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平成29年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書 企業等における知財人材の現状と大学院 レベルの当該人材育成の在り方に関する 調査研究報告書 平成30年3月 みずほ情報総研株式会社

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平成29年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書

企業等における知財人材の現状と大学院

レベルの当該人材育成の在り方に関する

調査研究報告書

平成30年3月

みずほ情報総研株式会社

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白ペーj

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- i -

要 約

背景

まとめ

目的

○知的財産分野の専門職大学院の設置以降、

大学院を取り巻く環境や産業界のニーズ

は大きく変化している

○特許庁では改訂知財スキル標準、ケース

教材を整備してきた

○スタートアップにおける知財人材の

育成は重要であるが、人材育成のた

めのコンテンツが不足している

○大学院レベルのカリキュラムの在り方

を示す

○スタートアップの知財人材を育成す

るためのコンテンツを整備する

○人材像をマネジメント人材・グローバル人材へ拡大

○受講者の対象として経営戦略を担う人材等へ多様化

○先端性の高いテーマを学ぶ科目を新設

○スタートアップに気づきを与え

る知財コンテンツを作成

○今後の事例の充実化等が課題

大学院レベルのカリキュラムの在り方 スタートアップ向け知財コンテンツ

公開情報調査

国内ヒアリング調査

実地調査

委員会

対象:大学院9件、企業6社

内容:戦略・渉外スキルの科目整備

ニーズの高さを明らかにした

セミナー

対象:弁理士グループ、インキュベータ

内容:実際の事例やスライドメッセージについて有効

な意見を聴取できた

対象:企業からの受講者計115名

内容:受講者の理解促進、オブザー

バの教材活用の促進に結実

対象:スタートアップ、支援者計59名

内容:事例を通じて多くの気づきを与

えた

委員長:加藤浩一郎(金沢工業大学

大学院 教授)、

ほか委員4名

内容:大学院の人材育成の方向性や

実地調査について議論

対象:大学院のシラバス等

内容:日本の大学院の現状や評価、

海外の大学院の動向を調査

対象:スタートアップの知財戦略に関する文献

内容:スタートアップの成長ステージ別にポイン

トや事例を収集

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- ii -

Ⅰ.調査研究の概要

1.背景及び目的

企業の知財人材の育成としては、企業内における育成のほか大学院の活用も考えられる

が、知的財産専門職大学院は減少傾向にある。もちろん知的財産専門職大学院だけが大学

院レベルの知財教育を担うわけではないが、知財人材に求められるスキルの変化や知的財

産専門職大学院を取り巻く環境の変化を踏まえて、大学院レベルにおける知的財産に関す

るカリキュラムの在り方について新たな方向性を示していく必要があり、そのためには現

在の日本における知財人材の長所・短所や大学院レベルにおける知財人材育成の現状を適

切に把握し、これらを踏まえて新たな方向性を示していくことが重要である。

さらに、企業の知財人材育成として、スタートアップは企業経営に関する多くの課題を

限られた人材で対応する必要がある現状において、昨今スタートアップにおける知財の課

題を解決することの重要性が高まっていることから、スタートアップにおける知財人材の

育成は特に重要である。しかしながら、スタートアップに必要な知財人材に求められる能

力を的確に育成するためのコンテンツが確認できていないのが現状である。

そこで、これまでに作成された改訂知財スキル標準やグローバルな知的財産・標準化戦

略をテーマとした教材(以下、「開発教材」という)を「ものさし」として、日本の知財

人材の長所・短所及び大学院レベルにおける知財人材育成の現状・課題を把握し、現状・

課題を踏まえた大学院レベルの知的財産に関するカリキュラムの在り方を示していくこと、

及び、スタートアップに必要な知財人材に求められる能力を的確に育成するためのコンテ

ンツを整備することが本調査研究の目的である。

具体的には、本調査研究では以下の点を調査・整備した。

(a)開発教材による知財人材現状調査(以下、「現状調査」という。)

(b)大学院レベルの知的財産に関するカリキュラムの在り方の調査(以下、「カリキュ

ラム調査」という。)

(c)スタートアップ向け知財コンテンツの整備(以下、「コンテンツ整備」という。)

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- iii -

2.方法

(1)公開情報調査

カリキュラム調査及びコンテンツ整備について、書籍、論文、調査研究報告書、インタ

ーネット情報等を利用して、本調査研究の内容に関する文献等を調査、整理及び分析した。

(2)国内ヒアリング調査

カリキュラム調査について、大学院や大学院レベルの知財人材育成に詳しい有識者等9

者(A大学院~I大学院)、知財人材育成に取り組んでいる企業6社(A社~F社)に対

してヒアリングにより調査した。

コンテンツ整備について、知財コンテンツ作成中及び整備後のそれぞれにおいて、計

15 名の有識者(グループヒアリング含む)にヒアリングを行い、助言を得て、知財コン

テンツの修正に反映させた。

(3)実地調査・セミナー

現状調査について、開発教材の中から 15 コマ(90 分/1 コマ)の教材を選択し、2017

年 12 月から 2018 年 2 月にかけて、東京と大阪においてデモ講義による実地調査を実施し

た。

コンテンツ整備について、2017 年 12 月から 2018 年 1 月にかけて東京、千葉において

スタートアップ向け知財コンテンツを使ったセミナーを3回開催した。

(4)委員会による検討

調査研究に関して、主に(3)実地調査の現状調査についての助言を得て決定を行うた

めに、本調査研究に関して専門的な知見を有する者5名(1名を委員長とする)で構成さ

れる検討委員会を設置し、2回開催した。

(5)調査結果の分析・取りまとめ

前記の調査・検討結果を総合的に分析し、報告書に取りまとめた。

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Ⅱ.大学院レベルの知的財産人材育成の現状とカリキュラムの在り方

1.公開情報調査

日本における知的財産専門職大学院は 2005 年に東京理科大学専門職大学院と大阪工業

大学専門職大学院に初めて設置された。その後 2010 年に日本大学知的財産専門職大学院

として設置され、国内の知的財産専門職大学院は 3 校となったが、現在は 1 大学院となっ

ている。知的財産専門職大学院の入学者数の動向をみると近年は減少を続けている。

知的財産専門職大学院を対象とした認証評価報告書をみると、知的財産専門職大学院へ

のとくに「社会人」の入学者が少ない、もしくは減少しており、その背景として「マネジ

メント力」や「交渉力」といった企業から期待されているスキルの育成の提供に関して改

善の余地があることを窺うことができる。

海外の大学院における知的財産人材育成の動向をみると、IP ランドスケープに関する

プログラム(米国・イリノイ工科大学)、経営の意思決定や戦略と知財との関わり方を学

ぶプログラム(フランス・ストラスブール大学)、ビジネススクールに知的財産に特化し

たプログラムを設ける大学院(イタリア・ルイスビジネススクール)などがみられた。

2.国内ヒアリング調査

(1)大学院

大学院における戦略系の科目をみると、「知的財産戦略」や「知的財産経営」等のよう

に戦略や経営との融合領域に関する科目はほとんどの大学院において存在している。また、

近年の戦略動向については科目の設置まではいかないものの、公開セミナー、社会人向け

の短期セミナー、個別の研究指導を通じて人材を育成している動きがみられる。しかし、

知財人材スキル標準の戦略スキルで定義されているような、経営戦略に貢献する内容や、

オープン&クローズ戦略といった戦略のフレームワーク・事例、戦略に対応する組織の設

計を体系的に教えている科目はまだ少ない傾向にある。

管理スキルについては、企業独自のノウハウがあるため、外部の教育機関での教育に適

さないスキルもあり、情報(2.1.1)、法務(2.1.3)、リスクマネジメント(2.1.4)等を

除き、大学院において科目は整備されていない傾向にある。

実務スキルの科目は、知的財産専門人材に求められる知的財産の保護および活用スキル

を中心に整備されてきている。

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(2)企業

ヒアリング対象企業では、戦略スキル、実行スキルともに、正解がないテーマのスキル

に対してニーズが高い傾向があった。

正解がないテーマとは、新しい戦略テーマ(オープン&クローズ戦略、IP ランドスケ

ープ等)、これらの戦略のために必要になる実行(ルール形成、営業秘密管理等)など、

企業がこれまで経験したことがない先端的なテーマである。これらのテーマは先端性が高

いために外部の育成機会も限られている傾向がある。

3.実地調査

カリキュラムの高度化が必要なスキルのうち、大学院における科目の整備が必要と考え

られる戦略スキルや渉外スキルに関して、関連するケース教材を活用したデモ講義を下記

の通り開催した。

開催概要

研修番号

テーマ 会場 主担当講師 コマ数 受講者数オブザー

バ数

1ビジネスエコシステムとオープン&クローズ戦略

金沢工業大学虎ノ門大学院糸久 正人法政大学社会学部公共政策研究科准教授

2 18名 8名

2ソフトウェア・ICT産業におけるオープン&クローズ戦略と知財・標準化マネジメント

金沢工業大学虎ノ門大学院加藤 浩一郎金沢工業大学大学院 イノベーションマネジメント研究科教授

2 16名 5名

3デザイン・ドリブン・イノベーション

クロスウェーブ梅田杉光 一成金沢工業大学大学院 イノベーションマネジメント研究科教授

2 12名 5名

4ビジネスモデルデザイン ~入門編~

金沢工業大学虎ノ門大学院妹尾 堅一郎産学連携推進機構 理事長一橋大学大学院商学研究科(MBA)客員教授

3 18名 11名

5オープン・イノベーション・マネジメント

金沢工業大学虎ノ門大学院清水 洋一橋大学イノベーション研究センター教授

2 17名 8名

第1回2018年1月17日(水)18時30分~21時30分

2 17名 4名

第2回2018年1月24日(水)18時30分~21時30分

2 17名 2名

6オープン・イノベーションとマルチパーティネゴシエーション

金沢工業大学虎ノ門大学院二又 俊文東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員

開催日時

2018年1月26日(金)18時30分~21時30分

2017年12月22日(金)14時~17時

2018年1月21日(日)13時30分~16時30分

2018年2月3日(土)11時~18時

2018年1月31日(水)18時30分~21時30分

受講者アンケート結果からは、戦略や交渉に関する受講者の理解が促進されたことが検

証でき、ケース教材及びケース教材を用いたデモ講義は企業の持つ人材育成ニーズに合致

している内容であったと言える。

またオブザーバーのデモ講義の傍聴結果からは、ケース教材を用いた人材育成の手法に

ついて学びや気づきを得ることが出来たとの回答や、特許庁のケース教材を活用した人材

育成を実践したい、との意見も見られた。

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4.調査結果の分析・取りまとめ

(1)大学院において育成を目指す人材像

~企業が大学院に期待するマネジメント人材・グローバル人材育成への拡大~

企業の経営環境が大きく変化する中で、先端的な知見を蓄積し、体系性のあるカリキュ

ラムを提供する知的財産大学院の役割はますます重要になる。知的財産大学院が役割を果

たしていくためには、産業界のニーズを踏まえて育成を目指す人材像の明確化が求められ

る。

知的財産大学院としては企業ニーズに応えていくためには、従来の知的財産専門人材の

育成だけでなく、マネジメント人材、グローバル人材の育成へと人材像を拡大していくこ

とが重要である。

(2)大学院における受講者の対象

~受講者の対象として、経営戦略を担う人材、グローバルな知財活用を担う人材等へも多

様化させる~

今後、大学院における育成を目指す人材像が知的財産専門人材からマネジメント人材、

グローバル人材へと拡大していくと、より多様な受講者が想定されるようになる。たとえ

ば「知財マネジメント人材」を育成するためには、経営戦略を立案する経営企画部門や事

業部門の企画担当者、中小・ベンチャー企業の経営者等を受け入れていくことが重要とな

る。一方、「グローバル知的財産専門人材」としては、海外企業と渡り合って交渉を進め

ている企業におけるグローバルな事業の企画担当、弁護士・弁理士の有資格者 、グロー

バルなマインドを持つ留学生等を受け入れることが考えられる。

(3)大学院におけるカリキュラムの方向性

~人材像や受講者の対象を踏まえ、先端性の高いテーマを学ぶ科目を設ける~

(ⅰ)科目

本調査でみてきたように、企業が知的財産大学院等の外部の人材育成機関に期待してい

るのは、正解のないテーマや、先端性の高いテーマである。具体的には、「オープン&ク

ローズ戦略」、「IPランドスケープ」、「グローバル展開に対応した組織設計」など、経験

していない企業が多い先端テーマを設定した科目を新しく設置することが考えられる。

知財マネジメント人材の育成を重点化する知的財産大学院(経営分野の大学院等)の場

合は、近年の経営戦略として重要性を増している「ビジネスエコシステム」、「プラットフ

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ォームビジネス」、「オープンイノベーション」等の理論を起点としてそれらと知的財産と

の関係性を体系的に学ぶマネジメント科目が求められる。

一方、グローバル知的財産専門人材の育成を重点化する知的財産大学院(法律系の大学

院等)の場合は、弁護士・弁理士等の有資格者や企業のグローバルな事業の知財担当とい

ったすでに専門性を有する人材を対象とするリカレント教育の意味合いが大きくなる。

(ⅱ)授業の形式

正解のない先端性の高いテーマを新しく設置していく場合には、受講者が自ら気づき、

ビジネスへの応用を自ら学んでいくことを教員が支援する授業形式を採ることが望ましい。

たとえば、知的財産マネジメントに関するケース教材を活用したケースメソッド教育や、

経営戦略と知的財産マネジメントの先端的な事例研究を通じた教育などの実践的な人材育

成方法が必要となる。

(ⅲ)講師人材の確保・育成

講師人材を確保・育成するのは容易ではないが、たとえば、多様な先端事例の研究の推

進、外部の講師人材(MBA講師、多様な業界の講師、外国人の講師等)との連携、博士

課程の設置を通じた人材育成、ケースメソッド教育等の実践的な教育を行う人材の育成な

どが考えられる。

(4)産業界とのさらなる連携による人材育成

~企業ニーズの収集だけでなく、さらに踏み込んだ連携の取り組みを行う~

知的財産大学院が中長期的にカリキュラムを高度化し続けていくためには、人材育成の

受け手側の産業界とさらに緊密な連携体制を構築し、企業のニーズをカリキュラムに反映

していくことが不可欠である。

たとえば、特定の企業との共同による科目や教材の開発、企業と連携した実践的な事例

研究やリサーチインターン 、企業の経営者・経営企画部門・事業部門の担当者による団

体(たとえば日本経済団体連合会、商工会議所・商工会等)と連携した人材育成などが考

えられる。

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Ⅲ.スタートアップ向け知財コンテンツについての検討・整備

1.公開情報調査

本調査では知財がスタートアップ事業に深く関わっていることをより理解しやすくする

意図から、スタートアップの事例を中心に成長ステージ別に調査した。

シード・アーリーステージでは、たとえば「画面デザイン」や「操作のし易さ」といっ

たユーザの体験をビジネスモデルの差別化要素として、そのための知的財産を集中的に確

保しているIT分野のスタートアップの事例があった。

ミドルステージでは、ベンチャーキャピタルからの資金調達時にビジネスモデルと関連

させた特許権の取得が評価された事例があった。

レイターステージでは、IPO前に他社から知的財産係争を受け、対応のために他社か

ら知的財産権を購入した事例がみられた。

2.国内ヒアリング調査

ヒアリング調査では、コンテンツの構成、メッセージ、事例に関連して、特にスタート

アップが知的財産において関心を持っている事項、近年のスタートアップの事業開発で起

こりがちな失敗の実事例について有効な意見が聴取できた。

ヒアリング結果に基づき、構成案とスライド案を修正した。全体を三部構成として、第

一部では知的財産の必要性と知的財産がスタートアップの事業に与えるインパクトについ

て事例を用いて紹介し、第二部では成長ステージを切り口に、スタートアップが気をつけ

るべきポイントを解説した。また第三部では先進的なビジネスモデルを構築し、成長して

いるスタートアップを取り上げて、彼らがビジネスの中で知的財産をどのように活用して

いるのかを解説した。

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3.セミナー

スタートアップ向け知財コンテンツ整備の一環として、知財コンテンツを使ったセミナ

ーを3回開催した。

セミナー全体で、事前申込は 79名、当日参加は 59名であった。

開催概要

回数 日時 場所 想定分野 第二部講師 参加者数

第1回

2017 年 12 月 19 日

火曜日 14 時~15

時半

DMM.make AKIBA

(東京都 秋葉原) ハードウェア、

IoT

特許業務法人白坂

白坂一氏 17名

第2回

2018 年 1 月 25 日

木曜日 14 時~16

FINOLAB

(東京都 大手町) ソフトウェア、

フィンテック

六本木通り特許事務所

大谷寛氏

モバイル・インターネットキ

ャピタル株式会社

元木新氏

36名

第3回

2018 年 1 月 30 日

火曜日 14 時~16

KOIL

(千葉県 柏市) ライフサイエン

大野総合法律事務所

森田裕氏 6名

セミナーの参加者アンケートでは理解度を 5 段階で尋ねたところ、第一部 知財コンテ

ンツの解説の理解度は全体では、「ほぼ全ての内容を理解できた」が半数と最も多く、次

いで「概ね(70%)の内容を理解できた」が 38%であった。参加者の 9 割近くが、概ねの内

容を理解できたという結果であった。

セミナーの開催結果を踏まえると、コンテンツの内容に関する課題としては、以下の2

点が挙げられる。

・ビジネスモデルと知財マネジメントに関連したスタートアップ事例の充実

・スタートアップの知識レベルに応じた知識の付与

また、コンテンツの活用に関する課題としては以下の2点が挙げられる。

・スタートアップ支援組織との連携

・コンテンツの活用ルートの複線化

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白紙

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「企業等における知財人材の現状と大学院

レベルの当該人材育成の在り方に関する調査研究」委員会名簿

委員長

加藤 浩一郎 金沢工業大学大学院

イノベーションマネジメント研究科 教授

委 員

小田 哲明 立命館大学大学院

テクノロジー・マネジメント研究科 教授

杉浦 淳 大阪工業大学大学院 知的財産研究科 教授

田中 義敏 東京工業大学工学院 経営工学系・経営工学コース 教授

二又 俊文 東京大学 政策ビジョン研究センター 客員研究員

オブザーバー

柴田 昌弘 特許庁総務部企画調査課知的財産活用企画調整官

貝沼 憲司 特許庁総務部企画調査課課長補佐(研究班長)

寺澤 萌 特許庁総務部企画調査課研究班

髙木 尚哉 特許庁総務部企画調査課課長補佐(人材育成班長)

山本 晋也 特許庁総務部企画調査課(前)人材育成班長

宮川 元 特許庁総務部企画調査課人材育成係長 商標動向係長

事務局

安田 修 みずほ情報総研株式会社経営・ITコンサルティング部

上席課長

野口 博貴 みずほ情報総研株式会社経営・ITコンサルティング部

チーフコンサルタント

稲場 未南 みずほ情報総研株式会社経営・ITコンサルティング部

コンサルタント

益田 彰拓 みずほ情報総研株式会社経営・ITコンサルティング部

コンサルタント

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目 次

要約

委員会名簿

Ⅰ. 調査研究の概要 ······················································ 1

1. 背景及び目的 ······················································ 1

2. 方法 ······························································ 5

(1) 公開情報調査 ···················································· 5

(2) 国内ヒアリング調査 ·············································· 5

(3) 実地調査・セミナー ·············································· 5

(4) 委員会による検討 ················································ 7

(5) 調査結果の分析・取りまとめ ······································ 7

Ⅱ. 大学院レベルの知的財産人材育成の現状とカリキュラムの在り方 ·········· 8

1. 公開情報調査 ······················································ 8

(1) 日本の大学院における知的財産人材育成の動向 ······················ 8

(2) 海外の大学院における知的財産人材育成の動向 ····················· 13

2. 国内ヒアリング調査 ··············································· 18

(1) 大学院 ························································· 18

(2) 企業 ··························································· 31

3. 実地調査 ························································· 37

(1) デモ講義のテーマの選定 ········································· 38

(2) デモ講義の開催概要 ············································· 40

(3) 開催結果 ······················································· 41

4. 調査結果の分析・取りまとめ ······································· 50

(1) 大学院において育成を目指す人材像 ······························· 50

(2) 大学院における受講者の対象 ····································· 51

(3) 大学院におけるカリキュラムの方向性 ····························· 52

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Ⅲ. スタートアップ向け知財コンテンツについての検討・整備 ··············· 57

1. 公開情報調査 ····················································· 57

(1) 目的 ··························································· 57

(2) 構成 ··························································· 57

(3) シード・アーリー ··············································· 58

(4) ミドル ························································· 64

(5) レイター ······················································· 68

2. 国内ヒアリング調査 ··············································· 69

(1) 目的 ··························································· 69

(2) ヒアリング実施概要 ············································· 69

(3) ヒアリング項目 ················································· 69

(4) ヒアリング結果 ················································· 70

(5) ヒアリングに基づいたコンテンツ案の修正結果 ····················· 71

3. セミナー ························································· 73

(1) 開催概要 ······················································· 73

(2) 開催結果 ······················································· 75

(3) 今後の課題 ····················································· 82

資料編

資料Ⅰ 大学院レベルの知的財産人材育成に関する国内ヒアリング調査結果 ··· 87

資料Ⅱ デモ講義 動画ファイル構成 ···································· 135

資料Ⅲ スタートアップ向け知財コンテンツ ······························ 139

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Ⅰ.調査研究の概要

1.背景及び目的

企業活動の変化に伴う知財戦略の変化や、IoT・ビッグデータ・人工知能に代表される

ビジネスや社会の在り方そのものを根底から揺るがす、「第四次産業革命」とも呼ぶべき

大変革が着実に進みつつある状況がある。このような状況を踏まえて、平成28年度に実

施した「企業の知財戦略の変化や産業構造変革等に適応した知財人材スキル標準1のあり

方に関する調査研究」2において、知財人材スキル標準についてレビューを行い、企業に

おいて求められる知財人材のスキルを現在の状況に合わせて新たに整理の上、知財人材ス

キル標準を改訂した3。当該調査研究報告書によれば、知財人材に求められるスキルの変

化として、知財人材には事業への貢献が求められていることや知財部門の業務として経営

陣や事業部門・研究開発部門への提案型業務の増加があること等が分かった。このため、

改訂知財スキル標準では、戦略業務を中心に改訂を行った。

また、知的財産推進計画2016において、「政府が中心となって世界を舞台に活躍で

きる知財人材を育成するため、企業の経営者等を対象とした知財人材育成プログラムを開

発し、その活用を促進する。」とされており、特許庁では平成26年度から平成28年度

まで実施した「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」において、経営幹部や経

営幹部候補、経営企画・事業部等のリーダーを主な対象とする、グローバルな知的財産・

標準化戦略をテーマとして合計12テーマの教材(以下、「開発教材」という。)の開発を

実施した。これらの開発教材は順次提供を開始している4。

このように、知財人材に求められるスキルの変化に合わせて、知財人材スキル標準の改

訂を行い、また、知財人材に求められる能力を向上するための教材を整備してきたところ

である。

一方で、企業の知財人材の育成としては、企業内における育成のほか大学院の活用も考

えられるが、知的財産専門職大学院5は減少傾向6にある。もちろん知的財産専門職大学院

だけが大学院レベルの知財教育を担うわけではない7が、知財人材に求められるスキルの

1 「知財人材スキル標準」とは、企業における知的財産の創造・保護・活用に関する諸機能の発揮に必要とされる個人

の知的財産に関する能力を明確化・体系化した指標であり、知的財産人材育成に有用な「ものさし」を提供しようとす

るもの。 2 当該調査研究の調査研究報告書は、http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken/2016_05.pdf に

掲載されている。 3 改訂した知財人材スキル標準(以下、本調査において「改訂知財スキル標準」という。)の詳細については、

http://www.jpo.go.jp/sesaku/kigyo_chizai/chizai_skill_ver_2_0.htm 参照。 4 http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/teaching_case.htm において申し込みを受け付けている。 5 知的財産専門職大学院は知的財産分野に特化した専門職大学院。 6 たとえば、東京理科大学について http://www.tus.ac.jp/today/archive/20160218000.html を、日本大学について

http://nihon-u-gs.jp/property/news/206/を参照。 7 たとえば、http://www.kanazawa-it.ac.jp/tokyo/im/mipm.html(金沢工業大学)、http://www.law.osaka-

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変化や知的財産専門職大学院を取り巻く環境の変化を踏まえて、大学院レベルにおける知

的財産に関するカリキュラム8の在り方について新たな方向性を示していく必要9があり、

そのためには現在の日本における知財人材の長所・短所や大学院レベルにおける知財人材

育成の現状を適切に把握し、これらを踏まえて新たな方向性を示していくことが重要であ

る。

さらに、企業の知財人材育成として、スタートアップ10は企業経営に関する多くの課題

を限られた人材で対応する必要がある現状において、昨今スタートアップにおける知財の

課題を解決することの重要性が高まっていることから、スタートアップにおける知財人材

の育成は特に重要である。しかしながら、スタートアップに必要な知財人材に求められる

能力を的確に育成するためのコンテンツが確認できていないのが現状である。

そこで、改訂知財スキル標準や開発教材を「ものさし」として、日本の知財人材の長

所・短所及び大学院レベルにおける知財人材育成の現状・課題を把握し、現状・課題を踏

まえた大学院レベルの知的財産に関するカリキュラムの在り方を示していくこと、及び、

スタートアップに必要な知財人材に求められる能力を的確に育成するためのコンテンツを

整備することが本調査研究の目的である。

具体的には、本調査研究では、以下の点を調査・整備した。

(a)開発教材による知財人材現状調査(以下、「現状調査」という。)

開発教材が主に対象とする層において、現時点で各開発教材の内容についてどの程度の

理解が進んでいるか、理解の程度に差があるかを調査し、知財人材の長所・短所を整理・

分析した。

(b)大学院レベルの知的財産に関するカリキュラムの在り方の調査(以下、「カリキ

ュラム調査」という。)

u.ac.jp/graduate/about/study.html#3rd(大阪大学)、平成29年度以降の予定であるが http://nihon-u-

gs.jp/property/news/218/(日本大学)の事例参照。 8 本調査研究では、知的財産や知的財産マネジメントに関する学位を取得できるカリキュラム・知的財産や知的財産マ

ネジメントに重点を置いたカリキュラムを想定している(たとえば、脚注6に例示したもの。なお、本調査研究におい

て、一般的なMOTやロースクールを在り方の検討対象とはしない。)。 9 なお、経営系専門職大学院の機能強化に資する取組についての調査研究が、文部科学省において平成28年度「先導

的経営人材養成機能強化促進委託事業」の中で行われている。たとえば、ビジネス・MOT分野のコアカリキュラムの

策定や「産業界のニーズに応えうる教育プログラムの開発についての調査研究」として、新たなビジネスモデルを提案

できる経営人材の養成に資するよう、知財、M&A、ビッグデータ、IoT等、産業界のニーズが高い分野について、モデル

となる教育プログラムを開発することが行われている。詳細は、

http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/09/16/1377151_02.pdf

参照。また、平成 29年度も「高度専門職業人養成機能強化促進委託事業」を実施している。詳細は、

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2017/dai3/siryou3_3.pdf

の p.16参照。 10 新たなビジネスモデルを開発し、市場を開拓する段階にある企業を想定したが、段階が前記の段階に達しているもの

であれば法人設立以前のものも含む。

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改訂知財スキル標準(ただし、「2.1.1」~「2.1.2」、「2.1.5」~「2.

