「機能環境流体を利用した資源循環・ 低エミッション型物質 ......been...

76
- 1 - 産業技術総合研究所 超臨界流体研究センター 副研究センター長 生島 豊 「機能環境流体を利用した資源循環・ 低エミッション型物質製造プロセスの創製」 研究期間:平成11年11月1日~平成17年3月31日

Upload: others

Post on 02-Feb-2021

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

  • - 1 -

    産業技術総合研究所 超臨界流体研究センター

    副研究センター長

    生島 豊

    「機能環境流体を利用した資源循環・

    低エミッション型物質製造プロセスの創製」

    研究期間:平成11年11月1日~平成17年3月31日

  • - 3 -

    1.研究実施の概要

    ・基本構想

    近年、地球規模での環境汚染が強く懸念されている中で、"環境に優しい"物質製造

    プロセスの開発は、極めて緊急かつ重要な課題である。このような情勢の中で、超臨

    界二酸化炭素と超臨界水は経済性と安全性に優れている上に、温度、圧力といった外

    部因子により容易に種々の有機溶媒に相当する機能を引き出せる特性を有している。

    本研究では機能環境流体として反応場への新展開を図り、媒体として利用するだけで

    なく、反応基質、触媒として全く新たな可能性を追求するとともに、独自に開発した

    分光学的その場測定法を駆使して溶媒機能や反応性の発現機構の解明を世界に先駆

    けて行い、基礎と応用の有機的な連携のもとで成果を効果的に発展させる。これによ

    り、従来の有害な溶媒や触媒を使用しない環境に配慮した資源のリサイクルシステム

    の構築やエネルギー消費を極力抑えた資源循環・低エミッション型の物質・材料の効

    率的な製造法の創製を目指す。本研究成果は二酸化炭素の排出削減や新たな二酸化炭

    素利用技術をもたらすだけでなく、機能環境流体という新規な概念を導入することに

    より環境に優しい材料や物質合成が実現することから、次世代に向けた新産業創出に

    つながることも大いに期待される。

    上記の基本コンセプトに基づいて、従来の有害な溶媒や触媒を使用しない環境に配慮し

    た資源のリサイクルシステムの構築やエネルギー消費を極力抑えた資源循環・低エミッシ

    ョン型の物質・材料の効率的な製造法の創製、およびそれに関する基礎研究を実施する。

    本研究では超臨界水、超臨界二酸化炭素を機能環境流体として反応場への展開を図ること

    で、環境、エネルギー消費に配慮した資源のリサイクルシステムの構築や物質・材料の効

    率的な製造法の創製を目指す。

    ・研究成果

    超臨界水を利用した有機物質の無触媒製造法の開発

    具体的には、酸を触媒とする工業的に重要な有機合成反応(ベックマン転位反応、

    Diels-Alder 反応等)を超臨界水中無触媒下で行った結果、特異的に反応が進行すること

    を確認した。工業的に重要なε-カプロラクタムを合成するシクロヘキサノンオキシムのベ

    ックマン転位反応は、強酸を触媒として使用しなければならないことや、価値の低い硫酸

    アンモニウムを副生成物として生成するという合成プロセス上の欠点を有している。これ

    に対して、固体触媒を使用する不均一反応が提案されているが、触媒寿命等の点から実用

    化にはいたっていない。上述したように臨界点近傍での水の水素結合構造の崩壊によるプ

    ロトン生成の可能性が強いことから、ベックマン転位反応(スキーム1)を超臨界水中無

  • - 4 -

    触媒下で行うことを提案した。実験は、最初にバッチ法で行い、超臨界水中では無触媒で

    ε-カプロラクタムを合成できることを NMR、GC-MS によって初めて確認した。これら

    の結果は超臨界水自身からプロトンが発生している可能性が大きいことを示唆した。この

    ように超臨界状態では無触媒でも特異的に反応が進行する事実は興味深い。

    超臨界水中では水分子モノマー或いはダイマーから生成し、臨界点付近で活性化される

    プロトンや H3O+が酸触媒作用を示すことが証明されたが、得られた反応性は低く、満足

    できるものではなかった。そこで、本研究では Fig.1 に示したように、超臨界状態まで急

    速昇温し、反応後速やかに冷却できる反応システムを開発した。これにより、常温のシク

    ロヘキサノンオキシム水溶液(0.35milkg-1)を、773K に加熱した超臨界水に衝突させる

    ことによって、昇温時間 0.05 秒以

    内で 648K まで一気に昇温できた。

    昇 温 後 、 試 料 溶 液 を 内 容 積

    50µL(内径 250µm)のハステロイ

    C-276 製反応器に導入した。反応

    時間は1秒以内に調節した。反応

    後は、生成物の熱分解を防止する

    ために急速冷却した。その結果、

    上記超臨界水反応システムによっ

    て、99%以上の選択性でε-カプロ

    ラクタムを得た。同じ試料溶液をバッチ法で処理すると、シクロヘキサノンへの加水分解

    反応が主で、ε-カプロラクタムの収率は 643K、40MPa、反応時間 180 秒でわずか 1.9%

    であった。しかし、本システムを用いると、同じ温度、圧力でもわずかの反応時間で収率

    は 80%以上に達し、硫酸法や固体触媒法を凌いだ。さらに、塩酸や硫酸を微量に添加する

    と、反応時間1秒以内で収率が 100%近くに達した。

    超臨界状態では水分子モノマーから生成するプロトンが酸触媒作用を有する可能性が示

    されたが、この際プロトンとともに生成する OH-は果たして塩基として機能するのであろ

    うか。そこで、本研究では、通常なら濃塩基存在下で進行するベンズアルデヒドの不均化

    反応を、水熱及び超臨界水中無触媒下で IR によるその場測定により検討した。その結果、

    超臨界条件下で著しいスペクトル変化が観察された。ベンジルアルコールの CO 伸縮振動

    が観察されたが、水熱条件では合成されないことが分かった。さらに、GC-MS、1H NMR

    による分析によりベンジルアルコールと安息香酸の生成が確認された。かくて、超臨界状

    態では強塩基を添加しない無触媒でも不均化反応が起こることが初めて明らかになった。

    それでは、不均化反応を引き起こしているのは本当に OH-なのであろうか。これまで提案

    されたメカニズムではラジカル種の関与を肯定する例もあり、本研究結果に対しても水分

    Heating bath

    Quick-quenching part

    H2O

    50μL Microreactor(typically, 673 K and 40 MPa)

    Lagging material

    Quick-heating part(heating time up to673 K < 0.05 s)

    Reaction time < 1sThermocouple

    OHN

    Cyclohexanone-oxime solution

    Yield > 80% selectivity 100% No production of cyclohexanone

    P

    T

    ~~~~

    Fig. 1. A microreaction system for supercritical water, which hasbeen applied to the rapid and selective production of ε-caprolactam.

    scH2O Microreaction

  • - 5 -

    子モノマーからの OH・の生成と反応への関与を否定できない。そこで、本研究ではベン

    ズアルデヒドの水素を重水素で置換した C6D5CDO を用いて 397℃、25MPa の超臨界水

    中で不均化反応を行い、生成物アルコールについて GC-MS のフラグメントイオンを解析

    した。その結果、[α-2H2]ベンジルアルコールの特徴を表すフラグメントパターンは観察で

    きたが、[α-2H]ベンジルアルコールのそれは確認できなかった。従来の不均化反応メカニ

    ズムからは、OH-及び OH・のいずれも不均化反応を引き起こす可能性を有している。し

    かし、[α-2H]ベンジルアルコールは全く観察できなかったことから、超臨界水不均化反応

    が従来のメカニズムに従うと仮定すると、OH・の関与、すなわち水分子モノマーの H・

    と OH・への有意な分解は否定された。

    ・超臨界二酸化炭素の高度化による低エミッション反応プロセスの構築

    1.α,β-不飽和アルデヒドの選択的還元(触媒:Pt/Al2O3)

    α,β-不飽和アルデヒドの C=O 選択的還元による不飽和アルコールの合成は実用的に重

    要な有機反応のひとつである。担持白金触媒にとってこの反応はむずかしく,高い不飽和

    アルコール(UOL)選択性を得るためにはスズなどの促進剤の添加や調製条件の制御が必

    要である。通常の方法で調製した Pt/Al2O3触媒を用いて,シンナムアルデヒド(R=C6H5)

    や類似化合物の水素化を scCO2中で行ったところ,アルコールなどの有機溶媒の場合に比

    べて,非常に高い UOL 選択性が得られることが分った。反応後に触媒を回収し,特に水

    素還元などの賦活処理をすることなく再使用することが可能であった。

    2.アルドール自己縮合(基質:プロピオンアルデヒド、触媒:MgO 等)

