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Contents

キヤノンを支える技術力………………………………………………………… 3

特集1世界最大級の図書館を見守るネットワークカメラ ………………… 5

特集2世界遺産を4Kで撮る、4Kで遺す …………………………………… 11

最先端CMOSセンサー …………………………………………………… 15

Special Report 1 Canon EXPO 2015 Tokyo…………………………………… 17

産業の革新を支えるために商業・産業印刷 ………………………………………………………… 19

質感取得・プリント技術 ……………………………………………… 21

3Dマシンビジョン ……………………………………………………… 23

ナノインプリントリソグラフィ …………………………………………… 25

Mixed Reality …………………………………………………………… 27

バイオメディカル ………………………………………………………… 29

Special Report 2 Canon EXPO 2015 New York / Paris ……………………… 31

未来を拓くイノベーション綴プロジェクト ………………………………………………………… 33

宇宙の謎の解明に貢献 ………………………………………………… 35

材料研究 ………………………………………………………………… 37

Canon Design …………………………………………………………… 39

知的財産活動 …………………………………………………………… 43

グローバル研究開発 …………………………………………………… 45

表紙についてマウリッツハイス王立美術館(オランダ)所蔵のヨハネス フェルメール「真珠の耳飾りの少女」の複製。キヤノンの質感取得・画像処理技術とオセの UV硬化型プリンターを用いた隆起印刷技術により、実物の油彩画の凹凸や光沢、色を忠実に再現している。

THE CANON FRONTIER 2016

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新しい夢は新しい技術によって創造されます。キヤノンは「技術優先」を企業DNAに、さ

まざまなアイデアや技術を融合することで、これまでなかった新しい価値を生み出して

きました。その驚きと感動のテクノロジーの源泉には、限界突破に挑む開発者の情熱とイ

マジネーションがあります。キヤノンは未踏の分野に挑み、技術イノベーションを起こす

ことで、世界中の人々のより豊かな暮らしの実現をめざします。

イノベーションを起こそう新しいことを生み出そう

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3 THE CANON FRONTIER 2016 THE CANON FRONTIER 2016

暮らしやビジネス、産業の発展を支える革新のテクノロジーキヤノンを支える技術力

デジタル一眼レフカメラ

生産システム組立技術

計測・検査技術加工技術

プロセス・装置技術自動化

撮像素子表示素子微細化MEMS

光学設計光計測光学素子光学理論光学解析

光学材料トナー・インク電子材料

医療・バイオ材料高機能材料ナノ材料

OS・ミドルウエアIP

コントローラークラウドLSI・PKG基板通信技術

生産技術

光学技術

材料技術

デバイス技術

プリント技術

ソフト&ハードエンジニアリング

コンパクトフォトプリンター

イメージスキャナー

コンパクトデジタルカメラ

プロ用インクジェットプリンター

プロ用デジタル一眼レフカメラ 眼科機器

デジタルシネマカメラ

デジタルラジオグラフィ

放送機器

コネクトステーション

交換レンズ

インクジェットプリンター

業務用ディスプレイ

Home

業務用デジタルビデオカメラ

Professional

デジタルビデオカメラ

ミラーレスカメラ

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THE CANON FRONTIER 2016 4THE CANON FRONTIER 2016

キヤノンの革新的なテクノロジーの源流をたどると、70余年の歴史に流れる「技術優先」という企業DNAに行き着きます。長年培ってきた独自のコア技術は、光学技術、映像画像通信技術など8つの研究開発分野を創出し、プロフェッショナルからホーム、オフィス、インダストリーといった4つの分野でさまざまな事業を展開しています。世界や日本で、これまでなかった新しい価値を創造するために、キヤノンは開発者の創造力とコア技術を融合し、オンリーワンの新技術と新製品の開発をめざします。

生産システム組立技術

計測・検査技術加工技術

プロセス・装置技術自動化

撮像素子表示素子微細化MEMS

光学設計光計測光学素子光学理論光学解析

画像形成プロセスモジュール・システム最適設計

機械設計機械制御

精密機器駆動・制御メカトロデバイス

高画質化処理画像加工・編集画像符号化画像情報処理

生産技術

光学技術

デバイス技術

プリント技術

映像画像通信技術

機械・制御技術

3Dマシンビジョンシステム

産業用カメラ

ネットワークカメラ

半導体露光装置

カラーラベル/カラーカードプリンター

業務用フォトプリンター

業務用高速・連帳プリンター

ダイボンダー

マルチメディアプロジェクター

トナーカートリッジ

クラウド型ドキュメントサービス

レーザー複合機

ビジネスインクジェットプリンター

大判インクジェットプリンター

レーザープリンター

ファクス

オフィス向け複合機

ドキュメントスキャナー

FPD(フラットパネルディスプレイ)露光装置

有機ELディスプレイ製造装置コンポーネント

電卓

ソリューションソフト

コア技術

真空成膜装置

Office

IndustryMRシステム

研究開発分野

多目的カメラ

デジタルプロダクションプリンティングシステム

ハンディターミナル

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5 THE CANON FRONTIER 2016 THE CANON FRONTIER 2016

次世代へつなげる貴重なコレクション━━━━大英図書館は新聞や雑誌のほか、描画や地図、原稿や楽譜など、1億5,000万点を超える膨大なコレクションを収蔵しています。 貴重な資産を守るために、これらの蔵書は厳しく管理され、閲覧室では飲食が禁止されているのはもちろんのこと、ペンの使用さえも禁じられています。さらに大英図書館では、コレクションの保護だけでなく、館内の公共スペースや売店・レストランなどの防犯・治安維持を目的に、1997年から監視カメラを導入し、セキュリティシステムを充実させてきました。 当初設置されたアナログカメラは250台。長年にわたる運用から、その多くは寿命をむかえていました。そこで大英図書館は、デジタルカメラとその記録システムがもたらす高いセキュリティ機能に着目し、最先端のセキュリティシステムの検討を開始しました。

セキュリティシステムを刷新━━━━アナログの録画システムをデジタルに変えるだけでは、長期的な安心・安全を保証することはできません。2012年、大英図書館はアクセス制御システムや侵入警報装置の連携を含む、セキュリティシステム全体を見直す5カ年計画を立案。すべてのネットワークカメラの入れ替えをスタートしました。システムの完全移行までに5年の時間をかけて、図書館業務の中断を最小限に抑えています。 この改革の最大のポイントは、ネットワークカメラの性能でした。大英図書館では多くのメーカーのカメラを調査・検討し、キヤノンのフルHDネットワークカメラの導入を決定しました。高性能なキヤノンのカメラに切り替えることで1台のカメラで見える範囲が広がり、従来に比べてエリア内への設置台数を削減するなど、運用費用の抑制にもつながりました。

特集1

世界最大級の図書館を見守るネットワークカメラ年間160万人が訪れ、世界最大級のコレクションを持つ大英図書館。書籍の盗難や破損といった被害や犯罪に対処するため、セキュリティシステムのリニューアルに取り組んでいます。最先端のネットワークカメラで世界市場に挑むキヤノンは、この大改革に取り組む大英図書館をフルサポートしています。

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THE CANON FRONTIER 2016 6THE CANON FRONTIER 2016

大英図書館(The British Library)とは

左と右上:キヤノンのネットワークカメラが見守る大英図書館。ジョージ3世収集のコレクションが収められている「キングスライブラリー」右中:大英図書館で展示されているマグナカルタ(大憲章) 右下:地図閲覧室

大英図書館は英国の国立図書館で、世界的な研究図書館の一つです。学術、ビジネス、研究、科学分野のコミュニティに向けて世界規模の情報サービスを提供しています。250年以上にわたり蓄積された所蔵コレクションは1億5,000万点以上。世界中の主な言語の書籍や雑誌のほか、原稿、地図、切手、楽譜、特許品、新聞、音楽録音資料なども保管しています。図書館のウェブサイト(www.bl.uk)利用者は年間約1,000万人にのぼり、400

万点、4,000万ページ以上のデジタル化されたコレクションの閲覧が可能です。

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7 THE CANON FRONTIER 2016 THE CANON FRONTIER 2016

文化的遺産と利用者の安全を見守るために━━━━国立である大英図書館には、数多くのカメラの映像を長期にわたり記録し続けることが求められています。重大な事件が発生した際、警察が迅速に行動するために、すべての映像を瞬時に提供する必要があるからです。キヤノンのネットワークカメラはノイズ低減に優れた高性能なイメージセンサーにより、鮮明な画像を生成できるうえ、データの帯域幅やストレージの容量も節約が可能です。それにより少ない電力と、かつ低コストで長期間の映像保管にも貢献しています。 大英図書館のセキュリティシステムは、計画開始から約1年を経て、50台以上の新しいキヤノン製品に置き替わりました。2016年には、カメラの総数は約400台に増加し、そのすべてがネットワークカメラに移行される計画です。 大英図書館は、図書館の安全保護対策のあり方に革命を起こしました。かけがえのないコレクションを次世代に遺すという使命に、キヤノンはネットワークカメラの技術力で応えています。

大英図書館の多くの要望に応える━━━━セキュリティシステムを刷新するにあたり、最もチャレンジングだったのが、2015年に英国の歴史的建造物に認定されたセントパンクラス本館へのカメラの設置でした。図書館の改装は困難であり、壁にカメラを取り付けることができなくなりましたが、キヤノンのネットワークカメラは高い天井へ取り付けても明瞭で高精細な映像を提供することができました。 高画質のみならず、カメラから映像データを録画システムなどへ転送する際の画像圧縮技術のほか、館内を見渡すことができるパン・チルト・ズーム(PTZ)機能や超広視野角、イーサーネット通信ケーブル経由の電源供給(PoE)など、さまざまな機能を持っていたこともキヤノンのネットワークカメラの採用につながりました。 図書館へ導入される際の標準機となったネットワークカメラ「VB-

H610D」は、フルHD解像度(動画の解像度1920×1080)で、かつ112°の広視野角撮影が可能です。高解像度で広視野角なカメラは、部屋を広くはっきりと見渡せることから、従来に比べ単に台数を抑えるだけでなく、カメラの数が多いほど複雑になるケーブル配線や設置作業、データのストレージに必要なメモリー容量の削減、メンテナンスコストなどの低減にも結びついています。 閲覧室において、最も貴重な書籍を守るために活躍するのが「VB-

H41」です。光学20倍ズーム付きフルHD、PTZ機能を持つこのカメラは、部屋の四隅などの低照度環境でもカラー撮影が可能です。また、人物や物体の動きを検知する機能を備え、あらかじめ設定された検知エリアの範囲内で物体の動きが検知されると、同時にカメラが録画を開始し、盗難や破損といった脅威を確認することに適しています。

マグナカルタなど歴史的な遺産を展示する「ジョン リトブラットギャラリー」

図書館内の「パッカーギャラリー」では西アフリカに関する資料を展示

ネットワークカメラが見守る大閲覧室

大英図書館に導入されているキヤノンのネットワークカメラ左から「VB-H610D」「VB-H41」

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THE CANON FRONTIER 2016 8THE CANON FRONTIER 2016

