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<医薬品>
1)Scientific Reports 6, Article number:34550 | Published online:29 September 2016
◆日本脳炎ウイルスの NS3 -ヘリカーゼを標的とする 2つの小分子抗ウイルス薬の発見
日本脳炎ウイルス(JEV)は、世界人口の半分以上を脅かすフラビウイルス感染症であ
る。予防接種により日本脳炎を予防することはできるが、これまで、臨床治療に利用で
きる特定の抗ウイルス薬は無く、そして、JEVに起因する死亡率は 60%以上に達してい
る。フラビウイルスの非構造的タンパク質 3(NS3)の C 末端はヘリカーゼをコード化
しており、潜在的な薬標的として特定されていた。今回、中国、武漢華中農業大学らの
研究者らは、ハイスループット分子ドッキング方法を用いて、市販の 250,000種の化合
物ライブラリーから JEV NS3-ヘリカーゼ阻害効果を有する候補薬 41種を特定し、これ
ら化合物類の NS3 活性抑制能力を試験した結果、Specs ID No が AK-968/40733793
(Compound-1)と AK-970/43253453(Compound-2)の 2化合物が特に抗ウイルス能を有
していることを特定し報告した。両剤は強力に巻き戻し活性を阻害したが、タンパク質
の ATP 加水分解活性には影響を及ぼさなかった。又、電気泳動、免疫蛍光抗体染色法、
及び、抗ウイルス效能測定法は、両化合物が細胞培養において該ウイルスを阻害するこ
とを示すことを報告した。尚、両剤の EC50(薬物や抗体などが最低値からの最大反応
の 50%を示す濃度)は、各々、25.67μMと 23.50μMであった。(JEV予防用ワクチンが
利用可能だが、それでも毎年、世界で 50,000 件の発症と 10,000名の死亡が生じてい
る。犠牲者数と神経学的後遺症を低減することができる特定の抗 JEV 剤の開発は緊急を
要していた中、本剤が、フラビウイルス非構造的タンパク質の潜在的抗ウイルス薬とし
て特定されことで、フラビウイルス関連病治療に対しての新しい療法となる望みが増し
たのでは…)
2)J. Am. Chem. Soc., Article ASAP. Publication Date (Web):September 12, 2016
◆銅触媒作用による末端アルキン類の選択的ヘテロカップリング反応
アルキン類のカップリング反応は、創薬開発の合成過程や天然化合物類の全合成などに
多く用いられており、中でもアルキン類の二量化は特に数多く研究されている分野であ
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るが、その殆どがホモカップリング反応であった。今回、中国、湖南大学らの研究チー
ムは、末端アルキン類の銅触媒作用による選択的な酸化的ヘテロカップリング反応によ
って優れた収率で広範囲の非対称 1,3-ジイン類を合成することができる方法を開発した
ことを報告した。該反応は、銅触媒としては銅粉末(Cu0)を、Ligand としては TMEDA
(テトラメチルエチレンジアミン)を使用し、CH3Cl溶媒中、50℃×24hの反応条件下
で行われる。末端アルキン類のカップリング反応としては、ピリジン溶媒中で銅塩とア
ルキン類を反応させて銅アセチリドを合成した後、酸素を通じる Graser法、過剰量の
Cu(OAc)2(触媒、及び、酸化剤として作用)を使用して、ピリジン溶媒中で反応させる
Eglinton法、及び、触媒量の CuCl-TMEDA を用いて酸素雰囲気下で行う Hay法が知られ
ているが、いずれの方法も排他的にホモカップリング反応が進行する。該結果は Glaser-
Hay反応において、排他的にホモカップリング反応が行われるという長年の考え方を覆
すものと云える。(Glaser-Hayカップリング反応が見出された後、該反応に関しては多数
の報告がなされており、Pd触媒を用いるもの、あるいは、Ni触媒を用いる反応なども
