第11章 水資源に関する国際的な取組み -...

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― 152 ― 第11章 水資源に関する国際的な取組み 1995年8 月に世界銀行より「水危機に直面する地球(Earth Faces Water Crisis)」,1997年2 月 に国連事務総長報告として「世界の淡水資源についての総括的アセスメント(Comprehensive Assessment of the Freshwater Resources of the World)」,2003年3 月の第3 回世界水フォーラムに おいて国連より「世界水発展報告書(World Water Development Report)」,2003年6 月のエビア ン・サミットでは,「水に関するG 8 行動計画」がそれぞれ発表された。 111 世界の水資源問題の現状 ( 1 )世界の水資源の現状 ① 世界の水資源の現状 国連事務総長報告「世界の淡水資源についての総括的アセスメント」によると,世界の一人 当たりの河川水等の量は,1970年(昭和45年)においては約12,900 /年であったのが,世界 人口の増加により1995年(平成 7 年)には約7,600 /年と約 4 割減少していると報告してい る。 河川水は,地球上で偏在している。例えば,アマゾン川の流量は世界の流量の約16%を占め ており,コンゴ川の流量はアフリカの流量の約1/3を占めている。その一方で,世界の陸地総 面積の約40%を占める乾燥,準乾燥地域における流量は,世界の流量の約 2 %しかない。さら に,これを一人当たりの河川水等の量でみると,地域別の人口分布にも大きく影響される (表11 1 1)。 このように,水は地域的に偏在性の非常に高い資源であり,加えて,近年の世界人口の増加, 経済の発展等により,水資源に関して量的にも質的にも様々な問題点が指摘されるようになっ てきている。 ② 世界の水利用の現状 国連の資料(Assessment of Water Resources and Water Availability in the World:WMO発行, 1996)では,1995年(平成 7 年)における世界の水使用量は約 3 兆6,000億 /年となってい る。このうち,農業用水が約 7 割近くを占め,工業用水が約 2 割,生活用水が約 1 割である。 地域別にみると,アジアでの使用量が最も多く,続いて北米,ヨーロッパの順となっている。

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第11章 水資源に関する国際的な取組み

1995年 8 月に世界銀行より「水危機に直面する地球(Earth Faces Water Crisis)」,1997年 2 月

に国連事務総長報告として「世界の淡水資源についての総括的アセスメント(Comprehensive

Assessment of the Freshwater Resources of the World)」,2003年 3 月の第 3 回世界水フォーラムに

おいて国連より「世界水発展報告書(World Water Development Report)」,2003年 6 月のエビア

ン・サミットでは,「水に関するG 8 行動計画」がそれぞれ発表された。

11―1 世界の水資源問題の現状

( 1 )世界の水資源の現状

① 世界の水資源の現状

国連事務総長報告「世界の淡水資源についての総括的アセスメント」によると,世界の一人

当たりの河川水等の量は,1970年(昭和45年)においては約12,900 /年であったのが,世界

人口の増加により1995年(平成 7 年)には約7,600 /年と約 4 割減少していると報告してい

る。

河川水は,地球上で偏在している。例えば,アマゾン川の流量は世界の流量の約16%を占め

ており,コンゴ川の流量はアフリカの流量の約1/3を占めている。その一方で,世界の陸地総

面積の約40%を占める乾燥,準乾燥地域における流量は,世界の流量の約 2 %しかない。さら

に,これを一人当たりの河川水等の量でみると,地域別の人口分布にも大きく影響される

(表11―1―1)。

このように,水は地域的に偏在性の非常に高い資源であり,加えて,近年の世界人口の増加,

経済の発展等により,水資源に関して量的にも質的にも様々な問題点が指摘されるようになっ

てきている。

② 世界の水利用の現状

国連の資料(Assessment of Water Resources and Water Availability in the World:WMO発行,

1996)では,1995年(平成 7 年)における世界の水使用量は約 3 兆6,000億 /年となってい

る。このうち,農業用水が約 7 割近くを占め,工業用水が約 2 割,生活用水が約 1 割である。

地域別にみると,アジアでの使用量が最も多く,続いて北米,ヨーロッパの順となっている。

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また,これを一人当たり水使用量でみると,北アメリカの使用量が最も多く,続いてオースト

