学びに向かう力を高めるための学習過程 ~新たな問題を見いだす...

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1 実践のまとめ(第5学年 算数科) 田上町立田上小学校 教諭 駒形 誠 1 研究テーマ 学びに向かう力を高めるための学習過程 ~新たな問題を見いだす授業創り~ 2 研究テーマについて (1) テーマ設定の意図 平成29年3月に公示された新学習指導要領では,教科等の目標及び内容が「知識及び技能」,「思 考力,判断力,表現力等」「学びに向かう力,人間性等」で再整理された。私は,「学びに向かう力, 人間性等」という柱に着目した。 それは,算数の授業における子どもの様子,家庭学習の内容から強く感じるからである。授業中 に,友だちの解法を聞き,納得する姿が多く見られる。そして,授業の終末に類題も自力で解決で きる。しかし,他の時間に類似した問題に取り組む時,途端に解決できなくなっている。それは, 以下の子どもの姿が要因だと考える。 ○友だちの解法を1つ聞き,答えを導くことができたところで考えが留まっている。 ○「この問題どうやるの」とすぐに解法を聞いてくる。 ○家庭学習において,授業を踏まえて発展的な学習内容にならない。(算数の授業ノートをその まま写すに留まる) 「今日の授業をいろいろな見方で考えてみよう」などの多面的に捉える姿や「どうやって解くこ とができるか」などの粘り強く検討しようとする態度が養われていないことが浮き彫りとなった。 まさしく,「学びに向かう力」が高まっていないと私は捉える。また上述のような姿で関心・意欲・ 態度を育成してきたとみなしていた私の指導観も一蹴したい。 新学習指導要領解説(算数編)に「算数・数学の学習過程のイメージ」(図1)が明示されてい る。一つは,『日常生活や社会の事象を数理的に捉え,数学的に表現・処理し,問題を解決し,解 決過程を振り返り得られた結果の意味 を考察する,といった問題解決の過程』 である。もう一つは『数学の事象につい て統合的・発展的に捉えて新たな問題を 設定し,数学的に処理し,問題を解決し, 解決過程を振り返って概念を形成した り体系化したりする,という問題解決の 過程』である。この二つの過程が相互に 関わって展開されることが大切である。 また「事象を数理的に捉え,数学の問題 を見いだし,問題を自立的,協働的に解 決できる」ことを目指していくことが明示されている。 図1 以上のことから,問題から得た結果から新たな問題を見いだしていくことが,多面的に捉えたり, 粘り強く検討したりして,子どもの「学びに向かう力」を高めるために有効であると考えた。 そこで,本研究では,新たな問題を見いだしやすい学習過程を構築する単元構成を行うことで, 子どもが学びに向かう姿が表出できると仮定し,検証していくこととした。

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1

実践のまとめ(第5学年 算数科)

田上町立田上小学校 教諭 駒形 誠

1 研究テーマ

学びに向かう力を高めるための学習過程 ~新たな問題を見いだす授業創り~

2 研究テーマについて

(1) テーマ設定の意図

平成 29年3月に公示された新学習指導要領では,教科等の目標及び内容が「知識及び技能」,「思

考力,判断力,表現力等」「学びに向かう力,人間性等」で再整理された。私は,「学びに向かう力,

人間性等」という柱に着目した。

それは,算数の授業における子どもの様子,家庭学習の内容から強く感じるからである。授業中

に,友だちの解法を聞き,納得する姿が多く見られる。そして,授業の終末に類題も自力で解決で

きる。しかし,他の時間に類似した問題に取り組む時,途端に解決できなくなっている。それは,

以下の子どもの姿が要因だと考える。

○友だちの解法を1つ聞き,答えを導くことができたところで考えが留まっている。

○「この問題どうやるの」とすぐに解法を聞いてくる。

○家庭学習において,授業を踏まえて発展的な学習内容にならない。(算数の授業ノートをその

まま写すに留まる)

