本態性クリオグロブリン血症による ネフローゼ症候群の一例...図15 問題点...

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1 茅ヶ崎市立病院腎臓内科 2 横浜市立大学医学部分子病理学 Key Word:クリオグロブリン血症,蛋白尿,低補体血症 症  例 症 例:18 歳男性 現病歴:中学生の時に一度健診で尿蛋白指摘 されたが,再検査では異常を指摘されなかった。 20XX 11 月扁桃炎に罹患したが抗生剤投与で 軽快した。20XX 1 3 月,野球の特待生で の専門学校入学前の健康診断にて尿蛋白指摘さ れ,同年 4 月当院初診。ネフローゼレベルの蛋 白尿を認め,同年 5 月腎生検施行。ステロイド 治療目的に同年 8 月入院となった。 現 症:身長 167cm,体重 71.8kgBMI25.7血圧 160/99mmHg,脈拍数 88 分,整体温 37℃, 眼瞼結膜:貧血(-),眼球結膜:黄疸(-),口腔内: 扁桃腫大なし,心音:S1 S2 S3(-)S4(-), 心雑音(-),呼吸音:清,ラ音(-),腹部:平坦・ 軟,四肢:下腿浮腫なし,皮膚:皮疹なし 既往歴:17 歳扁桃炎 家族歴:祖父:高血圧 内服薬:アトルバスタチン 10mgシルニジ ピン 20mg 本態性クリオグロブリン血症による ネフローゼ症候群の一例 栁   麻 衣 1 吉 浦 辰 徳 1 小 林   竜 1 長 濱 清 隆 2 図1 図2 19 第 59 回神奈川腎炎研究会 19

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  • (1 茅ヶ崎市立病院腎臓内科(2 横浜市立大学医学部分子病理学

    Key Word:クリオグロブリン血症,蛋白尿,低補体血症

    症  例症 例:18歳男性現病歴:中学生の時に一度健診で尿蛋白指摘

    されたが,再検査では異常を指摘されなかった。20XX年11月扁桃炎に罹患したが抗生剤投与で軽快した。20XX+1年3月,野球の特待生での専門学校入学前の健康診断にて尿蛋白指摘され,同年4月当院初診。ネフローゼレベルの蛋白尿を認め,同年5月腎生検施行。ステロイド治療目的に同年8月入院となった。現 症:身長167cm,体重71.8kg,BMI25.7,

    血圧160/99mmHg,脈拍数88分,整体温37℃,眼瞼結膜:貧血(-),眼球結膜:黄疸(-),口腔内:扁桃腫大なし,心音:S1→S2→S3(-)S4(-),心雑音(-),呼吸音:清,ラ音(-),腹部:平坦・軟,四肢:下腿浮腫なし,皮膚:皮疹なし既往歴:17歳扁桃炎家族歴:祖父:高血圧内服薬:アトルバスタチン10mg,シルニジ

    ピン20mg

    本態性クリオグロブリン血症によるネフローゼ症候群の一例

    栁   麻 衣1  吉 浦 辰 徳1  小 林   竜1長 濱 清 隆2

    図 1

    図 2

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    第59回神奈川腎炎研究会

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  • <尿所見>比重 1.015pH 8.0蛋白 3+潜血 1+RBC 1-4 /HPF

    WBC 0-1 /HPF扁平上皮細胞 0-1 /HPF尿細管上皮細胞 1-4 /HPF脂肪円柱 0-1 /LPF硝子円柱 +

    蓄尿:尿蛋白 4.0 g/日Selectivity Index 0.3124時間Ccr 137.7 ml/min尿中β2-MG 334 μg/l尿中NAG 16.4