ラリア・オセアニア,ヨーロッパとなっている。一人当たり生活用水使用量でみても同様であ

り,先進国の人口の割合が比較的多い地域で,水が多く使用されている(表11―1―2)。

また,水使用量の伸びをみると,1995年(平成 7 年)の水使用量は1950年(昭和25年)の約

2.6倍となっており,同期間における人口の伸び約2.2倍より高くなっている。特に生活用水の

使用量の伸びは約6.7倍と急増している(表11―1―2)。

( 2 )世界の水資源問題の現状

① 量的な面での問題の現状

「世界の淡水資源についての総括的アセスメント」では,次のように報告している。

1 )世界人口の約 8 %の人々が,河川水等のかなり多くの量がすでに使われている地域(こ

こでは,「使用量÷河川水等の量>40%」と定義)に住み水不足に陥っている。

2 )世界人口の約1/4の人々は,使用量の河川水等の量に対する割合が比較的高い地域(こ

こでは,「20%≦使用量÷河川水等の量≦40%」と定義)に住んでいることから,将来水

不足の状態に入る可能性が高い。

3 )いくつかの地域で,河川の流量の減少,湖沼の水量の減少,地下水の過剰汲み上げによ

る地盤沈下,塩水化等の障害が発生している。

表11- 1 - 1 地域別の河川水等の量

河川水等の量 (km3/year)

単位当たりの河川水等の量 (1,000m3/year)

km2当たり 一人当たり

ヨーロッパ 2,900 278 4.2

北米 7,770 320 17.0

アフリカ 4,040 134 5.7

アジア 13,508 309 4.0

南 米 12,030 674 38.0

オーストラリア・オセアニア 2,400 268 84.0

合 計 42,650 316 7.6

(注)1.Assessment of Water Resources and Water Availability in the World;Prof. I, A. Shiklomanov, 1996    (WMO 発行)による。   2.ここでは,河川水等の量は「降水量―蒸発散量―地下水浸透分」で計算。

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② 質的な面での問題の現状

病原菌や有害化学物質等の人体に有害な物質を含まない,安全な水の供給等に関しては,

「国際水供給と衛生の10年」(1981~1990年(昭和56~平成 2 年)の10ヶ年間)の下,国連開発

計画(UNDP)と世界保健機関(WHO)が中心となり,その推進が図られてきた。しかし,

WHOによれば,2000年時点で,まだ約11億人が安全な水の供給を受けることができない状況

にある。

また,世界人口の増加,経済発展等により生活用水使用量が大きく増加するとともに,河川

表11- 1 - 2 世界の地域別水使用量

(10億m3,100万人,リットル/人・日) 年 1950 1995 1995/1950

ヨーロッパ

生活用水 16 70 4.5工業用水 36 228 6.3農業用水 41 199 4.9合計 93 497 5.4人口 519 686 1.3一人当たり生活用水使用量 82 280 3.4一人当たり合計水使用量 490 1,985 4.1

北米

生活用水 22 71 3.2工業用水 104 266 2.6農業用水 155 315 2.0合計 281 652 2.3人口 217 455 2.1一人当たり生活用水使用量 278 425 1.5一人当たり合計水使用量 3,548 3,924 1.1

アフリカ

生活用水 1 17 13.2工業用水 1 10 6.9農業用水 54 134 2.5合計 56 161 2.9人口 220 743 3.4一人当たり生活用水使用量 16 63 3.9一人当たり合計水使用量 700 593 0.8

