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こころの健康科学研究事業 地域精神保健活動における介入のあり方に関する研究 (H12-こころ-00 ) 10 10 代・ 代・20 20 代を中心とした「ひきこも 代を中心とした「ひきこも り」をめぐる り」をめぐる 地域精神保健活動のガイドライン 地域精神保健活動のガイドライン 精神保健福祉センター・保健所・市町村で どのように対応するか・援助するか

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こころの健康科学研究事業

地域精神保健活動における介入のあり方に関する研究

(H12-こころ-001)

1010代・代・2020代を中心とした「ひきこもり」代を中心とした「ひきこもり」をめぐるをめぐる

地域精神保健活動のガイドライン地域精神保健活動のガイドライン

精神保健福祉センター・保健所・市町村でどのように対応するか・援助するか

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10代・20代を中心とした「ひきこもり」をめぐ

地域精神保健活動のガイドライン

―精神保健福祉センター・保健所・市町村でどのように対応するか・援助するかー

本ガイドラインでは、自宅以外での生活の場が長期にわたって失われて

いる、「ひきこもり」の状態の人への地域精神保健分野における対応の指針

が述べてあります。

 まず、「ひきこもり」の概念について述べ、「ひきこもり」に関する基

本的な理解を示します。 次に、「社会的ひきこもり」という状態を中心と

して、「ひきこもり」事例の相談を受けた場合の基本的態度を示しました。

そして、後半には、具体的な援助方法について、さまざまな角度から述べ

ました。

 本ガイドラインは、「治療」というよりも、「地域においてまずできる

ことは何か」ということに力点をおきました。したがって、本格的な治療

という点では、他の成書を参考にしていただきたいと思います。

 なお、本ガイドラインは本研究班に関わったすべての人々の臨床体験・研

究成果をもとにしております。当研究班が2001年に発行した「ガイドラ

イン(暫定版)」をベースにしておりますが、3年間の研究成果を踏まえ、大

幅に加筆いたしました。

 本ガイドラインが、「ひきこもり」に関わる地域精神保健分野のすべて

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の人々や、困難を抱えるご本人やご家族の、何らかのお役に立てれば、と願

ってやみません。

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目次

Ⅰ章.「ひきこもり」の概念....................................................................................1

Ⅱ章.関与の初期段階における見立てについて..........................................................7

Ⅲ章.援助を進めるときの原則.............................................................................13

Ⅳ章.具体的な援助技法.......................................................................................39

1  節 面接のポイント........................................................................................40

-1  初回面接.................................................................................................40

-2  家族面接.................................................................................................45

-3  本人との面接...........................................................................................52

 2節 さまざまな援助技法を活用する.................................................................57

-1  電話相談.................................................................................................57

-2  家庭などへの訪問....................................................................................61

-3  家族向けの心理教育的グループ..................................................................67

-4 本人向けのグループ活動............................................................................71

-1 デイケア・居場所..................................................................................71

-2  SSTグループ....................................................................................77

3  節 さまざまな支援プログラムの可能性...........................................................81

-  1 社会復帰への援助...................................................................................81

-  2 インターネット相談................................................................................88

 4節 緊急時の対応...........................................................................................91

-  1 ケア会議の開き方...................................................................................91

-  2 暴力が生じている場合の家族支援.............................................................98

-  3 緊急時対応の法的根拠...........................................................................101

-  4 緊急時対応のプライヴァシー保護...........................................................105

 5節 援助者のメンタルへルス.........................................................................108付録.「社会的ひきこもり」に関する相談・援助状況実態調査報告

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Ⅰ章.「ひきこもり」の概念

「ひきこもり」は、単一の疾患や障害の概念ではありません

「ひきこもり」はさまざまな要因によって社会的な参加の場面がせばまり、就労や

就学などの自宅以外での生活の場が長期にわたって失われている状態のことをさしま

す。

これは,なにも特別な現象ではありません。何らかの理由で、周囲の環境に適応で

きにくくなった時に、ひきこもる」ということがありえるのです。

このような「ひきこもり」のなかには、生物学的な要因が強く関与していて、適応

に困難を感じ「ひきこもり」をはじめたという見方をすると理解しやすい状態もあり

ますし、逆に環境の側に強いストレスがあって、「ひきこもり」という状態におちい

っている、と考えた方が理解しやすい状態もあります。つまり、「ひきこもり」とは、

病名ではなく、ましてや単一の疾患ではありません。また、「いじめのせい」「家族

関係のせい」「病気のせい」と一つの原因で「ひきこもり」が生じるわけでもありま

せん。生物学的要因、心理的要因、社会的要因などが、さまざまに絡み合って、「ひ

きこもり」という現象を生むのです。

ひきこもることによって、強いストレスをさけ、仮の安定を得ている、しかし同時

に、そこからの離脱も難しくなっている、「ひきこもり」は、そのような特徴のあ

る、多様性をもったメンタルヘルス(精神的健康)に関する問題ということが出来ま

しょう。

「ひきこもり」の実態は多彩です

よく、「ひきこもり」をしている人々の性格の特徴が、あたかも一種類にくくれる

ような言われ方をすることがありますが、実際には、多彩な人々が、「ひきこもり」

の状態におちいっています。そして、そのときのご家族の対応にも、かなりの多様性

があります。「ひきこもり」への援助の特徴として、この多様性への対応ということ

があげられます。

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■生物学的要因が強く関与している場合もあります

「ひきこもり」という行動をとる人のなかには、生物学的要因が影響している比重

が高くて、そのために、「ひきこもり」を余儀なくされている人々がいます。たと

えば、統合失調症、うつ病、強迫性障害、パニック障害などの精神疾患にかかってい

る人々です。これらの疾患にかかると、その一部の人は、不安や恐怖感などがとても

強くなり、人と会うことが困難になったり、症状のために身動きできずに、ひきこも

らざるを得なくなったりするのです。

また、軽度の知的障害があったり学習障害や高機能広汎性発達障害などがあるのに、

そのことが周囲に認識、理解されず、そのために生じる周囲との摩擦が本人のストレ

スになることがあります。このようなストレスが過剰になった場合に、ひきこもる

ことでそれを回避するものの、精神的に不健康な状態を持続させてしまうというパタ

ーンにはまる人々もいます。

■明確な疾患や障害の存在が考えられない場合もあります

それに対して、明確な精神疾患や障害の存在が考えられないにもかかわらず、長期

間にわたって自宅外での対人関係や社会的活動からひきこもっている人々もいます。

成長とともに「生活のしづらさ」が増え、そこから回避するように「ひきこもり」を

はじめたり、何らかの挫折感を伴う体験や心的外傷となる体験が引き金となって、社

会参加への困難感が強まり、「ひきこもり」にはまったりすることがあるのです。精

神科的観点から詳細な診断をすると、パーソナリティ障害や社会恐怖などと診断され

る人々もこのなかにはふくまれます。

「ひきこもり」の長期化はひとつの特徴です               

ひきこもるようになったとしても、「3日ひきこもったのでストレスから回復し

て元気になった」ということと、「3年間ひきこもっても楽になるめどがたたな

い」ということでは,生じている現象が異なっていると考えられます。このガイド

ラインで扱う状態は長期化している「ひきこもり」の状態です。長期化は、以下のよ

うないくつかの側面から理解することが出来ます。ただこれも、複数の要素が混在し

ていると考えるほうが適切です。

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■生物学的側面

たとえば、昼夜逆転はしばしばおきやすい状態ですが、このような状態では、体内

時計が変調をきたし、ホルモンの分泌のリズムなどに変化が生じてしまいます。そう

すると、体のリズムを戻すのに、少し時間を必要とします。

また、「ひきこもり」の背景に精神疾患がある場合は、その疾患の治療をすること

なしには、意欲の低下や不安感、緊張感などが軽減しません。そのために外出困難な

状態が持続します。あるいは、ひきこもるという対処行動自体がストレスになって、

2次的に精神疾患が発現する場合もあります。ともすると「気持ちの問題」と考えや

すい状態のなかにも、神経システムの機能の変化が起きて、医学的な観点からもさま

ざまな工夫が必要な状態が生じることがあるのです。

■心理的側面

たとえば、ひきこもる以前に、本人にとってはかなりのストレスがあり、それに

耐えようと踏ん張っていたため、ひきこもると同時に大きな挫折感や疲労感をかかえ、

回復が遅れてしまうことがあります。踏ん張りがあまりにもきつかったので、以前

属していた集団に復帰するのに強い拒否感をもってしまうような場合もあります。

あるいは、「ひきこもり」という生活パターンを繰り返す中で、次第に人との交流

の機会が減少し、他人に会う時の緊張感や不安感を考えて、また他者からの否定的な

評価におびえて、社会に出て行くことがより困難になるような場合もあります。一般

的に、本人は自分にたいする評価が低くなっており、他者からのマイナスの評価がひ

どくこたえるようなのです。パーソナリティ障害とよばれるような人々の場合には、

いわば「こころのクセ」のために、上述したような心理的困難が顕著で、行動を変え

にくくなっているのです。

■社会的側面

「ひきこもり」の人を取り巻く社会環境も、状態に影響を与えます。たとえば就労

や就学以外に選択肢を認めない環境では、いったんひきこもった人が再び社会参加を

するのに、多くの困難があるでしょう。「ひきこもってしまったら将来はない」と

か「みんなと違うことをすることは良くない」といった価値観が優勢な場合には、ご

家族も本人も、「悪いこと、不利なことをしている」といった認識になって、援助を

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求めることも出来ず、孤立しがちです。そのような場合は、本人や家族の回復への力

が十分に発揮できにくいものです。また、気軽にこのような問題を相談できる適切な

場所が身近にあるかないか、ということも長期化に影響をあたえている可能性があり

ます。「ひきこもり」の状態からの回復は、なかなか個人の力では難しいときがある

からです。多様な価値観が尊重されるように社会のあり方をかえることで、困難を抱

えながらも、生きやすくなっていくこともあるのです。

以上のように、「ひきこもり」の長期化は、さまざまな要素により精神的健康をそ

こね、離脱が困難になっている状態ととらえることができます。したがって、援助に

あたっては、「なぜ、ひきこもってしまったか」と原因をつきとめるようとするよ

りも、「今の膠着状態を変えるために、どのような工夫が必要か」ということを優先

して関わりをはじめるほうが、より安全で確実なありかたであると思われます。そ

のためにも、多面的なものの見方を維持しながら、「いまここで」をどうするかにつ

いての適切な態度と技術が援助する側には必要です。

「社会的ひきこもり」とは?

近年まで、「ひきこもり」といえば、統合失調症などの精神疾患のために、なかな

か社会参加が出来ない人への援助が、地域精神保健の中心的な課題でした。しかし、

この 10年ぐらいのあいだに、10代で不登校をしている人々の数が増加し、また、

それらの人々が就学年齢を過ぎても、必ずしも社会適応がうまくいっていないという

調査結果もでるようになりました1。つまり、狭義の精神疾患とは呼べないが「ひき

こもり」を呈している人々への援助が地域精神保健の課題としてクローズアップされ

てきたわけです。

そこで、このような対象者の状態のことを、狭義の精神疾患を有するために生じる

「ひきこもり」状態と区別して、「社会的ひきこもり」と呼ぶようになりました。た

とえば、斎藤はその著書の中で「20代後半までに問題化し、6ヶ月以上、自宅にひ

きこもって社会参加しない状態が持続しており、ほかの精神障害がその第一の原因と

はかんがえにくいもの」2と、その定義を述べています。

1文部科学省:不登校に関する実態調査 2001 平成5年度不登校生徒追跡調査報告書2 斎藤環:社会的「ひきこもり」 1998 PHP選書

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しかし、これもあくまでも、状態像の記述であり、医学的診断として提唱されてい

るものとはいえません。すでに述べてきたように、「社会的ひきこもり」というカ

テゴリーにあてはまる人々のなかにも、さまざまな病態や状況の人々がいるのが現実

なのです。すなわち、あるひとが「社会的ひきこもり」か否かという議論には、それ

ほど大きな意味があるとはいえません。むしろ、現実に即しておさえておくべき大

切な事柄は、(ⅰ)多様な人々が、ストレスに対する一種の反応として「ひきこも

り」という状態を呈すること、(ⅱ)狭義の精神疾患の有無に関わらず長期化するも

のであること、そして(ⅲ)「ひきこもり」という状態の特徴として、本人の詳しい

状況や心理状態がわからぬままに、援助活動を開始せざるを得ないことが多々生じて

いることであると思われます。

「ひきこもり」は精神保健福祉の対象です                

以上、述べてきたように、「社会的ひきこもり」も含めて「ひきこもり」という状

態は、長期間にわたって生活上の選択肢が狭められた、精神的健康の問題と、とらえ

られます。その援助活動はひろく精神保健福祉の領域に属するものであるといえるで

しょう。

本ガイドラインでは、いわゆる 社会的ひきこもり への精神保健福祉サービスに力「 」点をおいて言及していますが、あくまでも「自宅にひきこもって社会参加しない」と

いう共通の行動をとっている、多彩な状態への地域精神保健活動のあり方に対する指

針であることを念頭において読んでいただきたいと思います。

参考文献:近藤直司編 「ひきこもり」ケースの家族援助 2001 金剛出版

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Ⅰ 「ひきこもり」の概念 1

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Ⅱ章.関与の初期段階における見立てについて

「ひきこもり」の事例との関わりの困難は、多くの場合その初期にあっては本人に

会えず、主に、家族からの情報で、支援のためのアセスメントをしなければならない

ことです。そのため、限られた情報から、初期の対応の枠組みを決めていかねばなり

ません。

地域精神保健福祉の実践的な観点からいえば、適切な初期対応を進めるためにとく

に欠かせないのが、次の 2点からの見立てです。・生物学的な治療(薬物療法)が必要か

・暴力などの危険な行為のため、緊急対応が必要か

これらの見立てのうちに、薬物療法をふくむ専門的な対応や緊急対応が必要と思わ

れた場合は、それぞれの独自の対応を進めていくことになります。

生物学的な治療(薬物療法)が必要か

全ての事例に明確な医学的判断がつくわけではありません。また、医学的判断がな

ければ援助が先に進まないわけでもありません。

けれど、「ひきこもり」の状態にある方を援助するに際して,医学的な診断は、今

後の援助を効果的に進めるにあたって、役に立つ情報ではあります。

家族や本人に関わりながら見立てをしているうちに、医学的な診断が必要と考えた

なら、ある時点で精神科医の判断を仰ぐよう準備をしておく事が必要です。

■生物学的要因が強く関わっているときには、薬物療法などの専門的治療が支援の

ひとつになります

精神疾患のなかには、ストレスへの対処に破綻をきたし、たとえば脳内神経伝達物

質などにアンバランスを呈して発症するものがあります。このような生物学的問題が

明らかな場合は、薬物療法などの専門的治療の有効性が期待できます。専門的治療や

服薬によってずいぶん苦痛が軽減されるので、適切に診断や治療ができる医療機関へ

の紹介や連携ができるよう心がけるのがよいでしょう。

ただし、こうした場合でも、医学的な関わりができればすべてよしではなく、そ

Ⅱ 関与の初期段階における見立てについて 2

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の後も本人の回復には家族も含めた援助が必要なのはいうまでもありません。

このような精神疾患の代表的なものには以下のようなものがあります。

統合失調症

神経が敏感になりすぎ、環境への適応に困難を生じる精神疾患です。小さな刺激

にも敏感に反応するようになり、例えば「周囲の者が自分の悪口を言っているに違

いない」とか「テレビでも自分の噂をしていた」「盗聴器が仕掛けられていて、自

分の様子が伝わってしまう」といった非現実的な考えにとらわれてしまいます。不

眠が続き、考えが次から次へとまとまらなく湧いてきてしまうとも言います。同時

に感情が不安定になり、気持ちのゆとりがなくなって、仕事や勉強などうわの空に

なりがちです。

一方陰性症状といって、根気が続かない、意欲がわかない、生き生きとした感情

がわいてこない、などの症状が同時に出現する場合もあります。このような時は、

傍から見ているといつも疲れやすく無気力でごろごろしている、といった状態が続

きます。

薬物療法にくわえて、支持的な環境のなかで丁寧にリハビリテーションをおこな

うことが必要な疾患です。

うつ病

ここで述べるのは、 抗うつ薬 の対象となるような「うつ病」のことです。「 」憂うつな気分と共に、意欲の減退、集中力の低下などが生じ、自分自身に対する

感情も大変否定的になってしまいます。一般的に、頭が働かず、感じたり考えたり

ということもなかなかできない状態になり、決断をおこなうこともむずかしくなり

ます。やはり、環境の変化や挫折体験などのストレス状況から発症しがちですが、

対人場面で「とりかえしがつかないことをしてしまった」とか「他人に迷惑をかけ

てしまった」と苦しむことが多いようです。この点、「ひきこもり」の状態にある

人が普通に感じる空虚感とはやや異なります。また、便秘や食欲不振、早朝覚醒が

あるがなかなか起き上がれない、といった身体症状を伴いがちです。

抗うつ剤を中心とした薬物療法と支持的な環境での認知療法,認知行動療法で回

復可能です。

Ⅱ 関与の初期段階における見立てについて 3

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強迫性障害

もともと,この障害があるために、外出などが困難になる場合と、「ひきこも

り」の2次的な問題として、強迫性障害が生じてしまう場合があります。

たとえば「自分のからだは汚れているのではないか」とか「自分はひどいことを

まわりの人にするのではないか」など、強迫観念といって一つのものごとに考えが

とらわれてしまう症状と、その強迫観念を打ち消すように、あるいは強迫観念に左

右されて、例えば一日に何十回となく手を洗ったり、何度も繰り返し確認したりと

いった行動をくりかえす強迫行為という症状があります。時に、強迫行動に家族を

巻き込んでしまうので、つきあう家族も大変疲れることがしばしばです。

薬物療法と認知行動療法などの併用が回復には有効です。

パニック障害

ひどい動悸や呼吸困難,息苦しさを体験する「パニック発作」があり、以後、乗

り物に乗ったり、会議や授業に出たりすると また似たような発作がおきるのでは「ないか との予期不安が強まり、次第に単独での外出が困難になってしまう状態で」す。このような社会的な場面にでる事にまつわる恐怖感を広場恐怖とよびます。こ

れらの問題も神経伝達物質の一種の機能障害によるものといわれています。

抗うつ剤や抗不安薬をもちいて不安発作を予防するとともに、予期不安に対して

行動療法や認知行動療法が有効です。

摂食障害

体重の減少に対して強いこだわりがあり、ダイエットのために拒食をしたり、食

べても太らないようにと過食や嘔吐を繰り返したりということが生じます。女性に

多い病気です。食にまつわる症状のほかにも、自分に対して自信を持つことが難し

く、対人関係で困難を感じる状態におちいってしまっていることも多く、結果とし

て「ひきこもり」の状態におちいっている人が相当数います。

抗うつ剤を中心とした薬物療法と、支持的な環境での認知行動療法、家族療法な

どをおこなうことで、回復に向かいます。

Ⅱ 関与の初期段階における見立てについて 4

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PTSD(外傷性ストレス障害)

強い恐怖や、戦慄、無力感を感じさせるような突然の衝撃的な出来事を経験する

ことによって生じる、特徴的な精神疾患です。原因となった外傷体験が繰り返し意

図せずして思い出されたり、逆に体験を思い出すような状況や場面に対して感情や

感覚が麻痺したりします。不眠やイライラなどが持続する場合もあります。このよ

うな心理的困難のために生活を維持できず、「ひきこもり」の状態になってしまい

うるのです。専門的な精神・心理療法にくわえ、抗うつ剤の服用が回復に役立ちま

す。

適応障害

どんな人でも、強いストレス状況におかれると、不安や緊張が強くなり、精神的

な失調をきたすことがあります。たとえば、軽度知的障害の人などが、無理をせざ

るを得ない状況に追い込まれ、混乱がひどくなる場合があります。睡眠障害、被害

関係念慮(周囲に対して疑り深くなる)、聴覚過敏などの精神病的症状があらわれ、

生活に支障をきたし「ひきこもり」になる場合があります。

このような時は、抗精神病薬を服用し、神経の緊張や疲れがとれるように生活を

工夫することで、回復にむかうことが出来ます。

暴力などの危険な行為のため、緊急対応が必要か

これは、疾患の有無というよりも、家族や周囲の人々あるいは本人自身が差し迫っ

た危険のある状況におかれているかどうか、という点についての判断です。精神疾患

に罹患していてもいなくても、暴力や自傷行為を含む緊急事態が発生するということ

はありえます。後述するような緊急時の対応(Ⅳ章 5節参照)をおこなう必要がある

かどうかについてのアセスメントは関わりの早期にする必要があります。

■「ひきこもり」の中で他者や自分に対して攻撃的な行動が見られることがありま

「ひきこもり」は仮の安定の状況とはいえ、心理的安定が常に得られるとは言えま

せん。多くの人々が安心感、「今のままでも大丈夫」という感覚を得られずに、孤立

感、焦燥感、不安感、そして苦悶感をつのらせています。追いつめられた気持ちから、

Ⅱ 関与の初期段階における見立てについて 5

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「こうなったのも家族のせいだ」「自分をこんな目にあわせている周囲をうらんで

やる」と他者を責める気持ちが昂じたり、「もうどうなってもいい」と自暴自棄にな

る場合もあります。心配する家族とのやりとりなどから苛立ちを募らせると、小さな

刺激が他者や自分自身に対する攻撃的行動を引き起こしてしまうこともあります。

「ひきこもり」の状態にあるときは、対社会的には自分を表現する事が難しいため、

大きな社会問題となるような行動が生じる事はまれといってよいと思いますが(伊

藤・吉田らの調査3では、対他的な問題行為は来所相談事例中の 4.0%)、逆に家庭

の中では、不安感や焦燥感が問題行動のかたちで現れることがしばしば見られます。

2000年度に行った、倉本の保健所調査4では、20.9%に家庭内暴力が認められてい

ます。また伊藤・吉田らの調査結果でも来所相談中の事例において「家族に対する支

配的な言動:15.7%」「器物破損:15.1%」「家族に対する暴力:17.6%」という値がでており、決して低い数字ではありません。

■家族が暴力について話せる関係を作ることが、支援につながります

しばしば家族は自責感や恥の感覚から、かなり深刻になるまで周囲の人々や専門家

に事態を打ち明けられないことがあります。重大な結果にいたることを防ぐために

は、家族が本人の暴力について安心して話せる雰囲気を確保し、情報を早期から共有

しておくことが大切です。そのためにも、「ひきこもり」の経過中に家庭内での暴力

が一時的にも見られるのは決して珍しいことではなく、暴力に対する支援も可能であ

ることは相談の初期から伝えておきましょう。

ときには本人の暴力のために家族が一時的に家を離れることを希望する場合もあり

ます。こうした時、家を出ることについて相談にのるとともに、出たあとにも必ず相

談機関との連絡を継続してほしい旨、家族に伝えておくことも必要でしょう。家庭内

での暴力は家族が外部の援助につながる大切な契機でもあるのです。

■とくに緊急対応が必要な場合は、複数の援助者が連携して対応にあたりましょう

もっとも、緊急対応が必要なのは、たとえ相手が家族でもすでに外傷を負うような

3 伊藤順一郎、吉田光爾、小林清香ら:社会的「ひきこもり」に関する相談・援助状況実態調査。地域精神保健活動における介入のあり方に関する研究 平成 15年度報告書 2003(印刷中)4倉本英彦ら:保健所・精神保健福祉センターを対象にした「ひきこもり」の全国調査から。地域精神保健活動における介入のあり方に関する研究 中間報告書 p33-p45 2001.Ⅱ 関与の初期段階における見立てについて 6

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暴力行為が発生している、刃物などの危険物を所持している、性的な虐待や小動物の

虐待などが疑われる、自傷の危険が高まっているなどの場合が考えられます。このよ

うな場合は、対応にあたって援助者が自分一人だけで抱えようとしないことが大切で

す。援助者側も孤立してしまっては、緊急連絡を受けそこなったり緊急の対応が遅れ

たりしがちです。後述するケア会議(Ⅳ章 5節1項)の開催などもふくめ、同僚、ス

ーパーバイザー、精神科医、精神保健相談員、警察官、など、援助者自身が緊急時に

対応を要請する人々との連携を早い時機から準備するのがよいでしょう。

Ⅱ 関与の初期段階における見立てについて 7

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Ⅱ 関与の初期段階における見立てについて 8

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Ⅲ章.援助を進めるときの原則1節 援助の目標立て

前述したように、「ひきこもり」という状態は、しばしば本人の意思の力だけでは

離脱することが困難です。そのため、適切な援助がないところでは長期化しやすいと

いう特徴もあります。精神保健福祉の観点から言えば、柔軟な思考や行動が難しくな

ってしまい、日常の活動が制限されたり、社会参加が制約された状態とも見ることが

出来ます。したがって回復にあたっては、さまざまな精神保健福祉のサービスを活用

することが有用です。この節では、「ひきこもり」の事例に関わるにあたっての、支

援の組み立て方のアウトラインを示します。そして、Ⅳ章で詳しく説明する援助技法

の、全体のなかでの位置づけを明確にすることを目的としたいと思います。

目標1:家族との関係作り                       

「ひきこもり」の援助は、状態像の特徴からいって、相談機関との接触の時点で、

本人が相談の場に現れることがすくなく、家族など周囲の人々の相談としてはじまり

ます。しかも、本人があらわれるまでにも時間がかかることが大抵です。したがっ

て、必然的に家族への対応が援助において重要な要素になります。家族への援助の延

長に、本人との関わりがあるのが定石と考えたほうがよいようです。持続的な家族と

の関係作り、そして家族のエンパワメントは、援助活動の基盤となるものです。

具体的には以下のような活動が考えられます。

・ 相談機関での家族との個別面接

・ 「家族に会いに行く」家庭訪問

・ 家族が適切な情報を得ることが出来、他の家族と話し合える機会にもなる「家

族心理教育」

・ 家族に対する、危機介入的対応

目標2:本人との関係作り                       

「ひきこもり」の状態にある人は、対人関係に対する安心感が、しばしば損なわれ

ているといわれます。とくに、あらたに会う人にどのように評価されるか、どのよ

Ⅲ 援助を進めるときの原則-1 援助の目標立て

9

Page 20: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

うな関係になるのか、といったことにまつわる不安感や緊張感は、かなり強いようで

す。つまり、「ひきこもり」の状態になると、他者と会う事が、大仕事になってしま

います。

したがって、援助する側に必要な事の第一は、相手を評価したり説得する事ではな

く、まず相手に安心感を送り届けられるような、関係作りに努めることです。ひきこ

もっている人に対して、あなたを応援しようとしている人がいる、あなたの可能性

を信じている人がいるといったメッセージがゆくゆくは伝わるように、まずは相手

を傷つける意志のない存在として前にいることを表現できるようなふるまいをする

ことが最初の仕事になります。

こういった関わりは、およそ以下のような活動を通じて実行されます。

・ 相談機関での本人面接

・ 「本人に会いに行く」家庭訪問

・ 電話相談・インターネット相談

目標3:アセスメント(見立て)

関係作りをしながら、援助のために必要なアセスメント(見立て)をおこないます。

現実的には家族のアセスメント、それから本人のアセスメントという手順になると思

いますが、どちらも基本は同じです。アセスメントは「何が原因か」を明らかにする

ことではありません。「この人たちには、どのような可能性があるのか」「どのよ

うな生活を望んでいるのか」、「そのためにできることはどんなことなのか」とい

うことを明らかにするために行います。やりとりのなかで情報を得て、これからど

のように援助をおこなっていけばよいかを作りあげていきます。

アセスメントは、最初から包括的なものができるわけではありません。アセスメ

ントとは、別の言い方をすれば「相手を知る」ということですから、関わりが深まる

につれて、アセスメントも変わりうるのです。そこで、まずは、援助の初動が何を

めざして行なわれたら良いかが明らかになるような、スケッチ程度のアセスメント

からはじめます。

家族にたいする援助初期のアセスメント(見立て)例

・ 家族のおかれているのは緊急事態か

Ⅲ 援助を進めるときの原則-1 援助の目標立て

10

Page 21: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

・ 家族が今かかえている困難はどのようなものか

・ 家族がすでにできていることは何か

・ 家族の疲労度はどの程度か

・ 家族は本人とどのように関われるのか。同伴しての来所は可能か

◇アセスメントの内容は、援助者側のみが把握するだけでなく、「私たちはこ

のように、皆さんのことを理解しましたが、妥当ですか」と、ご家族に提示す

ることも有用です。このようなやりとりで、「まず、どのようなことをしてい

くか」が家族とのあいだで明確になります。

本人に対する援助初期のアセスメント(見立て)例

本人の場合は、直接最初から会えるとは限りませんので、その場合は、家族から得

た情報でおおまかなアセスメントをすることになります。本人に会えたところで、

ていねいなアセスメントが始まります。

■本人に会える前のアセスメント

・ すみやかに医療が必要な状態かどうか

・ 緊急に関わりをはじめることが必要か

■本人に会えてからのアセスメント・ 「ひきこもり」の中で本人がやれていることはどんなことか

・ 本人は、これからの生活がどのようになれたらと、望んでいるか

・ 本人の長所はどんなところか

・ 生理的情報:睡眠・食欲・便通・日内リズム

・ 精神活動についての情報:全体的な気分・気持ちにゆとりがあるか・あせりは

強いかそうでもないか

目標 4:プランニング(計画作り)

アセスメント(見立て)をしつつ、これからどんなふうに相談を進めていくかと

いうプランニング(計画作り)が始まります。プランニングは、家族や本人の当面の

希望、望んでいることと、援助者側の見立て、考え方との折り合いの中で決まってい

きます。プランニングは援助者側が勝手におこなうものではありません。家族や本人

と「とりあえず、こんな風にやってみようか」と相談しながらつくりあげていくも

Ⅲ 援助を進めるときの原則-1 援助の目標立て

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Page 22: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

のです。「とりあえずのプラン」「半年先くらいまでのプラン」「もう援助が必要な

いと思える最終ゴール」などが明確になるとよいと思います。しかし、以上のプラン

がいっぺんに作られるものでもありません。「とりあえずのプラン」を作りあげて、

それにそって動いているうちに、少し先の見通しもついてくるということでよいで

しょう。

このうち、もっとも具体的で明らかであることが必要なのは「とりあえずのプラ

ン」です。このプランが現実的で実行可能であることが、相談に来る人々の意欲を高

めます。

プランには、実際は「目標(こうなりたいというすがた)」と、「そのための工

夫」が入ります。より近い未来のためのプランほど、「そのための工夫」が具体的で

あることが望ましく、将来についてのプランでは「なりたいすがた」が、明確であ

ればそれでよいかと思います。

家族とつくるプランの例

■「とりあえずのプラン」・ 2週に一回、保健師との相談をつづける

・ ちかぢか、保健師と一緒に、本人の状態についてどう考えたらよいか精神科医

に相談にいく

・ 暴力の問題について、緊急に対処を考える

■「半年先くらいまでのプラン」

・ 保健師が家族に会いに自宅か自宅の近くまで訪問する

・ 「ひきこもり」の心理教育プログラムに家族が参加する

・ 信用できる臨床心理技術者をみつけて、継続の相談ができるようにする

・ 本人と家族が一緒に食事がたまにはできるようにする

■「最終ゴールのプラン」

・ 本人がアルバイトでも始め、母親や父親も、自分たちの生活を大事にできる

・ 本人に留守番をまかせて、両親だけで旅行ができる

・ 本人が精神科医に通うようになって、気持ちが落ち着いて生活できる

Ⅲ 援助を進めるときの原則-1 援助の目標立て

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Page 23: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

・ 本人が大検(大学入学資格検定)の勉強が落ち着いて出来、自分の望んでいる

ことにむかって生活をおこなえる

本人とつくるプランの例

■「とりあえずのプラン」・ 2週間に 1回、保健所のスタッフと会う・ 1週間、暴力を我慢する・ 今やれている、楽しみ(ビデオをみる)をこれからも続ける

・ 睡眠の状態を 2週間記録して、今度保健師に会うときに、睡眠について一緒に

考える

■「半年先くらいまでのプラン」

・ 保健所のスタッフと一緒に、今は苦手なバスに乗ってみる

・ 保健師と一緒に、一度精神科の医者に、睡眠や音に敏感なことについて相談し

てみる

・ 保健所のスタッフと一緒にハローワークに行ってみる

■「最終ゴールのプラン」

・ 自分にあった職場で、パートタイムで働く

・ 一人暮らしが楽しくできるようになる

・ 福祉系の資格をとって、働く

・ 仲のいい友人と、韓国に旅行にいく

目標5:ネットワーキング(資源の紹介)                