    検査所見①

    <生化学>TP 5.06 g/dl

    Alb 3.0 g/dl

    AST 19 U/l

    ALT 23 U/l

    ALP 194 U/I

    LDH 164 U/l

    γ-GTP 35 U/IT-Bil 0.6 mg/dl

    AMY 86

    CK 110 U/l

    BUN 8.59 mg/dl

    Cr 0.82 mg/dl

    UA 7.8 mg/dl

    Na 142 mEq/l

    K 4.4 mEq/l

    Cl 104 mEq/l

    Ca 9.4 mg/dl

    CRP 0.02 mg/dl

    Glu 119 mg/dl

    HbA1c 5.9 %

    HDL-C 49 mg/dl

    LDL-C 144 mg/dl

    TG 260 mg/dl

    <血算>WBC 5500 /μlRBC 483 万/μlHb 14.5 g/dlPlt 28.5 万/μl

    <感染症>HCV抗体 陰性HBs抗原 陰性

    検査所見②

    <免疫学的検査>IgG 501 mg/dlIgA 64 mg/dlIgM 63 mg/dlIgE 1472.21 IU/mlIgD 1.0 mg/dlC3 105.6 mg/dlC4 20.28 mg/dlCH50 28.7 U/mlRF 0 IU/mlASLO 22 IU/ml

    ANA 40 >抗dsDNA抗体 7 >抗Sm抗体 陰性抗カルジオリピン抗体 8.0 >免疫複合体C1q 1.5 >

    MPO-ANCA 1.0 >IU/mlPR3-ANCA 1.0 >抗GBM抗体 10 >

    クリオグロブリン+ (5%>)

    尿中ベンスジョンズ蛋白 陰性免疫電気泳動 M蛋白陰性

    <画像検査>胸部レントゲン:CTR41% 胸水貯留なし,肺野問題なし胸腹CT:腎腫大なし

    検査所見③

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    腎炎症例研究 30巻 2014年

  • 図 3

    図 4

    図 5

    図 6

    図 7

    図 8

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  • 図 9

    図 10

    図 11

    図 12

    図 13

    図 14

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  • 図 15

    問題点・ 以上より本態性クリオグロブリン血症による

    ネフローゼ症候群と診断したが,若年者における本症は稀であり,臨床所見・病理所見の観点からさらに鑑別が必要な疾患があればご教示お願いいたします。

    ・ 上記診断のもと,ステロイド治療を開始し,不完全寛解Ⅰ型に至っているが,今後の治療方針に関してコメントをお願いいたします。

    討  論 栁 よろしくお願いします。茅ヶ崎市立病院腎臓内科の栁です。今回,「本態性クリオグロブリン血症によるネフローゼ症候群の一例」を経験しましたので発表させていただきます。 症例は18歳の男性で,主訴は特にありませんでした。 現病歴ですが,中学生のときに一度健診で尿蛋白を指摘されていますが,再検査では異常を指摘されず,その後も尿蛋白を指摘されたことはなかったそうです。2011年の11月に扁桃炎に罹患しましたが,抗生剤投与で軽快しています。その後,特にご本人が自覚するような症状はなかったそうです。翌年の3月に,この方は野球をやっていた方で,野球の特待生での専門学校入学前の健康診断で尿蛋白を指摘されまして,同年4月に当院を初診されています。 ネフローゼレベルの蛋白尿を認め,5月に腎生検を施行しました。その後,ステロイド治療目的に8月に入院となっています。 既往歴ですが,前述の扁桃炎を認めるのみです。家族歴は記載のとおりです。 現症ですが,身長167cm,体重71.8kg,BMIが25.7と比較的体格のいい方でした。血圧は160の99と高血圧を認めていました。体温は37℃でした。身体所見では特記すべき事項はなかったのですけれども,四肢に特に浮腫も認めず,皮疹も認めておりませんでした。 内服薬ですが,腎生検の入院のときに高血圧と脂質代謝異常を認めましたので,アトルバスタチンとシルニジピンが開始されています。 検査所見ですが,尿所見では尿蛋白主体の尿所見異常を認めています。蓄尿では,尿蛋白は1日4g認めました。Selectivity indexは0.31と低選択性でした。クレアチニンクリアランスの低下は認めていませんでした。 生化学所見では,軽度の低蛋白血症を認めています。腎機能は保たれておりました。CRPは0.02mg/dlと 陰 性 で し た。LDL-Cは144mg/dl,

