冠動脈狭窄病変に対する冠動脈狭窄病変に対する 心...

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内山隆史 1) , 永尾正 1) , 生天目安英 1) , 土方伸浩 1) , 堀裕一 1) , 村田直隆 1) , 佐藤秀明 1) , 小堀裕一 1) , 佐藤信也 1) , 江川公伸 2) , 川端卓也 2) , 高橋正徳 2) , 土井正英 2) 戸田中央総合病院 1)循環器内科, 2)放射線科 冠動脈狭窄病変に対する 冠動脈狭窄病変に対する 心臓CT検査の実際 心臓CT検査の実際 Cardiovascular Imaging

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Page 1: 冠動脈狭窄病変に対する冠動脈狭窄病変に対する 心 …...労作狭心症で右冠動脈中間部にステントを挿入されたが, 1年後に狭心症症状が再燃した

内山隆史1), 永尾正1), 生天目安英1), 土方伸浩1), 堀裕一1),村田直隆1), 佐藤秀明1), 小堀裕一1), 佐藤信也1),江川公伸2), 川端卓也2), 高橋正徳2), 土井正英2)

戸田中央総合病院 1)循環器内科, 2)放射線科

冠動脈狭窄病変に対する冠動脈狭窄病変に対する心臓CT検査の実際心臓CT検査の実際

CardiovascularImaging

Page 2: 冠動脈狭窄病変に対する冠動脈狭窄病変に対する 心 …...労作狭心症で右冠動脈中間部にステントを挿入されたが, 1年後に狭心症症状が再燃した

はじめに

 戸田中央総合病院は埼玉県戸田市, JR埼京線戸田公園駅より徒歩5分の位置にあり, 病床数は446床, 外来平均数1,350人/日で急性期医療の基幹病院として地域医療に貢献できるように日夜努力している. 画像診断装置はマルチスライスCT(MDCT):64列LightSpeedVCT(GE社製)を2007年1月に, 血管造影装置は2008年7月に2台目のバイプレーン血管造影装置:Allura 10/10(Philips社製)を導入した. 2008年の1年間でPCI:410件, CAG:321件, PTA:46件, アブレーション:66件, 冠動脈CT:788件を施行した.

 MDCTでの冠動脈病変の有意狭窄を50%としたときの冠動脈造影所見との比較では, 感度89~95%, 特異度86~98%, 陰性的中率97~99%とMDCTの有用性が報告されている. 当院では, 外来で冠動脈疾患が疑われる安定した症例は冠動脈CT検査を行い, 運動負荷試験などでPCIの適応と判断された場合はCAGを施行し, 適応症例にad hocでPCIを施行している. ただし, CTO, LMTでは症例によってはCAGを施行後, 治療戦略(CARTやCABGがよいかなど)を検討し, 改めて別の日にPCIをすることもある. ACS症例では, 基本的に緊急CAGを施行し, CAG所見から適応症例にPCIを施行している. 冠動脈CTAの撮影はMDCTを用い, 心電図同期下にて施行した. 当院でのプロトコールをまじえ, 冠動脈をモーションアーチファクトがなく, きれいな画像を作成する方法について以下に説明する. 冠動脈CTAを撮影する際は大きくわけて2つの撮影方法がある.

 当院ではそれぞれの特徴を活かし, 患者様の状態を正確に判断し検査を進めており, 実際のプロトコールは患者様の心拍数に合わせ決定している. 心拍数が60bpm以下で不整脈がなければ「①Snap Shot Pulse」を使用する. 心拍数が60bpm以上であれば「②Snap Shot」を用いる. よい画質が得られるか否かは撮影原理上, 心拍数に大きく依存し, 心拍が低いほどきれいな冠動脈CTAが撮影できる. そのため, 心拍数は可能な限りβブロッカー等を内服または静注し心拍65bpm以下に抑える. 造影剤はイオパミドール370mgI/mLを使用し, 注入速度3.2~5mL/秒(体重により可変), 注入量32~50mL(体重可変)を用いて, 生理食塩水で後押しして造影する. 撮影タイミングはテストインジェクション法にて決定しており, 上行大動起始部にROIを設定し, 造影剤10mLを3.2~5mL/秒(体重により可変)で投与する. 解析方法はAngio graphic view, Curved MPR, VR等を用いて評価する. 評価は冠動脈CTA特有のアーティファクト(バンディングや石灰化)に注意し行う.