高機能でフレキシブルなセキュリティシステムを実現するためにキヤノンは優れた製品と先進技術を提供してくれました。

特集1 世界最大級の図書館を見守るネットワークカメラ

大英図書館 セキュリティシステム運用管理者左からバヌ ゴウドさん リック マイヤーさん

8THE CANON FRONTIER 2016

吹き抜けの開放的なエントランスホール 誰もが自由に利用できるショップは観光客にも人気

モニタールームでは図書館の安心・安全を見守るイングランド中部にあるボストンスパ館の資料閲覧室

©Kippa Matthews

大英図書館インタビュー

大英図書館にはあらゆる年齢層の利用者や観光客が訪れます。ロンドンの主な公共の場所と同様、セキュリティは私たちが対応すべき課題であり、今やネットワークカメラは図書館の利用者の安全確保には必須です。 新しいカメラを選択する際に、私たちは他のメーカーの製品も検討しましたが、キヤノンを採用した大きな理由は、求めていた品質と性能を競争力のある価格で提供してくれたからです。初めてモニターで見たキヤノンのネットワークカメラの映像は、非常に高精細で素晴らしいものでした。フルHD画像を6Mbps(bps:1秒ごとのデータ伝送速度)にまで圧縮しても、画質が劣化することはありませんでした。全体的にクオリティの高い映像で、特に展示スペースの薄暗い低照度の環境で本領を発揮してくれています。 今回、キヤノンと映像録画システム会社のテクトン社との間で、映像の記録・配信を連携することが必要となりましたが、キヤノンのテクニカルサポートチームは迅速に対応してくれました。途中過程で発生したどんなささいな問題にも前向きに取り組み、解決してくれたのです。最高レベルのサポートをしてくれたと思っています。 大英図書館は犯罪発生率が低い安全な場所ですが、犯罪などの脅威は日々変化しているため、ネットワークカメラはさらなる柔軟性と順応性を備える必要があります。今後、映像解析の活用を含

め、キヤノン製品によって完全にデジタル化されたセキュリティシステムを構築することで、さらに高いレベルの安全性を保持できると期待しています。

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9 THE CANON FRONTIER 2016 THE CANON FRONTIER 2016

全世界的な防犯意識の高まりとアナログカメラからの買い替え需要が進み、世界のデジタルネットワークカメラ市場は急激に拡大しています。安心・安全を支えるキヤノンのネットワークカメラは、さまざまな用途に適したラインアップをもとにビジネスの拡大を進めています。

高画質を強みに、ネットワークカメラの用途を広げる━━━━ネットワークカメラを中核に、クラウドサービスや画像解析などを組み合わせたシステム全体をNVS(ネットワークビジュアルソリューション)と呼んでいます。キヤノンはこれまで培ってきた光学系、撮像センサー、映像エンジン、映像解析ソフトウエアなどのカメラのコア技術に加え、事務機システムで育てたネットワーク制御やクラウドサービスを強みに、防犯・監視用途だけでなく映像のビッグデータを活用したソリューションビジネスをめざしています。 たとえば、ネットワークカメラに搭載した多人数追尾技術により、人の性別・年齢を推測しながら、人数や人の移動の軌跡を検知することで、混雑具合の把握などが可能になります。高度な映像解析を応用して、流通や観光業でのマーケティング活用へと用途を広げています。

光学・映像技術を基盤にソリューションビジネスへ

業界トップ企業と提携。革新的な製品づくりで世界トップをめざす━━━━市場が急成長するなか、キヤノンはネットワークカメラ事業を有望な新規事業の一つととらえ、ネットワークカメラのグローバルリーダーであるアクシスコミュニケーションズ社*とビデオ管理ソフト最大手のマイルストーンシステムズ社*をそれぞれキヤノングループへ迎え入れました。 キヤノンの優れたイメージング技術と業界トップとの技術連携により、革新的で高性能なネットワークビジュアルソリューションを提供します。

用 解語 説

アクシスコミュニケーションズ社(スウェーデン)卓越したネットワーク映像処理技術を有するセキュリティカメラ事業のグローバルNo. 1企業

マイルストーンシステムズ社(デンマーク)IPビデオ管理ソフトや監視ソリューションの世界的リーダー。高速ビデオレコーディングとその管理技術を提供している

IK10

CE(ヨーロッパ規格)EN50102に準じた電子機器に対する外部からの耐衝撃保護に関する規格

夜間でも遠距離でも、優れた視認性を発揮する高感度ネットワークカメラの開発

キヤノンは肉眼では見えにくい夜間でも、遠距離の被写体をカラーで鮮明にとらえる小型で高感度のネットワークカメラを開発しています。大口径レンズと高感度センサー、高性能映像エンジンの組み合わせにより、月明かり程度の明るさに相当する0.08luxという暗い環境下でも、100m先の人物の顔をカラーで認識可能。2016年に製品化する予定です。

開発中の高感度ネットワークカメラ肉眼で見た場合(右)とネットワークカメラで撮影した映像(左)の違い

VB-M741LE /VB-M740E

VB-R11 VB-M641VE /VB-M640VE

イメージング技術で高画質を実現するネットワークカメラ

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THE CANON FRONTIER 2016 10THE CANON FRONTIER 2016

不審者を常に画面の中央付近でとらえ続ける

「VB-R11VE」に携わる開発者エンドレス回転、なめらかな加減速、高いハードルを設定━━━━開発陣がめざしたのは、キヤノンならではの高画質や低照度撮影は当然ながら、最高水準の旋回精度、耐久性、設置性です。 まず、開発の大きな課題として挙げられるのがカメラの360°フル旋回機構です。レンズ部分と本体をつなぐ信号線はフル旋回してもねじれが起きないよう、スリップリングという機構を採用。開発者は撮像部分を目標耐久回数の倍以上回転させることで、回転摩擦が起きても正しく信号を渡すことができるか、性能の検証を繰り返しました。

衝撃に強く、過酷な環境に耐えるカメラが生まれた━━━━屋外向け全天候型ネットワークカメラにとって、製品の高耐久性・高耐候性は重要な特長です。「VB-R11VE」は -50℃~ 55℃と非常に広い温度範囲で作動するよう設計していますが、ここまでの温度変化に耐える製品づくりはキヤノンでも前例がなく、大きなチャレンジでした。 開発を進める途中で米国のシステムインテグレーターに対し調査を行うと、米国の市場ではいたずらやカメラ本体への故意の破壊行為に対する耐衝撃性が強く求められていることを知りました。急遽、衝撃を吸収する構造に設計を変更し、製品のあらゆるところに5kgの鉄球を落下させ、耐衝撃性能を向上させました。

レンズ、センサー、画像処理技術を高めて画質を極める━━━━「VB-R11VE」は高い低照度性能を発揮しますが、大きくカギを握るのはレンズとCMOSセンサー、画像処理技術です。レンズは絞り値がF1.4

という明るいレンズを採用。光量を多く取り入れるとレンズ径が大きくなってしまうため、レンズ構成を工夫し、大口径化と小型化、高性能化を実現しています。 また、ノイズ特性に優れた1.3Mピクセルの高感度CMOSセンサーにより、照度差がある被写体でも、明るさを保って撮影できるよう補正しています。さらに画像処理では、デジタルビデオカメラで培った技術を応用し、コントラストとノイズのバランスが取れた、ネットワークカメラならではの画づくりを追求しています。

技術進化が映し出すネットワークカメラの未来━━━━「VB-R11VE」には、モニタリングを補助するさまざまなインテリジェント機能を搭載しています。自動追尾機能も新規に搭載し、光学30

倍と高倍率でも追尾を続けられるように、被写体がどれほど移動したらカメラを動かすのか、また、動かしすぎて違和感が出ないよう、滑らかに追尾するバランスを検討しました。 数多くの新技術を搭載した「VB-R11VE」。開発者たちのアイデアと技術力により、今後、複合機との融合や4K画像の追求など、進化したネットワークカメラが登場するでしょう。より安全で豊かな社会に役立つために、キヤノンの開発は続きます。

キヤノン初、360°フル旋回への挑戦

●自動追尾機能のイメージ

「VB-R11VE」は、風雨や寒暖差がある過酷な環境にも耐えられる屋外向けのネットワークカメラです。フレキシブルな可動域を持ち、広大な範囲を1台で撮影することができます。徹底して高性能を追求し続けてきた開発者たちの技術へのこだわりをご紹介します。

耐衝撃性試験(IK10*)40cmの高さから落ちる5kgの物体の衝撃に耐える

※詳細はウェブへ canon.jp/technology

特集1 世界最大級の図書館を見守るネットワークカメラ

新製品ネットワークカメラ「VB-R11VE」開発ストーリー

動体検知

アラート

自動追尾

パン/チルト/ズーム動作によって検知した動体を追尾

警備員が目視で確認

警備員が目視で確認するまで不審者を追跡し続ける

VB-R11VE

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11 THE CANON FRONTIER 2016 THE CANON FRONTIER 2016

放送開始から20年。高精細映像へのこだわり━━━TBSのテレビ番組「世界遺産」は、1996年4月の放送開始以来、20年目をむかえる人気番組です。2012年から4K撮影を制作現場に導入するなど、常に最高品質の映像で世界中の文化遺産や自然遺産を記録してきました。 イタリア・トリノの世界遺産「サヴォイア王家の王宮群」(2015年6月

28日放送)の番組制作にあたっては、最高品質の撮影機材を日本から持ち込み、番組として初めて、地上波放送向けに全編4K撮影が行われました。地上デジタル放送はまだ4Kに対応していないため、ハイビジョンに変換して放送されたものの、その圧倒的に美しい映像は、放送後に大きな反響を呼びました。

豪華絢爛な宮殿のディテールに迫る映像━━━見どころの一つは、サヴォイア王家の武器や武具が立ち並ぶ豪華な武器庫の回廊です。壁一面に装飾を施した大空間。その中で、まるでこちらに向かってくるように感じる武器の立体感や装飾の質感を見事に映し出しました。この回廊の4K映像が、明らかにフルハイビジョンより一段上の画質に見えるのは、人間の目でとらえられないほど被写体を高精細に映し出すためです。キヤノンの4Kカメラは、回廊の臨場感と武器や装飾のディテールのすべてを映し撮りました。 この全体と細かなディテールの両方をとらえるのが4Kカメラの特長です。たとえば、色とりどりのガラスなどの小片をはめ込んで描かれたモザイク画を通常のカメラで撮影する場合、近寄ってモザイクの細部を撮影しようとすると、絵の全体をとらえられません。だからといって広角で撮影すると、モザイクで描かれていることがわかりづらくなります。その両方を一度にとらえるキヤノンの4Kカメラ。新しい映像表現の可能性を広げました。

TBS「世界遺産」毎週日曜午後6時よりTBS系にて放送中

特集2

世界遺産を4Kで撮る、4Kで遺す

番組の地上波放送で初めて実現された全編4K撮影。それは、キヤノンの高精細4Kカメラによって成し遂げられました。4Kカメラでの撮影は、映像表現にどのような可能性を与えるのでしょうか。番組制作の現場からテレビ映像の未来を探ります。

TBS「世界遺産」4K特別編 イタリア王国最初の都 サヴォイア王家の王宮群

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THE CANON FRONTIER 2016 12THE CANON FRONTIER 2016

世界遺産を「映像遺産」へ4K映像が後世に伝えるもの━━━今回の番組制作では、「Canon Log」という独自の記録方式で撮影し、未加工のRAWデータで保存しています。撮影後の編集では、色味やトーンをダイナミックに調整し、作品としての世界をつくり上げるカラーグレーディングを行うことで、「Canon Log」の性能を最大限に使い、これまでとはまったく違う映像に仕上げています。 「世界遺産」の制作コンセプトは、最新の映像技術で世界遺産を映像遺産として記録し、未来に遺すこと。これまで撮影された世界遺産の中には、戦禍によって破壊され、二度と撮ることができない遺産もあります。キヤノンはカメラやレンズの技術力で、美しさの奥にある自然や人類の普遍の価値をとらえようとしています。

サヴォイア王家の王宮群:19世紀にイタリアが統一された最初の都トリノにあるイタリア初代国王のサヴォイア家の拠点。サヴォイア家の宮殿には貴重なコレクションが多数あり、1997年に世界遺産に登録されている

4K放送:フルハイビジョン(画面解像度が1920×1080、約207万画素)の4倍となる解像度(画面解像度が4000×2000前後、約829万画素)を持った高精細映像による次世代の映像フォーマット。総務省が策定したロードマップによると、4K放送は2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、CS放送やBS放送、ケーブルテレビ、IPTVなどへ順次広がっていく予定

秘蔵のコレクションをとらえるキヤノンの4Kカメラ━━━番組の中で最も注目されたのが、サヴォイア王家のコレクションでもある「レオナルド ダ ヴィンチの自画像」と、数十年に一度しか一般公開されない「トリノ聖骸布」です。いずれも照明を使わず、暗い室内という厳しい環境の中で撮影されましたが、暗所でも圧倒的な高精細画質で撮影できたのは、キヤノンの最高峰デジタル一眼レフカメラ「EOS-1D C」とEFレンズの組み合わせの成果です。美しく繊細な被写体を4K映像として記録することができました。