    アルドール反応は、炭素-炭素結合を生成するための良く知られた反応であると同時に、

    非常に重要な反応でもある。例えば、アセトアルデヒドから、アセトアルドールへの合成

    法は、数万トン規模で製造が行なわれている。また、更にアセトアルドールからクロトン

    アルデヒド、ブタンジオール等の様々な基礎化成品として利用されているものの一つであ

    る。しかし、その製造方法は、反応制御性が難しく、収率を犠牲にした製造が行なわれ、

    更に強アルカリを用いるので、その後の処理に、大量の酸を必要とする。そこで、超臨界

    二酸化炭素の圧力制御による溶媒特性の変化を上手く利用することで、自己アルドール縮

    合に関して、容易で優れた反応制御性を有し、かつ製造後の処理を簡便化する合成方法の

    O

    RH2

    H2

    OH

    R

    O

    R

    H2

    H2

    OH

    R

    UOL

    UAL

    SAL

    SOL

  • - 6 -

    開拓を行なった。その結果、二酸化炭素を用いると、圧力増加に伴い、一気に添化率が 98%

    から下がり、2MPa 以上ではほぼ 40%と一定になった。しかし化合物の選択率は、圧力に

    より大きく変化することが分かった。即ち、5MPa の亜臨界領域では、アルドール体が選

    択率 85%となり、更に 12MPa の超臨界領域では、不飽和アルデヒド体が選択率 94%が得

    られた。更に、アルドール体選択率は、表面を脱水させた触媒を用いることで、93%にま

    で向上させることが出来た。更に、圧力による転化率の低下の問題点は、少量の酸を転化

    することにより、37%から 99%に向上させることに成功し、実際の製造に必要な 90%以上

    の収率および選択率を十分カバーできるレベルまで達成出来た。

    2.研究構想

    ・研究開始時に目指した目標

    本研究では、超臨界水と超臨界二酸化炭素を機能環境流体として反応場への新展開を図

    り、媒体として利用するだけでなく、反応基質、触媒として全く新たな可能性を追求する

    とともに、独自に開発した分光学的その場測定法を駆使して溶媒機能や反応性の発現機構

    の解明を世界に先駆けて行い、基礎と応用の有機的な連携のもとで成果を効果的に発展さ

    せる。これにより、従来の有害な溶媒や触媒を使用しない環境に配慮した資源のリサイク

    ルシステムの構築やエネルギー消費を極力抑えた資源循環・低エミッション型の物質・材

    料の効率的な製造法の創製を目指す。

    本研究成果は二酸化炭素の排出削減や新たな二酸化炭素利用技術をもたらすだけでなく、

    環境に優しい材料や物質合成の分野で次世代に向けた新産業創出につながることが大いに

    期待できる。本研究における物質・材料生産プロセスの開発により、有機・無機の有用物

    質の環境調和型製造法、多様なケミカルリサイクリング法、高機能性材料製造、低エミッ

    ション型反応プロセス等の技術開発が期待され、環境関連、資源・エネルギー関連、化学

    製品関連、材料関連の幅広い新規産業の創製に資する。このことは、社会に必要な資源の

    効率的利用や地球温暖化をはじめとする環境汚染の低減などの技術課題の解決に貢献し、

    次世代の環境に優しい化学プロセスの創造につながる。

    また、知的資産の形成という意味では、「分光学的その場測定法による溶媒機能や反応性

    の発現機構の解明」について、たとえば「気相反応から溶液反応の統一的理解」「場の理解」

    といった基礎科学の研究に対しても重要かつ新たな知見を与え、学術的な波及効果も大き

    い。

    ・研究計画・進め方の概要

    本研究では、超臨界水と超臨界二酸化炭素を、媒体として利用するだけでなく、反応基

  • - 7 -

    質、触媒として全く新たな可能性を追求するとともに、独自に開発した分光学的その場測

    定法を駆使して溶媒機能や反応性の発現機構の解明を世界に先駆けて行い、基礎と応用の

    有機的な連携のもとで成果を効果的に発展させる。主な研究項目を下記に示す。

    ①超臨界水を利用した有機物質の無触媒製造法の開発

    新規な環境調和型の有機物質の合成・製造法を創出するために、従来の有害な溶媒や酸、

    塩基触媒に代わり、超臨界水を活用することを初めて提案する。

    ②循環的資源化プロセスの構築

    本課題では超臨界水の機能を利用して大量の廃プラスチックのような有機ポリマーを分

    解し原料化するための技術開発、分解リサイクルに適する原料モノマーの合成技術の開発

    など、総合的な視点で資源リサイクル技術を確立し、二酸化炭素の削減に資する。

    ③超臨界水を利用した機能性金属酸化物微粒子の製造法の開発

    本課題では、超臨界水の特性を利用し、低エネルギー消費型の高効率金属酸化物微粒子

    製造法の確立を目指す。金属塩水溶液を加水分解し、水熱条件下では脱水反応が生じて金

    属酸化物微粒子を生成できる。超臨界水の特性は温度、圧力のような外部因子により容易

    に調節できることから、金属酸化物微粒子の粒子経や粒子形状の制御も期待でき、これに

    より磁化特性のような機能の高度化も可能になると考えられる。

    ④超臨界二酸化炭素の溶媒機能の高度化による低エミッション反応プロセスの構築

    当研究課題では、超臨界二酸化炭素の特性を生かし、室温付近で物質合成を行うことに

    より有害物質の放出を抑えた環境調和型低エミッション反応場の構築を図り、新たな二酸

    化炭素利用技術を創出する。併せて触媒のリサイクルや生成物との分離を考慮し反応プロ

    セスの高効率化も検討する。

    ⑤溶媒機能や反応性の発現機構の解明

    課題①②③④の解析に必要な基礎的知見を与える。反応追跡にはIR、(時間分解)

    ラマン、NMR、過渡吸収法等の分光学的手法を用いて、反応中間体や活性錯合体の挙

    動を直接観察するほか、溶質-溶媒相互作用、溶質或いは溶媒分子のクラスタリング

    効果等のミクロ因子を解明する。その結果は、図2に示したように、課題①②③④の

    反応機構解明や最適反応条件の設定にフィードバックし、資源のリサイクルシステム

    の構築、エネルギー消費を極力抑えた物質・材料製造法の開発に寄与する。

    ・その後の新展開から生まれた目標

    超臨界水反応場では、通常の水熱合成反応場に比べ、加水分解、脱水反応がきわめて迅

    速に進行することから、短時間(秒オーダ)で微結晶を合成できることが見いだされた。

    そこで、本研究では、金属酸化物微粒子の合成法のひとつである急速昇温式超臨界水熱合

    成法により KTO 等の複合酸化物ナノ微粒子の短時間合成を試みた。

  • - 8 -

    ・各サブグループが担った役割分担

    研究グループ名:有機反応1(超臨界水を利用した有機物質の無触媒製造法の開発)

    ①主な研究分担者名(所属、役職)

    生島 豊(産総研 超臨界流体研究センター、副センター長)

    ②研究項目

    ・ 超臨界水を利用した有機物質の無触媒製造法の開発

    ・ 循環的資源化プロセスの構築

    研究グループ名:有機反応2(超臨界二酸化炭素の溶媒機能の高度化による低エミッション

    反応プロセスの構築)

    ①研究分担者名(所属、役職)

    生島 豊(産総研 超臨界流体研究センター、副センター長)、

    荒井正彦(北海道大学教授)

    ②研究項目

    ・超臨界二酸化炭素を反応溶媒あるいは基質とした触媒反応

    ・多相系反応場の開発と利用

    研究グループ名:無機材料グループ

    ①主な研究分担者名(所属、役職)

    林 拓道(産総研 超臨界流体研究センター、チーム長)

    ②研究項目

    ・超臨界水を利用した機能性金属酸化物微粒子の製造法の開発

    ・超臨界水中での機能性材料の合成

    ・超臨界水中での無機化学反応機構

    研究グループ名:溶媒物性グループ(溶媒機能や反応性の発現機構の解明)

    ①主な研究分担者名(所属、役職)

    金久保光央(産総研 超臨界流体研究センター、主任研究員)、

    猪股宏(東北大学教授)

    ②研究項目

    ・過渡吸収法による溶媒機能や反応性の発現機構の解明

    ・高圧 NMR プローブの設計・開発

    ・NMR法による溶媒機能や反応性の発現機構の解明

    ・溶媒構造の計算機シミュレーション

    ・平衡物性測定及びMD計算による溶媒機能の解明

  • - 9 -

    3.研究成果

    3.1 超臨界水を利用した有機物質の無触媒製造法の開発(有機反応1グループ )

    (1)研究内容及び成果

    工業的に重要なε-カプ

    ロラクタムを合成するシク

    ロヘキサノンオキシムのベ

    ックマン転位反応は、強酸

    を触媒として使用しなけれ

    ばならないことや、価値の

    低い硫酸アンモニウムを副

    生成物として生成するとい

    う合成プロセス上の欠点を

    有している。これに対して、

    固体触媒を使用する不均一

    反応が提案されているが、

    触媒寿命等の点から実用化

    にはいたっていない。上述

    したように臨界点近傍での

    水の水素結合構造の崩壊に

    よるプロトン生成の可能性

    が強いことから、ベックマン転位反応(スキーム1)を超臨界水中無触媒下で行うことを

    提案した。実験は、最初に SUS 316 製チューブ型反応器(内容積:10cm3)を使用して

    バッチ法で行い、超臨界水中では無触媒でε-カプロラクタムを合成できることを NMR、

    GC-MS によって初めて確認した。これらの結果は超臨界水自身からプロトンが発生して

    いる可能性が大きいことを示唆した。さらに独自に開発した 773K、50MPa の耐圧力・耐

    O NHN

    OH

    超臨界水、無触媒

    ポリマー化 ナイロン 6

    スキーム1

    4000 3200 2400 1800 1400

    Wave number/cm-1

    Abs

    orba

    nce

    OH(3300~3500 cm-1)CN(1645 cm-1)

    cyclohexanon-oximesolution

    CO(1625 cm-1)

    CO(1705 cm-1)

    ε-caprolactam solution

    CO + CN(1630 cm-1)

    (A)

    (B)

    (C)

    (D)

    superheated H2O623 K, 22.1 MPa

    scH2O 647.5 K,22.1 MPa

    図1 超臨界水ベックマン転位反応のIRスペクトル

    Abs

    orba

    nce

  • - 10 -

    温度性を有するセルを装着した流通式の高温・高圧FTIRシステムを利用してベックマ

    ン転位反応のその場観察を行った。図1に 22.1MPa での水熱条件(623K)下と、超臨界

    水(647.5K)中でのシクロヘキサノンオキシム水溶液(0.15M)の IR スペクトルを示し

    た。反応時間は 133 秒一定である。常温常圧下でのシクロヘキサノンオキシム水溶液と比

    較して顕著な変化が観察できる。すなわち、超臨界水中では 1630cm-1 付近に、水熱中で

    は 1705cm-1 に新しい吸収帯が生成する。1630cm-1 付近の吸収帯はε-カプロラクタムの

    CO 伸縮振動、1705cm-1のそれはシクロヘキサノンの CO 伸縮振動である。水熱中ではε

    -カプロラクタムの吸収が観察できないことから、シクロヘキサノンオキシムは加水分解さ

    れシクロヘキサノンを生成するが、超臨界水中ではε-カプロラクタムを酸触媒を添加しな

    くても合成できることを明示している。あわせて、超臨界水中では 1705cm-1 に肩ピーク

    が観察できることから、シクロヘキサノンオキシムの一部が加水分解されることもわかる。

    このように超臨界状態では無触媒でも特異的に反応が進行する事実は興味深い。

    以上の結果より、超臨界状態では水分子モノマーから生成するプロトンが酸触媒作用を

    有する可能性が示されたが、この際プロトンとともに生成する OH-は果たして塩基として

    機能するのであろうか。そ

    こで、本研究では、通常な

    ら濃塩基存在下で進行する

    ベンズアルデヒドの不均化

    反応を、水熱及び超臨界水

    中無触媒下で IR によるそ

    の場測定により検討した。

    図 2 に 超 臨 界 水

    (25MPa,397℃)、及び水熱

    条件(25MPa, 277℃)下で

    のベンズアルデヒドの IR

    スペクトルを示した。ベン

    ズアルデヒドの反応器内で

    の滞留時間は105秒一定で

    ある。あわせて、常温、常

    圧中でのベンジルアルコー

    ル及びベンズアルデヒドの

    IR スペクトルも示したが、

    図に示すように超臨界条件

    下で著しいスペクトル変化

    1050 1030 1010 990 970 Wavenumber(cm-1)