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  • 中性脂肪260mg/dlと脂質代謝異常を認めています。血算は異常所見を認めず,白血球分画も正常でした。感染症はHCV抗体,HBs抗原ともに陰性でした。 免疫学的検査ですが,IgG,IgA,IgDは低下していました。IgEは上昇を認めておりました。C3,C4は保たれておりましたが,CH50は28.7U/mlと軽度低下を認めています。リウマチ因子は陰性で,ASLOは上昇を認めませんでした。抗核抗体は陰性で,他のSLEに関係する自己抗体は陰性でした。ANCAは全て陰性でした。クリオグロブリンが陽性で,尿中のベンス・ジョーンズ蛋白,また,血中のM蛋白は陰性でした。 画像検査ですが,胸腹のCTで腎腫大,腎萎縮ともに認めませんでした。 経過ですけれども,初診時からネフローゼレベルの尿蛋白を認め,5月に腎生検を施行しています。その後,シルニジピンとアトルバスタチンの内服を開始しています。その後,外来の経過中にネフローゼレベルの尿蛋白が続き,ご本人の夏季休暇に合わせて,8月にステロイドパルス療法を施行しています。後療法はプレドニン50mgの内服から開始しまして,徐々にテーパリングを行いました。また,オルメサルタン,抗血小板薬の内服を開始しています。尿蛋白は,その後順調に減少しまして,現時点では不完全寛解Ⅰ型となっています。尿蛋白の減少に伴い,血中のアルブミンは上昇し,クレアチニンは経過中ずっと正常範囲内でした。 腎生検の所見です。糸球体は全部で16個認めています。 うち1個の糸球体が全節性硬化を認めていました。 糸球体の強拡ですけれども,係蹄壁の基底膜でところどころに二重化を認めています。係蹄内に血栓様構造物をところどころに認めております。 また,PAM染色では基底膜の二重化がより明瞭となっています。

     間質には泡沫細胞の浸潤を認め,高度の尿蛋白を示す所見と考えました。 免疫染色ですけれども,IgG,IgM,positiveで,IgAはnegativeと判定しました。 C3,C4,C1qは全てpositiveでした。 軽鎖ではλと比較し,κの沈着のほうが目立ちました。 また IgEでの染色を行っているんですけれども,こちらもpositiveと判定しました。 電顕ですけれども,内皮下,上皮下に多数のdepositを認めています。 また一部では,基底膜内にもdepositを認めていました。 基底膜内のdepositの強拡なのですけれども,繊維状の構造物があるようにも見られると判断しました。 こちらも基底膜内のdepositが目立つ箇所なのですけれども。 強拡で,こちらも繊維状の構造物が見られるようにも考えました。 山口先生からご指摘いただきまして,IgGのsubclassでの染色を行っているのですけれども,全てnegativeで確定的なことは述べられないのですが,凍結標本がパラフィン標本での染色を行っていますので,そういった染色の手技的な問題が関係している可能性もあると思います。 まとめますと,今回この症例は,本態性クリオグロブリン血症による腎障害を伴うネフローゼ症候群と診断しましたが,18歳と若年の方であって,またクリオグロブリン血症を発症するような基礎疾患もなく,臨床的にはまれであったこと,また病理所見からもPGN with monoclonal IgG depositsなどの別疾患の鑑別が必要かと思い,症例を提示させていただきました。 上記診断の下に,治療はステロイド治療を開始して,不完全寛解Ⅰ型に至っていますが,今後の治療方針に関してもコメントいただければ幸いです。以上です。座長 ご発表ありがとうございました。

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  • います。貴重な報告をありがとうございます。 私たちの施設でも,2年ほど前,この会で,口腔内の常在菌がう歯を契機に感染でクリオというような経験もしたんですが,この方は歯科治療,もしくはう歯の感染,もしくは血液培養の検査とかをなさったかどうかをお聞きしたいんですけれども。栁 お若い方ですけど,虫歯はあまり目立ったものはなかったです。う歯の治療歴も最近はありませんでした。顎関節症で歯医者にかかったことがあるそうでしたけれど,う歯は特に治療していないということでした。経過中に熱発とか,感染に関係するような症状が全然なかったものですから,血液培養のほうも採取しておりません。守矢 ありがとうございます。座長 CTで脾腫とかもないですよね。栁 ないです。座長 ほかにご質問はよろしいですか。クリニカルには症状がなくて,腎症状がメインに出ている。クリオの typeが分からないというのがちょっと残念なところなんです。ですので,myelomaも関係があるかもしれないんですけれども,hyperviscosityとか,そういうのもないんですよね,もちろんね。栁 ないですね。座長 ということですけれども,臨床的にご質問はよろしいですか。それでは病理のほうに移らせていただいてよろしいですか。では重松先生,よろしくお願いいたします。重松 クリオグロブリン血症という題で,あちこちの症例報告の検討会で出てくるんですけど,クリオグロブリン血症はあるんだけど,cryoglobulinemic glomerulopathyとか,cryo-globulinemic vasculopathy,血管症,あるいは糸球体症,そこまでちゃんと進展している症例はそれほどないと思います。 この症例も,本当に糸球体にそういう病変があるのかどうかが,検討で非常に大切になってくるだろうと思います。