左:4Kで撮影されたストゥピニージ宮殿の天井。一つひとつの装飾の質感までも4Kで克明に記録上:クリーム色や水色の微妙な色彩が施されるヴェナリア宮殿の大回廊中:4K映像の一番の見どころとなった王宮武器庫の大回廊下:照明を使わずに撮影されたダ ヴィンチの自画像

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13 THE CANON FRONTIER 2016 THE CANON FRONTIER 2016

プロのこだわりを具現化する4Kカメラ━━━小川 トリノの4K撮影に向けて、最高品質で撮影するために、キヤノンのカメラを4台持ち込みました。これは歴代1位のカメラ台数ですね。トリノの後に、オーストリアの世界遺産ハルシュタットの撮影も敢行したので、ハードディスクだけで40台、機材の総量は700kg、30

ケースにもなりました。 メイン機として「CINEMA EOS C500(以下「C500」)」を、それから「XC10」は、レンズ一体型のコンパクトボディーを生かして動きのあるシーンを撮るため。4K動画の撮影ができるデジタル一眼レフカメラ「EOS-1D C」は、超ワイドレンズをつけて高画質写真が動き出すようなタイムラプス(連続撮影)での使い方を想定しました。

相馬 それぞれのカメラがなければ、今回の番組撮影は難しかったと思います。なかでも映画撮影用の「C500」は、60p(1秒間に60コマ)という通常の2倍のフレームレートで、しかもRAWデータで収録できる高性能なカメラです。「C500」の性能により、武器庫の装飾の隅々まで撮れたと思うし、大空間をワイドかつクリアに撮れたのは、キヤノンのレンズ性能のおかげ。11mmの焦点距離を持つズームレンズ「EF11-24mm F4L USM」は、超広角にも関わらず、レンズディストーション(レンズ収差による像のゆがみ)もないし、画面の四隅の解像度も高い、素晴らしいレンズだと思います。

THE CANON FRONTIER 2016

写真が動き出した!4K動画の驚き 左から

4K制作プロデューサー小川 直彦さん

4Kテクニカルスーパーバイザー相馬 正彦さん

機動力の「XC10」、低照度に強い「EOS-1D C」━━━小川 発売されたばかりの「XC10」を使って、手持ちでも揺れないジンバルと呼ばれる装置に装着し、人物の動きがある映像を撮りました。ジンバルに載せるとフォーカスに手が届かないので、すべてオートフォーカスで撮影したのですが、オートフォーカスが効いているのがわからないくらいスムーズに動いて、うまく撮れてましたね。室内から室外へ移動したときも、オートホワイトバランスが非常に賢く効いて色を再現してくれました。

相馬 世界遺産の撮影では、照明の使用を禁じられることがよくあります。幸運にも、撮影中に展示されていたダ ヴィンチの自画像とキリストの聖骸布は、いずれも何十年に一度しか公開されない本物でした。当然照明はNGなので、ノーライトで撮りました。とても暗い場所でしたが、「EOS-1D C」と「EF50mm F1.2L USM」という明るいレンズを組み合わせることで、非常に印象的な映像が撮れたと思っています。

プロを支える信頼のサポートと先進の技術━━━相馬 キヤノン製品に接して強く感じたのは、総合的なサポート力ですね。現場の状況をよく把握してくれますし、撮影中、現地から電話して何度助けられたか(笑)。

小川 これまでのキヤノン製品の中では、デジタル一眼レフカメラで初めてフルHD動画撮影機能を搭載した「EOS 5D MarkⅡ」が印象的でした。キヤノンのムービーに対するこだわりを感じましたし、それが今の8Kカメラの開発にもつながっているのだと思います。

相馬 これから先、高精細な4K映像が一般化してくると、カメラにはフォーカスの際のかすかな揺れや振動を抑える防振性がますます求められてくるのではないでしょうか。キヤノンのフォーカス性能は「XC10」で実感済みですが、ピントが合う瞬間がさらにドラマチックになるよう、技術の進化に期待したいですね。キヤノン製品には常に驚きがあるので、きっとつくり出せると思います。

TBS「世界遺産」4K特別編 制作者インタビュー

主戦力になった「C500」。特別な許可を得て大型クレーンを持ち込んで撮影

CINEMA EOS C500 XC10 EOS-1D C

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THE CANON FRONTIER 2016 14THE CANON FRONTIER 2016

キヤノンは、映像制作用のカメラとレンズで構成する「CINEMA EOS

SYSTEM」を2011年に製品化し、映像制作市場に本格的に参入しました。以来、4K映像が撮影可能なデジタルシネマカメラを市場に投入し、「Canon EXPO 2015(P17参照)」においては、4Kの4倍の解像度を持つ8Kカメラを発表しました。8Kほどの高画質な映像は必要なのか?という問いに対し、キヤノンは超高解像度の驚異的な映像を見せることで次世代映像機器の可能性を示しました。

プロから支持され、映像表現を広げるシネマカメラ━━━キヤノンのデジタルシネマカメラは、放送と映画業界の垣根を越えて支持されています。開発者は映像制作の現場を徹底調査し、コンパクトなボディーにプロのニーズを凝縮した「CINEMA EOS C500(以下「C500」)」を製品化しました。独特な形状により、地面すれすれのショットが撮れたり、簡易な移動撮影が可能です。また、「C500」は、基板をファンで冷却するのではなく、空冷ダクトで熱を逃がします。この構造により、たとえ砂漠で24時間動かしても、熱による故障を起こしません。 堅牢性や耐久性は、キヤノン製品共通の基本性能です。業務用デジタルビデオカメラや一眼レフカメラで培ってきたノウハウが、製品への大きな信頼につながっています。

入力から出力を統合した映像技術で未来を映す━━━デジタルシネマカメラで撮影した高画質な映像を確認・編集するには、高画質で出力できるディスプレイが必要です。キヤノンは、業務用4Kディスプレイに続き、8K超高精細ディスプレイを自社開発。独自の画像処理技術による緻密でリアルな映像は、8Kカメラと組み合わせて、圧倒的な映像表現を可能にしました。 入力から出力まで、一貫して自社開発するのがキヤノンの強み。被写体をとらえる最も重要なパーツであるレンズとイメージセンサーを内製し、それらをカメラに統合することで、ディスプレイに映し出すことができます。 次世代映像機器は進歩が早く、映像制作市場はかつてないほど活況です。キヤノンの開発者は最先端の映像を追求し続け、世界のユーザーと関わりながら、最高の製品を生み出していくでしょう。

14THE CANON FRONTIER 2016

イメージコミュニケーション事業本部副事業本部長 枝窪 弘雄

開発者の探究心が次世代映像機器の未来を映す

映像機器責任者インタビュー

「Canon EXPO 2015」 東京展にも展示された8K製品 プロの映像制作現場で最高画質の記録を可能にした4Kカメラ

「CINEMA EOS SYSTEM」 8Kカメラ試作機

特集2 世界遺産を4Kで撮る、4Kで遺す

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15 THE CANON FRONTIER 2016 THE CANON FRONTIER 2016

超多画素CMOSセンサーを実現するプロセス技術

超多画素CMOSセンサーの開発のカギを握るのが半導体プロセス技術です。CMOSセンサーはこの技術により、フォトダイオードや周辺回路といったCMOSセンサーの各部品を最適な条件や形状でつくり込んでいきます。2.5億画素CMOSセンサーを実現するため、半導体プロセスにおいてもさまざまな新規技術を取り入れることにより、驚異的な多画素と毎秒12.5億画素読み出しの高速動作を達成することができました。プロセス技術の進化を重ねることで、キヤノンのCMOSセンサー製造技術は新たなステップを刻み続けています。

被写体から光学的な像情報を受け取り、電気的画像信号に変換するCMOSセンサー*。今後主流となる高精細な4K、さらには8KカメラのキーデバイスとなるのがCMOSセンサーです。デジタル一眼レフカメラで培った技術をベースに、キヤノンは超高精細・超高感度という新たな進化のステージへ向かっています。

1.2億画素から5年さらなる世界最多画素数※へ

キヤノンは、CMOSセンサーの長所にいち早く着目し、1990年代から研究開発をスタート。2010年には、人間の視細胞数に相当する1.2億画素CMOSセンサーを実現し、業界から注目を集めました。この発表から5年。キヤノンはAPS-Hサイズにおいて世界最多画素となる約2.5億画素(19580×12600画素)のCMOSセンサーの開発に成功。この超多画素のCMOSセンサーは、フルHD(1920×1080画素)動画の約125倍、4K(3840×2160画素)動画の約30倍の超高精細な動画撮影が行えます。 2.5億画素は1.2億画素に対して、光を取り込むフォトダイオードの受光面積が2分の1以下になります。小さな画素寸法でも光を最大限に取り込む構造を開発することで感度の低下を抑制しました。さらに、画素数が増えることで信号量が増加し、信号遅延やタイミングのわずかなズレが問題となるため、回路の微細化や信号処理の高速化に取り組み、1秒間に12億5,000万画素の超高速な信号読み出しを実現。毎秒5コマのスピードで超多画素な動画の撮影を可能にしました。※2015年9月7日現在。キヤノン調べ

約2.5億画素CMOSセンサー2.5億画素CMOSセンサーを搭載した試作カメラ「EF35mm F1.4L USM」装着時

EF800mm望遠レンズと電子ズームを用いた試作機での撮影。撮影した映像を電子ズームし、さらに画像処理技術を活用。人間の眼では認識することが難しい20km先を走るトラックの車体の識別が可能に

EF800mmレンズで撮影 電子ズーム+画像処理 さらに拡大

超高精細2.5億画素CMOSセンサー

超高精細、超高感度の限界に挑む最先端CMOSセンサー

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THE CANON FRONTIER 2016 16THE CANON FRONTIER 2016

キヤノン初の超高感度多目的カメラ「ME20F-SH」

三日月の明かりで鮮明なカラー撮影が可能なCMOSセンサー

監視や自然現象の観察などで、暗闇の中での動画撮影のニーズが高まっています。キヤノンは、肉眼では認識が困難なわずかな光源でも、ノイズの少ないフルHD動画によるカラー撮影ができる超高感度センサーの開発に取り組んでいます。 低照度な環境で鮮明な動画を撮影するには、CMOSセンサーの画素を大型化し、各画素の受光量を増やす方法が考えられます。キヤノンは、2013年に動画撮影専用の35mmフルサイズCMOSセンサーを開発し、カメラの試作機を発表しました。このCMOSセンサーの画素は一辺が19µm(µm=マイクロメートル、100万分の1

メートル)と大きなもの。キヤノンのデジタル一眼レフカメラの最上位機種「EOS-1D X」などに搭載されるCMOSセンサーと比べると、7.5倍以上の面積を持ち、より多くの光を受けとめられます。 超高感度35mmフルサイズCMOSセンサーは、線香の光のみの暗い室内(0.05luxから0.01lux程度)で動画の撮影を可能にしたほか、石垣島に生息するヤエヤマヒメボタルの動画撮影(0.01lux以下の非常な低照度の環境)にも成功。2015年には、ニュージーランドの

洞窟の暗闇の中で青く輝くツチボタルのかすかな光を、超高感度センサーが増幅して映し出す 撮影場所:ニュージーランド北島ワイトモ地方

一般的な業務用ビデオカメラ 35mmフルHD CMOSセンサー搭載実験機

●同環境下における映像の比較

超高感度35mmフルサイズCMOSセンサー

用 解語 説

CMOSセンサー半導体撮像素子。CMOSセンサーは「読み出し速度が速い」「消費電力が少ない」「大チップ化に向いている」などのメリットがある一方、ノイズが発生しやすいという欠点があった。キヤノンはこの課題に対し、独自の「ダブルサンプリングノイズキャンセル方式」を確立しノイズの削減に成功。この技術は、2004年度全国発明表彰において「発明賞」を受賞した