アジア

生活用水 11 160 14.5工業用水 33 184 5.6農業用水 815 1,741 2.1合計 859 2,085 2.4人口 1,415 3,332 2.4一人当たり生活用水使用量 21 132 6.2一人当たり合計水使用量 1,663 1,714 1.0

南米

生活用水 2 33 17.2工業用水 3 19 6.3農業用水 54 100 1.8合計 59 152 2.6人口 110 326 3.0一人当たり生活用水使用量 47 274 5.8一人当たり合計水使用量 1,474 1,273 0.9

オーストラリア オセアニア

生活用水 1 3 4.4工業用水 4 7 1.8農業用水 5 16 3.0合計 10 26 2.6人口 12 30 2.5一人当たり生活用水使用量 174 305 1.8一人当たり合計水使用量 2,333 2,407 1.0

合計

生活用水 53 354 6.7工業用水 182 714 3.9農業用水 1,124 2,504 2.2合計 1,358 3,572 2.6人口 2,493 5,572 2.2一人当たり生活用水使用量 58 174 3.0一人当たり合計水使用量 1,493 1,756 1.2

(出典)Assessment of Water Resources and Water Availability in the World;     Prof. I, A. Shiklomanov, 1996(WMO 発行)

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等の水質が悪化している地域も少なくない。

( 3 )将来的に懸念される世界の水資源問題

① 量的な面での問題

国連の資料(Assessment of Water Resources and Water Availability in the World:WMO発行,

1997)によれば,今後は,世界人口の増加(2025年(平成37年)時点で約83億人と予測),そ

れに伴う生産活動の発展,生活様式の変化等により水の需要量は着実に増加し,2025年には約

1.4倍にもなると予測している(表11―1―3)。

水資源は地域的偏在性が高い資源であるため,増加する水需要に対し供給力が追いつかない

地域が増加することが予想される。「世界の淡水資源についての総括的アセスメント」では,

将来,水不足の状態におかれると予測される人口の割合は,1995年(平成 7 年)に約1/3で

あったのが,2025年には約2/3になるとしている。

② 質的な面での問題

安全な水の供給を受けることのできない人々の数は,1990年には世界人口の約23%であった

が,2002年には約17%まで改善された。2002年時点で未だ約11億人が安全な水の供給が受けら

れない状況であるが,2015年までに安全な飲料水を入手できず,またはその余裕がない人口比

率を半減するという国連ミレニアム目標に向けて着実に進んでいるといえる。しかしながら,

サブサハラなど一部地域では,紛争・政権の不安定性・人口の急激な増加などにより,目標の

達成が困難な状況にあり,より一層の努力と支援が必要な状況にある。(Meeting the MDG

Drinking Water and Sanitation Target, A Mid-Term Assessement of Progress: WHO and UNICEF,

2004)

③ 供給面からの問題

水資源として利用可能な量は,降水量の変動等により絶えず変化するものであり,また,地

域的には,毎年のように発生する豪雨・干ばつ等の異常気象が,利用可能量に大きな影響を及

ぼす。

将来的に懸念される問題点として,人為的な要因による酸性雨や地球温暖化等の気候変動等

が水資源に与える影響が挙げられる。IPCC第 3 次評価報告書によれば,地球温暖化等の気候

変動が地域ごとの水資源に大きな影響を与えると予測している。

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( 4 )諸外国における水利用の現状

① アメリカ

アメリカの年間の水使用量は約4,793億 /年である。一人当たり水使用量は約1,647 /

人・年であり,我が国の約2.3倍である(1998-2002 AQASTAT Database)。水道の一人一日平均

使用量は,ニューヨーク市は約517 /人・日(2003),ロサンゼルス市は約532 /人・日

表11- 1 - 3 世界の地域別水需要量将来見通し

(10億m 3,100万人,リットル /人・日) 年 1995 2025 2025/1995

ヨーロッパ

生活用水 70 85 1.2工業用水 228 305 1.3農業用水 199 212 1.1合計 497 602 1.2人口 686 685 1.0一人当たり生活用水使用量 280 338 1.2一人当たり合計水使用量 1,985 2,406 1.2