1.6」、「2.2.4」については対象としない。)で示される知財人材のスキルに照ら

して、大学院における知的財産に関するカリキュラムの現状11や当該カリキュラムにおけ

る学生の理解度、今後の大学院レベルにおける知的財産に関するカリキュラムの在り方等

についてヒアリング等により調査した。

改訂知財スキル標準の全体像

情報(2.1.1) A:情報開示 B:情報収集・分析 C:システム人材(2.1.2) A:教育 B:インセンティブ

A:営業秘密 B:規定 C:法的審査D:法令情報収集・分析A:係争対応 B:他社権利監視 C:他社権利排除D:ブランド保全

予算(2.1.5) A:策定 B:管理 C:資金調達A:調査会社 B:特許事務所 C:法律事務所D:翻訳会社

調査(2.2.1) A:先行資料 B:他社権利 C:パテントマップ知的創造(2.2.2) A:研究・開発 B:デザイン開発 C:コンテンツ開発

A:ブランド創出支援 B:発明支援 C:コンテンツ創造支援D:デザイン創造支援

委託・共同研究(2.2.4)

A:研究開発委託 B:共同研究

ブランド保護(2.2.5) A:商標権利化 B:事務A:国内特許権利化 B:外国特許権利化 C:国内事務D:外国事務 D:品種登録申請

コンテンツ保護(2.2.7)

A:申請 B:事務

デザイン保護(2.2.8)

A:意匠権利化 B:事務

渉外(2.2.9) A:条件交渉 B:ルール形成 C:権利処理A:侵害判定 B:侵害警告 C:国内訴訟D:外国訴訟 D::模倣品排除

価値評価(2.2.11)

A:定量評価 B:定性評価 C:棚卸し

戦略(1)

実行(2)

法務(2.1.3)

アウトソーシング(2.1.6)

創造(調達)

創造支援(2.2.3)

保護(競争力のデザイン)

技術保護(2.2.6)

活用エンフォースメント(2.2.10)

戦略(1.1.1)

管理(2.1)

実務(2.2)

A:IPランドスケープB:知財ポートフォリオマネジメントC:オープン&クローズ戦略D:組織デザイン

リスクマネジメント(2.1.4)

在り方としては、カリキュラムを構成する科目としてどのような科目があると望ましい

のか、当該科目で教えることが望ましい内容・レベルはどのようなものか、当該カリキュ

ラムを構成する各科目を講義する人材の確保(もし当該人材が不足している場合)のため

に望ましい措置は何か、といった観点を含む。

(c)スタートアップ向け知財コンテンツの整備(以下、「コンテンツ整備」という。)

スタートアップに必要な知財人材に求められる能力を的確に育成するためのコンテンツ

11 たとえば、改訂知財スキル標準に示されるスキルのうち現在のカリキュラムで充分に育成できているスキル/充分に

育成できていないスキルは何か、当該充分に育成できていないスキルの育成について大学院のカリキュラムに取り入れ

ることが適当か否か、といった内容を想定した。

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について調査し、整備した。

これらを調査することによって、日本の知財人材の強み弱みの現状や当該現状を踏まえ

たより効果的な人材育成のための開発教材の活用方法、大学院レベルの知的財産に関する

カリキュラムの在り方等について整理し、大学院や企業等における人材育成のための参考

資料を整備した。また、スタートアップにおける知財人材に必要な知財コンテンツを整備

した。

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2.方法

(1)公開情報調査

カリキュラム調査及びコンテンツ整備について、書籍、論文、調査研究報告書、インタ

ーネット情報等を利用して、本調査研究の内容に関する文献等を調査、整理及び分析した。

(2)国内ヒアリング調査

(ⅰ)カリキュラム調査

大学院における知的財産に関するカリキュラムの現状・課題や当該カリキュラムにおけ

る学生の理解度について、大学院や大学院レベルの知財人材育成に詳しい有識者等9者

(A大学院~I大学院)に対しヒアリングにより調査した。

また、今後の大学院レベルにおける知的財産に関するカリキュラムの在り方について、

知財人材育成に取り組んでいる企業6社(A社~F社)に対してヒアリングにより調査し

た。

(ⅱ)コンテンツ整備

スタートアップ向け知財コンテンツについて、作成中及び整備後のそれぞれにおいて、

計 15 名の有識者(グループヒアリング含む)にヒアリングを行い、助言を得て、知財コ

ンテンツの修正に反映させた。

(3)実地調査・セミナー

(ⅰ)現状調査

開発教材の中から 15 コマ(90 分/1 コマ)の教材を選択し、2017 年 12 月から 2018 年

2 月にかけて、東京と大阪においてデモ講義による実地調査を実施した。主な開催場所は

大学院として、講義場所・デモ講義の対象とする開発教材 は(4)に記載の委員会にお

いて決定した。

講義風景を動画撮影し、講師役の参考に資するように編集した。また、講師役となりう

る者が講義をする際の参考になる機会を提供するため、デモ講義にオブザーバーとして参

加するための枠を用意して募集を行った。

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デモ講義の受講者、オブザーバーに対して、デモ講義を行った各開発教材の内容につい

てどの程度の理解が進んでいるか、理解の程度に差があるかをアンケート調査により把握

し、整理・分析した。

デモ講義の開催概要は以下の通りである。

デモ講義の開催概要

研修番号

テーマ 会場 主担当講師 コマ数 受講者数オブザー

バ数

1ビジネスエコシステムとオープン&クローズ戦略

金沢工業大学虎ノ門大学院糸久 正人法政大学社会学部公共政策研究科准教授

2 18名 8名

2ソフトウェア・ICT産業におけるオープン&クローズ戦略と知財・標準化マネジメント

金沢工業大学虎ノ門大学院加藤 浩一郎金沢工業大学大学院 イノベーションマネジメント研究科教授

2 16名 5名

3デザイン・ドリブン・イノベーション

クロスウェーブ梅田杉光 一成金沢工業大学大学院 イノベーションマネジメント研究科教授

2 12名 5名

4ビジネスモデルデザイン ~入門編~

金沢工業大学虎ノ門大学院妹尾 堅一郎産学連携推進機構 理事長一橋大学大学院商学研究科(MBA)客員教授

3 18名 11名

5オープン・イノベーション・マネジメント

金沢工業大学虎ノ門大学院清水 洋一橋大学イノベーション研究センター教授

2 17名 8名

第1回2018年1月17日(水)18時30分~21時30分

2 17名 4名

第2回2018年1月24日(水)18時30分~21時30分

2 17名 2名

6オープン・イノベーションとマルチパーティネゴシエーション

金沢工業大学虎ノ門大学院二又 俊文東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員

開催日時

2018年1月26日(金)18時30分~21時30分

2017年12月22日(金)14時~17時

2018年1月21日(日)13時30分~16時30分

2018年2月3日(土)11時~18時

2018年1月31日(水)18時30分~21時30分

(ⅱ)コンテンツ整備

2017 年 12 月から 2018 年 1 月にかけて東京、千葉においてスタートアップ向け知財コ

ンテンツを使ったセミナーを3回開催した。

セミナーは三部構成として、第一部はスタートアップ向け知財コンテンツを使った講演、

第二部は本テーマに精通した有識者による事例紹介、第三部は質疑応答・ネットワーキン

グとした。

セミナー後、受講者に対して、知財コンテンツの内容についてアンケート調査を行った。

開催概要は以下の通りである。

セミナーの開催概要

回数 日時 場所 想定分野 第二部講師 参加者数

第1回

2017 年 12 月 19 日

火曜日 14 時~15

時半

DMM.make AKIBA

(東京都 秋葉

原)

ハードウェア、IoT 特許業務法人白坂

白坂一氏 17名

第2回

2018 年 1 月 25 日

木曜日 14 時~16

FINOLAB(東京都

大手町) ソフトウェア、

フィンテック

六本木通り特許事務所

大谷寛氏

モバイル・インターネットキ

ャピタル株式会社

元木新氏

36名

第3回

2018 年 1 月 30 日

火曜日 14 時~16

KOIL(千葉県 柏

市) ライフサイエンス 大野総合法律事務所

森田裕氏 6名

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(4)委員会による検討

調査研究に関して、主に(3)実地調査(ⅰ)現状調査についての助言を得て決定を行

うために、本調査研究に関して専門的な知見を有する者5名(1名を委員長とする)で構

成される検討委員会を設置した。

委員会は1回2時間程度とし、2回開催した。委員会を開催した時期及び検討内容は以

下の通りである。

委員会の開催概要

回数 日時/場所 議題

第1回 平成 29年 9月 13日(水)

10 時 30分~12時 30分

/金沢工業大学大学院 11 階

1111教室

1.特許庁挨拶

2.委員紹介

3.調査研究の概要

4.大学院レベルの人材育成の現状と今後の方向性

(1)大学院における人材育成実態の調査結果

(2)企業ニーズヒアリング調査結果

(3)大学院レベルにおける人材育成の方向性とデモ

講義

5.次回のスケジュールの確認

第2回 平成 30年 2月 23日(金)

10 時 30分~12時 30分

/金沢工業大学大学院 11 階

1111教室

1.デモ講義の開催結果

2.調査結果の分析・取りまとめ

~大学院における人材育成の方向性~

(5)調査結果の分析・取りまとめ

調査目的に沿い、前記(1)~(4)の調査・検討結果を総合的に分析し、報告書に取

りまとめた。特に、(1)公開情報調査、(2)国内ヒアリング(ⅰ)カリキュラム調査、

(4)実地調査(ⅰ)現状調査を踏まえ、大学院レベルにおける知財人材育成の現状・動

向・課題を把握し、現状・課題を踏まえた大学院レベルの知的財産に関するカリキュラム

の在り方について整理・分析の上、報告書に取りまとめた。

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Ⅱ.大学院レベルの知的財産人材育成の現状とカリキュラムの在り方

1.公開情報調査

(1)日本の大学院における知的財産人材育成の動向

(ⅰ)知的財産専門職大学院の設置と入学者の動向

日本における知的財産専門職大学院は 2005 年に東京理科大学専門職大学院と大阪工業

大学専門職大学院に初めて設置された。その後 2010 年に日本大学知的財産専門職大学院

として設置され、国内の知的財産専門職大学院は 3校となった。

知的財産専門職大学院の入学者数の動向をみると近年は減少を続けている。大阪工業大

学以外の 2 校は 2017 年度以降の知的財産専門職大学院としての入学者の募集を停止し、

東京理科大学専門職大学院は知財人材の育成機能を同大学の技術経営専門職大学院へと統

合し、日本大学は専門職大学院ではなく法学研究科へと統合した。現在、知的財産専門職

大学院は1大学院になっている。

知財分野の専門職大学院の入学者数推移12

131

118

108

82 82

63

0

20

40

60

80

100

120

140

2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 2015年度 2016年度

入学者数(単位:人)

12 文部科学省高等教育局専門教育課 第 3回検証・評価・企画委員会(産業財産権分野会合)説明資料「専門職大学院

における知財教育」(平成 29年 2月 23日)より、調査請負先にて図表作成

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(ⅱ)大学院における知財人材育成の特徴

日本の大学院において知的財産分野の専門知識を学習するアプローチを見ると、「法律

系」と「経営系」とに区分できる。それぞれの人材育成の特徴について事例をもとに概観

する。

①法律系の大学院

法律系の大学院には、法科大学院(法律分野の専門職大学院)、法学研究科(法律分野

の研究大学院)、知的財産専門職大学院が含まれる。弁護士や弁理士等の知的財産専門人

材、知的財産法分野の法学研究者を育成することを主目的としてきたため、知的財産法、

民法や独占禁止法等の知財に関わる法律知識及びその活用のための能力を育成するカリキ

ュラムとなっている。近年は、法律だけでなく、知的財産の戦略的な活用を意識したコー

スやグローバル化対応のためにすべて英語により学ぶコース等が現れている。

法律系の大学院での知財教育の例

大学名 科目・特徴的な取組み等

北海道大学 法学研究

知財法分野の人材育成を目的とした「サマーセミナー」が開か

れ、理論だけでなく、知財の戦略的活用や事業戦略との連携に

ついても講義が実務化教員により行われている。

明治大学 法科大学院13

「知的財産と法Ⅲ」において、情報技術や生命科学技術を中心

に、技術と知的財産法が関係する諸問題について問題発見、解

決能力を育成する。

早稲田大学 法学研究

科 先端法学専攻知的

財産法LL.M.

2018 年度より新規に開設される。知財の創出、活用、保護、

紛争解決といった知的財産に関わる法について、理論と実務の

両輪から、体系的かつ集中的に学ぶ14。

13 明治大学シラバス(http://www.meiji.ac.jp/koho/syllabus/index.html)[最終アクセス日:2018年 3月 8日] 14 早稲田大学大学院法学研究科ホームページ内「知的財産法LL.Mについて」

(https://www.waseda.jp/folaw/glaw/about/llm/about/)[最終アクセス日:2018年 3月 8日]

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②経営系の大学院

経営系の大学院は、MBA、MOT等の経営分野の専門職大学院において知財人材育成

を行っている大学院である。企業の経営幹部を育成しており、こうしたマネジメント人材

に必要なスキルとして知的財産を学ぶ科目を提供している。

全体的にMOTについては多くの大学院において知的財産関連科目を設けている傾向が

ある一方で、MBAにおいて科目を設けている大学院は現時点ではそれほど多くない。

経営系の大学院での知財教育の例

大学名 科目、特徴的な取組み等

東京農工大学大学院工学府産業技術

専攻

「工業標準化戦略論」「生命産業知財戦略論」「環

境・材料産業知財戦略論」「先端機械産業知財戦略論

情報処理産業知財戦略論」といった分野ごとの知財

戦略に関する科目を設けている。

関西学院大学経営戦略研究科経営戦

略専攻15

「知的財産戦略」においては、知財の知識をビジネ

スにおいて戦略的に活用するための「実践力」を身

につけさせることを目的にすえている。

青山学院大学経営学研究科戦略経

営 ・ 知 的 財 産 権 プ ロ グ ラ ム

(SMIPRP) 16

税関での知財実務を学ぶなど国際色が強く、「知的

財産権概論」「知的財産水際取締り」などの知財科

目も全編英語で行われる。

15 関西学院大学シラバス(https://syllabus.kwansei.ac.jp)[最終アクセス日:2018年 3月 8日] 16 青山学院大学経営学研究科ホームページ内紹介ページ(http://www.agub.aoyama.ac.jp/wordpress/smiprp/)[最終

アクセス日:2018年 3月 8日]

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(ⅲ)知的財産専門職大学院に対する評価

①知的財産専門職大学院に対する評価

知的財産分野を含む専門職大学院全体に対する課題として、「文部科学省中央教育審議

会大学分科会大学院部会専門職大学院ワーキンググループ」によると、大学院数・学生数

が広がっていないこと、その要因として社会(出口)との連携を意識した教育プログラム

が十分に整っていないこと等が指摘されている17。

知的財産大学院の課題について述べた公開情報はほとんど存在しないが、知的財産専門

職大学院を対象とした認証評価報告書(専門職大学院としてのカリキュラムを評価した報

告書)が公開されており、当該報告書にはその一端を垣間見ることができる。たとえば、

知的財産専門職大学院の改善点として次のような点が指摘されている。

知的財産専門職大学院に対する認証評価報告書における改善点の記載の例

(出所)東京理科大学大学院イノベーション研究科知的財産戦略専攻、及び日本大学大学院知的財産

研究科知的財産専攻に対する認証評価結果報告より引用(下線は本調査請負先による)18

上記の評価結果からは、知的財産専門職大学院への社会人の入学者が少ない、もしくは

減少しており、その背景としてマネジメント力や交渉力といった企業から期待されている

スキルの育成の提供に関して改善の余地があることを窺うことができる。

17 「専門職大学院を中核とした高度専門職業人養成機能の充実・強化方策について」文部科学省中央教育審議会大学分

科会大学院部会専門職大学院ワーキンググループ第 10回(2016 年 8月 10日) 18 認証評価基幹連絡評議会 評価結果一覧(専門職大学院)「知的財産」https://jnceaa.jp/result/s-

daigakuin/chizai/[最終アクセス日:2018年 3月 8日]

「問題となるのは、高度専門職業人を謳う専門職大学院でありながら、貴専攻に入学し

てくる社会人学生が現状で一人もいないという点であり、社会人のニーズ、更には産業界

のニーズに十分に耳を傾け、教育体制を再構築する事が求められる」

「全体的な志願者数及び入学者数の減少が見られ、とりわけ開設当初の頃に比して、志

願者数及び入学者数に占める社会人の割合が低下している」

「貴専攻の目的を達成するためには、より実務的活現場での問題解決能力の高い人材を

育てるプログラムのさらなる強化が望まれる。特に専門職大学院として、マネジメント

力、交渉力を持った国際人の育成により注力した方向での検討が期待される。」

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②企業が知的財産専門職大学院に期待する人材育成ニーズ

企業からの知的財産専門職大学院に対する期待に関する公開情報はほとんどないが、あ

くまで一つの参考として、文部科学省の専門職大学院ワーキンググループにおいて、専門

職大学院の在り方を検討するために企業有識者が知的財産を含む分野ごとの人材ニーズに

ついて発表を行った資料および議事録がある19。

この中で知財人材についての言及をみると、(1)技術的知識が前提であり、法律知識は

入社後でも構わないこと、(2)社員にはMOT、MBA、ロースクールに行かせたい、M

BA・ロースクールは海外派遣をしていること、(3)経営視点とグローバル対応力を求め

ていること、が指摘されている。

文部科学省専門職大学院ワーキンググループにおける

企業有識者による知財人材ニーズと人材教育の発表資料20

19 「専門職大学院を中核とした高度専門職業人養成機能の充実・強化方策について」中央教育審議会大学分科会大学院

部会専門職大学院ワーキンググループ第3回(2016年2月 15日) 20「専門職大学院を中核とした高度専門職業人養成機能の充実・強化方策について」中央教育審議会大学分科会大学院

部会専門職大学院ワーキンググループ第3回 大竹委員配布資料

(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/038/siryo/1367278.htm)[最終アクセス日:2018年 3月 8

日]

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(2)海外の大学院における知的財産人材育成の動向

(ⅰ)イリノイ工科大学 シカゴ―ケント法律学校(米国)

イリノイ工科大学では修士号「master of IP management and markets」を取得するた

めのプログラムがあり、マーケティング、R&D、ポートフォリオマネジメント、法的保護、

ビジネス取引を通じて知財活用と管理における戦略的リーダーシップの役割を果たす人材

の育成を目指している。

また、通常のカリキュラムと別に、知財資産管理(intellectual asset management )

のオンラインプログラムを提供している。その内容は知財による収益を最大化するための

スキルを学ぶことを目的としており、知財の定量評価、特許分析に加え、「Patent

Analytics & Landscape Reports」では、IP ランドスケープ作成の具体的な手順に加え、

特許データを用いた組織の意思決定に資する特許分析の手法について学ぶことが出来るこ

とが大きな特徴といえる21。

(ⅱ)シンガポール社会科学大学(シンガポール)

シンガポール社会科学大学(Singapore University of Social Science、以下 SUSS)

とは、シンガポール経営研究所(Singapore Institute of Management、以下 SIM)が所

管する大学であったシンガポール経営研究所大学(Singapore Institute of Management

University、UniSIM)が SIM から独立して出来た自治大学である。SUSS では 2017 年に修

士学位プログラムとして、知財を企業の資産として活用・管理する能力を養成する

「master of IP and Innovation management」を設置した。

知財とビジネスを連動させることを明確に意識されたプログラムは、輩出する知財専門

人材像にしたがって、「Patent agency」、「IP management」、「IP Technology」の3コース

を用意し、志向する人材像により1つを選択できる。カリキュラム内容も、基本的な法律

科目を必修としつつ、各コースの人材像に合わせた実践的科目で構成されている。

また SUSS はシンガポール政府の提供する「The Professional Conversion Programme

for Intellectual Property Professionals 」と連携しており、社会人が SUSS で知財教

育を受ける場合には、政府より企業に給与とコースごとの料金を合わせた金額が支給され

る。知財とイノベーションのスキルの育成を国から支援している点も特徴といえる。

21 Illinois Institute of technology Intellectual Asset Management Online Certificate 紹介ホームページより引

用(http://ipmm-online.iit.edu/)[最終アクセス日:2018年 3月 8日]

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- 14 -

シンガポール社会科学大学

Master of IP and Innovation Management のプログラム構成22

22 Singapore University of Social Science ホームページより引用(http://www.suss.edu.sg/programmes/programme-

details/Pages/Master-of-IP-and-Innovation-Management.aspx)[最終アクセス日:2018年 3月 8日]

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(ⅲ)ストラスブール大学(フランス)

ストラスブール大学には、知的財産についての問題を専門的に研究する CEIPI(Centre

for International Intellectual Property Studies)という研究機関があり、企業の知財

担当や法律化を対象として講義やセミナー等を通じて知財についての教育プログラムを提

供している。

学位には、国内の法律家や国際機関の人材に向けた法的知識主体の内容に加え、知財専

門家のための、経営における知財のマネジメントについて重点的に扱う「the master of

intellectual property law and management」(MIPLM)が設けられている。カリキュ

ラムが「戦略」「意思決定」「実行」「組織」「リーダーシップ」「事業展開」という経営に

おいて必要となる要素から整理され、それぞれにおいて知財の関わり方と活用するための

知識とスキルを学ぶことが出来る。

ストラスブール大学 CEIPI

The Master of Intellectual Property Law and Management (MIPLM) の

カリキュラムモジュール23

(次ページへ続く)

23 CEIPIホームページ内ダウンロード資料より引用。(http://www.ceipi.edu/en/ceipi-courses-leading-to-

diplomas/master-of-laws-2-llm-equivalent/the-master-of-intellectual-property-law-and-management-miplm/)[最

終アクセス日:2018年 3月 8日]

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(前ページより続く)

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- 17 -

(ⅳ)ルイスビジネススクール(イタリア)

ルイスビジネススクールは、イタリア・ローマにあるビジネススクールであり、国際ビ

ジネスに特化した教育を提供している。当大学院は 2017 年より「Specialised Course In

IP Management and Valuation」が新たに開設した。このプログラムでは、知的財産法に

加え、知財のマネジメントや、知財を軸としたビジネスモデル、データ分析、事業評価と

いった、知的財産管理と評価の分野における先端的な能力を有する人材育成を目的として

いる。

なお、このプログラムはイタリア特許商標庁(UIBM)と世界知的所有権機関(WI

PO)から支援を受けて開設されており、特にUIBMからは受講料や交通費等全額の奨

学金が受講生全員に支給される。

ルイスビジネススクール

Specialised Course In IP Management and Valuation カリキュラム一覧24

1 TERM – COURSESINDUSTRIAL AND IP LAWAntitrust Law:•anti-competitive agreements•abuse of dominant position•mergers

Global Governance of Intellectual Property (WIPO, EPO, National Authorities)IP Comparative law:•Copyright law•Trademark law•Geographical Indications law•Industrial Design law

INTERNATIONAL IP GRANTING PROCEDUREThe steps towards a granted patent, which route to choose:•National Office Filing and Granting Procedure•European Office (EPO) Filing and Granting Procedure•International (WIPO) Filing Procedure

How to draft a sound patent document

INNOVATION MANAGEMENTIndustry Dynamics of Technological Innovation:•Types and Patterns of Innovation•Standards Battles and Design Dominance•Timing of Entry

Formulating Technological Innovation Strategy:•Open Innovation Model, Collaboration strategies•Protecting Innovation – IPRs

Implementing Technological Innovation Strategy:•Organizing for Innovation•Managing the New Product Development Process

IP AT UNIVERSITY•IP law at University: comparison across countries•Technology Transfer Process at University•Licensing activities at University: comparison across countries•The Third Mission of University•University-Industry linkages

2 TERM – COURSESIP-ENABLED BUSINESS MODELS•IP and Open Innovation: unlocking the potential of unused patents•IP management strategies•Origins and Nature of the Intermediate Markets•The role of IP in the diffusion of the Intermediate Markets•Maneuvers to enhance the diffusion of intermediate Markets

IP DATA ANALYSIS•Types of IP Data•Potential Applications of IP Data•IP Data tools and methodologies•Patent Data search strategies•Patent Mapping and Technological Landscape•Licensing Data analysis

EMERGENT ISSUES IN IP•Quality of patents•IP and Public Health•Protection of Biotechnology and New•Varieties of Plants•Made-in and Counterfeiting•IP in the Digital Era

BUSINESS AND IP VALUATION•Capital Budgeting: fundamentals and applications•Business valuation: methods and case•Startup valuation•Business plan: fundamentals•IP valuation•Patent box (Italian case)

24 LUISS Business school ホームページより、調査請負先作成。(http://businessschool.luiss.it/offerta-

formativa/formazione-specialistica/specialised-course-in-ip-management-and-valuation/)[最終アクセス日:

2018年 3月 8日]

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2.国内ヒアリング調査

(1)大学院

(ⅰ)調査対象

ヒアリング調査では知的財産に関する複数の科目群を有する大学院(以下、「知的財産

大学院」)を調査対象とした。

ヒアリング調査対象

類型 対象とした大学院

法律系

A大学院

B大学院

C大学院

D大学院

E大学院

経営系

F大学院

G大学院

H大学院

I大学院

※調査対象とした大学院は、法学研究科等の法律分野の大学院の中に知的財産に関する科目が設置さ

れている「法律系」と、MOT など経営分野の大学院に知的財産に関する科目が設置されている「経営

系」に大きく分類できる。この類型によって、目指すべき人材像、カリキュラムの特徴等が異なる。

ただし、これらはあくまでも分析上の分類であり、厳密なものではない。

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(ⅱ)調査結果の分析

①大学院が育成を目指す人材像とその変化

育成を目指す人材像の分析に当たっては、縦軸に「戦略」「実務」というスキルの種類、

横軸に「ドメスティック」「グローバル」という企業の経営環境を取り、それぞれの要素

の組み合わせにより4つの人材像を設定して分析を行った。

本分析における各人材像の定義は以下の通りである。

・知的財産専門人材:

知的財産の保護や活用の実務を担う人材。たとえば、国内での権利化・訴訟の実務

スキルを有している。

・知財マネジメント人材:

経営戦略に知的財産を活用する人材。たとえば、オープン&クローズ戦略等の戦略

スキルを有している。

・グローバル知的財産専門人材:

グローバルな事業展開を知的財産の保護・活用実務から支える人材。たとえば、外

国での権利化・訴訟等の実務スキルを有している。

・グローバル知財マネジメント人材:

グローバルな経営戦略に知的財産を活用する人材。たとえば、ルール形成、IPラ

ンドスケープ、グローバル化に対応した組織デザイン等の戦略スキルを有している。

人材像の分析の切り口

知財マネジメント人材戦略

グローバル知財マネジメント人材

知的財産専門人材グローバル

知的財産専門人材

ドメスティック グローバル

実務

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(a)法律系の大学院

法律系はこれまでは「知的財産専門人材」の育成を行ってきた。近年では、企業のニー

ズを反映して「グローバル知的財産専門人材」や「知財マネジメント人材」の育成を目指

す大学院もみられており、人材像が拡大しているといえる。

法律系の知的財産大学院において育成を目指す人材像の変化(イメージ図)

知財マネジメント人材

事例②

事例①

法律系の近年の人材像

法律系のこれまでの人材像凡例

戦略

グローバル知財マネジメント人材

知的財産専門人材

…経営戦略に知財を活用する人材

(オープン&クローズ戦略等)

…知財の保護・活用実務を担う人材

(国内での権利化・訴訟等)

…グローバルな経営戦略に知財を活かす人材(ルール形成、IPランドスケープ等)

グローバル知的財産専門人材

…グローバルな保護・活用実務を担う

人材(外国での権利化・訴訟等)

ドメスティック グローバル

実務

法律系の知的財産大学院において育成を目指す人材像の事例(ヒアリング結果)

事例①

これまでは企業の知財実務人材と弁理士の育成を目指していたが(本分析における知的

財産専門人材に該当)、数年前に人材像とカリキュラムの見直しを行い、現在は以下の

3つの人材像に設定されている。

①知財法の実務家、知財部門として事業に貢献できる「イノベーション支援人材」(本

分析における知的財産専門人材に該当)

②外国での国際的な業務を担える「グローバル知財人材」(本分析におけるグローバル

知的財産専門人材に該当)

③契約や標準化など知財の戦略的活用について理解できる「知財マネジメント人材」

(本分析における知財マネジメント人材に該当)

(D大学院)

事例②

従来は知財専門人材を育成してきたが、知財を経営に活用できる人材が必要であるとい

う企業の声を受けて、知財マネジメント人材(企業において知財を活用して活躍する人

材)の育成も目指すようになった。(A大学院)

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(b)経営系の大学院

経営系は、大学院の開設当初の「知的財産専門人材」を起点として、MOT等の経営分

野の専門職大学院への統合・整理が行われる中で「知財マネジメント人材」の育成に重点

を移している。さらに近年では、「グローバル知財マネジメント人材」の育成も目指すよ

うな事例もある。

以上のように、知的財産大学院においては育成を目指す人材の拡大、重点化を行ってき

ており、従来の人材育成に加えて、知財マネジメント人材の育成の強化、グローバルな人

材の育成の強化を行っている。

経営系の知的財産大学院において育成を目指す人材像の変化(イメージ図)

知財マネジメント人材

凡例

戦略

グローバル知財マネジメント人材

知的財産専門人材

…経営戦略に知財を活用する人材

(オープン&クローズ戦略等)

…知財の保護・活用実務を担う人材(国内での権利化・訴訟等)

…グローバルな経営戦略に知財を活かす人材(ルール形成、IPランドスケープ等)

グローバル知的財産専門人材

…グローバルな保護・活用実務を担う人材(外国での権利化・訴訟等)

ドメスティック グローバル

実務

事例③

事例④

経営系の近年の人材像

経営系のこれまでの人材像

経営系の知的財産大学院において育成を目指す人材像の事例(ヒアリング結果)

事例③

企業の経営幹部、ベンチャー企業の起業家を育成している(本分析における知財マネジ

メント人材に該当)。以前までは知財の判例や法律概論の講義があったが、企業におけ

る法律の知識は外部の特許事務所や弁護士事務所に任せればよいため、現在は戦略系に

科目を絞って実務の講義は行わない方針に変わった。(H大学院)

事例④

技術とマネジメントを融合させ、グローバルな視点と高い職業倫理観を持って、研究開

発から市場化へのプロセスにおける一連のイノベーションを興すことのできる人材を育

成することを目的としている。これまで以上にビジネスと知的財産の融合領域に集中化

する方針。(F大学院)

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- 22 -

②改訂知財スキル標準と対照した大学院のカリキュラムの傾向

(1.1戦略スキル)

大学院における戦略系の科目をみると、「知的財産戦略」や「知的財産経営」等のよう

に戦略や経営との融合領域に関する科目はほとんどの大学院において存在している。また、

近年の戦略動向については科目の設置まではいかないものの、公開セミナー、社会人向け

の短期セミナー、個別の研究指導を通じて人材を育成している動きがみられる。しかし、

改訂知財スキル標準の戦略スキルで定義されているような、経営戦略に貢献する内容や、

オープン&クローズ戦略といった戦略のフレームワーク・事例、戦略に対応する組織の設

計を体系的に教えている科目はまだ少ない傾向にある。

また、戦略系の科目は企業の実務家や企業出身者が担当したり、客員教員として担当す

る傾向にあり、理論だけでなく、実践的な事例を学ぶことができる内容になっている。た

だし、ヒアリングにおいては、科目の内容が実務家教員の経験、知見のある業界の事例に

限られている、という指摘もあった。

次頁以降で、各戦略スキルについて分析を行う。

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- 23 -

A IP ランドスケープ

IP ランドスケープは我が国においては比較的新しい概念であるため、大学院において

科目は存在しないものの、先端的なトピックを取り扱う公開講座として取り扱う大学院が

みられ(金沢工業大学大学院)、概念の説明や事例の紹介を行っている。また、知財情報

分析のスキルの向上のため、権利化を目的とした先行技術調査等の検索実習を行う大学院

もある。

本スキルは戦略スキルであるものの将来の市場や知財に関する調査分析の実践的なスキ

ルが不可欠であり、具体的な情報分析の方法や経営戦略の提案方法などの実践的な方法論

を学習する科目は現時点では整備されていない。

ヒアリングでは、大学院における戦略事例研究のためにも経営戦略の立案のための情報

分析に関する科目を整備したいが、教えることのできる講師が不足している、という指摘

もあった。

IPランドスケープに係る

改訂知財スキル標準と大学院における科目・講座事例の対応関係

IPランドスケープに係る

改訂知財スキル標準の業務

スキルに対応する大学院の科目・講座の先

進事例

・知財情報と市場情報を統合した自社分

析、競合分析、市場分析

・企業、技術ごとの知財マップ及び市場ポ

ジションの把握

・個別技術・特許の動向把握

・自社及び競合の状況、技術・知財のライ

フサイクルを勘案した特許、意匠、商標、

ノウハウ管理を含めた特許戦略だけに留ま

らない知財ミックスパッケージの提案

・知財デューデリジェンス

・潜在顧客の探索を実施し、自社の将来的

な市場ポジションを提示する

○名称:公開講座「『IP ランドスケープ』

とは何か~欧米の先進企業で広がる知財デ

ータを活用した最新の経営戦略・事業戦略

策定の支援手法について」(金沢工業大学大

学院)

○内容:

1.「IPランドスケープ」とは何か

2.IP ランドスケープによる新規事業開発

の事例紹介

(出所)科目・講座については大学院のホームページ

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B 知財ポートフォリオマネジメント

知財ポートフォリオマネジメントは「知的財産経営」「知的財産戦略」といった戦略科

目の中で教えている大学院もみられており、知財ポートフォリオの基本的な概念説明や情

報分析方法といった基礎的な内容に焦点を当てている。

改訂知財スキル標準に照らすと、近年の企業が置かれているような、急激な経営環境の

変化に対応して全社の知財ポートフォリオの評価・見直しを行う応用的なスキルの育成の

教育は不足しているといえる。

知財ポートフォリオマネジメントに係る

改訂知財スキル標準と大学院における科目・講座事例の対応関係

知財ポートフォリオマネジメントに係る

改訂知財スキル標準の業務

スキルに対応する大学院の科目・講座の先

進事例

・自社保有技術に関する出願・放棄・秘匿

等の戦略策定を通じた知財ポートフォリオ

の構築

・技術動向や競合の特許出願状況、市場に

おけるルール形成等の動向を勘案した、時

機を得た全社的知財ポートフォリオの評

価・見直し

・知財ポートフォリオや知財戦略パッケー

ジにおけるコスト-リターンの分析・評価

・ポートフォリオ分析に基づいた R&D テー

マ及び社外からの調達が必要となる技術の

評価・提案

・過去の知財戦略に関するエビデンスに基

づく成果評価・検証

○名称:科目「知的財産経営戦略特論(基

礎)」(大阪工業大学大学院)

○内容:

・第 9 回知財ポートフォリオマネジメント

とは:知財ポートフォリオマネジメント

の基本を講義を通じて学ぶ

・第 10 回知財ポートフォリオの戦略活用:

知財ポートフォリオの調査分析を通じた

経営戦略の実践手法を講義を通じて学ぶ

・第 11 回知財ポートフォリオの調査分析:

J-PlatPat、Espasnet を活用したグロー

バルな知財ポートフォリオの具体的な分

析手法を講義を通じて学ぶ

(出所)科目・講座については大学院のホームページ

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C オープン&クローズ戦略

オープン&クローズ戦略は、単位取得のための科目としてテーマを設定し、人材育成を

行っている大学院はみられなかった。しかし、短期セミナーにおいて戦略のトピックとし

て情報提供を行っている大学院、オープン&クローズ戦略自体をテーマとして実践まで踏

み込んだコースを提供している大学などがあった。また、標準化や営業秘密など、オープ

ン&クローズ戦略を構成する「オープン」および「クローズ」の各戦術に関する科目は各

大学院で設置されている傾向にある。

改訂知財スキル標準に照らすと、大学院では「オープン&クローズ戦略」や「ビジネス

エコシステム」のフレームワークを体系的・統合的に学ぶ科目や、ビジネスモデルの特徴

に応じた戦略事例を学ぶ科目は整備されていない。

ヒアリングにおいては、オープン&クローズ戦略は大学院として知見が構造化されてい

ないために科目としては設置することができず、教員も不足している、という指摘があっ

た。

オープン&クローズ戦略に係る

改訂知財スキル標準と大学院における科目・講座事例の対応関係

オープン&クローズ戦略に係る

改訂知財スキル標準の業務

スキルに対応する大学院の科目・講座の先

進事例

・外部企業・技術の評価

・知財の観点からのアライアンス候補企

業・M&A候補企業の探索・提案

・エコシステムデザインの構想・構築

・新規・既存技術のオープン・クローズ戦

略の立案(①知財、標準化、営業秘密の切

り分け ②知財、標準化、営業秘密のそれ

ぞれについて戦略立案)・クローズ領域の

選定・確保、模倣品・侵害品の排除方針の

策定

・国内外政府・規制当局等への対応を通じ

た、模倣品・侵害品の排除を含む、最適な

経営環境の構想・構築

○名称:キャリアアッププログラム CUMOT

「知的財産戦略コース」(東京工業大学大

学院)

○内容:

第 3 回オープン&クローズの知財戦略を必

要とする時代の到来 ~IoT時代の知財

マネジメントをどう方向付けるか~

○名称:戦略タスクフォースリーダー養成

プログラム(東京大学政策ビジョン研究

センター)

○内容:

「オープン&クローズ戦略」「ものとサービ

スの融合戦略」「顧客経験価値創造とデザイ

ン戦略」「リバースイノベーション戦略」

「事業戦略を支える知財・標準化マネジメ

ント」など

(出所)科目・講座については大学院のホームページ

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D 組織デザイン

組織デザインに関する科目は、戦略科目の中のコマにおいて取り扱っている大学院がみ

られる。

知財ポートフォリオマネジメントやオープン&クローズ戦略といった戦略に応じた組織

設計、また、グローバル展開に対応する組織設計、経営層への働きかけ等のスキルの育成

は十分ではない。

組織デザインに係る

改訂知財スキル標準と大学院における科目・講座事例の対応関係

組織デザインに係る

改訂知財スキル標準の業務

スキルに対応する大学院の科目・講座の先

進事例

・自社のグローバル戦略に適合した、各地

域の知財部門の権限・統制・自律のあり方

に関する構想・提案(経営層への働きか

け)

・各プロジェクトや実務上のオペレーショ

ンにおいて、知財部門が最適な関わり方が

できるような組織デザインの構想・提案

(経営層及び他部門への働きかけ)

・自社の経営戦略に適合した知財部門のリ

ソース配分に関する構想と推進

○名称:科目「知的財産経営戦略特論(応

用)」(大阪工業大学大学院)

○内容:

第 8 回知的財産活動と組織:知的財産の

創出,保護,活用のサイクルの中で,企業

として遂行すべき知的財産活動の内容と,

それを支える組織のあり方について学ぶ。

(出所)科目・講座については大学院のホームページ

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(2.1管理スキル)

管理スキルについては、企業独自のノウハウがあるため、外部の教育機関での教育に適

さないスキルもあり、情報(2.1.1)、法務(2.1.3)、リスクマネジメント(2.1.4)等を

除き、大学院において科目は整備されていない傾向にある。

情報(2.1.1)については企業の実務の基礎となる知的財産情報の検索・分析に関する

科目を近年充実させている事例があった。

法務(2.1.3)については、とりわけ営業秘密(2.1.3A)が経営に与える影響が大きく

なっていることから、既に科目としては整備されているものの、強化したいとする意向が

複数見られた。従来の大学院における営業秘密の教育では、不正競争防止法に関する法律

面の講義が中心であったが、今後は営業秘密のマネジメント・実務に関するスキルを育成

する科目の整備が必要との指摘がみられた。

(2.2実務スキル)

実務スキルの科目は、知的財産専門人材に求められる知的財産の保護および活用スキル

を中心に整備されてきている。

とくに知的財産専門人材を育成してきた法律系の大学院では、実務スキルの保護および

活用に対応する科目は充実化している傾向があった。

経営系の大学院では、知財マネジメント人材の育成に重点化している大学院の場合は、

実務スキルに関する科目を見直す動きもみられた。

2.2.1~2.2.4創造スキル

大学院の教育においては、知的財産専門人材に求められるスキルが保護や活用が中心で

あることから、創造に関するスキルに対応する科目は、調査(2.2.1)を除いて限定的で

あった。ただし、創造に関する教育(たとえば発想法やデザイン思考等のテーマ)の強化

をしたいとする意向を有する大学院もみられた。

2.2.5~2.2.9保護スキル

保護スキルに関する科目は、法制度・権利化を中心に整備されていた(とくに 2.2.5~

2.2.8 のブランド・技術・コンテンツ・デザインの保護スキル)。

近年の特徴として、複数の大学院において「標準化」や「交渉」を中心とするスキル

(渉外 2.2.9)の科目の強化が図られていた(例:D大学院など)。しかし、これらの渉

外に関する科目については標準化や交渉の一般的な方法論は教えることができているもの

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の、より実務に近い教材、グローバル交渉をテーマとする教材を望む声、教員の不足に関

する指摘がみられた。

2.2.10~2.2.11活用スキル

活用スキルに関する科目は、国内外の訴訟対応に関する科目を中心に充実化している大

学院がみられた(例:A大学院など)。

価値評価については科目として整備されている大学院は少なく、交渉に関する科目の中

で一般的な価値評価手法を教えている傾向がある。近年、企業経営において M&A の重要性

の高まりを受けて、(一般的な価値評価というよりも)経営戦略に貢献するための実践的

な価値評価に関する科目の整備意向があった。

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大学院における改訂知財スキル標準に対応する科目の整備状況

情報(2.1.1) A:情報開示 B:情報収集・分析 C:システム人材(2.1.2) A:教育 B:インセンティブ

A:営業秘密 B:規定 C:法的審査D:法令情報収集・分析A:係争対応 B:他社権利監視 C:他社権利排除D:ブランド保全

予算(2.1.5) A:策定 B:管理 C:資金調達A:調査会社 B:特許事務所 C:法律事務所D:翻訳会社

調査(2.2.1) A:先行資料 B:他社権利 C:パテントマップ知的創造(2.2.2) A:研究・開発 B:デザイン開発 C:コンテンツ開発

A:ブランド創出支援 B:発明支援 C:コンテンツ創造支援D:デザイン創造支援

委託・共同研究(2.2.4)

A:研究開発委託 B:共同研究

ブランド保護(2.2.5)A:商標権利化 B:事務A:国内特許権利化 B:外国特許権利化 C:国内事務D:外国事務 E:品種登録申請

コンテンツ保護(2.2.7)

A:申請 B:事務

デザイン保護(2.2.8)

A:意匠権利化 B:事務

渉外(2.2.9) A:条件交渉 B:ルール形成 C:権利処理A:侵害判定 B:侵害警告 C:国内訴訟D:外国訴訟 E:模倣品排除

価値評価(2.2.11)

A:定量評価 B:定性評価 C:棚卸し

<凡例>科目が整備されていない 白科目が整備されている 青

活用エンフォースメント(2.2.10)

実行(2)

管理(2.1)

法務(2.1.3)

リスクマネジメント(2.1.4)

アウトソーシング(2.1.6)

実務(2.2)

創造(調達)

創造支援(2.2.3)

保護(競争

力のデザイン)

技術保護(2.2.6)

戦略(1)

戦略(1.1.1)

A:IPランドスケープB:知財ポートフォリオマネジメントC:オープン&クローズ戦略D:組織デザイン

※科目が整備されている:改訂知財スキル標準の定義に対応したスキルが大学院において科目または

その一部として整備されているスキルを示す。なお、改訂知財スキル標準

と同じ名称・テーマの科目が外形的に整備されていても、同標準の内容と

一致していない場合は「整備されている」とはしていない。

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大学院が改善もしくは整備の意向をもっている科目

情報(2.1.1) A:情報開示 B:情報収集・分析 C:システム人材(2.1.2) A:教育 B:インセンティブ

A:営業秘密 B:規定 C:法的審査D:法令情報収集・分析A:係争対応 B:他社権利監視 C:他社権利排除D:ブランド保全

予算(2.1.5) A:策定 B:管理 C:資金調達A:調査会社 B:特許事務所 C:法律事務所D:翻訳会社

調査(2.2.1) A:先行資料 B:他社権利 C:パテントマップ知的創造(2.2.2) A:研究・開発 B:デザイン開発 C:コンテンツ開発

A:ブランド創出支援 B:発明支援 C:コンテンツ創造支援D:デザイン創造支援

委託・共同研究(2.2.4)

A:研究開発委託 B:共同研究

ブランド保護(2.2.5)A:商標権利化 B:事務A:国内特許権利化 B:外国特許権利化 C:国内事務D:外国事務 E:品種登録申請

コンテンツ保護(2.2.7)

A:申請 B:事務

デザイン保護(2.2.8)

A:意匠権利化 B:事務

渉外(2.2.9) A:条件交渉 B:ルール形成 C:権利処理A:侵害判定 B:侵害警告 C:国内訴訟D:外国訴訟 E:模倣品排除

価値評価(2.2.11)

A:定量評価 B:定性評価 C:棚卸し

<凡例>科目改善の意向がある 紫科目整備の意向がある オレンジ

リスクマネジメント(2.1.4)

A:IPランドスケープB:知財ポートフォリオマネジメントC:オープン&クローズ戦略D:組織デザイン

創造(調達)

創造支援(2.2.3)

アウトソーシング(2.1.6)

実務(2.2)

保護(競争

力のデザイン)

技術保護(2.2.6)

戦略(1)

戦略(1.1.1)

活用エンフォースメント(2.2.10)

実行(2)

管理(2.1)

法務(2.1.3)

※科目改善の意向がある:科目が整備されているが、さらに内容を強化する意向を持っているスキル

※科目整備の意向がある:科目が整備されていないが、新しく整備する意向を持っているスキル

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(2)企業

(ⅰ)調査対象

ヒアリング調査では、知財人材育成の取り組みを積極的に行っている企業(知的財産大

学院に人材を派遣している企業)、特許庁の「グローバル知財マネジメント人材育成推進

事業」で開発した教材の利用申し込みがあった企業 6社を調査対象とした。

ヒアリング調査対象

対象とした企業(業種) 対象者

A社(化学) 知的財産部長

B社(印刷機械) 取締役

C社(電機) 知的財産部長

D社(自動車部品) 知的財産部長

E社(電機) 常務執行役(知財担当)

F社(電機) 執行役員(事業担当)

(ⅱ)調査結果の分析

企業ヒアリング調査は企業サイドのニーズを捉えるものである。ただし、改訂知財スキ

ル標準に掲載されているスキルは企業においてすでに一定のニーズがあるものであるため、

本ヒアリングでは企業のニーズを分析するに際して、

・企業がとくに重要視しているスキルは何か

・企業が外部育成機関での育成に期待するスキルは何か

という観点を持つこととする。

①各スキルに共通するニーズ

ヒアリング対象企業では、戦略スキル、実行スキルともに、正解がないテーマのスキル

に対してニーズが高い傾向があった。

正解がないテーマとは、新しい戦略テーマ(オープン&クローズ戦略、IP ランドスケ

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ープ等)、これらの戦略のために必要になる実行(ルール形成、営業秘密管理等)など、

企業がこれまで経験したことがない先端的なテーマである。これらのテーマは先端性が高

いために外部の育成機会も限られている傾向がある。

企業の経営戦略にどれだけ貢献できるかが重要になっている。単なる権利化や訴訟といった手

続きのスキルよりも、戦略を考えたり、実務であっても戦略における位置づけを考えたり、戦

略にどうつなげるかが大切である。現在、知的財産大学院の短期コースに知財本部のメンバー

を派遣しているのは、正解や答えのないテーマを取り扱っているからである。また、他社の最

前線の悩みを聞いて自社の問題認識の水準を知りたい。(D社)

知財戦略は、経営戦略と同様、ケース・バイ・ケースのため、知財戦略スキルを育成するため

には知財のケース教材を使って教える必要がある。知的財産大学院には(できればすべて英語

による)ケース教材を使った授業を期待している。もともと答えのない領域であるため、唯一

の答えがなくて議論ができれば様々な気づきにつながる。(C社)

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②戦略スキルに対するニーズ

(a)とくに重視しているスキル

戦略スキルは総じてニーズが高い傾向があり、とくに「IP ランドスケープ」「オープン

&クローズ戦略」については各社とも重視しているスキルとなっている。

IP ランドスケープは、経営戦略の立案のための知財・非知財情報の分析スキルである

が、分析だけに留まらず、経営陣に説明できる能力が必要、という指摘があった。

オープン&クローズ戦略については、製造業のサービス化等の多様なビジネスモデルに

対応した戦略の立案に関する能力が求められていた。

(b)現在の人材育成の取り組みと外部育成機関での育成に期待するスキル

戦略スキルの人材育成の取り組みとして、国内の大学院の短期コースへの社員派遣や海

外のビジネススクール・MOTへの派遣など、総じて大学院をはじめとする外部の人材育

成機関を活用した育成が積極的に行われている。ただし、実際には一部の大学の短期コー

スの利用や、海外への大学院への派遣等であり、国内における本格的な学習機会が限られ

ている可能性がある。

<ヒアリングで挙がった主な人材育成方法>

・東京工業大学大学院 CUMOTへの知的財産部門の部長クラスの派遣

・東京大学戦略タスクフォースリーダー養成プログラムへの社員派遣

・海外のビジネススクール・MOTへの知的財産部門の幹部候補の派遣

・日本知的財産協会の戦略系研修への派遣(「知財変革リーダー育成研修」等)

以前は知的財産専門職大学院の修士学位取得コースに社員を派遣した実績があったが、現在は

派遣していない。現在は大学院の短期コースへ知的財産部門のメンバーを毎年派遣している。

同プログラムが実務ではなく戦略に特化するなど、「新しさ」を感じる内容であるため。(D

社)

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③実行スキルに対するニーズ

(a)とくに重視しているスキル

実行スキルについては、権利化や訴訟などの実務そのもののスキルの高度化というより

も、外部の代理人に担うことのできない、経営戦略へ貢献する実行スキル、事業のグロー

バル化に対応する実行スキルの必要性が高まっていた。

とりわけ渉外スキル(2.2.9)については高いニーズがあったが、単なる契約書のチェ

ックではなく、経営戦略に基づいて契約交渉を行ったり、海外企業と英語で契約交渉がで

きる能力が重視されていた。

また、企業においては IoT や人工知能といった新しい技術を活用した経営戦略が推進さ

れる中で、従来の特許権だけでは守ることのできないノウハウやデータの蓄積と利用が進

んでおり、営業秘密スキル(2.1.3A)についてこれらの新たな経営資源を守るためのスキ

ルとして指摘される傾向があった。

(b)現在の人材育成の取り組みと外部育成機関での育成に期待するスキル

実行スキルは、ヒアリング対象企業では大学院や各種団体などの外部育成機関による人

材育成と、社内の人材育成の両者により育成を行っている。

知的財産大学院を活用している事例では、「標準化」「営業秘密」といったテーマを受講

させており、「企業が経験していないスキルを学ぶ場」として知的財産大学院に期待があ

る、との指摘があった(下の事例参照)。

グローバルな実務スキルは、社内の人材育成よりも、海外のロースクールや弁護士事務

所へ社員を派遣して育成する事例がみられた。

<ヒアリングで挙がった主な人材育成方法> ・金沢工業大学大学院への科目履修生としての派遣(とくに「標準化」「営業秘密」科

目) ・海外のロースクール・弁護士事務所への知的財産部門の幹部候補者の派遣 ・日本知的財産協会・発明推進協会の実務研修(権利化等)への派遣 ・日本ライセンス協会のライセンス関連の研修への派遣 ・社内のOJT、勉強会による育成

知的財産大学院の実務系の科目に科目履修生として社員を定期的に派遣している。知的財産大

学院への派遣の際に重視しているテーマとしては「標準化」「営業秘密」など。これらのテーマ

は経営戦略上重要になっているテーマであるが、「自社が過去に経験していないテーマ」のた

め、社内での育成ができず、大学院での育成に期待をしている。(B社)

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(ⅲ)企業における人材育成の取り組みと外部の人材育成機関に対するニーズの小括

育成対象の人材別にヒアリング対象企業の人材育成方法を整理すると(下図)、「知的財

産専門人材」の育成方法については社内での育成による実務研修でカバーされつつあり、

一方で「知財マネジメント人材」「グローバル知財マネジメント人材」「グローバル知的財

産専門人材」などの人材育成方法に関して社内で育成することはできず、大学院をはじめ

とする外部の人材育成機関による育成を活用しようとしている。知財マネジメント、標準

化・交渉等の正解のないテーマ、企業が経験していないテーマに関しては大学院を含む外

部の人材育成機関に対して人材育成の期待が高いと考えられる。

育成対象人材別にみた

ヒアリング対象企業の人材育成方法の整理(イメージ図)

知財マネジメント人材戦略

グローバル知財マネジメント人材

知的財産専門人材

…経営戦略に知財を活用する人材

(オープン&クローズ戦略等)

…知財の保護・活用実務を担う人材(国内での権利化・訴訟等)

…グローバルな経営戦略に知財を活かす人材(ルール形成、IPランドスケープ等)

グローバル知的財産専門人材

…グローバルな保護・活用実務を担う人材(外国での権利化・訴訟等)

ドメスティック グローバル

実務

知財協 変革リーダー研修 国内大学院の短期コース海外MBA、MOT

知財協・発明協 実務系研修日本ライセンス協会研修社内のOJT、勉強会

海外ロースクール海外弁護士事務所出向

企業がとくに外部の人材育成機関に期待

育成方法例 育成方法例

育成方法例 育成方法例

(出所)企業ヒアリング調査結果より

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改訂知財スキル標準と企業が外部の人材育成機関に期待する人材育成ニーズ

情報(2.1.1) A:情報開示 B:情報収集・分析 C:システム人材(2.1.2) A:教育 B:インセンティブ

A:営業秘密 B:規定 C:法的審査D:法令情報収集・分析A:係争対応 B:他社権利監視 C:他社権利排除D:ブランド保全

予算(2.1.5) A:策定 B:管理 C:資金調達A:調査会社 B:特許事務所 C:法律事務所D:翻訳会社

調査(2.2.1) A:先行資料 B:他社権利 C:パテントマップ知的創造(2.2.2) A:研究・開発 B:デザイン開発 C:コンテンツ開発

A:ブランド創出支援 B:発明支援 C:コンテンツ創造支援D:デザイン創造支援

委託・共同研究(2.2.4)

A:研究開発委託 B:共同研究

ブランド保護(2.2.5)A:商標権利化 B:事務A:国内特許権利化 B:外国特許権利化 C:国内事務D:外国事務 E:品種登録申請

コンテンツ保護(2.2.7)

A:申請 B:事務

デザイン保護(2.2.8)

A:意匠権利化 B:事務

渉外(2.2.9) A:条件交渉 B:ルール形成 C:権利処理A:侵害判定 B:侵害警告 C:国内訴訟D:外国訴訟 E:模倣品排除

価値評価(2.2.11)

A:定量評価 B:定性評価 C:棚卸し

凡例 ニーズが一定 白ニーズが高まっている 緑

外部で育成するニーズがない 灰色

保護(競争

力のデザイン)

技術保護(2.2.6)

戦略(1)

戦略(1.1.1)

A:IPランドスケープB:知財ポートフォリオマネジメントC:オープン&クローズ戦略D:組織デザイン

活用エンフォースメント(2.2.10)

実行(2)

管理(2.1)

法務(2.1.3)

リスクマネジメント(2.1.4)

アウトソーシング(2.1.6)

実務(2.2)

創造(調達)

創造支援(2.2.3)

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3.実地調査

本調査研究では、公開情報調査および国内ヒアリング調査に基づく大学院におけるカリ

キュラムの方向性を踏まえ、とくに大学院にとっての重要性が高いテーマを中心に、昨年

度までに実施した「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」で作成したケース教

材を活用した研修(デモ講義)を実施した。

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(1)デモ講義のテーマの選定

大学院の科目の整備状況、企業による大学院への育成ニーズを踏まえ、デモ講義が求め

られるテーマを以下の表に示した。

カリキュラムの高度化が必要なスキル(下表赤色の欄)のうち、「戦略スキル」および

「渉外スキル」の「条件交渉」「ルール形成」に関しては、大学院における科目の整備が

必要と考えられるが講師・教材が不足しているテーマでもある。そのため、本事業におけ

るデモ講義による講義実証の必要性が高くなっている。

デモ講義が求められるテーマ

整備意向あり ニーズが高まっている 科目の新設 重要性高い

整備意向あり ニーズが高まっている 科目の新設 重要性高い

整備意向あり ニーズが高まっている 科目の新設 重要性高い

整備意向あり ニーズが高まっている 科目の新設 重要性高い

A:情報開示 ニーズなし

B:情報収集・分析 整備あり ニーズなし

C:システム ニーズなし

A:教育 ニーズなし

B:インセンティブ ニーズなし

A:営業秘密 整備あり 改善意向あり ニーズが高まっている 科目の強化

B:規定

C:法的審査 整備あり

D:法令情報収集・分析 整備あり

A:係争対応 整備あり

B:他社権利監視

C:他社権利排除

D:ブランド保全

A:策定 ニーズなし

B:管理 ニーズなし

C:資金調達 ニーズなし

A:調査会社 ニーズなし

B:特許事務所 ニーズなし

C:法律事務所 ニーズなし

D:翻訳会社 ニーズなし

A:先行資料 整備あり

B:他社権利 整備あり

C:パテントマップ 整備あり

A:研究・開発 整備意向あり ※大学院によっては新設

B:デザイン開発 整備意向あり ※大学院によっては新設

C:コンテンツ開発 整備意向あり ※大学院によっては新設

A:ブランド創出支援

B:発明支援

C:コンテンツ創造支援

D:デザイン創造支援

A:研究開発委託

B:共同研究

A:商標権利化 整備あり

B:事務 ニーズなし

A:国内特許権利化 整備あり

B:外国特許権利化 整備あり

C:国内事務 ニーズなし

D:外国事務 ニーズなし

E:品種登録申請

A:申請 整備あり

B:事務 ニーズなし

A:意匠権利化 整備あり

B:事務 ニーズなし

A:条件交渉 整備意向あり ニーズが高まっている 科目の新設 重要性高い

B:ルール形成 整備意向あり ニーズが高まっている 科目の新設 重要性高い

C:権利処理

A:侵害判定 整備あり

B:侵害警告 整備あり

C:国内訴訟 整備あり

D:外国訴訟 整備あり

E:模倣品排除 整備あり

A:定量評価 整備意向あり ※大学院によっては新設

B:定性評価 整備意向あり ※大学院によっては新設

C:棚卸し 整備意向あり ※大学院によっては新設

大学院にとっての

重要性(≒デモ講

義の必要性)

企業による外部人材育

成機関への育成ニー

大学院における

科目の整備意向

予算(2.1.5)

知的創造(2.2.2)

渉外(2.2.9)

カリキュラムの方

向性

B:知財ポートフォリオマネジメント

C:オープン&クローズ戦略

D:組織デザイン

調査(2.2.1)

情報(2.1.1)

戦略 戦略

実務

創造

保護

活用

大学院における

科目の整備状況

人材(2.1.2)

委託・共同研究

(2.2.4)

ブランド保護

(2.2.5)

コンテンツ保護

(2.2.7)

デザイン保護

(2.2.8)

A:IPランドスケープ

実行

知財人材スキル標準の枠組み

法務(2.1.3)

エンフォースメント(2.2.10)

技術保護(2.2.6)

創造支援(2.2.3)

アウトソーシング

(2.1.6)

管理リスクマネジメント(2.1.4)

価値評価(2.2.11)

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大学院におけるカリキュラム高度化の方向性を踏まえ、本事業におけるデモ講義を実施

したコマ・ケース教材は以下の通りである。

ケース教材の内容は改訂知財スキル標準のスキル項目と必ずしも一致するものではない

が、スキル項目に関連する教材を中心に選定を行った。

デモ講義のコマ・ケース教材

組織デザイン

ルール形成

条件交渉

ビジネスエコシステムとオープン&クローズ戦略(1)

マルチパーティネゴシエーション(M&A模擬交渉)(1)

オープン&クローズ戦略と知財・標準化マネジメント(1)

グリーンテクノ21

インド企業/日本企業/PEファンド(仮想事例)

アドビシステムズ

オープン・イノベーション・マネジメント(1) 味の素

ビジネスモデルデザイン(1) 三浦工業

マルチパーティネゴシエーション(フォーラム標準模擬交渉)(2)

マルチパーティネゴシエーション(M&A模擬交渉) (2)

デザイン・ドリブン・イノベーションソニー

オープン&クローズ戦略と知財・標準化マネジメント(2) デジタルカメラ

糸久正人氏

二又俊文氏

加藤浩一郎氏

清水洋氏

妹尾堅一郎氏

デモ講義のコマ ケース教材 講師カリキュラム強化が必要なスキル標準の項目

杉光一成氏

IPランドスケープ

知財ポートフォリオマネジメント

オープン&クローズ戦略

ビジネスモデルデザイン(2) 栗田工業

マルチパーティネゴシエーション(フォーラム標準模擬交渉)(1) 次世代ビデオディスクフォーラム(仮想事例)

ビジネスエコシステムとオープン&クローズ戦略(2)

デザイン・ドリブン・イノベーション

ビジネスモデルデザイン(3) 月島機械

オープン・イノベーション・マネジメント(2) GE

※改訂知財スキル標準の「組織デザイン」に直接的に対応する教材は作成されていないが、戦略に関する各デモ講義の

コマの中で戦略を推進するための組織のあり方に関して学習できるようにしている。

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(2)デモ講義の開催概要

デモ講義の実施テーマ、開催日時、担当講師等のデモ講義の開催概要について、以下の

「開催概要」「開催内容」に示した。

開催概要

研修番号

テーマ 会場 主担当講師 コマ数

1ビジネスエコシステムとオープン&クローズ戦略

金沢工業大学虎ノ門大学院糸久 正人法政大学社会学部公共政策研究科准教授

2

2ソフトウェア・ICT産業におけるオープン&クローズ戦略と知財・標準化マネジメント

金沢工業大学虎ノ門大学院加藤 浩一郎金沢工業大学大学院 イノベーションマネジメント研究科教授

2

3デザイン・ドリブン・イノベーション

クロスウェーブ梅田杉光 一成金沢工業大学大学院 イノベーションマネジメント研究科教授

2

4ビジネスモデルデザイン ~入門編~

金沢工業大学虎ノ門大学院妹尾 堅一郎産学連携推進機構 理事長一橋大学大学院商学研究科(MBA)客員教授

3

5オープン・イノベーション・マネジメント

金沢工業大学虎ノ門大学院清水 洋一橋大学イノベーション研究センター教授

2

第1回2018年1月17日(水)18時30分~21時30分

2

第2回2018年1月24日(水)18時30分~21時30分

2

金沢工業大学虎ノ門大学院オープン・イノベーションとマルチパーティネゴシエーション

6二又 俊文東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員

開催日時

2018年1月26日(金)18時30分~21時30分

2017年12月22日(金)14時~17時

2018年1月21日(日)13時30分~16時30分

2018年2月3日(土)11時~18時

2018年1月31日(水)18時30分~21時30分

開催内容

研修番号

テーマ 使用ケース教材 概要

1ビジネスエコシステムとオープン&クローズ戦略

No.5-1「株式会社グリーンテクノ21     ~オープン戦略で商流を構築する~」

「ビジネスエコシステムのマネジメント」、「オープン&クローズ戦略」等の新しいタイプの経営戦略のコンセプトについて学ぶ。サプライヤー、完成品メーカー、顧客等と協調しながらビジネスエコシステムを形成・主導する戦略を学ぶ。

2ソフトウェア ・ ICT 産業 におけるオープン&クローズ戦略と知財・標準化マネジメント

No.2-1「知的財産と標準化を活用したソフトウェアビジネス     ~アドビシステムズのアクロバットとPDF~」No.2-3「競争領域を残した標準化戦略     ~デジタルカメラのオープン&クローズ戦略~」

ソフトウェア・ICT産業における事業戦略の特徴を踏まえた上で、ソフトウェア産業の事例、ハードウェアと融合した産業の事例の各類型におけるビジネスモデルと知財・標準化マネジメントを考察する。

3デザイン・ドリブン・イノベーション

No.8-1「デザインとイノベーション」No.8-3「ソニーのデザイン志向     ~VAIOとFirst Flightの事例~」No.8-4「iRobotのルンバ」

市場創出のための「デザインドリブンイノベーション」という新しいデザイン戦略を学ぶ。とくにデザインとイノベーションの関係性、デザイン志向の実現のための組織や開発プロセスの課題について理解を深める。

4ビジネスモデルデザイン ~入門編~

No.11-9「本体・メンテナンスモデルの基本」No.11-10「三浦工業の小型ホイラー事業」No.11-11「栗田工業の超純水供給事業」No.11-12「月島機械の下水道処理設備事業」

産業生態系の変容とイノベーションの動向を概観した上で、製造業のサービス化をはじめとするビジネスモデル群とそれを支える知財マネジメントについて、その基礎を学ぶ。特に今回は、「本体メンテナンスモデル」の進化と多様化について3事例を通じて気づき・学び・考える。

5オープン・イノベーション・マネジメント

No.10-2「オープン・イノベーションの概説      ~なぜ、大切なのか~」No.10-13「新市場開拓のためのコラホレーション      ~味の素のアミノインデックス~」No.10-1「オープン・イノベーションのための組織と戦略     ~GEの事例~」

オープン・イノベーションの基本について戦略と組織という2つの観点から学ぶ。オープン・イノベーションを活用して競争をマネジメントしていく重要性、「オープン」の意味について学ぶ。

6オープン・イノベーションとマルチパーティネゴシエーション

No.12-1「次世代ビデオディスク     ~標準化における仲間作りの戦略~」No.12-2「ビデオソフトの標準化     ~標準化における仲間作りの戦略~」No.12-8「経営戦略実現のための交渉マネージメント     ~国際的M&A交渉ケース~」

オープン・イノベーションを実現するために近年重要性が増している多数当事者交渉をテーマとして、多数・異業種プレイヤーが登場するM&A交渉、フォーラム標準化交渉などの難易度の高い交渉を模擬交渉によって実践的に学ぶ。