関わりがつながってくると、家族や本人の生活が次第次第にふくらんできます。

「とりあえずのプラン」に取り組んでいるうちに、何か「もう少しやってみたいこ

と」が出来上がってきます。そのときに、家族や本人を、さらに資源とつなげていく

ことも、援助者の大切な仕事です。

地域精神保健に関わるものには、仕事のうえでのさまざまな限界があります。実際、

Ⅲ 援助を進めるときの原則-1 援助の目標立て

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Page 24: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

一つ一つの事例と十分に時間が取れないのがたいていの職場です。自分が出来ない部

分は、他の資源を使ってこそ、層の厚いサービスが展開できるのです。家族や本人の

望んでいることに応じて、いくつかの資源を活用していくことをネットワーキング

とよびます。ネットワーキングを上手にするには、以下の点に留意することが必要で

す。

・ 一人で抱え込まない

・ 「たらいまわし」にならないように、ていねいにつなげる。新しい資源につな

がった後も、しばらくは並行して関わる

・ 日ごろから、ネットワークができる相手との関係作りをしておく

社会的な援助の例

居場所(フリ-スペース、デイケアなど)

就労 就学支援プログラム(ハローワーク、フリースクール、就労支援センター、・小規模作業所)

家族の会

緊急時対応

インフォーマルな関係作り

心理的な援助の例

個人カウンセリング

SSTグループ

認知行動療法

家族療法

家族心理教育

医学的な援助の例

抗精神病薬・抗うつ薬・抗不安薬などの投与

医学的診断による見立て

Ⅲ 援助を進めるときの原則-1 援助の目標立て

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2節 家族支援の重 要性

家 族 支 援 を 第 一 に 考 え る

  「 ひ き こ も り 」 を 主 訴 と し た 相 談 は , 本 人

自 身 よ り も 家 族 が 最 初 に 来 ら れ る こ と の ほ う

が 多 い も の で す 。 「 ひ き こ も り 」 が 始 ま っ て

か ら 何 年 も 経 っ て い る 事 例 も 多 く , こ れ ま で

何 回 も 相 談 機 関 や 援 助 機 関 を 訪 れ た 経 験 を 持

っ て い る 家 族 も あ れ ば , 何 年 も 様 子 を 見 て よ

う や く 初 め て 相 談 に 訪 れ た と い う 家 族 も あ り

ま す 。

  そ れ ぞ れ の 家 族 に は , 今 回 こ こ へ 相 談 に 訪

れ る に 至 っ た そ れ ぞ れ の 事 情 が あ り , 悩 み や

困 っ て い る こ と が あ り ま す 。 「 ひ き こ も り 」

の 事 例 へ の 援 助 は , ま ず , こ の 家 族 の 悩 み や

困 っ て い る こ と に 焦 点 を 当 て た 相 談 や 支 援 か

ら 始 ま り ま す 。

■家 族 自 身 が 支 援 の 対 象 な の で す 。

  「 ひ き こ も り 」 の 相 談 に 訪 れ た 家 族 は , 少

し で も 「 ひ き こ も り 」 が 改 善 す る こ と を 願 っ

て い ま す 。 家 族 に よ っ て は , 本 人 自 身 が 治 療

機 関 や 相 談 機 関 へ 行 っ て く れ さ え す れ ば , あ

と は 専 門 家 に 任 せ れ ば 良 い と 考 え て い た り ,

家 族 が 相 談 へ 来 る の は 本 人 が 自 ら 相 談 へ 訪 れ

る た め の “ つ な ぎ ” だ と 思 っ て い る こ と も あ り

ま す 。

  で す か ら , 相 談 を 続 け て い て も 「 ひ き こ も

り 」 の 問 題 が 変 化 し な い と , 相 談 に 来 て も 意

Ⅲ 援助を進めるときの原則-2 家族支援の重要性

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味 が な か っ た と 思 っ て や が て 来 所 を 中 断 し て

し ま う 場 合 も 珍 し く あ り ま せ ん 。 そ し て , 家

族 は し ば し ば 無 力 感 に 襲 わ れ , 以 後 相 談 へ 行

く こ と を 諦 め て し ま う こ と も あ り ま す 。 こ の

時 同 様 に , 支 援 者 も ま た 無 力 感 を 感 じ て し ま

い , 「 ひ き こ も り 」 の 問 題 に 苦 手 意 識 を 持 っ

て し ま う こ と も あ り ま す 。

  も ち ろ ん , 本 人 の 行 動 が 変 化 し , 家 か ら 出

て 来 て く れ る よ う に な る こ と は 重 要 な こ と で

す が , こ こ で 大 切 な こ と は , そ の こ と が 家 族

支 援 の 第 一 の 目 標 で は な い と い う こ と で す 。

家 族 支 援 の 目 標 は , 仮 に 「 ひ き こ も り 」 の 問

題 は な か な か 解 決 し な く と も , 家 族 の 困 難 度

を 減 ら す と 同 時 に 、 家 族 が 問 題 解 決 へ の 意 欲

を 持 ち 続 け , ね ば り 強 く ひ き こ も っ て い る 子

ど も に 関 わ り 続 け て ゆ け る よ う に 援 助 す る こ

と な の で す 。 そ の 意 味 で , 家 族 自 身 が 支 援 の

対 象 と な る の で す 。

■家 族 を 支 え る

  子 ど も が 長 期 に わ た り ひ き こ も る と , 家 族

は 自 分 た ち が そ の 原 因 な の で は な い か と 自 分

を 責 め た り , 将 来 へ の 不 安 や 悲 観 , 絶 望 感 を

感 じ て い る こ と が し ば し ば で す 。 家 族 の 方 が

う つ 状 態 を 呈 し て 治 療 が 必 要 と な る こ と も 珍

し く あ り ま せ ん 。

  毎 日 , 子 ど も の 行 動 を 目 を 皿 の よ う に し て

見 守 っ て い る こ と も 多 く , ち ょ っ と し た 子 ど

も の 変 化 に 一 喜 一 憂 し て し ま い が ち で す 。 そ

の よ う な 緊 張 し た 毎 日 に 疲 れ 果 て た と し て も

Ⅲ 援助を進めるときの原則-2 家族支援の重要性

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不 思 議 で は あ り ま せ ん 。 こ の 苦 し い 状 況 を 誰

か に 相 談 し た く と も , 家 庭 内 の こ と を 親 戚 や

近 隣 の 人 に 相 談 す る の は か な り 勇 気 の い る こ

と で す 。 つ い , 誰 に も 相 談 し な い ま ま 時 間 だ

け が 経 ち , 家 族 自 身 も ま た 周 囲 か ら 孤 立 し て

ゆ く こ と も ま れ で は あ り ま せ ん 。

  こ う し た 家 族 の 孤 立 感 や 罪 悪 感 を 軽 減 す る

こ と は , 家 族 支 援 の 大 切 な 目 標 と な り ま す 。

相 談 機 関 が 家 族 に と っ て 唯 一 本 音 を 話 せ る 場

で あ る こ と も し ば し ば で す 。 家 族 の こ れ ま で

の 努 力 や 苦 労 を 十 分 に ね ぎ ら い , 共 感 的 に 話

を 聞 く こ と が 第 一 歩 と な り ま す 。 家 族 の 罪 悪

感 や 無 力 感 を 解 き ほ ぐ す た め に , 次 の よ う な

こ と を く り 返 し 伝 え る と 良 よ い で し ょ う 。

○「 ひ き こ も り 」 は 誰 に で も 起 き る 可 能 性

が あ り ま す 。

○「 ひ き こ も り 」 は , 対 人 関 係 の 不 安 や 自

分 に 自 信 が 持 て な い こ と な ど を 背 景 に ,

社 会 に 一 歩 を 踏 み 出 せ な い で い る 状 態 の

こ と で , 「 怠 け 」 や 「 反 抗 」 な ど と は 異

な り ま す 。

○過 保 護 や 放 任 な ど の 親 の 育 て 方 や 過 去 の

家 庭 環 境 な ど に 原 因 を 求 め る 考 え 方 は ,

多 く の 場 合 問 題 の 解 決 に は あ ま り 役 に 立

ち ま せ ん 。

○家 族 の 対 処 の 仕 方 に よ っ て , 少 し ず つ 解

決 し て ゆ け る 問 題 で あ り , 家 族 や 周 囲 が

「 ひ き こ も り 」 の 解 決 を 焦 ら な い こ と が

大 切 で す 。 少 な く と も , 家 族 の 焦 り を 本

人 に ぶ つ け な い こ と が ポ イ ン ト と な る で

Ⅲ 援助を進めるときの原則-2 家族支援の重要性

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し ょ う 。

○そ れ で も , ど う し て も 家 族 に 焦 り は 残 り

ま す 。 そ れ は 親 と し て と て も 自 然 な 気 持

ち で す 。 持 っ て 行 き 場 の な い 親 の 気 持 ち

を , 安 心 し て 話 せ る 人 や 場 所 , 家 族 が 自

分 た ち の 経 験 や 思 い を 共 有 で き , 孤 立 感

を 和 ら げ ら れ る よ う な 場 所 を 見 つ け る こ

と も 大 切 で す 。 「 家 族 教 室 」 や 「 家 族 グ

ル ー プ 」 な ど が そ の 役 に 立 つ で し ょ う 。

■少 し の 変 化 を 試 み る 助 言

  家 族 に と っ て み れ ば , せ っ か く 相 談 に 来 た

以 上 は , 何 か 新 し い ヒ ン ト を も ら っ て 帰 り た

い と 思 う の も 自 然 な こ と で す 。 た し か に , わ

ず か な 相 談 で 何 か 大 き な 変 化 を 期 待 し て も そ

れ は や は り 無 理 な こ と で し ょ う 。 ま ず は , 相

談 を 繰 り 返 す う ち に 援 助 者 に 少 し ず つ で き て

き た イ メ ー ジ を 基 に , 少 し の 変 化 を 試 み て み

る 助 言 を す る こ と が よ い で し ょ う 。 た と え ば

「 と り あ え ず 明 日 か ら の 生 活 に 役 立 つ ヒ ン

ト 」 と い っ た よ う な イ メ ー ジ の も の で 十 分 で

す 。 ま た , 家 族 が 「 こ れ な ら 自 分 た ち で も 出

来 そ う だ 」 と 思 え る よ う な も の や , 「 い ま 既

に や れ て い る こ と 」 を 強 調 す る こ と な ど も よ

い で し ょ う 。 こ の と き に 大 切 な こ と は , 家 族

も 援 助 者 も 結 果 を 急 が な い と 言 う こ と で す 。

「 助 言 ど お り に し て み た の に ち っ と も 変 わ ら

な か っ た 」 と 家 族 が 訴 え る こ と も あ る か も 知

れ ま せ ん が , 結 果 が 目 に 見 え て く る の に は 時

間 が 必 要 な こ と , む し ろ , 頑 張 っ て 取 り 組 ん

Ⅲ 援助を進めるときの原則-2 家族支援の重要性

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で い る 家 族 の 意 欲 を 評 価 し て , も う 少 し 続 け

て み る こ と を 応 援 す る と い う か た ち で よ い の

で す 。

■家 族 自 身 の 居 場 所 も 確 保 し ま し ょ う

  ひ き こ も っ て い る 本 人 と 毎 日 を 過 ご し て い

る 家 族 は , 身 を 削 る よ う な 張 り つ め た 生 活 を

送 っ て い る こ と が 稀 で は あ り ま せ ん 。 し ば し

ば , 家 族 自 身 が 疲 れ , 抑 う つ 状 態 と な っ た り

不 眠 や 過 度 の 不 安 が 生 じ た り す る こ と が あ り

ま す 。 ま た , 相 談 で き る 所 も な く , 地 域 や 親

戚 か ら も 孤 立 し て い る こ と も よ く み ら れ ま す

そ の よ う な 家 族 が 自 分 自 身 を 取 り 戻 し , ゆ っ

く り と 自 分 や 家 族 を 振 り 返 る 時 間 を 持 つ こ と

は と て も 大 切 な こ と で す 。

  自 分 に 合 っ た 支 援 者 や 相 談 機 関 を 見 つ け る

こ と で , こ の よ う な 時 間 を 取 り 戻 す 場 合 も あ

れ ば , 最 近 数 多 く 出 版 さ れ て い る 「 ひ き こ も

り 」 の 本 や 情 報 に 触 れ て み る こ と も よ い き っ

か け と な る で し ょ う 。

  と く に 家 族 に 勧 め た い の は , 家 族 教 室 や

「 ひ き こ も り 」 の 親 の 会 な ど , 同 じ 悩 み を 抱

え て い る 家 族 同 士 が 集 ま っ て く る 場 へ 参 加 す

る こ と で す 。 こ の よ う な 場 で , 家 族 は 悩 ん で

い る の は 自 分 た ち だ け で は な い こ と , 同 じ 問

題 を さ ま ざ ま に 乗 り 越 え て 来 た 家 族 が あ る こ

と な ど を 知 り , 安 心 し た り 勇 気 づ け ら れ た り

し ま す 。

  こ の よ う な 場 へ 参 加 す る こ と で , 初 め て

「 ひ き こ も り 」 の 問 題 に 取 り 組 む 意 欲 や 希 望

Ⅲ 援助を進めるときの原則-2 家族支援の重要性

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が 回 復 し た 家 族 も 少 な く あ り ま せ ん 。 最 近 で

は 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー 等 公 的 な 援 助 相 談 機

関 が こ の よ う な 場 を 設 け る こ と が 増 え て き ま

し た 。 積 極 的 な 利 用 が 望 ま れ ま す 。

■危 機 介 入 の 必 要 性 の 判 断

  家 庭 内 で 暴 力 を 振 る う な ど 家 庭 内 が か な り

緊 迫 し た 事 態 に 陥 っ て い る 場 合 は , 少 し 積 極

的 な 介 入 が 必 要 に な る こ と が あ り ま す 。 支 援

者 は , 事 態 の 緊 急 度 を で き る だ け 適 確 に 判 断

し , 緊 急 訪 問 の 必 要 性 , 保 健 所 , 警 察 そ の 他

関 係 機 関 と の 連 携 や 家 族 の 避 難 の 必 要 性 に つ

い て 判 断 し , ま た , ど こ の 機 関 の 誰 が 連 携 の

責 任 者 ( マ ネ ー ジ ャ ー ) に な る か も 関 係 者 と

相 談 し て 決 定 し ま す 。 不 幸 に し て 家 族 に 怪 我

を 負 わ せ て し ま っ た 場 合 , 本 人 自 身 も ひ ど く

傷 つ く も の で す 。 家 族 の 相 談 を 受 け な が ら ,

必 要 に 応 じ て 事 態 の 緊 迫 度 を 予 測 し て 行 動 す

る こ と も 大 切 で す 。 リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト も 家

族 支 援 の 目 標 の ひ と つ な の で す 。 こ の 点 に つ

い て よ り 詳 し く は , 別 章 を 参 照 し て く だ さ い 。

家 族 支 援 が 本 人 の 支 援 に つ な が り ま す

  家 族 支 援 を 通 じ て , 本 人 の 変 化 を 生 み 出 す

契 機 を 工 夫 す る こ と も 大 切 で す 。 引 き こ も っ

て い る 本 人 は , 会 話 は あ ま り な く て も 日 常 的

に 家 族 と 共 に い ま す 。 つ ま り , 本 人 に 一 番 影

響 を 与 え る 立 場 に い る の が 他 で も な い 家 族 な

の で す 。 家 族 の 家 庭 内 で の 日 常 的 な 振 る 舞 い

言 葉 遣 い , 言 い 回 し , 言 外 の 雰 囲 気 な ど , さ

Ⅲ 援助を進めるときの原則-2 家族支援の重要性

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さ や か な 対 応 の 工 夫 で 家 庭 内 の 雰 囲 気 を 変 え

る こ と は 十 分 可 能 で す 。 一 度 に 急 に 変 え る こ

と は 難 し い に し て も , そ の よ う な 工 夫 を 少 し

ず つ 積 み 重 ね る 内 に , 徐 々 に 家 庭 内 の 雰 囲 気

が 変 わ っ て き た こ と が 本 人 に も 伝 わ れ ば , 次

の 変 化 を 生 み 出 す 準 備 が で き て き た こ と に な

り ま す 。

■ま ず , 本 人 と 家 族 の 状 況 を 把 握 し , よ い 兆

候 に 焦 点 を 当 て る

  家 族 の 話 を 詳 し く 聞 く な か か ら , 本 人 の 様

子 を 把 握 し ま す 。 毎 日 の 食 事 , 入 浴 , 1 日 の

生 活 リ ズ ム を は じ め , 家 族 と の 会 話 の 様 子 ,

と く に 家 族 の 話 し か け や 行 動 に 対 す る 本 人 の

反 応 を 詳 し く 尋 ね ま す 。 そ の よ う な 様 子 を 聞

き な が ら , 家 族 が 本 人 を ど の よ う に 受 け 止 め

て い る か を 理 解 す る と 同 時 に , 本 人 は 家 族 の

言 動 を ど の よ う に 感 じ , 受 け 止 め て い る か も

推 測 し て み る こ と が 大 切 で す 。 こ の よ う な 本

人 と 家 族 と の 会 話 や 交 流 の 様 子 を 尋 ね て ゆ く

と , 本 人 と 家 族 の そ れ ぞ れ の 事 態 の 受 け 止 め

方 が 把 握 で き , ま た , 家 庭 内 で 起 き て い る や

り と り ( 相 互 交 流 パ タ ー ン ) が 把 握 で き る よ

う に な る で し ょ う 。

  こ の よ う な や り と り を 聞 い て ゆ く 中 で , い

つ も と は 異 な る 少 し 良 い 兆 候 や い つ も と 違 っ

た 反 応 な ど に と く に 焦 点 を 当 て , そ の よ う な

反 応 を 引 き 起 こ す の に 役 だ っ た こ と な ど を 尋

ね て ゆ く こ と が 新 し い 視 野 を 広 げ る 契 機 と な

る こ と が あ り ま す 。

Ⅲ 援助を進めるときの原則-2 家族支援の重要性

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  一 方 , 独 り 言 を 言 う な ど 意 味 の 通 じ な い ま

と ま ら な い 言 動 が み ら れ る と か , 魔 術 的 儀 式

的 な 行 動 に こ だ わ る な ど , 本 人 の 様 子 を 尋 ね

る こ と に よ っ て 医 学 的 な 治 療 の 必 要 性 が 把 握

さ れ る こ と も あ り ま す 。 当 然 , そ の 場 合 に は

医 療 機 関 へ 繋 げ る こ と も 大 切 な 支 援 と な り ま

す 。

■家 族 の 対 処 を 変 え る 働 き か け

  長 期 に わ た る 「 ひ き こ も り 」 の 問 題 を 抱 え

て い る 家 族 は , 心 配 の あ ま り 常 に 本 人 に 注 目

し 続 け て い る た め に , し ば し ば 本 人 に 接 近 し

過 ぎ て し ま っ て い る こ と が あ り ま す 。 ひ き こ

も っ て い る 本 人 と 家 族 と の 距 離 が “ 過 保 護 ”

“ 過 干 渉 ” と 呼 べ る く ら い に 緊 密 に な っ て い る

場 合 , 背 景 に こ の よ う な 事 情 が 見 ら れ る こ と

が あ り ま す が , そ れ は 決 し て 問 題 の “ 原 因 ” な

ど で は な い の で す 。 ま た , 家 族 の 側 の 自 責 感

か ら 本 人 の 要 求 の ま ま に 行 動 し , 家 族 自 身 の

仕 事 や 生 活 を 犠 牲 に し て ま で 本 人 に 尽 く し て

い る 家 族 に 出 会 う こ と も あ り ま す 。 反 対 に ,

本 人 を 「 甘 え 」 や 「 怠 け 」 と し か 理 解 で き ず

あ る い は 将 来 へ の 不 安 か ら 外 へ で る こ と を せ

か し た り , 就 労 へ の 圧 力 を 掛 け た り し , そ れ

に 応 じ な い 本 人 を 批 判 し た り 責 め た り し て し

ま う 家 族 と 出 会 う こ と も 珍 し く あ り ま せ ん 。

こ の よ う な や り と り が 家 庭 内 の 緊 張 を 高 め ,

本 人 の 「 ひ き こ も り 」 を 一 層 強 め て し ま う こ

と が あ り ま す 。

  こ の よ う な 緊 迫 し た や り と り は , 持 続 す る

Ⅲ 援助を進めるときの原則-2 家族支援の重要性

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Page 33: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

慢 性 の ス ト レ ス に さ ら さ れ て い た り , 周 囲 か

ら 孤 立 し て 援 助 や 協 力 が 得 ら れ な い と 感 じ て

い た り , 問 題 に つ い て の 正 し い 知 識 を 十 分 に

持 っ て い な い た め ど う 対 処 し て 良 い か 分 か ら

な い な ど の 場 合 に 起 こ り や す い と さ れ て い ま

す 。

  家 族 が ゆ と り を 取 り 戻 す た め の さ ま ざ ま な

働 き か け を 家 族 と 共 に 工 夫 し た り , 緊 張 を 高

め て し ま う 家 庭 内 の や り と り ( 交 流 の パ タ ー

ン ) を 分 か り や す く 説 明 す る こ と で , 家 族 も

ち ょ っ と し た 言 葉 掛 け の 仕 方 の 工 夫 が で き る

よ う に な る も の で す 。 そ の よ う に し て 少 し 緊

張 が 緩 和 さ れ る と , さ ら に よ り ポ ジ テ ィ ブ な

言 葉 掛 け や や り と り の 工 夫 が 生 ま れ や す く な

り , そ の ゆ と り の 雰 囲 気 が 本 人 に も 伝 わ る こ

と に よ っ て 本 人 も 少 し 楽 に 動 け る よ う に な る

こ と が 期 待 で き る の で す 。

  「 ひ き こ も り 」 と い う 事 態 に 対 し て 家 族 が

対 処 し て い こ う と い う ゆ と り を 持 て た と き ,

よ う や く 本 人 の 変 化 へ の 準 備 が 始 ま る と 言 っ

て も 良 い ほ ど で す 。

家 族 と の 相 談 ( メ ン タ ル ヘ ル ス ・ コ ン サ ル

テ ー シ ョ ン ; 精 神 保 健 相 談 ) の 構 造    

  家 族 と の 相 談 と い う 行 為 が 持 つ 構 造 に つ い

て 簡 単 に 説 明 し ま す 。

  相 談 つ ま り 本 来 の 意 味 で の 「 メ ン タ ル ヘ ル

ス ・ コ ン サ ル テ ー シ ョ ン ( 精 神 保 健 相 談 ) 」

は , 図 の よ う な 構 造 を 備 え て い ま す 。 ( と く

に , シ ス テ ム 論 的 な も の の 見 方 を 基 づ く と き

Ⅲ 援助を進めるときの原則-2 家族支援の重要性

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Page 34: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

シ ス テ ム ズ ・ コ ン サ ル テ ー シ ョ ン と 呼 び ま

す )

  こ れ を 簡 単 に 説 明 し て み ま す と , 家 族 は 解

決 困 難 な 事 態 を 「 問 題 」 と 感 じ , 支 援 者 ( コ

ン サ ル タ ン ト ) に 救 い や 意 見 を 求 め ま す 。 支

援 者 は , 家 族 と の 会 話 の 中 か ら 家 族 の 訴 え る

( 描 写 す る ) 問 題 を イ メ ー ジ し , 同 時 に 支 援

者 の 視 点 ( 家 族 と は 異 な っ た 視 点 ) か ら 問 題

を 捉 え 直 し , そ れ を 基 に 質 問 や 会 話 を し て

「 問 題 」 を 別 の 側 面 か ら 描 写 し て み よ う と し

ま す 。 そ の 様 な や り と り の 中 で , 支 援 者 と 家

族 は 共 に , 問 題 と 思 わ れ て い る こ と の 中 に 肯

定 的 な 側 面 を 見 い だ し た り , 新 た な 意 味 を 見

つ け た り し て , 問 題 へ の 新 し い 意 味 づ け を 共

有 し ま す 。 家 族 は 新 た な 視 点 に 基 づ い て そ れ

Ⅲ 援助を進めるときの原則-2 家族支援の重要性

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支援者 家

 

 

相談

意味づけの再構成 問題解決行動

解決困難

 図:コンサルテーションの構造(楕円の点線は,問題が絶対不変の実体ではないことを表す)

Page 35: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

ま で と は 異 な る 問 題 へ の 働 き か け を 試 み ま す

こ の よ う な プ ロ セ ス の 繰 り 返 し の 中 で , 次 第

に 家 族 が 問 題 へ 取 り 組 む 視 点 が 変 化 し , 問 題

が そ れ ま で と は 違 っ た 意 味 を 帯 び て 見 え て く

る よ う に な り ま す 。 簡 単 な 例 で 言 え ば , 「 未

来 の 見 え な い 困 っ た こ と 」 で あ っ た 「 ひ き こ

も り 」 が , 「 未 来 に 向 け て 彼 な り の 人 生 を 歩

み 出 す 準 備 を 整 え て い る 段 階 」 と 家 族 が 心 か

ら 思 え る よ う に な り , 家 族 が 本 人 の 支 援 を 始

め る 場 合 な ど が 挙 げ ら れ る で し ょ う 。 大 切 な

こ と は , こ の 場 合 , 問 題 に 直 接 取 り 組 む の は

あ く ま で も 家 族 自 身 を お い て 他 に な い と い う

こ と な の で す 。 こ の よ う に 相 談 に お け る 支 援

者 の 役 割 は , あ く ま で も 家 族 自 身 に よ る 解 決

力 を 引 き 出 し , 高 め る 働 き か け を す る こ と に

あ る の で す 。  

Ⅲ 援助を進めるときの原則-2 家族支援の重要性

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Page 36: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

3節 本人に会えたときの基本的態度と見立

ひ き こ も っ て い た 人 が 、 相 談 の 場 に 出 て く

る の は 、 来 所 で あ れ 、 自 宅 で あ れ 、 ま た 表 面

的 な 態 度 は ど う あ れ 想 像 を 絶 す る 努 力 を し て

い る の で す 。 こ の こ と を 念 頭 に お い て 、 援 助

者 が 本 人 と 出 会 っ た と き 、 本 人 が ど の よ う な

体 験 を す る こ と が 目 標 と な る の か 、 そ の た め

に 援 助 者 は ど の よ う に 対 応 し た ら よ い の か に

つ い て 述 べ て み ま す 。

最 も 大 き な 目 標 は 、 本 人 が 相 談 に つ い て 安

心 感 や 安 堵 感 を 体 験 す る こ と で す

  本 人 と の 出 会 い に お い て 、 ど の よ う な 疾 患

が 存 在 す る か ど う か を 検 討 す る よ り も 、 適 切

な 情 緒 的 態 度 に 基 づ い た 問 題 の 見 立 て が 大 切

で す 。 「 ひ き こ も り 」 の 人 と の 援 助 作 業 に お

け る 失 敗 は 不 正 確 な 診 断 に よ る の で は な く 不

適 切 な 情 緒 的 態 度 に よ る こ と が 多 い の で す 。

彼 ら は 多 く の 場 合 、 「 人 と 親 し く な り た い が

親 し く な る と 、 人 に 支 配 さ れ た り 、 見 捨 て ら

れ た り し て 自 分 が 傷 つ く 、 し か し 孤 独 で は い

ら れ な い 」 と い う ジ レ ン マ を 持 っ て い ま す 。

つ ま り 、 こ の 大 目 標 は 、 援 助 者 に よ る 、 本 人

が 安 心 し な が ら 成 長 で き る よ う な 環 境 作 り と

い え ま す 。

Ⅲ 援助を進めるときの原則-3 本人に会えたときの基本的態度と見立て

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大 目 標 を 達 成 す る た め に 、 本 人 が 体 験 す る

こ と が 望 ま し い の は 以 下 の よ う な 9 項 目 で

す 。 援 助 者 は 、 そ れ ら の 達 成 に む け て 対 応

し ま し ょ う

1 ) 相 談 の 場 に く る こ と が 出 来 た 価 値 を 、 本

人 が 知 る

  援 助 者 は 本 人 に 会 う こ と が 出 来 た ら 、 ま ず

話 を 聞 く よ り も 前 に 「 出 て こ ら れ た こ と 」

「 人 と 会 え た こ と 」 を ね ぎ ら う こ と が 必 要 で

す 。 こ れ ま で 、 一 人 で が ん ば っ て き た 、 ど う

に か し て 今 の 状 態 を 変 え た い と こ こ ま で 出 て

き た 、 と い う こ と は 非 常 に 大 き な 努 力 の も と

に な さ れ て き た こ と で す 。 た と え 表 面 的 に 無

関 心 ・ 沈 黙 と い っ た 態 度 を と っ て い て も 、

「 い ま 、 こ こ に い る 」 と い う こ と は 「 ひ き こ

も り 」 か ら 次 の 一 歩 を 踏 み 出 そ う と し て い る

彼 ら の 努 力 の 現 わ れ な の で す 。 こ の こ と を 評

価 す る 態 度 で 接 す る こ と で 、 本 人 へ の ね ぎ ら

い の 気 持 が 自 然 に 伝 え ら れ る と い よ い で し ょ

う 。

2 ) 何 を 話 し て も 大 丈 夫 だ と い う 感 触 を 、 本

人 が 持 つ

  援 助 者 は 、 ま ず は 、 ご く ゆ る や か に 会 話 を

始 め ま し ょ う 。 本 人 は 援 助 者 に 対 し て 「 分 っ

て 欲 し い 」 と 思 い な が ら も 「 分 っ て く れ る は

ず が な い 」 「 分 ら れ る の が 怖 い 」 「 分 ら れ て

た ま る か 」 と い う 気 持 を 抱 い て い る 場 合 が あ

り ま す 。 ま た 、 長 期 の 「 ひ き こ も り 」 に よ る

コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 低 下 や 過 去 の 不 幸

Ⅲ 援助を進めるときの原則-3 本人に会えたときの基本的態度と見立て

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Page 38: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

な 相 談 歴 と い っ た さ ま ざ ま な 理 由 の た め に 、

人 に 対 す る 信 頼 感 を 最 初 か ら 十 分 持 て な い で

い る 場 合 も あ り ま す 。 こ の よ う に 、 ジ レ ン マ

を 抱 え な が ら 相 談 に 来 て い る こ と を 念 頭 に 置

き つ つ 話 を 聞 い て い く こ と が 重 要 と な る で し

ょ う 。

  「 君 の 問 題 は か く か く し か じ か だ 」 と 問 題

に 急 に 切 り 込 も う と し た り 、 「 ひ き こ も り 」

の 原 因 を 追 求 し た り せ ず 、 ゆ っ く り と 本 人 の

気 持 を わ か ろ う と す る 「 待 ち 」 の 態 度 が 必 要

で す 。 こ こ で 大 切 な こ と は 「 待 ち 」 と い う の

は 消 極 的 な も の で は な く 非 常 に 能 動 的 な 態 度

を 意 味 し て い る と い う こ と で す 。 援 助 者 が 先

走 る こ と な く 、 本 人 の ペ ー ス に 合 わ せ る と い

う こ と で す 。 本 人 の 趣 味 や 興 味 あ る こ と な ど

話 の 出 来 そ う な 話 題 を 探 し な が ら 、 関 心 を も

っ て 接 す る こ と が 必 要 で す 。 過 度 に 同 情 し す

ぎ ず 、 か と い っ て 批 判 的 に な ら ず 、 ど ち ら か

と い え ば 淡 々 と 、 人 と し て 尊 重 し つ つ 、 「 大

切 な 話 も 茶 飲 み 話 を す る よ う に 」 接 す る こ と

が で き た ら 、 本 人 は ず い ぶ ん 楽 に な り ま す 。

何 を 話 し て も 自 分 は 責 め ら れ な い 、 認 め ら れ

て い る と い う こ と が 伝 わ る と 、 徐 々 に 緊 張 が

ほ ぐ れ て き ま す 。

3 ) 相 談 へ の 期 待 を 、 本 人 が 表 現 す る

  こ の よ う に ア プ ロ ー チ し な が ら 、 援 助 者 は

本 人 が 相 談 に 対 す る 期 待 に つ い て 話 を す る よ

う に 質 問 し ま す 。 彼 ら は 「 た だ 会 っ て み た か

っ た か ら 」 「 他 の 相 談 機 関 に い っ て い る が そ

Ⅲ 援助を進めるときの原則-3 本人に会えたときの基本的態度と見立て

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Page 39: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

