在宅高齢者の認知障害・認知症に 対する調剤薬局からのアプローチ

～中鎖脂肪酸油摂取による改善症例について～

鈴木 正和1)、渡邉 愼二2)、佐野 淳也2)、野坂 直久2)、阿部 真也1)、野村 和彦1)、吉町 昌子1)、後藤 輝明1)

1）株式会社ツルハ、2)日清オイリオグループ株式会社

【背景・目的】

薬局を利用される方の中には、認知障害あるいは認

知症を持つ方やその家族もおり、本人や家族が「物忘

れが激しい」と訴える場合や、処方箋からその状況を把

握できる場合がある。

中鎖脂肪酸（MCT）摂取は、アルツハイマー型認知症

（AD）者の短期記憶・認知機能改善やモデル動物うつ改

善の報告があり、MCT油は一般食品で医薬品との相互

作用も知られていないため、使用の推奨を試みた。

中鎖脂肪酸の代謝とケトン体産生

うつモデル動物での摂取効果

中鎖脂肪酸摂取による ERK1/2経路活性化 不活動性の減少

2週間・6分/day 強制水泳 （ストレス付与）

J. Func. Foods 5: 601, 2013

中鎖脂肪酸摂取による認知機能改善

Nutr. Metab. 6: 31, 2009

国立長寿医療研究センター 主導の国内疫学調査

大塚 礼 ら（国立長寿医療研究センター），日本栄養・食糧学会誌 68(3)、101-111（2015)

1日当たりの摂取量

1日当たりの増加

オッズ比

エネルギー[kcal] 2067.5 408.6 0.997

炭水化物[g] 296.9 64.9 1.375

タンパク質[g] 80.9 16.2 0.844

脂質[g] 53.8 14.8 0.816

中鎖脂肪酸[mg] 302.3 231.9 0.840

一価不飽和脂肪酸[g] 18.3 5.8 0.900

n-3系多価不飽和脂肪酸[g] 2.4 1.0 0.958

n-6系多価不飽和[g] 10.2 2.9 0.870

注） 570名を対象に疫学的調査研究。表中の１日平均の栄養摂取量の人（MMSEで27以上）が、 栄養成分を１日当たり増やした場合、８年後にMMSEが27以下になるリスクを示す。

最長８年間の疫学研究から、中鎖脂肪酸の摂取は認知症検査スコアの 低下リスクを低減することが明らかとなった。

【方法】 対象者：認知症治療薬服薬者、物忘れ訴えある者、その家族。 摂取品：ＭＣＴ油（無償試供）。 摂取量：先行研究を参考に多くとも一日20 g。 摂取期間：平成26年10月から、来局時に推奨、開始。 摂取方法紹介：炊飯時混合や調理品に加えるよう奨めた。 評価：再来局時に状況聞き取りを実施。 倫理規程：本研究は、ツルハホールディングス学術研究発表 審議会の承認を得て行った（承認番号：ＨＤ2015007）。

無償試供のMCT油

再来局時に 状況聞き取り

【症例１】 83歳女性

脳梗塞、高血圧、腸閉塞

抗認知症薬（ｱﾘｾﾌﾟﾄ）、降圧薬（ﾌﾟﾗﾋﾞｯｸｽ、ﾚｻﾞﾙﾀｽ）、脂質異常症治療薬（ﾒﾊﾞﾛﾁﾝ）、下剤（ｼﾝﾗｯｸ）、外用（ﾌﾙﾒﾀｸﾘｰﾑ、ｵｲﾗｯｸｽ、ﾓｰﾗｽﾊﾟｯﾌﾟ）

H26/3頃にADと診断

経過 オイル配布以前から無口で会話なく、自宅にこもる毎日と家族から訴えあり。 Ｈ26・4月頃に認知症がひどくなったと家族から情報。 Ｈ261002 オイル配布 最近は落ち込むことが多い。 Ｈ261106 会話が出る、物事を話すようになった（配布10日後くらい会話するようになった）。 体重の増減なし。 Ｈ261205 先月一度だけ体調不良あったが、全体には会話が出るようになり、体調も良くなっている。 Ｈ270108 認知症の具合だいぶ回復してきている。一人で出かけることあり。 散歩するようになり家族みんなが驚いている。血液検査異常なしと医師より。 Ｈ270205 家族には以前とは違うとわかる程度まで安定している。話をすることが楽しくなっている。 Ｈ270306 最近１年くらいは脳の検査をしていない。 Ｈ270409 周辺症状なく安定。 Ｈ270507 次回脳の検査する予定。動くことが少なく体重増えた。 体調は昨年に比べ安定している。家族の対応の仕方も変わってきて安心。 Ｈ270605 血液検査異常なく安定、脳の検査しなかった。 だいぶ認知症の具合も落ち着くようになっている。 Ｈ270710 昨年は梅雨の時期に体調崩し暴れてしまったが、今年は安定している。 ｺｺﾅｯﾂｵｲﾙ摂ってから体調良くなっている。体重の増減なし。