     この症例は,クリオグロブリン血症を認めているんですけども,症状があまりないんですね。栁 そうですね。クリオグロブリン血症に見られるような,特に時期的に関連の時期がないんですけれども,皮疹もないですし,関連に伴うような症状も特に認めていませんでした。座長 紫斑もなければ,筋肉痛もなければ,関節痛もないと。栁 紫斑もありません。はい。座長 このような症状でございますが,ご質問,コメントはございましたでしょうか。感染症に関しては,HBとHCをやっていましたけど,EBとか,HIVとかはどうですか。HIVはあまり関係ないかもしれないけど,海外ではHIVはメジャーですね。栁 HIVはちょっと調べていないんです。そうですね。EBは調べていますけれども,negativeでした。鎌田 一般的に微小変化型ネフローゼ症候群では血清 IgAは高くなります。この患者は IgAもIgGも両方下がっています。栁 はい。下がっています。鎌田 これは尿に漏れたのではなくて,産生低下の可能性はいかがでしょうか。骨髄に,myelomaなどが存在する可能性はどうでしょうか。栁 そうですね。ちょっと若くて,あまり可能性的に高くないかと考えたのと,経過が初診からそろそろ1年ぐらいになるところなんですけれども,今のところ全く病変の悪化というか,病状の悪化とかは認めていないんです。ご本人の年齢とか,社会的な事情もあって,うちの病院は院内に血液内科がないこともあって,骨髄穿刺については行っていません。鎌田 そうですか。クリオグロブリンの typeはどうでしたでしょうか。栁 院内体制の問題で typeの同定ができていません。鎌田 分かりました。守矢 湘南鎌倉総合病院の腎臓内科の守矢とい

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  • 【スライド01】弱拡でこの症例をまとめてみますと,16個の糸球体があったんですけれど,いずれも係蹄壁が厚くなっている。それから,半球状の沈着物がある。一方で係蹄壁とボーマン嚢とが癒着していて,そのボーマン嚢癒着したところに,ボーマン嚢の壁内に滲み込みが見られる。間質には泡沫細胞の集積がある。こんな感じの組織像がこの症例では目に付きました。

    【スライド02】中拡大で見ますと,こんな具合です。diffuseじゃないんですけども,係蹄壁が厚く見えるところがかなり目立つんです。そして確かにボーマン嚢と係蹄とが癒着しているところがある。それから,ぼたっとひろがりをもって係蹄壁に沈着をしているところがある。血管がありますけども,血管腔はきれいに空いています。間質に少し細胞浸潤がある。

    【スライド03】ちょっと大きくしますと,係蹄壁が厚くなっているんですけども,どうも本当に基底膜が肥厚しているのかどうかは,これでは分かりません。こういうふうに半球状のラクダのこぶみたいな沈着物があるところもある。これは内皮下の沈着物じゃないかと思われるようなところが見られます。

    【スライド04】ここも係蹄壁全体に沈着してしまっている感じが見られます。

    【スライド05】foam cellの集団があって,高脂血症が随伴していることが推量されます。

    【スライド06】ここにきれいな血管,動脈と静脈が出ています。これは非常にきれいなパターンなんですけれども,ここに血栓もありません。だから,cryoglobulinemia はあっても,cryoglobulinemic vasculopathyはどうも起こっていない。それから,糸球体のほうを見ても,血栓様に何か詰まっているようなところはなくて,むしろ血管壁が厚くなっている感じです。

    【スライド07】ここに二つの糸球体が出ていますけれども,片方は癒着をしている。片方は癒着はありませんけれども,ボーマン嚢がふやけたように層状になっています。

    【スライド08】これからちょっと,癒着のところに関係してお見せしますけれども,こういう係蹄壁内に滲み込みと思われるような病変のほかに,この癒着したところから滲み込みが起こっているのが,この症例で目立ちます。