れ で い い か ど う か 確 認 し た い 」 「 期 待 な ど な

い 」 「 親 に 言 わ れ て 仕 方 な く 」 な ど 、 建 設 的

な も の か ら 否 定 的 な も の ま で 、 い ろ い ろ な 期

待 や 動 機 を 持 っ て い ま す 。 概 し て 、 相 談 す る

と い う 経 験 に 関 し て 、 本 人 は い ま ま で 期 待 は

ず れ で 落 胆 し て い る こ と が 多 い の で す 。

大 切 な こ と は 、 相 談 に 対 し 否 定 的 な 気 持 を

表 現 し た な ら 、 「 言 い に く い こ と を き ち ん と

言 え た 」 と 評 価 す る こ と で す 。 ま た 家 族 の 意

向 で あ る と 言 っ た ら 、 「 よ く 、 家 族 の 意 を く

ん で く れ た 」 と 、 そ れ を 引 き 受 け た 本 人 を ね

ぎ ら い ま し ょ う 。 自 殺 企 図 や 暴 力 と い っ た 危

機 的 状 況 は 、 変 化 し た い と い う 願 い や 相 談 へ

の 期 待 の 表 れ で あ る 場 合 も あ り ま す 。 本 人 の

主 観 的 な 期 待 を 尊 重 し 、 肯 定 的 に と ら え な お

す と い う 作 業 が 必 要 な の で す 。 本 人 の 期 待 や

動 機 に つ い て の 詳 細 は Ⅳ 章 1 節 1 項 を 参 照 し

て く だ さ い 。    

4 ) 今 困 っ て い る こ と を 、 本 人 が 言 葉 で 表 現

す る

  期 待 と は 別 に 、 本 人 が 今 、 何 に 困 っ て い る

か 尋 ね て み ま し ょ う 。 「 ひ き こ も り 」 に 困 っ

て い る の は 自 明 か も し れ ま せ ん が 、 そ の ど こ

に ど ん な ふ う に 困 っ て い る か を 聞 い て み ま す

あ る い は 、 本 人 は 「 ひ き こ も り 」 と は 直 接 関

係 の な い こ と に 困 っ て い る 場 合 も あ り ま す 。

今 ま で 相 談 に こ な い で 今 来 て い る と い う こ

と は 、 本 人 の 周 り で 何 か 新 し い 出 来 事 が お き

て い る 可 能 性 を 示 唆 し て い ま す 。 「 家 族 の 誰

か が 病 気 を し た 」 「 父 親 が 引 退 し た 」 「 兄 弟

Ⅲ 援助を進めるときの原則-3 本人に会えたときの基本的態度と見立て

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が 進 学 し た 」 な ど 家 族 内 の 変 化 や ラ イ フ サ イ

ク ル 上 の 変 化 、 社 会 の 変 化 な ど が 本 人 に 影 響

を 与 え て い る も の で す 。 ど ん な つ ま ら な い こ

と で も よ い の で す 。 専 門 家 か ら 見 て つ ま ら な

く て も 、 本 人 に と っ て は 「 大 し た こ と 」 な の

で 、 口 に す る こ と が 出 来 た 場 合 は 丁 寧 に 扱 い

ま す 。

5 ) 今 困 っ て い る こ と に か か わ る い ろ い ろ な

要 素 に つ い て 、 本 人 が 言 葉 で 表 現 す る

  し ば し ば 、 本 人 は 何 か に こ だ わ っ て い て 、

関 心 の 幅 が 狭 く な っ て い ま す 。 そ こ で 、 今 困

っ て い る こ と を 言 葉 で 表 現 で き た ら 、 つ ぎ に

そ れ に ま つ わ る 出 来 事 や 経 験 を ひ と つ ひ と つ

丁 寧 に 聞 い て み ま す 。 こ の 場 合 、 「 根 掘 り 葉

掘 り 」 的 に な っ た り 、 「 深 追 い 」 し な い こ と

で す 。 援 助 者 が 本 人 の あ ら ゆ る こ と に 関 心 を

持 っ て い る こ と を 示 す だ け で 十 分 で す 。 そ れ

に よ っ て 、 本 人 の 関 心 や 気 付 き の 幅 が 少 し で

も 広 が れ ば よ い の で す 。

6 ) 今 ま で の 相 談 歴 の 結 果 に つ い て 、 本 人 が

言 葉 で 表 現 す る  

  「 ひ き こ も り 」 の 場 合 、 こ れ ま で 本 人 は 、

援 助 機 関 で あ れ 学 校 の 教 師 で あ れ 、 何 ら か の

相 談 を し た 経 験 を も っ て い る の で 、 そ れ ら の

結 果 に つ い て 聞 い て み ま す 。 こ れ は 、 今 後 の

対 応 を 考 え る こ と に 役 立 ち ま す 。 本 人 は 、 そ

れ ま で の 相 談 が う ま く い か な か っ た と 判 断 し

て い る 場 合 が 多 い の で す 。 援 助 者 は 、 本 人 の

Ⅲ 援助を進めるときの原則-3 本人に会えたときの基本的態度と見立て

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落 胆 し た 気 持 を 尊 重 し な が ら 、 「 ど の よ う に

う ま く い か な か っ た の か 」 「 多 少 役 に 立 っ た

こ と は な か っ た か 」 と い っ た こ と に つ い て 一

緒 に 考 え ま し ょ う 。 そ う す れ ば 、 同 じ 失 敗 を

繰 り 返 す 危 険 が 少 な く な り ま す 。

7 ) い ろ い ろ な 援 助 者 や 援 助 機 関 が あ る こ と

を 、 本 人 が 知 る

  今 の 社 会 に は 、 多 種 多 様 な 、 そ し て 異 な っ

た 特 徴 を も っ た 援 助 者 や 援 助 機 関 が あ り ま す

こ れ ら の 情 報 を 本 人 に 伝 え ま す 。 そ の 際 、 口

頭 だ け で な く 書 い た も の を 手 渡 し 、 具 体 的 な

利 用 の 仕 方 を 説 明 す る の が よ い で し ょ う 。 案

外 、 本 人 は こ う し た こ と に つ い て 知 ら な い の

で す 。 あ る い は 知 っ て い て も そ の 具 体 的 な 使

用 の 仕 方 を 知 ら な い の で す 。 こ の 作 業 は 、 本

人 が 継 続 的 援 助 に つ い て 複 数 の 選 択 肢 を も つ

こ と 、 そ れ ら を 主 体 的 に 選 択 で き る 可 能 性 を

知 る こ と を 意 味 し て い ま す 。 そ し て 「 こ こ で

失 敗 し て も 別 が あ る 」 と い う 安 心 感 を 与 え ま

す 。

8 ) 今 出 来 て い る こ と を 本 人 が 言 葉 で 表 現 し

持 続 す る 。 ど ん な 風 に な れ た ら よ い か を 援 助

者 と 一 緒 に 考 え る

  以 上 の よ う な こ と に 留 意 し な が ら 、 援 助 者

は 本 人 と 一 緒 に 「 ど ん ふ う に な れ た ら い い と

思 う か 」 「 そ の た め に は ま ず ど ん な こ と が で

き た ら い い か 」 「 今 出 来 て い る こ と は ど ん な

こ と か 」 な ど に つ い て 考 え ま す 。 こ れ は 、 本

Ⅲ 援助を進めるときの原則-3 本人に会えたときの基本的態度と見立て

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Page 42: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

人 と 援 助 者 が 共 有 す る 行 動 目 標 を 作 る 作 業 で

す が 、 そ れ ら は ご く ご く 小 さ な 具 体 的 な 行 動

レ ベ ル で 作 り 上 げ ら れ る 必 要 が あ り ま す 。 こ

れ が で き る と 、 援 助 が 少 し ず つ 動 き 出 し ま す

早 急 な 変 化 を 求 め る の で は な く 、 ま ず は 「 歯

を 磨 く 」 「 近 く に 買 い 物 に 行 け る 」 な ど 、 今

出 来 て い る こ と が と て も 大 切 で 、 そ れ を 続 け

て い く こ と が 貴 重 で あ る と い う メ ッ セ ー ジ を

伝 え る こ と が 重 要 で す 。

  最 初 、 「 ど う な り た い か 」 に つ い て は っ き

り し た こ と が 言 え る の は と て も 難 し い こ と で

す 。 「 わ か ら な い 」 か ら 「 ひ き こ も り 」 を 続

け て い る 、 と も 言 え る わ け で 、 最 初 こ の 話 題

を め ぐ る や り と り は 曖 昧 な も の に な り が ち で

す 。 し か し 、 援 助 者 が 本 人 の 可 能 性 を 信 じ 、

「 未 来 に は い ろ い ろ な 選 択 肢 も あ る は ず 」 と

い う こ と を 強 調 し つ つ 、 と も に 考 え て い く う

ち に 「 「 ひ き こ も り 」 な が ら も 、 こ ん な こ と

が 出 来 て い た 、 と か こ ん な ふ う に で き た ら 」

「 調 子 が 良 い と き に は 、 こ う い う こ と が し て

み た い 」 と い う こ と が 作 り 上 げ ら れ て い く の

で す 。 も ち ろ ん 、 こ の よ う に と り あ え ず 立 て

ら れ た 目 標 は 、 こ れ か ら 始 ま る 援 助 や 相 談 の

中 で ど ん ど ん 姿 を 変 え て い き 、 そ れ ら に そ っ

て 援 助 方 法 も 多 様 化 し て い き ま す 。

9 ) 本 人 が ま た 来 て み よ う と い う 気 持 を 示 す

本 人 と の 出 会 い は 、 ど ん な 場 合 で あ れ 1 回

で 終 わ ら せ な い こ と が 大 切 で す 。 本 人 の 相 談

に 対 す る 期 待 に よ っ て も 違 い ま す が 、 こ こ ま

Ⅲ 援助を進めるときの原則-3 本人に会えたときの基本的態度と見立て

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で 述 べ て き た よ う に 、 本 人 の 希 望 を 尊 重 し た

「 や っ て み た い こ と 」 と い う 、 具 体 的 で ご く

小 さ な 行 動 目 標 を 作 り 上 げ た な ら ば 、 必 ず 次

の ア ポ イ ン ト メ ン ト を と る こ と が 大 切 で す 。

小 さ な 行 動 目 標 は 、 「 本 人 の 質 問 に 対 し 、 今

度 来 る ま で に 援 助 者 が 調 べ て く る 」 と い う こ

と も あ り ま す 。 他 の 援 助 機 関 に 紹 介 す る こ と

に な っ た 場 合 は 「 そ の 援 助 機 関 へ 行 く 」 と い

う こ と が 目 標 で す か ら 、 そ の 結 果 ど う な っ た

か に つ い て 相 談 す る た め に 再 度 会 う 必 要 が で

て き ま す 。 こ の よ う に 共 通 の 目 標 を 持 ち な が

ら 、 継 続 的 に 会 う と い う こ と が 、 「 何 か 出 来

そ う だ 」 「 ま た 来 て み よ う 」 と い う 気 持 ち を

引 き 起 こ す こ と に 役 立 ち ま す 。 さ ら に 、 こ れ

ま で の や り と り か ら 得 ら れ た 情 報 を も と に 簡

潔 な 問 題 の 見 立 て を 伝 え る こ と も 、 今 後 の 相

談 へ つ な げ る 役 割 を 持 ち ま す 。 総 じ て 言 え ば

最 初 の 出 会 い が そ の 場 限 り で の 対 応 に な ら ず

長 期 的 取 り 組 み に 繋 が る よ う な 姿 勢 と 対 応 が

必 要 な の で す 。

見 立 て

  見 立 て る と い う 作 業 は 、 こ れ ま で 述 べ た よ

う な 大 目 標 と 9 つ の 小 目 標 を 本 人 と 援 助 者 が

達 成 す る た め の 努 力 で す 。 そ の 中 で 得 ら れ た

情 報 を 手 が か り に 、 援 助 者 が 問 題 を 整 理 す る

た め の チ ェ ッ ク リ ス ト を 以 下 に あ げ ま す 。 つ

ま り 、 見 立 て は 、 診 断 分 類 よ り も っ と 広 い 視

野 か ら お こ な う 問 題 の 理 解 と 援 助 計 画 の 立 案

を 意 味 し ま す 。 な お 精 神 医 学 的 な 診 断 に 関 す

Ⅲ 援助を進めるときの原則-3 本人に会えたときの基本的態度と見立て

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Page 44: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

る こ と は Ⅱ 章 「 関 与 の 初 期 段 階 に お け る 見 立

て に つ い て 」 を 参 照 し て く だ さ い 。

1 ) 問 題 の 評 価

a.入院などの即座の対応の必要性b.自殺の危機を考えるc.現在のストレス状況を考えるd.本人・家族に役立つ社会的資源を知るe.本人の長所を知るf.今困っていることを知るg.相談歴とその結果を知るh.相談への期待を知るi. 継続的援助の可能性の評価

2 ) 留 意 す る こ と

  援 助 者 は 、 こ の 見 立 て の 作 業 に お い て 次 の

よ う な こ と に 留 意 す る 必 要 が あ り ま す 。

a . 神 話 に と ら わ れ な い : 特 定 の 概 念 や 流 行

の 考 え 方 に と ら わ れ ず 多 角 的 に 理 解 し ま す

b . 縄 張 り 意 識 を 捨 て る : ネ ッ ト ワ ー キ ン グ

の た め に 大 切 で す

c . 多 忙 を 理 由 と し な い : 失 敗 は し ば し ば 労

を 惜 し む こ と か ら き ま す

d . 欠 点 の 強 調 に 陥 ら な い : 本 人 の 長 所 を 発

見 す る こ と が 大 切 で す

e . 単 眼 思 考 に 陥 ら な い : 幅 の 広 い 、 複 眼 的

思 考 が 大 切 で す

Ⅲ 援助を進めるときの原則-3 本人に会えたときの基本的態度と見立て

34

Page 45: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

4節 ネットワークを通した「ひきこもり」

への援助

  「 ひ き こ も り 」 は 原 因 が ひ と つ に 求 め ら れ

る よ う な 「 単 一 な 疾 患 」 で は な い の で 、 地 域

保 健 の 立 場 か ら は 多 面 的 な 関 わ り を 必 要 と し

ま す 。 ま た 援 助 の 際 に 生 物 ・ 心 理 ・ 社 会 的 な

側 面 か ら の ア プ ロ ー チ が 必 要 と な り ま す が 、

結 局 目 標 は 再 社 会 化 な の で 、 多 様 な 人 が 関 わ

る ( 多 様 な 機 関 が 関 わ る ) よ う な 、 よ り 社 会

に 近 い 形 が 望 ま し い と い え ま す 。

  一 方 地 域 精 神 保 健 福 祉 サ ー ビ ス と し て 予 防

的 側 面 か ら 考 え る と 、 一 次 予 防 ・ 二 次 予 防 ・

三 次 予 防 の そ れ ぞ れ に ネ ッ ト ワ ー ク が 必 要 と

さ れ ま す 。  

必 要 と さ れ る ネ ッ ト ワ ー ク

① 早 期 介 入 ・ 予 防 の た め の ネ ッ ト ワ ー ク ( 教

育 領 域 と の 連 携 )

子 育 て 支 援 、 ハ イ リ ス ク 児 へ の 支 援

不 登 校 の 遷 延 化 予 防 の ネ ッ ト ワ ー ク

②緊 急 対 応 ネ ッ ト ワ ー ク ( 医 療 ・ 司 法

領 域 と の 連 携 )

③回 復 支 援 ネ ッ ト ワ ー ク ( 地 域 の 社 会

資 源 と の 連 携 )

家 族 の 継 続 相 談 か ら 社 会 資 源 と の 接 触 へ

緊 急 対 応 で の 処 遇 か ら 引 き 続 い て の 支 援

Ⅲ 援助を進めるときの原則-4 ネットワークを通した「ひきこもり」への援助

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Page 46: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

こ こ で は 「 回 復 支 援 ネ ッ ト ワ ー ク 」 の う ち

主 と し て 継 続 相 談 か ら 社 会 資 源 へ の ネ ッ ト ワ

ー ク 形 成 に つ い て 述 べ る こ と に し ま す 。

  先 に 述 べ ら れ て い る よ う に 、 「 ひ き こ も

り 」 の 支 援 は 家 族 相 談 か ら 始 ま り ま す 。 た ら

い 回 し に な ら な い よ う に い っ た ん 受 け と め て

継 続 相 談 と す る 必 要 が あ り ま す が 、 多 面 的 問

題 で あ る 以 上 、 必 ず 他 の 援 助 機 関 や 社 会 資 源

と 連 携 す る 、 あ る い は 紹 介 す る 必 要 が 生 じ て

き ま す 。 む し ろ 逆 に 言 え ば ひ と つ の 機 関 で ず

っ と 援 助 し よ う と 思 わ な い こ と も 大 事 な の で

す 。 そ う す る と 効 果 的 に 「 連 携 す る 仕 方 」 が

大 事 だ と い う こ と に な り ま す 。

三 者 関 係 を 作 る

  例 え ば 、 保 健 所 で 相 談 を 受 け て 精 神 保 健 福

祉 セ ン タ ー へ 心 理 的 ・ 医 療 的 ア セ ス メ ン ト あ

る い は 家 族 教 室 参 加 の た め に 紹 介 す る 場 合 を

考 え て み ま す 。 そ の 場 合 の 原 則 は 以 下 の よ う

な も の で す 。

①紹 介 は 機 関 宛 で な く 、 あ る い は 部

署 宛 で な く 「 個 人 」 宛 に お こ な う

②紹 介 し た 後 も 家 族 か ら 報 告 を し

に 来 て も ら い 相 談 を 継 続 す る

③家 族 の 了 解 を 取 っ て 紹 介 先 と 役

割 分 担 を 協 議 し 、 継 続 す る

  紹 介 す る と き に は 、 そ れ ぞ れ の 地 域 で そ れ

ま で の 機 関 同 士 の ル ー ル が あ る か ら 、 そ れ を

無 視 す る わ け に は 行 き ま せ ん が 、 紹 介 は で き

Ⅲ 援助を進めるときの原則-4 ネットワークを通した「ひきこもり」への援助

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Page 47: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

る 限 り 「 応 対 や サ ー ビ ス の 内 容 が よ く わ か っ

て い る 個 人 宛 に 」 お こ な う の が 原 則 で す 。 さ

ら に 「 紹 介 」 が 家 族 に と っ て 「 見 捨 て る 」

「 た ら い 回 し 」 に な ら な い た め に 、 「 紹 介 し

て も こ ち ら を 継 続 す る 」 こ と が 重 要 で す 。 こ

れ に よ っ て 紹 介 を す る こ と で 関 係 機 関 ( 関 係

す る 人 ) が 増 え る こ と に な る の で す 。

と く に 医 療 機 関 へ の 紹 介 は つ な が り を す ぐ

に き ら な い こ と が 大 切 で す 。 た と え 医 療 的 関

わ り が 主 に な っ て も 、 将 来 的 に 「 地 域 で 生 活

す る 」 部 分 は 残 る し 、 家 族 は そ れ ま で 通 り 地

域 で 生 活 し て い る の で 相 談 は 継 続 す る 必 要 が

あ り ま す 。

  紹 介 先 の 機 関 ( 人 ) と の 協 議 は 、 よ く 知 っ

て い る 紹 介 先 で あ れ ば 事 前 に お こ な う こ と に

な り ま す が 、 紹 介 先 で 話 を し た 上 で 役 割 分 担

を 決 め る こ と に な り ま す 。 例 え ば 「 セ ン タ ー

で の 家 族 教 室 が 月 1 回 で 、 保 健 所 で の 相 談 が

そ の 2 週 後 で 都 合 月 2 回 家 族 が 行 く と こ ろ が

あ る 形 に す る 。 緊 急 時 の 連 絡 先 は 保 健 所 」 な

ど と 決 め ま す 。 同 じ 様 な 家 族 相 談 を 2 カ 所 で

お こ な う の に 意 味 が あ る か と 言 う こ と に な り

ま す が 、 相 談 に 行 け る 場 所 は 1 カ 所 よ り 複 数

が よ い と 考 え ま す 。 担 当 者 が 休 み の 場 合 や 、

立 場 の 違 う 見 方 が あ る 方 が 、 よ り 「 社 会 に 近

い 」 か た ち だ か ら で す 。

  こ れ で ネ ッ ト ワ ー ク の 基 本 で あ る 3 者 関 係

が で き ま す 。 こ れ と 同 じ パ タ ー ン で 、 紹 介 先

の 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー が 医 療 機 関 を 紹 介 し

な が ら 家 族 教 室 も 継 続 す る 、 あ る い は 保 健 所

Ⅲ 援助を進めるときの原則-4 ネットワークを通した「ひきこもり」への援助

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Page 48: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

で は 、 市 町 村 の 保 健 師 さ ん に 依 頼 し な が ら 相

談 を 継 続 す る 、 な ど と そ れ ぞ れ の で き る 範 囲

で 増 や し て い け ば ネ ッ ト ワ ー ク が で き て い き

ま す 。

そ れ ぞ れ の 機 関 内 で の ネ ッ ト ワ ー ク の 増 大

と 強 化

  保 健 所 、 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー そ れ ぞ れ の

機 関 の 中 で も 、 「 ひ と り で 」 対 応 し よ う と し

な い こ と が 大 切 で す 。 先 に 述 べ た 「 3 者 関

係 」 を 作 る や り 方 は 、 同 じ サ ー ビ ス 機 関 の 中

で も チ ー ム ワ ー ク と 連 携 を 作 る の に 有 効 で す

そ れ ぞ れ の 職 種 や 職 制 に よ っ て 役 割 分 担 を 決

め て お き ま す 。 こ れ は 担 当 者 が 休 ん だ と き に

も 、 他 の 人 が 対 応 で き る よ う に す る た め で も

あ り ま す が 、 本 人 が 登 場 し た と き に 「 す で に

形 成 さ れ て い る 肯 定 的 な 社 会 関 係 」 の 中 に 入

っ て く る 、 と い う こ と の た め で も あ り ま す 。

「 複 数 で 関 わ る 」 「 重 層 的 な サ ー ビ ス 」 と い

う 考 え 方 が 大 事 な の で す 。

新 し い 社 会 資 源 の 開 拓

  ● す で に あ る 社 会 資 源

医 療       精 神 科 ・ 心 療 内 科 ・ 小 児

科 ・ 産 婦 人 科

保 健       保 健 所 ・ 精 神 保 健 福 祉 セ ン

タ ー ・ 市 町 村 保 健 師

福 祉       児 童 相 談 所

教 育       教 育 セ ン タ ー ・ 市 町 村 教 育

Ⅲ 援助を進めるときの原則-4 ネットワークを通した「ひきこもり」への援助

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Page 49: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

相 談 所 ・ 学 校

司 法       思 春 期 対 策 に 関 す る 窓 口

( 電 話 ・ 補 導 員 )

一 般       市 町 村 相 談 所 ( 女 性 相 談 )

助 産 ( 子 育 て 支 援 )          

  最 初 の 窓 口 と な っ た り 、 そ の 後 も 相 談 に 応

ず る こ と の で き る 機 関 は 、 実 は か な り た く さ

ん あ り ま す 。 け れ ど も 、 そ の ど れ も が 「 ひ き

こ も り 」 に つ い て の 専 門 的 な 場 所 で は な く 、

本 人 が 来 な い と 相 談 継 続 す る の が 難 し い 場 所

で あ っ た り し ま す 。 し か し 、 う ま く 依 頼 す る

こ と に よ っ て 、 保 健 領 域 以 外 で も 少 し 役 割 を

担 っ て も ら う こ と も 可 能 で す 。 学 齢 の 時 期 を

過 ぎ る と 児 童 相 談 所 や 学 校 、 教 育 相 談 所 な ど

の 教 育 関 係 は 難 し い よ う に も 思 え ま す が 、 学

校 時 代 の い い 関 係 を 取 れ て い た 先 生 や 部 活 動

の 先 生 な ど が 有 効 な 社 会 資 源 と な る 場 合 が あ

り ま す 。 ま た 家 庭 内 暴 力 な ど が あ る と き に 近

く の 駐 在 所 の 警 察 官 が 訪 問 し て 家 族 の 力 に な

っ て い る こ と も あ る の で す 。 た だ 職 務 の 性 質

上 、 他 機 関 と の 連 携 が 取 り に く い 場 合 が あ る

の で 個 人 的 、 一 時 的 な 援 助 に か ぎ ら れ て し ま

っ て い る こ と が 多 く 、 連 携 を 取 る 必 要 が あ り

ま す 。

  医 療 は 多 く の 場 合 本 人 主 体 で 、 と く に 明 確

な 疾 患 で は な い 家 族 の 相 談 は 近 所 の 診 療 所 で

も 継 続 が 難 し い の で す が 、 保 健 領 域 が 主 に 関

わ っ て い る と き に は 、 一 部 の 役 割 を に な っ て

く れ る 場 合 が あ り ま す 。 精 神 科 領 域 だ け で は

Ⅲ 援助を進めるときの原則-4 ネットワークを通した「ひきこもり」への援助

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Page 50: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

な く 歯 科 医 や ア ト ピ ー 、 喘 息 な ど の 慢 性 疾 患

の 主 治 医 と 市 町 村 保 健 師 の 連 携 で 社 会 的 場 面

を 増 や し て い け る 場 合 も あ り ま す 。

●民 間 の 資 源 :

最 近 は 「 ひ き こ も り 」 を 対 象 と し た 、 ボ

ラ ン テ ィ ア グ ル ー プ 、 家 族 会 、 フ リ ー ス

ペ ー ス な ど も 徐 々 に 増 え て い ま す 。 そ う

い う と こ ろ と も 当 然 ネ ッ ト ワ ー ク を 作 っ

て 行 く 必 要 が あ り ま す 。 と は い う も の の 、

ま だ こ う い っ た 民 間 の 社 会 資 源 は 一 部 地

域 に 限 ら れ て い ま す 。 今 あ る 社 会 資 源 と

ネ ッ ト ワ ー ク を 作 る と い う よ り も 、 そ う

い っ た も の に 発 展 し て い く 芽 を 育 て る と

い う か た ち の ネ ッ ト ワ ー キ ン グ が 要 請 さ

れ て い ま す 。

 

●イ ン フ ォ ー マ ル な 社 会 資 源 :

家 族 が 持 っ て い る 社 会 資 源 を 発 見 し 広 げ

る 事 も 重 要 で す 。 た と え ば 本 人 の 友 人 、

家 族 の 友 人 、 親 戚 、 近 隣 、 宗 教 関 係 な ど

で す 。 遠 く に 離 れ て い る 兄 弟 な ど で も 意

外 に 影 響 力 が あ る 場 合 が あ り 、 本 人 へ の

働 き か け の 有 効 性 と と も に 、 家 族 が 地 域

社 会 や 親 類 な ど の 中 で 孤 立 し な い こ と が

結 果 的 に は よ い 方 へ 進 む の で す 。

●ど う や っ て 普 段 か ら 連 携 を と る か :

      ① 研 修 会 や 講 習 会 を ネ ッ ト ワ ー ク

形 成 の 場 所 と し て 考 え る

      ② 家 族 教 室 を ネ ッ ト ワ ー ク の 場 所

Ⅲ 援助を進めるときの原則-4 ネットワークを通した「ひきこもり」への援助

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Page 51: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

と し て 考 え る

  研 修 会 や 講 演 会 は い ろ ん な 機 関 に 呼 び

か け ま す 。 家 族 教 室 を お こ な う と き に ス

タ ッ フ は 実 施 機 関 だ け で は な く 他 の 機 関

の 人 に も 参 加 し て も ら う よ う に し ま す 。

情 報 提 供 の 役 目 を 取 っ て も ら っ て も い い

し 、 企 画 段 階 か ら 参 加 し て も ら っ て も よ

い で し ょ う 。

本 人 を 支 え る ネ ッ ト ワ ー ク

  本 人 が こ の 様 な サ ー ビ ス の ネ ッ ト ワ ー ク に

登 場 し て き て も 、 い き な り 相 談 機 関 の 担 当 者

と 深 い 関 係 を 結 ぶ こ と は あ り ま せ ん 。 む し ろ

そ う い う 結 び つ き 方 は 多 く の 「 ひ き こ も り 」

を 続 け る 人 に と っ て は 怖 い こ と で す 。 そ の た

め 、 最 初 は 当 た り 障 り の な い 関 係 が 少 し ず つ

あ る 方 が よ い で し ょ う 。 そ の た め に は 、 家 族

が 「 た っ た ひ と り の 偉 い 専 門 家 」 の と こ ろ へ

本 人 を 連 れ て く る 、 と い う パ タ ー ン の イ メ ー

ジ よ り も 、 家 族 を 支 え て い る い ろ ん な 普 通 の

人 の 集 ま り の 安 全 な ネ ッ ト ワ ー ク の 中 へ 入 る

と い う イ メ ー ジ が よ い で し ょ う 。 信 頼 で き る

個 人 的 関 係 は 重 要 で す が 、 そ の 関 係 は 「 支 援

ネ ッ ト ワ ー ク の 代 表 」 と い う か た ち で つ な が

る の が 望 ま し い の で す 。

  家 族 の 継 続 相 談 か ら 、 訪 問 な ど を き っ か け

に し て 援 助 者 と 本 人 の 関 係 が で き た り 、 あ る

い は 本 人 が 相 談 機 関 や 医 療 機 関 の カ ウ ン セ リ

ン グ に 、 あ る い は フ リ ー ス ペ ー ス に 通 う な ど

Ⅲ 援助を進めるときの原則-4 ネットワークを通した「ひきこもり」への援助

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Page 52: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

動 き 始 め た 場 合 も 、 そ れ ま で の 家 族 を 支 え た

ネ ッ ト ワ ー ク は 維 持 す る 必 要 が あ り ま す 。 で

き れ ば 本 人 と 家 族 の 担 当 者 は 違 う 方 が い い し

必 然 的 に そ う な る で し ょ う 。 そ こ で も 本 人 を

含 め た 家 族 へ 重 層 的 に 支 援 サ ー ビ ス が あ る 、

と い う か た ち が 理 想 的 で す 。

  こ の よ う に 、 本 人 が 登 場 し 継 続 的 に 接 触 で

き る 場 合 に は 、 そ れ ま で の 相 談 機 関 の ネ ッ ト

ワ ー ク に 加 え て 地 域 に あ る 精 神 障 害 者 の リ ハ

ビ リ テ ー シ ョ ン の た め の 施 設 や サ ー ビ ス が 使

え る 場 合 が あ り ま す 。 地 域 生 活 支 援 セ ン タ ー

作 業 所 、 ク ラ ブ ハ ウ ス 、 セ ル フ ヘ ル プ グ ル ー

プ 、 家 族 会 の お こ な う 支 援 活 動 、 職 業 リ ハ ビ

リ テ ー シ ョ ン の 施 設 や プ ロ グ ラ ム 、 な ど で す

現 在 で も こ う い っ た 施 設 や サ ー ビ ス に は 以 前

と 違 っ て 人 格 障 害 や 神 経 症 圏 の 利 用 者 が か な

り 増 え て お り 、 チ ー ム が 組 め て バ ッ ク ア ッ プ

が あ れ ば か な り 対 応 で き て い る 場 合 も あ り 、

重 要 な 社 会 資 源 に な り う る も の で す 。

緊 急 時 ネ ッ ト ワ ー ク

  緊 急 対 応 の た め の シ ス テ ム と ネ ッ ト ワ ー ク

に つ い て は 本 書 の 他 の と こ ろ で 述 べ ら れ て い

ま す 。 た だ こ の よ う な 司 法 、 医 療 も 含 め た 緊

急 ・ 危 機 の と き こ そ 、 関 係 諸 機 関 が 一 同 に 会

し 、 役 割 分 担 を お こ な う と き で 、 ネ ッ ト ワ ー

ク 形 成 に と っ て は 千 載 一 遇 の 機 会 で あ る と 考

え る べ き で し ょ う 。 当 然 本 人 と の 接 触 も あ る

わ け で 、 そ こ か ら ス タ ー ト す る と き に は 関 わ

っ た 諸 機 関 の ネ ッ ト ワ ー ク が 、 そ の 後 も 維 持

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Page 53: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

さ れ 、 家 族 と 本 人 へ の 支 援 ネ ッ ト ワ ー ク へ 繋

が る よ う に 考 え る べ き で す 。 い わ ば 緊 急 時 は

通 常 の 継 続 的 な ネ ッ ト ワ ー ク の 特 殊 型 と 考 え

る べ き で 、 「 ど こ か に 処 遇 す る た め 」 だ け の

ネ ッ ト ワ ー ク で は あ り ま せ ん 。 問 題 は そ の 後

に あ り 、 十 分 医 療 機 関 や 司 法 機 関 と 連 携 し て

い つ 地 域 に 戻 っ て も い い よ う な 態 勢 に し て お

く こ と が 大 事 で す 。

Ⅲ 援助を進めるときの原則-4 ネットワークを通した「ひきこもり」への援助

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Page 54: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