心臓CT検査の実際

①Snap Shot Pulse ヘリカルスキャンを使用せず被ばくを大きく抑えられるが, 高心拍, 不整脈, 撮影中の心拍変動に弱い. しかし, 画像は ヘリカルを用いないため, 解像度が上がり, 被ばく量もヘリカルの約1/3に軽減できる.

②Snap Shot 従来のヘリカルスキャンを用いて撮影する. Snap Shot Pulseとは逆に高心拍, 不整脈, 心拍変動には強いが, 被ばく量が多い.

 PCI前にCTで冠動脈プラークの性状が診断されていると, 手技にDistal protection deviceを併用した方がよいなどの準備ができるメリットがある. また, CTで不安定プラークは存在するが, 狭窄度が高度でない場合はスタチンで治療しプラークの安定化をCTだけで管理することも症例によっては可能である.

プラークの性状診断

Cardiovascular Imaging

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 労作狭心症で右冠動脈中間部にステントを挿入されたが, 1年後に狭心症症状が再燃した. ステント再狭窄を疑い, 冠動脈CTを施行した. ステント再狭窄を認めなかったが, 新たに右冠動脈近位部にプラークを伴う狭窄病変を認めた(図1). CTで

症例

CAG, CT所見図1

 病理学的不安定プラークの特徴として, 以下の3つなどが挙げられる.

 CTで診断可能な不安定プラークはPositive Remodeling, spotty calcificationの存在, soft plaqueなどである. CTでのsoft plaqueかfibrous plaqueかの識別はCT値を用いてなされている. 我々はGE社のCCP(Color Code Map)を用いてカラー表示で視覚的にプラーク性状を判断している. CT値40HU未満をsoft plaque(赤色), CT40HU~150HU未満をfibrous plaque(青色), CT150HU~600を内腔(肌色)に表示している.

A

C

B

D

■ VR像  ■CPR像のCT値  ■CAG  ■短軸像のCT値A B C D

①薄い線維性被膜をもったプラーク(TCFA:Thin Cap Fibrous Atheroma)②冠血管Positive Remodeling③新生血管(Vasa Vasorum)

冠動脈狭窄病変に対する心臓CT検査の実際

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血管直交画像図3

IVUSを用いたV-H画像図4

CPRの所見図2

■ CPR像  ■ CCP像ABA B

■ CPR像  ■ CCP像ABA B

■ IVUS gray scale  ■ VH-IVUSABA B

Positive Remodelingを呈していたがCCPではプラークの性状はほとんどがfibrous plaqueであった(図2, 3). VOLCANO IVUSを用いたVHによる同部位のプラーク性状も同様の所見であった(図4). Directにステントを挿入し, slow-flow, no-reflowの合併なく手技を終了した.

Cardiovascular Imaging

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 LAD近位部に挿入したステントの6ヵ月後のCTAでステントのproximal edge distal edgeにCCPで青色に表示されるfibrous plaqueの存在が疑われる再狭窄を認めた(図5~7).

症例

VR像図5

CPRの所見図6

CCP像図7

ステント再狭窄におけるCTの活用

 ステント内再狭窄やステントフラクチャーなどがMDCTで評価可能である. ステントの種類によりストラットの厚さや構造に違いがあるが, 一般的に3㎜以上のステント径では内腔の評価が可能であるとされている. しかし, ステンレス, コバルト素材のステントはMDCTで評価可能であるが, タンタリウム素材のWiktorステントは評価不可能である. 新生内膜のCT値は造影剤で満たされた内腔のCT値より低いことを利用し, 当院ではCCPを用いて視覚的にステント内再狭窄を疑う判断をしている.

