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18|素形材 2008.2

ダイカスト金型における寿命向上技術動向

ウッデホルム㈱ 日 原 政 彦

「躍進するダイカストを支える金型技術最新動向」「躍進するダイカストを支える金型技術最新動向」

 1.はじめに

 今日のダイカスト鋳造技術は鋳造機械の超・高圧―高サイクル化や製品の軽量化・低コストなどの技術的および経済的な諸要因が加味されて、非常に過酷な状況になってきている。 鋳造品の安定な生産維持には、金型の品質安定化が最も重要な要件になっている。また、ダイカスト金型の寿命向上と低下は表裏一体であり、金型材料の選択、金型加工(キャビティ、水冷孔、直彫り、放電加工など)、熱処理・表面処理および溶接補修・メンテナンスが適切に行われるか否かにより決まる。 このような手法の確立により、各金型加工や操業過程における総合的な品質が維持されると同時に生産性が著しく向上し、コスト削減や製品の安定性に非常に大きな効果や影響を各工程に与える。一方、寿命低下に係わる要因は材料、機械加工・放電加工、磨き、熱処理・表面処理、溶接およびメンテナンスサイクルなど、非常に複雑多岐にわたり、操業過程での各要因解析を充分に実施しないと明確に解明できない場合が多い。 ダイカスト金型の寿命向上技術に係わる研究動向

は、金型鋼の熱疲労・溶損特性の解明 1)~ 5)、冷却孔近傍における応力腐食割れ現象の解明、寿命予知技術 6),7)

および熱処理・表面処理による安定化・適用技術などが報告されているが、時代の変遷により新技術開発・改善が促進されている。 ここでは、ダイカスト金型の寿命向上技術動向について、金型鋼、熱処理や表面処理および加工と各種のトラブルの関係を考慮しながら、如何にして金型の安定化や寿命向上を図るかの概要を述べる。

 2.金型の寿命低下要因

 図 1は、金型の寿命低下に及ぼす各種の要因を示す。寿命の低下は、材料、加工、熱処理、メンテナンス、金型補修などの各要因が複雑に影響を及ぼし合い発生することが多い。 寿命低下は、金型の補修や操業停止を誘発させるばかりか生産性を著しく低下させる原因になる。 また、ダイカスト鋳造過程における金型の熱疲労現象は、金型鋼の靭性、延性、クラック進展速度など材料特性要因と操業過程で発生する機械的応力に起因する。一方、溶損現象は、金型材料と溶融金属との反応性と接触摩耗現象に大別できるが、反応形態は鋳造合金の種類(Al、Mg、Znなど)により異なる。 また、操業過程における金型の安定性や寿命向上はメンテナンス技術(放電加工変質層の改善、溶接作業条件の選択、ひずみの除去)の確立も必要となる。

 3.ダイカスト金型の熱疲労挙動

 ダイカスト金型の熱疲労メカニズムは、下記の要因によって発生する。1) 加熱―冷却の熱サイクルによる繰り返しの熱応力・熱疲労、応力腐食。

 ダイカスト金型の寿命向上技術動向について、金型鋼、熱処理や表面処理および加工と各種のトラブルの関係を考慮しながら、如何にして金型の安定化や寿命向上を図るかの概要を述べる。

図 1 金型の寿命低下に関係する要因

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躍進するダイカストを支える金型技術最新動向

2)金型表面の加熱時による素材の高温強度の低下。 *ダイプレートや金型の剛性による圧縮応力。 *塑性変形、局部ひずみ、転位の増殖。3)冷却時の引張応力の発生に伴う、割れの発生。 *加熱時の圧縮塑性変形部がクラックの起点。4) ヒートチェック(微細クラック)、大割れの発生。靭性の低下は大割れのクラックを発生、延性の低下はヒートチェック(微細クラック)発生。