ケ ー ス マ ネ ー ジ ャ ー の 必 要 性

  ネ ッ ト ワ ー ク を 利 用 し て 支 援 す る 、 あ る い

は 必 然 的 に 支 援 は ネ ッ ト ワ ー ク を 必 要 と し ま

す 。 そ の 場 合 、 複 数 の 機 関 が あ る 種 統 一 的 に

と り あ え ず の 目 標 を 共 有 し て 役 割 分 担 す る こ

と が 必 要 で す 。 そ れ が 、 サ ー ビ ス の 調 整 と 統

合 で あ り 、 基 本 的 に は 家 族 、 本 人 の ニ ー ズ に

基 づ い て 行 わ れ な け れ ば な り ま せ ん 。 そ う す

る と 必 然 的 に ど こ か の 機 関 の 誰 か が ケ ー ス マ

ネ ー ジ ャ ー と し て 振 る 舞 わ な く て は な ら な く

な り ま す し 、 そ う す る こ と が 有 効 に な り ま す 。

ま と め

・ 家 族 支 援 の ス タ ー ト か ら 重 層 的 な サ

ー ビ ス を 心 が け る

・ ど こ の 機 関 も あ る 意 味 で は 非 専 門 家

な の で 一 部 ず つ 役 割 分 担 す る

・ サ ー ビ ス 提 供 機 関 同 士 、 機 関 内 の ス

タ ッ フ 同 士 も 「 ひ き こ も ら ず 」 オ ー プ ン

に 今 あ る サ ー ビ ス 機 関 、 社 会 資 源 を 少 し

ひ き こ も り 向 け に 衣 替 え す る よ う に 働 き

か け る こ と

Ⅲ 援助を進めるときの原則-4 ネットワークを通した「ひきこもり」への援助

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Ⅳ章.具体的な援助技法は じ め に

  「 ひ き こ も り 」 に 関 す る 相 談 ・ 援 助 は 増 加

の 傾 向 に あ り ま す が 、 本 人 の 来 談 が な い こ と

や 、 決 定 的 な 援 助 方 法 が な い こ と な ど に よ り

長 期 化 す る こ と が 多 く な っ て い ま す 。 「 ひ き

こ も り 」 事 由 と す る 相 談 は 家 族 か ら の も の も

多 く 、 援 助 の 対 象 を 特 定 で き な い こ と も 、 問

題 の 一 因 と な っ て い ま す 。

  ひ き こ も っ て い る 人 々 に 対 す る 援 助 に あ た

っ て は 、 自 宅 を 中 心 と し た 生 活 か ら 社 会 へ の

参 加 に 至 る 継 続 的 な 流 れ の な か で 、 さ ま ざ ま

な ア プ ロ ー チ に よ っ て 変 化 を 引 き 起 こ し て い

く こ と が 必 要 で す 。 ま た 、 本 人 に 対 す る 援 助

の ほ か に 、 家 族 へ の 援 助 を 積 極 的 に 行 っ て い

く 必 要 も あ り ま す 。

  前 章 で 述 べ た よ う に 、 「 ひ き こ も り 」 を 主

訴 と し て 相 談 を お こ な う ケ ー ス に は 、 要 因 や

背 景 と い っ た 点 で 多 様 性 が 見 ら れ る た め 、 一

概 に 「 ひ き こ も り 」 に 有 効 な 援 助 技 法 を 論 じ

る こ と は で き ま せ ん 。 個 々 の ケ ー ス に 対 し て

「 ひ き こ も り 」 の 状 態 を 適 切 に 判 断 し 、 達 成

す る こ と が で き る 援 助 方 針 を 立 て て い く こ と

が 必 要 で す 。 こ の 際 、 精 神 科 リ ハ ビ リ テ ー シ

ョ ン の 枠 組 み に と ど ま ら ず 、 保 健 ・ 福 祉 ・ 教

育 ・ 労 働 な ど の 各 領 域 に わ た る 活 動 を 加 え 、

本 人 や 家 族 と の 個 別 相 談 、 各 種 の グ ル ー プ ワ

ー ク 、 就 労 や 生 活 の サ ポ ー ト 、 さ ら に は 危 機

介 入 的 な 関 わ り な ど を お こ な っ て い く こ と が

Ⅳ 具体的な援助技法 46

Page 57: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

初回面接(本人/家族) ・直接来談 ・電話・インターネット相談

医療機関との連携 精神療法 薬物療法

家族教室

自助グループ

援助方針ケースマネージメント

本人のニーズへの援助

就労支援 住居の提供 学習サポート ・ ・

社会参加の拡大

デイケア フリースペース SSTグループ ・ ・ ・

訪問サポート 直接来談の勧奨 家族支援

社会資源との連携 社会福祉協議会 障害者福祉施設 ・ ・

重 要 に な り ま す 。

図:「ひ き こ も り 」に 対す る 援助の ス キ ーム

参考文献:近藤直司編 「ひきこもり」ケースの家族援助 2001  金剛出版

1節 面接のポイント-1 初回面接

「 ひ き こ も り 」 へ の 相 談 の 初 回 面 接 も 、 通

常 の 医 療 ・ 保 健 ・ 福 祉 な ど の 援 助 の 初 回 面 接

と 基 本 的 に 大 き く か わ る こ と は あ り ま せ ん 。

し か し 「 ひ き こ も り 」 の 問 題 は 、 家 族 だ け の

相 談 で 始 ま る こ と が 多 い と い う 特 徴 や 、 本 人

が 精 神 疾 患 か ど う か 特 定 し に く い な ど の 特 徴

も あ り ま す 。 し た が っ て 、 前 述 し た よ う に ま

ず は 家 族 を 相 談 の 対 象 者 と し て 考 え 、 家 族 の

支 援 に 焦 点 を 絞 る と い う ス タ ン ス が 援 助 者 に

は 求 め ら れ ま す 。 こ の こ と を 念 頭 に お い て 、

ま ず 初 回 面 接 の 特 殊 な 位 置 付 け を 理 解 し て お

き ま す 。

Ⅳ 具体的な援助技法 47

Page 58: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

初 回 面 接 の 位 置 付 け を 考 え て お き ま し ょ う

( 1 ) 初 め て の 出 会 い で す か ら 、 双 方 に 、

何 が 起 き る か 予 測 が つ か な い と い う こ と

に よ る 強 い 不 安 や 緊 張 が お き ま す 。

( 2 ) 特 定 の 精 神 ・ 心 理 療 法 と 違 っ て 、 は

っ き り と 定 ま っ た 技 法 が あ る わ け で は あ

り ま せ ん 。

( 3 ) 決 ま っ た 場 所 で 行 わ れ る と は 限 り ま

せ ん 。 家 庭 、 相 談 室 、 と き に は 相 談 機 関

の 廊 下 な ど さ ま ざ ま で す 。

( 4 ) 「 初 め よ け れ ば す べ て よ し 」 と い う

の は や や 大 げ さ で す が 、 初 対 面 の 印 象 は

本 人 や 家 族 に と っ て 強 い 印 象 を あ た え ま

す 。

つ ま り 、 初 回 面 接 で 援 助 者 に は 臨 機 応 変 な 柔

軟 性 が 求 め ら れ ま す 。

初 回 面 接 に 臨 む 人 の 一 般 的 心 理 を 理 解 し て

お き ま し ょ う                    

そ れ だ け に 、 初 回 面 接 に 来 る 人 の 一 般 的 な

心 理 を 理 解 し て お く こ と が 、 「 ひ き こ も り 」

本 人 や 家 族 を 理 解 す る 糸 口 と し て 役 に 立 ち ま

す 。

1 ) 援 助 者 は 、 無 力 感 と 挫 折 感 に 共 感 し ま す

自 分 ( 達 ) で 問 題 を 解 決 で き ず 、 刀 折 れ 矢 尽

き て 相 談 に 来 る の で す か ら 、 見 か け は ど う あ

れ 、 ひ ど い 無 力 感 や 挫 折 感 を 抱 い て い ま す 。

ま た 、 援 助 者 に 頼 ら ざ る を 得 な い と い う 状 況

も 本 人 ( 達 ) に と っ て は 苦 痛 な も の で す 。

Ⅳ 具体的な援助技法 48

Page 59: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

2 ) 援 助 者 は 、 肯 定 的 動 機 を 確 認 し ま し ょ う

  肯 定 的 動 機 と は 、 相 談 を す る こ と に よ っ て

何 ら か の 利 益 を 期 待 す る と い う 心 理 で す が 、

こ れ に は 話 を 聞 い て も ら い た い 、 理 解 し て も

ら い た い 、 問 題 を 解 決 し た い と い う 比 較 的 合

理 的 な 場 合 か ら 、 即 座 の 解 決 を 求 め た り 、 す

べ て 解 決 し て も ら い た い な ど 極 端 な も の ま で

あ り ま す 。 こ れ を 、 確 認 す る の は 次 の ス テ ッ

プ に 進 む 大 切 な 一 歩 で す 。

3 ) 援 助 者 は 、 否 定 的 動 機 に も 配 慮 し ま す

  先 に 述 べ た よ う に 、 相 談 す る こ と に は 不 安

や 緊 張 が 付 き ま と い ま す 。 こ れ ら の 不 安 を 読

み 取 り 、 言 葉 で 伝 え る こ と は 本 人 や 家 族 と の

協 力 関 係 を 作 っ て い く 第 一 歩 に な り ま す 。 次

に あ げ る の は 、 初 回 面 接 で も っ と も よ く 見 受

け ら れ る 不 安 で す 。

a. 何 か 自 分 に 不 利 益 な こ と を 援 助 者 は す る の

で は な い か

b. 自 分 を 援 助 者 は ど う 評 価 す る の か 、 馬 鹿 に

し た り し な い だ ろ う か  

c. 他 人 で あ る 援 助 者 に 自 分 の こ と を 知 ら れ る

の は と て も 恥 ず か し い

d. 援 助 者 の 言 う こ と を 聞 く と 、 自 分 を 維 持 で

き な く な り 、 援 助 者 の 思 う ま ま に さ れ る の

で は な い か

e. こ ん な こ と 言 っ た ら 援 助 者 に 無 視 さ れ 、 も

う 援 助 し て も ら え な く な る の で は な い か

f. こ の 援 助 者 は 一 体 ど ん な 人 な の か 、 信 用 し

Ⅳ 具体的な援助技法 49

Page 60: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

て よ い の だ ろ う か

4 ) 「 自 家 製 の 診 断 」 を 大 切 に し ま し ょ う

ど ん な 人 で あ れ 他 者 に 相 談 す る と き に 、 自

分 な り の 判 断 を 下 し て い る も の で す 。 こ れ を

自 家 製 の 診 断 と い い ま す 。 こ れ は 、 専 門 家 か

ら 見 る と 理 屈 に 合 わ な か っ た り 、 曖 昧 だ っ た

り す る こ と が 多 い の で す が 、 そ れ で も 本 人

( 達 ) は 懸 命 な 努 力 を し て 作 り 上 げ た も の で

す 。 「 私 た ち の せ い で 、 こ の 子 は 「 ひ き こ も

り 」 に な っ た 」 と い う の も そ の ひ と つ で す 。

ま ず 、 援 助 者 は 、 本 人 ( 達 ) が 作 っ た 主 観 的

イ メ ー ジ で あ る 「 自 家 製 の 診 断 」 を 、 頭 か ら

否 定 せ ず 、 尊 重 す る と こ ろ か ら ス タ ー ト し ま

し ょ う 。

5 ) 援 助 の 中 で は 、 「 エ ン パ ワ メ ン ト 」 に 力

点 を お き ま し ょ う

エ ン パ ワ メ ン ト と は 人 が 「 自 ら 関 わ る 問 題

状 況 に お い て 生 活 主 体 者 と し て 自 己 決 定 能 力

を 高 め 、 自 己 を 主 張 し 、 生 き て い く 力 を 発 揮

し て い く こ と 」 で す 。 具 体 的 な 相 談 の 場 で 現

わ れ る 姿 と し て は 「 人 が 自 身 を 肯 定 で き 、 気

持 ち を 楽 に し て 、 対 処 の 可 能 性 を 見 出 し 、 か

つ 、 力 量 が 増 え る こ と 」 と い う こ と が で き ま

し ょ う 。 「 ひ き こ も り 」 の 援 助 の 第 一 歩 は 、

ま ず 相 談 に 訪 れ た 家 族 が エ ン パ ワ ー さ れ る こ

と と い う こ と が で き ま す 。

Ⅳ 具体的な援助技法 50

Page 61: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

初 回 面 接 で の 援 助 技 法 の 実 際

  こ れ ま で 述 べ た こ と を 総 論 と す る な ら 、 次

に 述 べ る こ と は 各 論 で す 。

1 ) 出 会 う 前 に ほ ん の 少 し 考 え る 時 間 を 取 り

ま し ょ う

初 対 面 と は い っ て も 、 援 助 者 は 事 前 に 本 人

や 家 族 に つ い て 多 少 の 情 報 を も っ て い ま す 。

名 前 、 年 齢 、 性 は ど ん な 場 合 で も 分 っ て い ま

す し 、 紹 介 状 が あ れ ば も っ と 詳 し い こ と も 分

っ て い ま す 。 5 分 で も 6 分 で も よ い の で す が

そ れ ら の 情 報 を 確 認 し た り 、 そ れ ら を も と に

ど ん な 家 族 か 、 ど ん な 人 か を 一 人 で 思 い 描 い

て 見 ま す 。 こ の 作 業 は 、 そ れ 以 前 の 仕 事 に 区

切 り を つ け 、 こ れ か ら 始 ま る 面 接 に 対 す る 余

裕 を つ く る の に 役 立 ち ま す 。 い わ ば 、 心 の 準

備 体 操 な の で す 。

2 ) 出 会 っ た と き 、 来 所 で き た こ と ・ こ こ ま

で こ ぎ つ け た こ と を ね ぎ ら う こ と か ら 始 め ま

し ょ う

ま ず 挨 拶 を し ま す 。 「 ○ ○ さ ん で す ね 、 私

が ○ ○ で す 」 と い っ て 、 家 族 が 複 数 の と き は

一 人 一 人 に 会 釈 を し ま す 。 こ れ は 「 私 は あ な

た 方 の 気 持 を 理 解 し よ う と し て い ま す 」 と い

う 気 持 を 伝 え る た め の 大 事 な 援 助 者 の 振 舞 い

で す 。 挨 拶 を し な が ら 、 本 人 達 が ど れ ほ ど 不

安 な の か 混 乱 し て い る の か な ど 推 し 量 っ て み

ま し ょ う 。

つ ぎ に 話 に 入 り ま す が 、 相 談 の 初 期 段 階 で

は 、 家 族 や 本 人 は 、 先 に 述 べ た 無 力 感 や 挫 折

Ⅳ 具体的な援助技法 51

Page 62: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

感 、 肯 定 的 動 機 や 不 安 ( 否 定 的 動 機 ) で 、 混

乱 し 精 神 的 な 孤 立 感 を 深 め て い ま す 。 そ の た

め 「 誰 か に 話 を き い て も ら い た い 」 と い う 気

持 ち か ら 、 援 助 者 が 何 も 言 わ ず と も 、 と め ど

な く 話 を す る 場 合 が あ り ま す 。 こ の よ う な 場

合 に は 、 ひ と ま ず 向 こ う の ペ ー ス で 話 し て も

ら う 時 間 を 設 け る こ と も 必 要 で す 。 あ る い は

こ ち ら か ら 何 か 切 り 出 す の を 待 っ て い る 場 合

も あ り ま す 。 そ の と き は 型 ど お り に 「 ど ん な

事 情 で こ ら れ ま し た か 」 と 切 り 出 せ ば よ い で

し ょ う 。 い ず れ に し て も 、 家 族 や 本 人 は 援 助

機 関 に 来 る ま で に さ ま ざ ま な 苦 労 や 葛 藤 を し

て い ま す 。 援 助 機 関 に 来 る こ と に は 、 勇 気 が

必 要 で あ っ た か も し れ ま せ ん し 、 多 く の 場 所

を 探 し て よ う や っ と 辿 り 着 い た の か も し れ ま

せ ん 。 そ の よ う な 苦 労 を 乗 り 越 え て 、 機 関 ま

で 相 談 に 来 た 彼 ら の 努 力 を ね ぎ ら う こ と は 大

切 で す 。  

ま た 、 本 人 が 来 所 で き な い た め 、 家 族 が 相

談 を し に き て い る 場 合 、 い き な り 本 人 の 来 所

を 過 度 に 要 求 す る こ と は 控 え た 方 が よ い で す

「 ご 家 族 だ け で の 相 談 で も う ま く い っ た ケ ー

ス が あ る 」 と い う こ と を 伝 え 、 本 人 の 来 所 の

有 無 に か か わ ら ず 家 族 を 援 助 す る 用 意 が あ る

こ と を 明 確 に 伝 え ま し ょ う 。

3 ) 情 報 収 集 の 目 的 は 、 原 因 さ が し で は な く

こ れ か ら に 役 立 つ 材 料 さ が し で す

「 Ⅲ . 援 助 を 進 め る と き の 原 則 」 で の べ

た よ う に 家 族 や 本 人 に つ い て 知 る と い う こ

Ⅳ 具体的な援助技法 52

Page 63: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

と の 目 的 は 、 援 助 者 と 家 族 あ る い は 本 人 と

の 共 通 の 目 標 を 立 て る こ と に あ り ま す 。 と

こ ろ で 、 イ ン テ ー ク の 面 接 は 、 援 助 機 関 の

習 慣 に よ っ て 多 少 異 な る で し ょ う が 、 現 在

の 状 態 の ほ か に 、 生 育 歴 、 家 族 歴 、 既 往 歴

な ど の 情 報 を と る こ と が 通 常 で す 。 こ の よ

う な 面 接 は 、 過 去 の ふ り か え り に な る わ け

で す が 、 時 に そ れ が 「 ひ き こ も り 」 の 原 因

さ が し や 犯 人 さ が し の 様 相 を 呈 し 、 知 ら ず

に 専 門 家 が 家 族 の 子 育 て や 対 応 の ま ず さ を

責 め て し ま っ て い る こ と が あ り ま す 。

家 族 自 身 が 何 ら か の 失 敗 の 結 果 と 「 ひ き

こ も り 」 の 状 態 を 捉 え 、 自 責 的 に な っ て い

る こ と も あ っ て 、 否 定 的 な 情 報 が 提 供 さ れ

や す い こ と も そ の 一 因 で す 。 情 報 収 集 は 過

去 の 問 題 を あ ば き た て る も の で は な く 、 こ

れ か ら 何 を し て い く こ と が よ い か を 考 え る

た め の 材 料 を 見 つ け る た め で あ る こ と を 明

言 し て か ら 始 め る の が よ い で し ょ う 。

ま た 、 エ ン パ ワ メ ン ト の 立 場 で は 、 援 助 者

は 「 家 族 が が ん ば っ て き た か ら 、 こ こ ま で 何

と か や っ て こ ら れ た の だ 」 と い う よ う に 話 を

聞 き ま す 。 そ し て 、 家 族 や 本 人 が 既 に お こ な

っ て き た 工 夫 や 対 処 を 積 極 的 に 明 ら か に し 、

そ の よ う な 工 夫 が で き た こ と を 積 極 的 に 評 価

し サ ポ ー ト し ま す 。 こ の よ う な 関 わ り の 中 で

家 族 や 本 人 が 「 自 分 が や れ て い る こ と 」 に 気

づ き 、 問 題 に つ い て の 捉 え 方 を よ り 肯 定 的 に

で き る 可 能 性 が ふ く ら む の で す 。

Ⅳ 具体的な援助技法 53

Page 64: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

4 ) 「 問 題 」 を 家 族 や 本 人 か ら 引 き 離 し 、

「 問 題 」 と 「 人 」 は 別 々 の も の と 考 え る よ う

に し ま し ょ う

初 回 面 接 で 援 助 者 は 、 家 族 や 本 人 が 、 問

題 に 対 し て 少 し 距 離 を と っ て 考 え る の に 役

に 立 つ よ う な メ ッ セ ー ジ を 、 し っ か り と わ

か り や す く 伝 え る こ と が 重 要 で す 。 「 Ⅱ 章

援 助 を お こ な う 時 の 原 則 」 の 項 で 述 べ た よ

う な 、 「 さ ま ざ ま な 原 因 が こ う さ せ た の で

あ っ て 、 子 育 て に 問 題 が あ っ た と は い え な

い 」 「 ひ き こ も り は 誰 に で も 起 こ り う る 状

態 で あ る 」 「 本 人 の な ま け や 努 力 不 足 で も

な い 」 な ど の 情 報 は 、 こ の よ う な 目 的 の メ

ッ セ ー ジ の 一 例 で す 。 時 に は 、 「 「 ひ き こ

も り 」 は 災 害 で ケ ガ を し た よ う な も の 。 何

が 原 因 だ っ た か を 探 す よ り も 、 こ れ か ら ど

う し た ら ケ ガ か ら 回 復 で き る か を 考 え る た

め に 時 間 を 使 い ま し ょ う 」 と 、 今 か ら 未 来

の 対 応 に 向 け て 話 題 が 整 理 で き る よ う な 工

夫 も 必 要 で す 。 本 人 = 「 ひ き こ も り 」 、 で

は な く 、 本 人 = 「 ひ き こ も り 」 と い う 困 難

を 抱 え た 人 、 と い う 見 方 も 大 切 で す 。 こ の

よ う に す る と 「 問 題 」 と 「 人 」 を 分 け て 考

え る こ と が で き る の で 、 「 人 」 が 問 題 に

「 対 処 す る 」 と い う 考 え 方 に た ち や す い の

で す 。

5 ) 家 族 や 本 人 が 初 回 面 接 の 場 で 感 じ て い る

不 安 を 取 り 上 げ て 、 面 接 の ス ト レ ス を 減 ら し

援 助 関 係 を 作 っ て い き ま し ょ う

Ⅳ 具体的な援助技法 54

Page 65: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

  「 ね ぎ ら う 」 こ と と 同 時 に 、 先 に 述 べ た 不

安 を 取 り 上 げ ま し ょ う 。 先 に 述 べ た 不 安 は 誰

も が も つ も の で す 。 ま た 、 家 族 や 本 人 は こ ん

な こ と に 苦 し ん で い る の は 世 界 で 自 分 た ち だ

け だ と い う 心 理 に 陥 っ て い る こ と も あ り ま す

そ こ で 「 ○ ○ と い っ た こ と を 感 じ て お ら れ ま

す か 」 「 そ う で す か 、 そ う い っ た 不 安 は 初 め

て の 面 接 の と き は 誰 し も 感 じ る も の で す よ 」

な ど と い う こ と は 、 面 接 の ス ト レ ス を 減 少 さ

せ 、 共 感 の 意 を 伝 え る こ と に 役 立 ち ま す 。 あ

る い は 、 「 悩 ん で い る の は 自 分 達 だ け で は な

い 」 と 考 え る よ う に な る き っ か け と も な り ま

す 。

6)次回の 来所に つ な げ る こ と が 最大の 目標で す

「 ひ き こ も り 」 の 解 決 に は 、 家 族 の 粘 り 強

い 長 期 的 な 取 り 組 み が ど う し て も 必 要 で す 。

本 人 と 家 族 と 専 門 家 が 、 さ ま ざ ま な 葛 藤 を 抱

え な が ら も 、 工 夫 や 対 処 を 積 み 重 ね る う ち に

状 況 が 変 化 し 「 ひ き こ も り 」 が 解 消 し て い く

の で す 。 し た が っ て 、 初 回 面 接 の 目 標 は 「 こ

こ に 相 談 に 来 て よ か っ た 、 こ の 人 達 と 解 決 に

向 け て こ れ か ら 少 し ず つ で も や っ て い こ う 」

と い う 気 持 ち に な っ て も ら う こ と で す 。 こ れ

が 、 家 族 時 に は 本 人 に と っ て 命 綱 に な る わ け

で す 。 「 援 助 を お こ な う 時 の 原 則 」 で 述 べ

た こ と が そ の た め の 具 体 策 で す が 、 と く に 次

の 4 点 は 家 族 の 生 活 を 支 え る 上 で 重 要 な こ と

で あ る と 思 わ れ ま す 。

① 家 族 の 望 ん で い る 方 向 に 沿 う か た ち で 、

Ⅳ 具体的な援助技法 55

Page 66: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

近 い 将 来 に 実 現 可 能 性 の 高 い 、 家 族 自

身 の 具 体 的 な 小 さ な 行 動 の 目 標 を と り

あ え ず つ く る 。

② 暴 力 ・ 自 殺 企 図 な ど の 切 迫 し た 状 況 で

は 、 家 族 の 被 害 が 最 小 限 で 食 い 止 め ら

れ る よ う な 方 向 で 、 対 処 の 提 案 を す る 。

③ 次 の ア ポ イ ン ト メ ン ト は 必 ず 決 め て お

く 。

④ ①か ら ③ に つ い て 簡 潔 に 書 き と め た も

の を 、 家 族 に 手 渡 す 。

Ⅳ 具体的な援助技法 56

Page 67: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

-2 家族面接

「 ひ き こ も り 」 の 援 助 で は 〔 家 族 と の 相 談

を 実 施 す る 〕 こ と が 必 要 で す

「 家 族 と の 相 談 を 実 施 す る 」 と い う 考 え 方

は 、 精 神 科 臨 床 や 地 域 精 神 保 健 の 中 で し ば し

ば お き る こ と な が ら 、 援 助 の 方 法 論 と し て は 、

十 分 定 着 し て い る と は い い が た い も の が あ り

ま す 。 た と え ば 医 療 な ど の 面 接 場 面 で は 、 本

人 の み が 援 助 の 対 象 と と ら え ら れ て お り 、 家

族 と の 面 接 を し て も 、 そ れ は あ く ま で も 本 人

の 援 助 の た め の 補 助 的 手 段 と し て 考 え ら れ て

い る こ と が し ば し ば で す 。

し か し 、 「 ひ き こ も り 」 の 相 談 に お い て は 、

当 初 か ら 本 人 自 身 が 受 診 す る こ と は ま れ で 、

結 果 的 に 家 族 が 相 談 の 窓 口 に 訪 れ る こ と に な

り ま す 。 そ し て 、「 ひ き こ も り 」 の 問 題 を 援

助 し て い く た め に は 、 当 面 の 相 談 に お い て も 、

家 族 と の 相 談 を 継 続 す る こ と が 中 心 的 な 課 題

と な る の で す 。

そ こ で 、 こ こ で は 、 一 般 的 な 家 族 面 接 に お

け る 家 族 を 通 じ た 支 援 ・ 援 助 ・ 治 療 な ど の 対

応 か ら 得 ら れ た 知 見 を も と に 、「 「 ひ き こ も

り 」 の 家 族 面 接 」 の 概 要 に つ い て 紹 介 し て い

き ま す 。

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-2 家族面接

57

Page 68: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

家 族 と の 相 談 の た め の 前 提

■「 家 族 = 困 っ て い る 人 = ク ラ イ エ ン ト 」 と

い う 視 点 が 大 切 で す

医 療 や 保 健 の 場 で は 、 医 療 的 な 対 応 が 必 要

な 相 手 を 「 患 者 」 さ ん と し て 考 え ま す 。 そ し

て 、 患 者 さ ん こ そ が 「 病 に 困 っ て い る 人 」 で

あ り 、 治 療 や 援 助 の 対 象 と い う こ と に な り ま

す 。 そ の た め 、 家 族 は 医 療 的 な 見 方 で は 「 患

者 」 で は な い ゆ え に 、 援 助 の 第 一 の 対 象 と は

み な さ れ に く く 、 む し ろ 患 者 さ ん を 助 け る 存

在 、 患 者 さ ん の 世 話 を す る 存 在 と し て の 意 義

が 強 調 さ れ て き ま し た 。

一 方 、 精 神 科 臨 床 の 周 辺 で お こ な わ れ る 相

談 の 一 例 と し て 「 家 庭 内 暴 力 」 へ の 被 害 相 談

が あ り ま す 。 対 子 ど も ( 虐 待 )、 対 妻 や 彼 女

( D V )、 対 老 人 ( 老 人 虐 待 )、 対 親 ( 家 庭 内

暴 力 ) な ど 、 暴 力 の ふ る わ れ る 対 象 に よ っ て

異 な る 対 応 が な さ れ て い ま す 。 共 通 し て い る

の は 、 こ れ ら の 相 談 で 来 談 す る 多 く は 「 暴 力

の 被 害 者 」 で あ っ て 、 暴 力 を ふ る っ た 人 で は

な い と い う こ と で す 。 ま た 、 思 春 期 ・ 青 年 期

の 不 適 応 に 関 す る 相 談 に お い て も 、 子 ど も 自

身 に は 問 題 に 関 す る 自 覚 が な い た め 、 保 護 者

の 相 談 が 中 心 と な っ て い ま す 。 つ ま り 、 こ れ

ら の 相 談 に お い て は 、 来 所 す る の が 問 題 行 動

を 起 こ し て い る 本 人 で は な く 、 影 響 ( 被 害 )

を 受 け て い る 家 族 で あ り 、 家 族 の 困 難 に 焦 点

を あ て て 相 談 が 成 立 し て い ま す 。 つ ま り 、 家

族 = 困 っ て い る 人 = 相 談 の 対 象 ( ク ラ イ エ ン

ト ) と な っ て い る わ け で す 。

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-2 家族面接

58

Page 69: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

こ れ ら の 例 と 同 じ よ う に 、 「 ひ き こ も り 」

の 家 族 相 談 に お い て も 、 な ん ら か の 問 題 を 抱

え た 本 人 か ら 影 響 を 受 け て い る 人 が 、 精 神 的

に 困 窮 し て 相 談 に 来 る と い う 考 え 方 が 有 効 だ

と 思 わ れ ま す 。

「 ひ き こ も り 」 の 家 族 は 、 本 人 の 「 ひ き こ

も り 」 に よ っ て 日 常 生 活 に 不 安 を 持 っ て い る

と い う 意 味 に お い て 「 困 っ て い る 人 = ク ラ イ

エ ン ト 」 と し て 見 な す べ き も の だ と 考 え ら れ

る の で す 。

■家 族 を ど の よ う に 見 る と 相 談 が 成 立 し や す

い か

「 ひ き こ も り 」 の 相 談 に お い て 、 相 談 の 場

に 登 場 す る 「 家 族 」 の 疲 れ 具 合 は 、 他 の 問 題

を 抱 え る 事 例 と 比 べ て も 軽 い も の で は あ り ま

せ ん 。 来 談 に い た る ま で に 、 多 く の 家 族 は 自

ら の 考 え 得 る 方 法 に 基 づ い て 、 本 人 の 不 適 応

を 改 善 し よ う と 努 力 し 、 で き る 限 り の さ ま ざ

ま な 対 応 を 繰 り 返 し て い ま す 。 そ う し た 努 力

に も か か わ ら ず 、 本 人 の 「 ひ き こ も り 」 の 状

態 が 維 持 さ れ 、 相 談 に 訪 れ た の で す 。 す で に

自 分 た ち な り に 一 生 懸 命 考 え て や っ て み た が

問 題 は 解 決 せ ず 、 ど う し て い い か わ か ら な く

な っ て 、 自 信 を な く し て い る 状 態 で す 。 「 ひ

き こ も り 」 の 相 談 に 家 族 が 登 場 し た 背 景 に は

「 家 族 が さ ま ざ ま な 改 善 の 手 段 を 講 じ た が 、

そ れ ら が 無 効 化 さ れ て い る と い う 前 提 」 が あ

る の だ と い う こ と を 心 に と め て お く こ と が 必

要 で す 。

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-2 家族面接

59

Page 70: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

精 神 的 ・ 心 理 的 に 疲 弊 し き っ た 家 族 に は 、

ま ず は こ れ ま で の 苦 労 に 対 し て の ね ぎ ら い が

不 可 欠 で す 。 家 族 に は 、 そ れ ぞ れ に と っ て の

事 情 が あ り ま す 。 こ れ ま で に し て き た 対 応 の

是 非 に つ い て 議 論 し よ う と す る と 、 そ の 多 く

は 「 家 族 の 対 応 の ま ず さ 」 を 指 摘 す る こ と に

つ な が り か ね ま せ ん 。 疲 弊 し て い る 家 族 に と

っ て 、 そ う し た 指 摘 が 自 分 た ち の 至 ら な さ を

確 認 す る 場 に な っ て し ま い か ね ま せ ん 。 こ れ

で は 、 疲 弊 し な が ら も 「 何 と か し た い 」 と 考

え て 、 相 談 の 場 に 足 を 運 ん で き た と い う 改 善

の た め の エ ネ ル ギ ー を 奪 っ て し ま う こ と に も

な り か ね ま せ ん 。

と く に 援 助 の 初 期 の 段 階 で は 、 家 族 の こ れ

ま で 行 っ て き た 対 応 の 結 果 の 是 非 で は な く 、

家 族 が 対 処 し て き た こ と そ の も の に 焦 点 を 当

て 、 家 族 の 努 力 と 苦 労 を ね ぎ ら う よ う に し ま

し ょ う 。

■家 族 自 身 が 、 援 助 を 必 要 と す る 存 在 で す

家 族 は 本 人 の こ と に 困 っ て い な が ら も 、 精

神 的 ・ 社 会 的 に は 健 康 な 存 在 で あ る と い う 前

提 が 、 家 族 へ の 援 助 を 困 難 に し て い る こ と が

あ り ま す 。 家 族 が 困 窮 し て い る こ と を つ い 忘

れ 、 本 人 の 援 助 に 役 立 つ よ う な 適 切 な 指 導 ・

助 言 を 行 え ば 、 そ れ に し た が っ て 多 様 な 行 動

を 家 族 が と れ る は ず だ と 考 え て し ま う こ と に

な り が ち で す 。 過 剰 な 期 待 を 家 族 に 持 っ て し

ま い 、 援 助 者 の 思 う と お り に 行 動 で き な い 家

族 を 「 家 族 は 援 助 を 攪 乱 す る 否 定 的 存 在 だ 」

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-2 家族面接

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Page 71: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