    (A)

    (B)

    (C)

    (D)

    ベンズアルデヒド水溶液

    293 K, 0.1 MPa

    ベンジルアルコール水溶液

    293 K, 0.1 MPa

    熱水

    550 K, 25 MPa

    超臨界水

    670 K,25 MPa

    CO(1001 cm-1)

    Abs

    orba

    nce

    図2 超臨界水不均化反応の IR スペクトル

  • - 11 -

    が観察された。1002 cm-1の吸収帯は生成したベンジルアルコールの CO 伸縮振動である

    ので、超臨界条件下ではベンジルアルコールが合成されるが、水熱条件では合成されない

    ことが分かった。さらに、GC-MS、1H NMR による分析によりベンジルアルコールと安

    息香酸の生成が確認された。かくて、超臨界状態では強塩基を添加しない無触媒でも不均

    化反応が起こることが初めて明らかになった。それでは、不均化反応を引き起こしている

    のは本当に OH-なのであろうか。これまで提案されたメカニズムではラジカル種の関与を

    肯定する例もあり、本研究結果に対しても水分子モノマーからの OH・の生成と反応への

    関与を否定できない。そこで、本研究ではベンズアルデヒドの水素を重水素で置換した

    C6D5CDO を用いて 397℃、25MPa の超臨界水中で不均化反応を行い、生成物アルコール

    について GC-MS のフラグメントイオンを解析した。その結果、[α-2H2]ベンジルアルコー

    ルの特徴を表すフラグメントパターンは観察できたが、[α-2H]ベンジルアルコールのそれ

    は確認できなかった。スキーム2に不均化反応メカニズムを示したが、OH-及び OH・の

    いずれも不均化反応を引き起こす可能性を有している。しかし、[α-2H]ベンジルアルコ−

    ルは全く観察できなかったことから、超臨界水不均化反応が従来のメカニズムに従うと仮

    定すると、OH・の関与、すなわち水分子モノマーの H・と OH・への有意な分解は否定

    された。

    超臨界水中では水分子モノマー或いはダイマーから生成し、臨界点付近で活性化される

    プロトンや H3O+が酸触媒作用を示すことが証明されたが、得られた反応性は低く、満足で

    きるものではなかった。そこで、本研究では図3に示したように、超臨界状態まで急速昇

    温し、反応後速やかに冷却できる反応システムを開発した。これにより、常温のシクロヘ

    キサノンオキシム水溶液(0.35milkg-1)を、773K に加熱した超臨界水に衝突させることに

    よって、昇温時間 0.05 秒以内で 648K まで一気に昇温できた。昇温後、試料溶液を内容積

    50mL(内径 250mm)のハステロイ C-276 製反応器に導入した。反応時間は1秒以内に調節し

    た。反応後は、生成物の熱分解を防止するために急速冷却した。

    PhCD

    O

    OH =

    O-

    PhCD

    O =

    PhCD

    O =

    i

    ii

    OH

    O-

    Ph

    OH

    Ph

    OH

    O

    Ph

    O=

    O =

    PhCOH +

    PhCD2O-

    O=

    PhC O- +

    PhCD2OH

    O =

    PhCOH +

    PhCHDO-

    O=

    PhC O- +

    PhCHDOH

    iii

    v

    ivPh C + OH- D

    C D (PhC D)-

    DC C= D

    スキーム2 超臨界水不均化反応のメカニズム

  • - 12 -

    また、急速昇温を実現し、基質溶液導入による温度変化をできるだけ小さくするために、

    超臨界水溶液の流速を基質溶液の3倍以上に保った。Table 1 に示したように、上記超臨

    界水反応システムによって、99%以上の選択性でε-カプロラクタムを得た。副生成物とし

    Heating bath

    Quick-quenching part

    H2O

    50μL Microreactor(typically, 673 K and 40 MPa)

    Lagging material

    Quick-heating part(heating time up to673 K < 0.05 s)

    Reaction time < 1sThermocouple

    OHN

    Cyclohexanone -oxime solution

    Yield > 80% selectivity 100% No production of cyclohexanone

    P

    Heating bath

    Quick-quenching part

    H2O

    50μL Microreactor(typically, 673 K and 40 MPa)

    Lagging material

    Quick-heating part(heating time up to673 K < 0.05 s)

    Reaction time < 1sThermocouple

    OHN

    Cyclohexanone -oxime solution

    Yield > 80% selectivity 100% No production of cyclohexanone

    P

    T

    ~~ ~~

    scH2O Microreaction

    図3 A microreation system for supercritical water, which has been applied to the rapid and selective production of ε-carprolactam.

    Table 1 種々の手法によるε -カプロラクタム合成

    温度(K) 圧力(MPa) 反応時間(s) 収率(%) 7.69 m conc. H2SO4 383 0.1 5400 72.0 B2O3(20%)/Al2O3 573 2.6×10-4 5.65 72.0 high silica MFI zeolite 623 0.1 3600 95.3 hot waterc 523 40 180.0 0 hot waterμ-reaction 573 40 0.913 9.5 scH2Oc 673 40 180.0 1.9 scH2Oμ-reaction 623 40 0.802 38.9 scH2Oμ-reaction 648 40 0.728 80.0 scH2Oμ-reaction 673 40 0.625 83.0 scH2Oμ-reaction 693 40 0.506 42.1 scH2Oμ-reaction 648 30 0.667 63.5 scH2Oμ-reaction 648 25 0.603 49.6 HCl scH2O μ

    -reactiona 648 40 0.728 99.3

    H2SO4 scH2O μ

    -reactionb 648 40 0.728 99.5

    aHCl 濃度:7.74×10-5Μ(293K, 0.1 MPa). bH2SO4 濃度:2.46×10-4 Μ (293K, 0.1 MPa). cバッチ法.

  • - 13 -

    て 1%以下の6-アミノカプロン酸が生成したが、脱水反応によって容易にε-カプラクタ

    ムに変換できる。同じ試料溶液をバッチ法で処理すると、シクロヘキサノンへの加水分解

    反応が主で、ε-カプロラクタムの収率は 643K、40MPa、反応時間 180 秒でわずか 1.9%で

    あった。しかし、本システムを用いると、同じ温度、圧力でもわずかの反応時間で収率は

    80%以上に達し、硫酸法や固体触媒法を凌いだ。さらに、40MPa 一定で収率は臨界温度付

    近で極大に達し、興味深い温度依存性を示したが、イオン積(KW)は温度とともに単調に増

    加することから、この特異性は KW値だけでは説明できない。さらに、塩酸や硫酸を微量に

    添加すると、反応時間1秒以内で収率が 100%近くに達した。

    Scheme 3 と Table 2 に示したように、超臨界水中ではスチレンとヨウ化ベンゼンのカッ

    プリング反応が Pdのような触媒を用いなくても促進されることが、初めて確認された。生

    Table 2 Effect of base on reaction of styrene and iodobenzen[a]

    Conversion(%) Yield(%) Base

    styrene iodobenzene 1 2 3 6 7 E/Z

    -[b] 100.0 39.7 5.0 0 0

    (3.3) (1.3)[d] (1.8) 0 0 -

    N(Et)3[c] 94.1 45.1 13.9(5.0) 0(1.8) 0 0 0 -

    KOAc 72.5 77.5 55.6 2.3 3.0 0 0 81:19

    NaOAC 65.4 65.6 43.8 1.9 2.0 6.3 0 81:19

    K3PO4 60.4 77.2 42.2 1.8 1.4 25.7 1.9 81:19

    Na2CO3 64.6 100.0 27.8 1.2 0.5 44.3 5.2 83:17

    K2CO3 39.0 93.1 10.7 0.5 0.1 58.2 7.7 81:19

    HaHCO3 55.2 95.0 10.2 0.4 0.1 52.8 4.1 83:17

    NaOH 41.4 100.0 7.7 0.3 0 59.4 11.5 80:20 [a] 650K and water density 0.51g/cm3. [b] Ethylbenzene 10.2%. [c] Ethylbenzene 10.5%. [d] The numbers in the parentheses are yields of corresponding hydrogenated products

