地上放送高度化方式における 信号帯域幅拡張に関す...

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04 報告 地上放送高度化方式における 信号帯域幅拡張に関する検討 白井規之 Bandwidth Extension for the Advanced Digital Terrestrial TV Broadcasting System Noriyuki SHIRAI ABSTRACT 上放送高度化方式では,伝送容量の拡大を目 的として,信号帯域幅を現行方式であるISDB-T (Integrated Services Digital Broadcasting -Terrestrial)の5.57MHzから5.83MHzに拡張して いる。信号帯域幅を拡張して,地上デジタルテレビジョ ン放送が使用しているUHF帯で送信するためには, 既存の放送波の受信へ干渉の影響を与えないことが必 須である。そこで,帯域幅を拡張した信号が既存の放 送波の受信へ及ぼす干渉の影響を調査するために,複 数の地上デジタルテレビジョン放送受信機を用いて干 渉特性を評価し,信号帯域幅拡張の実現性について検 討した。本稿では,その検討結果について報告する。 T o increase the transmission capacity, the signal bandwidth of the advanced digital terrestrial TV broadcasting system has been extended from 5.57 MHz to 5.83 MHz. To transmit a signal with a 5.83 MHz bandwidth in the UHF band, it is mandatory to avoid interference with current terrestrial TV broadcasting in this band. In this paper, we investigate the maximum permissible levels of interference caused by signals with a 5.83 MHz bandwidth when using several existing types of terrestrial TV broadcasting receiver. 40 NHK技研 R&D No.172 2018.11

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Page 1: 地上放送高度化方式における 信号帯域幅拡張に関す …された地上放送方式であるDVB-T2(Digital Video Broadcasting-Terrestrial 2 )3),ATSC3.0(Advanced

04報 告地上放送高度化方式における 信号帯域幅拡張に関する検討白井規之

Bandwidth Extension for the Advanced Digital Terrestrial TV Broadcasting SystemNoriyuki SHIRAI

要   約 A B S T R A C T

地 上放送高度化方式では,伝送容量の拡大を目的として,信号帯域幅を現行方式であるISDB-T

(Integrated Services Digital Broadcasting -Terrestrial)の5.57MHzから5.83MHzに拡張している。信号帯域幅を拡張して,地上デジタルテレビジョン放送が使用しているUHF帯で送信するためには,既存の放送波の受信へ干渉の影響を与えないことが必須である。そこで,帯域幅を拡張した信号が既存の放送波の受信へ及ぼす干渉の影響を調査するために,複数の地上デジタルテレビジョン放送受信機を用いて干渉特性を評価し,信号帯域幅拡張の実現性について検討した。本稿では,その検討結果について報告する。

T o increase the transmission capacity, the signal bandwidth of the advanced

digital terrestrial TV broadcasting system has been extended from 5.57 MHz to 5.83 MHz. To transmit a signal with a 5.83 MHz bandwidth in the UHF band, it is mandatory to avoid interference with current terrestrial TV broadcasting in this band. In this paper, we investigate the maximum permissible levels of interference caused by signals with a 5.83 MHz bandwidth when using several existing types of terrestrial TV broadcasting receiver.

40 NHK技研 R&D ■ No.172 2018.11

Page 2: 地上放送高度化方式における 信号帯域幅拡張に関す …された地上放送方式であるDVB-T2(Digital Video Broadcasting-Terrestrial 2 )3),ATSC3.0(Advanced

1.はじめに

NHKは,次世代のテレビジョン放送サービスとして,超高精細・高臨場感映像を提供するスーパーハイビジョン

(4K・8K)の研究開発を進めてきた。当所では,地上波によるスーパーハイビジョン放送の実現に向けて,地上放送高度化方式を検討している1)。地上放送高度化方式は,現行の地上デジタル テレビジョン放送の伝送方式であるISDB-T2)と同様に,OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を変調方式とし,周波数方向のセグメント構造により,固定受信用サービスと移動受信用サービスを1つの変調波に多重できる方式である。

