sem/eds解析 - 一般財団法人...

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2 SOKEIZAI Vol.51 2010No.5 SEM / EDS の原理と特長や信頼性のある情報(分析データ)を得るた めの試料調製のノウハウおよび SEM 観察条件の最適化等について述べる とともに、鋳鉄鋳物における鋳造欠陥等の実製品の不良調査・解析への 適用例を紹介している。 SEM/EDS 解析 元 日立金属 ㈱ 1.はじめに 電子顕微鏡は球状黒鉛鋳鉄の発明と同時期に製品 化されたもので現在までの進歩は目を見はるもので あり、特に走査電子顕微鏡(SEM)は日常的に素形 材 、 半導体 、 医療など幅広い分野で用いられている。 SEM は、製品の不良原因を異物や欠陥部の形状観察 で同定するとともに、SEM 本体装着の Si/Li 半導体 検出器(EDS)での X 線分析により元素同定ができ ることから、現場で発生した不良を迅速に且つ科学 的に解決する方法として一般的に活用されている。 本稿では、SEM の原理と特長ならびに信頼性のある 情報(分析データ)を得るための試料作製のノウハ ウおよび各種の実製品の不良調査・解析への適用例 を紹介する。 2.SEM の原理と特長 電子線を試料表面に照射すると図1 に示すように、 試料表面から各種の情報(信号)が出てくる 1) 。こ れら信号は別々に取り出すことで、二次電子は SEM 像に、後方散乱電子(反射電子)は組成像に、ま た X 線は元素分析に用いられる。試料表面から発生 する特性 X 線のエネルギーあるいは波長は元素に 固有であり、そのピーク強度が元素の濃度に比例す るので、定性・定量分析ができる。SEM には、通 常 EDS 検出器が取り付けられ、表1 に示すように WDS に比べて容易にデータ採取することができる 特長を有している 2) 。EDS 分析は、すべての X 線を 同時に検出し、波高分析器で区別してスペクトルを 表示している。これら各元素のピーク強度を ZAF 法等の補正により、精度の高い定量値を求めること 1 電子線照射による試料表面からの情報

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2 SOKEIZAI Vol.51(2010)No.5

SEM/ EDS の原理と特長や信頼性のある情報(分析データ)を得るための試料調製のノウハウおよび SEM観察条件の最適化等について述べるとともに、鋳鉄鋳物における鋳造欠陥等の実製品の不良調査・解析への適用例を紹介している。

SEM/EDS解析

五 十 嵐 芳 夫元 日立金属㈱

1.はじめに

 電子顕微鏡は球状黒鉛鋳鉄の発明と同時期に製品化されたもので現在までの進歩は目を見はるものであり、特に走査電子顕微鏡(SEM)は日常的に素形材 、半導体 、医療など幅広い分野で用いられている。SEMは、製品の不良原因を異物や欠陥部の形状観察で同定するとともに、SEM本体装着の Si/Li 半導体検出器(EDS)でのX線分析により元素同定ができ

ることから、現場で発生した不良を迅速に且つ科学的に解決する方法として一般的に活用されている。本稿では、SEMの原理と特長ならびに信頼性のある情報(分析データ)を得るための試料作製のノウハウおよび各種の実製品の不良調査・解析への適用例を紹介する。

2.SEMの原理と特長

 電子線を試料表面に照射すると図 1に示すように、試料表面から各種の情報(信号)が出てくる 1)。これら信号は別々に取り出すことで、二次電子は SEM像に、後方散乱電子(反射電子)は組成像に、またX線は元素分析に用いられる。試料表面から発生する特性 X線のエネルギーあるいは波長は元素に固有であり、そのピーク強度が元素の濃度に比例するので、定性・定量分析ができる。SEMには、通常 EDS 検出器が取り付けられ、表 1に示すようにWDS に比べて容易にデータ採取することができる特長を有している 2)。EDS 分析は、すべてのX線を同時に検出し、波高分析器で区別してスペクトルを表示している。これら各元素のピーク強度を ZAF法等の補正により、精度の高い定量値を求めること 図 1 電子線照射による試料表面からの情報

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3Vol.51(2010)No.5 SOKEIZAI

特集 鋳造欠陥を正しくとらえる解析·測定機器

源に用いた各種電子顕微鏡は、原子レベルのナノオーダーからマクロまでの広領域をカバーしているのがわかる。このことは、さまざまなサイズの組織構造の究明に有効であり、材料解析の中心を担う観察・分析機器であるといえる。その中でも SEM-EDS 法は他の物理分析法に比べ機能や操作性などに優れる。