ワイトモ洞窟にて、洞窟内に生息するツチボタルが発するかすかな青色の光のみでの動画撮影にも成功しています。 このセンサーの完成度を上げ、2015年には ISO感度400万相当(最大ゲイン75dB時)、最低被写体照度0.0005lux以下でのカラー動画撮影が可能な超高感度多目的カメラの初号機「ME20F-SH」を製品化しました。 暗闇でも被写体をとらえる多目的カメラは、人が近づくことが難しい場所での撮影を可能にします。防災・防犯での用途はもちろん、計測機器や産業機器、さらには野生動物の生態撮影といった映像表現分野への広がりも見込まれています。

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17 THE CANON FRONTIER 2016

Canon EXPO 2015 Tokyo

Special Report 1

映画制作の現場をリアルに再現したスタジオでは、「CINEMA EOS SYSTEM」や8Kカメラの試作機を展示

壁一面を使った「コンタクトウォール」は、海外のスタッフとすぐそばにいるかのようなコミュニケーションを可能にする

高精細大判プリントによる「イメージングエアポート」は、本当の空港にいるかのような臨場感あふれる空間に

立体感のある表現力で圧倒的な高画質を示す業務用8Kディスプレイの試作機を参考出展

「スーパーマシンビジョン」の技術展示。動いている対象を360°視野でリアルタイムにカラーで三次元計測できる次世代マシンビジョン技術

多品種少量生産と短納期に対応するデジタルパッケージ印刷で、Jリーグ40クラブ計120種類のパッケージを展示

世界4カ国を巡回しキヤノングループの製品や技術を紹介する「Canon EXPO」は、5年に一度開催しているキ

ヤノンのプライベートフェアです。2015年9月のニューヨーク展を皮切りに、10月にはパリ展を、11月には東京

国際フォーラムにおいて東京展を開催しました。

 東京展では「2020年の東京へ、期待される価値を求めて」をテーマに、最先端の技術やソリューションを披露し、

映像文化の発展やビジネス改革の支援など、キヤノンが考える未来像と新たな価値をお客さまに訴求しました。

 2016年5月には、「Canon EXPO上海」を開催の予定。来場者とキヤノンとの交流を通して、無限の感動を提

供します。

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THE CANON FRONTIER 2016

技術開拓こそキヤノンの歴史。先進のイメージング技術に磨きをかけ、プロフェッショナルやホーム、オフィスといった従来の領域から、医療や産業分野などの新しい領域へ活躍ステージを広げています。開発者たちのたゆまぬ探究心と未知の領域へ挑戦する気持ちが、産業の革新を支えています。

産業の革新を支えるために

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ポスターやカタログ、書籍、新聞など、オフセット印刷が主流だった商業印刷分野でデジタル印刷の導入が急速に進展しています。キヤノンは、2006年に電子写真方式を応用したデジタル商業印刷機を発売して以来、デジタル印刷の普及と高機能化に努めています。

「きれい・速い・安心」で商業印刷を変える

デジタル印刷のメリット訴求で商業印刷分野に参入

商業印刷では数万から数百万という単位での印刷が求められる一方、多品種少部数の印刷ニーズも急増。あわせて印刷用紙の多様化も進み、光沢紙や圧着紙、ノンカーボン紙、厚紙などさまざまな用紙が使われています。これらへの対応が商業印刷の今日的課題ですが、それはオフセット印刷が苦手とする領域でもありました。 そこで注目を集めているのがデジタル印刷です。データをそのまま印刷するデジタル印刷は、少部数個別印刷や1枚ずつ印刷内容が違うバリアブル印刷で優位性を発揮する印刷技術です。キヤノンは、こうしたデジタル印刷市場の拡大に対応するために、品質や生産性、安定性のさらなる向上に挑戦しています。

商業印刷の全領域をカバーする豊富なラインアップ

商業印刷はその領域が広く、本や冊子からパッケージにいたるまで多岐にわたります。キヤノンの強みは、オセ社も含めたキヤノングループ内で、連帳プリンターやカットシートプリンター、大判インクジェットプリンターまで、お客さまの目的に応じて最適な製品を提供できることです。また、これらの操作性やUIは統一され、すべてを同じ感覚で扱えるのもポイントです。 大量印刷に適した連帳プリンターでは、高速印刷やバリアブル印刷、特殊用紙印刷など、適応領域の拡大に努める一方、小ロット印刷用のカットシートプリンターでは、書籍やマニュアルから高画質印刷まで柔軟に対応。スピード、画質、耐久性を重視し、あらゆるシーンで利用できる豊富なラインアップも強みです。 今後はセラミックや金属などの紙以外の素材にも、プリントやパッケージ印刷を行う産業印刷分野も視野に入れ、デジタル印刷の可能性を拡大させていきます。

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THE CANON FRONTIER 2016 20THE CANON FRONTIER 2016

❶[安定性]エア給紙が常に安定した給紙を実現捌さば

き、吸着、分離の三つのエアでコート紙も確実に給紙できるエア給紙「Advanced Air Feeding Technology」を搭載。万一の重送発生時にも印刷機を停止させない安心設計です。

2010年にキヤノングループに加わったオセは、130年以上の歴史を誇る老舗企業。競争力ある独自開発のプリンターは、その安定性と生産能力が市場で絶大な支持を集めています。欧州において商業印刷のハイエンド分野に強いオセとの協業は、米国や欧州でのイノベーションを進めるキヤノンの「世界三極体制」の確立を意識してのこと。今後は商業印刷No. 1をめざし、オセとの人材交流や技術共有を加速させ、今までにない製品開発に取り組んでいきます。

オセとの協業で商業印刷No. 1にチャレンジ

❷[高品質]優れた色再現性を実現する次世代CVトナー色材の分散状態を微細に保ちながら、溶融特性の最適化を追求。大量印刷時にも安定した色味を維持でき、オフセット印刷に迫る高い色再現性を発揮します。

産業の革新を支えるために 商業・産業印刷

❸[生産性]メディア等速を実現するデュアル定着システム定着器を2台装備し、紙質に応じて適切に定着経路を変更できるデュアル定着システムを採用。片面・両面、薄紙・厚紙などメディア混載時も高い生産性を維持できます。

❹[コントローラー]プリントエンジンの性能をフルに発揮させる「PRISMAsync」プリントジョブ管理機能を備えた高機能なプリンターコントローラー。印刷時間や用紙補給、消耗品交換などのタイミングを予測し、ダウンタイムの最少化を図ります。

「リモートマネージャー」ウェブブラウザー経由で最大5台までの印刷スケジュール確認、プリンター監視、ジョブ設定変更をリモートで行えます。

「スケジューラー機能」印刷予定時間をグラフで表示。用紙 / 消耗品の補充や用紙取り出しのタイミングがひと目で把握できます。

コントローラーやエンジンなど、オセの出向者と協業開発が進む

❷❹

imagePRESS C10000VP

エスケープトレイ

重送検知

エスケープトレイへ

超音波

重送

●捌きエアー1

●捌きエアー1

●2 吸着

●分離エアー3

Advanced Air Feeding Technology

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質感とは光沢感や立体感、透明感など、モノの材質について人が感じ取る視覚的、触覚的な要素です。写真や印刷物で質感を再現するには、色の情報に加え、物体表面の光の反射特性などの質感情報を取得することが不可欠です。キヤノンでは、高精度に質感情報を取得し、プリンターで出力する技術の開発を進めています。

本物の質感を表現する

意のままに質感を表現する質感プリント技術

従来のプリント技術では、インクやトナーの発色、プリント解像度の向上などにより、見た目の鮮やかさやシャープさを追求してきました。今後はユーザーの意のままに、質感までも表現するプリント技術が期待されています。  現在、取得した質感をプリンターで再現するために、キヤノンとオセ社は一体となって開発に取り組んでいます。キヤノンの質感画像処理技術とオセのUV硬化型プリンター*を用いた隆起印刷技術により、最大2cm程度の厚みと質感表現を両立した高品位な質感プリント技術を開発しています。この技術により、実物の質感を再現するだけでなく、世の中にない新しい質感の表現までも可能にしていきます。

モノの質感を撮影画像から数値化する質感取得技術

質感の主要素である反射特性は、物体の表面の凹凸形状と光沢特性で構成されます。モノの見え方は、これらの特性に加え、観察する方向や光源の位置によっても複雑に変化します。そこで、キヤノンは複数の光源とカメラを組み合わせ、あらゆる方向から数十µm

の解像度の高精細画像を撮影し、表面の微細な凹凸と光沢特性を解析して数値化する技術を開発しました。  さらに、光の影響によりダメージを受けやすい油彩画などの歴史的文化財の撮影では、高感度なカメラとHDR*撮影技術により光の照射量を抑えることで、文化財に負荷をかけることなく質感情報の取得を実現しています。

ジーンズや毛糸の質感、ボタンの突起もプリントできる

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質感取得・プリント技術により、新たな顧客価値を創出

質感プリント技術は、油彩画に見られる筆使いや絵具の盛り上がり、仕上げニスの光沢、経年劣化による表面のひびなど、本物の見た目や手触りまでも忠実に再現します。この技術により、通常はガラスケースに入っている貴重な文化財を複製することで、手で直接触れるなどの新たなコミュニケーションが可能になります。 さらに、ベルベット素材など見る角度によって色艶が大きく変わる布地のドレープ感や、金屏風に貼られた金箔などのキラキラとした素材までも本物を見たときと同じように再現できます。今後は、壁紙などのインテリア素材や商品パッケージなどへの展開をめざしていきます。

左下と右下:金箔やベルベットの布の質感プリント。表面の凹凸と光沢、色などの質感を忠実に再現

上:開発中のオセのUV硬化型プリンター(未発売)

HDR(High Dynamic Range)ダイナミックレンジとは一度の撮影で得られる明暗の差のこと。HDRでは露出の異なる複数の撮影画像を合成することにより、明暗の差が大きな被写体の再現が可能になる

UV硬化型プリンターUVインクを使ったインクジェットプリンター。紫外線を当てると瞬時にインクが硬化・定着し、水や直射日光にも高い耐久性を得られる

用 解語 説

●使用技術・製作プロセス

産業の革新を支えるために 質感取得・プリント技術

入力

■撮影する場合複数の光源とキヤノンの高解像度カメラを用いて、物体表面の反射光を撮影

■デザインする場合CGによるデータ作成

キヤノンの画像処理技術により、取得した画像情報から光沢と微細な凹凸形状を算出。さらに、プリンターで再現できるデータに変換

光沢

凹凸

オセのUV硬化型インクジェットプリンターを使った立体印刷技術により、画像の色、光沢、凹凸を出力再現

1.インクの吐出

2.紫外線によるインクの硬化

3. インク積層による凹凸形成+反射特性制御

画像処理 出力

入射光反射光

インクジェットヘッド

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生産現場の課題を3Dマシンビジョンで解決

今や製造業に欠かせないのがロボットですが、このロボットにも苦手な作業があります。その一つがパレットや部品箱の中にバラ積みされた部品を一つずつ取り出すピッキング作業です。 バラ積み部品のピッキングの工程においては、ロボットが作業しやすいように、人が部品を所定の位置に配置し直す必要があり、工程の短縮や自動化のボトルネックになっていました。 この課題を解決するのが、キヤノンの3Dマシンビジョンシステムです。マシンビジョンとは産業用の画像センサーのことで、現在の主流である二次元認識では、バラ積み部品などの位置や姿勢の認識が苦手です。そこでキヤノンは、バラ積み部品のピックアップを高速・高精度で行える三次元認識機能を搭載した「RV1100」を開発。生産ラインにおいて、人が行っていた部品供給工程の自動化を実現し、生産現場の新しい姿を提案しました。そして、2015年7月、

●自動車メーカーでの使用例

3Dマシンビジョンヘッド

バラ積み部品B バラ積み部品C

ピッキング用ロボット

溶接ロボット溶接ロボット

バラ積み部品A

❶❸

❷ ❹

より小さな部品のピックアップが可能な「RV500」「RV300」をラインアップに加え、電気機器業界などの小型部品を扱う生産ラインにおいても、幅広く導入が可能になりました。