北米

生活用水 71 89 1.3工業用水 266 306 1.2農業用水 315 399 1.3合計 652 794 1.2人口 455 595 1.3一人当たり生活用水使用量 425 408 1.0一人当たり合計水使用量 3,924 3,654 0.9

アフリカ

生活用水 17 60 3.5工業用水 10 19 2.0農業用水 134 175 1.3合計 161 254 1.6人口 743 1,558 2.1一人当たり生活用水使用量 63 105 1.7一人当たり合計水使用量 593 446 0.8

アジア

生活用水 160 343 2.1工業用水 184 409 2.2農業用水 1,741 2,245 1.3合計 2,085 2,997 1.4人口 3,332 4,913 1.5一人当たり生活用水使用量 132 191 1.5一人当たり合計水使用量 1,714 1,671 1.0

南米

生活用水 33 65 2.0工業用水 19 57 3.0農業用水 100 112 1.1合計 152 233 1.5人口 326 494 1.5一人当たり生活用水使用量 274 358 1.3一人当たり合計水使用量 1,273 1,292 1.0

オーストラリア オセアニア

生活用水 3 5 1.4工業用水 7 10 1.4農業用水 16 19 1.2合計 26 33 1.3人口 30 39 1.3一人当たり生活用水使用量 305 326 1.1一人当たり合計水使用量 2,407 2,365 1.0

合計

生活用水 354 645 1.8工業用水 714 1,106 1.5農業用水 2,504 3,162 1.3合計 3,572 4,913 1.4人口 5,572 8,284 1.5一人当たり生活用水使用量 174 213 1.2一人当たり合計水使用量 1,756 1,625 0.9

(出典)Assessment of Water Resources and Water Availability in the World;    Prof. I, A. Shiklomanov, 1996(WMO 発行)

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(2001)である(各市のHPより)。

② イギリス

イギリスの年間の水使用量は約95億 /年である。一人当たり水使用量は約160 /人・年

である(1998-2002 AQASTAT Database)。これは,我が国の一人当たり水使用量の約 2 割にす

ぎないが,イギリスにおいては農業用水の使用量の全体に占める割合がきわめて少ないという

点(約 3 %(我が国は約62%))などが要因として挙げられる。

③ フランス

フランスの年間の水使用量は約406億 /年である。一人当たり水使用量は約667 /人・年

である(1998-2002 AQASTAT Database)。

④ メキシコ

メキシコの年間の水使用量は約782億 /年である。一人当たり水使用量は約767 /人・年

である(1998-2002 AQUASTAT Database)。

⑤ 中国

中国の年間の水使用量は約6,303億 /年である。一人当たり水使用量は約484 /人・年で

ある(1998-2002 AQUASTAT Database)。

⑥ 南アフリカ共和国

南アフリカ共和国の年間の水使用量は約125億 /年である。一人当たり水使用量は約279

/人・年である(1998-2002 AQUASTAT Database)。

11―2 世界の水資源問題に対する取組み

( 1 )国連等による取組みの経緯

水資源に関する国際協力の必要性が高まるなか,我が国は国連等による取組みに対し積極的

に貢献している。

水問題が国際的に議論され始めたのは比較的最近であり,1977年にアルゼンチンのマルデル

プラタで開催された「国連水会議」が最初の大きな会議である。それ以降,様々な会議が開催

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されてきた(参考11―2 ― 1)。2002年には,地球サミットにおいて採択された「アジェンダ21」

