平成19年度 特許出願技術動向調査報告書 ディーゼルエンジン …平成19年度...

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平成19年度 特許出願技術動向調査報告書 ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術 (要約版) 平成20年4月 特 許 庁 問い合わせ先 特許庁総務部企画調査課 技術動向班 電話:03-3581-1101(内線2155) <目次> 第1章 ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術の特許出願動向分析.......第2章 特許出願動向.......................................................第3章 研究開発動向.....................................................19 第4章 政策動向.........................................................22 第5章 市場環境分析.....................................................28 第6章 総合分析.........................................................31 第7章 提言.............................................................34

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Page 1: 平成19年度 特許出願技術動向調査報告書 ディーゼルエンジン …平成19年度 特許出願技術動向調査報告書 ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術

平成19年度

特許出願技術動向調査報告書

ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術

(要約版)

平成20年4月

特 許 庁

問い合わせ先

特許庁総務部企画調査課 技術動向班

電話:03-3581-1101(内線2155)

<目次>

第1章 ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術の特許出願動向分析.......1

第2章 特許出願動向.......................................................5

第3章 研究開発動向.....................................................19

第4章 政策動向.........................................................22

第5章 市場環境分析.....................................................28

第6章 総合分析.........................................................31

第7章 提言.............................................................34

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第1章 ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術の特許出願動向分析

第1節 ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術の技術俯瞰図

ディーゼルエンジンは 19 世紀にドイツで開発された。このエンジンは適用可能な燃料の種

類が多く、出力範囲が広いので汎用性が高く、さらに熱効率が高いことにより、乗用車、商

用車、重機・建機、発電機などの小型高速、中速機関から巨大な船舶用低速機関まで種々の

バリエーションが開発されてきた。その結果、現在では産業のあらゆる分野で欠かすことの

できない動力源となっている。本技術動向調査の対象とする調査期間(1990 年~2006 年)に

は、地球温暖化を防止するための「CO2低減対策」としてディーゼルエンジンへの期待が増大

し、その前提となるディーゼルエンジンの「有害排出物質の低減」に向けた技術開発が急速

に進んだ。この進展は例えばコモンレールシステム(CRS)を含む高圧燃料噴射技術、排気ガ

ス循環や過給技術、燃焼排ガスのための各種後処理技術、さらにこれらを支える部材・部品

の開発、センサー技術、電子制御技術などに負うところが大きい。これらの成果を契機とし

てディーゼルエンジンは大きな発展の時期を迎えつつある。

歴史的にみると 19 世紀末、自動車、特に乗用車分野でのディーゼルエンジンの有効性はそ

の 10 年ほど前に開発されたガソリンエンジン(オットーサイクル)と比較して、これまで必

ずしも優位に立ってきたわけではない。実用的な内燃機関のなかでは も熱効率に優れてお

り、特に低速の船舶ディーゼルエンジンでは熱機関の限界に近い 50%を超える熱効率レベル

にまで向上してきた。しかし乗用車では特有の騒音(燃焼音)、黒煙(PM)、NOx などを含む

排気ガス、低加速性などが嫌われて、それらの欠点を改善するための地道な努力が以前から

続けられてきた。1990 年代に入って、地球温暖化ガス(CO2)の排出レベルが低く、高効率・

高出力であるという特性が再注目されて、環境特性を改善するための研究開発が活発化した。

ガソリン車で先行して採用された NOx 低減技術である排気再循環(EGR)、高出力化のための

過給、さらに後処理技術が形を変えてディーゼルエンジンにも採用されるようになった他、

ディーゼルエンジンに固有の粒子状物質を除去するフィルタ(DPF)、酸素雰囲気下で NOx を

還元する技術などが相次いで開発され、ディーゼルエンジンの排気浄化技術が進展した。こ

の結果、有害排出物質の低減が大幅に進み、エンジンが格段に高性能化した。欧州諸国では

優遇政策の効果もあって、乗用車に占めるディーゼル車の割合がほぼ 50%に達するようにな

って、CO2排出量削減の有力な切り札の一つとしての地位を築いてきた。クリーンディーゼル

乗用車は高価となるが、欧州ではユーザーの環境意識の高さを示すステータスとしての人気

が高い側面をもっている。ディーゼルエンジンの有害排出物質低減ではクリーン燃焼を支え

る燃料噴射系、燃焼制御系と後処理系が重要である。燃料油の噴射圧力を高圧化し、噴射の

制御性を向上させることが有効であることは見出されていたが、これを可能にしたのが 1990

年代に入ってから実用化された CRS である。燃料噴射をミリ秒間隔で気筒内に直接かつ多段

階に分割噴射する効果が見出され、これを可能にする電子制御方式の噴射弁技術も進歩した。

後処理系では NOx 吸蔵還元技術、尿素を還元剤として用いる NOx 選択還元(SCR)法、DPF な

どのハード面の開発に加えて、軽油の低硫黄化に代表される燃料品質の改善もあって触媒の

劣化や、DPF の目詰まりが解消されるなど、技術レベルが格段に向上してきた。こうした技

術開発においては、日本の自動車メーカー、部品メーカーは大きな貢献をしてきたものと考

えられる。ディーゼルエンジンの有害排出物質を低減する技術を俯瞰して図-1 に示した。

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:調査対象範囲 :関連する技術

環境対応型エンジン(EM)

排気ガス後処理(低NOx・低PM)

Sustainable Mobility (乗用車・バス・トラック)(鉄道・船舶)(重機械)有害排出物質削減  CO2排出削減

自動車 大型、普通機関車船舶建機、農機発電機

軽量化耐久性化安全性化快適性 低騒音 加速性 低燃費

燃料 硫黄分、芳香族 動粘度、セタン価燃料添加物 潤滑性向上剤 セタン価向上剤 清浄剤、含酸素化合物 流動性向上剤 など新燃料 GTL、DME、BDF

触媒システム SCR   (尿素還元法、HC法) DOC(PM、HC、NO、 Leak NH3の酸化)

 DPNR(同時処理) LNT(Lean NOx traps)吸蔵還元低温非平衡プラズマ排熱回収

DPF煤塵除去技術 低温燃焼 CSF CDPF CRT連続再生型 Fuel-borne Catalyst

交通システム

環境規制(日米欧)計測評価法・試験法

DEP有害性試験評価未規制物質

応用システム

快適性(低騒音、加速性、操縦安定性)

経済性

NOx低減 HC低減SOx低減 PM低減

燃料 ・燃焼温度低下  (エマルジョン燃料など)

燃焼系 ・燃焼温度低下   (過給)   (吸気冷却)   (スワール比低下)   (噴射時期遅延)   (パイロット噴射)   (水噴射) ・酸素濃度低下   (排気再循環:EGR)

排気系 ・後処理(SCR)

燃焼系 ・雰囲気温度上昇  (圧縮比増大)  (吸気加熱)  (燃焼室壁温上昇:    遮熱燃焼室) ・噴射系改良  (高圧噴射ポンプ)  (サックレスノズル)  (マイクロホールノズル)

排気系 ・後処理   (酸化触媒)

燃料 ・発生源硫黄  (高度精製燃料)

燃料 ・発生源炭素低下  (アルコール燃料)  (CNG燃料)燃焼系 ・充填効率向上  (吸排気ポート改良)  (過給機:ターボ) ・燃焼促進 (酸素濃度) ・混合促進  (スワール比増大)  (燃焼室形状・リエントランス型)  (高噴射率化)(噴射期間短縮)  (ノズル)(撹乱燃焼)潤滑油系排気系 ・後処理(DPF)

関連産業分野

自動車産業機械産業素材・部材産業 ・鉄鋼、金属素材 ・化学(セラミックス)    (樹脂)(触媒)    (尿素)(DPF) 石油・エネルギー産業 ・石油系燃料 ・二次電池

環境ビジネス ・環境計測

他の産業分野 ・陸送・鉄道・船舶 ・農業機械 ・建設機械

燃料改良

燃料供給技術 コモンレール(CRS) 高圧噴射インジェクタ   ピエゾ、ソレノイド 噴射制御・ノズル 多段噴射・噴射制御

燃焼制御技術 EGR (Exhaust Gas Recirculation) 吸気制御 過給(ターボ過給、スーパーチャージ) 予混合燃焼  希薄燃焼、HCCI, PCCI スワール比 温度制御

電子制御システム

計測システム

その他社会システム

:主な調査項目

図-1 ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術の技術俯瞰図

本調査ではディーゼルエンジンの中でも自動車用エンジンに特に注目しているが、有害排

出物質の低減技術はあらゆる用途のディーゼルエンジンに共通して有用と考えられる。クリ

ーン燃焼では NOx を低減する条件、炭化水素(HC)および PM を低減する条件が相反する傾向

があり、これを回避するための燃焼技術が発展してきた。これを支える燃料供給系技術では

コモンレール燃料噴射装置、吸気系技術では EGR および過給技術がある。さらに後処理用の

触媒技術が発展している。また、気筒内での燃焼制御で酸素センサー、温度、圧力、流量な

どのセンサーは欠かすことの出来ない要素技術となっている。燃焼特性を改善し、触媒性能

を維持する燃料技術も重要であり、軽油に代表されるディーゼル燃料の品質向上があって、

今日のクリーンディーゼルエンジン技術が確立されてきている。今後は、これらの技術をさ

らに改善して 2010 年前後に日米欧で予定されている厳しい排出ガス規制に適合することが

課題とされている。

ディーゼルエンジンは高効率の動力機関として自動車、機関車、船舶に代表される輸送部

門の他、多くの産業機械、建設機械、発電機などの関連産業で利用される。

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空 気

EGR 過 給

燃 料

燃料特性不純物

添加剤 噴 霧噴射率

噴射時期

燃焼

動 力

発熱、排気ガス(NOx, PM)吸気ポート

デザイン

噴射システム

火炎伝搬

放熱

燃焼室デザイン

燃料空気混合

冷炎 着火

スワールスキッシュ

乱流

第2節 ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術の歴史と開発状況

乗用車の分野ではガソリン機関が 1883/1886 年、ディーゼル機関は 1893 年と古くから採用

されていたが、排出ガスによる大気環境汚染が深刻化したのは 1960~70 年代である。当時の

ディーゼル車の排出ガス中 NOx 濃度は 770ppm 程度であり、現在の環境規制値からするときわ

めて高濃度であった。燃焼技術の観点では、燃料噴射圧力は 65MPa、無過給、EGR は適用しな

いという状態であり、現在の技術レベルに比較すると極めて低レベルであった。

ディーゼル乗用車は、欧州を中心に 1990 年代後半から後処理技術、低騒音化技術などの開

発が急速に進み、ガソリン車に代わる勢いで普及しはじめた。因みに 2006、2007 年にはル・

マン 24 時間耐久レースをディーゼルエンジン搭載の Audi R10 が制した他、2007 年には米国

の FIA International のグループ III クラス 10 の過給ディーゼル・ストリームライナー・ク

ラスで英国シャベルメーカーJCB 社が開発した「JCB Diesel Max」が 588.664km/h(350.092mph)

