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0 戦略 MG 教育研究 Research on Senryaku MG Education 1 (創刊号)

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戦略 MG 教育研究 Research on Senryaku MG Education

第 1 号 (創刊号)

1

【日本戦略 MG研究学会について】

日本戦略 MG 教育学会は、戦略 MG 教育に関する学術研究及びその水準向上のために寄

与すると共に、会員相互の交流を図ることを目的とした学会です。

(1) 大会及び研究会の開催

(2) 会員の研究に関する連絡・交流及び共同研究の組織化

(3) 会報その他刊行物の発行

(4) 戦略 MG 教育に関する調査研究並びに資料の作成

(5) 内外関係学会との連絡・交流及び資料の交換

(6) その他本会の目的達成に必要な事業

【会員の募集について】

日本戦略 MG 教育学会では、新規の会員を募集しております。戦略 MG(マネジメントゲ

ーム)を活用して、教育に取り組んでいる先生方、研修を実施されている実務家の方、ある

いは戦略 MG に興味をお持ちの先生方、実務家の方の入会を歓迎致します。新規会員とな

るには、入会申込書をご提出ください。入会申込書は下記からダウンロードすることができ

ます。

http://www.zb.em-net.ne.jp/~kawano/Academy.html

2

目 次

「戦略 MG 教育研究」創刊に寄せて 3

日本戦略 MG 教育学会 理事会長

日本大学商学部 教授 川野克典

戦略マネジメントゲームと管理会計 5

東北学院大学経営学部 松岡孝介

法務への会計のすすめ 20

同志社大学 法学部 企業法務教育スーパーバイザー 齋藤憲道

学会だより 26

日本戦略 MG 教育学会 理事事務局長

戦略 MG 研究所 取締役営業部長 前平雄二

日本戦略 MG教育学会 入会のススメ 29

日本戦略 MG 教育学会 専務理事

株式会社戦略 MG 研究所 代表取締役 小林静史

3

「戦略 MG教育研究」創刊に寄せて

日本戦略 MG 教育学会 理事会長

日本大学商学部 教授

川野克典

日本戦略 MG 教育学会の初代会長でいらっしゃった堀田友三郎先生から会長を引き継い

で 2 年が経過しました。会長就任に当たり、私は会員の皆様に 3 つのお約束をさせて頂き

ました。

1 つは、戦略 MG の全国大会「MG-No.1GrandPrix」略して「MG-1」の開催です。第 1

回 MG-1 は 2017 年 8 月 6 日(日)に、第 2 回が 2018 年 8 月 5 日(日)に開催され、そして第

3 回が 2019 年 8 月 4 日(日)に開催される予定です。いずれも日本大学商学部で開催され、

第 2 回は約 100 人の参加者を得ることができました。

2 つ目は、学会員による書籍の出版です。目標時期よりは大幅に遅れたものの、堀田先生、

小林静史専務理事を含め、会員 9 名が執筆を担当し、2018 年 10 月 1 日に『強い会社をつ

くる「バランス会計」入門』を出版することができました。学会が関わった書籍と言うこと

で、いたずらに易しい本にすることもできず、一方で戦略 MG を体験された方には読んで

頂くために平易に書きたいという思いとの葛藤の中での執筆、編集作業でした。幸い「戦略

会計 STRAC」に続く新しいフレームワークである「バランス会計 MFLAC」を提案するこ

とができました。

そして、3 つ目が学会としての体裁の整備です。堀田先生が取り組んで来た研究会の継続

はもちろんのこと、学会としての紀要の発行です。『強い会社をつくる「バランス会計」入

門』の編集に携わって実感したことですが、日本戦略 MG 教育学会は実務家の会員が多く、

引用や用語の定義が不徹底であるという課題がありました。学会の体裁を整えることが目

的ですので、紀要を発行すれば良いという訳ではありません。他の学会と比較した時に遜色

のない「品位」「質」を伴わねばなりません。そこで、『戦略 MG 教育研究』の創刊号は、東

北学院大学の松岡孝介先生と、同志社大学の齋藤憲道先生にご執筆を頂くことになりまし

た。素晴らしい論文を投稿頂いたお二人の先生には大変感謝しております。

しかし、紀要の発行だけに満足する訳にはいきません。紀要のさらなる質の向上を図ると

共に、継続的に発行していくことが重要です。それが、会長としての私の役割であると共に、

学会員の皆様の責務でもあると考えます。次号において、皆さんからの積極的投稿を期待し

ております。

さて、会長 3 年目に突入し、新たな公約として、戦略 MG グループ(連結)経営版の開発

と、大学教育標準テキストの執筆を掲げたいと思います。

戦略 MG は、これまでケーキ屋版、農業版、飲食業版と水平的展開が続いていましたが、

4

垂直展開の第一弾となります。グループ経営、連結経営時代の研修教材として、企業、大学

で活用して頂きたいと思っています。

後者の大学教育標準テキストは、アクティブ・ラーニングツールとして、戦略 MG を大

学に導入する際の障害を取り除くことが目的です。大学教育においては、半期 15 回、予習

復習を含めて 1 回当たり 6 時間の学修で、半期合計 90 時間の学修を持って 2 単位を与える

ことになっています。ゲームと決算だけ実施する授業では単位を与えることができないの

です。そこで、日本戦略 MG 教育学会として、標準的テキストを準備し、大学の授業への

導入を容易にし、かつ授業の質の確保を図りたいと考えています。

戦略 MG は素晴らしい教材です。この教材をさらに発展させ、普及していくのが日本戦

略 MG 研究学会の使命での一つです。皆さんのご協力と具体的行動を期待し、紀要発刊に

当たっての挨拶に代えたいと思います。

5

戦略マネジメントゲームと管理会計

東北学院大学 松岡孝介

要旨

戦略 MG を大学で運用する場合、戦略 MG 独自の概念や用語を学術的に確立されたもの

と整合させ、他の科目との関連性を明らかにすることは、既存カリキュラムとの相乗効果を

発揮させるために不可欠である。そこで本稿では、戦略 MG の特徴を検討するとともに、

管理会計における価格設定およびマネジメント・コントロールと関連性を考察する。

キーワード

戦略 MG、価値連鎖、管理会計、価格設定、マネジメント・コントロール

1.はじめに

戦略マネジメントゲーム(以下、戦略 MG)は専用のボードを囲んで最大 6 人のプレイヤ

ーが参加して行われるゲームである。各プレイヤーは企業の社長という役割を与えられ、企

業経営に関わる様々な意思決定を行う。また、その意思決定の結果を財務諸表にまとめ、他

のプレイヤーと業績を競い合う。標準的には 5 年分のゲームが行われるので、プレイヤー

が競う業績は毎期の当期純利益の他、5 年経過時点における純資産額が利用される。

戦略 MG はおよそ 40 年に渡って実用に供されている。戦略 MG は、「経営を疑似体験(シ

ミュレーション)し、ゲーム参加者と経営成績を競いながら、楽しんで戦略経営思考と実務

に役立つ会計思考を学ぶことができるアクティブ・ラーニングツール」(堀田・川野・小林

編, 2018, p. 2)である。この定義から明らかなように、戦略 MG は経営と会計を一体的に学

べることに特徴がある。その有用性は、約 40 年にも及ぶ長い実績が示すとおりである。

経営に資することを目的とした会計を管理会計という。戦略 MG は、経営と会計の一体

的な学習という特徴から明らかなように、管理会計の教材である。だが、戦略 MG は、学

術的な管理会計の体系の中でどの部分の学習に役立つのか必ずしも明示されているわけで

はない。また、戦略 MG では独特の概念や用語が用いられているが、それらは学術分野と

しての管理会計で確立されたものとは必ずしも整合性がとれていない。戦略 MG はもとも

と社会人教育を目的に開発されており、研修で完結する分にはそれでよい。だが、戦略 MG

を大学で運用する場合には、管理会計との関連性を明確にし、確立された概念や用語との整

合性をとることは、その他の管理会計科目との学習上の相乗効果を発揮させるために不可

欠である。そこで本稿では、戦略 MG の特徴を検討するとともに、管理会計における学術

的な概念や用語との整合性を考察する。

なお、戦略 MG は様々な業種を対象にしたバージョンが存在するが、本稿では製造業版

を対象とする。また、製造業版でも参加者の習熟度に応じていくつかのルールが存在するが、

6