地上放送高度化方式では,伝送容量の拡大を目的として,信号 帯 域 幅をISDB-Tで 使 用している5.57MHzから5.83MHzに拡張している。地上デジタルテレビジョン放送

(以下,「地上テレビジョン放送」と略称)が使用しているUHF帯で,地上放送高度化方式の信号を,帯域幅を拡張して送信するためには,既存の地上テレビジョン放送波の受信へ干渉を与えないことが必須である。

そこで本稿では,市販されている複数の地上テレビジョン放送の受信機を用いて室内実験を実施し,帯域幅を拡張した地上放送高度化方式の信号が,地上テレビジョン放送波の受信へ及ぼす干渉の影響について調査した。また,地上テレビジョン放送波の受信へ及ぼす干渉の影響を小さくするために,帯域幅を拡張した場合の周波数オフセット値*1についても評価したので,これらの結果について報告する。

2.地上放送高度化方式の信号帯域幅

1表に地上放送高度化方式の伝送パラメーターの一例を示す。信号帯域幅を5.57MHzから5.83MHzに拡張することで,所要CN比(Carrier to Noise Ratio)に影響を与えることなく,伝送容量を約5%拡大することができる。

地上放送高度化方式の信号帯域幅と,国際的に規格化された地 上放 送方 式であるDVB-T2(Digital Video Broadcasting-Terrestrial 2)3),ATSC3.0(Advanced Television Systems Committee 3.0)4),ISDB-Tの信号帯域幅との比較を2表に示す。地上放送高度化方式の信号帯域幅は,DVB-T2やATSC3.0と同程度である。

3.干渉の影響の調査

3.1 実験方法地上テレビジョン放送では,エリアでの混信を防止する目

的で,混信保護比が規定されている5)。地上テレビジョン放送の受信信号(希望波)が,他の放送局から送信される地上テレビジョン放送の信号(妨害波)からの干渉の影響を受ける場合,混信保護比は,この干渉の影響が許容限となるようなDU比(Desired to Undesired Signal Ratio:希望波と妨害波のチャンネルパワーの比)にマージンを加えた値として与えられる。地上テレビジョン放送の送信場所や放送エリアは,この混信保護比を満足するように設計されている。地上放送高度化方式がUHF帯で地上テレビジョン放送と共存するためには,地上放送高度化方式の信号が地上テレビジョン放送の受信信号へ及ぼす干渉の影響に関して,基準値を定める必要がある。

そこで,信号帯域幅を拡張した地上放送高度化方式の信号が,地上テレビジョン放送の受信信号へ及ぼす干渉の影響の許容限を明らかにするために,3表に示す15種類の地上テレビジョン放送の受信機を用いて室内実験を実施した。

本実験の実験系統を1図に示す。実験では,地上テレビジョン放送の信号を希望波,地上放送高度化方式の信号を妨害波とし,妨害波のレベルを変化させて受信機に入力する信号のDU比を0.5dB単位で調整し,復調・復号した映像

* 1 チャンネルの中心周波数に対する,地上デジタル放送の搬送波周波数のずれの値。現行の地上テレビジョン放送では,+1/7MHzを使用している。

1表 地上放送高度化方式の伝送パラメーターの一例信号帯域幅 5.83MHz 5.57MHz※1

キャリヤー変調方式 256QAM

FFTサイズ 16,384

有効シンボル長 2,592μs

ガードインターバル長 126μs

SP※2挿入比率 1/24

符号化率 12/16

セグメント数 35 33

伝送容量 30.9Mbps 29.5Mbps

所要CN比 20.2dB

※1 現行の地上テレビジョン放送と同じ信号帯域幅の場合。※2 Scattered Pilot

2表  国際的に規格化された地上放送方式の信号帯域幅との比較(6MHzシステムにおける比較)

地上放送 高度化方式 (日本)

DVB-T2(欧州)

ATSC3.0 (米国)

ISDB-T (日本)

