図1に gaas /a) ge - ehime...

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1.半導体のエネルギー構造とバンドエン ジニアリング 図1に Ge の、図2に GaAs のエネルギ ー構造を示す。図では横軸が電子の波数ベ クトルであり、ブリルアンゾーンの中心Γ (0,0,0)から<111>方向にΛ線に沿ってブ リルアンゾーンの境界点であるL点(π/a, (π/a, (π/a)、それから<100>方向にΔ点沿 ってX点( 2π/a,0,0) までの主な対称点と 対称線上のエネルギーを示している。 図1より、Ge の価電子は4個あり、ダ イヤモンド構造の結晶構造は2つの複格 子構造を持つ。2つの複格子に存在する8 個の価電子がスピンが異なる2つの電子 を持つ4つの価電子帯を構成しているこ とがわかる。Ge では価電子帯の頂上はΓ 点にあるが、伝導帯の極小値は<111>方向 のΛ線上にある。これは Ge が間接遷移形 半導体であることを示している。図2にジ ンクブレンド構造の GaAs のバンド構造は、 ダイヤモンド構造の Ge と非常に良く似て いる。GaAs はジンクブレンド形の結晶構 造を持つ。ジンクブレンド構造は、Ga 子の作る面心立方格子と As 原子の作る面 心立方格子が<a/4, a/4, a/4>の距離だけ異なった複格子構造を持っている。従ってジンクブ レンド構造は、ダイヤモンド構造の複格子構造において、二つの異なるサイトを Ga 原子と As 原子の二つの原子に割り当てたものと考えることができる。従って、価電子に関しては Ga の3個の価電子と As の5個の価電子の合計8個の価電子が価電子帯を構成している。 したがって GaAs の価電子帯は Ge と同様に4つのバンドから成る。価電子帯で異なる点 は、Ge のX点における二重の縮退が GaAs では解けていることである。また GaAs では伝 導帯の極小値がΓ点にあり、直接遷移形のバンド構造を有することが Ge と大きく異なる点 である。 図3に GaAs のバンドギャプ近傍の詳細なエネルギーバンド図を示す。直接遷移形半導 体である GaAs の伝導帯のド形状はΓ点で鋭い下に凸の放物線的な形状を示し、Γ点での バンドの曲率より電子の有効質量 me * 0.065m0 である。 GaAs の伝導帯はL点やX点でも 図2 GaAs のエネルギー構造 図1 Ge のエネルギー構造

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  • 1.半導体のエネルギー構造とバンドエン

    ジニアリング 図1に Ge の、図2に GaAs のエネルギ

    ー構造を示す。図では横軸が電子の波数ベ

    クトルであり、ブリルアンゾーンの中心Γ

    点(0,0,0)から方向にΛ線に沿ってブリルアンゾーンの境界点であるL点(π/a, (π/a, (π/a)、それから方向にΔ点沿ってX点(2π/a,0,0)までの主な対称点と対称線上のエネルギーを示している。

    図1より、Ge の価電子は4個あり、ダイヤモンド構造の結晶構造は2つの複格

    子構造を持つ。2つの複格子に存在する8

    個の価電子がスピンが異なる2つの電子

    を持つ4つの価電子帯を構成しているこ

    とがわかる。Ge では価電子帯の頂上はΓ点にあるが、伝導帯の極小値は方向のΛ線上にある。これは Ge が間接遷移形半導体であることを示している。図2にジ

    ンクブレンド構造のGaAsのバンド構造は、ダイヤモンド構造の Ge と非常に良く似ている。GaAs はジンクブレンド形の結晶構造を持つ。ジンクブレンド構造は、Ga 原子の作る面心立方格子と As 原子の作る面心立方格子がの距離だけ異なった複格子構造を持っている。従ってジンクブレンド構造は、ダイヤモンド構造の複格子構造において、二つの異なるサイトを Ga 原子とAs 原子の二つの原子に割り当てたものと考えることができる。従って、価電子に関してはGa の3個の価電子と As の5個の価電子の合計8個の価電子が価電子帯を構成している。したがって GaAs の価電子帯は Ge と同様に4つのバンドから成る。価電子帯で異なる点は、Ge のX点における二重の縮退が GaAs では解けていることである。また GaAs では伝導帯の極小値がΓ点にあり、直接遷移形のバンド構造を有することが Ge と大きく異なる点である。 図3に GaAs のバンドギャプ近傍の詳細なエネルギーバンド図を示す。直接遷移形半導

    体である GaAs の伝導帯のド形状はΓ点で鋭い下に凸の放物線的な形状を示し、Γ点でのバンドの曲率より電子の有効質量 me*は 0.065m0である。GaAs の伝導帯はL点やX点でも

    図2 GaAs のエネルギー構造

    図1 Ge のエネルギー構造

  • 極小値をとるが図3からわかるが、これらのバ

    ンドの曲線の形状はゆるやかな下に凸の曲線

    であり、バンドの曲率から求められる有効質量

    はΓ点と比較して非常に大きい。L点では me*

    =0.55m0, X点では me*=0.85m0 である。伝導帯の極小値は「谷」(valley)とよばれ、このような伝導帯の構造をvalley構造と表現する。valley 構造はむしろ3次元で表現することが多く、一般的には伝導帯の valley の等エネルギー面を波数 k 空間で表現することが多い。