開発されているが、銅粉末(Cu0)-TMEDAという組み合わせが本発明の特徴か…)
3)J. Am. Chem. Soc., Article ASAP. Publication Date (Web):September 27, 2016
◆アルデヒド選択的 Wacker型酸化によって可能となった 4級炭素を有する末端アルケン
類の触媒的 Anti-マルコニコフ付加反応の開発
米国、カリフォルニア工科大学らの研究者らによって、立体障害基を有する末端オレフ
ィン類の Anti-マルコニコフ付加反応に対する新しい方法が報告された。アリル位、又
は、ホモアリル位に 4級炭素を有するアルケン類は、t-BuOH/MeNO2(15:1)溶媒中、
室温、酸素をバブリングすることで、PdCl2(PhCN)2/CuCl2・2H2O/AgNO2触媒作用によっ
て、対応するアルデヒド類に容易に酸化されて(エステル基、ニトリル類、シリル・エ
ーテル基、ビニル・エステル基、ケトン基、ラクトン基、及び、β-ケトエステル基を含
む広範囲な官能基に対しても、該反応条件下では影響を受けないとのことである)、更
に、該アルデヒド類は更に変換されることができ、結果として anti-マルコニコフ・ハイ
ドロアミノ化反応や、他の anti-マルコニコフ付加反応を引き起こし、合成的に有用な各
種官能基に直接変換することができることを報告している。(該法は二段階反応であ
り、直接的な anti-マルコニコフ型付加反応ではない。二段階反応としてはアルケン類の
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末端部位をホウ素官能基化した後、酸化して OH基を導入する方法が、又、一段法とし
ては Ru触媒(Shvo’s catalyst)を使用する Triple Relay触媒反応が開発されているが、
anti-を付ける反応は困難ではあるが魅力的と云えよう…)
4)日経プレスリリース: 2016年 09月 30日/Nature Communications 7, Article number:12937 | Published 30 September 2016
◆C-N結合切断型 Stille カップリング反応の開発
東京大学大学院薬学系研究科の内山 真伸 教授と徳島文理大学香川薬学部の山口 健太
郎教授らの研究グループは、市販のニッケル触媒と N-ヘテロ環状カルベン配位子
(ICy)、及び、フッ化セシウム(CsF)の存在下、有機スズ化合物とアンモニウム塩が
高選択的・高収率にて初めての C-N結合切断型 Stilleカップリング反応が進行すること
を見出したことを報告した。Stilleカップリング反応は、遷移金属触媒存在下、有機スズ
化合物(求核剤)とハロゲン化化合物(主に、沃化物や臭化物)を反応させて C-C 結合
を形成する反応であり、温和条件下で進行するために機能性材料の開発や創薬開発など
の幅広く応用されてきた反応である。同研究グループは、ハロゲン化物の代わりに C-N
結合を有するアンモニウム塩を用いるもので、これまで C-N結合切断による Stilleカッ
プリング反応は知られていなかったものである。具体的には、市販の Ni(COD)2(ビス
(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル)と N-ヘテロ環状カルベン配位子(Icy・HBF4)、及
び、フッ化セシウム存在下、ジオキサン中 80℃において、アンモニウム塩と有機スズ化
合物のカップリング反応が高収率で進行することを見出したものである。(該方法は、
C-N 結合を有する化合物類は容易に入手が可能なものが多く、広範囲な有機化合物の合
成に威力を発揮するであろうが、基本的には慢性毒性を有する有機スズ化合物を当量以
上必要とするという問題を抱えている…)
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5)Nature Medicine | Article. Published online:19 September 2016
◆前臨床モデルで脂肪酸合成と非小細胞肺癌の腫瘍成長を抑制するアセチル補酵素 Aカル