    【スライド09】PAM染色になりましたけれども,こういうふうな係蹄壁の滲み込みと。それからここを見てください。ここでボーマン嚢とくっついて,やはり滲み込みがありますね。一部,ボーマン嚢のカプセルの中に滲み込んでいっている。これではちょっとはっきりしません。

    【スライド10】ここでは,どうでしょうか。ここに滲み込みがあって,そして,滲み込んだものがずるずると流れていって,ここら辺まで少しオレンジっぽい浸出物が入り込んでいるのが分かります。係蹄壁にもたくさんそういうものが見られる。

    【スライド11】ここでもボーマン嚢壁内の滲みこみが,ずっとこの辺まで来ていますね。何か糖尿病とか,巣状糸球体硬化症なんかで起こっている現象と非常によく似た滲み込み病変が目立つということです。

    【スライド12】マッソン染色でdepositが少しピンキッシュになりますけれども,あまりはっきりした色合いはないようです。

    【スライド13】ここでは,ボーマン嚢と癒着部に沈着はしているけれども,あまり膜内に滲み込んでいっていません。

    【スライド14】場所によっては,こういうふうな滲み込み病変が広くひろがっているのが見られます。

    【スライド15】そして,この IgG,C3,C1qを調べてみますと,GもC3もC1qのところも IgMのところも,こういうふうに本当に滲み込みでついたような,非常に強いところがある。それから,granularパターンもありますけれども,ベースに linearな滲み込み病変を示唆するような蛍光パターンがあるということであります。

    【スライド16】κ,λを染めてあるんですけど,κのほうが優位ということはありますけれど

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  •  まとめますと,係蹄壁の肥厚,paramesan-gium領域への沈着,ボーマン嚢癒着,それから同被膜内への滲み込みが,糖尿病や巣状糸球体硬化症などに見られる液性の浸出のようにとにかく目立つ。クリオグロブリン血症は臨床的に認められているけれども,沈着物の微細構造はクリオグロブリンの典型的なものではないと思います。IgAを含め,免疫グロブリン補体成分の糸球体への局在は滲み込み病変の反映とみられるということです。 ちょっと参考までに私たちが知っているcryoglobulinemic glomerulonephritisの 写 真 を 電顕でお見せしたいと思います。

    【スライド26】この場合にはご覧のように,好中球とか,monocyteが必ずあって,そして係蹄内に構造物があるんです。

    【スライド27】そして,この構造物には,自転車のフォークみたいな形でずっと縦の線が見えるのが特徴です。こういう tubular structureの中にこういう横の tubulesのフォーク様の変化があります。

    【スライド28】それからよく書いてあるのが,curvilinearといって,曲がる構造です。真っすぐなところと曲がったところがある。いろいろな方向で見えます。ご覧のようにこれはmacro-phagesや,monocyteとかが,とにかくものすごく貪食をするんです。これは吹き出しているんじゃなくて,異物反応で貪食しているわけです。

    も,λも染まっているだろうと思います。【スライド17】それから,IgEが染まっているんです。negative controlと比較してやはり滲み込みの感じです。

    【スライド18】今度は電顕に入ります。ここでcryoglobulinemic nephritisがあるかどうかということですが,光顕では少なくともcryoglobulin-emic glomerulonephritisというときは,必ず血栓様のものができるのが特徴です。この例では,こういうふうにdepositみたいなかたちで immu-noglobulin depositionがあります。ここでは基底膜の内側にかなりたまっている。これは滲み込みの可能性が結構あると思います。

    【スライド19】パターンを見てもらうと,構造はあるんですけれども,いまいち structureがはっきりしていないということが言えると思います。

    【スライド20】大きくしてもなかなか難しいです。tube-likeの structureはあることはある。

    【スライド21】血栓的なものはなかったんですが,電顕でよく調べてみると,これは内皮細胞ですけれども,内皮細胞の内側に2カ所沈着物を入れて,これは血管腔なんですが,血管腔にこういう構造物があるので,ひょっとしたらこれはcryoglobulinemiaの血栓様構造物じゃないかと思って,見ました。