の実施促進や新たに生じた課題等について論議するために「持続可能な開発に関する世界首脳

会議(ヨハネスブルグ・サミット)」が開催され,上記の他,統合的水資源管理及び水効率の

ための計画を2005年までに策定すること等が「実施計画」に盛り込まれた。

また,近い将来全地球規模で深刻化するであろう水危機に対し,情報提供や政策提言を行う

ことを趣旨とし,1996年に国際機関,学会等が中心となって「世界水会議」(WWC)が設立

された。このWWCが中心となって1997年以降, 3 年に 1 回世界水フォーラムが開催されてい

る(参考11―2 ― 2)。第 2 回世界水フォーラム(2000年 3 月)では,21世紀に向けた「世界水

ビジョン」が策定されるとともに,閣僚宣言が合意された。

第 3 回は,2003年 3 月に日本において開催され,「閣僚宣言」(参考11―2 ― 4)及び,「水行

動集―Time to Act―」(PWA:Portfolio of Water Actions)が発表された(参考11―2―5)。

その他に,国際機関としては,「国際水文学計画」(IHP),「国連アジア・太平洋経済社会委

員会」(ESCAP)の持続可能な開発と環境委員会,「経済協力開発機構」(OECD)の環境政策

委員会等がある。これら以外にも,「国際大ダム会議」,「国際かんがい排水委員会」,「国際水

道協会アジア・太平洋地域会議」,「アジア太平洋水文水資源協会」等,関係各省庁において政

府間交流,国際機関,国際会議等への参加等が積極的に行われており,成果をあげている(参

考11―2 ― 6)。これらの取組みには,先進国はもとより途上国も多数参加し,我が国もより積

極的に取り組むことが求められている。

一方,気候変動問題への対応については,これまでも国連機関を中心に様々な取組みがなさ

れている。1988年(昭和63年)11月に設立された「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)

では,1990年(平成 2 年)の「第一次評価報告書」,1995年(平成 7 年)の「第二次評価報告

書」に引き続き,「第三次評価報告書」の各作業部会報告書が2001年(平成13年)4 月に承認

されるとともに,各作業部会報告書をもとにした統合報告書が同年 9 月に承認された。

( 2 )最近の国際的な動きと我が国の取組み

2003年 3 月に京都,滋賀,大阪において第 3 回世界水フォーラムが開催された。日本政府が

主催した閣僚級国際会議の成果は,閣僚宣言と水行動集(PWA:Portfolio of Water Actions)の

2 つである。

水行動集は,各国・国際機関から自主的に提案された水問題解決に向けた具体的行動を取り

まとめたもので,2005年 6 月現在,46ヶ国及び20の機関から寄せられた合計525件の行動が盛

り込まれている。

また,閣僚宣言の第 9 項では,水行動集の着実な実施を図っていくためのモニタリングの仕

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組みとしてウェブサイトネットワークを構築することが合意された。

日本政府は,その定着までの間責任を持って管理することとし,国土交通省水資源部が中心

となり水行動集をモニタリングするためのウェブサイトネットワークを構築し,2003年 5 月か

ら暫定運用,2003年11月から本格運用を開始した。

このウェブサイトネットワークは,水行動を提案した各国・国際機関が自ら水行動の進捗状

況を管理できるものであり,公開されたウェブサイトにアクセスすれば,誰でも水行動集の全

容と個々の行動のフォローアップ状況を閲覧できる(図11―2―1)。(http://www.pwa-web.org/)

また,本ネットワークの活用は,2003年 6 月の G 8 エビアンサミット,8 月のドゥシャンベ

国際淡水フォーラムでは成果文書においてPWAの活用が推奨されている。

以下に,2004年度以降の水問題に関する国際的な動きと我が国の取組みについて紹介する

(図11―2―2)。

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図11- 2 - 1 PWAウェブサイトネットワーク

ユーザー

閲覧

A国

B国 C国 C国のウェブサイト サーバー

事務局 データベース サーバー

事務局 データベース サーバー

contributor

定期的にアクセス・更新 定期的にアクセス・更新

PWA入力 ページ

更新

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① 世界水週間(スウェーデン・ストックホルム)