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企業経営幹部、経営企画部門、事業部門の管理職、およびこれらの候補者、リーダーク

ラスを主たる受講者として募集を行った。

また各デモ講義において、大学院教員と企業の人材育成担当を中心に、ケース教材を人

材育成に活用する意欲の有る希望者が、研修の模様を見学するため「オブザーバー」とし

て同席している。

(3)開催結果

デモ講義に参加した受講者及びオブザーバーに対し、デモ講義とケース教材に関するア

ンケートを行った。回答結果についてそれぞれ報告する。

(ⅰ)受講者

受講者に対しては、以下表の質問内容に対し 5段階評価で回答を得た。研修の参加者数

については、下表の通りである。

受講者アンケート

(図は研修 No1「ビジネスエコシステムとオープン&クローズ戦略」の内容)

とてもそう思う

そう思うどちらともいえない

そう思わない

全くそう思わない

(1) 研修を受けて満足しましたか。 5 4 3 2 1

(2) 研修の内容は期待通りのものでしたか。 5 4 3 2 1

(3) 講師の教え方は良かったですか。 5 4 3 2 1

(4)-1 研修全体の内容について理解できましたか。 5 4 3 2 1

(4)-2事前学習用教材(Eラーニング)について理解できましたか。

5 4 3 2 1

(4)-3

教材5-1「株式会社グリーンテクノ21~オープン戦略で商流を構築する~」について、理解できましたか。

5 4 3 2 1

(5)集合研修の内容は、今後のあなたの業務に役立つと思いますか。

5 4 3 2 1

(6) 本研修を知人・同僚に薦めたいと思いますか。 5 4 3 2 1

(7)

本研修の目的は「「ビジネスエコシステムのマネジメント」、「オープン&クローズ戦略」等の新しいタイプの経営戦略のコンセプトについて学びます。サプライヤー、完成品メーカー、顧客等と協調しながらビジネスエコシステムを形成・主導する戦略」を学ぶことでした。研修においてこの目的は達成できたと思いますか。

5 4 3 2 1

選択肢

質問内容

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各研修の受講者数(異なる研修に同一の参加者が存在する場合あり)

研修 受講者数 オブザーバ数

研修No.1「ビジネスエコシステムとオープン&クローズ戦略」

18名 8名

研修No.2「ソフトウェア・ICT産業における

 オープン&クローズ戦略と知財・標準化マネジメント」

16名 5名

研修No.3

「デザイン・ドリブン・イノベーション」12名 5名

研修No.4

「ビジネスモデルデザイン~入門編~」18名 11名

研修No.5「オープン・イノベーション・マネジメント」

17名 8名

研修No.6(第1回)「オープンイノベーション

 とマルチパーティネゴシエーション」

17名 4名

研修No.6(第2回)

「オープンイノベーション とマルチパーティネゴシエーション」

17名 2名

合計 115名 43名

なお(4)を除く質問事項の回答結果については、全研修分を集計した結果を記載し、(4)

については、研修やケース教材別に集計した結果を記載している。

①研修の満足度

質問「(1)研修を受けて満足しましたか」への回答結果は、以下グラフのようになった。

「とてもそう思う」「そう思う」を合計し、9割以上の受講者は研修に満足していた。

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- 43 -

質問「(1)研修を受けて満足しましたか」の回答結果(n=115、以下同様)

②研修への期待

質問「(2)研修の内容は期待通りのものでしたか。」への回答結果は、以下グラフのよう

になった。「とてもそう思う」「そう思う」を合計し、9 割以上の受講者の期待に応えられ

ていた。

質問「(2)研修の内容は期待通りのものでしたか。」の回答結果

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③講師の教え方

質問「(3)講師の教え方は良かったですか。」への回答結果は、以下グラフのようになっ

た。「とてもそう思う」「そう思う」を合計し、9 割以上の受講者が講師の教え方に満足し

ていた。

質問「(3)講師の教え方は良かったですか。」の回答結果

④理解度について

(a)研修の内容

質問「(4)-1研修全体の内容について理解できましたか。」への研修ごとの回答結果は

以下グラフのようになった。全ての研修が共通して、「とてもそう思う」「そう思う」を合

計し、9割以上の受講者が研修の内容を理解できていた。一方で受講者の過半数が「そう

思う」と回答した研修や「どちらともいえない」と回答した受講者がいる研修など、研修

によりばらつきが見られた。

質問「(4)-1研修全体の内容について理解できましたか。」の回答結果

53.9

72.2

62.5

25.0

27.8

70.6

58.8

52.9

43.5

22.2

72.2

29.4

41.2

47.1

2.6

5.6

6.3

8.3

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

全体

研修No.1

研修No.2

研修No.3

研修No.4

研修No.5

研修No.6(第1回)

研修No.6(第2回)

とてもそう思う そう思う どちらともいえない そう思わない 全くそう思わない

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- 45 -

(b)事前学習教材(eラーニング教材)

質問「(4)-2事前学習用教材(eラーニング)について理解できましたか。」への研修ご

との回答結果は以下グラフのようになった。全ての研修が共通して、「とてもそう思う」

「そう思う」を合計し、9割以上の受講者が e ラーニング教材の内容を理解できていた。

質問「(4)-2事前学習用教材(eラーニング)について理解できましたか。」の

回答結果

53.0

50.0

68.8

41.7

50.0

76.5

41.2

41.2

33.9

27.8

31.3

50.0

50.0

17.6

35.3

29.4

7.0

8.3

5.9

11.8

23.5

0.9

5.9

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

全体

研修No.1

研修No.2

研修No.3

研修No.4

研修No.5

研修No.6(第1回)

研修No.6(第2回)

とてもそう思う そう思う どちらともいえない そう思わない 全くそう思わない

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(c)ケース教材

研修内で使用された各ケース教材についての、理解度に関する質問の回答結果は、以下

グラフのようになった。

ケース教材の内容を理解できたか、についての回答結果

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⑤業務への有用性について

質問「(5)集合研修の内容は、今後のあなたの業務に役立つと思いますか。」への回答結

果は、以下グラフのようになった。「とてもそう思う」「そう思う」を合計し、8割以上の

受講者が自身の業務に照らし有用であると認識していた。

質問「(5)集合研修の内容は、今後のあなたの業務に役立つと思いますか。」

の回答結果

⑥研修の推奨度合

質問「(6)本研修を知人・同僚に薦めたいと思いますか。」への回答結果は、以下グラフ

のようになった。「とてもそう思う」「そう思う」を合計し、9割以上の受講者が研修の内

容を広めたいと考えていた。

質問「(6)本研修を知人・同僚に薦めたいと思いますか。」への回答結果

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⑦受講目的の達成度

研修の目的と実際の内容との合致度については、以下グラフのようになった。「とても

そう思う」「そう思う」を合計し、8 割以上の受講者が研修受講の目的を果たせたと考え

ていた。

受講目的の達成度についての回答結果

⑧受講者による評価の小括

上記回答結果を総合し、ケース教材及びケース教材を用いたデモ講義は、企業の持つ人

材育成ニーズに合致している内容であったと言える。

他方、教材や研修の理解度について、研修のテーマによりばらつきが見られた。難易度

が高く一度の研修の中で理解することが難しいというほかに、研修のテーマ自体がそれま

で受講者にとって馴染みの薄い、新規性の高いものであったことが要因であると考えられ

る。

(ⅱ)オブザーバー

オブザーバーに対しては、研修を見学した上での意見、特にオブザーバー自身が大学院

や企業等で人材を育成することを考慮しての意見を、自由記述形式により回答してもらっ

た。

①オブザーブ参加による効果

以下に代表されるように、オブザーバーの多くがケース教材を用いた人材育成の手法に

ついて学びや気付きを得ることが出来たと回答している。

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またデモ講義の傍聴を経て、特許庁のケース教材を活用した教育を実践したい、との意

見も見られた。

②教材活用の課題

ケース教材を活用した教育を実践するに当たり、デモ講義の講師のように先端的な事例

を深く理解する人材、ファシリテーション能力を持つ人材の確保が課題であるとする意見

が複数指摘された。

知財の情報が最も集積するのは特許庁だと思うので、特許庁によりこのような教材が作成され

るのはありがたい。12 テーマの教材を全て取り寄せ、各テーマの先生に活用してもらいたいと

考えている。(大学院教員)

講師の方の解説と質問への回答、アドバイスが適切なものであったが、この教材を利用して研

修生にアドバイスし、解説できるだけの力量と知識を持った人材がいないのではないか。(大学

院教員)

講師がケース教材担当した有識者でない人であるときに、どうレクチャーしたりファシリテー

トできるかが課題。(公的支援機関)

どのタイミングでどのようにまとめ、そして、どのような質問を投げかけるなど、参考にさせ

て頂きたいと思います。(企業の人材育成担当)

実際の社会人MBAのケースメソッド方式の授業の進め方に近く、そうした利用方法を前提と

した教材であることが良く分かりました。他方、講義形式の授業を前提にしても利用するため

には、工夫が必要だと思いました。(大学院教員)

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4.調査結果の分析・取りまとめ

(1)大学院において育成を目指す人材像

~企業が大学院に期待するマネジメント人材・グローバル人材育成への拡大~

企業の経営環境が大きく変化する中で、先端的な知見を蓄積し、体系性のあるカリキュ

ラムを提供する知的財産大学院の役割はますます重要になる。知的財産大学院が役割を果

たしていくためには、産業界のニーズを踏まえて育成を目指す人材像の明確化が求められ

る。

育成を目指す人材像は大学院の特徴によって様々であり一律に示すのは容易ではないが、

企業ヒアリング調査結果でみたように、「グローバル知財マネジメント人材」「知財マネジ

メント人材」「グローバル知的財産専門人材」などの人材の育成は正解のないテーマでの

意思決定・や分析が求められるため企業からのニーズが高く、これらは大学院において今

後育成を強化していく人材像と考えられる。

知的財産大学院としては企業ニーズに応えていくためには、従来の知的財産専門人材の

育成だけでなく、マネジメント人材、グローバル人材の育成へと人材像を拡大していくこ

とが重要である。ただし、従来の知的財産専門人材の育成の役割がなくなるわけではなく、

たとえば、中小・ベンチャー企業等では依然として専門人材の育成が困難であることから、

知的財産大学院において育成する役割が残っている。

知的財産大学院において育成を目指す人材像25

知財マネジメント人材戦略

グローバル知財マネジメント人材

…経営戦略に知財を活用する人材(オープン&クローズ戦略等)

…グローバルな経営戦略に知財を活かす人材(ルール形成、IPランドスケープ等)

グローバル知的財産専門人材

…グローバルな保護・活用実務を担う人材(外国での権利化・訴訟等)

ドメスティック グローバル

実務

今後、知的財産大学院が育成を拡大する人材像

知的財産専門人材

…知財の保護・活用実務を担う人材(国内での権利化・訴訟等)

企業が社内で育成可能な人材、外部の人材育成機関が育成してきた人材

25 本図の横軸として「ドメスティック」「グローバル」という地域の軸を便宜的に用いているが、事業活動の地域だけ

でなく、右側の領域は高度化・専門化した人材の特性を意味している。

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(2)大学院における受講者の対象

~受講者の対象として、経営戦略を担う人材、グローバルな知財活用を担う人材等へも多

様化させる~

これまで知的財産大学院は、知的財産専門人材を育成するため、大学院の受講者の対象

として「企業の知的財産部門の権利化担当者」、「弁理士資格取得を目指す人材」、「大学学

部生」等を中心に受け入れてきた傾向がある。

しかし(1)で述べたように、今後、大学院における育成を目指す人材像が知的財産専

門人材からマネジメント人材、グローバル人材へと拡大していくと、より多様な受講者が

想定されるようになる。

たとえば、「知財マネジメント人材」を育成するためには、上記のような人材だけでな

く経営戦略を立案する経営企画部門や事業部門の企画担当者、中小・ベンチャー企業の経

営者等を受け入れていくことが重要となる。一方、「グローバル知的財産専門人材」とし

ては、海外企業と渡り合って交渉を進めている企業におけるグローバルな事業の企画担当、

弁護士・弁理士の有資格者26、グローバルなマインドを持つ留学生等を受け入れることが

考えられる。

受講者が多様化していくと、受講者の前提知識やニーズにきめ細かく対応した科目のテ

ーマ設定や難易度の設定が求められる一方で、受講者の多様性は他の知的財産関連の企業

団体や専門家団体等の人材育成機関にはない知的財産大学院独自の強みとして活かしてい

く必要がある。

知的財産大学院における受講者の対象の多様化

知的財産大学院

企業の知財部門の

権利化担当

弁理士資格

取得を目指す人材

学部生

知的財産専門人材

育成を目指す人材像

受講者の対象

これまで これから

左記に加えて

知財

マネジメント

人材

グローバル

知的財産

専門人材

グローバル

知財マネジメント

人材

企業の経営企画部門、

事業部門の企画担当

中小・ベンチャー

企業の経営者

弁護士、弁理士の

有資格者

企業のグローバルな

事業の知財担当

企業の

グローバルな事業の

企画担当

対象の多様化

左記に加えて

留学生

26 これまで知的財産大学院では弁理士試験の免除制度により、弁理士の資格取得を目指す人材を受講者としてきたが、

これからはこうした資格取得志望者に加えて、弁護士・弁理士などの資格を既に有している専門家に対してさらに高度

専門的な人材育成を行うリカレント教育が期待される。

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(3)大学院におけるカリキュラムの方向性

~人材像や受講者の対象を踏まえ、先端性の高いテーマを学ぶ科目を設ける~

(ⅰ)科目

本調査でみてきたように、企業が知的財産大学院等の外部の人材育成機関に期待してい

るのは、正解のないテーマや、先端性の高いテーマである。具体的には、「オープン&ク

ローズ戦略」、「IPランドスケープ」、「グローバル展開に対応した組織設計」など、経験

していない企業が多い先端テーマを設定した科目を新しく設置することが考えられる。

ただし、科目整備の方向性は育成を目指す人材像と受講者の対象の方向性によって大き

く異なる。

たとえば、知財マネジメント人材の育成を重点化する知的財産大学院(経営分野の大学

院等)の場合は、近年の経営戦略として重要性を増している「ビジネスエコシステム」、

「プラットフォームビジネス」、「オープンイノベーション」等の理論を起点としてそれら

と知的財産との関係性を体系的に学ぶマネジメント科目が求められる。また、受講者の対

象としては、企業の経営企画部門や事業部門など必ずしも知的財産を学んだ経験のない人

材が想定されるため、知財マネジメントに必要な知的財産の基礎知識を学ぶ初心者向け科

目や、経営と法律・実務の融合した科目の整備も必要と考えられる。

一方、グローバル知的財産専門人材の育成を重点化する知的財産大学院(法律系の大学

院等)の場合は、弁護士・弁理士等の有資格者や企業のグローバルな事業の知財担当とい

ったすでに専門性を有する人材を対象とするリカレント教育の意味合いが大きくなる。た

とえば「知的財産を活用した海外企業との契約交渉」、「海外での知的財産係争の演習」

「ルール形成・標準化」等、近年、企業で求められているグローバルな実務と法律の理論

とを架橋する科目が求められよう。

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大学院におけるカリキュラムの方向性

知財マネジメント人材

経営戦略の理論と知的財産と

の関係性を体系的に学ぶ科目

カリキュラムの方向性

「知財マネジメント人材」の育成を強化する場合

グローバル

知的財産専門人材

グローバルな企業実務と法律

とを架橋する科目

カリキュラムの方向性

「グローバル知的財産専門人材」の育成を強化する場合

受講者:

企業の経営企画部門、

事業部門の企画担当など

受講者:

弁護士、弁理士の

有資格者など

ビジネスエコシステム

プラットフォームビジネス

オープンイノベーション

海外企業との契約交渉

海外での知財係争演習

ルール形成・標準化

など など

人材像 人材像

(ⅱ)授業の形式

今後の知的財産大学院の科目において、正解のない先端性の高いテーマを新しく設置し

ていく場合には、大学院の教員が受講者に対して体系化された知識を順序だてて一方的に

教える授業形式ではなく、受講者が自ら気づき、ビジネスへの応用を自ら学んでいくこと

を教員が支援する授業形式を採ることが望ましい。たとえば、知的財産マネジメントに関

するケース教材を活用したケースメソッド教育や、経営戦略と知的財産マネジメントの先

端的な事例研究を通じた教育などの実践的な人材育成方法が必要となる。

また、本調査でみてきたように、修士学位取得のための1~2年間の長期間のコースだ

けでなく、数ヶ月程度の短期間で学ぶことができる知財マネジメントのコースが企業のニ

ーズに応えている。学位取得のための科目設置には手続きや調整のために一定の時間を要

することから、このように企業の事業環境の変化に素早く対応して、時機に応じた先端テ

ーマを取り入れた短期コースや公開セミナーを提供し、ニーズの検証の場として活用して

いくことも有効である。

さらに、本調査の企業ヒアリング調査では、海外企業との交渉の増加を背景として、英

語による人材育成ニーズがあるものの、企業単独では実施できないとする課題が指摘され

た。そこで、知的財産大学院においてグローバルなテーマの科目を設置する場合には英語

を活用した運営(授業の使用言語の英語化、英語文献の先行研究、英語による論文執筆

等)も期待される。

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(ⅲ)講師人材の確保・育成

これまでの知的財産大学院の講師人材は、企業の知的財産部門の出身者や弁理士といっ

た知的財産専門人材を育成するための知見を有する人材が中心であった。

今後の講師人材には、上述したような人材育成に対応するため、自社の経験だけでなく

多様な業界の事例と理論を体系的に関係づけて俯瞰する能力、受講者の学習を促進するフ

ァシリテーション能力、グローバルなコミュニケーション能力等の高度な能力が求められ

る。

このような講師人材を確保・育成するのは容易ではないが、たとえば、多様な先端事例

の研究の推進、外部の講師人材(MBA講師、多様な業界の講師、外国人の講師等)との

連携、修士課程修了者の人材育成(講師としての修了者の任用、博士課程の設置等)、ケ

ースメソッド教育等の実践的な教育を行う人材の育成27(参考事例として、慶應ビジネス

スクールのケースメソッド教授法セミナー等)などが考えられる。

(4)産業界とのさらなる連携による人材育成

~企業ニーズの収集だけでなく、さらに踏み込んだ連携の取り組みを行う~

知的財産大学院が中長期的にカリキュラムを高度化し続けていくためには、人材育成の

受け手側の産業界とさらに緊密な連携体制を構築し、企業のニーズをカリキュラムに反映

していくことが不可欠である。

従来から知的財産大学院では顧客である企業のニーズをヒアリングしてカリキュラムに

反映させてきているが、さらに一歩踏み込んだ連携の取り組みも有効である。たとえば、

特定の企業との共同による科目や教材の開発、企業と連携した実践的な事例研究やリサー

チインターン28、企業の経営者・経営企画部門・事業部門の担当者による団体(たとえば

日本経済団体連合会、商工会議所・商工会等)と連携した人材育成などが考えられる。

27 ケースメソッド教育等の実践的な教育を行う人材育成の参考事例として、ハーバード大学ビジネススクールや慶應義

塾大学大学院経営管理研究科が行うケースメソッド教授法セミナーが挙げられる。ケースメソッド教育を行うための教

材の選択、授業設計、授業運営、振り返り等を学習するセミナーである。 28 リサーチインターンの参考事例として、立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科が実施している「プラ

クティカム」が挙げられる。これは、大学院生が長期(3ヶ月から 6ヶ月)にわたり、教員の指導を受けながら実習先

の企業の課題を解決するカリキュラムである。

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慶應義塾大学大学院経営管理研究科の

ケースメソッド教授法セミナーの一部29

29 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 ケースメソッド教授法セミナー ホームページ

http://www.kbs.keio.ac.jp/seminar/casemethod/ [最終アクセス日:2018年 3月 8日]

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立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科の

プラクティカム30

30立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科 プラクティカム ホームページ

http://www.ritsumei.ac.jp/mot/curriculum/practicum.html/ [最終アクセス日:2018年 3月 8日]

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Ⅲ.スタートアップ向け知財コンテンツについての検討・整備

1.公開情報調査

(1)目的

本調査はスタートアップを対象とした知的財産についてのコンテンツの整備に資する情

報の収拾、整理を目的としており、当該コンテンツはこれまで知財にあまり取り組んだこ

とのない人材に対して提供することを念頭に置いている。そのため、知財が事業に深く関

わっていることを当該人材らがより理解しやすくする意図から、内容はスタートアップの

事例を中心に調査した。当調査においても、事例の調査が内容の主たる要素となっている。

なお、事例を調査するにあたって、調査時点ですでにメガベンチャーになっている企業で

あってもその成長過程が参考となる場合には事例として取上げた。

(2)構成

当調査の構成は、下記のように定義したスタートアップの成長ステージと、各ステージ

内で発生しうる主だった事業活動により整理している。成長ステージとは、具体的には下

記の3ステージに区分した。

公開情報調査における成長ステージの区分

ステージ 概要 主な事業活動

シード・アーリー

会社設立前もしくは会社設立後

で、事業が軌道に乗る前の段階。

ビジネスモデルの設計、プロトタイプ開

発・デモ、会社設立、ローンチ、エンジ

ェル等からの資金調達

ミドル 事業が軌道に乗り、拡大した段

階。

VC からの資金調達、スケールアップ(量

産、市場拡大等)、ブランディング

レイター 事業が更に拡大し、EXIT(IPO、

M&A)に至る段階。

IPO、M&A、グローバル展開

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(3)シード・アーリー

(ⅰ)ビジネスモデル構築

①バイオ・素材

バイオ・素材系の分野の近年のスタートアップとして、(従来のような大企業への物質

特許のライセンスではなく)下記の文献の事例のように、複数の創薬技術を知的財産とし

て確保した上で、数多くの大企業に対してシステムとして提供する新しいビジネスモデル

を展開している事例がみられる。

【ペプチドリームのビジネスモデルと知財マネジメント】

ペプチドリームは、特殊ペプチドを利用する創薬のバイオベンチャーである。同社は特殊ペプチド創薬のために必

須となる一連の技術すべての特許を取得する事で、創薬のためには同社と提携しなければならない構造を作り上げ

た。これが同社の特徴的なビジネスモデルである創薬プラットフォームシステム「PDPS」である。PDPS により、大手

製薬会社に対しても対等な立場で連携をする事ができる。同社の場合は特許により技術を自社で保持しつつ、非独占

的な利用ライセンス契約により複数の提携先から共同開発費や技術ライセンス契約等の収益を得ることができる。

フレキシザイム技術の卓越さや抗体に変わる新しいニーズが求められていたという製薬業界の背景とともに、製薬

業界全体における同社の唯一無二性を強化する特許戦略が、同社成功の大きなファクターとなっていると言える。

UTEC「“奇跡の薬“をつくる。ペプチドリームの挑戦」等より事例引用(https://www.ut-ec.co.jp/story_pepti-

dream)【最終アクセス日:2018年 3月 8日】

「ペプチドリームのビジネスモデル図」(文部科学省「第 1 回オープン・イノベーション共創会議」 ペプチドリーム

配布資料より図引用)(http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/open/1381485.htm)【最終アクセス日:2018 年 3 月 8

日】

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②IT

IT 分野の場合、下記のスマートフォン向けのアプリケーションを開発しているスター

トアップ事例では「画面デザイン」や「操作のし易さ」といったユーザの体験をビジネス

モデルの差別化要素としており、そのための知的財産を集中的に確保している特徴がみら

れる。このような知財マネジメントにはユーザインターフェイスは侵害発見がし易いとい

う技術的特性も背景にあると考えられる。

【ワンタップバイのビジネスモデルと知財マネジメント】

ワンタップバイは、スマートフォンアプリを使用した個人トレーディングサービスを提供する企業である。一般

的な証券アプリよりも簡単な操作(少ないタップ数)で株式の購入が出来る。主に仲介手数料により収益を上げる

一般的なモデルであるため、多くのユーザに取引をしてもらう事が重要になる。同社は顧客層を30代前後の投資

未経験者にすえており、1000 円から投資可能として投資単位を下げたり、同サービス内で用語解説を提供する事

で、投資に対するハードルを下げる取組みが特徴的である。そのハードルを下げるメインファクターであるのは、

「簡単操作のユーザインターフェース」であり、同社はそのユーザインターフェースに対し特許で保護している。

3タップで株取引が出来る画面と、スライドで動かせるポートフォリオの画面は、いずれもシンプルで操作性の高

いユーザインターフェースである。

(日経 ITPro「FinTechでは何が特許となり得るのか」より事例引用)

(http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/17/021700035/022000002/?P=2&rt=nocnt)【最終アクセス日:2018

年 3月 8日】

ワンタップバイのサービスイメージ(左から、銘柄リスト、購入操作画面、ポートフォリオ)

(japan C-net「ソフトバンク、個人向け投資管理の「One Tap BUY」に 10億円を出資--FinTechに本格参入」

より図引用)(https://japan.cnet.com/article/35086389/)【最終アクセス日:2018年 3月 8日】

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スタートアップ全体の知的財産権の確保状況については米国の Foresight Valuation

Group の調査がある。この調査では、1億ドルを上回る評価を得ることが出来たスタート

アップ(ユニコーン)を対象として調査を行っており、約 70 パーセントは、少なくとも

1件から5件の知的財産権を有していた。一方で、30 パーセントのスタートアップは知

的財産権を有していなかったことも指摘されている。

米国のユニコーン企業の知的財産の確保件数31

31 IPWatchdog「The Naked Truth: 30% of US Unicorns Have No Patents」 より図引用

(http://www.ipwatchdog.com/2015/11/03/the-naked-truth-30-of-us-unicorns-have-no-patents/id=62842/))[最終ア

クセス日:2018年 3月 8日]

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- 61 -

(ⅱ)ピボット

事業内容の方向転換はピボットとよばれている。事業のピボットに合わせて特許の内容

も修正していかなければ、「結果として、自社事業を保護できないものになるおそれがあ

る」と指摘している論文も存在する32。

また、事業内容が確立していくにつれて当初出願した特許を破棄するか維持するかとい

う選択を行った下記のようなスタートアップの事例もある33。

ピボットを行う場合は、ピボットに連動した知的財産の確保・棄却の意思決定を行って

いくことが重要と考えられる。

【事業内容の確立と知的財産確保を同期させたスタートアップの事例】

コドン・デバイスが配慮していたのはライセンスを受ける場合のコストを削減するために,適用範囲などを限定する

などして低減すること,知財の保護水準の低い新興国にどこまで出願するかの検討と,次第に応用範囲や実用性が明らか

になるにつれて,当初出願した特許を破棄するか維持するかの選択であったという。後者に関しては出願した全特許を

あらゆる面から検討し有望な部分を見出すという作業が行われた。(中略)

このようにハイテクスタートアップベンチャーにとって,特許などの知的財産権はその創業前から清算以降まで継続

してマネジメントされる対象となる,まさに常に活用を期待される知的資産であって,その活用のためには受け皿組織の

整備や出願のためのアライアンス,周到なメンテナンス等,あらゆる手段が駆使される。

32 「スタートアップの特許出願を巡る諸問題」大谷寛 2014 パテント 33 「イノベーターの知財マネジメント」渡部俊也 2012年 白桃書房

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- 62 -

(ⅲ)スピンオフ

①知的財産の帰属

スピンオフと知的財産に関する先行研究では大学発スタートアップの事業における知的

財産の重要性や失敗事例について述べている34。失敗例として、スタートアップが大学研

究者の知的財産の帰属を確認しておらず、事業化に失敗した事例が述べられている。

②知的財産の移転

(a)大学からのスピンオフの場合の知的財産の移転

大学からのスピンオフの場合は、スタートアップが十分なロイヤリティを大学に支払う

資金的余裕がないことを課題として挙げられ、「このような場合にはライセンス対価の一

部を新株予約権で支払うといったことが欧米では一般的」とする研究が有る35。同様の点

を課題として挙げた上で、「交渉により、イニシャルコストの比率をかなり下げたり、ラ

ンニングコストの実施料率だけで契約できるように調整してくれた例もあった」とする事

例も紹介されている36。さらに、スピンオフ後に大学で後続発明が生じ、ランニングロイ

ヤルティのスタッキング(積み重なり)37が生じる可能性も述べており、こうした状況を

想定したライセンス条件の設定が求められる。

スピンオフへのライセンス形態として譲渡、独占ライセンス、非独占ライセンスかなど

34「大学発ベンチャーにとっての特許の重要性と知財戦略における大学の役割」松田一敬 日本知財学会誌 Vol3 2006 35 「大学発ベンチャーの知財管理に関する留意点」 山本貴史 2016 産学官連携ジャーナル 36 「大学の研究成果をスタートアップに技術移転する際の課題」吉岡恒 2016 産官学ジャーナル

(https://sangakukan.jp/journal/journal_contents/2016/03/articles/1603-08/1603-08_article.html)[最終アクセ

ス日:2018年 3月 8日] 37 ロイヤリティーのスタッキングとは、1件の特許のランニング・ロイヤリティーが例えば 3%であった場合に、5件の

特許が生まれると合計のランニング・ロイヤリティーが 15%になってしまうという状況である。大学発のスタートアッ

プが事業を行うことが困難に陥るケースが多い。(出所は注 35に同じ)

【知的財産の帰属を確認していなかったために事業化できなかったスピンオフの事例】

ある有望バイオベンチャーが,画期的な診断薬となる可能性をもつマーカーの事業化を開始しようとした.その権

利は共同研究者である大学教授が発明者,大手製薬企業が権利者であった.そのベンチャーの展開を危惧した競争相

手(大企業)が製薬企業に接触,特許権が譲渡された.バイオベンチャーは発明者と共同研究をしていたので大丈夫

だと思う一方,発明者は自身の権利であると混同していた等,両者とも知財に関する理解が不十分であった。(中

略)この結果,当該バイオベンチャーにとっての重要な事業の柱が消えることとなった。

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の方法があるが、米国では大学発のベンチャーに対して独占ライセンスが行われる比率が