図 2  高純度鋳鉄中に認められる球状黒鉛の黒鉛核物質のEDSスペクトル

表 1 EDSとWDSの分析比較

EDS WDS 備考分析限界濃度点分析 B~ F 1 ~ 10mass% 0.01 ~ 0.05mass% EDS は微量分析が不得意    Na ~ U 0.1 ~ 0.5mass% 0.001 ~ 0.01mass% WDSは空間分解能に優れる

線分析 10%以上 0.001 ~ 100mass% EDS は原理上不得意

面分析 10%以上 0.01 ~ 100mass% EDS は原理上不得意

エネルギー分解能 ~ 150eV ~ 10eV EDS は重畳元素に注意、状態分析不可

分析電流 ~ 10‒10A(像分解能:6nm)

~ 10‒8A(分析時像分解能:1µm)

WDSは像分解能が劣る

表面凹凸試料 可 不可(1µm以下) WDSは原理上不可

分析元素 B以上 B以上 WDSが感度に優れる

定性分析時間 速い 遅い WDSはゴニオメータ スキャンのため時間を要す

低倍率分析電子線走査 20 倍~ 500 倍~ 点分析を除き、EDSは原理上不得意

試料ステージ走査 任意 任意(□50mmmax)

定量分析精度低濃度(5%以下) 劣る 優れる 定量値に対する精度高濃度(5%以上) 同 同

EDS: Energy Dispersive X-ray Spectroscopy(エネルギー分散型 X線分光法)WDS: Wavelength Dispersive X-ray Spectroscopy(波長分散型 X線分光法)

図 3 各種分析機器の分析範囲

ができる。図 2に高純度鋳鉄中に認められる球状黒鉛の黒鉛核物質(約 0.5µm 大きさ)の EDS 法による定性スペクトルを示す 3)。各特性X線ピークの元素同定から Fe, Cl を主成分に微量のAl, Si, Mg, Oの各元素から構成されているのがわかる。 材料解析に使用される各種分析装置の分析範囲を図 3に示す。分析範囲からわかるように電子線を線

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 図 5にフェライト系耐熱鋳鋼のミクロ組織観察におけるアーティファクト(人工産物)の事例を示す 4)。鏡面を得るための最終仕上げ研磨が不十分な場合、試料の極表層には加工歪が残存する。ミクロ組織を現出するための化学腐食やAr+イオンエッチングを実施するとスクラッチ状の異常組織が現出する(図5(a))。また化学腐食後の試料洗浄・乾燥方法が不十分および試料保管方法の不適からシミ状の組織が

3.不良箇所の調査のための試料作製

 不良箇所が特定されたらその部分の組織および組成の欠陥を明らかにする必要がある。SEMを用いた解析を正しく行うためには不良箇所を変質させずに試料を作製しなければならない。図 4は機械研摩法における不良箇所の断面または平面観察試料の調製手順を示す 4)。この方法で作製された鏡面試料は直接、SEM観察・分析を行う場合と化学腐食やAr+

イオンエッチングにより組織を現出させて行う場合の 2通りがあり、調査目的により選択することになる。特に鋳物等の鋳巣内部を調査する場合は、巣穴の底部には使用した研磨材や試料の摩耗粉などの汚染物が付着・残留するため、欠陥の原因究明の障害となる。これら穴部の汚れ除去は、試料全体をアセトンやエタノール(樹脂包埋試料の場合)の有機溶剤での超音波洗浄が有効である。

4.アーティファクトの問題

図 4  金属材料のミクロ組織観察・分析のための試料調製手順

図 5 アーティファクトの事例

形成される(図 5(b))。これらアーティファクトの対策としては、前者は鏡面研磨に十分に時間をかけることと、異常組織が現出した場合、再度の最終研磨で変質組織層を除去した後 、再腐食を行う方法がある。後者の場合は腐食後、試料を十分に洗浄・乾燥を行い、試料を速やかに SEM鏡体等の真空内へ導入することで防げる。

(a)加工歪残存による異常組織 (b)腐食液残存によるシミ形成

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5Vol.51(2010)No.5 SOKEIZAI

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5.SEM観察条件および試料導電処理条件の最適化

 SEM像(二次電子像)は表面の凹凸や形状を観察するのに優れていることから通常観察に使われる。加速電圧の大小により表面トポグラフィーの情報に影響を及ぼすことから、加速電圧を決定するにあたり、モンテカルロシミュレーションを使い予め予想することが有効である。例として図 6に加速電圧5kV と 20kV の電子が Fe に進入した場合のモンテカルロシミュレーションを示す。加速電圧が低い場合はより表面の情報が得られ、加速電圧が高いとより内部の情報までが SEM像に反映される。図 7は加速電圧を変化させてイオンスパッタ気相成長法で成膜したセンダスト軟磁性膜を割断法により微細構造を同一箇所の比較観察した写真である 5)。低加速電圧側の条件下において微細組織構造が明瞭に観察されていることがわかる。このように観察条件設定は、調査対象物の材料や組成構成から適宜、最適条件を選定することが重要といえる。絶縁物試料の場合は、低加速電圧において無蒸着観察が可能であり、その条件下を見つけ出す難易度は材料毎に異なる。