    図4には Si および Ge のバンドギャップ近傍のバンド図を示す。先に述べたように Ge の伝導帯の最小値はブリルアンゾーンの方向のL点近くのΛ線上にある。価電子帯の最小値を示す波数(Λ線上)と価電子帯頂上の波数(Γ点)が大きく異なる為に Ge は間接遷移形半導体であり、バンドギャップは 0.66eV である。 また図4より Si の伝導帯の最小値は方向のΔ線上にあり、Si はバンドギャップ

    1.08eV の間接遷移形半導体であることがわかる。これら3つの半導体では伝導帯の valley構造が大きく異なることがわかる。 このような伝導帯の valley 構造の違いを強調する為に、図5に Si, Ge および GaAs の3

    つの半導体の伝導帯最小付近の等エネルギー面を波数空間(k 空間)で用いて3次元表示したvalley 構造を示す。間接遷移形の Si では方向のΔ線上に伝導帯の底があるため、伝導体の valley 構造は6つの軸を中心とする回転楕円体である。同様に Ge ではL点近傍に伝導帯の底があり valley 構造は8つの軸を中心とする回転楕円体である。直接遷移形の GaAs ではX点に伝導帯の底があるため valley 構造はΓ点を中心とする球状となる。GaAs で先に述べたL点およびX点の valley 構造はそれぞれ Ge および Si の構造と同様な形状を示す。 図3に示されるような GaAs における複雑な valley 構造は、強電界下での電子のドリフト速度の飽和(GaAsFETの高周波特性と強く関連)や、マイクロ波の発振現象(Gunn 効

    図4 Ge と Si のエネルギー構造(バンドギャップ近傍)

    図3 GaAs のエネルギー構造 (バンドギャップ近傍)

  • 果)を用いた Gunn ダイオードの関連している。Gunn 効果はΓ点の電子が方向に電界により加速され、電子の波数が L 点に達したとき生じる。これはΓ点の電子の有効質量が 0.065mo であったものが、L 点では 0.55mo と重くなり、そのために、L 点の重い電子の遅いドリフト速度に次々L 点に向かう電子が律速される。そのため電子はひと塊になり(ドメインの形成)点の L の点の最も遅い電子の速度で GaAs 中を走行する。このドメインが陰極から陽極に走行する時間の逆数が Gunn 効果における発振周波数になり、これがマイクロ波の周波数となることから Gunn ダイオードはマイクロ波発振器用の半導体素子として用いられている。このよう

    に、半導体のバンド構造はデバイ

    ス設計の指針となることを頭に

    とどめてほしい。 図6に Si 、Ge および GaAs

    の価電子帯頂上付近のエネルギ

    ー構造を示す。価電子帯の上部は

    3つのバンドから成り、エネルギ

    ーの高い2つのバンドはΓ点で

    最大値をとり2重に縮退してい

    る。このうち高い方のバンドを重

    い正孔バンド(heavy hole band)、低い方を軽い正孔バンド(light hole band)とよぶ。これらのバンドより低エネルギーにあるバンドもΓ点で最大値を持つが 0.34eV 低く、上のバンドより有効質量が小さい。このバンドをスプリットオフバンド(split-off band)とよび、上の二つのバンドとのエネルギー差 0.34eVはスピン軌道相互作用(spin-orbit interaction)による。GaAs の価電子帯は主に As の4p軌道からなるが、軌道角運動量Lとスピン角運動量sの相互作用L・sによりエネルギー差が生じる。

    スピン軌道相互作用は原子番号が大きい元

    素では再外殻にある価電子の大きい軌道角

    運動量Lが大きくなるためにスピン軌道相

    互作用は大きくなる。表一に主な半導体の価

    電子帯上部におけるスピン軌道相互作用分

    裂エネルギーΔso(あるいはΔo)を示す。このような価電子帯の構造は、光反射スペク

    トルに反映されており、GaAs の直接遷移エネルギーEo とスプリットオフバンドから伝導帯への遷移Eo+Δ0の遷移による反射率の変化が観測される。さらにエレクトロリフレ

    クタンス法では、この2つの遷移が微分スペ

    図5 Si,Ge および GaAs の伝導体最小付近の等エネルギー面で valley 構造を表現している。

    図6 価電子帯の頂上付近のエネルギー帯

    構造(ダイヤモンド構造およびジンクブレ

    ンド構造)

  • クトルとしてΔ0だけエネルギーが異なる2つの遷移が明瞭に観測される。また、歪により

    価電子帯構造は変化する。一軸性の歪が加わると、Γ点で価電子帯頂上での2重の縮退は

    解け、heavy hole band または light hole band のいずれかのエネルギーが高くなる。light hole band が価電子帯頂上になった場合、正孔の有効質量が小さくなり、正孔移動度が増加する。Si に歪を加えて正孔の有効質量を上げる試みがなされている。また light hole bandの状態密度が小さいため、半導体レーザでは反転分布が起こりやすく、誘導放出のための