日本に比べて 2倍程度高いことが指摘されている38。

(b)企業からのスピンオフの場合の知的財産の移転

企業からのスピンオフの場合の知的財産の移転を論じた文献によれば、企業からのスピ

ンオフが行われる際に、スピンオフ元の企業に知的財産が帰属している場合に「ディール

キラー(取引の成立自体を妨げる深刻な問題)になりかねない」とした上で、スピンオフ

元の企業とスピンオフとの間で win-win の関係を構築するために、以下の 3 点のポイント

を述べている39。すなわち、「①スピンオフ後、両者のビジネス上の守備範囲をできるかぎ

り明確に定義する、②両者がそれぞれのビジネスを追求・実現するために必要な IP を特

定する、③ IP の譲渡やライセンスに関する適切な合意が形成される」。

企業からのスピンオフと知的財産の対応策40

38 注 33に同じ。 39 「スピンオフ企業の際の IP問題―②勤務先との Win-Winの関係構築」 中町昭人 2003 LOOP 40 注 39に同じ

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- 64 -

(4)ミドル

(ⅰ)事業会社とのアライアンス

事業拡大の方法の選択肢として、他社とのアライアンスが選択肢となる。先行研究では、

スタートアップは「他社とのアライアンスを一つ一つ積み上げていくことで、その企業の

競争力は急速に高まっていく。」とした上で、この時優れた特許は他社からも魅力的であ

り、交渉の大きな材料とすることが出来る、と述べられている41。

実際に、下記のようにスタートアップが優れた知的財産を確保していたために、大企業

とアライアンスを組むことができた事例もある。

41 注 32に同じ。

【プライムセンスとマイクロソフトのアライアンス】

プライムセンスは、3D 空間上の物質や動作を認識するセンサーを開発したイスラエルのスタートアップ企業で

あり(2013年アップルにより買収)、同社が保有するセンシング技術は、マイクロソフト社のジェスチャーデバ

イスであるキネクトにも利用されている。マイクロソフトはキネクト開発の際、プライムセンスと技術提携を行

い、同社の保有する特許に対しライセンス料を支払っている。マイクロソフトという大企業との提携の実績を元

に、以降同社は事業を大きく成長させている。

「スタートアップ・バイブル」アニス・ウッザマン 2013 講談社 より事例参照

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(ⅱ)スケールアップ

市場を拡大するため、下記の電気自動車の事例のように米国のスタートアップではあえ

て知的財産を無償で開放する事例がみられる。これにより、自社技術をデファクト標準化

する狙いがあると考えられる。

【プロテッラの特許開放】

電気バス開発のプロテッラが、2016年に高速充電に関連する自社の特許を一般開放した。プロテッラの狙いは、

輸送事業全体を EV 利用に流れさせつつ、同社は主たるビジネスである乗り継ぎバスの電気自動車開発に集中する事で

あるとする。特許を開放する事で、例えば輸送車ではなく充電インフラを開発する企業が自社に変わってバスやトラッ

ク用の充電器の改良を進める。そうする事で最終的に、輸送市場全体に占める電気自動車の割合が増え、かつ同社はそ

の中でも大きな位置を占めることができるようになる。ライアン・ポップル CEO いわく、「電気自動車というニッチ市

場の80%よりも、輸送市場全体の50%のほうがいいと判断した」。

Fortune 「 Why This Electric Bus Startup Is Opening Up Its Patents for Free 」 よ り 事 例 等 参 照

(http://fortune.com/2016/06/28/proterra-open-patents/)【最終アクセス日:2018年 3月 8日】

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(ⅲ)ベンチャーキャピタルからの資金調達

先行研究42では「VC においても、少なくとも日本では、特許出願済みであれば権利が成

立しているか否かが投資判断において大きく評価されることは多くない」とされる一方、

バイオベンチャーへ投資するベンチャーキャピタルの視点から、「投資実行前のベンチャ

ーキャピタルによる DD 段階で、以下に強力な知財を保有しているのかは資金調達を優位

に進める上で重要な要因となる」としている文献もある43。

以下は知的財産を活用して資金調達を行った事例である。

42 注 32に同じ 43 「ベンチャー投資家視点での知的財産評価」堀越康夫 2016 知財管理

【ドキュサインの資金調達と特許】

電子署名用のソフトウェアを提供する 2003 年創業のドキュサインは,2004 年に 460 万ドルの投資を受けている。

この時点でドキュサインが行っていた特許出願は 4 件であり、翌年には、これらを担保としてシリコンバレー・バン

クから融資を受けている。許容できるリスクが相対的に投資よりも低い融資の際に担保としての価値を認められてい

るのであるから、投資の際にも一定の評価を得る材料となったことが窺われる。ベンチャー・キャピタル(VC)など

から投資を受ける際にどこまでテクノロジーの詳細を問われるかは VC によって異なるが、特許出願の存在は一定の技

術水準があることを客観的に示す指標にもなるだろう。

(「スタートアップの競争優位に置ける特許出願の役割」 大谷寛 2015 パテントより引用)

【WHILLの資金調達における特許の重要性】

パーソナルモビリティ企業 WHILL の杉江 CEO は、同社の VC からの資金調達について、あるカンファレンス内で

「特許がなければ我々も資金調達ができなかったと言っても過言ではない」と語っている。

「我々もシリーズ A、B(※シリーズ A はミドルステージ、シリーズ B はレイターステージと同意とする。)で、ト

ータルで 30 億円くらいの資金調達を行っていますが、A の時も、B の時もどこの特許を押さえているのか、それはブ

レイクされにくいのかといった点について、また特許に絡めたビジネスモデルの戦略については明確に審査されまし

た。」

「我々のプロダクトは現時点では、国内でニッチにさえなれないくらいにニッチですが、考え方としては、グロー

バルニッチを目指しています。どういうことかと言うと、保有している特許はどこの国で優先権を持っているのか、

世界中か、という点まで評価が行われます。我々は PCT 出願で優先権を主張し、アメリカと欧州での特許を持ってい

ますので、将来を見据えたグローバルニッチとして、その点も重視されました。」

(industry-co-creation「下町ロケットの弁護士モデルが語る「特許を活用したベンチャー企業の資金調達」」よ

り引用)(https://industry-co-creation.com/management/9652)【最終アクセス日:2018年 3月 8日】

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(ⅳ)市場への新規参入の抑制

下記の事例のように、類似のサービスを始めた競合に対して、自ら権利行使をしてけん

制することも戦略として考慮される。権利を有していれば、相手企業の規模に関わらず訴

訟を提起することが出来るし、またそうすることで自社の特許等権利に対する意識を対外

的にアピールすることが出来る。

【フィンテックスタートアップによる訴訟】

フリー代表取締役佐々木大輔氏は、マネーフォワードとの訴訟の意義について、以下のように語っている。

「請求が棄却されたことは残念でした。我々は、独自技術に投資し、ユーザーに価値を届けることに非常にこだ

わっています。ですので、今回は認められませんでしたが、合理的に認められた権利は、合理的な範囲内で主張し

ていこうと考えています。もう一つは、日本のスタートアップでは、知的財産や企業の創意工夫への関心が薄いこ

とです。ここへの問題提起という側面もあります。

今回の提訴により、「もっと独自技術に投資して、守れるものは守ることでスタートアップのビジネスを強くして

いこう」という機運は高まってきています。そこは一つ意義があったと思います。」

(C-NET Japan「マネーフォワード勝訴に対して freee は何を思うのか--佐々木代表に聞く」より括弧内引用)

(https://japan.cnet.com/article/35104918/)【最終アクセス日:2018年 3月 8日】

【アマゾン対バーンズアンドノーブルズのケース】

アマゾンのワンクリック注文は、クレジットカード情報の入力を省略できるなど、EC サイトを利用した買い物の

利便性を向上させる。この点でアマゾンのビジネスモデルにとって重要な要素であり、このインターフェースの特

許を、事業が大きくなり始めたころに取得している。当事業界最大手のバーンズアンドノーブルズ(B&N)が類似の

システムを導入した際、アマゾンは取得した特許を根拠に B&N に対し訴訟を提起しこれを差止めさせることに成功

した。

その後 B&N はクリスマスの重要な時期に利便性を低下させ大きな痛手をこうむる一方、アマゾンは株価を大幅に

上昇させている。ビジネスモデルの重要な特許を確保する事で、大企業に対しても有利に事業を進める事ができる

好例である。

(「スタートアップの競争優位に置ける特許出願の役割」 大谷寛 2015 パテント より事例参照)

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(5)レイター

(ⅰ)M&A

下記の事例のように、スタートアップの持つ特許ポートフォリオが高い価値を持ち、買

収額等の条件を交渉する大きな材料となり得る。

(ⅱ)IPO

下記の事例のように、IPO 前に知的財産の係争を受けるリスクが高まる。株主の期待に

応えるために IPO を行うスタートアップは係争を終結させる必要があり、難しい交渉が求

められる。

【リーガルリスクにより IPO を断念】

訴訟を提起された例として、ソーシャルゲーム会社「グループス」(当時 GMS)がある。同社のスマートフォン用

ゲームが、大手ゲーム会社「コナミ」の特許を侵害しているとされ訴訟を提起された。同社のゲームシステムや画

像・演出が、コナミの特許を侵害しているとされた。

この後グループスはオンラインゲーム会社「ネクソン」に 365 億円で買収されたが、IPO上場が本来の狙いだ

ったとの見方も否定できず、リーガルリスクが障害となった可能性がある。

(c-net japan「スタートアップが知っておきたいIPOの落とし穴」より事例参照)

【IPO前の訴訟】

フェイスブックは、同社の SNS モデル全体が特許を侵害しているとして、ヤフーより訴訟提起された事がある。

この時フェイスブックは IPO を目前に控えており、投資家からのイメージダウンを回避する必要があった。その為

同社は、IBM の特許を購入し、特許資産を強化する事で対抗し、最終的にヤフーとのクロスライセンスによる和解を

実現した。この後同社は、マイクロソフトが保有する AOL の特許を買収する事でさらに強化した。この狙いが、自

身の法的危険性を払拭する事で、IPO計画を確実なものにすることであるとされている。

(「スタートアップ・バイブル」アニス・ウッザマン 2013、より事例参照)

【買収に際して知的財産が大きな要因になった事例】

ネストの知的財産は、2014 年にグーグルが同社を 32 億ドルで買収する際の決定要因になった。USAtoday の記事

によると「グーグルは、ネストがその実質的で価値のあるパテント群を有していなかったら、同社を買収しなかっ

た」

(USAtoday「The Top 10 Reasons Why Your Startup Needs Patents」)

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2.国内ヒアリング調査

(1)目的

事例調査を基にコンテンツの構成案とスライド案を作成した後、コンテンツの完成度

を高めるため、有識者に作成中のコンテンツに対するヒアリング調査を実施した。

(2)ヒアリング実施概要

ヒアリングは、スタートアップの実務に精通しているという観点から、スタートアッ

プや中小企業を支援している弁理士、スタートアップ向けのインキュベータを運営する

支援者を対象に実施した。

ヒアリング実施日と対象者

実施日 ヒアリング対象者

2017年 10月 11日 弁理士 8名(グループヒアリング形式)

2017年 11月 2日 スタートアップ向けインキュベータ運営者

2017年 11月 8日 弁理士 6名(グループヒアリング形式)

(3)ヒアリング項目

ヒアリングでは次のような観点から有識者の意見を聴取した。

想定しているターゲットに対して、コンテンツ開発の方針は適切か。

想定しているターゲットに対して、コンテンツの構成は適切か。

順番は適当か。

特に重要なテーマは何か。

想定しているターゲットに対して、コンテンツのメッセージと事例は適切か。

メッセージは妥当か。他に強調すべきメッセージはあるか。

事例は妥当か。他に取り上げるべき事例はないか。

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(4)ヒアリング結果

ヒアリングでは、構成、メッセージ、事例に関して主に次のような指摘があった。特

にスタートアップが知的財産において関心を持っている事項、近年のスタートアップの

事業開発で起こりがちな失敗の実事例について有効な意見が聴取できた。

主な指摘事項

<構成>

業種に共通する内容と、業種別の内容に分ける構成はよい。

業種別の内容は IT 系と素材系くらいの分類のほうがよいだろう。その上で、注目

ポイントが異なる事例を紹介するのがよい。(ビジネス向けかコンシューマー向け

かという分類でも、特徴が出る。)

<メッセージ>

もっとシンプルにすべき。スタートアップの価値を守りましょう、というメッセー

ジがはじめにあるとよい。

一般的にスタートアップにおける失敗パターンは、情報を公知にしてしまい出願で

きなくなった事例が多い。

シード段階のスタートアップは著作権や商標のほうに関心が高い。商標は分野に関

係なく語れるため取り上げやすい。

どのタイミングでどこの知財をとるべきかを伝えられるとよいだろう。

強い特許をとるためには、ローンチ前に取るべきである。

IT 系のスタートアップは自分のビジネスの中のどこに知財があるのかがわかってい

ない。事例をつかって、どこに知財があるのかを示せるとよい。

スタートアップが知財を取得していることは、投資側に対する信用力になる。

<事例>

はじめは成功事例をみせて、夢を与えたほうがいい。

近年はクラウドファンディングを資金調達だけでなく、マーケティングやプロモー

ションのために利用することが多い。実際、製品をクラウドファンディングに出し

て二週間後に中国から販売されてしまった事例があった。情報を小出しにして市場

の反応を見ながら事業開発をする場合、コアの部分は必ず知財を取得することが重

要である。

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フェイスブックのような巨大企業がもめている事例は面白いが実感がわかないだろ

う。

EXIT に関しては良い事例があまりない。事例が見つからなければ、無理に EXIT ま

で語る必要はない。

(5)ヒアリングに基づいたコンテンツ案の修正結果

上述のヒアリング結果に基づき、構成案とスライド案を修正した。

全体を三部構成として、第一部では知的財産の必要性と知的財産がスタートアップの

事業に与えるインパクトについて事例を用いて紹介し、第二部では成長ステージを切り

口に、スタートアップが気をつけるべきポイントを解説した。また第三部では先進的な

ビジネスモデルを構築し、成長しているスタートアップを取り上げて、彼らがビジネス

の中で知的財産をどのように活用しているのかを解説した。スライド構成を以下に示す。

スライド構成

page 構成 タイトル スライドメッセージ スライド

ボディ

1 表紙

2

はじめに

ウォームアップ

セミナー冒頭で参加者であるスタートアップの注目・関心を集めることを

目的とする。

※本スライドはセミナーの実施後に追加したもの。

iPhone の製品

発表会 3

4 対象者と狙い 早期の段階で知的財産に取り組むことが必要かつ重要である。 メッセージを

図解化

5 構成と特徴 法制度の解説ではなく、事例を中心に解説する。 メッセージを

図解化

6 知的財産の種類 知的財産制度について最低限の初歩的な事項を説明する。

※本スライドはセミナーの実施後に追加したもの。

メッセージを

図解化

7

第1部

スタートアッ

プのビジネス

と知的財産

知的財産がスタート

アップの事業にもた

らすインパクト

早い段階での知的財産の確保は自社技術を保護するだけでなく、大企業と

提携し、事業を成長させるためのツールにもなる。

事例:プライ

ムセンス

8 事業が成長すると、競合の大企業が知的財産を活用してくることがある。

知的財産の対応を怠ると、のちのち成長を脅かす大きなリスクになる。

事 例 : ネ ス

ト・ラボ

9

スタートアップの事

業開発の変化と知財

マネジメント

スタートアップと大企業とが連携しながら事業開発を行う形態が増えてい

る。

連携を円滑にするためには、スタートアップ側の知的財産の確保がより重

要に。

メッセージを

図解化

10

第2部

成長ステージ

別のポイント

シード・アーリー:

ビジネスモデルの確

ビジネスモデルを確立した早期の段階で重要なアイディアや技術を知的財

産として保護することが競争優位のある企業をつくる。

事例:グーグ

ル、プライス

ライン、アマ

ゾン

11

シード・アーリー:

PoC、ビジネスのピ

ボット

ビジネスモデルを確立した早期の段階で知的財産を確保する。

PoC を通じてピボットを行った場合、それに合わせて必ず知財戦略も見直

す。

事例:

コドン・デバ

イス

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- 72 -

page 構成 タイトル スライドメッセージ スライド

ボディ

12 シード・アーリー:

プロトタイプの公開

マーケティングや資金調達のためのピッチなどで、プロトタイプ段階の製

品を世の中に出す場合は、公開しても良い情報と秘匿する情報の線引きを

徹底する。

匿名の失敗事

13 シード・アーリー:

ブランディング

プロダクト名やサービス名は商標権を早期に出願する。他社が同じ名称で

商標権を登録している場合は、ブランドに大きな損害が発生する。

匿名の失敗事

14 アーリー・ミドル:

VCからの資金調達

知的財産は一定の技術水準があることを客観的に示す指標になり、ベンチ

ャーキャピタルからの投資を得やすくなることもある。 事例:WHILL

15

第3部

先進的なスタ

ートアップの

ビジネスモデ

ルと知財マネ

ジメント事例

スタートアップのビ

ジネスモデルに応じ

た知財戦略の重要性

知的財産をマネジメントするためには、ビジネスモデルの特性に応じて戦

略を考えることが上手くいくためのポイント。

BM ・ 知 財 戦

略・知財マネ

ジメントの関

係を図解化

16

スタートアップのビ

ジネスモデルに応じ

た知財マネジメント

の例

従来の株取引では難しいと感じていた株初心者に対して、スタートアップ

であるワンタップバイは簡単な操作で株の売買ができるスマホアプリを提

供。 事例:

One Tap BUY

17

ワンタップバイはユーザ獲得の重要な要素となる「簡単な画面操作」に関

して、スマートフォンのユーザインターフェイスに関わる特許権を登録し

ている。

/ユーザインターフェイスも特許権になる

18

ソラコムは、SIM カードを活用することで従来よりも簡単かつ安価にハー

ドウェアをネットワークにつなげ、IoT のプラットフォームになりつつあ

る。 事例:ソラコ

19 破壊的なアイディアとそれを実現する高い技術を保護する特許権を強みと

している。グローバル展開を見据えた特許権も確保している。

20

ユーグレナはミドリムシの食用屋外大量培養技術を確立。ミドリムシを応

用した様々な商品を大手商社・食品メーカーと共同で開発・販売してい

る。 事例:ユーグ

レナ

21

ミドリムシの食用屋外大量培養法を特許にすると、その内容が公開されて

しまい、技術的優位を維持できなくなる。そこで特許権は取得せず秘匿化

している。

22

ペプチドリームは難易度の高いペプチド創薬の基礎研究工程をシステム化

し、複数の大手製薬会社によるペプチド創薬のプラットフォームになって

いる。

事例:

ペプチドリー

ム 23

ペプチド創薬に必要な一連の技術を特許で守り、ペプチドリームと契約す

る以外に基礎研究の方法が無い状況を作り出した。

24 おわりに 総括 ビジネスモデルの構築段階から成長ステージに合わせて知的財産をマネジ

メントすることが、その後の成長につながっていく。

メッセージを

図解化

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- 73 -

3.セミナー

(1)開催概要

スタートアップ向け知財コンテンツ整備の一環として、知財コンテンツを使ったセミナ

ーを3回開催した。各回の開催概要を下表に示す。

第一回秋葉原会場の概要

タイトル スタートアップの新たなビジネスモデルと知的財産マネジメント

開催日時 2017年 12月 19日火曜日 14 時~15時半

開催会場 DMM.make AKIBA F3エリア

(東京都千代田区神田練塀町 3 富士ソフト秋葉原ビル 12階)

プログラム 14時 00 分~14時 03分 特許庁挨拶

総務部企画調査課 柴田昌弘 知的財産活用企画調整官

14時 03 分~14時 30分

第一部「成功事例に学ぶ!スタートアップの知財戦略」

スピーカー:みずほ情報総研株式会社 稲場未南

14時 30 分~15時 10分

第二部「スタートアップの知的財産マネジメントの実践事例」

スピーカー:特許業務法人白坂 白坂一氏

15時 10 分~15時 30分 質疑応答、ネットワーキング

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第二回大手町会場の概要

タイトル スタートアップの新たなビジネスモデルと知的財産マネジメント

開催日時 2018年 1月 25日木曜日 14時~16時

開催会場 FINOLAB イベントスペース

(東京都千代田区大手町1-6-1大手町ビル4階)

プログラム 14時 00 分~14時 03分 FINOLAB 施設紹介

14時 03 分~14時 45分

第一部「事例から学ぶ!フィンテック×知財」

スピーカー:特許庁 貝沼憲司、中内大介

14時 45 分~15時 15分

第二部「スタートアップの知的財産マネジメントの実践事例」

スピーカー:六本木通り特許事務所 大谷寛氏、

モバイル・インターネットキャピタル株式会社 元木新氏

15時 15 分~16時 00分 質疑応答、ネットワーキング

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第三回柏の葉会場の概要

タイトル スタートアップの新たなビジネスモデルと知的財産マネジメント

開催日時 2018年 1月 30日火曜日 14時~16時

開催会場 KOIL サロン

(千葉県柏市若柴 178番地 4柏の葉キャンパス 148街区 2)

プログラム

14時 00 分~14時 35分

第一部「成功事例に学ぶ!スタートアップの知財戦略」

スピーカー:みずほ情報総研株式会社 稲場未南

14時 35 分~15時 15分

第二部「スタートアップの知的財産マネジメントの実践事例」

スピーカー:大野総合法律事務所 森田裕氏

15時 15 分~15時 30分 質疑応答、ネットワーキング

(2)開催結果

セミナーの参加人数および、セミナーの参加者を対象に実施したアンケート結果を示す。

(ⅰ)セミナー参加人数

セミナー全体で、事前申込は 79 名、当日参加は 59 名であった。事前申込人数と当日参

加人数を下表に示す。

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セミナーの事前申込および当日参加人数

開催日 事前申込人数 当日参加人数

2017 年 12月 19日 16名 17名

2018 年 1月 25日 56名 36名

2018 年 1月 30日 7名 6名

合計 79名 59名

(ⅱ)参加者アンケート集計結果

セミナーの参加者を対象にして実施したアンケート結果を示す。

①回答者属性

アンケートは全体で 35 名からアンケートの回答があった。アンケート回答者の属性は、

スタートアップ企業だけでなく、スタートアップ支援機関(ベンチャーキャピタル、公的

支援機関等)、大企業、中堅企業等も含まれている。回答者数を下表に示す。

アンケート回答者数

開催日 回答者数

2017 年 12月 19日 11名

2018 年 1月 25日 20名

2018 年 1月 30日 4名

合計 35名

②セミナーの理解度

セミナーの理解度を 5 段階で尋ねたところ、第一部 知財コンテンツの解説の理解度は

全体では、「ほぼ全ての内容を理解できた」が半数と最も多く、次いで「概ね(70%)の内容

を理解できた」が 38%であった。参加者の 9 割近くが、概ねの内容を理解できたという結

果であった。

会場別に見ると、柏の葉では「ほぼ全ての内容を理解できた」が減り、「一部(30%)し

か理解できなかった」が増えた。

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第一部 知財コンテンツの解説の理解度

0% 20% 40% 60% 80% 100%

柏の葉(n=4)

大手町(n=20)

秋葉原(n=10)

全体(n=34)

ほぼ全ての内容を理解できた 概ね(70%)の内容を理解できた

半分くらいの内容を理解できた 一部(30%)しか理解できなかった

全く理解できなかった

第二部 有識者による講演は、「概ね(70%)の内容を理解できた」が 48%と最も多く、次

いで「ほぼ全ての内容を理解できた」が 42%であった。先ほどと同様に、参加者の 9 割近

くが、概ねの内容を理解できたという結果であった。

会場別に見ると、柏の葉では「半分くらいの内容を理解できた」が半数を占めており、

他会場よりも理解度が低い傾向があった。

第二部 有識者による講演の理解度

0% 20% 40% 60% 80% 100%

柏の葉(n=4)

大手町(n=20)

秋葉原(n=9)

全体(n=33)

ほぼ全ての内容を理解できた 概ね(70%)の内容を理解できた

半分くらいの内容を理解できた 一部(30%)しか理解できなかった

全く理解できなかった

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③セミナーの認知経路

セミナーの認知経路として最も多かったのは「他の組織等からの紹介」であった。これ

は、スタートアップの支援者(弁理士等)が支援組織から周知されたケースが該当すると

推察される。次いで「特許庁以外のホームページやツイッター」であった。

セミナーの認知経路

0 2 4 6 8 10 12

会場の告知(張り紙、HP)

その他(facebook、検索エンジン他)

特許庁ホームページやツイッター

特許庁以外のホームページやツイッター

他の組織等からの紹介

複数回答 (n=33)

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④セミナーの参加理由

セミナーの参加理由として最も多かったのは「スタートアップにおける知財に関する事

例を知りたかった」であった。次いで「スタートアップと知財の関連を知りたかった」で

あった。その他としては「スタートアップではないが、これから自社で知財業務に携わる

にあたって参考にしたいため。」とあった。

セミナーの参加理由

0 5 10 15 20 25

その他

有識者のセッションに興味をもった

スタートアップと知財の関連を知りたかった

スタートアップにおける知財に関する事例を

知りたかった

(n=39)複数回答

⑤セミナーの良かった点、改善点

セミナーの良かった点、改善点は次のようなコメントがあった。

セミナーの良かった点

<秋葉原会場>

事例が多く紹介されていてイメージがわいた。(スタートアップ)

商標権取得を考えていたので参考になりました。(スタートアップ)

スタートアップ企業の要求、疑問点に触れることができた。(弁理士)

IT系と素材系のスタートアップで事例が挙げられていたのがよかった。スタート

アップからの視点から見た知的財産の考え方をお伺いできてよかった。(インキ

ュベータ)

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<大手町会場>

投資家視点でどのような点を重視しているのか(していないのか)を知ることが

できた(支援者)

投資家の視点、大変参考になりました(その他)

自分で考えるための情報提供を効率的にしてくれた、詳しすぎず、簡単すぎず

(その他)

基本的知識の習得(支援者)

<柏の葉会場>

ベンチャーキャピタルからの資金調達に知財が考慮されていることを知ったこ

と、効果が低い発明が実は狙い目(支援者)

特許を権利化して終わりではなく、継続して戦略的に動くことが重要であること

を学んだ。(その他)

ステージに合わせて早期に動くことで優位性を担保できることが理解できた。

(その他)

セミナーの改善点

<秋葉原会場>

(第一部)なんかワクワクしない。ちょっと説教くさい。スタートアップ向けな

のに夢がない。(スタートアップ)

<大手町会場>

フィンテックの未来について最先端情報を教えてもらいたい(スタートアップ)

セミナー時間を長くして、内容をもっと詳しく(支援者)

第二部が長めでもいいと思います(その他)

1つの事例でいいので掘り下げて。発表者の視点でのコメントもあるといい(そ

の他)

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<柏の葉会場>

技術があったからビジネスが上手くいったのか、特許があったからビジネスが上

手くいったのかの、どちらなのかが分かると有難い(支援者)

参考資料を配布して欲しい(その他)

⑥知的財産に関して、必要としている支援・課題

知的財産に関して、必要としている支援・課題は次のようなコメントがあった。

<大手町会場>

スタートアップ(ベンチャー)という箱ができれば支援は様々ありますが、その

箱ができる前の段階での支援策があればうれしいです(支援者)

小企業の為、取得関連費用の補助を望んでいます。(その他)

<柏の葉会場>

知的財産見直しに必要なコスト(支援者)

自社と弁理士等専門家とのマッチング支援(その他)

特許戦略の実践セミナー開催(その他)

知財(コンテンツを含む)を実践的におしこんだビジネスモデル(事例)を知り

たい。メリット、デメリットなど(スタートアップ)

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(3)今後の課題

アンケート結果を踏まえ、コンテンツの内容および活用に関して今後の課題を考察した。

(ⅰ)コンテンツの内容に関する課題

①ビジネスモデルと知財マネジメントに関連したスタートアップ事例の充実

セミナーの参加理由として「スタートアップにおける知財に関する事例を知りたかっ

た」との回答が多く、事例への関心の高さが窺えた。コンテンツの第三部では IT 系と素

材系のビジネスモデルを取り上げたが、ものづくり・ハードウェア系、ライフサイエンス

系等、さらに多様な分野のビジネスモデルに関連した事例を充実させることがコンテンツ

の魅力を高める上で重要であると考えられる。

②スタートアップの知識レベルに応じた知識の付与

セミナーに参加したスタートアップには、知財マネジメントに既に積極的に取り組んで

いる参加者もいれば、初歩的な知的財産制度について理解できていない参加者もおり、ス

タートアップの知識レベルにはばらつきがみられた。本コンテンツは知財マネジメントに

まだ取り組んだことがないスタートアップを対象にしているが、前提とする基本的な知識

が不足しているようなスタートアップに対して情報提供を行う場合には、基本的な知識を

習得できるような他のコンテンツも併せて提供することが必要である(一部、セミナー実

施後に知的財産の種類を解説するスライドを追加した)。逆にビジネスで知的財産を活用

したいと考えているスタートアップに向けては、専門家の支援を受けて知財マネジメント

を実践した事例を紹介するなど、次の行動を促すような内容が含まれていると役立つと考

えられる。

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(ⅱ)コンテンツの活用に関する課題

①スタートアップ支援組織との連携

コンテンツを活用するセミナーの開催にあたっては、事務局が単独で開催するのではな

く、アクセラレータやインキュベータ、ベンチャーキャピタルと連携して開催する方が集

客面において効果的であると考えられる。今回のセミナーはいずれもスタートアップが入

居しているインキュベータの施設を利用して開催した結果、会場の利便性や知名度のおか

げで定員を大きく上回る事前申込が集まった会場もあった。

しかし一方で、今回のセミナーでは当該インキュベータへの入居企業からの参加者は必

ずしも多くはなく、アクセラレータやインキュベータとの連携の方法は課題として残され

た。今後は単に施設を利用するだけでなく、アクセラレータやインキュベータ、ベンチャ

ーキャピタルが開催するイベント(たとえば、入居・支援先企業が集まる定例イベントで

あるミートアップ)の一つのプログラムとして開催した方が支援先のスタートアップへの

効率的なリーチにつながると考えられる。

②コンテンツの活用ルートの複線化

セミナーの認知経路では、「他の組織等からの紹介」や「特許庁以外のホームページや

ツイッター」等、特許庁以外のルートからより多く情報が伝わっていたことが明らかにな

った。このことからコンテンツの活用ルートとしても、特許庁からだけでなく、アクセラ

レータ、ベンチャーキャピタル等、スタートアップと接している支援者にコンテンツを活

用してもらうことが、スタートアップへの知財マネジメントへの普及につながっていくと

考えられる。

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白紙

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資料編

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資料Ⅰ

大学院レベルの知的財産人材育成に関する国内ヒアリング調査結果

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ヒアリング先:A 大学院

応対者:a 教授

1. 研究科の概要

<研究科設置の背景>

10 年ほど前に知的財産研究科(専門職大学院)を設置したが、近年法学研

究科に知的財産コースとして組み入れることになった。

<育成する人材像>

知財専門人材(弁理士や弁護士)と知財マネジメント人材(企業において知

財を活用して活躍する人材)を育成する。

専門職大学院を設置した当時から育成する人材像は変わらないが、途中で力

の入れ方を軌道修正したことはあった。当初のカリキュラムは法律系に重き

をおいていたが、知財の制度を理解しているだけでなく、知財を活用できる

人材が必要であるという企業の声を受けて学内で協議がおこり、数年前に知

的財産の利用・活用もシラバスの中で明確化させるように見直しをした。

<入学者の属性と卒業後の進路>

入学者は社会人と学卒の両方を対象としているが、9割を学卒、1割を社会

人が占めており学卒が圧倒的に多い。学卒のうち8~9割が A 大学法学部

卒業生、その他が理工学部の生産工学科や他大学の法学部卒業生である。社

会人は企業の研究者や、経営や管理に関わっている人、法律事務所、大手企

業の知財部など出身は様々である。

卒業後の進路は、知財の業務に携わる人が2~3割、総務や営業に携わる人

が4割、全く別の仕事に就く人が1~2割である。弁理士試験は毎年1~2

名が合格している。

入学者の比率は設立当時から変化はない。

<学生減少の要因>

小泉首相が「知財立国」を打ち出した平成 14 年をピークに入学者数は減少

している。学生は世の中の熱気を感じて専攻を選ぶ傾向があるので、「知財

立国」が下火になるにつれて学生の関心も薄れていったのかもしれない。

学生減少の要因の一つに景気の影響があると考えられる。就職ができない場

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合に大学院への進学が選択されることもあり、景気が良く内定率が上がると

