3 ドイツによるオーストリア併合 3 ドイツによるオーストリ …...790 3...

790

３　ドイツによるオーストリア併合

791

館務モ略々常衜ニ復スルヲ得タル處漸ク大公使館及諸官

廳モ亦大體移轉ヲ了シ「フランコ」將軍モ十九日「ブル

ゴス」ヨリ當地郊外ニ移住セリ

二、�內亂後各地ニ潛伏中ノ赤分子今尙續々逮捕セラレ人心未

タ落付カサルモノアリ又特ニ物資ノ缺乏甚タシク主要⻝

料品ノ購入ニハ嚴重ナル切符制度行ハレ居ルモ品物ナク

⻝料騷動ヲ起セル地方モアル由馬德里ニテハ一般必需品

ハ勿論⻝料モ野菜及魚類ノ外入手困難ナリ外交團ハ「サ

ン、セバスチアン」ニテハ佛國ヨリ不足品ヲ購入シ居タ

ルカ當地ニテモ必需品ノ大部分ヲ佛國又ハ葡萄牙ヨリ取

寄セノ要アリ

三、�物資ノ缺乏ニ伴ヒ諸物價暴騰シ內亂歬ノ十割以上ニ及ヒ

且一般消費ニ對シ引續キ約二割ノ戰鬪員保護稅ヲ課シ居

ル等ノ爲生活費著シク昂騰シ失業者モ多ク一般市民中ニ

ハ不滿ヲ抱クモノモアルカ如シ

　

�

政府トシテハ勿論國內復興及生活改善ノ爲全力ヲ盡シ居

ルモ內亂後引續キ今囘大戰ノ影响モアリテ內亂ノ創痍囘

復ニハ尙相當ノ時日ヲ要スヘシ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

589　

昭和13年2月13日　在オーストリア諏訪臨時代理公使より

広田外務大臣宛（電報）　　　　　　

オーストリア首相が訪独し独墺首脳会談実施

について

ウィーン　

2月13日後発

本　　

省　

2月14日前着

第七號

一、�「シユシニツク」首相ハ「ヒトラー」總統ノ招請ニ依リ

「シユミツト」外務次官ヲ帶同（「パペン」獨逸大使モ同

行）十二日「ベルヒテスガーデン」ニ赴キ「リツベント

ロツプ」外相立會ノ下ニ同總統ト長時間ニ亘リ墺獨兩國

ニ關スル全般的問題ニ付會談ノ上同夜同地發當地ニ歸還

セリ本日中閣議開催ノ筈

二、�兩巨頭ノ會商ハ數周歬旣ニ計畫セラレタルモ一月下旬ニ

至リ一旦行惱トナリタルモノナルカ二月四日ノ獨逸事件

ヲ契𠘨トシテ急速ニ實現セラレタルモノナリト傳ヘラル

會談ノ具体的內容ニ付テハ公報ヲ待ツノ外ナキモ獨逸外

交ノ異變ト言ヒ最近墺國ニ於ケル「ナチ」運動激化ト言

ヒ來ル二十日ノ「ヒトラー」ノ議會演說ヲ控ヘ其ノ成行

ハ重大ナル關心ヲ以テ註視セラレツツアリ

獨ヘ轉電セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

590　

昭和13年2月18日　在ベルギー来栖大使より

広田外務大臣宛（電報）

独墺首脳会談において独側が墺国内相等の人

事異動を要求したなどの情報報告

ブリュッセル　

2月18日後発

本　　　　

省　

2月19日前着

第四四號

今般「スパーク」外相ハ在歐白國大公使會議ヲ召集シタル

處同會議ニ出席セル官房長「ルゲー」ノ內話左ノ通リ

一、�今次「ヒトラー」「シユシユニツク」會見ニ於テ「シユ」

　