    閾値電流が小さくできる。このように歪によりバンド構造を制御することにより半導体デ

    バイスの特性を向上させる試みが行われている。 一方で、静水圧下(圧縮)では直接端のエネルギーが増加する。これと逆に間接遷移の

    エネルギーは低下する。超高静水圧を半導体に加えることにより、直接遷移形半導体を間

    接遷移形半導体にすることも可能である。主な4配位の半導体は超高圧下で相転移を起こ

    し6配位の結晶構造になる。したがって相転移圧以下で静水圧によるバンドギャップのチ

    ューニングが可能である。今日、手のひらサイズのダイヤモンドアンビルセルの発達によ

    り数十 GPa の超高圧を簡単に印加できるようになった。ダイヤモンドの窓を通して発光や光吸収、反射等の光学測定のほか電気測定も可能となってきた。圧力によるバンド構造の

    測定や設計ができることは重要である。 エピタキシャル成長に伴う格子不整合による歪は層の面内で起こるため2軸性の歪であ

    る。2軸性の歪は一軸性の歪と静水圧に分解される。一軸性の歪で縮退が解け、静水圧で

    エネルギーがシフトすると考えてよい。これら二つの歪に対する変形電位を求めておけば、

    ほとんどの格子歪のエネルギー帯に与える影響を考察できる。 ただし、エピタキシャル成長に伴う歪には格子不整合による歪と基板とエピ層の熱膨張

    係数の違いによる熱歪がある。格子不整合歪には臨界膜厚がありこれを超えるとエピ層に

    蓄積した歪が転移の発生により緩和される。臨界膜厚以下で格子不整合歪で格子が歪んで

    いる状態を pseudomorphic という。格子不整合度にもよるが一般的に10nm程度以下の膜厚であれば格子不整合歪を内在した状態がつくられる。こうした格子歪の制御によるエ

    ネルギー帯構造の制御が、超格子構造や量子井戸構造で行われるようになった。また、歪

    超格子構造による格子不整合歪の制御も行われている。

  • バンド計算法 半導体のエネルギーバンドは計算により求められる。高速大容量メモリのコンピュータ

    が容易に入手できる今日ではバンド計算はエネルギーバンドを理解し、未知の物質のエネ

    ルギー帯や安定構造、不純物や格子欠陥レベルおよび生成エネルギー、格子振動スペクト

    ルを求める重要な手段となっている。ここではバンド計算法の分類と手法を簡単に説明す

    る。 まず、バンド計算法は「経験的ハンド計算法」と「非経験的ハンド計算法」に分類され

    る。「経験的ハンド計算法」では、パラメータを実験による遷移エネルギーに合うように調

    整する方法である。ブリルアンゾーン内のバンドを電子 Shrodinger 方程式を解くことにより補完的に求めることにはなるが、半導体のバンド構造がきわめて良く再現でき、実験の

