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大学大学院 システム デルタオペレータを いた体 パラメータ 隔モニタリング ( システム ) 2002 2

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筑波大学大学院博士課程

システム情報工学研究科修士論文

デルタオペレータを用いた体循環系パラメータ同定と人工心臓適用時の遠隔モニタリング

小阪 亮

(知能機能システム専攻)

指導教官 山海 嘉之

2002年2月

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論文要旨

現在, 重度の末期心疾患患者を救う治療方法として心臓移植による治療が行われている.

しかし, 心臓移植を必要とする患者は, 例えば米国の場合は年間数万人単位であり, 慢性的な提供心臓不足という深刻な問題に直面している. そこで, 心臓移植に代わる治療法の一つとして埋め込み型人工心臓の開発が進められている.

1999年には, 欧州にて連続流人工心臓を利用した左心室補助人工心臓の臨床応用が始まり, また2001年7月に米国にて完全埋め込み型全人工心臓:AbioCorの臨床応用が世界に先駆けて行われたように, その流体特性, 抗血栓性などポンプ単体の開発には目をみはるものがある. しかし, 人工心臓を適用して個々の患者に適応したより効果的な医療手法や治療制御の開発は未だ研究開発の途上にある.

そこで, 本研究では人工心臓を用いて個々の患者に適応したより効果的な医療行為や治療制御を行う為に, 1) 生体の生理的, 機能的変化を的確に捉えるために"デルタオペレータを用いた体循環系パラメータ同定", 2) 連続流人工心臓の運用, 管理を支援する"遠隔モニタリングシステム"を提案, 構築する.

本手法は逐次変化する人工心臓適用時の生理的, 機能的変化を的確に捉える為, 生体を数理モデルで表した生理モデルと, デルタオペレータを用いたシステム同定理論を適用する. まず, 生理学的かつ数理学的知見により, 体循環系生理モデルを構築する. この生理モデルは, 1次モデルとして大動脈コンプライアンスと末梢血管抵抗の2つの生理パラメータから構成される生理モデルを構築した. また, 2次モデルでは1次モデルを拡張して大動脈慣性と動脈抵抗を加えた4つの生理パラメータから構成される生理モデルを構築した. 本手法を長期の動物実験に適用した結果, 計測値である大動脈圧, 大動脈流量とポンプ流量より生理パラメータを逐次同定することができた. また, 推定された生理パラメータよりその生理的挙動を推定することができた.

さらに, 近い将来, 人工心臓適用患者が在宅で医療行為をうけながら日常生活や社会復帰することを考慮に入れ, 常に患者の生理的状態や連続流人工心臓の運用状況を管理することのできる"遠隔モニタリングシステム"を開発した. 本システムは, 主に患者の生理データおよび人工心臓の駆動データの計測機能と, 外部からのデータの閲覧機能を備えている.

閲覧機能には, 患者異常状態検知機能が含まれており, ホームページやEmailを使用することで患者の異常状態を医師に知らせることができる. また, 近年急激に普及の進んだ携帯電話での閲覧も可能とすることで, いつでもどこでも患者の状態を知ることのできるシステムの構築ができた.

ゆえに, 本研究で提案, 構築したシステムは, 患者や人工心臓の長期的管理に有効であることが確認された.

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目 次

論文要旨

第1章 序論

1.1 研究背景

1.2 研究目的

1.3 論文構成

第2章 デルタオペレータを用いた1次体循環系パ

ラメータ同定

2.1 はじめに

2.2 モデル化

2.3 心臓血管系の生理学的概説

2.4 一次体循環生理モデル

2.5 パラメータ同定

2.5.1 パラメータ同定とは

2.5.2 シフトオペレータを用いた離散モデルの作成

2.5.3 デルタオペレータを用いたパラメータ同定

2.5.4 パラメータ同定

2.6 Computer Simulation

2.6.1 Computer Simulation

2.7 動物実験への適用

2.8 結果

2.9 長期動物実験への適用

2.9.1 長期動物実験への適用

2.9.2 結果

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2.10 考察

2.11 問題点

第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パ

ラメータ同定

3.1 はじめに

3.2 2次体循環系生理モデル

3.3 デルタオペレータを用いた離散システム

3.3.1 離散モデルの作成

3.3.2 デルタオペレータを用いたパラメータ同定

3.4 Computer Simulation

3.4.1 Computer Simulation

3.5 動物実験へ適用

3.6 結果と考察

3.7 まとめと今後の展開

第4章 連続流人工心臓モニタリングシステム

4.1 連続流人工心臓モニタリングシステムの重要性

4.2 遠隔モニタリングシステムの概要

4.3 システム構成

4.4 計測サーバ

4.5 遠隔管理用サーバ

4.6 遠隔管理用サーバ機能

4.7 データ閲覧機能

4.8 生理モデルの実装

4.9 異常検知機能

32

33

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4.9.1 異常状態検知機能

4.9.2 異常状態検知機能アルゴリズムの概要

4.9.3 異常状態検知機能アルゴリズムの動物実験へ適用

4.9.4 全データの異常検知

4.9.3 まとめと考察

4.10 携帯電話への応用

4.10.1 携帯電話への応用

4.10 2 携帯電話を用いた閲覧機能

4.10.3 異常検知の警告機能

4.11 結果と考察

第5章 連続流人工心臓制御システムの基礎的実験

5.1 連続流人工市の図制御システムの基礎的実験

5.2 制御システム

5.2.1 制御システム

5.2.2 状態判断法について

5.3 システム構成

5.4 in vitro study

5.5 Results

5.6 考察

第6章 まとめ

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第 1 章 序論

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第1章 序論

2

第1章 序論

1.1 研究背景現在, 重度の末期心疾患患者を救う治療方法として心臓移植による治療が行われてい

る. しかし, 心臓移植を必要とする患者は, 例えば米国の場合は年間数万人単位であり,

慢性的なドナー不足という深刻な問題に直面している. 日本でも1997年に臓器移植法が施行され1999年に施行後第一例目の心臓移植手術が行われたが, 日本でも心臓移植を必要とする患者は年間300から500人いると言われ, 欧米同様にドナー不足という課題に直面している[1]. そこで心臓移植に代わる治療法として埋め込み型人工心臓の開発が進められている[2][3][4].

人工心臓は設置方式とその駆動方式により分類できる[5]. 設置方法で分類した場合,

補助人工心臓と完全置換型人工心臓に大別される. 補助人工心臓(LVAS)は自己心臓に並列して接続してその心機能の一部を補助するものである. 補助人工心臓の多くは血液ポンプを一つ使用し, 左心補助もしくは右心補助の形で使用される. 一方, 完全置換型人工心臓の場合は患者の心臓を摘出し, その代わりに人工的なポンプを埋め込むタイプである.

完全置換型人工心臓では左右心室の代替のために二つの血液ポンプが必要となる. 1980年代に体外の空気圧駆動装置で駆動するタイプの完全置換型人工心臓は永久使用として数例埋め込まれ, 今では繋ぎとして使用されている. しかし, 体外駆動装置に繋がれた患者の日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living) は良いものとは言い難い.

また, 駆動方法にて分類した場合, 自己心臓と同様に血液を脈打ち拍出する拍動流型人工心臓と連続的に血液を拍出する連続流型人工心臓に分類できる. 一般に拍動流型人工心臓はダイアフラム形(皿形) 等の容積形血液ポンプを用い, 一時血液ポンプ内に血液を溜めてから拍出する. 一方, 連続流型人工心臓は遠心ポンプや軸流ポンプ等, 連続流を拍出する. 遠心ポンプはポンプ中央から血液を流入し, 回転するインペラで血液に遠心力を与え円周方向から流出する. 軸流ポンプは流入した血液にインペラで生じる揚力によりエネルギーを与えるポンプで, 血液は直接インペラ後方へ流出される. 連続流型人工心臓を利用した左心室補助人工心臓の臨床応用は1999年より欧米にて始まり[2], 今後が注目される.

拍動流形ポンプは古くから開発されており, 主に臨床に用いられている方法である.

従来の拍動流型ポンプは血液ポンプに一定の容積が必要で小型化の面からの問題やダイアフラムなどの耐久性など問題がある. しかし, 2001年7月に完全置換型人工心臓は米国にて埋め込み型完全置換型人工心臓:AbioCor (Fig.1.1) の臨床応用が世界に先駆けて行われた.

AbioCorは米国AbiomedとTexas Medical Centerが共同して開発した拍動型人工心臓である.

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第1章 序論

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遠心ポンプでシリコーンオイルの流れを作り, この流れを特殊な弁で左右のポンプに交互に送りポンプのダイヤフラムを動かす仕組みを採用し, 外部のエネルギー電送に電磁誘導を応用した経皮電導システムを用いることで, これまで体外にあったほとんどすべての人工心臓システムを体内に収めることができる. このようにデバイスとしての人工心臓の開発は新たな局面を迎えており, これまで問題とされていた諸問題もある程度目処がつきつつある.

しかし, 次世代の人工心臓を考えた場合, 次はハードウェアの開発から, 個々の生理状態を反映した効果的な医療行為, 治療制御などのソフトウェアの開発を行うことが重要である.

1.2 研究目的本研究では人工心臓を用いて個々の生体に適応したより効果的な医療行為や治療制御

を行う為に, 以下の2つの提案と構築を行う.

1) 生体の生理的, 機能的変化を的確に捉えるために"デルタオペレータを用いた体循環系パラメータ同定"を提案と構築を行う.

2) 連続流人工心臓の運用, 管理を支援する"遠隔モニタリングシステム"の提案と構築

Fig. 1.1 AbioCor (Abiomed.co.)

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第1章 序論

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具体的には

1-a) 体循環系生理モデルを構築し, モデル内の生理パラメータをオンラインで同定する手法の構築

1-b) 長期動物実験で本手法から推定された生理パラメータを用いて生体の生理的, 機能的変化の推定

2-a) 治療支援システムである遠隔モニタリングシステムを構築し, 実際の動物実験へ適用することでその有効性を検討

2-b) 患者や人工心臓の異常状態を検出システムと簡易制御システムについて, その有効性を検討

以上, 4項目を本研究の目的とする.

1.3 論文構成本論文の構成は, 第2章にて一次体循環系生理モデルのパラメータ同定について述べ,

第3章では第2章を拡張し二次の体循環系生理モデルのパラメータ同定について述べる. そして第4章では遠隔モニタリングシステムの構築と動物実験への適用結果について考察する. さらに第5章では, 次世代のモデルを適用した制御手法の基礎的実験として閾値を用いた連続流人工心臓を用いた制御手法について述べる. 最後に第6章では本研究についてまとめる.

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第 2 章 デルタオペレータを用いた

1次体循環系パラメータ同定

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第2章 デルタオペレータを用いた1次体循環系パラメータ同定

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2.デルタオペレータを用いた1次体循環系パラメータ同定

2.1 はじめに人工心臓を用いて生体に適応した長期の医療行為や治療制御を行う場合, 生体の生理的,

機能的変化を的確に捉えることは重要である. そこで, 計測された生体の計測情報から計測不可能な生体内部の生理情報を捉えることによって, より本質的な治療情報として医師の診断の手助けになると考えられる.

本章では, 生体の動的挙動を捉えることのできる数理モデルの構築と, モデル内の物理的意味を持った生理パラメータを逐次同定する手法を提案する. 本手法を適用することで,

刻々変化する生体内部の生理情報を逐次獲得し, その生理的挙動を捉えることができると考える.

同定結果は, コンピュータシミュレーションにて, その有効性を検証した後, 実際の動物実験に適用する(Fig. 2.1).

2.2 モデル化通常計測することが困難な生体内部の生理的挙動を捉えるため, 生体の生理的動的挙動

を表現したモデルの構築(モデル化)を行う. モデル化とはある条件を満たす構造が果たし得る機能の限界, あるいはある条件を満たす機能を実現しようとする際に, 最小限必要とされる構造のあり方を解明することにより, 対象に対する模擬の程度を自己評価するという姿勢にたった手法である[6].

例えば対象AからそのモデルBを得るという行為を数学的に表現するとすれば, ある写像関数Pが存在して, これにより

B=P(A) (2.1)

Mathematical Model

( ) ( ) ( )( ) ( ) ( )( +Χ=Υ

Β+ΧΑ=Χ

tuDtCt

tuttModeling Identification

Physiological BehaviorSystem

Fig. 2.1 Images of this methods

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第2章 デルタオペレータを用いた1次体循環系パラメータ同定

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となるAからBへの変換が行われることとなる. この際Aの中に含まれている着目する事柄はPによって抽象化されBに移されることになるが, A内の着目されない諸般の事柄はPによって捨象されてしまう. 実際に対象からそのモデルを描き出そうとする場合, 対象が複雑であればあるほど, 抽象されるものと捨象されるものの境界は定かではない.

そこで, 論理的に導かれるさまざまな場面を想定し得られた結果を元の対象に照らすことにより, モデルが対象から抽象して得られたものの実態を把握することが可能となる.

そして, このようなモデル化を行うことで, 対象の中に混然となって入り込んでいるさまざまな事柄の間の有機的な関係をほぐし, 雑然としているように見えるそれらの事柄を, 本質に照らした優劣関係に応じて整然とした秩序ある体系に組み上げることができる.

本章では, まず対象となる心臓血管系について生理的概説を述べた後, 人工心臓適用時において重要な治療情報の獲得や, 将来的には生理情報を反映した人工心臓の制御を行うために, 複雑な生体系に対し体循環系に着目して生理モデルの構築を行う.

2.3 心臓血管系の生理学的概説[7]

心臓血管系とは, 各種の物質や熱など個体の生命維持に関するすべての物質を血流にのせて身体の各臓器相互間に各々が必要とする量を輸送することを目的としているシステムで, 心臓, 動脈(抵抗血管), 静脈(容量血管)などを調整することによって目的を達成されている.

この調整には, 神経系および自己調節が重要な役割りを果たしている. これらの調整系は血管(動, 静脈)の緊張度を変化させることによって心拍出量と各臓器への血流配分とを直接的に制御している.

心臓は2つのポンプ, すなわち左心及び右心に区別できる. 左心室から送り出された血液は動脈系により末梢組織に分配され, 末梢組織を通過した後に静脈系を経て右心に集まる. 右心に収集された血液は肺を経て再び左心に戻ってくる. この血液循環路のうち左心から末梢を経て右心に至る経路を体循環系, 右心から肺を経て左心に至る経路を肺循環系と呼ぶ.

大動脈及び動脈より構成されている動脈系は, 左心室の強力なポンプ作用により送り出された脈動血流を抹消組織に分配している. 動脈系は静脈系と比べて血管壁弾性が大きく力学的エネルギーの蓄積が可能であるため, 心臓からの脈動血流を平滑化して末梢組織に送っている.

末梢組織では血液は細動脈から毛細血管へと流れ, 末梢組織と物質交換を行った後, 細静脈を経て静脈系に集められる. このような血管循環路を末梢系と呼ぶ. 末梢系での血流の増減は末梢血管の収縮と弛緩により行われているが, 特に細静脈における調整が大きな影

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第2章 デルタオペレータを用いた1次体循環系パラメータ同定

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響を持つと考えられている.

静脈系は大静脈及び静脈から構成されている. 静脈系は血液を末梢循環系から収集し右心房に戻す働きをしている. 静脈系の血管壁の弾性は小さく, わずかな圧力の増加により血管径が増大するため, 多量の血液を貯蓄することができる(Fig. 2.2).

Aorta

Venous

RA

RVLV

LA

Peripheralcirculation

Pulmonarycirculation

Pump

Fig. 2.2 Systemic Circulation

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第2章 デルタオペレータを用いた1次体循環系パラメータ同定

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2.4 一次体循環生理モデル体循環系を表すモデルは, 簡単なものから複雑なものまでいくつか提案されてる. しか

し, 複雑なモデルは例えモデルが記述できたとしても, 推定するパラメータの数が増えてしまい, ノイズ, 無視した動特性や非線形特性のために, 十分な精度が得られない可能性がある. そこでまずは, 心臓血管系をできるだけ単純にモデル化することを考える. 具体的には,

非線形かつ分布定数回路で表されるべき体循環系を, モデルの内部推定可能とするため線形かつ集中定数回路としてモデル化を行う[8].

血管の流れは非圧縮性粘性流体であり解析には, 粘性流体の運動方程式を行う際使用されるNavier-Stokes の方程式を適用する. まず, 血管を軸対称として円筒座標を用い, 軸方向座標をz, 半径方向座標をrとして表した(Fig. 2.3). 非圧縮性ニュートン流体の非回転流において軸方向zに沿った流体圧力pの変化を決定するEq. 2.2 が導かれる.

( )∂∂+

∂∂+

∂∂−

∂∂+

∂∂+

∂∂=

∂∂

ρ− 11

Vz

Vrr

Vr

vVz

VVr

VVt

pz zzzzzzrz 2

2

2

2

ytisocsiVfotneiciffeoCytisocsiVcimanyDfotneiciffeoCv

doolBfoytisneDerusserPp

emiTttnemelelaidaRfoyticoleVrV

tnemelelaxAfoyticoleVzV

:::::::

µ

ρ (2.2)

圧勾配についてのこの式の中で右辺の初めの3項は慣性特性に関連し, 後の3項は粘性特性に関連する. このうち右辺の第2, 第3項は第1項に比べて小さいので無視し断面積Sを乗じてEq. 2.3の式を得る.

( )∂∂+

∂∂+

∂∂−

∂∂=

∂∂

ρ− 11

Vz

Vrr

Vr

SvVt

Spz

S zzzz 2

2

2

2 (2.3)

慣性項に関して軸方向速度Vzはrの関数ではない. すなわち, その速度分布は平坦であると仮定し, 粘性項に関しては, 流体の流れが放物線状をなすPoiseuilleの流れであると仮定した. 従って,

r

z

S

Fig. 2.3 r-z Coodinate

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第2章 デルタオペレータを用いた1次体循環系パラメータ同定

10

πµ+

∂∂ρ=

∂∂− F

RF

tSp

z8

o4

(2.4)

を得る. ここでFは流量を表す.

また, 血管の流入量と流出量の差は, 血液の変化量の総和を等しいとすると次の連続の方程式(Eq. 2.5)が求まる.

