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Title リビングラジカル重合による機能性高分子の合成と連鎖 制御の試み Author(s) 澤本, 光男; 大内, 誠; 寺島, 崇矢 Citation 日本化学繊維研究所講演集 (2010), 67: 27-34 Issue Date 2010-03 URL http://hdl.handle.net/2433/153361 Right 日本化学繊維研究所 Type Journal Article Textversion publisher Kyoto University

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Page 1: Title リビングラジカル重合による機能性高分子の合 …...Type Journal Article Textversion publisher Kyoto University リビングラジカル重合による機能性高分子の合成と連鎖制御の試み

Title リビングラジカル重合による機能性高分子の合成と連鎖制御の試み

Author(s) 澤本, 光男; 大内, 誠; 寺島, 崇矢

Citation 日本化学繊維研究所講演集 (2010), 67: 27-34

Issue Date 2010-03

URL http://hdl.handle.net/2433/153361

Right 日本化学繊維研究所

Type Journal Article

Textversion publisher

Kyoto University

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リビングラジカル重合による機能性高分子の合成と連鎖制御の試み

津本光男・大内誠・寺島崇矢

Mitsuo Sawamoto, Makoto Ouchi, Takaya Terashima

京都大学大学院工学研究科高分子化学専攻

, .はじめに

1990年代に見出されたリビングラジカル重合は,我々の金属錯体触媒による精密重合

を含めて,世界的に広範に研究が展開され,重合制御原理(休止種・ドーマント種によ

る制御) ,金属錯体触媒の設計と開発,機能性モノマー(保護基なし)の精密重合,機

能性高分子の精密合成(構造,分子量,機能基の制御)などに諸課題について多数の論

文と研究成果が蓄積されている(図 1)。1-3)

とくに, リビングラジカル重合は,高分子化学や高分子合成のみならず,高分子物理

はもとより,有機合成化学,有機金属化学,材料科学,物理学,生物学,医学などの関

連分野においても,次のような特徴と利点のために,確立された「精密合成ツール」と

して広く認識されるようになっており,また実際の適用例も急増している。我々の金属

触媒による重合も例外ではない。

・機能性高分子の精密合成が可能

・適合可能なモノマーが幅広い

・合成が簡便で再現性に優れる

-所望の高分子の設計が容易

.モノマーの機能性基保護が不要

・穏和な反応条件で適用可能

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2010年 3月

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図, • リビングラジカル重合による星型ポリマーの合成

-27-

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本講演では,これらの進歩を踏まえて,とくに多数の機能性基を所定の位置に配置し

た共重合体や機能性中分子・高分子の精密合成について,下記のような我々の最近の研

究結果について要約する[第59回高分子学会年次大会 (2010年 5月,横浜)発表予定]。

(A)機能性モノマーのリビングラジカル重合

(C)多官能性グラジエント共重合体

(B)多官能性ランダム共重合体

(D)連鎖制御と機能基の精密配置

2. 機能性モノマーのリビングラジカル重合

言うまでもなく,遷移金属錯体によるリビングラジカル重合で、は,触媒系の開発が必

須であり,これまでにもルテニウム,銅,鉄,ニッケルなどを中心金属とする優れた触

媒が多数開発されている(図 2,図3)。

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図2. ラジカルリビング重合のルテニウム触媒

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図3. ラジカルリビング重合の鉄触媒

-28- 化繊講演集第67集

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図4. Ru触媒系によるアルコール溶媒中で、の機能性モノマーのラジカルリビング重合

とくに,ルテニウムのベンタメチルシクロペンタジエニル錯体 [RuCp*Cl(PR3)2Jに

アミノアルコール [(CH3)2NCH2CH20HJ を助触媒として組み合わせた触媒系は優れ

ており,水酸基,アミノ基,ポリエーテル鎖 CPEG)等の極性官能基に対して耐性があ

り,またプロトン性極性溶媒においても,高い触媒活性と重合制御能を発揮する(図 4)。

事実,この触媒系などにより,アルコールあるいは完全な水溶液中で,多数の機能性メ

タクリレートやアクリレートのリビングラジカル重合が可能となっており,分子量分布

がきわめて狭く,分子量が規制された種々の高分子を容易に均一系で合成することがで

きる。また,親水性の助触媒の使用により,従来困難で、あったルテニウム錯体の生成物

からの除去が,簡便かっ高効率(除去率 95出以上)で実現している。

これらの重合系は,次に述べるような,複数の官能基を高分子鎖の所定の位置に配列

した種々の機能性高分子あるいは機能性中分子を精密合成することができる。

3. リビングラジカル重合と機能性モノマーの共重合体

ラジカル重合の大きな特徴は,多数のモノマーがその側鎖の構造によらず類似の重合

反応性をもち,ランダム共重合が容易である点にある。ただし,これらの共重合では,

停止あるいは連鎖移動反応のために,生長末端の失活が起こり,そのため,通常のラジ

カル共重合で、は,反応初期と反応後期とで,モノマーの反応性の違いにより異なる組成

の共重合体が生成し,最終生成物はこれらの混合物となる可能性がある。

2010年 3月 -29-

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図5.機能性モノマーのラジカルリビング重合による各種共重合体:機能基の精密配置