大学院生が減る傾向がある。

世の中では、企業における知財の重要性はますます高まっていると言われて

はいるが、知財を専門に学んだ学生を積極的に採用するという動きはない。

<教員の特徴>

9名中3名が社会人出身の教員である。

2. カリキュラム

<知的財産研究科と法学研究科の科目との関係>

法学研究科の下に知的財産コースを移すにあたって、科目を改編した。知的

財産の専門職科目が多いと、法学の学位とのバランスが悪いため、知的財産

研究科の科目を圧縮してはめ込む必要性があった。教える内容に大きな変化

はないが法学研究科に合わせて科目名称は大きく変わった。

<改訂知財スキル標準との対応>

科目は大きく法律科目と実践科目(活用科目)に分かれる。法律科目は法律

の解釈、判例、事例を網羅している。知的財産コースが法学研究科の下に設

置されているということもあり、法律科目に漏れはないと認識している。一

方、実践科目(活用科目)は、改訂知財スキル標準に示されたスキルを全て

教えているとはいえないが、全体的にはカバーしていると考えている。1.戦

略~2.実行の中で濃淡はあるものの、全く触れていないというスキルはない。

2.2 実務については概ねカバーしている。

改訂知財スキル標準をもとに対応する科目を整備するのではなく、改訂知財

スキル標準に書いてある内容を参照してもらって、既存の授業の中に取り入

れてもらったほうが対応しやすいだろう。

<戦略科目の課題>

各々の教員が自身の経験を踏まえて講義を行っており、講義の内容は教員に

依存する部分が大きい。よって 1.戦略のスキルは、各々の講義の中で部分

的に触れてはいるが、一つの科目として体系的に教えてはいない。

たとえば、実務家の教員は自分の業界については、事例を使って戦略や実行

を詳しく教えることはできるが、業界全体を俯瞰するような講義は難しい。

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「知財経営戦略」ではまさに戦略論を教えている。教員には講義で教える内

容を細かく規定はしていないが、1.戦略にある A~D を教えるように指導を

すれば対応できるかもしれない。

<活用科目の状況>

知的財産活用は、「国際標準と知的財産」、「ライセンス契約」、「侵害訴訟」、

「審決取消訴訟」で教えている。

<グローバルに関する科目の状況>

国際ビジネス科目は当初から力を入れており、十分ではないという意見は聞

かない。実際に日米の知財紛争に携わった教員が教えている。

<カリキュラムの今後の方向性>

これまでも取り組んできたが、企業の知財人材に対するニーズをヒアリング

し、科目構成に反映する。具体的には答えにくいが、実践科目や戦略科目を

強化していく方向性だろう。

3. 知的財産を教える大学院の社会的な位置づけ

大学院は、学卒の育成による社会への人材の供給源と、社会人の再教育によ

る高度専門職人材の育成の両方の受け皿になりたいと考えている。

大学の役割として、企業の研修期間を短くするための教育を行うということ

は考えていない。大学院では、学生に深い考え方を教え、アカデミックな考

え方を身につけてほしいと考えている。修士論文を通じて、課題の発見と解

決する力を身につけることが重要だと考えている。そのようにして培った力

は、様々な変化に対応できる力として企業に入ってからも重要になる。

一般の法律講座と大学院の法律科目は、同じ法律でも学ぶ内容が違う。大学

院では様々な学説を扱い、議論を通じて考える力を育てる。

学部と大学院をうまくリンクさせることは、大学院を活性化させていく一つ

の方法だろう。学部において知財を勉強したいというニーズが大きいと感じ

ている。

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ヒアリング先:B 大学院

応対者:b 教授

1. 研究科の概要

<研究科設置の背景>

法学部の上に大学院知的財産法学研究科を設置すれば、法学科の学生が進学

してくれて一定の学生が確保できると考えた。

<育成する人材像>

自分が専門家になるのではなく、外部の専門家(弁理士や弁護士)と上手く

リンクできる人を育成している。具体的には知財部がない企業(中小企業や

ベンチャー企業)に就職して、知的財産支援ができる人材(知的財産専門部

がないところでは知財の中核となる人材)になることをイメージしている。

但し、弁理士試験合格者も過去継続して輩出しているので、それを求める学

生には高度な教育を加えている。

<教育の特徴>

リーガルマインド(自分の理論優先ではなく、企業・クライアントのための

法律)を重視している。理系の人は勝ち負けにこだわるが、企業では会社の

利益になるか否かが重要になる、ということを強調している。

知的財産を総合的に理解し活用できる専門家を養成することを目指している。

<学生の人数・属性>

1学年最大15名としている。1年毎に入学者数が変動している状況である。

今年の内部進学者は0人だが、過去には平均的に2名ほどいる。

数年前までは、学部から進学してくる学生と他大学から進学してくる学生が

混ざった構成だったが、今年度は公認会計士、税理士、中国の司法試験合格

者など、受講生の属性が多様になっている。法学研究科の知財の知識がない

学生が受けにくることもある。講義の内容やレベルは受ける学生に応じて変

えているため、今年のように学生の属性が多様のときは大変である。

他理系大学から進学してくる学生はいるが、B 大学の理系学部から当研究科

に内部進学してくる学生はほぼいない。

今年から理工学部の2年生を対象に新しい講座を開設した。これは知財教員

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合同のオムニバス講座である。近い将来これらの学生が知的財産法学研究科

に進学してくれると、理系と文系が入り混じり、授業のバランスが取りやす

くなるだろう。

<教員の特徴>

大企業だけでなく中小企業を相手に仕事をしている実務家を教員として採用

している。

著作権を専門とする教員が3名おり、他大学と比べて著作権が強いという特

徴がある。

<教育方法>

ほぼ全ての科目でグループワークやアクティブラーニングを取り入れている。

イーラーニングは著作権の問題を危惧しており、取り入れていない。

<その他>

大学院修了後に研究生として残る学生が多い点が他大学院と異なる。これら

の研究生は履修する科目数に制限がなくなるため、聴講生として改訂知財ス

キル標準の 2.1 管理に対応する科目を勉強している。通常の学生は 2.2 実務

に関する科目を中心に受講している。

大学院入学前に知的財産管理技能検定3級取得を課している。理工系出身の

学生には、希望者に入学前教育を提供している。

2. 知的財産法学研究科のカリキュラム

<カリキュラムの概要・特徴>

54単位を履修要件としている。他の大学院と比べると多い。

基礎科目は法学研究科、経営系科目は経営研究科、技術系科目は工学研究科

とのコラボレーション授業も行っている。

特徴的な科目としては、2年目の就業体験がある。これは最低40時間、実

務家の教員について、実際の案件に携わりながら理論が実践でどのように使

えるのかを学ぶ科目である。受講の条件として、知財実務と職業倫理を履修

し、秘密保持契約を結ぶこととしている。就業体験では主に出願の中間処理

を経験する。

知財英語は全て英語でディスカッションをする科目である。国際取引法も英

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文で勉強をする。

産学連携論は各論のまとめのような位置づけである。この中で、資金調達か

らライセンス交渉まで幅広く教えている。

国際標準化戦略論は他大学の教員が教えている。

隔年で中国の知財法を教えている。

知的財産法特論は著作権(放送)に関する内容を扱っている。

国際経営論の中で SWOT 分析を学ぶ。経営者との共通言語が使えるように

指導している。

ベンチャー企業論と、国際標準化と法は、受講者がいないため休講にする。

<改訂知財スキル標準との対応>

2.2.2 知的創造に対応する科目はない。

2.2.3 創造支援 B.発明支援は学部で教えているが、大学院で科目はない。

<必要性はあるが科目を整備していないスキル>

2.2.10 エンフォースメント E.模倣品排除は、科目を立てたいが講座数が多

くなりすぎてしまうため設置できていない。代わりに産学連携論の中で取り

上げている。

安全保障貿易管理は営業秘密と関連して教える必要があるが、現在不正競争

防止法を受け持っている教員は教えることができないため、整備できていな

い。そこで、産学連携論の授業の中で簡単に説明している。

PL 法も重要だと考えているが科目としてはない。特許明細書作成の中で教

えている。

1.1.1 戦略 D.組織デザインは、以前は租税法の中で扱っていたが現在の教

員は教えることができていない。

b 教授が退職後に継続できないことが明確な科目は設置することができない。

<カリキュラムの今後の方向性>

現状のカリキュラムは学生や卒業生のニーズにあっているので、現状を維持

する。必要に応じて企業ニーズに合わせて科目を増やしていく。

3. その他

知的財産を教える大学院はターゲットを「法律系」か「理系」かにあてるこ

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とで、大きく2種類に分けることができる。今年度の知財学会ではこのよう

なテーマで高度専門職人材の育成について考えることになっている。

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ヒアリング対象:C 大学院

応対者:c 教授

1. カリキュラムの現状

<育成する人材像>

弁理士試験に対応できるような法的知識をまずは習得させている。知財のル

ールをつかさどる「審判」としての養成は、C 大学院に求められている役割

の一つと認識している。社会人を対象とする夜間のコースもある。

<養成される能力>

大学院内では実践の経験は出来ないため、その不足を補うための教育拠点を

設立した。学生には大学内の様々な知財の問題の解決法を検討させている。

その活動から他学部が悩んでいる最先端の問題を知り、教育に落とし込むこ

とが出来る。

戦略論、組織論的な話は、知的財産経営の科目で整理していこうと考えてい

る。自社内の商品化までの手順のどこに強みがあり、どこに弱みがあり、そ

れらをどのように扱っていくかといった議論である。

戦略は企業によって異なり、あらゆる企業に適応できるような抽象化、標準

化ができるとは考えていない。従って現状は学生の就職先をある程度予測し、

就職先の決まった学生が就職先で十分仕事が出来るように取り上げる業種を

決め打ちで教育している。

2. カリキュラムの課題

<出口との連動性>

今は、大学院卒で新入社員としてすぐに仕事がこなせるような教育をしてい

るが、大学院生と新卒採用の間にある2年間の実務経験の差を埋められる教

育の必要性を感じている。企業特有のものなのかもしれないが、この2年間

で新卒採用者には企業のリーダーとして必要な要素が埋め込まれる。自分が

進む道を企業が進み道を基に考えられる能力である。

大学院で学んだ知識を実務においてインプリメンテーションするやり方は企

業によって異なるため、教育の方法が課題である。企業のプレーヤーとして

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どこまで知っておかなければ一流になれないかについて、プレーヤーと教育

するコーチとで協働で考えなければならない。

<必要と思われる科目>

政策担当者や知財専門家、コンサルタントのように、解のない問題を整理す

ることが楽しいとわからせる教育が必要である。それには15回の授業をす

べて外部から人を招いて講演をさせる科目が考えられる。

更に企業の話せる範囲で特徴を話してもらうだけでなく、事業を踏まえて

「業法」としてルールを作ることを教えられる科目が必要である。知的財産

法は業界をコントロールするためのルールである。大学院を経て社会人にな

ったときのスキルは重要であるが、このような業法に関するスキルは7年目

ぐらいの中堅層になった際に求められるスキルである。

開設するコースごとに目指す人材像をより明確にしてコースを作っていく必

要がある。

3. 今後求められる人材像と必要なスキル

<企業実務人材に要求される能力>

知財について知識も必要だが、それらを実務へインプリメンテーションする

ための技能が必要である。実務に落とし込める程度に具体化した内容と法律

の条文程度に抽象化された内容をつなげる技能である。企業に学生を輩出し

ている自分達も教えている内容と企業実務とでギャップを感じている。

知財をマネジメントする人材は、広範囲な最先端の知識が必要だが、それら

を一人で網羅する事は不可能である。従って自分のほかの専門化と情報のネ

ットワークを構築する必要がある。企業でやるべきことの整理をし、それに

ついて知識を提供してくれそうなキーパーソンを探し、関係をつくっていく

スキルが必要である。

知的財産法の半分は業法であり、業法が変わるとそこに新しいビジネスが生

まれる。自分たちの考えるビジネスに有利なように政府、業界や企業を動か

せなければ業法は変わらない。一方、ニッチな企業は業法を変えてつぶれて

しまうと困るので、自分たちのビジネスモデルをどう守るかの戦略が必要に

なる。その典型が著作権法である。 IT 企業は著作権法の中でインターフェ

ースをどう守っていくかを考え動いている。このように法律が自分の業その

ものをコントロールする要素になっていくことを理解させなければいけない。

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今や企業はグローバルに動いているから、世界で通じるルールで考えなけれ

ばならない。ルールの中で可能な活動分野を考えるか、新たにルールを作り

出すか、ルールから抜ける方法を考えるかの戦略を考えられなければいけな

い。

知財を専門とする者も、最終的には経営の事まで理解していなければいけな

い。法学部を出て目指すべきなのは経営層であって、必ずしも法務部長では

ない。

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ヒアリング先:D 大学院

応対者:d1 教授、d2 教授、d3 教授

1. カリキュラムの現状

<育成すべき人材像の改訂>

数年前にカリキュラムを大幅に改訂した。改訂に当たり「育てるべき人材

像」を明確に設定する必要があると考えた。そこで次の3種の人材像を考え

た。①知財法の実務家、知財部門として事業に貢献できる「イノベーション

支援人材」、②外国での国際的な業務を担える「グローバル知財人材」、③契

約や標準化など知財の戦略的活用について理解できる「知財マネジメント人

材」である。

理想的には、知財の法律と実務が分かり、知財のグローバル業務がこなせて、

知財のビジネス活用もできる「オールラウンド人材」を育成することを学則

上の教育目標に掲げているが、大学院の2年間で理想的な人材像には到達し

ないので、上記の3つの人材像を入り口として設定した。学生には、大学院

修了後の職業人生の自己成長の課程で理想系のオールラウンド人材を目指す

ように指導している。

人材像を検討するにあたり、企業から必要とされる人材である事を重視した。

企業に直接意見を聞きにも行き、最終的には殆どの企業から好評価をもらっ

た。とりわけ事業貢献の人材に対して企業からのニーズが高く、そのため D

大学院としても特に育てたい人材像と考えている。

改訂前までは、育成する人材像として「企業における実務人材」と「弁理

士」の2種類と設定していたが、企業のニーズを十分に満たせるものではな

かった。

<人材像に即した科目の改訂>

人材像を明確にしてから科目の新設、再配置について検討した。企業にとっ

て必要とされるかを重視したため、科目の内容もビジネスに関連する内容が

改訂前よりも拡充されている。

情報検索は新入社員に身に着けておいてほしい能力として多くの企業から求

められている。そのため D 大学院でも選択講座を既に開設しているが、今

後は全学生が受講する科目とし、内容もより実際のビジネスに則したものに

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していく事を考えている。

知財契約、国際知財契約は、類似の科目はカリキュラム改訂以前から開設し

ていたが、実際のビジネスを意識し内容を契約実務より交渉に重点を置くよ

うに改訂し、カリキュラムにおける位置づけも法実務からよりビジネスに関

わる科目となっている。

機械工学や電気工学など技術系の科目も複数開設している。製造業等で実務

を行うには実際の技術の事をわからないと話にならない。一方で知財を学ぶ

学生の多くは文系で技術的な勉強を一切した事のない人たちである。そのた

め彼らに対して技術アレルギーを緩和すること、わからない技術の情報を得

る方法論を理解させることを目的に開設した。この点は内容よりも教え方の

ノウハウが決定的に重要になる。

グローバル系の科目については、台湾等の留学生が多く参加しており、日本

語で学ばせる。これらのアジア系外国人を日本企業に就職させており、企業

からも好評である。また、海外留学生だけでなく日本人学生が履修できる正

規科目として、英語のみの講義によって内外の知的財産のテーマを学ぶ科目

も用意している。

一人の人間が知財人材として求められるあらゆる能力を一気に修得できるは

ずはないから、3つの人材像を入り口にして、時間をかけて全方位の人材を

育てることができるようにしている。そのため必要とされる能力を多様に想

定し、広いニーズに対応可能なようにしている。選択肢を多く用意すること

でその分多くの人に D 大学院をアピールし入学してもらいやすくなる。多

様性が高い分科目数も多い。

2. カリキュラムの課題

<今後整備したい科目>

知的財産の事業化を教える科目を導入したいと思っている。内容としては特

許公報を使ってその中の技術からどのような事業が可能か、事業計画まで考

えさせたい。学部生を対象とした企業主催の知財活用アイデアコンテストに

参加させたことがあり、教育効果が高かったことに着想を得た。既に出来上

がった特許の用途開発を検討することは、技術的な知識をあまり必要としな

いため文系でもできる。また、この逆に、事業のアイディアを企画し、その

実現に必要な技術や知財を探索するタイプの内容も盛り込む予定。開設のた

めには方法論を教えられる先生が必要だが、事業化の教育は先例がないため

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経験のある先生もいないので、試行錯誤しながら開始する予定。

製品デザインを知財戦略から考えさせるような授業も必要性を感じているが、

教えられる先生が未だ見つからない。韓国の家電などは性能だけでなくデザ

インで差別化されている。

グローバル系の科目は留学生が主に受講し、日本人学生の受講者が減少して

いる。語学への苦手意識からか純粋日本人でグローバルな知財人材を目指す

人が減っている。台湾・中国にいながら日本の知財を学んで日本の企業をさ

さえる日本語が話せる人材がいると日本の企業にとっては非常に有益である。

3. 大学院運営の方向性について

<大学院経営の観点>

知財専門職大学院は今後も必要である。それは企業からも当該専門職大学院

へのニーズがあるからである。但し一方で企業からのニーズに大学院が応え

続けるのは容易ではない。同じカリキュラムでも内容は絶えず変化させ続け

なくてはならない。

大学院を運営していくには連動する学部が必要である。学部から全く異なる

分野の大学院に進む学生は殆どいない。日本の場合、社会人も専門と異なる

大学院には行きたがらない傾向にあり、また会社との関係から積極的に進学

が出来ない状況も存在する。一般的に知的財産大学院に人が集まらないのは

そのような背景が一因である。学部が存在すればそこから対応する大学院に

引き込みやすくなる。

D 大学院では開設当初は社会人が多かった。その後、学部からの入学者が増

え、過半数を占めてきており、社会人学生は少なくなっている。

<出口の支援>

学部生に対してアピールしたのは就職のこと。つまりより良い企業に専門家

として就職できるということ。そのため大学院の修了生には大手など優良企

業に就職してもらう必要があり、また企業にとっても実際に役に立つ人材と

して受け入れられる必要がある。そのため教員は授業だけでなく就職の面倒

まで密に見るし、また教員の評価も教育活動だけでなく就職支援も考慮され

る。カリキュラムは学生に対しての身につけられる知識・スキルのラインナ

ップであり、企業にとっては学生が身につけてくる知識・スキルの性能表で

あると考えている。

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<他の社会人育成機関との棲み分け>

企業団体との関係性も考慮しなければならない。特許の専門領域の科目を、

実学で仕事しながら学び、企業団体のセミナーを受講して部分的に補う方法

でも実務上は十分対応できるのが現状である。自分が専門でやってきた領域

について、大学院で学びなおしたいと思う人は少ないのではないかと思う。

大学院教育ではエントリーレベルの内容や能力を体系的に学べ、通常5年か

かる基礎的な教育を、大学院を受講することで2年にするイメージである。

他方企業団体の研修はより個別的な戦術的能力をアドホックに育成するイメ

ージである。このような棲み分けを考えていく必要がある。

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ヒアリング先:E 大学院

応対者:e 教授

1. 大学院の専攻の概要

大学院の法学研究科の中に知的財産法を学ぶコースを設置している。

法律知識に裏付けられた実務を遂行できる専門家を養成する。法曹人材およ

び企業人を対象として、知的財産を専門的に扱う者または今後知的財産を専

門的に扱うことを望む者へ知的財産エキスパート育成を行うリカレント教育

が中心である。

2. カリキュラムの特徴

<コースの期間・授業曜日>

1年間で修士学位を取得することができる。

仕事と学業との両立ができるように授業は平日夜間と土曜日を中心にしてい

る。

<科目>

知的財産の創出から活用、その過程で生じる紛争の未然防止や紛争対応まで

の科目を体系的に整備している。

理論と実務の架橋を重要視しており、たとえば紛争処理の実践的な演習が行

われる。

<英語科目>

日本語による知的財産法の科目に加えて、グローバルなキャリアを想定して、

英語による知的財産法やビジネス法等も選択科目で履修可能となっている。

英語による科目を設置したのは、海外との交渉ニーズが高まっていることが

背景にある。科目設置にあたり企業のニーズを確認したところ、欧米の組織

との交渉が重要視されていた。

<教員>

知的財産分野の元裁判官や弁護士などの紛争処理の経験を豊富に有する専門

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家が教員になっている。

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ヒアリング先:F 大学院

応対者:f 教授

1. これまでの専攻の受講者の属性と進路

<社会人学生の属性>

社会人学生は、30 歳代後半〜40 歳代で、ある程度実務を経験した後に知財

を体系的に学びたいという層の他に、20 歳代後半~30 歳代で就職した会社

が合わずに転職を考えている人や、 50 歳代で役職定年になり独立を考えて

いる人の層などもあった。

弁理士や弁護士でキャリアアップしたい人もいた。

<学生の進路>

知財戦略専攻の新卒修了生の多くは、大手電機メーカー等へ就職が内定して

いた。大手企業が毎年専攻の学生のために出張企業説明会を開催してくれて

いたことからも、修了生は企業のニーズにあっていたと考えている。

研究職や技術職を経験してから知財部に配属する企業もあるため、これら新

卒の修了生の当初の配属先は必ずしも知財部ではないことも多い。

2. 新設する専攻の方向性

<専攻の対象学生>

基本的に社会人のみを対象にしている。

知財専攻ではなく、技術経営専攻で、技術職で今後は経営層を目指していく

人や文系職で技術企業の経営層を目指していく人を対象としている。

「技術者にとって学びやすいMBA」「ハイテクMBA」をコンセプトにし

ているため、内容は一般の技術経営専攻より経済やファイナンスを強化して

いるのが特徴である。

<新カリキュラムの今後の方向性>

知財部員に経営を教えるのか、経営層候補に知財を教えるのかと考えたとき

に、後者のほうが良いという考え方もある。その場合、経営層の候補者には

知財の権利化の専門知識よりも、知財の活用や戦略に関する知識の方が必要

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性は高い。新カリキュラムの今後としては、知財の活用や戦略の科目を強化

していく方向になると思われる。

3. その他

<社会人にとっての大学院教育>

トップ層の大手企業の知財部門は、直接海外のLL.M.コースやMBAコ

ース等に社員を派遣しているが、中堅企業の知財部門の場合、そこまでの余

裕がないのが実態である。

中堅企業が社員に知財教育を施す場合、実務で中心的な役割を果たしている

社員を 2 年間大学院へ通わせるという判断は取り難い。多くの企業は日本知

的財産協会のセミナー等で対応していると考えられる。

2 年間のフルコースの大学院が社会人にプラスアルファの教育を提供するこ

とは現実的には難しい面がある。学位のない短期の教育コースのほうが、使

い勝手が良いのかもしれない。

<研究と教育の好循環について>

大学の教授が企業の知財戦略の研究をして、研究を用いたケース教材が大学

院で提供され、大学院で知財知識を身につけた人材が社会で能力を発揮して、

その活躍が知財研究の題材となるというような循環は、理想的ではあるがハ

ードルが高い。特に私立大学院では、経営上の理由から、大規模な学生需要

が見込めない知財戦略の大学院を維持していくことは難しい。また知財戦略

は企業の経営にとって重要な機密情報のため表に出てきにくい。知財戦略の

研究には政策的な支援が必要だと考える。

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ヒアリング先:G 大学院

応対者:g 教授

1. 研究科の変遷と育成を目指す人材像

<研究科の変遷>

2000 年初頭に IT・ビジネス・知財を 3 本の柱として研究科を立ち上げた。

その後、ビジネス・知財に焦点を絞り、その後ビジネスと知財に専攻を分離

した。さらにその後、再びビジネスと知財を統合して現在の研究科となった。

再び統合したのは、工学ではなくイノベーションにつなげることが重視され

るようになり、イノベーションマネジメント人材育成の必要性が高まったと

いう時流のタイミングでもあった。

統合にともない、経営の学位と知財の学位のいずれかを取得できるように整

備した。

<育成を目指す人材像>

本研究科は、知財のわかる経営人材と経営のわかる知財人材の 2 つの人材像

を育成目標としている。

知財は特殊なものではなく経営のツールの一つである。知財専門人材も目指

すべき人材像の一つではあるが、知財を経営に役立てる意識を身につけるこ

とが必要。

<受け入れる学生>

以前と比べて、入学してくる学生に弁理士を目指す人が減った。一方、企業

の知財部を希望する人は増えている。

大学としては知財専門人材を目指す人だけでなく、幅広く知財と経営の両方

に興味がある人にきてほしい。

<知財科目を有する大学院の必要性>

知財専門家の育成と知財を体系的に学ぶために、大学院が必要だと考えてい

る。知財法を勉強する機会は弁理士試験の対策かセミナーしかなく、両極端

である。知財の専門家は絶対に必要であり、いまのところ知財大学院以外で

は体系的に勉強できるところはない。

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大学院は単に答えを求める場所ではなく、他社事例等を使って考え方を学び

研究するための場所である。

大学院は様々な人が集まり、一緒に学ぶことで多様な人脈を構築できること

も価値の一つ。

大学院は学位が取得できる点が他教育・研修機関と決定的に違う点である。

企業が社員を大学院に派遣しても、学位は個人に帰属するという関係性があ

るため、大学院の役割が誰向けかと語ることはやや難しい。

2. 研究科のカリキュラム

<カリキュラムの変化>

経営と知財の教員が共同で人材育成ができるように、知財をメインにしてい

ても経営系の研究指導教員をつけることができる。

2016 年以前は経営と知財のカリキュラムは分かれていたが、統合後は融合

人材の育成がしやすいカリキュラムにした。

大学院は在学期間が最長 3 年間あるため、あまり急激にカリキュラムを変更

することはできないが、時代のニーズに合わせて適宜カリキュラムの見直し

を行っている。

交渉学は知財科目だったが、共通科目にし、内容もそれに合わせたものとし

た。

専門科目は以前と大きくは変えていない。

標準化の科目はニーズが想定よりもあまりなかったので減らした。時代を先

取りし過ぎた内容であった。状況をみつつ再編成を検討している。

創造デザイン思考のインストラクターを養成している。デザイン思考やファ

シリテーションのスキルが知財部員等に求められているため。

<必要なカリキュラム>

標準化を単体で教えるのではなく、オープン&クローズ戦略と組み合わせる

ことも一案だろう。

IP ランドスケープは、様々なところからニーズがあり科目としてあったほ

うが良いかもしれない。 IP ランドスケープが科目名になっていたほうがよ

い。

イノベーションを生み出すための科目があっても良いだろう。

税務の話を教えるカリキュラムを整備したい。企業の知財部員としては知っ

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ておくべき科目である。組織デザインとも関連する。

創造技法についてはデザイン思考的なものを一部取り入れて教えている。

<科目履修>

本科生でなくても 7~8 割の科目は科目履修ができる。以前と比べて増えて

いる。

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ヒアリング先:H 大学院

応対者:h 教授

1. 専門職学位課程の概要

<育成する人材像>

イノベーション創出のリーダーとして、自ら理論を構築して産業や社会の発

展に貢献する実務家、つまり経営幹部やベンチャー起業家を育成したい。経

営幹部は知財の怖さを知っておく必要がある。また、ベンチャーはとくにハ

イテク系については EXIT の際に知財の評価が大切になる。そのために経営

戦略の一環とした知識を付与したいと考えている。

<学生の属性>

現状では学生のうち8割程度は社会人である。30代~40代前半で現場や

研究の課長級の人が、次の展開を考えて学びにきている。卒業後は、経営の

中枢に携わる、ベンチャーを立ち上げるなど実際に活躍している。

<教員の特徴>

多くの教員が実務経験をもっているが、研究者から教員に就任した人材も多

いことが特徴である。

<MOTの入学者>

H 大学のMOTの倍率は、設立時は6~7倍だったが、4、5年前に1倍

近くとなり、現在は2倍に上がっている。社会人では優秀な人が多く受験す

るため、合格は相当厳しい。

H 大学MOTの倍率が堅調な理由は主に3点ある。一点目は、技術経営の

リテラシー・スキルを把握するため、座学だけでなく経営戦略に関する実践

的な演習、研究の方法をしっかり教える方針に変えたこと。この点は入学説

明会でも強調している。学生の研究活動は教員全員でレビューされる。二点

目は、卒業生の評価が高いこと。学卒やデュアルディグリー(PhD×MOT

課程)の就職はいい。また社会人学生も卒業後に各々活躍をしている。三点

目はノンディグリープログラムとの相乗効果。これは社会人向けのプログラ

ムで、知財戦略に興味をもち、大学院に入学してくる人がいる。

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H 大学の社会人入学者のうち企業派遣は現状一社のみである。

2. 専門職学位課程のカリキュラム

<知財科目の概況>

科目「知的財産・標準化マネジメント」で教える内容は、3分の1~半分弱

が標準化、残りを知財戦略が占めている。授業のテーマは h 教授が決めて、

そのテーマを得意とする外部の専門家に講義をしてもらい、最先端の話をし

てもらう。

基礎的なことは h 教授が少し触れる程度である。各先生がそれぞれの経験

をもとに授業を行っているので、授業全体で体系的。網羅的に知財戦略を教

えているわけではない。

以前は、知財科目は6~8単位、授業にすると3~4科目はあったが、大学

院改革によって現在は2単位に減っている。減ったことに関しては学生から

不満が出ている。もっと勉強をしたい人は別キャンパスの講義をとる人もい

るが、昼間のため社会人はとりにくい。

<必要性はあるが実施できていない科目>

知財情報分析やポートフォリオについての実践的な演習科目を実施したい。

情報分析のスキルは経営戦略の研究にも役立つからである。時間的な制約と

教えられる教員がいないことが理由で実現できていないがゼミでカバーして

いる。

M&A や動産評価における知財価値の役割が大きくなっている中で、知財と

ファイナンスはこれから注目すべきテーマである。しかしこの分野における

知財の適切な評価は非常に新しい話であり理論がないため、学生に体系的に

教えることは難しい。

コンテンツ(著作権関連)は重要性が高いが現在は教えていない。以前コン

テンツ戦略を教えていたときは評判が高かった。

営業秘密のマネジメントについては、重要性が高まっているが講義の中で軽

く触れる程度。

<教育の特徴>

一般的なセミナーや本で得られる知識は自力で学ぶ方針としているため、講

義は討論が中心で座学は少ない。授業の約3分の1から半分は学生発表及び

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質疑応答が行われる。自分で調べて自分で考えることを積み重ね、その集大

