肺吸虫

23 日本住血吸虫

24 ビルハルツ住血吸虫

マンソン住血吸虫

25 鳥類の住血吸虫

26 日本海裂頭条虫

広節裂頭条虫

27 大複殖門条虫

28 マンソン裂頭条虫

及びマンソン孤虫

29 無鉤条虫

30 有鉤条虫(有鉤嚢虫)

31 アジア条虫

32 小型条虫

33 縮小条虫

34 単包条虫・多包条虫