「すっかりアフリック」 - jica€¦ ·...
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◆『巻頭言』 セネガル事務所所長 加藤 隆一
「脆弱国支援のあり方を考える
~マリへの支援本格化を前に~」
3 月 17 日、ダカールに事務所を持つ南ア系シンクタンク ISS
(Institute for Security Studies)との共催でマリへの支援のあり方に
関するワークショップを開催した。民主化プロセスを経て、国民和
解に向けて動き出したマリへの二国間経済協力の本格再開を前に、
JICA が ISS に委託したニーズ調査の結果を関係者と共有すると共に
その内容のブラッシュアップを図ることが目的であった。ワークシ
ョップにはダカールに駐在している国際機関、二国間開発援助機関、
メディア等数十名が参集、マリから招聘した外務・国際協力省、国
土管理省、国民和解・北部開発省の顧問級の代表を交えて活発な議
論が行われた。
これまで多くの援助国・機関はマリを民主主義の定着した国とし
て支援をしてきた。マリにおいて民政移管がなされたのは 1992 年。
その後、2002 年には平和裏に政権交代(コナレ大統領からトゥーレ
大統領)も実現し、2012 年 4 月には新しい大統領が選出されること
を誰もが疑っていなかった。しかし、2012 年 1 月に北部でトゥアレ
グ人の組織である「アザワッド解放国民運動(MNLA)」が蜂起した
ことをきっかけに政情は一変する。同年 3 月には軍の一部による騒
乱が発生、トゥーレ大統領辞任、トラオレ暫定政権の発足、MNLA
目次
◆巻頭言
「脆弱国支援のあり方を考える
~マリへの支援本格化を前に~」
・セネガル事務所所長
加藤 隆一
◆活動紹介
「大ダカール都市圏開発マスタ
ープラン策定プロジェクト」
・所員(インフラ担当) 峰 直樹
◆われらが協力隊!
「学校給食をボランティアで
支える女性たちの想い」
・24 年度 9 次隊
コミュニティ開発 伊藤 美幸
◆コラム・人紹介 ・総務担当 ナショナルスタッフ
Papa Amadou MBODJ
◆ひといき
「ムーリッド教団の立役者、
イブライマ・ファール」 ・神戸大学大学院 博士課程後期
池永 伊奈生
◆事務所より
・お知らせ
・人の動き 等
「すっかりアフリック」
JICAセネガル事務所メールマガジン 第 92号 2014年 4 月 14 日配信
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とイスラム過激派武装勢力による北部における伸張を経て、2013 年 1 月にはマリ政府は仏に軍の介入を要請
するに至る。その後、仏軍の掃討作戦により、北部地域を奪回、同年 8 月に大統領、12 月に国民議会選挙を
無事終了したところである。まさにスタート地点に戻ったような状態だ。
マリを巡る問題の根は深い。歴史的、社会的、経済的緒問題が重層的に絡み合っており、解決のためにはも
つれた糸をほどくような丁寧な努力が必要だ。一例をあげよう。先に「マリは民主主義の定着した国」と書い
た。しかし、あらためて過去に行われた大統領選挙の結果を見てみると投票率は 3 割台。これはこれまでの
選挙が国民の一部のものでしかなかったことを示している(昨年 7 月の大統領選挙第一回投票は準備不足と
言われながらほぼ 5 割の投票率となった)。
今回のセミナーではマリ政府の代表が開発援助機関に対し、「支援は(NGO 等を経由せずに)国・政府を
通すべき」と主張したのに対し、調査を担当したコンサルタントからは「理解できるが政府に聞いてもろくな
データは出てこないし、サービスをデリバリーする能力もない。困っている人を前にして、経験のある NGO
を経由する方がいいケースも多い」と反論。また、政府代表が「今回の危機はイスラム過激派武装集団と言う
国際的なネットワークを持つ外部勢力がもたらしたものである」と主張するのに対して、「内部抗争に明け暮
れ、外部勢力の侵入を許した軍を始め、脆弱なガバナンスが根本問題だ」と議論が真っ向から対立する場面も
あった。また、支援のあり方に関しては、マリ政府のオーナーシップと援助の受け入れ能力、援助調整のあり