ボキシラーゼ(ACC)阻害剤 ND-646の創製
継続的な新たな脂肪酸合成は腫瘍成長の生合成に要求される癌の共通的な特徴である。
この脂肪酸合成プロセスは、魅力的であるが伝統的に困難な薬剤標的である律速酵素ア
セチル補酵素 Aカルボキシラーゼ(ACC)によって制御される。今回、米国、ソーク研
究所と Nimbus Therapeutics 社らの研究チームは、前臨床モデルにおいて、ACC が非小細
胞肺癌(NSCLC)細胞の成長と生存にとって必要とされる新規の脂肪酸合成を維持する
ために必要とされる遺伝子的証拠と薬理学的証拠を提供すると共に、同研究チームは、
生体内と試験管内で脂肪酸合成を抑制するために ACCサブユニット二量化を防ぐ ACC
酵素 ACC1 と ACC2 のアロステリック阻害剤 ND-646の効能を報告した。異種移植片と
NSCLC に遺伝子操作されたマウス・モデルでの継続的な ND-646治療によって腫瘍成長
を阻害することができたことを報告した。単剤治療、又は、標準的治療薬 carboplatinと
の併用治療として投与される時、ND-646は、
KRAS p53として知られている NSCLC マウス・モ
デルでの肺腫瘍を著しく抑制することを明らかに
した。(これらの発見は、ACCが NSCLC の代謝的
不安定性を調停して、ND-646による ACC 阻害作
用が、NSCLC 成長を阻害することを証明したもの
であり、腫瘍での ACC阻害剤使用の更なる検討を
期待したい…)
6)J. Med. Chem. Article ASAP. Publication Date (Web):September 22, 2016
◆心筋症治療薬としての Late Na+電流阻害剤 GS-6615の発見
遺伝性 QT延長症候群 3型(LQT3:心臓の収縮後の再分極の遅延が起き、心室頻拍(心
室性不整脈の一種)のリスクを増大させる心臓疾患)では、Na+電流の定常成分である
Late Na+電流(Late-INa)の増大によって活動電位持続時間(APD)、すなわち QT時間
(ヒトの心電図における Q 波の始まりから T波の終わりにいたる時間で心筋細胞のイオ
ンの出入りを意味する電気信号の伝導を反映する)が延長し、この QT 時間延長によっ
て心臓疾患のリスクを増大させることが知られている。又、虚血性疾患では心筋におけ
る反応性酸素種(ROS)の産生が亢進し、Navチャンネル 1.5(電位依存性ナトリウムチ
ャンネル)を修正し、不活性化を生じることになる。今回、米国、Gilead Sciences Inc
は、構造活性相関(SAR)を通じて、第一世代 Late-INa阻害剤(Ranolazine:ラノラジ
ン)を大きく改良することによって GS-6615 を見出したことを報告した。Late-INaの新
規で、強力な選択的阻害剤 GS-6615(eleclazine)は、現在、QT 延長症候群 3型(LQT-
3)、肥大心筋症(HCM)、及び、心室性頻拍-心室細動(VT–VF)治療に対して臨床展開
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中である。該剤は、生体内(兎の S-T 上昇、15分左冠静脈(LAD)、血管閉塞)での虚
血負荷低減で Ranolazineと比較して 42倍以上強力であったこと、又、Ranolazine の
EC50=8000nMに対して、該剤は EC50=190nMであることを報告している。(慢性狭心症
治療薬である Ranolazineは PCI(経皮的冠動脈インターベンション:狭くなった冠動脈
を血管の内側から拡げるために行う低侵襲的な治療法)後の虚血に対して無効性が報告
されており、該剤が PCI後の虚血に対して有効であれば尚良いのだが、但し、
EC50=190nMと Ranolazineに比較してかなりの低濃度で効力を発揮するので新規で強力
な Late-INa阻害剤と云えよう…)
7)Science Portal プレスリリース:2016年 10月 01日/Cell. Online Now Articles.