    +

    Ph

    Ph

    4

    + CH3 Ph

    Ph

    5

    + +Ph

    Ph

    Ph

    3

    + Ph OH + O Ph

    Ph6 7

    Ph

    Ph

    1

    Ph

    Ph

    CH2

    2

    + scH2O

    No Pd

    CH2

    C2H5

    Scheme 3

    I

  • - 14 -

    成物は、スチルベン(1)や 1,1-ジフェニルエチレン(2)のようなアルキルアレンの他、

    ヨウ化水素が生成した。さらに、カップリング反応に加えて、水素化反応が起こり、ビベ

    ンジル(4)、1,1-ジフェニルエタン(5)やエチルベンゼンが生成した。

    本システムにおいて、塩基の存在は C-C カップリング反応で生成するヨウ化水素と結合

    させるために不可欠であることから、塩基の選択は反応速度や生成物分布に大きな影響を

    与えることが考えられる。そこで、塩基添加効果を検討した。使用した塩基は、N(Et)3、

    NaOAc、KOAc、K3PO4、K2CO3、Na2CO3、NaHCO3、NaOH の 8種である。Table2 に示したように、

    KOAc がスチルベンのようなカップリング化合物を合成するには最も効果的であることが

    分かった。ヨウ化ベンゼンとスチレンの転化率は 70%を越え、その収率は 55.6%に達した。

    トランス/シス比は 81/19 で、トランススチルベンの白結晶が容易に分離できた。

    N(Et)3 を用いると、塩基を使用しない場合と同様に、スチレンの高転化率が観測された

    が、スチルベン収率は低く、エチルベンゼンと水素化化合物(4、5)が 10%程度の収率で

    得られた。また、このときにスチレンの水素化反応とカップリング反応が起こったことは

    興味深い。超臨界水中ではヨウ化水素が存在する時にのみ水素化反応が進行したことから、

    これらの水素化反応は、結果として生じたヨウ化水素によって引き起こされたと考えられ

    る。しかし、一方でヨウ化水素非存在下では、少量の 1-フェニルアルコールがスチレンか

    ら生成したことから、超臨界水自身からの水素供与も否定できない。強塩基の NaOH を使用

    すると、ヨウ化ベンゼンの転化率が高く、フェノールが主に生成した。その他の塩基(K3PO4、

    K2CO3、Na2CO3、NaHCO3)については、KOAc と NaOH の中間の結果が得られた。また、超臨界

    水中ではヨウ化ベンゼンのビフェニルへのカップリング反応は塩基の種類に関わらず観察

    されなかった。

    モノテルペン類は自然界に 1000 種類程度存在し、禁忌、誘因等の生物相互のシグナル伝

    達を支配している(アレロパシ-)重要な物質である。また、モノテルペン類は賦香物質

    として香粧品、食品等に利用可能なだけでなく、医薬品や医薬品中間体(例えばビタミン)、

    農薬あるいはその中間体として多方面での用途が知られており、高付加価値、高機能性を

    合わせもったファインケミカルである。ところが、モノテルペン類自体は多くの反応活性

    点をもつため、熱的には不安定で、加水分解性も高く、高温条件では必ずしも安定な化合

    物とは言えず、その合成過程は複雑である。かくて、One-pot 2 量化反応とその反応を利

    用する環境負荷低減型プロセスの実現は極めて重要である。このような状況で、我々は超

    臨界水有機合成の適用範囲をカプロラクタムのようなマスケミカル以外のファインケミカ

    ル分野への展開することを目的として、モノテルペンアルコ-ル(以下 MTA と略す)を試み

    た。

  • - 15 -

    高温高圧赤外分光その場システム(図4)でプレノ-ル(1)水溶液を 1ml/min 送液したと

    ころ、150℃, 30MPa で、2-メチル-3-ブテン-2-オ-ル(2)への異性化が起こり、215℃, 30MPa

    では 2とともに不明ピ-ク 940cm-1 のが小さく観測され、375℃, 30MPa ではイソプレンの

    みが生じることが観測された。そこで、215℃, 30MPa の熱水条件で得られたサンプルを

    GC/MS で測定したところ、MTA の生成が観測された。触媒非添加で水のみで進行する新規 2

    量化反応であることが分かった(図 5)。また、この場合の MTA の収率は 15%であった。

    この新規反応は熱水中では滞留時間 38sec 程度で進行し遅いことから、超臨界水で滞留

    時間を小さくして反応を行った。なお、ブロステッド酸(p-トルエンスルホン酸)やルイス

    酸(塩化亜鉛)を用いて文献記載の条件で反応を試みたが、MTA 収率はそれぞれ 4%, 11%と低

    かった (Table 3. entry1, 2)。すでに述べたように赤外分光システムで 215℃, 30MPa の

    プレノールまたは

    2-メチル-3-ブテン-2-オ-ル

    超臨界水 500μL マイクロリアクター(450 ℃ and 40 MPa)

    熱電対

    背圧弁

    保温材

    反応時間 < 8s急速冷却部

    収率 54~59%

    図4 改良マイクロリアクタ-装置概略図

    予熱部(0.5s up to

    450℃ )

    50μLプレノール

    または2-メチル-3-ブテン-2-オ-ル

    超臨界水 500μL マイクロリアクター(450 ℃ and 40 MPa)

    熱電対

    背圧弁

    保温材

    反応時間 < 8s急速冷却部

    収率 54~59%

    図4 改良マイクロリアクタ-装置概略図

    予熱部(0.5s up to

    450℃ )

    50μL

    -0.05

    0.25

    0

    0.1

    0.2

    4000 7501200160020002400280032003600

    Abs

    Wavenumber[cm -1]

    吸光度

    波数 [cm-1]

    プレノ-ル水溶液

    2-メチル-3-ブテン-2オ-ル水溶液

    215℃, 30MPahot water

    150℃, 30MPahot water

    375℃, 30MPascH2O

    905cm-1

    H

    O H

    OH

    1151cm-1

    1039cm-1

    イソプレン

    940cm-1

    図 5 高温高圧赤外分光その場システムによる水を用いた MTA合成反応の温度依存性(原料 プレノ-ル , 滞留時間 38sec)

    -0.05

    0.25

    0

    0.1

    0.2

    4000 7501200160020002400280032003600

    Abs

    Wavenumber[cm -1]

    吸光度

    波数 [cm-1]

    プレノ-ル水溶液

    2-メチル-3-ブテン-2オ-ル水溶液

    215℃, 30MPahot water

    150℃, 30MPahot water

    375℃, 30MPascH2O

    905cm-1

    H

    O H

    OH

    1151cm-1

    1039cm-1

    イソプレン

    940cm-1

    図 5 高温高圧赤外分光その場システムによる水を用いた MTA合成反応の温度依存性(原料 プレノ-ル , 滞留時間 38sec)

    図 4 改良マイクロリアクター装置概略図

  • - 16 -

    熱水で行った場合、15%の収率であったが、215℃, 40MPa と圧力を増加させると収率は 25%

    に増加した(Table3. entry3, 4)。

    そこで、この反応を 375℃, 40MPa, 6.5sec; 425℃40MPa, 5.2sec; 450℃, 40MPa, 4.6sec

    の超臨界水で行ったところ、39%, 46%, 54%の収率で MTA が得られ (Table 3. entry 6, 7,

    8)、滞留時間を小さくし、温度を増大させるとある程度の収率で MTA を得ることができた。

    興味あることには、375℃, 40MPa, 7.7sec のメタノ-ル:水=1:1 水溶液を媒質とした場合

    には MTA は全く得られなかった。このことは、メタノ-ルは MTA 合成反応を阻害すること

    を意味し、逆に超臨界水の場合には、特異的にこの反応を促進する効果があることを示し

    ている(Table 3. entry 5)。

    Table3. Comparison of preparation of monoterpene alcohol from prenol by various methods

    run T P τ conversion selectivity yield

    ℃ MPa sec % % %

    1 0.27m p-toluene sulfonic acid 145 0.1 12,600 98 5 4

    2 0.35m ZnCl2/dichloroetane 25 0.1 3,600 85 12 11

    3 hot water µ-reaction (R) 215 30 38 83 18 15

    4 hot water µ-reaction 215 30 5.0 91 27 25

    5 MeOH+H2O (1:1) µ-reaction 375 40 7.7 88 0 0

    6 scH2O µ-reaction 375 40 6.5 97 40 39

    7 scH2O µ-reaction 425 40 5.2 93 49 46

    8 scH2O µ-reaction 450 40 4.6 90 60 54

    一方、375℃, 30MPa, 7.7sec の超臨界水により、MBO からラバンジュロ-ルを収率 59%で

    One-pot で合成した (Table4 entry 2)。

    Table 4. Comparison of conversion, selectivity and yield ob lavandubl synthesis undervarious condition(substrate:2-methyl-3-buten-2-ol)

    Entry T P τ conversion selectivity Yield

    ℃ MPa sec % % %

    1 hot water µ-reaction (R) 300 30 38 67 52 35

    2 scH2O µ-reaction 375 30 7.7 72 82 59

    高温高圧赤外分光その場システムを用いてC5ユニットであるプレノ-ル水溶液を215℃,

    30MPa, 38sec の熱水条件行ったところ未知ピ-クが観測され、そのサンプルを GC/MS で測

    定したところ、MTA の生成を確認した。このことから、触媒非添加の高温高圧水で進行す

    る新規二量化反応が確認された。さらに、超臨界水マイクロリアクタ-を用いて、熱分解

    および加水分解の抑制するようにプロセス改良を重ねたところ、温度 450℃, 圧力 40MPa,

    滞留時間 4.6sec で収率 54%(転化率 90%, 選択率 60%)で MTA を生成することができた。ま

    た、プレノ-ルの異性体で同じ C5ユニットである 2-メチル-3-ブテン-2-オ-ル(以下 MBO

  • - 17 -

    と略す)からは 375℃, 30MPa, 7.7 秒で C10 化合物であるラバンジュロ-ル(ラヴェンダ-

    成分)を One-pot で 59%の収率で得ることができた。多くのエッセンシャルオイル(精油)

