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[ 文献紹介 ] 長区域大腿膝窩動脈閉塞病変に対する 偽腔もしくは真腔アプローチによる 初期成績と3年開存率の比較 Sub vs . Intra -Long CTO- 曽我 芳光 先生 財団法人 平成紫川会 小倉記念病院 循環器内科 部長 Yoshimitsu Soga, et al., Initial and 3-year results after subintimal versus intraluminal approach for long femoropopliteal occlusion treated with a self-expandable nitinol stent. Journal of Vascular Surgery. 2013; 58(6): 1547-55.

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Page 1: Subvs Intra - Cordis Japan Soga, et al., Initial and 3-year results after subintimal versus intraluminal approach for long femoropopliteal occlusion treated with a self-expandable

[ 文献紹介 ]

長区域大腿膝窩動脈閉塞病変に対する偽腔もしくは真腔アプローチによる初期成績と3年開存率の比較

Sub vs. Intra-Long CTO-

曽我 芳光 先生

財団法人 平成紫川会 小倉記念病院循環器内科 部長

Yoshimitsu Soga, et al., Initial and 3-year results after subintimal versus intraluminal approach forlong femoropopliteal occlusion treated with a self-expandable nitinol stent.Journal of Vascular Surgery. 2013; 58(6): 1547-55.

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 大腿膝窩動脈閉塞に対する偽腔アプローチは1989年にBoliaらによって初めて提案された1。その後、BoliaとReekersは、0.035インチのループガイドワイヤーとサポートカテーテルを用いて閉塞部位の再疎通を行う独自の手技を報告した2, 3。このアプローチは容易で費用が安いため、多くの大腿膝窩動脈閉塞患者に使用されてきた。しかし、ワイヤーが偽腔を過度に越えた後に遠位真腔を通過する場合、再入が困難になることが多い。病変は当初の長さより長くなり、過拡張のために血管破裂などの重篤な合併症が生じる可能性がある。一方、真腔アプローチでは、バルーンに対する反応は良好であるが、成績は術者の経験によって左右され、このアプローチはより多くの時間と費用を要する4。

 近年、ステントの開発のおかげで、比較的長区域の大腿膝窩動脈病変に対して高い開存率が得られてきた5-7。大腿膝窩動脈病変に対する血管内治療(EVT)の使用は著しく増加しており、EVTはより複雑な病変に積極的に使用されてきた8。しかし、急性期に偽腔にステントを留置した多くの症例、特に石灰化病変を有する症例では、不十分な拡張およびリコイルが生じている。さらに、真腔アプローチを用いたステント留置術では十分な狭窄後拡張が可能であり、好ましい急性期成績が得られ、これが開存率に役立つ可能性がある。 本稿では、偽腔アプローチまたは真腔アプローチを用いて長区域大腿膝窩動脈閉塞に対するステント留置術を受けた患者における3年後の開存率の比較結果を報告する。

長区域大腿膝窩動脈閉塞病変に対する偽腔もしくは真腔アプローチによる初期成績と3年開存率の比較

[ 背 景 ]

真腔内大腿膝窩動脈ステント留置術では好ましい拡張および直後の良好な成績が得られる ; ただし、これが長期開存性に役立つかどうかは不明である。われわれは、真腔アプローチまたは偽腔アプローチのいずれかを用いた長区域閉塞に対する大腿膝窩動脈ステント留置術後の開存性を比較した。

[ 方 法 ]

2004年1月から2011年12月までに長区域大腿膝窩動脈閉塞に対して真腔アプローチ(651件)または偽腔アプローチ(251件)のいずれかを用いて施行された902件の血管内手技についてレトロスペクティブ解析を行った。本研究の成績は周術期合併症発生率 ; 一次開存率、補助一次開存率および二次開存率 ; ならびに全生存率とした。

[ 結 果 ]

生存者の平均追跡調査期間は29±16ヵ月であった。真腔アプローチと偽腔アプローチによる技術的成功率(91% vs 90% ; P=0.71)および周術期合併症発生率(11% vs 13% ; P=0.34)はほぼ同じであった。ただし、手技時間は真腔アプローチの方が有意に長かった。また、足関節-上腕血圧比の改善も同程度であった。真腔アプローチから始めた症例の4分の1は偽腔アプローチに切り替えられた。3年後の一次開存率、補助一次開存率および二次開存率には有意な群間差はみられなかった(55% vs 53% ; P=0.30 ; 65% vs 74% ; P=0.11 ; および80% vs 85% ; P=0.37)。また、3年後の全生存率にも有意な群間差はみられなかった(84% vs 86% ; P=0.55)。ベースライン時の差の補正後も、偽腔アプローチと真腔アプローチによる一次開存率はほぼ同じであることが認められた(ハザード比、1.21 ; 95%信頼区間、0.94-1.56 ; 補正後P=0.14)。

[ 結 論 ]

両アプローチによる初期成績および3年後の開存率はほぼ同じであった。手技時間が長く、クロスオーバー率が高いことを考えると、ステント留置術による長区域大腿膝窩動脈閉塞の治療には偽腔アプローチの方が望ましいと考えられることが示唆される。(J Vasc Surg 2013; 58: 1547-55.)