共重合が容易であるというラジカル共重合の長所を生かしつつ,ここにリビング重合

の特徴である分子量(分布)の精密制御と副反応の効果的抑制を導入すると,すべての

共重合体生長種が失活することなく生長するため,分子量のみならず,試料中の共重合

体組成が規制された(均一な)機能性共重合体を合成することができる(図 5)。

以下では,このようなラジカル共重合とリビングラジカル重合の組み合わせ(協働)

の例を述べる。

4. 多官能性ランダム共重合体:ランダム・ブロック共重合体

界面活性剤(両親媒性分子),色素分散剤,フォトレジストなどは,多くが 2-3種以

上の機能基や置換基をもっランダムあるいはブロック共重合体であり,とくに最近では,

機能基の分布の規制と機能を分担する複数の機能基の配置が重要となっている。その意

味でも,種々の官能基をもっモノマーのリビングランダム共重合は興味が持たれる。

図6には,このような「機能を分担した」ランダム共重合にリビング重合を組み合わ

せた例を示す。ルテニウム触媒を用いると,溶解性などの制御に向けたPEGメタクリレ

ートとメチルメタクリレート (MMA)のランダム共重合,および有機芳香族系低分子

色素への親和性 (π-スタッキング可能なベンジル基)と粒子凝集防止能(かさ高い2ー

メチルヘキシル基)のためのリビングランダム共重合が可能となるが,これらを連続し

て行うと, 2つの部分鎖(セグメント)が,それぞれ 2種(以上)の機能基を配置し,

異なる目的のために設計された高分子,いわゆる「ランダムーブロック共重合体Jが生

成する。

また,機能性モノマーのリビングランダム共重合は,ランダムに側鎖官能基を配置し

た(局在化やブッロク重合性が小さし、)分子量数千から数万の機能性中分子の精密合成

にとくに適している。

-30- 化繊講演集第67集

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5.多官能性グラジエント共重合体:タンデム・グラジエント共重合4)

側鎖官能基の配列(分布 ・密度)が,高分子鎖の一方の末端から他方へと連続的に変

化する共重合体を「グラジエント共重合体J (傾斜共重合体)と呼び,ラ ンダム(統計

的)共重合体とは異なる性質を示すことが予想されている。グラジエント共重合体は,

組成が変化するモノマー混合物の連続添加やモノマー固有の反応性差を利用する方法な

どにより,これまでも合成例がある。最近,筆者らは,アクリル系モノマーのリビング

ラジカル重合において,モノマーと系中のアルコールとのエスe

テノレ交換を利用した,新

たな合成法(タンデム ・グラジエント共重合)を見出した(図 7)。

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タンデム ・グラジエンート共重合:エステル交換とリビング生長の並列制御

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図7.

2010年 3月 -31ー

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図8. MMAEMAタンデム・グラジエント共重合

すなわち,カルボン酸エステルは金属アルコキシドの存在下で,アルコールとエステ

ル交換を起こすことが知られているが ルテニウム触媒による重合では しばしば金属

アルコキシド [Al(OiPr)3;Ti(OiPr)4; iPr = CH2CH(CH3)2Jが有効な助触媒となるこ

とに着目し,ルテニウム錯体/金属アルコキシド触媒系によるMMAのリビングラジカル

重合を,過剰のアルコール (EtOH)の存在下で検討した(図 8)。

反応初期では,MMAが単独重合するが,これと並行して, MMAとEtOHとのエステ

ル交換が進行して,エチルメタクリレート (EMA)が次第の生成し,両モノマーはほぼ

同じ速度でリビング共重合した。こうして,開始末端付近ではMMA成分が多く,一方

停止末端に近づくにつれてEMA成分が多くなるグラジエント共重合体が生成した。生長

反応はリビングであるため,もちろん生成高分子の分子量も規制されている。

この反応は, リビング生長とモノマーの変換反応が並行して(タンデムに)進行する

ため, iタンデム・ランダム共重合Jと呼んでいる。機能基をもっアルコールを共存さ

せると,機能基が傾斜配列したグラジエント共重合体が得られると期待される。

6. 連鎖制御と機能基の精密配置: 鋳型開始剤と特異的分子認識による

付加重合でのシークエンス・連鎖制御の試み5)