の世界 高記録を達成し、モータースポーツにおけるディーゼル車高性能化の可能性を示す

ことになった。こうした性能向上を支えるのが過給、燃料噴射、EGR などの面でのエンジン

技術の改良であり、インタークーラー、可変機構や二段方式の過給(Two-stage turbo)、コ

モンレール噴射方式による直接噴射(DI)などの 新技術の採用が挙げられるほか、DPF、NOx

吸蔵還元(LNT or NSR)、尿素 SCR などの後処理技術の採用で一段と排気浄化対策も進んでき

ている。

図-2 はディーゼルエンジン本体内の燃焼を制御する項目を示している。吸気系、燃料噴射

系で、それぞれの装置、制御システムが関連しながら、燃料、空気の混合が行われ、冷炎、

着火を経て燃焼に至る。ここで有害排出物質の低減に係わる行程には、燃焼過程と、燃焼後

の排出ガスの各種浄化手段による浄化での過程がある。前者では酸素源としての空気と燃料

との混合に関わる流動の制御が重要である。従来ディーゼルエンジンでは、副室を設けてそ

こに燃料噴射して着火・燃焼させ、主室への噴流によって燃焼を促進する方法が長く採用さ

れてきたが、熱損失が大きく、また主室、副室間の絞り損失のため、熱効率の改善には限界

があった。この改善方法として副室を設けずに気筒内へ燃料を直接高圧噴射する方式が一般

化するに至っている。限られた容積のエンジン内にこのような高圧噴射を実施する手段とし

てのコモンレール方式が日本のデンソーにより 1995 年に、次いで 1997 年にドイツの Robert

Bosch により商業生産され、自動車メーカーの燃焼制御および後処理系の技術向上に大きな

影響を与えた。

このような技術の活用によって、ディーゼルエンジンは商用車を中心にした採用から、今

後は乗用車の分野で低環境負荷動力源としての重要性を増すものと予想される。また発展し

てきたクリーンディーゼル技術は、一層の排気浄化能力向上と高効率化が求められる各種の

産業機械、農業機械、発電機、機関車、船舶などの分野にも幅広く採用されよう。

図-2 ディーゼルエンジンの燃焼制御関連技術項目

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第3節 調査の範囲および調査の方法

本調査は「ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術」を対象としている。特に燃料

噴射装置、燃焼制御技術および後処理技術を調査対象とするが、関連する特許出願件数が極

めて多いために燃料噴射装置に関してはコモンレール方式に関連するものに調査範囲を限定

する。このため高圧ポンプそのものやユニットインジェクタおよびコモンレール方式に限定

されない噴射装置は調査対象外とする。国内に出願された特許でみると、1990 年~2006 年の

調査対象期間でディーゼルエンジン関連の特許出願件数は 27,323 件、一方「ディーゼルエン

ジンの有害排出物質の低減技術」に関する本調査で抽出した特許出願件数は 16,236 件で、約

60%が解析対象となっている。ただしこの割合は 1990 年代初期で 50%、2001 年以降では 70%

のレベルであり、本調査は 近の特許出願がクリーンディーゼルエンジン技術を重視する傾

向にある点に鑑みて実施したものである。

本調査では「ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術」に関する特許出願、非特許

文献(研究論文)を所定の検索式で検索し、解析している。使用した特許データベースは日

本特許が PATOLIS(特許庁)、外国特許が WPI(Thomson Scientific 社が提供する世界 41 ヶ

国+2 特許機関が発行する特許出願を抄録したデータベース)を用いている。検索式は F-タ

ーム、FI、IPC などの指標と、FK(自由語)を組み合わせて作成した。検索件数は日本特許

18,776 件、外国特許 4,057 件であった。非特許文献は JSTPlus をデータベースに用いて検索

した。検索式は FK、CT を組み合わせて作成、検索期間は特許と同じである。その結果、非特

許文献数は 4,291 件であった。ただし出願件数について、優先権主張年が 2005 年のデータに

ついては、データベースへの収録遅れのため実数を反映していない可能性がある。また出願

件数、および登録件数のカウントは、各国(地域)への出願の公報一つ一つを個別にカウン

トする「公報単位」によるカウントと、WPI におけるファミリー単位でカウントする「発明

単位」によるカウントの 2 通りの方法で行い、分析を行った。要約編では特に発明単位と明

記しない限り、公報単位で解析している。

本調査では、出願先国として日本、米国、欧州、韓国、中国を 5 極として解析している。

ここで欧州とはオーストリア、ベルギー、スイス、チェコ、ドイツ、デンマーク、スペイン、

フィンランド、フランス、イギリス、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ルクセンブル

グ、オランダ、ポルトガル、ルーマニア、スウェーデン、スロバキア、および EPC への出願

を示している。また自動車産業の拡大が見込まれるオーストラリア、ロシアを解析対象とし

て加えている。

検索された特許、非特許文献は明細書、抄録により技術区分付与とノイズ落としを行った。

ノイズとした案件にはガソリンエンジン(オットーサイクル)やその後処理にのみ関連した

特許、非特許文献が多かった。技術区分は大分類に加えて、それぞれに中分類、小分類項目

を設けて、各文献の技術内容を解析し、技術区分項目を必要件数だけ付与して、技術区分ご

と、注目テーマ別の解析に使用した。

本調査では特許出願動向の解析結果を補強するため、研究開発動向に加えて、政策動向、

市場環境を分析している。これらに関する分析は政府機関や各種の学会、工業会、公的機関

の発表する情報の収集・解析を中心に行っている。また有識者へのヒアリングで確認を行っ

ている。

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536654 692

546

737

909992 1,012

1,832 1,871

2,088

1,898

1,655

80187

405

805870

1,530 1,487 1,518

1,2731,216

749

1 2 2 12 2 15 17 33 16 41 45 59 54 220 0 3 2 1 1 1 2 1 2 3 2 6 3 7

1,556

633

798

160

466

258

155209

342323356318

196184113 138122105

332 372239 246274

18353 24

8

811

9381,015

1,110

946

1,309 1,347

1,953

2,205

2,852

3,472

3,7583,685 3,720

2,216

2,896

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

優先権主張年

件数

日本 米国 欧州 韓国 中国 合計

出願人国籍

日本国籍18,409件

53.8%

その他173件0.5%

中国国籍42件0.1%

韓国国籍398件1.2%

欧州国籍11,686件

34.1%

米国国籍3,525件10.3%

第2章 特許出願動向

第1節 全体動向

本調査範囲の特許出願件数の推移を図-3 に示した。出願件数は 1996 年頃から急速に増加

する傾向になり、2001 年~2002 年にピークを迎えている。燃料噴射装置が従来「加圧」と「制

御」の両方を一緒に行い、機械式制御機構(ガバナー、タイマー)により噴射量や噴射時期

を制御していたポンプである「ジャーク式」が中心の時代から、「加圧」、「制御」の機能を分

離し、制御を電子化することにより燃料供給の自由度を飛躍的に増加させた蓄圧式(コモン

レール式)に移行してきた。後者を実用化したのは日本のデンソー(1995 年)、独 Robert Bosch

(1997 年)である。電磁(ソレノイド)式、電歪(ピエゾ)式などの登場で 1 燃焼サイクル

の間にパイロット、プレ、メイン、アフター、ポストなどの噴射が可能となり、騒音・振動

の抑制、NOx の抑制、PM 処理系の改善が進んだ。このため、関連技術の急速な進展と特許出

願件数の増加を促進してきたと考えられる。同図には出願人国籍別の出願件数割合を併せて

示している。日本および欧州からの出願件数が多く、こうした技術開発の経緯をよく表して

いる。

図-3 出願人国籍別出願件数推移(5 極全体)(優先権主張年:1990 年~2005 年)

合計出願件数:34,233 件

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日本国籍13,710件

84.4%

その他29件0.2%

中国国籍0件0.0%

韓国国籍57件0.4%

欧州国籍1,865件11.5%

米国国籍575件3.5%

韓国国籍28件0.6%

その他51件1.1%

中国国籍1件

0.02%

欧州国籍1,694件37.4%

米国国籍1,359件30.0%

日本国籍1,392件30.8%

欧州国籍7,265件64.9%

米国国籍1,374件12.3%

日本国籍2,458件22.0%

韓国国籍23件0.2%

中国国籍2件

0.02% その他65件0.6%

米国国籍117件8.9%欧州国籍

519件39.4%

韓国国籍280件21.3%

中国国籍0件0.0%

日本国籍389件29.6%

その他11件0.8%

中国国籍39件4.0%

韓国国籍10件1.0%

欧州国籍343件35.4%

米国国籍100件10.3%

日本国籍460件47.5%

その他17件1.8%

日本への出願16,236件

中国への出願969件

欧州への出願11,187件

韓国への出願1,316件

米国への出願4,525件 575件

1,865件

57件

1,392件

1,694件

28件

1件

2,458件

1,374件

23件

2件

389件

117件

519件460件100件

343件

10件

日本、欧州、米国、韓国、中国の 5 極間で相互に特許出願が行われているが、調査期間に

おける出願件数の収支を解析した結果を図-4 に示した。日本への出願件数は 16,236 件、こ

の中、日本国籍出願人の出願件数は 13,710 件で、全体の 84.4%を占めた。次いで欧州の 1,865

件(11.5%)、さらに米国の 575 件(3.5%)となっている。欧州への出願件数は 11,187 件で、

この中、欧州国籍出願人の出願件数が 7,265 件、全体の 64.9%であった。次いで日本、米国

と続いている。米国への出願件数は 4,525 件で、欧州国籍出願人からの出願件数が 1,694 件

と多く、全体の 37.4%を占めるが、日本 30.8%、米国 30.0%とほぼ三分している。日本か

らの欧州、米国への特許出願件数は 2,458 件、1,392 件で、欧州、米国からの日本への出願

件数 1,865 件、575 件を上回っている。上記三極からの韓国、中国への特許出願は積極的に

行われており、自動車市場の規模拡大に合わせて注目されているが、逆に韓国、中国からの

上記三極への特許出願件数は少ない。特に中国ではディーゼルエンジン技術に関する独自の

研究開発は未だ着手段階と考えられる。

本調査では調査対象国としてロシア、オーストラリアを加えている。ロシアへの出願件数

は 147 件、オーストラリアへの出願件数は 638 件と少なく、いずれの国においても、欧州の

出願件数が も多い。両国からの日本、米国、欧州への特許出願件数は極めて少ない。

図-4 出願先国別-出願人国籍別出願件数収支(優先権主張年:1990 年~2005 年)

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第2節 技術区分別動向

特許文献にクレームされた技術内容を明細書ベースに解析し、詳細な技術区分を付与した。

この技術区分の概要(大分類)は表-5 に示したが、実際にはそれぞれの大分類項目をさらに

中分類、小分類に細分化し、合計で 225 区分を付与して技術区分解析に使用した。大分類の

みを表-5 に示した。この内、大分類 1 は明細書に記載された「目的」に関するもので、全て

の特許出願案件に1項目以上付与される。大分類 2~6 については、その明細書に特化して記

載されている技術項目に対応する中分類、小分類区分だけに付与する。また特許、非特許文

献(論文)に対して同じ技術区分解析を行い、技術開発、研究開発の対象分野の比較も行っ

ている。

表-5 技術区分表大分類項目

技術区分大分類 内 容

1 目的 発明の効果、解決しようとする課題

(全文献対象で内容を示す)

2 機関運転状態 始動時、暖機時、負荷時、回転数域、加速時など

3 パラメータ、制御方式、演算処理など センサー、パラメータ、制御方式・演算処理・ロジック

4 燃料噴射装置 噴射弁(インジェクタ)構造、管・配管要素、CRS 圧力可変手段など

5 燃焼制御技術 吸気系制御技術、燃料噴射制御技術など

6 後処理技術 NOx 除去、PM 除去、その他の処理

コモンレール燃料噴射装置(大分類 4)の出願人国籍別出願件数の推移を解析した。この

技術区分には表-6 に示すような中分類項目が含まれ、主として燃料噴射弁、管・配管要素、

コモンレールの圧力制御のハードに関する特許出願案件を対象としている。こうした装置の

制御もここに含まれるが、燃料噴射側の制御は燃焼制御(大分類 5)に含まれる。

表-6 コモンレール燃料噴射装置(大分類 4)の詳細

技術区分中分類(4A,4B,4C) 定義、下位概念に含まれる内容

4A01 噴射弁本体 ディーゼルエンジン用噴射弁本体:ハウジング、フィッティング、

フィルタなど

4A02 弁体の 終駆動手段 機械式、電磁式、電歪式、磁歪式、流体式

4A03 流体圧駆動のための間接的駆動手段 機械式、電磁式、電歪式、磁歪式、流体式、

背圧制御手段

4A04 弁座・噴射孔間の構造 弁座・噴射孔間の構造

4A05 噴射弁体(ニードル)構造 噴射弁体(ニードル)構造

4A06 弁座の構造

4A07 噴射孔(噴口)の形状・構造 付加部材、凸凹、面積可変、配置、複数

4A08 噴射指向部位 グロープラグ、ピストン頂面、シリンダー壁面

4A09 噴霧角 噴霧角可変など

4A10 噴霧形状 噴霧形状可変など

4A11 スプリング 複数スプリング、設定圧制御・調整など

4A12 弁体リフト用油溜部 流体圧駆動用油溜部など

4A13 減衰機構 オリフィスなどの流体圧の減衰機構

4A14 燃料通路 燃料通路に設けた各種の弁(逆止弁など)、供給通路、逃がし通路

の絞り

4A15 増圧機構 増幅機構

4B 管・配管要素(4B01~4B10)