∂∂

∂∂=

∂∂− p

tS

pF

z (2.5)

ゆえにEq. 2.4, Eq. 2.5を単位長さあたりの慣性(L’), 抵抗(R’), コンプライアンス(C’)で示すと

=−

⋅+=−

∂∂

∂∂

∂∂

∂∂

tz

tz

P’CF

F’RF’LP

=

=

=

S’C

’R

’L

πµ

ρ

pddR

S8

04 (2.6)

となり単位長さ当たりの血行動態を示す連立偏微分方程式が導かれる.

次にこの単位長さ当たりの連立変微分方程式を有限の長さ∆ zの動脈血管へと拡張するとEq. 2.7, Fig. 2.4のような等価受動回路網となる. dPはこの区間の圧勾配を, dFはこの区間を流れる流量を示す.

=−

⋅+=−

PCFd

FRFLPd

tdd

tdd

∆=∆=

∆=∆=

∆=∆=

zSz’CC

zz’RR

zz’LL

πµ

ρ

pddR

S8

04 (2.7)

L R

CdP

dF

Fig. 2.4 Aortic Model

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第2章 デルタオペレータを用いた1次体循環系パラメータ同定

11

さらに血行力学的に求められたEq. 2.7に生理学的知識を加え, Fig. 2.5と状態方程式Eq. 2.8

とで表される体循環系生理モデルを導くことができる[8][9](Fig. 2.5).

( ) ( ) ( )FPR

Ptd

dC tt

pta +−= 1 (2.8)

このモデルは, 先の動脈血管モデルに末梢血管系を加え, 体循環系の挙動を最も反映している動脈の弾性特性であるコンプライアンス(Ca)と動脈系の末端における負荷抵抗である末梢血管抵抗(Rp)を基に入力信号F(t)を総流量, 出力信号P(t)を大動脈圧として構築したものである. コンプライアンスは血管壁の伸縮を反映しており, コンプライアンスを変化させることで各部位での血液容量の調整を行っている. 末梢血管抵抗は循環系での血液の流れにくさを反映しており, 抵抗を変化させることで代謝状態や血圧など, 状態に応じて末梢系への血液の供給量が調整されている. ただし, 解析を容易とするため, 大動脈コンプライアンスや末梢血管抵抗に比べて値が非常に小さい慣性と動脈抵抗は省略する. また, 静脈系については, 人工心臓を装着している部位に与える影響が少ないことや, 末梢血管では血圧が急激に低下するため, 末梢系をほぼグランドとみなして静脈系を省略した.

2.5 パラメータ同定

2.5.1 パラメータ同定とは

パラメータ同定とは, モデル化によって得られたモデル内のパラメータを同定することである. そのためにはまず, システムのモデルをシステム同定により同定する必要がある.

システム同定は予測, 解析, 制御などを正確に行うために複雑な対象システムの数式モ

NativeHeart Artificial

HeartCa

TPR

Aop

Aortic Flow

Pump Flow

Valve

Rp

Fig.2.5 The systemic circulation model represented by electrical circulation model.

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第2章 デルタオペレータを用いた1次体循環系パラメータ同定

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デルを実システムの入出力データに基づいて, 実システムに最も近いモデルを求める方法である. 具体的にはシステム同定は, i) データ, ii) モデルの集合, iii)モデルの評価 の3要素から構成されている[10].

i) データの収集

データの収集を行う際には与えられた条件下でシステムの特性が最もデータの中に反映されるように, 入力信号, 測定すべき信号, サンプリング周期などを決定する必要がある.

ii) モデルの集合

モデルには多くの場合, 対象を数理学的に反映した線形離散時間モデルが用いられる.

iii) モデルの評価

モデル集合の中から与えられたデータを最もよく説明するモデルを選択するために, 物理的意味があり, かつ数学的記述ができる評価関数を使用する. モデルがパラメトリックに表現された場合にはモデルの出力と実システムの出力の差を最小とする関数が使用される.

本章では, 第2.4章にて得られた生理モデルを対象にシステム同定を行う. そのためにまず上記の3要素を決定する

i) システムの入力信号である総流量(大動脈流量と人工心臓ポンプ流量の和)と出力信号である大動脈圧を計測する. サンプリング周期は低い周波数のバンド幅を持つ生理的挙動を十分に捉えられると考えられる100Hzを設定した.

ii) モデルには先の生理学的かつ物理学的に表された体循環生理モデルを使用する.

iii) 構築したモデルはパラメトリックモデルであるのでモデルの評価には, 同じ実システムの入力信号(総流量)に対し, 実システムである生体の出力(大動脈圧)と同定されたモデルの出力(大動脈圧の推定値)の予測誤差を求め, この誤差がなくなるようにモデルを変更する(Fig. 2.6).

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第2章 デルタオペレータを用いた1次体循環系パラメータ同定

13

2.5.1 シフトオペレータを用いた離散モデルの作成

あるサンプリングで計測されたデータを用いたパラメータ同定を行うためには, まず連続系の状態方程式で表されたEq. 2.8の生理モデルを離散化しなくてはならない. そこで一般的な連続時間状態空間モデル(Eq. 2.9)について離散化を行う[11].

( ) ( ) ( )( ) ( )tt

ttttdd

xCy

uBxAx

=+= (2.9)

ここで, ( ) Rx nt ∈ は状態ベクトル, ( ) Ru m

t ∈ は入力ベクトル, ( ) Ry pt ∈ は出力観測ベクトル

である. また, A, B, Cは適当な次元の定数行列とする.

入力信号u(t) はEq. 2.10のようにサンプリング間隔∆で0次ホールドされた信号であると考える(Fig. 2.7).

( ) ( ) ( ) ċkktkuu ∆kt ±=∆+<≤∆= ,1,0,1, (2.10)

Rp

Real System(Sheep)

Input Output

ParameterIdentifer

B c

A -

y

y

error+

u

MathematicalModel

A B CParameter

Identification

Fig. 2.6 Outline of parameter identification.

k∆( )k ∆+ 1

t

Fig. 2.7 Descrte time signal

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第2章 デルタオペレータを用いた1次系体循環系パラメータ同定

14

この時, Eq. 2.9を時間区間 ( )[ ]∆+∆ kk 1, で積分すると

( )( )( ) ( )

( )�

( )[ ]{ }( )

( ) ( ) �( )( ) ( )uBdee

duBeex

∆τ∆∆

ττ−∆+

∆+∆=∆+

kAxA

kAk

kxAk

0

111

k

k

τ+=

τ+ (2.11)

となる. 従って

� BdedBedA τ== AA τ∆∆ ,0

(2.12)

とおくとき離散時点に着目すると

( ) ( ) ( ) ċtudBxdAx + ttt 1 =+= ,2,1,0, (2.13)

を導く. x(t+1)はt+1番目の信号, x(t)はt番目の信号を表す. Eq. 2.13は離散時点に関する限りEq. 2.9と一致するEq. 2.9の離散時間モデルである. さらにEq. 2.13のままではEq. 2.12のように連続時間モデルのA, Bが離散時間モデルのAd, Bdの中に複雑に入っており計算が煩雑になるのでテイラー展開を用いて

? ( )ċ

�( )? �

( ) ċ( ){ }? ċ( )

+++∆=

++τ+=

τ=

++∆+==

B

BA

BdedB

A

edA

AA

A

A

A

A

∆∆

τ∆

τ∆

∆∆

1

1

322

2

2

!3!2

!20

0

!2

(2.14)

と変換できる. さらにテイラー展開より得られた多項式をサンプリング周期が∆が十分に小さいので上位2項のみで近似すると

( ){ +Ι=+Ι=

BsTdBAsTdA

sTA!2

(2.15)

となる. ここでIは単位行列, Tsは sT ∆= と与えられるサンプリング周期である. また,

Eq. 2.13をシフトオペレータzを用いる. シフトオペレータzはzx(t)=x(t+1)の関係にありEq.

2.13は

( ) ( ) ( ) ċtudBxdAxz ttt =+= ,2,1,0, (2.16)

となる. よってシフトオペレータを用いた離散時間モデルを導くことができた.

そこで, Eq. 2.8の連続時間生理モデルにも上記の離散化を施し, 離散時間モデルを導く. まず, Eq. 2.8を状態方程式の形へ変形する.

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第2章 デルタオペレータを用いた1次系体循環系パラメータ同定

15

( ) ( ) ( )FaC

PaCR

Ptd

dtt

pt +−= 11 (2.17)

そしてEq. 2.15, Eq. 2.16によりEq. 2.18のような離散時間モデルが得られる.

( ) ( ) ( ) ( ) ( )FpRaC

sTaCsT

PaCpR

sTPz ttt −+−=

211 (2.18)

z P(t)はt+1番目の出力信号(大動脈圧), P(t)はt番目の出力信号, F(t)はt番目の流量を示す.

また, Tsはサンプリング周期である.

2.5.2 デルタオペレータを用いたパラメータ同定

Eq. 2.18によってシフトオペレータを用いた離散時間モデルの構築を行うことができた.

しかし, シフトオペレータを用いたシステム同定では, バンド幅が非常に低い周波数である生体に対して, 高いサンプリング周波数での計測を行うと大きな問題が生じてしまう.

Eq. 2.18において仮にサンプリングタイムTsを sT → 0とするとEq. 2.18は

( ) ( ) ( ) ( ) ( )? ( )P

FPPz

t

tpRaCaCtaCpRt

=−+−= 11 2

000 (2.19)

となる. サンプリングタイムTsが sT → 0の場合, 本来は連続時間モデルと離散時間モデルは一致しなければならないのだが, シフトオペレータで表現された離散時間モデルEq.

2.19は退化し, 連続時間モデルEq. 2.17とは全く違ったものになる. さらに安定性についても同様に, サンプリングタイムTsが sT → 0の場合, 極がシフトオペレータモデルでの安定限界であるz=1の単位円上に近づいてしまう. つまり, 連続時間モデルの性質とは無関係に sT → 0の時, 安定限界に近づいてしまう.

この問題を回避するため, 本研究ではデルタオペレータδ[13]を用いた離散時間システムを適用した. デルタオペレータとは

( )( ) ( ) ( ) ( )

−=−

=δ xsT

zsT

xxx +

ttsTt

t1

: (2.20)

これは, 微分作用素のオイラー近似であり, Eq. 2.13, Eq. 2.14のAd, Bdを

=

−=

sTdB

B

sTIdA

A

¯

¯ (2.21)

と置き換えるとデルタオペレータを用いた離散時間システムは

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第2章 デルタオペレータを用いた1次系体循環系パラメータ同定

16

( ) ( ) ( )( ) ( ){ =

+=δxCy

uBxAx

tt

ttt ¯ (2.22)

と表すことができる. Eq. 2.21にEq. 2.15, Eq. 2.17を適用し, 本生理モデルをデルタオペレータで表された離散時間システムへと変換すると

( ) ( ) ( ) ( )⋅⋅

−+⋅

−=δ tFaCpR

sTaC

tPaCpR

tP2

111 (2.23)

となる. 仮にサンプリングタイムTsを sT → 0と仮定したとしてもEq. 2.23は

( ) ( ) ( ) ( )

? ( ) ( )+−=

−+−=δ

FP

tFtPP ⋅⋅⋅

taCtaCR

aCpRaCaCpRt

112

011 1

p

(2.24)

と表され, この式は連続時間モデルEq. 2.17に帰着する.

2.5.3 パラメータ同定

2.5.2にて構築した離散時間モデルへサンプリングされた入出力データを与えていき,

この離散時間システムの同定を行う. 具体的には, まず離散時間モデルに対するバッチ処理での同定法を導き, 最小2乗法にて同定を行う. ついで, 最小2乗法によって獲得される推定値をオンラインで計算する逐次的なアルゴリズムを導く.

まず, N個の入出力データに基づいてバッチ的に計算されるオフラインでのシステム同定について述べる[14].

計算を容易にするためデルタオペレータで表された離散時間モデルをEq. 2.25のARX(autoregressive model with exogenoues input)モデルに変形する.

( ) ( ) ( ) ( ) ( )wuByA δδ ttt +=

( ) ċ

( ) ċ

++δ+δ=++δ+δ+δ=

bbbB

aaaA−−

δ

−−δ

mmm

nnn

22

11

22

11 (2.25)

ここで, w(t)は, もともとのモデルの不確かさやモデル化の際に無視された非線形特性,

入出力信号に加わった観測ノイズを含めたものである. そしてこのノイズを最小とする評価規範を導入する為, Eq. 2.25を出力誤差モデルへ変形する.

( )( )

( )( ) ( )u

A

By tt

z

zt ε+= (2.26)

ここで, ( ) ( )( )

=εtAtw

t とすることでこの出力誤差モデルの誤差を示す. Eq. 2.26にてデータベ

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第2章 デルタオペレータを用いた1次系体循環系パラメータ同定

17

クトル ( )φ t とパラメータベクトル ( )β t を用いてEq. 2.27を導く.

( ) ( ) ( ) ( )ε+βφ=δ tttt

tn y

( ) ( ) ( ) ċ ( ) ( ) ( ) ċ ( )[ ]( ) ċ ċ[ ]

−−−=βδδδδ=φ −−−−

tmnt

tt

nt

ntt

nt

ntt

bbbaaa

uuuyyy

2121

2121 (2.27)

ここで, 高周波ノイズの影響を取り除く為, 安定なn次フィルタとして状態変数フィル

タ ( )E δ を導入する.

( ) ċ eeeE −−δ ++δ+δ+δ= n

nnn 22

11 (2.28)

Eq. 2.25 に状態変数フィルタ[15]を適用するため, Eq. 2.29のように ( )E δ でわると

( )

( )( )

( )

( )( )

( )

( )E

wu

E

By

E

A

δδ

δ

δ

δ ttt += (2.29)

を得る. そして, Eq. 2.29を変形すると

( )( ) ( )

( )( )

( )

( )( )

( )

( )E

wu

E

By

E

AEy

δδ

δ

δ

δδ tttt ++

−= (2.30)

となる. ここでデータベクトル ( )ϕ t と未知パラメータベクトル ( )θ t を改めて定義しなおす.

また, システムの入出力信号y, uと誤差wへフィルタを適用した結果を uy ff ,, εとおくと

( ) ċ ċ( )−−−=θ mnnt bbbaeaeae 212211

( ) ( ) ( ) ċ ( ) ( ) ( ) ċ ( )[ ]δδδδ=ϕ −−−− ttftf

mtf

mtftf

ntf

nt

2121 uuuyyy

( )( )

( ) ( ) ( )( ) ( )

( )( )w

Eeu

Euy

Ey

δδδf ttttftt === 1

,1

,1 (2.31)

が得られ, Eq. 2.30は

( ) ( ) ( ) ( )y ttt

tt ε+θϕ= (2.32)

となる. ゆえに, 状態変数フィルタを適用した離散時間システムの出力誤差モデルを導くことができる.

次にこのシステムの同定を行う為, t=1,2,...,Nまでの入出力関係を用いて同定を行う場合を考える. Eq. 2.32より次式を得る. ただし, フィルタを適用しない場合でも同様にし

てシステム同定を行うことができるので表記を共通化するため, uy ff ,, εをy, u, εで表し

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第2章 デルタオペレータを用いた1次系体循環系パラメータ同定

18

た.

( ) ( ) ( ) ( )Y NNNN ε+θΦ= (2.33)

( )( )�

( )

( ) ( ) ċ ( ) ( ) ċ

( ) ( ) ċ ( ) ( ) ċ

� � ? � � ?( ) ( ) ċ ( ) ( ) ċ

( )�

( )

ε

ε+

−−

δδδδ

δδδδδδδδ

=bb

aeae

uuyy

uuyy

uuyy

y

yy

−−−−

−−−−

−−−−

1

2

1

2211

2121

22

21

22

21

12

11

12

11

21

N

Nm

Nm

Nn

Nn

mmnn

mmnn

N

(2.34)

この出力誤差モデルにおいて実システムからの出力をY(N), モデルより推定される出力を

( )Y ΘΦN ,, とした時予測誤差 ( )ε N はEq. 2.35のように表される.

( ) ( ) ( )

( ) ( ) ( )θΦ−=−=ε θΦ

Nt

NN

NNN

Y

YY ,, (2.35)

観測された入出力データを最もよく表現する未知パラメータベクトル ( )θ N を決定するた

めに予測誤差を測る関数を

( )( )tlJ εθ= ,, θt, (2.36)

として導入し, 同定のための評価規範としてJ(N)をEq. 2.37のように定義する.

( ) � ( )( )tlN

J θ=

tt

N

N εθ= ,,1

,1

(2.37)

この時, 予測誤差から構成される評価規範を最小にするよう未知パラメータを計算する方法を式誤差法という.

ここでは特に予測誤差の大きさとして

( )( ) ( )tlJ ε=εθ= ,, θθ tt ,2

, (2.38)

とした時に, この評価規範を基にした推定方法である最小2乗法を適用する.

Eq. 2.38に重み行列ωを加え, Eq. 2.35, Eq. 2.38より評価規範をEq. 2.39のように与える.

( ) ( ) ( ) ( )

? ( ) ( ) ( )[ ] ( ) ( ) ( )[ ]? ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )? ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )Y

YYY

YY

J

NNNt

Nt

NNNt

Nt

N

NNNt

NNNt

N

NNNt

NNN

NNt

NN

θΦωΦθ+ωΦθ−θΦω−ω=θΦ−ωθΦ−=

εωε=

(2.39)

この評価規範が最も最小となる時は, ( )θ N で偏微分して0の時である.

( )( ) =

θ∂∂

NN

J 0 (2.40)

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第2章 デルタオペレータを用いた1次系体循環系パラメータ同定

19

このEq. 2.40を満たす未知パラメータベクトル ( )θ N が実システムを最もよく表現するパラ

メータベクトルであるので, これを未知パラメータベクトル ( )θ N として定義し, ( )θ N に

ついてEq. 2.41にまとめる.

( )( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) =ΦωΦθ+Φω−=

θ∂∂

NNt

Nt

NNNt

NNN

YJ 022 (2.41)

よって

( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )Φω=ΦωΦθ NNt

NNNt

Nt

N Y

( ) ( ) ( ) ( )[ ] ( ) ( ) ( )[ ]ωΦΦωΦ=θ −NN

tNNN

tNN

1 Y (2.42)

となり, 重み付きバッチ式システム同定法を導くことができる. w(N)を ( ) λ=ω −tNN , た

だし 10 <λ< とおくと, 重み係数w(N)は遠い過去の2乗誤差にはより小さい重みを与えることになる. この意味でλを忘却係数という.