 すなわち、金型表面にクラックが発生すると、クラック先端の開口部は金型の予熱や高温多湿状況により表面酸化が急激に起こる。初期の微細なクラック内には、酸化物が徐々に開口部内に成長し、開口したクラック内に析出・成長して酸化物が充填される。クラック内に形成した酸化物は生地中のFe、Crなど、酸素との親和性の高い元素と結合し再酸化物を形成する。この繰り返しにより、クラック近傍の生地は脱元素(界面異常層の存在)に伴う異常層の形成や応力集中に伴う金型の切り欠き靭性を低下させる。 図 2は、ヒートチェックの発生および進展状態の観察結果を示す。表面近傍のヒートチェックおよびクラックは、3次元方向に進展・成長する形態をとる8)。 なお、クラック内の酸化物形成により体積膨張が起こり、生地中に圧縮応力が発生する。その後、ヒートチェックが開口したクラックに変化して、内部まで深く進展すると表面近傍では面脱落が起こる。 基本的な熱疲労挙動は、金型表面に負荷される熱応力に起因するが、それ以外の機械的・形状的要因なども実際には大きく影響し、ヒートチェックやクラックが発生するメカニズムを取る。 なお、ダイカスト金型の表面に繰り返しの温度勾配が負荷された時に発生する熱応力は下記の式で示される。

  σ=E /(1-ν)・α(T1-T0)       (1)

ここで、α:熱膨張率:10.3×10-6/℃、E:縦弾性係数:206GPa、ν:ポアソン比:0.28、(T1-T0):温度差(∆T=570-100℃)

 なお、加熱直後に発生する熱応力(∆T=457℃)を計算すると約1,200MPaの値になるが、10秒間程度の保持により金型表面近傍は熱伝導による温度勾配の低下に伴い小さくなり、その後応力は徐々にゼロになる。また、冷却直後の熱応力は加熱時と同様に950MPa程度発生するが、約10秒の保持により応力はゼロに収斂する。このように金型表面は急激に溶融金属で高温に加熱され、離型剤の塗布により低温に冷却される熱サイクルが短時間に与えられる。 さらに金型の構造や材料の内部欠陥並びに異常組織の存在は操業中の寿命に大きく影響を及ぼす。金型の健全化・安定化には、このような形状や欠陥の発生を極力低下させる材料改善、機械加工法や各種の工程改善が必要になる。 図3に熱間金型用工具鋼(「金型鋼」という)の硬さと靭性値との関係並びにヒートチェック発生挙動を図中に示す。この結果からも明確なように、硬さが増加すると耐ヒートチェック性も向上することが明確になる。

 しかし、金型の場合は、キャビティ形状が複雑なために、熱応力に伴う応力集中と切り欠き靭性の低下を考慮して、金型の硬さを実験値に比べ通常低下させて使用している。 なお、疲労強度限界サイクル数と硬さとの関係では、55~60HRCの領域で限界疲労強度の最大値を示す。 図 4は、機械加工面のコーナRと衝撃値との関係を各々示す。コーナRと衝撃値との関係からは、曲率半径 0.75mm以上の場合、半径に影響されないが、それ以下では、半径の大小により衝撃値が著しく変化し、

図 2 ヒートチェック、クラックの進展状況および酸化物形成状態観察        

図 3 硬さと最大クラック長さの比較並びにヒートチェックの発生形態   

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曲率半径の小さい部分では、熱応力の発生や応力集中が大きく、衝撃値に与える影響が大きい。 図 5は、焼戻し温度並びに硬さに及ぼす衝撃値の変化を示す。金型鋼(SKD61ESR材、試験材S-T方向、中心部採取、試験室温)の530℃近傍は、炭化物の粒界析出や残留オーステナイトのマルテンサイトへの変態などに伴う硬さの増加域に対応するが、衝撃値は逆に低下する現象を示す。 図 6は、ダイカスト金型に発生する溶損現象の代表例を示す。溶損現象には腐食、焼付き、キャビテーションエロージョンなどが主として発生するが、これらの欠陥が発生すると、操業金型の稼動不良や製品への欠陥の発生頻度が高くなり生産性は著しく低下する。 これらの改善策には、安定な熱処理と表面処理が有効となるが、一方で、金型の形状・設計、湯流れ、局

所加熱、溶融温度・速度、溶融金属成分(Al、Mg、Zn)などにより発生する欠陥の形態は各々異なる場合があり、欠陥の発生形態を詳細に観察して、改善策や対策を立てることが必要となる。 焼付き、溶着の主たる発生原因は、金型成分と溶融金属との化学反応性や溶融温度などの影響が大きい。 また、腐食現象は、溶融金属における射出時の湯流れの不均一性や金型物質との化学反応などに大きく依存する。溶損の発生は、湯流れ速度、熱間摩耗(キャビテーションエロージョン)、高射出圧力、金型の熱間硬さなどの要因が大きく影響する。 また、離型剤塗布による残存水分による金型表面の腐食、放電加工変質層の残存によるピット発生などが操業過程で発生する。