【症例２】 70歳女性

脳梗塞、高血圧、乳がん、大腸がん、がんマーカー正常（H27/6）

抗悪性腫瘍剤（ｱﾅｽﾄﾛｿﾞｰﾙ、ｱﾛﾏｼﾝ）、降圧薬（ｱﾑﾛｼﾞﾋﾟﾝ、ｶﾙﾃﾞﾅﾘﾝ、ﾄﾞｷｻｿﾞｼﾝﾒｼﾙ酸塩）、消化性潰瘍治療薬（ﾏｸﾞﾗｯｸｽ、ﾀｹﾌﾟﾛﾝ、ﾗﾝｿﾌﾟﾗｿﾞｰﾙ）、抗血栓薬(ｼﾛｽﾀｿﾞｰﾙ、ﾌﾟﾗﾋﾞｯｸｽ、ｸﾛﾋﾟﾄﾞｸﾞﾚﾙ硫酸塩)、睡眠薬（ﾍﾞﾝｻﾞﾘﾝ、ﾆﾄﾗｾﾞﾊﾟﾑ）、鎮痛薬（ﾋﾟｰｴｲ）

血管性認知症

経過 Ｈ261115 オイル配布。 Ｈ261208 記憶力の向上あり、体重増加なし、ＢＰ140/90と少し高め。 Ｈ270107 体重・血液検査異常なし。 MCT摂取後に物忘れが少なくなり、頭がすっきりしていると感じる。 Ｈ270218 寒さで血圧が少し上昇した。体重増加なし、睡眠薬処方。 Ｈ270304 脈拍多く毎分120くらいある。 Ｈ270311 コルセットを外すと脈拍毎分77と安定した。ＢＰ140/90。 Ｈ270422 活字のある本を読んでいる。日常生活問題ない。 Ｈ270522 認知症治療薬は服薬していない。 最近物忘れを時々するが日常生活に支障なし。 Ｈ270619 降圧薬減薬。

【症例３】 59歳女性

子宮頸がん

抗菌薬（ｸﾗﾋﾞｯﾄ）

主観的（物忘れ）

経過 Ｈ270516 オイル配布。 介護疲れによるストレスから記憶が落ち、物忘れがあると相談あり。 MCT摂取10日ほどで脳トレ年齢が60歳から49歳になった。 消化器症状などはない。 Ｈ270603 継続服用中、脳年齢も40代キープ。 Ｈ270620 膀胱炎にて受診、服薬。 Ｈ270715 膝を怪我して受診、服薬。

【症例１～３のまとめ】

＜症例１＞ ｱﾙﾂﾊｲﾏｰ型認知症罹患者へのMCT摂取推奨は家族が その変化に驚く程の改善を認め、抗認知症薬、降圧薬、 脂質異常症治療薬との相互作用を認めなかった。 ＜症例２＞ 脳梗塞・がん既往のある血管性認知症罹患者へのMCT 摂取推奨は記憶力向上を認め、抗悪性腫瘍剤、降圧薬、 消化性潰瘍治療薬、抗血栓薬の服薬との相互作用を 認めなかった。 ＜症例３＞ 自覚的認知障害（SCI）を訴える健常者へのMCT摂取推奨 はご本人の自覚的改善を認めた。

【調剤薬局からの本アプローチに関する考察】 ＭＣＴ油の提供・使用推奨と再来局時の状況聞き取りを仕組化することで、 ①地域住民の健康を守るための役に立ちたいという思いから 新しい形の地域貢献活動を行うことが可能となった。 ②薬局においてよりレベルの高いサービスを提供するために医療に少しでも 貢献できる食品関係の製品を取り扱い情報提供のサービスを導入すること で質の高いプラットフォームを構築することが可能となった。

無償試供のMCT油

再来局時に 状況聞き取り

【仕組化による「より質の高い地域医療への貢献」の実現】

【総括】

・MCT摂取により、 １）物忘れ等含めた認知症状の改善が自覚的 あるいは他覚的に観察された ２）体重や血液検査値には変化がなかった ３）服薬中の医薬品について、その相互作用を 認めず、先行研究と一致した。

・来局時の適切な推奨アドバイスと聞き取りから、 １）より質の高いサービス提供による地域貢献 ２）仕組化によるサービスプラットフォームの構築 を実現した。

・近年の行政取り組み「薬局による健康支援」にも合致した地域連携活動の一つとなると考える。

【案１】

【総括】

・MCT摂取により、 １）物忘れ等含めた認知症状の改善が自覚的 あるいは他覚的に観察された ２）体重や血液検査値には変化がなかった ３）服薬中の医薬品について、その相互作用を 認めず、先行研究と一致した。

・来局時の適切な推奨アドバイスと聞き取りから、 １）より質の高いサービス提供による地域貢献 ２）仕組化によるサービスプラットフォームの構築 を実現した。

【案２】