しかし, Eq. 2.42で得られる未知パラメータ推定値はN個のデータに基づいて得られるもので, バッチ処理にて計算されるオフライン同定法である. この方法では, 新しいデータが追加観測されると, あらためて全体の計算を行わなければならない. そこで, 新しいデータが追加されるごとに前の推定値を修正していく, 最小2乗法を使った逐次パラメータ同定について述べる.

Eq. 2.42より時刻tにおいて実システムを最も模擬する未知パラメータベクトルは

( ) ( ) ( ) ( )[ ] ( ) ( ) ( )[ ]ωΦΦωΦ=θ −tt

tttt

ttt

1 Y (2.43)

となる. ここでt+1番目の要素を加えると

( ) ( ) ( ) ( )[ ] ( ) ( ) ( )[ ]? ( ) ( ) ( ) ( )[ ]ωΦΗ=

ωΦΦωΦ=θ

++++

+++−

++++

ttt

tt

ttt

tttt

tt

1111

1111

1111

Y

Y (2.44)

となる. そして

( ) ( ) ( ) ( )ΦωΦ=Η +++−

+ ttt

tt 1111

1 (2.45)

( ) ( ) ( ) ċ ( )( ) ?? � ?

?( )

( )( )�

( )

? ( ) ( ) ċ ( )( ) ?? � ?

?( )

( )( )�( )

( ) ( )

? ( ) ( ) ( ) ( ) ( )ϕϕ+ΦωΦω=

ϕϕ+ϕ

ϕϕ

ωϕϕϕω=

ϕ

ϕϕ

ωϕϕϕ=Η

++

++−

++

−+

ttttt

tt

ttt

t

tt

ttt

t

tt

ttt

t

11

11211

21

1

21

1211

1

10

0

10

0

(2.46)

より

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第2章 デルタオペレータを用いた1次系体循環系パラメータ同定

20

( ) ( ) ( ) ( )+ϕ+ϕ+−Ηω=−+Η t

tttt 1111

1 (2.47)

と導くことができる. しかしこのままでは, 新たなデータが観測されるたびに逆行列を計算しなくてはいけないので逆行列補題を適用する.

( ) ( )+−=+ ACBACIBAACBA −−−−−− 111111 (2.48)

を得る. ここでAは正則. B, Cは適切な次元をもつ行列である. Eq. 2.48を用いてEq. 2.47

の逆行列の式を逆行列の存在しない式へと変換する.

( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )

( ) ( ) ( )

ϕΗϕ+=

ΗϕϕΗ−Η=Η

+ω+

ω++ωω+

kkt

k

Dkt

kkkkk

11

1

111

111

D 1 (2.49)

そしてEq. 2.44はEq. 2.49を用いて重み付き逐次システム同定法を導くことができる.

( ) ( ) ( ) ( ) ( )[ ]? ( ) ( ) ( ) ( ) ( )[ ] ( ) ( ) ( )[ ]? ( )

( )( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ){ }

? ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ){ }θϕ−ϕΗ+θ=

−−θϕ−ϕ+θ=

ωΦΗϕϕΗ−Η=ωΦΗ=θ

+++ω

++++ωΗ

+++ω++ωω

+++++

tt

ttttDt

ttt

tttDt

ttt

tDkt

kkkk

ttt

ttt

1111

1111

1111

1111

11111

Y

YDYD

Y

Y

t 1 (2.50)

このEq. 2.50より, 新しい観測データに対する実システムからの出力(Y(t+1))と, モデルの

推定出力値( ( ) ( )θ+ϕ tt

t 1 )との誤差を常に最小にするような未知パラメータ ( )+θ t 1 を推定する

ことができる.

上述の逐次システム同定を本章の離散時間生理モデルEq. 2.24に適用し, その生理パラメータ同定を行う. まず, Eq. 2.24を出力誤差モデルへと変形するとEq.2.27より

( ) ( ) ( ) ( )ε+βφ=δ tttt

ty

( ) ( ) ( )[ ]( ) ( )[ ]−−=β

=φt

pRaCsT

aCaCpRt

ttFtPt

2111 (2.52)

となる. そして, 高周波ノイズの影響を減らすため状態変数フィルタ

( ) eE +δ=δ 1 (2.53)

を適用する. するとEq. 2.31, Eq. 2.32より

( ) ( ) ( ) ( ) ( )tFaCpR

sTaC

tPaCpR

etP⋅⋅

−+⋅

−= 1 21

11ff (2.54)

が導かれ, これを出力誤差モデルとして表すと

( ) ( ) ( ) ( )ε+θϕ=δy ttt

tt

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第2章 デルタオペレータを用いた1次系体循環系パラメータ同定

21

( ) ( ) ( )[ ]( ) ( )[ ]−−=θ

=ϕt

pRaCsT

aCaCpRt

tt

ft

ft

e

FP

211

1 1 (2.55)

となる. ゆえにこのEq. 2.55の出力誤差モデル内の未知パラメータベクトル θと, Eq. 2.50よ

り得られる逐次未知パラメータ ( ) [ ]−=θ tbaet 1を係数比較すると

=

=

pR

aC

22

2

sTaabb

sTa

2

(2.56)

が得られる. つまり, 未知パラメータ ( ) [ ]−=+θ tbaet 11 が推定されると2.3章にて構築した

生理モデル内の生理パラメータ(Ca, Rp)が, ( )+θ t 1を変数変換することにより推定すること

が可能となる.

2.6 Computer Simulation

2.6.1 Computer Simulation

本研究で提案した手法を検証するため, コンピュータを用いたシミュレーションによってその有効性を検討する. コンピュータ内であれば, 生体とは異なりモデルは既知のものが与えられ, 例えば本手法のノイズに対する頑健さやパラメータの変化への応答性能の検証が容易に行うことができる利点がある.

モデルへの入出力信号として拍動成分を持つ血液流量(Total Flow)を模擬した三角波を入力とし, モデルにシミュレーションを行った後に得られる出力信号である大動脈圧を出力(Aop)とした. そして, その入出力信号を提案する手法へ適用することで元のモデルを推定する.

同定対象である既知の体循環系モデルは以下の2つのモデルを構築した.

1) ノイズがなくモデルの状態が一定体循環系モデル(Fig. 2.8)

2) ノイズ環境下での状態が可変な体循環系モデル(Fig. 2.11)

本手法の結果を従来のものと比較する為, 単純に大動脈圧を流量で割って末梢血管抵抗を求めたもの(Rp=Aop / Flow)と, 従来より使用されているある区間(ここでは5秒間)

での平均大動脈圧を平均流量で割ったものを求めた(wolF

poApRnaem = ). また, 同定性能は本手

法によって推定される一段先予測値と実際の出力値とを比較することで評価する.

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第2章 デルタオペレータを用いた1次系体循環系パラメータ同定

22

1.1) モデルの状態が一定の体循環系モデル(Fig. 2.8)

まずは, 実際の動物実験をシミュレーションするため, 計測時に加わると考えられる白色ノイズを5%, 入出力信号にを加える. そして, モデル内のパラメータが一定のもとで, 同定が正しく行うことができるか検討する. ここで構築した生理モデルではパラメータを一定値Ca=2.0 [ml/nnHg], Rp=1.5 [mmHg sec/ml]として定義した . Fig. 2.8 (a)にモデルへの入出力信号, Fig. 2.8(b)に従来より使用されているRp, mean Rpを示す.

Ca=1.5

AopFlow

Rp=1.2

Fig. 2.8 To evaluate this method, the physiological parameters were set as Rp=1.2, Ca=1.5.

(a)

Aop

[m

mH

g]F

low

[L

/min

]

0 2 4 6 8 10 12

0

20

40

60

80

100

/Users/G203/kosaka/Research/Congress/ISRP2000_2/datad/simulation.SP

Aop

Flow

(b)

0 2 4 6 8 10 120

5

10

/Users/G203/kosaka/Research/Congress/ISRP2000_2/datad/simulation.SP

Time [sec]

Static RpMean Static Rp

R [

mm

Hg

sec/

mL

]

Fig. 2.9 Results of the system identification in computer simulation (a) Input value (Flow) and

output value (Aop) (b) The static Rp changed widely. Mean Rp was almost converged to the

preset value

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第2章 デルタオペレータを用いた1次系体循環系パラメータ同定

23

1.2) シミュレーションの結果(Fig. 2.9, 2.10)

(b) 従来の手法で推定されたRpは収束しなかった. しかし, 5 [sec]の平均値をとったところほぼ目標値へ収束した. (c) 本手法で生理パラメータを同定したところ, ノイズの影響もなくパラメータCa, Rp共に目標値へ収束した. 時定数は約1秒であったが生体内部のシステムが急激に変化することは, ホメオスタシス(homeostasis, 恒常性維持)という概念に反するので問題がないと考える. (d) 本手法で推定された一段先予測値は実際の出力値と極めて等価であった. つまり逐次システム同定が正しく機能していることを示す. 一方,

従来の手法では, 動特性を反映していないため静的特性である平均的な値のみしか得られなかった.

次に生理パラメータの変動に対する本手法の追随性能を考察する.

Time [sec]0 2 4 6 8 10 12

0

1

2

3

/Users/G203/kosaka/Research/Congress/ISRP2000_2/datad/simulation.SP

Ca

Rp

R [

mm

Hg

sec/

mL

]C

[m

L/m

mH

g ]

(c)

(d)

Aop

[m

mH

g]F

low

[L

/min

]

Time [sec]0 2 4 6 8 10 120

20

40

60

80

100

AopMean Static AopEstimated Aop

/Users/G203/kosaka/Research/Congress/ISRP2000_2/datad/simulation.SP

Fig. 2.10 (c) Both of the identified dynamic physiological parameters, Ca and Rp, were converged to the preset value regardless of the noise. (d) The identified output was converged to the real output.

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第2章 デルタオペレータを用いた1次系体循環系パラメータ同定

24

2.1) ノイズ環境下での状態が可変な体循環系モデル(Fig. 2.11)

1)と同様にモデルに計測時に加わると考えられる白色ノイズを5%, 入出力信号にを加えた. そして, 目標となるパラメータの変動への追随性能を検討するために開始0秒後から15秒後までを状態1(State 1), 15秒後から30秒後までを状態2(State 2)としてパラメータを変動させた. このモデルは, モデル内の各生理パラメータを状態1(State 1)時Ca=1.5,

Rp=1.2, 状態(State 2)としてCa=1.875, Rp=1.5として定義したものである(Fig.2.11). この時の入出力信号をFig. 2.12(a), 従来の手法より計算されるRp, mean RpをFig. 2.12 (b)に表す.

Ca=1.5 -> 2.0

AopFlow

R=1.2 -> 1.5

Fig. 2.11 Considering the tracking performance, the physiological parameters were changed State 1 (Rp=1.2, Ca=1.5) to State 2 (Rp=1.5, Ca=2.0).

Output Data (Aop)

Input Data (Total Flow)

State 1 State 2

Time [sec]0 5 10 15 20 25

0

20

40

60

80

100(a)

Aop

[m

mH

g]F

low

[L

/min

]

0 5 10 15 20 25

0

5

10 Static RpMean Static Rp

State 1 State 2

Time [sec]

R [

mm

Hg

sec/

mL

]

Fig. 2.12 Results of the system identification in computer simulation (a) Input value and output value (b) The static Rp changed widely. Mean Rp was almost converged to the preset value.

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第2章 デルタオペレータを用いた1次系体循環系パラメータ同定

25

2.2) シミュレーションの結果(Fig. 2.12, 2.13)

(b) 従来の手法で推定されたRpは収束しなかった. しかし, 5 [sec]の平均値をとったところほぼ目標値へ収束した. (c) 本手法で生理パラメータを同定したところ, パラメータCa, Rpはノイズが存在するにもかかわらず, 共に目標値へ収束した. 時定数は約1秒で,

実験開始15秒後に生理パラメータを変化させた後も約3秒ほどで新たな目標値を同定することができた. d) 本手法で推定された一段先予測値は実際の出力値と極めて等価であった. つまり, 逐次システム同定が正しく機能していることを示す. 特に生理パラメータが変化した実験開始後15秒付近に着目するとやや実システムの出力とモデルより推定された出力との間に誤差が発生したが約2秒後には, 同定を正しく行うことが可能となった.

このようにシミュレーションにおいては, 本生理モデルに対して, 収束性, ロバスト性, 追随性と有効なことが示された. そこで, 本手法を実際の動物実験へ適用する.

0 5 10 15 20 25

0

1

2

3

Rp

Ca

mean static Rp

State 1 State 2

1.5

Time [sec]

(c)R

[m

mH

g se

c/m

L]

C [

mL

/mm

Hg

]

State 1 State 2

Time [sec]12 13 14 15 16 17 18 19

60

80

100

AopMean Static AopEstimated Aop

(d)

Aop

[m

mH

g]

Fig. 2.13 (c) Both of the identified dynamic physiological parameters, Ca and Rp, were converged to the preset value regardless of the noise and tracking to the preset parameters. (d) The identified ouput was converged to the real output.

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第2章 デルタオペレータを用いた1次体循環系パラメータ同定

26

2.7 動物実験への適用動物実験では体重約40kgの羊に対して, 産業技術総合研究所で開発されているモ

ノピボット型磁気支持遠心ポンプ(MEL DD Series)(Fig. 2.14(a))[16]を左心補助式として装着した. 計測データは, 圧力トランスデューサとアンプ(Nihon Kohden Corporation, Tokyo,

Japan) による大動脈圧, 超音波流量計(Transonic System. Inc., New York, U.S.A.)による流量(ポンプ流量と大動脈流量の和)である. サンプリングタイムは100Hzである(Fig. 2.14(b)).

Fig. 2.14 Animal Experiment (ARIES8) (a) Sheep attached with Artificial Heart, (b) MEL DD Series

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第2章 デルタオペレータを用いた1次体循環系パラメータ同定

27

2.8 結果本手法を動物実験へ適用した結果, Fig. 2.15 (a) (b), 2.16 (c), (d)のようになった. まず,

Fig. 2.15において(a)は本システムの入出力信号に使用した流量(Flow)と大動脈圧(Aop)である. (b) 従来の方法で推定されたRpは非常に変化している. しかし, 5 [sec]の平均値をとったところmean Rp=0.9 [mmHg sec/ml]付近の値を示した. (c) 本手法によって同定された生理パラメータCa, Rpは, やや心臓の拍動の影響を受けているが, それぞれ約Ca=2.0

[ml/mm Hg], Rp=0.8 [mmHg sec/ml]付近へと収束した. (d) 本手法で推定された一段先推定値は実際の出力値とほぼ等価であった. ゆえにシステム同定は正常に行えていることがわかる. また, 従来の手法で得られる推定出力(mean statc Aop) は, 動特性を反映していないため静的な状態のみしか推定することはできない.

ゆえに動物実験においても, 従来の手法では, 逐次静的な体循環系モデルは構築はできていた. しかし, 本研究の手法を用いると今後制御理論を組み込む上で欠かせない, 動特性を考慮したモデルの同定ができる.

(a)

Aop

[m

mH

g]F

low

[L

/min

]

Time [sec]0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

0

20

40

60

80

/CDROM/research/Congress/ISRP2000/Simulation2/NONAME.SP

Input Data (Flow)

Output Data (Aop)

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

0

5

10

/CDROM/research/Congress/ISRP2000/Simulation2/NONAME.SP

Time [sec]

Static RpMean Static Rp

R [

mm

Hg

sec/

mL

]

(b)

Fig. 2.15 Results of the system identification in computer simulation (a) Input value and output value (b) The static Rp changed widely. Mean Rp was almost converged to the preset value.

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第2章 デルタオペレータを用いた1次体循環系パラメータ同定

28

2.9 長期動物実験への適用

2.9.1 長期動物実験への適用

第2.8章にて本手法を適用することで, 生体内の生理パラメータの推定が可能であるとが示された. そこで, 長期の動物実験へ適用し, 生体の生理的変化に伴ってこれらの生理パラメータがどのように変動していくか考察を行う.

同定に用いたデータは, 2000/11/17−2001/1/29間の動物実験の計測データを対象にした.

特に生体が安定していた期間(術後62日目から70日目)と, 実験末期(術後70日目から死亡時)に対して同定を行いその生理的挙動を比較, 検証する.

Rp

[mm

Hg

sec/

mL

]C

a [m

L/m

mH

g ]

(c)

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

0

1

2

3

4

/CDROM/research/Congress/ISRP2000/Simulation2/NONAME.SP

Ca

Rp

Time [sec]

(d)

Time [sec]6.5 7 7.5 8 8.5

60

70

80

90 AopMean Static AopIdentified Aop

/CDROM/research/Congress/ISRP2000/Simulation2/NONAME.SP

Aop

[m

mH

g]

Fig. 2.16 (c) Both of the identified dynamic physiological parameters, Ca and Rp, were converged. (Ca=2.0, Rp=0.8) (d) The identified ouput was converged to the real output.

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第2章 デルタオペレータを用いた1次体循環系パラメータ同定

29

2.9.2 結果

1) 生体が比較的安定している期間の計測データに対して本手法を適用するとFig. 2.17,

Fig. 2.18 のようになった. Fig. 2.17は本システムに対する入力データ(流量)と出力データ(大動脈圧)を示す. この期間では大動脈圧, 流量ともに変動が少ない. 術後64日目のみ, 流量が大きく変動しているが, これはポンプの評価実験のため, 一時, 流量の計測を停止してポンプを新しいものへ交換した日付であるので生理系の異常ではない.

Fig. 2.18は同定結果を示す. 生体が安定した状態である時は, ポンプ交換のために計測を止めた期間を除いて , 同定された生理パラメータも安定していた . 推定値は ,

Rp=1.1[mmHg sec/ml], Ca=1.2 [ml/mmHg] の近傍であった.

62 63 64 65 66 67 68 69 700

50

100

150

/Users/G203/kosaka/Research/Master/chapter2/long.SP

Postoperative time [day]

Aor

tic P

ress

ure

[mm

Hg]

Postoperative time [day]

Flow

[L

/min

]

62 63 64 65 66 67 68 69 70

0

2

4

/Users/G203/kosaka/Research/Master/chapter2/long.SP

Fig. 2.17 Input value (Flow) and output value (Aop) in the animal experiment.