 4.金型の熱処理技術動向

 金型鋼の熱処理は、その材料の機能性や性能を有効に発揮させる上で非常に重要な基盤技術であり、熱処理の良否により得られる性能は著しく異なる。 このことは、如何に最良な素材(金型鋼)であっても、適切な熱処理が施されなければ、金型の操業過程におけるヒートチェック、大割れの発生、耐食性・耐摩耗性の低下など多くのトラブル発生原因になる場合が多い。 近年の金型鋼における熱処理は、真空ガス加圧タイプの熱処理炉が多くなっているが、これらの理由として (1)作業環境のクリーン化・改善 (2)金型の光輝熱処理が可能 (3)冷却時の高い加圧力 (4)大型熱処理炉の製造可能などの機能性や大型材料に対応できる炉内熱源、冷却制御方式などの開発がされてきているためと考える。 真空加圧ガス冷却方式でも、従来の水焼入れ、オイル焼入れ、ポリマー焼入れ、溶融ナトリウム焼入れ(ソルト浴)などと、ほぼ同様な冷却速度が近年では得られ、焼きむらも少ない処理が可能になってきている。 なお、オイル冷却時の火災の危険性を考慮して、大型材料の熱処理にはポリマー冷却による焼入れも行われている 10)。 自動車エンジン部品、プラズマテレビ用筐体など、最近の金型は一体加工用による大型材料の使用が多く、真空ガス加圧方式やオイル冷却併用型の熱処理炉の出現により、従来に比べ光輝状態で安定した熱処理が可能になってきたことも発展の大きな理由である。 なお、大型金型鋼の熱処理においては、雰囲気温度

図 4 コーナR(加工半径)と衝撃値の関係

図 5 焼き戻し温度と衝撃値の関係

図 6 ダイカスト金型に発生する各種の溶損現象

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躍進するダイカストを支える金型技術最新動向

や表面硬さの管理だけでは安定した熱処理と素材性能を充分に発揮できない場合が多い。また、小型の試験材と金型における熱処理特性は重量(質量)や形状が著しく異なり、安定した金型性能を得るためには熱処理技術の現場ノウハウの取得が重要になる 11),12)。 熱処理の安定化には、熱処理過程における金型の表面部と中心部の温度測定を実体物内に挿入した熱電対により連続測定し、内外の温度差を極力少なくさせる加熱・冷却過程での熱管理制御を行う必要がある。 近年の金型鋼は、製品の大型化に伴い大型・一体化の金型が使用されるために、焼入れ性能を向上させた鋼種が開発されている。大型金型の熱処理では、表面と中心部の冷却速度が著しく異なり、不均一な熱処理による変形・変寸および割れなどのトラブル発生原因を多く含んでいる。 そこで、今日の大型用金型鋼は焼入れ過程におけるカーバイドやフェライトノーズおよびベイナイト組織の出現を長時間側に移行させ(CCT曲線、連続冷却曲線による、不安定組織の出現を長時間側にシフトさせる。)焼入れ性の向上した材料が開発されている。これらにより金型鋼の焼入れ時の冷却過程における内外温度差をコントロールでき安定な熱処理が可能になってきた。 なお、ダイカスト金型用熱間工具鋼に対する規格として、北米ダイカスト協会(NADCA)はダイカスト金型に使用する材料・熱処理の品質や受け入れ基準 13)を定めている。それらには下記の項目が決められている。 (1)材料成分、(2)硬さ(焼なまし、焼入れ―焼戻し処理)、(3)材料の清浄度(ASTM,A-681. Sec. 6による判定)、(4)超音波探傷試験(内部欠陥検査)、(5)衝撃試験(靭性、延性評価)、(6)結晶粒度、(7)ミクロ偏析、(8)焼きなまし組織。 この内容はユーザーが使用する材料の品質基準を規定したものであり、供給する鋼材メーカーは、この基準を満たす鋼種を提供している。しかし、如何に高品質な金型鋼を使用しても、不安定な熱処理を行った場合、有効な特性を発揮できないことも多い。 なお、日本の自動車関係企業の一部では、高品質で安定した金型性能を得るために、熱処理時の条件をNADCA、ASM、GE、Fordなどの規格に準じた受け入れ基準書(仕様書)を作成している。 この手法は、国内企業が海外部品調達・製造を展開する場合、独自の基準(JIS規格並びにそれに準じた基準)により使用する金型への品質保証または仕様を作成し、どの国、地域、どの処理企業においても同じ