「今日の授業をいろいろな見方で考えてみよう」などの多面的に捉える姿や「どうやって解くこ

とができるか」などの粘り強く検討しようとする態度が養われていないことが浮き彫りとなった。

まさしく,「学びに向かう力」が高まっていないと私は捉える。また上述のような姿で関心・意欲・

態度を育成してきたとみなしていた私の指導観も一蹴したい。

新学習指導要領解説(算数編)に「算数・数学の学習過程のイメージ」(図1)が明示されてい

る。一つは,『日常生活や社会の事象を数理的に捉え,数学的に表現・処理し,問題を解決し,解

決過程を振り返り得られた結果の意味

を考察する,といった問題解決の過程』

である。もう一つは『数学の事象につい

て統合的・発展的に捉えて新たな問題を

設定し,数学的に処理し,問題を解決し,

解決過程を振り返って概念を形成した

り体系化したりする,という問題解決の

過程』である。この二つの過程が相互に

関わって展開されることが大切である。

また「事象を数理的に捉え,数学の問題

を見いだし,問題を自立的,協働的に解

決できる」ことを目指していくことが明示されている。 図1

以上のことから,問題から得た結果から新たな問題を見いだしていくことが,多面的に捉えたり,

粘り強く検討したりして,子どもの「学びに向かう力」を高めるために有効であると考えた。

そこで,本研究では,新たな問題を見いだしやすい学習過程を構築する単元構成を行うことで,

子どもが学びに向かう姿が表出できると仮定し,検証していくこととした。

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(2) 目指す「学びに向かう力」を高めた子どもの姿

第5学年の目標(3)で明示されている内容は以下の通りである。

数学的に表現・処理したことを振り返り,多面的に捉え検討してよりよいものを求めて粘り強

く考える態度,数学のよさに気付き学習したことを生活や学習に活用しようとする態度を養う。

私は,焦点化した問題の結果から「違う数だったらどうなるか」「もっと違う解法があるんじゃ

ないか」など多面的に捉えたとき,「学びに向かった」と判断する。

多面的な視点が生まれることで,新たな方向性が生まれる。そして,いくつもの解法が算数授業

で子どもの考えとして提示され,「この考え方とこの考え方が似ているよ」「計算しなくてもでき

る!」など統合的・発展的な算数授業が展開される。その土台となる上述の「学びに向かった姿」

を目指していく。

(3) 新たな問題を見いだしやすい学習過程を構築する単元構成

子どもの「学びに向かう力」を高めるための学習過程を構築する単元を次のように構想する。

① 単元を通して,一貫した題材を取り扱えるような単元構成を行う

焦点化した問題の結果から「違う数だったらどうなるか」「もっと違う解法があるんじゃない

か」などの多面的な視点をもてるようにするために,単元を通して取り扱う題材を工夫していく。

本単元「倍数と約数」では,単元を通して『四角形の敷き詰め』を扱っていく。倍数,約数とも

に四角形の敷き詰めから考えることができる。そうすることで,倍数と約数の関係も見いだしや

すくなると同時に,「縦○cmを△cmにしたらどうなるか」など数値を変えて考えてみたいと子ど

もからの疑問が出やすくなるといった,多面的な捉えが養われると考える。

② 本時の学習課題を前時の終末に決めておく

これまでの私の算数の授業では,授業の導入で子どもたちに問題提示し,学習課題をつくって

いく授業が多かった。そうすると,問題の内容をつかみ,学習課題を設定するのに導入で時間が

かかってしまい,展開の考えを深める場面では時間が足りずに,学ばせたい本筋の部分のみ取り

上げて,多面的に捉えることができないことが多かった。

そこで,本単元では,前時と次時をつなげられるような学習過程を構築していく。(図2)特

に,前時の終末では,次時の学習課題を設定させる。これは,「他の数だったらどうなるか」な

どの新たな問題を見いだしていく

姿から設定されることに留意する。

前時でつくった新たな問題を次の

時間にやってみようという意欲を

もち,本時の学習に入っていく。そ

うすることで,展開での考えを深め

る場面で十分に時間を確保でき,多

面的な捉えを取り上げて,共有して

いくことができるとともに,子ども

たち自身で新たな問題を見いだし

たことで学びに向かう力も養われ

ると考える。 図2

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(4) 研究テーマにかかわる評価

○ 学級集団の追求状況から,本時の学習の結果から新たな問題を見いだしていったかを考察し,

研究テーマに関わる手立ての有効性を検証する。(子どものつぶやき,ノート)

○ 多面的に考える良さを実感できている子どもを 70%以上にする。(アンケート)