初心者向けの「ジュニア・ルール」に基づいた説明を行う。ジュニア・ルールでは取引はす

べて現金で行われるので、売掛金や買掛金、あるいは未収金や未払金などはない。

本稿の構成は以下の通りである。続く 2 つの節では、戦略 MG の特徴を確認していく。

まず第 2節で、戦略MGが企業の活動をどのように捉えているのかを明らかにするために、

戦略 MG に価値連鎖の概念を当てはめて検討する。次の第 3 節では、戦略 MG で利用され

ている会計手続きの特徴を確認していく。第4節と第 5 節では、戦略 MG と管理会計の関

連性を考察する。具体的には、第 4 節では価格設定、第 5 節ではマネジメント・コントロー

ルを取り上げる。最後に、第 6 節で「戦略 MG 教育」の将来における研究の方向性を述べ、

結びとする。

2.戦略 MG における価値連鎖

管理会計は、企業が行う経済的活動を写像し、その結果を企業内部の利害関係者に報告す

るシステムである。戦略 MG はゲームであるので、現実の企業が行う活動を単純化してい

る。そのため、そこで利用される管理会計も簡素なものとならざるを得ない。しかし逆に言

えば、戦略 MG は経営を理解する上で肝所となる部分だけを抽出しているともいえる。以

下では、戦略 MG における活動と、それに関連して行われる意思決定を確認していく。

活動を整理する際、頻繁に利用されるフレームワークが価値連鎖である(e.g. Porter,

1985)。戦略 MG に価値連鎖の概念を適応すると、図表 1 のようになる。価値連鎖を構成す

る価値活動としては、全般管理、研究開発、製造、およびマーケティングの 4 つが想定され

ている。各価値活動に関連して様々な意思決定が行われる。

図表 1 戦略 MG の価値連鎖と意思決定

全般管理に関しては、大きく分けると 4 つの分野に関わる意思決定が行われる。1 つ目は

人的資源管理で、工員および販売員の採用や、工員と販売員の間での配置転換が行われる。

2 つ目はリスク管理で、材料の盗難や工場火災による仕掛品在庫の喪失に対して保険をかけ

ることができる。3 つ目は調達管理である。これは、戦略 MG のルール表には「マーチャン

ダイザー」とあるが、この意思決定を行うと材料の仕入単価が低減する。おそらく、何らか

の方法で仕入先との関係性を合理化することを想定しているものと考えられる。4 つ目とし

7

ては財務管理があり、銀行借り入れおよび借入金の返済が想定されている。なお、借入金に

ついては返済期限が定められておらず、プレイヤーは資金の余裕のある時にいつでも返済

してよいことになっている。

研究開発に関連する意思決定は 1 種類のみである。この意思決定を行うと、既存製品の

機能強化が行われ、製品にプレミアム価格を上乗せすることが可能となる。なお、戦略 MG

では 1 種類の製品しか扱わないので、新製品のための研究開発はない。

製造は、材料の仕入れ、製造工程への投入および完成という工業簿記に見られる標準的な

プロセスが採用されている。また、PAC(performance analysis and control)生産性とい

う意思決定もあり、製造工程の分析を通して時間あたりの生産能力を向上させる効果を持

つ。さらに、製造活動への投資として、機械購入が行われる。また、不要な機械は売却する

こともできる。

マーケティングには 3 つの意思決定が含まれる。1 つ目はマーケット・リサーチで、顧客

ニーズを把握することで適切な価格で販売できるようになる。2 つ目の広告は、認知度を高

めることで販売量を増やす効果がある。そして 3 つ目は製品の販売である。戦略 MG にお

ける販売は「競り」を通して行われるが、その詳細は第 4 節で価格設定と関連付けながら改

めて説明する。

3.戦略 MG における会計上の手続き

戦略 MG は、上述の各種の活動を行うかどうかに関わる意思決定を行い、その経済的結

果を会計を通して測定し、計算書を作成していく。戦略 MG は管理会計の教材であるが、

その会計手続きにおいては簿記や財務会計にも通じるものが含まれている。戦略MGでは、

「MG 現金出納帳」、「フローシートおよび決算報告書」、「MG 経営戦略分析表」、および「MG

経営計画表」を作成する。また、習熟度の高いプレイヤー向けには「キャッシュ・フロー計

算書」も用意されているが、本稿では割愛する。

3-1.MG 現金出納帳

戦略 MG のゲーム進行中は、(1)各プレイヤーが経営に関わる意思決定を行い、(2)それに

よって行われた経済活動の結果を戦略 MG 専用の現金出納帳に記帳する。戦略 MG では現

金取引しか存在しないので、この計算書に期中の取引が全て記録される。したがって、MG

現金出納帳は簿記でいう仕訳帳に相当する役割を担っている。

各意思決定に対して利用される勘定科目の対応関係を図表 2 に示しておく。相手科目は

すべて現金である。戦略 MG ではプレイヤー自らが意思決定と記帳を行うので、両者の間

のつながりが体感的に理解できる。現金取引だけと単純化はされているが、取引の内容が一

方的に与えられ機械的に仕訳をするだけの簿記学習にはない能動的な学習ができるのは、

戦略 MG の大きなメリットである。

8

図表 2 意思決定と勘定科目の対応関係

MG 現金出納帳は 25 回分の記帳が可能となっている。ゲームでは各プレイヤーが意思決

定を順番に行っていくが、仮に 6 人で 60 分の時間があり、1 回の意思決定と記帳に 30 秒

(0.5 分)かかるとすれば、1 年分のゲームで順番は 20 回あることになる(60 分÷[6 人×

0.5 分])。つまり、1 回のゲームでそれだけの回数、リアルな仕訳を疑似体験できるという

ことである。

3-2.フローシートおよび決算報告書

1 年分のゲームが終わると決算が行われるが、MG 現金出納帳に基づいてフローシートお

よび決算報告書が作成される。フローシートと決算報告書は 1 枚の用紙にまとめられてい

るが、フローシートは総勘定元帳、決算報告書は貸借対照表および損益計算書のことである。

戦略 MG におけるこれらの計算書で採用されている手続きや専門用語は、財務会計や管理

会計で定着しているものとは異なる部分がある。以下、それを明らかにしていく。

フローシート

フローシートは、材料、仕掛品、製品からなるいわゆる勘定連絡図と、その他の勘定口座

(現金、固定資産、借入金の 3 つのみ)から構成される。

勘定連絡図の作成にあたっては原価計算を行わなければならない。戦略 MG は管理会計

の教材であるため、直接原価計算が採用されている。そのため、製品原価には変動製造原価

9

だけが算入される。変動製造原価で最も大きな割合を占めるのは直接材料費である。この他、

戦略 MG 独特の費目として投入費と完成費という 2 つの加工費が加えられる。これらの中

身が何であるかは戦略 MG のルール説明を見ても明確にはされていないが、加工にあたっ

て必要となる消耗品や水道光熱費の費用を想定しているものと思われる。注意が必要なの

は、戦略 MG の原価計算では直接労務費を固定製造原価と見なし、期間原価に振り分ける

ことであるi。直接労務費を差し引かない理由は、変動費を控除法による付加価値計算にお

ける前給付価値と一致させることを狙ったためではないかと考えられる。この点は後に改

めて議論する。

原価計算が終わると、材料、仕掛品、製品といった棚卸資産の金額と売上原価が算定され、

その他の勘定口座を作成していくことになる。その他の勘定口座といっても、戦略 MG で

は現金、固定資産、借入金の 3 つだけである。これらの勘定口座を作成し終わると、フロー

シートが完成する。

決算報告書

フローシートの内容は、決算報告書(貸借対照表と損益計算書)へ転記される。戦略 MG

の貸借対照表および損益計算書のイメージは図表 3 のとおりである。ここでは、これらの

特徴を 3 つ指摘しておく。

図表 3 戦略 MG の貸借対照表および損益計算書

※ 損益計算書から特別利益、特別損失、および当期純利益は省略してある。

第 1 に、貸借対照表の資産の部は流動と固定が分けられているが、負債の部はそうでは

ない。これは、ほぼすべての取引が現金で行われるので買掛金が存在せず、借入金も返済期

限が定められていないという戦略 MG のルールの性質上、負債の部における流動・固定の

区分は重要な意味をもたないためと考えられる。しかしそれゆえに、戦略 MG は流動比率

や固定長期適合率などの安全性に関わる経営分析指標を教えるのには適していない。

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第 2 に、直接原価計算方式を採用しているために、戦略 MG の損益計算書は費用を変動