基準で製造・実施できる体制作りを可能にするためである。その結果、金型鋼、金型加工や熱処理に対する品質維持の世界共通化が達成できるものと考える。 図 7は、金型鋼(SKD61)の焼入れ時の冷却速度の変化に及ぼす衝撃値の影響について示す。 図中の衝撃値の基準は、SKD61工具鋼のNADCA規格(9J以上)が規定されており、焼入れ速度(800~500℃の範囲)を最低20℃/分以上の速度で冷却しなければ安定した素材品質が得られないことを示している。 なお、通常の熱処理は、焼入れー焼戻し後の表面硬さの測定値で材料の品質を管理しているが、大型金型の場合は、内部における安定化マルテンサイト組織は冷却速度が表面に比べ著しく異なる。 大型の金型では表面部と中心部で冷却速度が大きく変化し、均一な組織が得られない場合が多い。そのために、実際の金型における内外温度差を熱電対により連続的に測温し、使用する熱処理炉の特性、加熱体の位置、冷却方法・ガス流入方向などの特性を良く理解した上で、熱処理を施さないと安定した性能が得られない。 図 8は、熱間金型鋼(SKD61)の熱処理時の処理手法の違いによる組織変化と金型寿命の関係を示す。このように、金型鋼の熱処理時における、初晶炭化物の成長や、フェライト、パーライト、ベイナイトの析出・成長など、熱処理時における冷却速度の違いにより著しく材料特性が異なり、寿命安定化を大きく阻害する。

図 7 金型鋼(SKD61)の冷却速度の違いに及ぼす衝撃値の変化   

図 8 熱処理の違いによる組織変化と金型寿命の関係

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 5.金型の表面処理技術動向

 ダイカスト金型の金型寿命安定化には、各種の表面法や改質法が避けて通れない状況になってきている。 表面処理は、各種の材料における機能性向上、素材特性付加、耐摩耗性や耐食性などの目的に処理されることが多かった。しかし、近年の機能性表面処理および改質法は技術の進歩に伴い、ダイカスト、熱間鍛造、プラスチック成形、プレス成形、押出しおよびガラス成形用金型などのキャビティや鋳抜きピンなどの部品に適用され、有効な性能と素材の安定化に大きく寄与している。 表面処理は素材の機能性発現のみならず、操業安定化、材料特性との相互補完などの機能性を付加させる有効な手法である。 図 9は、実用特性を得るための表面処理層と生地における諸要因の関係を示す 14)。安定性のある金型表面を得るためには、生地の表面状態の管理(磨き、表面粗さ、表面の健全性)を十分に実施しなければ有効な結果が得られない。 なお、金型の機械加工時のツールマークの残存状態でその表面に皮膜処理などを行うと、操業過程での応力集中により早期のクラック発生や生地内部への進展を誘発させる。 また、表面処理には、各種の処理方法があり、拡散処理(窒化処理、浸硫窒化処理、ガス窒化処理、プラズマ窒化・浸硫処理など)や皮膜処理(PVD、CVD、PCVDなど)がある。 近年のダイカスト用金型鋼は、高サイクル化(操業時の高寿命化)、製品の高硬度化や過酷な操業条件下での操業・寿命安定化が求められることが多く、素材のままや単一表面処理では、その特性や過酷な要求性能を達成できない場合が多い。 これらの背景から、国内や諸外国では、ガス軟窒化+酸化処理、プラズマ軟窒化処理+酸化処理、ガス軟窒化+活性化処理(ラジカル処理)+酸化処

理、プラズマ窒化+酸化処理またはガス軟窒化処理+酸化処理など窒化処理系においても複合処理が行われている。 なお、酸・窒化などの複合処理層上にPVD、PCVD皮膜(TiN、CrN、CrC、DLCなど)処理を行い、耐摩耗性、耐食性、耐熱性、耐溶損性などの向上を図る手法も提案されている。 表 1は各種の硬質皮膜と複合処理の適用例・金型の寿命比較を各々示す。なお、日本で開発されたTRD 15)処理もピンや可動中子、プレス金型の耐摩耗性向上を目的に多用途に使用されている。 TiALN+プラズマ窒化処理の複合化、CrN、CrCなどの硬質皮膜も、近年では、皮膜の靭性、密着性や耐熱疲労特性の向上・改善などの技術開発から、熱間用金型への適用も可能になっている。 なお、アメリカやヨーロッパでは、窒化系処理においてはプラズマ手法の利用が日本に比べ多く、オンライン処理のメリットは複合形成層の安定性にとって効果が大きい。単層硬質皮膜の適用は、プラスチック成形金型や冷間金型に処理する場合が多いが、熱間金型のようにキャビティ面への荷重・熱負荷が大きい過酷な使用条件下では複合皮膜処理が適用されている。 また、DLC皮膜は、現在でも非常に広い領域に適用されその有用性を発揮している。

