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三江田

過日、白木の海事史学会の例会の席上、何かものせよと

の要請をうけた。そこで表題のような随想をものして見た。

昔は海の中は静かなさびしい所と考えられて居ったが、水

中聴音機の発達につれて、海の中は多額多様の雑音、が満ち

満ちて居ることが判った。最近の海洋観測、研究、調査に

もいろいろな雑音が実に多い。そこでここにそれ等に関す

る感想を述べて文責を果し度い。この拙文が読者に何等か

の御役にたてば、筆者にとって大幸である。

海洋ブlム時代

今から約一

O数年前、米国ウッヅ

lル海洋研究所の有名な学者が

F今では海洋学者は虐待

されているが、将来は多いに尊重される時代が来るF

と喝

破した。その沢な海の第一

次生産力は陸地の三

OO倍以上

であるからとした。最近発行された米国の科学誌サイ

エン

ス上に、編集者アベルソン氏はF若し海洋の研究が今日の

如く急述に発展を続けるならば、次の時代は海洋科学者の

ものになるぷと述べ

て居る。

故ケネディ

1大統領が就任白書で海洋研究の大切な所以

を述べた事は周知の如くである。更にその後の教書で米加

国境で潮汐の大きいフアニデl湾にそそぐ小河口に潮流発

電所を作ると一

一一

O万KWの電力が得られると、その設立

を勧奨した。資源豊な米国で、この天然エネルギー尊重の

構想を発表したのは流石にエラい。日本では首相はもとよ

り、科学技術に関係深い政治家でさえ一人もかかる意見を

述べ

た事を聞かない。

米国ではこの大統領の発言以来海洋ブlム時代が始まっ

た。先づ数百億円を以て一

0カ年聞に完成す可き観測研究

計画がたてられ、今、現に実行されて居る。

最近までの米国水路部は海洋学部と改称、従来水路測量、

海図の作製、航海保安の業務遂行を主務としていたが、さ

らに海洋生物、海水資源や海底資源の開発にまで手を拡げ

た。

- 71ー

アグアラ

ングの流行は民間でスポーツ化した以外、沿岸

の海底地形、地質の研究に利用されている外、少くも海中

作業をするものは殆ど全部が使用可能である。

潜水艇は、

深・中・浅層を問わず、関心の深い会社は自費を以て作製し、

正に四

O種以上に達する。それ等の中には、強化プラスチ

ィグで船体を作

ったもの、小型原子力を利用するもの、無

人で水中テレビを眼とし、

マジッグハンドを手として各種

の生物、底質、海水の採取、流動等の観測可能なものの考

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案等があり、仲々競争が盛んである。

米国各州立や国立、私立の大学には大抵海洋学の誹座が

あり、その研究費の約八

O%は米海軍研究所から供給され

て居る。然もその成果の大部分は公表を許されるから皆喜

んで協力して居る。

この組織こそ米国の海洋学発展の有力

なる原動力の一

つである。

海洋ブlムは単に米国のみではない。英、仏、

独、ソ連、

ノルウェー、スニlデン等の先進国は皆独自の方法と装置

で海洋開発に努力して居る。

中でもフランスはアグアラン

グ、潜航円盤、

パチスカーフ等で大陸棚の開発と深海探検

を強力にすすめている。その中心はモナコの海洋博物館長

のグストウ大佐である。彼は更に浅海底の実験室、居住、

又は殖民等に発展し得る基礎研究を遂行しつつある。ソ連

は海洋観測船の設備と方法とに於て米国をしのぐ状況で、

特に北極洋の海氷の研究は世界一である。

これ等に関連して海洋観測計測機、海洋観測塔、ラジオ

ブイ、フリップ、人工地震探査、音波探査、航空機による

拡散、海流調査、又は水深測量等々の新技術が開発され、

非常な勢で発展しつつある。昨日の新技術は今日ではもう

旧くなる。これに追従するだけでも容易でない。

⑨宇宙航空時代より深海研究ヘ

今や宇宙航空時代で

世界の目は空に向

っている。これに関しては米ソが互いに

仲よく、その発展に協力しつつある事は真に喜ばしい事で

ある。それに関連して字宙航空医学、字宙地質学、生物学、