費と固定費に区分していることである。また、売上高から変動費を差し引いた金額は、「貢

献利益」(あるいは「限界利益」)ではなく「付加価値」と呼ばれている。付加価値は、控除

法では売上高から前給付価値を差し引いたものと定義されるが(青木, 2012, p. 259)、前給

付価値に労務費は含まれない。したがって、直接労務費を変動費に含まない戦略 MG の原

価計算では、変動費と前給付価値は一致する。このことが、付加価値という呼び方が採用さ

れた理由と考えられる。ただ、戦略 MG の原価計算では同じ金額になるとしても、売上と

変動費の差額は貢献利益であり、売上高と前給付価値の差額は付加価値であるという違い

は意識しておくべきである。両者は目的の異なる概念だからである。本稿では貢献利益とい

う用語で統一する。

第 3 に、戦略 MG の損益計算書には営業費用と営業外費用の区分がないために、営業利

益の計算が行われないことである。また、戦略 MG では有価証券の売買など営業外収益を

発生させる取引がない。他方、営業外費用は借入金に伴う支払利息があるが、これは固定費

に含められる。このため、貢献利益から支払利息を含めた固定費を差し引いた金額を「経常

利益」と呼んでいる。このことから、戦略 MG を用いて損益計算書の構造について教える

際は、営業活動と営業外活動の区分や、営業利益と経常利益の違いについて慎重に説明する

ことが求められる。

3-3.MG 経営戦略分析表

貸借対照表と損益計算書ができると、それらに基づいて MG 経営戦略分析表の作成に移

る。この表の目的は、重要な財務業績指標に関して計画と実績との比較や、時系列推移を示

すことである。この表には全部で 14 の指標が記載されているが(図表 4)、これらが戦略

MG における KPIs(key performance indicators)といってよいだろう。これらの情報を

基に、プレイヤーは自らがゲーム中に行った一連の意思決定の良し悪しを評価し、次のゲー

ムに向けた計画を練っていくことになる。

図表 4 MG 経営戦略分析表に記載される指標

11

注意しなければならないのは、この表では売上原価および売上総利益という用語が新た

に登場していることである。戦略 MG は損益計算書を直接原価計算方式で作成し、なおか

つ変動費には労務費を含まないので売上原価=変動費=前給付価値である。したがって、戦

略 MG では売上総利益=貢献利益=付加価値という関係が成立する。だが、会計に習熟し

た学習者でない限りこの関係を理解していることはないため、戦略 MG のインストラクタ

ーは十分な配慮をすべきであろう。

3-4.MG 経営計画表

MG 経営計画表は、短期利益計画を行うための表である。計画表であるので、本来であれ

ばゲームが始まる前に作成される。だが、標準的な戦略 MG の研修では、3〜4 年分のゲー

ムが終了した段階で初めて経営計画を立案する作業が導入される。プレイヤーがある程度

ゲームのルールと会計手続きに習熟していなければ、計画を立てることは難しいからであ

る。

MG 経営計画表の作成にあたっては、まず、目標利益が設定される。戦略 MG では営業

利益が存在しないため、経常利益に目標額が設定される。次に、次年度の活動内容を想定し

ながら固定費額を見積もる。続いて、目標経常利益に固定費の見積額を上乗せして、目標貢

献利益を算出する。その後は、販売価格および変動費単価の目標値を設定して、目標販売数

量を求める。この時点で計画に無理のある部分が判明すれば、見直すこととなる。

以上、戦略 MG における各種の計算書の特徴を確認した。重要なのは、貸借対照表と損

益計算書という財務会計上の計算書の作成過程も含めて、首尾一貫して直接原価計算が採

用されていることである。これにより、期中の意思決定結果を記帳する場面から、期末の決

算と業績評価、期首の経営計画にいたるまで、財務会計と管理会計の変換をすることなく一

気通貫した作業が行える。その結果、学習者は「企業が行う経済活動を映し出す」という会

計の本質を理解することに集中できるようになる。

しかし、管理会計といってもその領域は幅広い。そこで以下では、管理会計の中でも、戦

略 MG を通して深い学びが得られる分野として価格設定とマネジメント・コントロールを

取り上げ、考察を加えていく。

4.価格設定

4-1.3 つの基本戦略

戦略 MG では、製品の販売は「競り」を通して行われる。この競りは販売価格と販売数

量のバランスをいかに保つかを考えさせるよう巧みに設計されている。利益を上げるため

には、プレイヤーは過度な値下げを避けながら一定の販売数量を確保できるようにしなけ

ればならないが、そこには戦略が必要となる。戦略は様々あるが、ここでは、戦略 MG で

効果的に表現されている戦略として、3 つの基本戦略、すなわち差別化戦略、コストリーダ

ーシップ戦略、および集中戦略を取り上げる(Porter, 1980)。

12

競りは、あるプレイヤーが製品を販売すると宣言すると開かれる。他のプレイヤーは、そ

れに参加するかどうかを決めることができる。競りは、仙台、札幌、福岡、名古屋、大阪、

および東京の 6 つの市場のいずれかで開かれるが、各市場には異なる最高価格と市場規模

が設定されている。その市場で製品を販売する際、最高価格よりも高い価格を設定したり、

市場規模よりも多くの数量を販売したりすることはできない。各プレイヤーは販売したい

と思う金額を提示し、もっとも安い価格を設定したプレイヤーが販売できることになる。各

市場の最高価格と市場規模は次の通りである。

市場 最高価格(千円) 市場規模(個)

仙台 40 3

札幌 36 4

福岡 32 6

名古屋 28 9

大阪 24 13

東京 20 20

このように、市場別の最高価格と規模は、最高価格が高い(低い)市場ほど、規模は小さ

く(大きく)なっていくように設計されている。この最高価格と市場規模の条件により、プ

レイヤーは模擬的に差別化戦略とコストリーダーシップ戦略を体験することができる。た

とえ市場規模が小さくとも、高い価格で販売できれば利益は確保できる。逆に、規模が大き

い市場では、低い価格しか設定できないので大量に販売しなければならない。

また、他のプレイヤーの完成品在庫が少ないタイミングを狙って競りを開くという戦略

も可能である。そうすれば、競りに参加できるプレイヤーが少なくなり、値下げ圧力がかか

るのを避けることができる。これは、競争戦略のうち集中戦略に該当すると見なしてよいだ

ろうii。

4-2.3C モデル

価格は、コスト(cost)だけではなく、顧客(customer)や競争(competitor)を考慮し

ながら設定しなければならない (Datar & Rajan, 2017; Kotler & Kevin, 2016)。戦略 MG

の競りは価格設定における 3C モデルをプレイヤーに効果的に意識させる仕組みになって

いる。図表 5 は 3C と価格設定の関係である。以下、戦略 MG が 3C をどのように反映させ

ているかを確認していこう。

13

図表 5 価格設定のための 3C モデル

出典:Kotler and Kevin (2016, p. 497)を一部修正。

コストは企業が設定できる最低価格に影響する。言うまでもなく、コストよりも低い価格

を設定すれば利益を確保できないからである。直接原価計算を採用している戦略MGでは、

変動費単価が最低価格を規定する。

顧客は設定可能な最高価格と関連している。顧客が製品に対して感じる価値を知覚価値

(perceived value)というが、顧客は知覚価値に基づいていくらまでなら支払ってもよいと思

えるかを決める。これが、設定できる最高価格となる。戦略 MG では、各市場に最大価格

を設定することで、知覚価値を反映させている。

実際に企業が設定する販売価格は最低価格と最高価格の間のどこかで決まるが、それに

は競争が影響する。たとえば、自社と同じような製品を競合他社が安い価格で販売している

とすれば、それ以上の価格を設定することは難しくなる。戦略 MG では、競りに参加する

プレイヤーの多さが、競争の激しさそのものである。

価格設定では 3C モデルにおける各要因を総合的に考慮することになるが、3 つのうちど

れを重視するかによって価格設定方法もコスト基準法、知覚価値基準法、そして競争基準法

の 3 つに分類される。これらについては、マーケティングの標準的なテキストの他(e.g.