財団法人 平成紫川会 小倉記念病院循環器内科 部長  曽我 芳光 先生

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研 究 対 象 集 団

 本研究はプロスペクティブに維持されたデータベースの多施設共同レトロスペクティブ解析として実施した。本研究に参加した施設では、2004年1月から2011年12月までに3623例の治療連続患者が新規大腿膝窩動脈疾患に対してEVTを受けた。これらの症例のうち、2721例の患者は手技不成功(152例)、狭窄性または短い(<10cm)閉塞病変(2452例)、バルーンによる血管形成術のみによる治療(51例)、あるいは不十分な手技データ(44例)のために除外した。したがって、長区域(>10cm)新規閉塞病変に対する大腿膝窩動脈ステント留置術が成功した902例の患者が特定され、本研究で解析した(図1)。 各病院のデータベースからベースライン時の臨床および病変特性ならびに手技データを収集した。生存者の平均追跡調査期間は29±16ヵ月であった。

手 技および 追 跡 調 査

 EVTの前日またはそれまでに2剤併用抗血小板療法(アスピリン100mg/日+クロピドグレル75mg/日、トリクロピジン100mg、1日2回またはシロスタゾール100mg、1日2回)による投薬が全患者に行われた。同側または対側のいずれかの大腿動脈穿刺が使用された。6Fのシースの挿入後、5000IUのヘパリンの動脈内ボーラス注射が行われ、200秒を超える活性凝固時間を維持するために、必要に応じて補充が行われた。施設の戦略または病変(患者)背景に応じて各術者が真腔内経路または偽腔内経路を選択した。 偽腔アプローチでは、完全閉塞病変の通過に0.035インチの親水性ガイドワイヤー(Radifocus ; テルモ、東京)と4Fのサポートカテーテル(Grideach ; テルモなど)が使用された。ガイドワイヤーの先端に形成されたループを用いて0.035インチの親水性ガイドワイヤーが遠位に進められた。ワイヤーのループとカテーテルが偽腔を通って進められ、ワイヤーが遠位真腔に再入された。順行性アプローチによる再入が失敗した場合、再疎通を達成するため、順行性-逆行性インターベンションによる動脈偽腔内フロッシングを用いて再入が行われた9。 真腔アプローチでは、0.018または0.014インチのガイドワイヤーを病変に進めるための補助としてマイクロカテーテルが使用された。最初に柔らかいガイドワイヤーを使用し、その後、病変に応じて徐々に硬いタイプに変更した。必要に応じて体表面超音波検査および血管内超音波検査(IVUS)で確認しながら、ガイドワイヤーができる限り血管真腔を通過するように手技が施行された。ガイドワイヤーが順行性に真腔を通過することが困難である場合、膝窩動脈または脛骨動脈からの逆行性アプローチを用いて、遠位真腔からマイクロカテーテルの補

助を受けて真腔内にガイドワイヤーが進められた。その後、真腔内でランデブーおよびキッシングマイクロカテーテル法を用いてワイヤーが閉塞部位を通過した10, 11。高度な石灰化などによって真腔アプローチの継続が困難であった場合、術者は偽腔アプローチへの切替え(クロスオーバー)の決定を下すことができた。 ワイヤー通過後、ステント留置に先立ち、適切なサイズの血管形成術用バルーンで前拡張が行われた。その後、病変全体に対応するように3タイプのナイチノールステントが移植された。Luminexx(Bard, Murray Hill, NJ)、S.M.A.R.T.(Cordis Johnson & Johnson, Miami, Fla)、およびZilver518(Cook Medical, Bloomington, Ind)である。ステントのタイプは術者が決定し、ステントのサイズは対照血管径より1~2mm大きいものが選択された。ステント留置後、全症例で後拡張が行われた。 手技後、全患者に生涯にわたるアスピリン(100mg/日)が処方され、長期(1ヵ月以上)にわたるクロピドグレル75mg/日、トリクロピジン100mg、1日2回またはシロスタゾール100mg、1日2回の投与が推奨された。ステント破損の存在およびステントが留置された血管は、少なくとも6ヵ月ごとにそれぞれX線検査およびデュプレックス超音波検査でモニターされた。

方 法

図1 �本試験のフローチャート

新規大腿膝窩動脈病変に対する血管内治療施行3623例

長区域大腿膝窩動脈病変に対する血管内治療施行1019例

長区域新規閉塞病変に対する自己拡張型ナイチノールステントによる大腿膝窩動脈ステント留置術が成功した902例

[�ITT解析�]

[�As�treated解析�]

クロスオーバー(真腔アプローチ→偽腔アプローチ)163例(25%)

超音波ガイダンス*

IVUSガイダンス*

双方向のアプローチが必要であった例

120(18%)

239(37%)

253(39%)

19(8%)

41(16%)

94(37%)

真腔アプローチ651例(72%)

真腔アプローチ488例(54%)

偽腔アプローチ251例(28%)

偽腔アプローチ414例(46%)