Published:September 22, 2016
◆東大、真核生物リボソーム生合成の特異的かつ可逆的な新規低分子阻害剤(Rbins)
ribozinoindoleの同定に成功
細胞内の全ての細胞タンパク質はリボソーム(あらゆる生物の細胞内に存在する構造で
あり、粗面小胞体 (rER) に付着しており、mRNAの遺伝情報を読み取ってタンパク質へ
と変換する翻訳機構が行われる場)と呼ばれる巨大 RNA・タンパク質複合体によって合
成されている。もしこの過程に異常が生じると、リボソーム病(リボソーム生合成に関
与する遺伝子の変異・機能低下が原因で引き起こされる疾患)などの疾患につながる可
能性が考えられ、更に、リボソーム生合成の亢進は癌化にも関連することが知られてい
る。幾つかのリボソーム機能の化学的阻害剤は入手可能であり、ツール、又は、薬とし
て使用されているが、対照的に、真核生物リボソーム凝集の動力学を分析するための有
力な確立されたプローブが欠如している。そこで、東京大学大学院薬学系研究科の川島
茂裕特任講師らの研究グループは、真核生物リボソーム生合成の強力で可逆的な
triazinoindole系阻害剤である ribozinoindoles(又は Rbins)を発見するために化学的手法
と遺伝子的手法を組み合わせたケミカルスクリーニング系において、リボソーム生合成
に必須な AAA+タンパク質 Midasin(ミダシン:~540kDaの AAA+(多様な細胞活性と
関連した ATP 加水分解酵素)タンパク質の特異的かつ可逆的阻害剤を同定し
ribozinoindoleと名付けた。ミダシン機能を鋭く阻害するか活性化するために Rbinsを使
用して、阻害剤感度と阻害剤耐性の平行実験で、同研究チームは、60S(S:Svedberg 遠
心分離機での沈降高速を意味し、Sが大きいほど沈降速度が速い)サブユニットの核小
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体前駆体である凝集 Nsa1粒子での
Midasinタンパク質の役割を明らかにし
たことを報告した。(リボソーム阻害剤
は数多く同定されてきたが、該発見
は、リボソーム生合成、及び、AAA+タ
ンパク質を標的にした低分子化合物で
あり、新たな創薬展開が期待されよう
…)
8)J. Am. Chem. Soc., Article ASAP. Publication Date (Web):September 28, 2016
◆温和条件下での(ヘテロ)アリール・ハロゲン化物の銅触媒作用によるヒドロキシル化
反応の開発
中国、科学技術院の研究者らは、(ヘテロ)アリール・ハロゲン化物のヒドロキシル化
反応に対する強力な触媒系 Cu(acac)2/N,N’-ビス(4-ヒドロキシ-2,6-ジメチルフェニル)オキ
サルアミド(BHMPO)を見出したことを報告した。電子供与基、又は、電子吸引基の
どちらかを有する広範囲な(ヘテロ)アリール・ハロゲン化物は、130°C で、優れた収
率で相当するフェノール類と水酸化ヘテロ・アレーン類に変換することができたことを
報告している。より反応性の高い(ヘテロ)アリール・臭化物とアリール・ヨウ化物が
使用される時、該ヒドロキシル化反応は、低触媒量(0.5モル%Cu)で、比較的低温
(80℃と 60°C)で進行することを報告した。尚、BHMPOは 4-メトキシ-2,6-ジメチルア
ニリンとオキサル塩化物から合成される。(アリール・ハロゲン化物を水酸化する方法
としては高温・高圧で NaOH と反応させてナトリウムフェノキシドを合成した後、高圧
で CO2と反応させる方法が知られているが、該法は、塩化物では 130℃、臭化物、沃化
物では各々、80℃、40-60℃と従来条件に比較して大幅に低温で進行するので実験室的に
合成する方法としては優れていると云えるのでは…)
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9)Nature Chemistry | Article. Published online 03 October 2016
◆チオアミド類のパラジウム触媒作用 C–Hアリール化反応を経由するエナンチオ選択性
アミン α-官能化反応
飽和アザ・ヘテロ環化合物類は、生理活性化合物や承認治療薬で共通に見られる構造単
位である。これらの N-ヘテロ環類は、不斉補助剤や不斉合成配位子として導入される。