3 単元と指導計画

(1) 単元名 「倍数と約数」

(2) 単元の目標

○整数の性質についての理解を深める。

・整数は,観点を決めると偶数,奇数に類別されることを理解する。

・約数,倍数について理解する。

・素数について触れる。

○学習した倍数,約数の考えを他の数に当てはめて考えようとする。

(3) 単元の評価規準

関心・意欲・態度 数学的な考え方 技能 知識・理解

倍数,約数の考えを問

題解決や日常生活の場

面で役立てようとして

いる。

整数を倍数,約数の観

点から分類して考え,

分類した数の集まりに

共通の特徴を考えてい

る。

倍数・公倍数・最小公

倍数,約数・公約数・

最大公倍数を求めるこ

とができる。

倍数・公倍数・最小公

倍数や約数・公約数・

最大公倍数,素数の意

味と求め方を理解して

いる。また,整数の見

方についての豊かな感

覚をもっている。

(4) 単元の指導計画(全 13時間 本時 10/13時間)

次 時 学習内容 学習活動 主な評価の観点と方法

第1次(4)

1 倍数について知る。

7cmの正方形を積む

活動をする。

倍数の意味や定義を理解する。

☆数表を用いて,倍数が求められる。

2 奇数,偶数について知る。 奇数と偶数の意味を

知り,数表や数直線に

表す。

奇数,偶数を理解する。

☆数直線や数表を用いて,奇数,偶数

を表せる。

12の約数を知る。

1とその数しか約数がな

い数は素数であることを

知る。

約数と倍数の関係を知る。

12cmの高さに縦○cm

(整数)の正方形を敷

き詰める。

約数や素数の意味や定義を理解する。

約数と倍数の関係を理解する。

☆12の約数が漏れや落ちなく求めら

れる。

☆素数が答えられる。

第2次(5)

5 公倍数,最小公倍数を知

る。

縦5cm横6cmの長方

形の紙を敷き詰めて

正方形の形にする。

公倍数と最小公倍数の意味や定義を

理解する。

☆敷き詰め模様で最小の正方形を求

められる。

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4

6と7の倍数を基準にし

て考える,数を並べる方法

を見いだす。

2つの数の積が最小公倍

数になることに気づく。

6と7の公倍数の求

め方を考える。

最小公倍数の求め方

を考える。

倍数の求め方を考え,導くことができ

る。

☆数や数表を用いて公倍数を求めら

れる。

2つの数の積では,最小公

倍数を求められない場合

があることを知り,その数

自体(6)が最小公倍数に

なることに気づく。

2と6の最小公倍数

の求め方を考える。

2つの数の積以外の最小公倍数を求

める。

☆数直線を用いて最小公倍数を求め

られる。

公約数,最大公約数を知

る。

縦 12cm横 18cmの長方

形に一辺○cmの正方

形を敷き詰める。

公約数と最大公約数の意味や定義を

理解する。

☆最大の広さの正方形を求められる。

約数を列記する,18の約数

を出して 24を割る方法を

見いだす。

18と 24の公約数の求

め方を考える。

公約数の求め方を考え,導くことがで

きる。

☆約数を列記して,公約数を求められ

る。

第3次(4)

10

3つの数の公倍数を求め

る。

数表を用いて2,3,

4の公倍数を求める。

3つの数の公倍数を求める。

☆公倍数を列記したり数表を用いた

りして,3つの数の公倍数を求められ

る。

11 3つの数の公約数を求め

る。

数直線を用いて6,

9,12の公約数を求め

る。

3つの数の公約数を求める。

☆約数の列記やわり算を用いて,3つ

の数の公約数を求められる。

12 倍数と約数の関係を見い

だす。

図形の敷き詰めを用

いて倍数と約数の関

係を見いだす。

倍数と約数の関係を見いだす。

☆□の約数の倍数が□になることを

理解する。

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既習事項の理解,確かめを

する。

既習事項の理解,確か

めをする。

倍数,約数の解法が理解できる。

☆倍数,約数の問題が解ける。

4 単元と児童

(1) 単元について

本単元は,かけ算やわり算の考え方を用いて,2つもしくは3つの数の関係を見つける学習であ

る。そして,数という抽象度の高いものを扱うため,イメージをもちにくくなってしまうことが考

えられる。四角形の敷き詰めの算数的活動をベースにしながら,徐々に数で考えていけるようにし

ていく。様々な数の関係を探っていく数学的活動へ移行していくことで数の世界に入り込ませたい。

また「倍数」や「約数」などの言葉を学習する中で,意味が混在してしまい,学習が進みにくい

単元でもある。単元の中で学習したことが考える手がかりとなり,重要な既習事項としてとらえ,

学習してきた内容をつなぐ単元構成にしていくことで「倍数」や「約数」の意味や定義の習熟を図

っていく。

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学習してきた倍数を用いて,数表を大いに活用していきたい。数表は,視覚的にも理解が進む教