な ど と 、 援 助 者 は と ら え て し ま い が ち で す 。

し か し 、 実 際 に お き て い る こ と と い え ば 、 家

族 自 身 が 本 人 の 問 題 か ら 影 響 を 受 け 、 困 難 を

抱 え 、 悪 循 環 に は ま っ て 疲 弊 し 、 援 助 を 必 要

と し て い る 状 態 だ と い う こ と で す 。

家 族 が そ う い う 状 態 に あ る の だ と い う こ と

を 理 解 し て 、 単 純 に 「 家 族 と 相 談 を 繰 り 返

す 」 と い う こ と を 維 持 す る だ け で も 、 家 族 や

本 人 に 変 化 を 引 き 起 こ す 最 大 の 要 因 と な る こ

と が あ る の で す 。

複 数 成 員 と 家 族 面 接 を お こ な う 際 の 留 意 点

家 族 と い う 単 位 と の 相 談 に は 、 個 人 を 対 象

と し た 相 談 と は 異 な る い く つ か の ポ イ ン ト が

あ り ま す 。 以 下 で は 、 複 数 の 家 族 成 員 で 構 成

さ れ る 「 家 族 」 と い う 単 位 と の 面 接 を お こ な

う 際 の 留 意 点 を 概 観 し て い き ま す 。

■家 族 と い う 集 団 に 入 れ て も ら う

家 族 と の 相 談 関 係 を 作 る た め に は 、 ま ず 、

家 族 と い う 集 団 に 援 助 者 が 「 入 れ て も ら う 」

こ と が 大 切 で す 。

そ れ ぞ れ の 家 族 は 、 そ の 家 族 に と っ て ご く

自 然 な 関 わ り 方 や 価 値 観 を 持 っ て い ま す 。 た

と え ば 「 両 親 は 意 見 が 一 致 し て い る こ と が 必

要 」 と か 「 家 族 を 代 表 し て 話 を す る の は 母 親

で あ る 」 と い っ た も の で す 。 と こ ろ が 、 そ れ

が と き に は 援 助 者 の 価 値 観 と 異 な る が た め に

そ の 関 わ り 方 に 違 和 感 を 感 じ て 、 指 摘 し た く

な る こ と も あ り ま す 。 「 何 が 問 題 な の か 」 と

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-2 家族面接

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Page 72: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

い う 目 で 見 て 、 「 変 」 に 思 っ た こ と を す ぐ に

で も や め さ せ た く な る の は 、 「 問 題 探 し 」 に

慣 れ て し ま っ た 援 助 者 の ク セ か も し れ ま せ ん 。

し か し 、 い ろ い ろ な 関 わ り に よ っ て 成 り 立

っ て い る 家 族 と い う 集 団 に 受 け 入 れ ら れ る た

め に は 、 ま ず 、 家 族 に 生 じ て い る 関 係 を そ の

ま ま こ ち ら も 受 け 入 れ 、 可 能 な 限 り 家 族 が 普

段 行 っ て い る 振 る 舞 い が 面 接 の 場 で も ご く 自

然 に 行 え る よ う 、 援 助 者 が 関 わ っ て い く こ と

が 大 切 で す 。 援 助 者 の 考 え を い き な り 押 し つ

け る の で は な く 、 家 族 の も っ て い る パ タ ー ン

に 援 助 者 が 合 わ せ て み る の で す 。 そ う す る こ

と で 家 族 も 、 強 い 抵 抗 を 感 じ る こ と な く 援 助

者 を 受 け 入 れ や す く な り ま す 。

■家 族 成 員 間 で 共 有 で き る 、 合 意 事 項 を 作 り

続 け て い き ま す

家 族 は 複 数 の 人 で 構 成 さ れ て い る わ け で す

が 、 家 族 成 員 の そ れ ぞ れ の 考 え 方 や 未 来 に 対

す る 予 測 ・ 期 待 ・ あ き ら め な ど に つ い て 、 明

確 な 合 意 が い つ も あ る わ け で は あ り ま せ ん 。

そ れ で も 日 頃 の 生 活 が で き て い る の が 、 ふ つ

う の 姿 で す 。

と こ ろ が 、 家 族 が 相 談 に 訪 れ る よ う な 状 況

に お い て は 、 ど う し て も 家 族 の あ い だ - と く

に 両 親 の あ い だ - に 合 意 事 項 が あ る か ど う か

が 気 に な る も の で す 。 両 親 の 間 が 対 立 的 で あ

っ た り 、 情 緒 的 な つ な が り が 上 手 く 持 て な か

っ た り と い う 状 態 を み か け る と 、 家 族 と の 相

談 を 進 め る こ と が 難 し い と 、 援 助 者 側 が 思 い

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-2 家族面接

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Page 73: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

込 ん で し ま う こ と が み ら れ ま す 。 ま た 、 家 族

が さ ま ざ ま な 改 善 の 手 段 を 講 じ た も の の 、 よ

い 結 果 が 得 ら れ な い ま ま に 続 い て い る 「 ひ き

こ も り 」 の 状 態 で は 、 家 族 の あ い だ で 合 意 し

て い る こ と が あ い ま い に な っ て い る 場 合 が

多 々 あ り ま す 。 そ こ で 、 家 族 そ れ ぞ れ の 対 応

や 努 力 を 有 効 な も の に し て い く た め に も 、 ま

た 援 助 者 も お ち つ い て 関 わ り 続 け て い く た め

に も 、 相 談 の 場 で 、 家 族 の あ い だ で ほ ん の 少

し で も 合 意 事 項 を 作 り 上 げ て い く こ と が 大 切

と な り ま す 。

そ の 合 意 事 項 は 、 日 常 生 活 の 中 で は 、 ご く

ご く 小 さ な 行 為 や 目 標 で あ っ て も い い の で す

た と え ば 、 ひ き こ も っ て い る 本 人 へ の 働 き か

け に つ い て 、 家 族 そ れ ぞ れ の 希 望 を 詳 し く 聞

き 取 り 、 そ の 意 図 や 考 え 方 、 本 人 に 対 す る 見

方 な ど の 中 か ら 、 共 通 す る 部 分 を 明 確 に し て

い く と い う 作 業 な ど が そ れ に あ た り ま す 。 一

見 何 で も な い よ う な 作 業 で す が 、 こ れ は 「 家

族 が 目 標 や 可 能 性 を 共 有 で き る た め 」 に お こ

な う も の で 、 こ う し た 積 み 重 ね を 繰 り 返 す こ

と が ひ き こ も っ て い る 本 人 へ の 対 応 を 新 し く

作 り 上 げ て い く こ と に つ な が る の で す 。

■既 に 起 こ っ て い る 変 化 を 見 つ け る

家 族 と の 相 談 に お い て 最 も 有 効 な こ と は 、

家 族 が 積 極 的 に 取 り 上 げ な い よ う な 「 変 化 」

に 注 目 し て 、 話 題 に 取 り 上 げ る こ と で す 。

「 ひ き こ も り 」 の 相 談 で は 、 日 常 の 行 動 が 決

ま り 切 っ て い る か の よ う な こ と が 多 く 、 家 族

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-2 家族面接

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Page 74: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

が 積 極 的 に 変 化 を 報 告 す る こ と は ま れ で す 。

む し ろ 、 「 何 も 変 わ ら な い 」 と い う 報 告 が ほ

と ん ど で す 。 し か し 、 日 常 的 な 何 気 な い で き

ご と の 中 に は 、 さ ま ざ ま な 変 化 が 隠 さ れ て い

る こ と が 多 く 、 そ の 変 化 を 見 つ け 出 す こ と が

大 切 な の で す 。

た と え ば 、 誰 も 家 人 が い な い た め 、 仕 方 な

く 近 く の コ ン ビ ニ ま で 買 い 物 に 出 か け た こ と 、

こ れ が ひ き こ も っ て い る 本 人 に と っ て 大 き な

冒 険 と な っ て い る こ と が あ り ま す 。 本 人 が

「 仕 方 な く コ ン ビ ニ に 行 く 」 と い う 行 動 が で

き て い る な ら ば 、 家 族 の 意 図 の 有 無 に か か わ

ら ず 、 両 親 は 「 家 に い な い よ う に す る こ と 」

で 、 本 人 の 社 会 と の 接 点 を 作 ろ う と し た と 考

え る こ と も で き ま す 。 こ の よ う な 変 化 は 、 何

気 な い 日 常 の 生 活 の 中 か ら 生 ま れ た も の で 、

家 族 に と っ て は 見 逃 さ れ て し ま っ て い る 大 切

な 変 化 へ の き っ か け と な る こ と が あ る の で す 。

■ま ず 、 家 族 の 日 常 生 活 を 改 善 し 、 未 来 の 可

能 性 を 広 げ る

援 助 に と っ て 最 も 必 要 な こ と は 未 来 の 可 能

性 を 広 げ る こ と で す 。 具 体 的 な 感 覚 と し て 表

現 す る な ら 、 「 今 や っ て い る こ と を つ づ け て

い れ ば 、 何 と か な る か も し れ な い 」 と い う も

の で す 。「 ひ き こ も り 」 の 相 談 に お い て 最 も

必 要 と さ れ て い る の は 、 こ の 未 来 に 対 す る 可

能 性 を 作 り 上 げ る こ と だ と い え ま す 。 そ こ で

必 要 な こ と は 、 「 ひ き こ も り 」 の 本 人 へ の 対

処 だ け で は な く 、 相 談 に 来 談 し て い る 家 族 に

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-2 家族面接

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Page 75: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

と っ て の 日 常 生 活 の 改 善 で す 。

た と え ば 、 「 ひ き こ も り 」 の 本 人 に 気 遣 う

あ ま り 、 家 族 の 日 常 に 極 度 な 制 限 が 加 わ っ て

い る の で あ れ ば 、 両 親 が 社 会 的 な 場 面 に 出 て

い け る よ う に す る こ と や 、 息 抜 き の た め の 行

動 を 奨 励 す る こ と か ら は じ め る こ と も 有 効 で

す 。 困 難 を 抱 え て い な が ら も 、 自 分 た ち の た

め に 自 由 に 時 間 を す ご す こ と で 、 す こ し 家 族

が 余 裕 を と り も ど す こ と が で き れ ば 、 家 族 が

「 も う 少 し が ん ば っ て み よ う 」 と い う 気 持 ち

が 湧 い て く る か も し れ ま せ ん 。 一 般 的 に 、 本

人 を 変 え よ う と い ろ い ろ と 試 み る よ り も 、 家

族 が 自 分 た ち の 生 活 を 変 え る こ と を 目 標 と し

た 方 が 容 易 に 実 行 で き る こ と で あ り 、 効 果 的

で す 。 本 人 へ の 対 応 を 中 心 と し た 日 常 か ら 、

本 人 を す こ し は 気 遣 い な が ら も 自 分 た ち の ペ

ー ス で 生 活 で き る よ う に 変 わ れ た ら 、 か な ら

ず 家 族 と 本 人 の 関 係 も 変 わ り は じ め ま す 。 そ

し て そ こ に こ れ ま で と は 異 な る こ と が で き る

可 能 性 が ふ く ら む こ と が あ る の で す 。

■な れ て い な い 緊 張 を 僅 か ず つ 試 し て み る

ど の よ う な 家 族 に も 、 一 定 以 上 の 緊 張 を 生

ま な い よ う な 「 閾 値 」 ( 限 界 ) の 設 定 が あ り 、

そ の 「 閾 値 」 を 守 る た め の 行 動 は 、 多 く の 場

合 意 識 さ れ な い ま ま 定 着 し て い ま す 。 た と え

ば 、 あ る 家 族 に と っ て 父 親 と 本 人 の や り と り

が 続 く と 、 母 親 が 泣 き 出 し た り 、 父 親 が 対 話

の 場 か ら 外 れ た り す る な ど 、 緊 張 の 高 い 場 面

を 避 け よ う と す る な ど の 気 づ か い が さ れ ま す

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-2 家族面接

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Page 76: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

こ う し た 行 動 を す る こ と に よ っ て 家 族 の 安 定

が 保 た れ る わ け で す が 、 家 族 の 中 に 問 題 が 生

じ て い る 場 合 に は 、 こ れ ら の 行 動 の た め に 変

化 が お き に く く 、 悪 循 環 と 呼 ば れ る ど う ど う

め ぐ り が 生 じ て い る 場 合 も 多 い の で す 。

「 ひ き こ も り 」 が 長 期 に わ た っ て 続 い て い

れ ば 、 家 族 の 間 に 高 い 緊 張 が 生 じ な い よ う に

す る た め 、 必 要 以 上 に 緊 張 回 避 の た め の 行 動

が お こ っ て い る こ と が あ り ま す 。 家 族 に と っ

て 緊 張 を は ら ん だ 対 話 は 苦 痛 を も た ら す も の

で す が 、 そ の 一 方 で 、 こ う し た 緊 張 が こ れ ま

で に な い 発 想 や 展 開 の 糸 口 と な る こ と が あ る

の で す 。 そ こ で 、 家 族 の 緊 張 回 避 の 行 動 に 共

感 し な が ら 、 そ れ を 家 族 が 受 け 入 れ ら れ る 程

度 に 僅 か ず つ 変 化 を 求 め る よ う に 提 案 す る こ

と が 有 効 な こ と も あ り ま す 。 今 ま で 以 上 に 緊

張 に 耐 え ら れ る よ う に す る こ と で 、 今 ま で と

は 違 っ た 行 動 が と れ る よ う に 、 家 族 を 支 え る

の で す 。

た と え ば 、 上 述 の 例 で す と 母 親 は 泣 き た く

な る の を 少 し が ま ん し 、 父 親 も 今 ま で よ り す

こ し だ け が ん ば っ て 本 人 と 話 を 続 け る よ う に

す る こ と で す 。 ま た 、 父 親 が 話 を し て い る 場

か ら 離 れ た く な っ て も 、 少 し リ ラ ッ ク ス で き

る よ う な 話 を し て か ら 場 を 離 れ る よ う に す る

な ど で す 。 こ の よ う に し て 、 す こ し だ け 緊 張

を 生 み だ す 中 で 、 何 か こ れ ま で と 違 っ た 発 想

が 生 ま れ や し な か っ た か 、 何 か 違 っ た こ と が

お こ ら な か っ た か を て い ね い に 聞 く う ち に 、

今 ま で と は 異 な る 可 能 性 が 生 ま れ て く る こ と

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-2 家族面接

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Page 77: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

も あ る の で す 。

家 族 面 接 の 勘 所

「 ひ き こ も り 」 の 家 族 と の 面 接 は 、 他 の 相

談 と 比 べ て も 比 較 的 長 期 に わ た る 傾 向 が あ り

ま す 。 本 人 の 変 化 を 考 え て も 、 悪 循 環 か ら の

離 脱 、 本 人 の 社 会 へ の 再 参 加 の 試 行 錯 誤 、 今

ま で と は 異 な る 生 活 目 標 の 設 定 、 そ し て 徐 々

に と り も ど し て い く 社 会 性 な ど の 経 過 が あ り

ま す 。 し た が っ て 、 本 人 の 成 長 あ る い は 社 会

的 な リ ハ ビ リ に よ り 沿 う よ う に 、 家 族 面 接 も

続 け ら れ る 必 要 が あ る の で す 。 そ の こ と を あ

ら か じ め 心 に と め 、 て い ね い に 関 係 を 作 っ て

い こ う と す る 姿 勢 が ま ず は 大 切 で す 。

す ぐ に で も 何 と か な る と 安 易 に 考 え て 取 り

組 ん だ 場 合 、 援 助 者 が 早 期 に 変 化 が お こ ら な

い こ と は 、 相 談 に 関 与 す る そ れ ぞ れ に と っ て

心 理 的 な 負 担 と な っ て 、 気 力 と 時 間 を 浪 費 し

て い る か の よ う に 感 じ ら れ る こ と も 少 な く あ

り ま せ ん 。 い わ ば 、 問 題 に エ ネ ル ギ ー を 奪 わ

れ て い る か の よ う な 錯 覚 に 陥 っ て し ま い か ね

な い の で す 。 と く に 家 族 に と っ て は 、 「 ひ き

こ も り 」 が 改 善 し て い な い と 感 じ て し ま う と

ま る で 無 意 味 な 相 談 を 続 け て い る か の よ う に

思 え る こ と も 少 な く あ り ま せ ん 。 そ の 意 味 で

家 族 面 接 は 、 家 族 の 相 談 意 欲 が 持 続 で き る よ

う な 働 き か け が 最 優 先 と 考 え た ほ う が よ い の

で す 。 つ ま り 、 面 接 の 要 点 を 「 一 発 逆 転 」 の

よ う な 問 題 解 決 に 置 く の で は な く 、 持 続 的 な

社 会 的 接 点 と し て 相 談 に 来 る と い っ た 「 関 わ

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-2 家族面接

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Page 78: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

り 」 を 大 事 に し て 、 家 族 が 孤 立 し な い よ う に

援 助 す る こ と が 大 切 で す 。

同 様 に 、 援 助 者 自 身 が 早 計 に 自 分 の 関 わ り

の 効 果 の 有 無 を 判 断 す る こ と は 避 け た 方 が い

よ い で し ょ う 。 面 接 を お こ な う こ と に よ っ て

大 き な 変 化 が 急 激 に 起 き る こ と は な く て も 、

そ れ で も こ こ ま で 述 べ た よ う な 家 族 と の 面 接

を お こ な う こ と に よ っ て 、 半 年 、 一 年 と 僅 か

ず つ の 変 化 は 導 入 さ れ て い る こ と が 少 な く な

い の で す 。 「 ひ き こ も り 」 の 相 談 に お い て は

そ の 多 く が 見 え な い 程 度 の 僅 か ず つ の 変 化 の

積 み 重 ね に よ っ て 、 日 常 の 中 に さ ま ざ ま な 変

化 が 生 ま れ て く る も の で す 。

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

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-3 本人との面接

本 人 と の 面 接 に お け る 基 本 姿 勢

「 ひ き こ も り 」 と い う 問 題 を も つ 人 と の 援

助 関 係 が 繊 細 で 中 断 し や す い こ と は 、 そ の 問

題 の 性 質 上 、 避 け が た い こ と と い え る で し ょ

う 。 そ れ だ け に 、 ま ず は 関 係 を つ く る こ と 、

そ し て 関 係 を 維 持 す る こ と が 、 本 人 へ の 援 助

に お け る 重 要 な 課 題 と な り ま す 。 「 何 か あ っ

た ら 連 絡 し て く だ さ い 」 と い っ た 約 束 だ け で

は 、 な か な か 建 設 的 な 援 助 関 係 を 築 く こ と は

で き ま せ ん 。 次 回 の 予 約 を し た う え で 面 接 を

終 了 す る こ と 、 で き れ ば 定 期 的 に 会 う こ と を

原 則 と し た 方 が よ い で し ょ う 。 ま た 、 グ ル ー

プ を 活 用 し て 支 援 し て い る ケ ー ス に お い て も

グ ル ー プ で の 体 験 に つ い て 話 し 合 え る “ 基 地 ”

の よ う な 個 別 面 接 の 枠 が あ る 方 が よ い と 思 い

ま す 。

「 良 い 面 接 を し よ う 」 「 安 心 し て 参 加 で き

る 良 い グ ル ー プ を 運 営 し よ う 」 と い っ た 熱 意

と 工 夫 が 援 助 者 に 求 め ら れ る こ と は 言 う ま で

も あ り ま せ ん が 、 ど ん な に 良 い 面 接 を 心 が け

て も 、 彼 ら が 面 接 や グ ル ー プ に 対 す る 幻 滅 を

感 じ る こ と は 多 か れ 少 な か れ あ る も の で す 。

そ の よ う な 陰 性 感 情 を 抱 か せ な い よ う に 努 力

す る こ と が 重 要 な の で は な く 、 さ ま ざ ま な 気

持 ち を 抱 き な が ら も 、 援 助 者 や グ ル ー プ と の

関 係 が 維 持 で き る よ う に な る こ と が 課 題 と な

り ま す 。 そ の た め に は 、 彼 ら が 援 助 者 や グ ル

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-3 本人面接

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Page 80: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

ー プ に 対 し て 抱 い て い る 気 持 ち に 細 心 の 注 意

を 払 い 、 そ の 感 情 や 情 緒 を 個 別 面 接 の 中 で 共

有 で き る よ う に な る こ と が 一 つ の 目 標 に な る

で し ょ う 。 援 助 関 係 か ら ひ き こ も ろ う と す る

局 面 は 、 同 時 に 、 彼 ら の 成 長 に 貢 献 で き る 好

機 で も あ り ま す 。

ま た 、 ご 本 人 が 「 対 人 関 係 が う ま く い か な

い 」 「 社 会 に 出 て 行 け な い 」 と い っ た 本 質 的

な 問 題 を 明 確 に 意 識 し て 来 談 し て い る と は 限

り ま せ ん し 、 最 初 か ら 相 談 の 継 続 が 難 し い と

思 わ れ る ケ ー ス も あ り ま す 。 た と え ば 、 現 実

的 と は 思 え な い よ う な 解 決 策 に 固 執 す る 人 や

す べ て の 要 求 ・ 期 待 に 応 じ ら れ な い 援 助 者 に

す ぐ に も 見 切 り を つ け そ う な 人 な ど に 対 し て

は 、 た と え ご 本 人 の 意 に 沿 わ な く て も 、 そ の

ア イ デ ア が 建 設 的 で あ る と は 思 え な い こ と 、

そ し て 問 題 解 決 ま で に 必 要 な プ ロ セ ス や 援 助

者 の 考 え を 明 確 に 伝 え て お く 必 要 が あ る か も

し れ ま せ ん 。 そ の 結 果 、 一 旦 は 援 助 関 係 が 切

れ て し ま っ て も 、 以 前 よ り 明 確 な 動 機 付 け を

も っ て 改 め て 来 談 し て く る 人 も い ま す し 、 別

の 援 助 者 と の 間 で 、 よ り 建 設 的 な 関 係 を 結 べ

る よ う に な る か も し れ ま せ ん 。

初 期 の 面 接 で は 、 ご 本 人 が ど の よ う な 不 安

や 葛 藤 を 感 じ て い る の か 、 あ る い は 、 ど の よ

う な 希 望 を も っ て い る の か を 話 し 合 う こ と が

で き る と よ い と 思 い ま す 。 ご 本 人 の も つ 力 に

目 を 向 け 、 自 己 効 力 感 を 高 め よ う と す る 姿 勢

を 保 ち な が ら 、 情 緒 的 な 交 流 と 社 会 的 自 立 を

促 進 す る こ と が 課 題 と な り ま す 。 問 題 を 性 急

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-3 本人面接

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Page 81: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

に 解 決 し よ う と す る よ り 、 「 長 い 付 き 合 い に

な る 」 と い う 心 積 も り を し て お い た 方 が よ い

と 思 い ま す 。 ま た 、 「 ひ き こ も り は ・ ・ ・ 」

と い っ た 一 般 論 を 過 信 せ ず 、 目 の 前 に い る ご

本 人 の 話 を よ く 聴 き 、 何 が 起 こ っ て い る の か

を 理 解 し よ う と す る 姿 勢 が 重 要 で す 。

こ う し た 面 接 過 程 に お い て 、 薬 物 療 法 の 対

象 と な る よ う な 精 神 症 状 で 悩 ん で い る こ と が

語 ら れ た り 、 軽 い 知 的 な 遅 れ や 発 達 の 偏 り が

あ る こ と が わ か っ て く る こ と も あ り ま す の で

「 ひ き こ も り 」 ケ ー ス の 背 景 が 多 様 で あ る こ

と は 常 に 念 頭 に 置 い て お き ま し ょ う 。 た と え

ば 、 ① 援 助 を 進 め て ゆ く う え で 、 薬 物 療 法 な

ど の 医 療 的 ケ ア が 必 要 で あ ろ う と 思 わ れ る ケ

ー ス 、 ② 知 的 な 遅 れ や 発 達 の 偏 り に も 留 意 し

な が ら 援 助 を 進 め る 必 要 が あ る ケ ー ス 、 ③ 精

神 ( 心 理 ) 療 法 的 ア プ ロ ー チ や 心 理 社 会 的 ア

プ ロ ー チ に よ り 重 点 が 置 か れ る ケ ー ス 、 と い

う 三 群 に 分 け て 考 え て み る と 、 そ の 後 の 援 助

や 面 接 の 進 め 方 に つ い て 見 通 し を 立 て や す く

な る で し ょ う 。 以 下 、 そ れ ぞ れ の タ イ プ に お

け る 面 接 に つ い て 述 べ ま す 。 た だ し 、 本 人 と

の 面 接 だ け で 生 活 状 況 に 速 や か な 変 化 が み ら

れ る ケ ー ス ば か り で は な い の で 、 で き れ ば 家

族 相 談 や そ の 他 の 心 理 社 会 的 ア プ ロ ー チ を 並

行 し て 継 続 す る こ と を お 勧 め し ま す 。

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-3 本人面接

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継 続 的 な 面 接 の 進 め 方

( 1 ) 援 助 を 進 め て ゆ く う え で 、 薬 物 療 法

な ど の 医 療 的 ケ ア が 必 要 で あ ろ う と 思 わ

れ る ケ ー ス

「 ひ き こ も り 」 の 背 景 に 、 統 合 失 調 症 や 気

分 障 害 ( う つ 病 、 抑 う つ 状 態 ) な ど の 精 神 疾

患 が 関 与 し て お り 、 薬 物 療 法 の 有 効 性 に 期 待

で き る 人 た ち が い ま す 。 強 迫 性 障 害 や パ ニ ッ

ク 障 害 、 社 会 恐 怖 ( 社 会 性 不 安 障 害 ) な ど に

対 し て も 、 薬 物 療 法 の 有 効 性 が 指 摘 さ れ て い

ま す 。 ま た 、 PTSDや 摂 食 障 害 を 背 景 と し て い

る ケ ー ス も あ り 、 こ れ ら に 対 し て は 、 ま ず は

受 診 援 助 が 中 心 と な る で し ょ う 。

受 診 を 援 助 す る 際 に は 、 継 続 的 な 援 助 の 文

脈 を 大 事 に し な が ら 、 「 ひ き こ も り の こ と で

病 院 へ 行 く 」 の で は な く 、 「 あ な た が 困 っ て

い る 問 題 を 軽 く す る た め に 病 院 を 利 用 す る 」

と い う よ う に す る と よ い で す が 、 な か な か 受

診 に 同 意 し な い 人 も い ま す 。 「 病 気 や 症 状 に

苦 し め ら れ て い る あ な た 」 「 そ の 病 気 も あ な

た の 一 部 分 だ け ど 、 そ う で な い 、 前 か ら 変 わ

ら な い あ な た 」 と い う よ う に 、 本 来 の 健 康 な

側 面 に 焦 点 を 当 て る こ と で 、 ご 本 人 の 対 処 能

力 を 引 き 出 す こ と が で き る 場 合 も あ り ま す 。

い ず れ に せ よ 、 薬 物 療 法 を 中 心 と し た 精 神 科

治 療 だ け で す べ て の 問 題 が 解 決 す る こ と は 多

く な く 、 自 立 と 社 会 参 加 に 向 け た 継 続 的 ・ 複

合 的 な 援 助 が 原 則 で し ょ う 。

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-3 本人面接

72

Page 83: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

( 2 ) 発 達 の 遅 れ や 偏 り に 留 意 し な が ら 関

わ っ て ゆ く 必 要 が あ る ケ ー ス

軽 度 知 的 障 害 や 広 汎 性 発 達 障 害 な ど 、 発 達

上 の 問 題 を も つ 人 と 面 接 す る 際 に は 、 以 下 の

よ う な 配 慮 が 必 要 で し ょ う 。 ま ず 、 わ か り や

す く 簡 潔 な 言 葉 遣 い を 心 が け ま し ょ う 。 わ か

っ て い る か の よ う に み え て も 、 ご 本 人 が こ ち

ら の 質 問 や 発 言 の 意 味 を 理 解 し て い な い こ と

も あ り ま す 。 こ う し た 場 合 に は 、 別 の 言 葉 で

言 い 替 え て み る こ と の 他 、 パ ン フ レ ッ ト を 見

せ な が ら 説 明 す る 、 状 況 を 図 示 し な が ら 面 接

す る な ど 、 視 覚 的 な 情 報 伝 達 を 活 用 し て み る

と よ い か も し れ ま せ ん 。 ま た 彼 ら は 、 こ れ ま

で 一 生 懸 命 に 取 り 組 ん で も 周 囲 か ら は 評 価 さ

れ な い 経 験 や 、 い じ め 、 か ら か い の 対 象 と さ

れ て き た 体 験 を も つ こ と が 少 な く あ り ま せ ん

自 尊 心 は 傷 つ い て お り 、 援 助 者 の 些 細 な 言 動

を 極 端 に 被 害 的 に 受 け 取 る こ と も あ り ま す 。

リ ラ ッ ク ス し た 雰 囲 気 の 中 に も 、 丁 寧 で 誠 実

な 対 応 が 大 切 で す 。  

ご 本 人 の 希 望 を 尊 重 し な が ら 、 少 し ず つ ス

テ ッ プ ア ッ プ で き れ ば よ い と 思 い ま す が 、 話

し 言 葉 の 理 解 や 読 み 、 書 字 、 状 況 の 理 解 や 見

通 し を た て る こ と 、 作 業 能 力 な ど 、 全 体 的 な

印 象 か ら は 把 握 し き れ な い よ う な 不 得 意 な 領

域 を も っ て い る こ と が あ り ま す 。 あ る い は 、

円 滑 な 対 人 関 係 を 妨 げ る よ う な こ だ わ り が み

ら れ る こ と も あ り ま す の で 、 そ の 人 の 全 体 的

な 適 応 能 力 や 得 意 、 不 得 意 を 的 確 に 把 握 し て

お く 必 要 が あ り ま す 。 こ の 際 、 知 能 ・ 心 理 検

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-3 本人面接

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Page 84: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

査 の 所 見 は 大 い に 参 考 に な り ま す の で 、 適 当

な 関 係 機 関 に つ な ぎ 、 今 後 の 援 助 方 針 や 社 会

資 源 な ど に つ い て 助 言 を 求 め る こ と を お 勧 め

し ま す 。

暴 力 や 性 的 な 問 題 行 動 な ど が み ら れ る こ と

も あ り ま す が 、 家 族 の 関 わ り 方 や 環 境 側 の 条

件 を 調 整 す る こ と で 速 や か に 解 決 す る こ と も

あ り ま す の で 、 問 題 行 動 の 背 景 と 生 活 状 況 を

丁 寧 に 見 直 し て み る こ と が 重 要 で す 。 し か し

ケ ー ス の 理 解 や マ ネ ジ メ ン ト に 不 安 を 感 じ る

よ う で あ れ ば 、 助 言 を 求 め ら れ る よ う な 関 係

機 関 や ス ー パ ー バ イ ザ ー の 確 保 を 検 討 し ま し

ょ う 。

( 3 ) 精 神 ( 心 理 ) 療 法 的 ア プ ロ ー チ や 心

理 社 会 的 ア プ ロ ー チ が 中 心 に な る ケ ー ス

a. 援 助 者 が 抱 え る こ と に な る ジ レ ン マ に つ

い て

多 く の 援 助 者 ・ 面 接 担 当 者 は 、 こ う し た ケ

ー ス の 面 接 に お い て 、 「 ほ か の 相 談 ケ ー ス よ

り 緊 張 す る 」 「 何 を 話 し た ら よ い の か わ か ら

な い 」 「 深 入 り す る と 、 傷 つ け て し ま う の で

は な い か 」 「 そ う か と 言 っ て 、 世 間 話 や 趣 味

の 話 ば か り し て い て も 」 と い っ た 戸 惑 い・ ・ ・を 感 じ る も の と 思 わ れ ま す 。 こ の 一 群 の 人 た

ち は 、 し ば し ば 「 人 と 関 わ る か 関 わ ら な い

か 」 「 近 づ く か 離 れ る か 」 と い っ た 強 い ジ レ

ン マ を 抱 え て い ま す の で 、 彼 ら と の 面 接 で 援

助 者 が 同 じ よ う な 戸 惑 い を 感 じ る こ と 、 そ し

て 、 彼 ら へ の 援 助 が 一 進 一 退 の 経 過 を と る こ

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-3 本人面接

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Page 85: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