Kotler and Kevin, 2016)、松岡(2019)でも詳しく解説しているのでそれらを参照されたい。

4-3.感度分析

価格は利益に最も強い影響を与える要因であるにもかかわらず、その事実は見落とされ

がちである(Doyle, 2000, 邦訳 pp. 412-414)。戦略 MG は、感度分析を通してそのことに気

づかせることができる。

図表 6 は簡単な感度分析の例である。なお、ここでは固定費に支払利息は含まないこと

とし、売上から変動費と固定費を差し引いた金額を「営業利益」と表記してある。営業利益

は販売価格、販売数量、変動費、および固定費の 4 つの要素から構成されるが、図表 6 はそ

れらを 1%変動させた場合に営業利益がどの程度影響を受けるかを示している。「基本ケー

ス」の列では年間の平均販売価格 25 千円、販売数量 30 個、変動費単価 13 千円、そして固

定費 250 千円を仮定して営業利益を計算している。基本ケースから販売価格を 1%増加させ

ると営業利益が 9%増加する一方、残りの 3 つの構成要素の営業利益への影響は 3%から 5%

である。したがって、営業利益に最も強い影響を与えるのは販売価格である。

14

図表 6 営業利益の構成要素の影響(金額の単位:千円)

出典:Doyle (2000, 邦訳 p. 413)を参考に筆者作成。

これは単なる数値例に過ぎないが、現実においてはこの傾向はより顕著に現れることが

確認されている。たとえば、Marn and Rosiello (1992)は様々な業種を対象に調査をした結

果、平均的な企業では販売数量を 1%増加させても営業利益は 3.3%しか増えないのに対し

て、価格を 1%増加させた場合には営業利益は 11.1%増加すると報告している。

もちろん、実際には価格を下げれば販売数量が伸びやすくなり、最終的には営業利益が増

える可能性もある。だが、売上だけを追いかけて安売りするようになれば、販売価格の営業

利益への影響の大きさが見過ごされ、いわゆる「増収減益」という事態に陥りかねない。む

しろ、販売数量を多少落としてでも販売価格を上げたほうが営業利益は増える、すなわち

「減収増益」という結果を生むことがある。売上高の最大化は利益の最大化を意味しないの

である。

5.マネジメント・コントロール

企業は自社の目標を達成するための戦略を持っているが、戦略を実行するためのプロセ

スはマネジメント・コントロールと呼ばれるiii。「コントロール」という言葉には、「管理者

が従業員に仕事を計画通り進捗させる」という意味合いが込められている。戦略を反映した

計画を作成しておけば、いくらのコストで、どれだけの売上ivを達成すれば戦略が実行でき

たと言えるのかがわかるようになり、従業員たちはそれを達成しようと促される。また、計

画未達の場合には、従業員たちはどのようにすれば達成できるようになるのかを考え始め

る。これらのことから、マネジメント・コントロールは、「管理者が組織のメンバーに組織

戦略を効率的かつ有効に実行するよう影響を与えるプロセス」と定義される(Anthony et al.