具である。色を塗るなどして倍数と公倍数を示すと,模様のように見えて数がもっている独特の調

和やリズムを感じ取ることができる。「数の面白さ」を感じることができる単元である。「他の数な

らどうなるか」など,子ども自身で新たな問題を見いだし,解決できるようにしていきたい。

(2) 児童の実態

自分から「答えたい」「話したい」と考える雰囲気が高まりつつある。しかし,それは一問一答

の問いであったり,簡単に答えられる問いであったりする場合が多い。表現しようという意欲をも

っているにも関わらず,理由を述べたり,長く話をしたりすることに苦手意識をもっている子ども

が多い。

やることが見えにくい課題よりも,線を引く,色を塗るなどやることが見えやすい課題の方が生

き生きと能動的に活動に取り組む傾向がある。数表を用いて色を塗ったり,印をつけたりする活動

を入れながら,数という抽象的な記号を扱っている問題にも主体的に学ぼうとする子どもたちの姿

を求めていきたい。そして,「~だったらどうなるか?」「たまたまじゃない?」といったつぶやき

や発言を手がかりに,数学的な価値に迫る内容に子どもたち自身が主体的に課題に向かおうとする

態度を養っていきたい。

5 本時の展開

(1) ねらい

○ 数表やかけ算で求める,倍数を列記する活動を通して,3つの数の公倍数の求め方を知ること

ができる。 【知識・理解】

○ 3つの数の公倍数の求め方を他の数でも確かめようとする。

【関心・意欲・態度(主体的に学習に取り組む態度)】

(2) 展開の構想

手立て1 前時の終末で見いだした新たな課題が次時の学習課題となる授業構成

本単元の関心・意欲・態度の目標を「学習した倍数,約数の考えを他の数に当てはめて考えよう

とする」とした。前時の終末で学習したことを踏まえて,次時で学習したい内容を子どもと決めて

おく。そうすることで,子どもの「確かめてみたい!」という気持ちを土台としながら,主体的な

学習を促す授業展開が期待できる。また,授業の序盤に学習課題を設定することができることで,

自力解決や練り上げの時間が確保でき,数学的な価値を実感,獲得できる授業展開を目指す。

手立て2 類似しているところに着目させ,多様な考えの統合化を図る

練り上げの時間を手だて1により,十分に確保できることで,子どもから出てきた多様な考え方

の統合化を図り,意見を言うだけの発表会ではなく,自分たちの考えの数学的な価値を実感させた

い。そこで,類似しているところに着目させる。本時では3つの考え方に分類する,効率化を図る

考えの似ている点などに気づかせたい。

手立て3 本時で見つけた考え方を他の数でもできるか確かめる

授業の終末に本時で見つけた考え方を他の数に当てはめて考えさせる。そこで,まとめをした後

に子どもとの対話を通して,他の数でもできるのかの意欲をもたせる。3,5,6の数の公倍数を

求める方法を本時で見つけた考え方を使うことで,学習内容がより確かな考えとなることを目指す。

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(3) 展開

時間 教師の働きかけ・予想される反応 ・留意点 □評価

14:10

14:13

14:25

T 前に2つの数の公倍数を求める活動をしました。そのときにレベ

ルアップしたことをやってみたいと話していましたね。どんなレベ

ルアップに挑戦してみたいんでしたか。

C 3つの数で公倍数を求められるか。

◎3つの数で公倍数を求めてみよう。

T どんな3つの数の公倍数を求めてみたいですか。

T では,まず簡単な数の2と3と4の公倍数を求めてみよう。

C なんか頭がごちゃごちゃしてきたぞ。

C 今までの求め方を使って公倍数を求めてみよう。

【自力解決】

【練り上げ】

T 考えを発表しよう。考え方で似ているところはないかな。

【数表】 【かけ算】 【列記】

・前時に子どもた

ちから出た新し

い学習内容にす

ぐに入る。

・公倍数の求め方

として

① 数表を用いる

② かけ算をする

③ 倍数を列記

の見通しをもたせ

る。

□3つの数の公倍

数の求め方をノー