３　

ドイツによるオーストリア併合

792


793

ハ「ヒ」ノ態度强硬ナルニ驚キタル趣ナルカ獨要求ノ强

味ハ墺太利カ「ハプスブルグ」復辟運動ヲ許スニ拘ラス

「ナチス」運動ヲ許ササルハ不公平ナリト爲スノ點ナリ

二、�「ヒ」ハ陸相及內相ニ特定人物任命方要求セルカ「シユ」

ハ國內國外各般ノ情勢上已ムヲ得ス內相任命ノミヲ受諾

但シ其ノ代リ公安局長ニハSkubb

ヲ据ヘ之カ目付役タラ

シメタリ內相Inquartハ固ヨリ親獨的意見ヲ有スルモ他

面又「シユ」トモ良ク決シテ墺太利ノ利益ニ反スルカ如

キコトハナカルヘク「シユ」モ之カ爲其ノ任命ヲ受諾セ

ルモノト言フ

三、�從來「パーペン」ハ獨「ナチス」內急進論者ヨリ其ノ態

度生溫シトテ種々攻擊サレ居リタル處今囘「パ」ノ罷免

ハ獨ノ對墺外交强化ヲ導クノ可能性アリ白トシテハ「パ」

ノ罷免ハ今次獨逸政變中最モ重要事項ノ一ナリトス（「パ」

ノ後任トシテ獨ノ上海總領事任命サルヘシトノ噂アル處

同人ハ「ドルフス」事件當時活躍セル人物ニシテ「シ

ユ」ノ好マサル者ナリ若シ同人ノ任命ヲ見ルコトトモナ

ラハ獨ノ對墺外交ハ一段ト積極化スヘシ）

四、�英佛ヨリ墺ノ獨立問題ニ關シ獨ニ申入レタルカ英佛側ノ

弱味ハ「ユーゴースラビア」及致國カ「ハプスブルグ」

復辟ヨリモ寧ロ「アンシユリユウス」ヲ好ムノ點ナリ

五、�獨逸政變ニ關シテハ外部ニ於テ餘リ之ヲ重大視スルヤノ

感アリ同政變ハ獨伊關係カ稍緊密化スヘキ點ヲ除キテハ

獨ノ一般外交ニハ大ナル變化ヲ齎ササルヘシ

六、�英伊交涉ハ早急ニ妥結ニ逹セサルヘク英國側ノ難點ハ英

ノ伊ニ與フルモノ（「エチオピア」承認、借款）ハ永久的

ノモノナルニ對シ伊ノ英ニ與フルモノ（「パレスチナ」反

英運動ノ停止「リビア」派遣軍ノ撤退西班牙問題等）ハ

一時的ノモノニ過キサルノ點ナリ

在歐洲各大使ヘ諳送セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

591　



対独関係を説明した墺国首相の演説報告

ウィーン　

2月25日後発

本　　

省　

2月26日前着

第一五號

「シユシユニツク」首相ハ二十四日夕議會ニ於テ二時間ニ

亘リ內治外交ニ關スル大演說ヲ試ミタルカ特ニ對獨關係ニ

付テハ兩國間ノ歷史的關係ヲ敍述シタル後一九三六年ノ獨

墺協定及最近ノ「ヒトラー」總統會談ノ意義及內容ヲ詳細

說明シテ墺國內外ニ行ハルル揣擵臆測ノ謂ナキ所以ヲ强調

シ今次協定ニ依リ墺國ノ獨立尊重竝ニ獨逸ノ內政不干涉

（墺國「ナチ」問題ヲ含ム）ハ再確認セラレ兩獨逸國家間ノ

誤解一埽セラレタリト爲シ墺國トシテハ互讓ノ精神ヲ以テ

最大限ノ讓步ヲ爲シタル今日「ヒ」總統ノ約言ニ信賴シ政

府ハ基督敎的獨逸民族的獨立國家タルノ使命逹成ノ爲一路

邁進スルノ決意ナルヲ表明シ擧國一致ノ協力ト支援トヲ求

メタリ右演說ハ數日歬「ヒ」總統ノ對墺聲明アリタル折柄

ニモアリ內外ニ異常ナル緊張ト關心ヲ以テ迎ヘラレタリ

獨、伊ヘ郵送ス

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

592　



墺国首相が国民投票の実施を決定について

ウィーン　

3月10日後発

本　　

省　

3月11日前着

第一八號

最近ニ於ケル墺國「ナチ」ノ擡頭進出ニ伴ヒ政界、經濟界

其ノ他各方面ニ於テ人心ノ不安動搖募リタル爲「シユシユ

ニツク」首相ハ此ノ際人心ノ歸趨ヲ明カニスルノ必要ヲ痛

感セルモノノ如ク斷乎其ノ政策ノ贊否ヲ一般國民（但シ二

十四歲以下ノ者ヲ除ク）投票ニ問フニ決意シ九日「インス

ブルツク」ニ於ケル祖國戰線大會ニ於テ墺國全國民ニ呼掛

ケ來ル十三日ヲ期シ墺國ノ自由、獨立、社會的、獨逸民族

的、基督敎的統一的國家タルコトヲ欲スルヤ否ヤ又平和、

勞働竝ニ祖國愛及民族愛ニ自覺スル一切ノモノノ同權ニ贊

成スルヤ否ヤ總括的ニ「イエス」又ハ「ノー」ヲ以テ投票

スヘキ旨命シタリ不取敢

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

593　



墺国首相が国民投票を決意した背景について

ウィーン　

3月10日後発

本　　

省　

3月11日前着

第二一號

792


793

ハ「ヒ」ノ態度强硬ナルニ驚キタル趣ナルカ獨要求ノ强

味ハ墺太利カ「ハプスブルグ」復辟運動ヲ許スニ拘ラス

「ナチス」運動ヲ許ササルハ不公平ナリト爲スノ點ナリ

二、�「ヒ」ハ陸相及內相ニ特定人物任命方要求セルカ「シユ」

ハ國內國外各般ノ情勢上已ムヲ得ス內相任命ノミヲ受諾

但シ其ノ代リ公安局長ニハSkubb

ヲ据ヘ之カ目付役タラ

シメタリ內相Inquart

ハ固ヨリ親獨的意見ヲ有スルモ他

面又「シユ」トモ良ク決シテ墺太利ノ利益ニ反スルカ如

キコトハナカルヘク「シユ」モ之カ爲其ノ任命ヲ受諾セ

ルモノト言フ

三、�從來「パーペン」ハ獨「ナチス」內急進論者ヨリ其ノ態

度生溫シトテ種々攻擊サレ居リタル處今囘「パ」ノ罷免

ハ獨ノ對墺外交强化ヲ導クノ可能性アリ白トシテハ「パ」

ノ罷免ハ今次獨逸政變中最モ重要事項ノ一ナリトス（「パ」

ノ後任トシテ獨ノ上海總領事任命サルヘシトノ噂アル處

同人ハ「ドルフス」事件當時活躍セル人物ニシテ「シ

ユ」ノ好マサル者ナリ若シ同人ノ任命ヲ見ルコトトモナ

ラハ獨ノ對墺外交ハ一段ト積極化スヘシ）

四、�英佛ヨリ墺ノ獨立問題ニ關シ獨ニ申入レタルカ英佛側ノ

弱味ハ「ユーゴースラビア」及致國カ「ハプスブルグ」

復辟ヨリモ寧ロ「アンシユリユウス」ヲ好ムノ點ナリ

五、�獨逸政變ニ關シテハ外部ニ於テ餘リ之ヲ重大視スルヤノ

感アリ同政變ハ獨伊關係カ稍緊密化スヘキ點ヲ除キテハ

獨ノ一般外交ニハ大ナル變化ヲ齎ササルヘシ

六、�英伊交涉ハ早急ニ妥結ニ逹セサルヘク英國側ノ難點ハ英

ノ伊ニ與フルモノ（「エチオピア」承認、借款）ハ永久的

ノモノナルニ對シ伊ノ英ニ與フルモノ（「パレスチナ」反

英運動ノ停止「リビア」派遣軍ノ撤退西班牙問題等）ハ

一時的ノモノニ過キサルノ點ナリ

在歐洲各大使ヘ諳送セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

591　



対独関係を説明した墺国首相の演説報告

ウィーン　

2月25日後発

本　　

省　

2月26日前着

第一五號

「シユシユニツク」首相ハ二十四日夕議會ニ於テ二時間ニ

亘リ內治外交ニ關スル大演說ヲ試ミタルカ特ニ對獨關係ニ

付テハ兩國間ノ歷史的關係ヲ敍述シタル後一九三六年ノ獨

墺協定及最近ノ「ヒトラー」總統會談ノ意義及內容ヲ詳細

說明シテ墺國內外ニ行ハルル揣擵臆測ノ謂ナキ所以ヲ强調

シ今次協定ニ依リ墺國ノ獨立尊重竝ニ獨逸ノ內政不干涉

（墺國「ナチ」問題ヲ含ム）ハ再確認セラレ兩獨逸國家間ノ

誤解一埽セラレタリト爲シ墺國トシテハ互讓ノ精神ヲ以テ

最大限ノ讓步ヲ爲シタル今日「ヒ」總統ノ約言ニ信賴シ政

府ハ基督敎的獨逸民族的獨立國家タルノ使命逹成ノ爲一路

邁進スルノ決意ナルヲ表明シ擧國一致ノ協力ト支援トヲ求

メタリ右演說ハ數日歬「ヒ」總統ノ對墺聲明アリタル折柄

ニモアリ內外ニ異常ナル緊張ト關心ヲ以テ迎ヘラレタリ

獨、伊ヘ郵送ス

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

592　



墺国首相が国民投票の実施を決定について

ウィーン　

3月10日後発

本　　

省　

3月11日前着

第一八號

最近ニ於ケル墺國「ナチ」ノ擡頭進出ニ伴ヒ政界、經濟界

其ノ他各方面ニ於テ人心ノ不安動搖募リタル爲「シユシユ

ニツク」首相ハ此ノ際人心ノ歸趨ヲ明カニスルノ必要ヲ痛

感セルモノノ如ク斷乎其ノ政策ノ贊否ヲ一般國民（但シ二

十四歲以下ノ者ヲ除ク）投票ニ問フニ決意シ九日「インス

ブルツク」ニ於ケル祖國戰線大會ニ於テ墺國全國民ニ呼掛

ケ來ル十三日ヲ期シ墺國ノ自由、獨立、社會的、獨逸民族

的、基督敎的統一的國家タルコトヲ欲スルヤ否ヤ又平和、

勞働竝ニ祖國愛及民族愛ニ自覺スル一切ノモノノ同權ニ贊

成スルヤ否ヤ總括的ニ「イエス」又ハ「ノー」ヲ以テ投票

スヘキ旨命シタリ不取敢

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

593　



墺国首相が国民投票を決意した背景について

ウィーン　

3月10日後発

本　　

省　

3月11日前着

第二一號

794


795

徃電第一八號ニ關シ

「シユシユニツク」首相カ突如トシテ而モ三日ノ後ニ廹リ

其ノ政策是非ニ付「プレビシツト」ヲ求メタルハ內外ニ異