4C コモンレール圧力可変(4C01, 4C02)

Page 9: 平成19年度 特許出願技術動向調査報告書 ディーゼルエンジン …平成19年度 特許出願技術動向調査報告書 ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術

- 8 -

120100

123

204242

285

483

353 360402 421

2044

69 87 92 76 71 6235

111155

457418

970

892

949

655610

438

212

0 0 0 0 1 0 3 0 0 9 12 16 4 50 0 0 0 0 1 1 0 0 0 0 0 1 1 3

395

300294

101105105

131132161110

75

1131

225

3736

137

14132

176 178154

256

343

429

858

1,4201,446

1,070

918

704

1,114

1,566

559

880

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

優先権主張年

出願件数

日本 米国 欧州 韓国 中国 合計

出願人国籍

その他83件0.7%

中国国籍9件0.1%韓国国籍

77件0.6%

欧州国籍6,337件52.5%

米国国籍1,277件10.6%

日本国籍4,288件35.5%

大分類 4 の技術区分に含まれた特許出願件数は 12,071 件であり、その出願人国籍別の推移

を解析した結果を図-7に示した。1995年にデンソーがCRSの 初の製品を発売開始しており、

日本からの特許出願件数が多かったが、1997 年に Robert Bosch が乗用車用 CRS を上市して

おり、欧州からの出願件数が日本からの出願件数を上回るようになって、1999 年~2001 年の

ピークを過ぎても欧州出願件数が日本を凌駕する状態が続いている。調査対象期間(1990 年

~2005 年)の合計では欧州国籍出願人の出願比率が高い。

図-7 コモンレール燃料噴射装置(大分類 4)の出願人国籍別出願件数推移(5 極全体)(優先権

主張年:1990 年~2005 年)

合計出願件数:12,071 件

燃焼制御技術(大分類 5)の出願人国籍別出願件数の推移を解析した。この技術区分には

図-8 に示すような装置、制御技術内容が含まれ、主として吸気系制御技術(圧縮比、EGR、

過給、排気が含まれる)、燃料噴射制御技術(噴射量、噴射率、分割噴射、予混合燃焼などが

含まれる)に関する。

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- 9 -

147181

155

282

221

571 576

700

568

470

29 41 50 46 51

88120

8297

4360

16

80 83

173 177

291 288

326

261

99

0 0 0 1 1 1 2 5 6 9 8 50 0 0 0 0 0 1 0 0 2 0 4 1 3 2

462

478

472

146

385

181

15

134129106

2933

152

29

81

141

52

4 219 15

0

212191

225

277 291

409

361

654

742 742

873

1,011

637

1,0691,059

777

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

優先権主張年

出願件数

日本 米国 欧州 韓国 中国 合計

出願人国籍

日本国籍5,995件62.9%

米国国籍1,120件11.8%

欧州国籍2,282件23.9%

韓国国籍78件0.8%

中国国籍13件0.1% その他

42件0.4%

過給装置(ターボチャージャー)

エアフローセンサー

水冷式EGRクーラー

EGRバルブ(DCモーター)

圧縮比

吸気スロットル(DCモーター)

インタークーラー

コンピューター(ECU)

給気温度

給気圧力

吸入空気量

アクセル開度

燃料噴射制御(噴射量、噴射率、分割噴射予混合燃焼など)

図-8 燃焼制御技術(大分類 5)に関連する装置および制御技術例

この技術区分に含まれる特許出願件数は 9,530 件であり、その出願人国籍別の推移を解析

した結果を図-9 に示した。1990 年以降、特許出願件数は増加傾向にあるが、燃料噴射装置関

連の出願件数推移と同様、1995 年頃から増加傾向が顕著なものになった。日本からの特許出

願件数が多く、2000 年~2003 年の出願件数ピークを過ぎても日本の出願件数が欧州、米国を

凌駕する状態が続いている。調査対象期間(1990 年~2005 年)の合計では日本国籍出願人の

出願比率が 62.9%と高く、欧州、米国が続いている。

図-9 燃焼制御技術(大分類 5)の出願人国籍別出願件数推移(5 極全体)(優先権主張年:1990

年~2005 年)

合計出願件数:9,530 件

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- 10 -

336

449 465

388323

375

1,093

1,261

1,404

1,136

982

5283

47 67 4992 92 68

257

346

491452 432

484

215

1 2 11 1 14 13 32 23 18 24 29 26 90 3 2 2 2 1 2 1 0 4

386

431

879

319

439

109

192

290158157

55 6543

117

428

12489101128

99151 89

162

1410 210

0

509459

598

529

717

840

976

1,554

1,740

2,024

2,115

610 630

681

1,157

1,476

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1,800

2,000

2,200

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

優先権主張年

出願件数

日本 米国 欧州 韓国 中国 合計

出願人国籍

その他71件0.4%

中国国籍21件0.1%韓国国籍

235件1.4%

欧州国籍4,003件24.1%

米国国籍1,619件

9.7%

日本国籍10,666件

64.2%

後処理技術(大分類 6)の出願人国籍別出願件数の推移を解析した。この技術区分には図

-10 に示すような技術項目が含まれ、主として NOx 除去、PM 除去とディーゼル酸化触媒(DOC)

などのその他の処理・制御技術が関係している。

図-10 後処理技術(大分類 6)の技術構成例

大分類 6 の技術区分に含まれた特許出願件数は 16,615 件であり、その出願人国籍別の推移

を解析した結果を図-11 に示した。1990 年以降、特許出願件数の変化は少ないが、1997 年頃

から欧州を中心に出願件数の増加が始まり、2000 年以降は日本、欧州、米国で特許出願件数

が急増した。クリーンディーゼル乗用車の開発・上市が本格化した 2000 年以降の出願件数は

増加し、日本の出願件数が欧州、米国を凌駕する状態が続いている。調査対象期間(1990 年

~2005 年)の合計では日本国籍出願人の出願比率が 64.2%と高く、欧州、米国が続いている。

図-11 後処理技術(大分類 6)の出願人国籍別出願件数推移(5 極全体)(優先権主張年:1990

年~2005 年)

合計出願件数:16,615 件

NH3NOxPMSOF

酸化触媒微粒子

フィルター選択還元

触媒酸化触媒

尿素水

エンジン排気

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- 11 -

48

139 148

233

292

176

243

20 1136

68 66 79 92

55 50 57 4627

104135

172

307

656

769786

495 489

357

186

0 0 0 0 1 0 3 0 0 5 5 7 2 9 0 20 0 0 0 0 1 1 0 0 0 0 0 1 1 0 2

139

207182

97 77

138

77 47

172

103116145

100283530

294

88

147117 116

187

241

340

395

552

618

934

1,126

739

659

444

1,190

729

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

優先権主張年

出願件数

日本 米国 欧州 韓国 中国 合計

出願人国籍

日本国籍2,415件28.3%

その他77件0.9%

中国国籍6件0.1%韓国国籍

34件0.4%

欧州国籍4,930件57.8%

米国国籍1,072件12.6%

第3節 注目研究開発テーマの動向

ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術の調査では、燃料噴射方式をコモンレール

(CRS)方式に限定している。そこで注目研究開発テーマとして CRS 方式に用いられる燃料噴

射弁(インジェクタ)を選定し、その特許出願動向を解析した。技術区分中分類 4A(出願件

数 8,534 件)について、出願人国籍別の特許出願件数の推移を解析し、結果を図-12 に示し

た。特許出願件数は 1990 年代に入って増加傾向が始まっているが、CRS の市場投入が開始さ

れた 1995 年以降、欧州国籍出願人の特許出願件数増加が始まり、特に Robert Bosch が CRS

の販売を開始した 1997 年以降はその傾向が顕著になっている。調査期間内では欧州出願人に

よる出願件数比率が高く、57.8%であった。次いで日本、米国が続いている。

図-12 コモンレール燃料噴射弁(インジェクタ)構造(中分類 4A)の出願人国籍別出願件数推

移(5 極全体)(優先権主張年:1990 年~2005 年)

合計出願件数:8,534 件

また現在のディーゼルエンジンにおける も有力な NOx 低減技術である EGR(排気ガス再

循環)を特定注目研究開発テーマに選び、その特許出願件数推移を解析した。

ここでは技術区分の小分類 5A03 について、出願人国籍別の特許出願動向を解析した。関連

する特許出願件数は 2,704 件であり、解析結果を図-13 に示した。EGR システム自体はガソリ

ンエンジンで開発されているが、ディーゼルエンジンの場合、燃焼排ガスに PM が含まれ、特

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- 12 -

3448

102

117

174

239

165

139

07 9 13 18 14

2332 38 42

175

40 3445

85

56

0 0 0 0 0 1 1 1 5 1 2 5 20 0 0 0 0 0 0 1 0 2 0 0

31

195

166

29

73

225

129

38

0011

34

7

31

14 520

113

38

96

11

13

00 00 02

0

4539 43

124

99

274

186

288 288

314

224

179

311

41

187

62

0

50

100

150

200

250

300

350

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

優先権主張年

出願件数

日本 米国 欧州 韓国 中国 合計

出願人国籍

日本国籍1,904件70.4%

その他5件0.2%

米国国籍265件9.8%

欧州国籍507件18.8%

中国国籍5件0.2%

韓国国籍18件0.7%

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

優先権主張年

出願件数

EGR、過給両方を処理するもの 同左×制御

に過給と組み合わせて採用する場合には格段に難度が高くなるとされる。特許出願はやはり

1995 年頃から日本国籍出願人を中心に増加に転じており、1997 年から欧州、米国国籍出願人

の出願件数増加が始まっている。出願件数の出願人国籍別割合では日本が全体の 70.4%と高

く、欧州、米国が続いている。クリーンディーゼルエンジンでは EGR、過給を併用するのが

一般的であるが、その制御技術が重要である。特許出願件数(点線)およびその中で制御に

関する件数(実線)推移を図-14 に示したが、殆どが制御方法に関連した内容である。

図-13 特定注目研究開発テーマ:EGR(小分類 5A03)の出願人国籍別出願件数推移(5 極全体)

(優先権主張年:1990 年~2005 年)

合計出願件数:2,704 件

図-14 EGR・過給併用型ディーゼルエンジンの制御に関する特許出願件数推移(5 極全体)

注 1)WPI を基にして発明単位でカウント、注 2)検索条件:小分類(5A03)×小分類(5A04)を抽出し、再分類

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87 124 89 55 65 149 98 234 242 310 381 272 356

114 167 261 143 87 93 88 66 142 135 43

67 37 46 33 45 41 79 83 279 262

50 42 27 55 65 147 327 324 328

43 78 75 51 70 75 114 180 140 99 155 169 152 166 119 156

28 73 112 66 111 128 257 188 198 142

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

415355 4876C01:DOC (Diesel Oxidation

Catalyst)酸化法

3466159214 1626B02:ヒーター再生型

458508172 496455786B01:触媒DPF

(Diesel Particulate Filter)

586432438466318223

6A04:吸蔵還元(NSR: NOx

Storage Reduction)法

6A02:HC-SCR

(選択還元除去)

81116318

6A01:尿素SCR(選択還元除去)

1990

優先権主張年

図-15 後処理技術の技術区分別出願件数推移(5 極全体)(優先権主張年:1990 年~2005 年)