トに記している。

・ペアで考えをま

とめて,ホワイト

ボードに書く。

C 数表で色を塗ったら 12が最小公倍

数だ。

C 2×3×4=24になったよ。24か

な。

C 3つの数表を重ねて,透かして色

が重なったところが公倍数だ。12や

24だ。

C 数を並べてみて

2の倍数…2,4,6,8,10,○12,14,16

3の倍数…3,6,9,○12,15

4の倍数…4,8,○12,16,20 12が最小公倍数だ。

C 大きな数の3と4の公倍数を求めて

12,24,36,・・・

で2の倍数かどうか見ると良い。12だ。

C 自分で数表つくったよ。

3つ重なったところだか

ら 12が公倍数だ。

C 3と4をかけて 12で

2の倍数か考える。

C 数表でやったら

12が最小公倍数だ。

C 3つの数表を重

ねて,透かして色が

重なったところが

公倍数だ。12や 24

だ。

C 2×3×4=24

になったよ。24か

な。

C それぞれの

倍数を並べて

みる 間違い

間違えないようにす

るために

使う紙が少ない

印がつけやすい

かんたん

考え方は同じ

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7

14:45

14:50

14:55

C 簡単に公倍数を求めるために大きな2つの数の公倍数を求めれば

良さそうだな。

まとめ

3つの公倍数を求めるときは,「数表」「かけ算」「並べる」などを

使って求めることができる。

T まとめてはみたけど,たまたまじゃないかと心配になってきた。

C 他の数でも確かめてみよう。

T では,これはどうかな。

3と5と6の公倍数を3つ求めよう。

T 他の数字でもこの求め方は使えましたね。今日は公倍数でやって

みました。

C 他の数もできるか,家でもやってみよう。

C 公約数も3つの数で簡単に求めてみたいな。

□3つの数の公倍

数の求め方を他の

数でもできるか確

かめようとする。

(発言・つぶやき)

・納得できていな

い児童を取り上げ

て,他の数でもで

きるか確かめさせ

る。

□新たな問題で公

倍数を求められ

る。(ノート)

・児童の声を次時

へつなげる。

(4) 評価

○ 3つの数の公倍数の求め方を,①数表を使う ②かけ算を使う ③倍数を列記する で自分の

考えをノートに書く。

○ 3と5と6の公倍数を求めることができる。 以上の子どもを70%以上にする。

6 実践を振り返って

(1) 授業の実際

① 本時の学習課題を授業開始後すぐに立てようとする子ども

授業が始まり,子どもにノートを見させ,本時の学習課題は何かと問うた。子どもはすぐに反

応し,『3つの数で公倍数を求めよう』という学習課題を授業開始1分で確認した。

T:今日何を学習するんだったっけ?(子どもがノートを確認して)

A児:いろいろ公倍数をつくる

B児:3つで公倍数をつくる。

C児:そうだよ。3つの数で公倍数をつくるんだったよ。

T:3つの数で公倍数をつくるんだったね。それでよかったね。

A児:あーそうだった。

全体:(うなづく)

T:◎(今日の課題)はどうなる?

A児:3つの数で公倍数を求めよう。

全体:いいと思います。

C 3と4をかけて

12で2の倍数か考

える。

C 大きな数の

3と4の公倍

数を求めてか

ら2の倍数か

確かめる。

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② 調べてみたい3つの数を言うことで自分たちの問題としてとらえる子ども

学習課題が決まり,調べてみる3つの数を決める活動へ入る。ここで教師の意図する数字で調

べさせたいところだが,子ども自身が学びに向かうために,一度子どもに問うて,子どもがやっ

てみたい数をできるだけ生かせるようにした。

T:いくつで調べてみますか?

D児:1,3,5

E児:100

F児:2,4,6

T:この人たちはどんなきまりで言っているのかな。

G児:2,3,8

T:今日はこれらの数字を使って,ん?Aさんできそう?

