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製品紹介>タイでの表面改質・TD 処理のご紹介 81 製品紹介 Products タイでの表面改質・TD 処理のご紹介 1.はじめに DAIDO PDMTHAILANDCO., LTD.(以下 DPT いう)は,主に金型として使用される工具鋼の加工・販 売を中心に 1995 2 月に設立された.スタートとなっ た工具鋼販売だけでなく,金型製造に関連するサービス 強化を目的に,2004 年以降は熱処理・表面処理サービ スの拡充を進め,今では多くのユーザーに活用して頂い ている. 2.DPTの熱処理・表面処理 DPT が保有する熱処理・表面処理設備の一覧を表1 に示す.熱処理に関しては,真空焼入れ炉と大気焼戻し 炉を保有し,JIS-SKD11SKD61 などのダイス鋼を中心 に熱処理を行っている.2013 年には真空焼入れ炉を 1 基増設し 3 基体制となり,よりタイムリーな納期対応が できる体制を整えた. 窒化処理については,従来よりソルトバスを利用した 塩浴浸流窒化炉(PS 処理)を保有していたが,2013 にガスを利用したガス浸流窒化炉(PSG 処理)を増設 した.これにより,鍛造用金型など比較的窒化深さの深 い窒化(PS 処理)が適する金型と,ダイカスト金型な ど浅い窒化(PSG 処理)が適する金型の 2 種類に対応 することが可能となり,用途・必要特性に合わせてユー ザーに選択して頂ける体制を整えた. 一方,主に冷間プレス金型を対象とした TD 処理 Toyota Diffusion Coating Process)は,2012 年より稼働 を開始した.近年の注文量の増加に対応するため 2013 年には処理炉増設による能力増強も図った.今回は, TD 処理について紹介する. 区分 設備名 有効寸法(mm台数 備考 熱処理 真空焼入れ炉 900×600×600 1 1200×900×900 2 2013年1炉増設 焼戻し炉 φ800×1500 5 φ600×700 7 2014年2炉増設 表面 処理 塩浴浸流窒化炉 (PS) 600×650×1300 2 ガス浸流窒化炉(PSG) φ1000×1500 1 2013年設置 TD 処理炉 φ400×600 2 2013年1炉増設 表1 DPT 保有設備一覧 3. TD処理の特長 TD 処理とは,バナジウム(V)を含む塩浴中に金型 を浸漬して炭化物被覆を行う表面改質方法である.塩浴 中の V と金型材中の炭素(C)が拡散して結合すること で,約 3000 HV の極めて硬い VC がコーティングされ 1.実際の TD 処理品のミクロ組織を1 に示す.自 動車の車体部品などの冷間プレス用の金型を中心に,日 本では広く適用されている表面改質方法である. 図 1 TD 処理品の断面光学顕微鏡写真(ミクロ組織) 4. DPTの TD処理 DPT TD 処理は塩浴処理炉のほか,前後の工程とし て予熱炉,冷却装置,焼戻し炉,洗浄装置を保有して おり,工程順に沿った設備レイアウトとなっている.ま た,2013 年の後処理炉増設により従来対比で約 2 倍の 処理能力となった.これにより,よりタイムリーな納期 対応を実現した.TD 処理の塩浴から引きあげた直後の 状態を2 に示す. DPT 実施の TD 処理について性能評価を目的に,大 同特殊鋼㈱で試験を実施した.3 に示す試験方法で, 780 MPa 級高張力(ハイテン)板を被加工材として,曲 げしごき工程を含む順送プレスの金型(パンチ)に表面 処理を実施し,耐かじり性を評価するものである.評価 結果を4 に示す.DPT 実施の TD 処理品は,比較と する日本国内表面処理メーカー実施の TD 処理品とほぼ 同等の寿命となり,高張力(ハイテン)板加工に対する 高い耐かじり性が得られることを確認した.

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製品紹介>タイでの表面改質・TD処理のご紹介 81

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タイでの表面改質・TD処理のご紹介

1.はじめに

DAIDO PDM(THAILAND)CO., LTD.(以下 DPTという)は,主に金型として使用される工具鋼の加工・販売を中心に 1995年 2月に設立された.スタートとなった工具鋼販売だけでなく,金型製造に関連するサービス強化を目的に,2004年以降は熱処理・表面処理サービスの拡充を進め,今では多くのユーザーに活用して頂いている.