最大5.83MHz 最大5.83MHz 最大5.83MHz 5.57MHz

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の妨害波を用いて,受信が可能となる最小のDU比を調査した。妨害波の周波数オフセット値は,現行の地上テレビジョン放送と同じ値(+1/7MHz)とした。

実験結果を4図に示す。妨害波の信号帯域幅が5.57MHz

を目視で確認した。「30秒間監視して,ブロック歪等の映像不良が発生しない場合は受信可能」という判断基準により,受信が可能となる最小のDU比を求めた。

希望波は,MPEG-2(Moving Picture Experts Group-2)の映像符号化方式を用いて約18Mbpsに圧縮されたCZP(Circular Zone Plate)*2の 動 画 像をMPEG-2 TS

(Transport Stream)収録再生機で再生し,地上テレビジョン放送で運用している伝送パラメーター(キャリヤー変調方式64QAM,内符号の符号化率3/4)を用いて変調波を生成した後,所定のUHFチャンネルに周波数変換した信号とした。受信機に入力した希望波の電力は,文献6)で示される望ましい受信電力の下限値である−63dBmとした。

妨害波の信号帯域幅は,5.57MHzと5.83MHzの2種類とした。妨害波のIM(Inter Modulation)特性*3について は,信号帯域幅が5.57MHzの場合は,無線設備規則7)で規定されている地上テレビジョン放送の送信スペクトルマスクの特性を模擬し,5.83MHzの場合は,中心周波数から 3MHz以上離れた部分について,上記の送信スペクトルマスク特性と同じとした。妨害波の送信スペクトルマスクのブレークポイント*4を4表に,このマスク特性を満たす送信スペクトルの例を2図にそれぞれ示す。

妨害波の信号は,上記の送信スペクトルを模擬するために,任意信号発生器を用いて発生させた。また,妨害波の送信チャンネルはUHF 31chとした。地上テレビジョン放送の混信保護比と同様に,妨害波が上側に位置する場合を「上側隣接チャンネル干渉」,妨害波が下側に位置する場合を「下側隣接チャンネル干渉」と定義した。上側隣接チャンネル干渉実験における受信機入力スペクトルの例を3図に示す。

3.2 上側隣接チャンネル干渉の室内実験上側隣接チャンネル干渉について,2種類の信号帯域幅

* 2 画像の中心を原点とする同心円が多数並んだ画像。中心から外側に向かって空間周波数が高くなっているという特徴がある。

* 3 OFDM信号を送信装置の電力増幅部で増幅する際に発生する相互変調積に関する特性。

* 4 スペクトルマスクを表す直線が折れ曲がる点など,スペクトルマスクの形状を定義するための点。

1図 実験系統

3表 室内実験に使用した受信機受信機番号 メーカー 型 製造年

1

8社

32V※ 2010年

2 32V 2010年

3 32V 2010年

4 32V 2010年

5 32V 2010年

6 40V 2014年

7 32V 2014年

8 32V 2010年

9 簡易チューナー 2010年

10 43V 2017年

11 43V 2016年

12 32V 2016年

13 43V 2017年

14 40V 2017年

15 45V 2016年

※ Vは「Visual Size」の略。

MPEG-2 TS収録再生機

任意信号発生器

変調部 周波数変換部

可変減衰器

可変減衰器

妨害波のレベル調整(DU比の調整)

希望波のレベル調整

混合器 2分配器

2分配器

8分配器インピーダンス

変換(50Ω/75Ω)

8分配器インピーダンス

変換(50Ω/75Ω)

スペクトラムアナライザー

スペクトラムアナライザー

希望波

妨害波

ISDB-T変調器

受信機

受信機

UHF 30ch or 31ch or 32ch

電力増幅器

UHF 31ch

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の場合に,受信が可能となる最小のDU比が「混信保護比を満足する」*5受信機においては,妨害波の信号帯域幅が5.83MHzの場合(帯域幅拡張時)にも,受信が可能となる最小のDU比が混信保護比を満足するという結果が得られた。 ただし, 一部の受信機においては, 信号帯域幅が5.57MHzの場合においても,受信が可能となる最小のDU比が混信保護比を満足していない。例えば番号1の受信機では,妨害波の信号帯域幅が5.57MHzと5.83MHzのいずれの場合においても,受信が可能となる最小のDU比が,全受信機の中で最悪の値となっている(帯域幅拡張時は−25dB)。