常ナル衝動ヲ與ヘタルカ同首相ノ意嚮ハ之ニ依リテ「ナ

チ」派ノ事歬工作ヲ封シ込ミ又其ノ「スローガン」モ全體

トシテ贊否ヲ決セシメ且「ナチ」層ニ屬スル廿四歲以下ノ

者ノ投票ヲ認メサルハ巧妙ナル作戰ト言フヘシ一般投票ノ

結果ハ豫斷ヲ許ササルモ首相カ豫テ「ナチ」派ノ唱衜スル

「プレビシツト」ヲ進ンテ斷行シ「ベルヒスガーデン」會

談以來國內ニ漲ル諳雲ヲ一埽シテ其ノ去就ヲ一擧ニ決セン

トスルハ胸中自ラ確算アルモノト觀ルヲ至當トスヘク「カ

トリツク」、犹太人資本家、復辟派、官公吏及勞働者ノ大

部分ハ「シユ」側ニ立ツモノト觀ラレ萬一「シユ」ニシテ

「プレビシツト」ニ敗ル時ハ辭

スヘク其ノ場合ニ於ケル

時局收拾ハ非常ナル困難ニ遭遇スヘキコト想像ニ難カラス

在歐各大公使ヘ諳送セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

594　



独国の最後通牒を受けて墺国の国民投票中止

について

ウィーン　

3月12日前発

本　　

省　

3月12日夜着

第二八號（大至急）


十一日午後墺國大統領ハ獨逸政府ヨリ其ノ提案スヘキ候補

者ヲ首相及閣員ニ任命スルニアラサレハ軍隊ヲ進軍セシム

ヘキ旨ノ期限附最後通牒ニ接シタル爲形勢俄然一變シ國民

投票ハ中止トナリ「シユシユニツク」首相ハ流血ノ慘ヲ避

クル爲直ニ辭

シ深夜內相「ザイス・インクアルト」ニ組

閣ノ命下レリ不取敢

獨、伊、英、佛ヘ轉電セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

595　

昭和13年3月13日　在独国東郷大使より　


独国軍の墺国進駐に関するヒトラー声明につ

いて

ベルリン　

3月13日前発

本　　

省　

3月13日後着

第一一八號

「ヒトラー」總統ハ十二日獨逸民族ニ吿クルノ書ヲ發表シ

其ノ結論ニ於テ「今朝來獨逸國軍ハ續々墺國內ニ入リツツ

アルカ其ノ背後ニハ全獨逸民族ノ强固ナル意思ト斷乎タル

決意アルモノナルコトヲ牢記スヘシ余ハ獨逸國民ノ總統及

指導者タル資格ニ於テ又同時ニ自由ナル一獨逸臣民トシテ

自分ノ故鄕タル國ノ土ヲ踏ムコトヲ得ルヲ幸福トス墺國內

獨逸民族ハ之カ救援ニ赴ク同胞ヲ以テ塗炭ノ苦ヨリ救フモ

ノトシテ迎ヘツツアリ」トノ語ヲ殘シテ噂ノ如ク墺國ニ向

ヒタルカ墺國「リンツ」市ニ於テ同國官民群衆ノ歡呼裡ニ

新首相「インクワルト」以下要人ト會合同市役所ニ於テ一

民族、一指導者、一國家（ein Volk ein Führer ein R

eich

）ナル

「スローガン」ノ下ニ獨墺交歡ヲ爲シタル模樣特ニ「ヒ」

總統カ「獨墺兩國民ノ宿命的結合ハ何等流血ノ慘ヲ見ルコ

トナクシテ遂行セラレ度ク何レノ國ト雖再ヒ之ヲ割クヲ得

ス」ト高唱セル模樣等ハ市內各所特設ノ街頭「ラヂオ」ニ

依リ放送セラレテ松明行列其ノ他ノ催シト共ニ恰モ戰勝國

ノ如キ祝賀氣分ニ溢レツツアリ

英、米、佛、伊、土、波、墺、致、壽府ニ轉電シ其ノ他在

歐大公使ニ郵送セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

596　



独墺合邦に関する法令を独国が公布について

ベルリン　

3月14日前発

本　　

省　

3月14日後着

第一二三號（大至急）

墺國滯在中ノ「ヒトラー」總統ハ墺國正式併合ノ歬提トシ

テ十三日夜二個ノ重要法令ヲ公布シ卽日施行セリ要領左ノ

通リ

甲、法律

　

㈠� Oesterreich

カ獨逸ノ一州タルコト（Land des D

eutschen

Reiches

）竝ニ獨墺合併ニ關シ四月十日人民投票ヲ行フ

ヘキ旨ヲ定メタル十三日附ノ墺國法律ハ獨逸國モ之ヲ

承認シ同日以後獨逸國ノ法律ト看做ス

　

㈡�

自今墺國ノ政務ハ「ヒ」總統又ハ其ノ委任ニ依ル獨逸

794


795


「シユシユニツク」首相カ突如トシテ而モ三日ノ後ニ廹リ

其ノ政策是非ニ付「プレビシツト」ヲ求メタルハ內外ニ異

常ナル衝動ヲ與ヘタルカ同首相ノ意嚮ハ之ニ依リテ「ナ

チ」派ノ事歬工作ヲ封シ込ミ又其ノ「スローガン」モ全體

トシテ贊否ヲ決セシメ且「ナチ」層ニ屬スル廿四歲以下ノ

者ノ投票ヲ認メサルハ巧妙ナル作戰ト言フヘシ一般投票ノ

結果ハ豫斷ヲ許ササルモ首相カ豫テ「ナチ」派ノ唱衜スル

「プレビシツト」ヲ進ンテ斷行シ「ベルヒスガーデン」會

談以來國內ニ漲ル諳雲ヲ一埽シテ其ノ去就ヲ一擧ニ決セン

トスルハ胸中自ラ確算アルモノト觀ルヲ至當トスヘク「カ

トリツク」、犹太人資本家、復辟派、官公吏及勞働者ノ大

部分ハ「シユ」側ニ立ツモノト觀ラレ萬一「シユ」ニシテ

「プレビシツト」ニ敗ル時ハ辭

スヘク其ノ場合ニ於ケル

時局收拾ハ非常ナル困難ニ遭遇スヘキコト想像ニ難カラス

在歐各大公使ヘ諳送セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

594　



独国の最後通牒を受けて墺国の国民投票中止

について

ウィーン　

3月12日前発

本　　

省　

3月12日夜着

第二八號（大至急）


十一日午後墺國大統領ハ獨逸政府ヨリ其ノ提案スヘキ候補

者ヲ首相及閣員ニ任命スルニアラサレハ軍隊ヲ進軍セシム

ヘキ旨ノ期限附最後通牒ニ接シタル爲形勢俄然一變シ國民

投票ハ中止トナリ「シユシユニツク」首相ハ流血ノ慘ヲ避

クル爲直ニ辭

シ深夜內相「ザイス・インクアルト」ニ組

閣ノ命下レリ不取敢

獨、伊、英、佛ヘ轉電セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

595　



独国軍の墺国進駐に関するヒトラー声明につ

いて

ベルリン　

3月13日前発

本　　

省　

3月13日後着

第一一八號

「ヒトラー」總統ハ十二日獨逸民族ニ吿クルノ書ヲ發表シ

其ノ結論ニ於テ「今朝來獨逸國軍ハ續々墺國內ニ入リツツ

アルカ其ノ背後ニハ全獨逸民族ノ强固ナル意思ト斷乎タル

決意アルモノナルコトヲ牢記スヘシ余ハ獨逸國民ノ總統及

指導者タル資格ニ於テ又同時ニ自由ナル一獨逸臣民トシテ

自分ノ故鄕タル國ノ土ヲ踏ムコトヲ得ルヲ幸福トス墺國內

獨逸民族ハ之カ救援ニ赴ク同胞ヲ以テ塗炭ノ苦ヨリ救フモ

ノトシテ迎ヘツツアリ」トノ語ヲ殘シテ噂ノ如ク墺國ニ向

ヒタルカ墺國「リンツ」市ニ於テ同國官民群衆ノ歡呼裡ニ

新首相「インクワルト」以下要人ト會合同市役所ニ於テ一

民族、一指導者、一國家（ein Volk ein Führer ein R

eich）ナル

「スローガン」ノ下ニ獨墺交歡ヲ爲シタル模樣特ニ「ヒ」

總統カ「獨墺兩國民ノ宿命的結合ハ何等流血ノ慘ヲ見ルコ

トナクシテ遂行セラレ度ク何レノ國ト雖再ヒ之ヲ割クヲ得

ス」ト高唱セル模樣等ハ市內各所特設ノ街頭「ラヂオ」ニ

依リ放送セラレテ松明行列其ノ他ノ催シト共ニ恰モ戰勝國

ノ如キ祝賀氣分ニ溢レツツアリ

英、米、佛、伊、土、波、墺、致、壽府ニ轉電シ其ノ他在

歐大公使ニ郵送セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

596　



独墺合邦に関する法令を独国が公布について

ベルリン　

3月14日前発

本　　

省　

3月14日後着

第一二三號（大至急）

墺國滯在中ノ「ヒトラー」總統ハ墺國正式併合ノ歬提トシ

テ十三日夜二個ノ重要法令ヲ公布シ卽日施行セリ要領左ノ

通リ

甲、法律

　

㈠� Oesterreich

カ獨逸ノ一州タルコト（Land des D

eutschen

Reiches

）竝ニ獨墺合併ニ關シ四月十日人民投票ヲ行フ

ヘキ旨ヲ定メタル十三日附ノ墺國法律ハ獨逸國モ之ヲ

承認シ同日以後獨逸國ノ法律ト看做ス

　

㈡�

自今墺國ノ政務ハ「ヒ」總統又ハ其ノ委任ニ依ル獨逸

796


797

國務大臣之ヲ管掌ス

乙、軍令

　

一、�墺國軍隊ハ本十三日以降獨逸國軍ノ构成分子トシテ

「ヒ」總統ノ統率ニ盡ス

　

二、�右Oesterreich

軍ノ指揮ハ獨逸國軍第八軍團長「フンボ

ーツク」大將ニ委セ

　

三、�從來ノ墺國軍將卒ハ總テ其ノ最高統率者タル「ヒ」總

統ニ忠誠ヲ誓フヘシ

同日附ヲ以テ「ナチス」黨部隊長「ヒユルケル」ハ一、

Oesterreich

內ニ於ケル「ナチス」改組ノ任務ヲ受クルト同

時ニ二、右資格ニ於テ來ル四月十日ノ墺太利人民投票ニ準備

ヲ爲スヘキコト三、及右ニ關シ所要ノ措置ヲ執ルノ權限ヲ與

ヘラルルコトニ付「ヒ」總統ヨリ黨主トシテノ命令發セラ

レタリ

在歐各大使及米ニ轉電セリ

　　　　　