例えば、特に創薬開発において、エナンチオ選択的にこれらの系の α-メチレン C-H 結合
を官能化させる方法の開発は非常に重要である。現在では、α-アリール化アミンを生成
するために Pd(0)触媒作用クロスカップリング反応に続く、(-)-スパルテイン(sparteine)
とのエナンチオ選択性連結は主にピロリジン類に限られている。そこで、米国、Scripps
研究所の研究チームは、エチル・アミン類、アゼチジン類、ピロリジン類、ピペリジン
類、アゼパン類、インドリン類、及び、テトラヒドロイソキノリン類を含む広範囲に渡
るアミン類の Pd(II)触媒作用エナンチオ選択性 α-C-H 結合を機能化する方法を開発した
ことを報告した。不斉リン酸配位子(PA2)類が、アリール・ボロン酸によるメチレン C-
H 結合のエナンチオ選択性カップリング反応に対する効果的陰イオン配位子となること
を明らかにしたものである。該触媒反応は、高エナンチオ選択性を有するだけでなく、
異なる立体環境での 2つのメチレン基の存在で排他的な位置選択性をも有していること
を報告している。(アミン α位酸化的修飾法は現在まで盛んに研究されているが、エナ
ンチオ選択的にアミン α位 C-H結合の直接的アルキル化やアリール化を行うのは困難で
あった。ピロリジン類に対してはアルカロイドである(-)-スパルテイン不斉配位子を用い
る方法が開発されてきたが、広範囲のアミン類に対しては不適応であった中、N-ヘテロ
環の N位を 2,4,6-triisopropylbenzothioyl chloride で保護することで各種の N-ヘテロ環化合
物の α位 C-H 結合をエナンチオ選択的にアルキル基やアリール基をカップリングできる
反応の開発は創薬開発にとって、その効果を発揮するものと云えよう…)
10)J. Med. Chem., Article ASAP. Publication Date (Web):October 2, 2016
◆第二世代の可逆的共有結合 DPP1阻害剤 AZD7986の創製
癌をはじめとする多くの疾患治療で利用されている第一世代の共有結合薬は、標的タン
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パク質の特定アミノ酸残基と極めて特異的に相互作用するものが多く、不可逆的である
ために長期的な効果が得られるが、ある種の共有結合薬は、目的外の細胞のタンパク質
と反応することが知られており、そうした「非特異的」な相互作用も長期にわたって持
続するため、望ましくない結果が生ずる場合があった。そこで、不可逆的な共有結合的
阻害剤を可逆的な阻害剤に転換することにより、特定のアミノ酸残基の共有結合的標的
化で得られる特異性の作用を維持しながら、不可逆的な非特異的薬物活性の潜在的な悪
影響を抑制する可能性が考えられていた。そこで、英国、AstraZeneca 社の研究者らは、
初期の化合物シリーズで見出された大動脈結合障害がない新しい一連の第二世代 DPP1
(ジペプチジルペプチターゼ1:リソソームのパパイン様システインプロテアーゼファ
ミリーの1つであり、ジスルフィド結合した重鎖、及び、軽鎖の二量体からなる。DPP1
により活性化される酵素前駆体は、COPDにおいて病理学的に重要な役割を担うことが
知られている)阻害剤として AZD7986を見出したことを報告した。そして、該剤は、
一日一回のヒト投与にふさわしいヒト PK特性が予測され、高効力、高可逆的、及び、
高選択的な COPDの臨床候補薬となったことを報告した。(可逆的共有結合形成をする
阻害薬は結合乖離速度が遅い場合があり、薬効面でも有利に作用する事が期待できるの
で、活性面でも薬効持続でも非共有結合タ
イプよりも優位性があり創薬開発において
有効な機能を発揮すると云えよう。尚、
AstraZeneca社は呼吸器系疾患治療薬
AZD7986の世界的独占的ライセンス権(契
約一時金 3,000万ドルと最大 1億 2,000万ド
ルのマイルストンの支払い)を米 Insmed社
に導出したとのことである…)
11)Nature |Article. Published online 19 October 2016
◆多様な癌に効果的な MCL1抑制剤 S63845の創製
アポトーシス回避は持続的腫瘍成長と進行にとって重要である。生存維持タンパク質骨
髄細胞白血病 1(MCL1:抗アポトーシス作用を持つ遺伝子)は、多くの癌で過剰発現す
るが、臨床試験に進むべくMCL1を標的とする小分子開発は挑戦的であった。今回、フ