手技不成功152例

狭窄性または短い(<10cm)閉塞病変2452例

バルーン血管形成術単独51例

ウォールステントまたは手技データ不備44例

*P<0.0001

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長区域大腿膝窩動脈閉塞病変に対する偽腔もしくは真腔アプローチによる初期成績と3年開存率の比較

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研 究 の 評 価 項目

 主要評価項目は一次開存率とし、副次的評価項目は周術期合併症発生率、補助一次開存率、二次開存率および全生存率とした。

定 義

 一次開存は、再狭窄または再血行再建術を伴わない治療血管と定義した。補助一次開存は、開存性を改善するために再血行再建術を受けた開存治療血管と定義した。二次開存は、後に完全に閉塞し、再血行再建術によって再開された標的血管と定義した。再狭窄は、デュプレックス超音波検査による収縮期最大流速比が2.5倍超の場合と定義した。デュプレックス超音波検査においてステントセグメントのシグナルが検出できない場合、完全閉塞と評価された。周術期合併症には、主要有害事象(手技後48時間以内の死亡、急性心筋梗塞および脳卒中)、腸出血、遠位塞栓、外科的修復、腎機能の悪化、輸血、アクセス部位合併症、発熱または感染症、あるいは入院期間延長、その他の理由が含まれていた。腎機能の悪化は、

血清クレアチニンがベースライン時から0.3mg/dL以上上昇した場合と定義した。ステント破損は、X線検査においてステントストラットに明らかな障害がみられ、その結果、キンクやステントの軸長に沿ったずれがみられた場合と定義した。膝下のランオフは手技前後に血管造影で評価した。石灰化病変は、血管造影図において見かけの血管壁内に認められる明らかな陰影と定義した。ランオフ不良は、膝下のランオフについて1本または少数の血管と定義した。救肢は、くるぶしより上の切断を行わなかった場合と定義した。冠動脈疾患は、冠動脈カテーテル法あるいは機能または潅流検査によって冠動脈狭窄のエビデンスが確認された安定狭心症、経皮的冠動脈インターベンションまたは冠動脈バイパス移植術の既往歴、もしくは陳旧性心筋梗塞と定義した。脳血管疾患は、病院または神経科医による一過性脳虚血発作または虚血性脳卒中の診断を含む報告がある場合と定義した。心不全(HF)は、HFの過去の診断、HFによる入院歴、またはHFの現在の治療に基づいて存在すると判断した。糖尿病は、HbA1c>6.5%、ランダム血漿グルコース>200mg/dL、あるいは経口血糖降下薬またはインスリン注射

真腔アプローチ(n=530)

偽腔アプローチ(n=189) P値

年齢 74±9 72±9 0.04

>80歳 146(28) 41(22) 0.12

女性 164(31) 44(23) 0.046

BMI(kg/m2)±SD <18kg/m2 >30kg/m2

22±359(12)7(1)

22±3227(14)2(1)

0.520.320.75

歩行可能 451(85) 154(81) 0.24

高血圧 464(88) 159(84) 0.24

高脂血症 267(50) 98(52) 0.73

糖尿病 308(58) 110(58) 0.98

血液透析 88(17) 25(13) 0.27

現在喫煙者 148(28) 54(29) 0.87

過去喫煙者 234(44) 108(57) 0.002

脳血管疾患 132(25) 43(23) 0.55

心血管疾患 261(49) 91(48) 0.80

COPD 32(6) 3(1.6) 0.01

心房細動 37(7) 16(8) 0.50

心不全 57(11) 19(10) 0.79

重症虚血肢 166(31) 58(31) 0.87

現在受けている治療 アスピリン チエノピリジン シロスタゾール スタチン ワルファリン β遮断薬 カルシウム拮抗薬

472(89)271(51)287(54)203(38)66(12)142(27)276(53)

160(85)93(49)114(60)69(37)26(14)43(23)97(51)

0.110.650.140.660.650.280.75

表1 患者のベースライン特性真腔アプローチ(n=651)

偽腔アプローチ(n=251) P値

病変の長さ(mm) 215±61 235±56 <0.0001

閉塞の長さ(mm) 151±43 164±40 <0.0001

対照血管径(mm) 5.2±0.9 5.4±0.8 0.0007

拡張前狭窄度(%) 100 100 0.99

拡張後狭窄度(%) 18±16 18±17 0.85

TASC分類A/B/C/D 0/0/193/458 0/0/59/192 0.07

石灰化病変a 183(28) 75(30) 0.60

流出路病変b 294(45) 117(47) 0.69

総ステント長 231±73 252±65 <0.0001

ステント直径(mm) 6.6±0.8 7.0±0.9 <0.0001

ステント本数 2.6±0.8 2.7±0.7 0.10

最終バルーン径(mm) 5.2±0.8 5.3±0.7 0.10

拡張前足関節上腕血圧比 跛行 重症虚血肢

0.55±0.200.59±0.160.46±0.26

0.55±0.210.59±0.160.42±0.27

0.850.650.37

拡張後足関節上腕血圧比 跛行 重症虚血肢

0.88±0.170.90±0.170.83±0.18

0.88±0.160.90±0.150.84±0.18

0.980.810.82

アプローチ クロスオーバー 同側順行性 同側逆行性 両側 その他

331(51)55(8)10(2)253(34)2(0.4)