と は 当 然 の こ と と い え る で し ょ う 。

援 助 者 が 、 こ う し た ジ レ ン マ や 、 「 自 分 は

こ の ケ ー ス に 少 し も 役 に 立 っ て い な い 」 と い

っ た 不 安 、 焦 り 、 無 力 感 に 耐 え 切 れ な い と き

に 、 援 助 姿 勢 ・ 方 針 を 急 激 に 変 更 す る な ど し

て 中 断 に つ な が る こ と が 多 い よ う に 思 わ れ ま

す 。 ま ず は 性 急 に 何 と か し よ う と し す ぎ ず 、

関 心 を 払 い つ づ け る こ と が 大 切 で す 。

b. 行 動 化 へ の 対 処

と き に は 、 激 し い 行 動 化 が 生 じ る 場 合 が あ

る こ と も 予 測 し て お く 必 要 が あ り ま す 。 行 動

化 は 、 援 助 者 や グ ル ー プ と の 関 係 が 深 ま り つ

つ あ り 、 も っ と 近 づ き た い と い う 思 い と そ の

不 満 や 幻 滅 が 感 じ ら れ る 時 期 に 起 き や す い よ

う で す 。 長 い 経 過 の 中 で は 、 境 界 例 の ケ ー ス

に み ら れ る よ う な “ し が み つ き ” や 自 傷 行 為 、

家 族 へ の 暴 力 が エ ス カ レ ー ト す る な ど 、 危 機

介 入 を 要 す る よ う な 局 面 が あ る か も し れ ま せ

ん 。 行 動 化 へ の 対 処 に 不 安 を 感 じ る 場 合 に は

関 係 機 関 や 助 言 者 に コ ン サ ル テ ー シ ョ ン を 求

め る 必 要 が あ る で し ょ う 。

c. 変 化 を 阻 む “ 心 の ク セ ” に つ い て

少 し ず つ 改 善 し て い る か の よ う に み え て も 、

結 局 は 何 の 変 化 も 起 き な い ま ま 延 々 と 長 期 化

す る ケ ー ス が あ り ま す 。 こ の よ う な ケ ー ス の

面 接 は 、 ご 本 人 が 抱 い て い る 社 会 や 他 者 に 対

す る 軽 蔑 や 、 「 や ろ う と 思 え ば 、 い つ だ っ て

何 だ っ て や れ る 」 「 一 発 逆 転 の ウ ル ト ラ C が

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-3 本人面接

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Page 86: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

あ る は ず 」 と い っ た 万 能 的 な 感 覚 、 自 ら の 課

題 に 直 面 す る こ と の 回 避 、 あ る い は 「 す べ て

誰 か に 何 と か し て も ら い た い 」 と い っ た 依 存

性 、 自 ら を さ ら に 悪 い 状 況 に 追 い 込 も う と す

る か の よ う な 自 己 破 壊 的 な 傾 向 な ど に よ っ て

進 展 が 阻 ま れ 、 そ こ か ら 抜 け 出 せ な く な っ て

い る こ と が あ り ま す 。

「 自 信 を も た せ て あ げ れ ば ・ ・ ・ 」 「 待 っ

て あ げ れ ば 、 い つ か は ・ ・ ・ 」 と い っ た 援 助

者 の 姿 勢 は 、 し ば し ば こ う し た “ 心 の ク セ ” の

解 決 を 遅 ら せ ま す し 、 社 会 的 ブ ラ ン ク が 長 引

く こ と で 、 か え っ て 強 化 さ せ て し ま う か も し

れ ま せ ん 。 あ る 程 度 の 信 頼 関 係 が 築 か れ て い

れ ば 、 「 長 引 け ば 長 引 く ほ ど 動 き 出 し づ ら く

な っ て し ま う こ と に 、 あ な た も 気 づ い て い る

の で は な よ い で し ょ う か 。 い ろ い ろ な 不 安 も

あ る で し ょ う し 、 人 間 関 係 の 問 題 も す ぐ に は

解 決 し な い か も し れ ま せ ん が 、 就 労 や 進 路 の

決 定 に つ い て は 先 延 ば し に し て も メ リ ッ ト が

な い と 思 う の で 、 早 い う ち に 取 り 組 ん で み た

方 が よ い よ う に 思 い ま す 」 と 率 直 に 伝 え る こ

と が 有 効 か も し れ ま せ ん 。 し か し 実 際 に は 、

援 助 者 が こ う し た “ 心 の ク セ ” に 対 処 で き ず 、

深 刻 な 行 き 詰 ま り に 陥 っ た り 、 人 生 を 台 無 し

に し て し ま う よ う な 不 毛 な 「 ひ き こ も り 」 に

加 担 し て し ま う こ と も あ り ま す の で 、 適 切 な

ス ー パ ー ビ ジ ョ ン が 必 要 な 局 面 で あ る と 考 え

ら れ ま す 。

Ⅳ 具体的な援助技法 -1 面接のポイント

-3 本人面接

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Page 87: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

2節 さまざまな援助技法を活用する

-1 電話相談「 ひ き こ も り 」 の 電 話 相 談 の 特 質

 電 話 相 談 に は 、 電 話 で の カ ウ ン セ リ ン グ 的

な 機 能 、 緊 急 対 応 や 制 度 利 用 、 情 報 提 供 の 機

能 、 支 援 を 実 施 し て い る 専 門 相 談 機 関 の 入 り

口 と し て の 機 能 な ど 、 そ れ ぞ れ の 機 関 の 持 つ

性 格 や 役 割 に よ っ て さ ま ざ ま な 機 能 が あ り ま

す 。 ま た 相 談 体 制 の 枠 組 み も 、 機 関 の 通 常 の

電 話 窓 口 で の 対 応 / 電 話 相 談 専 用 の 窓 口 で の

対 応 、 相 談 受 付 の 時 間 帯 、 担 当 ス タ ッ フ の 数

特 定 の 期 間 の キ ャ ン ペ ー ン / 継 続 業 務 、 な ど

さ ま ざ ま で す 。

し か し 一 般 に 電 話 で の 相 談 は 、 ① 抱 え て い

る 問 題 の 整 理 や 、 ② 相 談 内 容 に よ っ て 適 切 な

相 談 機 関 に 繋 げ る と い う 交 通 整 理 、 ③ 必 要 な

情 報 提 供 、 ④ 一 定 の 見 立 て を お こ な う 中 で 必

要 で あ れ ば 自 機 関 の 来 所 相 談 へ と 繋 げ る 、 な

ど が 大 き な 役 割 と な る で し ょ う 。

電 話 相 談 の 特 徴 と 注 意 点

 電 話 相 談 に お い て も 、 基 本 的 な 態 度 は 一 般

的 な 個 別 相 談 と お な じ で す 。 し か し 、 電 話 相

談 は 一 般 的 に 以 下 の よ う な 特 徴 を も っ て い ま

す 。

■電 話 相 談 は 比 較 的 敷 居 の 低 い 相 談 形 態 で す

  一 般 的 に 電 話 相 談 は 、 誰 で も 、 ど こ か ら で

も 、 自 分 の プ ラ イ ヴ ァ シ ー を 明 ら か に し な いⅣ 具体的な援助技法 -2 さまざまな援助技法を活用する

-1 電話相談

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Page 88: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

ま ま 、 予 約 無 し で 、 し か も 安 価 に 相 談 に 乗 っ

て も ら う こ と が 可 能 で す 。 こ う し た こ と は 、

相 談 と い う 垣 根 を 低 く す る メ リ ッ ト が あ り ま

す 。 そ れ は 一 般 的 に 長 期 化 し や す い 、 「 ひ き

こ も り 」 の 相 談 を 早 め に で き る 大 変 貴 重 な チ

ャ ン ス で す 。

  反 面 、 情 報 だ け を 得 ら れ れ ば 、 と い う 本 人

や 家 族 の 期 待 が 強 く 出 て し ま い 、 一 回 限 り の

情 報 提 供 だ け で 終 了 し て し ま う 可 能 性 も あ り

ま す 。 相 談 員 か ら は 、 情 報 の 活 用 の 仕 方 ( 情

報 提 供 は 、 あ く ま で も 本 人 が 希 望 し 自 ら が 動

き 出 す こ と が 前 提 で あ る こ と ) な ど に つ い て

も 丁 寧 に 話 し を し て お く 必 要 が あ り ま す 。 ま

た 、 情 報 提 供 や 他 の 機 関 に リ フ ァ ー す る 際 も

「 問 題 が あ っ た ら ま た 電 話 を し て き て く だ さ

い 」 な ど の 言 葉 を 添 え て お く こ と も 必 要 で し

ょ う 。 な お 、 話 を 聞 い て い く 中 で 必 要 性 を 感

じ た ら 来 談 を す す め る な ど し て 、 電 話 相 談 を

来 所 相 談 に つ な げ て い く こ と も 大 切 で す 。

で き れ ば 電 話 相 談 用 に 、 地 域 の 相 談 機 関 ・

社 会 資 源 の 一 覧 表 を 用 意 す る と 便 利 で す 。

■相 談 と し て の 構 造 が 明 確 に し に く い 場 合 が

あ り ま す

  電 話 相 談 は 相 談 と し て の 構 造 が 曖 昧 に な り

が ち で す 。 機 関 と し て で き る こ と と 出 来 な い

こ と な ど の 限 界 を 明 ら か に し て お く 必 要 が あ

り ま す 。 具 体 的 に は 、 時 間 の 制 約 や 、 同 じ 相

談 員 で 継 続 相 談 が 出 来 に く い こ と 、 フ ィ ー ド

バ ッ ク が 出 来 な い た め 話 し の 内 容 が 一 般 的 ・

表 面 的 な 内 容 に 偏 る 可 能 性 の あ る こ と な ど をⅣ 具体的な援助技法 -2 さまざまな援助技法を活用する

-1 電話相談

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Page 89: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

説 明 す る 必 要 が あ る で し ょ う 。

 

■こ れ ま で の 経 緯 や 思 い が あ ふ れ て し ま う こ

と が あ り ま す

 家 族 な り 本 人 の 今 ま で の 思 い や 不 満 が 一 気

に あ ふ れ て し ま い 、 話 が 混 乱 す る 場 合 が あ り

ま す 。 そ の 場 合 、 ま ず 相 談 員 は そ の 不 安 や 不

満 な ど を で き る だ け 聞 く よ う に 努 め ま す 。 次

に は 、 電 話 を か け て 来 た 人 が 、 何 を ど の よ う

に 解 決 し た い の か を 語 っ て も ら う よ う に し ま

す 。 沢 山 出 て き て し ま う 場 合 に は 、 大 変 さ に

共 感 し つ つ も 、 そ の 内 の 第 1 番 目 と 2 番 目 位

に つ い て 絞 っ て 語 っ て も ら う よ う に し ま す 。

■例 外 的 に 複 数 回 に 渡 っ て 関 与 す る 場 合 も あ

り ま す

 電 話 相 談 は 一 回 限 り の ケ ー ス も 多 い と 考 え

ら れ ま す が 、 時 に は 継 続 し て 電 話 を か け て く

る こ と も 考 え ら れ ま す 。 強 い う つ ・ 強 い 自 殺

念 慮 ・ 自 殺 企 図 な ど 緊 急 の 場 合 な ど を 例 と し

て 、 必 要 な 場 合 に は 、 反 対 に こ ち ら か ら 相 談

者 に 再 度 か け て も ら う よ う 依 頼 す る 場 合 も あ

り ま す 。 と く に 「 ひ き こ も り 」 本 人 か ら の 相

談 の 場 合 に は 、 相 談 機 関 と 本 人 を つ な ぐ 窓 口

が 電 話 の み と な っ て い る 場 合 も あ り 、 継 続 的

な 援 助 の 必 要 性 ・ 有 効 性 が 考 え ら れ る ケ ー ス

も 多 い と 考 え ら れ ま す 。 そ の 場 合 は 申 し 送 り

を 行 い 複 数 の 職 員 間 で 対 応 を 継 続 さ せ た り 、

あ る い は 特 定 の 相 談 員 が 特 定 の 個 人 に 対 応 す

る よ う な 体 制 を 検 討 し 、 継 続 電 話 相 談 の 体 制Ⅳ 具体的な援助技法 -2 さまざまな援助技法を活用する

-1 電話相談

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Page 90: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

を 作 る こ と が 検 討 さ れ る で し ょ う 。

■緊 急 的 な 相 談 に 遭 遇 す る 可 能 性 が あ り ま す

電 話 相 談 に お い て は 、 そ の 電 話 相 談 が 危 機

介 入 的 な も の を 目 的 と し て い る ・ い な い に か

か わ ら ず 、 強 い 自 殺 年 慮 ・ 自 殺 企 図 や 暴 力 行

為 な ど 、 き わ め て 緊 急 的 な 相 談 に 遭 遇 す る 可

能 性 が あ り ま す 。 相 手 の 話 を よ く 聞 き な が ら

危 険 度 を 評 価 し つ つ 、 電 話 相 談 の み で 解 決 で

き る 問 題 か 、 他 の 手 段 を 講 じ る べ き か を 判 断

し ま し ょ う 。 緊 急 時 の 対 応 に つ い て は 、 Ⅳ 章

2 節 の 「 緊 急 時 対 応 」 を 参 照 し て く だ さ い 。

家 族 か ら の 電 話 相 談 の 場 合 に こ こ ろ が け る

こ と                            

家 族 か ら の 電 話 の 場 合 に は 、 可 能 で あ れ ば

家 族 が 相 談 に 出 か け て 来 る 気 持 ち に な る こ と

を 一 つ の 目 標 と し ま し ょ う 。 こ れ は 、 家 族 自

身 が ひ き こ も っ て い る 状 態 か ら 、 相 談 の た め

で あ っ て も 家 を 離 れ 、 外 出 す る 機 会 を 作 る と

い う 意 味 合 い も あ り ま す 。 ま た 、 電 話 を 通 し

て よ り も 、 対 面 で の 相 談 の 場 の ほ う が 、 援 助

の 可 能 性 が 広 が る た め で す 。

そ の た め 、 第 一 に 伝 え る こ と は 、 電 話 を く

れ て よ か っ た 、 こ れ か ら は 一 緒 に 頑 張 り ま し

ょ う 、 と い う こ と で す 。 孤 軍 奮 闘 す る の で は

な く 、 こ れ か ら 先 は 一 緒 に 考 え て い く 仲 間 が

で き た と い う 感 覚 を 持 っ て も ら え る よ う に す

る こ と が 大 切 で す 。

ま た 、 家 族 の 質 問 に 答 え を 出 し す ぎ な い よⅣ 具体的な援助技法 -2 さまざまな援助技法を活用する

-1 電話相談

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Page 91: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

う に す る こ と も 有 効 で し ょ う 。 電 話 相 談 で は

今 現 在 こ ん な こ と で 困 っ て い る 、 ど う し た ら

い い か 答 え を 知 り た い と い う よ う な 問 い か け

も 少 な く あ り ま せ ん 。 こ う し た 場 合 、 緊 急 事

態 を 除 い て は 、 ど う し て い く の が い い か じ っ

く り 一 緒 に 考 え て い く の も 一 つ の 手 法 で す 。

そ の た め に ま ず 電 話 を か け て き た 親 が 相 談 の

場 に 顔 を 出 し て く だ さ い 、 と い う こ と を 丁 寧

に 伝 え て い き ま す 。

事 例 紹 介 : 「 ひ き こ も り 」 の 本 人 か ら の 電

話 相 談 へ の 対 応

 ここでは参考に、民間フリースペースにおけるひきこもっている本人への電話相談を例

示します。

●  基 本 的 態 度

本人からの電話相談は、それを通じてすぐに問題を解決したり整理することなどがしに

くいといえますし、また本人も必ずしもそれを求めているとは限りません。電話がその人

にとって唯一の窓口であり、「ともかく他の人に接したい」「誰かに不安をきいて欲し

い」といった思いから電話をかけてくることがあります。こうした思いに対し、援助者が

問題の解決をしようと意気込み、質問攻めなどで切り込むと逆効果である恐れもあります。

相談者は電話相談を通じ、本人にとって心地よいコミュニケーションをとることを目標と

し、相手のペースに添って話すことをこころがけるとよいでしょう。

基本的には、つながりがもてるのはその1 回限りかもしれないと考えて話を聞くように

します。実際に何ヶ月・何年もためらって、その日ようやく電話できた、というような例

もあります。やっとの思いでかけてきた電話を有効に使えるよう、「また今度」はない、

と意識して電話に対応するようにしましょう。また、ご本人に安心してもらうために、相

談はあくまで秘密でありプライヴァシーが守られることも伝えましょう。

なお、学校や家族などに言われて無理して電話をしてくる場合、自分自身や家族、学校

や教師などに怒りをもっていることもあります。その場合には、そうした状況に理解を示

しながら、「にもかかわらず電話をかけてきて嬉しい」などねぎらうようにしましょう。

Ⅳ 具体的な援助技法 -2 さまざまな援助技法を活用する

-1 電話相談

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Page 92: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

●  ゆ っ く り 幅 を 持 た せ て 、 対 応 す る

本人からの電話の場合、なかなか自分のことは話さずに、こちらの機関についての質問を

次々にしてくる場合があります。「何歳くらいの人が、何人くらい来ているのか」「どんな

ことをしているのか」。そうした質問は、自分は特殊なのではないかと不安で、自分が相談

してもいいかどうか確認していると考えて、あまり具体的になりすぎず、なるべく幅を持た

せて答えるようにします。こうでなければいけない、というような決まりはなく、電話をか

けてきているあなたも受け入れているというこちら側の態度を示すことにもなります。

●  本 人 の い る 状 況 を イ メ ー ジ す る

一方的に話を聞くだけではなく、本人のいる状況がイメージできるように、こちらからも

質問を投げかけます。たとえば「今どこの部屋から電話しているの」という質問で、自分の

部屋にこもっているのか家族が過ごす居間から電話することができているのかを知ることが

できます。こうしたやりとりを通じ、どんな状況から電話しているのかを推察しやすくなり

ます。

自分の困難な状況を話し続ける本人に対して、その困難をいきなり打開する策を示すのは

至難の業です。会話の合間に相手の今いる状況を把握して、今現在できることを探していき

ます。

●  電 話 を し な が ら で も で き る 行 動 を 提 案 し 、

体 験 を 共 有 す る

電話で会話を続けながら、ちょっと後押しをして何かをしてみる体験を共有することを本

人からの電話相談でこころがけるとよいでしょう。たとえば「カーテン、締め切ってないで

ちょっとだけ開けてみたら?」「いいお天気で気持ちいいね」といったような感じです。こ

こで注意することは、大きな提案をするのではなく、電話をしながらでもできるような身近

な小さな行動を起こしてみるように提案することです。このように、そうした小さな行動で

も少し気分が変わることを体験したり、それができたことを一緒に味わうようにするのも一

つのテクニックです。

●  電 話 を 切 る と き

電話を切る時には、電話をくれたことをねぎらい、話ができたことをうれしく思うといっ

たような感想を伝えます。さらに「もっと話が聞きたいなぁ」という言葉も明るく添えると

よいでしょう。いつでも電話をくれるのを待っている、というメッセージを伝えます。また

「どんな顔をしているのかなぁ、会いたいなぁ」という事もあります。本人に関心を持って

いるということを最後まで柔らかく伝えるように心がけます。

ただし本人が直接相談に来るのは、大変な勇気と労力のいることです。性急に来所相談を

目標とするのではなく、基本的にはこの場で心地よいコミュニケーションをする、可能であ

ればまた電話をしてくれることを目標にするなど、相手のペースに合わせた対応をしましょ

う。

Ⅳ 具体的な援助技法 -2 さまざまな援助技法を活用する

-1 電話相談

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Page 93: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

参考文献:佐藤誠 高塚雄介 福山清蔵著 電話相談の実際 1999双文社

Ⅳ 具体的な援助技法 -2 さまざまな援助技法を活用する

-1 電話相談

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Page 94: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

-2 家庭などへの訪問「 ひ き こ も り 」 の 状 態 の よ う に 、 外 出 に 困

難 を 感 じ る 人 々 へ の 援 助 に あ た っ て 、 援 助 者

が 訪 問 を お こ な う と い う あ り 方 は 、 当 然 考 慮

さ れ て よ い 方 法 で す 。 す で に 、 精 神 障 害 の 領

域 で は 、 な か な か 通 院 通 所 が 出 来 な い 患 者 さ

ん の 居 住 地 域 に 援 助 者 が 足 を 運 び 、 生 活 の 場

で 支 援 す る と い う 方 法 論 が 、 地 域 生 活 の 安 定

に 寄 与 す る と い う 成 果 を あ げ て い ま す 。

お そ ら く 、 「 ひ き こ も り 」 の 状 態 に あ る

人 々 へ の 支 援 に あ た っ て も 、 同 様 の 効 果 を 訪

問 活 動 が あ げ る こ と は 期 待 さ れ ま す 。 し か し

訪 問 に は 、 こ ち ら の 力 量 や 立 場 、 あ る い は 相

手 の 事 情 に よ っ て 、 多 様 な あ り 方 が 考 え ら れ

ま す 。 必 ず し も ひ と つ の ガ イ ド ラ イ ン と し て

整 理 で き な い 部 分 も あ る か と 思 わ れ ま す 。 本

章 で は 、 現 時 点 で 考 え ら れ る 訪 問 の 選 択 肢 の

い く つ か に つ い て 提 示 を お こ な い ま す 。

生 活 の 場 に ふ れ る こ と   VS  生 活 の 場 に 侵

入 す る こ と

訪 問 と は 、 「 家 族 や 本 人 の 生 活 の 場 に 足 を

運 ぶ 」 活 動 で す 。 訪 問 し て み る と 、 視 覚 ・ 聴

覚 ・ 触 覚 ・ 嗅 覚 な ど 様 々 な 知 覚 に よ り 情 報 が

と ら え ら れ 、 今 ま で 気 が つ か な か っ た 家 族 や

本 人 の 状 態 が わ か る も の で す 。 生 活 の 状 況 を

肌 身 で 理 解 し て 、 そ の 実 状 に 応 じ た 支 援 や サ

ー ビ ス を 提 供 す る こ と が 可 能 に な る の は 、 訪

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-2 家庭訪問

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Page 95: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

問 の 最 大 の メ リ ッ ト で し ょ う 。

一 方 、 訪 問 さ れ る 側 の 立 場 に 立 つ と 、 そ れ

は 他 者 が プ ラ イ ベ ー ト な 空 間 に 侵 入 し て く る

体 験 に 他 な り ま せ ん 。 も し 、 こ の 他 者 が 無 害

な 存 在 で あ り 、 ま た 、 新 鮮 な 息 吹 き を 運 ん で

く る 存 在 だ と す れ ば 、 こ の 訪 問 は 、 孤 立 感 や

不 安 感 を 和 ら げ る も の と し て 歓 迎 さ れ る で し

ょ う 。 と き に は 、 プ ラ イ ヴ ァ シ ー を 共 有 し う

る 、 よ り 親 し い 存 在 と 意 識 さ れ る か も し れ ま

せ ん 。 し か し 、 も し 、 こ の 他 者 が 根 掘 り 葉 掘

り プ ラ イ ヴ ァ シ ー を あ ば く 存 在 、 安 定 を 揺 さ

ぶ る 存 在 と し て 意 識 さ れ れ ば 、 そ れ は 望 ま れ

ざ る 訪 問 者 と な り ま す 。 か え っ て 、 邪 魔 な 存

在 、 拒 否 の 対 象 と な る で し ょ う 。

訪 問 を 開 始 す る に あ た っ て 、 以 下 の 点 は 最

小 限 考 慮 す べ き 項 目 と 思 わ れ ま す 。

・ 訪 問 は 、 一 種 の 契 約 関 係 に よ り 成 立

す る 援 助 活 動 で あ り 、 第 三 者 の 要 請 に よ

る 「 援 助 と し て の 訪 問 活 動 」 は あ り え ま

せ ん 。 少 な く と も 家 族 と 十 分 関 係 づ く り

が 出 来 て か ら は じ め る こ と

・ 一 回 の 訪 問 で 、 多 く の 事 を し よ う と

思 わ な い こ と 。 と く に は じ め の う ち は 短

時 間 で 切 り 上 げ る こ と

・ 訪 問 開 始 時 に 、 少 な く と も 数 回 分 の

訪 問 の ス ケ ジ ュ ー ル を 作 る こ と 。 一 度 し

か 訪 問 し な い と い う 計 画 は 、 力 み が 入 る

の で 、 か え っ て 侵 入 的 に な る こ と が あ り

ま す

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-2 家庭訪問

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Page 96: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

・ 訪 問 だ け で 援 助 活 動 を 組 み 立 て な い

こ と 。 来 所 相 談 、 家 族 心 理 教 育 へ の 参 加

な ど 、 複 数 の プ ロ グ ラ ム の な か で 家 族 や

本 人 を 支 え る こ と 。 ま た 、 訪 問 を 振 り 返

る 時 間 を 家 族 や 本 人 と 持 つ こ と

訪 問 の 目 的

訪 問 は 、 そ の 主 た る 対 象 ご と に 場 合 わ け す

る と 、 お よ そ 次 の 3 つ の パ タ ー ン が 考 え ら れ

ま す 。

・ 家 族 に 会 い に 行 く 訪 問

・ 本 人 に 会 い に 行 く 訪 問

・ 家 族 と 本 人 が 一 緒 に い る と こ ろ に 会

い に 行 く 訪 問

そ れ ぞ れ 、 そ の 目 標 と す る と こ ろ は 、 少 し

ず つ 異 な り ま す 。 た だ 漫 然 と 訪 問 に 行 く の で

は な く 、 こ の 訪 問 で ど の よ う な こ と が 出 来 れ

ば よ い の か を 、 あ る 程 度 明 確 に 意 識 し て お く

こ と は 、 そ の 後 の 援 助 の 進 め 方 を 検 討 す る う

え で も 、 有 用 な こ と で す 。

し か し 同 時 に 、 こ ち ら の 意 図 と は 別 に 、 訪

問 し て み る と 家 族 だ け で な く 本 人 に も あ え た

り 、 思 わ ぬ 拒 否 に あ っ た り 、 ハ プ ニ ン グ は つ

き も の で す 。

目 標 を 明 確 に 持 つ と 同 時 に 、 状 況 が 変 わ れ

ば 対 応 も 変 え る と い っ た 柔 軟 な 姿 勢 が あ る こ

と が 望 ま れ ま す 。

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-2 家庭訪問

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Page 97: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

家 族 に 会 い に 行 く 訪 問

  家 族 と の 継 続 相 談 が は じ ま っ て 、 家 族 と 援

助 者 と の 関 係 性 が 落 ち 着 い て き た と き に 、 家

庭 訪 問 を す る こ と が あ り ま す 。 こ の 場 合 本 人

と 会 え る 場 合 も あ る か も し れ ま せ ん が 、 そ れ

は あ く ま で 副 産 物 で す 。 長 年 に わ た る 「 ひ き

こ も り 」 の た め に 、 家 族 ま で も が ひ き こ も り

自 宅 に 他 人 を 招 か な く な っ て 久 し い よ う な 状

況 で 、 家 庭 の 風 通 し を い く ら か で も 良 く で き

れ ば 、 家 族 が 自 宅 で 他 者 と ほ ん の 少 し で も 和

や か に 雑 談 が で き れ ば と い っ た よ う な 目 的 で

お こ な い ま す 。 た だ し 、 こ ち ら は い く ら 家 族

の た め と 思 っ て も 、 家 族 に し て み れ ば 「 ぜ ひ

本 人 を 連 れ 出 し て も ら い た い 」 と 思 う の は 、

し ば し ば あ り が ち な こ と で す 。 「 今 回 は 、 お

母 様 の お 友 達 の よ う な つ も り で 、 少 し だ け 、

お う ち の ご 様 子 を 教 え て い た だ け れ ば と お も

っ て 訪 問 を し た い の で す が 」 と 、 こ ち ら の 意

図 を き ち ん と 明 ら か に し て お き ま し ょ う 。

■訪 問 に 行 く こ と を 本 人 に ど う 伝 え る か

ス タ ッ フ が 家 庭 を 訪 問 す る と な っ た と き 、

家 族 か ら 本 人 に そ の こ と を ど う 伝 え る か と い

う の も 大 切 な ポ イ ン ト で す 。 不 意 打 ち に は な

ら な い よ う に 、 数 ヶ 月 前 く ら い に は 、 家 族 が

相 談 に き て い る こ と が 、 伝 わ っ て い る ほ う が

安 全 で し ょ う 。 そ れ も 、 「 本 人 の た め に 相 談

に 行 っ て い る 」 と い う よ り も 、 む し ろ 「 家 族

自 身 が 自 分 の 考 え 方 の 整 理 な ど 相 談 し た く て

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-2 家庭訪問

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Page 98: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

行 っ て い る 」 と い う よ う な 表 現 で 、 伝 わ っ て

い る こ と が 望 ま し い と こ ろ で す 。 そ し て 、 訪

問 に つ い て も 「 い つ も 相 談 に 行 っ て い る と こ

ろ か ら 、 ち ょ っ と 私 に 会 い に 、 遊 び に 来 て く

れ る 」 と い う よ う に 、 軽 い 感 じ で 伝 え て も ら

う の が コ ツ の よ う で す 。

■実 際 に 家 庭 を 訪 問 す る

ひ き こ も っ た 本 人 の い る 家 に 誰 か 他 人 が 訪

ね て く る こ と 自 体 が も う 何 年 も さ れ て い な い

場 合 も あ り 、 訪 問 は 、 そ れ だ け で 家 庭 に と っ

て 大 き な 介 入 に な り え ま す 。 本 人 も 相 談 機 関

か ら 誰 か が 尋 ね て く る と な る と 、 何 を い わ れ

る の か 、 ど ん な こ と を さ れ る の か と 非 常 に 緊

張 す る よ う で す 。 ま ず は 多 く の こ と を 望 ま ず

会 話 が 少 な く な り が ち な 家 庭 の 中 で 明 る い 話

し 声 が 聞 こ え る 時 間 を 作 り に 行 く と い う 感 じ

で 、 あ ま り 硬 く な り す ぎ ず 、 本 人 へ も 圧 迫 的

に な り す ぎ な い よ う に 注 意 し ま す 。 「 家 族 に

会 い に 行 く 訪 問 」 は 、 あ く ま で 家 族 が 訪 問 の

対 象 で す 。 本 人 の 意 思 を 確 か め ず に 、 本 人 の

部 屋 に 入 っ た り す る 行 動 は 慎 み ま し ょ う 。

最 初 の う ち は 、 あ ま り 長 居 を せ ず 、 せ い ぜ

い 3 0 分 程 度 で 、 雑 談 程 度 、 ち ょ っ と 立 ち 寄

っ た 程 度 の 軽 い 訪 問 が 、 安 全 で 、 か つ 次 の 展

開 に つ な げ や す い 訪 問 で す 。 こ の よ う な 訪 問

を し な が ら 、 訪 問 後 何 か 小 さ な 変 化 が 生 じ て

い る か を 、 来 所 相 談 の と き に 家 族 と て い ね い

に 振 り 返 る と よ い で し ょ う 。

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-2 家庭訪問

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Page 99: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

■本 人 に 会 え た と き

訪 問 を 繰 り 返 す う ち に 、 本 人 が ち ら っ と 姿

を 見 せ た り 、 と き に は 訪 問 者 の い る 部 屋 に 入

っ て き た り す る よ う に な り ま す 。 顔 を 出 さ な

い ま で も 隣 の 部 屋 に い る 気 配 で 、 訪 問 者 に 関

心 を 持 っ て 近 づ い て き て い る こ と が わ か る と

き も あ り ま す 。 本 人 の 姿 が 見 え た ら 「 こ ん に

ち は 」 と 明 る く 声 を か け ま す が 、 そ の 後 は 家

族 と の 会 話 を 変 わ ら ず 続 け る の が よ い よ う で

す 。 ち ら っ と 顔 を 出 し た と た ん 、 急 に 一 対 一

で 会 話 す る こ と を 求 め ら れ た ら 、 戸 惑 う し 、

緊 張 す る も の で す 。 あ え て 本 人 に 注 目 し す ぎ

ず に 、 家 族 と の 会 話 を 続 け て 、 そ の な か で 本

人 に も 声 を か け ら れ る 部 分 で 声 を か け る と い

う の が よ い よ う で す 。

本 人 に 会 い に 行 く 訪 問

本 人 に 会 い に 行 こ う と 意 図 し た 訪 問 で も 、

容 易 に 本 人 に 会 え る と は 限 り ま せ ん 。 ま た 、

本 人 の 同 意 が 取 れ る ま で は 、 あ く ま で 任 意 の

働 き か け に 過 ぎ ま せ ん 。 し た が っ て 、 当 初 は

直 接 会 う こ と よ り も 、 侵 入 的 で な い 援 助 者 、

何 か あ っ た ら 相 談 で き る 存 在 で あ る こ と を 雰

囲 気 で 伝 え ら れ た ら よ い か と 思 い ま す 。 ご 家

族 と 主 と し て 会 話 を し な が ら 、 「 お じ ゃ ま し

ま す 」 「 ま た 、 き ま す ね 」 な ど の 、 声 か け 程

度 か ら は じ め る の が ち ょ う ど 良 い 場 合 も あ り

ま す 。 「 拒 否 さ れ て は い な い よ う だ 」 と の 感

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-2 家庭訪問

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Page 100: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