ランス、ハンガリー、英国、及び、オーストリアらの研究者チームは、特異的に MCL1
の BH3ドメイン結合溝に高親和性で結合する小分子 S63845を見出したことを報告し
た。機構的研究は、S63845 が、BAX/BAK(アポトーシス誘発性 BCL-2ファミリーメン
バー)-依存性ミトコンドリア・アポトーシス経路を活性化させることによって多発性骨
髄腫、白血病、及び、リンパ腫細胞を含むMCL1-依存性癌細胞を強力に殺すことを明ら
かにした。生体内で、S63845 は、幾つかの癌で単剤として許容できる安全域で強力な抗
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腫瘍活性を示した。更に、MCL1阻害作用は、単剤、又は、他の抗癌剤との併用で、幾
つかの固形癌誘発細胞株に対して効果的であった
とのことである。(アポトーシスは癌や神経変性疾
患、自己免疫疾患等の疾患に関与することが知ら
れており、BCL-2ファミリーのアポトーシス制御
機能を利用した治療薬の開発が進められている
中、該剤はアポトーシスを特異的に促進すること
で癌の進行を抑制するものであり、これらの結果
は、広範囲にわたる腫瘍の治療の標的として
MCL1 が更に注目されることになろう…)
12)Medical Xpress. October 21, 2016
◆熊本大、タマネギに由来する天然化合物 Onionin Aに抗癌作用を発見
熊本大学の研究者らは、タマネギから単離された天然化合物 Onionin A(ONA)が、上
皮性卵巣癌(EOC)に対して抗癌特性を有していることを見出し報告した。同研究グル
ープは、試験管内実験において、通常、腫瘍出芽M2マクロファージの存在下で増殖す
る EOC が ONA の導入後、増殖を阻害することを明らかにした。この効果は、M2 分極
化と癌細胞増殖の両方に関連している転写因子 STAT3に対する ONA影響によると考え
られ、更にまた、同研究グループは、前臨床肉腫モデルを用いて ONAが宿主リンパ球
抗免疫反応抑制と関係している脊髄誘発抑制細胞(MDSC)の腫瘍出芽機能を阻害する
ことを見出した。又、ONA は抗増殖能力を強化することで抗癌剤作用を強化することも
明らかにされた。更に、ONA の経口投与の効果を調査した卵巣癌ネズミ・モデルでの実
験において、より長い寿命を示し、そして、卵巣癌腫瘍進行を阻害した。この結果は
M2分極化マクロファージの ONA抑制の結果であ
ると考えられている。(EOC は卵巣癌タイプの中で
最も一般的であり、化学療法を受けた約 8割の患
者は再発を経験するので、より効果的な治療が必
要とされていた癌であった。ONA は正常細胞への
細胞障害が殆どなく、動物での副作用も観察され
ておらず、既存抗癌剤を強化する可能性があり、
経口投与可能な ONAサプルメントは癌患者に大き
な恩恵を齎すかもしれない…)
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<電材関連>
1)Nature Materials | Article. Published online 10 October 2016
◆国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)、常圧下で金属伝導性を示す単一の純有機
分子(TED)の創製に成功
国立研究開発法人物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点の小林由佳主幹研究員らの研
究チームは、常圧条件下で、金属伝導性を発現する単一の純有機分子(TED:
zwitterionic tetrathiafulvalene (TTF)-extended dicarboxylate radical)を世界で初めて、創製す
ることに成功したことを報告した。金属的伝導は高いキャリアー濃度を一般に必要とす
るために、従来、軽元素のみから構成される有機分子そのものは、本来、電気を流すた
めのキャリアーを持たないため、金属のような良導体ではなく、単一成分からなる純有
機物で金属伝導性を発現するためには、最低でも 1ギガパスカル以上もの高圧を印加す
る必要があるため、純有機物から構成される単一成分分子を常圧下で金属のような伝導
性を発現させることは極めて難しいと長年考えられてきた。今回、本研究チームは、キ
ャリアーとなり得るホールを分子自身の中に自発的に発生する独自の設計を施し、常圧