2007, p. 664)。

戦略 MG は、様々な計算書を作成することを通して、マネジメント・コントロールがど

のような段階を経て進められるのかを、一部ではあるが学習できる。以下、マネジメント・

コントロールの段階を戦略計画、予算編成、測定と報告、および評価の 4 つに分けて(図表

7)、各段階がどのように戦略 MG と関連しているのかを確認していこう。

15

図表 7 マネジメント・コントロールの段階

出展:Anthony et al. (2007, p. 697)のレイアウトを修正。

5-1.戦略計画

戦略計画は、企業がこれから行うプログラムとそれに配分される資源の概算を決定する

段階である。プログラムとは、たとえば主要な製品や製品ラインが該当する。また、研究開

発プログラムや、人的資源開発プログラム、マーケティング・プログラムなどもある。プロ

グラムの意思決定であるため、戦略計画はプログラミングと呼ばれることもある。また、こ

れらのプログラムは複数年度にまたがって行われるので、戦略計画を長期計画と呼ぶ企業

もある。戦略計画の意思決定には資本予算に関連する技法、たとえば NPV (net present

value)、IRR (internal rate of return)、回収期間法、および ROI 法などが利用される。

戦略 MG は戦略計画に関わる内容を含んでいない。戦略 MG では 1 種類しか製品がない

ので既存製品の改廃や新製品の投入といったプログラムの意思決定がない上に、研究開発

や広告といった現実の企業経営では複数年にまたがって収益を創出させる効果を持つ投資

も、戦略 MG では 1 年しかその効果が持続しないためと考えられる。ただ、これは教材と

しては必ずしも悪いことではない。過去の意思決定が翌年度以降に及ぼす影響が小さいの

で、毎期の反省を次のゲームに即座に反映させ、その効果を検証できるからである。

しかしながら、戦略 MG にも長期的視野が必要とされる意思決定はある。具体的には、

機械工具の購入や人材の採用といった、生産能力の決定である。機械工具は耐用年数 10 年

で、購入時点ではキャッシュ・アウトフローを、その後は減価償却費による節税効果という

キャッシュ・インフローを発生させる。また、人材はひとたび採用すると原則として退職さ

せることはできず、毎年人件費を発生させ続ける。だが、戦略 MG の計算書の中には資本

予算に関わる内容は含まれていないので、これらの意思決定に関わる定量的な分析はほと

んどサポートされていない。これは、今後、何らかの補強が必要とされる点かもしれない。

5-2.予算編成

マネジメント・コントロールの第 2 段階は予算編成である。予算は、長期的な戦略計画を

短い期間(通常は 1 年)に落とし込んだものである。資本予算と対比して、単年度の予算を

業務予算と呼ぶこともある。業務予算は損益計算書を基礎として売上予算、売上原価予算、

販売費予算、および一般管理費予算から構成され、これらは部門などの社内の責任単位に落

とし込まれる。そうすることで、プログラムの各部分の実行に責任を持つ管理者が明確にさ

16

れる。

戦略 MG では、予算編成は「MG 経営計画表」の中に組み込まれている。この計画表は

基本的には短期利益計画を行うことが目的とされているが、その過程である程度予算編成

も行われる。この表では、最初に固定費に含まれる各費目の見積額を設定する。これは、販

売費予算一般管理費予算を編成する作業に相当する。また、目標販売数量も算出されるが、

これは売上高予算を編成するための基礎となる作業である。

だが、MG 経営計画表では、設定された目標販売数量に基づいて期末在庫予算、製造予算、

直接材料費予算を編成し、売上原価予算を導き出すところまでは行われない。事実、戦略

MG では製品と材料のどちらも 1 種類のみと製造工程は非常に単純化されているので、予

算編成をそこまで詳細に行う必要性は高くないかもしれない。ただ、詳細な予算編成の手続

きを戦略 MG の中に組み込んでおけば、戦略 MG の体験後に改めて管理会計を学ぶときに

役に立つだろう。

5-3.測定と報告

戦略計画と予算編成が計画策定に関わる段階であるのに対して、それ以降のステップは

計画実行に関わっている。第 3 の段階は測定と報告である。計画の実行中には、発生したコ

ストや売上の実績が測定される。また、一定期間ごとに実績が集計され、予算との比較を通

して業績報告が行われる。予算と実績との差額を差異というが、差異の生じた原因を詳細に

把握するために差異分析が行われることもある。たとえば、売上高差異は販売価格差異と販

売数量差異に分けられる。

この段階で過去の業績を見直すことには 2 つの目的がある(Anthony et al. 2007, p. 801)。

1 つ目は、意思決定影響(decision-influencing)すなわち動機づけ目的である。計画を作成

するだけでなく、後でその達成度が報告されることによって、従業員は計画を達成しようと

いう意欲を持つようになる。2 つ目は、意思決定促進(decision-facilitating)すなわち学習

目的である。過去の行動と業績との因果関係を理解することで、将来よりよい業績を上げる

ためにどのような行動を取るべきかをよりよく考えられるようになる。

戦略 MG では、「MG 現金出納帳」、「フローシート・決算報告書」、および「MG 経営戦

略分析表」までの一連の手続きが測定と報告に対応している。これらを「MG 経営計画表」

で作成した計画と組み合わせることによって、プレイヤーはマネジメント・コントロールが

持つ意思決定影響および意思決定促進の機能を体験できることになる。意思決定影響機能

については、プレイヤーは、ゲーム中には計画通りの意思決定を心がけるようになる。その

結果、たとえば材料の購入数量および購入価格や、製品の販売数量および販売価格をコント

ロールするようになる。また、意思決定促進機能は、ゲーム終了後に MG 経営戦略分析表

を見ながら、なぜ計画を達成できなかったかを考えることによって体験できるv。

しかし、MG 経営戦略分析表では、図表 4 に記されている 14 指標の計画と実績を比較す

るのみで、差異分析は行われない。そのため、たとえば経常利益が計画未達であった場合に、

17

それが販売価格、販売数量、変動費単価、および固定費のいずれの影響が大きいのかを明確

に把握することはできない。差異分析は管理会計では標準的な手法であるために、この点に

関して戦略 MG は改善の余地があると考えられるvi。

5-4.評価

第 4 ステップでは、測定と報告の結果に基づいて、どのようなアクションを行うべきか

を評価する。図表 7 には 3 つのフィードバックループが示されているが、これはここで取

られるアクションが 3 種類あることを反映している。第 1 に、現在行われている業務を調

整し、定められた予算が達成されるようにすることである。たとえば、販売価格や材料の購

入単価を予算通りに調整することが考えられる。第 2 に、予算の修正である。想定外の事象

により計画よりも販売数量が小さかった(または大きかった)場合には、より現実的な水準

に修正する必要がある。第 3 に、実行中のプログラムを修正あるいは削減することである。

たとえば、ある製品の販売不振が長期化し回復の見通しが立たないならば、その製品は廃止

されるかもしれない。

すでに述べたように、戦略 MG では戦略計画は行われないので、第 3 のフィードバック

ループは存在しない。だが、第 1 の現行業務および第 2 の予算編成へのフィードバックが

可能である。現行業務については、販売価格が下がらないようにする、材料購入単価が上が

らないようにする、あるいは不必要な研究開発や広告を行わないようにするなどといった

アクションが行われる。筆者の学生の指導経験によれば、予算編成については、プレイヤー

が戦略 MG に慣れていない間は、予算は過度に楽観的あるいは悲観的な水準に設定される

ことが多く、かなり大きな差異が出る。この結果は、プレイヤーがいかにゲームの流れを想

定できていないかを認識させ、利益を上げるための現実的で具体的な計画を立てさせるき

っかけになる。

6.むすび

本稿では、戦略 MG における活動、意思決定、および計算書を概観するとともに、価格

設定およびマネジメント・コントロールという管理会計領域との関連性を検討した。本稿は

最も基本的なジュニア・ルールを想定して執筆している。だが、戦略 MG は学習目的やプ

レイヤーの習熟度に合わせて、柔軟にルールを変更することができる。たとえば、売掛金と

買掛金を設定するルール変更も可能である。そのため、ルールにアレンジを加えた場合には、

本稿で指摘した点のうちいくつかは妥当でなくなることに留意されたい。たとえば、売掛金

および買掛金の設定を行えば、流動比率や固定長期適合率といった経営分析指標も計算可

能となる。本稿では、戦略 MG は価格設定とマネジメント・コントロールの学習に適して

いると述べたが、このようなアレンジを加えれば、簡単な経営分析の学習にも利用できるよ

うになる。

管理会計は現在も発展し続けている。40 年の歴史を持つ戦略 MG も、ルール変更を加え

18

ることで新しい管理会計の学習に資するよう発展できる可能性を秘めている。どのような

ルール変更を行うことで、どのような管理会計を学べるのかは、今後の「戦略 MG 教育」

研究の進展を通して検討されることを期待したい。

ⅰ 直接材料費だけを変動費とみなし、その他のコストは固定費とする原価計算をスルー プ

ット会計という。戦略 MG の原価計算は、直接原価計算というよりはスループット会計に

近い。

ⅱ 集中戦略はさらに差別化集中とコスト集中に分けることができる。

ⅲ マネジメント・コントロールを日本語に訳すならば「経営統制」となるが、国内の管理会

計研究者の間では「マネジメント・コントロール」と表記することが通例となっている。

ⅳ 売上のような財務業績ではなく、顧客満足、製品品質、従業員満足などの非財務業績に関

わる目標が設定されることもある。

ⅴ マネジメント・コントロールにおける意思決定影響と意思決定促進は、管理者が配下の

従業員に対して行うものである。戦略 MG では現実の企業と異なり管理者と配下の従業員

という関係は存在しない。だが、プレイヤー自身が自らの意思決定に影響を与え、促進する

ことによって、マネジメント・コントロールを擬似的に体験できる。

ⅵ 筆者が戦略 MG を用いて指導をする際は、第 3 節で示した計算書の他に、独自に差異 分

析報告書を準備するようにしている。そこでは、固定予算差異から変動予算差異と販売ボリ

ューム差異への分解と、販売ボリューム差異の市場規模差異と市場占有率差異への分解が

行われる。戦略 MG は単一製品しか扱わないので製品ミックス差異と販売ボリューム差異

は省略している。ただし、6 つの市場への販売数量を利用すれば、販売ボリューム差異を販

売ミックス差異と販売数量差異に展開することはできる(e.g. Datar and Rajan 2017)。た

だ、この方法は学習者の管理会計の習熟度が高くなければ難易度が高すぎるかもしれない。

引用文献

青木茂男. (2012).『要説 経営分析〔四訂版〕』森山書店.

堀田友三郎・川野克典・小林静史編著. (2018).『強い会社をつくる「バランス会計」入門』中央

経済社.

松岡孝介. (2019).「ホテル業における価格設定の基本とホテルチェーン A 社の事例」東北学院大

学経営学部おもてなし研究チーム『おもてなしの経営学[理論編][増補版]』創成社(pp.

219-253)に所収.

Anthony, R. N., Hawkins, D. F., & Merchant, K. A. (2007). Accounting: Text and Cases (12th ed.).

Singarpore: McGraw-Hill.

Datar, S. M., & Rajan, M. V. (2017). Horngren’s Cost Accounting: A Managerial Emphasis (16th ed.).

New Jersey: Pearson.

19

Doyle, P. (2000). Value-Based Marketing: Marketing Strategies for Corporate Growth and Shareholder

Value. Chichester, West Sussex: John Wiley & Sons, Ltd.(恩藏直人監訳, 須永努・韓文煕・

貴志奈央子訳. (2004).『価値ベースのマーケティング戦略論』東洋経済新報社.)

Kotler, P., & Kevin, K. L. (2016). Marketing Management (15 ed.). Essex: England: Peason.