覚 を も て た ら 、 短 い 手 紙 な ど を 書 き お い て お

く の も よ い か も し れ ま せ ん 。

■本 人 に 会 え た と き

本 人 に 会 え た と き に は 、 自 己 紹 介 を し て 自

分 が ど の よ う な 立 場 に あ る か を 簡 潔 に 話 し ま

す 。 本 人 は 訪 問 者 に 対 し て 、 期 待 と 不 安 を 同

時 に 持 っ て い ま す 。 会 え て 良 か っ た 、 嬉 し か

っ た と い う こ と を 淡 々 と 、 し か し 素 直 に 口 に

出 し て 本 人 に 伝 え ま し ょ う 。

長 期 間 自 宅 に ひ き こ も っ て い た 場 合 、 誰 か

と 話 し た く て も 話 す 自 信 が 持 て な か っ た り 、

上 手 く 話 せ な い の で は と い っ た 不 安 感 が 先 に

立 っ て し ま い 、 話 す こ と 自 体 に 戸 惑 い を 感 じ

る こ と も あ り ま す 。 初 対 面 で は 以 下 の よ う な

配 慮 が 必 要 で す 。

・ 初 対 面 は 大 変 疲 れ る も の 。 興 が 乗 っ

て い る よ う な と き で も 2 0 分 程 度 で 切 り

上 げ る こ と

・ 無 口 な 方 と の 面 接 で は 、 沈 黙 を 恐 れ

な い こ と 。 沈 黙 に 耐 え 切 れ ず 、 援 助 者 側

が 一 方 的 に し ゃ べ っ て し ま う こ と が な い

よ う に

・ 過 去 や 未 来 の こ と を い き な り 話 す の

で は な く 、 今 ・ こ こ の 話 題 を 扱 う こ と「 」 。

相 談 と い う よ り も 、 和 や か な 「 お は な

し 」 で あ る よ う に 。 ま ず は 、 問 題 よ り も 、

本 人 が す で に や れ て い る こ と 、 本 人 の 長

所 を さ が し て 、 ほ め る こ と

・ 「 ま た 会 い に 来 て も い い か 」 と い う

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-2 家庭訪問

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Page 101: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

こ と を た ず ね 、 可 能 で あ れ ば 、 つ ぎ に 会

う と き の 約 束 を と り つ け る こ と

・ 話 を 終 え る と き に 、 勇 気 を も っ て「会 っ て く れ た こ と に た い す る 感 謝 と ね」ぎ ら い 、 お そ ら く 神 経 を 使 っ た で あ ろ う

か ら 、 ゆ っ く り 休 ん で も ら い た い と の コ

メ ン ト を つ た え る こ と

■本 人 と 慣 れ て き た ら

生 活 の 場 へ の 訪 問 の メ リ ッ ト は 、 会 話 だ け

で な く 、 本 人 の 好 き な こ と を 一 緒 に す る と い

う 体 験 が で き る こ と で す 。 た と え ば 、 一 緒 に

ゲ ー ム を す る 、 ペ ッ ト が い た ら そ れ に ふ れ る

散 歩 を す る 、 一 緒 に 喫 茶 店 に 行 く 、 な ど で す

「 本 人 が や っ て み た い 何 か を 手 伝 う 訪 問 」 に

な る と 、 訪 問 の 幅 も 広 が り ま す 。 選 択 肢 と し

て 「 一 緒 に 相 談 機 関 ま で き て み る 」 と い う 、

課 題 も い れ 、 本 人 の 活 動 が 広 が る こ と を 応 援

し ま す 。 仕 事 や 勉 強 と い っ た 課 題 に ど の よ う

に 取 り 組 み た い の か と い う こ と に も ふ れ 、 そ

の 実 現 の た め の 工 夫 を 一 緒 に 考 え る と い う こ

と も あ り ま す 。

な お 、 本 人 が 単 身 で 住 ん で い る 場 合 な ど に

は 、 互 い の 緊 張 を 解 く た め に 、 一 人 で の 訪 問

は 控 え 、 複 数 で 訪 問 す る な ど の 配 慮 が 必 要 で

し ょ う 。

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-2 家庭訪問

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Page 102: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

本 人 と 家 族 が 一 緒 に い る と こ ろ に 会 い に 行

く 訪 問                          

と き に は 、 家 族 と 本 人 が 一 緒 に い る 場 所 で

話 が で き る 場 合 が あ り ま す 。 家 族 療 法 に 詳 し

い 方 は 別 と し て 、 一 般 的 に は 、 親 や 本 人 の ど

ち ら か に 肩 入 れ し す ぎ て し ま い 、 家 族 の あ い

だ の 板 ば さ み に な る こ と が あ り ま す 。 訪 問 の

当 面 の 目 標 は 、 「 家 族 全 体 の 応 援 者 が い る 」

こ と を 伝 え る こ と で す 。 た と え ば 、 次 の よ う

な 工 夫 は 会 話 を つ な げ て い く の に 役 に た ち ま

す 。

・ ど ち ら か と い え ば 、 親 に 6 分 、 本 人

に 4 分 程 度 の 肩 入 れ を め ざ す 。 こ れ は 、

本 人 と 家 族 の 意 見 が 対 立 す る よ う な と き

に 、 本 人 に 肩 入 れ す る あ ま り 家 族 に 対 し

て 否 定 的 に な っ て し ま い が ち な こ と へ の

戒 め で す 。 逆 に 家 族 に 1 0 0 % の 肩 入 れ

で も う ま く い か な い こ と は い う ま で も あ

り ま せ ん 。

・ 本 人 家 族 に 共 通 す る 話 題 で 、 雑 談・を す る 。 そ の 際 、 本 人 の コ メ ン ト と 家 族

の コ メ ン ト の 両 方 を 聞 く 。 そ の と き に 、

援 助 者 自 身 の 体 験 も 少 し 披 露 で き る と 、

よ い 関 係 づ く り が で き る よ う で す 。

・ 本 人 の す で に 出 来 て い る 点 、 家 族 の

す で に 出 来 て い る 点 な ど を て い ね い に 会

話 の 中 か ら 拾 い 上 げ て い き ま す 。 「 何 が

問 題 な の か 」 と い う の は 、 し ば し ば 聞 か

れ る 問 い で す が 、 安 易 に 答 え を 見 出 さ な

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-2 家庭訪問

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Page 103: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

い こ と 。 今 ま で 体 験 し た ち ょ っ と で も よ「い 状 態 の と き の こ と な ど を 詳 し く 聞 き 、」解 決 の 糸 口 を 一 緒 に 考 え る こ と 。

・ 本 人 に 関 す る 話 題 ば か り で な く 、 家

族 に 関 す る 話 題 も と り あ げ る 。 と き に は 、

本 人 と は 無 関 係 の 話 題 に 、 本 人 が コ メ ン

ト を 述 べ る よ う な 場 面 も 良 い よ う で す 。

・ 本 人 と 家 族 の 意 見 の 食 い 違 い が あ る

と き に は 、 違 い が あ る こ と を 、 て い ね い

に 確 認 す る こ と 。 そ し て 、 「 お 母 さ ん は

○ ○ と い う よ う に 考 え て い る ん だ け れ ど 、

誰 々 さ ん は ××と 考 え て い る わ け だ 。 そ う

い う 考 え 方 の 違 い が あ る ん だ ね 」 と い う

よ う な お さ え 方 を す る こ と 。 け っ し て 、

片 方 の 意 見 の み を 優 遇 す る よ う な こ と は

な い よ う に す る こ と 。

・ 暴 力 の よ う な 、 危 険 な 行 為 に 関 し て

は 、 援 助 者 の 見 解 を 明 確 に 述 べ る こ と 。

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-3 家族向けの心理教育的グループ家 族 が 集 ま る こ と の 意 義

■「 ひ き こ も り 」 の 家 族 援 助 の 基 本 は 個 別 面

接 で の 関 わ り で す

家 族 の 回 復 に 向 け た 援 助 の 基 本 は 、 個 別 の

面 接 で す 。 援 助 者 と の 間 に し っ か り と し た 信

頼 関 係 が 作 ら れ 、 家 族 が 安 心 感 を 持 て る こ と

が 非 常 に 重 要 で す 。

■同 じ よ う な 問 題 を 持 つ 家 族 が 集 ま る こ と に

も 意 義 が あ り ま す

と き に は 、 家 族 の 焦 り な ど が 影 響 し て 変 化

が 起 き に く か っ た り 、 有 効 な 変 化 が 得 ら れ る

ま で に 時 間 が か か る こ と も あ り ま す 。 同 じ よ

う な 問 題 を 抱 え て い る 複 数 の 家 族 で 構 成 さ れ

る グ ル ー プ に 参 加 す る こ と は 、 「 特 殊 な 問 題

を 抱 え て し ま っ た 」 と 感 じ て い た 家 族 が よ く

似 た 立 場 の 人 に 出 会 う 場 と な り 、 孤 独 感 の 軽

減 や 大 き な 安 心 感 が 得 ら れ る 場 と も な り ま す

ま た 、 そ れ ぞ れ に 困 難 を 抱 え つ つ も 、 問 題 に

対 処 し て き た 者 と し て 会 話 を し て い く 中 で 、

そ れ ぞ れ が 抱 え て い る 問 題 へ の 対 処 が し や す

く な り 、 変 化 が 促 進 さ れ る こ と も あ り ま す 。

心 理 教 育 的 ア プ ロ ー チ と は

■心 理 教 育 的 ア プ ロ ー チ は 、 家 族 を 元 気 づ け

る 援 助 技 法 で す

心 理 教 育 的 ア プ ロ ー チ は 、 慢 性 的 な 疾 患 や

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-3 家族向け心理教育的グループ

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長 期 に わ た る 問 題 を 抱 え る 家 族 を 援 助 す る た

め に 用 い ら れ る 技 法 で 、 情 報 提 供 の 場 と 相 談

の 場 の 二 つ が 中 心 と な り ま す 。 そ れ に よ り 、

正 し い 知 識 の 習 得 、 孤 立 感 の 軽 減 、 よ り よ い

工 夫 の た め の ヒ ン ト な ど を 得 る こ と が で き ま

す 。

心 理 教 育 的 な 援 助 は 、 個 々 の 家 族 と お こ な

う 場 合 と グ ル ー プ で お こ な う 場 合 が あ り ま、す 。 グ ル ー プ 形 式 で 実 施 す る こ と で 、 相 互 の

や り と り の 中 か ら 新 た な 問 題 解 決 の 可 能 性 の

選 択 肢 が 広 が る 、 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 が

向 上 す る と い っ た 効 果 も 得 ら れ ま す 。 グ ル ー

プ に 参 加 す る と い う こ と は 家 族 の 社 会 参 加 の

機 会 と な り 、 家 族 の 居 場 所 と し て 機 能 す る こ

と も あ り ま す 。

■「 ひ き こ も り 」 の 家 族 へ の 心 理 教 育 の 効 果

家 族 を 対 象 と し た 心 理 教 育 的 グ ル ー プ は こ

れ ま で 統 合 失 調 症 な ど を 中 心 に 発 展 し 、 患 者

の 再 発 率 を 低 下 さ せ 、 生 活 を 安 定 さ せ る と い

っ た 効 果 が 報 告 さ れ て い ま す 。 心 理 教 育 的 グ

ル ー プ は 同 様 に 慢 性 に 経 過 す る こ と が 多 い そ

の 他 の 問 題 ( た と え ば 摂 食 障 害 や 老 人 介 護 )

を 抱 え た 家 族 に 対 し て も 実 施 さ れ る よ う に な

り 、 実 証 的 な 効 果 の 検 討 も さ れ つ つ あ り ま す 。

「 ひ き こ も り 」 も ま た 、 回 復 ま で に は 年 単

位 の 時 間 を 要 す る こ と が 多 く 、 慢 性 に 経 過 し

て 家 族 に も 大 き な 負 担 と な る 問 題 と 捉 え る こ

と が で き ま す 。 心 理 教 育 的 グ ル ー プ に よ っ て

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-3 家族向け心理教育的グループ

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家 族 の 負 担 軽 減 や 対 処 能 力 の 回 復 向 上 が お・き う る の で は な い か と 考 え ら れ ま す 。 す で に

相 談 機 関 の 中 で は 、 家 族 相 談 会 、 家 族 勉 強 会

と い っ た 名 称 で そ の 心 理 教 育 の 手 法 を 取 り 入

れ た 試 み を お こ な っ て い る と こ ろ が あ り ま す 。

し か し そ れ ら の 取 り 組 み は 「 ひ き こ も り 」

か ら の 回 復 へ の 直 接 的 な 効 果 の 実 証 に は 至 っ

て お ら ず 、 今 後 の 経 験 の 積 み 重 ね が 必 要 な 分

野 で す 。 こ の ガ イ ド ラ イ ン の 中 で は 、 す で に

行 わ れ て い る 「 社 会 的 ひ き こ も り 」 の 問 題 を

中 心 と し た 心 理 教 育 的 家 族 グ ル ー プ の 取 り 組

み を 、 ひ と つ の 参 考 と し て 取 り 上 げ ま す 。

グ ル ー プ を は じ め る 前 に

※ 詳 し い 内 容 は 成 書 を 参 考 に し て く だ さ い 。

■グ ル ー プ の 枠 組 み を 決 め て お き ま す

時 間 開 催 回 数 を 決 め ま す 。 ま た 、 参 加 者・同 士 が 情 報 を 共 有 し や す い と い う 意 味 で 、 参

加 開 始 時 期 も 一 定 期 間 内 に 限 る 方 が よ い よ う

で す 。

■顔 と 名 前 が 一 致 し 、 や り 取 り で き る 程 度 が

グ ル ー プ サ イ ズ の 目 安 で す

会 場 の 大 き さ 、 時 間 、 ス タ ッ フ 数 に よ っ て

違 い ま す が 7 ~ 12 人 程 度 、 ス タ ッ フ を 含 め て

10 ~ 1 5 人 程 度 参 加 し て い る と 、 落 ち 着 い た

雰 囲 気 で 、 し か も あ る 程 度 多 彩 な 発 言 が 得 ら

れ る よ う で す 。

参 加 者 の 属 性 ( 母 親 の み な ど ) に つ い て は 、

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-3 家族向け心理教育的グループ

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グ ル ー プ の 目 標 や 機 関 の 性 質 な ど に よ っ て 決

定 し て お く と い よ い で し ょ う 。

■ス タ ッ フ の 役 割 分 担 も 大 切 で す

 ス タ ッ フ の 役 割 で は グ ル ー プ リ ー ダ ー 、 ホ

ワ イ ボ ー ド を 使 っ た 板 書 係 な ど が あ り ま す 。

人 数 に 余 裕 が あ る 場 合 は 、 情 報 提 供 や 記 録 の

係 を 別 に 決 め て お く と よ い で し ょ う 。

■グ ル ー プ の 進 行 を 明 確 に し て お き ま す

グ ル ー プ の 進 行 ( 時 間 割 ) を 明 確 に し て お く

こ と は 、 参 加 者 の 不 安 や 孤 立 感 の 軽 減 に 役 立

ち ま す 。 ま た 援 助 者 自 身 の 安 心 感 に も つ な が

り ま す 。 毎 回 の 進 め 方 や 簡 単 な ル ー ル は 、 掲

示 し て つ ね に 参 加 者 で 共 有 で き る よ う に し て

お く と い よ い で し ょ う 。

心 理 教 育 的 グ ル ー プ の 進 め 方

実 際 の グ ル ー プ は 、 主 に 援 助 者 側 か ら の 情

報 提 供 の 時 間 と 、 参 加 者 同 士 で 具 体 的 な 問 題

の 解 決 に 向 け た 話 し 合 い の 時 間 と に 大 き く 分

け る こ と が で き ま す 。 以 下 の 例 を 紹 介 し ま す 。

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-3 家族向け心理教育的グループ

① はじめの挨拶:参加者の労をねぎらったり、進行の説明をします。② ウォーミングアップ:例えば”良かったこと探し”などを全員で語らいます。③ 情報提供④ 話し合い1)テーマの決定2)現状・困っていること・解決したいポイントを明確にする3)アイディアを出し合う4)相談者がすぐに取りかかれそうな、アイディアを選ぶ

⑤ 感想:参加者、スタッフ全員で感想を述べます。 ⑥ 終わりの挨拶::参加してくださったことへの感謝、次回の連絡をします。

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Page 108: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

心 理 教 育 的 グ ル ー プ 運 営 上 の 工 夫

■ゆ っ く り と 休 憩 時 間 を と る こ と に も 、 大 き

な 意 味 が あ り ま す

休 憩 時 間 は 家 族 同 士 で 一 息 つ い て 交 流 す る

時 間 に し ま す 。 お 茶 な ど が あ る と リ ラ ッ ク ス

し た コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が と り や す く な る こ

と も あ り ま す 。

■グ ル ー プ 進 行 で は 、 な る べ く 柔 ら か な 雰 囲

気 を 作 る こ と が 大 切 で す

グ ル ー プ に お い て 、 こ こ で は 話 を し て も 大

丈 夫 だ と 感 じ ら れ る 雰 囲 気 を 作 る こ と が 、 重

要 で す 。 雰 囲 気 作 り は ス タ ッ フ 全 員 の 仕 事 で

も あ り ま す 。

■ド ロ ッ プ ア ウ ト を 防 ぐ た め に

  回 を 重 ね る 中 で 、 欠 席 者 や ド ロ ッ プ ア ウ ト

し て し ま う 参 加 者 が 出 て く る こ と も あ り ま す

こ う し た こ と を 少 な く す る た め に は 、 以 下 の

工 夫 が あ り ま す 。

1) 前 回 休 ん だ 場 合 で も グ ル ー プ の 進 行 が わ

か る よ う に す る

2) 次 回 相 談 し た い こ と 、 要 望 な ど を 書 く 欄

を 作 り 、 対 応 で き な く て も 何 ら か の フ ィ

ー ド バ ッ ク を す る

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-3 家族向け心理教育的グループ

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3) 情 報 提 供 は 、 で き る だ け 簡 潔 で 理 解 し や

す い よ う に 配 慮 す る

4) 発 言 者 が 偏 っ て 、 他 の 参 加 者 が 置 き 去 り

に さ れ な い よ う に す る

グ ル ー プ の 効 果 を つ ね に 評 価 し て い く 姿 勢

が 必 要 で す                          

 グ ル ー プ を 有 効 に 活 用 し て い く た め に は 、

個 別 の 面 接 の 中 で グ ル ー プ に 参 加 す る 目 的 を

き ち ん と 位 置 づ け る こ と 、 家 族 が グ ル ー プ で

感 じ た こ と や 学 ん だ こ と に つ い て 個 別 面 接 の

中 で も フ ォ ロ ー し て い く こ と が 必 要 で す 。 ア

ン ケ ー ト や ア セ ス メ ン ト 表 を 使 用 し た 家 族、の 主 観 的 評 価 、 面 接 者 の 客 観 的 評 価 か ら グ ル

ー プ の 与 え る 影 響 を 見 極 め 、 機 関 内 で も そ の

評 価 を 共 有 す る よ う に し て 事 業 評 価 を し て い

く こ と が 必 要 で し ょ う 。

参考文献:鈴木戈 伊藤順一郎著 ・ SSTと心理教育 1997  中央法規

後藤雅博編 家族教室のすすめ方 1998  金剛出版

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-3 家族向け心理教育的グループ

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-4 本人向けのグループ活動-1デイケア・居場所

グ ル ー プ 活 動 の 持 つ 意 味

  個 別 の 面 接 は 二 者 関 係 が 基 本 で す が 、 本 人

の グ ル ー プ 活 動 参 加 は そ れ を 三 者 関 係 へ と 拡

げ る と い う 大 き な 意 味 合 い を 持 ち ま す 。 「 ひ

き こ も り 」 を 起 こ し て い る 場 合 、 仮 に 本 人 が

家 庭 や 個 別 の 面 接 か ら 、 外 の 社 会 に 参 加 し よ

う と し て も 、 本 人 た ち は 対 人 関 係 や 集 団 活 動

へ の 不 安 、 基 本 的 な 社 会 的 経 験 の 不 足 な ど に

よ り 幾 つ も ハ ー ド ル が あ る と 考 え ら れ ま す 。

人 に よ っ て は < 「 ひ き こ も り 」 か ら の リ ハ ビ

リ テ ー シ ョ ン > を お こ な う 必 要 が あ る の で す

「 デ イ ケ ア 」 や 「 グ ル ー プ 活 動 」 へ の 参 加 は

家 庭 と 実 社 会 の 中 間 的 な 領 域 と し て 家 族 的 な

関 係 か ら 社 会 的 な 関 係 へ の 質 的 な 変 化 へ と 踏

み 出 す こ と を 意 味 し ま す 。

こ う し た 活 動 を 進 展 す る た め に は 、 非 精 神

病 圏 の た め の デ イ ケ ア ・ デ イ サ ー ビ ス を 拡 充

し た り 、 新 規 に 事 業 を 立 ち 上 げ な く と も 保 健

所 な ど の 精 神 障 害 者 の た め の デ イ ケ ア ・ デ イ

サ ー ビ ス を 積 極 的 に 活 用 し て い く こ と が 考 え

ら れ ま す 。

■本 人 に と っ て の 意 味

①  居 場 所 と し て の グ ル ー プ

  本 人 が 家 族 か ら 離 れ 新 た な 居 場 所 を 求 め る

場 合 に は 、 学 校 や 職 場 の よ う な 評 価 を 感 じ や

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-4 本人向けグループ活動 -1 デイケア 居場所・

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す い 場 所 で は 、 対 人 関 係 や 集 団 活 動 の 不 安 な

ど の た め 、 な じ め な い こ と が あ り ま す 。 そ の

た め 、 取 り あ え ず “ そ こ に 居 る だ け で 良 い ” と

こ ろ か ら 始 め ら れ る 場 所 が 必 要 に な り ま す 。

そ れ が “ 居 場 所 と し て の グ ル ー プ ” で す 。 同 じ

よ う な 仲 間 が い る 場 所 に 、 安 心 し て 居 ら れ る

こ と は 、 本 人 の 孤 立 感 の 低 減 に つ な が り 、 ま

た “ 今 の ま ま の 自 分 で 良 い ん だ ” と い う 自 己 肯

定 感 を 育 む と 考 え ら れ ま す 。

②  対 人 関 係 の 中 で 自 己 を 理 解 す る 場 と し て

  集 団 の 中 に 入 る こ と は 、 ひ と り や 、 家 庭 や

援 助 者 と の 狭 い 関 係 の 中 で 得 ら れ る 以 上 の 自

分 へ の 深 い 理 解 を も た ら し ま す 。 自 分 が 他 者

に 与 え る 印 象 、 他 者 が ど の よ う に 自 分 に つ い

て 考 え て い る か 、 ど の よ う な 行 動 を と る と 相

手 が 喜 ん だ り 不 快 に な っ た り す る か 、 な ど 他

者 か ら の 反 応 に よ っ て 、 こ れ ま で 気 づ か な か

っ た 自 分 に 気 づ く こ と が で き ま す 。

③  自 己 表 現 の 場 と し て の グ ル ー プ

  グ ル ー プ 活 動 へ 参 加 す る こ と で 、 自 己 表 現

の 機 会 が 増 え 表 現 を 練 習 し て い く こ と に つ な

が り ま す 。 言 葉 に よ る 表 現 の ほ か 、 ス ポ ー ツ

や ゲ ー ム 、 創 作 活 動 な ど を 介 し た 自 分 な り の

表 現 を し た り す る 場 合 も あ り ま す 。

④  さ ま ざ ま な 経 験 の 学 習 と し て の グ ル ー プ

  メ ン バ ー 同 士 で 話 を し た り 、 趣 味 の 活 動 を

し た り 、 一 緒 に 外 出 し て 行 動 す る な ど は 、 不

足 し が ち な 集 団 で の 経 験 や 多 様 な 社 会 経 験 を

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-4 本人向けグループ活動 -1 デイケア 居場所・

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増 や す 契 機 と な り ま す 。 集 団 活 動 を 通 じ 、 新

し い 経 験 を 獲 得 し た り 、 こ れ ま で の 経 験 を 再

学 習 し と ら え な お す こ と が で き る の で す 。 ⑤

通 過 点 ・ 足 が か り と し て の グ ル ー プ

  回 復 が 進 ん だ 場 合 で も 、 社 会 へ の 一 歩 を 踏

み 出 す の は 難 し い も の で す 。 グ ル ー プ で 学 習

サ ポ ー ト を し た り 、 あ る い は グ ル ー プ で 就 労

ボ ラ ン テ ィ ア な ど の 経 験 を す る な ど 、 グ ル ー

プ へ の 参 加 を 足 が か り に し 社 会 へ の 参 加 を 勧

め て い く こ と も 必 要 で し ょ う 。

⑥  希 望 を 抱 く

  グ ル ー プ 活 動 で は 、 自 分 が 少 し ず つ よ く な

っ て い く と 実 感 し 、 ま た 他 の 人 が よ く な る の

を 見 る こ と か ら も 、 「 よ く な る 可 能 性 」 に つ

い て 希 望 を も つ こ と が で き ま す 。 本 人 が 希 望

的 か つ 楽 観 的 な 見 通 し を も つ こ と が で き る と

回 復 の 可 能 性 が 広 が り ま す 。

プ ロ グ ラ ム の 内 容

  グ ル ー プ に は 、 1) 構 造 化 さ れ た グ ル ー プ ワ

ー ク と し て の 性 格 が 強 い も の 2) 「 溜 ま り

場 」 と し て の 機 能 を 重 視 し た ピ ア グ ル ー プ と

し て の 性 格 が 強 い も の 、 が 考 え ら れ ま す 。 内

容 や 開 催 頻 度 は 機 関 な ど 設 置 主 体 の 性 格 に よ

り さ ま ざ ま だ と 思 わ れ ま す が 以 下 に 例 を 示 し

ま す 。

■構 造 化 さ れ た グ ル ー プ 活 動 の 内 容

1) の 場 合 、 ゲ ー ム や ス ポ ー ツ 、 パ ー ソ ナ ル

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-4 本人向けグループ活動 -1 デイケア 居場所・

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コ ン ピ ュ ー タ ー 利 用 な ど の 技 術 獲 得 、 創 作 活

動 な ど 、 何 ら か の 活 動 を 介 在 さ せ て グ ル ー プ

を お こ な う こ と が 考 え ら れ ま す 。 そ の 場 合 、

出 来 上 が り や 技 術 の 習 得 に よ っ て 充 実 感 を 得

る た め に 、 専 門 家 に よ る 講 座 開 催 を 考 え て も

よ い で し ょ う 。 ま た 映 画 館 や 喫 茶 店 な ど 外 部

の 社 会 場 面 を 利 用 す る 内 容 な ど は 、 本 人 の 社

会 的 な 経 験 や 生 活 範 囲 を 広 げ た り そ の 評 価 に

活 か す こ と も で き ま す 。

ま た 社 会 参 加 へ の 準 備 と し て 、 就 労 の た め

の ト レ ー ニ ン グ や 体 験 就 労 な ど の 就 労 プ ロ グ

ラ ム 、 学 習 指 導 ・ 大 検 受 験 希 望 な ど へ の 学 習

サ ポ ー ト 活 動 の 設 置 も 考 え ら れ ま す 。

な お 、 本 人 が プ ロ グ ラ ム に 意 欲 的 に 参 加 で

き る よ う に 、 利 用 者 で あ る 本 人 と ス タ ッ フ が

相 談 し て プ ロ グ ラ ム を 作 成 し た り す る な ど 工

夫 す る こ と も 有 効 で し ょ う 。

■「 溜 ま り 場 」 と し て の 機 能 を 重 視 し た グ ル

ー プ

活 動 レ ベ ル の 高 い 構 造 化 さ れ た グ ル ー プ に

は 不 安 や 緊 張 を 覚 え る 人 も お り 、 無 理 に 参 加

す る と 疎 外 感 を 感 じ て し ま う 場 合 も あ り ま す

そ こ で 、 と く に 目 的 や 、 す る こ と が な く て も

安 心 し て い ら れ 2) の 「 溜 ま り 場 」 と し て の グ

ル ー プ を す る こ と も で き ま す 。 こ こ で は 明 確

な 目 的 よ り ひ と ま ず 「 空 間 を 心 地 よ く 共 有 す

る 」 こ と が 目 指 さ れ ま す 。

し か し 場 所 を 用 意 し て お く だ け で は 、 逆 に

何 を し て い い か わ か ら な く な っ て し ま う も の

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-4 本人向けグループ活動 -1 デイケア 居場所・

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で す 。 読 書 や ゲ ー ム 、 ス ポ ー ツ 、 パ ー ソ ナ ル

コ ン ピ ュ ー タ ー の 使 用 な ど 、 幾 つ か の 選 択 肢

を 準 備 し て お く こ と も よ い で し ょ う 。 会 話 を

促 進 し た り 、 人 間 関 係 の 調 整 に 対 応 で き る よ

う ス タ ッ フ を 配 置 し て お く の も よ い で し ょ う 。

グ ル ー プ 活 動 へ の 導 入

  こ う し た グ ル ー プ 活 動 へ の 導 入 の 適 否 と 時

期 と 方 法 を 整 理 し て お き ま し ょ う 。

①  個 別 で の 面 接 で 、 本 人 と 援 助 者 と の 関 係

が 深 ま り 、 同 時 に 本 人 の 中 か ら 集 団 で の 再 体

験 を し て み た い と い う 希 望 が 確 認 さ れ た 場 合

グ ル ー プ 活 動 へ の 導 入 が 検 討 さ れ ま す 。

②  本 人 が ど の よ う な 意 図 や 目 標 で グ ル ー プ

に 参 加 し た い の か を 確 認 し 、 そ れ を サ ポ ー ト

し て お く と よ い で し ょ う 。 こ れ は 、 グ ル ー プ

を 卒 業 し て 、 新 し い ス テ ッ プ に 移 行 す る 場 合

に も 、 目 標 達 成 を 確 認 す る と い う 意 味 で も 必

要 に な っ て き ま す 。

  で す が 、 こ れ は 「 友 人 の 獲 得 」 や 「 他 者 と

の 会 話 」 な ど の 大 き な 目 標 で な く て も よ い の

で す 。 大 き な 目 標 を た て る と 、 逆 に そ れ が 失

敗 し て 、 負 の 体 験 が 積 み 重 な る こ と も あ り ま

す 。 「 と り あ え ず そ こ に い て み る 」 「 5 分 間

参 加 す る 」 「 挨 拶 し て み る 」 な ど 小 さ な 目 標

設 定 も 大 切 な こ と で す 。 ま た 期 限 限 定 の 参 加

を 目 標 と す る な ど 、 「 と り あ え ず の 練 習 」 と

い う 位 置 づ け に し て お く の も よ い で し ょ う 。

と く に 、 た ま り 場 の 性 格 を 重 視 し た グ ル ー

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-4 本人向けグループ活動 -1 デイケア 居場所・

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プ で は 「 何 も せ ず と も 安 心 で き る こ と 」 が 求

め ら れ ま す の で 、 目 標 を た て る こ と な く 「 そ

こ に い る こ と を 試 す 」 こ と を 優 先 さ せ て よ い

で し ょ う 。

③  最 初 は 、 参 加 す る 時 間 や 活 動 に 幅 を 設 け

る な ど “ 見 学 参 加 ” と い う 位 置 づ け を し て み ま

す 。 少 し 低 い ハ ー ド ル を 設 け て 、 援 助 者 が 本

人 と 一 緒 に 検 証 し て 行 き ま す 。 最 初 は 「 転 校

生 」 と 同 じ で す か ら 、 本 人 の 緊 張 な ど で な じ

み に く い も の で す 。 皆 に 受 け 入 れ ら れ よ う と

努 力 を し て 疲 れ て し ま う 場 合 や 、 集 団 か ら 距

離 を と っ て 自 分 の 世 界 に 入 っ て 安 定 し よ う と

す る 人 も い ま す 。 こ う し た 緊 張 や 不 安 の 中 で

本 人 が ス タ ッ フ を ふ り か え っ た と き に 、 ス タ

ッ フ は 傍 ら に つ い て 、 そ れ を う け と め ら れ る

体 制 を 作 っ て お く と よ い で し ょ う 。

  な お 、 1) 構 造 化 さ れ た グ ル ー プ と 2) 溜 ま り

場 と し て の グ ル ー プ が 二 つ あ る 場 合 に は 、 2)の グ ル ー プ を ベ ー ス と し て 、 1) の グ ル ー プ に

徐 々 に 参 加 し て い く こ と も 可 能 で す 。

い く つ か の 留 意 点

■定 期 的 な 個 別 面 接 の 継 続

  グ ル ー プ 活 動 へ の 参 加 が で き て も 、 個 別 の

面 接 は 必 ず 必 要 で す 。 グ ル ー プ で の 活 動 は 、

社 会 活 動 に な れ な い 本 人 に と っ て ス ト レ ス フ

ル な 状 況 で あ る こ と も 多 い も の で す 。 グ ル ー

プ を 離 れ て も 、 話 が で き る 人 が い る こ と を 保

障 し 、 「 辛 い ・ し ん ど い 」 時 に は そ こ に 戻 れ

Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する-4 本人向けグループ活動 -1 デイケア 居場所・