    解析に有用である。また、計算機の負荷が比較的小さく計算が容易である。状態密度(部

    分状態密度)や誘電率の虚部を直接計算できるため非常に有用である。誘電率の虚部スペ

    クトルより吸収係数スペクトルが求められる、またクラマースクローニッヒ変換より誘電

    率の実部のスペクトルが計算される。複素誘電率スペクトルを用いれば、反射スペクトル

    が計算される。 経験的ハンド計算法としては経験的擬ポテンシャル法と強結合近似法の二つが有名であ

    り、前者は平面波で表した電子波を原子が散乱する描像であり、後者では原子軌道の一次

    結合を用いてエネルギーバンドを表現し、これを近接する原子との波動関数間の相互作用

    (重なり積分)で修正する。従って、平面波を用いる経験的擬ポテンシャル法では伝導帯

    の再現性良く、これと逆に原子基底を用いる強結合近似法では価電子帯の再現性が良いが

    伝導帯の記述はあまり良くない。また、経験的擬ポテンシャル法では価電子としてsおよ

    びp関数を平面波として扱う為に局在基底であるd電子を含めることが難しい。強結合近

    似法ではd軌道を容易に取り込むことができるため、遷移金属を含む化合物のバンド計算

    に有用である。「経験的ハンド計算法」は計算機負荷が小さいためにスピン軌道相互作用を

    取り込んだ計算が簡単にできるため実験データの解析には非常に有用であるが、これは次

    に述べる「第一原理計算」では極めて難しい。 「非経験的ハンド計算法」では、原則として実験値を用いること無く計算を行う方法で

    あり「第一原理計算」と呼ばれることが多い。「実験値を用いること無く」であるが、多電

    子系における交換相関エネルギーを求めるために密度汎関数法を用いて、電子密度(電荷

    密度)分布を用いて交換相関エネルギーを求めハミルトニアンを構成する。このためには

    電荷密度分布の初期値が必要なことが多く、そのためにまず経験的バンド計算法で電荷密

    度分布を求めこれを初期の入力とすることが多い。その後、このハミルトニアンから計算

    で電荷密度分布を求めそれを再びに密度汎関数法により交換相関エネルギーを求めハミル

    トニアンを再構成し、これが収束するまで計算を繰り返す。電荷密度が収束し正しい電荷

    密度が求まることが第1の計算プロセスである。次に、収束した電荷密度分布を用いてバ

    ンドや状態密度関数を計算する。密度汎関数法の種類によるが一般的に密度汎関数法に基

  • づく第一原理計算で求められたバンドギャップの値は小さいが、近年改良が加えられ実験

    値に近いものもある。格子定数や体積弾性率は実験値を再現しており、きわめて精度が良

    い。 平面波を基底として用いるノルム保存擬ポテンシャル法やOPW(Orthogonarized

    Plane Wave Method)がある。OPW法では原子軌道と原子間の平面波が直交するように波動関数を決める。これらの方法は半導体への適応性が高く収束も早いことから多くの半

    導体のバンドや安定構造の計算に用いられている。 もう一つの流れに、Slater のAPW法(Augmented Plane Wave Method)がある。AP

    W法ではコア電子も含めた全電子を用いる。原子付近では原子の波動関数と球対称のポテ

    ンシャルを用い、原子と原子の間では一定のポテンシャルを用いて波動関数に平面波を用

    いる。その境界で2つの波動関数を接続する。用いるポテンシャルは Muffin を焼く調理用の鉄板(Muffin –tin)のような形状をしているために Muffin –tin ポテンシャルと呼ばれている。Slater のAPW法は非線形方程式であり数値解を求めるために苦労をする。そのために linearize により数値解を得やすくした linearized-APW法(LAPW法)がある。APW法は、主に金属のような稠密構造を持つ物質に関しては適応性が高い。しかし Si のような原子間距離が大きく(すかすか)共有性の高い半導体への適応は良くない。ポテン

    シャルに自由性を持たせて多くの物質系へ拡張を行って発展形のフルポテンシャルAPW

    (FLAPW)法が開発された。FLAPW法はほぼ全ての物質に適応できるため非常に

    多く使われている。 経験的擬ポテンシャル法 擬ポテンシャル法の基礎は、自由電子に結晶の周期性のみをあてはめて得られるバンド

    構造(無格子帯)にある。自由電子のつくるバンドが、半導体のバンド構造と非常に似通

    っている。たとえば Si は 1s22s22p63s23p2 の電子配置を持つ。これらはコア部[1s22s22p6]と価電子[3s23p2]に分けられる。コアは閉殻であり外部と遮蔽されているので、価電子はほとんどコアの影響を直接受けることが無い。しかし、コアとの境界では価電子の波動関数

    はコアの波動関数と直交していなければならず、価電子波動関数はコアの近くでは激しく

    振動している。このために、波動方程式の解を得ることが難しい。 そこで、コアによる波動関数の振動を取り除いて波動方程式の解を得るために、コアの

    複雑なポテンシャルを価電子に対しては等価なポテンシャルすなわち「擬ポテンシャル」

    で置き換えるという大胆な近似を行う。しかし、価電子波動関数に対してこの置き換えは

    大きな影響を与えない。 計算では、1電子 Schrödinger 方程式を擬ポテンシャルのもとで解く。

    得られた波動関数は擬波動関数と呼ばれる。

  • ここで G は逆格子ベクトルである。 永年方程式は、

    となる。 擬ポテンシャル V(r)の行列要素は、

    VGの行列要素は、フーリエ成分

    で求められる。 原子αの構造因子は、

    と定義される。 擬ポテンシャルは構造因子と形状因子を用いて、

    と表される。 i番目の原子の原子形状因子は、

    であるが、これは次式を用いて4つのパラメータで近似することができる。

  • 擬ポテンシャル法による GaAs のバンド計算 実空間での結晶格子の擬ポテンシャルを Vps(r)する。ここで Rj は基本並進ベクトルであ

    り格子の位置(原点)示し、riは格子内にある原子 i の位置ベクトルである。

    擬ポテンシャル法では、平面波 Kmと Knの間の原子による散乱を考える。ここで q = Km

    -Kn とすれば、散乱に寄与する原子のポテンシャルは平面波の波数の差 q の関数としてVps(q)と示される。これは実空間での原子のポテンシャル Vps(r)のフーリエ変換で与えられ、原子散乱因子と呼ばれる。

    結晶格子はN個の単位胞からなり、単位胞にはL個の原子が存在する。原子iにおけ

    る平面波 Kmと Knの間の原子による散乱ポテンシャル Vpsi(r - Rj -ri)は、単位胞内のL個の原子と結晶格子を構成するN個の単位胞の寄与として次式で与えられる。Rj は基本並進ベクトルであり、riは原子 i の位置ベクトルである。

    上式を変形すると、

  • 従って、複数の原子を含む結晶の擬ポテンシャルはそれぞれの原子散乱因子の寄与として

    次式で与えられる。

    例として単位胞に2個の異なる原子を持つジンクブレンド構造の GaAs をあげる。L=

    2である。単位胞内で原点を Ga 原子と As 原子の中間点である(a/4,a/4,a/4)と選べば、Gaの格子点は rGa=(-a/8,-a/8,-a/8)、As の格子点は rAs=(a/8,a/8,a/8)と表すことができる。τ=(a/8,a/8,a/8)と定義する。GaAs の擬ポテンシャル Vpsnm は、Ga の原子散乱因子 VpsGa(q)と As の原子散乱因子 VpsAs(q)を用いて次式で表すことができる。