パレットにバラ積みされたプレス部品をピッキングし、溶接工程へ供給

2014年4月、キヤノンは製造業の生産ラインにおける部品供給の自動化や高速化を図るため、部品の位置や姿勢を高速・高精度に三次元認識する3Dマシンビジョンシステムの販売を開始。成長が見込まれる3Dマシンビジョン市場に参入しました。

生産現場の未来をとらえるロボットの眼

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プロジェクターと撮像センサーの一体化で簡易設置、生産性を向上

キヤノンの3Dマシンビジョンシステムは、バラ積み部品へ認識用のパターンを投影し、そのパターンが投影された部品の画像を解析します。複数の投影パターンに対する部品画像の違いを解析することで、対象物の三次元認識を実現しています。 他社の3Dマシンビジョンではパターン投影するプロジェクター部と撮像センサー部の位置関係が重要になり、その調整が精度向上に欠かせないなど、設置の難しさが課題でした。キヤノンの3Dマシンビジョンは、プロジェクターと撮像センサーを一体化させることで、難しい調整なしに導入が可能。軽量コンパクトサイズのため、生産ラインの変更や移動に伴う移設にも手間がかからないほか、防塵防水、メンテナンスフリーと設置後の取り扱いもかんたんです。

より高速・高精度に進化

認識精度の高さでもキヤノンの3Dマシンビジョンは、他社の追随を許しません。曲面を持つ部品や形状に特徴の少ない部品、さらに、複雑な形状の部品でも、CADデータの入力とバラ積みされた状態で部品の撮影を行うだけで、部品データをシステムに登録できます。また、計測距離データだけでなく、濃淡画像も同時に利用してCAD

データをマッチングする新方式により、さまざまな部品を高精度に認識することが可能になりました。現在、自動車、電機、金属機器、樹脂・化学メーカーなど幅広い業界からの問い合わせがあり、多くの受注を獲得しています。さらに製品の改良に努めるだけでなく、培ってきた技術を活用し、組み立て作業への導入や欠陥検査の自動化へ事業の拡大をめざしています。今後もマシンビジョン市場の牽引役として、積極的に製品開発を進めていきます。

●3Dマシンビジョンシステムの動作フロー

辞書3DCADデータ

プログラムペンダント

ピッキング用ロボット

ロボットコントローラー

❶ パターン投影 ❷ 測距

バラ積み部品

❹ 把持可否判定

❸ 部品検出 ❺ データ転送3DCADモデルフィッティング

位置姿勢計測結果

①バラ積み部品に数種類のパターンを投影 ②バラ積み部品の距離データを計測 ③事前学習した辞書と3DCADモデルを用いて部品の位置と姿勢を認識 ④他の部品に当たることなくロボットハンドが把持可能か否かを判定 ⑤ロボットコントローラーへデータを転送

不規則にバラ積みされている部品を「RV500」が認識して、ロボットアームを制御するコントローラーに約1.8秒でデータを送信。部品供給がスピーディに行える

産業の革新を支えるために 3Dマシンビジョン

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現代社会において、情報機器の進歩を支えてきたもの。それは半導体チップにほかなりません。半世紀にわたり、この半導体チップの製造を担ってきた「半導体露光装置」の技術分野に、ナノインプリントリソグラフィという革新的な技術が加わろうとしています。

半導体産業のイノベーター

究極の微細加工技術ナノインプリントリソグラフィ

半導体チップの進化は回路パターンの微細化の歴史ともいわれ、その微細化のカギを握るのが「光源の短波長化」と「微細化に対応した露光技術」の開発でした。1990年代前半、波長365nm(nm=ナノメートル 10億分の1メートル)の i線が登場し、350nmパターンの解像を実現。以後、新たな短波長光源が開発されましたが、光源の短波長化による微細化は2000年代後半のArF液浸による38nmにおいて技術的限界に達したといわれています。 キヤノンは、短波長化に代わる新たな技術で、さらなる微細化の道を切り拓こうとしています。それは、シンプル、コンパクト、チップコスト削減といった特長を持つ、ナノインプリントリソグラフィ(Nanoimprint Lithography:NIL)です。NILは15nmの線幅にも対応でき、さらなる微細化も可能で、半導体業界に革命を起こすものと期待されている技術です。

乗り越えてきた数々の技術的ハードル

従来の露光技術が光で回路を焼き付けるのに対し、ナノインプリントリソグラフィはパターンを刻み込んだマスク(型)をウエハー上に塗布された樹脂に押し当てて回路を形成します。光学系という介在物がないため、マスク上の微細な回路パターンを忠実にウエハー上に再現できるという特長があります。 しかし課題も多く、長い間、実用化は困難といわれていました。直接転写で回路パターンを形成するためには、nmレベルでの正確な制御が必要です。また、精密なデバイスを量産するためには、高い位置制御の精度や異物の除去も求められます。そこで、キヤノンはハード、ソフト、材料などの技術や微粒子を抑制する環境制御技術などを総合的に開発することで、数多くのハードルを克服したのです。

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異文化からシナジーを

キヤノンはナノインプリントリソグラフィの分野において、世界の最先端でかつ唯一の微細加工デバイス向けの技術を持つ米国キヤノンナノテクノロジーズ(以下 CNT)社と協力して、ナノインプリントリソグラフィの量産化に取り組んでいます。 キヤノンが持つ半導体露光装置の開発に欠かせない露光装置の制御や計測技術に加え、これまで培ってきたサービスやサポートのノウハウ。これらを、CNTが持つ最先端ナノインプリントリソグラフィ技術と融合させることで、物理的な限界とまでいわれた微細化の壁を乗り越えようとしています。

露光技術は半導体チップの低コスト化に貢献した技術ですが、線幅が細くなるほどシャープなパターンの形成が難しくなり、微細化にはさまざまな工夫が必要で、装置も大型かつ高額となりました。 一方、ナノインプリントリソグラフィ技術は短波長化した光源を必要とせず、回路パターンを刻み込んだマスクを樹脂に押し当てるというシンプルな原理なので、装置を比較的小型化することができ、大幅なコストダウンが見込めます。しかも、非常にシャープな回路パターンを形成できることから、チップの不良率の低減も期待されています。

キヤノンが進めるナノインプリントリソグラフィ技術の仕組み

ナノインプリント

ウエハー

マスク(型)レジスト(樹脂) マスク

インクジェット技術を使って、液滴状にした樹脂を回路パターンに合わせてウエハー上に塗布する

回路パターンが彫り込まれたマスクと呼ばれる型をウエハー上に塗布された樹脂にスタンプのように直接押し付ける

紫外線で樹脂を硬化させて回路パターンをつくり、マスクを樹脂からはがす

1 2 3

紫外線

はがす

光光露光

ウエハー

レジスト

光露光用のレジストをウエハー上に塗布する

レチクルに描かれた回路パターンを、レンズを使ってウエハー上に縮小投影露光し、樹脂を化学変化させる

現像して、光の当たった部分の樹脂を除去し、回路パターンをつくる

1 2 3

化学変化がおこる

除去

デバイスの量産化というゴール

キヤノンが取り組んだ技術開発の一つが、ウエハー上に塗布する樹脂の量・位置の制御です。ウエハー上に塗布された樹脂にマスクを押し当てる際、樹脂がマスクの側面からはみ出すことを防ぎつつ、均一な厚みの樹脂層が形成されるように、樹脂の塗布量と位置を高精度に制御できる技術を開発しました。 また、マスクをウエハーから引きはがす離型工程においても、マスクとウエハーの位置関係を最適に制御しなければ、凸型に樹脂で形成した回路パターンが壊されてしまいます。キヤノンはnmレベルでの制御技術のノウハウを蓄積して、この課題をクリアし、量産化に向けて着実なステップを踏んでいます。

THE CANON FRONTIER 2016

産業の革新を支えるために ナノインプリントリソグラフィ

5年ごとに約半分に細くなった線幅が2000年代後半から停滞気味

1990年代前半

線幅~350nm

線幅~150nm

線幅~65nm

線幅~38nm

線幅~19nm

1990年代後半

2000年代前半 2000年代

後半現在

開発中光源(波長)

i線(365nm)

KrF(248nm)

ArF(193nm)

ArF液浸(193nm)

ArF液浸(改良形)(193nm) NIL

●半導体の微細化の歴史

量産を見据え、検証が進む

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27 THE CANON FRONTIER 2016 THE CANON FRONTIER 2016

ヘッドマウントディスプレイを装着し高画質な複合現実の世界に没入する

キヤノンのMR技術を活用したMRシステム「MREAL」は、ヘッドマウントディスプレイ(以下HMD)と基盤となるミドルウエア、各種センサーから構成されます。HMDを装着してディスプレイをのぞくと、左眼用、右眼用それぞれのビデオカメラがとらえた映像がコントローラーを介してパソコンに送信され、CGを合成します。合成された映像は、会議室の中に実物大の自動車を映し出すといった実寸大のスケールを体感できます。 映し出されたCGに対し、後ろや横への回り込みができるほか、複数人による同時・同空間の共有も可能です。また、「MREAL」は対象に近づけば大きく、遠ざかれば全体が見え、あらゆる角度から対象を見ることができます。このため、自分が仮想現実の中にいるような「没入感」が得られるのです。

自由曲面プリズムと位置合わせの技術で違和感のない映像へ

キヤノンは長年の研究開発を経てMR技術を確立し、2012年に「MREAL」として発売を開始しました。 「MREAL」の特長は大きく二つあります。まず、一つ目は小型で軽量なHMDです。独自開発のコンパクトな自由曲面プリズムにより、HMD内にスペースをつくりビデオカメラを最適に配置することができました。そして二つ目が、現実世界とCGを違和感なく表示する「高精度な位置合わせ」の技術です。 独自のマーカーを現実物体にあらかじめ配置し、三次元の位置を計測する手法を開発しました。マーカーを読み取ることで、利用者の位置や姿勢情報を正確に検出。360°どこからでも観察を可能にしました。

「MREAL」が圧倒的な臨場感を実現

目の前の現実とコンピュータグラフィックス(以下CG)画像を重ねる複合現実感(MR:Mixed Reality)は、ものづくりのプロセスに革新をもたらす技術として注目されています。自動車業界をはじめとした製造業や建設・建築業、航空産業などのものづくりの現場で活用が広がっています。

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THE CANON FRONTIER 2016 28THE CANON FRONTIER 2016

産学連携でスタートしたMR技術

1997年1月、キヤノンは旧通産省と郵政省との共同プロジェクトとして、「株式会社エム・アール・システム研究所(MR研)」を共同で設立し、MR技術の開発を進めてきました。 現実と仮想を融合するMR技術に強い可能性を感じていたキヤノンは、2002年以降から産業向けに試作機をつくり、企業に貸し出しては、その使用感を開発部門にフィードバックし完成度を高めていきました。そして、ついに事業化を決断したのが2007年。現在の製品構成になったのもこの頃でしたが、2012年に実際に発売されるまで、乗り越えるべき壁は多かったのです。

MR技術の実用化はブレークスルーの連続

課題の一つがHMDの小型化・軽量化でした。30分装着しても疲れない軽さと最適な重量配分を実現していますが、それに大きく貢献したのが独自開発の自由曲面プリズムです。複雑なレンズを組み合わせるのではなく、1個の部品で成り立たせることをめざしたのです。自由曲面を最適な形状でバランスを取りながら精度を出すのが難しく、光学担当の技術者は性能が出るまでひたすら設計を繰り返しました。 HMDの開発にはもう一つ乗り越えるべき大きな課題がありました。頭に装着するものをつくるのは、キヤノンでは初めてだったため、さまざまな情報が不足していました。ヘルメットメーカーを訪ね、装着感の良しあしや重心位置などのヒアリン