方、外部介入と内部のイニシアティブについて議論が及んだ。
結局、ある意味すべて正しいのだ。「国家」も再建しなければならないし、健全な「市民社会」も開発に貢
献すべき。今回の危機は内憂外患、両方に問題がある慢性的な「複合災害」と考えればしっくり来る。また、
危機の状況においては内部のイニシアティブを引き出しながらも、外部から調整された介入をするしかない。
その中でもマリの置かれた文脈で重要と思われることを私なりにまとめると次の 3 点になる。①マリ政府、
国民はもちろんのこと、国際社会がマリを取り巻く状況を看過せず、それぞれの役割と責任を果たすべくコミ
ットすること、②マリの地政学的な南北問題、治安と開発等の様々な二項対立的な局面の均衡を常に意識する
こと、③組織的・人的キャパシティービルディングが最重要であること。タイムフレームとしては、短期的に
はいかに国を安定させ、復興のステージに持っていくか、中・長期的には成長を促す開発にシームレスに移行
するイメージである。
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最後に支援する側の責任に触れたい。マリ北部がイスラム過激派武装集団のサンクチュアリになった最大の
原因の一つは北部が低開発の状態に置かれていたことにある。マリ政府は 1990 年代に大規模なトゥアレグ反
乱が発生して以来、交渉による解決を志向し、トゥアレグ側の権限を地方分権と言う形で拡大することで譲歩
を図ってきた。しかし、実際にところ、十分な開発資金が北部には投入されてこなかった。支援する我々ドナ
ー側も北部の問題をどこまで考えていただろうか。先般マリに出張した際に現地の国際通貨基金 IMF 所長か
ら興味深い話を聞いた。昨年 5 月にブリュッセルで開催されたマリ支援会合では 32.5 億ユーロの支援がプレ
ッジされているが、今後の資金予測を見てみると 2014 年はクーデター前の 2011 年のレベルを超えるが、そ
の後は微減し、結局元のレベルに戻ると言うのだ。金額の多寡がすべてを決めるわけではないが、再びマリを
含むサヘル地域が混乱に陥らないように国際社会の継続的なコミットメントは不可欠。その意味で我々の支援
も一過性のものにしてはいけないと強く感じている。
◆活動紹介
立派な高速道路や商業施設などなどダカールの勢いを感じる一方、穴ぼこだらけの歩道や、あちこちで起き
ている水道管からの水漏れを見ると、インフラのメンテナンスはまだまだできていないなぁと感じます。上を
見ながら歩いても穴ぼこに落ちたり躓いたりしない、そんな街がこのプロジェクトで実現すると良いですね!
~大ダカール都市圏開発マスタープラン策定プロジェクト~
所員(インフラ担当) 峰 直樹
セネガルの首都ダカールでも、他のアフリカの主要都
市と違わず、経済成長に伴い、都市人口の増加、ホテ
ル・商業ビルの相次ぐ建設、新空港・高速道路の整備な
ど、街全体の様子が変わりつつあります。
景気が上向いていることを感じることができる反面、
人口増加による住宅不足、停電・断水、郊外地域での洪
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水、通勤時間帯の車の渋滞などの都市問題も深刻な状況です。
セネガルの各関係機関は、ダカールでのインフラ開発を進めるにあたり、大抵の場合、今後の投資計画など
の整備計画に基づき実施してはいるものの、各機関での情報共有・調整、連携した実施体制が十分でなく、ま
た都市計画省が持つ既存の都市計画マスタープランとの整合性がとれないまま、インフラ整備が進んでいます。
そこで、2014 年度、セネガル都市計画・住環境省からの要請により、JICA ではダカールの社会・経済開
発と都市防災を勘案し、さらには環境の保全と形成を両立させた都市環境を構築していくために、ダカール首
都圏及びダカール郊外の新空港地域までを含む「ダカール首都圏開発マスタープラン策定プロジェクト」を実
施する予定です。
ダカールという西アフリカきっての主要都市の今後の青写真を描く、極めてチャレンジングなプロジェクト
が始まろうとしています。
◆われらが協力隊!