Marn, M. V., & Rosiello, R. L. (1992). Managing Price, Gaining Profit. Harvard Business Review, 70(5),

84-94. (大洞達夫訳(2001)「ポケット・プライス:真実の取引価格」『DIAMOND ハーバ

ード・ビジネス・レビュー』26 (4), 122-135.)

Porter, M. E. (1980). Competitive Strategy. New York: Free Press.(土岐坤・中辻萬治・服部照夫. (1982).

『新訂 競争の戦略』ダイヤモンド社.)

Porter, M. E. (1985). Competitive Advantage. New York: Free Press.(土岐坤・中辻萬治・小野寺武夫.

(1985).『競争優位の戦略―いかに好業績を持続させるか―』ダイヤモンド社.)

20

法務への会計のススメ

同志社大学 法学部 企業法務教育スーパーバイザー

齋藤憲道

要旨

多くの企業法務や大学の法学部生にとって、会計は馴染みが薄いようである。しかし、会

計が事業にとって不可欠であることは創業者たちが良く知っており、企業法務の仕事にお

いても経理(会計)の知識が必要な場面が多い。本稿では、法務が会計知識を習得すること

の利点と、習得方法の事例を紹介する。

キーワード

経理 会計 企業法務 法学部 ゲーム 創業者

1.はじめに

2017 年に本学会で、法学部における会計教育のあり方について報告させて頂いた。その

内容の多くは筆者の体験に基づくものであり、一般の学会誌に載る思索的な論文ではない。

しかし、ビジネス(特に企業法務全般)における会計スキルの重要性を論じた文献は目に

したことがないので、法律業務に関わる方に対する啓発の思いを込めて、ここに寄稿させて

頂く。

なお、企業では、会計を経理部門が担当する例が多いので、本稿では組織と機能をまとめ

て「経理(会計)」と記す。

2.仕事を通じて学んだこと(松下電器での経験)

筆者は、大学を卒業して松下電器産業に約 40 年間勤めた。この間、様々な職能の業務に

従事して、多くのことを学んだ。それぞれの部署で上司等から言われて、今もはっきりと覚

えている言葉がある。その中で、各職能の価値観や業務の特徴がよく表れているものを次に

記す。

最初の配属先の営業では「世間は正しい」、次の経理では「経営経理」「経営の羅針盤」「厳

正、確実、迅速」「数字の裏にある真実を見る」、3 番目の経営企画では「本質は何か」「報

告書の標題の付け方は、新聞の見出しに倣う」「決裁・報告は 1 枚で」、そして法務では「契

約で事業の成否が決まる」「法務はコンプライアンスの当事者」、最後に監査では「本当の姿

を知りたい」である。

21

3.経営には経理(会計)の知識が欠かせない -筆者の経験から-

様々な職能の経験から実感するのは、経理(会計)の知識がグローバル・ビジネスの共通

語であり、企業経営には経理(会計)の最低限の知識が欠かせないということである。次に、

筆者が経験した職能業務の中で、経理知識が必要であった代表的なものを挙げる。

○営業

・取引先の倒産の予兆を、他社よりも早く察知した。

○経理(税務を含む)

・子会社の経営管理制度(本社費、業務委託費等)を企画した。

・事業場の監査を担当者(当時、ヒラ社員)として行った。

業務監査: 金銭一般、購買、製造、営業、知的財産・役務の取引

会計監査: 固定資産会計

・有価証券報告書(初回から数年間)を作成した。

分社の第 1 回目の有価証券報告書を作成した時に、商法監査と証取法監査の違いを実感

した。(勘定科目の定義や税効果会計の取り扱いについて公認会計士が厳格になる。)

・会社分割、会社設立、合併、事業譲渡等の実務を担当した。

どのケースでも、最初に、事業目論見(資産評価・税務・資金繰り等を含む)を作成し、

新設事業体の経営が成り立つことを確認した。その上で、株主総会・取締役会・登記等の法

律事務を行った。

(注)当時、法務組織が無く、経理部門で分割・設立・合併等の法手続きを全て行った。

○経営企画

・経理部門及び海外部門と共同で次の国内外の事業運営制度を定め、それを全事業部門に通

達して実行した。

移転価格問題、ダンピング問題を起こさない取引制度

材料・完成品・機械等の取引価格を適正(第三者取引価格水準)に維持

役務費(品質管理・設計等の業務支援)の基準を作成

海外子会社の経営責任と、赤字事業対策の基本的な考え方

特許・商標・技術ノウハウ等の開発費負担と権利の帰属(国内外の親子会社を含む)

・EU のダンピング調査に対応した結果、当局の調査が終結し、AD 課税を回避できた。

品番別連結収支を作成、様々な反論、EU の関係業界にポジションペーパーを提案

・関税法遵守(米国のアンチ・ダンピング措置に対応)

原産地規則を厳正に運用して、原産国を正しく申告

(注)現在の TPP や日 EU 経済連携協定において、同じ管理が求められる。

・海外会社(合弁含む)設立に、契約交渉・経営計画策定・事業運営の面で参画した。

法律が未整備の発展途上国(中国を含む)の企業との合弁事業における経営リスク(外貨

調達義務等)を分析し、その回避策を契約・経営計画の中に織り込み

合弁交渉中に相手方に決算書類の開示を求め、経営体質・取引先・粉飾の有無等を分析し

22

てリスク回避に必要な契約条項を追加し、設立後の事業運営に反映

・全社中期計画を総括した。

全事業部門の P/L、B/S を自動集計して全社合計を作成し、経営判断の影響をシミュレー

ションできるようにした(初歩的なシステム)

(注)経営計画策定は、複数のシナリオ(選択肢)の優劣の評価に時間をかけるべき。

・事業計画の検討・決定、新規事業の企画・立ち上げに参画した。

拡大事業と縮小事業を見極めて対策、設備投資額の上限設定等

ライバル会社との競争力比較を行い、経営判断(工場建設中止、投資増額等)に参画

商品力分析、コスト力(製造、管理・販売等)分析

○法務

・契約書の作成・審査を担当し、重要案件は契約交渉に参加した。

契約条件を吟味して、当事者間の得失と、Give & Take を見極め

このとき、双方が有する資産の価値と競争力を適切に評価することが重要

契約書の偽造を見抜く(決算書から不自然なカネの流れを見つけて発見)