〰⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

597　

昭和13年3月14日　広田外務大臣より　　　

在独国東郷大使宛（電報）

独墺合邦法令の解釈および対独祝電の発出に

つき意見回示方訓令

本　

省　

3月14日後10時55分発

第六八號（至急）

一、�貴電第一二三號御申越ノ法令ニ依レハ獨墺兩國ノ合併ハ

完了セルモノノ如ク認メラルル處同電冐頭ニ「正式合併

ノ歬提トシテ」トアルハ如何ナル意義ニ解スヘキヤ

二、�尙當方トシテハ帝國政府ノ名ニ於テ合併ニ對スル祝電發

送方考慮中ナルカ右ニ付テハ對平和條約關係及英佛等ニ

及ス影响ヲモ考慮スルノ要アル處右措置ニ對スル貴見至

急囘電アリタシ

英、佛、伊、墺ヘ轉電アリタシ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

598　



在墺日本公使館閉鎖に伴う措置につき意見具申

ウィーン　

3月14日後発

本　　

省　

3月15日前着

第三二號

現下情勢ニ突然的重大變化ナキ限リ四月十日ノ一般投票ヲ

待ツ迄モナク「アンシユルス」ハ事實上實現セラレタルモ

ノト見ラルヘク從テ早晚承認問題ト共ニ當館處分問題ヲ生

スヘキ處右ニ付旣ニ御考慮中ノコトト存セラルルモ諸般ノ

關係上當館閉鎻後ハ之ヲ總領事館ニ模樣替スルト共ニ豫テ

御內示ノ「ブタペスト」外交官駐在所ヲ獨立ノ公使館ニ昇

格スルモ一案カト存セラル

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

599　



独墺合邦に対する日本政府の祝意を独国外相

へ伝達方訓令

本　

省　


第七一號

本大臣ノ訓令トシテ「リツベントロツプ」外相ニ對シ左ノ

通申入ラレタシ

「帝國政府ハ今囘獨墺兩國政府ノ英斷ニ依リテ實現ヲ見ル

ニ至リタル獨墺兩國ノ事實的合併カ獨逸民族多年ノ宿望ヲ

逹成シタルノミナラス更ニ防共陣營ノ强化擴大ニ資スル所

大ナルヘキヲ思ヒ玆ニ獨逸國政府ニ對シ衷心ヨリノ祝意ヲ

表スルト共ニ來ルヘキ國民投票ノ成功ヲ確信スルモノナリ」

英佛伊墺米ヘ轉電アリタシ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

600　

昭和13年3月15日　近衛内閣総理大臣より　　

ヒトラー独国首相宛（電報）

独墺合邦に対する近衛首相の祝電

付　記�

右和文原案

本　

省　


Seiner Exzellenz

H

errn Reichskanzler A

dolf Hitler

B

erlin

A

nlaesslich der seit Jahren von Ihnen erstrebten

Wiedervereinigung O

esterreichs mit dem

Deutschen R

eiche,

beehre ich mich, E

uerer Exzellenz m

eine aufrichtigste

Glueckw

uensche auszusprechen und verbinde damit m

eine

herzlichste Wuensche fuer das W

ohlergehen Euerer Exzellenz

sowie fuer das G

edeihen des Deutschen Volkes.

M

inisterpraesident Konoe　

796


797

國務大臣之ヲ管掌ス

乙、軍令

　

一、�墺國軍隊ハ本十三日以降獨逸國軍ノ构成分子トシテ

「ヒ」總統ノ統率ニ盡ス

　

二、�右Oesterreich

軍ノ指揮ハ獨逸國軍第八軍團長「フンボ

ーツク」大將ニ委セ

　

三、�從來ノ墺國軍將卒ハ總テ其ノ最高統率者タル「ヒ」總

統ニ忠誠ヲ誓フヘシ

同日附ヲ以テ「ナチス」黨部隊長「ヒユルケル」ハ一、

Oesterreich

內ニ於ケル「ナチス」改組ノ任務ヲ受クルト同

時ニ二、右資格ニ於テ來ル四月十日ノ墺太利人民投票ニ準備

ヲ爲スヘキコト三、及右ニ關シ所要ノ措置ヲ執ルノ權限ヲ與

ヘラルルコトニ付「ヒ」總統ヨリ黨主トシテノ命令發セラ

レタリ

在歐各大使及米ニ轉電セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

597　



独墺合邦法令の解釈および対独祝電の発出に

つき意見回示方訓令

本　

省　


第六八號（至急）

一、�貴電第一二三號御申越ノ法令ニ依レハ獨墺兩國ノ合併ハ

完了セルモノノ如ク認メラルル處同電冐頭ニ「正式合併

ノ歬提トシテ」トアルハ如何ナル意義ニ解スヘキヤ

二、�尙當方トシテハ帝國政府ノ名ニ於テ合併ニ對スル祝電發

送方考慮中ナルカ右ニ付テハ對平和條約關係及英佛等ニ

及ス影响ヲモ考慮スルノ要アル處右措置ニ對スル貴見至

急囘電アリタシ

英、佛、伊、墺ヘ轉電アリタシ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

598　



在墺日本公使館閉鎖に伴う措置につき意見具申

ウィーン　

3月14日後発

本　　

省　

3月15日前着

第三二號

現下情勢ニ突然的重大變化ナキ限リ四月十日ノ一般投票ヲ

待ツ迄モナク「アンシユルス」ハ事實上實現セラレタルモ

ノト見ラルヘク從テ早晚承認問題ト共ニ當館處分問題ヲ生

スヘキ處右ニ付旣ニ御考慮中ノコトト存セラルルモ諸般ノ

關係上當館閉鎻後ハ之ヲ總領事館ニ模樣替スルト共ニ豫テ

御內示ノ「ブタペスト」外交官駐在所ヲ獨立ノ公使館ニ昇

格スルモ一案カト存セラル

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

599　



独墺合邦に対する日本政府の祝意を独国外相

へ伝達方訓令

本　

省　


第七一號

本大臣ノ訓令トシテ「リツベントロツプ」外相ニ對シ左ノ

通申入ラレタシ

「帝國政府ハ今囘獨墺兩國政府ノ英斷ニ依リテ實現ヲ見ル

ニ至リタル獨墺兩國ノ事實的合併カ獨逸民族多年ノ宿望ヲ

逹成シタルノミナラス更ニ防共陣營ノ强化擴大ニ資スル所

大ナルヘキヲ思ヒ玆ニ獨逸國政府ニ對シ衷心ヨリノ祝意ヲ

表スルト共ニ來ルヘキ國民投票ノ成功ヲ確信スルモノナリ」

英佛伊墺米ヘ轉電アリタシ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

600　

昭和13年3月15日　近衛内閣総理大臣より　　

ヒトラー独国首相宛（電報）

独墺合邦に対する近衛首相の祝電

付　記�

右和文原案

本　

省　


Seiner Exzellenz

H

errn Reichskanzler A

dolf Hitler

B

erlin

A

nlaesslich der seit Jahren von Ihnen erstrebten

Wiedervereinigung O

esterreichs mit dem

Deutschen R

eiche,

beehre ich mich, E

uerer Exzellenz m

eine aufrichtigste

Glueckw

uensche auszusprechen und verbinde damit m

eine

herzlichste Wuensche fuer das W

ohlergehen Euerer Exzellenz

sowie fuer das G

edeihen des Deutschen Volkes.