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第2章 デルタオペレータを用いた1次体循環系パラメータ同定

30

Postoperative time [day]62 63 64 65 66 67 68 69 70

0

2

4

/Users/G203/kosaka/Research/Master/chapter2/long.SP

Rp

[mm

Hg

sec/

ml]

Postoperative time [day]

Ca

[ml/m

mH

g]

62 63 64 65 66 67 68 69 700

2

4

/Users/G203/kosaka/Research/Master/chapter2/long.SP

Fig. 2.18 Results of the parameter identification in the animal experiment. Both of the identified dynamic physiological parameters, Ca and Rp, were converged.(Ca=1.2, Rp=1.0)

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第2章 デルタオペレータを用いた1次体循環系パラメータ同定

31

2) 本手法動物実験末期へ適用した結果をFig. 2.19, 2.20に示す.

Fig. 2.19は, 大動脈圧と流量(大動脈流量とポンプ流量の和)を示す. 図ならびに実験記録より術後70日目のポンプの交換以後, 流量の大幅な減少が観測された. また, 流量の低下とともに大動脈圧の急激な増加が観測された. 術後72日目の大動脈圧が計測されていない箇所は, 大動脈圧の計測を一時計測中断した箇所である. そして, 術後73日目の正午ごろより流量のみの低下が加速し, 術後74日目に流量の急激な増加が観測されたが, 午前7

時半ごろに羊が死亡した.

Fig. 2.20 は, 同定結果を示す. 図より術後70日目の正午以降, 末梢血管抵抗は急激に増加した. また, 大動脈コンプライアンスはほとんど変化しなかった. これは, 手足の末梢血管を締めて少ない流量でも脳などの重要臓器に血液を送り, 生体の維持を図ろうとした結果ではないかと推定される. 動脈コンプライアンスの変化が少なかったことは, 動脈血管の性質はあまり変化せず, 末梢血管系のみで生体は自身を制御したと推定できる.

Postoperative time [day]

Aor

tic P

ress

ure

[mm

Hg]

70 70.5 71 71.5 72 72.5 73 73.5 740

50

100

150

/Users/G203/kosaka/Research/Master/chapter2/long.SP

Postoperative time [day]

70 70.5 71 71.5 72 72.5 73 73.5 74

0

2

4

/Users/G203/kosaka/Research/Master/chapter2/long.SP

Flow

[L

/min

]

Fig. 2.19 Input value (Flow) and output value (Aop) in the animal experiment.

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第2章 デルタオペレータを用いた1次体循環系パラメータ同定

32

2.10 考察本章では, 人工心臓を用いた治療制御として, 短期的な各生理パラメータの挙動に適

応した長期運用可能な治療制御の確立を目的とした. そのためにまずは生体の生理的, 機能的変化を的確に逐次推定し, その情報を医師にフィードバックすることで効果的な治療行為を行うことが可能であると考える.

本章の結果より同定した一段先予測値と実際の出力を比較したところ, 正確な同定が行えていることがわかった. これまでの手法では, 長期的な生理状態の変化を観測し, 制御へ反映させることは行われてきたが, 今後は本手法を用いることで従来に比べて短期的な生理状態の変化を把握と, その変化を反映させた新たな治療制御の構築が考えられる.

Postoperative time [day]

Rp

[mm

Hg

sec/

ml]

70 70.5 71 71.5 72 72.5 73 73.5 740

2

4

/Users/G203/kosaka/Research/Master/chapter2/long.SP

Postoperative time [day]

Ca

[ml/m

mH

g]

70 70.5 71 71.5 72 72.5 73 73.5 740

2

4

/Users/G203/kosaka/Research/Master/chapter2/long.SP

Fig. 2.20 Results of the parameter identification in the animal experiment. Rp was increased. Ca was converged.

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第2章 デルタオペレータを用いた1次体循環系パラメータ同定

33

2.11 問題点生体という非常に複雑なシステムをモデル化する際には, 多くの要素を捨象しなくて

は, 逐次推定可能なモデルを表すことができない. 本モデルを生体へ適用することで, 大局的な生理系挙動を推定するのであれば, 有効であると考える. しかし, いくつかの重要な生理的性質が捨象されている. 特に動的なシステムを同定したにも関わらず, その周波数特性が生理学的に検証されているもの[17]と大きく掛け離れている点に着目した.

実際の動物を使って各周波数に対するインピーダンス特性を計測した研究より, 周波数が0 [Hz]の信号に対してはインピーダンスが非常に高く, 周波数が高くなると0にはならないが一定のインピーダンスに低下していくことが知られている[18].

上記のモデルについて周波数解析を行う. 実験結果より仮に生理パラメータRp=0.8

[mmHg sec/ml], Ca=2.0 [ml/nnHg]に決定すると, 生理モデルは

( ) ( ) ( )F.P.Ptd

dttt +−= 505260 (2.57)

となる. ボード線図(Eq. 2.58)を描くとのように描くことができる(Fig. 2. 19).

( )| |( )

?( )

�=

=G

×ω+

ω+ω

..

aCR

pRj

61180

1 p

2

2

(2.58)

Fig. 2.21より周波数が0Hzではインピーダンスが低く, 周波数無限大ではインピーダンスが0に収束してしまう. これは, モデルが一次系である以上当然の結果で, これでは上述

Angular Frequency [rad]

Gai

n [d

B]

10-2 10-1 100 101 102

-40

-20

/Users/G203/kosaka/Research/Master/chapter2/long.SP

Fig. 2.21 Bode diagram of proposed physiological model

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第2章 デルタオペレータを用いた1次体循環系パラメータ同定

34

の生理学的検知に矛盾してしまう.

つまり, 体循環系を大局的に見た時の, 動脈コンプライアンスと末梢血管抵抗の変動を利用するのであれば本手法は有用であると考えるが上記の周波数特性に関する矛盾が存在する.

そこで, 次の第3章ではパラメータ同定が困難にはなるが, 本モデルでは捨象していた生理パラメータを加える. そしてシステムの次数を一つ増やした生理モデルについてパラメータ同定を行い, その生理パラメータの挙動と周波数解析を考察する.

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第 3 章 デルタオペレータを用いた

2次体循環系パラメータ同定

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

36

第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ

同定

3.1 はじめに第2章にて生体の生理的, 機能的変化を的確に捉えるため, 一次の生理モデル の構築

と, デルタオペレータを用いたオンラインパラメータ同定法を提案した. そして, コンピュータシミュレーションと実際の動物実験にてその有効性を示した. しかし, 周波数特性について考察を行った結果, 過去に計測されたものと異なる結果が生じた.

そこで, 本章にて1次モデルとは異なる周波数特性をもつ2次の生理モデルを構築し, デルタオペレータを用いたパラメータ同定によって, その生理パラメータの変動と周波数特性, さらにそれらから機能的推定を行う.

3.2 2次体循環系生理モデル第2章ではEq. 2.6, Eq. 2.7よりEq. 2.8の体循環生理モデルを構築してきた. しかし, この

モデルでは, 解析を容易とするため相対的に値の小さい慣性と動脈抵抗は省略された. 本章では, 周波数特性の矛盾を解決し, より実システムを模擬したモデルを構築するために,

先に省略した慣性(L)と動脈抵抗(Ra)を加えた2次の体循環系生理パラメータを構築する.

この体循環系生理モデルを構築するため, 血行力学的に求められたEq. 2.7に生理学的知識として末梢血管抵抗を加え, 主に血行動態を反映している生理パラメータで構成される数理モデルで表す. この数理モデルは, 動脈にて血液の慣性力を反映している慣性動脈(L),

動脈の抵抗成分である動脈抵抗(Ra), 動脈の弾性特性である動脈コンプライアンス(Ca), 動脈系の末端における負荷抵抗である末梢血管抵抗(Rp)を生理パラメータに持つモデルである. 解析を容易にするため数理モデルを, 相似な系である電気回路的に近似した電気回路モデルとして表す(Fig. 3.1). するとインピーダンスZはラプラス演算子sを用いて次のように表される.

saCpR

pRaRsLZ

+++=

1 (3.1)

ここで, インピーダンスZは

s

ssZ

+

++= 11

2 ++

aCpRLL

aCpRLpRaR

aCpRLaCpRaRL

(3.2)

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

37

とまとめることができる. しかし, 入出力信号として第2章と同様に入力(Flow), 出力(Aop)を選択してしまうとEq. 3.2は非プロパーな制御システムとなってしまい, このままでは同定を行うことが困難となってしまう. そこでこのシステムの入力信号として大動脈圧(P(t)), 出力信号として流量(F(t))を選択するとEq. 3.2はEq. 3.3のような厳密にプロパーな制御システムとして表すこととが可能となる.

( )

( ) ss

s

P

F++

aCpRLpRaR

aCpRLaCpRaRL

aCpRLL

s

s

++

+=

2

11

(3.3)

さらに可観測標準系に変換すると

( )( )( )

( )

( )( )

( )Pxx

xx

tdd +

−= +

+

1

1

21

21

t

L

aCpRLtt

aCpRLaCpRaRL

aCpRLpRaR

tt

1

0

( ) ( ) ( )( )( )x

xF

tt

t = 1021 (3.4)

となり, 本生理モデルの状態方程式が導かれた.

Heart Artificial Heart

AopFlow

Ca

Ra

L

RpFig.3.1 The systemic circulation model represented to electrical circulation model.

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

38

3.3 デルタオペレータを用いた離散モデル

3.3.1 離散モデルの作成

次に, 第2章で行ったように時系列で計測されたデータを用いたパラメータ同定を行うために, 連続系の状態方程式で表されたEq. 3.4の生理モデルを離散化する.

まずは, Eq. 2.13, Eq. 2.15を適用してEq. 3.4をシフトオペレータを用いた離散時間システムとして表す. すると

( ) ( ) ( )( ) ( ){ =

+=xcF

PdBxdAxz

tt

ttt

( )

( )

( )( )

( )

( )

=

−=

+=

c

dB

sTdA

10

1

1

++

−−

+−

LsTaRLsTpRLaC

sTpRaRLsTpRLaC

sTpRaCaRLpRLaC

sTpRaR

222

2

2

2

(3.5)

となる. しかし, サンプリングタイムが0に近づくと第2章と同様にさまざまな問題が発生してしまう. つまり, Eq. 3.5においてTs=0とすると

( )( )( ) ( ) ( )

( )( ) ( ) ( )

( ) ( ) ( )( )( )

=

+=

tt

t

ttt

tt

tdd

xx

F

Pxx

xx

21

21

21

10

00

1001

(3.6)

より

( ) ( )

( ) ( )

( )

=

=

=

xF

xxtd

d

xxtd

d

2

22

11

t

tt

tt

(3.7)

となってしまい, Eq. 3.4 の連続時間システムとは異なるモデルとなってしまう.

そこで, 本章においてもデルタオペレータを用いた離散時間システムを導く. Eq. 2.21,

2.22を適用するとEq. 3.4は

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

39

( ) ( ) ( )( ) ( ){ =

+=δxcF

PdBxdAx

tt

ttt

( )

( )

( )

=

−=

=

c

dB

dA

10

1

0

++−

−−

+−

LsTaRLpRLaC

sTpRaRLpRLaC

pRaCaRLpRLaCpRaR

222

2

2

2

(3.8)

となる. ここで仮にサンプリングタイムを0と仮定したとしても

( ) ( ) ( )( ) ( ){ =

+=δxcF

PdBxdAx

tt

ttt

( )

( )

=

=

=

c

dB

dA

10

1

0−−

+−

L

pRLaC

pRLaCpRaCaRL

pRLaCpRaR

1

1 (3.9)

となり

( )( )( )

( )

( )( )

( )+−

−=δ Px

xxx

+

+

1

1

21

21

t

L

aCpRLtt

aCpRLaCpRaRL

aCpRLpRaR

tt

1

0

( ) ( ) ( )( )( )x

xF

tt

t = 1021 (3.10)

のように連続時間モデルEq. 3.4に帰着する.

3.3.2 デルタオペレータを用いたパラメータ同定

離散モデルが構築することができたので, このモデルにパラメータ同定法を適用し, 時系列で計測されたシステムへの入出力を用いてパラメータ同定を行う. 本モデルにおいても, 第2章と同様に最小2乗法によるオンラインで計算する逐次パラメータ同定法を行う.

まず, 本章にて構築したEq. 3.8 のモデルを出力誤差モデルへ変形し, 状態変数フィルタを適用する. そして, オンラインシステム同定(Eq. 2.50)によって同定される未知パラメータとの係数比較を行うことで生理モデル内の生理パラメータを推定する. 以下に計算方法を記す.

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

40

出力誤差モデルを導くため, Eq. 3.10より

( ) ( ) ( ) ( ) ( )

( ) ( ) ( ) ( )−−+δ−+

+−δ+−=δ

22

2

tPpRLaC

sTpRsTaRLtP

pRLaCsTpRaRaCpRLaC

tFpRLaCpRaR

tFpRLaC

pRaRaCLtF

22

22

(3.11)

となる. そして高周波ノイズの影響を減らすため状態変数フィルタ

( ) eeE +δ+δ=δ 212 (3.12)

を適用する. するとEq. 2.31, Eq. 2.32より出力誤差モデルとして表すわと

( ) ( ) ( ) ( )ttt

tty ε+θϕ=

( ) ( ) ( ) ( ) ( )[ ]( )

( ) ( ) ( ) ( )[ ]−−−+−+−=θ

δδ=ϕt

pRLaCsTpRsTaRL

pRLaCsTpRaRaCpRLaC

pRLaCpRaRepRLaC

pRaRaCLet

tt

fFtfFt

fPtfPt

22

22

21 22

(3.13)

となる. ゆえにこのEq. 3.13の出力誤差モデル内の未知パラメータベクトル ( )θ t内の生理パ

ラメータを獲得するためには ( )θ tと , Eq. 2.50より得られる逐次未知パラメータ

( ) [ ]−−=θ tt bbaeae 212211 ˆˆˆˆ を係数比較する必要がある. しかし, 実際に計算を行うと,

式が非常に複雑である, そのままでは解を求めることが困難である.

そこで, 連続時間モデルEq. 3.4を以下のように定義する.

( )( )( ) ( ) ( )

( )( ) ( ) ( )Pbb

xx

aa

xx

tdd +−

−=2

121

21

21

ttt

tt

10

( ) ( ) ( )( )( )x

xF

tt

t = 1021 (3.14)

すると, 生理パラメータとEq. 3.14との関係は

++−=

=

=

=

pR

aR

aC

L 1

bb

ba

ba

bbba

bbbababb

122

2

2

1

1

12

211

22

21112

2

131

−+− (3.15)

のように一意に定まる. つまり, デルタオペレータで表された離散時間システムのモデルのパラメータを, 連続時間システムのモデルのパラメータへ変換する関数を構築することで, Eq. 3.13のような複雑な式から生理パラメータを計算しなくてもよい.

これは, サンプリング周波数が高いと離散時間システムが連続時間システムへ帰着して

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

41

いくというデルタオペレータモデルの特徴を利用した導出方法であり, サンプリング周波数を高くすればするほど, その精度は高まる. シフトオペレータでは, 先に示した問題により, サンプリング周波数が高くなろうとも, 連続時間モデルへは帰着しないのでここで用いることは適当でないと考えた.

推定未知パラメータ ( ) [ ]−−=θ tt bbaeae 212211 ˆˆˆˆ と連続時間システムEq. 3.14のパラ

メータとを比較すると

( )

( )

−=

=

==

b

b

aaaaˆ2ˆ1

+−+−−

+−−

ˆˆ24

ˆˆˆˆˆ222

ˆˆ24

ˆˆ221

21

sTasTasTbasTbab

sTasTasTbb

221

21122

221

21 (3.16)

となり, 未知パラメータ ( ) [ ]−−=θ tt bbaeae 212211 ˆˆˆˆ が推定されると, Eq. 3.15, Eq. 3.16よ

り構築した生理モデル内の生理パラメータ(L, Ra, Ca, Rp)を, 一意に推定することが可能となる.

3.4 Computer Simulation

3.4.1 Conputer Simulation

本研究で提案した手法を検証するため, コンピュータを用いたシミュレーションによってその有効性を検討する.

ここで構築した生理モデルではパラメータを一定値L=0.1[mmHg sec sec /ml],

Ra=0.3[mmHg sec/ml], Ca=2.0[ml/nnHg], Rp=1.0[mmHg sec/ml]として定義したものである(Fig. 3.2). モデルへの入出力信号として, 大動脈圧を模擬した方形波を入力信号とし, モデルにシミュレーションを行った後得られる出力信号を血液流量(Total Flow)とした(Fig. 3.3).

そして, その入出力信号を提案する手法へ適用することで元のモデルを推定する.

そして, 一次の場合よりも同定困難な本モデルの同定性能を評価するため, ノイズの有無により以下の2つの状況でのシミュレーションを行った.

1) ノイズがない状況下での体循環系モデルの同定

2) 計測ノイズが計測信号に加わった場合の体循環系モデルの同定

同定性能は本手法によって推定される一段先予測値と実際の出力値とを比較することで評価する.

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

42

L=0.01

Ra=0.3 Rp=1.0

Ca=2.0

FlowAop

L=0.1

Fig. 3.2 To evaluate this method in computer simulation, the physiological parameters were set as L=0.1, Ra=0.3, Ca=2.0, Rp=1.0.

Aop

[m

mH

g]

0 5 10 15 20 25 30Time [sec]

0

20

40

60

80

AoP (Input )

/Users/G203/kosaka/Research/research01/October/Square_in_out.SP

0 5 10 15 20 25 30Time [sec]

0

5

10

15

20

Flow (Output )

/Users/G203/kosaka/Research/research01/October/Square_in_out.SP

Flo

w [

L/m

in]

Fig. 3.3 Second order physiological model was constructed in computer simulation. Input value

was Aop [L/min], and output value was Flow [L/min]

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

43

1) モデルの状態が一定の体循環系モデル(Fig 3.2)

コンピュータ上に構築した生理モデルに対し, 同定が正しく行うことができるかシミュレーションを行った.

