外国人住民と社会包摂の課題 - 首相官邸ホームページ · 2011-02-23 ·...
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外国人住民と社会包摂の課題
ダイバーシティ研究所 代表理事
田村太郎
外国人住民の「3つの脆弱性」
• 日本語や日本の習慣がわからない– 施策へのアクセスができない
– 就学や就労でも障壁になる
• 法制度や社会資源の不備– 日本語習得機会や多言語情報提供が未整備
– 「就学義務がない」「民生・児童委員になれない」
• 日本社会からの偏見– 「外国人は勝手に来た人なので自己責任だ」
– 「外国人が増えて治安が悪くなった」
「外国人=弱者」ではなく、外国人の持つ「脆弱性」に失業や離婚など「別のリスク」が重なったとき、日本人より困難な状況に陥る
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日本における外国人の様子
• 外国人住民の総数は約230万人(2009年末現在。外国人登録者数約219万人+非正規滞在者約11万人)– 経済危機で初の減少も予想より減少幅は小さかった
• 滞在の長期化で「出稼ぎ」から「永住」へ指向が変化– 永住者資格の新規取得者は年間4〜5万人
– 出産、子どもの呼び寄せによる児童・生徒の増加、高齢者福祉も課題として顕在化
• 国際結婚も増加し、多様な文化背景を持つ子どもは年2万人以上、生まれている
日本で暮らす外国人住民の概要
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出典:平成21年末における外国人登録者統計について(法務省入国管理局)
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永住者資格を取得する外国人が増加
特別永住者
一般永住者
法務省入国管理局統計より作成
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日本人と外国人の婚姻件数 年次推移
8
0
5,000
10,000
15,000
20,000
25,000
30,000
35,000
40,000
45,000
夫妻の一方が外国 夫日本・妻外国 妻日本・夫外国
昭和45年 50年 55年 60年 平成2年 7年 12年 17年
(厚労省人口動態統計資料より田村作成)
母子保健領域での課題• 総出生数の2.15%が
「父母のうちいずれかが外国人」(平成21年)
• 母の国籍が外国の場合、乳児死亡率が高いとの指摘も
• 健康保険未加入や未受診出産のリスクが高い(外国人の保険加入率は日本人より低い)
• 周産期医療制度や習慣のちがいへの配慮も必要
父母のいずれかが外国人の出生数の年次推移(厚生労働省人口動態統計より作成)
就学児童・生徒の課題
• 日本語指導が必要な外国人児童・生徒数の増加
• 不就学(≠不登校)児童・生徒が存在、「児童労働」も
• 中学生や就学年齢を超えてから来日する場合、高校進学が難しい
日本語指導が必要な外国人児童生徒の母語別在籍数の推移(文部科学省作成)
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外国人登録している就学年齢児童生徒
のうち、17%が
「所在不明」
(文部科学省「外国人の子どもの不就学実態調査結果について」より)
就学児童・生徒の課題
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不就学の理由のトップは「お金がないから」
就学児童・生徒の課題
不就学の子どもの20.2%は働いている
文部科学省「外国人の子どもの不就学実態調査結果について」より)
製造業・派遣労働を支える外国人外国人の雇用は、平成19年10月1日から雇用状況の報告が義務化
• 外国人労働者を雇用している事業所数は108,760か所(前年同期比13,466か所、14.1%増)、外国人労働者数は649,982人(前年同期比87,164人、15.5%増)。
• 産業別にみると、外国人労働者を雇用する事業所、外国人労働者ともに、製造業が も多く、全体に占める割合はそれぞれ31.6%、39.9%。
(平成22年10月末現在外国人雇用状況届け出状況より)
製造業・派遣労働を支える外国人
• 労働者派遣・請負
事業を行っており、外国人労働者を雇用している事業所は18,830か所で、
事業所全体の17.3%。
• 当該事業所に就労している外国人労働者は181,021人で、外国人労働者全体の27.9%。(別表4)
(平成22年10月末現在外国人雇用状況届け出状況より)