127(51)26(10)3(1)94(37)1(0.3)

0.91

使用ステント SMART Luminexx Zilver

538(83)80(12)33(5)

200(80)42(17)9(4)

0.16

ステント破損c 29(5) 27(11) 0.0004

手術時間(分) 117±59 93±42 <0.0001

Useofcontrastmedia,mL 124±65 122±58 0.67

a:石灰化病変は血管造影にて血管壁に高度な石灰化が認められたものとした。b:流出路病変は膝窩動脈1本または2本の流出路病変とした。c:ステント破損は2回以上のX線撮影で確認できたストラットの破損とした。

表2 病変のベースライン特性症例数(%)または平均値±SD 症例数(%)または平均値±SD

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長区域大腿膝窩動脈閉塞病変に対する偽腔もしくは真腔アプローチによる初期成績と3年開存率の比較

4

によって現在治療が行われている場合と定義した。高血圧は、収縮期血圧≧140mmHg、拡張期血圧≧90mmHg、または高血圧の治療を実施している場合と定義した。

統 計 解 析

 値は平均±標準偏差として報告する。連続変数は対応のないt検定で調べ、カテゴリー変数はχ2検定で比較した。生存曲線はKaplan-Meier法で推定し、ログランク検定を用いて比較した。解析はすべてintention-to-treat(ITT)の原則に基づいて行った。ただし、クロスオーバー効果を軽減するため、最終的に真腔アプローチと偽腔アプローチの両方によってEVTを受けた患者グループについてas-treated(AT)解析も行った。年齢、性別、過去喫煙者、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、病変長、対照血管径およびステント破損の重大なベースライン因子について補正したモデルを用いて、ハザード比(HR)、95%信頼区間

(CI)およびP値を算出した。確率値が0.05未満であれば、統計的に有意であるとみなした。

ベースライン特 性と手 技 特 性

 表1に患者のベースライン特性を示す。真腔アプローチ群の方が、年齢が高く、女性が多く、過去喫煙者が少なく、COPDを有する患者が多かった。真腔アプローチ群と偽腔アプローチ群の背景特性にその他の有意差はなかった。表2には病変の背景特性を示す。偽腔アプローチ群の方が、病変が長く、血管径が大きかったため、病変に留置されたステントの長さと径は真腔アプローチ群より有意に大きかった。手技前後の足関節-上腕血圧比(ABI)または使用ステント数に有意差はみられなかった。ステント破損は偽腔アプローチ群の方が多かったが、

これはおそらく使用したステントがより長く、石灰化がより重度であったためであると考えられた。両群の病変間にその他の有意差はみられなかった。

手 技および 合 併 症

 真腔アプローチと偽腔アプローチによる(91例の手技不成功症例を含む)技術的成功率はほぼ同じであった(91% vs 90% ; P=0.71)。真腔アプローチ群の方が、手技時間が有意に長く、体表面超音波検査(18% vs 8% ; P<0.0001)およびIVUS(37% vs 16% ; P<0.0001)の使用率が有意に高かった(図1)。双方向アプローチによる追加の遠位穿刺を必要とした被験者数(真腔アプローチvs偽腔アプローチ、39% vs 37% ; P=0.70)および造影剤使用量(124±65mL vs 122±58mL ; P=0.67)は両群でほぼ同じであった。真腔アプローチで当初施行された651例の手技のうち、163例(25%)は偽腔アプローチに切り替えられた。いずれの群にも血管破裂はなく、遠位塞栓率もほぼ同じであった。ITT解析およびAT解析では、両群においてほぼ同じ周術期合併症発生率が示された

(11% vs 13% ; P=0.34 ; 表3)。

開 存 率

 真腔アプローチ群と偽腔アプローチ群の3年後の一次開存率には、ITT解析(55% vs 53% ; Log-rank検定、P=0.30 ; 図2-A)でもAT解析(55% vs 54% ; P=0.83 ; 図2-B)でも有意差はみられなかった。また、3年後の補助一次開存率もITT解析では両群においてほぼ同じであったが(65% vs 74%;P=0.11 ; 図3-A)、AT解析では真腔アプローチ群において有意に低かった(65% vs 70%;P=0.047 ; 図3-B)。3年後の二次開存率は、ITT解析(80% vs 85% ; P=0.37 ; 図3-C)でもAT解析(79% vs 84% ; P=0.14 ; 図3-D)でもほぼ同じであった。また、3年後の全生存率についても、ITT解析(84% vs

ITT解析 AT解析

真腔アプローチ(n=651)

例数(%)

偽腔アプローチ(n=251)

例数(%)P値

真腔アプローチ(n=489)

例数(%)

偽腔アプローチ(n=413)