    【スライド22】ちょっと拡大を大きくしているんですけれども,なかなか構造がはっきりするまでいきません。

    【スライド23】方向が変わっていますけれども,これとそんなに違わないということです。

    【スライド24】駄目。拡大を上げてもぼけるだけであります。

    【スライド25】間質のほうには係蹄壁に,これはhyalinosisかもしれないんですけども,血栓はないということです。

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  • 【スライド29】拡大をすると,だんだんぼけて分からなくなりますけれども,管の中と外にこういう縦のしま模様があるというのは分かってもらえると思います。だから,こういう構造を見ると,これはcryoglobulinemiaがあって,しかもglomerulonephritisが起こっているということになると思います。

    【スライド30】しつこいですけれども,こういうものです。 ということで,重松は,この症例は何と言うのかと言われると非常に困っちゃうんです。やはり,滲み込み病変が非常に強くて,そしてmesangiumの増生が interpositionも伴って起こっているところもあるというので,MPGN様の変化ということで,原因は分からないと言わざるを得ないと思いました。以上です。座長 重松先生,ありがとうございました。 では山口先生,続いてお願いいたします。山口 私も明解な回答は持っていません。今,重松先生が,だいぶいろいろなところで染み込みを起こしているんで,その染み込みがどうしてそんなに強く起こったのかというのが,私もすごく疑問であります。ちょっとクリオグロブリンから離れて,私はκ,λで,κ優位で,λはほぼnegativeじゃないかということで,最近はやりのPGN with monoclonal IgA depositsというのを考えました。18歳,文献的に見ますと,比較的ハイティーンぐらいから記載がありますので,必ずしもparaproteinがなくても発症するみたいなんで。それから,最近文献で,先ほど一応染めていただいたんですが,あまりはっきりした回答は出なかったんですが,IgG3にクリオグロブリン的なファクターを持っているという文献が『JASN』(Jounal of American Society of Nephrology)か何かに出ております。

    【スライド01】比較的長期に蛋白尿があったことなんだろうと思いますが,非常に foam cellが間質に集積しております。それが,尿細管間質病変としては際立っている所見だろうと思います。

    【スライド02】それから,一部間質に炎症細胞浸潤があって,ちょっと帯状に起きて,虚脱した糸球体がありますので,この辺は何か二次的な所見だろうと思います。foam cellは相変わらず目立っています。糸球体は少し分葉状で,全体にややhypercellularな印象です。

    【スライド03】先ほどの線維化の強いところであります。massonで見ますと,少し淡明な沈着様のものが,係蹄壁,あるいはparamesangiumにやや目立って,全周性に及んでいる場合もありますし,mesangiumの拡大と,少しmesangial cellの増殖もあるんだろうと思います。全体に係蹄壁が厚ぼったくて,depositiveであるということが言えると思います。

    【スライド04】電顕,PAMで見ますと,先ほど重松先生がおっしゃったように segmentalなhyalinosis,癒着部位に伴う二次的な染み込みなのか,あるいは非常に染み込み病変をつくりやすいもともとの病態があるのか。その辺が少し問題にはなると思います。係蹄壁の肥厚,二重化で管内のcryoですと,macrophages系が動き始めるんですが,あまり外来性の細胞の浸潤は目立たないです。mesangiumの拡大は部分的には見られています。

    【スライド05】PASで見ますと,確かに陽性で,cryoなんかのときにもいろいろなフェーズがあって,このcryoの成分によって,あまり組織球,macrophagesの反応を伴わないものもあるといわれていますので,こういったparamesan-giumから内皮下にかけて,べたべたという感じはcryoを示唆する所見だろうという印象はあります。

    【スライド06】こういう感じですかね。こういうnodularな非常にdepositiveなPAS陽性の,内腔なのか,paramesangiumの領域なのか,ちょっと分かりづらいのですが,それで係蹄壁は全体にdepositiveに厚くなっています。ですから,比較的細胞の反応の弱い typeのものも,cryoでも,MPGNlikeになって組織の弱い場合もあり得るという話です。

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  • 【スライド11】κ・λも蛍光の問題があるんです。こちらを見ますと,明らかにgranular。これも染み込み様にも見えないことはないんですが,ちょっと全体にきれいな IgGとか,C4のパターンとは必ずしも一緒だとは言えないんですが,λはほぼnegative。ここはどうですかと言われると,ちょっとまた困っちゃうんですが,そうすると,κは優位かなという感じがします。