    が水蒸気蒸留で得られるのと同様、分離後の MTA には有害な有機溶媒や金属が含まれない

    ため、安全の高い香料や医薬品中間体としての利用が可能となる。また、分離後の MTA が

    わずかに溶解した水はフロ-ラルウオ-タ-(芳香水)としてロ-ション等の香粧品や悪

    臭のマスキング剤等の産業上の用途が考えられる。

    (2)研究成果の今後期待される効果

    ・類似研究の国内外の動向

    超臨界流体利用技術は、革新的で波及的な技術創出の可能性を秘めていることから、世

    界的な重要研究課題になっている。たとえば、超臨界水の燃焼反応を環境汚染物質の処理

    技術として利用する研究は、応用研究がリードする形で米国、日本を中心に進められてい

    る。しかし、本研究のように、超臨界流体に新たな機能を付与することにより機能環境溶

    媒として活用し、環境に配慮したシステム技術を構築する研究は他に例を見ない。超臨界

    条件下での「場と反応」に関連した基礎研究は国外でも米国の MIT、ミシガン大学、ロス

    アラモス国立研究所、ドイツのカールスエー大学などで取り組みが始まっている。この視

    点において、産総研超臨界流体研究センターが、高温・高圧分光学的その場測定法を世界

    で初めて開発し、種々の反応特異性を見いだすなど、本反応場のミクロ構造と反応性の解

    明に世界的な実績を挙げている。さらに、東北大学は、超臨界水を利用したバイオマスの

    分解・回収利用技術では優れた研究実績を挙げている。

    これまでは、超臨界状態での水のイオン積は水熱条件下に比べて著しく小さいことから、

    酸・塩基反応は水中では水熱条件(~300 ℃)下で行なうことが定説とされ、クレムソ

    ン大学(米)、エッソ石油(米)、CSIRO(豪)を中心に通常のバッチ法を用いて種々の有

    機合成反応が検討されてきた。しかし、その低反応速度、副反応による目的物質の選択性

    の低下から満足できる成果は得られていない。これに対して、当該研究者らは酸、塩基触

    媒で促進される化学反応を超臨界水中無触媒下で行うことの意義を世界に先駆けて提唱し

    た。超臨界水合成法は、有機溶媒中で強酸或いは強塩基触媒を使用しない限り進行しない

    有機合成反応を、超臨界水を利用することにより、何等の有害な触媒や有機溶媒を使用・

    排出することなく、極めて迅速かつ高選択的に進行させるものである。最近、本研究成果

    に着目してミシガン大学(米)、ファヒベライヒ工科大学(独)、東京大学、東北大学が類

    似の研究を開始している。

    ・成果の今後の展開見込

    本研究成果は、機能環境流体という新規な概念を導入することにより低環境負荷の物質

  • - 18 -

    合成が実現することから、次世代に向けた無機材料合成、エネルギー関連、化学製品関連、

    材料関連分野で新産業創出につながることも大いに期待される。研究成果は、地球温暖化

    をはじめとする環境への影響の低減化に寄与し、安心・安全な社会の構築に資する。更に、

    環境関連、エネルギー関連、化学製品関連、材料関連の幅広い分野で、低エネルギー消費

    型の新産業創出につながる。より詳細については下記に示した。

    新産業創出に対する、超臨界水によるマスケミカル製造の実用化の重要性は言うまでもな

    いが、初のナンバリングアッププロセスによるファインケミカル製造プロセス実現のイン

    パクトも大きい。当該研究者らが提案している超臨界水有機合成法は、有機溶媒中で強酸

    或いは強塩基触媒を使用しない限り進行しない有機合成反応を、超臨界水を利用すること

    により、何等の有害な触媒や有機溶媒を使用・排出することなく、極めて迅速かつ高選択

    的に進行させることができる。強塩基、強酸、有機溶媒の使用量を著しく低減でき、製品

    の生産に投入できるエネルギー総量も顕著に削減できることから、その社会的、経済的効

    果は大きい。いずれにせよ、水は、安全、安価で、最も環境に優しい溶媒であることから、

    極めて環境に優しいプロセスと言え、環境保全効果は大きい。また、本合成法は独創的な

    発想に由来しており、科学技術分野での新領域の創出をもたらすことが、期待できる。

    ・ 科学技術や社会への考えられる波及効果

    本研究における達成目標は、水を用いた低エネルギー消費型、環境保全型の有機物質の無

    触媒製造法の創製にある。また、知的資産の形成という観点から、「超臨界水の酸・塩基触

    媒機能」において、たとえば「気相反応から溶液反応での水機能の統一的理解」といった

    基礎科学の目標も重要かつ新たな知見を与え、学術的な意義も大きい。また、このような

    基礎科学研究の充実は、それと応用研究が共通の基盤を通して連動していることからも、

    超臨界水の機能環境流体としての特異な機能の物理、化学現象解明の切り口となる可能性

    が強い。かくて、その成果が実用化へのレベルを一挙に押し上げる可能性も大きい。さら

    に、本研究で、国内外を問わず幅広い研究者との交流を通じて、各研究課題の充実を図る

    ことにより、本分野の世界における研究・情報・新規技術創出の拠点としても発展させて

    いくことができる。

    水を用いた低エネルギー消費型の環境保全型物質製造プロセス開発は、従来にない新た

    な発想に基づいた研究開発であり、本研究成果により有害な溶媒を使用しない有機物質の

    無触媒製造法、有害化学物質の使用量の削減により環境負荷の低減が図られるとともに、

    工業的に重要な物質製造の基本特許の取得が期待できることから、化学物質削減による環

    境問題への対応、合成技術分野における国際競争力の強化につながるだけでなく、経済の

    活性化ももたらす。また、知的資産の形成という観点から、基礎科学分野での新領域の創

    出を目指していることは、研究基盤強化にも寄与する。更に、超臨界水による物質製造法

    は、何等の有害な触媒や有機溶媒を使用・排出することなく、極めて迅速かつ高選択的に

  • - 19 -

    物質製造を行うものであり、生産に投入できるエネルギー総量、CO2排出量も顕著に削減

    できるので、安心・安全で快適な社会の構築の達成への寄与も大きい。

    本プロセスが実現すれば、製造物質の市場規模、工業的価値が大きいことから、国内外

    の経済社会への波及効果は大きい。また、研究終了後は実用化に向けて、経済産業省、経

    産省東北経済産業局、インキュベーションコンソーシアムの連携のもとで、積極的な取り

    組みを実施するので、大都市圏だけでなく、地方経済への波及効果も期待できる。

  • - 20 -

    3.2 超臨界二酸化炭素の溶媒機能の高度化による低エミッション反応プロセスの

    構築タイトル(有機反応2グループ)

    (1)研究内容及び成果

    超臨界二酸化炭素(scCO2)は,臨界温度が室温付近であること,常温常圧で気体であ

    り液体・固体成分との分離が容易であることなどの特長があり,超臨界水とは別な観点か

    ら,通常有機液体に替わる新規な有機合成反応場として大いに期待される。本研究では,

    各種の均一系および不均一系触媒を用いて scCO2 中で有機反応を行い,有機溶媒の場合と

    比較して,反応速度,生成物分布,圧力効果などの反応特性を明らかにし,触媒の回収・

    リサイクルが容易な反応システムを構築することを目標とする。

    回分式反応器を用いて scCO2 を反応場とする次の反応を行い,予備的データを収集する

    ことに努めた。触媒として,有機貴金属錯体,同錯体を活性種とする担持液膜触媒,担持

    貴金属微粒子触媒などを用いた。水溶性の金属錯体を用いる場合には,水やエチレングリ

    コール(EG)などの極性液体を少量 scCO2 に添加することも試みた。担持液膜触媒は,多孔

    性のシリカゲルを支持体として水あ

    るいは EGを支持液体とした。

    (a) Heck 反応

    パラジウムとホスフィン配位子を

    組合せた有機金属錯体を触媒として

    ヨードベンゼンとオレフィンの

    Heck 反応を行ったところ,scCO2 中

    で反応が進行し,100%の選択率で

    Heck カップリング生成物が得られたが,反応速度は小さかった。しかし,少量の水あるい

    は EGを添加すると反応速度はかなり向上した。さらに,反応後に触媒は極性液体中に存在

    するため,生成物有機相と溶媒 scCO2 相との分離が容易であり,極性液体相のみを分離回

    収して再度反応を行ったところ,活性の低下は起こらずにリサイクル出来ることが分った。

    溶解度以上の水を添加すると水-scCO2の2相系反応として進行し,この場合にも触媒の分

    離・回収・リサイクルが容易であることが分った。

    I

    R +

    R

    OOH

    (a) Heck coupling

    (b) Selective reduction

  • - 21 -

    (b) 選択還元

    通常のアルミナ担持白金微粒子触媒を用いてα,β-不飽和アルデヒドの水素化を行っ

    たところ,scCO2 反応場では 90%以上の選択率で不飽和アルコールが生成した。アルコール

    などを溶媒とした場合には,白金単独では不飽和アルコールの選択率は低く,scCO2を反応

    場とする効果は顕著であった。選択率は CO2 の分圧だけでなく水素の分圧にも依存してお

    り,圧力が高い方が選択率も高いことが分った。CO2の分圧が臨界圧力よりも低い場合には

    選択率はあまり高くなく,臨界点近傍あるいはそれ以上の圧力条件が必要であった。固体

    触媒であるので分離・回収は容易であり,特に水素還元などの後処理を行うことなくリサ

    イクル可能であった。

    数種類の有機貴金属錯体を触媒として,均一系反応,2相系反応,担持液膜反応を行い,

    反応特性を比較した。不飽和アルコール選択率は貴金属の種類によって大きく異なってい

    たが,通常有機溶媒で見られる傾向と同じであった。ScCO2という特殊反応場でも担持液

    膜触媒は有効に作用し,リサイクル可能であることが分った。

    超臨界二酸化炭素中でヨウ化ベンゼ

    ンとアクリル酸ブチル、Heck ビニル化

    反応を行った。反応条件は、圧力 8、

    14MPa、温度 60℃、反応時間 17時間で

    ある。表 1にその結果を示した。酢酸

    パラジウムと水溶性 TPPTS を溶解させるために水とエチレングリコールを共溶媒として用

    いた。共溶媒を使用しない超臨界二酸化炭素中では、その反応速度は極めて遅いことが分

    かった。これは、触媒の超臨界二酸化炭素中への溶解度が極めて低いため、触媒が基質分

    子と相互作用することが難しいためと考えられた。しかし、水のような極性共溶媒を添加

    することによって、触媒が超臨界相中に溶解することから、その反応速度、ターンオーバ

    ー数(TON)が顕著に増加した。また、エチレングリコールを共溶媒として使用すると、水

    R+

    R- HX

    catalystligandbase

    X

    Heck coupling

    表1 Results on Heck reactions of iodobenzene with butyl acrylate in supercritical carbon dioxide at pressures of 80 and 140 bar at 60℃

    Conversion(%) TON(mol/mol) Co-solvent Ligand 80 bar 140 bar 80 bar 140 bar

    - TPP 0.15 0.17 3.0 3.5 Water TPPTS 18 8.0 36 16

    EG TPPTS 29 19 58 38 Iodobenzene 10 mmol; Butyl acrylate 10 mmol; Triethylamine 10 mmol; Water or EG 1 ml; Pd(OAc)2 0.05 mmol; TPPTS or TPP 0.2 mmol; Reaction time 17 hours. EG: Ethylene glycol. Reactor volume: 100 ml. Conversion was detemined from the amount of iodobenzene consumed.