2004年 8 月15日から21日にかけて,世界水週間(ワールド・ウォーター・ウイーク)が開催

された。これは,毎年 8 月にスウェーデン・ストックホルムにおいて,世界の水問題の関係者

が一堂に会して開催されるもので,我が国は,水行動集(PWA)に関するサイドイベントを

開催した。また,青少年が行う水に関する研究のうち優秀なものに対して与えられるストック

ホルム青少年水大賞には,日本代表の沖縄県立宮古農林高等学校により研究発表された「宮古

の水を守れ―土壌蓄積リンで環境に優しい有機肥料作り―」が選ばれた(写真11―2―1)。

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図11- 2 - 2 国際的な水に関する論議の流れ

国際的な水に関する論議の流れ

<国連ベース>

<世界水フォーラム>

国連 水に関する 行動の10年 2005~20152004~

1992

RIOサミット AGENDA21

2002

2003 2003

WSSD ヨハネス ブルグ

2004

CSD12

2005

ミレニアム サミット フォロー アップ

2005

CSD13

2000

ミレニアム サミット

BONN 淡水会議

水と衛生に 関する 諮問委員会

G8 エビアン サミット

タジキス タン国際 淡水フォー ラム

第 1回 モロッコ

1997

第 2回 オランダ

2000

第3回 日本

2003

第4回 メキシコ

2006

IICADⅢ

写真11- 2 - 1 ストックホルム青少年水大賞授賞式

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② アジア河川流域機関ネットワーク(NARBO)の活動

2004年 2 月,日本の水資源機構,アジア開発銀行,アジア開発銀行研究所の呼びかけで,ア

ジア河川流域機関ネットワーク(NARBO)が設立された。NARBOは,アジアモンスーン地域

における総合的水資源管理達成のための支援を目的とし,河川流域機関,水関係政府機関,学

術研究機関及び国際機関で構成され,2005年 6 月現在,11ヶ国46機関が加入している。

事務局本部は水資源機構に置かれており,設立以来,東南アジア地域,南アジア地域を対象

とした 2 回の研修(タイ及びスリランカで開催),各種ワークショップ,ニュースレター,

ホームページ,流域管理機関同士による姉妹協定,交流促進などのプログラムを実施している

(写真11―2―2)。(http://www.narbo.jp/index.htm)

③ 国連「水と衛生に関する諮問委員会」(国連本部,東京)

2004年 3 月22日の国連世界水の日に,国連アナン事務総長が新たな諮問機関として設置を発

表した国連「水と衛生に関する諮問委員会」(橋本龍太郎元内閣総理大臣を議長)の第一回会

合が,2004年 7 月22日と23日の両日,ニューヨーク国連本部において開催された。その際,①

水に関するミレニアム開発目標(MDGs)達成のために取り組むべき10の優先課題,②独立し

た機関として,具体的な行動と発言を続けていくこと,③ 3 つの作業部会を設置する等の合意

がなされた。

また,2004年12月 9 日と10日の両日,第 2 回会合が東京で開催され,「コミットメント(ガ

バナンス,人権等)」「動員(資金調達,パートナーシップ等)」「統合水資源管理(統合水資源

管理,防災等)」の 3 部会で討議した。

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写真11- 2 - 2 総合水資源管理研修(タイ,2004年 7・8 月)

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④ 統合水資源管理(IWRM)に関する国際会議(東京)

2004年12月 6 日から 8 日にかけて,統合水資源管理(IWRM)に関する国際会議が東京で開

催され,統合水資源管理および効率化計画に関する提言(仮訳)が以下のとおり取りまとめら

れた。

1.ヨハネスブルク実施計画で約束されたとおり,すべての国は統合水資源管理および水効率

化計画(IWRM計画)を策定すべきである。

2.2005年までに以下の点に焦点を当てた計画を作成すべきである

A.水開発および管理をどのように変えるのか

B.自らの考えるIWRMに向けて最初のステップとして実施するアクション

3.戦略的計画,資金動員および能力開発を重視するべきであり,様々な利害関係者の参加を

促すべきである。

また,国連「水と衛生に関する諮問委員会」に向けた緊急アピール(仮訳)が以下のとおり

提言された。

1.以下の目標が国連ミレニアム開発目標に採用されるべきである。

“2015年までに水災害による死者の数を半減する。”