(A児が首を横に振る)

T:なんかできるか心配な顔している人がいるみたいなんだけど。100とかあると難しそうだよね,

今日は簡単な数字でいきましょう。続く数字で,2・・・

全体:3,4

このようなやりとりをして,2と3と4の公倍数を求める活動へ入った。

③ 自力解決→練り上げの時間を十分に確保されたことで,統合的・発展的に考える子ども

2,3,4の公倍数を求める学習問題を子どもと一緒に設定した後,解を求めるために活用で

きそうな既習内容をおさえた。確認の仕方は,子どもが作成した算数新聞の掲示を見て確認した。

ア 数表を用いて,それぞれの倍数に色を塗り,重なりを見つける。イ それぞれの数の倍数を

列記し,同じ数字を見つける。ウ それぞれの数字同士をかけて求める(積)。この3つの方法

で公倍数を求めることができそうだと見通しをもつことができた。

そして,授業開始7分で自力解決に入った。その後 10分間自力解決の時間を行った。数表で

求めようとする子どもが大半だった。1つの数の倍数を1枚ずつ書き,それを3枚作成してから

重ねてから透かして求めようとする子どもや、1つの数表に3つの倍数を色塗りして公倍数を見

つける子どもがいた。3枚と枚数が増えると透けづらい。「だったら・・・」と考えることも大事な

思考であった。

それぞれの数の倍数を列記する方法で公倍数を見つけたペアは1つだけだった。同様に,積で

公倍数を求めたペアも1つだけだった。

ペアの考えをホワイトボードにまとめた後に 10組の全てのペアが自分たちの考えを発表した。

発表時間は5分とることができた。

そして,その後に全体の練り上げの時間を 20分とることができた。練り上げの時間では,

ア 質問タイム。イ ペアの考えの分類と統合できるところがあるか検討する。ウ 授業の核心

にせまるための誤答の提示・検討。を行った。

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本時での『自力解決→練り上げの時間配分』

①自力解決…10分間

②ペアで考えをまとめる…5分間

③全員の発表タイム…5分間

④質問タイム…5分間 練り上げ…30分間

⑤考えの分類・統合…6分間

⑥授業の核心にせまるための誤答の提示・検討…9分間

練り上げの時間で,ペアの考えをまとめる際にお互いの考えを統合的に考え,発表した。

【ペアの考え発表の場面】

B児:ぼくたちは数表で考えました。

C児:Bさんは3枚を合わせるやり方で,ぼくはまだ終わっていないけど,それを1枚にまとめ

るやり方をしました。

3枚作成して,

重ねて公倍数を

見つけるやり方

B児の考え C児の考え

それぞれの数の倍数を列記して,公倍数を見つける方法では,1つのペアで誤答が生まれた。

B児は,そのことに気付き,質問タイムで指摘した。

【質問タイムでの場面】

B児:DさんとEさんに質問です。今3つの数の公倍数を求めるんだと思うんですけど,Dさん

とEさんのもの(見つけ方)は2つ重なればいいことになっているんですけど,違うと思

うんですけど,それはどうですか。

D児:(質問を理解していないか,どう答えたらいいか困り沈黙)

T:この重なった数というのは3つじゃなくて?

B児:2つの数も入っている。

T:2つなんだね。何と何の数?

D児:2.3.4。あーでも3つの数じゃない。3つの公倍数が重なった場所?だから B さんと

同じ考えです。(話はするが,うまく答えられていない)

T:納得?

B児:どういうことか分からない。

T:Dさんは2つの数しか重なっていないところも数えているんだね。3つ重なっているとこ

ろもある。3つ重なっているところってどれ?

D児:12と 24と 36,48,60,72,84,96。

T:Dさんもすっきり?

D児:はい。

1枚にまとめて

見つけるやり方

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<D児とE児が考えた誤答>

2の倍数…2,○4 ,○6 ,○8 ,10,○12,14,○16,○18,○20,…

3の倍数…3,○6 ,9,○12,15,○18,21,○24,27,○30,…

4の倍数…○4 ,○8 ,○12,○16,○20,○24,○28,○32,○36,○40,…

<全体確認された列記での見つけ方>

2の倍数…2,4,6,8,10,○12,14,16,18,20,…

3の倍数…3,6,9,○12,15,18,21,○24,27,30,…

4の倍数…4,8,○12,16,20,○24,28,32,○36,40,…

D児はうまく説明できず,教師の助言をもとに,誤答を修正していった。全体でも 12,24,36

…が公倍数であることを確認できた。

積での求め方では,子どもからの誤答が出なかったので,教師から誤答を提示した。

【誤答提示・検討での場面】

T:先生も考えてみたんだけど,これってだめかな。

D児:最小公倍数って 12。

T:やっぱりだめだと思う人?