  • - 22 -

    を用いた場合に比べてさらに

    TON が増加したが、これは、基

    質分子が水に比べてエチレング

    リコール中でより多く溶解する

    ためと考えられた。これらの傾

    向は臨界圧力付近の 80bar でも

    観察されたが、その TON は

    140bar に比べて高いこともわ

    かった。さらにその圧力効果に

    ついて圧力 1-140bar の範囲で

    検討を行った。圧力が増加する

    につれて、TON の減少が観察さ

    れたが、その減少は超臨界領域

    に達すると緩やかになる。ここでは、臨界点以下の低圧領域では 2-3ppm での Pd 溶出が観

    察されたことから、臨界点を超えた高圧下では触媒はより安定であるということが注目さ

    れる。高圧下での反応は、終了後減圧され、反応器内の内容物は、反応生成物と反応物か

    らなる有機相と、触媒を含む共溶媒相の二相に分離され、その触媒/共溶媒相を用いてさら

    に同様な Heck 反応を行ったが、3回の繰り返し使用においても、同様な転化率と選択性が

    得られることが分かった。

    各種のホスフィン配位子を用いた有機金属錯体を触媒として均一系有機合成反応を

    scCO2および有機溶媒中で行い,配位子のフッ素修飾と CO2反応場の影響を調べた。

    回分式反応器を用いて,有機パラジウム錯体を触媒とする Heck カップリング反応を行っ

    た。反応基質としてヨードベンゼンとスチレン,塩基にトリエチルアミン,触媒前駆体と

    して酢酸パラジウムを用いた。配位子には以下の 7種類を用い,ホスフィン/パラジウム比

    が 2 になるように調製した。 (Ⅰ)P-(C6H5)3, (Ⅱ)C6F5-P-(C6H5)2, (Ⅲ)(C6F5)2-P-C6H5,

    (Ⅳ)P-(C6F5)3, (Ⅴ)P-(C6H4F)3, (Ⅵ)P-(C6H4CF3)3, (Ⅶ)(C6F5)2-P-(CH2)2-P-(C6F5)2]。反応温

    度および時間はそれぞれ 70 ℃,21 時間とした。比較のために,ヘキサン,トルエン,エ

    タノール,N-メチルピロリドン(NMP)を溶媒とした Heck 反応も行った。

    図 1 に種々の二酸化炭素圧力での結果を示す。圧力 0.5 MPa では配位子Ⅲが配位子Ⅰよ

    りも高い活性を示し,8 MPa では配位子Ⅵが配位子Ⅰよりも高活性である。さらに 12 MPa

    まで加圧すると,0.5 MPa と同様に配位子Ⅲが配位子Ⅰよりも高い活性を示した。配位子

    フッ素置換が触媒活性へ及ぼす影響は,その位置と程度および反応圧力により異なること

    がわかる。また,同じ配位子について圧力の影響を比較すると,配位子Ⅵを除き,圧力の

    増加と共に活性は低下した。

    図1 圧力と配位子の影響

    0

    2

    4

    6

    8

    10

    0.5 MPa 8 MPa 12 MPa

    Stilb

    ene/m

    mol

    Ⅰ Ⅱ

    Ⅲ Ⅳ

    Ⅴ Ⅵ

    Ⅰ Ⅱ

    Ⅲ Ⅳ

    Ⅴ Ⅵ

  • - 23 -

    反応器内の状態変化を目視観察および赤外分光法により測定したところ,二酸化炭素の

    臨界圧以下では反応器内は有機液相と気相の二相であり,臨界圧以上 8 MPa まで加圧して

    も反応器内は依然として二相であった。さらに 12 MPa まで加圧すると反応器内は均一相と

    なった。0.5 MPa では液相で,8 MPa では液相および超臨界二酸化炭素相の二相で,12 MPa

    では超臨界二酸化炭素相でそれぞれ反応が進行すると考えられる。

    均一相反応となっている 12 MPa の超臨界二酸化炭素溶媒と有機溶媒での反応について,

    各溶媒においてもっとも高い活性を示した配位子の結果を表 2に比較した。有機溶媒の結

    果から,溶媒の極性が大きいほど高い活性を示すことがわかる。しかし,12 MPa の超臨界

    二酸化炭素の極性は小さいにもかかわらず極性有機溶媒と同程度の高活性を示すことから,

    適当な配位子を選択することによって,超臨界二酸化炭素の溶媒としての応用が効果的に

    なることがわかった。

    (c)α,β-不飽和アルデヒドの選択的還元(触媒:Pt/Al2O3)

    α,β-不飽和アルデヒドの C=O 選択的還元による不飽和アルコールの合成は実用的に重

    要な有機反応のひとつである。担持白金触媒にとってこの反応はむずかしく,高い不飽和

    アルコール(UOL)選択性を得るためにはスズなどの促進剤の添加や調製条件の制御が必要

    である。通常の方法で調製した Pt/Al2O3 触媒を用いて,シンナムアルデヒド(R=C6H5)や

    類似化合物の水素化を scCO2 中で行ったところ,アルコールなどの有機溶媒の場合に比べ

    て,非常に高い UOL 選択性が得られることが分った。表 3に CAL 水素化の結果を示す。こ

    の条件下では UOL と飽和アルデヒド(SAL)が主生成物であり,飽和アルコールは殆ど認め

    られなかった。CO2,H2圧力の増加にともなって,転化率と UOL 選択性は大きくなる。溶媒

    としてアルコールを用いた場合,UOL 選択性は逆に H2圧力とともに低下する傾向がある。

    CO2圧力が臨界圧以下では,UOL 選択性は 66%と低い。H2圧が一定で CO2圧力を増加させて

    表2 scCO2と有機溶媒の比較(それぞれ活性の最も高い配位子)

    溶 媒 配位子 スチルベン生成量(mmol)

    scCO2, 12 MPa III 2.44

    ヘキサン VI 0.307

    トルエン IV 0.584

    エタノール V 1.53

    NMP VII 2.84

    O

    RH2

    H2

    OH

    R

    O

    R

    H2

    H2

    OH

    R

    UOL

    UAL

    SAL

    SOL

  • - 24 -

    も希釈効果は打ち消されて転化率は増加する。圧力によって CO2の溶媒特性(誘電率など)

    が変化すると,極性官能基 C=O の反応性と担持 Pt微粒子の性質が変化することが推測され

    る。反応後に触媒を回収し,特に水素還元などの賦活処理をすることなく再使用すること

    が可能であった。

    (d)CO2固定化-炭酸ジメチル合成(触媒:固体塩基)

    CO2を炭素資源として捉え,これを有用物質に変換し利用することが検討されており,CO2

    からの炭酸ジメチル(DMC)合成はそのひとつである。DMC は毒性の低い溶媒であり,最近で

    は,メチル化あるいはカルボニル化用試薬など毒性の高いホスゲンやジメチル硫酸の代替

    物としても注目されている。固体塩基触媒(炭酸塩)とヨウ化メチル(促進剤)を用いて

    CO2とメタノールからの直接 DMC 合成を検討した(表 4)。副生成物としてジメチルエーテ

    ル(DME)が生成する場合も見られた。この中では炭酸カリウムが優れていることが分った。

    副生成物 DME は CO2圧力とともに減少するが,DMC 生成は CO2圧力とともに増加し 4 MPa お

    よび 9 MPa 付近で極大となる傾向が見られた。その外,当グループで合成したスメクタイ

    CO2 (CH3O)2CO+ 2CH3OH + H2O

    表3 Effect of pressure in hydrogenation of cinnamaldehyde(CAL)

    Pressure Conversion Selectivity N. H2 CO2 Total UOL SAL Effect of total pressure

    1 15.5 54.5 70 16.0 85.4 13.9 2 22 78 100 33.9 87.0 11.8 3 40 140 180 40.3 92.6 6.6 4 50 170 220 48.7 93.1 5.3

    Effect of Hydrogen pressure 5 10 140 150 32.3 85.7 11.7 6 20 140 160 34.8 89.5 9.0 7 40 140 180 40.3 92.6 6.6 8 60 140 200 69.4 91.5 7.7

    Effect of scCO2 pressure 9 40 40 80 16.0 66.0 34.0

    10 40 80 100 30.0 91.0 7.2 11 40 140 180 40.3 92.6 6.6

    Reaction conditions:CAL 7.5 mmol ; 1 wt-%Pt/Al2O3 500mg; temperature 50℃; time 2h.

  • - 25 -

    ト系触媒を DMC 合成に応用するとともにエポキサイド,CO2,メタノールからの一段 DMC 合

    成を検討している。

    最近,二酸化炭素を有用物質に変換する反応としてジメチルカーボネート(DMC)合成

    が注目されている。その一つの反応として金属錯体触媒,塩基触媒あるいは金属酸化物触

    媒を用いる直接 DMC 合成(CO2 + CH3OH → CH3OCOOCH3 + H2O)が報告されてい

    るが,低い収率しか得られていないのが現状である。一方,DMC はエポキシへの CO2付

    加による環状カーボネート合成と環状カーボネートとメタノールのエステル交換の二段階

    の反応で合成でき(Scheme 1),塩基触媒が有効であることが知られている。本研究では,

    反応後の触媒の回収・リサイクルの観点から,固体塩基触媒の応用を検討することとした。

    当研究グループで開発した種々の多孔質アルカリ含有スメクタイト触媒を用い,プロピレ

    ンオキサイド(PO)への CO2付加反応(第1ステップ),およびエチレンカーボネート(EC)

    あるいはプロピレンカーボネート(PC)とメタノールのエステル交換反応(第2ステップ)

    を行うとともに,CO2,PO およびメタノールから一段で DMC を合成する反応も試みた。

    表4 DMC synthesis from methanol and CO2 in the presence of methyl iodide with various carbonate compoundsa

    Catalyst DMC (mmol) DME (mmol) K2CO3 4.04 0.90 KHCO3 2.0 0.70 Na2CO3 0.97 0.58

    (NH4)2CO3 trace 0.65 Li2CO3 0.53 0.39 BaCO3 0.0 0.25 CaCO3 0.0 0.28

    a Methanol 198 mmol; CH3I 24 mmol; CO2 pressure 8 MPa; catalyst 3 mmol; temperature 70℃; time, 4 hr.