同定結果をFig. 3.4に示す. デルタオペレータを用いたシステム同定の結果, CaとRpがやや目標値からの誤差を持ってしまったが, 5%以内の誤差であった. しかし, 生理パラメータが発散せず目標値から5%以内に収束してはいるので, 同定は正常に行われていると判断した.

R [

mm

Hg

sec/

ml]

L [

mm

Hg

sec

sec/

ml]

0 5 10 15 20 25 30Time [sec]

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

Ra (0.3)L (0.01)

/Users/G203/kosaka/Research/research01/October/noise0.SP

(0.1)

C [

ml]

/mm

Hg]

R [

mm

Hg

sec/

ml]

0 5 10 15 20 25 30Time [sec]

0

0.5

1

1.5

2

2.5

Ca (2.0)Rp (1.0)

/Users/G203/kosaka/Research/research01/October/noise0.SP

Fig. 3.4 Every parameters were converged to the preset value .

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

44

2) 計測ノイズが計測信号に加わった場合の体循環系モデルの同定(Fig 3.2)

コンピュータ上に構築した生理モデルに対し, 計測時に加わると考えられている白色ノイズを5%加えて, 同定が正しく行うことができるかシミュレーションを行った.

その同定結果をFig. 3.5に示す. デルタオペレータを用いたシステム同定の結果, 5%の白色ノイズがあるにもかかわらず, すべてのパラメータが誤差5%以内に収束した. ゆえにノイズの影響を受けてしまうような計測環境下においても, この生理モデルの同定に本手法が適用可能であることが示された

さらに, 同定が正常に機能した様子を, 同定されたモデルより推定される一段先予測値( )wolF と実システムの出力 ( )wolF を比較することで検討する(Fig. 3.6). 図より, 本同定法に

よって同定された体循環系モデルが, 実システムとほぼ同等の出力を発生させていること

R [

mm

Hg

sec/

ml]

L [

mm

Hg

sec

sec/

ml]

0 5 10 15 20 25 30Time [sec]

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

Ra (0.3)L (0.1) /

Users/G203/kosaka/Research/research01/October/noise5.SP

C [

ml]

/mm

Hg]

R [

mm

Hg

sec/

ml]

0 5 10 15 20 25 30Time [sec]

0

0.5

1

1.5

2

2.5

Ca (2.0)Rp (1.0)

/Users/G203/kosaka/Research/research01/October/noise5.SP

Fig. 3.5 Every paramters were converged to preset values regardless of the noise.

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

45

がわかる. ゆえに, 同定は正しく行うことができたといえるので, 実際の動物実験へ適用してその有効性を検証する.

0 5 10 15 20 25 30Time [sec]

0

2

4

6

8 Real OutputIdentified Output

/Users/G203/kosaka/Research/research01/October/noise5.SP

Flo

w [

L/m

in]

Fig. 3.6 Evaluation of parameter identification.Output value generated by real system and output value estimated by this identified model were almost same.

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

46

3.5 動物実験へ適用動物実験では, 第2章と同様に, 体重約40 [kg]の羊に対して, モノピボット型磁気支持遠

心ポンプ(MEL DD Series[19]))をLVASとして装着した. 計測データは, 圧力トランスデューサとアンプ (Nihon Kohden Corporation, Tokyo, Japan) による大動脈圧 , 超音波流量計(Transonic System. Inc., New York, U.S.A.)によるポンプ流量, 大動脈流量である

1) まず, 動物実験に対して同定を正常に行うことができるか検討するため, 短時間の計測データに対して本手法を適用した. 入出力信号はFig. 3.7で与えられる20秒間の計測データである. 同定に使用する流量はポンプ流量と大動脈流量の和であるので, 図の2つの流量の和を使用する.

Aop

[m

mH

g]

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20Time [sec]

0

20

40

60

80

100

120

Aortic Pressure [mmHg]

7.2 7.4 7.6 7.8 8

70

80

90

Flo

w [

L/m

in]

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20Time [sec]

0

5

10

Aortic Flow [L/min]Pump Flow [L/min]

7.2 7.4 7.6 7.8 8-202468

10

Fig. 3.7 Input value(Aop) and output value(Flow) for twenty seconds.

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

47

同定結果をFig. 3.8に示す. デルタオペレータを用いたシステム同定の結果, 心臓の拍動による影響でやや推定値が拍動しているが, すべての生理パラメータが発散することなく推定することができた. また, RaやCaが20秒間という短い時間周波数の高い拍動成分以外にもゆるやかな変動が2秒おきぐらいに見られるが, これは, 同定に使用した大動脈圧, 流量においても見られることなので, むしろ現実を反映した現象ではないかと考察する.

7.2 7.4 7.6 7.8 80

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20Time [sec]

0

0.5

1

1.5

2Rp [mmHg sec/ml]Ca [ml/mmHg]

C [

ml/m

mH

g R

[m

mH

g /m

l]L

[m

mH

g se

c se

c/m

l]R

[m

mH

g /m

l]

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20Time [sec]

0

0.05

0.1

0.15Ra [mmHg sec/ml]L [mmHg sec sec/ml]

7.2 7.4 7.6 7.8 8

0

0.02

0.04

0.06

Fig. 3.8 Results of this parameter identification. Every parameters were converged to Ca=0.75 [ml/mmHg], Rp=0.4[mmHg sec/ml], Ra=0.05[mmHg sec/ml], L=0.001[mmHg sec sec /ml]

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

48

システム同定の評価を行うために実際のシステムの出力 ( )wolF とモデルより推定される

一段先予測値 ( )wolF とを比較する(Fig. 3.9). 図より本手法で同定されたモデルの推定出力

と実システムの出力はほぼ一致している. ゆえに正常にシステム同定が行えているものと考える.

Flo

w [

L/m

in]

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20Time [sec]

0

5

10

15Measured Flow [L/min]Estimated Flow [L/min]

7.2 7.4 7.6 7.8 82468

1012

Fig. 3.9 Evaluation of parameter identification.Output value generated by real system and output value estimated by this identified model were almost same.

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

49

2) 次に, 長期の動物実験に対して同定を正常に行うことができるか検討するため, 使用

した動物実験データは, 2000/11/17−2001/1/29の期間に実施された動物実験データの中から

特に生体が安定していた術後56日目から70日目の間のデータを使用した.

Fig. 3.10にその入出力波形を示す. 両者ともに大きな変動も無く安定した状態であった.

ここで, 術後57日目と術後64日目の流量の大きな変動は, 第2章でも述べたように, ポンプの評価実験のために一時的に流量計測を中断したものであるので, 本研究で対象としている生体の異常ではない.

Aop

[m

mH

g]

56 58 60 62 64 66 68 700

50

100

56 58 60 62 64 66 68

100

50

Postoperative time [day]

56 58 60 62 64 66 68 70

0

2

4

56 58 60 62 64 66 68 Postoperative time [day]

4

2

0

Flo

w [

L/m

in]

Fig. 3.10 Input value(Aop) and output value(Flow) between 56days and 70days in the animal experiment. These measured values were not changed widely.

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

50

同定結果をFig. 3.11に示す. デルタオペレータを用いたシステム同定の結果, 生体が安定している期間においては, ポンプの評価時に流量計測を一時中断した影響での同定の不安定さは表れている. しかし, それ以外の同定結果については変動範囲が多くとも約20%の範囲に収まっており, この推定された生理データからは生体内部の状態も安定な状態にあると考えられる.

56 58 60 62 64 66 68 700

0.5

1

C [

ml/m

mH

g

56 58 60 62 64 66 68 Postoperative time [day]

1

0.5

0

R [

mm

Hg

/ml]

Rp

Ca

56 58 60 62 64 66 68 700

0.05

0.1

0.15

L [

mm

Hg

sec

sec/

ml]

56 58 60 62 64 66 68 Postoperative time [day]

1

0.5

0

R [

mm

Hg

/ml]

Ra

L

Fig. 3.11 Results of this parameter identification between 56days and 70days in animal experiment. Every parameters were not changed widely.

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

51

3) 最後に動物実験末期の計測データに対して同定を正常に行うことが可能か検討を行った. 実験末期の計測データはFig. 3.12で与えられる. 術後71日目より大動脈圧の急激な上昇と, 流量の急激な現象がみられる. 術後72日目以降は大動脈圧は非常に高いまま推移し, 流量も非常に低いまま, 術後72日目以降, 強心剤などの医療行為によって一時回復のきざしが見えたが, 術後73日目以降, 流量の低下が止まれず術後74日目の午前7時ごろに死亡した.

70 70.5 71 71.5 72 72.5 73 73.5 740

50

100

150

Y A

xis

100

0 70 70.5 71 71.5 72 72.5 73 73.5 74 Postoperative time [day]

150

50Aop

[m

mH

g]

70 70.5 71 71.5 72 72.5 73 73.5 74

0

2

4

Flo

w [

L/m

in]

2

0 70 70.5 71 71.5 72 72.5 73 73.5 74 Postoperative time [day]

4

0

Fig. 3.12 Input value(Aop) and output value(Flow) between 70days and 75days in the animal experiment. Aop was increased suddenly in 71 days. Flow was also decreased in 71 days.

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

52

この期間の同定結果をFig. 3.13に示す. デルタオペレータを用いた生理パラメータの推定結果, 術後71日目に末梢血管抵抗の値が急激に増加した. そして, 末梢血管抵抗の増加同時に大動脈抵抗と大動脈コンプライアンスは急激に減少している. 術後73日目から術後73

日目の正午までの結果にあまりに急激な変動が推定されているが, 計測データや動物の記録用紙には, 特に目立った生体の異常に関する記録は残っておらず, さらなる解析を要する.

70 70.5 71 71.5 72 72.5 73 73.5 740

1

2

1

0

R [

mm

Hg

/ml]

Rp

Ca

70 70.5 71 71.5 72 72.5 73 73.5 74 Postoperative time [day]

2

0

C [

ml/m

mH

g ]

70 70.5 71 71.5 72 72.5 73 73.5 740

0.05

0.1

0.15

L [

mm

Hg

sec

sec/

ml]

1

0

R [

mm

Hg

/ml]

Ra

L

70 70.5 71 71.5 72 72.5 73 73.5 74 Postoperative time [day]

2

0

Fig. 3.13 Results of this parameter identification in animal experiment. Rp and Ra were increased widely, and Ca was decreased. L was decreased a little

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

53

3.6 結果と考察本研究では, 人工心臓を用いた治療手法や制御手法として各生理パラメータの挙動に適

応した長期運用可能な治療制御の確立を目的に, 生体の生理的, 機能的変化を的確に逐次推定することを目的とした. そのために, 第2章で問題となった周波数特性を改善すべく,

まずは2次の生理モデルを構築し, デルタオペレータを用いた離散化を行うことで, 時系列で計測された計測データより, モデル内の生理パラメータを逐次推定する手法の提案を行った. そして提案した手法を, コンピュータ内に構築した既知のモデルへ適用することでその有効性を示すことができた.

さらに動物実験計測データに適用すると, 以下のような結果が得られた.

1) 短時間の動物実験データ

短時間の動物実験データに対して本手法を適用したところ, 推定された生理パラメータは発散することなく, 安定した推定値が得られた. また, モデルの推定出力と実際の出力とを比較するとモデルが実システムを正しく模擬していることが確かめられた.

2) 長期間の動物実験データ(安定期)

長期の安定した動物実験データに対して本手法を適用したところ, 推定された生理パラメータについても安定した推定値が得られた.

2) 長期間の動物実験データ(末期)

しかし, 末期の動物実験データに対して本手法を適用したところ, 状態の悪化とともに末梢血管抵抗が約1.5倍に増加し, さらに動脈コンプライアンスが減少した. この結果は,

これらの生理パラメータの定義から考察すると, 末梢血管が急激に締まり, 動脈が緊張状態になっているということが推定される. つまり, 感染症などなんらかの影響で心臓が拍動をしても生体を循環する血流量が減少したため, 生体が自身の主要臓器を制御機構を施したものと考えられる.

この現象は生体のインピーダンスを高め, 少ない血液流量でも主要臓器に血液を送る生体の制御機構と考えられる. 具体的にはFig. 3.1より循環系のインピーダンスEq. 3.2を導出し, ラプラス領域では直感的にわかりにくいので微分方程式に変換すると

( )( ) ( )

( )PPaC

pR

aRtF

tFtddL

ZZZ+

++=+=1

121

t

ttdd

(3.17)

のようになる. ここで先の動物実験の結果よりL,RaはRp,Caに比べて小さいことが推定さ

れているので ZZ 21 << となり, Z2のみついて考えると,

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

54

PPaC

pR

ZZ+

=≅ 2 11

tdd

(3.17)

においてより以下の2つの作用が明かになる.

・Rpの増加により血液流の連続流成分に対する抵抗が増加

・Caの現象により血液流の拍動流成分に対する抵抗が増加

つまり, 生体は自身がもつ調整機能を生かし, 本来はすぐに死亡してしまうような状況下においてもできるだけ生体の代謝に必要不可欠な血液量を送ろうとしていることが考察された.

Frequency (rad/sec)

Phase (deg); Magnitude (dB)

Bode Diagrams

0

5

10

15

20

25From: U(1)

10-1

100

101

102

-100

-50

0

50

100

To: Y(1)

Fig. 3.14 Board Diagrams of proposed systemic circulation model.

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第3章 デルタオペレータを用いた2次体循環系パラメータ同定

55

3.7 まとめと今後の展開本章において2次系の体循環系生理パラメータ同定の手法を提案し, その有効性を示す

ことができた. 第2章においてその周波数特性を問題視したが, 本手法で推定した2次の生理モデルの周波数特性を示したものがFig. 3.14である. Fig. 3.14は第2章とは違い, このゲインはアドミタンスを反映している. 周波数が0 [Hz]の信号は, 先のモデルとは違いインピーダンスは最大ではなく, ある周波数, ここでは1.7 [Hz] にてインピーダンスが最小となった後に増加している. このある周波数は一般的に共振点と呼ばれている点であり, この周波数にて入力信号(Aop)を発生することができれば, 最小限の負荷で最大限の流量を生体に流すことが可能となる.

先の動物実験末期の計測データに対して本手法にて同定されたモデルよりその共振点を求め, 横軸に時間, 縦軸に共振周波数を求めたものがFig. 3.15である. 図より共振周波数は末期に近づくにつれ上昇していることがわかる. さらに, 心臓の制御系の一端を探るために, 一秒ごとの心拍動数で表したものを同図に示した. 図より心臓の心拍数と循環系の共振周波数とはなんらかの相関があるように見える.

今後は, これまで行われてきた多数の動物実験データに対して同様の解析を行い心臓の制御系の解明を図るとともに, この特性を人工心臓の制御に生かすことはできないか, 検討を行う.

70 71 72 73 74

Postoperative Time [day]

0

1

2

3

4

Fre

quen

cy [H

z]

/Users/G203/kosaka/Research/research01/October/long_fre.SP

Heart Rate

Resonant Frequency

Fig. 3.15 Relation ship between Resonant Frequency and Heart Rate

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第 4 章 連続流人工心臓

遠隔モニタリングシステム

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第4章 遠隔モニタリングシステム

57

第4章 連続流人工心臓遠隔モニタリングシステム

4.1 連続流人工心臓遠隔モニタリングシステムの重要性現在、ネットワーク技術が飛躍的に発展し、経済、産業分野ではIT化の話題が大きくと

りあげられている。医療分野におけるIT化の流れも例外ではなく、現在、慢性の疾患患者や寝たきり老人の増加、QOL(Quality of Life)志向の高まりなどによって、患者が病院に行かなくても、遠隔からの患者情報の伝送に基づいて、医師が遠隔地から診断、指示など医療に関連した行為を行う"遠隔医療"に対して、関心が高まっている。

人工臓器の分野でも同様で近い将来、理想的にはimplantable、もしくはwearableかつ、無故障で高い安全性をもつ、人工腎臓や人工心臓などの人口臓器が開発され、それら人工臓器を装着した患者が、在宅にて医療行為を受けながら、在宅生活や社会復帰を達成することが考えられる。その際、病院内の管理システム以上に信頼できる遠隔医療システムの構築が必須となる[17][18]。

Hospital

Labolatory

Doctor

Smart ArtificialHeart

Wireless LAN

InterNetInterNet

Remote Monitoring System

Doctor’s Home

Patient House

Heart

Real Time DataAcquisition System(i-Box)

Remote MonitoringSystem & HTTP Server

Fig. 4.1 Outline of "Smart Artificial Heart" and "Network System"

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第4章 遠隔モニタリングシステム

58

これらの現状を踏まえ、本研究室では人工心臓を対象にFig. 4.1のような人工心臓システムの開発を行っている。具体的には、人工心臓自体を知能化、センサ化させた情報端末として扱う"スマート化人工心臓"の開発を行っている[19][20]。これは、人工心臓自体に各種センサを設置し、無侵襲的かつ非観血的に安全や治療効果に関わる生理情報の計測を行う"ISU(Integrated Sensor Unit)"[21]や、小型人工心臓用モータドライバ"TMD-F"シリーズ[22]や小型計測制御用WearablePC"i-Box"[23]より構成されている。本研究では、このスマート化人工心臓システムの一環として、各種生理データの計測及び、遠隔地から患者の管理を行うことのできる遠隔モニタリングシステムの開発を行った。人工臓器を装着した患者が、本遠隔モニタリングシステムによって、いつでもどこでも医師の安全管理を受けられるため、安心して日常生活を送ることが可能となると考える。

4.2 遠隔モニタリングシステムの概要本研究で人工心臓装着者を想定し開発した遠隔モニタリングシステムをFig. 4.2に示

す。本システムは、連続流人工心臓を左心室補助として装着した患者(この場合は動物実験であるため、羊へ適用した)を対象に各種生理情報を、スマート化人工心臓により計測する。スマート化人工心臓には、ポンプ周辺の生理データやポンプの情報が計測できるセ

20 00

Smart Artificial Heart

Sheep

Data Acquisition Server

Remote Monitoring & HTTP Server

Laboratory

Home

CommunicationTool

Motor Driver

Sensors

WebTV

Hospital

Wearable PC i-Box

user authorizeAuthentication

Internet

Fig. 4.2 Outline of "Remote Monitoring System"

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第4章 遠隔モニタリングシステム

59

ンサが内蔵されている。さらに、別系統のセンサとして市販の製品を使用した血圧計、流量計、心電計などで生理データを計測し、現在のスマート化人工心臓では計測が困難な生理データの計測やスマート化人工心臓の評価を行っている。計測されたデータは、A/D

カードを通して計測サーバに集積される。獲得された各種情報はネットワークを介して遠隔管理用サーバへ転送され、そこでデータは適宜加工されることでWorld Wide

Web(WWW)を利用してインターネット経由で世界中どこにいようとも閲覧が可能である。さらに、本システムでは、生理データの計測以外にもCCDビデオカメラを用いて対象となる映像のオンラインモニタリングや、異常時の判定と警告、遠隔地よりマイクとスピーカを使った簡易コミュニケーションを行うことも可能である。

4.3 システム構成本システムの構成として主にデータ処理の流れをFig. 4.3、ハードウェアの図をFig. 4.4,

Fig. 4.5にそれぞれ記す。本システムは、データを収集、蓄積するための計測用サーバと、計測されたデータをJava言語にて適宜加工し、さらにWebカメラなどのデータと組み合わせ、外部から実験の様子をインターネット経由で閲覧することが可能な遠隔管理用サーバから成っている。計測を行っているデータは、ARIES10 (2001/12/6-2001/12/28) においてはTable 4.1のようになっている。市販製品を使って計測している動脈圧、中心静脈圧、大動

Smart AH

Sensors

A/DConverter

20 00

Motor Driver

Monitoring Server

WEB TV

NumericalData

(*.dat)

Circulation ModelParameter Estimeter

Graph Image (*.png)

Internet

DataAcquisitionServer

Raw Value

2.3251.2551.457....