3.3 下側隣接チャンネル干渉の室内実験下側隣接チャンネル干渉についても,3.2節と同様に2

種類の信号帯域幅の妨害波を用いて,受信が可能となる最小のDU比を調査した。妨害波の周波数オフセット値は,現行の地上テレビジョン放送と同じ値(+1/7MHz)とした。実験結果を5図に示す。すべての受信機において,受信が

* 5 本稿では,受信が可能となる最小のDU比が混信保護比より小さくなる場合,その受信機が「混信保護比を満足する」と表現する。

2図 妨害波の送信スペクトルの例

3図  上側隣接チャンネル干渉実験における受信機入力スペクトルの例

4表 妨害波の送信スペクトルマスクのブレークポイント(a)信号帯域幅が5.83MHzの場合

中心周波数からの差(MHz) 相対減衰量(dB)

-4.36 -50

-3.00 -27

-2.92 0

2.92 0

3.00 -27

4.36 -50

(b)信号帯域幅が5.57MHzの場合

中心周波数からの差(MHz) 相対減衰量(dB)

-4.36 -50

-3.00 -27

-2.86 -20

-2.79 0

2.79 0

2.86 -20

3.00 -27

4.36 -50

-6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6中心周波数からの差(MHz)

平均電力からの減衰量(dB/10kHz)

信号帯域幅5.83MHz信号帯域幅5.57MHz

-20

-30

-40

-50

-60

-70

-80

-90

(a)妨害波の信号帯域幅が5.83MHzの場合

(b)妨害波の信号帯域幅が5.57MHzの場合

妨害波5.57MHz

希望波

妨害波5.83MHz

希望波

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可能となる最小のDU比は混信保護比を満足しており,妨害波の信号帯域幅が5.57MHzと5.83MHzの場合の結果は同程度となった。

3.4 周波数オフセット値を変えた場合の影響帯域幅拡張時の周波数オフセット値を0MHz,+0.08MHz,

+0.21MHz,+0.27MHzとした場合について,3.2節および3.3節と同様な実験を実施した。周波数オフセット値が+0.08MHzおよび+0.27MHzの場合の送信スペクトルを6図に,これらの周波数オフセット値を選定した理由を5表にそれぞれ示す。また,実験結果を6表に示す。この結果から,隣接する地上テレビジョン放送波とのガードバンド*6が狭くなるほど,受信が可能となる最小のDU比が劣化する(大きな値となる)ことが分かる。

* 6 隣接する周波数帯域を利用するシステムとの干渉を防ぐために設けられる未使用の周波数帯域。

4図 上側隣接チャンネル干渉の実験結果 5図 下側隣接チャンネル干渉の実験結果

6図 周波数オフセット値が+0.08MHzと+0.27MHzの場合の送信スペクトル(イメージ図)

5表 周波数オフセット値の選定理由周波数

オフセット値 選定理由

0MHz 周波数オフセットをしない場合

+0.08MHz 帯域右端のキャリヤーがチャンネルの中心周波数+3MHzを超えない場合(6図(a)参照)

+0.27MHz 帯域左端のキャリヤーが地上テレビジョン放送の信号波の帯域左端のキャリヤーと同程度の位置となる場合(6図(b)参照)

+0.21MHz +1/7MHz(≒+0.14MHz)と+0.27MHzの中間のパタメーター

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15受信機番号

受信が可能となる最小のDU比(dB)

-15.0

-20.0

-25.0

-30.0

-35.0

-40.0

妨害波の信号帯域幅5.57MHz妨害波の信号帯域幅5.83MHz混信保護比(-29dB)