例数(%)P値

すべての合併症 71(11) 33(13) 0.34 57(12) 47(11) 0.90

死亡/心筋梗塞/発作 4(0.6) 0(0) 0.21 3(0.6) 1(0.2) 0.40

腸管出血 0(0) 0(0) 0.99 0(0) 0(0) 0.99

遠位の塞栓 9(1) 4(1) 0.81 8(2) 5(1) 0.59

緊急手術による血行再建 10(2) 2(1) 0.39 9(2) 3(1) 0.15

腎機能不全a 3(0.5) 1(0.4) 0.90 3(0.5) 1(0.4) 0.40

輸血 27(4) 11(4) 0.87 23(5) 15(4) 0.42

穿刺部位合併症 34(5) 11(4) 0.60 27(6) 18(4) 0.42

発熱または感染症 12(2) 9(4) 0.12 9(2) 12(3) 0.29

その他 10(2) 5(2) 0.63 8(2) 7(2) 0.95

a:腎機能不全はベースライン時に比べて血清クレアチニン値の0.3mg/dLの上昇とした。

表3 術後IVUS所見 症例数(%)または平均値±SD

結 果

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長区域大腿膝窩動脈閉塞病変に対する偽腔もしくは真腔アプローチによる初期成績と3年開存率の比較

5

86% ; P=0.55 ; 図3-E)でもAT解析(84% vs 84% ; P=0.84 ; 図3-F)でも有意な群間差はみられなかった。追跡調査期間中、103例の患者が死亡した。死因は、37例(36%)が心臓死、15例(15%)が血管死、41例(40%)が非心血管死、10例(10%)が不明であった。救肢率については、ITT解析では偽腔アプローチ群における3年後の全救肢率の方が有意に高かった

(96% vs 99% ; P=0.03 ; 図3-G)。ただし、AT解析では有意差はみられなかった(96% vs 98% ; P=0.32 ; 図3-H)。重症虚血肢

(CLI)患者については、いずれの解析(ITT、85% vs 96% ; P=0.07 ; 図4-A、AT、87% vs 90% ; P=0.32 ; 図4-B)でも3年後の救肢率に有意差はみられない。CLI患者における3年後の無切断生存率は、ITT解析(69% vs 66% ; P=0.32)でもAT解析(69% vs 68% ; P=0.48)でも群間差はみられなかった。 真腔アプローチから偽腔アプローチにクロスオーバーした患者における病変特性(651例中163例)には、クロスオーバーしなかった患者より小さな血管径(4.8mm vs 5.4mm ; P<0.0001)および頻度の高い石灰化(35% vs 26% ; P=0.02)が含まれていた。これらのサブグループにおける合併症発生率(9% vs 12% ; P=0.28)および再狭窄率(36% vs 35% ; P=0.96)はほぼ同じであった。偽腔アプローチにクロスオーバーした患者では、遠位穿刺の必要性(28% vs 46% ; P<0.0001)および造影剤量(103mL vs 136mL ; P<0.0001)が低かった。 サブグループ解析では、虚血の重症度(跛行およびCLI)とCLIの程度(安静時痛および壊疽)による一次開存率を評価した。跛行患者における一次開存率には、真腔アプローチと偽腔アプローチの間に有意差はみられなかった(2年後に61% vs 59% ; Log-rank検定、P=0.19)。また、CLI患者でもアプローチ間の有意差はみられなかった(2年後に62% vs 65% ; Log-rank検定、P=0.93)。同様に、跛行患者とCLI患者の一次開存率には、真腔アプローチ(2年後に61% vs 62% ; Log-rank検定、P=0.30)でも偽腔アプローチ(2年後に59% vs 65% ; Log-

rank検定、P=0.82)でも差はみられなかった。CLIの程度については、安静時痛患者において真腔アプローチと偽腔アプローチの間に有意差はみられなかった(2年後に67% vs 55% ; Log-rank検定、P=0.54)。また、壊疽患者でも有意差はみられない(2年後に56% vs 69%、Log-rank検定、P=0.35)。また、安静時痛患者と壊疽患者の一次開存率には、真腔アプローチ(2年後に67% vs 56% ; Log-rank検定、P=0.29)でも偽腔アプローチ(2年後に55% vs 69% ; Log-rank検定、P=0.63)でも差はみられなかった。大腿膝窩動脈閉塞に対するアプローチ(真腔アプローチまたは偽腔アプローチ)の違いは、虚血の重症度とCLIの程度による一次開存率に大きな影響を与えなかった。さらに、われわれは機能評価として足関節上腕血圧比

(ABI)の変化も調べた。跛行患者(手技前のABI、0.59±0.16 vs 0.59±0.16 ; P=0.65および手技後のABI、0.90±0.17 vs 0.90±0.15 ; P=0.81)でもCLI患者(手技前のABI、0.46±0.26 vs 0.42±0.27 ; P=0.37および手技後のABI、0.83±0.18 vs 0.84±0.18 ; P=0.82)でも真腔アプローチと偽腔アプローチの間に有意差はみられなかった。跛行患者でもCLI患者でも各アプローチにおけるABIの改善は明らかに認められた。ただし、両群におけるABIの変化はほぼ同じであった。 年齢、性別、過去喫煙者、COPD、病変長、対照血管径およびステント破損のベースライン変数の全評価項目を補正すると、偽腔アプローチと真腔アプローチは一次開存率(HR、1.21 ; 95% CI、0.94~1.56 ; 補正後P=0.14)、補助一次開存率