PhysicalValue

History Data

Java Language

Warning(Email)

HTTP ServerData

Web browser

Graph Image (*.png)

70.7568.7565.32

70.7568.7565.32

68.3568.2068.52

Fig. 4.3 Data Flow of "Remote Monitoring System"

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第4章 遠隔モニタリングシステム

60

脈流量、ポンプ流量と、スマート化人工心臓に内蔵されているセンサ群(1) 血圧を計測するための圧力センサ、2) ポンプ血液流量を計測するための流量計 3) 体温を計測するための温度計 4) 血液学的データであるヘマトクリットや動脈血中酸素飽和度を計測するためのセンサを利用して無侵襲的かつ非観血的に計測が可能である。サンプリング周波数は、ARIES10においては、体温のみが1Hzで計測を行い、残りのデータは100Hzにて計測を行った。

Table 4.1 Measurement data and these unit and sampling rates

Channel No. Objects Unit Sampring rate[Hz]

0 BLAZER T4 [V] 100

1 BLAZER T2 LD-1 805nm [V] 100

2 Aortic Pressure [mmHg] 100

3 Central Venous Pressure [mmHg] 100

4 Aortic Flow [L/min] 100

5 Pump Flow [L/min] 100

6 Pump Rotational Speed [rpm] 100

7 Motor Current [A] 400

8 BLAZER T2 LD-2 685nm [V] 100

9 Pump Outlet Pressure (SAH) [V] 100

10 Pump Flow (SAH) [L/min] 100

11 Body Temperature (SAH) ℃ 100

12 Electrocardiogram [V] 100

SAH:Smart Artificial Heart

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第4章 遠隔モニタリングシステム

61

4.4 計測用サーバ(Data Acquisition Server)

計測用サーバは、A/D変換された各種データをオンラインで取り込み、計測したデータの種類と日時により分類して蓄積している。万が一計測システムに異常が生じ計測が止まってしまった場合に貴重な動物実験のデータを失ってしまったり、計測がしばらく不可能 に な る な ど 、 非 常 に 大 き な リ ス ク が 発 生 し て し ま う こ と を 考 慮 し 、ARIES8(2000/11/16-2001/1/30)以降の実験では常に2系統のシステムが稼動している。一系統は、ノートブック型コンピュータを用いたシステムで、もう一系統は、ARIES8より導入された小型Wearable PC "i-Box"を用いたシステムである。ARIES10においてもシステムは2系統ではあるが、将来的には患者が病院外に出て活動を行うことを考慮すると"i-Box"

のみのシステムに移行する予定である。

1) ノートブック型コンピュータ(IBM製、ThinkPad570)を用いた計測(Fig. 4.4 (a))

計測された生理情報やポンプの情報などのデータのA/D変換には、PCMCIAバスに挿入するカード型コントローラと、ターミナルボックス(ネットワークボックス)から構成されるinstruNet-230(GW Instruments Inc,MA,USA)を用いた。14ビットの分解能と166kHzのA/D変換器を持ち、またA/Dポートが16チャンネル分ある。これは計測する各種データをパソコンに取り込むには十分な分解能とチャンネル数である (Fig. 4.4 (c))。また、各アナログチャンネル毎にプリアンプを内蔵しており、低ノイズ高感度の測定が可能である。また、アナログ出力を8ビット8チャンネル持つ為、人工心臓の制御へも適用可能である。

計測データ獲得用ソフトウェアには、Visual Basic version 5 (マイクロソフト社製)を用いてサンプリング間隔や駆動間隔(データ量が多いため、計測は1分間のうち20秒計測して40

秒のインターバルをおく)を制御している。また、計測されたデータはそれぞれ電圧値から予め定めておいた換算式により意味を持つ物理量の単位へと変換され、計測されたデータの種類と日時をもとにしたファイル名とディレクトリ構造にて保存、蓄積される。生体を用いた長期実験を行う際には、高サンプリングのデータによる解析も重要であるが、生理変化などの長期トレンド変化の解析も重要であるため、1分間隔で過去1分間の平均値を導出し、それを履歴データとして別のファイルとして蓄積する。

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第4章 遠隔モニタリングシステム

62

(a) Left: Data Acquisition ServerComputerIBM Thinkpad 570

A/D Converter GW Instruments instruNet iNet−230 Network Device iNet-100

(b) Right: Remote Monitoring ServerComputerIBM Thinkpad 600E

(c) A/D Converter GW Instruments Network Device iNet-100Terminal A/D 16CH (14bit), D/A 8CH, DIO 8CHMaximum Sampling Rates 166kHz

Fig. 4.4 (a) Computers for Data Acquisition System (ThinkPad 570),and (b) Computer for Remote Monitoring and HTTP Server (ThinkPad 600E), (c) A/D converter (iNet-100)

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第4章 遠隔モニタリングシステム

63

2) 小型Wearable PC i-Boxを用いた計測(Fig. 4.5)

i-Boxは持ち運び可能な小型かつ軽量のWearable PCで患者が何処にいても常に生理状態や人工心臓の駆動状態をモニタリングするために開発されたコンピュータである。計測データはノート型コンピュータと同じデータを計測し、DAQ-700 PCMCIA(National

Instruments, Tx, USA)を用いてA/D変換を行っている。DAQ700のA/Dポートは16チャンネル分あり12bitの分解能を持つ。計測されたデータは一時的にi-Box内のコンパクトフラッシュに書き込まれ、無線LANを使用してデータ蓄積用のコンピュータにデータを送信している。計測データ獲得用ソフトウェアにはC言語を使用し、サンプリング周波数100Hzで連続計測を行っている。コンピュータ内でのデータの流れはノート型コンピュータを用いたものと同様である。

Fig. 4.5 .Wearable PC "i-Box", which has Wire-less LAN and 12bit, 16ch, A/D card. CPU is

Pentium MMX 166MHz, OS is RT-Linux.

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第4章 遠隔モニタリングシステム

64

4.5 遠隔管理用サーバ(Remote Monitoring Server)

遠隔管理用サーバ(Remote Monitoring Server)はノートブック型コンピュータ(IBM製

ThinkPad600E)より構成されている(Fig. 4.4 (b))。計測用サーバにて計測されたデータはネットワークを通して遠隔管理用サーバに送られ、データをグラフとして描画し、画像ファイルへと処理される。最終的にはHTMLにてホームページを作成しグラフを貼り付けることで、OSに依存せずに通常使用しているWWWブラウザによって世界中より容易に閲覧ができるようになる(Fig. 4.6, Fig. 4.7)。さらに、本遠隔管理用サーバは、計測データの閲覧のみならず、各種の患者の管理機能を有する。詳細については4.6に述べる。

ソフトウェアには、オブジェクト指向言語であるSun Micro SystemsのJava言語を使用した。オブジェクト指向とはオブジェクトと呼ばれる互いに独立した小規模プログラム群を作り、このオブジェクト間でメッセージ交換を行わせ、全体で大規模なプログラムを動かすことを基本にした考え方である。これにより、プログラムの分業や、新たなプログラムの追加、プログラムの再利用が可能となる。また、Servletなどのサーバサイドのプログラミングやネットワークプログラミングの容易さなど利点は多い。

生体画像の動画での監視には、WebView(Canon製,Japan)を利用し、CCDビデオカメラにて撮影された対象のリアルタイムの画像も、オンラインで獲得しており閲覧が可能である。外部よりアクセスを可能とするため、HTTPサーバソフトウェアとしてAN HTTPD

ver.1.31を採用した。HTTPサーバソフトウェアにて、この遠隔管理用ホームページへは、情報の漏洩やプライバシーの保護を考え、ユーザ認証を設けて特定のユーザ以外の閲覧を禁止した。もっとも、患者の生命とプライバシーを有する医療情報を扱う場合にはこれだけでは不十分であり、今後、より信頼できるセキュリティを構築、もしくは採用していく必要がある。

コミュニケーションツールについて、従来では遠隔から対象の画像やデータの閲覧は可能であったが、生体やポンプが危険な状態となったときに動物実験センター(将来的には患者の家を想定)に駆けつけても医師や担当者に連絡し、電話にて指示を仰がなくてはならなかった。しかし、WindowsでもMacでも利用可能なインターネット電話を導入することで、緊急時には例え医師が病院外に外出していたとしても外出先にてCCDカメラの動画と各種データを閲覧しながら、マイクで指示を送りスピーカで返事を聞くといったような簡易コミュニケーションが可能となる。

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第4章 遠隔モニタリングシステム

65

Fig. 4.6 .Screen Shot of this Remote Monitoring System 1

(When doctor observes the new data, the new windows are not opened)

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第4章 遠隔モニタリングシステム

66

Fig. 4.7 .Screen Shot of this Remote Monitoring System

(When doctor observes the new data, the new windows are opened)

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第4章 遠隔モニタリングシステム

67

4.6 遠隔管理用サーバ機能本遠隔管理用サーバは, 遠隔地より各種計測データが閲覧できるだけでなく, 生理状

態の長期的視点による生理的傾向や異常を検知し, 医師に伝える機能を追加した. これは医師などが常時データを閲覧し, 各自で危険かどうかの判断を下さねばならなかった従来の遠隔管理用サーバ[24]を改良したものである. 当然, 最終判断は医師に任されるが, 人工心臓や人工腎臓などの人工臓器を装着した患者などが長期に渡って在宅医療を受けるような場合を想定し, 遠隔管理用サーバ自身が生体やポンプなどの異常状態に対して, 医師ができるだけすみやかに適切な処置を行うための手助けとなる機能となりうる. 具体的には以下の4つの機能である.

1) データ閲覧機能

2) 異常状態検知機能

3) 生理モデルの実装

4) 携帯電話への応用

4.7 データ閲覧機能計測サーバにて計測した過去1分間分のデータと過去24時間分の履歴データは, その

まま加工を行わなければ, 数の羅列となってしまい閲覧には適さない. そこで, Java言語を用いたソフトウェアを適用し, 各々のデータをグラフ化するとともにPNG(Portable

Network Graphics)形式の画像フォーマットファイルとして保存し, 最終的にはホームページ上のHTMLファイルに埋め込んだ. PNG形式は線順次画像(raster image)のロスレス(可逆)

で, 通信向けであり, 高い圧縮率で広範囲に使えるファイル・フォーマットであり, GIF

フォーマットに替わる特許権フリーな画像フォーマットである. また, 従来のモニタリングサーバで問題の一つとなっていた, ウィンドウが多く開いてしまって閲覧が困難になる点を改良するため, データ閲覧用のウィンドウは, 新たにウィンドウを作成するための選択をしない限りは, データを選択しても新しいウィンドウを作成せず, 同一ウィンドウにグラフを表示するようにした. また, 一度にすべてのグラフを表示することは困難であるので過去1分間の平均値のデータを画面に表示し, できるだけ一目で全体のデータが閲覧できるよう表示方式を考慮した(Fig. 4.8). データの比較を行う時には, 従来のように閲覧ウィンドウが独立して開くことも可能である.

また, 仕事中, パソコン上で本アプリケーションウィンドウを開いたままではウィンドウサイズが大きいので, 最小化されてしまう可能性がある. そこで, データの閲覧や解析を行う際にはウィンドウサイズも大きく, 詳細なデータが見られるものを, 仕事中はウィンドウサイズも小さく, 必要最小限のデータのみ閲覧を可能とした(Fig. 4.9) .

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第4章 遠隔モニタリングシステム

68

Moving Image of the Sheep

Mean Data Panel of the Physiology

Warning Panel

Data Viewer Data SelectorFig. 4.8 Function of this Remote Monitoring System

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第4章 遠隔モニタリングシステム

69

Fig. 4.9 Minimization of this Remote Monotoring System

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第4章 遠隔モニタリングシステム

70

4.8 生理モデルの実装本遠隔モニタリングシステムへ, 2章で述べた一次系の体循環系生理モデルを組み込み

むことで, オンラインでの生理パラメータ同定を行うことが可能である. 生理モデルを利利用することで, 対象の生体内部の生理状態をオンラインで閲覧することができたる. さらに計測データでは解析困難な生体内部の生理状態を, 生理モデルにより得られた生理データを閲覧可能とすることで解析の手助けとなる(Fig. 4.10). 将来的には, 同定手法が複雑な3章で述べた2次系の体循環系生理モデルや, 肺モデル, 体液系モデルなどといった仮想的な生理モデルを組み込み, 仮想人体カーネルの構築を目指す.

Fig. 4.10 Panel of the Identified Physiological Parameters

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第4章 遠隔モニタリングシステム

71

4.9 異常状態検知機能

4.9.1 異常状態検知機能

遠隔モニタリングシステムにおいて, ホームページ上より各種の計測データを閲覧することは有用ではあるが, 緊急時に備えて, 医は常にホームページを確認しておかねばならない. 万が一, 医師がモニタリングシステムを閲覧できない状況にある時やモニタリングシステムを閲覧していなかった場合などは, 患者の緊急の事態に機敏に対応をとることができない. また, 将来, 病院から離れて在宅などで生活を行う患者が増加したときに,

医療スタッフが常時24時間複数の患者の状態をモニタリングすることは困難である. そこで, 患者の安全確保のため, 緊急事態が生じたときにその状況をすぐに医師が知ることが可能であれば, モニタリングシステムを常時閲覧していなくても, 緊急事態に対して迅速かつ適切な処置を施すことができる[25].

Staff

Patient

SMART ARTIFICIAL HEARTDec/27/2000

Pump flow isabnormal!

0.516L/min

Staff

Monitoring System

PDAPortable Phone

EMAIL!Emergency

INTERNET

EMAIL

INTERNET

Fig. 4.11 Panel of the Identified Physiological Parameters

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第4章 遠隔モニタリングシステム

72

4.9.2 異常状態検知機能アルゴリズムの概要

異常状態検知機能には本研究室で以前提案された[26]閾値と感度より成るイベント検知アルゴリズムを改良したものを採用した. Fig. 4.12のようにフローチャートとしてあらわすことができる. まず, 過去の実験結果より閾値を2段階に設定しそれらの閾値を超えたかどうかでイベントを判定する. 第一段階の閾値は, 長期的トレンドの変化より見られる生体や人工心臓が異常になっているかどうかを判断する通常状態の閾値で, 第二段階の閾値は, 突発的な生体や人工心臓の異常を捉えるための緊急状態の閾値である. 現在の状態が第一段階の閾値を超えた場合には, 羊の姿勢の変化などの影響を打ち消すため待ち回数にカウンタが達するまでカウンタを加え続ける. そして, カウンタが待ち回数を超えたらなんらかのイベントが起こったと判断し, 遠隔モニタリングシステム上のホームページにイベント発生を知らせる(Fig. 4.13). さらに, イベントが改善されないままの状態がしばらく続く(ここでは暫定的に60分に設定)と, 電子メールを用いて現在のイベントの内容と各種データの平均値を医師に送信する(Fig. 4.14).

さらに, このままでは, 生体状態の急激な変化やポンプやセンサの故障といった突発的なイベントに対しての応答性能に問題があると考えられるので第二段階の閾値として通

Counter=0, End_Counter=0

Data:threshold 2

Data:threshold 1

<

<Emergency

Counter : 0

=

Event Finish

Counter=0End_Counter=0

Counter : Sensitivity

Counter++>

>

< Time= Counter-Sensitivity

Time:1 Time%60:0

Event Occur Event Continue

>

= =

End_Counter : 60

End_Counter++

=

Start

Fig. 4.12 Flow Chart of this Remote Monitoring System

Page 78: Cover.wdesk2 . /Users/G203/kosaka/Research/Master/chapter0 · 4.9.3 異常状態検知機能アルゴリズムの動物実験へ適用 4.9.4 全データの異常検知 4.9.3 まとめと考察

第4章 遠隔モニタリングシステム

73

常考えられないような閾値を設定し, 現在の状態がこの閾値を超えた場合にはすぐにホームページ上に異常を知らせると共に電子メールにて緊急の状態であることを送信するようなアルゴリズムを構築した. また, 上記の危険を知らせるアルゴリズムと併用して, 危険をある程度予想するため長期的な視野にたち, 生体の変動を捉え, その変動の傾向を検知するアルゴリズムを構築した.

ただし, 本アルゴリズムの構築において, 多数のイベントを発生させたり電子メールを発送することは, 患者にとっても医者にとっても重要ではあるが, 程度を超えた警告は警告に対する信頼性を低下させてしまうため, 本当に危険なイベントのみ電子メールにて警告するが, ある程度危険なイベントはホームページ上だけで警告することとした. まとめると, 本異常システムは, 以下の3つの戦略を合わせ持つアルゴリズムよりなる.