注目技術としてさらに後処理関連の技術区分のなかで、特許出願件数の多いいくつかの技

術区分小分類を選んで、その出願件数推移を調べた。結果を図-15 に示した。NOx 除去関連で

尿素 SCR(技術区分小分類 6A01)、HC-SCR(同 6A02)、および吸蔵還元(同 6A04)を比較し

た。尿素 SCR、吸蔵還元は 1990 年代後半から、すなわち CRS の搭載で電子制御に基づいた燃

焼制御が可能になった頃から特許出願件数が増加し、クリーンディーゼルエンジン開発の機

運が急速に高まった時期と一致している。尿素 SCR は商用車に実用化され、欧州では乗用車

でも実用化されている。HC-SCRはそれよりも早い 1990年以前から研究が進められているが、

大きな成果が得られないまま、現在に至っている。吸蔵還元(NSR)は当初日本の主要自動車

メーカーで研究され、実用化に至っている。欧州でも NSR の開発が進められており、各国メ

ーカーは競合状態にあると見られる。

フィルタ(DPF)技術も、その製造とともに、効率的な再生と熱制御が重要となっているが、

触媒成分担持(技術区分 6B01)で再生を促進する技術関連の特許出願件数がやはり 1990 年

代後半に急増している。触媒 DPF は現在の主流技術となっている。DPF に担持する触媒には

貴金属系、酸化物系があり、NO、HC などの排ガス成分酸化を促進する機能、捕捉した PM の

燃焼を促進する機能の二種類に大別される。また 1970 年代から検討されてきたヒータ(通電

加熱)再生型 DPF の開発は、現在ではあまり行われなくなっている。

DPF 技術とともにディーゼルエンジン排出ガス浄化に重要な機能を果たしている触媒にデ

ィーゼル酸化触媒(DOC)がある。この触媒は SOF、HC、NO などの酸化を促進する触媒として

重要であり、また尿素 SCR 法では余剰 NH3の酸化除去触媒として、触媒システムの 終段階

でも使用されている。

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- 14 -

第4節 主要出願人の解析

出願先国別に特許出願件数上位の機関を調査した。本調査の対象期間である優先権主張年

1990 年~2005 年で比較し、表-16 に示した。日本への出願件数で序列ではトヨタ自動車が 1

位であり、デンソー、Robert Bosch の部品メーカー、さらに主要自動車メーカーが続いてい

る。米国、欧州、韓国、中国への出願件数序列では Robert Bosch が 1 位であり、同社の海外

戦略が世界に向いていることが分かる。米国への出願件数では Caterpillar、Ford Motor の

米国企業、デンソー、日本碍子、そしてトヨタ自動車など国内の部品、自動車メーカーが上

位にある。欧州への出願件数では Robert Bosch に続いて Siemens、Daimler などの欧州メー

カー、日本のトヨタ自動車、デンソーが上位にある。韓国では日本、欧州メーカーとともに、

韓国国籍の Hyundai Motor Co の現代グループが上位にある。中国への出願件数では Robert

Bosch に続いて、日本のデンソー、イビデンなどの部品メーカー、トヨタ自動車、日産自動

車、いすゞ自動車などの自動車メーカーが上位にある。

表-16 出願先国別-出願人別出願件数上位ランキング(優先権主張年:1990 年~2005 年)

日本への出願 米国への出願 欧州への出願 韓国への出願 中国への出願

出願人 出願

件数 出願人

出願

件数 出願人

出願

件数出願人

出願

件数 出願人

出願

件数

トヨタ自動車(日) 3,131 Robert Bosch

GmbH(欧) 711

Robert Bosch

GmbH(欧)

2,91

4

Robert Bosch

GmbH(欧) 258

Robert Bosch

GmbH(欧) 129

デンソー(日) 1,842 Caterpillar

Inc(米) 307 Siemens AG(欧) 708

Hyundai Motor

Co(韓) 127 デンソー(日) 72

Robert Bosch

GmbH(欧) 1,052 デンソー(日) 241 トヨタ自動車(日) 646 トヨタ自動車(日) 79 トヨタ自動車(日) 64

日産自動車(日) 1,036 トヨタ自動車(日) 217 デンソー(日) 556 日本碍子(日) 41 日産自動車(日) 63

いすゞ自動車(日) 939 Ford Motor

Co(米) 135 Daimler AG(欧) 466

三菱ふそうトラック・

バス(日) 36 イビデン(日) 41

日野自動車(日) 648 日本碍子(日) 133 Volkswagen

AG(欧) 352 ボッシュ(日) 34 いすゞ自動車(日) 34

マツダ(日) 418 Siemens AG(欧) 125 Caterpillar Inc(米) 320三菱自動車工業

(日) 33 日本碍子(日) 23

本田技研工業

(日) 371 日産自動車(日) 115

Delphi Tech

Inc(米) 241 イビデン(日) 30 ボッシュ(日) 22

三菱自動車工業

(日) 347

いすゞ自動車

(日) 113

Peugeot Citroen

Automobiles

SA(欧)

232Man B & W Diesel

AG(欧) 25

Emitec

Emissionstechnik

(欧)

21

日本自動車部品

総合研究所(日) 339 Daimler AG(欧) 107 Renault SA(欧) 226

Kia Motors

Corp(韓) 24

三菱ふそうトラック・

バス(日) 19

日本、米国、欧州への出願件数ランキングを 1990 年~1995 年、1996 年~2000 年、2001

年~2005 年の 3 期間に分けてその変化を解析した。結果を図-17 に示した。日本への出願件

数ランキングではトヨタ自動車が 3 期間を通じて 1 位であり、Robert Bosch が 1996~2000

年の時期に 2 位に急浮上した。米国、欧州へのランキングでは Robert Bosch、デンソーの部

品メーカーが 3 期間を通じてランキングを向上させてきた。

技術区分別の出願件数ランキングを表-18 に示した。コモンレール燃料噴射装置(大分類

4)、燃焼制御技術(大分類 5)、後処理技術(大分類 6)について 2001 年~2005 年の出願件

数で比較しているが、燃料噴射装置ではデンソー、Robert Bosch、Siemens などの部品(CRS、

噴射弁など)メーカーが日本、米国、欧州、韓国、中国の 5 極に対してランキング上位を独

占する。

燃焼制御技術ではこれらの部品メーカーと自動車メーカーがランキング上位に混在し、部

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- 15 -

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

1990~1995 1996~2000 2001~2005

優先権主張年

順位

Robert Bosch GmbH

デンソー

Caterpillar Inc

トヨタ自動車

日本碍子

日産自動車

Ford Motor Co

イビデン

いすゞ自動車

Siemens AG

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

1990~1995 1996~2000 2001~2005

優先権主張年

順位

トヨタ自動車

デンソー

Robert Bosch GmbH

日産自動車

日野自動車

いすゞ自動車

三菱ふそうトラック・バス

本田技研工業

日本碍子

マツダ

品開発、部品利用側の双方にとって技術開発が必要な領域であることを示している。

後処理技術関係でも部品メーカーと自動車メーカーがランキング上位に混在し、状況は燃

焼制御技術と類似しているが、割合としては自動車メーカーの方が多く、DPF、NOx 吸蔵触媒、

DOC 触媒などとエンジン燃焼条件を調和させる利用技術が重要となっていることを反映して

いる。

図-17 日本、米国、欧州への出願における出願件数ランキング推移

a)日本への出願

b)米国への出願

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- 16 -

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

1990~1995 1996~2000 2001~2005

優先権主張年

順位

Robert Bosch GmbH

デンソー

Siemens AG

トヨタ自動車

Peugeot CitroenAutomobiles SA

Renault SA

Daimler AG

Ford Motor Co

日産自動車

日本碍子

c)欧州への出願

表-18 技術区分別の出願先国別出願件数上位ランキング

a)コモンレール燃料噴射装置(大分類 4) 燃料噴射装置(大分類 4) 優先権主張年(2001 年~2005 年)

日本への

出願

出願

件数

米国への

出願

出願

件数

欧州への

出願

出願

件数

韓国への

出願

出願

件数

中国への

出願

出願

件数

デンソー(日) 642 Robert Bosch

GmbH(欧) 270

Robert Bosch

GmbH(欧) 1,232

Robert Bosch

GmbH(欧) 58

Robert Bosch

GmbH(欧) 58

Robert Bosch

GmbH(欧) 349 デンソー(日) 82 Siemens AG(欧) 262 ボッシュ(日) 27 デンソー(日) 48

トヨタ自動車(日) 204 Caterpillar

Inc(米) 79 デンソー(日) 231

Hyundai Motor

Co(韓) 27 ボッシュ(日) 17

ボッシュ(日) 95 Siemens AG(欧) 42Delphi Tech

Inc(米) 66

三菱ふそうトラッ

ク・バス(日) 12 Siemens AG(欧) 12

京セラ(日) 58 Fiat Auto

SpA(欧) 28

Caterpillar

Inc(米) 54

Man B & W

Diesel AG(欧) 11 トヨタ自動車(日) 8

b)燃焼制御技術(大分類 5) 燃焼制御技術(大分類 5) 優先権主張年(2001 年~2005 年)

日本への

出願

出願

件数

米国への

出願

出願

件数

欧州への

出願

出願

件数

韓国への

出願

出願

件数

中国への

出願

出願

件数

トヨタ自動車(日) 612 デンソー(日) 60 Robert Bosch

GmbH(欧) 232

Hyundai Motor

Co(韓) 41 日産自動車(日) 35

デンソー(日) 320 Robert Bosch

GmbH(欧) 59 デンソー(日) 132

三菱自動車工業

(日) 17 デンソー(日) 24

日産自動車(日) 234 日産自動車(日) 54

Peugeot

Citroen

Automobiles

SA(欧)

87三菱ふそうトラッ

ク・バス(日) 13

いすゞ自動車

(日) 16

いすゞ自動車(日) 146 Caterpillar

Inc(米) 50 トヨタ自動車(日) 77

Robert Bosch

GmbH(欧) 9 トヨタ自動車(日) 16

日野自動車(日) 108 いすゞ自動車

(日) 33 日産自動車(日) 61 トヨタ自動車(日) 6

Robert Bosch

GmbH(欧) 12

Page 18: 平成19年度 特許出願技術動向調査報告書 ディーゼルエンジン …平成19年度 特許出願技術動向調査報告書 ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術

- 17 -

12 21 33 73

29 89 85 87 249

9 13 10 8 28

26 18 18 40

51

26 32 39

39 43 44 25 16 21 19 26 28 21 19 31

11 15 17 18 26 26 47 78 59 21 43 82 55 85

24 31 38 28 8 18 15 27 28 33 36 44

18 11 34 26 53 33 44 38 42 76 61 57 60 61 60

56 92 88 129 77 99 96 284

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

Robert Bosch GmbH 137254333253108 177110 209329643122

110デンソー 8563 80 128 98 166 212 170 152 211

310日産ディーゼル工業 50107 7 15 19 24

17 16 12 27 50日野自動車 2624 40 713955 28

いすゞ自動車 49 19 50 54494420912 11 4063616234

1035

1Ford Motor Co

518 18 30 26 28 45 32

6 118

736

15Daimler AG 464634 62 2868615841213217

三菱自動車工業 1199 26

1本田技研工業 49

4534マツダ 3426

日産自動車 19

149 143138 295225264207 201トヨタ自動車

1990

優先権主張年

c)後処理技術(大分類 6) 後処理技術(大分類 6) 優先権主張年(2001 年~2005 年)

日本への

出願

出願

件数

米国への

出願

出願

件数

欧州への

出願

出願

件数

韓国への

出願

出願

件数

中国への

出願

出願

件数

トヨタ自動車(日) 1,047 日本碍子(日) 92 トヨタ自動車(日) 198 日本碍子(日) 35 日産自動車(日) 52

日野自動車(日) 306 日産自動車(日) 74Robert Bosch

GmbH(欧) 156 トヨタ自動車(日) 30 イビデン(日) 38

日産自動車(日) 297 トヨタ自動車(日) 67 デンソー(日) 126三菱ふそうトラッ

ク・バス(日) 25 トヨタ自動車(日) 30

いすゞ自動車(日) 237 デンソー(日) 64

Peugeot Citroen

Automobiles

SA(欧)

121 イビデン(日) 24 いすゞ自動車

(日) 21

デンソー(日) 216 Ford Motor

Co(米) 57 日本碍子(日) 103

三菱自動車工業

(日) 17 日本碍子(日) 17

主要出願人として特許出願件数の多い乗用車および商用車メーカー、部品メーカーから 12

社を選んで発明者数の推移を解析した。選定した企業の国籍は日本が 9 社、欧州 2 社、米国

1 社である。発明者数とは調査期間で発明に係わった人数を示し、明細書記載の発明者を個

人データベースに再構成し、出願件数が 1 件でも複数件でも 1 人とカウントした。結果を図

-19 に示した。トヨタ自動車やデンソー、Robert Bosch などの部品メーカーの発明者数は 2005

年まで増加傾向が続いており、主要出願人の中でも突出している。国内外の自動車メーカー

も発明者数は 1995 年~2000 年頃にピークとなり、その数は 2005 年でも維持されている。

図-19 主要出願人別の発明者数推移(優先権主張年:1990 年~2005 年)