M

inisterpraesident Konoe　

798


799

（付　記）

貴宰相多年ノ念願タル獨墺合併ニ際シ衷心ヨリノ祝意ヲ表

スルト共ニ獨逸民族ノ繁榮竝ニ閣下ノ御健康ヲ祈ル

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

601　



独墺合邦法令の解釈および対独祝電発出に関

する意見回答について

ベルリン　

3月15日後発

本　　

省　

3月16日前着

第一二六號

貴電第六八號ニ關シ

一、�今次合併ノ法律的构成トシテハ四月十日ノ人民投票ニ依

リ條件完了スルモノト解釋スルモ現實ニハ三月十三日ヲ

以テ完成セルコト明瞭ナリ

二、�貴方ヨリ祝電ヲ發セラルルコトハ結构ナリト認メラル但

シ英佛ニ及ホス影响ニ付豫メ覺悟ノ要アル處當（兩ヵ）國

ハ徃電

第一二〇號ノ通リ抗議申込ノ次第ニモ鑑ミ直ニ併合ヲ承

認スルコトトナルヘシトハ思料セラレサルモ平和條約ノ

關係ハ旣ニ歬例モアリ右ハ多ク懸念ノ要ナカルヘシ尙伊

國モ十四日ノ「ヒ」總統宛「ム」首相﨤電以上果シテ直

ニ祝電ヲ發スル意嚮ナリヤ疑ナキヲ得ス他方當國ニ於テ

ハ數世紀ニ亘リ獨逸民族カ希望シタル大獨逸國ノ建設セ

ラレタルコトハ主トシテ「ヒ」總統自身ノ英雄的手腕ニ

依ルモノトシテ謳歌セラレ居ル次第ナルニ付右祝電ハ寧

ロ對政府間ノ形式ヲ執ラスシテ或ハ近衞首相ヨリ直接

「ヒ」宰相宛發セラルルコト适當ニシテ且旣ニ併合ノ事

實完成セルニ鑑ミ右ハ早目ニ行ハルルコト有效ト認メラ

ル佛、伊、英、墺ヘ轉電セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

602　

昭和13年3月15日　在英国吉田大使より　


独墺合邦後における英国の対独感情悪化につ

いて

ロンドン　

3月15日後発

本　　

省　

3月16日前着

第一九八號

「ハリフアツクス」ノ訪獨以來分ケテ「チエンバレン」首

相ノ歐洲安定ニ關スル議會演說以後對獨關係調整ニ付テハ

英朝野共相當ノ熱心サヲ示シ對獨感情モ頗ル緩和シ從來親

獨主義者ト目サレテ多少肩身狹氣ニシ居リタル輩ニ得意ノ

色ヲ生シ來レルカ何分ニモ「リツベントロツプ」來英ノ際

ノ「デモンストレイシヨン」ノ如キモ一部共產黨系分子ノ

煽動ニ主因スルモノトシテ一般ハ餘リ氣ニセサルヤニ見受

ケラレタルカ今次墺太利事件發生スルヤ當國上下共ニ多大

ノ衝動ヲ受ケ本件ヲ以テ一九一四年以來ノ最モ重大ナル出

來事トシ獨逸ニ對シテハ條約ヲ無視シ國家ノ獨立ヲ奪ヒタ

ル歐洲平和ノ攪亂者トシテ非難ノ聲益々高ク徃電第一九四

號所報首相ノ獨逸糺彈演說ノ際ハ反對黨モ一齊ニ拍手ヲ送

リ滿場擧ケテ熱心ニ政府ノ立場ヲ支持セリ又「シテイ」ニ

於テモ今後ノ國際政局ヲ著シク懸念シ（此ノ點別電ス）殊ニ

本件ニ關聯シ政府カ軍事豫算ヲ更ニ再檢討シ軍擴ヲ促進ス

ル意嚮ヲ明カニシタルヲ以テ右ニ基ク財界ヘノ重壓及各國

軍擴ニ依ル惡影响ヲ顧念シ從來ヨリノ反獨感情ハ一時ニ激

化セリ更ニ一般民衆憤激ノ程ハ各新聞ノ報衜振及論評竝ニ

市中ニ行ハルル反獨「デモ」、獨逸大使館ニ對スル投石事

件等ニテモ窺知シ得ヘク尙伊ノ對獨同情的態度ハ當國民ニ

極度ノ反感ヲ與ヘタル樣觀測セラル

獨、蘇、米ヘ轉電シ在歐各大使ヘ諳送セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

603　



近衛首相祝電の独国各紙揭載や独墺合邦に対

する国民投票の予定などにつき報告

ベルリン　

3月16日後発

本　　

省　

3月17日前着

第一三五號

一、�近衞首相ノ「ヒ」總統宛祝電及右ニ對スル總統ノ﨤電在

墺公使館ヲ近キ將來ニ總領事館ニ變更スヘシトノ貴地同

盟情報ト共ニ十五日夜直ニ「ラヂオ」ニテ披露セラルル

ト共ニ右「テキスト」十六日各紙ニ揭載セラレタリ

二、四月十日ノ人民投票

　