    【スライド12】電顕で非常にhumpというよりは,spikeのある transluminalな上皮下沈着が多発しているわけです。それから,pparamesan-gial,あるいは内皮下という。これはどちらかというと上皮下が多くて,ここは subendoで inter-positionを起こしていると。こういうパターンで見ますと,昔,われわれMPGN typeⅢ,C1qが陽性で,immunoglobulinも両方付いてくる場合で,そうすると将来 lupusになるんじゃないですかなんて言っていたんですが,いつまでたっても lupusにならなかった症例が多かったように思います。どうして,こういう大きな膜性とはちょっと違う,transluminalなエピデポができるのかというのは考えなくちゃいけないかなというふうに,最近は思っています。

    【スライド13】ここは内皮下が明らかにあって,interpositionを起こして,やはり非常に大きなGBM全体を置き換えるような上皮下沈着,paramesangial depositというようなことで,viruslike particleはちょっと探したんですけども,あまりはっきりいたしません。

    【スライド14】ちょっと構造はどうだろうという感じです。あまりはっきりしたものはないように思いました。

    【スライド15】というようなことで,基本的にはmembranoproliferativeとMPGNで immune com-plex typeと。最近の分類ですと,isolateのC3だけの typeと。いわゆるcomplementのalternative pathwayを優位にするものと,ICtypeでclassical pathwayが優位に。ですから,この症例はC4とC1qが優位。Mをちょっととっちゃったんですが,negativeでもいいかなということになると,

    【スライド07】少しmesangiumのmatrixが増えて,ここは癒着部位なので。それからちょっと気になったのは,18歳なのです。細動脈に,ちょっと僕の電顕にはないかもしれないですが,電顕でも細動脈の壁内にhyalinosisが起きているんです。ですから,内皮に何か障害があって,そういう染み込み病変が強く出てしまう症例なのかもしれないです。内皮細胞障害,よく分かりませんけれども,二次的に何か内皮の障害がある。

    【スライド08】PAMを見ましても,確かに二重化があるのですが,全体に銀が乗らないようなべたっとした部位もあるんです。ですから,transluminalに何かdepositiveなもので,こういうように置き換わって,PAMを全然取ってこないような場所があります。SLEとかのときに,非常にwire-loopでべたべたですと,光顕で厚く切れると,PAMがあまり際立たないということがあるんで,subendoの沈着が非常にmas-siveだと,銀をあまり取ってこないということがありますので,これもちょっと厚い切片なので,そういうように見えているのかもしれないです。実際は subendoである。

    【スライド09】paramesangial depositなのかもしれないです。ここはたまたまendothelのmitosisがあったので,意味はあまりないですが,内皮細胞障害かなんか分かりませんけど,内皮下の沈着ということだろうと思います。

    【スライド10】やはり今回も蛍光の見方が重要になると思うんですが,基本的にgranular,pe-ripheralに付いているのは IgGとC1qとC4。C3ではないです。ですから,classical pathwayのほうが優位に補体系の沈着がある。 Mをどうするかなんです。先ほど,重松先生は染み込みが主体じゃないのかな。確かにperipheral,granularに,明らかなところ,この辺はちょっと分かりませんけども,そんなに明瞭ではない。そうすると,classical pathwayが優位で IgGだけが染まっているというかたちに考えられます。

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  • 一つの可能性としては最近はやりのPGN with monoclonal IgG depositsということが考えられるのではないかなということで,IgGの subtypeをお願いしたんですが,ちょっとはっきり出ていなかったということです。 後でまた症例が出てきます。

    【スライド16】これはもう皆さん,ご承知のように,われわれは昔はMPGNというのは電顕的に typeⅠ,typeⅡ,それから typeⅢと。ですから,先ほどのように transluminalなエピデポが目立つ場合は typeⅢに入れたんです。最近はimmunoglobulin-positiveとnegativeに分けて,ほとんどがC3オンリーだけのものと,それからclassical pathwayが 優 位 の immunoglobulinと 補体系の活性があるものというふうに。で,ここが幾つかの疾患が混ざってきている。こっちはDDDとC3,granularnephritisということになっているわけです。この症例は確かにclassical pathwayが優位に出ているわけです。