 6.表面処理・改質の特性評価

 金型およびその部品に表面処理や改質処理を行った場合、それらの評価手法および品質維持方法は、安定操業にとって重要な技術領域であると考える。 特に表面処理・改質層の存在は、生地特性に比べ異質な性質・特性を持った層を表面に形成させることになることから、表面に形成した層の物性や界面特性を図 9 表面処理の実用特性とその諸要因

表 1 各種の金型鋼への表面処理の適用例作業領域

要求特性・使用鋼種 寿命の比較

ダイカスト

(ヒートチェック)SKD61

窒化処理(白層無)=浸硫窒化処理>酸化+窒化処理>硬質皮膜(TiAlN)+窒化処理>無処理(H13,SKD61)

(溶損)SKD61

Hard窒化+ TiN+TiBN/TiC>プラズ マ 窒 化 + TiN + TiBN/TiCN >Hard+ TiN> TiN+ AlN> CrN>BN> CrC>無処理 H13(SKD61)

(摩耗)SKD61

TiN/TiAlN>酸化+窒化処理> H13+窒化> H13(射出圧力による剥離試験)

鍛造 摩耗 SKD61 Baliant FUTURA> PVD>素材絞り 摩耗 SKD11 TiN+WC/C,3層皮膜>素材

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躍進するダイカストを支える金型技術最新動向

より理解した上での適用が必要である。 操業過程における金型や表面処理・改質面のメンテナンス技術(皮膜の寿命、評価放電加工変質層の改善、溶接作業条件の選択、ひずみの除去等)についても上述の要因と併せて考慮が必要となる。 金型の品質安定性は、この両者の境界領域を如何に安定化させるかの技術的ノウハウ、処理技術や基材表面の表面粗さや事前処理方法の確立が必要である。 金型性能を左右させる因子は複雑多岐にわたり、その上に表面処理層が付加されると、ダイカスト金型のような熱応力が負荷される場合は、硬質皮膜―窒化処理層―生地における熱膨張特性が異なり、表面や内部に発生する熱応力勾配は異なる挙動を示し、考慮すべき要因が増えることになる。 そこで、表面処理特性を有効に発揮するには、現場での金型管理技術の確立ができて初めて達成されるものと考える。すなわち、原因が異なれば対策も異なるのであるから、正確な把握がまず大切になる。 特性評価には当然処理方法や皮膜により個々の特性や性能が異なるために、使用方法や用途を十分考慮した上で適用するべきである。 中でも、表面粗さ不良およびツールマークの残存、放電加工面、冷却回路の粗加工、磨き不良に伴う欠陥発生頻度は金型の安定化や寿命向上に大きな影響を及ぼす。 次に窒化処理層と硬質皮膜の諸特性について述べる。 表面処理には多くの方法が提案されているが、金型への最適な処理となると非常に限定される。 硬質皮膜の特性を決めるのは、処理材の特性の他に、処理温度と処理材との「つき回り性」の良否や膜厚差および密着性等があげられる。 また、窒化処理系の表面処理は、硬質皮膜に比べ、金型鋼への拡散のメカニズムを利用していることから、硬質皮膜に比べ密着性は向上し、特殊な高温域の処理を除き、金型鋼の高温焼き戻しの温度域での処理が多い。 窒化処理の不利な点は、窒素化合物(白層)が、クラックの発生に起点や500℃程度で分解することがある。 表 2は、硬質皮膜および窒化処理した金型鋼の皮膜・処理層における表面特性を示す。 硬質皮膜や窒素化合物など、硬化層の存在する表面評価は、スクラッチ試験、硬さ試験機による、ロックウエルやビッカース圧痕により行っている。 表面および硬質皮膜処理面の硬さ測定においても、圧痕荷重が異なれば得られる値が異なることから、測定荷重の選択を適切にしないと、実質的な硬さの値も