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- 18 -

日野自動車

日産ディーゼル工業

マツダ 本田技研工業

Ford Motor Co

日産自動車

Daimler AG

三菱自動車工業

トヨタ自動車

デンソー

Robert Bosch GmbH

いすゞ自動車

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400

発明者数

特許出願件数

欧州国籍9件

37.5%

米国国籍2件8.3%

日本国籍13件54.2%

日本国籍18,409件

53.8%

欧州国籍11,686件

34.1%

その他173件0.5%

中国国籍42件0.1%

韓国国籍398件1.2%

米国国籍3,525件10.3%

また調査期間における主要出願人の発明者数と特許出願件数の関係をプロットしたのが図

-20 である。日本企業の多くはほぼ一本の直線上にある。

図-20 主要出願人の発明者数と特許出願件数の関係(優先権主張年:1990 年~2005 年)

第5節 基本特許・重要特許

ディーゼルエンジンの燃料噴射装置、燃焼制御技術、後処理技術などに関する重要技術の

紹介記事を成書や米国 SAE のホームページ、出版物から抽出し、その技術で 初となる特許

出願を特許データベースで検索して基本特許、重要特許とした。本調査期間(1990 年~2006

年)におけるこうした特許 24 件を同定し、その出願人の国籍別割合を、本調査の検索で調査

して出願人国籍別割合と比較して図-21 に示した。日本の基本特許・重要特許の出願割合は

54.2%で、日本国籍の出願件数比率の 53.8%とほぼ一致した。一方欧州では基本特許・重要

特許の割合が 37.5%と、出願件数比率の 34.1%より高かった。

図-21 出願件数と基本特許・重要特許件数との対比

(優先権主張年:1990 年~2005 年)

注)外側:出願件数、

内側:基本特許・重要特許件数

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- 19 -

33

6470

89

117 115124

104111

105 102113

8979

115110

65

33

48 50 54 57

9893

119

84 8288

51

1 2 0 2 1 2 1 3 4 4 6 4 8 112

90 1 0 1 3 2 0

83 4 8 5 1 3

135

33

353140 68

2426484444 45

86

66

9075

57

92

62

4157

32 30

10

11

99

125

157

202212 209

221211

267 263

283

254

222

292

328

188

332

0

50

100

150

200

250

300

350

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

発行年

日本 米国 欧州 韓国 中国 合計

研究者所属機関国籍

日本国籍1,605件41.5%

米国国籍845件21.9%

その他139件3.6%

中国国籍68件1.8%

韓国国籍70件1.8%

欧州国籍1,138件29.4%

第3章 研究開発動向

ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術に関する研究開発状況を調査した。検索結

果から、解析対象とした非特許文献(論文)数は 3,865 件であった。論文発表の研究者国籍

別に論文件数推移を解析した結果を図-22 に示した。日本では調査期間の 1990 年代に入って

増加傾向が見られ、1994 年には論文件数がピークとなって、その後ほぼ一定数で推移してい

る。欧州ではこのピークに到達したのが 1998 年以降であり、米国ではさらに遅れて 2000 年

にピークとなって、その後日本と同様にほぼ一定の論文数で推移してきた。

調査期間における研究者所属機関国籍別の論文件数割合では日本が 41.5%と も多く、欧

州 29.4%、米国 21.9%であった。

図-22 研究者所属機関国籍別論文件数推移(論文発行年:1990 年~2006 年)

合計件数:3,865 件

論文件数の推移を特許出願件数の推移と比較した結果を図-23 に示した。1990 年代に入っ

てからの増加傾向は両者で類似しているが、特許出願件数の増加が 1995 年~1997 年のコモ

ンレール式燃料噴射装置の開発に触発されている傾向がより強く現れている。

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- 20 -

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

特許出願件数

0

50

100

150

200

250

300

350

400

論文件数

特許 論文

図-23 特許出願件数と論文発表件数の推移

特許および論文で注目される技術内容に差があるのかに注目して調査した。論文件数/特

許出願件数の比を全体(平均)、および技術区分別で比較した表-24 の結果から、論文では吸

気系制御(中分類 5A)、燃料噴射制御(同 5B)など、燃焼制御関連分野の比率が高く、研究

レベルでは注目されている分野といえる。

表-24 論文発表件数の特許出願件数に対する比率(特許出願の優先権主張年:1990 年~2005 年、

論文発行年:1990 年~2006 年)

中分類 論文件数 特許出願件数 論文件数/特許出願件数比率

4A 噴射弁(インジェクタ)構造 434 4,056 0.107

4B 管;配管要素 11 1,783 0.006

4C コモンレールシステム圧力可変 28 1,539 0.018

5A 吸気系制御技術 955 3,024 0.316

5B 燃料噴射制御技術 1,120 4,152 0.270

6A NOx 除去 451 4,079 0.111

6B PM 除去、DPF 825 6,387 0.129

6C その他の処理 560 4,144 0.135

単純合計 4,384 29,164 0.150

重複排除合計 3,000 18,984 0.158

注)特許出願件数は発明単位でカウント

技術区分の目的(大分類 1)について、対応する技術項目(大分類 4~6 に含まれる中分類)

を解析した結果を図-25a)、b)に示した。論文では目的項目、対応技術項目の多様性が低く、

例えば燃焼改善(技術区分 1A01, 1A02, 1A05)でみると特許出願件数では噴射弁構造(技術

区分 4A)が多く、燃料噴射制御技術(同 5B)、吸気系制御(同 5A)の順になっているのに対

して、論文では噴射弁構造に関する件数が少ない。大学、公的研究機関などの当該技術関連

の論文数(図-25 b))は少なかったが、 新のハードウエアの導入が難しく、研究対象とし

にくいものと推察される。

研究開発がどのような方向に向かうのかを探る上で、調査期間における重要論文を調査し

た。重要論文としては、国内の日本機械学会、自動車技術会の技術賞、技術開発賞の対象論

文を選定した。結果を表-26、表-27 に示した。燃料噴射装置、燃焼制御技術、後処理系のい

ずれにも重要論文が含まれ、これらが一体となって技術開発が今後も進むものと思われる。

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- 21 -

図-25 本調査対象特許および論文の目的グループと対応する技術項目の関係(特許出願の優先

権主張年:1990 年~2005 年、論文発行年:1990 年~2006 年)

a)特許出願件数

b)論文発表件数

1316 783 654 949

1,237 539 353 518 443 1,439 670

2,408 6,535

1,547 990 878 740 1,242 1,092 398

432 596 484

1588 462 449 390

4B

:管

;配

管要

4C

:コ

モン

レー

ルシ

ステ

ム圧

力可

5A

:吸

気系

制御

技術

5B

:燃

料噴

射制

御技

6A

:N

Ox除

6B

:P

M除

去、

DP

F、

自己

再生

式、

受動

6C

:そ

の他

の処

その他(1A09,1A10,1A19) 612265

511325212 290

507 364

1,7862,809低コスト化

(1A15,1A16,1A17,1A18)311

579

218信頼性(1A12,1A13,1A14)

10,559環境技術(1A03,1A04) 555252

6,519

318

2,203

快適利便性(1A06,1A08,1A11)

397

350 328 274燃費経済性(1A07)

162 187

燃焼改善(1A01,1A02,1A05) 5,528 1504 2,416 4,276

4A

:噴

射弁

構造

技術項目(中分類)

目的グルー

(大分類1

787 526

4B

管:配

管要

4C

コモ

ンレ

ール

シス

テム

圧力

可変

5A

吸気

系制

御技

5B

燃料

噴射

制御

技術

6A

NO

x除去

6B

PM

除去

、D

PF、

自己

再生

式、

受動

6C

その

他の

処理

25148112 457671その他(1A09,1A10,1A19)

11

低コスト化

(1A15,1A16,1A17,1A18) 8 1117

32信頼性(1A12,1A13,1A14) 6 8 4 6 14

1321736438

34環境技術(1A03,1A04)

35 25快適利便性(1A06,1A08,1A11)

10 49

1009634 4燃費経済性(1A07)

5 4 5

142134541,046874

27404燃焼改善(1A01,1A02,1A05)

8

4A

噴射

弁構

技術項目(中分類)

目的グループ

(大分類1

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- 22 -

表-26 (社)日本機械学会技術賞

年次 受賞機関名 表彰内容

1991 日野自動車(株) ディーゼル-電気新型ハイブリッドシステム採用の低公害低燃費大型バ

スの開発

1993 日野自動車(株) 遮熱燃焼室と斜流タービン式ターボチャージャーを採用した商業車低燃

費ディーゼルエンジンの開発

1995 トヨタ自動車(株)

(株)豊田中央研究所

キャタラー工業(株)

NOx 吸蔵還元型三元触媒付リーンバーンシステムの開発

1996 日野自動車工業(株) 同一ボア・ストロークを有する4、5、6気筒ディーゼルエンジンシリー

ズの開発

1998 (株)デンソー コモンレール方式ディーゼル電子制御燃料噴射システムの開発

2001 (株)日立製作所 筒内噴射エンジン用バッテリー電圧直接駆動インジェクタの開発

2003 日野自動車(株) 大型商用車用超低排出ガスディーゼルエンジンの開発

2003 トヨタ自動車(株) ディーゼル PM、NOx 同時低減触媒システム

(Diesel Particulate-NOx Reduction System:DPNR)

表-27 (社)自動車技術会技術開発賞

年次 受賞機関名 表彰内容

1992 日野自動車(株)

(株)東芝

ディーゼル・電気新型ハイブリッドシステム採用の低公害、低燃費大型バ

スの開発

1994 日野自動車(株) 適な遮熱率を備えた低燃費ディーゼルエンジンの開発

1995 トヨタ自動車(株)

(株)豊田中央研究所

キャタラー工業(株)

NOx 吸蔵還元型三元触媒付リーンバーンシステムの開発

1999 日産自動車(株) 低温予混合燃焼を適用した高効率・低エミッション小型直噴ディーゼルエ

ンジンの開発

2001 日野自動車(株) 排気脈動を利用したディーゼルエンジン用低排出ガス・低燃費内部 EGR シ

ステムの開発

2002 三菱自動車工業(株) 重量車用ディーゼルエンジンの低排出ガス・低燃費燃焼システムの開発

2004 日野自動車(株) 大型商用車用超低排出ガスディーゼルエンジンの開発

2005 日産ディーゼル工業(株) 尿素選択還元触媒搭載新長期排出ガス規制適合大型トラックの開発

2007 (株)デンソー

トヨタ自動車(株)

180MPa ピエゾ式コモンレールシステム

第4章 政策動向

「ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術」に関する政策関連事項は、大気環境負

荷の低減を目的とした NOx、HC、CO、PM に代表される有害排出物の濃度、量の削減や規制強

化が中心という時代が長く続いてきた。重量車規制値でいえば NOx 排出規制値は 2007 年時点

(新長期規制)では規制の開始された 1974 年の 1/5、PM では 1994 年(短期規制)の 1/25

まで強化された。しかし 1997 年の京都議定書締結以降、ガソリンエンジン車に比較して燃費

の良いディーゼルエンジンは、とりわけ乗用車のカテゴリーにおける CO2 排出量削減の切り

札という認識が、特に欧州で広まり、地球温暖化防止対策としての燃費改善が重要な政策課

題に加わった。この時期に燃料噴射系で CRS、ピエゾ式燃料噴射弁、燃料分割噴射技術、吸

気系で EGR、過給、後処理系で DPF など、高度な燃焼制御技術、後処理技術が相次いで開発

された結果、ディーゼル車はガソリン車と同等以上の運転性能、低排ガス性能が達成され、

各種規制をクリアしてきた。欧州では低燃費指向が強く、乗用車のほぼ 50%がクリーンディ

ーゼル車となって、日本、米国のディーゼル化率の低さと際だった相違が生じている。米国

政府は燃料電池車開発プロジェクトを推進するとともに、2006 年頃からディーゼル車の導入

促進を模索する動きを始めている。原油価格が過去 高水準になっている現在、石油依存性

を緩和する上でもディーゼル車の普及は今後重要な政策になる。本調査テーマで関連する環

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- 23 -

大気汚染防止法(1968)自動車NOx法(1992)改正自動車NOx・PM法(2001)改正自動車NOx・PM法(2008)

短期規制(1994)長期規制(1998)新短期規制(2003)新長期規制(2005)ポスト新長期規制(2009)