  • また、Si のようなダイヤモンド構造を持つ元素半導体では、VpsGa-VpsAs の項がゼロ(VpsSi-VpsSi=0)となり Vpsmnは全て実数となるためハミルトニアンも実数の行列である。

    これを GaAs に適応し、K の値を(000), (-1-1-1), (1-1-1)(-11-1),(-1-11)の5つの平面波に限れば、GaAs の擬ポテンシャルのハミルトニアンは次のように表される。これは複素エルミート行列であることに注意したい。

    また、それぞれの原子散乱因子は a1~a4の4つのパラメータを持つ次式で表す。

    K の波数を持つ平面波を十分多く取り、固有値が平面波数の増加に対して変化しない平面波の数を求めることが必要である。固有値が平面波数に対して収束した平面波数をこれか

    らの計算に用いる。行列計算時間は行列の次元数の3乗に比例して増加するため、計算機

    環境を考慮において目的を達成する平面波数を選択する。また Löwdin の摂動論を用いて、ハミルトニアン行列計算を最小にする工夫が用いられることがある。k を変化させ固有値と固有ベクトルを求める。k に対してエネルギー固有値 E をプロットしてエネルギーバンド図が求められる。ブリルアンゾーンの内部を等間隔に分割し固有値を求め単位エネルギー

    あたりの状態数を計算する事により状態密度が求められる。電荷密度分布 e|Ψ|2 を求めるために固有ベクトルをブリルアンゾーン内の十分多くの点で計算する。このとき価電子

    帯の電荷密度分布を等高線表示しては電子の存在確率を考察する。なお、電荷密度分布を

    求めるための k の値として、スペシャルポイントとして数点での k を用いることが多く行われる。価電子帯から伝導帯への光学遷移に関しては、価電子帯の波動関数と伝導帯の波

    動関数を用いて遷移確率を計算する。この結果より誘電関数の虚部ε2 が求められる。ε2

    をもとに光吸収係数スペクトル、ε2 をK-K変換してε1 を求め、複素誘電率より光反射

    率スペクトルが計算される。この場合、光の偏光を考慮して選択則に基づく、光吸収係数

    スペクトルや光反射率スペクトルを計算により求めることができるために、異方性を持つ

    結晶に対して、これらの計算は有用である。

  • 2.半導体のエネルギーバンド構造と光物性 半導体のエネルギーバンド構造は多様な光物性と密接に関係している。また、光デバイ

    スは光物性を応用してデバイス化したものであるので、バンド構造と光物性の関係を整理

    しておくことは新しいデバイス研究に重要である。ここでは、まず前節の図1や図2で説

    明した広いエネルギー範囲でのバンド構造がどのように光物性に反映されるかを概説する。 2.1光吸収係数スペクトル 半導体の基礎吸収に関してはすでに説明した。ここでは多数の価電子帯を形成する価電子

    バンドと同様に多数の伝導バンドの光学遷移を考慮した広いエネルギー領域での光吸収の

    説明を行う。図2-1に Si,Ge および GaAs の光吸収スペクトルを示す。 Ge を一例として説明する。Ge は

    室温のバンドギャップが0.66 eVの間接遷移形半導体である。これは、

    Γ8 価電子帯からL6伝導帯のエネ

    ルギー差が0.66 eVであることである。Ge の特徴として、L6伝導体から約 0.15eV 高エネルギーにΓ7伝導帯があり、Γ8→Γ7の遷移エネル

    ギーが 0.80 eV である。光吸収係数スペクトルは 0.66 eV から 0.80 eVまでは間接遷移の光吸収を示すが、

    0.80 eV 以上では直接遷移の吸収を示す。もっぱらΓ8 価電子帯→L6

    伝導帯の遷移も0.80 eV以上では直接遷移の吸収と重畳しているが、間

    接遷移の遷移確率は直接遷移のものと比較して2桁以上小さい為これによるΓ8→Γ7直接

    基礎吸収係数への影響は小さい。エネルギーをあげていくと次に 3 eV 付近にΓ8→Γ7遷移があり、これによる直接吸収が大きく影響して図4では 3 eV 前から吸収係数の増加の割合が増加する。従って Ge は間接遷移形半導体といえども、間接遷移の特徴は基礎吸収端付近のみであらわれ、広いスペクトル範囲での光吸収係数はあたかも直接遷移形半導体と同

    様な傾向を示すことに注意したい。また、スプリットオフバンドからの遷移も無視できな

    い。 次に、Si の考察を行う

    Si のバンドギャップはΓ25価電子帯とΔ線の中間付近の伝導帯最小点の差であり 1.11eVである。従って Ge と同様に基礎吸収端には間接遷移の特徴が現れる。Si が Ge と大きく異なる点は、Γ15 伝導帯がΔ線における伝導帯最小点のエネルギーより 1.5eV 高エネルギー大きく離れていることである。従って、Si での直接吸収は約3eV から始まる。Si は約 1.5eV