しかしながら絶縁物の種類によっては無蒸着観察が困難なところもあることから、一般的には導電性を確保するためのカーボン真空蒸着などの前処理が行われている。図 8は割断法で絶縁物のアルミナ層を含む多層コーティング膜表面へのカーボン蒸着膜厚を変化させて微細構造の見え方の違いを同一箇所で比較観察した写真である 5)。無処理ではアルミナ層部でチャージアップ現象が見られるが、カーボン膜厚 5nmにおいて本来の微細組織が維持された状態でチャージアップは解消されている。さらにカーボン膜厚を 20nmと厚くすると微細組織は変化しており、アーティファクトを生じていることがわかる。したがって、微細組織を正しく評価するにはカーボンコーティング膜厚を精密に制御しなければならない。但し、EDS分析においては、カーボン膜厚の増大は軽元素側の感度低下の影響を受けるが、Na以上の元素分析(定量)においては障害とはならない。以上のように分析目的に適合するように前処理や測定条件を選択して装置を使いこなすことが重要である。

図 6 加速電圧による電子線侵入深さの違い 図 7 加速電圧による二次電子像の見え方の違い

図 8 導電性コーティング膜厚の影響

(a)無蒸着 (b)カーボン膜厚:5nm(c)カーボン膜厚:20nm

(b)加速電圧 20kV(a)加速電圧 5kV加速電圧 20kV加速電圧 5kV

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6.1 破面解析 低 Cr-Mo 合金鋼の疲労破面 5)の SEM観察結果を図 9に示す。低倍率写真から疲労破壊の特徴であるビーチマーク模様が観察され、そのクラックの起点は実体表面であると判定される。疲労破面部を高倍率観察すると、ストラエーション(縞模様)が認められる。この縞模様の間隔は金属疲労と密接な関係がある。6.2 鋳鉄鋳物の鋳造欠陥の不良解析 生型鋳造で発生した球状黒鉛鋳鉄の各種鋳造欠陥の不良調査に SEM-EDS 分析を適用し、欠陥原因の究明と対策について検討した。

6.2.1 引け巣欠陥の事例 図 10に加工面に現れた鋳放し FCD450 の引け巣欠陥を示す。欠陥状態は切削加工などによって現

れたもので凝固収縮で形成した空洞の微小欠陥である。欠陥内部には、デンドライト(樹枝状晶)が見られるが介在物は無く、その内面のEDS分析では Cのピークが高く、黒鉛膜で覆れている。溶湯の鋳込み温度が高くて凝固時の液体収縮を増大させたか、CE値が低く黒鉛膨張が少ないことが原因と推定される。対策は、鋳込み温度を低くし、可能な限り共晶成分に近づける。図 11に高シリコン鋳鉄の中子面に発生した引け巣欠陥を示す。欠陥状態は中子に沿って凝固収縮が生じ、凹み部の内面は粗く樹枝状晶を呈している。また欠陥部の EDS 分析では介在物等の異物は検出されない。中子が溶湯によって囲まれるため、ホットスポットとなることで最終凝固位置となって引け巣が生じたものと思われる。対策としては、冷し金等を用いて最終凝固位置を変える、および適切な押し湯を設ける等がある。

図 9 低合金鋼の疲労破断面の SEM観察

図 10 引け巣欠陥の事例図 11 中子面引け巣欠陥の事例

6.SEMによる不良観察・分析への応用

(b)疲労破面部の高倍率像(a)起点部の全体像

(b)光学顕微鏡(断面)

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6.2.2 ピンホール欠陥の事例 図 12に加工面に発生した高シリコン鋳鉄のピンホール欠陥を示す。欠陥状態は鋳物表面直下に丸みを帯びた穴を形成している。穴の内部は平滑で介在物は認められず、その内面のEDS分析では Cのピークが高く、黒鉛膜で覆れていることがわかった。中子内レジン等の有機成分の熱分解ガスの発生が原因と推定される。対策としては、中子レジン量を問題が生じない範囲内まで減少する、および中子表面に塗型する方法等がある。

6.2.3 砂かみ欠陥の事例 図 13に FCD450 に発生した砂かみ欠陥を示す。砂かみは鋳物表面近傍に生じ、鋳型内で鋳物の上部側に発生している。断面 EDS 分析で砂表層に粘土成分である Si, Al, Na, Ca, K, O(オーリチック)が

図 13 砂かみの事例

検出され、生型砂であることがわかった。鋳込み時の溶湯の流速が大きいため、主型(生砂型)の一部が削り取られたか、または造型時の砂払いが不十分であったことが原因であると推定される。対策としては、湯口、湯道、堰の砂付着強度を高める、および砂払いを十分に行うことである。