    Scheme 1

    多孔質スメクタイト触媒は水熱法(既報)で調製した。反応は体積 50 mL のオートクレ

    ーブを用いて回分式で行った。反応器に PO,触媒 0.5 g を充填した後に,CO2を約 1 MPa

    の圧力まで導入した。その後,反応器を反応温度まで昇温した後に,さらに 8 MPa の圧

    力まで CO2を導入し,反応を行った。EC あるいは PC とメタノールの反応も同様の手段

    第1ステップ 第2ステップ

  • - 26 -

    により,気相 CO2存在下で行った。原料および生成物の分析はガスクロで行った。

    (i) 第 1 ステップ反応-CO2

    付加-

    各種の組成,表面積を有す

    るスメクタイト触媒による

    PO への CO2付加反応の結果

    を表 5 に示す。反応の転化率,

    PC 選択性は触媒により異な

    るが,これらは BET 面積と

    は無関係である。副生成物は

    PO あるいはプロピレングリ

    コール(PG)の縮合物であっ

    た。図2は PC 収率と触媒中

    のアルカリ量の関係である。若干のばらつきはあるが,PC 収率はアルカリ量と共に増加

    する。触媒活性は二価金属原子やアルカリ原子の種類ではなく,アルカリ原子の量に強く

    依存することが分かった。

    表5 Composition of smectite catalysts prepared and results on the reaction of PO and CO2. Number of atoms in a unit cell BET Conversion Selectivity PC Yield Catalyst

    Si Mg Ni Na K Li (m2/g) (%) (%) (%) (a) S-Mg-Na 8 6.62 - 1.10 - - 333 47.7 53.7 25.6 (b) S-Mg-Na-K-1 8 6.17 - 0.63 0.02 - 339 64.2 55.7 35.8 (c) S-Mg-Na-K-2 8 6.43 - 1.5 0.06 - 273 55.1 65.9 36.3 (d) S-Mg-Na-K-3 8 6.44 - 2.28 0.12 - 186 60.9 85.3 51.9 (e)S-Mg-Na-K-4 8 6.44 - 2.81 0.13 - 110 85.6 94.3 80.7 (f) S-Mg-Na-Li 8 5.58 - 0.66 - 0.61 293 24.2 82.6 20.0 (g) S-Ni-Na-1 8 - 5.75 0.14 - - 413 31.6 43.9 13.9 (h) S-Ni-Na-2 8 - 5.97 0.56 - - 394 21.0 99.2 20.9 (i) S-Ni-Na-3 8 - 5.9 1.4 - - 333 44.2 84.5 37.4 (j) S-Ni-Na-Li-1 8 - 5.69 0.4 - 0.31 387 26.8 81.0 21.8 (k) S-Ni-Na-Li-2 8 - 5.61 0.97 - 0.39 302 39.3 96.9 38.1 (l) S-Ni-Na-Li-3 8 - 7.04 1.54 - 0.79 159 39.1 82.1 32.3 (m) S-Mg-Ni-Na 8 3.08 3.08 1.21 - - 370 77.7 14.7 11.4 (n) S-Mg-Ni-Na-K 8 2.87 3.45 1.5 0.74 - 154 32.6 89.2 29.1 Reaction conditions: PO : 57 mmol, CO2 = 8 MPa, Catalyst : 0.9 g, Temperature : 150 oC, Time : 15 h.

    Number of alkali atoms in a unit cell(-)

    図2 PC yield versus the number of alkali atoms in a unit cell.

  • - 27 -

    (ii) 第2ステップ-エステル交換反応-

    次に EC とメタノールの反応を行った。この反応では高選択的に DMC とエチレングリコー

    ル(EG)が生成し,両者の生成量の比は触媒によらずほぼ 1であった。図3に DMC 収率と触

    媒中のアルカリ量の関係を示す。PO と CO2の反応の場合と同様に,DMC 収率はアルカリ量

    と共に増加する。時間を変えて ECとメタノールの反応を行った。DMC 収率は反応初期には

    時間と共に増加したが,2時間以上では約 70%で一定になった。また,反応時間 4時間で

    触媒量を増加して反応を行っても収率の増加は認められなかった。これらから,反応時間

    が長い場合には反応は平衡状態に到達していることが分かる。このような条件で原料中の

    メタノール/EC 比を変化させた実験から,比が大きいほど EC 基準の DMC 収率は増加し,

    比 16では 90%以上の DMC 収率が得られることが分かった。

    EC とメタノールの反応を行った後の触媒を濾過,アセトン洗浄,乾燥し,再び次の反応

    実験に再使用したが,活性の劣化は認めずリサイクルが可能であることが分かった。

    種々のアルコールを用いて EC あるいは PC とのエステル交換反応を行った。メタノー

    ル,エタノール,プロパノールを用いた反応ではジアルキルカーボネートと EG あるいは

    プロピレングリーコールが生

    成した。ジアルキルカーボネ

    ート収率はアルコールの炭素

    鎖が長くなると減少し,また,

    いずれのアルコールを用いて

    も EC の方が PC より高い収

    率を与えることが分かった。

    PC のメチル基が吸着を阻害

    していると思われる

    (iii) 一段 DMC 合成

    表 6 は CO2,PO およびメタ

    ノールから一段で DMC 合成

    (PO + CO2 + MeOH → DMC +

    PG)を行った結果である。比

    較のために,市販の MgO を用

    いた結果も合わせて示す。いずれの触媒でも PC,DMC および PG と共に,PO のアルコーリ

    シスにより 1-メトキシ-2-プロパノール(1)と 2-メトキシ-1-プロパノール(2)が副生する

    が,アルカリを多く含むスメクタイトが最も高い DMC 収率を与える。触媒の塩基特性の違

    いが生成物分布の違いになって現れたのであろう。スメクタイトの塩基触媒としての性能

    図3 DMC yield versus the number of alkali atoma in a unit cell.Reaction conditions:EC 25 mmol;methanol, 200mmol;Catalyst 0.25 g; 150℃;1h.

    図3 DMC yield versus the number of alkali atoma in a unit cell.Reaction conditions:EC 25 mmol;methanol, 200mmol;Catalyst 0.25 g; 150℃;1h.

  • - 28 -

    を向上させることで,より選択的に DMC を合成できると期待される。

    上述したように炭酸ジメチル(DMC)を製造する反応の一つとして炭酸エチレン(EC)

    とメタノールのエステル交換(反応 1)に対し塩基触媒が優れている(Scheme 2)。しかし,

    この反応では DMC と等モルのエチレングリコール(EG)が副生することが問題となる。

    一方,EG は尿素との反応で EC に変換可能であり(反応 2),さらに CO2とアンモニアか

    らの尿素合成(反応 3)はプロセスとして確立されている。したがってこれらの反応を組

    み合わせれば尿素を用いた(仲立ちとした)CO2とメタノールからの DMC 合成(反応 4)

    が可能である。このような考えから,尿素と EG との反応による環状カーボネート合成(反

    応 2)についても研究を進めている。

    O O

    O

    + 2 CH3OH CH3O OCH3HO OH

    + (1)

    H2N NH2HO OH

    + O O + 2 NH3 (2)

    CO2 + 2 NH3H2N NH2

    + H2O (3)

    (4)CO2 + 2 CH3OH CH3O OCH3 + H2O

    O

    OO

    O

    O

    Scheme 2

    表6 One-pot synthesis of DMC from PO, CO2 and methanol. Catalyst PO conv.

    (%) PC DMC PG 1 2 S-Mg-Na-K-4 95.2 23.8 33.6 35.7 14.7 6.3 S-Mg-Na-K-1 95.2 20.0 3.9 4.5 43.1 27.7 MgO 99.2 14.4 13.6 14.5 21.6 29.9

    PO, 21 mmol; methanol, 200 mmol; Catalyst, 0.5 g; CO2, 8 MPa; 150˚C; 15 h.

  • - 29 -

    (2)研究成果の今後期待される効果

    超臨界あるいは高圧二酸化炭素を用いた有機合成プロセスに関する研究は,グリーンケ

    ミストリーの観点から益々重要性を増し,研究論文数も増加している。これまでの研究成

    果は,ごく最近発表された Beckman の優れた総説(Journal of Supercritical Fluids, 28,

    121-191 (2004))で概観することができ,我々の研究成果もその中で触れられている。こ

    れまでの研究は有機化学者の反応結果に注目した研究と物理化学者の溶媒特性の解明に力

    点をおいた研究に大きく分けられ,それぞれ重要な結果が得られているが,今後超臨界二

    酸化炭素の反応場としての応用範囲を拡大するためには,各分野の綜合的・協同的研究が

    肝要であり,我々のような化学工学的観点からの取り組みが一層重要となる。

    当研究プロジェクトでは,超臨界二酸化炭素の特異性・安全性を有効に活用し,既存の

    有機合成プロセスに替わるよりグリーンな化学反応場・プロセスを設計・開発することを

    目的とし,そのための基礎的研究を行って来た。超臨界二酸化炭素を反応場とする種々の

    均一系・不均一系触媒反応を研究し論文発表や学会発表を通して,この新しい反応場の特

    性と工学的意義の解明に大きな貢献を為したと考えている。実際,上記の総説や関連論文

    に我々の研究論文が度々引用されている。反応場としての利用だけではなく,二酸化炭素

    を炭素および酸素源として捉え,二酸化炭素の様々な直接的あるいは間接的化学的固定化

    による有用有機化合物の合成についても積極的に研究を行い,Green Chemistry などの雑

    誌に研究成果を発表している。我々の研究を中心に二酸化炭素の化学的固定化の既往の研

    究を”Focus on Catalysis Research” (Nova Science Publishers, NY) と題する成書の

    一章として,また,Journal of the Japan Petroleum Institute に総説としてまとめてい

    る(現時点では未印刷)。

    応用の可能性の高い具体例について記す。液体反応物の化学変換を高圧二酸化炭素下で

    行うと,二酸化炭素が液相に溶解して気体反応物(水素や酸素など)の溶解が促進され,

    更に溶解二酸化炭素との相互作用によって反応物のカルボニル基等の官能基の反応性が大

    きくなり,反応速度や生成物選択性が向上する。有機溶媒を必要としないので,

    solvent-less organic synthesis が可能であり,グリーンな化学変換方法として期待され

    る。また,尿素,アンモニア,エチレングリコール,エチレンカーボネートをリサイクル

    成分とする二酸化炭素とメタノールからのジメチルカーボネート(DMC)合成法は,ホスゲ

    ンや一酸化炭素など有害・有毒物質を使用する既存の DMC 合成に替わり得る。上記2例は,

    反応条件や触媒の最適化などの課題が残されているものの,実用的な化学変換法・プロセ

    スとして注目に値するものである。

  • - 30 -

    3.3 超臨界水を利用した機能性金属酸化物微量子の製造法の開発(無触媒材料グ

    ループ)