子供たちの学業を支える大切な給食。日本のように給食センターなどがないセネガルでは、いったい誰が作
ってくれているのでしょう? ルーガで学校給食の普及に携わる伊藤隊員からのレポートです。
~学校給食をボランティアで支える女性たちの想い~
伊藤 美幸
隊次:24 年度 9 次隊 職種:コミュニティ開発
任地:ルーガ州ルーガ県ルーガ市
学校で食べた給食に、好きだったメニューや特別な思い出は
ありますか?私は首都ダカールから北に約 190km 離れた場所
に位置するルーガ市近辺の村の小学校(主に日本大使館の草の
根無償資金協力により食糧庫および食堂が作られた 4 校)で、
学校給食に関わる活動を行っています。日本での学校給食は、
給食センターから各学校に運ばれてきますが、ここセネガルに
給食センターのような立派な施設はありません。現在給食作り
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が行われている学校は、セネガル政府や WFP(国連世界食糧計画)等の援助機関から食糧配給(米や油等)
を受けている学校がほとんど。他に必要な食材購入費用は生徒から集金し、給食作りは村の女性たちが日替わ
りでグループ毎に行っています。その日の給食作りを担当する女性たちは誰だってやっぱりおいしいご飯を生
徒たちに食べさせたい。グループ間での対抗意識もあいまって、自腹で調味料等を買い足すことも。自分には
学校に通う子どもがいないのに給食作りに参加している女性も
たくさんいます。自分の子どものためでもないのになぜ?と質
問すると、「村の子どもたちは私たちみんなの大事な子ども、だ
から協力するのよ!」と明快に答えてくれます。赴任当初、給
食作りを改善するために活動をしなければ、と意気込んでいま
したが、実際は活気ある女性たちに楽しくも圧倒され、給食を
食べて「おいしい~!」とふざけながらも声を張り上げる子ど
もたちから元気をもらう日々です。
◆人紹介
今回の人紹介は、事務所の勤務環境を整えるために、総務班で日々奮闘している「パパさん」です。 つい
先日 3 番目のお子さんが誕生されたそうです。おめでとうございます!!
総務担当 ナショナルスタッフ Papa Amadou MBOJI
私は Papa Amadou MBOJI(パパ・アマドウ・ンボッジ)と
言います。38 歳、既婚で子供が 3 人います。2009 年 7 月から
JICA セネガル事務所で働いています。これまでの経験と全く異
なる環境でとまどうことも多かったですが、周りの同僚のおかげ
ですぐに順応することができ、今はとても刺激的な日々を送って
います。
私は総務班に所属し、調達等におけるプロジェクト班のサポー
トや、スタッフが心地よく業務にあたれるよう事務所の管理全般
を担当しています。JICA で仕事を始めて以来、様々なタイプ
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(入札、コンサルタント契約等)の調達業務や、ナショナルスタッフの労務管理、派遣会社や弁護士とのやり
取り等を通じ、経験を積んでいるところです。
つい先日次男が産まれたばかりなので(2014 年 3 月 26 日生まれ!)、これから家での家事負担が増える
と思いますが、普段の休日は、サッカーや読書をしたり、できるだけ友人や家族と時間を過ごしたりするよう
にしています。
◆ひといき
「白装束の男の肖像画」、「ラスタに派手な衣装のバイファル」。どちらもセネガルではよく目にしますが、
この二者の関係について、元セネガル隊員で、現在は神戸大学大学院 国際協力研究科でムーリッド教団と政
治についての研究をされている池永さんに解説していただきます。
~ムーリッド教団の立役者、イブライマ・ファール~
神戸大学大学院 博士課程後期 池永 伊奈生
セネガルでは街でも村でも、至るところで目にする肖像画、純白の貫頭衣に身を包み、頭巾で口元を隠
す男性、すなわちアーマド・バンバ・ンバケ。彼がムーリッド教団の創設者であることは有名ですが、その陰
に、イブライマ・ファール、またの名を”Lamp Fall(ムーリッドの光)”という男がいたことは、あまり知られ
ていないかも知れません。
セネガル社会では、イスラム教団が重要な役割を担っていると言われます。いくつかある教団の中で、とり
わけ存在感を示しているのがムーリッド教団です。この教団はウォロフ人のバンバによって設立された、サハ
ラ以南アフリカ初のイスラム教団であり、セネガルにおいてはその成立から今日に至るまで、強い政治的経済
的影響力を維持しています。
バンバを評して、「白衣の中には『祈り』しかない」と表現した研究者がいます。彼はストイックなまでに
コーランの教えに忠実であろうとするあまり、権力や世俗的社会を嫌悪し、周りのイスラームの導師ですら世
俗的であるという理由で遠ざけていたそうです。
実際、バンバはその存命中、ほとんど国外に流刑か、そうでなければ軟禁されており、その時間の大半も、