冠動脈狭窄病変に対する心臓CT検査の実際

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RCA完全閉塞のCT所見図8

B

CTOに対するPCI手技におけるCTの活用

 CTO病変においては, 閉塞した冠動脈のdistal側のcollateral supplyを描出することが可能である. Molletらは, 47名のCTO病変でMDCTでは全例で閉塞病変長を計測できたが, CAGでは17%(8/47)において閉塞病変長が計測できなかったこと, さらにMDCTで病変長が15mm以上であるとPCIの成功率が非常に低かったことを報告している. また, CTOの高度石灰化病変はPCI不成功の予測因子であることも報告している. このように, MDCTではCAGでは評価できない石灰化の程度, 部位と病変長が評価可能である. 特に, 閉塞部の屈曲の程度が評価できることがwire操作を安全に行うのに役立つ. 当院のCTAを利用したCTOに対するPCIの戦略は, C-MPR像で閉塞部のプラーク状況をチェックし, 閉塞入口部に大きな石灰化がない場合には, Antegrade approachでX-tream wireを用いマイクロチャンネルを探る手技を第一選択にしている(図8A). 閉塞入口部に大きな石灰化があり, 利用可能なcollateral channelがある場合はRetrograde approachを第一選択としている(図8B).

■ A 閉塞近位部には石灰化病変を認めない. Antegrade approachでエクストリームワイヤーが閉塞部を容易に通過した.

■ B 閉塞近位部に高度石灰化病変を認める. Antegrade approachではワイヤーは閉塞部を通過せず, Retrograde approachでワイヤー通過した.

A

Cardiovascular Imaging

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 造影CTとCARTOシステムを合致させ, 両側拡大肺静脈隔離術を施行した(図9).

発作性心房細動のカテーテルアブレーション

PA像図9

■ 左房後面  A

カテーテルアブレーションにおけるCTの活用

 当院ではカテーテルアブレーション施行時にあらかじめ検査しておいたCT画像をもとに, アブレーション施行時のCARTOシステムの合成画像を作成し, 視覚的に安全にアブレーションを施行している.

■ 右肺静脈内側断面像  (エンジ色タグ:アブレーション部位)B

A B

おわりに

 当院では効率のよい検査・治療の実施が, 患者様への経済的負担, 肉体的負担などさまざまな負担の軽減に繋がり, その結果が病院スタッフの負担の軽減に反映されると考えている. 冠動脈CT検査もその一環であり, スクリーニング検査にCTを使用することで, 2008年の年間PCIは410件, CAGは321件という従来の冠動脈治療スタイルとは逆のPCI件数がCAG件数を上回るという実績が生まれている. また, 冠動脈CTをスクリーニングに使用することにより, 冠動脈の基枝部異常, CTO, プラークの性状など, さまざまな情報が得られ, PCI施行時の戦略が事前に計画できるという点は, 大きなアドバンテージであると考えている. こらからも, 効率のよい検査・治療を目指し, 患者様への貢献に努めていきたい.

冠動脈狭窄病変に対する心臓CT検査の実際

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当院における心臓CTの撮影条件

Snap Shot Pulse (心拍60bpm以下)

120kV

700mA(ECG modulated mA)

0.625mm

0.35秒

_

5~8秒

40mm, 3~4回

呼気にて停止

Snap Shot (心拍60bpm以上)

120kV

700mA(ECG modulated mA)

0.625mm

0.35~0.4秒/rot 

0.16~0.24

5~8秒

_

呼気にて停止

管電圧

管電流

再構成スライス厚

回転速度

ピッチ

スキャン時間

スキャン幅・回数

呼吸停止

(2009年9月作成)IOP-7.0(MP/SN)資材記号 IOP-09-0155

撮影方法

CT使用機種 64列LightSpeedVCT(GE社製)

テストインジェクションにて決定

_

スキャン条件

造影剤注入条件使用造影剤

イオパミドール 370mgI/mL 32~50mL(10秒)

16~25mL(5秒)

3.2~5mL/秒(体重可変)

3.2~5mL/秒

濃度 注入量 注入速度 Delay time

生理食塩液