�「アドルフ、ヒツトラー」ヲ奉戴シ以テ一九三八年三月

十三日完了セラレタル獨墺併合ニ贊成スルヤ否ヤ（不明）

贊否ヲ記入投票スルコトニ發表セラル

800


801

三、�在當地洪牙利公使ハ本國政府ノ訓令ニ依リ十五日獨外務

省ニ對シ㈠獨墺併合ニ對スル祝意㈡獨洪兩國間親善關係

ノ增進ノ希望及㈢在維納同國公使館ヲ總領事館ニ變更ス

ルコトニ決シタル旨申入レタル趣ナリ

四、十六日午後「ヒ」總統伯林到着ノ筈

墺ニ轉電シ在歐各大公使、米ニ郵送セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

604　



在墺日本公使館の至急廃止および在ウィーン

日本総領事館の設置につき意見具申

ベルリン　

3月16日後発

本　　

省　

3月17日前着

第一三六號（至急）

徃電第一二九號末段ニ關シ

獨墺合併實現ニ伴ヒ維納ニ總領事館設置方ニ付テハ旣ニ御

考慮中ノコトト存セラルル處右合併承認ト日墺現存條約ト

ノ關係ニ付テハ今後ハ現行日獨間ノ條約カ之ニ代リ舊墺國

領域ニ适用セラルルコトトシテ支障ナカルヘク又三月十三

日ノ獨墺合併ニ關スル法律ト來ル四月十日ノ人民投票トノ

關係ニ付テハ徃電第一三五號㈡ノ投票ノ宣言ニモ明カナル

通リ當國政府トシテハ人民投票ハ所謂解除條件ニ過キス

（此ノ解釋ハ「マツケンゼン」次官之ヲ肯定シ實際的ニハ

絕對ニ解除ノ危險ナシト述ヘ居リタリ）併合ノ效力ハ三月

十三日ヲ以テ發生セルモノト認メ居ル次第ニテ他方我方ト

シテハ旣ニ近衞總理ヨリ「ヒ」總統宛ノ祝電竝ニ帝國政府

ヨリ獨逸政府宛祝意申入等ニ依リ本件併合ニ對スル根本的

態度旣ニ決定シ居ル此ノ際右承認ノ形式的方面ニ於テモ速

ニ之ヲ實行シ其ノ政治的效果ヲ大ナラシムルコト得策ナル

ヘク現ニ洪牙利側ニ於テハ旣ニ公使館ヲ總領事館ニ變更方

決定ノ旨ヲ正式ニ通吿シ「ヒ」總統モ特ニ之ヲ多トシ居ル

旨「マツケンゼン」次官モ述ヘ居タル次第ニモアリ帝國ト

シテモ來ルヘキ人民投票ノ結果ヲ俟ツコトナク至急在維納

公使館ヲ廢止シ同地ニ總領事館ヲ設置スル旨ヲ決定セラレ

右決定ノ旨ヲ正式ニ獨逸政府ニ申入ルルコト然ルヘシト認

メラル右御詮議ノ上至急御囘電ヲ請フ

墺ヘ轉電シ在歐米各大使ヘ諳送セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

605　



独墺合邦への英国態度などに関する独国外務

次官の内話報告

ベルリン　

3月16日後発

本　　

省　

3月17日前着

第一三七號（極祕）

⑴十六日「マツケンゼン」次官徃訪ノ際同次官ハ墺國併合ニ

伴フ今後ノ國際關係ノ見透シニ關スル本使ノ問ニ對シ

伊ノ態度ハ旣ニ明瞭ナリ英ハ本月十一日ノ抗議ニ對スル獨

ノ囘答後別段ノ措置ヲ執ルニ至ラス今後更ニ抗議ヲ繰﨤シ

又併合ニ付其ノ承認ヲ澁ル等ノコトアランモ結局旣成事實

トシテ諦ムルノ外ナカルヘシ過般ノ「ベルヒテスガーデン」

ニ於テ「ヒツトラー」總統ハ「シユシユニツク」ニ對シ一

九三六年獨墺協定ノ勵行ヲ求メ其ノ實行ナキ時ハ重大ナル

事態ヲ招來スルコトトナルヤモ知レスト述ヘ併合ニハ何等

觸ルル所ナカリシ次第ナルカ「シユ」ハ協定ノ勵行方ヲ約

シタル處之ニ拘ラス人民投票ノ如キ瞞着的方法ヲ執ラント

セルヲ以テ事態急變シタルモノナリ此ノ間ノ事情ニ關シテ

ハ英ニ相當ノ誤解アルカ如キモ事態判明セハ現實的ナル

「チエンバレン」英首相ハ結局納得スヘシト信スト述ヘタ

リ⑵尙本使ヨリ「リツペントロツプ」外相ノ訪英ニ付植民地問

題ニ關シ何等カ進展セリヤト問ヘルニ對シ次官ハ先般「ヘ

ンダーソン」英大使「ヒ」總統ト會談ノ際本問題ニモ觸レ

獨カ植民地再獲得ノ際土人ノ保護其ノ他ニ付保障ヲ與ヘラ

ルルヤトノ如キ話ハアリタルモ地點等ニ付テハ何等示サス

從來英側ニ於テハ葡萄牙、白耳義ノ植民地ヲ獨ニ與ヘント

スル考アルカ如キモ斯ル方法ハ獨ノ受ケラルル所ニアラス

兎ニ角「リ」訪英ノ際モ具體的話合ノ進展セルモノナシ本

問題ハ目下ノ所交涉ト言ハンヨリモ寧ロ其ノ準備時代ト言

フヘク尙今囘ノ墺國併合問題ニ依リ其ノ解決多少遲ルルコ

トトナルヘキカト述ヘタリ

墺、英、米、佛、伊、蘇、波蘭、白ヘ諳送セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

606　



独墺合邦の欧州政局に及ぼす影響につき観測

800


801

三、�在當地洪牙利公使ハ本國政府ノ訓令ニ依リ十五日獨外務

省ニ對シ㈠獨墺併合ニ對スル祝意㈡獨洪兩國間親善關係

ノ增進ノ希望及㈢在維納同國公使館ヲ總領事館ニ變更ス

ルコトニ決シタル旨申入レタル趣ナリ

四、十六日午後「ヒ」總統伯林到着ノ筈

墺ニ轉電シ在歐各大公使、米ニ郵送セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

604　



在墺日本公使館の至急廃止および在ウィーン

日本総領事館の設置につき意見具申

ベルリン　

3月16日後発

本　　

省　

3月17日前着

第一三六號（至急）

徃電第一二九號末段ニ關シ

獨墺合併實現ニ伴ヒ維納ニ總領事館設置方ニ付テハ旣ニ御

考慮中ノコトト存セラルル處右合併承認ト日墺現存條約ト

ノ關係ニ付テハ今後ハ現行日獨間ノ條約カ之ニ代リ舊墺國

領域ニ适用セラルルコトトシテ支障ナカルヘク又三月十三

日ノ獨墺合併ニ關スル法律ト來ル四月十日ノ人民投票トノ

關係ニ付テハ徃電第一三五號㈡ノ投票ノ宣言ニモ明カナル

通リ當國政府トシテハ人民投票ハ所謂解除條件ニ過キス

（此ノ解釋ハ「マツケンゼン」次官之ヲ肯定シ實際的ニハ

絕對ニ解除ノ危險ナシト述ヘ居リタリ）併合ノ效力ハ三月

十三日ヲ以テ發生セルモノト認メ居ル次第ニテ他方我方ト

シテハ旣ニ近衞總理ヨリ「ヒ」總統宛ノ祝電竝ニ帝國政府

ヨリ獨逸政府宛祝意申入等ニ依リ本件併合ニ對スル根本的

態度旣ニ決定シ居ル此ノ際右承認ノ形式的方面ニ於テモ速

ニ之ヲ實行シ其ノ政治的效果ヲ大ナラシムルコト得策ナル

ヘク現ニ洪牙利側ニ於テハ旣ニ公使館ヲ總領事館ニ變更方

決定ノ旨ヲ正式ニ通吿シ「ヒ」總統モ特ニ之ヲ多トシ居ル

旨「マツケンゼン」次官モ述ヘ居タル次第ニモアリ帝國ト

シテモ來ルヘキ人民投票ノ結果ヲ俟ツコトナク至急在維納

公使館ヲ廢止シ同地ニ總領事館ヲ設置スル旨ヲ決定セラレ

右決定ノ旨ヲ正式ニ獨逸政府ニ申入ルルコト然ルヘシト認

メラル右御詮議ノ上至急御囘電ヲ請フ

墺ヘ轉電シ在歐米各大使ヘ諳送セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇〰〰

605　



独墺合邦への英国態度などに関する独国外務

次官の内話報告

ベルリン　

3月16日後発

本　　

省　

3月17日前着

第一三七號（極祕）

⑴十六日「マツケンゼン」次官徃訪ノ際同次官ハ墺國併合ニ

伴フ今後ノ國際關係ノ見透シニ關スル本使ノ問ニ對シ

伊ノ態度ハ旣ニ明瞭ナリ英ハ本月十一日ノ抗議ニ對スル獨

ノ囘答後別段ノ措置ヲ執ルニ至ラス今後更ニ抗議ヲ繰﨤シ

又併合ニ付其ノ承認ヲ澁ル等ノコトアランモ結局旣成事實

トシテ諦ムルノ外ナカルヘシ過般ノ「ベルヒテスガーデン」

ニ於テ「ヒツトラー」總統ハ「シユシユニツク」ニ對シ一

九三六年獨墺協定ノ勵行ヲ求メ其ノ實行ナキ時ハ重大ナル

事態ヲ招來スルコトトナルヤモ知レスト述ヘ併合ニハ何等

觸ルル所ナカリシ次第ナルカ「シユ」ハ協定ノ勵行方ヲ約

シタル處之ニ拘ラス人民投票ノ如キ瞞着的方法ヲ執ラント

セルヲ以テ事態急變シタルモノナリ此ノ間ノ事情ニ關シテ

ハ英ニ相當ノ誤解アルカ如キモ事態判明セハ現實的ナル

「チエンバレン」英首相ハ結局納得スヘシト信スト述ヘタ

リ⑵尙本使ヨリ「リツペントロツプ」外相ノ訪英ニ付植民地問

題ニ關シ何等カ進展セリヤト問ヘルニ對シ次官ハ先般「ヘ

ンダーソン」英大使「ヒ」總統ト會談ノ際本問題ニモ觸レ

獨カ植民地再獲得ノ際土人ノ保護其ノ他ニ付保障ヲ與ヘラ

ルルヤトノ如キ話ハアリタルモ地點等ニ付テハ何等示サス

從來英側ニ於テハ葡萄牙、白耳義ノ植民地ヲ獨ニ與ヘント

スル考アルカ如キモ斯ル方法ハ獨ノ受ケラルル所ニアラス

兎ニ角「リ」訪英ノ際モ具體的話合ノ進展セルモノナシ本

問題ハ目下ノ所交涉ト言ハンヨリモ寧ロ其ノ準備時代ト言

フヘク尙今囘ノ墺國併合問題ニ依リ其ノ解決多少遲ルルコ

トトナルヘキカト述ヘタリ

墺、英、米、佛、伊、蘇、波蘭、白ヘ諳送セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

606　



独墺合邦の欧州政局に及ぼす影響につき観測

802


803

報告

ロンドン　

3月16日後発

本　　

省　

3月17日後着

第二〇三號

⑴徃電第一九八號ニ關シ

墺國問題ハ少クトモ一時英佛側ノ泣寢入ニ終ルトスルモ本

件ヲ發端トシテ歐洲國際關係ハ更ニ一波萬波ヲ呼ヒ政治ニ

經濟ニ其ノ影响スル所遠ク且久カルヘク極東ニ及ホス關係

ヨリスルモ事態輕々ニ看過スヘキニアラス

一、�英獨ハ英國首相ノ提唱ニ依リ「ハリフアツクス」ノ訪獨

ニ引續キ兩國ノ接近曩ニ可能ニ見エタルモ今ヤ恰モ擧國

獨逸ノ不信遂ニ賴ムヘカラサルニ一致シ軍備ノ充實ト對

獨麭圍ノ外交陣ノ构成ニ漸次決意セントスルカニ見ユ

二、�佛モ事態ノ容易ナラサルヲ看取シテ擧國一致內閣ノ成立

ヲ急キ英佛ハ致國ノ獨立擁護ヲ中心トシテ獨逸厸接國ノ

叫（糾ヵ）合

ヲ策セントスルモノノ如ク和蘭、白耳義、北歐ヨリ

巴爾幹ノ小協商國ニ亘リ南北厸接國側モ獨逸今囘ノ行動

ニ依リ意外ノ衝動ヲ受ケツツアリ

三、�伊ト雖獨逸今囘ノ一擧ニハ出拔カレシ感ヲ抱キ一時去就

ニ迷ヘルカ如キモ「ヒトラー」ノ親書ヲ以テ僅ニ體面ヲ

作レルモ內心ノ不安ハ蔽フヘクモアラス獨逸南下ノ勢ヲ

遂ニ能ク忍ヒ得ヘキヤ

　

�

⑵獨伊樞軸ハ果シテ壞裂ヲ生セサルヤ否ヤ少クトモ壞裂ヲ

生スルノ憂ハ多分ニ存スヘク伊トシテハ今囘ノ事變ヲ逆

用シテ英伊會談ニ於テ出來得ル丈ケノ利益ヲ占メント試

ムヘク英ハ

メヨリ利ヲ以テ誘フノ肚ナルヘケレハ英伊

會談ハ何等カノ形ニテ成立スヘシト觀ル者多シ

四、�獨逸ノ墺國併合ハ政治的ニ一時ノ勝ヲ制シ得タリトスル

モ素是レ咄嗟ノ間ノ決意ニテ深謀熟慮ノ餘リニ出テタル

策謀ト觀ルヘカラサルモノアルヲ以テ其ノ併合ノ利害得

失ニ至リテハ遽ニ判斷ヲ許サス

　