    図2-1 Si,Ge および GaAs の光吸収スペクトル

  • という広い間接遷移領域を持つことになり、1~2.5eV の範囲の光吸収係数が非常に小さいことが特徴である。Si を太陽電池として利用する場合は、この小さい光吸収係数の為に、太陽光を十分に吸収して光励起キャリアを発生されるには最低で 0.2mm厚のバルク結晶が必要とされている。 混晶半導体 3元混晶半導体の格子定数とバンド構造 GaAs と InAs の混晶である Ga1-xInxAs はⅢ族元素が混合する混晶半導体である。ここで xは混晶組成であり 0≦x≦1 の値をとる。 GaAs と GaP の混晶:GaAs1-yPy はⅤ族元素が混合する混晶半導体である。ここで yは混晶組成であり 0≦y≦1 の値をとる。 いずれの混晶においても混晶組成によりバンドギャップと格子定数が同時に変化する。格

    子定数は混晶組成にともなって直線的に変化することが知られている。これを Vegard 則という。また、バンド構造は Ga1-xInxAs では全ての混晶組成で直接遷移形である。図4にGa1-xInxAs のバンドギャップの混晶組成依存性を示す。バンドギャップは直線的に変化するのではなく、混晶組成に対して下に凸の二次関数的に変化している。これをバンドギャ

    ップボーイングという。ボーイングとは弓なりのことを意味する。バンドギャップを2次

    関数で表した場合、二次の係数をボーイングパラメータ(単位は eV)とよぶ。GaAs1-yPy 混晶では GaAs に近い組成では直接遷移であるが GaP に近い組成では間接遷移である。図5に GaAs1-yPyのバンドギャップとバンド構造の混晶組成依存性を示す。これは、直接バンドギャップと間接バンドギャップの混晶依

    存性が異なるためであり、前者の組成に対す

    る変化が大きいことに対して後者の変化は

    小さい。GaAs と GaP の中間付近で直接バンドギャップと間接バンドギャップが交差

    する。これをクロスオーバーという。 3元混晶半導体ではバンドギャップと格子

    定数を独立に変化させることは不可能であ

    る。

    図5 GaAs1-yPyのバンドギャップとバンド構造の混晶組成依存性

  • 4元混晶半導体の格子定数とバンド構造 混晶半導体を4元にすることにより2つの物性

    パラメータを独立に変化させることが可能とな

    る。バンドギャップと格子定数、屈折率と格子

    定数を独立に変化させるなどの例が上げられる。

    最も有名な4元混晶半導体は In1-xGaxAs1-yPy である。In1-xGaxAs1-yPy 混晶半導体は InAs、GaAs、InP および GaP の4つのⅢ-Ⅴ化合物の混晶半導体と考えることができる。2つのパラメータであるxおよびyの混晶組成により物性を変化できる。従って、基板との格子

    整合条件下でバンドギャップを可変できることを示している。図6に In1-xGaxAs1-yPy 混晶半導体のバンドギャップと格子定数の関係を示す。図中で4つの化合物を頂点とする閉ル

    ープ内の組成をとることができる。ほとんどの組成は直接遷移形であるが、GaP の近くの混晶は間接遷移をとる。光通信用赤外半導体レーザや光検出器応用として InP 基板に格子整合した In1-xGaxAs1-yPy混晶半導体が用いられている。図6中で InP と In0.53Ga0.47As を結ぶ垂直の点線のバンドギャップ(0.7-1.32eV)を持つ混晶半導体が成長可能である。また、GaAs を基板に用いた場合、GaAs (1.43eV)と In0.49Ga0.51P(1.9eV)を結ぶ垂直の点線のバンドギャップをとることができる。In0.49Ga0.51P は直接遷移形半導体で GaAs に格子整合できる最も大きなバンドギャップ(1.9eV)を持つ為、赤色の可視光半導体レーザの活性層に用いられている。

    図7にⅢ -Ⅴ混晶半導体のバンドギャップと格子定数の関係を示す。これには In1-xGaxAs1-yPy 混晶半導体の他に In1-xGaxAs1-ySby 混晶半導体 Al1-xGaxAs1-ySby 混晶半導体が含まれている。Sb を含む混晶半導体の格子定数は大きい。また、GaSb を基板に用いることにより、格子整合系の In1-xGaxAs1-ySbyおよび Al1-xGaxAs1-ySby混晶半導体が成長で

    図4 Ga1-xInxAs のバンドギャップの混晶組成依存性

    図6 In1-xGaxAs1-yPy 混晶半導体のバンドギャップと格子定数の関係(左図)、および混晶組成x、yに対するバンドギャップの関係(右図)