    (1)研究内容及び成果

    3.3.1. はじめに

    金属酸化物ナノ粒子は、量子サイズ効果からバルクとはまったく異なる電子的、化学的、

    磁気的特性を発現する新規素材として注目されており、半導体、蛍光体などに適用するこ

    とで、その飛躍的性能の向上が期待できる。これら金属酸化物ナノ粒子は気相法、液相法

    によって合成されるが、これらの合成法は、消費エネルギーや環境負荷の観点からそれぞ

    れ次のような問題を抱えている。気相法は、熱源にプラズマやレーザーを用いるため必要

    とするエネルギーの消費が膨大で、製造コストは高い。液相法の水熱合成法の場合、高濃

    度のアルカリを使用するため、環境負荷および製造におけるリスクが高い。また、ゾルゲ

    ル法は原料の金属アルコキシドが高価であり、原料調整、反応において有機溶媒を使用す

    る。そこため、より低エネルギー消費で環境負荷の小さい金属酸化物シングルナノ粒子の

    製造法の確立が望まれている。さらに、より高機能が期待できる複合金属酸化物シングル

    ナノ粒子の合成はいずれの手法によっても、報告されていない。

    著者らが開発を進めている超臨界水法は、高温水中では高濃度のアルカリ等を加えるこ

    となく、化学平衡のシフトから金属塩が加水分解、脱水反応により酸化物が生成する点を

    利用し、超臨界水と金属塩水溶液を接触させるだけで、単一金属および複合金属酸化物微

    粒子をワンステップ合成する方法である[1]。本研究は、環境負荷が小さい超臨界水法を用

    いて、複合金属酸化物ナノ粒子の合成および手法の確立を目的とする。

    本研究では、合成目的物質として、高機能光触媒としての利用が期待される6チタン酸

    カリウム粒子を取り上げた。酸化チタン[2]や酸化亜鉛[3]などのナノチューブやナノロッ

    ドのナノサイズ半導体は、電気材料分野や環境分野において注目を集めている。6チタン

    酸カリウム[4-8]や4チタン酸バリウム[9,10]などの半導体チタネートは、水や有害化合物

    の分解に用いる光触媒として利用されている。これらアルカリチタネートは、トンネル構

    造や層状構造など立体的に特異な結晶構造を有しているため[11]、結晶内または層間に白

    金やルテニウムなどの助触媒を容易に挿入でき、半導体特性や光触媒能を向上できる利点

    をもつ[6,7]。

    筆者らは、すでに回分式反応器を用いて、超臨界条件での水熱合成反応で KTO 微粒子の

    合成を試み、従来の固相生成物より高い光触媒活性を示すことを報告している[8]。これは、

    水熱合成物の比表面積値が40 m2/g と固体合成物のそれ(3.7m2/g)よりも1桁以上大きいこ

    とに由来する。このことから、さらに微粒化することで高活性の光触媒粒子の合成が期待

  • - 31 -

    できる。本研究では、高比表面積を有する6チタン酸カリウム微粒子の合成を目的として、

    流通式反応装置を用いた超臨界条件での6チタン酸カリウム微粒子を水熱合成し、その際

    の温度、圧力、Ti 濃度、K濃度の操作パラメータの粒子結晶構造、サイズへ及ぼす影響を

    調べ、比表面積の大きいナノワイヤーを合成する最適な条件について検討した。

    3.3.2. 研究内容

    3.3.2.1. 合成実験

    原料

    出発原料にはチタン源として、酸化チタンゾル(石原産業:STS01; average particle siez

    3.5nm, BET 305 m2/g)を、カリウム源として、水酸化カリウム(高純度化学: 純度 99.9%)

    をそれぞれ用いた。これらを蒸留水に溶解または分散させて所定の濃度の出発溶液を調製

    した。

    合成方法

    Fig1に本研究で開発した流通式反応装置を示す。実験装置は3つの高圧ポンプ、2つ

    の電気炉、圧力調製器、回収用フィルター、および配管、継ぎ手によって構成されている。

    原料である酸化チタンゾル溶液は、プランジャーポンプによる定量的な送液が困難であ

    るため、高圧シリンダー(内容積 500cm3, SUS316 製)を用いた。はじめに酸化チタン

    ゾル溶液を高圧シリンダーに充填する。ピストンで隔てられたシリンダー後部に高圧ポン

    プにて水を注入し、シリンダー内の溶液を反応器方向へ送り出した。水酸化カリウム水溶

    液は、別のポンプで送液した。2流体は、混合点 MP1 にて混合し、さらに混合点 MP2 に

    おいて、所定の温度の超臨界水を接触される。反応液は急速に指定した反応温度まで昇温

    され、ひきつづき、水熱反応が生じ、KTO 微粒子が生成する。反応液は電気炉にて保温さ

    れた反応管内で数秒間反応させたのちに、反応管の出口で熱交換器により冷却される。生

    成した粒子は、熱交換器の下流にあるインラインフィルター(孔径 500nm)で捕集され

    る。なお、ここで生成する粒子はワイヤー状粒子であるため、ほとんど、フィルターに捕

    集される。反応液は背圧弁で大気圧まで減圧され、回収容器に回収される。

    反応温度は 350, 380, 400, 420℃、反応圧力は 20, 25, 30, 35, 40MPa とした。反応時

    間は、実験の温度圧力に依存し、0.1 から 2.5sec とした。なお、反応時間 T[sec]は次式

    で評価した。

    FVt ρ= (1)

    ここで、V は反応管容積、F は流量[kg/s]、ρは水密度[kg/m3]である。ここでは、溶液は

    希薄であるために純水の物性を用いて計算した。

  • - 32 -

    分析

    生成物の形状およびサイズは、透過型電子顕微鏡(TEM: FEI company: model TECNAI-G2)

    により観察、測定した。生成物の化学組成は、SEM-EDS(JEOL Ltd.: model JSM-5600LV)

    によって評価した。生成物の BET 比表面積は、低温窒素吸着法(Yuasa Ionics Co. Ltd.:

    model CHEMBET-3000)によって測定した。

    6チタン酸カリウムは、次の亜臨界―超臨界条件の水熱反応によって生成する。

    6TiO2+2KOH=K2Ti6O13+H2O (2)

    そこで、原料の酸化チタンの反応率は、次のように評価した。XRD 解析結果によれば、

    一部の実験を除いて、固体回収物には原料の酸化チタンと生成物の6チタン酸カリウムで

    あった。そこで、回収生成物は TiO2と K2O6TiO2であると仮定した。SEM-EDS により回収

    した固体生成物の Tiの K に対するモル比(Ti/K=a)を測定し、次式より Ti反応率を評価

    した。

    %][%])[5.0(6

    ][][6

    2

    1362

    atomTiatomK

    molTiOinitialThemolOTiKX == =3a (3)

    3.3.2.2 光触媒特性の評価

    光触媒活性評価は、以下の手順で行った。内部照射型のパイレックス製反応容器内に 10

    vol%メタノール水溶液 500 cm3を注ぎ、光触媒粉末として種々の方法で合成した KTO 粉末

    0.1g を分散させる。3光触媒反応の光源としては 400W高圧水銀ランプ((株)理工科学産業

  • - 33 -

    製)を用い、照射中はランプに冷却水を循環させた。UV 照射によりメタノール光分解反応

    を行い、発生するガス成分をオートサンプラーにより 30 分毎に直接 GC‐TCD(GC‐326、

    GL Sciences 製)に 1cm3導入し、定量した。発生する水素量の経時変化をプロットし、反

    応初期の立ち上がりの部分の傾きを触媒粉末 1g あたりの値に換算したものを水素発生速

    度とし、この水素発生速度を用いて光触媒活性を評価した。

    3.3.3. 研究成果

    3.3.3.1 原料濃度の生成物へ影響

    表1に実験条件および結果を示す。XRD 解析によれば、回収した固体生成物は、原料の

    TiO2(アナターゼ)と KTO であった。高温 420℃の実験では、4 チタン酸カリウムが生

    成した。ここでの実験条件の範囲では、チタンの KTO の反応率は最大で 91%であり、こ

    のときの KTO 収率(重量%)に換算して 93wt%であった。

    反応温度 400℃、反応圧力 30MPa, 反応時間 2.5 秒、水酸化カリウム濃度 0.4M で、TiO2

    濃度を 0.01~0.1M まで、変化させて合成実験を試みた。表1に示したように、Ti濃度 0.01,

    0.02M ではチタンの反応率は約 90%と高かった。しかし、TiO2濃度を増加とともに、TiO2

    の KTO への反応率は徐々に低下し、0.1M では 24%であった。

    Fig2(a)(b)に原料である酸化チタンゾルと 0.1M TiO2からの生成物をそれぞれ示す。Fig

    2(b)に示すように、ワイヤー状の粒子が6チタン酸カリウムであり、球状粒子が未反応の

    酸化チタンである。出発原料である酸化チタンゾルと反応生成物中に含まれる酸化チタン

    の粒子サイズを比較すると、明らかに、未反応酸化チタン粒子の方が大きい。さらに、そ

    の BET 値(45 m2/g) は、酸化チタンゾルのそれ(305 m2/g)よりもかなり小さかった。こ

    れらの結果は、本反応系においては、KTO の生成反応と同時に TiO2の粒子成長も進行した

    ことを意味している。また、TEM 観察によれば、未反応の酸化チタン粒子は、原料の TiO2

    濃度の増加とともに大きくなっ