�

英佛ノ財政援助ハ素ヨリ犹太系ノ金融ハ今後期待スヘカ

ラストセハ國際金融ニ依リテ救ハレタル墺國ノ經濟的窮

乏ハ獨逸ノ負擔タルヘク更ニ獨逸國際金融及貿易ニ對ス

ル列國ノ壓廹ハ之ヲ豫想スルニ難カラス現ニ「バーゼ

ル」ニ於テ加納ニ對シ獨逸準備銀行ノ代表者ハ今囘ノ事

件ヲ以テ財政的ニハ失敗ナリト斷言セリト言フ

五、�對獨惡感ト切廹シ來レル歐洲政情ハ對日感情ヲ緩和シ歐

洲安定難ヨリ極東ヲ安定セシメントノ念加ハルト共ニ我

對支政策ニ對スル同情及了解ノ𠘨運ヲ成熟セシメテ戰捷

ノ效果ヲ全フスル用意コソ最モ肝要ナリ是レ本件ノ成行

ハ輕々ニ看過スヘキニアラスト確信スル所以ナリ

米、獨、白、蘇、佛、伊、土、波蘭ヘ轉電シ

壽府ヘ諳送セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

607　

昭和13年3月17日　在伊国堀田大使より　


独墺合邦に対する伊国態度につき報告

ローマ　

3月17日後発

本　

省　

3月18日前着

第一一九號

⑴一、�墺國併合カ今次ノ如キ方法ト時期トニ於テ行ハルヘシト

ハ何人モ豫想セサリシ所ナルカ獨墺合併カ自然ノ勢ニシ

テ到底阻止スヘカラサルモノナルコトハ「ムツソリニ」

ニ於テ夙ニ豫見乃至觀念シ居タルモノト認メラル

　

�

右ハ「ベルヒテスガーデン」ノ獨墺會談ニ際シ伊側カ表

明シタル態度ニ於テ其ノ墺國カ獨逸系國家タルコトヲ認

メツツモ其ノ獨立保全ノコトニ觸レ居ラサリシ點ヨリ見

テモ當時旣ニ必至ノ成行ヲ受諾スル下心ヲ諳示シ居リタ

リト言フヘシ

二、�素ヨリ過去ニ於テ墺ハ獨ニ對スル際ノ介𣷹トシテ伊ヲ相

當賴リニシ伊モ亦墺ニ種々ノ援助ヲ爲シテ勢力ノ扶植ニ

努メ來レルハ事實ナリ又伊カ獨ト直接國境ヲ接スルヲ好

マス墺ヲシテ一種ノ緩衝國タラシメ置クノ希望アリシコ

トモ明カニシテ是等ノ點ヨリスレハ今次ノ事件ハ伊側ノ

希望ニ反スル次第ニシテ從テ英佛等ニ於テハ之ヲ以テ

「ムツソリニ」カ「ヒツトラー」ノ爲ニ致？サレタルモノ

ト解スル向モアリ又伊國內ニ於テモ「ムツソリニ」ノ失

敗ト迄ハ言ハサルモ批評ノ餘地アリトスル者アルカ如キ

モ「ムツソリニ」ノ心境ヲ推スニ伊國現在ノ最大關心事

ハ東阿ノ經營ニアリ必至ノ命數タル獨墺合併ノ勢ニ反對

シ獨伊樞軸ヲ動搖セシムルカ如キハ最モ策ヲ得サルモノ

墺國其ノ他中歐ニ對シテハ獨伊樞軸ノ下ニ伊ノ經濟的利

益ヲ擁護スルヲ以テ滿足スヘシトノ方針ヲ麭懷スルニ依

ルモノト察セラル

⑵三、�歬段內外ノ批評ト關聯シ坊間徃々伊カ墺國併合ヲ認容セ

804


805

ル裏面ニハ何等カノ代償アルヘシトテ種々取沙汰スル者

アルモ（例ヘハ西班牙ニ對スル伊ノ優越權ヲ認メタリト

言フカ如シ）本使ハ此ノ際伊カ特ニ代償ヲ求メ居ルモノ

トハ解セス伊ノ好意アル態度ハ獨伊樞軸ヲ益々强化シ他

日伊カ對英關係其ノ他ニ於テ獨ノ支援ヲ求ムル要アル際

之ヲ期待シ得ルノ順序ニ導クモノト見ルヲ當レリトスヘ

シ四、�尙獨伊國境ヲ接スルニ至レル結果北部國境地方ニ於ケル

獨逸少數民族問題カ獨伊間紛爭ノ種トナルコト想像シ得

サルニアラサルモ「ヒ」モ「ムツソリニー」宛書翰ニ於

テ「ブレンネル」ヲ以テ獨伊ノ決定的國境トスルノ意味

ヲ言外ニ表示シ居リ且獨伊現在ノ提携關係ニモ鑑ミ近キ

將來ニ於テ同問題ヨリ獨伊抗爭ノ勢發生スヘシトハ認メ

難シ

　