異なる。 また、硬さの高い硬質皮膜を軟化状態の素材に処理すると座屈して、表面処理層が早期に破壊することがあることから、皮膜の健全性を得るには、生地の素材硬さにも十分考慮した処理が必要である。 近年、ダイカスト金型へのショットピーニング処理の適用が表面品質の健全化に重要な役割を担っている。 金型へのピーニングの適用は、1)表面に圧縮応力を負荷させ、疲労強度を向上させる、2)表面の酸化膜や異常層を除去する、3)窒化処理・硬質皮膜処理との複合化による、熱疲労特性や切り欠き靭性の向上などの目的で行われている。 この処理は微細なショット材(粒径1.0~0.1mm程度)を 3~5Kgf/cm2程度の空気圧力で金型面に噴射して表面に圧縮応力域を形成し、耐摩耗性や疲労強度を向上させ、金型表面の安定化と改質させる方法で、各種の表面処理と併用処理が可能になる特徴を持つ。 なお、図10は金型鋼(SKD61)表面にピーニング処理を行い、さらにガス窒化処理し、加熱―冷却の熱サイクルを負荷させた後の表面に発生したクラック長さの測定結果を示す。各ピーニングやガス窒化処理を複合的に処理すると、無処理や単一のガス窒化処理層に

図10 ピーニング、ガス窒化処理および複合処理した   金型鋼(SKD61)における熱疲労試験後の最大    クラック長さの比較

表 2  ロックウエル圧痕による表面処理層の評価と押付け荷重の違いによる硬さ変化(SKD61 材料)

表面処理の種類(SKD61)

押付け荷重の違いによる硬さ変化(HV)

50g 100g 300gCrN/軟窒化処理 1354 1159 881CrN/ガス窒化処理 1282 1192 1083CrN/プラズマ窒化処理 1460 1322 1003CrN皮膜のみ 1138 906 560軟窒化処理 735 654 513ガス窒化処理 702 702 694プラズマ窒化処理 721 683 612SKD61 392 390 386

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比較して、表面の圧縮応力が増加し、耐ヒートチェック性(クラックの進展低下)は向上する。 近年では、このような複合表面処理手法を操業過程において実施し、各サイクル段階での繰り返し処理による金型の操業安定化、メンテナンス時間の短縮化や生産性が向上する事例が認められ、ダイカスト産業に大きく貢献している。 図11は、金型に仕上げ放電加工を行った場合、複雑形状部深穴部などは、磨き作業が難しく加工変質層を残存させることが多い。加工面の改善を目的に試験材表面に各種の表面処理・加工を複合的に行った時の熱疲労試験後の断面に認められた最大クラック長さの比較 16)を示す。 放電加工面は引張残留応力が存在し、熱疲労特性は著しく低下する。しかし、ピーニング処理、ガス窒化処理、レーザ加工等を単独あるいは複合的に行った表面では、全て圧縮応力に変換され、熱疲労試験後の耐ヒートチェック性は著しく向上する。 なお、窒化処理後および放電加工後の表面改質手法の一つである、レーザおよび電子ビーム加工は加工表面を溶融させるエネルギー条件で加工を行うと、表面粗さは著しく改善されるが表面に引張残留応力が発生する。 そこで、表面の熱疲労特性の改善や安定化には、エネルギー条件を選択し、溶融させないことが圧縮応力の維持に必要である。 各種のエネルギー利用による表面改質方法が多方面で研究されてきている、表面を再溶融すると加工面に引張応力が存在し、表面品質が著しく低下するために、改質法には十分な注意が必要になる。

 7.おわりに

 ダイカスト金型鋼、熱処理、表面処理・改質の諸特性と金型寿命に係る要因について概要を述べてきた。 各種の金型鋼の品質改善や表面処理や改質手法は、今日でも多くの提案や技術が紹介されている。日本の

金型加工技術、熱処理、表面処理・改質技術やメンテナンス技術は、世界的にもレベルが高く、金型安定化や製品品質の向上に大きく貢献している。 熱処理や表面処理技術は、金型を如何に安定な状態で目的数量まで操業を維持させるかの重要な役割を担っている。 また、金型の補修(溶接、再放電加工、再表面処理など 17))およびメンテナンス後の金型の安定性などについても、溶接熱履歴装置を使用した金型溶接手法の確立や各種の改質手法が開発されている。さらに、窒化処理の数次の繰り返し再処理による高寿命化などの技術や多層膜の形成、電子ビームによる改質技術の高機能化が確立されると、機能性表面の創製にとって非常に有効な技術手法になり、素形材産業への発展に大きな影響を与えるものと考える。

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図11 放電加工後の表面に改質処理した試験片の  熱疲労試験後の最大クラック長さの比較

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