(1) 生体が異常だと思われる閾値を超えたか判定するアルゴリズム

(2) 突発的な変動を検知するアルゴリズム

(3) 長期的な変動の異変を検知するアルゴリズム

ここでは, 特に生体の生理的変動が反映されたり, 生死に密接に関わってくる大動脈流量に着目してARIES10において計測された生理データを対象に本アルゴリズムの有効性を検証する.

Fig. 4.13 Warning Panel on the Remote Monitoring System

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第4章 遠隔モニタリングシステム

74

4.9.3 異常状態検知機能アルゴリズムの動物実験への適用

(1) 生体が異常だと思われる閾値超えを判定するアルゴリズム

本アルゴリズムで設定する閾値を設定する為, これまでの動物実験のデータベースをもとに人工心臓の働き, あるいは人工心臓を取り付けられた生体の状態が正常状態と判定される値を仮に1.2 L/min以上と定めた. その結果がFig. 4.15である. 図において(a)は計測された大動脈流量と, 丸印で示したものがグラフを閲覧していたときにスタッフが異変と感じる箇所の例である. (b)は設定した閾値の範囲を示す. 図で塗りつぶされた範囲をここでは異常な状態を決めた.

本アルゴリズムを適用した結果は(c), (d)である. (c)で塗りつぶされた箇所は異常状態にあると判定された箇所であり, また, x軸上にある丸印はホームページ上に警告として表示する箇所である. この判定基準では警告は動物実験20日と数時間で合計154回(7.5回/

日)であった. (d)のx軸上の三角印は, 電子メールにて警告を送信する回数である. この判定基準では, 動物実験中合計53回(2.5回/日)であった. 一日当たりの数に着目すると数は多くないように思えるが, 図よりほとんどの警告は術後12日以降に発生しており, 多い日

Fig. 4.14 Alarm Mail from Remote Monitoring System

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第4章 遠隔モニタリングシステム

75

では一日30回を超える警告と20通以上のメールが送信されてしまう. 通常, 警告や以上を知らせるメールが送信されるとスタッフはホームページなどで各種情報を確認し, 緊急性のない異常さえも様子を注意深く観測するようになるので, 長期間に渡って一日に大動脈流量のみで大量の警告や電子メールを送信することは重要ではあるが, 本当に緊急性を持つもの以外には, 多数の患者の管理などを考慮すると現実に則さない.

そこで少人数のスタッフでも多数の患者の管理を可能とするように, 閾値の設定を下げて警報があった場合にはより注意深くその生体を監視することとする. 例えば, 閾値を1.2L/minから0.8L/minへ変更した場合にはFig. 4.16のようになる. 図において, (a)は先程と同様に計測された大動脈流量と, 丸印で示したものがグラフを閲覧していたときにスタッフが異変と感じる箇所の例である. (b)は設定した閾値の範囲を示す.

結果は(c), (d)である. (c)における動物実験中の警告は合計89回であった. 警告の数は多いが警告を発する箇所が, 閾値を1.2L/minと設定したものと比較してスタッフが異変が生じたと感じた箇所と同時期のところで警告を発生していることがわかる. (d)は警告メールの送信箇所を示しており, 合計13箇所であった. やや少ないかもしれないがホームページによる遠隔からのモニタリングと併用しているので問題にはならず, むしろ緊急性を持たせることができると考えられる.

(2) 突発的な変動を検知するアルゴリズム

閾値を過去の動物実験のデータベースより適切に設定することで, 異常状態に対して適度に警告が発生されるとともに, 緊急の事態には電子メールにて警告が発せられる. しかし, Fig 4.16(a)において術後2日半の箇所に着目する. この箇所では実際は, スタッフがセンサの点検中に誤作動を起こしてしまい, システムが一時的に計測不能状態になった箇所である. このときには, たまたま人為的なミスでスタッフがその場にいたため, 大惨事に至らなかったが, スタッフがその場にいない時に, このような突発的な故障が発生してしまう場合を想定すると, 本異常検知アルゴリズムにおいても異常を検知できる必要がある. しかし, 上述の閾値を用いた異常検知アルゴリズムでは異常期間が短いため, 羊の姿勢の変化などの影響と誤認してしまい, 異常検知に遅延が生じたり警告を発することがない場合も考えられる. そこで, 突発的な生体や人工心臓の緊急事態を捉えるための閾値を, 確実に緊急であると考えられる値に設定した. 緊急事態が生じた場合には感度に関係なく迅速に電子メールにて緊急事態が生じたことをスタッフに知らせる.

上述の実際の大動脈流量を用いた異常検知アルゴリズムに追加して, その有効性を検討する(Fig. 4.17). (a)は先程の大動脈流量の波形である. (b)にて塗りつぶされた範囲で閾値を設定した. 薄い灰色と濃い部分に区別でき, それぞれ生体が異常だと思われる閾値と突発的な変動を検知する緊急事態を捉える閾値である. その結果, (c)の警告の数にほとんど変化は生じなかったが, (d)の電子メールの送信箇所に術後2日半にセンサが誤作動を起こした箇所が含まれたことがわかる.

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第4章 遠隔モニタリングシステム

76

(b) Threshold Level of AoFlow (Under 1.2L/min)

(c) Abnormal Zone of AoFlow (Sensibility 10 min)

(d) Alarm Email of AoFlow

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

Postoperative Time [day]

0

2

4

AoF

low

[L

/min

]

/Users/G203/kosaka/aries10/aze/AoFlow_alarm.SP

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

Postoperative Time [day]

0

2

4

AoF

low

[L

/min

]

/Users/G203/kosaka/aries10/aze/AoFlow_alarm.SP

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

Postoperative Time [day]

0

2

4

AoF

low

[L

/min

]

/Users/G203/kosaka/aries10/AoFlow_alarm2.SP

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

Postoperative Time [day]

0

2

4

AoF

low

[L

/min

]

/Users/G203/kosaka/aries10/AoFlow_alarm2.SP

(a) Aortic Flow Data History

Caution

Fig. 4.15 Alarm Algorithm for Aortic Flow(Threshold Level of AoFlow is under 1.2L/min and Sensibility 10min)

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第4章 遠隔モニタリングシステム

77

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

Postoperative Time [day]

0

2

4

AoF

low

[L

/min

]

/Users/G203/kosaka/aries10/AoFlow_alarm2.SP

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

Postoperative Time [day]

0

2

4

AoF

low

[L

/min

]

/Users/G203/kosaka/aries10/AoFlow_alarm2.SP

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

Postoperative Time [day]

0

2

4

AoF

low

[L

/min

]

/Users/G203/kosaka/aries10/AoFlow_alarm2.SP

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

Postoperative Time [day]

0

2

4

AoF

low

[L

/min

]

/Users/G203/kosaka/aries10/AoFlow_alarm2.SP

(a) Aortic Flow Data History

(b) Threshold Level of AoFlow (Under 0.8L/min)

(c) Abnormal Zone of AoFlow (Sensibility 10 min)

(d) Alarm Email of AoFlow

Caution

Fig. 4.16 Alarm Algorithm for Aortic Flow(Threshold Level of AoFlow is under 0.8L/min. The Sensibility 10min, )

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第4章 遠隔モニタリングシステム

78

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

Postoperative Time [day]

0

2

4

03/kosaka/Research/Master/chapter4/alarm_all.SP

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

Postoperative Time [day]

0

2

4

03/kosaka/Research/Master/chapter4/alarm_all.SP

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

Postoperative Time [day]

0

2

4

AoF

low

[L

/min

]

/Users/G203/kosaka/aries10/AoFlow_alarm2.SP

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

Postoperative Time [day]

0

2

4

AoF

low

[L

/min

]

/Users/G203/kosaka/aries10/AoFlow_alarm2.SP

(a) Aortic Flow Data History

(b) Threshold Level of AoFlow (Under 0.8L/min), and Emergency Level (Under 0.3L/min)

(c) Abnormal Zone of AoFlow (Sensibility 10 min)

(d) Alarm Email of AoFlow

Caution

AoF

low

[L/m

in]

AoF

low

[L/m

in]

Fig. 4.17 Alarm Algorithm for Aortic Flow(Threshold Level of AoFlow is under 0.8L/min and 0.2L/min and Sensibility 10min, )

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第4章 遠隔モニタリングシステム

79

(3) 長期的な変動の異変を検知するアルゴリズム

異常検知アルゴリズムとして(1),(2)のアルゴリズムを適用することで, 要求を満たす完成した. しかし, このアルゴリズムはあくまで異常が起こったことに対する検知であり,

通常状態での異常状態の予防という面は少ない. そこで例えば, 図(a)の術後0日後から2日後にかけて流量が減少していく傾向を捉えるような, 危険をある程度予想するため長期的な視野にたち, 生体の変動を捉え, その変動の傾向を検知するアルゴリズムを実装する. 具体的には, 過去24時間の履歴データの平均値と比較し高いならば上昇傾向と判断,

低いなら下降傾向と判断し, 平均値のパネル右に配置した傾向を示す矢印を変化させる(Fig. 4.18).

Fig. 4.18 Data Management Panel (Left)

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第4章 遠隔モニタリングシステム

80

4.9.4 全データの異常検知

ARIES10において上記の異常検知アルゴリズムの閾値をTable 4.2のように設定し各種データを実際の動物実験へ適用した結果をTable 4.2とFig. 4.19, Fig. 4.20に示す. その結果,

死亡の要因となった大動脈流量の低下に対する警告が最も多く, 実験終了後に考察すると, スタッフが見て異変が起きたと考えられる箇所で警告を発していた. 残りの各データについても主に突発的に起こる異変に対して警告が発せられた. ただし, Fig 4.19(e)のポンプのトルクについては, 術後2日半に起こった人為的誤作動により計測が停止してしまったため, しばらく警告が発生したままになってしまった. このような場合に一時的に警告の発生を停止できるような仕組みを導入しなくてはならない.

図4. 19(f)に途中で故障したトルクを除いたすべてのイベントを同時に進行させた場合の警告の箇所を示した. 主に前半の異変は大動脈圧の突発的な低下であり, 後半の異変は大動脈流量の異変である. 途中, ポンプ回転数などに見られる異変はポンプ交換時の異変を捉えたものであると考えられる.

Table 4.2 Threshold Level of each Data, and the results.

警告閾値 警告回数(結果)

緊急閾値 メール回数(結果)

大動脈圧上昇イベント 130 [mmHg] 0 150 [mmHg] 0

大動脈圧降下イベント 60 [nnHg] 30 130 [mmHg] 11

大動脈流量上昇イベント 4.0 [L/min] 4 5.0 [L/min] 0

大動脈流量降下イベント 0.75 [L/min] 80 0.2 [L/min] 29

ポンプ流量上昇イベント 4.0 [L/min] 0 5.0 [L/min] 0

ポンプ流量下降イベント 0.75 [L/min] 11 0.2 [L/min] 6

回転数上昇イベント 1500 [rpm] 0 1600 [rpm] 0

回転数下降イベント 1400 [rpm] 13 1300 [rpm] 12

トルク上昇イベント 0.28 251 0.4 251

トルク下降イベント 0.25 8 0.2 8

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第4章 遠隔モニタリングシステム

81

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

Postoperative Time [day]

1400

1450

1500

/Users/G203/kosaka/aries10/NONAME.SP

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

Postoperative Time [day]

0

2

4

/Users/G203/kosaka/aries10/NONAME.SP

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

Postoperative Time [day]

0

2

4

/Users/G203/kosaka/aries10/NONAME.SP

(d) Pump Rotational Speed [rpm]

AoP

[mm

Hg]

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

Postoperative Time [day]

40

60

80

100

120

/Users/G203/kosaka/aries10/NONAME.SP

AoF

low

[L/m

in]

PF

low

[L/m

in]

Spe

ed [r

pm]

(c) Pump Flow [L/min]]

(b) Aortic Flow [L/min]]

(a) Aortic Pressure [mmHg]]

Fig.4.19 Alart Area in (a) Aortic Pressure, (b) Aortic Flow, (c) Pump Flow, (d) Pump Rotational Speed.

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第4章 遠隔モニタリングシステム

82

4.9.5 まとめと考察

ゆえに, 実際の動物実験データへ適用し, 本モニタリングシステムに適用した異常検知アルゴリズムの有効性を示すことができた. 今後は, 過去の実験や模擬循環回路実験などにより, 単一のデータに閾値を設定するだけでなく, 状態の遷移によって起こるようなイベントなどを組み込み, 最終的には予め危険を予測してイベントを発生させる機構を構築したい.

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

Postoperative Time [day]

0

0.5

1

03/kosaka/Research/Master/chapter4/alarm_all.SP

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

Postoperative Time [day]

0.2

0.3

0.4

/Users/G203/kosaka/aries10/NONAME.SP

(e) Pump Torque

Tor

que

(f) Result of this alarm system

Emergency Email

Warning

Fig.4.20 Alart Area in (e) Pump Torque, (f) All Data

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83

4.10 携帯電話への応用

4.10.1 携帯電話への応用

医師が遠隔モニタリングシステムを用いて、社会復帰した人工心臓の装着患者の人工心臓運用状況や患者の生理状態を遠隔より閲覧するためには、インターネットに接続可能なコンピュータさえあれば可能である。しかし、医師が病院を離れ、外出先にインターネットに接続可能な固定端末が存在しない場合や、病院内でも端末での作業を行っていない場合を想定すると、医師は常時モニタリングを行うための選択肢として、持ち運び可能なノートブック型コンピュータなどを持ち歩く必要がある。ノートブック型コンピュータは、小型軽量化が進化しているとはいえ、その大きさや重量、持ち歩くことの煩雑さなどにより常に持ち歩くことは現実的でない。また遠隔モニタリングシステムに接続するためにはコンピュータを再起動したり、インターネットに接続しなければならず、煩雑さも伴う。そこで、遠隔モニタリング機能を近年普及率が激増した携帯電話へと応用することを考えた。携帯電話会社各社は、インターネット対応の携帯の普及に力を注いできており、現在ではNTT Docomoの"i-mode"、J-Phone社の"SkyWeb"、au社の"EZ WEB"などのインターネット接続サービスを利用することのできる携帯端末が普及している。この携帯電話の運用の簡便さや重量の軽さはノートブック型コンピュータとは比べ物にならない。ゆえに、この携帯端末でも利用可能な遠隔モニタリング機能を構築することで、いつでもどこでも常に患者の管理を行うことが可能となる(Fig. 4.21)。

Fig. 4.21 Remote Monitoring System for Cellular Phone

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4.10.2 携帯電話を用いた閲覧機能携帯電話を用いた閲覧機能には携帯電話のインターネット機能を使い、携帯電話にて

閲覧可能なフォーマットで作られたホームページを閲覧する。このホームページは、先に説明した遠隔モニタリングサーバのJava言語にて追加される。現在、閲覧可能なデータは過去1分間の平均値が表示されている。また、従来の携帯電話では白黒4階調で描画画面も小さかった(例えば2000年6月発売のJ-P02 パナソニック製は 96×89の)が、現在の携帯は65536色表示可能なものや、2002年3月より1670万色表示可能な携帯も登場し、描画画面も大きく明るい(2001年6月発売 SH07 シャープ製では120×117のTFT液晶)。ゆえに従来は閲覧困難であった対象の画像も閲覧でき、データという数字のみならず見た目での状態の把握も可能である(Fig. 4.22)。

Fig. 4.21 Remote Monitoring System for Cellular Phone

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85

4.10.3 異常検知の警告機能

遠隔モニタリングシステムにおいて異常時にホームページ上に警告を発することや電子メールを送信することは有用ではあるが、万が一、医師が病院外にいる時や固定端末を用いて電子メールを確認できない環境にある時のことも考えておかねばならない。そこで、異常時には同様の電子メールを携帯端末にも送信することで患者の緊急事態をいつでもどこでも知ることができる。これにより、医師は携帯用遠隔モニタリングシステムを利用して、いち早く、最新の患者の画像や各種生理データ、波形データを確認し、適切な処置を施すことが可能となる。

Fig. 4.21 Alarm System for Cellular Phone(Left: Real Data Graph., Right: Alarm Email from Monitoring Sytem)

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86

4.5 結果と考察

本研究で開発した遠隔モニタリングシステムを利用することで、遠隔地より生理系の

データ計測値のみならずポンプの駆動状況や、さらに生理モデルを導入することで2,3章

で述べた通常は計測困難な生体内部の生理パラメータが遠隔地より閲覧できるだけでな

く、なんらかの異常時には自動的に異常を検知しモニタリングシステムより医師などが遠

隔地より異常を知ることが可能となった。その際、遠隔モニタリングの端末を携帯電話へ

応用することで、医師が病院から外出している場合などでも容易に遠隔地より適切な指示

や処置を施すことが可能となった。

将来的には、動物実験中に起きたイベントやデータなどを管理するためのデータベース

サーバと本モニタリングシステムを結合し、動物実験中に得られる大量のデータやイベン

トを効率よく利用することのできる機能の実現を図る。

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第 5 章 連続流人工心臓

制御システムの基礎的実験

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第5章 連続流人工心臓制御システムの基礎実験

88

5 連続流人工心臓制御システムの基礎的実験

5.1 連続流人工心臓制御システムの基礎的実験現在, 一般的な体内埋め込みを目的とした人工心臓システムでは, 患者の生理的状態

の変動に追随し人工心臓の制御を行うようなフィードバックを持つ制御システムは少ない. そのため, 医師は常に人工心臓を装着した患者や人工心臓の状態を監視しなくてはならず, 仮に人工心臓を制御する際には手動によって回転数やポンプ流量を所定のものに定めなくてはならない.

連続流型人工心臓を左心室補助として適用した場合, 例えポンプの回転数を一定にしたとしても, ポンプの前負荷や後負荷が生体によって変えられるため, 生体への流量は大きく変化してしまう. とりわけ, 静脈系から心臓に帰還する血液量が少なく, 同時に人工心臓の流量が多い場合には, 心臓内部の血液量が低下し, ポンプの入り口側(inlet) に大きな陰圧がかかり, 不整脈や心房や心室の吸引現象(サッキング)が誘発されてしまい, 生体にとって致命的な影響を及ぼしかねない.

将来の在宅医療を考慮した場合, 第4章の遠隔モニタリングシステムに加え, これらの問題が発生しても生体へ適切な流量を流すための自律的な連続流型人工心臓の制御システムが必要となる.