(HR、0.85 ; 95% CI 0.61~1.18 ; 補正後P=0.33)および二次開存率(HR、0.89 ; 95% CI、0.58~1.38 ; 補正後P=0.61)の点でほぼ同じであることがわかった。また、全生存率(HR、0.94 ; 95% CI、0.60~1.49 ; 補正後P=0.80)および救肢率(HR、0.28 ; 95% CI、0.06~1.23 ; 補正後P=0.09)にも有意な群間差はみられなかった(表4)。ただし、CLI患者では偽腔アプローチの成績の方が良好な傾向がみられた。

図2� 真腔アプローチと偽腔アプローチによる成功率

0 1Y 2Y 3Y

真腔アプローチ No.atrisk 651 373 225 115% 100 74 61 55

偽腔アプローチ No.atrisk 251 121 73 41% 100 68 60 53

0 1Y 2Y 3Y

真腔アプローチ No.atrisk 489 254 162 83% 100 72 59 55

偽腔アプローチ No.atrisk 413 240 136 73% 100 74 62 54

100

80

60

40

20

0

一次開存率(%)

0 1 2 3術後経過(年)

log-rank p=0.30   真腔アプローチ(n=651)   偽腔アプローチ(n=251)

ITT解析A100

80

60

40

20

0

一次開存率(%)

0 1 2 3術後経過(年)

log-rank p=0.83   真腔アプローチ(n=489)   偽腔アプローチ(n=413)

AT解析B

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長区域大腿膝窩動脈閉塞病変に対する偽腔もしくは真腔アプローチによる初期成績と3年開存率の比較

6

図3� 補助一次開存率�:�A=ITT解析/B=AS解析、二次開存率�:�C=ITT解析/D=AS解析、� 全生存率�:�E=ITT解析/F=AS解析、救肢率�:�G=ITT解析/H=AS解析

0 1Y 2Y 3Y

真腔アプローチ No.atrisk 651 410 345 125% 100 82 71 65

偽腔アプローチ No.atrisk 251 146 94 54% 100 82 78 74

0 1Y 2Y 3Y

真腔アプローチ No.atrisk 651 452 292 157% 100 90 86 80

偽腔アプローチ No.atrisk 251 161 100 58% 100 92 88 85

0 1Y 2Y 3Y

真腔アプローチ No.atrisk 489 286 176 93% 100 81 69 65

偽腔アプローチ No.atrisk 413 270 163 86% 100 84 77 70

0 1Y 2Y 3Y

真腔アプローチ No.atrisk 489 314 210 115% 100 88 84 79

偽腔アプローチ No.atrisk 413 299 182 100% 100 93 90 84

100

80

60

40

20

0補助一次開存率(%)

0 1 2 3術後経過(年)

log-rank p=0.11   真腔アプローチ(n=651)   偽腔アプローチ(n=251)

ITT解析A

100

80

60

40

20

0

二次開存率(%)

0 1 2 3術後経過(年)

C

log-rank p=0.37   真腔アプローチ(n=651)   偽腔アプローチ(n=251)

ITT解析

100

80

60

40

20

0

補助一次開存率(%)

0 1 2 3術後経過(年)

log-rank p=0.047   真腔アプローチ(n=489)   偽腔アプローチ(n=413)

AT解析B

100

80

60

40

20

0

二次開存率(%)

0 1 2 3術後経過(年)

D

log-rank p=0.14   真腔アプローチ(n=489)   偽腔アプローチ(n=413)

AT解析

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長区域大腿膝窩動脈閉塞病変に対する偽腔もしくは真腔アプローチによる初期成績と3年開存率の比較

7

図3� 続き

0 1Y 2Y 3Y

真腔アプローチ No.atrisk 530 397 263 151% 100 93 88 84

偽腔アプローチ No.atrisk 189 132 78 41% 100 94 87 86

0 1Y 2Y 3Y

真腔アプローチ No.atrisk 651 486 326 183% 100 97 96 96

偽腔アプローチ No.atrisk 251 178 106 59% 100 99 99 99

0 1Y 2Y 3Y

真腔アプローチ No.atrisk 402 278 194 116% 100 91 88 84

偽腔アプローチ No.atrisk 317 251 147 76% 100 96 88 84

0 1Y 2Y 3Y

真腔アプローチ No.atrisk 489 341 238 136% 100 96 96 96

偽腔アプローチ No.atrisk 413 323 194 106% 100 99 98 98

100

80

60

40

20

0

全生存率(%)

0 1 2 3術後経過(年)

E

log-rank p=0.55   真腔アプローチ(n=530)   偽腔アプローチ(n=189)

ITT解析

100

80

60

40

20

0

救肢率(%)

0 1 2 3術後経過(年)

G

log-rank p=0.03   真腔アプローチ(n=651)   偽腔アプローチ(n=251)