環境3課題 (オゾン層保護)  モントリオール議定書(1988)  フロン回収破壊法(2002)  HCFC回収義務の強化方針(2005) (地球温暖化対策)  京都議定書(1997)  省エネルギー法改正(2003, 2006)  (リサイクル)  循環型社会形成推進基本法(2000)  資源有効利用促進法(1991)

ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術開発

燃焼制御技術 燃料噴射技術  (コモンレール)(噴射弁) 吸気系制御技術  (EGR)(過給技術) 燃料噴射制御技術  (分割噴射) 燃料技術  (超深度脱硫)(BDF、含酸素燃料)後処理技術 NOx除去技術  (尿素SCR)(NSR吸蔵還元) DPF PM除去技術  (高性能DPF)(再生技術)  (DPNR) その他の技術  (DOC触媒)(SOx対策)

高効率ディーゼル輸送機関の開発 燃費の一層の向上 ハイブリッド化 空調機冷媒の改良 リサイクル性を考慮した材料

クリーンディーゼル普及促進

自動車産業国際競争力の

向上

石油産業の構造改革

再生可能エネルギー利用促進

産業政策事項 産業側の対応 産業政策の目標

境政策事項と、産業側の対応、およびその目的を整理して図-28 に、また、環境政策を含め

た各種の政策関連事項を表-29 にそれぞれ示した。2007 年時点では、2009 年からのポスト新

長期規則や 2015 年からの重量車の燃費基準は我が国の自動車メーカーにとってクリアすべ

き 重要ターゲットである。1990 年代以前に比較してディーゼルエンジン自動車の有害排出

物質の低減技術開発が格段に進んできた現在、一層の大気環境改善を目指す規制の策定と、

地球温暖化防止のためのディーゼル乗用車の普及促進が重要な政策課題となっている。なお、

燃料技術での温暖化対策としては 2007 年 3 月に「揮発油等の品質の確保等に関する法律(品

確法)」にバイオディーゼル燃料混合軽油に関する規格項目が追加され、5.0wt%までの混合

使用が可能となっている。

また国際的な政策事項として、国・地域ごとに異なる排出ガス負荷の試験法や規制を統一

しようとする国連を中心とした活動(WP29)が進められている。測定法や表示法、規制等の

標準化は、自動車の貿易障壁を緩和する上で望まれてきた事項であり、自動車メーカーにと

っては、地域別の適合に関わる負担を大幅に減らしてコストの低減につながる点でも大きな

メリットがあり、今後の進展が大いに注目される。

図-28 ディーゼルエンジン関連の環境政策、産業側対応とその目的

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表-29 ディーゼルエンジン排気浄化関連

政策分野 関連法令、条約、機構等 政策・規制等の内容

地球環境保

京都議定書(1997)

環境 3 課題(オゾン層保護、地球温暖化、リサイクル)

CO2 排出量の抑制、省エネルギー化の促進

経済産業省クリーンディーゼル乗用車検討

会(2004)

地球温暖化防止への効果等指摘、見通し示す

環境規制 環境基本法(1993) 環境基本計画(2000)

地球温暖化対策の推進に関する法律(1998) 施行令(1999)

大気汚染防止法(1968、頻繁な改正) 煤塵、NOx、HC などの規制、ディーゼル車排ガス規制(新

短期(2002/10)、新長期(2005/10)、2009 規制

自動車 NOx 法(1992)(改正 1993、1999)

(改正自動車 NOx・PM 法:2008 施行)

特定地域の総量削減(1992)、都市部での規制強化

道路運送車両法(1968)(保安基準細目改正

2006/11)

自動車排出ガス規制、騒音規制(乗用車、普通・小型自

動車)、試験法

中央環境審議会令(1993)(改正 2000) 中央環境審議会(環境大臣諮問機関)答申

東京都環境確保条例(2000) PM排出基準不適合車の都内走行不可(2003年 10月以降)

自治体によるディーゼル車に関する規制

・東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県(2003)

・兵庫県(2004)

PM(または更に NOx)基準不適合ディーゼル車の乗り入

れ禁止

特定特殊自動車の排出ガス規制(オフロード

法、2005)

公道を走行しない自動車が対象、2006 年 10 月から規制

微小粒子状物質の健康影響調査(環境省内、

有識者専門員会:2007/05)

PM2.5 の規制などを検討

新短期規制(2003)、新長期規制(2005)、

ポスト新長期規制(2009)

排出ガス量の許容限度、THC 規制から NMHC 規制への変

更、排出ガス試験モードを変更

米国排気ガス規制(EPA Tier 2 Bin 5(2004

~2009))

環境基準設定(Tier 1: 1997)(2007/12): LVD, HVD, Bin

2, 6, 7, 8: Nonroad Diesel Tier 4 program

欧州排気ガス規制(EURO 4(2005)など) EURO 4 (2005)、EURO 5(2009)、EURO 6(2015)

EURO 6 では排出量(CO, HC, NOx,PM g/km)に加えて、

粒子数規制(5 x 1011/km, PMP 法、NEDC 試験)、自動

車耐久性、試験・測定法などが追加される。

燃料油品質 揮発油等の品質の確保等に関する法律(品確

法)(1976)(改正 2000、2007)

施行規則の改定(H18/11/30 公布、H19/1/01 施行):軽

油硫黄分 10ppm 以下、セタン価 45 以上、蒸留性状 90%

留出温度 360℃以下

自動車の燃料の性状に関する許容限度等

(1995) (改正 2004、2006)

硫黄分許容限度は軽油では 500ppmから 50ppmへ(2004)、

更に 10ppm へ(2007)

船舶用重油燃料に関する国際条約(2007/11) 欧州北海航行船舶対象、硫黄濃度 1.5wt%以下(現在多

くの海域では硫黄分 4.5wt%重油)、国内へ波及見込み

省エネルギ

施策連携(低公害車導入に係る財政措置・税

制措置など、自動車取得税)、グリーン税制

導入(2001)

自動車税のグリーン化、低燃費車に対する軽減措置(燃

費基準+10%達成車、20%達成車)

八都県市低公害車指定制度(1996) 低公害車を指定し率先して購入、一般に推奨する制度

京阪神7府県市低排出ガス車指定制度

(1996)

1996 年六府県市として発足、低公害車を指定、普及促

低公害車/

低燃費車の

普及促進

低排出ガス車認定制度(2000) 排出ガスが基準に達した自動車、ディーゼル重量車が取

得可

超低 PM 排出ディーゼル車認定制度(2000) 排出 PM が基準に達したディーゼル車が取得可

クリーンディーゼル推進協議会(2007 発足) クリーンディーゼル車普及の障害についての解決策を

検討

標準化 道路運送車両法、国際(ISO)規格 日本工業標準調査会標準部会 自動車技術専門委員会

(新規:燃料電池、リサイクル、ITS)(継

続:排ガス試験法、HEV/EV 燃費測定法、衝

突安全)

日本自動車工業会(JAMA)、自動車技術会規格委員会

(社)自動車技術会、(社)日本自動車部品工業会など

国際標準化 ISO 規格(規格数 1999 年時点で 361 件以上)

高度技術開

革新的次世代低公害車総合技術開発プロジ

ェクト(クリーンディーゼルプロジェクト、

NEDO, H16~H18 年度)

大型車を中心とした次世代低公害車・燃焼改善・燃料・

後処理技術、評価技術等の開発

自動車軽量化技術開発プロジェクト

次世代低公害車開発・実用化促進会議(2005

~2007、国土交通省)

次世代低公害車開発促進会議(2002~2004、国土交通省)

を引き継ぎ、実用化に必要な技術基準の整備等を行う

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欧州Euro5(2009~)

0.180.08

欧州Euro6(2015~)

0.0045欧州

Euro5+(2011~)

米国Tier2Bin5(2009~)

0.070

0.001

0.002

0.003

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0.006

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0.008

0.009

0.01

0.011

0.012

0.013

0.014

0.015

0 0.05 0.1 0.15 0.2

NOx(窒素酸化物)

PM

(粒子状物質

(g/km)

(g/km)

     日本新長期規制の施行時期新型車(2005/10/01)継続生産車(2007/09/01)

     日本ポスト新長期規制の施行時期新型車(2009/10/01)継続生産車(2010/09/01)

日本、米国、欧州の排気ガス規制はこれまで段階的に進められてきた。2007 年の段階で

も厳しいとされるのが米国 Tier 2 Bin 5 と呼ばれる規制であり、想定される 2014 年~2015

年の Euro 6 規制(2007 年は検討段階)とともに世界の自動車メーカーが注目している。米

国ではガソリン車、ディーゼル車で基本的に規制値に差を設けないことから、PM については

日本のポスト新長期規制、欧州の Euro 6 規制よりも厳しい規制値となる他、PM については

粒子数規制も想定されているため、新しい技術の開発の必要性も検討されている。近い将来

に想定される規制値を図-30 に整理した。実際には国内メーカーの多くが輸出を目的に、Euro

6 規制や Tier 2 Bin 5 規制を既にクリアしつつあると見られるが、価格上昇は避けられず、

市場競争力の確保との両立が求められる。

図-30 日米欧におけるディーゼル乗用車排出ガス規制の推移

国内では自動車排出ガス規制が始められてから、自動車排出ガス測定局(自排局)の環境

汚染が改善されてきた。図-31、図-32 に示すように、NO2 濃度は自排局で一般局よりなお高

濃度であるが、PM についてはその差が急速に縮小している。また図-33 に示すように、東京、

埼玉、千葉、神奈川の首都圏で自排局の 2004 年度 PM 濃度は全国平均よりも低く、環境基準

達成率は 100%に近い状況にある。

国内ばかりでなく、世界規模でクリ-ンエンジン自動車の普及促進をめざした優遇政策が

とられている。国内で実施されているのは自動車取得税に係わるもので、表-34 に示すよう

に 新排出ガス規制に適合したトラック・バスの取得時、廃車代替時などの優遇税制が施行

されている。

日本、米国、欧州への特許出願件数と、環境規制の関係を図-35 に整理した。1990 年代の

前半で自動車 NOx 法、短期規制などが行われ、特許出願件数はやや増加したが、1993 年~1995

年は特許出願件数は横ばいであった。1996 年ころから増加が始まったが、2011 年以降の Euro

5, Euro 6 規制に向けた特許出願件数の増加は現時点では見られない。

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0

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

0.06

1970 1972 1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004

年度

濃度

自排局 一般局

(ppm)

0.027ppm(2005)

0.015ppm(2005)

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

0.14

0.16

0.18

1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004

年度

年平均値

自排局 一般局

(mg/m3)

0.031mg/m3(2005)

0.027mg/m3(2005)

0.0

20.0

40.0

60.0

80.0

100.0

2001 2002 2003 2004 2005

年度

達成率

(%

埼玉県

千葉県

東京都

神奈川県

全国平均

図-31 NO2濃度の年平均推移(1970 年~2005 年)

出典:平成 19 年版 環境統計集,p175,環境省

自排局:自動車排出ガス測定局

図-32 浮遊粒子状物質濃度の年平均推移(1974 年~2005 年)

出典:平成 19 年版 環境統計集,p179,環境省

図-33 首都圏浮遊粒子状物質濃度環境基準達成状況(自排局)

参考:超低 PM 排出ディーゼル車認定制度(2000)、自治体による

ディーゼル車に関する規制(東京、埼玉、神奈川、千葉:2003)

出典:環境統計集 平成 19 年版,p181,環境省

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0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

優先権主張年

出願件数

日本への出願 米国への出願 欧州への出願

DE車短期規制(1994)

DE車長期規制(1998)

京都議定書(1997)

DE車新短期規制(2003)

DE車新長期規制(2005)

Euro1 規制(1992)

自動車NOx法(1992)

Euro2 規制(1995)

Euro 3規制(1999)

Euro4 規制(2005)EPA Tier 1

発表(1991)

EPA Tier 2 発表(1999)

改正自動車NOx・PM法(2001)

表-34 自動車取得税による優遇措置

1 新排出ガス規制に適合したトラック・バスの取得に係る軽減(2006、2007 年度)