条件下で、幅広い温度範囲で金属伝導性を発現するエレクトロアクティブ純有機分子
(TED:双性イオン・テトラチアフルバレン(TTF)-拡張ジカルボン酸ラジカル)の創製
を実現したことを報告した。TEDは低温においても金属的伝導を示し、300Kで 530S
cm-1、50Kで 1,000S cm-1と銅に似た電子特性を有する直流伝導率を示すとのことであ
る。又、該単一分子の電子状態とキャリアー発生機構の分光学的調査と理論的検討は、
それ自体で金属状態になる拡張 TTF構成単位でスピン密度勾配を持つ独特な電子構造を
明らかにした。(TED 上のスピン密度は他のラジカル分子に見られない顕著な勾配が存
在し、この電子状態が単一成分分
子で金属性を発現する機構に関係
する可能性を見出したものであ
り、該発見は今後の高伝導性有機
材料開発において指針を与えるも
のと云えよう…)
<その他>
1)Angew. Chem. Int. Ed., | Communication | Version of Record online:9 September 2016
◆理研、多核チタン化合物触媒を用いて窒素分子から直接ニトリル類合成法を開発
理研環境資源科学研究センター先進機能触媒研究グループは、四つのチタンを含むチタ
ン化合物を用いて、化学工業において重要な中間原料であるニトリル類を窒素分子から
直接合成する方法を開発したことを報告した。含窒素有機化合物の一つであるニトリル
類の合成法はアンモニアを原料とする手法にほぼ限られていた。同研究グループはこれ
まで独自に開発した三つのチタンを含むチタン化合物を用いて、窒素分子の常温・常圧
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での切断・水素化、及び、極めて安定なベンゼンの炭素-炭素結合の切断と骨格変換反
応に関する研究を進めてきたが、今回、新たに開発した四つのチタンを含むチタン化合
物から、特殊な試薬を用いずに窒素分子を切断し、切断した窒素種と入手が容易な酸塩
化物からニトリルを直接合成することに成功したものである。該方法は、様々なニトリ
ル合成に適用可能であり、その他の添加剤を一切使わずに、一段階で目的物を得られと
報告している。(該法はアンモニアを用いることなく各種のニトリル類を合成すること
が可能となることから工業化学的にも有用なプロセスになる可能性を秘めているのでは
…)
2)Science Portal. ニュース・プレスリリース. 2016年 10月 13日/Chemistry-A
European Journal | Accepted manuscript online:12 October 2016
◆理研、水中・室温・無触媒で起こるプロパギル基介在選択的アミド反応を開発
ペプチドやタンパク質を構成するアミノ酸をつないでいるアミド結合(-NHCO-)は、
薬剤や高分子などの様々な有機分子に欠かせない基本的構造であり、多くの場合、その
合成には縮合剤などを用いて、ハロゲン原子や電子不足状態のアルコキシ基を結合させ
ることで、カルボン酸を酸ハロゲン化物や活性化されたエステルに変換し、続いて 1級
アミン(RNH2)と反応させることでアミド結合を生成する方法が一般的であった。又、
最近では、活性化されていない電子的中性のエステルに特殊な酸触媒、又は、塩基触媒
を用いることでアミド結合の形成が可能になったが、一般的には電子的中性のエステル
とアミンを室温で混ぜても全く反応せずアミド結合を形成することはできないと考えら
れていた。今回、理研生体機能合成化学研究室の研究チームは、プロパルギルオキシ基
を持つ電気的中性のエステル(プロパギルエステル)と疎水性の 1級アミンを混ぜ合わ
せると、水中、又は、有機溶媒中で、触媒を用いずに室温でアミド結合が形成されるこ
とを発見し報告した。該反応は、①基質のエステルに三重結合を持つプロパルギルオキ
シ基があること、②エステルのα位にアミノカルボニル基があること、③反応させる1
級アミンには直鎖で疎水性の置換基があることの 3条件が揃った場合にのみ効率的に反
応が進行するとのことである。(該方法は 3条件が揃った場合のみ、水中、室温、無触
媒で反応が進行するという制約があるが、ペプチド合成やペプチドの選択的な修飾だけ
でなく、分子同士を選択的につなぐ新しい方法としての利用が期待できるのでは…)
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以上