・会社更生法適用会社の更生計画作成に関与して、出資し、人材を派遣した。

出資の可否と出資額の決定には、計画実現の見極めが必要

・独禁法遵守の取り組みを行った。

独禁法監査(書類等による監査)で違法を発見するのは困難

(注)本当のワルは、書類等に痕跡を残さない。

入札談合は、事前の社内の入札価額審査に一定の効果を期待

・内部通報案件の調査を行って、法令違反を見つけ、民事・刑事の措置を行った。

決算書(本決算・月次決算)を調べ、その中の不適切な経理処理を発見

複数の印影を見つけて、不正を確信

○監査

・ルール違反(法令違反を含む)を察知し、それを除去して、再発防止策を提案する。

営業、経理、経営企画、法務の経験が全て役立つ

・監査を行う者は、経理(会計)のスキルを必ず身につけるべきである。

経理の知識を持ってカネの流れを追うと、不明・不正の発見が容易

4.経理は経営の基本であり、難しくない

筆者の観察では、経理の知識は、取っ付き難いだけであり、難しくない。

ところが、簿記や会計の教科書を開くと貸方・借方、減価償却、引当などの聞き慣れない

用語が並んでいて、見たとたんに眠くなる。「よそ者は経理の村に入るな」と言わんばかり

であり、経理(会計)に携わる方々には改善を期待したい。

小規模企業の社長が金(カネ)勘定の分からない人であれば、いずれ、その企業の経営は

行き詰まる。著名な企業の創業者の中には、経理(会計)に通じた方が多い。

23

松下電器の松下幸之助創業者は若い頃に納税で悩んだのを機にガラス張り経営に方向を

定め、昭和 8 年に事業部制を導入して間もなくグループの経理準則を制定して帳簿・勘定

科目を統一するとともに経理社員制度(経理社員の身分を本社が保証することにより、上司

である事業責任者に対して忌憚なく諫言することを促す)を実施した。そして、昭和 40 年

以降はダム式経営を唱えて、それを実践した。

(注)高橋荒太郎(元、松下電器産業㈱会長)が、「経理が乱れると、経営そのものが乱

れる」のを防ぐ、という信念に基づいてグループ全体の経理制度の一本化を指揮し

たⅰ 。

「稲盛和夫の 実学―経営と会計」には、京セラが「会計学(本質追求の原則)」と「アメ

ーバ経営(小集団独立採算制度)」を経営管理の 2 本柱としていることが紹介され、「会計が

わからなければ真の経営者になれない」と記されているⅱ 。

また、日本電産の永守重信創業者は「家計簿経営」を唱えている。

この家計簿の考え方は四書五経の中の礼記に載っている「入るを量りて出ずるを為す(制

す)ⅲ 」と同じであり、江戸時代には二宮尊徳がこの方針を説いて、多くの困窮した農村を

復興に導いている。

このように、事業を起こしてそれを発展させた創業者たち(上記の 3 氏はいずれも発明

家・技術者である)は、経理(会計)の知識・スキルを重んじて、日常的に健全経営の実践

に努め、それを企業体質にしている。

近年、大規模な会計不祥事が発生した東芝は、会社が存亡の危機に直面した後で再発防止

に取り組み、全従業員に対して会計コンプライアンス教育を始めたⅳ 。遅きに失した感も

あるが、再起が望まれる。

4.経理(会計)の基礎知識の習得にはゲームが有効

筆者は、簿記・会計学の教科書を読んで理解するのに苦労した後で、会計を理解できるよ

うにするマネジメントゲームと出会い、1 日で資金繰り・損益計算書・貸借対照表等の全体

の仕組みを理解することができる工夫を見て感激した。

そこで、近年、大学で法学部の授業を担当するようになってから、このゲームⅴ を用い

て、学生たちに会計の仕組みを教えている。誰もが、1 日で、会計の基本的な仕組みを理解

する。ゲームを行う際に、筆者は、次の3つの流儀を貫いている。

1)全体の仕組みを理解するまでは、手作業で計算する。(コンピュータで計算させない。)

これは、筆者が中国で4つの合弁会社設立に関わった経験に基づく。当時、「最新の管理

を導入せよ」と各方面から要請されたが、創業時に敢えてコンピュータを導入せず、現地の

事務員を含めて人手で管理の仕組みを作った会社の管理水準が最高になり、最短期で配当

を開始した。人材が育ち、自分たちでリスクマネジメントできるようになったのである。会

計の学習では、頭の中に、決算書の基本構造を叩き込むのが重要である。コンピュータの計

算システムが正しいとは限らないことに留意したい。監査においては、システムの異常を察

24

知して、そこに組み込まれた不正を暴くことも必要になる。

2)解散前に、「自分なら、このようにして粉飾決算する」ということを発表させる。

ゲームの中で行う粉飾決算の手段には限りがある。それでも、いろいろな粉飾のアイデア

が出てくる。それに対して、他のメンバーから、それを見破る方法を指摘してもらうのであ

る。そして最後に、適切な連結決算の必要性を説いて、解散する。この討議によって、理解

度が一段と増す。

3)ゲームに特別ルールを加える。(3 期目以降)

目的は、税制が企業に与える影響を実感することと、純資産が少ない者に挽回のチャンス

を与えることである。 具体的には、次のように純資産の多寡によって拠点を海外にシフト

し、税率に差をつける。(シフト費用は計算しない。)

下位層 外資導入期の中国に移転(2 免 3 減=2 年間免税、次の 3 年間は税率 2 分の 1)

中間層 シンガポールに移転(実効税率を相談し、概ね 10%に設定)

上位層 日本で事業を継続

なお、倒産した者については、デット・エクイティ・スワップを行って事業を続けさせる。

(会社更生法を適用)

5.受講生の感想

ゲームに参加した法学部生の代表的な感想を、次に示す。会計の重要性を認識したうえで、

多くの者が、社会で法律が果たす役割とその使われ方について、関心を深めている。

・会社法で、資本金、剰余金、粉飾決算等を学んだが、会計を理解せずに表面的な理解に止

まっていた。今回、少し、実感できるようになった。

・入札、設備投資、配置転換等を経験し、会社法で学ぶ「経営判断」の重要性と難しさを実

感した。

・競争相手の手の内を読むことの重要性を学んだ。ゲームでは競争相手の在庫・人員配置・

研究開発等の状況が見えるが、実際のビジネスでライバルの情報(多くは営業秘密として管

理されている)を収集する方法を知りたい。

・ゲーム中に、売上・利益を増やすために単価を上げたくなった。会社が、なぜカルテル・

談合に手を染めるのか、気持ちが分かった。独占禁止法の実際の運用を詳しく知りたい。

・自分でも粉飾決算ができそうだ。これを防ぐため、倫理観のある人に経営して貰いたい。

・売上高よりも、利益を重視しないと経営が安定しないことが良く分かった。

・研究開発の成果の威力を体験し、開発・知的財産の重要性を具体的に認識できた。中長期

的に商品を差別化できなければ、企業の発展は難しい。

・計算を間違えて決算が遅れ、他のメンバーに迷惑をかけた。企業実務ではどのようにして

ミスを避けるのか知りたい。

6.おわりに

25

以上、筆者が「法務への会計のススメ」に力を入れたいと考える背景を紹介した。これま

で、同志社大学の学生たちに課外講座で、資金繰りと財務諸表の作り方をゲーム感覚で教え

てきたが、その輪を外に広げたいと考えている。

ロースクール科目とビジネススクール科目の両方にまたがる法務・会計の分野を修得し

た者の中から、明日の経営者が輩出することを期待している。

i 「松下幸之助に学んだもの =人をつくる事業経営=」高橋荒太郎著 1979 年実業之日本

社 51 頁~60 頁.

ⅱ「稲盛和夫の実学―経営と会計」稲盛和夫著 1998 年 日本経済新聞社 122 頁、36 頁.

ⅲ 稲盛和夫京セラ創業者も、JAL の経営再建を引き受けたときの記者会見(2010 年 2 月

1 日)で、この礼記の教えに言及している。

ⅳ 東芝の「内部管理体制の改善報告(2017 年 10 月 20 日)」に次の記述がある。

「(b) 従業員の意識改革(ア)階層別、職能別教育 従業員に対し、会計コンプライアン

スの実効性を高めるため、役職、業務内容に応じた階層別、職能別教育を継続的に実施して

います。今後も、全従業員を対象とした会計コンプライアンス教育や、階層、職能別 研修

と、経営幹部向けの研修を併行して行うことで、社内の上位階層から意識改革の浸透を図り、

風通しの良い企業風土を醸成していきます。(略)(イ)会計コンプライアンスワークショッ

プの実施 2016 年 3 月に、経理部門以外で会計処理に関わる事業企画部門、営業部門等の

グループ長などを対象として、ケーススタディを通じ自部門の会計リスクを認識し、その原

因及び対策についてディスカッションを行う、会計コンプライアンスワークショップを開

催しました。2017 年 3 月期は、(略)会計問題を超えた広義のコンプライアンス徹底の重

要性を鑑み、実際に発生した実例を用いて職場ミーティング及びe-ラーニング(全従業員

向け)を優先して実施しました。」

ⅴ「戦略 MG」を利用している。

26

学会だより

日本戦略 MG 教育学会 理事事務局長

株式会社戦略 MG 研究所 取締役営業部長

前平雄二

『強い会社をつくる「バランス 会計」入門』出版

『強い会社をつくる「バランス会計」入

門』 が 2018 年 10 月に中央経済社から

出版されました。本学会の会員 9 名が、戦

略 MG の解説のみならず、企業が目指すべ

き姿、その目指すべき姿を実現するための

施策について、平易に解説しています。

『強い会社をつくる「バランス会計」入門』出版記念セミナー

『強い会社をつくる「バランス会計」入門』の出版記念セミナーが 2018 年 10 月 10 日

にアルカディア市ヶ谷(私学会館)で開催されました。

堀田友三郎先生(日本戦略 MG 教育学会 初代

会長、東海学園大学 名誉教授)が「経営理念と強

い会社」、小林静史先生(日本戦略 MG 教育学会

専務理事、株式会社戦略MG研究所 代表取締役)