通信工学等々が新に発足発展しつつある。

人聞が月に軟着

陸しその研究を始める外、各遊星聞を旅行し得る時代もそ

う遠くないであろう。何故宇宙航空が盛んになったか最大

の理由はグこの目で見るぷという事であろう。

現時点に於て未開発の最大な暗黒界は海洋だけである。

私達の生命の発祥地、蛋白供給源として、多大の恩恵を受

けた親を未開発に放って置いては罰が当る。そこで好寄心

や科学的興味、人間生活に直接関係するという点から、当

然この暗黒に向くに違いないと思ったが、果してそのよう

に正に海洋開発の夜明となったものと思う。

- 72 -

人間生活に直接関係するこ、

三の問題を述

そこで弦に、

べてみよう。

現在世界の総人口は三二

t三五億といわれている。然も

出生率と死亡率の関係上平均寿命は漸く延びて、人口増加

は依然として大きく、今後五

O年を経ないで数十憶になろ

うといわれている。処が現在の食糧生産は、漸く現在の人

口を養うに足る程度である。そこで一寸した気象異変が起

きても方々にききんが起る。中共、パ

キスタン、印度等がそ

の一例である。この不足を何で補うべきかは人類の生死に

関する大問題である。

そこで栽培技術の改善、品種の改良

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等々各種の対策が唱えられて居るが、

一番手取早い方法と

なれば今日まで未開発の海洋に頼るより外にない。

更に陸上の鉱物資源は人類の生活の向上、又は戦争の為

めの巨額な消費で漸次回渇しつつある。そこでこれまた未

開発の海洋資源に求めることになる。即ち海洋に溶けて居

る資源、食物資源、海底資源、海底下資源、海洋の持つ

ネルギー資源等々の開発である。

唯ここで一

言述べたい事がある。それは、よく用いられ

グ無尽蔵ーという言葉である。成る程、これ等資源は全

海洋では幾千億屯という富であるから、そのす業に魅いら

れ易い。然し一立方米中の量は極めて微量でそれを事業化

することは頗る困難である。例えば海水中の金は多くは

ロイドの形で居るが海水を蒸発して得ょうとすると、使用

燃料だけでも採算がとれないことが判ったω

更に海底の沈

澱資源となると、その沈積速度は一

000年間に

0・一t

五ミリグラム程度であるから採取方法が適切でないと、そ

の鉱床は荒され、忽ち事業化不能になる。従って海底鉱業

学の発展が望ましい。

海洋科学の知識の少い実業家が無限の豊庫なる言葉を過

信し、事業に乗り出す事は甚だ危険である。

⑨我が国の近況

何事でも海外模倣の好きな日本人が

米、ソの海洋ブlムに感染しない訳はない。実は開発技術

に於て二

t三O年の遅れをとりもどし、一刻も早く先進国

に追い付く為めには急速に進歩し

つつある新技術を導入す

る方法も決して悪くない。やむを得ないことである。

先づ潜水調査船については、北大水産学部の黒潮号、東

海サルベージの東海号等の筒型のもの、次で各の二世が開

発された外、水中調査船として

グよみうり口

Y等が建造さ

れ、共に、日本近海の開発研究に大いに貢献した。更に来

年には大型の六

t七人のりで、六

OOmまで潜水可能の新

水中調査船が完成する。

その活動が期待される。

海中ボーリングの装置としては、従来海中に建てたやぐ

ら、又は小船、筏などから行うものが多かったが、三年前

に水深二

OOmまで、その直下

OOmまで掘さくし

得る太平洋探海工業KKの探海一号が完成した。本船も漸

次改善を加へ

ることによっ

て、海底炭田、油田の探鉱に役

立つようになるであろう。

- 73 -

深海調査については気象庁の凌風丸が主力となって、米

国の援助で出来た、深海捲上機を使用して、各種の調査研

究を行い成果をあげつつあるが、更に今度海洋研究所の白

鳳丸が加り大いに進展するものと信ずる。

両船とも民間の

希望者にも乗船を開放して居ることは真に喜ばしい。唯未

に仏のアルキメデス号やトリエステ号の如き深海潜水艇が

ないのは残念である。

一日も早くその出現を熱望する。