グを行いました。人の頭の形は一人ひとり異なります。いかに一つの形に集約させ、快適に装着できるか、その理想の形状を探り続けたのです。

違和感のない3D映像にするために

現実空間と合成された映像を一致させるには、精度の高い位置合わせの技術が絶対的な条件となります。現実の場所を特定するために指標を置き、それをカメラで検知し、かんたんな位置合わせを可能にしたかったのです。 そこで独自のマーカーを開発。床や壁などにマーカーを貼って撮影することで、正確に撮影位置やカメラの傾きを割り出すようにしました。さらにジャイロセンサーなどを搭載し、マーカーと組み合わせた高度な位置合わせを実現しました。

ソリューションビジネスの力強い味方へ

「MREAL」はさまざまな業界のビジネスの現場、ものづくりのプロセスを変革し始めています。 たとえば、自動車会社では、試作車の完成前に「MREAL」を用いて実寸大で外観デザインを確認したり、ハンドルやメーター、シフトレバー、アクセルのデザインや内装などの検討に使われるほか、空気抵抗など各種シミュレーションの結果も可視化できます。また、設計プロセスにおける手戻りや生産準備のための工数を減らすなど、コスト削減にも貢献します。 さらに建築設計分野では、建築物の中に入った感覚で天井の圧迫感や光の入り方などを実寸大で確認できます。これにより、設計段階で建築家(施工者)と施主の間でイメージを共有でき、お互いの意思疎通をサポートします。今後もキヤノンの「MREAL」は、ユーザーの目的や用途に合わせたアプリケーションやコンテンツを提供していきます。

「MREAL」開発ストーリー

Mixed Reality技術から「MREAL」へ

「MREAL」の開発に携わる開発者

産業の革新を支えるために Mixed Reality

HMD「MREAL HM-A1」の両目の前の部分を簡略化すると上の図のようになる。違和感のない映像体験を実現するには、従来のシステムでは目の前の機器が大きく迫り出してしまうが、自由曲面プリズムにより、HMDの小型化・軽量化に成功

MREAL HM-A1 MREAL HH-A1

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29 THE CANON FRONTIER 2016 THE CANON FRONTIER 2016

検査スピードを短縮する遺伝子検査システムを実用化へ

遺伝子検査を行うことで、先天性疾患や将来かかりやすい病気の有無、薬の副作用などを前もって知ることが可能です。しかし最新の装置を使用しても、検査結果が出るまでには単純なものでも数十分、さらに複雑になると1日以上時間がかかります。キヤノンは複雑な検査でも数時間で検査できる遺伝子検査システムの開発を米国で進めています。 この遺伝子検査システムは、CMOSセンサーやインクジェットプリンター技術を応用した検査装置*と試薬カートリッジで構成されます。キヤノンUSAは遺伝子検査システムの実用化をめざし、キヤノンバイオメディカル社(CBMI)を2015年3月に設立。CBMIは、がんや遺伝病の研究に用いられるDNA配列情報を提供する試薬キット「ノーヴァリル」*

を2015年9月に発表しました。この試薬を用いてDNAを効率的に増やし、遺伝子の変異を見つけやすくすることで、現在の約100種から500種の疾病の研究に対応できるよう開発を進めています。

米国を拠点に、医療技術の発展を支える

キヤノンが得意とする技術分野を応用し、今後、事業の拡大を見込んでいるのが医療分野です。医療先進国である米国では、研究機関と協働し、最先端の医療機器の研究開発から生産・販売・サービスへの展開をめざしています。

CBMIで進めている試薬の開発

 米国・マサチューセッツのヘルスケアオプティクスリサーチラボラトリーでは、ハーバード大学医学部の関連医療機関であるマサチューセッツ総合病院、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院と連携し、最先端の内視鏡や手作業よりも確実性が高いロボット技術を搭載した器具の製品化をめざしています。

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THE CANON FRONTIER 2016 30THE CANON FRONTIER 2016

米国を拠点に、医療技術の発展を支える

超小型ファイバー内視鏡が拓く新しい診断

この超小型ファイバー内視鏡は、光ファイバーの先端に光学系を搭載し、血管や関節内部などの高解像リアルタイム観察を可能にします。内視鏡が体の中で壊れたりすることがないよう、極細ながらも高い強度を保ったプローブをつくる必要があります。 キヤノンは自社の強みである微小光学系の加工技術や、回折光学素子のシミュレーション、光学設計技術などの技術を活用し、光ファイバーの先端に微小なレンズと回折格子を取り付けた直径0.6mm

の超小型ファイバー内視鏡を開発。従来よりも格段に細い内視鏡の実用化により、これまで医師が見たくても見ることができなかった部位を観察し、早期治療や新しい診断への応用が期待されます。

産業の革新を支えるために バイオメディカル

超小型ファイバー内視鏡の製品化をめざした開発を進行中

画像誘導ナビゲーションソフトと穿刺ロボットで構成する試作システムの開発現在開発中の遺伝子検査装置

遺伝子検査装置検査装置はマイクロ流路チップと光学技術を使い、検体の遺伝子配列の変異を高速で検出することが可能※本装置は未承認のため、販売・授与・臨床目的の使用はできません

試薬カートリッジ「ノーヴァリル」DNA内の特定の塩基配列だけを取り出し、増幅させ、遺伝子を解析。遺伝子配列の一部が異なっている状態(一塩基多型)や微少な遺伝子変異を見つける※研究用途に限定し米国にて販売

用 解語 説

針を臓器に刺す穿せんし刺補助システムの開発

さらにキヤノンでは、正確に針を臓器に刺すこと(穿刺)を補助するシステムを開発しています。通常、医師は手術室の外でMRIやCTの画像を見ながら、がんなどの位置の確認や針の目標位置を決定します。それに対し、このシステムでは、医師が画像誘導ナビゲーションソフトウエア上で胸部や腹部に挿入する針のターゲット位置を指示すると、装置がそれに従って針の挿入角度を設定し、臓器の正しい位置に医師が針を刺せるようにガイドします。 システムの試作にあたっては、MRI環境下で動作するモーターやセンサーの開発なども進めています。このシステムにより、記憶に頼っている生体検査やアブレーション療法(高熱や冷凍により組織を死滅させる治療方法)の手技をより高精度に、短時間で実施できると考えています。

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31 THE CANON FRONTIER 2016

Special Report 2

9月に行われたニューヨーク展では、「Canon See Impossible」をテーマに、デジタルカメラやプリンターといっ

た既存事業の最先端技術に加え、遺伝子検査装置やネットワークカメラがお客さまの注目を集めました。

 さらに、10月のパリ展では、「Come and See」をスローガンに、キヤノングループに加わったオセ社、アク

シスコミュニケーションズ社、マイルストーンシステムズ社などの本社がある欧州で、キヤノンが今後の

事業展開を見据えた最先端の製品・技術を紹介しました。

Canon EXPO 2015 New York / Paris

■ニューヨーク展 ■パリ展

ニューヨーク展では、ユーザーの使用シーンに合わせた10のゾーンをニューヨークの街をモチーフに配置

巨大プリントでヤンキースタジアムを再現

大きな関心を集めた最新の医療技術の紹介コーナー

質感までも見事に再現する、キヤノンとオセの技術を融合させた「Canon Super Creative Printing」

多くの来場者の関心を集めた、オセのフラットベッドプリンター「Arizona」の実演デモ

ネットワークカメラエリアでは、キヤノン、アクシス、マイルストーンが生み出すシナジー効果を紹介

31 THE CANON FRONTIER 2016

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THE CANON FRONTIER 2016

技術がますます進化し、人々の価値観が多様化する社会の中で、キヤノンは世界中の人々を感動させる製品の創出をめざします。グローバルに事業を展開すると同時に、イノベーションを継続的に生み出す環境をつくることで、社会の発展と輝かしい未来を拓いていきます。

未来を拓くイノベーション

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曽我蕭白「雲龍図」(寄贈先:臨済宗天龍寺派大本山天龍寺)の高精細複製品All photographs ©2015 Museum of Fine Arts, Boston. Reproduced with permission.

国宝 風神雷神図屏風 俵屋宗達筆 国宝 松林図屏風 長谷川等伯筆

江戸時代 17 世紀 各隻 縦176.0 × 横194.0cm 二曲一双和紙に印刷・金箔貼付 原本所蔵・寄贈先:大本山 建仁寺

安土桃山時代 16世紀 各隻 縦156.8 × 横356.0cm 六曲一双和紙に印刷 原本所蔵・寄贈先:東京国立博物館

いにしえの美を現代の技術で未来に託す

オリジナルの文化財の「保存」と複製品での「公開」を両立

綴プロジェクトは、キヤノンと特定非営利活動法人京都文化協会が2007年に開始した社会貢献活動です。脆弱で傷みやすい日本の文化財を保有している寺院では、その保存に苦労しています。 綴プロジェクトでは、キヤノンの入力(撮影)から出力までの先進デジタル技術と京都の伝統工芸の技を活用し高精細複製品を制作。オリジナルの文化財はより良好な環境で保存し、複製品を広く一般に公開することで文化財の抱える課題の解決に貢献しています。

活動を支える高精細複製技術

入力には、キヤノンのデジタル一眼レフカメラ「EOS 5D Mark III」を使用。その撮影データにキヤノン独自の色補正処理を行い、大判インクジェットプリンター「imagePROGRAF」で原寸大に印刷します。必要に応じて金箔や表装を施すことで、オリジナルの文化財に限りなく近い高精細複製品が完成します。文化財の保存と未来への継承の両立を最先端技術でサポートします。

日本の貴重な文化財の中には、海外にわたった作品や国内にあっても鑑賞の機会が限られている作品が多く存在します。キヤノンでは、入力から出力までの独自技術を活用し高精細複製品を制作。いにしえの美を未来に伝えることで、社会や文化の発展に貢献しています。

●高精細複製品の一例

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THE CANON FRONTIER 2016 34THE CANON FRONTIER 2016

曽我蕭白「雲龍図」(寄贈先:臨済宗天龍寺派大本山天龍寺)の高精細複製品All photographs ©2015 Museum of Fine Arts, Boston. Reproduced with permission.

[制作プロセス]

最新のデジタル技術と伝統工芸の技を融合●入力

高精細デジタルデータの取得文化財の原寸大出力が可能な高画質デジタルデータの取得には、デジタル一眼レフカメラ「EOS 5D Mark III」を使用。専用に開発した旋回台を用いて多分割撮影を行い、パソコン上で合成し、一つの高精細デジタルデータに仕上げます。

●色合わせ

高精度なカラーマッチングシステム取得された高精細デジタルデータをキヤノン独自のカラーマッチングシステムを用いて撮影環境の照明と合わせ画像処理し、その場で出力。すぐさま忠実な色再現を実現。色合わせの労力と文化財への負担を軽減しました。

●出力

世界最高レベルのプリンティング技術日本画の繊細な濃淡、陰影が生み出す立体感の表現を大判インクジェットプリンター「imagePROGRAF」が可能にしました。使用する和紙や絹本は、綴プロジェクトのために独自に研究開発されたもの。文化財の出力や金箔加工などに最適化されています。

●金箔 金泥 雲母

古来より伝承される伝統工芸の技により再現日本文化財の最大の特徴となっている「金箔・金

きんでい

泥・雲き ら

母」は、現在のプリンティング技術では再現が難しいため、京都の伝統工芸士が熟練の手技を振るいます。箔の経年変化の再現には、独自の「古色」の技法が用いられます。

●表装

京で鍛えられた確かな技術作品は京都の表具士より表装がなされます。日本独自の表具類を用い、屏風であれば金具の古色や裏面の切地まで、襖であれば建物へのしつらえまで、絵巻物であれば表紙にあたる見返し部分までオリジナルの文化財に近い姿で忠実に再現され、完成します。