  • き、近赤外領域の波長をカバーする光デバイスが作製できることを示している。

    AlxGa1-xAs 混晶半導体 非常に特殊な3元混晶半導体である。AlAs

    の格子定数 5.661Åが GaAs の格子定数 5.654Åと非常に近いことが最大の特徴であり、

    AlAs と GaAs の格子不整合はΔa/a≒0.1%と非常に小さい。これは GaAs 基板上に任意の混晶組成の AlxGa1-xAs がエピタキシャル成長可能であることを示す。図8に AlxGa1-xAs 混晶半導体の混晶組成xに対するバンドギャップの関係を示す。0

  • ることで屈折率差による光の閉じ込めが可能であることがわかる。

  • 混晶半導体の混合不安定領域 miscibility gap 混晶半導体 AxB1-x の自由エネルギーG は混合のエントロピーと混合エンタルピーの和で表される。

    G=H-TS G=RT{x ln x +(1-x) ln (1-x)} + x (1-x)WAB

    ここで、WABは相互作用パラメータである。 図10に混晶 AxB1-x の自由エネルギーを混晶組成xに対して示す。混合のエントロピーを S=R{x ln x +(1-x) ln (1-x)}とすれば、-TSは下に凸の曲線である。混合のエンタルピーは、

    H=x (1-x)WABと上に凸の2次曲線である。自由エネルギーGはこの2つの曲線の和で表さ

    れるが、関数の性質から x=0,1の組成では混合のエントロピーの項が支配的であり、G は強く負にふれる。一方で x=0.5 付近の組成では混合のエンタルピーの項が強くきいて自由エネ

    ルギーは上に凸の形状を示す。従って自由エネ

    ルギーは図10に示すように2つの極小点を

    持つことがわかる。このことは x=0.5 付近の組成を持つ混晶は自由エネルギーが高く不安定

    であり、図10に示す P1 および P2 の2つの組成に分離する方が安定である。このような相分

    離をスピノーダル分解とよぶ。従って、全ての

    組成領域が安定であるとは限らない。このよう

    な相分離を生じる組成は混合不安定領域

    (immiscible region)あるいはミッシビリティーギャップ(miscibility gap)と呼ばれている。ここで、安定領域と準安定領域の境界組成をバイノ

    ーダル、準安定領域と不安定領域の境界組成を

    スピノーダルと定義されている。直感的には液

    相と固相の熱平衡の考察より、液相の組成に対

    してこれと平衡する固相の組成が存在しない領

    域が混合不安定領域である。具体的には液相組

    成に対する固相組成を計算機により計算すると、混合不安定領域では解が存在しないため

    計算プログラムは結果としてエラーを出力する。実際のエピタキシャル成長(液相エピタ

    図 1 2 GaAs に 格 子 整 合 し たIn1-xGaxAs1-yPy 混晶半導体の混合不安定領域 Obane の理論で計算。

    図11 In1-xGaxAs1-yPy 混晶半導体の混合不安定領域 (Spinodal)。de Cremoux

    図10 混晶 AxB1-xの自由エネルギー

  • キシャル法)では基板が存在するために、基板とエピタキシャル層の歪のエネルギーによ

    り結晶は成長する。しかし、混合不安定領域では結晶性の低下や成長速度の著しい低下が

    みられる。この効果は成長温度が低いほど顕著であり、混合不安定領域は広い。すなわち

    結晶成長温度が低いと2つの混晶組成に分離する傾向が強くなる。高温成長では混合のエ

    ントロピーの自由エネルギーへの寄与が大きくなるため混合不安定領域は狭くなりイミッ

    シビリティーは小さくなる。III-V 化合物の4元 In1-xGaxAs1-yPy混晶半導体に関する混合不安定性は de Cremoux により最初に指摘され、その後大きな問題となった。図11に de Cremoux が計算した In1-xGaxAs1-yPy混晶半導体の混合不安定領域(スピノーダル)の計算結果を示す。In1-xGaxAs1-yPyの混合不安定領域は広く、InP および GaAs 基板に格子整合した組成の広い領域が混合不安定である。また、

    Obane の 理 論 を 用 い て 筆 者 が 計 算 し たIn1-xGaxAs1-yPy 混晶半導体の混合不安定領域(成長温度820℃)の計算結果を図12に示す。de Cremoux の計算結果と比べると混合不安定領域は狭いが GaAs に格子整合する組成の一部がバイノーダル内にあることがわかる。実際の組成で液

    相エピタキシャル成長した結晶の結晶性をフォト

    ルミネッセンス法で評価した結果、バンド端発光

    の半値幅が非常に大きくなることや深い欠陥レベ

    図14 InGaAsP 系での組成変調構造

    図13 InP基板上にLPE法で成長した InGaAsP の膜厚の組成依存性。

  • に起因する発光がみられるなど、結晶性が非常に

    低下している。また、 InP に格子整合するIn1-xGaxAs1-yPy 混晶半導体は光通信用デバイス材料として用いられているが、600℃の成長温度

    では混合不安定領域に組成がある場合があり、結

    晶性の低下の問題があった。図13に混晶組成に

    対する成長膜厚を示す。非混和領域で成長速度が

    著しく低下している。また図14に InGaAsP 系での組成変調構造の結果の一例を示す。 図15に InGaAsP/GaAsの 77KでのPLスペク

    トトルを示す。上図は非混和域外(図 12 のバイノーダル外)である In0.49Ga0.51As0.04P0.96 および図12 のバイノーダル内の組成 InGaAs0.3P0.7のフォトルミネッセンス(PL)スペクトル(77K)を示 す 。 InGaAsP は LPE 成 長 800 ℃ でGaAs(100)基板上に成長したものである。In0.49Ga0.51As0.04P0.96 はバンド端発光を示し半値幅は 12meV とバンド間遷移あるいはバンドと浅い不純物間の遷移による発光の半値幅の