2.この目標を達成するための重要なステップとして,以下の行動がすべての国でとられるべ

きである。

A.水災害に対するリスクマネジメント戦略を統合水資源管理(IWRM)の中に一体化すべ

きである。

B.監視・予測・警報・緊急対応体制を確立,強化する。

C.水災害に対する国際的な連携支援体制を確立する。

⑤ 第 4 回世界水フォーラム アジア・太平洋キックオフミーティング(東京)

2004年12月 8 日,第 4 回世界水フォーラムアジア・太平洋キックオフミーティングが東京で

開催され,第 4 回世界水フォーラムに向けたアジア・太平洋地域での準備活動に関する考え方

や今後のスケジュール等について議論を行った。

⑥ 第 4 回世界水フォーラム ビーコン会議(メキシコ・メキシコ・シティ)

2006年 3 月にメキシコで開催される第 4 回世界水フォーラムに向けた準備会合の一つとし

て,2005年 2 月24日と25日の両日,「枠組みテーマ&分野横断的視点のビーコン(各テーマ等

のコーディネーター機関等)および地域の代表によるワークショップ」がメキシコで開催され,

枠組みテーマ及び分野横断的視点にとって各々重要と考えられている問題意識をとりまとめた

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指針文書が示された。また,メキシコ事務局から第 4 回世界水フォーラムの準備プロセスに関

する発表や,それに対する参加者からのコメントやアドバイスを受けるための議論等が行われ

た。(写真11―2―3)

⑦ 国連持続可能な開発委員会第13会期(CSD13)(国連本部)

2005年 4 月11日から22日にかけて,ニューヨーク国連本部において国連持続可能な開発委員

会第13会期(CSD13)が開催された(写真11―2―4)。

この会議は,1992年の地球環境サミットのフォローアップを目的に毎年開催されているもの

で,2004年から2017年までの14年間は 2 年を 1 サイクルとする個別のテーマを設定し,集中的

な討議を行うこととされている。2005年は,第 1 サイクルの政策年にあたり,前年のCSD12

(2004年 4 月14日~30日)で確認された各国の現況を踏まえ,引き続き「水」,「衛生」,「人間

居住」のテーマについて,政策オプション,実施計画など今後の更なる取組みについて討議を

行い,「決定文書」(Decision Adopted by the Commission)として取りまとめられた。

本会合に並行して,日本政府は,サイドイベントでは「水行動集(PWA)及び同行動集に

含まれた各種プロジェクトの紹介」をメキシコ政府の協力のもと主催し,「モニタリングと評

価」(仏,日,伊,デンマーク等各国共催),「教育の10年」(日,DESA,ユネスコ共催)を共

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写真11- 2 - 3 第 4 回世界水フォーラム ビーコン会議

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催した。また,パートナーシップ・フェアでは厚生労働省主体で「我が国の自治体による都市

間の技術移転の取り組みについて(水・衛生を含む環境分野)」を出展した。

なお,国内では,2003年 3 月の第 3 回世界水フォーラムの開催を通じて構築された世界中の

人脈及び情報のネットワークやノウハウをさらに発展させて,地球上の水問題解決に向けた日

本と世界の架け橋となることを活動の目標とするNPO法人・日本水フォーラム(Japan Water

Forum)の設立大会が2004年12月に開催され,本格的な活動を開始している。

今後,水問題の解決に向けた国際会議として,2005年 9 月の国連ミレニアム開発目標フォ

ローアップ会合,2006年 3 月16日から22日にかけてメキシコシティにおいて第 4 回世界水

フォーラムが開催される。

国土交通省は,世界水フォーラム関係省庁会議を通じて関係省庁と連携を図りつつ,これら

の場において水行動集の着実なフォローアップを呼びかけるとともに,世界の水問題解決に向

けた取組みを推進することとしている。

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写真11- 2 - 4 国連持続可能な開発委員会第13会期(CSD13)