H児:微妙なところで最小公倍数を求めるって言われるとそれはダメだと思う。普通だったらい

いと思うけど。

T:普通っていうのは?

H児:全部を求めるときなら。

T:全部を求めるなら 12は入っている?

H児:最小公倍数ではだめ。

T:なるほど。じゃあ 12と 24どっちが大事なの?

C:12!

T:なんで?

B児:最小公倍数を求めると×2,×3で公倍数を求められて,最小公倍数 12を求められれば,

24も出ると思います。

I児:12が最小公倍数で 12に2をかけると 24になって,12に3をかけると 36になるから公倍

数になる。(※1)

T:先生はなんで間違えちゃったのかな?

C:偶数と偶数をかけているから。

T:偶数と偶数は積で求めちゃダメだったね。このような求め方をしたから間違えちゃったん

だね。

C:(うなずく)(Iも大きくうなずく)

(2) 授業のねらい達成についての評価

授業の評価を上記の通り設定した。適用問題まで本時では進むことができなかったので,2つ目

の評価はできないが,1つ目の評価は,机間巡視や授業後のノート点検で評価を行った。自力解決

や練り上げで出た考えを ①数表を使う ②かけ算を使う ③倍数を列記する のいずれかをノ

ートに書いている児童は,19名/23名(82.6%)だった。ねらいは達成できたと判断できる。

まことさんの考え

2×3×4=24

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7 成果

(1) I児の変容

I児は,これまで算数では進んで発言することは少なかった。

それは,教えるべき内容のみ取り上げて,算数本来の面白さや

楽しさを感じてくることができなかったと考える。今回,練り

上げの時間を確保できる学習過程を構築したことで,I児は,

十分に思考する時間をもつことができ,数の世界に浸ることが

できたようである。それは本単元でのノートに表れていた。自

分の考えと友だちの考えを結び付けて考えている(図3) 図3

また,実際に,本時では自分の考え(数表)以外の方法の考え(積)についての発言をした。(※

1)自分の考えのみで落ち着くのではなく,多様な考え方を知りたい,体得したいという「学びに

向かおうとする」姿が対象児Iに見られたと評価する。算数アンケートの結果は単元の前後では下

記の通りである。

(2) クラス全体から

本研究において構想した,「新たな問題を見いだしやすい学習過程を構築する単元構成」は学び

に向かう力を高める子どもの姿を具現することに有効であった。その理由を以下に述べる。

まず,子どもの考えを最後まで生かせることである。この構想では,練り上げの時間を大幅にも

たせることが可能な授業展開である。本時では,練り上げの時間を 30 分とることができた。疑問

に思うことや誤答について十分に検討する時間をもち,最後まで生かすことで,子どもは納得する

ことができ,算数の面白さに引き込まれるのだと考える。「こうやったらどうなるかな?」「他の数

字ならどうかな?」と自ら試行錯誤して,新たな問題を見いだす喜びを感じる姿こそが,学びに向

かっている姿なのだと考える。本時でもその一端を見ることができた。

1つ目はそれぞれの数の倍数を列記する見つけ方が間違っていることを指摘した場面である。質

問タイムでB児はD,E児ペアに間違いを指摘する。D児が説明するが,うまく説明できない。そ

のときに,B児は妥協せずに「よく分からない」と答えた。B児は比較的理解する力が高い児童で

あるが,「よく分からない」と言った背景には「ちゃんとよく知りたい」という学びに向かってい

る姿があるのだと評価している。

2つ目は,本時の最後に次時でやる内容を問うた時である。「次の時間はどんなことやってみた

いですか?」と問うと,「(偶数と偶数をかけちゃダメなら)奇数・奇数・奇数!奇数・偶数・奇数!」

と多くの子どもから声が上がった。「他の数字ならどうなるかを知りたい」という学びに向かって

いる姿があるのだと評価している。

練り上げの時間を十分にもてたことで,子どもの考えを最後まで生かすことができた。それが,

学びに向かう姿を具現することができた大きな要因だと考える。

次に,アンケート結果である。本実践で子どもの興味関心の内容を調べるために単元の前後のア

ンケートで次の質問を行った。その結果が下記の通りである。

1→否定的 4→肯定的 4段階評価 算数の楽しさ 計算が好き 文章問題が好き いろいろな考えは楽しい