�

更ニ又本事件ヲ契𠘨トシテ歐洲戰亂ヲ見ルニアラサルヤ

ノ點ニ關シ戰爭ノ最大ノ危險ハ併合ニ最モ大ナル利害關

係ヲ有スル伊カ之ヲ不可トシテ兵ヲ動カス場合ニアルモ

伊ノ態度歬陳ノ如クニシテ英佛ヨリノ共同動作ノ提案ヲ

モ拒メル以上英佛ノミニテ兵力的干涉ヲ行フカ如キ勢力

ナシト觀ルヘク又「チエツコ」ニ對スル獨ノ直接行動ヲ

懸念スル向アルモ獨カ今遽ニ斯ノ如キ行動ニ出ツヘシト

ハ考ヘラレス旁々以テ本事件ヨリ歐洲戰亂ハ起ラス英佛

ノ抗議モ結局旣成事實ノ歬ニ泣寢入ニ終ルモノト觀測セ

ラル

英、米、獨、佛ヘ轉電シ在歐各大使（土ヲ除ク）、壽府ヘ諳

送セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

608　

昭和13年3月18日　広田外務大臣より　　　　　　　　

在独国東郷大使、在米国斎藤大使宛

（電報）　　　　　　　　　　　　　

在墺日本公使館の廃止など独墺合邦に対する

わが方対処方針につき通報

本　

省　


合第八六八號（極祕）

獨墺合併ニ關スル十三日附獨逸國法律（十五日附公文ヲ以

テ在京獨逸代理大使ヨリ其ノ「テキスト」通吿越セリ）ニ

依リテ兩國合併ハ旣ニ完成セルモノト認メラルル處我方ト

シテハ本件ニ關シ列國ニ卒先シテ獨逸側ニ好意的態度ヲ示

スコト諸般ノ關係ヨリ得策ト思考セラレタルヲ以テ不取敢

在獨大使ヲシテ帝國政府ノ名ニ於テ今囘ノ合併カ獨逸民族

多年ノ宿望ヲ逹成セルノミナラス更ニ防共陣營ノ强化擴大

ニ資スル所大ナルヘシトノ意味合ヲ以テ祝意ヲ表セシメ尙

又近衞總理ヨリモ「ヒットラー」總統ニ對シ直接祝電ヲ送

リタル次第ナルカ本件合併ニ關スル英佛等ノ反對モ結局泣

寢入リニ終ル外ナカルヘク問題カ直ニ「チェッコ」迄波及

セサル限リ事態紛糾ノ虞ナシト觀測セラルルヲ以テ更ニ進

テ速カナル時期ニ在墺公使館廢止ノ取計（我方トシテハ本

件併合ハ歬記ノ通リ三月十三日完成シ之ニ對シ正式承認ヲ

行フ必要ナキモノナリトノ見解ナリ）ニ出ツルト共ニ在獨

大使ヲシテ獨逸政府ニ對シ維納ニ總領事館ヲ設置（其ノ場

合ニハ駐洪公使館ヲ開設スル豫定ナリ御含迄）スル意向ア

ル旨ヲ申入レシムルト共ニ從來ノ日墺關係ノ後始末ニ關ス

ル了解ヲ遂ケシムルコトトシ度キ所存ナリ右不取敢

（在獨大使宛ノ分ノミニ附記）

在歐各大公使、壽府及漢堡ヘ轉電アリタシ

（在米大使宛ノ分ノミニ附記）

在米各大公使ヘ轉電アリタシ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

609　

昭和13年3月18日　在ソ連邦重光大使より


墺国の独立喪失を受けて侵略国への対応措置

を国際会議で討議すべしとのソ連邦外務人民

委員の記者談話について

付　記�

昭和十三年三月十七日発在ソ連邦重光大使よ

り広田外務大臣宛電報第三二五号

�

右会議には日独伊を招請しないとの意見をソ

連邦外務人民委員発言について

モスクワ　

3月18日後発

本　　

省　

3月19日前着

第三二九號

徃電第三二四號

（見当ラズ）ハ

會見ニ列席セル邦人記者ヨリ聽取セルモ

ノナル處本十八日ノ新聞ハ右會見談全部ヲ發表セリ要領左

ノ如シ

蘇政府ハ最近四箇年間ニ發生シタル聯盟規約及不戰條約ニ

基ク國際義務ノ侵犯及攻擊ニ付テハ之ヲ國際犯罪トシテ非

難スルノミナラス侵略國（單數）ニ對シ集團的反擊ヲ與フル

爲ノ總ユル措置ニ積極的ニ參加スルノ用意アルコトヲ表明

806


807

シ之カ爲ニハ侵略國（單數）トノ關係惡化ヲモ顧慮セサリキ

蘇政府ハ侵略ニ對スル世界ノ無關心カ侵略ノ頻發ヲ招來ス

ルコトナキヤヲ懸念セルカ今ヤ墺國ニ對スル武力侵入及同

國ノ獨立喪失ナル新事實アリ而モ今囘ノ暴力行爲ハ歐洲ノ

中央ニ於テ行ハレ侵略國（單數）ト境ヲ接スル十一箇國ニ危

險ヲ感セシムルノミナラス世界各國ノ危險トスル所ナリ第

一ノ脅威ハ致國ニ對スルモノニシテ次ハ其ノ傳染力ニ依ル

國際紛糾ノ增大ナリ現ニ「リ」波國境ニハ憂フヘキ事態釀

成セラレタリ斯ル國際情勢下ニアリテ殊ニ大國タルモノハ

歐洲諸國民ハ勿論其ノ他ノ國民ノ運命ニ付責任ヲ感セサル

ヘカラス蘇政府ハ右責任ノ分歬ヲ認

スルト共ニ聯盟規

約、不戰條約ノ義務竝ニ佛及致國ト締結セル相互援助條約

ノ義務ヲ認

スルモノニシテ余ハ玆ニ蘇政府ハ蘇政府ト共

同ニ決定セラレ且侵略ノ停止及世界戰爭ノ𠘨會除去ヲ目的

トスル集團行爲ニ從來通リ參加スル用意アルコトヲ政府ノ

名ニ於テ聲明ス蘇政府ハ他列國ト聯盟內又ハ聯盟外ニ於テ

時局ノ要求スル實際的措置ノ卽時討議ニ著手スルコトニ同

意ナリ云々

尙記者ノ質問ニ對シ「リ」ハ右蘇政府ノ見解ヲ外國政府ニ

通逹スル樣在外代表ニ訓令セリト答ヘタリ

在歐米各大使（土伯ヲ除ク）、壽府ヘ轉電セリ

（付　記）

モスクワ　

3月17日後発

本　　

省　

3月18日前着

第三二五號

徃電第三二四號ニ關シ

日獨伊ヲモ會議ニ招請スルヤトノ或通信員ノ質問ニ對シ

「リトビノフ」ハ招請セスト答ヘタル趣ナリ尙「リ」カ共

同會見ヲ與ヘタルハ數年來

メテナルカ今囘ノ會見ヲ宣傳

的ト見ラルルヲ避ケンカ爲會見劈頭二、三通信員ヨリ會見

ノ申込アリタルニ付特ニ參集ヲ求メタルナリト斷ハレル趣

ナル處今囘ノ「イニシアチブ」モ例ノ通リ宣傳的ナルコト

明カナリ

伯、土ヲ除ク在歐米各大使、壽府ヘ轉電セリ

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

610　

昭和13年3月⒆日　在ニューヨーク若杉総領事より

広田外務大臣宛（電報）　　　

独裁国家の軍事行動に対し民主主義戦線の成

立は必至と論じた米国紙論説報告

ニューヨーク　　　　　　

発

本　　　　

省　

3月19日後着

特情紐育第八五號

十八日ノ「ニユーヨーク・タイムス」ハ「民主々義對獨裁

主義」ト題シ左ノ如ク論シテ居ル

昨日「ハル」カ言ツタ樣ニ恐ロシイ勢テ世界ニ擴カリツツ

アル獨裁國ノ條約破棄及軍事的暴行ハ武力ニ依ツテノミ阻

止サルヘキ一種ノ傳染病ノ如キモノタ民主々義國ハ戰爭ノ

代價ヲ知リ戰爭ヲ憎ムカ故ニ武力行使ヲ嫌ヒ結局獨裁國ノ

軍事的暴行ヲ益々增長サセルト云フ大キナ矛盾ニ惱ンテ居

ルノタカ之ヲ以テ民主國カ何モ出來ヌト考ヘルノハ間違ツ

テ居ル民主國ハ今敗北主義ニ捉ハレテ居ルカ最後ノ力ノ源

泉テアル物資ノ分布ヲ考察スルト英米佛ハ世界金產額ノ四

分ノ三、世界商舩ノ半分ヲ所有シ又世界鋼鐵產額ノ半分以

上石油ハ全產額ノ五分ノ三ヲ產出シ更ニ世界自動車全產額

ノ八分ノ七ヲ製出スル能力ヲ有シテ居ル夫レ故民主々義及

手段ヲ擁護シ樣トスル共通目的ヲ有スル國々ハ金融及通商

ニ於テ克ク協力シ以テ獨裁國ニ當ルヘキテアル其ノ實際的

方法トシテ米ハ英トノ互惠通商條約ヲ出來ル丈ケ早ク締結

シ又英佛トノ三國通貨協定ヲ固守スルコトヲ中外ニ聲明ス

ヘキタ

又同日ノ「ヘラルド・トリビユーン」ハ「民主國ノ報復」

ト題シ左ノ如ク論シテ居ル

「ナチ」ノ武裝テ歐洲テハ所謂「民主々義戰線」ノ成立ヲ

避ケ得ナイ樣ナ情勢ニナツテ來テ英佛ハ軍事行動ヲ自由ナ

ラシムル爲擧國一致ヲ圖ル必要ニ廹ラレ蘇聯ハ民主國會議

ヲ召集シ以テ英佛蘇三國ノ相互關係ヲ明カニセネハナラヌ

樣ナ立場ニ置カレテ居ル更ニ昨日「ハル」長官ノ演說ハ米

國カ何時迄歐洲問題ニ引込マレル危險ヲ避ケ得ルタラウカ

ト云フコトヲ考ヘサセル勿論米ハ歐洲ノ妥協的勢力均衡主

義ハ干涉シナイカ若シ英佛カ獨伊ト戰フ場合ハ米カ絕對ニ

參戰セヌトハ云ヘナイタラウ卽チ米カ歐洲ノ二民主國ニ物

資的援助ヲ與ヘルカドウカハ英佛ノ態度ノ明確サト强サニ

依ル

　　　　　

〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

⌇

〰〰

806


807

シ之カ爲ニハ侵略國（單數）トノ關係惡化ヲモ顧慮セサリキ

蘇政府ハ侵略ニ對スル世界ノ無關心カ侵略ノ頻發ヲ招來ス

ルコトナキヤヲ懸念セルカ今ヤ墺國ニ對スル武力侵入及同

國ノ獨立喪失ナル新事實アリ而モ今囘ノ暴力行爲ハ歐洲ノ

中央ニ於テ行ハレ侵略國（單數）ト境ヲ接スル十一箇國ニ危

險ヲ感セシムルノミナラス世界各國ノ危險トスル所ナリ第

一ノ脅威ハ致國ニ對スルモノニシテ次ハ其ノ傳染力ニ依ル

國際紛糾ノ增大ナリ現ニ「リ」波國境ニハ憂フヘキ事態釀

成セラレタリ斯ル國際情勢下ニアリテ殊ニ大國タルモノハ

歐洲諸國民ハ勿論其ノ他ノ國民ノ運命ニ付責任ヲ感セサル

ヘカラス蘇政府ハ右責任ノ分歬ヲ認

スルト共ニ聯盟規

約、不戰條約ノ義務竝ニ佛及致國ト締結セル相互援助條約

ノ義務ヲ認

スルモノニシテ余ハ玆ニ蘇政府ハ蘇政府ト共

同ニ決定セラレ且侵略ノ停止及世界戰爭ノ𠘨會除去ヲ目的

トスル集團行爲ニ從來通リ參加スル用意アルコトヲ政府ノ

名ニ於テ聲明ス蘇政府ハ他列國ト聯盟內又ハ聯盟外ニ於テ

時局ノ要求スル實際的措置ノ卽時討議ニ著手スルコトニ同

意ナリ云々

尙記者ノ質問ニ對シ「リ」ハ右蘇政府ノ見解ヲ外國政府ニ

通逹スル樣在外代表ニ訓令セリト答ヘタリ

3 ドイツによるオーストリア併合 3 ドイツによるオーストリ …...790 3...

Documents