ITT解析

100

80

60

40

20

0

全生存率(%)

0 1 2 3術後経過(年)

F

log-rank p=0.84   真腔アプローチ(n=402)   偽腔アプローチ(n=317)

AT解析

100

80

60

40

20

0

救肢率(%)

0 1 2 3術後経過(年)

H

log-rank p=0.32   真腔アプローチ(n=489)   偽腔アプローチ(n=413)

AT解析

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長区域大腿膝窩動脈閉塞病変に対する偽腔もしくは真腔アプローチによる初期成績と3年開存率の比較

8

 本研究では、長さ10cm以上の閉塞病変の治療に用いる真腔アプローチと偽腔アプローチについて検討した。ステント留置術が求められた症例では、2つのアプローチによる合併症発生率および開存率はほぼ同じであったが、手技時間は真腔アプローチの方が有意に長かった。 下肢のEVTを施行する多くの医師は血管内治療医であり、冠動脈インターベンションに使用される方法とほぼ同じ手技を用いて閉塞病変を治療しているため、本研究の参加者ではガイドワイヤーの挿入のために真腔アプローチが広く使用されている。本研究では、1ヵ所以外の全ての施設において、EVTはインターベンショナル心臓専門医が行っており、平均72%(各施設の平均の範囲は59~100%)が最初のアプローチとして真腔アプローチを選択していた。偽腔アプローチへのクロスオーバーは施設によって患者の0~100%に行われており、施設によって大きな差が示された。クロスオーバーは、不良な技術的結果だけではなく、手技時間、造影剤量、患者の状態、カテーテル室の使用などの要因にも基づいて決定された。したがって、クロスオーバーの評価は難しいが、ガイドワイヤーの使用に習熟しているインターベンショナル心臓専門医でも症例の25%に

おいて真腔アプローチから偽腔アプローチへの変更を行った。これは真腔内血管形成術の難しさを示している。 ガイドワイヤーの順行性使用が失敗した症例に対して遠位穿刺が追加で行われる双方向アプローチは本研究の参加者において一般的に使用され、真腔アプローチ群と偽腔アプローチ群の間にこの手技の使用の差はみられなかった。日本ではリエントリーデバイスが利用できず、肥満患者数が少ないことから血管へのアクセスが容易であるため、遠位穿刺は比較的高い割合で行われている。さらに、遠位真腔から病変までガイドワイヤーを進めることによって、病変長を延ばすことなく病変の出入り口にステントを留置できるため、術者は遠位穿刺の追加を好む。 0.035インチのガイドワイヤーによるループ法を用いて施行するEVTは、ガイドワイヤーが偽腔に意図的に進められるため、偽腔内血管形成術であると考えられる ; ただし、全ての症例でガイドワイヤーが偽腔内に通過するわけではない。一部の症例では、偽腔アプローチに対応するガイドワイヤーが偽腔内に一部しか通過しないことがある。本研究の少数の被験者におけるIVUSによる評価では、ワイヤーは多くの症例で真腔を通過し、他の少数の症例で偽腔を通過したことが認められた。逆に、真腔を探すために0.014または0.018インチのガイドワイヤーを用いて真腔内手技が施行された ; ただし、これも必ず成功す

考 察

真腔アプローチ(n=651)

例数(%)

偽腔アプローチ(n=251)

例数(%)

非調整ハザード比(95%CI) P値 調整ハザード比

(95%CI) P値

主要エンドポイント 一次開存率 231(35) 93(37) 1.14(0.89-1.45) 0.30 1.21(0.94-1.56) 0.14

副次エンドポイント 補助一次開存率 二次開存率 全生存率 重症虚血肢の救肢率

170(26)95(15)

80/530(15)19/190(10)

50(20)29(12)

23/189(12)2/69(3)

0.77(0.56-1.06)0.83(0.55-1.26)0.87(0.55-1.38)0.28(0.07-1.19)

0.110.370.550.08

0.85(0.61-1.18)0.89(0.58-1.38)0.94(0.60-1.49)0.28(0.06-1.23)

0.330.610.800.09

a:調整ハザード比は、年齢、性別、喫煙歴の有無、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の有無、病変の長さ、対象血管径、ステント破損の有無で調整した。

表4 偽腔アプローチ対真腔アプローチのハザード比

図4� 重症虚血肢患者における救肢率�:�A=ITT解析/B=AS解析

0 1Y 2Y 3Y

真腔アプローチ No.atrisk 190 113 65 30% 100 91 89 85

偽腔アプローチ No.atrisk 69 44 20 9% 100 98 96 96

0 1Y 2Y 3Y

真腔アプローチ No.atrisk 148 78 45 16% 100 89 89 87

偽腔アプローチ No.atrisk 111 79 40 23% 100 97 93 90

100

80

60

40

20

0

救肢率(%)

0 1 2 3術後経過(年)

A

log-rank p=0.07   真腔アプローチ(n=190)   偽腔アプローチ(n=69)

ITT解析100

80

60

40

20

0

救肢率(%)

0 1 2 3術後経過(年)