【概略】 平成 17 年排出ガス規制に適合し、かつ燃費基準(3.5t 以上の重量車を対象として、2006 年 4 月より導入さ

れた 2015 年度基準)を達成したトラック・バスを取得した場合に自動車取得税を軽減する。

条件 軽減率

2015 年燃費基準達成かつ重量車(2005 年基準排出ガス 10%低減(NOx または PM)レベル) 2.0%

2015 年燃費基準達成かつ 2005 年排出ガス規制適合 1.0%

2 自動車 NOx 法・PM 法による廃車代替に伴う取得(対策地域内)

【概略】自動車 NOx 法・PM 法に基づく排出基準に適合しないトラック・バスを廃車して、新たに排出基準に適合し、

かつ 新の自動車排出ガス基準に適合したトラック・バスを取得した場合に自動車取得税を軽減する。

条件 軽減率

2007 年 4 月 1 日~2009 年 3 月 31 日 1.2%

出典:日本の自動車工業 2007, p52, (社)日本自動車工業会

図-35 NOx 関連規制と NOx 除去(技術区分 6A)特許出願件数の推移

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6

7

8

9

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2010(予

測)

2013(予

測)年

(千

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

ィー

(乗

+

乗用車 トラック+バス ディーゼル化率(乗用車+トラック+バス)

第5章 市場環境分析

国内では 2007 年現在で 40 万台以上のディーゼル乗用車が生産され、全乗用車生産台数の

5%前後を占めている。その数はガソリン自動車に比較すれば少ないが、世界レベルでは健闘

しているとみることができる。トラック・バスなどの商用車の国内自動車メーカーの技術力

は高く、国内外に生産工場を設けて稼働している。しかし国内の新規登録乗用車に占めるデ

ィーゼル乗用車の割合は 1%以下と世界レベルで比較して極めて低く、国内生産のディーゼ

ル乗用車の大部分は国外に輸出されているのが実情である。米国でもディーゼル乗用車の比

率は極めて低く、ガソリン車が主流である。こうしたディーゼル乗用車市場の閉鎖性の背景

には種々の要因があるが、日本や米国で環境規制が厳しく、これをクリアするのが容易でな

かったこと、さらに、排気黒煙や振動騒音等の負のイメージがあったこと、ディーゼル乗用

車はガソリン車よりも価格が高く、日本の平均的な年間走行距離ではガソリン、軽油の価格

差ではガソリン車のライフサイクルコストの方が安くなること、また米国では燃料の軽油販

売のインフラ整備が遅れていることなどが挙げられる。

図-36 に世界の自動車生産台数の推移と、ディーゼル化率の推移を示した。2005 年の乗用

車生産台数は約 4,500 万台、トラック・バスは約 2,500 万台であり、平均ディーゼル化率は

約 20%と見られる。乗用車の新車登録台数に占めるディーゼル車の割合を図-37 に示した。

フランスではディーゼル化率は 70%を超えて欧州でも突出しているが、イタリア、ドイツ、

イギリスも向上して 2006 年には欧州平均で 50%近くに達したと見られている。主要自動車

メーカーが新モデルを発表した。一方、日本、米国のディーゼル化率は極めて低い。

図-36 世界の自動車生産の推移

出典:世界自動車統計年報 2007,(社)日本自動車工業会

CSM worldwide、矢野経済研究所などの資料、ディーゼル化率は日米欧のデータからの予測値を参考

にして(株)三菱化学テクノリサーチが作成

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1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

(%)

欧州全体

ドイツ

イタリア

イギリス

フランス

米国

日本

*乗用車の新車登録台数の

 上位4カ国

  1位 ドイツ

  2位 イタリア

  3位 イギリス

  4位 フランス

3,685

2,216

3,720

2,896

3,472

3,758

2,8521,953

2,205

1,3471,309

946

1,110

1,015

938

811

0

2,000

4,000

6,000

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10,000

12,000

14,000

16,000

198

1

198

2

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3

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4

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5

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6

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8

198

9

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0

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1

199

2

199

3

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4

199

5

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6

199

7

199

8

199

9

200

0

200

1

200

2

200

3

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4

200

5

201

0(予測

)

201

3(予測

)

生産台数

(万台

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

ディー

ゼル化率

(乗用車+トラ

ック+バス

生産台数 特許出願件数 ディーゼル化率(乗用車+トラック+バス)

0

2,000

4,000

特許出願件数

6,000

図-37 乗用車新車登録に占めるディーゼル車の割合

出典:ACEA(欧州自動車工業会)

日本・米国 世界自動車統計年報 2003 および 2007、(社)日本自動車工業会日本の 1994 年~1995 年

のデータはない

日本、米国、欧州の自動車生産台数、ディーゼル化率の推移と特許出願件数の推移を比較

したのが図-38 であり、1990 年以降の本調査期間で三者は着実に増加してきたことを示して

いる。自動車工業会などの発表する 2010 年、2013 年の生産台数予測はさらに増加が続くと

しており、燃料価格の高騰もあって低燃費を特徴とするクリーンディーゼル車の割合は今後

さらに向上すると見込まれている。

図-38 特許出願件数と日米欧の自動車生産台数、ディーゼル化率の関係

注)特許出願件数は 5 極全体への出願件数

出典:世界自動車統計年報 2007(日本自動車工業会)、CSM worldwide、矢野経済研究所などの資料、

ディーゼル化率は日米欧のデータからの予測値を参考にして(株)三菱化学テクノリサーチが作成

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11 22 33

70 5973 78

56

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43 47 36 29 31 2219

323

179

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 0 1 0 00 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0129 51

105

3548

77

49

5373

5232

299 24

74

519

593

364388

561

86100

135

246264

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220

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716

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700

800

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

優先権主張年

出願件数

日本 米国 欧州 韓国 中国 合計

出願人国籍

0

1

2

3

4

5

6

7

8

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

新車登録台数

0

10

20

30

40

50

60

ディー

ゼル化率

IDI DI ディーゼル化率

(百万台) (%)

Bosch第3世代コモンレールシステム導入

Bosch第2世代コモンレールシステム導入Bosch

コモンレールシステム導入

DI技術導入

国連環境開発会議(リオ・サミット)

COP1(ベルリン)

COP3(京都)

EU CO2排出量自主規制値決定(140g)

米国が地球温暖化対策を提案

市場環境と特許出願件数との関係をより明確に比較するため、図-39 a)には欧州での 1990

年以降の新車登録台数の推移を技術転換と特許出願件数との関係で比較した結果を示してい

る。Robert Bosch による CRS 技術の市場投入は 1997 年で、2000 年以降はディーゼル乗用車

の殆どが CRS である。短期間に CRS 化が進んだことが明らかである。図-39 b)にはコモンレ

ール燃料噴射装置(大分類 4)の欧州への特許出願件数推移を示した。この図から、欧州企

業が数多くの特許出願を行い、この技術開発を積極的に進めてきたことが理解される。

図-39 欧州ディーゼル乗用車の新車登録台数と欧州への特許出願件数推移

a)新車登録件数

出典:ACEA(欧州自動車工業会)、第 2 回「クリーンディーゼル乗用車の普及・将来見通しに関する検討会」

2004 年ボッシュオートモーティブシステム資料などより三菱化学テクノリサーチが作成

b)欧州への特許出願件数推移(大分類 4:コモンレール燃料噴射装置)

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過給大

過給無

EGR無 EGR少量 EGR大量 EGR超大量

従来ディーゼル燃焼の延長線上   (EGR+高過給)

従来ディーゼル燃焼(EGR無+過給無)

従来ディーゼル燃焼

(EGR無+少過給)

新ディーゼル燃焼 予混合圧縮着火(超大量EGR+超噴射時期進角)

動向 A

動向 B

動向 C

過給

(

 低減手法

)

PM

EGR(NOx低減手法)

3. 1980年代~

2. 1970年代~

1. 1970年代~

4. 1990年代~

5. 2000年代~

6. 1990年代~

従来ディーゼル燃焼

(EGR少+高過給)

第6章 総合分析

これまでの特許出願動向分析、研究開発動向分析、政策動向分析、市場環境分析の結果と

有識者の意見とを総合すると、「ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術」分野におけ

る日本の技術開発、研究開発および日本をとりまく環境は、以下のようにまとめられる。

1.特許出願状況と技術開発の経緯

有害排出物質の低減、静粛(低騒音・低振動)化、高トルク化、後処理系の制御技術など

で日本のデンソー、独 Robert Bosch のコモンレール開発の果たした功績は大きい(図-3、図

-12、図-39)。EGR、ターボ過給の採用で低中速回転域での高トルク、高効率のエンジン特性

がさらに改善され、走行性向上なども実現した。クリーン燃焼技術に関連する技術開発の経

緯を NOx 低減手段に有効な EGR と、PM 低減手法として有効な過給強化の視点で整理すると図

-40 のようになる。1970 年代に過給が採用されるようになり、1980 年代に過給の強化と低 EGR

率を組み合わせたディーゼルエンジンが採用されるようになった。1990 年代、2000 年代には

EGR 率、過給ともさらに高める方向でクリーン燃焼技術が発展してきた。これを動向 A とす

る。一方 1990 年代に EGR を超大量に採用する予混合圧縮着火の新しいディーゼル燃焼方式が

見出された。この条件で過給を組み合わせて NOx、PM の両方を低減する開発動向 B が出てき

た。

図-40 EGR・過給システムにおける動向

1995~1997 年のコモンレール方式燃料噴射装置の市場投入により、ディーゼルエンジン

の特性である高いエネルギー効率を活かしたまま、クリーン燃焼、高トルク化、静粛性

化などを達成するための、給気技術(EGR、ターボ過給など)、燃焼制御技術、後処理技

術などを組み合わせた高度技術の開発を促進した。これに関連する技術区分の特許出願

件数が増加した。

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しかし動向 B だけではディーゼル乗用車の走行特性を広くカバーすることが困難であり、

両者を組み合わせ、負荷により切替制御などを行う新しい動向 C が検討されるようになって

いる。動向 C に関する技術では日産自動車、トヨタ自動車など、自動車メーカーが多くの特

許出願を行っている。これと合わせて過給、EGR を組み合わせた制御関連特許出願件数が増

加している(図-14)。

2.厳しさを増す環境・燃費の規制と技術開発の方向

クリーンディーゼルエンジンの達成に CRS 技術や EGR、過給などの燃焼制御技術の果たし

た役割は大きく、さらにセラミックス製 DPF とその再生技術、NOx 吸蔵還元(LNT or NSR)