-25dB

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15受信機番号

受信が可能となる最小のDU比(dB)

-15.0

-20.0

-25.0

-30.0

-35.0

-40.0

妨害波の信号帯域幅5.57MHz妨害波の信号帯域幅5.83MHz混信保護比(-26dB)

(a)周波数オフセット値が+0.08MHzの場合

572

30ch信号帯域幅5.57MHz

(地上テレビジョン放送)

32ch信号帯域幅5.57MHz

(地上テレビジョン放送)

31ch信号帯域幅5.83MHz

575 578 581 584 587 590

周波数(MHz)

(b)周波数オフセット値が+0.27MHzの場合

572

30ch信号帯域幅5.57MHz

(地上テレビジョン放送)

32ch信号帯域幅5.57MHz

(地上テレビジョン放送)

31ch信号帯域幅5.83MHz31ch

信号帯域幅5.57MHz(地上テレビジョン放送)

575 578 581 584 587 590

周波数(MHz)

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6表 地上放送高度化方式の周波数オフセット値を変えた場合の実験結果(a) 上側隣接チャンネル干渉 (単位:dB)

周波数オフセット値(MHz) 0 +0.08 +1/7 (+0.14) +0.21 +0.27

地上テレビジョン放送波 (希望波)とのガードバンド

広い狭い

受信機番号

1 -22.5 -24.0 -25.0 -26.0 -27.5

2 -28.0 -28.5 -29.0 -30.0 -30.0

3 -26.0 -27.0 -28.0 -28.5 -29.5

4 -27.5 -29.0 -30.5 -31.0 -31.0

5 -27.0 -28.0 -29.0 -29.5 -29.5

6 -28.0 -28.5 -29.5 -29.5 -30.0

7 -18.5 -25.0 -30.5 -31.0 -31.0

8 -27.5 -29.0 -29.5 -29.5 -29.5

9 -26.0 -27.0 -28.0 -28.5 -29.0

10 -27.0 -28.0 -29.0 -29.5 -29.5

11 -25.0 -30.5 -30.5 -31.0 -31.0

12 -23.0 -24.5 -26.0 -27.5 -29.0

13 -17.0 -23.0 -30.5 -31.0 -31.0

14 -18.5 -24.5 -30.5 -31.0 -31.0

15 -28.0 -29.0 -29.5 -29.5 -29.5

干渉の影響の許容限※ -17.0 -23.0 -25.0 -26.0 -27.5

※ 各周波数オフセット値で受信が可能となる最小のDU比の最悪値(最も大きな値)。

(b) 下側隣接チャンネル干渉 (単位:dB)

周波数オフセット値(MHz) 0 +0.08 +1/7 (+0.14) +0.21 +0.27

地上テレビジョン放送波 (希望波)とのガードバンド

狭い広い

受信機番号

1 -29.0 -29.0 -28.5 -27.5 -26.5

2 -29.0 -29.0 -28.0 -27.5 -27.0

3 -28.5 -28.5 -27.5 -26.5 -25.5

4 -31.0 -30.5 -30.5 -29.5 -28.0

5 -29.5 -29.0 -28.5 -28.0 -27.5

6 -29.5 -29.0 -29.0 -28.5 -27.5

7 -31.0 -30.5 -30.5 -29.0 -23.5

8 -29.0 -28.5 -28.5 -28.0 -27.0

9 -28.5 -28.0 -27.5 -27.0 -26.5

10 -29.5 -29.0 -28.5 -27.5 -26.0

11 -30.5 -30.0 -30.0 -29.5 -24.5

12 -28.5 -28.5 -28.5 -28.0 -28.0

13 -31.0 -30.5 -30.5 -30.0 -28.0

14 -31.0 -30.5 -30.5 -30.0 -25.5

15 -28.5 -28.5 -28.5 -28.0 -27.5

干渉の影響の許容限※ -28.5 -28.0 -27.5 -26.5 -23.5

※ 各周波数オフセット値で受信が可能となる最小のDU比の最悪値(最も大きな値)。

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の場合について,信号帯域幅を拡張した場合に,同一チャンネルの地上テレビジョン放送の受信信号へ及ぼす干渉の影響を調査した。比較のために,妨害波が地上テレビジョン放送と同じ信号帯域幅の場合も調査した。実験結果を8図に示す。すべての受信機において,受信が可能となる最小のDU比は混信保護比を満足している。また,受信機によらず,選択した2種類の周波数オフセット値,および2種類の信号帯域幅において,受信が可能となる最小のDU比は同程度の値となった。