高分子の主鎖に沿ったモノマー単位(繰り返し単位)の並び方あるいは序列を,一般

に連鎖あるいはシークエンスという。上述のランダムあるいはブロック共重合でも,あ

る種の連鎖制御が行われてはいるが,天然高分子におけるDNAあるいはタンパク質でみ

られる,まさしく完壁な連鎖制御からはほど遠い。

最近になって,筆者らを含めて,合成高分子における連鎖制御は,今後の高分子科学

における最重要課題として,広く認識されるようになってきた。このような人工系にお

ける連鎖制御においては,次の 3要素がとくに重要である:

-32ー 化繊講演集第67集

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図9. 付加連鎖生長重合における連鎖(シークエンス)制御:連鎖情報の転写と発現

(A)精密重合反応:所定の生長反応のみが起こる精密・リビング重合の策定

(8)連鎖情報転写:所定の連鎖配列の重合系への伝達とモノマーの選択的認識

(C)連鎖構造発現:転写された連鎖情報の重合系における発現

リビングラジカル重合の実現により,課題(A)は達成されているが,課題(8)と課題(C)

にていては,研究が端緒についたばかりである。

筆者らは,このような判断に立ち,ルテニウム触媒によるリビングラジカル重合を用

い[課題(A)] ,連鎖情報を反映した「鋳型」を分子内に組み込んだ「鋳型開始剤」を設

計し[課題(8)] ,鋳型により制御された精密重合 [課題(C)]を検討している(図 9) 。

すなわち, i鋳型開始剤J ( 2 )として,剛直な芳香環にリビングラジカル重合開始

点(ハロエステノレ) ,および分子認識能をもっアミノ基を鋳型としてオルソ位に配置し

た(図10)。この鋳型開始剤の存在下,アミノ基で分子認識されるメタクリル酸 (MAA)と,この酸基がエステルで、封鎖されたMMAの等量混合物を基質として 競争的ラジカ

ル付加反応を行った。鋳型のない類似の開始剤 (ECPA)による競争付加では, MAA はMMAより約 3倍反応性が大きいが,鋳型開始剤2を用いると反応性比は37となり,

モノマーの選択性が約10倍増幅されることが明らかとなった。別途, NMRによる解析か

ら,予想通りMAAは2とイオン相互作用をしてイオン対を形成することも確認した。

これらの結果は,開始剤に配置した鋳型が,特定のモノマー (MAA)を分子認識し

て開始点近傍へと誘導し,モノマ一本来の反応性差を大きく上回る選択性でラジカル付

加を引き起こしたことを示している。さらに, 2と酷似した構造でありながら,鋳型が

開始点のメタ位に配置された開始剤 (3)では このような明確な選択性の増幅はまっ

たく見られなかった。

2010年 3月 -33-

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図10.鋳型開始剤による特定モノマーの高選択的ラジカル付加:連鎖制御の可能性

現在までの結果は,鋳型による分子認識が特定のモノマーの重合増幅を発現したに過

ぎないが,より高度で多数のモノマーの個別認識能と連鎖情報の転写能をもっ鋳型を開

始剤に配置することにより,遺伝子に見られるような連鎖(シークエンス)制御の可能

性を示唆するものと判断される。今後の進展に期待して,検討を続けている。

文献

1)原報: (a)加藤充,上垣外正己,津本光男,東村敏延,高分子学会予稿集, 43,1792

(1994). (b) M. Kato, M. Kamigaito, M. Sawamoto, T. Higashimura, Macro-molecules, 28,1721 (1995). (c) T. Ando, M. Kato, M. Kamigaito, M. Sawa-moto, Macromolecules, 29, 1070 (1996).

2)化学繊維研究所講演会要旨: 津本光男ら,化級研誘凝集 56,61 (1999); 57, 9

(2000); 58, 1 (2001); 59, 21 (2002); 60, 9 (2003); 61, 11 (2004); 62, 73 (2005); 63, 1 (2006); 64, 19 (2007); 65, 1 (2008).

3)総説:(a) M. Ouchi, T. Terashima, M. Sawamoto, Chem. Rev., 109, 4963 (2009). (b) M. Ouchi, T. Terashima, M. Sawamoto, Acc. Chem. Res., 41, 1120 (2008). (c) M. Kamigaito, T. Ando, M. Sawamoto, Chem. Rec., 4, 159 (2004). (d)安藤剛,上垣外正己,津本光男,高分子論文集, 59,199 (2002). (e) M. Kamigaito, T. Ando, M. Sawamoto, Chem. Rev., 101, 3689 (2001). の上垣外正己,津本光男,現代化学, No. 6, 34 (2001).

4) K. Nakatani, T. Terashima, M. Sawamoto, J. Am. Chem. Soc., 131, 13600 (2009).

5) S. Ida, T. Terashima, M. Ouchi, M. Sawamoto, J. Am. Chem. Soc., 131,10808 (2009).

-34- 化繊講演集第67集