彼はもっぱら信仰と詩作に費やしていました。現実世界においては何もしない「カリスマ」であった彼の代わ
りに、現実の教団組織を作り上げた人物が冒頭の「イブライマ・ファール」です。彼は、バンバの弟子たちに
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寝食を提供するためダーラと呼ばれるムーリッド教団特有の共同農業を創設し、教団の資金繰り、植民地政府
や植民地商人たちとの協調関係の形成と維持、増え続ける弟子と導師の関係に必要なさまざまな教団の決まり
事の導入などを一手に引き受けました。
他方でファールは、祈りも断食もしない、一風変わった弟子でした。彼は貿易商人であり、狡猾な外交官で
もありました。私的利益追及のために高貴な家の娘達と結婚した彼に対し、宗教的な立場を金儲けに使ってい
る無節操さが非難されることもありました。しかしそんな豪放磊落な彼を慕う人は多く、彼と同じような風
貌・行為を実践する集団が生まれ、こうした人たちは今日「バイファル」と呼ばれています。
ムーリッド教団はまさしくこの 2 人によって作られたわけですが、ところで、2 人の関係はどのようなもの
であったのでしょうか。教団設立当時、バンバの教えに従わないファールに業を煮やした他の弟子達が、つい
に「あの不心得者を追い出さないならば、自分たちが教団を去る」と通告した時、バンバは「私がファールと
共に去る」と答えました。バンバはファールとともに歩む道を選んだのです。厭世的なバンバが世俗的なファ
ールを盟友に選んだというのは非常に興味深いことと言えます。彼の真意を知る術はありませんが、少なくと
も、もしファールがその世俗的な才能を権力獲得に使おうとしたならば、恐らく彼らの間に友情は成立しなか
ったでしょう。
ムーリッド教団が生まれたのは 1886 年、戦乱と奴隷狩り、植民地支配、世界観と階層を統括していた王国
の崩壊によって、セネガル社会が根底からくつがえされていった時代でした。社会の成員の大部分が直面して
いたアイデンティティーの危機、そして生存の危機を救ったムーリッド教団は、その成立から 100 年以上経
た今日でも、信者の精神的支柱であり、セネガル社会の連帯の基盤であり続けています。
◆事務所より
■■ お知らせ ■■
◆健康管理員より
3 月末にギニアにて感染症、エボラ出血熱の発生が報告されました。エボラ出血熱は血液や体液などの接触
感染でうつる感染症です。発生した地域ではお葬式の際死体に触ったりするなどの風習があり、そのような行
動から伝染されていったと考えられています。エボラ出血熱は、致死率が高く、治療法が確立されていないの
で、怖い病気ではありますが、正しい知識を持っていれば、感染は起こりづらい病気です。潜伏期間内に感染
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することはないので、症状のない人からうつることはありません。知識不足や憶測からいろいろな噂が飛んで
いますが、常に正しい情報を得るように心がけてください。ご質問等ございましたらセネガル事務所健康管理
員までご連絡ください。
◆事務所休日等
・イースター(4/21)
・メーデー(5/1)
◆研修・調査団
・ダカール郊外中学校/ファティック州教員研修センター(CRFPE)(無償)現地調査Ⅲ(4/13-18)
・保健円借款情報収集調査/母子保健サービス改善プロジェクト(PRESSMN)運営指導調査(4/14-30)
◆人の動き
・着任:清水専門家(保健省アドバイザー)(4/16)
・離任:永井専門家(保健省アドバイザー)(4/20)
・離任:小沼企画調査員(教育担当)(5/6)
・着任:苗村職員(5/8)
◆配信希望募集
セネガル発『すっかりアフリック』(月刊)の配信希望を承ります。 ご希望の方はその旨「JICA セネガル事務
所広報タスク宛」に下記お問合せ先メールアドレスまでお知らせください。
※セネガル滞在中の JICA 関係者の皆様…離任後はメールが配信されません。配信ご希望の方は、下記問い合
わせ先までお知らせください!
◆「すっかりアフリック」がセネガル事務所ホームページ内でもご覧いただけます!
http://www.jica.go.jp/senegal/office/index.html
◆記事投稿歓迎
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記事の投稿を広く歓迎いたします(ただし掲載可否判断、校正等を編集部にてさせて頂くことがありますの
でご了承ください)。皆さまからの興味深い記事をお待ちいたしております。
『すっかりアフリック(Suxali Afrique)』はウォロフ語で『アフリカの発展』を意味します。
発行元:独立行政法人 国際協力機構(JICA) セネガル事務所
お問合せ: [email protected]
JICAセネガル事務所 URL http://www.jica.go.jp/senegal/