成としてプロジェクトレポート(一般的な修士論文に相当するもの)を作成

する。

経営戦略の中の知財を学ぶことが重要であり、近年のプロジェクトレポート

では知財をテーマにしたり、経営戦略のために知財情報を分析(たとえばネ

ットワーク分析等)するものが多くなっていることからも、関心は高まって

いるといえる。そのような背景があり、一昨年までは判例や知財法概論の講

義があったが、企業における法律の知識は外部の特許事務所や弁護士事務所

に任せればよいとの考えから、現在は戦略系に科目を絞って実務の講義は行

わない方針に変わった。

経営者に知的財産を理解させるような「橋渡し人材」を育成することが重要。

知的財産部門であれば経営者と一緒に経営戦略を検討できるような人材にす

る。

米国を中心とした世界的な流れにおいて、公共的政策も教えるビジネススク

ールが増えている。企業経営者も政策とその動かし方を知っている必要があ

る。日本ではビジネススクールと公共政策を学ぶ大学院は分離している。H

大では大学改革にともない、公共政策を学ぶ科目を増やした。公共政策科目

では、法律や制度は人がつくるものだという意識を教える。

<今後の方向性>

MBAやMOTにおいて経営戦略に関する科目を教える場合は、多くの科目

でも知的財産の要素が一部含まれるようにするのが理想である。

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ヒアリング対象:I 大学院

応対者:i 教授

1. カリキュラムの現状

<大学院における知財科目>

I 大学院の理系大学院については、Dr.コースも含めほぼ全ての研究科にお

いて、必修として知財科目を受講させている。また、知財と生命科学を関連

させた科目を今年度より開設した(受講者が集まらず今年は開講できなかっ

た)。

一部の文系大学院については、統合の検討を進めておりその方向性が見え始

めた段階で必修科目の検討にも入れる。こちらも数年のうちに整理されると

思われ、文系の大学院についても全て数年以内に知財は必修科目となる見込

みである。

文系理系の区別はしていないが、経験上教え方として文系と理系のそれぞれ

に適したパターンが用意されているほうが望ましい。やはり技術に触れてこ

なかった文系の学生と技術に明るい理系の学生を同じ内容で教えるのには学

生側の負担が大きい。

<学部との継続性>

大学院での教育を検討することも重要だが、本来は学部からの継続性を考え

た制度設計にしなければ効率は上がらないと考える。たとえば理工系学部の

講義の中で、お菓子の箱など実際に作らせ、先行研究やクレームを調べさせ

て明細を書かせるところまでやる。学部でそういった選択科目を用意してい

るので、大学院には一定数は経験のある学生が入ってくる。

2. カリキュラムの課題

<今後整備したい科目>

改訂知財スキル標準に照らした場合、科目として概ね揃っていると認識して

いるが、ファイナンスについては科目を整備できていない。知財価値評価は、

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講座はあるものの内容としてはまだ不十分かと思う。

ライフサイエンス系の知財について教える必要があると考えているが、教材

が不足している。

契約実務は教材がない。当大学でも講義はあるが、国際契約実務などでより

具体的な内容の教材があるといい。手続法だけではなく、実際のビジネスに

おいては交渉術や各国の司法制度、執行制度の違いや実効性についても理解

している必要がある。

<カリキュラム新設における課題>

不足している理由として、講師がいない事情もあるが、カリキュラムが既に

過密でこれ以上新たに増やす事は、学生にとって極めて負担が大きい。学生

の負担を減らすために I 大学院でも土曜に開講したり、e ラーニングを積極

的に活用したり工夫はしているが、多くの大学でこの点は共通の悩みなので

はないかと思う。どこでも勉強ができるなど学生の負担を軽減する仕組みを

考えないと、足りない科目を単純に追加していくだけでは大学として回らな

いと思う。

どこの大学も赤字経済で人を新たに雇う余裕もない。従前の科目を維持する

事でも大変な中で新しい内容をいかに負担無く組込むかを考えなければなら

ない。

<人文社会系大学院の科目>

人文社会学系のための理論を実践に結びつけるためのカリキュラムはまだ手

薄である。音楽産業にしても関係者皆が満足できる落し所の検討などビジネ

スとして回すノウハウを学べる環境がない。

人文社会学系の学生が新たな創造のスキルを身につける教育が非常に大事だ

と考えているが、身につけられるようにするにはどういった内容の講座が必

要なのかは、実際の授業で色々と実験しているがまだ解が見えていない。

3. 今後求められる人材像と必要なカリキュラム

<今後の方向性>

大学院での知財教育には2つの方向性が考えられる。一つは高度な専門的知

識・スキルを身につけさせること。もう一つは一般教養として知っておくべ

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き基礎的内容を教育すること。

戦略系スキルの教育について、オープン&クローズ戦略の理解は当然必要と

考えられるため、 I 大学院でも学部から授業を開いている。一方で標準化を

考えるには知財の基本的な知識がやはり不可欠である。クローズにする部分

は知財として守る必要があるし、オープンにする部分も知財で制約をかけな

がら開放していく。 I 大学院では他機関(関係団体および省)と協力し、標

準化戦略を教えるための教材を作成した。

<求められる教育>

知財戦略にしても、誰が教えるか、という問題がある。知財戦略で成功した

人が講義をしても、話す内容は既に過去のものであり、また運よく成功した

だけかもしれず、一般化して教える事は出来ない。全く新しい事を考える際、

もちろん過去のことも知っていなければならないが、一般論として必要な事

が何か教えられる人がいない。

理論や過去の事例ももちろん教えるが、そこから先に新たな物をどのように

作り出していくかを身につけさせる教育が必要だが、そこまで教える大学は

少ない。存在しない答えを自分で作る必要があることに気づかせなければい

けない。唯一の答えはまだ存在していないという事を明確に教えてしまった

ほうがいいのかもしれない。学部から知財を教える事の意義はその事に気づ

かせる事にあると考えている。

<知財人材に必要なスキル>

精通している人を探し出し関係性を築くスキルのほうがむしろ重要かもしれ

ない。自社戦略にとって一番適切な状態を考えて行動し、一人では難しいの

であればオープン&クローズ戦略などを駆使しつつ力のある人とつながって

いける人。そういう積極性を持った人でなければ知財戦略も成功しないのだ

と思う。

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ヒアリング先:A 社(化学)

応対者:a 知的財産部長

1. 知財部および新卒者の構成

<知財部員の構成>

知財部は 26 名おり、平均年齢は 48 歳で経験年数は平均 11 年である。10 年

以上研究職を経験した人が多い。そのうち中途採用者は 2 名である。

<新卒採用者の構成>

会社の新卒採用者は毎年 30~40 名おり、そのうち 8 割以上が技術職である。

技術職は 8 割が修士卒、2 割が博士卒であり、学部卒はいない。

この 10 年間ほどで(社会に)弁理士資格をもっている人が増えており、そ

のようなプロフェッショナル人材を中途採用しやすくなった。弁理士と技術

のバックグランドの両方をもっている人材は新卒採用では獲得できないため、

キャリア採用のみである。

知的財産スキルを養成する大学院を修了した人材を採用したことはない。な

ぜなら、技術の知識がなく知的財産のスキルだけを身につけていても会社の

中では通用しないからである。

2. 社員の知財スキルの育成

<社員の知財スキルの育成>

基本的に技術をバックグランドとした人材を必要としており、技術をなくし

て知的財産のみを学ぶことはない。

化学の分野では排他権の考え方が重要であり、新卒の技術職にはまず排他権

の考え方の研修を行っている。もともとアカデミアを志向していた技術職は、

知財と事業の関係性の理解が不足している。

契約スキルは共同研究などの実務において、外部の弁理士や弁護士、研究組

合と付き合いながら実践でスキルを習得している。事業において契約交渉の

頻度が高いので、模擬交渉のスキルを訓練することができれば役に立つだろ

う。

外部の研修には、知財部員に加え研究員も出している。

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<企業において必要性が高いスキル>

知財部では、「同期する知財活動、責任ある参画、知財シナリオの提示」を

スローガンに掲げて活動している。同期する知財活動とは、後追いでも先回

りでもなく他の部署と同期すること、責任ある参画とは、最後に責任を取ろ

うとしなかった知財部の過去の姿勢を反省したもの、知財シナリオの提示と

は戦略をシナリオに置き換えたものである。

知財部はリスク回避の仕事が一番多い。リスクを回避するためには、リスク

を顕在化させるための仕事が必要である。

今後、技術動向調査などの調査業務が人工知能(AI)に置き換わっていく中

で、調査スキルの外部流出を防ぐための方策が必要だと感じている。現在、

化学の分野では特許データベースや研究リソースなどを提供する会社がアメ

リカの 2 社に寡占されている。これから AI が盛んになる中で、これらの企

業と関係が深くなればなるほど彼らの AI が賢くなり、知識が包括的に持っ

ていかれてしまう事態が生じる。このように情報の非対称がおきる時代には、

創造的な契約により調査スキルの流出を阻止することが必要になると考えて

いる。日本はもともとアメリカのような契約社会ではないため契約に関する

スキルが足りていない。特に技術系の契約スキルの育成が必要である。

<改訂知財スキル標準に基づく人材育成>

スキルは業務を経験しないと身に付かないものであり、改訂知財スキル標準

に照らして、体系的に人材育成をすることは難しい。

知財の実務スキルの 8 割は OJT や外部の研修会で育成することができる。残

りの 2 割が戦略スキルになってくる。知財部員のスキルを 8 割程度まで育て

ることは難しいことではないが、それ以上のスキル(戦略スキル)を身につ

けさせるには、もはや育成ではなく資質が問題になる。

3. 知的財産大学院に対する考え

<社員のリカレント教育>

定期的に技術職をMOTに派遣している。大学院への社員派遣には、資質の

ある人材に経営全般を学んでもらうという狙いがあり、その課程の一部とし

て知的財産を学んでくることはあっても、知的財産を中心に 2 年間学ぶ大学

院への派遣はない。知財部員を大学院へ派遣する場合も同様である。

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自社の事業にとって知財は必要条件であるが十分条件ではないため、大学院

の 2 年間に知的財産を中心に学ぶことの意義を見出しにくい。

<大学院に求める知財教育>

新卒の技術職は、大学や大学院において多少は知財の授業は受けているはず

だが、知財についてほとんど理解をしていない。特に知財と事業との関係性

の理解が不足している。

大学院では、事件の例やケース教材をつかって知財がなぜ大事なのかを学ぶ

べきである。知財制度を理解するために、若いうちにインパクトのある話を

聞くことが重要だ。

<知的財産大学院の位置づけ>

弁理士試験に通るためだけの勉強であれば知的財産の大学院は必要ないだろ

う。知的財産スキルを養成する大学院が弁理士試験以外の知財スキルを習得

するためのプログラムを作りこんでいる印象がなく、大学院の独自性が感じ

られない。

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ヒアリング先:B 社(印刷機械)

応対者:b 取締役、b 知的財産室長

1. 育成ニーズの高いスキル

<企業において必要性が高いスキル>

必要なスキルは、事業を創るスキルと守るスキルに大別できる。

事業を創るスキルの中で特に必要性が高いのは、1.1.1 戦略の A IP ランド

スケープ、2.1.3 法務の C 法的審査である。

IP ランドスケープとは、経営に役立つ特許情報を提供することだと理解し

ている。潜在的な新技術や技術動向を分析するためには、まず何を調べるの

かを考えて(嗅覚)、情報を収集、整理、統合、提示する能力が求められる。

IoT の進展により、事業が物作りからコト作りへ拡張する中で、他社とのパ

ートナーシップが増えていく。法的審査は、自分たちが事業を創るために知

財をどうするのかという上流側からアプローチするスキルが必要になる。出

願権利化は数が減っている中で、特許の中身をもっと良くしようと取り組ん

でいる。つまり単なる権利化処理ではなく、より戦略的な領域へ業務が広が

っている。

事業を守るスキルの中で特に必要性が高いのは、2.1.4 リスクマネジメント

の B 他社権利監視、2.2.1 B 他社権利、2.2.6 技術保護 A 国内特許権利化、

B 外国特許権利化である。

他社権利は、外部に鑑定に出したものを評価できるスキルが必要である。リ

ーガルアドバイスとビジネスディシジョンは別のものである。海外と口頭で

やりとりをするときに、海外の法律を理解して英語でやりとりができるスキ

ルが必要である。

出願権利化は 1 件 1 件中身を吟味して会社への貢献を考え、真に活用できる

特許を出願する。

海外の事務所任せではなく、現地の代理人と直接方針を決められるような法

的知識、英語力が必要である。アウトソーシングよりパートナーシップを築

いていくという意識で取り組んでいる。

これまではハードウェア単体で売れたが、いまはそこにサービス・アプリケ

ーションを組み合わせることで価値を出していく時代になった。メカの知財

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に詳しい人材はいるが、アプリケーションもセットにした知財となると苦手

な社員が多い。システムエンジニア的な考え方をもった知財人材をつくらな

ければならない。

グループの中期経営計画に知財がどうささるかが大事である。中期経営計画

を知財の観点から支えることができるような人材の育成がまだ不十分である。

改訂知財スキル標準にはないが、目利き力をもった人材がほしい。「絶対化

ける」ということが見抜けるような人材がほしい。

2. 社員の知財スキルの育成

<知財スキル育成の取り組み>

毎年テーマを決めて知財スキルの育成を行っている。

特許事務所の専門家に1ヶ月に1回きてもらって、外国実務の勉強会を開催

している。

弁理士を招いてクレームの書き方についての勉強会やワークショップを実施

している。

特許事務所へ出向いて、先行特許の調べ方(サーチストラテジー)について

指導を受ける機会をつくっている。

次世代リーダーには海外の業務経験を積んでもらうために、アメリカの法律

事務所へ実務研修に出している。アメリカの出願実務を学び、米国特許のス

ペシャリストになることを期待している。また、リーダーになるためのベー

ス作りの経験でもある。約1年半派遣する。

<知的財産大学院での人材育成>

b 氏は 2 年間、取締役の傍ら知的財産大学院に通って修士を取得した経験が

ある。b 氏が修了して以降、知財部のメンバーを毎年数名ずつ科目履修生と

して知的財産大学院に通わせている。

会社は実務本位のためベクトルが決まった仕事しかできないが、大学院に通

うとオープンに色々な人と話をすることができて、幅広い知識を得ることが

できるというメリットがある。

大学院は、大学を卒業してそのまま進学するよりも、就職して何年か社会人

を経験し、ある程度の基礎力がついてから進学したほうが、実務をイメージ

できるため応用力が身につく。

応用科目が増えると、社会人にとって役に立つ。

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<大学院に期待すること>

大学院では応用編を学ぶことは意義がある。一定の実務を経験した後に、大

学院で学ぶことで応用力が身につく。

知的財産大学院の科目履修ができる科目はエントリー層のレベルである。リ

ーダーを育成するような科目は MIP のコースに入らないと勉強ができない。

科目履修にリーダーになった人が勉強するとためになるような応用科目があ

るといい。

外部の育成機関を利用するのは、社内で育成できるが教える工数がない、も

しくは社内では人材育成しにくいテーマのどちらかである。日本知的財産協

会の研修には前者、大学院には後者を期待する。大学院では少人数で議論を

して考えるスキルの育成を期待している。

<人材育成の考え方>

一人の社員に対して、あらゆる知財スキルが必要だとは考えていない。スペ

シャリストをいかにつくっていけるかが重要だと考えている。たとえば社内

弁理士においてもマルチな能力ではなく、特許専門家や商標専門家など専門

分野をわけている。

3. 知財部の取り組み

知財部の活動と経営の関係性がみえないと社員のモチベーションは上がらな

い。そのため、知財活動と中期経営計画を明確に紐付けている。

知財部の活動をアピールするために、特許の発明表彰式や知財報告書を作成

している。知財報告書は日本語版と英語版を作成し、英語版は全世界のグル

ープの社長に配っている。知財と経営が一丸となっていることをアピールし

ている。

海外の代理人とは年次報告会を開催して、共に対面で討議をしている。業務

を丸投げしていた時代もあったが、上がってきたものをチェックするにも時

間がかかるので、共に良いものをつくるという関係を作るようになった。

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ヒアリング先:C 社(電気機械)

応対者:c 知的財産本部長、c 知的財産本部 室長

1. 知的財産大学院に関する意見

<法学研究科知財コース出身者の出口>

知財の仕事は3つの軸がある。経営の軸、技術の軸、法律の軸である。経営

は「適否」、技術は「正否」、法律は「当否」を問う仕事であり、知的財産は

この3つの軸を包含する領域が仕事になる。

おそらく法学研究科の知財コースに進学する人材は、司法試験対策として知

財を勉強して弁護士や弁理士になる、研究者(アカデミア)を志すかのどち

らかが出口になるのだろう。大学の産学連携本部などは就職先の一つになる

かもしれない。

法学研究科の出身者が企業で活躍するためには、知財法だけでなく法律全般

の知識と英語のスキルは必須である。企業は法律系出身者に、契約、交渉、

リーガル判断における活躍を期待している。

知財の係争や事件の処理は、その背景にある技術の理解がないと対応できな

いため、技術系の知識も必要である。

英語と技術を学部で勉強し、法律を大学院でマスターした人は、スキルのバ

ランスがよく企業において使い勝手はよい。

<知的財産大学院出身者の採用>

知的財産大学院出身者を採用したことがあるが、MIP だったことが採用理由

ではない。また学部で技術を学んで、MOTに進学した人を 3 名ほど採用し

た。この 3 名もMOTを出たことが採用理由ではない。

10 年前より将来の幹部候補生を社費で海外のロースクールやビジネススク

ール(MBAコース)に派遣している。主にグローバルな視点を身につけさ

せることが狙い。知財部員であっても、帰国後に知財の仕事にとどまる必要

はないと考えている。

短期のMBAコースにも社員を派遣している。

派遣先には一流の学校を選んでおり、グローバルなネットワーク作りも狙っ

ている。会社経営に貢献する人材を育成する目的で派遣しており、専門性を

極めることが目的ではない。

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<大学院への要望>

これから新設する大学のMBAには知財を全て英語で学ぶコースを提案した

い。また、短期のMBAコースがあれば、企業は人材を派遣しやすい。

2. 知的財産スキルの育成

<ケース教材による知財戦略スキルの育成>

知財戦略は、経営戦略と同様、ケース・バイ・ケースのため、知財戦略スキ

ルを育成するためには知財のケース教材を使って教える必要がある。知的財

産大学院には(できればすべて英語による)ケース教材を使った授業を期待

している。もともと答えのない領域であるため、唯一の答えがなくて議論が

できれば様々な気づきにつながる。最近は、データやノウハウを含めて知財

戦略を構築することが大事であるがケースがないので、社内で自社事例をつ

かったケース教材を開発している。

グーグルやアマゾンなどを題材にしたケース教材に興味がある。

<戦略スキルのニーズ>

戦略スキルを身につけるには、自分たちの知財と事業のポジショニングを客

観的にすることができるスキルが必要だ。

オープン&クローズ戦略は、業界の中でドミナントな地位を確立している企

業でない限り、難しいのではないか。フォロワー企業にとっては、まずはポ

ジション分析が重要である。

分析はマクロ分析だけでなく、細分化して分析をして、勝てる技術領域や分

野を明らかにするミクロ分析も重要であり、シナリオやストーリーをつくる

スキルも必要である。

3、4 番手で苦労している企業のケース教材が参考になるだろう。

ケースがあれば議論ができるので、教える人がいなくても使いこなすことは

可能ではないか。

3. その他

<日本の大学院教育について>

日本は海外に比べて人文科学系出身者の大学院への進学率が低すぎると感じ

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る。世界の経営者のほとんどはマスターをとっているが、日本の人文科学系

の経営者は学部卒が多い。これが日本の人文科学系の出身者が世界で渡り合

えていない理由の一つではないか。

専門職大学院は社会人をターゲットにするべきだろう。そのためには、専門

職大学院で専門知識を身につけた人が容易に転職できるように、日本企業の

雇用形態の見直しから議論が必要になるかもしれない。

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ヒアリング先:D 社(自動車部品)

応対者:d 知的財産本部長、d 知的財産本部長補佐

1. 企業の人材にとって必要なスキル

<戦略スキル>

改訂知財スキル標準の内容は、非常に的を射ている。戦略スキルの A~D は、

グローバルで戦う上でまさに必要としているスキルである。

D 社のライバルである海外企業は、オープンイノベーションや IP ランドス

ケープ、国際標準化に基いた戦略に長けており、ビジネスでは先手を打って

くる。このままではやられてしまうという危機感を抱いている。戦略スキル

をもった人材の育成は急務の課題である。

戦略スキル B の知財ポートフォリオマネジメントで大事なことは、特許だけ

でなくデータやノウハウなども含めてポートフォリオとして考えて、自分た

ちがもっている知財の価値を評価するスキルである。そのような価値評価の

切り口を大学院で提示してくれれば役に立つ。

戦略スキル D の組織デザインは、グローバルでのオーナーシップの考え方、

税制の問題など諸々直面しており、必要なスキルである。現在はコンサルタ

ントと一緒に検討をしている。

新事業の立ち上げにおいて知財の重要性が増している。新規事業の戦略を立

てるために、知財が暗闇を照らす明かりのような存在であってほしい。

<実行スキル>

実行スキルは、戦略と紐付けて考えることができるか、戦略をイメージでき

るかが非常に重要である。個々の特許をつなげて全体の方向性を描く能力が

必要である。

価値評価(2.2.11)は自社の評価だけでなく、競合からみた価値の分析と評

価も必要である。以前、捨てようと思っていた特許が、他社が欲しがってい

るものだとわかり冷や汗をかいた経験があった。

知財情報は他社分析の情報源として非常に重要である。現在、D 社では必要

に応じて知財アナリスト資格保有者をメンバーに加え知財分析を行っている。

知財アナリストは知財検索ソフトを使いこなし、展示会の情報や他社のニュ

ースリリースなどの情報を総合して他社の動向を分析する能力に長けている。

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アナリストの分析結果を踏まえて、自社の戦略を立てる部分に知財大学院出

身者の能力を発揮してほしいと考えている。

検索ソフトを使った実践的な演習は大学院では行われていないが、大学院出

身者にも基本的な検索能力は備えていてほしい。

知財の効果は数値化しにくいため、経営層に知財の投資効果を示しにくい。

知財部の予算を減らさないためにも、知財の重要さを経営に可視化する能力

が必要である。知財部の予算が青天井の企業もあるようだが、世の中の 7~

8 割の企業は知財の予算が厳しく管理されている。

2. 人材育成の取り組み

<社員の知財スキル育成の取り組み>

以前は知的財産専門職大学院の修士学位取得コースに社員を派遣した実績が

あったが、現在は派遣していない。現在は大学院の短期コースへ知的財産部

門のメンバーを毎年派遣している。

大学の短期コースを選んだのは、修士コースと比べると短時間の講座のため

仕事との両立が可能、費用負担も少ない、コースの中身が戦略に特化してい

る、現場経験のある人が講師を務めており現場の話を聞くことができる、企

業の知財に直結している、カリキュラムで扱うテーマが最新であることが理

由である。また、同プログラムが実務ではなく戦略に特化するなど、「新し

さ」を感じる内容であるため。

大学の短期コースに派遣することにより、新しいトピックにアンテナをはる、

他社とのネットワークを構築することを狙いとしている。

<人材育成のニーズ>

大学院は敷居が高いと感じる。1~2 ヶ月の期間で、4~5 回くらいの頻度で

部分的に開放してくれると参加しやすい。

企業の経営戦略にどれだけ貢献できるかが重要になっている。単なる権利化

や訴訟といった手続きのスキルよりも、戦略を考えたり、実務であっても戦

略における位置づけを考えたり、戦略にどうつなげるかが大切である。現在、

知的財産大学院の短期コースに知財本部のメンバーを派遣しているのは、正

解や答えのないテーマを取り扱っているからである。また、他社の最前線の

悩みを聞いて自社の問題認識の水準を知りたい

他社の課長や部長の苦労話を聞くことができると、役に立つ。答えがなくて

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も、他社がどのようなことに苦労しているのかという匂いをかぐだけでもよ

い。問題認識を持つきっかけになる。

<階層別の教育>

改訂知財スキル標準には 3 ステップがあると定義されているかが、知的財産

大学院はどこの層を目指した教育を行っているのか。つまり、知財本部長と

現場のマネージャー、担当者の 3 者に求められるスキルは異なる。これらを

網羅しようとすることは現実的ではない。層別に知財教育を考えるべきだろ

う。

一般的に企業の知財トップは開発部門等他部門のトップが就くことが多い。

このように落下傘でやってきた人には別の教育が必要ではないか。

3. 知的財産大学院への期待

<知的財産大学院の出身者>

知的財産大学院の卒業者は 2 名いる。1 名は 4 年生の大学を卒業して、他社

に勤務して知財の大切さに気づき、自費で知財大学院に通い MIP を取得して、

D 社に入社をした。もう 1 名は 4 年生の大学を卒業して、D 社に就職し、会

社の費用で知財大学院に派遣をして MIP を取得させた。前者は、知財の大切

さを認識して自ら勉強をしにいったことを買って、採用した。

彼らは戦略を学んできているが、現場ではスキルが活かしきれていない。経

営層は知財の重要度をあまり認識しておらず、MIP の知名度も低いので、知

財のMBA取得者だといって(伝え方を工夫して)、上層部へ売り込むこと

が必要だろう。

<知的財産大学院の出身者に期待すること>

弁理士は業務のパーツを担当する人材、知財大学院の出身者は幅広い知識を

もって活躍する人材という違いがある。弁理士は主に係争対応等をするエキ

スパートである。一方、知財大学院の出身者は知財の知識だけでなく、開発

経験、事業経験、事業マネジメント、社内の人脈などの幅広い経験を必要と

する。会社の DNA が入っていないと業務ができない。

係争対応を除き、弁理士資格を持っている人と持っていない人は同じ仕事を

している。

社内に弁理士資格保有者は 10 名いるが、事業マインドがないと仕事はでき

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ない。

大学や大学院で知的財産を学ぶ意味は 3 つある。一つは純粋な法学としての

知財研究、二つは社会学としての知財、三つは知財大学院でスキルを身につ

けるため。一つ目と二つ目は学問を目的としているが、三つ目は企業に就職

することを目的としている。

大学院は弁理士を養成する予備校との区別が必要だ。大学院には弁理士資格

の勉強以外も期待をしている。

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ヒアリング先:E 社(電気機械)

応対者:e 常務執行役

1. 大学・大学院に必要な知財教育

<大学院に必要な教育>

広い意味で知的財産法の知識が十分に備わっていない状態で、知財の応用科

目を履修する大学院生が少なくないと感じる。土台(基礎)がグラついてい

る上に知財戦略など高度な話をしても消化できず、身につかない。結果とし

て、そのような学習をしても実際の場面では応用が利かないということをか

なり強く感じている。大学院教育には基礎のたたき直しの必要性が一番感じ

るところである。

基礎としては、特許、商標、条約、不正競争防止法など知的財産法全般をレ

ビューする必要がある。「知的財産法特論」のような科目名になるのかもし

れない。判例の一つか二つをひいてもいい。

最近の大学院は基礎的な勉強よりも、知財を使った儲かるビジネスモデルに

飛びついてくる。しかしビジネスモデルは自分で考え出さなければならない

ことなので、そのような教育は危険だと感じる。最新のビジネスモデルや戦

略にウエイトを置きすぎるのは間違いだろう。

知財専門職大学院では基礎をやり直した上で、ケーススタディで実践力をつ

けておくのがよい。座学だけではピンとこないので、ケーススタディは実施

すべきである。ただし、実務はケース・バイ・ケースなので、ケースで学ん

だからといってスキルが身につくことはない。

オープン&クローズ戦略の基礎は教えておいて欲しいが、実際には実務に当

たらないとできるようにならない。

<大学に必要な教育>

大学院で基礎教育が必要になる背景には、大学の教養レベルで教えている知

財が十分に身についていないことが要因の一つである。大学レベルで知財の

基礎は必須にしてほしい。

<特に社会人大学院に必要な教育>

社会人大学院で最新のトピックを教えることは、ある時間軸の断面をみただ

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けに過ぎない。社会人には先を見通すスキルが大事になるため、そのように

断面だけをみてもあまり役に立たない。社会人向けの教育では、過去から現

在までの知財の変化を教えて、今後の見通しを立てるスキルを養成するべき。

2. 社内の知財教育

<知財研修>

知財部の新人は入社してから 3 年間は基礎固めとして、日本知的財産協会の

研修の受講が必須になっている。その後、中級レベルのスキルを習得するた

めに社内の研修で各自の業務に関連する講義を受けている。

社内研修は E 社の子会社で先行技術調査や知財教育を専門に行っている会社

が実施している。教育子会社の教育担当部門が、知財教育のプログラムをも

っている。

教育子会社では権利化、新規性・進歩性の考え方、営業秘密、不正競争防止

法、商標、法律のベースにあるものを多く教えている。基礎にかかる部分を

重点的に勉強している。

渉外やエンフォースメントは国内訴訟の例を出しながら触れているが、力点

はおいていない。

自社製品の具体例をできるだけ盛り込むようにしている。受講生は様々な事

業部の者が同じ講義を受けるため、一つの製品にフォーカスはできない。実

践的なスキルは、実務にあたりながら OJT で身に付けていく。

価値評価は実際のケースにあたらないと習得は難しい。

標準化スキルは、標準化の基本ルールをおさえた上で、あとは実践で経験を

積むことが必要である。実際に争われたときに必要なのは理論ではない。

<大学院への留学>

E 社は、比較的自由に大学院へ留学できる。以前、知財専門職大学院に社費

で社員が留学していたこともある。

昔はエリートしか留学できなかった。現在は大学院に積極的に行こうとする

人は少ない。

大学院への留学は長い目でみて、何かしらの能力アップがはかれると考えて

送り出している。

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<会社で活かされる大学院での教育>

知財大学院を卒業後に入社する人もいる。

知財大学院は何か専門知識を求めたり、答えを求めるというよりも、考え方

や情報の見つけ方を身につける場所だと感じている。会社に入ってからは、

大学院で身につけた情報の見つけ方、複合的なものの見方が活かされている。

得た知識がそのまま活かせるものではない。

3. 企業の人材に必要なスキル

<戦略スキル>

戦略スキルは誰でも身につけていて欲しい。リーダー層がもっているかとい

うと怪しい。

他社を買収するときに、デューデリジェンスや買収相手の特徴をつかむため

に知財を活用することはあるが、知財情報だけで経営戦略の判断はつかない。

知財情報が買収の決定打になることはない。

製薬業界はともかく、機械系の会社はかなりの知財を積み上げないと経営戦

略上の意味はない。このような業界では大して特許を取っていないレベルで

は、経営に貢献する知財を語ることはできない。

<知財の仕事に対する考え>

知財は時間軸の長い仕事である。E 社の事業のそのものがそういうスタンス

である。ゆっくりだけど、たゆまざることが大事であると考えている。(「た

ゆまざる 歩みおそろし かたつむり」)

特許は出願から取得まで 10 年かかるものもある。長い目でみて基礎力が一

番大事だと考えるのはそういう背景がある。

基礎がしっかりできていた人は会社に入ってから良い仕事をする。

<その他>

職務発明の表彰制度はかなり手厚い。おそらく日本でトップクラスだろう。

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ヒアリング先:F 社(電機)

