p-13 均一液液抽出(holle)による レアメタルリサイクル ·...

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() () pH表面改質技術であるめっきは,装飾性・防食性・機能性 を活かし工業の幅広い分野で利用されている。希少金属 (レアメタル)を含んだめっき液が存在するものの,廃液処 理において大部分はpH調整しスラッジとした後埋め立て 処分されているのが現状である。金属としての資源価値お よび環境への配慮を考えて,効率的なレアメタル回収が 求められている。再資源化技術の一つとして溶媒抽出法 が検討されているが,有機溶媒を多量に使用する点,煩 雑な操作手順である点をはじめとし課題を有している。こ れに対し,均一液液抽出法(Homogeneous Liquid-Liquid Extraction: HoLLE)は,高濃縮倍率および高回収率が得 られ,基本的に試薬を添加するのみのシンプルな操作手 順でレアメタルを分離・濃縮することが可能である(1) 1) この優位性を活かし,工業製品からのレアメタル再資源化 に向けた研究が行われている 2) 。これより大規模な設備を 必要とせず,小型分散型システム(事業所毎での処理を実 現するもの)を目指した均一液液抽出法によるめっき廃液 からのレアメタル分離・濃縮システムの開発を行っている 3) 本研究では,貴金属精製工程において抽出困難であるロ ジウムのめっき廃液を中心に想定し検討した。 1 均一液液抽出法 1. ロジウム単一溶液に対する均一液液抽出 相分離剤としてZonyl FSAを用い,各種錯体の濃縮挙 動を確認した。白金族金属の多くは,硫黄/窒素ドナー系 配位子を用いることが多いことをふまえ,アンミン錯体,フ ェナントロリン錯体,クロロ錯体等を用いた均一液液抽出 を行ったところ,ロジウム回収率は2040%であった。そこ で,1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトール(PAN)を用いたところ, 70%の回収率が得られた。さらに,錯形成時に加熱する ことにより安定した抽出がなされることがわかった。相分離 は良好になされ,588倍の高濃縮倍率が得られた(50mL 0.085mL)。錯形成および均一液液抽出のいずれにお いて影響を及ぼすpHを検討したところ,pH4.0で回収率お よび濃縮倍率が最適となった。また,ロジウム濃度とPAN 濃度の比率を検討したところ,88%の回収率が得られた。 2. めっき液に対する均一液液抽出(スケールアップ実験) めっき事業所における廃液工程では,50mLといった実 験室レベルから数リットルの廃液処理レベルへスケールア ップした実験が必要となる。そこで3Lとした状態で,ロジウ ムめっき液の均一液液抽出を行った。図2のとおり良好に 相分離がなされた。濃縮倍率は500倍であり(3000mL 6mL),実験室レベルの均一液液抽出と同等の濃縮倍率と なった。回収率は今後確認を進めるが,スケールアップし た状態でも良好に分離・濃縮がなされることが確認された。 本法は,シンプルな操作手順により高濃縮倍率・高回収 率でレアメタルを分離・濃縮可能となる。また,相分離剤の リサイクルも試みられており 4) ,コストに配慮したレアメタル 分離・濃縮システムとして期待できる。 2 スケールアップ実験における析出相 (試験管下部の褐色部が析出相) (3000mL 6mL) 参考文献 1. S. Igarashi, T. Yotsuyanagi, Mikrochimica Acta, 106, 37 (1992). 2. T. Kato, S. Igarashi, Y. Ishiwatari, M. Furukawa, H. Yamaguchi, Hydrometallurgy, 137, 148 (2013). 3. 加藤健,五十嵐淑郎,斎藤昇太郎,安藤亮,浅野俊 之,表面技術,65144 (2014). 4. S. Saito, O. Ohno, S. Igarashi, T. Kato, H. Yamaguchi, Metals, ISSN 2075-4701(2015). 謝辞 本研究は,文部科学省「特別電源所在県科学技術振興 事業補助金」の支援で実施しており,ここに感謝の意を表 す。本事業において,茨城県内のめっき事業所,茨城大 学と共同で実用化に向けた検討を進めている。 ( H o L L E ) 代表発表者 問合せ先 3 1 1 - 3 1 9 5 3 7 8 1 - 1 T E L 0 2 9 - 2 9 3 - 7 4 9 5 F A X 0 2 9 - 2 9 3 - 8 0 2 9 k a t o u @ k o u g i s e . p r e f . i b a r a k i . j p (1)均一液液抽出法(HoLLE) (2)めっき廃液 (3)希少金属(レアメタル) P-13 15

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Page 1: P-13 均一液液抽出(HoLLE)による レアメタルリサイクル · 率でレアメタルを分離・濃縮可能となる。また,相分離剤の リサイクルも試みられており4),コストに配慮したレアメタル