2.DPTの熱処理・表面処理

DPTが保有する熱処理・表面処理設備の一覧を表1に示す.熱処理に関しては,真空焼入れ炉と大気焼戻し炉を保有し,JIS-SKD11,SKD61などのダイス鋼を中心に熱処理を行っている.2013年には真空焼入れ炉を 1基増設し 3基体制となり,よりタイムリーな納期対応ができる体制を整えた.窒化処理については,従来よりソルトバスを利用した

塩浴浸流窒化炉(PS処理)を保有していたが,2013年にガスを利用したガス浸流窒化炉(PSG処理)を増設した.これにより,鍛造用金型など比較的窒化深さの深い窒化(PS処理)が適する金型と,ダイカスト金型など浅い窒化(PSG処理)が適する金型の 2種類に対応することが可能となり,用途・必要特性に合わせてユーザーに選択して頂ける体制を整えた.一方,主に冷間プレス金型を対象とした TD処理

(Toyota Diffusion Coating Process)は,2012年より稼働を開始した.近年の注文量の増加に対応するため 2013年には処理炉増設による能力増強も図った.今回は,TD処理について紹介する.

区分 設備名 有効寸法(mm) 台数 備考

熱処理真空焼入れ炉 900×600×600 1

1200×900×900 2 2013年1炉増設

焼戻し炉 φ800×1500 5φ600×700 7 2014年2炉増設

表面処理

塩浴浸流窒化炉(PS) 600×650×1300 2ガス浸流窒化炉(PSG) φ1000×1500 1 2013年設置TD処理炉 φ400×600 2 2013年1炉増設

表1 DPT保有設備一覧

3 . TD処理の特長

TD処理とは,バナジウム(V)を含む塩浴中に金型を浸漬して炭化物被覆を行う表面改質方法である.塩浴中の Vと金型材中の炭素(C)が拡散して結合することで,約 3000 HVの極めて硬い VCがコーティングされる 1).実際の TD処理品のミクロ組織を図 1に示す.自動車の車体部品などの冷間プレス用の金型を中心に,日本では広く適用されている表面改質方法である.

図 1 TD処理品の断面光学顕微鏡写真(ミクロ組織)

4 . DPTの TD処理

DPTの TD処理は塩浴処理炉のほか,前後の工程として予熱炉,冷却装置,焼戻し炉,洗浄装置を保有しており,工程順に沿った設備レイアウトとなっている.また,2013年の後処理炉増設により従来対比で約 2倍の処理能力となった.これにより,よりタイムリーな納期対応を実現した.TD処理の塩浴から引きあげた直後の状態を図 2に示す.

DPT実施の TD処理について性能評価を目的に,大同特殊鋼㈱で試験を実施した.図 3に示す試験方法で,780 MPa級高張力(ハイテン)板を被加工材として,曲げしごき工程を含む順送プレスの金型(パンチ)に表面処理を実施し,耐かじり性を評価するものである.評価結果を図 4に示す.DPT実施の TD処理品は,比較とする日本国内表面処理メーカー実施の TD処理品とほぼ同等の寿命となり,高張力(ハイテン)板加工に対する高い耐かじり性が得られることを確認した.

電気製鋼 第 85巻 1号 2014年82

5 . おわりに

タイでは自動車産業の伸びに従って,各種の金型生産が急速に拡大している.今後も幅広いユーザーの要求に応えるため,工具鋼の加工・販売はもちろんのこと,熱処理・表面処理などの付帯サービスの拡充にも努め,これまで以上にお客様から必要とされる会社に成長していきたい.

(文 献)1)並木邦夫:はじめての金型材料(2006),172

(問合せ先)Daido PDM (THAILAND) Co., Ltd.森川秀人TEL:+66-38-545-999e-mail:[email protected]

図 2 TD処理中(塩浴から引き上げた直後)の写真

図4 曲げしごき試験での評価結果(TD処理の比較)

図3 曲げしごき試験模擬図と試験条件(パンチや被加工材の矢印がかじり部位)