6.2.4 のろかみ欠陥の事例 のろかみ欠陥は鋳物表面近傍に生じ、その多くがあばた状の外観不良である。図 14にFCD450 に発生したあばた状欠陥を示す。欠陥部のEDS分析でCa-Si 系酸化物が検出された。溶湯処理用取鍋に耐熱性の劣る耐火材を使用したため、溶湯との化学反応(侵食)によって生成した低融点のろが鋳物内に混入したものと推測される。また生成した湯面上ののろ除去作業の不十分が欠陥の発生を助長しているものと

図 12 ピンホール欠陥の事例

図 14 耐火物系のろかみの事例

(b)SEM-EDS分析(a)外観・光学顕微鏡写真

(b)SEM-EDS分析(a)外観・SEM低倍率写真

(b)SEM-EDS分析(a)外観・SEM低倍率写真

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思われる。対策としては、耐熱性のある耐火材の使用、および湯面上のろの除去を十分に行うことである。図 15および図 16は、FCD600 に発生したあばた状欠陥を示す。欠陥部のEDS分析から前者は Si-Mg-Al 主成分に、Ce, Ca を微量含有する酸化物であることから球状剤系のろで、後者は S含有 Ca-Si-Al-Ba-Fe 系酸化物であることから接種剤系のろと

推定される。両者とも溶湯処理時に生成したのろが、鋳型内に溶湯と一緒に鋳込まれたことが原因と思われる。対策としては、ストレーナやセラミックフィルタを用いるともに、取鍋付着のろの除去清掃の徹底と鋳造方案の変更等を行うことが有効である。図17はFCD700 の加工面端部に発生した凹み状欠陥を示す。凹み状欠陥全体の EDS 分析でMg, Si, Fe, O

図 17 球状化剤系フィルム状のろかみ欠陥の事例

図 15 球状化剤系のろかみの事例

図 16 接種剤系のろかみの事例

(b)SEM-EDS分析(b)SEM-EDS分析(a)外観・SEM低倍率写真

(b)SEM-EDS分析(a)外観・光学顕微鏡写真

(b)SEM-EDS分析

(c)SEM-EDS面分析

(a)外観・SEM低倍率写真

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図 18 異常黒鉛と砂かみの複合事例

7.おわりに

 近年、SEMは機能と操作性の良さに加え、新型検出器(SDD:Silicon Drift Detector)が開発され 7)、点分析や面分析のデータを高速収集が可能となってきている。鋳物などの素形材料分野においても、これまで以上に不良原因等の本質的究明に積極的に活用され、品質や生産技術の向上に貢献することを期待する。

謝辞 球状黒鉛鋳鉄の鋳造欠陥データは、日立金属株式会社素材研究所殿からご提供を頂きました。ここに記して感謝致します。

 参考文献1) 日立サイエンスシステムズ:「気楽に読める SEM読本- SEMと友だちになろう-」

2) 日本表面科学会:電子プローブ・マイクロアナライザー,丸善(1998)11

3) 中江,五十嵐,小野:鋳造工学,73,2(2001)1114) 日本電子顕微鏡学会関東支部編:走査電子顕微鏡,共立出版,(2000)332

5) 電子顕微鏡の上手な使い方講座Ⅳ,日本電子顕微鏡学会・電顕サマースクール実行委員会編(1993)145

6) 日本鋳造工学会編:鋳造欠陥とその対策(2007)1677) オックスフォード・インストゥルメンツ:分析機器カタログ SEM用 EDXシステム

が検出されたことから球状化剤系のろと推定される。この欠陥部の断面 EDS 面分析からのろ(Mg-Si 系酸化物)はフィルム状であることが確認され、旋削加工時の応力付加によってのろ部位が欠け落ちたものであることがわかった。フィルム状のろは、溶湯が鋳型内を流れる湯先が鋳型内の空気と触れて生成したものと推定される。対策としては、鋳込み温度を高くする、および湯道及び堰断面を大きくして溶湯の充てん速度を速くする等がある。6.2.5 黒鉛組織不良の事例 図18にFCD450に発生した虫喰い状欠陥6)を示す。

SEM観察により微粒の異常黒鉛以外に砂の介在を確認することができる。EDS分析で砂表層からオーリチック成分は検出されないことから中子砂と推定される。EDS 定量分析で Si 成分が異常黒鉛部は正常部の約4倍の高濃度になっていることが確認された。コロニー状の微粒黒鉛部の形成は、注湯流接種したフェロシリコン接種剤の溶融不十分による。注湯流接種において早期接種剤の落とし込みや過剰接種等が原因と推定される。対策としては、注湯流接種のタイミングおよび接種量の適正化や鋳込み温度を上げる等がある。