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以上の中グよみうり号グ以外は皆政府の出資で作られた

もので、民間で作ったものは一つもないのである。唯一つ

去る八月四日に石川島播磨造船所で進水した東海大学の大

学丸二世は全く民間の出資で出来たもので、船体こそ小型

であるが、官舶の如く規則にしばられず、自由な活動が出

来る所に妙味がある。大型船だから大きい成果を挙げ、小

型だから立派な仕事が出来ないというものではない。要は

乗組員と観測員の頑と熱意にある。私はこの柏こそ海洋ブ

ームの先端宏切ったものと思う。

海洋資源の開発専門の協会は、私が水路部長時代、東京

水大や地質調査所の方々と相談の上発足した、日本海底資

源開発研究協会が唯一つあるだけである。初代会長は渋沢

敬二一先生で、その御逝去後は石油資源の三村起一先生、理

事長は元海上保安庁長官柳沢米吉氏である。理事、評議員

には関係専門家と学識経験者の殆ど全部を網羅して居る。

唯当時、時期尚早で資金の収集が少く、少壮の青年学徒を

集め得ず、観測施設も不充分で、思うような活動も出来、ず

残念であったが、最近の海洋ブ

1ムの御蔭で、科学技術庁

の後援によって、本式な活動が出来る気運になった事は喜

ばしい。

最近の傾向は政府資金をあてにしないで民間人が自己出

資で海洋開発に乗り出すものが多くなった事である。これ

こそ真の海洋プ

lムである。

先づ第一がアグアラングの普及である。アグアラングの

スポーツ化のための練習所、アクアラングの製作と訓練を

兼ねた会社、アクアラングによる海底資源開発を目途とし

たもの、これを用いての水中観光会社等々、実に多種多用

で十指を越すであろう。

アクアラングの導入当初、その重要性と実用性を強く主

張し、その使用を、

一般潜水業者にすすめた所、在来ヘル

メット式潜水服になれた方々は、アグアラングの危険性を

唱へ

、かかる便利な機械を利用すると、アワビのような貝

類などたちまち取尽くしてしまう等々、愚にもつかない反

対が多かった。然し最近では、その真価が理解され、如何

なる海中作業にも利用されるようになった。

更に一

oi一OOm以浅の海底の詳しい観測を行うべく

海底ドlムを作るとか、海底オイルタンクを建造するとか、

原子力発電所を作るとか、更に浅海底上に四面のピラミッ

ド型のアパートを作り一

OO万人居住の大アパ

ート群を建

造するとか等々実に多種多様な構想が発表されて居る。

最近の傾向としては海洋の知識の充分でない実業家が、

この海洋ブ

1ムに乗って、三洋水路の如き、水路測量、海

洋観測の会社の設立とか、海中観光会社を作るとか、海中

展望台の製作販売を目的とした会社の設立等、自己資金で

- 74 -

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運営しようとするものが続々と出て来た。

これ等の計画考案は何れも興味ある実用的なものである

が、その何れを採っても充分な各種の海洋現象の実際的な

研究調査を経て始めて成功するのである。口でいう程簡単

にはゆかない。そこで私達専門家はこれ等の要詰に応じ、

その科学的知識と経験等によって指導し失敗しないように

すべきである。

なお将来は過当競争による倒産を防ぐベく、出来るだけ

統合して一つの権威あるものになすべく勧告する事が望ま

しい。更

に各種の開発を行う場合に、必ず漁業補償問題や海洋

公害問題が起り得るので、その対策も事前に充分調査する

事が大切だ。

叫大陸棚法のトリック

国連の国際海洋法の中、われ

われにとって最も大事なものは大陸棚法である。

本法は昨

年夏英国が批准したので法的に成立発動している。わが国

は批准して居ないからと言ってノホホ

ンとしては居られな

い。その詳細説明は、門外漢のなすべきことではないので

さしひかえるが、その骨組だけを略述する。

即ちハ門大陸棚

とは領海外縁から水深二OOmまでの海底をさす、同大陸

棚の海底上にあるもの、又は海底下の資源は沿岸田の主権

下に置かれる、伺大陸棚以深の海底でも、その資源を開発

する能力ある国は、大陸棚の延長と見なし得る。処が日刊の