4.まとめ

本稿では,地上放送高度化方式の信号帯域幅に着目し,帯域幅を拡張した地上放送高度化方式の信号から,既存の地上デジタルテレビジョン放送の受信信号へ及ぼす干渉の影響を調査した。また,隣接チャンネル干渉の許容値と周波数オフセット値の関係を明らかにした。さらに,同一チャンネル干渉についても,帯域幅拡張の影響がないことを明

次に,6表において,既存の地上テレビジョン放送の受信信号へ干渉を与えない条件として,15種類の受信機の最悪値(最も大きな値)で評価した。各周波数オフセット値で受信が可能となる最小のDU比の最悪値(6表の太字で示した値)を「干渉の影響の許容限」と定義して,周波数オフセット値と干渉の影響の許容限との関係を7図に示す。 周波数オフセット値+0.21MHzにおける干渉の影響の許容限は,+1/7MHz(≒+0.14MHz)における許容限と比べると,上側隣接チャンネル干渉に関しては約1dB改善している。また,下側隣接チャンネル干渉に関しては約1dBの劣化となっているが,混信保護比(−26dB)を満足している。この結果から,周波数オフセット値を+0.21MHzにすると,上側隣接チャンネル干渉および下側隣接チャンネル干渉の両方のバランスの観点で,良好な結果が得られることが分かる。

3.5 同一チャンネル干渉の室内実験周波数オフセット値が,+1/7MHzと+0.21MHzの2種類

7図 周波数オフセット値と干渉の影響の許容限との関係

8図 同一チャンネル干渉の実験結果

0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30周波数オフセット値(MHz)

干渉の影響の許容限(dB) 上側隣接チャンネル干渉

下側隣接チャンネル干渉

-15.0

-20.0

-25.0

-30.0

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15受信機番号

受信

が可

能と

なる

最小

のD

U比

(dB

40.0

35.0

30.0

25.0

20.0

15.0

10.0

妨害波の信号帯域幅5.57MHz, 周波数オフセット値+1/7MHz妨害波の信号帯域幅5.83MHz, 周波数オフセット値+1/7MHz妨害波の信号帯域幅5.83MHz, 周波数オフセット値+0.21MHz混信保護比(28dB)

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を拡張した地上放送高度化方式の信号のIM特性等の測定を行い,室内実験に使用した妨害波のスペクトル特性の実現性と妥当性を確認する予定である。また,既存の地上デジタルテレビジョン放送の信号が地上放送高度化方式の受信信号へ及ぼす干渉の影響についても評価する予定である。

らかにした。これらの実験により導出した干渉の許容限を基に,送信周波数および出力を検討することで,帯域幅を拡張した地上放送高度化方式の信号を,UHF帯で送信することが可能となる。

今後は,送信出力1kW級の送信装置を試作し,帯域幅

参考文献 1) 竹内,佐藤,宮坂,朝倉,蔀,齋藤,成清,中村,村山,岡野,土田,澁谷:“次世代地上放送に向けた暫定仕様の検討,” 映情学年次大,31A-1 (2016)

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7) 無線設備規則第三十七条27の10 第4項 別図第四号の八の八

白しら

井い

規のり

之ゆき

2004年入局。名古屋放送局,技術局を経て,2013年から放送技術研究所において,スーパーハイビジョンの映像システム,次世代地上放送に向けた無線伝送技術の研究・開発に従事。現在,放送技術研究所伝送システム研究部に所属。

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