(参考:雇用危機以前の外国人雇用状況)
社会保障やセーフティネットからの転落
• 健康保険、公的年金からの漏れ– 派遣労働による課題(保険未加入は「イノベーション」)– 制度のちがいによる認識不足– 「帰国するだろう」という甘い見通し
• 外国人が生活保護を受給することへの「反発」– 「外国人は税金を払っていない」という誤解– 生活保護目的の来日ケースの誇張
• 機能していない「緊急雇用支援」– 雇用危機以降に配置された相談員の課題(適切な研修も受けていな
い、相談員の雇用も不安定)– 「日本語ができなければ仕事はない」という指導– 結果として、雇用危機以前より短期の派遣や請負労働へ回帰
政府によるこれまでの取り組み
• 1990年に入管法改正も「いわゆる単純労働」は認めず。日系人や
研修・技能実習生を例外的に受け入れ、地域に必要な雇用を代替。
→ 国民的議論や合意形成のないまま、外国人人口が急増
→ 日本語教育や多言語情報提供は未整備のまま20年が経過
• 05年度から総務省が「多文化共生の推進」を掲げて施策を体系
化。自治体が取り組むべき施策を体系的に示した「多文化共生推進プラン」を発表(06年3月)
• 06年末には、内閣官房が「生活者としての外国人への総合的対応策」を発表。
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雇用危機以降の政府・自治体の動き
• 政府による対応– 内閣府「定住外国人施策推進室」の設置、担当大臣の任命(09年1月)– 内閣府「当面の対策」の発表(09年1月)– 文科省「定住外国人子ども緊急支援プラン」(09年3月)– 厚労省「日系人離職者に対する帰国支援事業」(09年4月)– 厚労省「日系人就労準備研修」(09年4月〜)– 文科省「虹の架け橋プロジェクト(不就学児童対策)」(09年4月〜)
• 自治体による対応– 「ふるさと雇用再生特別交付金」「緊急雇用創出事業」の活用
• 通訳や相談員としての臨時雇用• 介護ヘルパー養成講座の開催
– 外国人コミュニティへのエンパワメント• 「定住外国人自立支援センター」の設置• 外国人相談員や通訳サポーターの養成
– 事業所への雇用促進• 「多文化な職場づくり」のためのセミナー開催• 商工会議所等と連携した雇用の開拓
民間による取り組みの事例
• 生活オリエンテーションの実施– 多言語による生活オリエンテーションを市役所などと共同で実施
• 多文化共生の保育、多言語対訳集の利用– 保護者とのコミュニケーションを支援するツールの活用
• 放課後学習支援活動の実施– 放課後に一人になりがちな外国人児童生徒への学習支援を地域の
NPOが実施
• 高校入学をめざした多文化フリースクールの開設– 日本語と教科学習を約1年間学び、公立高校入学をサポート
• 外国人コミュニティによる相談活動の実施– エスニシティを超えた相談活動を実施
• 異文化対応のできるデイケアセンターの運営– 外国人高齢者のニーズに対応
今後に向けて
• 社会統合政策、とりわけ日本語教育の法制化および体系的実施– 総務省「多文化共生推進プラン」を発展させ、社会統合政策を法制化すべき– 文化庁、厚生労働省などが個別に行う日本語教育を一元的、体系的に整理
– 多様な地域事情に対応できる柔軟なプログラム実施が不可欠(テキストやカリキュラムを選択できる、など)
• 既存の政策・施策における外国人の包摂– 「外国人」という切り分けではなく、「就学が困難」「就労が困難」という切り口
から、外国人にも共通の配慮が欲しい
– 通訳・翻訳体制の整備による既存の相談窓口を活用や、外国人相談員による分野横断的なソーシャルワークの展開が有効
– 日本が人口変動社会に向かう中、外国人も地域に不可欠な存在であることが多くの国民の共通理解となるような社会的機運の醸成も必要
• 複合型支援モデルの実施– カテゴリーを超えて就学や就労を実現するモデル事業の実施を期待(外国人
障害者支援、外国人シングルマザー支援など)
「外国人永住者100万人」時代にふさわしい取り組みを!
▲内閣府「治安に関する世論調査」(平成18年12月調査)より
▲愛知県の意識調査より(中日新聞2008年2月8日)
47%が否定的な意見
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1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009
刑法犯
特別法犯年間検挙者数
上期検挙者数
出典:「来日外国人犯罪の検挙状況(平成21年上半期)」(警察庁刑事局組織犯罪対策部国際捜査管理官、平成21年8月)
来日外国人犯罪検挙者数の推移
外国人犯罪者は増えていない!