が「戦略会計 STRAC®を活用した強い会社のつく

り方」、川野克典先生(日本戦略 MG 教育学会 会

長、日本大学商学部 教授)が「新手法!バランス

会計 MFLAC と強い会社」、望月宗敬先生(戦略

MG 全国会 会長、のぞみ総合経営グループ 代表)

が「強い会社の秘密と戦略 MG の活用」について講演しました。セミナーには中央経済社

から田邉一正氏、日本戦略 MG 教育学会 名誉会員でもある西順一郎先生にもゲスト参加頂

きました。

27

日本戦略 MG教育学会第 8回研究会開催

日本戦略 MG 教育学会第8回研究会を

2018 年 12 月 1 日(土) 13 時から、東北学院

大学で開催しました。

最初に堀田友三郎先生の記念講演が開催

され、記念講演の後、川野現会長より堀田先

生に記念品が贈呈されました。

研究報告会では、松岡孝介先生(東北学院

大学)が「東北学院大学 経営学部でのマネジメントゲームの活用事例」、白城真也先生(戦

略 MG 研究所)が「戦略 MG 農業版開発経緯とゲーム内容について」、籏本智之先生(小樽

商科大学)が「ホスピタリティ業の経営人材育成と戦略 MG マネジメントゲーム」、左京利

章先生(ブレイン・アクティベーション)が「インターネット業界に浸透する戦略 MG 研

修の現状」をそれぞれ報告し、充実した研究会となりました。

日本戦略 MG教育学会の役員体制

日本戦略 MG 教育学会は、以下の執行部で運営されています。

名誉会員 西順一郎 (株式会社西研究所 代表取締役)

名誉会員 堀田友三郎 (東海学園大学 名誉教授、前会長)

理事会長 川野克典 (日本大学商学部 教授 会計学研究所長)

専務理事 小林静史 (株式会社戦略 MG 研究所 代表取締役)

理事 松岡孝介 (東北学院大学経営学部 准教授)

理事事務局長 前平雄二 (戦略 MG アクティブラーニング協会 理事長)

理事 白城真也 (戦略 MG インストラクター協会 理事長)

戦略 MG農業版の発売

戦略 MG 研究所は、戦略 MG の農業版を発売しました。既に群馬県農業協同組合中央会

担い手サポートセンター主催の研修会で活用され、その様子が 2019 年 2 月 27 日付の「日

本農業新聞」全国版の一面に取り上げられています。

28

2019年度の学会行事予定

2019 年 8 月 4 日(日)に第 3 回「MG-No.1 Grand Prix」(「MG-1」)を日本大学商学部で

開催します。

また、研究会は「全国大会」と名を改め、2019 年 12 月 7 日(土)に日本大学商学部で開催

します。

会費納入のお願い

2018年度の会費(3,000円)を未納の会員は、ゆうちょ銀行 記号 15100、番号 56268731、

名前 日本戦略 MG 教育学会(ニホンセンリャクエムジーキョウイクガッカイ)に振込をお願い致します。会費

は本誌の発行等、事務局の運営に充当されます。

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日本戦略 MG教育学会 入会のススメ

日本戦略 MG 教育学会 専務理事

株式会社戦略 MG 研究所 代表取締役

小林静史

日本戦略 MG 教育学会(以下学会と略)の立ち上げ時、堀田友三郎先生(現名誉会長)

には、学会の会則や運営方法まできめ細かくご指導頂き、大変なご尽力を頂きました。2011

年 11 月 7 日の第 1 回研究会開催より、毎年開催され、2019 年 12 月 7 日の研究会(第 7 回

から川野克典理事会長)で第 9 回を数えるまでになりました。学会専務理事として、念願の

学会会員数 100 名を目指す所存です。

今、教育現場ではアクティブラーニング(AL: 能動的学習)が、専門学校や大学では実施

されています。中教審部会の答申によりますと、小学校は 2020 年度から、中学校は 2021

年度から、高校は 2022 年度の新入生から順次実施と公表されています。全教科にアクティ

ブラーニングを導入して、生徒同士の対話などを通じて知識を深めるのが狙いです。

また、政府は、定年退職した高齢者や出産・育児で退職した女性を対象に、ビジネスの技

能を磨くリカレント(学び直し)教育推進のため、2019 年度以降に 5,000 億円を投入する

方針を固めています。このリカレント教育は、少子高齢化社会での労働力確保策として注目

され、多くの大学が既に講座を開設しています。

さらに、アメリカでは企業経営の専門的な教育を施すビジネススクールが多く開校され、

その半分以上が充実した起業家養成コースを持っていると言われています。日本では、1995

年頃から新聞や雑誌等に登場し始めましたが、主な起業家養成講座の内容は実務重視型や

地域との連携重視型が多いようです。

とりわけ注目のアクティブラー

ニング、リカレント教育、起業家育

成はもちろんのこと、大学では学生

向けの授業やゼミナールの学習支

援にも戦略 MG 研修用教材が活用

されております。同教材は 1979 年

開発以来、中等・高等教育機関 800

校以上で採用され、思考力、課題解

決力、創造力が養われると好評頂い

ております。経営を疑似体験するこ

とで、高い学習効果(左図参照)と授業満足度が得られ、先生方の授業研究にも十分な成果

が期待できます。日本戦略 MG 教育学会にご入会お待ち申し上げております。

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戦略 MG教育研究 創刊号(第 1号)

発行日 2019 年 5 月 15 日

発行者 川野克典 (日本戦略 MG 教育学会 理事会長)

発行所 前平雄二 (日本戦略 MG 教育学会 理事事務局長)

住所 〒104-0032 東京都中央区八丁堀 4-10-8 第 3SS ビル 4F

電話 03-6869-8357

印刷所 株式会社 プリントパック

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i 直接材料費だけを変動費とみなし、その他のコストは固定費とする原価計算をスループ

ット会計という。戦略 MG の原価計算は、直接原価計算というよりはスループット会計に

近い。 ii 集中戦略はさらに差別化集中とコスト集中に分けることができる。 iii マネジメント・コントロールを日本語に訳すならば「経営統制」となるが、国内の管理

会計研究者の間では「マネジメント・コントロール」と表記することが通例となってい

る。 iv 売上のような財務業績ではなく、顧客満足、製品品質、従業員満足などの非財務業績に

関わる目標が設定されることもある。 v マネジメント・コントロールにおける意思決定影響と意思決定促進は、管理者が配下の

従業員に対して行うものである。戦略 MG では現実の企業と異なり管理者と配下の従業員

という関係は存在しない。だが、プレイヤー自身が自らの意思決定に........

影響を与え、促進す

ることによって、マネジメント・コントロールを擬似的に体験できる。

vi 筆者が戦略 MG を用いて指導をする際は、第 0 節で示した計算書の他に、独自に差異分

析報告書を準備するようにしている。そこでは、固定予算差異から変動予算差異と販売ボリ

ューム差異への分解と、販売ボリューム差異の市場規模差異と市場占有率差異への分解が

行われる。戦略 MG は単一製品しか扱わないので製品ミックス差異と販売ボリューム差異

は省略している。ただし、6 つの市場への販売数量を利用すれば、販売ボリューム差異を販

売ミックス差異と販売数量差異に展開することはできる(e.g. Datar and Rajan 2017)。た

だ、この方法は学習者の管理会計の習熟度が高くなければ難易度が高すぎるかもしれない。