    理論値 1.8kT と同程度であり、非混和性の影響はみられない。しかし In0.49Ga0.51As0.04P0.96の組成は図11で示す de Cremouxの非混和性の図からスピノーダルの中にある。また成長速度

    低下もみられない。従って、この実験結果は

    Onabe の理論で計算した図12と矛盾していない。InGaAs0.3P0.7は 1.75eV のブロードなバンド端発光と 1.55eV のやや深い準位の発光を示す。バ ン ド 端 発 光 は 半 値 幅 50mV とIn0.49Ga0.51As0.04P0.96 での半値幅 12meV と比べて4倍以上である。1.55eV の発光(深さ約 0.2eV)の発光は、欠陥準位によるものと思われる。

    InGaAs0.3P0.7 は非混和性の影響を受けていると思われる。 図16に InGaAsP/GaAs の 77K でのバンド端

    発光の半値幅の混晶組成依存性を示す。As 組成 yが上昇するにつれて半値幅は増加し、バイノーダルの中程で最大値 55meV をとる。y>0.45

    図17 InGaAsP/GaAs の 77K での深いレベルの発光強度の混晶組成依存性

    図16 InGaAsP/GaAs の 77K でのバンド端発光の半値幅の混晶組成依存性

    図15 InGaAsP/GaAs の 77K での PL スペクトトル

  • のバイノーダル外の組成では半値幅は急激に減少する。 図17に InGaAsP/GaAs の 77K での深いレベルの発光強度の混晶組成依存性を示す。y

    の増加に伴い深いレベルの発光強度が増加しバイノーダルの中程で最大値をとる。y>0.45のバイノーダル外の組成では発光は見られなくなる。この傾向は半値幅と同様であり、

    0

  • 1Onabe のアプローチ NECの Onabe は4元混晶の非混和性を取り扱うために、混合エンタルピー項に4元の相互作用パラメータを定義して、非混和性の取り扱いを容易にした。 IIIA-IIIB-VC-VD形の4元混晶のスピノーダル等温線は、

    [{RT-2(1-x)x(1-y)αAC-BC + yαAD-BD}] • [{RT-2(1-y)y(1-x) αAC-AD + xαBC-BD}] -(1-x)x(1-y)y(ωQ + αQ)2 = 0

    で与えられる。ωQはおよびαQは4元系の相互作用パラメータであり、以下に定義される。 ωQ = ωAC - ωAD - ωBC + ωBD αQ = (1-2x)( αAD-BD - αAC-BC)+(1-2y)( αBC-BD -αAC-AD)

    ここでωAC等は2元系における最近接および第二近接の相互作用エネルギーの和である。 αAD-BD 等の3元系の相互作用パラメータは DLP モデルで見積もることができ、αQ はこれらより求められる。ところでωQ を求めるには次式を用いる。

    αQ =-ΔSACF(TACF-T) + ΔSADF(TADF-T) + ΔSBCF(TBCF-T) -ΔSBDF(TBDF-T) + 1/2 (αACL -αADL -αBCL + αBDL)

    ここで、ΔSFと TFはそれぞれ2元系の溶解のエントロピーおよび温度である。αL は液相での相互作用パラメータである。 Stringfellow のアプローチ Stringfellow, G. B. は混合のエンタルピーが混晶を構成する化合物半導体の格子定数差と大きな相関があることを見いだした。すなわち格子定数の大きく異なる化合物間の混晶

    の混合のエンタルピーは大きく、従って非混和性は大きい。これをデルタラティスパラメ

    ータモデル(DLPモデル)という。固相の1モルあたりの自由エネルギーはDLPモデ

    ルでは、 Gs = -K•ao-2.5 + RT [x ln x + (1-x) ln (1-x) + y ln y + (1-y) ln (1-y)]

    ここで、Kは経験的に求められた定数で、1.15 x 107 cal/mole Å2.5 である。第一項は固相のエンタルピーであり ao は格子定数である。第2項は混合のエントロピーである。格子定数 aoは Vegard 則より求められる。

    ao = xyaAC + (1-x)yaBC + x(1-y)aAD + (1-y)(1-x)aBD ao を x および y で微分した値はスピノーダルの計算に用いられるので次に整理して示す。

    ∂ao/∂x = ΔaA + D(y - 1/2) ∂ao/∂y = ΔaC + D(x - 1/2)

    ここで、 ΔaA = (aAD -aBD + aAC – aBC)/2 ΔaC = (aBC -aBD + aAC – aAD)/2 D = aAC -aBC – aAC + aBD

    である。