応対者:f 執行役員、f 係長

1. 育成ニーズの高いスキル

<知財部の組織>

2017 年 4 月より、知財部門は R&D 組織の中に入った。

<企業の事業部員に必要なスキル>

特に必要性の高いスキルは、戦略( 1.1.1A、 B)、情報( 2.1.1B、 C)、調査

(2.2.1)である。

事業部にとって戦略とは効率がキーワードになる。会社は知財のデータベー

スを使って将来の知財を予想したいと考えている。そのためには、ウェブ、

論文、明細書の情報を網羅的に分析する必要があるが、事業部は業務が忙し

いため時間をかけて膨大な情報の精査や分類をすることはできない。

知財部であれば明細書の読み込みに専念できるが、彼らには技術を良く理解

していないというディスアドバンテージがある。技術を良く理解しているが

明細書を読み込む時間がない事業部とのギャップが生じている。このギャッ

プを、AI を使って効率的に読み込むようなツールを使って解消したい。

特許調査には点の調査と線の調査がある。点の調査は、請求権の範囲のまわ

りだけに着目してキーワードを調査するやり方で、調査結果に時間感覚やト

レンド感覚がない。知財部員は技術の背景知識がないため、あたりの付け方

が得意でなく、点の調査のやり方で取り組む傾向がある。一方、線の調査は

技術を理解しているため、事象を紐付けて考えることができる。技術がわか

っている人は線の調査を行うことができる。

たとえばスマート XXX のような分野の技術は、何をしてスマートとなるかに

は、形や定義がない。そのような分野に取り組む人には、自分が持っている

イメージと調べることを一致させられるようなスキルを持っていることが求

められる。

知的財産の扱いについては、知的財産法で許されている範囲にくわえ、税制

で許されている範囲がより制限されて重畳するため、知財法で問題がないこ

とでも、税制上は制限がかかることがある。特にグローバルに事業を展開す

る場合は国際税務の知識がないことはリスクになる。戦略を実行する上でも、

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- 133 -

事業部の人は基本的な規程の知識を身につけておくべきである。その意味で

規程(2.1.3B、C、D)のスキルは必要である。

エンフォースメント(2.2.10D、E)

全体像をみて判断ができるスキルが必要である。公平性の基本的な概念。知

財大学院は民法や契約法を学ぶことができるが、結構内容が端折られている

ため、応用からはいっていく。必要な時間とのトレードオフもあるが、最低

限、法学の基礎を学習できると良い。応用は企業に入ってから身につけるこ

とができる。

知的財産大学院を卒業した人が、(弁理士資格だけでなく)他に類似しない

ような専門性や独自性といった強みを身につけることができるのであれば、

今のような入学者減少の現状から変わるかもしれない。

2. 社員の知財スキルの育成

<知財スキル育成の取り組み>

自ら専門職大学院や日本知的財産協会などの社外セミナーに行って勉強して

いる人はいる。

<知的財産大学院で役立った教育>

係長の f 氏は前職にて法律事務所に所属していたが、その後知財専門職大学

院で知的財産を学んだ後、現在の職に就いた。今の仕事をしている中で大学

院の教育を振り返ったときに最も現在の職に役に立ったと感じる教育は「経

営戦略」である。

ある大学院の短期コースのように、経営戦略の一環として知財を広く勉強す

ることは社会人にとって実践的なのではないか。

<大学院に期待する教育>

応用(アプリケーション)は企業に入ってから覚えることもできる。大学院

では最低限、知財法の基礎を身につけることが必要だと考える。

そのうえで、社会人の学習者としては、経営戦略に知識を役立てるための実

践的な演習も必要だと考える。

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遊び紙

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資料Ⅱ デモ講義 動画ファイル構成

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デモ講義 動画ファイル構成

No. 収録時間 対応する

教材のテーマ名 活用した教材

動画 No.1 2 時間 34 分 No.5 中小 企業 にお

けるオープン &クロ

ーズ戦略(※)

No.5-1「株式会社グリーンテクノ21

~オープン戦略で商流を構築する~」

動画 No.2 1 時間 45 分 No.2 ソ フ ト ウ ェ

ア・ ICT 産業におけ

る知的財産を活用し

た事業戦略

No.2-1「知的財産と標準化を活用した

ソフトウェアビジネス~アドビシステ

ムズのアクロバットと PDF~」

No.2-3「競争領域を残した標準化戦略

~デジタルカメラのオープン&クロー

ズ戦略~」

動画 No.3 2 時間 5 分 No.8 イノ ベー ショ

ン の た め の デ ザ イ

ン・ブランド戦略

No.8-1「デザインとイノベーション」

No.8-3「ソニーのデザイン志向

~VAIO と First Flight の事例~」

No.8-4「iRobot のルンバ」

動画 No.4-1

動画 No.4-2

1 時間 32 分

1 時間 55 分

No.11 ビジネスモデ

ル デ ザ イ ン ( 入 門

編)

No.11-9「本体・メンテナンスモデルの

基本」

No.11-10「三浦工業の小型ボイラー事

業」

No.11-11「栗田工業の超純水供給事

業」

No.11-12「月島機械の下水道処理設備

事業」

動画 No.5 2 時間 45 分 No.10 オープンイノ

ベーションマネジメ

ント

No.10-2「オープン・イノベーション

の概説~なぜ、大切なのか~」

No.10-13「新市場開拓のためのコラボ

レーション~味の素のアミノインデッ

クス~」

No.10-1「オープン・イノベーション

のための組織と戦略~ GE の事例~」

動画 No.6-1 2 時間 39 分 No.12 オープンイノ

ベーションとマルチ

パーティネゴシエー

ション

No.12-1「次世代ビデオディスク~標

準化における仲間作りの戦略~」

No.12-2「ビデオソフトの標準化~標

準化における仲間作りの戦略~」

動画 No.6-2 2 時間 26 分 No.12-8「経営戦略実現のための交渉

マネージメント~国際的 M&A 交渉ケー

ス~」 ※動画 No.1 は分かりやすさのため中小企業(グリーンテクノ 21)の教材を選定しているが、「ビジネ

スコシステム」や「オープン&クローズ戦略」といった内容のため、この内容が含まれるテーマ「 1.

グローバル経営戦略」「 6. イノベーションマネジメント」の研修運営に当たっても参考にすること

ができる。

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資料Ⅲ スタートアップ向け知財コンテンツ

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成功事例に学ぶ!

スタートアップの知財戦略

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はじめに

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- 143 -

2

ウォームアップ

Works like magic

No stylus

Far more accurate

Ignores unintended touches

Multi-finger gestures

Patented!

2007年 画期的なインターフェイスを持つスマートフォンiPhoneの登場

「新製品であるiPhoneの特許権を登録済みであること」が

なぜ「ジョーク」になったのでしょうか?

*1 2007年1月9日MACWORLD SAN FRANCISCO iPhone プレゼンテーションより*2 本ウォームアップは金沢工業大学大学院 加藤浩一郎 教授の協力により作成

Boy have we patented it! *1

(特許登録済み!)

スティーブ

ジョブズ

観客

初代iPhone発表時のスライド*1

(説明方法)

・初代 iPhoneの特徴の説明の最後にジョブズは「Boy have we patented it!」と強調

した(スライドをみると、Patentedの後にエクスクラメーションマークも記載されて

いる)。

・そして、この発言の後、観客は笑った。

・「新製品 iPhoneの特許権を持っていること」がなぜ「ジョーク」になるのだろうか。

この説明はどこが「面白い」のだろうか。

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3

ウォームアップ

「新製品であるiPhoneの特許権を登録済みであること」が

なぜ「ジョーク」になったのでしょうか?

アップル マイクロソフト

1980年~90年代 画期的なインターフェイスを持つパーソナルコンピュータの登場

マッキントッシュ(先発)

ウィンドウズOS

(後発)

アイコン、マウス操作、ウィンドウ等 同様のグラフィック

インターフェイス

シェアトップへ

著作権侵害で提訴

▶アップル敗訴画期的

*本ウォームアップは金沢工業大学大学院 加藤浩一郎 教授の協力により作成

(説明方法)

・1984年にアップルは「マッキントッシュ」という、アイコン、マウス操作、ウィンド

ウといった当時では画期的なグラフィックインターフェイスを持つパソコンを発表し、

人気を博した。

・しかしその後、マイクロソフトも同様の GUIを持つウィンドウズ OS を発売。

・1988年にアップルはマイクロソフトを著作権侵害で訴えるものの、グラフィックイン

ターフェイスに著作権は認められず敗訴。

・その後、1995年にマイクロソフトのウィンドウズ 95が大ヒットし、PCはウィンドウ

ズ OSに市場シェアを握られてしまった。

・あくまで考察であるが、ジョブズの「Boy have we patented it! (特許登録済み)」

というのは、単に「技術が新しいこと」を訴求しただけではなく、「今回は特許権を取

っているのでビジネスで負けない」という意味とも取れる。

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- 145 -

4

対象者と狙い

本コンテンツ

何やればいいの?

後でいいんじゃない?

聞いてみよう!

今やらないと!

知的財産

特許

商標

意匠

「気づき」と「早めの対応」

(説明方法)

・このコンテンツはシードやアーリーステージのスタートアップで、知的財産の必要性

を感じているが何から手を付ければ良いのか分からない人材、知的財産の重要性を認

識せずに後回しにしている人等、これから知的財産マネジメントに取り組むべき人材

を対象にしている。

・本コンテンツを通じて、シードやアーリーの早い段階から知的財産マネジメントに取

り組むことの必要性に気づいてもらうことを狙いとしている。

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5

構成と特徴

第1部スタートアップのビジネスと知的財産

プライムセンス、ネスト・ラボ

第2部成長ステージ別のポイント

ウィル、成功・失敗事例(匿名) etc

第3部先進的なスタートアップのビジネスモデルと知財マネジメント事例

One Tap BUY、ソラコム、ユーグレナ、ペプチドリーム

国内外のスタートアップの実際の事例を中心にポイントを解説。

事例

事例

事例

(説明方法)

・本コンテンツは制度を中心に解説するというよりも、スタートアップに役立つような

ビジネスと知的財産の関係、知的財産をビジネスに活用した事例を中心にポイントを

解説する点が特徴である。

・第1部では知的財産の必要性と知的財産が事業に与えるインパクトを事例を用いて紹

介する。

・第2部では成長ステージを切り口に、スタートアップが気をつけるべきポイントを解

説する。

・第3部では先進的なビジネスモデルを構築し、成長しているスタートアップを取り上

げて、彼らがビジネスの中で知的財産がどのように活用しているのかを解説する。

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- 147 -

6

知的財産の種類 ~産業財産権とは~

特許権、実用新案権、意匠権、商標権はまとめて産業財産権と呼ばれ、各権利に

よって保護する対象や期間が異なる。

特許権

保護対象:自然法則を利用した、新規かつ高度で産業上利用可能な発明を保護保護期間:出願から20年

商標権

保護対象:商品・サービスを区別するために使用するマーク(文字、図形など)を保護保護期間:登録から10年(更新可能)

実用新案権

保護対象:物品の形状、構造、組合せに関する考案を保護保護期間:出願から10年

意匠権

保護対象:独創的で美感を有する物品の形状、模様、色彩等のデザインを保護保護期間:登録から20年

*特許庁(2016)「知的創造時代を拓くために」よりみずほ情報総研が作成

JPO

(例)画面操作のユーザインターフェース

(例)マークやロゴ

(例)スマートフォンのカバー

(例)スマートフォンの形状デザイン

(説明方法)

・特許権、実用新案権、意匠権、商標権はまとめて「産業財産権」と呼ばれ、各権利に

よって保護する対象や期間が異なる。

・例えば、スマートフォンの画面操作のユーザインターフェースやプログラミング、通

信方式などは特許権になる。

・例えば、携帯性を向上させてベルトに取付け可能なスマートフォンカバーの形状に関

する考案は実用新案権になる。

・例えば、メーカーが自社製品の信用保持のために製品などに表示するマークは商標権

になる。

・例えば、スマートフォンの形状デザインは意匠権になる。

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第1部スタートアップのビジネスと知的財産

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知的財産がスタートアップの事業にもたらすインパクト

早い段階での知的財産の確保は自社技術を保護するだけでなく、

大企業と提携し、事業を成長させるためのツールにもなる。

8

プライムセンス

大企業がスタートアップの知的財産を高く評価し、提携・急成長した事例*

2005年 創業

マイクロソフト

Xbox

360

Kinect

3Dセンシング技術の特許権

ライセンス料

*アニス・ウッザマン(2016) 「スタートアップ・バイブル」p.127

プライムセンス

急成長

技術提携2010年

高く評価2013年に大企業により高額(約360億円)で

買収されEXIT

(説明方法)

・プライムセンスは 2005 年にイスラエルで創業したスタートアップである。同社は3次

元空間の物体の動きを認識するセンサーやチップを開発しており、設立してまもなく

3Dセンシングの技術に関して特許を取得した。

・マイクロソフトは Xbox にジェスチャーや声によってゲームを操作する技術を搭載しよ

うと考えていた。

・2010年にプライムセンスとマイクロソフトは技術提携し、プライムセンスは自社の技

術の使用を許諾する代わりに、ライセンス収入を得た。

・プライムセンスはこれを機に事業を大きく成長させて、わずか 3年後に大企業に巨額

で買収された。

・つまり、早い段階での知的財産の確保は自社技術を保護するだけでなく、大企業と提

携し、事業を成長させるためのツールにもなる。

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- 150 -

9

知的財産がスタートアップの事業にもたらすインパクト

事業が成長すると、競合の大企業が知的財産を活用してくることがあり、

のちのち成長を脅かす大きなリスクになる。

ネスト・ラボ

大企業がスタートアップに対して知的財産を活用した事例*

2010年設立

侵害の判断スマートサーモスタット発売

(2011年)

ハネウェル(先行企業)

家庭用サーモスタット

(1953年-)

特許権

知的財産係争

急速に売上拡大 提訴(2012年)

損害賠償・販売差止の請求

*CNET News(2012年)「「iPodの父」創設のNest Labs、特許侵害でハネウェルから提訴される」

売り切れ続出

和解(2016年)

(説明方法)

・一方、知的財産は使われ方によっては成長を脅かすリスクになることもある。

・2010 年に設立したネスト・ラボは 2011 年 10 月にスマートサーモスタットを発売した。

スマートサーモスタットとは、室内の温度変化を検知して冷暖房のスイッチを調整す

るサーモスタットに人工知能が搭載されたもので、人の生活リズムを学習して最適な

温度調整をする機器である。

・この製品は発売後に急速に売上が拡大した。

・それに対して、以前よりサーモスタットを販売していた老舗企業のハネウェルは、ネ

スト・ラボの製品は自社の特許を侵害していると主張し、2012年 2月にネスト・ラボ

を提訴した。

・このように事業が成長すると、競合の大企業が知的財産を活用してくることがあり、

のちのち成長を脅かす大きなリスクになる。

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10

スタートアップの事業開発の変化と知財マネジメント

スタートアップと大企業とが連携しながら事業開発を行う形態が増えている。

連携を円滑にするためには、スタートアップ側の知的財産の確保がより重要に。

スタートアップ

成長

コーポレートアクセラレータプログラムによる支援

コーポレートベンチャーキャピタルによる支援

大企業知的財産 連携にあたり知財を評価

大企業

(狙い)

・プライムセンス事例とネスト・ラボ事例のまとめの位置づけ。これらの事例からの示

唆を整理する。

(説明方法)

・これまでスタートアップは一社が単独で事業開発をすることも多かった。

・しかし、近年の製品ライフサイクルの短期化や異業種企業との競争の激化等を背景と

して、スタートアップのビジネスは従来のように単独で事業開発を行っていたモデル

から、プライムセンスのように大企業との連携により両社の経営資源を活用し合いな

がら成長するモデルへと変化している。

・したがって、知的財産権を取得することは、従来のように自社のアイディア・技術を

保護するためだけでなく、大企業との連携を円滑にするためのツールとして重要にな

る。

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第2部成長ステージ別のポイント

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12

シード・アーリー:ビジネスモデルの確立

ビジネスモデルを確立した早期の段階で重要なアイディアや技術を知的財産とし

て保護することが競争優位のある企業をつくる。

企業名 設立 特許権 出願日

グーグル 1998年9月

プライスライン 1997年7月

アマゾン・ドット・コム 1995年8月

ビジネス上重要な特許権を初期段階で出願した事例*

*松倉秀実(2012) 「黒船特許の正体」p.47

*アニス・ウッザマン(2016) 「スタートアップ・バイブル」

ページランク特許

逆オークション特許

ワン・クリック特許

1998年1月

1998年8月

1997年9月

(説明方法)

・現在はメガベンチャーに成長しているこれらの企業は、ビジネス上重要な技術の特許

をいつ出願していたのだろうか。

・グーグルは、ウェブページの重要度を決定するためのアルゴリズムである「ページラ

ンク特許」を設立前に出願していた。

・プライスラインは、買い手が航空券やホテルの値段を指定すると、売り手が売り物を

提示して買い手が一番いい条件のものを買う仕組み「逆オークション特許」を設立し

て 1年後には出願していた。

・アマゾンは、あらかじめ支払い情報と住所を登録するとショッピングカート画面を経

由せずに注文ができる「ワン・クリック特許」を設立して 2年以内に出願していた。

・このようにビジネスモデルを確立した早期の段階で重要なアイディアや技術を知的財

産として保護することが、競争優位のある企業をつくるともいえる。

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- 154 -

特許権

13

シード・アーリー:PoCやビジネスのピボット

ビジネスモデル構築後も、PoCを通じてピボットを行った場合、それに合わせて

必ず知財戦略も見直す。

事業の変化に応じて知財の維持・放棄を選択した事例*

先端的DNA合成を行うコドン・デバイス特許権の確保により技術を独占

実用性や応用範囲が明らかに知財の維持・放棄を見直し

*渡部俊也(2012) 「イノベーターの知財マネジメント」p.192

当初

当初想定した事業領域

事業領域がシフト

知的財産権の維持コストの観点からも有効

知財の領域

特許権

特許権

特許権

※イメージ図

特許権

特許権

特許権

特許権

維持

取得

放棄

見直し後

(説明方法)

・近年ではビジネスモデル構築後も、ピボットを行い、すばやく事業を見直していくケ

ースも増えている。

・ボストンのバイオベンチャーであるコドン・デバイスは、コア技術の DNA合成がどの

用途で展開するのかが不確実だったため、想定した事業領域に対して探索的に知的財

産を取得する戦略をとった。

・その後、DNA合成の実用性や応用範囲が明らかになり、コドン・デバイスは事業領域

から外れた知的財産は放棄し、領域内のものは維持、新たに必要になったものは取得

するという見直しを行った。

・ビジネスモデル構築後も、PoCを通じてピボットを行った場合、それに合わせて必ず

知財戦略も見直そう。

・このことは知的財産権の見直しは維持コストの観点からも有効である。

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- 155 -

14

シード・アーリー:プロトタイプの公開

マーケティングや資金調達のためのピッチ等の場で、プロトタイプ段階の製品を

公開する場合は、公開しても良い情報と秘匿する情報の線引きを徹底する。

クラウドファンディングで情報が流出した事例*

スタートアップ

プロトタイプ

クラウドファンディング

他社

模倣

資金調達、プレマーケティングのために

*ヒアリング調査より作成

類似製品の販売

(説明方法)

・スタートアップがプレマーケティングや資金調達のために、プロトタイプ段階の製品

をクラウドファンディングやピッチ等の場で公開するケースも増えている。

・ここで紹介するのは実際の事例である。

・あるスタートアップが資金調達やマーケティングのためにクラウドファンディングに

プロトタイプを公開したところ、中国深圳の企業が模倣をして、類似製品を販売して

しまった。

・このことから、マーケティングや資金調達のためのピッチ等の場で、プロトタイプ段

階の製品を公開する場合は、公開しても良い情報と秘匿する情報の線引きを徹底する

ことが重要だといえる。

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- 156 -

15

シード・アーリー:ブランディング

プロダクト名やサービス名が決まったら商標権を早期に出願する。ローンチ後に

他社の商標権が見つかった場合は、ブランド価値に大きな損害が発生する。

スタートアップ

商標権の侵害で損害賠償命令、名称変更になった事例*

競合他社

ABCという名称で販売しよう!

ABCは商標登録済み

商標権侵害で提訴

賠償金の支払い 商品名の変更

*実際のスタートアップ事例より作成

ブランド価値の毀損

(説明方法)

・プロトタイプの公開・検証が終わり、製品やサービスをローンチするときには製品名

やサービス名を決めることになる。

・ここで紹介するのも実際にあった事例である。

・スタートアップが ABC という名称で製品を販売したところ、競合他社より ABCは既に

商標登録済みであり、商標権の侵害であると提訴された。

・これにより、スタートアップには賠償金の支払いが命じられ、商品名の変更も余儀な

くされてブランド価値は毀損した。

・このことからプロダクト名やサービス名が決まったら商標権を早期に出願する。ロー

ンチ後に他社の商標権が見つかった場合は、ブランド価値に大きな損害が発生する。

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累計800台を販売。米国でも販売が

本格化*2

16

アーリー・ミドル:ベンチャーキャピタルからの資金調達

知的財産は事業の優位性を客観的に示す指標になり、ベンチャーキャピタル等の

投資家からの投資を得やすくなることもある。

ウィル

電動車椅子ベンチャー

ベンチャーキャピタル

日本特許

*1INDUSTRY CO-CREATION(2017)「ニッチトップの知財戦略」

シード期の資金調達に成功した事例*

ウィル

高く評価

シリーズA,B30億円調達

どこの特許を押さえているかや特許に絡めたビジネスモデルの戦略は明確に審査された(杉江CEO)*1

「グローバルニッチな市場を目指す」

米国特許

欧州特許

*2 2016年11月時点

(説明方法)

・資金調達の場面においても知的財産が投資判断のポイントになることもある。

・電動車椅子事業を展開しているスタートアップ、ウィルは電動車椅子に関してグロー

バルにニッチ市場を創造・形成する戦略をとっていた。そのため日本だけでなく、米

国と欧州においても特許を取得した。

・ベンチャーキャピタルからは、ビジネス戦略と合致させてグローバルに特許を押さえ

ていることを高く評価された。

・その結果、シリーズ A,B で 30億円を調達することができ、大きく成長できた。

・このように知的財産は事業の優位性を客観的に示す指標の1つになり、ベンチャーキ

ャピタル等の投資家からの投資を得やすくなることもある。

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第3部先進的なスタートアップのビジネスモデルと知財マネジメント事例

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スタートアップのビジネスモデルに応じた知財戦略の重要性

知的財産をマネジメントするためには、ビジネスモデルの特性に応じて戦略を考

えることが上手くいくためのポイント。

18

スタートアップ

IT系ビジネスモデルの例

ユーザ

素材系ビジネスモデルの例

アプリ・サービス

スタートアップ

特許 素材

大企業共同開発

ユーザ

ユーザ

• ユーザ課金のビジネスモデルは利用者増が必須• 使いやすいUIがユーザ獲得のカギとなる

ユーザ獲得のカギを握るUIは、早期に特許を取得する

• 素材を供給して大手企業と共同開発を実施• 素材供給の交渉力が優位性を左右する

素材の製造方法を特許化すると技術が公開されてしまうため、秘匿化する

ビジネスモデルのポイントの例

知財戦略のポイントの例

ビジネスモデルのポイントの例

知財戦略のポイントの例

▶事業化秘匿化

(説明方法)

・知財マネジメントはビジネスモデルに応じて大きく異なる。

・そのため、第3部では IT系と素材系に分野を分けてスタートアップのビジネスと取り

上げて、それぞれのビジネスの特性に応じた知財の活用事例を紹介する。

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スタートアップのビジネスモデルに応じた知財マネジメント

従来の株取引では難しいと感じていた株初心者に対して、スタートアップである

ワンタップバイは簡単な操作で株の売買ができるスマホアプリを提供* 。

ワンタップバイ

ユーザ

証券会社の取引は難しそう

株取引経験者

株取引初心者

3タップで終了する株取引アプリ

証券会社

*日経FinTech(2917)「FinTechでは何か特許になり得るのか?」

ネット経由での複雑な操作による株取引

ユーザ ユーザ

ユーザ

ユーザ拡大

(説明方法)

・従来の株取引は、証券会社との間で複雑な取引操作が必要であり、株取引の初心者に

とっては敬遠されがちであった。

・ベンチャーであるワンタップバイは3タップの簡単な操作で株の売買ができる株取引

アプリを開発して、株取引初心者のユーザを拡大した。

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ワンタップバイはユーザ獲得の重要な要素となる「簡単な画面操作」に関して、

スマートフォンのユーザインターフェイスに関わる特許権を登録している* 。

スタートアップのビジネスモデルに応じた知財マネジメント

*日経FinTech(2917)「FinTechでは何か特許になり得るのか?」 画像は One Tap BUY 提供

One Tap BUY

3タップ以内での売買。

インジケーターの操作による銘柄の売買。

(説明方法)

・ワンタップバイは、ユーザ獲得の重要な要素となる画面操作のユーザインターフェー

スに関して特許を取得している。

・なお、ユーザインターフェースも特許権として保護の対象になる。

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IT系スタートアップの事例②

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ソラコムは移動体通信をクラウド化することで従来よりも簡単かつ安価にハード

ウェアをネットワークにつなげ、IoTのプラットフォームになっている*。

スタートアップのビジネスモデルに応じた知財マネジメント

通信機器

従来の通信手段(有線、

無線LANなど)

インターネット

従来

料金が高い 設定が難しい

顧客数は7,000を突破

大手キャリア

移動体通信基地局

通信機器ソラコム

料金が安い 設定が簡単

SIMカード

ソラコム

*ソラコムホームページより

(説明方法)

・IT機器をインターネットに接続するためには、従来であれば有線や無線 LANを必要と

したが、セキュリティや設定の難しさなど課題が多かった。また各通信サービスは、

人が利用することを前提とした通信利用料金が設定されているため、機器をつなぐに

は割高であった。

・ベンチャーであるソラコムは大手キャリアの基地局を活用し、パケット交換、課金管

理などの仕組みを全てクラウド上で展開をすることで、安全で設定が簡単な IoT専用

の通信サービスを構築した。また、IoTに特化した従量課金制の料金設定のため、従

来のものよりも安価に提供できた。

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スタートアップのビジネスモデルに応じた知財マネジメント

大手キャリア ソラコム通信機器

破壊的なアイディアとそれを実現する高い技術を保護する特許権を強みとしてい

る。グローバル展開を見据えた特許権も確保している。

複数のSIMカードを利用するための管理方法および管理サーバ

キャリア間相互接続網による国際ローミング時の遅延抑制

*特許情報プラットフォームより

無線端末にIPネットワークへのアクセスを提供するための同時接続機器の増加を可能にする

(3件)

(説明方法)

・ソラコムは破壊的なアイディアを実装しうる高い技術力と、それらをきちんと保護す

ることで今日まで成長をしている。

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素材系スタートアップの事例①

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ユーグレナはミドリムシの食用屋外大量培養技術を確立。ミドリムシを応用した

様々な商品を大手商社・食品メーカーと共同で開発・販売している*1 。

ユーグレナ

ミドリムシの食用屋外大量培養技術

食品

化粧品

燃料

大手企業ミドリムシ原料

*1ユーグレナのホームページより*2平成29年9月期決済短信〔日本標準〕(連結)より 画像はユーグレナ提供

スタートアップのビジネスモデルに応じた知財マネジメント

消費者

2012年マザーズ上場売上高139億円*2

(説明方法)

・ユーグレナは食用のミドリムシを屋外で大量に培養する技術を確立し、ミドリムシ原

料から、食品・化粧品・燃料など様々な製品を開発して、販売をしている。

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スタートアップのビジネスモデルに応じた知財マネジメント

ユーグレナ

ミドリムシの食用屋外大量培養法を特許にすると、その内容が公開されてしまい、

技術的優位を維持できなくなる。そこで特許権は取得せず秘匿化している*。

特許権

他社

培養法

特許にすると培養法が公開されてしまう※

食品

化粧品

燃料

培養ノウハウを取得し自社で素材を製造可能に

技術の特性によっては秘匿化の方が有利な場合も

消費者

※特許出願は出願日から1年6ヶ月経過後、出願内容が公開される。

秘匿化

*ミドリムシファミリーのホームページ「ミドリムシの培養法は特許がない?」*会社四季報オンライン(2015)「ミドリムシで快進撃続く ユーグレナの真価」

(説明方法)

・特許出願すると、出願内容は 1年半後には公開される。

・たとえば培養方法の特許を出願すると、培養方法が公開されてしまい、培養ノウハウ

を取得した他社が素材を製造するリスクがある。

・また、ミドリムシの技術特性上、他社が模倣をしてもユーグレナの培養方法であるか

どうかの判断がつかないため、仮にユーグレナが特許権を取得したとしても知財の活

用が難しい。

・そこでユーグレナはミドリムシの培養方法は特許化せずに、秘匿化をする戦略をとっ

ている。

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素材系スタートアップの事例②

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従来の創薬

ベンチャー

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ペプチドリームは難易度の高いペプチド創薬の基礎研究工程をシステム化し、

複数の大手製薬会社によるペプチド創薬のプラットフォームになっている* 。

大手製薬

大手製薬

大手製薬

大手製薬

ペプチドリーム

創薬プラットフォームシステム

共同開発、ライセンス

共同開発ライセンス

*UTECホームページ「奇跡の薬を作る。ペプチドリームの挑戦」を参考

スタートアップのビジネスモデルに応じた知財マネジメント

収益化に長い年月

上場から5期連続黒字

(説明方法)

・一般的に創薬ベンチャー企業は、ある製薬会社と共同開発を行い、成果をライセンス

するビジネスモデルである。もし開発成果である薬が販売されれば大きなライセンス

料がもたらされるが、収益化するまで長い期間がかかる。

・一方、ペプチドリームは難易度の高いペプチド創薬の基礎研究工程についてプラット

フォームシステムを構築し、薬を探索する段階で複数の製薬会社から共同開発費用や

ライセンス料を得るビジネスモデルを構築した。これにより上場から 5期連続で黒字

を実現した。

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複数の特許権やノウハウ等の知的財産を創薬プラットフォームシステムとして提供

し、ペプチド創薬のためには同システムの活用が不可欠である状況を構築した*。

他社が参入できないシステムを構築

スタートアップのビジネスモデルに応じた知財マネジメント

特殊ペプチド創製 ライブラリー化

高速スクリーニング

ペプチドリーム

中核となる特許

創薬プラットフォームシステム

探索時間は3週間程(大手は1年程)

共同開発、ライセンス大手製薬

大手製薬

大手製薬

+特許を使いこなすノウハウ

創薬システムの活用が必須

*図はペプチドリーム提供情報をもとに、みずほ情報総研が作成

候補物質が数兆(大手は数百万)

(説明方法)

・創薬プラットフォームは、特殊ペプチドを作り出し、ライブラリー化し、高速にスク

リーニングをするコア特許技術で構成される。

・特殊ペプチド創薬の候補物質のライブラリー数は大手の数百万に対して、数兆、スク

リーニングは大手企業が 1年かかるところを 3週間で行うことができるため、創薬シ

ステムを活用することが不可欠になっている。

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ビジネスモデルの構築段階から成長ステージに合わせて知的財産をマネジメント

することが、その後の成長につながっていく。

スタートアップ

EXIT

知的財産

まとめ

ビジネスの核となる知財取得

事業領域と知財を同期させる

公開情報と秘匿情報の線引き

商標権は早期に出願する

特許は事業競争力を示す指標

ビジネスモデル確立

PoC

ピボット

ブランディング

プレマーケティング

資金調達

(説明方法)

・これまでみてきたように、スタートアップが EXITに至るまで、成長ステージの各段階

で知的財産のポイントがある。

・ビジネスモデルを確立する早期の段階から知的財産を取得すること、また成長ステー

ジに合わせて知的財産をマネジメントすることが、スタートアップの成長につながっ

ていく。

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禁 無 断 転 載

平成 29年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書

企業等における知財人材の現状と大学院

レベルの当該人材育成の在り方に関する

調査研究報告書

平成 30 年 3 月

請負先 みずほ情報総研株式会社

〒101-8443 東京都千代田区神田錦町二丁目 3番地

電話 03-5281-5406

FAX 03-5281-5429

URL https://www.mizuho-ir.co.jp