均一溶液

(レアメタルを含む)

析出相

(レアメタルを含む)数分静置pH変化等

■ はじめに 表面改質技術であるめっきは,装飾性・防食性・機能性

を活かし工業の幅広い分野で利用されている。希少金属(レアメタル)を含んだめっき液が存在するものの,廃液処理において大部分はpH調整しスラッジとした後埋め立て処分されているのが現状である。金属としての資源価値および環境への配慮を考えて,効率的なレアメタル回収が求められている。再資源化技術の一つとして溶媒抽出法が検討されているが,有機溶媒を多量に使用する点,煩雑な操作手順である点をはじめとし課題を有している。これに対し,均一液液抽出法(Homogeneous Liquid-Liquid Extraction: HoLLE)は,高濃縮倍率および高回収率が得られ,基本的に試薬を添加するのみのシンプルな操作手順でレアメタルを分離・濃縮することが可能である(図1)1)。この優位性を活かし,工業製品からのレアメタル再資源化に向けた研究が行われている2)。これより大規模な設備を必要とせず,小型分散型システム(事業所毎での処理を実現するもの)を目指した均一液液抽出法によるめっき廃液からのレアメタル分離・濃縮システムの開発を行っている3)。本研究では,貴金属精製工程において抽出困難であるロジウムのめっき廃液を中心に想定し検討した。

図1 均一液液抽出法 ■ 活動内容 1. ロジウム単一溶液に対する均一液液抽出

相分離剤としてZonyl FSAを用い,各種錯体の濃縮挙動を確認した。白金族金属の多くは,硫黄/窒素ドナー系配位子を用いることが多いことをふまえ,アンミン錯体,フェナントロリン錯体,クロロ錯体等を用いた均一液液抽出を行ったところ,ロジウム回収率は20~40%であった。そこで,1-(2-ピリジルアゾ)-2-ナフトール(PAN)を用いたところ,約70%の回収率が得られた。さらに,錯形成時に加熱することにより安定した抽出がなされることがわかった。相分離は良好になされ,588倍の高濃縮倍率が得られた(50mL → 0.085mL)。錯形成および均一液液抽出のいずれにおいて影響を及ぼすpHを検討したところ,pH4.0で回収率および濃縮倍率が最適となった。また,ロジウム濃度とPAN濃度の比率を検討したところ,88%の回収率が得られた。

2. めっき液に対する均一液液抽出(スケールアップ実験) めっき事業所における廃液工程では,50mLといった実

験室レベルから数リットルの廃液処理レベルへスケールアップした実験が必要となる。そこで3Lとした状態で,ロジウムめっき液の均一液液抽出を行った。図2のとおり良好に相分離がなされた。濃縮倍率は500倍であり(3000mL → 6mL),実験室レベルの均一液液抽出と同等の濃縮倍率となった。回収率は今後確認を進めるが,スケールアップした状態でも良好に分離・濃縮がなされることが確認された。本法は,シンプルな操作手順により高濃縮倍率・高回収率でレアメタルを分離・濃縮可能となる。また,相分離剤のリサイクルも試みられており4),コストに配慮したレアメタル分離・濃縮システムとして期待できる。

図2 スケールアップ実験における析出相 (試験管下部の褐色部が析出相)

(3000mL → 6mL) ■ 関連情報等(特許関係、施設) 参考文献 1. S. Igarashi, T. Yotsuyanagi, Mikrochimica Acta, 106,

37 (1992). 2. T. Kato, S. Igarashi, Y. Ishiwatari, M. Furukawa, H.

Yamaguchi, Hydrometallurgy, 137, 148 (2013). 3. 加藤健,五十嵐淑郎,斎藤昇太郎,安藤亮,浅野俊

之,表面技術,65,144 (2014). 4. S. Saito, O. Ohno, S. Igarashi, T. Kato, H. Yamaguchi,

Metals, ISSN 2075-4701(2015). 謝辞 本研究は,文部科学省「特別電源所在県科学技術振興事業補助金」の支援で実施しており,ここに感謝の意を表す。本事業において,茨城県内のめっき事業所,茨城大学と共同で実用化に向けた検討を進めている。

環境

均一液液抽出(HoLLE)による レアメタルリサイクル

代表発表者 加藤 健 (かとう たけし) 所 属 茨城県工業技術センター

先端技術部門

問合せ先 〒311-3195 茨城県東茨城郡茨城町長岡 3781-1 TEL:029-293-7495 FAX:029-293-8029 [email protected]

■キーワード: (1)均一液液抽出法(HoLLE) (2)めっき廃液 (3)希少金属(レアメタル)

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