    【スライド17】immunoglobulin-positiveのMPGN像,いろいろな感染,autoimmune,それから18歳でなかなかparaproteinというのは考えづらいわけで,あと idiopathicというのもあるみたいです。非常に幅が広いです。

    【スライド18】Agatiたちが36例集めると,G3が優位なのです。G3がdominantで全体の半分以上がG3で,cryoをつくる。G3だと,そういうペーパーも出ていましたので,もしかしたらちょっとお若いですが,この疾患に当てはまるのかなと考えています。以上です。座長 ありがとうございました。なかなかこれまた難しい症例で,困ってしまうんですけど,コメントとか,質問がございましたらお願いしたいんですけれども。じゃあ乳原先生お願いします。乳原 虎の門病院の乳原です。 まず,これがcryoかどうかということです。ちょうど腎臓学会のときには,クリオグロブリンとMPGNの関係ということで話す機会がありましたので,そのときに当院で53例の

    MPGNを調べたことがあります。そのときに明らかにcryoが陽性の場合と,cryoが陰性ということで,ちょうどうまく分けられたので,そのときのcryoの陽性の特徴が IgMの沈着がメインなんです。それでcryoでない場合のMPGNは,IgGがメーンになる。これが大多数ですが,一部やはり IgGも染めらなくて,C3だけの typeもあったということです。 もう一つはcryo。IgMが染まるんですけど,cryoというのは IgGに対する IgM抗体ですから,リウマチ因子が陽性になるという特徴があります。 もう一つは補体の低下が,MPGNのときも下がるんですけど,下がり方が半端じゃないんです。C3,C4とCH50がみんな極端に下がっているという特徴がありましたので,あとは年齢がcryoの場合がほとんど50歳以上だったということがあります。ということで,私たちの症例にあてはめると,どうも今まで私たちの病院で経験してきた,典型的なcryoとは違うのかなということが考えられました。 それから,もう一つcryoの原因ですけれども,13例ほどあったんですけど,その中で典型的なSLEではないんですけれども,SLE絡みのものを除く9例の中で,やはりHCVが7例で陽性だった。それで,完全に原因がはっきりしない idiopathicまたはessentialと思われたのが2例だけです。でも,その場合もやはり IgMがメインだったということでした。補体が極端に下がっているということで,どうもそういう構造物が電顕でも確認できるものです。 もう一つは電顕で,内皮下沈着物が主体で,上皮下沈着物がそんなに目立たなかったことでした。 そういうふうに考えてみると,本当にこれがcryoでよかったのかということで,測定法とか,いろいろなこと,または再現性があるかどうかとか,cryoの測定法をきっちり考えないといけないかなと思ったりしています。座長 ありがとうございました。いわゆる電顕

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  • でのfingerprint microtubalar patternみたいなものが出てくると,分かりやすいなと思います。 ほかに何か,時間はないんですが,コメントがございましたらいただきたいと思いますが。長濱先生,お願いします。長濱 共同演者の横浜市大,病理の長濱です。 私も診断に関与して,すごく困ったんですけれども,確かに電顕ではっきりしなくて,cryoかどうか分からなかったんです。野球をやっているすごい健康な人に蛋白尿が出ているといわれて,cryoが少し陽性だといわれると,もうそれぐらいしか思い付かないので,もしかしたらそうかなと診断しました。 あと,IgEだけが唯一高かったので,蛍光でIgEを染めたらすごく染まってしまって,お聞きしたいのが,IgEを染めたことがある人がいるのかどうか。乳原先生,IgEの高いcryoはありますか。乳原 虎の門病院の乳原ですけれども,IgEは今,伝統的に染めてきていないので分かりません。長濱 IgEが高いcryoの症例というのは。乳原 IgEまではチェックしていなかったので,ちょっと分からないですね。座長 cryoはもちろんあったわけですけれども,結局,染み込みの病変という考え方もありますし,そうすると,この症例はなんでこうなっちゃったのかなというのが分からないと,クリニカルでは困ってしまうんです。臨床的に本症例の治療法について,どなたかコメントをいただけますでしょうか。クリニカルにこの人をどうにかして治療をするということまでを,何かコメントを。 これは非常に難しい問題なので,2,3宿題ということで,またよい意見がありましたら,栁先生にメールをしていただければありがたいと思います。 では,時間ですので,どうもありがとうございました。栁 ありがとうございました。

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