国宝 神護寺三像 伝 藤原隆信筆

鎌倉時代 13世紀 伝 源頼朝像 縦143.0 × 横112.8cm等掛軸三幅 絹本に印刷 原本所蔵・寄贈先:高雄山 神護寺

未来を拓くイノベーション 綴プロジェクト

複製品の活用を通して日本文化の再発見につなげる

これまでに複製された作品は32点(2015年4月現在)。綴プロジェクトの複製品は、オリジナル文化財の現所蔵者やかつての所蔵者、博物館、地方自治体などへ寄贈され、広く一般に公開されています。さらに、日本の歴史や文化、芸術を伝える出前授業やワークショップなど、教育の現場でも活用され、従来のデジタルアーカイブにとどまらない、一歩踏み込んだ新たな試みとして高い評価を得ています。綴プロジェクトを通して、より多くの人々が日本古来の貴重な文化財に接する機会を増やし、日本文化を再発見する新たな機会の創出に寄与しています。

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35 THE CANON FRONTIER 2016 THE CANON FRONTIER 2016

に計測することが重要です。キヤノンは、独自に開発した「接触式自由曲面測定装置(A-Ruler)」で研磨精度を確認しながら、精密研磨に立ち向かっています。 TMTの完成予定は2024年。それは、今20代の若者たちが開発の第一線で活躍する時代です。世代を超えて活躍する超巨大望遠鏡の実現に向け、キヤノンの開発者は今日も挑戦を続けています。

宇宙創成を究明する

国際共同プロジェクトに日本代表として参加

TMTは、日本・米国・カナダ・中国・インドの5カ国が協力して最先端の天文学を推進させようとする国際共同プロジェクトです。キヤノンは、すばる望遠鏡で光学系の開発・生産を担うなどの実績も多く、TMTでも分割鏡の製造を担当しています。 TMTは30mの口径を実現するため、主鏡に492枚の分割鏡を組み合わせる構成を持ち、その生産を日本・米国・中国・インドが分担しています。日本は、分割鏡(交換用を含めると574枚)の約3割を担当します。そのうち、キヤノンは、鏡面の研削・研磨から外形カット、支持機構取り付けを引き受け、2014年から非球面研削工程の量産を開始しました。

未来の天文学者のために、技術ができること

極低膨張ガラスを素材とする分割鏡は対角1.44m、厚さ45mmの六角形状で、非球面量を最大で0.2mm、仕上がり精度を2µmに収めなければなりません。この精度を達成するには、非球面形状を超精密

TMT

TMTの完成予想図(提供:国立天文台 /協力:三菱電機)

キヤノンは天文学の発展にも貢献しています。近年では、ハワイ島に建設される口径30mの超巨大望遠鏡Thirty Meter Telescope(TMT)の共同参画をはじめ、東京大学木曽観測所のTomo-e Gozen(トモエゴゼン)の技術協力、赤外線分光器の大幅な小型化を可能にするGeイマージョン回折素子の開発に着手しています。

順調な進展を見せる非球面研削の量産化工程

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THE CANON FRONTIER 2016 36THE CANON FRONTIER 2016

キヤノンは独自の超精密加工技術を用いて、これまで困難とされてきたゲルマニウム単結晶へのnm精度での加工を実現。中間赤外線望遠鏡用分光器の体積を約64分の1に小型化できるGeイマージョン回折素子を開発しました。Geイマージョンの実用化により高性能な分光器の運用性を飛躍的に向上。宇宙望遠鏡や次世代大型天体望遠鏡をはじめとした、既存の望遠鏡の高性能化にも期待が寄せられています。

赤外分光器の高性能化により宇宙史の解明に期待

Geイマージョン回析素子

天体現象の動画観測で生命の起源に迫る

トモエゴゼンは、2017年に完成予定の東京大学木曽観測所の105cmシュミット望遠鏡に搭載される超広視野高速CMOSカメラです。 その最大の特長は広視野と動画観測。トモエゴゼンは、動的宇宙の探査という天文学のフロンティアを切り拓きます。たとえば星の最期の姿である超新星爆発や、重力波を伴う中性子星合体など、いつどこで起きるとも知れない天体現象をトモエゴゼンならその広い視野角でいち早く見つけ、一部始終を高頻度な動画観測で記録できます。肉眼では見えない微光流星は、毎夜1

万個を超える検出が見込まれます。地球に降り注ぐ塵ちり

の特徴や総量の観測から、生命の起源に迫れると期待しています。

動的宇宙の探査のカギを握るCMOSセンサー

従来、天文学に用いるイメージセンサーといえば受光感度が高いCCDでしたが、トモエゴゼンではCCDと同程度の受光感度に加え、ノイズがより低く、読み出しが圧倒的に高速なキヤノンの35mmフルHD CMOSセンサーを採用しました。この低ノイズと高速性をなくして微弱な信号の動画観測は実現不可能です。一般的にセンサーは多画素・小型化という流れをたどっていますが、キヤノンは受光面や画素が大きいセンサーも手掛けるなど、開発の深さと幅広さを評価しています。トモエゴゼンの開発では、キヤノンからセンサー技術の情報を提供してもらう一方、こちらからは暗所での微弱な光に対する性能の評価結果をフィードバックするなど、情報交流ができる良い関係を築いています。これからもキヤノンらしい製品開発に期待しています。

東京大学大学院理学系研究科天文学教育研究センター

酒向 重行 助教

●超広視野角での天文動画観測を実現するトモエゴゼン ●トモエゴゼンのCMOSセンサー部(試験機)

84台のCMOSセンサーを並べることで、一般的な天文観測装置と同等の解像度を持ちながら大幅に上回る視野角を実現する。オリオン座を丸ごと高感度かつ高精細に監視することが可能

動的宇宙探査で世界をリードする超広視野高速CMOSカメラ

トモエゴゼンプロジェクト

Geイマージョン回折素子 (長辺約75mm×短辺約22mm ×高さ約26mm)

電子顕微鏡による格子面観察画像 左:150倍 右:400倍

●主鏡に採用した分割鏡方式

492枚の分割鏡からなる口径30mの主鏡

分割鏡を敷き詰めた主鏡の構成図

(TMT国際天文台)

キヤノンが製作した主鏡分割鏡の試作品

未来を拓くイノベーション 宇宙の謎の解明に貢献

試作中のセンサー部。現在は8台の35mmフルHD CMOSセンサーを横一列に並べ、駆動条件やカメラへの設置方法を検証している。最終的には84台のCMOSセンサーを敷き詰める予定

EF50mm f/1.2L USM (at f/1.2) 30p (30 fps)

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37 THE CANON FRONTIER 2016 THE CANON FRONTIER 2016

独自の分子設計により堅牢性を高める構造を探求

キヤノンでは1980年代から新規染料の開発に取り組み、現在、1万種類を超える染料が「キヤノン材料バンク」に蓄積されています。このバンクでは合成・物性情報に加え、染料が外部からの光やオゾンガスなどの刺激を受けて崩壊するメカニズムなど、多種多様な技術ノウハウをデータベース化しています。 染料の開発では、このバンクに蓄積された材料をもとに、シミュレーション、分子設計、合成、評価・分析を繰り返すことで、発色性と堅牢性を両立する最適な場所に特定の置換基を配置。新たな染料が誕生しました。

いつまでも色あせない鮮やかな赤を

プリンターメーカーは従来、色材そのものの自社開発はせず、他社から調達した共通の染料を使用していたため、色味に対する差別化が困難でした。キヤノンでは、発色性に優れたキサンテン系染料に注目し、視認性の高い「赤」の染料開発に挑戦。堅牢性(耐光性)に課題があり、一般には実用化は難しいとされていたキサンテン系染料を研究し、堅牢性と鮮やかな赤を両立する新規マゼンタ染料の開発に成功しました。

高発色キサンテン系染料

製品のオリジナリティを支える

製品の競争力を上げるために欠かせないのが、色材やトナー、光学ガラスなどの基盤となる材料技術です。キヤノンでは数十年前から材料研究に取り組み、その成果を「キヤノン材料バンク」として蓄積し、全社で再利用できる環境として整備しています。材料の分子設計技術や合成技術と、電子顕微鏡などの高精度分析・計測・解析技術を両輪に、効率的な材料研究を進めています。

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THE CANON FRONTIER 2016 38THE CANON FRONTIER 2016

HN

HNO

O O

O

SO3

SO3

H3C H3CCH3 CH3

SH3CH3

NH

NHHN

NSO3Na

B環 B環

A環

+

NaO3S SO3Na

鉛フリー圧電体

合成した試料を分析・評価し材料としての適性を見極める

新規キサンテン系染料を用いたインクによる写真プリント

混ぜ合わせた原料粒子を焼結し分析用鉛フリー圧電体のサンプルを作製

重要な材料、一方で環境負荷も大きい圧電体

圧電体は電気エネルギーを機械エネルギーに変換する特性を持ち、モーターやセンサーには欠かせない材料です。しかし、環境に悪影響を与える鉛を主成分とするため、圧電体の鉛フリー化が業界の課題となっています。キヤノンはハンダやレンズの鉛フリー化に続き、圧電体の鉛フリー化にも着手。自社製品への搭載をめざして材料開発に取り組んでいます。

●新たに合成した新規キサンテン系染料の分子構造図

ベース染料 新規キサンテン系染料

最適な場所に置換基を配置することで高堅牢性と発色性の両立を実現

●発色性が向上し鮮やかなプリント表現が可能に

従来製品

インクジェットプリンター用のインク「BCI-351」は当社従来製品と比べ、マゼンタの発色性が向上

「BCI-351」新規キサンテン系染料使用

未来を拓くイノベーション 材料研究

実験室レベルから量産レベルヘのチャレンジ

実験室で完成した新規キサンテン系染料の次なる課題は量産対応です。300mlという小型の反応釜を用いる実験室とは異なり、量産時に使う反応釜は1t以上とその規模が格段に大きくなります。特にインクジェットプリンターは、インク吐出量をピコリットル単位で制御する必要があるため、合成中にわずかでも不純物が発生すると、ヘッド部分にあるインクのノズルを詰まらせてしまいます。そこで、要素開発部門と事業部門が共同で研究に取り組み、不純物を100万分の1以下に抑制。量産時でもインク品質を安定させ、製品化の実現につなげました。

国家プロジェクトへの参画

キヤノンは文部科学省が2007年に開始した「元素戦略プロジェクト」へ2012年まで参画しました。プロジェクトの目的は、物質を構成する元素の役割や性質を研究し機能の発現機構を明らかにすることで、新たな高機能材料の創生をめざすものです。キヤノンはこのプロジェクトにおいて、世の中で幅広く用いられている鉛系圧電材料を凌駕する圧電特性を持ちながらも、環境に有害な元素を含まない新材料の創生に取り組みました。その成果が今日の研究開発の基盤になっています。

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39 THE CANON FRONTIER 2016 THE CANON FRONTIER 2016

ブランド価値をデザインする

製品クオリティのために

キヤノンの製品カテゴリーは、カメラやビデオカメラ、インクジェットプリンターなど、一般の方向けからプロのお客さま向けまで幅広いラインアップを持つ製品もあれば、複写機やプロジェクターなどのオフィス向け製品、医療機や半導体露光装置といった産業の現場に向けた製品のほか、写真の楽しみ方を提供するウェブサービスまで、多岐にわたっています。 お客さまの環境やニーズ、好みなどを調査・分析し、それぞれのユースシーンに最適な使いやすさを追求しながら、使い心地に磨きをかけて魅力的なデザインを考えています。 プロダクトデザイン、ユーザーインターフェースデザイン、ユーザビリティーデザイン、ビジュアルデザインの各部門が連携し、一つひとつの商品へ昇華させています。

さまざまな企業活動のために

環境への取り組みやCSR活動、採用活動など、商品以外の活動の中においても、デザインは不可欠な要素です。会社が発信するメッセージを、お客さまはもとより社員にも「伝わる」「わかりやすい形にデザインする」。これもまたデザインの役割です。

明日のために

5年先、10年先の社会はどうなっているのだろうか、仕事や暮らしにどのような変化があるだろうか。そして、そのときデザインはどのように寄り添えるだろうか。未来の姿を考えて、可視化して提案する。キヤノンの未来のための重要な仕事です。

企業のイメージは製品やサービスだけでなく、広報宣伝などから受ける印象によっても形成されます。お客さまの手や目に触れるあらゆる企業活動に寄り添い、高品質デザインの創出や新しい価値の提案などを通じてブランド価値の向上に貢献する、それがキヤノンデザインの姿です。

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THE CANON FRONTIER 2016 40THE CANON FRONTIER 2016

未来を拓くイノベーション Canon Design

技術者海外留学制度の活用

キヤノンでは研究開発のグローバル化の一環として、「技術者海外留学制度」を実施しています。デザインセンターにおいても、この制度を利用してデザイナーを海外へ派遣。留学先の経験を大いに生かしてデザイン開発を行っています。

デザイン賞

デザインセンターでは国内外のデザイン賞へ積極的に参加し、数多くの賞を受賞しています。外部有識者によるデザイン評価の機会は、デザインの品質向上だけでなく、デザイナー自身の成長にもつながっています。

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41 THE CANON FRONTIER 2016 THE CANON FRONTIER 2016

デザインの現場から

「EOS M10」の開発ストーリー

女性や若年層にもレンズ交換式カメラを!