条件は相当困難な事業で、多額の資金と進歩した科学技術

を有する国にして始めて出来るのである。言葉を変えれば

米ソの如き強大国にしてはじめて可能なのである。実は大

陸棚法が発表された当時、筆者はこの点を憂えて、公海自

由の原則が破れ、海洋分割に尤もらしい理由を与えるもの

として警告した事がある。私達が大陸棚の資源に主権が及

ぶと喜んでいる聞に裏道がチャント出来ているのである。

これが大胆なトリッグでなくって何であろう。然しいくら

頑張ってもゴマメの歯ぎしりで今更どうにもならない。

尤も公海自由の原則は米国がピキニでの原、水爆実験施

行以来破れたのである。一度ゆるしたことは二、三度とつ

づく。英、仏、ソ連等々皆なこれにならった。かくして不

自由な公海が増しつつある。

- 75 -

次にこれに関係の深い一例を述べて置く。

米国著名な海洋地質学者メペメナード両博士は、その

名著F海の鉱物資源d

及び

グ太平洋の地質学グにおいてて、

太平洋底のマンガン塊の研究調査を行い、その重要性を強

調した。

マンガン塊がどうして海底に出来るかは二つの説がある

が、未だ結論に達して居ない。然しその量は所によって異

るが一

耐に一

01二0・均に達し然も海底から一

Om位いの

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深さに多い。その成分はマンガン二O%以上の外、銅、鉄、

ニッケル、コバルト等を含み、特殊鋼製造の資源として貴

重である。

これ等の中、銅、ニッケル、コバルト等は既に

陸上では間もなく採りつくされる事が自に見えて居る。従

ってその開発は、海底鉱山業者はもとより製銅業者の熱望

する所で、中には自己資金で開発に乗り出してもよいと唱

える業者も居る。メナード博士はこれ等の理由で四

t五千

mの深海底から適当な方法で採取すると充分採算がとれる

と述べ、これをこのまま放置すると日本や英国が手を延し

て来るだろうと強調し強い刺激を与へた。あの温厚な学者

がかかる強い言をはいたのは、いくら勧告しても動かない

米政府のやり方がしゃくにさわったからであろう。

この為めかどうかは判らないが、最近の情報によると米

国は三兆円を投じて海底鉱山を開発するとの事である。

しそうなると世界の公海の大部分は米国の支配下になり、

私たちは広大な太平洋を目前にして、手も足も出なくなり

指をくわえであれよこれよと見て居るばかりである。そん

な馬鹿気た手はない。

マンガン塊や燐酸塊は深い所にあるばかりでなく、大陸

棚や海底火山脈附近にもある。日木近海のこれ等について

は新野博士が小笠原海嶺上で発見した位しかない。そこで

海底写真や海中テレビ、

海中調査船でその存在を確認し、

ドレッチ、その他の方法で実物を採取、その化学成分を分

析し、充分採算がとれることが判明すれば、海中鉱山開発

公団を作り西経一八

O度線以西の太平洋は日本の大陸棚の

延長下に置くべきである。

一口に開発と言えば簡単であるが、それだけでは何も出

来ない。官民合同で、海洋科学者、海洋土木学者、造船工学

者、航海業者、機械工学者等々の協力の下で先ず採集調査船、

採集用装置の開発、採集地域の環境条件等々各種の観測、

研究を行う必要がある。かくして始めて成功するであろう。

⑮寸秒主義

今や世は一秒一分を争うスピード時代で

ある。少しでも早い方が良いとされて居る。

私はそれそ寸

秒主義と呼ぶことにする。成程国際競技の如きものではス

ピードが大切だ。然しその反面私達の仕事にはスピードは

少々落ても安全に彼岸に達すればよいものが沢山ある。特

に自然科学研究ではスピード発表が国際的に大切な場合も

あるが、スピードを尊びグ落付かない雰囲気d

の中でやった

仕事等には、とても世人の共鳴を受けるような論文は出来

ない。日本でノーベル賞を受けた湯川、

朝永両先生の研究

談を聞いて見ても、着想してから完成までには十数年もか

かっているとの事である。筆者の恩師ノルウェ

ーの海洋研

究所のへランハンセン先生が

一九

一O年頃行

ったミハ

エル

1号の北大西洋の観測成果を発表したのは、その二