単元前 3 3 3 3

単元後 3 3 3 4

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① 算数で楽しいと感じるときはありますか。

1ない 2ほとんどない 3ときどきある 4よくある

単元前 0.0% 13.0% 56.5% 30.5%

単元後 0.0% 13.0% 61.0% 26.0%

② 計算することが楽しいと思うことはありますか。

1ない 2ほとんどない 3ときどきある 4よくある

単元前 4.3% 21.7% 43.5% 30.4%

単元後 8.7% 13.0% 52.2% 26.1%

③ 文章問題(日常の問題として)を解くことが楽しいと思うときはありますか。

1ない 2ほとんどない 3ときどきある 4よくある

単元前 4.3% 26.1% 47.8% 21.7%

単元後 4.3% 30.4% 47.8% 17.4%

④ いろいろな考え(やり方・方法)を出すことは楽しいですか。

1楽しくない 2あまり楽しくない 3まあまあ楽しい 4楽しい

単元前 4.3% 26.1% 39.1% 30.4%

単元後 4.3% 8.7% 52.2% 34.8%

回答結果から分かるように『④いろいろな考え(やり方・方法)を出すことは楽しいですか』

では,肯定的な評価をする子どもが 69.5%→87.0%と大幅に増加した。それは,単元を通して,

多様な考えが生まれる授業展開を構成したことや,練り上げの時間の確保で多くの考えを取り上

げることができたことが要因だと考える。

算数アンケートでの全体の子どもの自己評価からも,新たな問題を見いだしやすい学習過程に

したことで練り上げの時間を確保し、多様な考えを出すことの楽しさを生むことができ、学びに

向かったと評価できる。

(3) F児の家庭学習から

F児は,算数に対して前向きに取り組むが,計算などのやり方が決まっていることを好む。家庭

学習ノートを見ると,ドリルなどの反復練習を選択し,行うことが多い。

しかし,この単元中の家庭学習ノートは,自分で数字を変え

て,今日学習したきまりが正しいか確かめている内容がほとん

どだった。「偶数と偶数は引き算で最大公約数が出せるのか」

などと多面的な視点で,調べている姿が見られた。(図4)様々

な数字で調べたことできまりを見いだそうとした。帰納的な考

えも養われてきた。F児にとっても,この単元の学習で算数の

学び方を知り,主体的に取り組む力がついたと感じた。 図4

8 課題

本研究では,前時と次時をつなげられるような単元構成を行った。つなげられるようにするために

扱う題材を単元で一貫して,「四角形の敷き詰め」とした。このような学習過程を構想することで,

練り上げの時間が十分に確保でき,本研究を行う前よりも子どもが学びに向かっていると評価できる

姿が見られた。その反面,不足している力があることが浮き彫りとなった。本研究を通しての課題は

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以下の通りである。

○ 四角形の敷き詰め以外の場面における倍数・約数を考える力

「○個のあめと▲個のチョコをあまりなく最大に何人に配れるか」など違う場面において適応で

きる子どもが少なかった。時数は限られているが,余剰の時数を生むようにし,様々な場面に触れ

させて,倍数と約数が広汎性のある内容とする必要がある。

○ 発表(表現)場面での練り上げる力

できるだけ多くの子どもたちを数の世界の土台にのせたい。練り上げの時間が数の世界の核心に

せまる内容にしたい。練り上げの時間が増えた分,意見交流の重要性を感じた。批判的思考や友だ

ちの考えをつなぐリレー発言などを用いて,子ども同士で内容を練り上げる力を育てる必要がある。

○ 統合的視点で思考する力

数表を用いることとそれぞれの倍数を列記し,公倍数を求めることとは,統合できる考え方だと

授業者は考えていた。しかし,子どもの思考ではそうではなかった。机間巡視の際に助言をするが,

子どもは,一向に納得しなかった。子どもにとっての「数表」や「列記」の理解はどうであったか。

また,統合するための助言はどうあるべきだったか。今後も研修・研究していきたい。

<参考文献等>

・盛山隆雄 (2012) 『子どものココロに問いかける 帰納・演繹・類推の考え方 「数学的な考え方」

を育てる授業』 東洋館出版社

・日本数学教育学会 (2000) 『算数教育指導用語辞典 第四版』 教育出版