「EOS M10」は、レンズ交換式カメラはハードルが高いから、とあきらめていた方にも楽しめるカメラとして開発されました。最初にしたことはユーザー分析。レンズ交換式カメラに感じるハードルの高さとは何かを調べたのです。その結果出てきたのは、「重い」「難しい」というキーワード。なかには「恐い」というものまでありました。このマイナスイメージをクリアし、撮影を楽しめるカメラをつくりたい。そう考えたのです。

カタチを検討するため3D プリンターで出力した試作品

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THE CANON FRONTIER 2016 42THE CANON FRONTIER 2016

やさしい形と色使いにこだわったデザイン

デザインの方向性は、ニュートラルでやさしいデザインに決定。本体はグリップをなくし、ダイヤルやボタンも少ないシンプルで丸みを帯びたスタイルになりました。ボディーカラーには初めてグレーをラインアップ。これは北欧の雑貨に着想を得た色で、ファッションやインテリアとの相性の良さから選びました。また、カラーバリエーションごとに同色の液晶背面部やビスを使うなど、色使いは細部にもこだわりました。

オプションとの組み合わせも楽しめる

アクセサリーも豊富に用意し、組み合わせて楽しんだり、服や小物とコーディネートできるようにデザインしました。また、本体をカバーするフェイスジャケットは、持ちやすさに加え、質感も重視して革調素材を採用しました。しかも、フェイスジャケットは100種類以上のデザインを起こし、ユーザーの嗜好調査に基づいて採用案を決めています。感覚だけではない、データに裏打ちされたデザインを随所に見ることができます。

カバーのカラーバリエーション検討のためのカラーチップ

本体色は 3 色お気に入りのカバーで着せ替えて

未来を拓くイノベーション Canon Design

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43 THE CANON FRONTIER 2016 THE CANON FRONTIER 2016

独自技術を権利化し競争力を強化する

「論文を読むなら特許を読め。レポートよりも特許を書け」とは、キヤノンの研究開発部門で語り継がれてきた言葉です。キヤノンは創業以来、会社発展の基礎となる発明を権利化してきました。他社の特許を回避して独自技術を育み、その技術を特許で守るのがキヤノンのDNAです。

積極的な知財活動で米国特許件数が日本企業で11年間連続トップ

キヤノンにとって独自技術の権利化は、グローバルに事業を展開するうえで欠かせない重要な活動です。 毎年、1万数千件以上も開発者からアイデアが出され、国や地域ごとに特許出願し、米国における特許取得件数は、日本企業の中で11

年連続1位という実績を誇っています。 キヤノンの知財戦略には二つの側面があります。一つは、キヤノンが保有する独自のコア技術を他者の侵害から保護するという「守り」の面。そしてもう一つが、自社だけでなく他社も使わざるを得ない特許を多数取得することによって、ライセンス交渉等を通して自社事業を有利に展開していく「攻め」の面です。守りと攻めの両面からの知財マネジメントにより、キヤノンの製品開発力を強化しているのです。

●キヤノンの米国特許登録件数推移

年度 総合順位(日本企業順位) 件数

2015年 3位(1位) 4,134件※1

2014年 3位(1位) 4,048件

2013年 3位(1位) 3,820件

2012年 3位(1位) 3,173件

2011年 3位(1位) 2,818件

2010年 4位(1位) 2,551件

2009年 4位(1位) 2,200件

2008年 3位(1位) 2,107件

2007年 3位(1位) 1,983件

2006年 3位(1位) 2,366件

米国商務省発表による年間合計件数をもとに算出※1 2015年は IFI CLAIMSパテントサービスによる

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THE CANON FRONTIER 2016 44THE CANON FRONTIER 2016

独自技術を権利化し競争力を強化する 未来を拓くイノベーション 知的財産活動

米国ゼロックスの独占を打破するために始まった特許戦略

知的財産権を重視するキヤノンの姿勢は、1960年代の複写機分野への参入にさかのぼります。 米国ゼロックス社が保有していた複写機の完璧な特許網を打破するため、キヤノンはゼロックスの特許に触れない、新しい電子写真技術「NP方式」を開発しました。その技術を権利化することで、他社と差別化された独自技術を保護でき、また周辺技術も手に入れることで、他社に必要な技術のライセンス交渉が可能になったのです。こうした経験が知財戦略の基礎となり、キヤノンの企業DNAとして今日まで受け継がれています。

開発者と二人三脚でアイデアを育てる特許エンジニア

キヤノンの知財戦略の大きな特徴は、開発者と特許エンジニアと呼ばれる知財担当者の活発なコミュニケーションにあります。国内の各事業拠点に約300名存在する特許エンジニアは、開発者のアイデアや研究成果をさまざまな角度から検証し、より多くの発明を創出する可能性を探っています。

キヤノンの知的財産の基本方針◎知的財産活動は事業展開を支援する重要な活動である◎研究開発活動の成果は製品と知的財産である◎他社(企業・個人)の知的財産権を尊重し、適切に対応する

●公開特許公報の実際の出願内容(一部)

過去20年のキヤノンの「全国発明表彰」受賞歴と「社内発明」表彰歴

応募名称発明協会主催 全国発明表彰 特別賞 社内発明表彰

受賞年 賞名 受賞年 賞名

CMOSセンサのシェーディング低減技術の発明 2015 日本経済団体連合会会長発明賞 2005 社長奨励賞

機動性に優れた小型軽量デジタルシネマカメラの意匠 2014 内閣総理大臣発明賞 2013 社長賞

クリーナのない中間転写型プリンタの発明 2013 文部科学大臣発明賞 2004 社長賞

ボックス形状のインクジェットプリンタの意匠 2006 朝日新聞発明賞 2005 優秀社長賞

リアルタイムX線撮影装置用大画面センサー 2005 恩賜発明賞 2001 優秀社長賞

高速ズームが可能な小型光学機器の発明 2003 朝日新聞発明賞 2004 優秀社長賞

薄型フラッドベッドスキャナーの意匠 2002 発明協会会長賞 2001 社長賞

オゾンレス帯電方法の発明 1999 特許庁長官賞 1991 優秀社長賞

アクティブ型測距装置の発明 1997 朝日新聞発明賞 1996 社長賞

キヤノンで生まれた発明の受賞歴キヤノンで生まれた発明は、日本国内で多大な功績を挙げた発明等を表彰する「全国発明表彰」(発明協会主催)にて、数々の賞を獲得しています。また社内では、優れた発明を表彰する「社内発明表彰」制度を設け、開発者と発明功労者の努力を高く評価しています。

グローバル企業との提携

自動車に複数のカメラが搭載され、スマートフォンに約10万件の特許が存在するといわれている現在、もはやキヤノン単独で技術を保護することは困難になってきています。 キヤノンは2014年7月、自社の正当性を主張し国際的な特許紛争を避けるために、米国マイクロソフト社とクロスライセンス契約※2

を締結。さらに、「パテント・トロール」といわれる「利益目的で特許訴訟を提起する専門会社」からの訴訟リスクの低減を目的に、米国グーグル社を含めた6社の特許連合「LOTネットワーク」を設立。2015年11月時点で47社が参加しています。他社との連携を視野に入れ、キヤノンは知財を通じた国際競争力をさらに強化していきます。※2 クロスライセンス契約とは、特許権の権利者同士(企業等)が、自らの持つ特許権等を利用できるように許諾する契約のこと

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グローバル研究開発世界220以上の国と地域で事業を展開し、グループ連結で海外売上高比率が8割を超えるキヤノン。各拠点では研究成果を事業として大きく開花させるために、現地の社外研究機関との連携や開発者の交流を活発に行っています。

Canon Information Systems Research Australia Pty. Ltd. オーストラリア / シドニー研究テーマ:画像情報処理、グラフィックス

Imaging Systems Research Div.(キヤノンUSA) 米国 / カリフォルニア州 研究テーマ:質感計測

Canon Research Centre France S.A.S.フランス / レンヌ研究テーマ:無線通信、映像伝送

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新しい事業領域の創出をめざす世界三極体制キヤノンは、新しい事業領域を開拓するイノベーションセンターを日本だけでなく欧米にも拡充し、「世界三極体制」の確立をめざしています。日米欧が地域の特性を生かし、基礎研究から応用研究まで手がけ、新しいビジネスを創出します。 たとえば、米国では医療分野における最先端技術の創出を目的に、光学技術を応用した研究開発を行うための「Healthcare Optics

Research Lab(以下HORL)」を設立。HORLを中心に、キヤノン(日本)の研究開発部門と米国ハーバード大学の関連医療機関との共同研究をスタートさせました。

産学連携、共同研究で最先端の光学技術を追求キヤノンは研究開発の強化を目的に、大学との連携を深めています。 2007年に宇都宮大学と共同で「オプティクス教育研究センター」を設立し、光学教育のカリキュラムを展開しています。光学技術全体を底上げするほか、最先端の光学技術を研究しています。また、2012年には、京都大学「先端医療機器開発・臨床研究センター」の設立を支援し、医用イメージング機器の臨床研究を開始しました。今後も、国内外の大学や研究機関と共同研究を進め、科学技術の発展と事業化をめざしていきます。

海外の大学で技術力と語学力を鍛える留学制度グローバルな研究開発の一環として、キヤノンでは「技術者海外留学制度」を1984年から実施しています。 国際社会で通用する技術者の育成や将来キヤノンの基幹となり得る技術の獲得を目的に、海外の大学で2年間、先端・専門技術を学び、研究を行うものです。これまでに90名以上の技術者が、米国マサチューセッツ工科大学やカーネギーメロン大学、英国ケンブリッジ大学など40校以上に留学し、さまざまな研究を行っています。

国内事業所の主な事業内容

本社 研究開発部門

矢向事業所 インクジェットプリンター、インクジェット化成品の開発

川崎事業所 生産装置、金型の研究開発・生産、半導体デバイスなどの研究開発・量産支援

玉川事業所 品質技術の開発小杉事業所 映像事務機のソフトウエア開発平塚事業所 ディスプレイの開発、微細加工素子の開発・生産綾瀬事業所 半導体デバイスの開発・生産富士裾野リサーチパーク 電子写真技術などの研究開発宇都宮事業所│宇都宮工場 各種レンズの生産│宇都宮光学機器事業所 半導体露光装置・FPD露光装置の開発・生産・サービス│光学技術研究所 光学関連技術の研究開発

取手事業所 映像事務機・化成品の生産、電子写真技術などの研究開発・量産試作や支援

阿見事業所 FPD露光装置ユニットの生産上里事業所 医療機器用デバイスの開発大分事業所 半導体デバイスの生産

超小型内視鏡のプロトタイプ

Healthcare Optics Research Lab. (キヤノンUSA)米国 / マサチューセッツ州研究テーマ:生体光イメージング、メディカルロボティクス

Canon U.S. Life Sciences Inc. 米国 / メリーランド州研究テーマ:遺伝子検査

遺伝子検査用カートリッジ

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未来を拓くイノベーション グローバル研究開発

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