そこで本章では, 在宅医療を見据えた連続流型人工心臓のオンライン人工心臓制御システムの構築を行う. 構築した制御システムは, 模擬循環回路(Mock Circuit)を用いたin-vitro実験においてその有効性を検討する.

5.2 制御システム

5.2.1 制御システム

本章で提案する制御システムは, オンラインで人工心臓の駆動状態を制御するため,

あらかじめ医学的検知より生体にとって妥当であると考えられる閾値を上下に定義し, その中心点を設定する. そして, 閾値に対する現在の血液総流量とポンプ圧力差の組み合わせより生体と人工心臓の状態を推定する. そしておのおのの状態に応じて人工心臓の制御アルゴリズムを決定する. この閾値は, 生体が正常状態にあるかどうかを判定するものである. 概念図をFig. 5.1に示す.

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第5章 連続流人工心臓制御システムの基礎実験

89

1) ポンプ状態推定器(Estimator)

流量と圧力差より’If-Then rule’を適用することで現在の状態を推定する

2) 制御アルゴリズム決定器(Algorithm Decision)

それぞれの状態に応じて次の目標回転数を決定する

3)コントローラ(PID Controller)

目標回転数へ人工心臓を制御するためのコントローラ(PID Controller)

制御対象より計測された総流量と圧力差は状態推定器へ, ポンプ回転数はコントローラへとフィードバックされ, 目標回転数を維持する.

5.2.2 状態判断法について

本研究では, 人工心臓の駆動状態として’Normal Condition’ と ’Abnormal Condition’を設定し, さらに’Abnormal Condition’より生じる可能性のある’Sucking Condition’をそれぞれ以下のように定義した(Fig. 5.2).

PDController

ArtificialHeart

+Circulatory

System

Controller for releasingfrom suction

Suction Condition

Controller for theoperating point

Controller for recoveringcondition

Abnormal Condition

Normal Condition

Condition EstimatorTargetRotational Speed

Control Signal

RotationalSpeed

Flow, Pressurehead

Algorithm Decider

If Then rule

Fig. 5.1 An operating point control system consists of 1) Condition Estimator, 2) Algorithm decider, 3) PD controller

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第5章 連続流人工心臓制御システムの基礎実験

90

1) Normal Condition

’Normal Condition’は, ポンプ流量と圧力の変化が動作点から一定範囲内である時の状態を示す. この範囲はこれまでの医学的検地より流量は25%以内, 血圧は20%以内が妥当であると判断した. この状態においては, 生体自身が現在の人工心臓と生体の状態にとって最適な制御を行っていると考えることができる. IF-THEN ruleを適用すると, この状態はRule.1のように定義される.

<Rule 1>

IF the driving condition is within the acceptable area,

THEN the current condition is the "Normal Condition"

Normal Condition に お い て は 人 工 心 臓 は PD 制 御 (Proportional and Differential

Control)(Eq.5.1 )を適用することで目標回転数を保持する.

( ) ( )ytd

dtegraty

tdd

dKytegratypKu −+−= (5.1)

120

100

80

60

40

20

0

140

0 1 2 3 4 5 6 7

Normal Condition

Abnormal ConditionPr

essu

rehe

ad [

mm

Hg]

Flow [L/min]

2400 [rpm]

2200[rpm]

2000[rpm]1800[rpm]

1600[rpm]

Operating Point

SuctionCondition −20% +20%

−25%

+25%

Fi.g 5.2 Via the Condition estimator the current driving condition is categorized as either of three conditions, 1) Normal Condition, 2) Abnormal Condition, 3) Suction Condition

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第5章 連続流人工心臓制御システムの基礎実験

91

niaGlaitneffeDdnalanoitroporPdKpKtuptuOmetsySfoecnerefeRy

tuptuOmetsySytupnImetsySu

:,:

::

ecnerefer

人工心臓をLVASとして装着すると回転数は自然心臓の拍動の影響を受けてしまい, そうした状況下においても回転数を保持するためには制御応答を早くする必要がある. そのため, 時間遅れのあるI制御は加えなかった.

2) Abnormal Condition

’Abnormal Condition’では, 流量か圧力が正常状態を越えた場合に選択される. この状態では生体が制御できる範囲を超えるなんらかの異変が生体に起こったと考えることができる. IF-THEN ruleを用いた状態推定器ではRule2のように定義される.

<Rule 2>

IF the driving condition is within the accepatable area,

THEN the current condition is the "Normal Condition"

OTHERWISE the current condition is "Abnormal Condition"

状態推定器によって許容範囲外と推定されると’Abnormal Condition’と判断され, 人工心臓の回転数(rotational speed)を変更し, ’Normal Condition’へ復帰を行うため, Rule 3を実行する.

<Rule 3>

IF the driving condition is beyound the acceptable area,

THEN the target rotational speed is decreased 30 rpm/sec,

OTHERWISE,

IF the driving condition is under the acceptable area,

THEN target rotational speed is increased 30 rpm/sec.

3) Suction Condition

’Suction Condition’は, ’Abnormal Condition’より生じる状態である. 具体的には仮に現在の状態が正常状態を下回った場合, 正常状態へ復帰するためにポンプの回転数を増加させなくてはならない. しかし, 目標回転数を増加したにもかかわらず正常状態へ復帰しない場合, 心臓にサッキング現象が生じて心室壁がポンプカニューレに吸引されている状態,

つまり"Suction Condion"になったと判断される.

この時の制御アルゴリズムは

(a) サッキング状態を離脱するためにポンプの回転数を急激に下げる

Target rotational speed is decreased 250 rpm/sec

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第5章 連続流人工心臓制御システムの基礎実験

92

(b) しばらくしてポンプの駆動状態を’Normal Condition’へ戻すために徐々にポンプの回転数を上げていく

Target rotational speed is incresed 10 rpm/sec

これらの制御システムは計測ノイズの影響によって性能が悪化することを防ぐために0.05secの間に5つのデータの移動平均を適用した. まとめるとFig. 5.3のフローチャートで示すことができる.

5.3システム構成制御と計測のシステム構成はデスクトップPCにA/D Adapter(National Instruments

Corporation, Austin, TX .U.S.A)をとりつけ , Labview (National Instruments Corporation,

Austin, TX .U.S.A) により計測兼制御プログラムを作成した. Labviewはデータの収集, 制御, 分析, 表示を実現するためのG言語を利用したデータフロープログラミング言語であ

Begin State Estimator

Yes NoController for

operating point

IncreasingRotational Speed

Controller forrecovering condition

Controller for releasingfrom suction

Pump Flow:Accepetable Area

Pressurehead:Accepetable Area

AcceptableCondition?

=

ReducingRotational Speed

Return

<>

> <

wolFpmuPtd

d0:

>

<

Fig. 5.3 The control algorithm for the pump is determined based upon the current driving condition, which properly controls the rotary blood pump.

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第5章 連続流人工心臓制御システムの基礎実験

93

る. このプログラムでは計測データとして流量, 圧力, 回転数, ポンプのトルクを100Hz

で計測している . 人工心臓には , ベイラー医科大学の遠心ポンプであるImplantable

Centrifugal Gyro Pump PI702を使用した.

5.4 In vitro study

このオンライン連続流人工心臓制御システムの評価を行うため, 動脈系を表現した模擬循環回路を構築し, 評価実験(in-vitro study)を行った(図4). この模擬循環回路は動脈,

動脈コンプライアンス, 左心房コンプライアンスより成っており, 自然心臓として拍動型人工心臓を取り付け, 連続流型人工心臓を左心室補助システムとして装着した. 回路内は水で満たし, 連続流型人工心臓のinlet側に吸い付き現状をシミュレーションするための左心室の心尖部を模擬した容量約20mlのパックを取り付けた. 圧力の計測はポンプの出入り口にてポンプ差圧を計測し, 流量の計測は総流量を流量計(Transonic System. Inc., Ithaca,

New York. U.S.A)を用いて計測を行った.

本システムの性能を評価するため, 以下の3つのin-vitro実験を行った.

a) 目標回転数への収束性能の評価

目標回転数を人為的に変更した場合, 実際の人工心臓の回転数がPD制御により目標回

LA chamber

Ao chamber

Native Heart(Pulsatile flow pump)

LVAS(Continuous flow pump)

Flow meter

Mitral Valve

Aortic Valve

Total Peripheral Resistance

Apex of Heart(Bag)

Fig. 5.4 To evaluate this cotrol system for a rotary blood pump, the mock circulationloop, which is represented as an aortic circulation, is constructed.

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第5章 連続流人工心臓制御システムの基礎実験

94

転数へと収束の様子と収束に要する時間を評価する.

b) 正常状態への復帰性能の評価

模擬循環回路の後負荷である末梢血管抵抗を変化させ , 人工心臓の駆動状態を’Abnormal Condition’へ移行させたときの制御アルゴリズムの挙動を評価する.

c) サッキング状態からの離脱アルゴリズムの評価

サッキング状態に対する本アルゴリズムの挙動を評価するため, inlet tubeの位置を変更と模擬循環回路の後負荷を変化させることでサッキング状態を生成し, その時の制御アルゴリズムの挙動を評価する.

5.5 Results

Fig. 5.5からFig. 5.7まで, 本制御システムの実行結果を示す.

a) 目標回転数への収束性能の評価(Fig. 5.5)

図のようにPD制御を適用することで人工心臓の回転数は目標回転数へ収束した. 目標回転数を250rpm変化させた時, 回転数を増加させるか減少させるかに関わらず反応時間に約3.0secを要した.

0 20 40 60 80 100 120 140

X Axis

0

500

1000

1500

2000

2500

Y A

xis

Time [sec]

Pum

p R

otat

iona

l Spe

ed [

rpm

]

Rotational Speed

Target Roatational Speed

Fig. 5.5 a) Evaluation of "Controller for operating point"

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第5章 連続流人工心臓制御システムの基礎実験

95

b) 正常状態への復帰性能の評価 (Fig. 5.6.1, 5.6.2)

i) 模擬循環回路の後負荷を体循環系の抵抗を変化させることで現在の状態を正常状態から異常状態へ変化させたところ, 本制御システムは異常状態を検知した. ii) 制御システムは正常状態へ復帰するために目標回転数を適宜変化させた. iii) 圧力は正常状態を保ち続けた. iv) 制御システムにより目標回転数を変化させた結果, 異常状態から正常状態への復帰ができた.

(i)

0 10 20 30 40

Time [sec]

0

2

4

6

8

Pum

p F

low

[L/m

in]

Flow (mean value in 0.05sec)Flow (mean value in 5sec)

Abnormal Condition

Normal Condition

Abnormal ConditionAfterload is increased

Controller for recovering condition

(ii)

0 10 20 30 40

Time [sec]

0

500

1000

1500

2000

Pum

p R

otat

iona

l Spe

ed [r

pm]

Rotaional Speed is increased

Rotational Speed (mean value in 0.05sec)

Target Rotational Speed

Fig. 5.6.1 b) Evaluation of "Controller for operating point"

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第5章 連続流人工心臓制御システムの基礎実験

96

(iii)

0 10 20 30 40

Time [sec]

0

50

100

150

Pum

p pr

essu

re h

ead

[mm

Hg]

Afterload is increased

Abnormal Condition

Abnormal Condition

Normal Condition

Pump pressurehead (mean value in 0.05sec)

Pump pressurehead (mean value in 5sec)

Pres

sure

head

(iv)

0 2 4 6

Pump Flow [L/min]

0

50

100

Pum

p pr

essu

re h

ead

[mm

Hg]

Normal Condition

Abnormal Condition

Controller for recovering condition

Pres

sure

head

Fig. 5.6.2 b) Evaluation of "Controller for operating point"

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第5章 連続流人工心臓制御システムの基礎実験

97

c) サッキング状態からの離脱アルゴリズムの評価 (Fig. 5.7.1, 5.7.2)

i) Inlet tubeの位置の変更と模擬循環回路の後負荷を変化させ, サッキング状態を生成することができた. そして, 現在の状態がサッキング状態が原因である判定することができた. ii) その結果, 正常状態に復帰する制御機構が働きポンプ回転数の目標値が急激に低下させられた. iii) 圧力についてはサッキングが生じた後も正常状態を維持した. iv) 圧力と流量との関係図にて, サッキング状態の検知と離脱が可能となる様子が観測できた.

(i)

0 100 200 300 400

Time [sec]

0

2

4

6

8

Pum

p F

low

[L/m

in]

Flow (mean value in 0.05sec)Flow (mean value in 5sec)

Abnormal Condition

Sucktion Condition

Normal Condition

(ii)

0 100 200 300 400

Time [sec]

0

1000

2000

Pum

p R

otat

iona

l Spe

ed [r

pm]

Rotational Speed (mean value in 0.05sec)Target Rotational Speed

Rotaional Speed is increased gradually

Fig. 5.7.1 c) Evaluation of "Controller for releasing pump from suction"

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第5章 連続流人工心臓制御システムの基礎実験

98

(iii)

0 100 200 300 400

Time [sec]

0

50

100

Pum

p P

ress

ure

Hea

d [m

mH

g]

Normal Condition

Abnormal Condition

Pump pressurehead (mean value in 0.05sec)Pump pressurehead

(mean value in 5sec)

Pres

sure

head

(iv)

0 2 4 6

Pump Flow [L/min]

0

50

100

Pum

p P

ress

ure

Hea

d [m

mH

g]

Abnormal Condition

Normal ConditionController for releasingfrom suction

Sucking

Recovering

Pres

sure

head

Fig. 5.7.2 c) Evaluation of "Controller for releasing pump from suction"

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第5章 連続流人工心臓制御システムの基礎実験

99

5.6.考察現在, さまざまな連続流人工心臓の制御手法が提案されており, 例えばポンプの電流

と回転数をパラメータに人工心臓の流量を計算により求められている. しかし, 本研究で提案したこの制御システムは, 異常状態からの回復を図るため, ただポンプの目標回転数を増減させるのみでポンプ状態を正常にすることができる制御アルゴリズムを備えており, 他の制御システムよりもより単純でより信頼性を持っていると考える.

また, 本研究では流量計や圧力計を使用したが, ポンプの電流とポンプ回転数によってポンプ流量や圧力差を推定する研究も行われている[27][28][29][30]. もっとも, 連続流人工心臓をLVASとして装着した場合, 自然心臓の影響が大きくおよぼされるため, そこから適切な制御を行う場合には特に流量計は欠くことができないと考える. 流量計については, 参考文献[31]において284日動作したという例もある. さらに将来的には, 昨今の急速な技術の進歩によって埋め込み可能な小型の流量計が開発されることも期待できると考える.

実験結果については, PD制御による人工心臓の回転数制御は, 人工心臓をLVASとして装着し自然心臓の拍動の影響下においても, ある一定区間の回転数の平均値をとることにより, 応答性能はやや悪化するが拍動やノイズなどに対してもロバスト性を高め, 発散することなく目標回転数へ安定して収束することができる.

異常状態から正常状態に復帰するための制御アルゴリズムは, 回転数目標の変化とPD

制御による目標回転数への収束が観測できた. サッキング状態から正常な状態へ復帰するための制御アルゴリズムについては, 流量計を用いたサッキングの検地とその際の流量を急激に減らすことによるサッキング状態からの離脱を確認することができ, 有効に動作していた. しかしながら, サッキング状態から離脱した後に正常状態へ戻ることはできなかった. これは, 実際の動物実験時では, ポンプ回転数を急激に下げるとその衝撃でinlet

tubeの位置が変化したりするのでサッキング状態から正常状態への復帰が可能であると考える.

以上より, 正常状態からの正常状態への復帰, サッキング状態の検知とその離脱について, in-vitroにおいて本システムの有効性を示すことができた. さらに, 第4章の遠隔モニタリングシステムと組み合わせることで, 在宅での遠隔からのモニタリングと将来的には遠隔からの人工心臓の制御を適用する.

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第6章 結論

100

第6章 結論

本研究では人工心臓を用いて個々の生体に適応したより効果的な医療行為や治療制御

を行うことを目標に, 1) 生体のより本質的な生理的, 機能的変化を的確に捉える手法であ

る"デルタオペレータを用いた体循環系パラメータ同定", 2) 連続流人工心臓の運用, 管理

を支援する"遠隔モニタリングシステム"を提案, 構築した.

生体の生理的, 機能的変化を的確に捉えるため, 1次モデルとして大動脈コンプライア

ンスと末梢血管抵抗の2つの生理パラメータよりなる生理モデルを構築した. また, 1次

モデルを拡張して, 2次モデルでは大動脈慣性と動脈抵抗を加えた4つの生理パラメータ

よりなる生理モデルを構築した. モデル内の生理パラメータを逐次同定するため, デルタ

オペレータを用いたパラメータ同定法を構築し, 長期の動物実験に本手法を適用した. そ

の結果, 計測値である大動脈圧, 大動脈流量とポンプ流量より生理モデル内部の各生理パ

ラメータを逐次同定することができた. また, 2次モデルの周波数特性に着目すると生体

の共振周波数が, 非常に低い周波数であることが推定された. 今後, これらの通常では計

測困難な指標を用いて生体の効果的な医療行為や治療制御を検討する.

さらに, 近い将来, 人工心臓適用患者が在宅にて医療行為をうけながら在宅での生活や

社会復帰することを考慮し, 常に患者の生理的状態や連続流人工心臓の運用状況を管理す

ることのできる"遠隔モニタリングシステム"を開発した. 実際の動物実験へ適用したとこ

ろ, 患者や人工心臓の長期的管理に有効であった.

以上, 本研究で提案, 構築した手法を用いることで, 人工心臓を用いて個々の生体に適

応したより効果的な医療行為や人工心臓の効果的な管理が可能となった.

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謝辞

本研究は筑波大学機能工学系山海研究室において, 山海嘉之助教授のご指導のもとに行

われたものであり, 山海助教授, 太田道男教授には素晴らしい研究環境を与えて頂き, また

熱心にご指導して頂いたことを心より感謝致します.

また, 人工心臓の研究に当たり, アメリカ, ヒューストンのベイラー医科大学の能勢之彦

教授をはじめ, ベイラー医科大学外科のスタッフの皆様, 筑波大学臨床医学系循環器外科の

筒井達夫先生, 軸屋智明先生には医学分野からのご助言・ご指導を頂き大変感謝致します.

最後に, 研究実験のために尊い命を捧げてくれた動物たちの冥福を心から祈り, 感謝の意

を表したいと思います.

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