B

log-rank p=0.32   真腔アプローチ(n=148)   偽腔アプローチ(n=111)

AT解析

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長区域大腿膝窩動脈閉塞病変に対する偽腔もしくは真腔アプローチによる初期成績と3年開存率の比較

9

るわけではなかった。したがって、真腔アプローチまたは偽腔アプローチの手技前の選択は、ワイヤーが通過する管腔部位と必ず一致したわけではなかった。このような不一致の頻度は不明であり、偽腔アプローチと真腔アプローチのより正確な比較のためには、IVUSを用いたワイヤー通過部位の研究が必要である。したがって、本研究では、「真腔内血管形成術 vs 偽腔内血管形成術」ではなく、「真腔アプローチ vs 偽腔アプローチ」の比較を行った。 本研究の結果から偽腔アプローチの妥当性が裏付けられているが、The Crosser(Bard Peripheral Vascular, Inc, Tempe, Ariz)にみられるような近年のカテーテルデバイスの進歩によって、現在ではワイヤーの真腔の選択的な通過が可能になっている。真腔にガイドワイヤーを進めることが容易になってきたため、偽腔アプローチの重要性が低下した可能性がある。真腔に留置した自己拡張型ステントを拡張すれば、慢性期の外向きの圧力に伴う血管痛を軽減できる可能性がある。これに基づき、真腔アプローチは手技の選択肢として引き続き重要である。ただし、血管破裂などの重度の合併症の予防の点では、(グラフトがガイドワイヤーの移動領域の影響をほとんど受けないため)Viabahn(W.L. Gore and Associates, Inc, Flagstaff, Ariz)などの血管内ステントグラフトが偽腔アプローチに適している12,13。慢性期に良好な治療成績が得られ、この方法が広く使用されれば、アプローチの差を考慮する必要はなくなる可能性がある。 費用については、真腔アプローチでは偽腔アプローチより多くのガイドワイヤーが使用され(2.9±0.7 vs 1.7±0.6 ; P<0.0001)、体表面超音波検査(18% vs 8% ; P<0.0001)およびIVUS(37% vs 16% ; P<0.0001)の使用率も高かった。ただし、慢性期の使用ステント数、入院期間、合併症発生率および治療成績はほぼ同じであった。これらのデータに基づき、ガイドワイヤーによる手技終了後の費用は同じであると仮定して、両アプローチの費用を推定した。1米ドル(USD)=90円の換算率を使用して、日本の保険償還価格に基づいて費用を推定した。33USDの0.035インチの親水性ガイドワイヤー、181USDの0.014または0.018インチのガイドワイヤー、32USDの4Fのサポートカテーテル、444USDのマイクロカテーテル、61USDの体表面超音波検査、1300USDのIVUSを使用すると、真腔アプローチおよび偽腔アプローチによるガイドワイヤー手技を完了するための費用はそれぞれ1600USDおよび540USDであった。し

たがって、偽腔アプローチを用いたガイドワイヤー手技では、医療費が約1000USD節約できることになる。さらに、真腔アプローチの手技時間の方が長かったため(117分 vs 93分 ; P<0.0001)、人件費も高くなった。また、真腔アプローチが当初使用された患者の約25%が偽腔アプローチへのクロスオーバーを受けた。したがって、初期成績および3年間の成績の点で実際の利点を伴うことなく比較的高い費用が負担されている可能性がある。日本ではリエントリーデバイスが利用できないため、われわれは偽腔アプローチの費用のリエントリーデバイスの費用を含まなかったが、この問題はさらに検討を必要とすると考えられる。

本 試 験 の 限 界

 本研究にはいくつかの限界がある。一番目に、本研究は大規模なプロスペクティブデータベースのレトロスペクティブ解析として実施した。したがって、所見の検証には多施設共同無作為化試験が必要であると考えられる。また、データ割当ての多くではバイアスが生じる可能性もあった。二番目に、真腔アプローチ群の多くの患者においてクロスオーバーが認められ、これが評価項目に影響を及ぼした可能性がある。この限界を補うため、われわれはAT解析も行った。血管開存性はデュプレックス超音波検査、または連続血管造影ではなく血管造影で評価したが、これが開存率を変化させた可能性がある。最後に、この解析では第一世代ステントを使用したが、新世代ステントまたは薬剤溶出型ステントを使用すれば血管開存性に影響が生じた可能性がある。これらの限界にもかかわらず、われわれの結果は長区域大腿膝窩動脈閉塞病変を有する患者に対するEVTに関して臨床的に重要な情報を提供している。

 長区域大腿膝窩動脈閉塞に対するステント留置術における真腔アプローチと偽腔アプローチによる術直後の合併症発生率および3年後の開存率はほぼ同じであった。手技時間が長く、真腔アプローチ使用時のクロスオーバー率が高いことを考えると、ステント留置術による長区域大腿膝窩動脈閉塞の治療には偽腔アプローチの方が望ましいと考えられることが示唆される。

結 論

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長区域大腿膝窩動脈閉塞病変に対する偽腔もしくは真腔アプローチによる初期成績と3年開存率の比較

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