や選択還元(SCR)等の触媒技術が開発されて完成度が高まった。今後の大気環境負荷の低減

では、燃焼制御技術の一層の向上、後処理用触媒技術の一層の向上が必要である(図-9、図

-15、図-35)。

NOx、PM などの排出規制は自動車の走行条件や気候条件の相違、また自動車に対する認識

の相違から、世界の国・地域によってテスト法や規制値が異なり(日本ではポスト新長期規

制、米国では Tier 2 Bin 5 規制、欧州では 2015 年導入予定の Euro 6 規制など)、それらへ

の対応が急務となる。いずれも一層厳しい環境規制であるが、三極でほぼ同レベルの厳しい

規制値に収斂すると考えられる。併せて国連主導の標準化活動が開始されており、テスト法、

規制値の一元化が進むと期待される(図-30)。技術的には現在でもこうした環境規制をクリ

アするのは可能と見られるが、必要な設備の追加はディーゼル車の製造コストを押し上げる

要因となる。

一方地球温暖化防止は国際的な合意事項でもあり、やはり現在国・地域ごとに異なる燃費

評価法の国際的な統一化が進められている。米国は「20 in 10」、即ち 10 年以内に輸送用燃

料消費を 20%削減する方針で、バイオエタノール燃料が注目されているが、ディーゼル車の

普及も大きな課題となる。欧州でも「20 in 20」を掲げ、バイオマス燃料の導入促進と、2012

年に 130g-CO2/km、2015 年に 120g-CO2/km、2020 年には 95g-CO2/km などへの燃費規制が提案

されている。ディーゼルエンジンは低燃費を特徴としていることから、更なる低燃費化には

エンジン燃焼改善以外の効率化も必要になる。具体的には日米欧三極を中心にして次のよう

な項目が検討されている。

・動力伝達系の高性能化 動力回収、ハイブリッド化

・車体構造の改良 タイヤ圧力 適化監視システム、車体材料・部材の軽量化

・空気抵抗の低減 車体形状の改良

・バイオマス系燃料の導入 BDF、BTL、バイオエタノール(EtOH, ETBE)などの採用

CO2削減対策としてのディーゼル車の地位は一層向上し、こうした改善を織り込みつつ徐々

1995 年以降、コモンレール方式燃料噴射装置の市場投入により、ディーゼルエンジンの有

害排出物質を低減する技術が急速に発展したが、日本のポスト新長期規制、米国の Tier 2

Bin 5 規制、2015 年導入予定の欧州 Euro 6 規制など、今後は一層厳しい環境規制政策へ

の対応が急務となる。また、近年は地球温暖化防止という課題が強調されるようになり、

燃費の一層の向上が要請されている。

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に普及すると期待される。

3.日本市場におけるディーゼルエンジンの普及

石油連盟はディーゼル乗用車の普及促進で、ガソリン車に対する燃費向上(輸送機関排出

CO2量の削減)とともに、ガソリン生産偏重の製油所バランス化(灯軽油余剰体質の転換)で、

精製工程での CO2排出量も削減可能であると発表している。

日本市場におけるディーゼル乗用車の普及が遅れてきた理由は、欧州に比較して厳しい排

出ガス規制に負うところが大きい。クリーンディーゼル技術の開発が進んだ現在、過去のイ

メージを払拭するための活動や、ガソリン車に比較して増大する排気浄化システムのコスト

負担を緩和する政策的な支援も期待されている。欧州自動車メーカーのディーゼル乗用車は、

低燃費に加えて低中速度条件での優れた加速性能が評価され、国内ユーザーにも好評である

が、コストパフォーマンス(ライフサイクルコスト)の改善が課題として残されている。国

内自動車メーカーは輸出用にディーゼル乗用車を生産しており、国内市場が立ち上がった場

合も供給能力面で問題はない。2007 年以降、国内自動車メーカーも国内や米国市場へのディ

ーゼル乗用車本格投入の動きをみせている。国内市場の立ち上がりで量産効果によるコスト

ダウンが可能となり、さらに米国での市場も進展すればそれが加速されるものと予想される。

一方国内市場の現在の閉鎖性は技術開発面で障害とはなっていないが、長期的には商品開発

力の停滞につながるものと懸念される。

4.日本の強み・弱みとその対応

日本はクリーンディーゼルエンジン技術の面で強い技術力を有する。コモンレール、LNT、

DPF など、独自の技術を世界に先駆けて開発した。また基礎産業力の高さから、高性能の各

種部品・部材や制御技術を提供し、ハイブリッド技術でも世界をリードしてきており、これ

らは日本の強みである。また日本では 2005 年に軽油の 10ppm までの低硫黄化を石油業界の自

主的な取り組みにより達成し、後処理系触媒の設計を容易にした。これらは日本の強みであ

る。しかし排出ガス規制では欧州がリーダーシップを発揮、米国が独自路線を踏襲する可能

・クリーンディーゼルエンジンについてあらゆる地域(図-4)、技術区分全般(図-7、図

-9、図-11)でむらなく多くの特許出願を行っていることは日本の強みである。また精密

機器、素材、加工関連の基礎産業力に加えて、特許出願に係わる発明者数の多さ(図-19)、

研究論文数の多さ(図-22)が、技術的難度が高く、合わせ込み技術の性格が強いディー

ゼルエンジン技術を支える上で日本の強みとなっている。

・一方現時点で日米欧において異なる排出ガス基準、燃費基準の規制強化策が存在する中、

自動車市場拡大が期待されるBRICsなどの諸国では欧州の規制強化値を追随する方向に動

いており、将来的に存在し得る複数の基準への対応が課題となっている。

我が国のディーゼルエンジン自動車メーカーは商用車、乗用車ともに世界のトップレベル

の技術力を有するが、日本ではディーゼルエンジン乗用車の国内市場が極めて小さい(図

-37)。過去の黒煙、NOx 排出のイメージが嫌われているほか、欧州、米国に比較して自動

車の走行距離が少ないため、低燃費であっても車両の価格がネックになって普及が遅れて

いる。

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性があり、国内メーカーが日本の厳しい規制値をクリアする技術開発に成功しても外国で市

場競争力を確保できる保証はない。環境規制の国際標準化に積極的に発言する必要がある。

5.自動車以外のディーゼルエンジンのクリーン化

ディーゼルエンジンは幅広い分野で利用されているが、船舶用、産業用、特殊自動車につ

いては乗用車、商用車にやや遅れて排ガス規制が開始されている。自動車と同様、燃料自体

の高度脱硫精製が望まれるが、エンジンの使用条件や環境がそれぞれ異なるので、 適なク

リーン化技術を探す必要がある。燃料油の高圧噴射化、DPF 技術などはいずれの用途でも有

効であろう。

第7章 提言

総合分析で明らかにしたように、日本はクリーンディーゼルエンジン技術において、燃料

噴射、燃焼制御、後処理のいずれの面でも重要な技術開発を行ってきた。日本メーカーがセ

ラミックス製 DPF を世界のディーゼルエンジンメーカーに供給するなど、大きな貢献をして

いる。技術の蓄積、技術創出力、さらに基礎産業力で日本は欧州や米国と対等以上の競争力

を有し、地域的にも(図-4)、技術分野的にも(図-7、図-9、図-11)漏れのない特許網を構

築している。三極の環境規制や地球温暖化防止に寄与する、より強化された燃費規制値は

2014 年までに出揃うと予想される。これらに対応する技術の開発競争で日本に不利な点は少

ないと言えるが、さらに日本の優位性を維持・拡大するために好ましい方向を以下に提言す

る。

1.技術開発

自動車など内燃機関を用いた輸送機関は石油生産量の 40%を使用しており、内燃機関を用

いた輸送機関の燃費規制を設けることは、地球温暖化ガスの CO2 排出量低減に大きな意味が

ある。ディーゼル乗用車のクリーン燃焼技術は完成度が高くなっているが、スーパークリー

ン化とともに、エネルギー効率の一層の向上を同時に目指した技術開発が必要である。2002

~2004 年の次世代低公害車開発促進プロジェクト(国土交通省)の一環で検討されたスーパ

ークリーンディーゼルエンジンなど、ポスト新長期規制以降の技術的な方向性を示す研究プ

ロジェクトが推進されてきた。特に、図-40 の動向 B で示される予混合圧縮着火燃焼(HCCI,

PCCI)と高負荷域での高過給、多量 EGR を組み合わせて後処理の負担を極力低減して NOx、PM

ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術では自動車ばかりでなく、船舶用、産業機

械、建機、農機、発電機などについても規制が開始されており、これらの用途への既存技

術の応用が期待される(表-29)。

・ディーゼルエンジンの有害排出物質の低減技術は 1990 年代後半に急速に進展したが、

一層のクリーン化を可能とする低価格、高効率エンジンの開発を推進する必要がある。

・ディーゼル車のエネルギー効率(燃費)はガソリン車に比較して良好であるが、地球温

暖化防止の視点でその一層の改善が要請されている。このため燃焼方式の改善に加えて、

種々の可能性の検討が望まれる。

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低減を図る燃焼法が注目されている。

ディーゼル乗用車の場合、高圧燃料噴射装置、EGR 冷却装置、高性能過給システムなど、

ガソリン車に比較して重装備が必要となり、価格面で不利となる。技術開発により価格上昇

を抑制することが重要な課題である。

クリーン燃焼技術の見通しが出てきた現在、燃費向上は大きな技術開発のターゲットであ

り、エンジン以外のシステムを含めて技術開発競争に世界で先行することが望まれる。2030

年のような長期目標を見越して開発されるエネルギー効率向上技術ではダウンサイジングや

ハイブリッド方式の採用は有力な手法になると見られる。日本、米国、欧州メーカーはプラ

グイン方式の開発方針を発表している。エンジン以外のシステムを含めた技術開発の項目と

しては下記のように想定される。

・エンジン、車両の小型・軽量化、低価格化

・ハイブリッド化(マイルド HEV、プラグイン HEV、ストロング HEV)

・タイヤ圧力 適化監視システム導入、空気抵抗の低減

・バイオマス系燃料の導入

化石燃料の枯渇懸念もあり、エンジン、車両のダウンサイジングは世界の趨勢になるとみ

られる。欧州では既に 800cc のディーゼル車が開発されている。

2.知的財産戦略

特許戦略はいずれの産業においても重要な課題であるが、日本、欧州、米国の先進国が技

術開発競争を展開する自動車産業においては、革新的技術、消費者ニーズを刺激する機能な

どの開発と、他の追随を許さない有効な特許の取得が重要である。

一方自動車市場は BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)などで急速に拡大しており、

我が国のメーカーは外国に相次いで生産工場や部品工場を新設している。このため、それぞ

れの工場における生産体制構築に必要な特許出願戦略が必要である。クリーンディーゼルエ

ンジンは部品を揃えるだけで完成するような技術でなく、燃料噴射、吸気制御、燃焼制御、

後処理を的確な制御系で結ぶ組み込み技術としての性格が強い。こうした背景から、日本の

産業競争力を確保する上で、ノウハウ流出の抑制が重要である。

こうした見方はあるが、対中国など、自動車の発展途上国に対する特許出願件数は増加し

ている。さらに技術立国の視点から次のような知的財産の保護強化努力が望まれる。

・ディーゼルエンジン搭載製品メーカーと部品、部材メーカー相互の資本提携や連携強化

による技術の囲い込み

・世界共通の課題となった先進的環境、安全関連技術に関した特許出願の強化と商品化推

進、先進技術の価値の紹介によるニーズ発掘とライセンス供与

・知的財産に係わる人材流出を抑制する労務管理

・ディーゼルエンジンの技術開発は日本、欧州、米国の先進国を中心に展開されており、

先行メーカーの立場を強化するための特許戦略の重要性は高い。

・先進国自動車市場が飽和に向かっているが、BRICs 市場は拡大が顕著である。生産基地

を消費地に近接して建設する必要性から、製品、部品の生産体制構築に有効な特許出願な

ど、知財活動の強化、保護両面の知財戦略が必要となる。

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3.市場環境整備

国内ではディーゼル乗用車の普及が欧州ばかりでなく先進国の中でも突出して遅れており、

地球温暖化防止の視点から、低燃費を特長とするディーゼル車の普及が望まれる。そのため

には従来のディーゼル車の持つ黒煙、振動・騒音、低加速性などの不利なイメージを払拭す

る必要があり、それを目的にしたディーゼル乗用車試乗会などが開催されて、好評を博して

いるが、国内メーカーにもこうした活動が望まれる。経済産業省は平成 17 年に「クリーンデ

ィーゼル乗用車の普及・将来見通しに関する検討会」を開催し、普及のための各種課題を検

討するなど、普及推進活動を開始している。ディーゼルエンジン技術開発力の面で日本は欧

州、米国と対等以上と見られるが、国内市場が小さいことは量産効果によるコスト低減を困

難とし、市場開発力拡充の点でも不利である。

4.国際標準化

ディーゼル車に限らず、自動車全体で試験法、排出ガス基準が世界の国・地域ごとに異な

っている現状は、自動車の使用環境の相違によるものであるが、これは自動車産業にとって

必ずしも有利な状況ではない。近い将来自動車の大きな市場に成長するとみられる BRICs 諸

国では一定の時間をかけて欧州基準を追随する動きを示しており、世界に複雑な規制構造が

出現する懸念がでてきた。それらが確立される前に国際的な標準化を達成する必要があるが、

国連ではすでにこうした活動が開始されている。国連主導の活動ではモーターサイクル、オ

フロード車で標準化が終了、ヘビーデューティの検討が開始される段階であり、今後は国内

メーカーの高い技術力を背景にして、積極的にこのような標準化活動に発言し、またデータ

提供などで協力することが望まれる。

ディーゼル乗用車の国内市場は先進国の中でも著しく低い(図-37)。歴史的な背景はある

が、地球温暖化防止の有力な手段であり、 新技術の採用で達成されたクリーンディーゼ

ル乗用車の普及を政策的に促進する必要がある。

ディーゼル車に限らず、自動車全体で試験法、排出ガス基準は世界の国・地域ごとに異な

っている。自動車の使用環境の相違によるものであるが、これは自動車産業にとって必ず

しも有利な状況ではない。国連が主導する標準化活動へ積極的に参加し、先進技術レベル

の開示、データ提供、調査への協力をすることが望まれる。