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地球上の水問題の解決に向けた日本と世界の掛け橋となる,NPO法人「日本水フォーラム」の

設立大会が2004年12月 6 日に東京都内で開催され,産・官・学・NGOからなる会長,副会長,

評議員,理事,会員など約130名が参集しました。

日本水フォーラム会長であり,第 3 回世界水フォーラムの運営委員会会長も務められた橋本龍

太郎元内閣総理大臣の議事のもと,今後の日本水フォーラムのあり方などに関する議論が行われ,

副会長である奥田碩 日本経団連会長,丹保憲仁 放送大学長,嘉田由紀子 子供と川とまちの

フォーラム代表からも日本水フォーラムに対する期待が述べられました。

○日本水フォーラムの活動の柱は以下の 6 つである。

1 .第 3 回世界水フォーラムで培われたノウハウ・情報ネットワークなどの維持発展

2 .関係国際・国内機関との協働・連携

3 .日本の水関係者との協働による国際水活動の実施

4 .人材育成・教育,啓発活動

5 .シンクタンク機能

6 .第 3 回世界水フォーラムのフォローアップ

<トピックス> 「日本水フォーラム」設立大会の開催

水行政 機関

水関連 機関

水 NGO

水学会

その他

水企業

各国 水パートナー シップ JWF

Japan Water Forum 日本水フォーラム

日本国内の水関連組織の連携

<北-北連携>

各国 政府

国連 機関

ASEAN諸国

<南との協力> 地域開発 銀行

国際 NGO 開

発途上国

WWC 世界水会議

GWP 世界水パート ナーシップ

関係国際・国内機関との協働・連携

挨拶する橋本元総理(会長) 日本水フォーラムの評議員・理事

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2006年 3 月にメキシコで開催される第 4 回世界水フォーラムの概要(2005年 6 月時点)は,以

下のとおりとなっている。

1 .概要

日程:2006年 3 月16日(木)~22日(水)の 7 日間

場所:メキシコシティ・バナメックスセンター(国際会議場)

構成:テーマ別フォーラム(世界の地域プロジェクト),水フェア,水EXPO,

閣僚級国際会議,水関連賞授与式(ハッサンⅡ世水大賞,京都水大賞)

2 .基本原則 (標語はLocal Actions for a Global Challenge)

(ア)水に関する政策の成功の鍵として,地域の知識や経験の価値を見直す

(イ)世界規模での地域行動支援のための具体的で政策指向型の成果を生み出す

(ウ)水問題は複雑かつ分野横断的な性格をもつことから,分野間の対話を促す

(エ)地域の課題に取組むため,準備プロセスにおいては,参加型の地域の枠組みを活用し,

地域および世界規模での約束につなげる

3 .テーマ別フォーラム:課題セッション(Topic-session)

17日(金)~21日(火)までの 5 日間にわたって,全体セッションやパラレルセッション等

が予定されている。

4 .閣僚級国際会議

21日(火),22日(水)の 2 日間にわたって,水関連閣僚の国際会議が開催される。

<トピックス> 第 4 回世界水フォーラムの概要

バナメックスセンター バナメックスセンター バナメックスセンターロビー バナメックスセンターロビー

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5 .水フェア

地域毎に 1 日ずつ文化・社会・教育的行事の日が割り振られて,フィルムフェスティバル,

各種パフォーマンス,写真展,子供向け行事などが予定されている。

6 .水EXPO

展示ブース用の場所は水関連の様々な展示に利用でき,水関連会社の製品やサービスの展示

などが予定されている。