O年

- 76ー

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後であった。だれでもあきれる程のノンキさである。然し

その論文にはTSダイヤグラムを導入し、始めて海洋研究

に水塊分析を行って、爾来海洋研究に一期を画した大仕事

を完成した。これこそ遅かろう良かろうである。これは先

生の悠々せまらざる大人の風格から判断して、他人はどう

あれ、われ一人行かんとする強い自信の現われと思う。

実は一秒一分そ争い、命がけで得た時聞を如何に実際に

有効に利用するであろうか反省して見ることが大切だ。乗

物の入口で押し合い、へしあいしている様子も寸秒主義の

一つの現れであろう。乗物から降りて歩く人々の挙動を見

ても判るように、人を押しのけても先に出ょうとする。強

くぶつかって、前の人を倒すような事があってもグ失礼グ

とも言わない。アキレたものである。女子が強くなったと

言われて居るが、確かにこの種の無茶な歩き方をするのは

若い婦人に多い。他人のことなどかまっていられるかとい

った面構えをして猪突する。こんな乱暴な女子を女房に迎

える亭主こそ、ひどい目に合うだろうと寒心する。

最近頻発する変通事故も寸秒主義の現れの

一つであろう。

若い人達は、出来るだけ早く金を儲けて、生活をエンジョ

イしようとする。それ自体は決して悪いとは言わないが、

正当な金儲の方法や能力のないものは勢い自動車強盗、強

盗殺人等の大罪をおかす事になる。こうして僅かな金で

生を榛に振るようなことが起る。真に愚の骨頂である。

大学を卒業してある会社に就職する。少しでも早く出世

しようとあせり、同僚や先輩のむこうずねをかっぱらう様

な暗闘をくり返して平気でいる。寸秒主義の欠点の現われ

である。最近人のやらないような危険を伴う冒険的行為を

遂行して、出来るだけ早く知名人になろうとする傾向が多

くなって来た。充分な環境条件を研究し、それに対応する

万善の用意をし、その上それを遂行し得る体力と技術を持

った人々の探険行為は大いに奨励してよいが、無計画な寸

秒主義の行為は止めて欲しい。

かくて世の中は焦燥的となり、落付きがなく、利個主義

の権化と化し、毎日毎夜思もよらないような事件が続発し、

精神を刺激する結果大半の人々はノイローゼになってしま

う。多くの人々は頭が少々狂っているのではないのか?

寸秒主義の結果がうまく行かないと欲求不満となる。そ

してやけの勘入となって何をし出かすか判らない。これは

思慮分別の足りない若人に多いことは真に危険千万である。

精神異状な病人よりも危い。

何なら精神異常者は名簿に乗

っており、始めから判っているが欲求不満の方々はよく判

らないからである。

広大にして悠久な海洋を研究の対象としている海洋科学

の学徒は、今夏一人あせ

って見た処で何にもならない。寸

- 77 -

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幽幽剛山l幽H幽m1出lllllll刷出mun幽mn11酬幽l幽l凶山出Ill山山山山削幽出IIIIU圃園町圃珊圃闇llfflllll叫雌幽H皿H凶目出幽雌UlllllU山山IIIIUIIII雌JI.

秒主義に陥っていたら失敗する。落付いてしっかりした自

信を以て日本民族、いや世界全人類の福祉増進の為め研究

調査を進めて頂き度い。それこそ真の平和日本建設の闘士

であろう。

現在日本には多数の世界的海洋科学者を始めとし少壮有

為の学徒が雲の如くに居り、寝食を忘れて研究に没頭して

いる。これを筆者が神戸の海洋気象台で日高、松平諸君と

共に岡田武松台長の指導の下で新しい海洋学の建設に精進

した当時と比較して実に隔世の感がある。これ等の有為の

学者が海洋ブ1ムに乗って海のものとも山のものとも判ら

ない多数の名(迷)案計画に迷わず、寸秒主義に堕せず、

政府はもとより、関係学者、関係業者の支援の下に各の専

門方面で協力し、海洋の真の姿をつかむ事によ

って各種の

迷突が真の名案として実現し得る時期が必ず来るものと信

ずる。

(東海大学海洋学部)

- 78ー