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る と い う 構 造 を 保 つ こ と で 、 社 会 的 な 場 面 で

も 安 心 し て 生 き 生 き 活 動 で き る の で す 。

親 と の 面 接 も 本 人 の 年 齢 に も よ り ま す が 、

適 宜 実 施 し た 方 が 良 い と 思 わ れ ま す 。 そ れ ま

で 密 接 な 関 係 で あ っ た 親 が 、 本 人 が グ ル ー プ

に 定 期 的 に 出 て い く こ と で 喪 失 感 を 味 わ っ た

り 、 本 人 に 一 見 無 関 心 の よ う な 状 態 ( 機 関 へ

任 せ き り ) に な る こ と も あ り ま す 。 親 子 間 で

適 切 な 距 離 感 を 保 持 し て も ら う た め に も 親 と

の 面 接 の 継 続 は 有 効 で す 。

■さ ま ざ ま な 情 緒 ・ 葛 藤 の 再 体 験

  グ ル ー プ と い う 集 団 の 中 で は 本 人 が 傷 つ い

た り 、 望 ん で い た よ う な 相 互 理 解 が で き ず 失

望 を 抱 い た り す る こ と も 当 然 起 こ り え ま す 。

あ る い は 人 間 関 係 に つ き ま と う 、 妬 み や 怒 り

不 安 な ど さ ま ざ ま な 葛 藤 や 情 緒 を 再 体 験 す る

こ と に な る で し ょ う 。

し か し 、 こ う し た 葛 藤 や 情 緒 は 事 前 に 防 止

す る の で は な く 、 逆 に 社 会 的 な 関 係 の 中 で は

当 然 そ の よ う な 体 験 も あ り そ れ を 成 長 に 繋 げ

る 、 と い う 発 想 を す る と よ い で し ょ う 。 以 前

本 人 が 混 乱 し た 情 緒 を 感 じ た 時 に は 、 自 分 一

人 で そ の 混 乱 を 抱 え 込 む こ と も 多 か っ た と 思

わ れ ま す 。 そ れ に 対 し 、 グ ル ー プ で の 情 緒 の

体 験 は 、 相 談 員 が 定 期 的 な 個 別 面 接 の 中 で よ

り そ っ て 一 緒 に 考 え る と い う 構 造 に な り ま す

こ れ は 以 前 の 体 験 を 修 正 す る 大 き な 契 機 と な

り ま す し 、 も し 状 況 へ の 対 処 が 可 能 に な れ ば

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貴 重 な 成 功 体 験 と な り ま す 。

■グ ル ー プ 活 動 か ら の ド ロ ッ プ ア ウ ト に つ い

  対 人 関 係 に 不 安 や 緊 張 を 覚 え が ち な 本 人 に

と っ て 、 グ ル ー プ 活 動 に な じ め ず ド ロ ッ プ ア

ウ ト し て し ま う こ と は 往 々 に し て あ る も の で

す 。 こ れ を 防 ぐ た め に は 、 参 加 を 期 間 限 定 に

す る 、 目 標 を 小 さ く 設 定 し て み る 、 あ る い は

「 練 習 」 と い う ス タ ン ス を と る 、 な ど の 工 夫

が あ り え ま す 。 ド ロ ッ プ ア ウ ト し た 場 合 は 、

ま た い つ で も グ ル ー プ 活 動 に 戻 れ る こ と を 保

証 し 、 再 び わ く か も し れ な い 本 人 の 自 発 性 を

キ ャ ッ チ で き る よ う に し ま し ょ う 。

  ま た 、 自 機 関 で お こ な っ て い る グ ル ー プ 活

動 に な じ ま な か っ た か ら と い っ て 、 そ の 本 人

に は グ ル ー プ 活 動 は 全 く な じ ま な い 、 と 判 断

す る の は 性 急 で す 。 他 の 資 源 の 活 動 や 、 あ る

い は 精 神 障 害 の 作 業 所 ・ デ イ ケ ア な ど な ら 合

っ て い る の か も し れ ま せ ん 。 1 つ で も そ の 本

人 が 落 ち 着 け る 場 所 が み つ か れ ば よ い の で す

色 々 な 選 択 肢 を 検 討 し ま し ょ う 。

■グ ル ー プ の 対 象 者 に 関 し て

  年 代 別 や 性 別 な ど 対 象 者 の 属 性 で グ ル ー プ

を わ け た り 、 ニ ー ズ ご と に グ ル ー プ を 組 織 化

す る こ と も 考 え ら れ ま す 。 対 象 者 が 均 質 な 場

合 は ニ ー ズ が は っ き り し 、 目 的 も 明 確 に な る

と い う メ リ ッ ト が あ り ま す 。 他 方 、 さ ま ざ ま

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な 人 が 混 在 す る グ ル ー プ の ほ う が 、 コ ミ ュ ニ

テ ィ に 近 い た め 、 多 様 な 経 験 が で き る と い う

観 点 も あ る で し ょ う 。 対 象 者 の ニ ー ズ 、 自 機

関 の 状 況 な ど を も と に 、 ど の よ う な 組 織 化 を

す る か を 検 討 し ま し ょ う 。

■精 神 障 害 の デ イ ケ ア な ど の グ ル ー プ 活 動 へ

の 導 入

  本 人 の 参 加 者 数 や 予 算 な ど に よ り 、 グ ル ー

プ 活 動 を 単 独 で 組 織 化 で き な い 場 合 に は 、 精

神 障 害 の デ イ ケ ア ・ デ イ サ ー ビ ス な ど 、 既 存

の グ ル ー プ 活 動 を 積 極 的 に 活 用 す る こ と も よ

い で し ょ う 。 そ の 場 合 本 人 の 希 望 や イ メ ー ジ

と は 一 致 し な い サ ー ビ ス で あ る こ と も 考 え ら

れ ま す か ら 、 導 入 の 前 に 、 既 存 の サ ー ビ ス の

内 容 を 説 明 し 、 そ の う え で ど の よ う な 目 的 で

参 加 す る の か ( 例 え ば 「 友 人 を つ く る こ と 」

あ る い は 「 ひ と ま ず 家 庭 外 の 場 所 へ 参 加 し て

み る こ と 」 ) を 明 確 に し て お く こ と が 必 要 だ

と 思 わ れ ま す 。

ス タ ッ フ の 役 割

  で き れ ば 、 グ ル ー プ を サ ポ ー ト す る 職 員 な

り ア ル バ イ ト ・ ボ ラ ン テ ィ ア が い る と 、 メ ン

バ ー の 動 き の 観 察 が で き て 望 ま し よ い で し ょ

う 。

ス タ ッ フ の 役 割 は 、 話 題 の 提 供 や 、 う ま く

な じ め な い 参 加 者 の フ ォ ロ ー 、 そ の 場 の 暖 か

い 雰 囲 気 を 作 り 出 す こ と 、 本 人 が 能 動 的 に 参

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加 し て 「 自 分 は で き て い る ・ や れ て い る 」 と

感 じ ら れ る よ う に サ ポ ー ト す る こ と 、 な ど で

す 。 そ の た め ス タ ッ フ は リ ー ダ ー シ ッ プ を と

り す ぎ ず 、 並 列 的 な 「 仲 間 意 識 」 を 感 じ さ せ

る と よ い で し ょ う 。

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Page 120: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

-2 SSTグループ 本 人 グ ル ー プ の 一 つ に S S T (Social Skills Training 生 活 技 能 訓 練 ) と い う 援 助 技 法 が あ り ま す 。

S S T と は 人 が 生 活 し て い く た め に 必 要 と さ

れ る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 ( 技 能 ) が 、 障 害

や 環 境 な ど に よ っ て 衰 え て し ま っ た り 、 身 に

つ い て い な い 状 態 に 対 し て 個 別 や グ ル ー プ を

利 用 し て 学 習 し て い く も の で す 。

  「 ひ き こ も り 」 自 体 は 病 気 や 障 害 が 原 因 と

言 う こ と で は あ り ま せ ん が 、 ひ き こ も っ て い

る と い う 環 境 に よ っ て 、 「 人 と つ き あ っ て い

く や り 方 」 が 使 わ れ な く な る こ と で 鈍 っ た り

本 来 、 人 と 関 わ る こ と が 多 い 若 い 頃 か ら ひ き

こ も っ て い る こ と に よ っ て 「 や り 方 」 を 学 ば

ず に 時 が た っ て し ま っ た と い う こ と も あ る よ

う に 思 わ れ ま す 。

S S T の 実 際 の や り 方 や ロ ー ル プ レ イ の 進

め 方 は 「 ひ き こ も り 」 独 自 で は な い の で 、 S

S T に 関 す る 成 書 を 参 考 に し て く だ さ い 。 し

か し 、 「 ひ き こ も り 」 状 態 に あ る 人 を 対 象 と

し た S S T グ ル ー プ を 維 持 ・ 運 営 し て い く と

き に は 、 精 神 病 圏 の ケ ー ス と は 違 う 配 慮 が 必

要 な の で 以 下 に 述 べ て い き た い と 思 い ま す 。

SST グ ル ー プ 活 動 を す る 上 で の 留 意 点

■動 機 づ け に つ い て

本 人 グ ル ー プ な ど へ の 参 加 を は じ め た り 、

就 労 を 意 識 し は じ め た メ ン バ ー か ら は 「 友 人Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する -4 本人向けグループ活動  -2 SSTグループ

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Page 121: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

を 作 り た い が ど の よ う に 声 を か け て い い か わ

か ら な い 」 「 何 を 話 し て い い の か わ か ら な い

か ら 世 間 話 や 雑 談 が 苦 手 」 と か 、 人 と 関 わ る

こ と で 自 分 の 守 備 範 囲 を 広 げ て い き た い と い

う コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 に 関 す る ニ ー ズ を

も っ て い る た め 、 S S T に 対 す る 動 機 づ け は

比 較 的 得 や す い よ う で す 。

  し か し 、 全 体 的 に は 、 S S T に 参 加 し て 対

人 技 能 を 学 習 し よ う と い う モ チ ベ ー シ ョ ン は

必 ず し も 高 く な い か も し れ ま せ ん 。 根 本 的 な

問 題 と し て 、 彼 ら に は 人 と 親 密 に 関 わ ろ う と

い う ニ ー ズ が 希 薄 で あ る こ と も 多 い か ら で す

こ の 時 点 で 援 助 者 は モ チ ベ ー シ ョ ン や ニ ー ズ

を 明 確 に し よ う と し す ぎ る よ り も 、 ま ず は グ

ル ー プ に つ な ぐ こ と を 目 標 に し た 方 が い よ い

で し ょ う 。

■場 面 が 少 な い

各 自 の 目 標 を 身 近 な 生 活 場 面 に 切 り 下 げ る

こ と や 、 そ れ ら を 宿 題 と し て 実 行 し 現 実 の 場

で 活 か し て い く こ と の 難 し さ が あ り ま す 。 こ

れ は 、 本 人 が ご く 限 ら れ た 範 囲 内 だ け で 日 常

生 活 を 送 っ て い る こ と が 起 因 し て い る と も 考

え ら れ ま す 。 本 人 た ち か ら な か な か 場 面 が 出

な い と き に は 、 援 助 者 側 が ス ト レ ス と な り う

る 日 常 生 活 の さ ま ざ ま な 場 面 想 定 し た こ と が

書 か れ た 「 場 面 カ ー ド 」 を 利 用 し た り 、 ご 本

人 が 日 常 生 活 を 維 持 し て い く た め に 使 っ て い

た り 、 も っ て い る 力 を 知 る た め に 「 生 活 技 能Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する -4 本人向けグループ活動  -2 SSTグループ

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Page 122: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

ア ン ケ ー ト 」 を 実 施 し て 具 体 的 に 提 示 す る 方

法 が 有 効 で す 。

■自 己 開 示 に 抵 抗 感 が 強 い

自 分 の こ と を 集 団 の 場 で 語 る こ と を 避 け よ

う と す る 傾 向 は 、 「 ひ き こ も り 」 ケ ー ス で は

比 較 的 共 通 し て み ら れ ま す 。 「 場 面 カ ー ド 」

の 利 用 は 現 実 の 事 で は な く 、 あ く ま で も 想 定

さ れ た 場 面 で す か ら 自 分 自 身 の プ ラ イ ヴ ァ シ

ー を 開 示 し な く て も す む と い う 利 点 も あ る よ

う で す 。

S S T は グ ル ー プ で 行 わ な け れ ば い け な い

も の で は あ り ま せ ん か ら 、 あ ま り に プ ラ イ ベ

ー ト す ぎ る 場 面 の 時 に は 、 個 別 面 接 の な か で

S S T を 応 用 し た や り 方 を 利 用 す る こ と も 有

効 で す 。

■課 題 が 出 せ な い

グ ル ー プ を 進 め て い く と 「 練 習 す る 課 題 が

な い 」 「 相 談 し た い こ と が な い 」 と 発 言 す る

メ ン バ ー が い ま す 。 自 分 の 課 題 に 直 面 す る こ

と を 避 け て い る 人 に 多 く 見 ら れ る 傾 向 で す 。

あ る い は 、 自 己 開 示 に 抵 抗 感 が 強 い た め に 、

人 と 関 わ る と し て も 、 自 分 の 内 面 や 生 活 史 に

ふ れ ら れ な い よ う な 技 術 を 身 に つ け た い と い

う モ チ ベ ー シ ョ ン で 参 加 す る メ ン バ ー も お り

ひ き こ も り が ち な 傾 向 を 改 善 し よ う と す る よ

り は 、 人 と 関 わ る こ と や 、 さ ま ざ ま な 場 に 参

加 す る よ う な 機 会 を 避 け る た め の や り 方 を 身Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する -4 本人向けグループ活動  -2 SSTグループ

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Page 123: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

に つ け よ う と 課 題 を 出 し て き ま す 。 そ の 場 を

切 り 抜 け よ う と す る や り 方 を 身 に つ け て い く

こ と も 対 処 方 法 の 一 つ だ と 思 い ま す が 、 「 な

ぜ 避 け る の か 」 に つ い て 話 し 合 え る 個 別 面 接

を す る こ と で そ の 人 自 身 の 方 向 性 や 希 望 を 捉

え て い く こ と も 必 要 で す 。

  し か し 、 こ う し た 不 安 や 葛 藤 を 持 ち な が ら

も 、 S S T で 現 実 的 な 行 動 レ ベ ル の 対 処 方 法

と 、 日 常 生 活 の な か で 切 り 抜 け ら れ る 場 面 が

増 え る こ と で 、 不 安 ・ 葛 藤 が 軽 減 さ れ る ケ ー

ス も あ り ま す 。 た と え ば 「 招 待 さ れ て し ま っ

た 友 人 の 結 婚 式 で の 振 る 舞 い 」 や 「 美 容 室 に

行 く 」 な ど 、 現 実 的 に 直 面 し て い く 状 況 と し

て 予 想 さ れ る 場 面 で の 行 動 を あ ら か じ め リ ハ

ー サ ル し て お く こ と は 社 会 に 参 加 す る 上 で 大

切 な こ と だ と 思 い ま す 。

■ド ロ ッ プ ア ウ ト と 個 別 相 談 の 併 用

  援 助 者 と 当 事 者 が い く ら 心 地 よ い 場 を つ く

っ て い く よ う に 努 力 し て い っ て も 、 「 ひ き こ

も り 」 と い う 性 質 上 、 グ ル ー プ に 参 加 し な い

方 や グ ル ー プ を 避 け て し ま う 方 が い る と い う

こ と は 常 に 直 面 し 続 け る 課 題 で す 。

  安 全 な 居 場 所 と し て の グ ル ー プ 運 営 に 配 慮

す る こ と は も ち ろ ん で す が 、 大 切 な こ と は ド

ロ ッ プ ア ウ ト を 防 止 す る こ と よ り も 、 グ ル ー

プ か ら ひ き こ も る 心 の 動 き に つ い て 本 人 と の

間 で 十 分 に 話 し 合 え る 時 と 場 を 共 有 し て い る

こ と で す 。 彼 ら が ど の よ う に グ ル ー プ を 体 験Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する -4 本人向けグループ活動  -2 SSTグループ

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Page 124: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

し た の か を 個 別 相 談 の 場 で 話 し 合 い 、 S S T

の 場 面 で の エ ピ ソ ー ド を す り あ わ せ る こ と で

本 人 と 援 助 者 間 の 理 解 が 深 め ら れ る 機 会 に も

な り ま す 。

  発 達 障 害 圏 の ケ ー ス に 対 し て は 、 前 述 の 他

に 、 さ ら に 工 夫 と 配 慮 が 必 要 に な り ま す 。 わ

か り や す い 言 葉 で 簡 潔 に 話 す 、 一 つ の 行 動 を

実 行 す る 小 さ な 要 素 に わ け る 、 社 会 行 動 を 構

成 す る い く つ か の 標 的 行 動 を 順 番 に 練 習 す る

一 つ の 行 動 を 繰 り 返 し 練 習 す る 、

「 板 書 」 や 「 お 手 本 を 示 す 」 な ど の 視 覚 的 な

手 が か り を よ り 多 く す る こ と が 必 要 に な り ま

す 。 彼 ら は グ ル ー プ に 参 加 し て い て も 、 流 れ

に つ い て 行 け ず 何 と な く 浮 い て い る 印 象 が あ

り 、 そ の ま ま ド ロ ッ プ ア ウ ト す る ケ ー ス が あ

り ま す 。 十 分 マ ン パ ワ ー が あ れ ば 、 発 達 障 害

圏 の ケ ー ス を 対 象 と し た グ ル ー プ を 立 ち あ げ

る こ と で 安 定 し た 場 を 提 供 す る こ と が で き る

か も し れ ま せ ん 。

■歪 み を 修 正 す る

S S T は 認 知 行 動 療 法 に 基 づ い て い ま す の

で 、 彼 ら の 認 知 の 歪 み を 修 正 す る こ と を 目 的

に 利 用 す る こ と も で き ま す 。 相 手 に う ま く 伝

え ら れ な か っ た こ と を 気 に し た り 、 緊 張 し て

あ が っ た り 、 赤 面 し た り し て 恥 を か い た と い

う 考 え に と ら わ れ 、 そ の 結 果 、 対 人 交 流 の 場

を 避 け よ う と し て い た り 、 十 分 な ス キ ル を 持

っ て い る の に 、 実 際 の 場 面 で や ろ う と し な かⅣ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する -4 本人向けグループ活動  -2 SSTグループ

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Page 125: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

っ た り す る こ と も あ り ま す 。

  ロ ー ル プ レ イ を と お し て 、 そ の 方 法 で 十 分

相 手 に 伝 え ら れ て い る こ と 、 そ の 方 法 で は 相

手 に 笑 わ れ る こ と は な い 、 な ど を 伝 え る こ と

に よ っ て 、 認 知 の 歪 み を 修 正 し て く こ と が で

き る の で す 。

S S T の 使 い 方

■よ り 目 的 を し ぼ っ た 活 用 の 方 法

  前 述 の よ う に 、 彼 ら は 自 分 の こ と を 集 団 の

な か で 語 る こ と を 避 け る 傾 向 が あ り ま す 。 個

人 の 課 題 を 出 し て ロ ー ル プ レ イ を す る よ り も

た と え ば 他 の 集 団 ( た と え ば 自 助 グ ル ー プ な

ど ) に 参 加 し 始 め た 人 な ど を 対 象 に し た も の

や 、 就 労 準 備 な ど を 目 的 に し た S S T や 共 通

課 題 ( モ ジ ュ ー ル ) な ど は 、 S S T へ の 参 加

へ の 動 機 づ け が は っ き り す る う え 、 S S T の

構 造 自 体 も 明 確 に な り ま す 。

  い か に 本 人 の ニ ー ズ や 目 標 の 共 有 を は か り

な が ら S S T グ ル ー プ を 運 営 し て い く か が 大

切 に な る で し ょ う 。

■複 数 の プ ロ グ ラ ム の な か の 一 つ と し て 位 置

づ け た 利 用 方 法

  S S T は そ れ だ け で 効 果 が あ が る も の で は

あ り ま せ ん 。 実 際 の 生 活 場 面 で 活 か せ て こ そ

身 に 付 く も の で す 。 S S T を 、 ス ポ ー ツ 、 音

楽 鑑 賞 な ど の 活 動 や 、 話 し 合 い な ど い く つ か

の プ ロ グ ラ ム の な か の 一 つ と し て 位 置 づ け て

利 用 す る と 、 参 加 す る 本 人 た ち に と っ て も 選Ⅳ 具体的な援助技法-2 さまざまな援助技法を活用する -4 本人向けグループ活動  -2 SSTグループ

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Page 126: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

択 肢 の 幅 が 広 が り 、 ス キ ル を 実 行 す る 場 面 も

増 え る と 思 わ れ ま す 。 ま た 、 複 数 の プ ロ グ ラ

ム が あ る こ と で 、 S S T が 自 分 に 合 わ な か っ

た と き も グ ル ー プ へ の 参 加 の 保 証 が 可 能 に な

り ま す 。

  メ ン バ ー と と も に シ ョ ッ ピ ン グ や 喫 茶 店 に

出 か け る こ と は 、 S S T を 現 実 的 な 場 面 で 取

り 組 む こ と に な り ス キ ル ア ッ プ に つ な が り ま

す し 、 そ の 中 か ら 現 実 的 な 課 題 が 明 確 に な り

次 回 の S S T で 練 習 し て い く こ と も で き る で

し ょ う 。

  援 助 者 は 、 メ ン バ ー が S S T と い う 技 法 を

使 っ て ど の よ う な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 を

学 習 し た い の か を 常 に 共 有 し な が ら グ ル ー プ

を 運 営 し て い き ま し ょ う 。

参考文献:東大生活技能訓練研究会編 わかりやすい生活技能訓練 1995 金剛出版Alan S.Bellack他著 熊谷直樹他監訳 わかりやすいSST 上・下 ステップガイド 2000

星和書店

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3節 さまざまな支援プログラムの可能性

-1 社会復帰への援助

支 持 的 で 、 自 発 性 を 尊 重 し た 援 助

  保 健 ・ 医 療 機 関 な ど で 相 談 を す す め て い く

な か で 、 社 会 復 帰 に 関 す る ニ ー ズ が 明 確 に 表

れ て き た と き に は 、 さ ま ざ ま な 社 会 資 源 に よ

る 活 動 と 連 携 し て 支 援 を 提 供 し て い く こ と が

重 要 で す 。「 ひ き こ も り 」 か ら の 回 復 の な か

で は 、 本 人 の 社 会 復 帰 を 援 助 す る こ と が 必 要

に な る 場 面 が あ り ま す 。 し か し 前 述 し た よ う

に 、 一 般 の 社 会 に は 多 く の 「 ハ ー ド ル 」 が あ

り 、 家 庭 か ら 外 に 出 る こ と を 躊 躇 す る こ と も

考 え ら れ ま す 。 ま た 、 就 労 や 就 学 な ど に よ っ

て 社 会 的 な 役 割 を 得 る こ と が で き た も の の 、

基 本 的 な 生 活 を 送 る た め の 技 術 の 不 足 に よ っ

て ド ロ ッ プ ア ウ ト し て し ま う こ と も 予 想 で き

ま す 。

  社 会 復 帰 を 援 助 す る た め に は 、 本 人 が 自 発

的 に 活 動 に 参 加 す る こ と が で き る よ う に 、 さ

ま ざ ま な 選 択 肢 を 用 意 し て い く こ と が 必 要 で

す 。 「 ひ き こ も り 」 の 状 態 に 変 化 を 起 こ す き

っ か け と し て 、 以 下 の よ う に 、 日 常 生 活 に お

け る 本 人 の 役 割 行 動 や 地 域 の イ ベ ン ト に 参 加

す る こ と な ど が 役 立 つ こ と も あ り ま す 。

多 様 な 社 会 復 帰 へ の 援 助

● 家 事 ・ 家 業 な ど の 手 伝 い

Ⅳ 具体的な援助技法-3 さまざまな支援プログラムの可能性-1 社会復帰への援助

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● 年 中 行 事 ・ 法 事 な ど の 参 加

● 青 年 会 ・ 地 域 清 掃 な ど の 活 動

● ボ ラ ン テ ィ ア 活 動

● フ リ ー ス ク ー ル 、 通 信 教 育

● ア ル バ イ ト 、 福 祉 的 就 労

● 自 動 車 運 転 免 許 、 各 種 資 格 の

取 得   な ど

  こ の よ う な 活 動 や 参 加 の 目 標 を 本 人 の ニ ー

ズ に 応 じ て 設 定 し 、 自 然 な 形 で 参 加 す る こ と

が で き る 機 会 を 提 供 し て い く よ う に 心 が け ま

す 。 支 援 の ネ ッ ト ワ ー ク を 通 し て 、 本 人 に と

っ て 安 心 す る 雰 囲 気 を つ く り 、 サ ポ ー ト で き

る 環 境 の な か で す す め て い く こ と が 望 ま れ ま

す 。 本 章 で は 、 連 携 の 資 源 と し て 情 報 収 集 し

た 活 動 の 事 例 を 紹 介 し ま す 。

■生 活 の 場 の 提 供

  長 期 に ひ き こ も っ て い た 人 に と っ て は 、 単

身 生 活 を お こ な う こ と に 大 変 な 困 難 を 伴 い ま

す 。 家 族 や 社 会 と の 接 触 を 失 い や す く 、 ア パ

ー ト な ど に ひ き こ も っ て し ま う こ と も あ り ま

す 。

  生 活 の 場 の 提 供 に あ た っ て は 、 定 期 的 に 訪

問 し て フ ォ ロ ー し て い く こ と が 重 要 で す 。 ま

た 、 「 グ ル ー プ ホ ー ム 」 な ど を 利 用 す る こ と

も 一 つ の 方 法 で す 。 共 同 生 活 の な か で 家 事 な

ど の 技 術 を 学 ん だ り 、 対 人 関 係 を 築 く こ と を

練 習 し た り す る こ と が で き ま す 。

Ⅳ 具体的な援助技法-3 さまざまな支援プログラムの可能性-1 社会復帰への援助

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事例紹介①「生活の 場の 提供」(仙台・フ リ ース ペ ース )

 こ の フ リ ース ペ ース で の 生活の 場の 提供は 、遠方か ら

参加を 希望す る 人に 、フ リ ース ペ ース 内で の 「ホ ーム ス

テ イ 」を 提供す る こ と に よ っ て 始ま り ま し た 。現在

で は 、「寮」と し て 戸建て の 家を 三軒借り 、10 代か ら 30 代

ま で の 13 人が 共同生活を お こ な う よ う に な り ま し

た 。そ れ ぞ れ が 個室を も ち 、台所、風呂、ト イ レ は 共同

と い う 下宿生活と い っ た 感じ に な っ て い ま す 。

 入寮す る た め の 条件は と く に あ り ま せ ん が 、ま

ず 数日間、本人が 体験利用し て み る こ と が 大切で す 。入寮を

希望す る 本人や 家族に と っ て は 、す ぐ に で も 利用し た

い 気持ち が 大き い の で し ょ う が 、一大決心を し て 身を

措く こ と な の で 、焦ら な い よ う に 進め て い ま す 。

数回に 分け て 寮生活を 体験し な が ら 、「力を 抜い て 身を 任

せ て も い い か な 」と 思っ た ら 、本格的に 利用す る こ

と に し て い ま す 。

 フ リ ース ペ ース の 寮は 「施設」と は 異な り 、メ ン バ ー

は 同じ 家に 集う き ょ う だ い の よ う に 関わ っ て い

ま す 。問題が 生じ た 場合に は 、き ょ う だ い と し て 、仲

間と し て の 対応を 心掛け て い ま す 。生活の ル ール に つ

い て も 、ス タ ッ フ か ら 指示す る こ と は な く 、メ

ン バ ー自身で 必要を 感じ た と き に 作っ て い ま す 。当初

は 、「自室で は 自分の ペ ース で い る こ と 」「夕食は 一カ 所

の 寮で 、全員で 食べ る こ と 」を 提案し て い ま す 。

 メ ン バ ーに 不安を 与え な い こ と と 緊急時の 対応の た

め に 、ス タ ッ フ が 交替で 宿直を し 、常に 寝起き を 共に

Ⅳ 具体的な援助技法-3 さまざまな支援プログラムの可能性-1 社会復帰への援助

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し て い ま す 。ス タ ッ フ は 、メ ン バ ー活動を ね ぎ ら

っ た り 、相談に の っ た り し て い ま す 。

 寮の 利用者に は 、年齢的に も 経済的に も 余裕が な く 、プ レ

ッ シ ャ ーを 受け な が ら 寮生活を し て い る 人も い ま

す 。入寮の と き に は 、「ひ き こ も り 」の 状況か ら 早く

開放さ れ た い 一心で 身を 措く の で す が 、短期間で の 回復

は 難し い と い う こ と を 実感し 、経済的な 負担が 重く の

し か か る こ と も あ り ま す 。回復の 途中で 寮の 利用を 中

断し な け れ ば な ら な い 場合で も 、入寮前の 状況に 戻る

こ と が な い よ う 、寮に い る 間に で き る だ け 社会と

の 接点を た く さ ん 体験し て も ら う こ と に し て い

ま す 。

 「退寮」は 、フ リ ース ペ ース を 「卒業」す る こ と で は

あ り ま せ ん 。寮生活を お こ な う こ と が 本人の 安定に

つ な が り 、楽に な る こ と が で き た ら 自宅か ら フ

リ ース ペ ース に 通う こ と も あ り ま す 。自宅へ 戻っ て

ア ル バ イ ト を し な が ら 、と き ど き フ リ ース ペ ー

ス で の 活動に 参加す る と い う よ う に 、退寮後の 地域で

の 土台作り が で き る ま で は 関係を 持続し て い く こ と

も 意識的に お こ な っ て い ま す 。寮を 離れ て も 、社会生活

に 疲れ た ら 戻っ て く る こ と が で き る 場の 提供を 心掛

け て い ま す 。

■学 習 の サ ポ ー ト

  ひ き こ も っ て い る 人 の 中 に は 、 学 校 教 育 に

お け る 不 登 校 や 中 途 退 学 な ど の 問 題 に よ り 、

学 習 の 機 会 が 少 な く な っ て い る 人 も お り 、 こ

の よ う な 本 人 の ニ ー ズ に 対 し 、 学 習 の サ ポ ー

Ⅳ 具体的な援助技法-3 さまざまな支援プログラムの可能性-1 社会復帰への援助

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ト 活 動 を お こ な っ て い る 機 関 も あ り ま す 。 ま

た 、 社 会 復 帰 を 目 標 と し て 、 就 労 の た め に 各

種 資 格 の 取 得 を サ ポ ー ト し た り 、 生 涯 学 習 と

し て さ ま ざ ま な 取 り 組 み を お こ な っ て い る と

こ ろ も あ り ま す 。

事例紹介②「フ リ ース ペ ース に お け る 学習サ ポ ート 」(仙

台・フ リ ース ペ ース )

  ひ き こ も っ て い た 人 が 、 フ リ ー ス ペ ー ス

の な か で 安 定 し て 活 動 す る こ と が で き る

と 、 さ ま ざ ま な 本 人 の ニ ー ズ を 表 現 す る よ

う に な り ま す 。

 こ こ で は 、不登校を し て い た メ ン バ ーを 中心に 、「勉

強を し て み た い 」と い う 声が あ が る よ う に な り

ま し た 。当初は 、年長者が 中学生の メ ン バ ーに わ か る 範囲

で 勉強を 教え る こ と を 始め ま し た 。そ の 後、学習サ ポ

ート の 希望者が 増え 、大検受験を 希望す る メ ン バ ー出て き

た こ と か ら 、学習サ ポ ート プ ロ グ ラ ム を 独立し て 設

け る こ と に し ま し た 。

 プ ロ グ ラ ム で は 、ス タ ッ フ と の 1 対1 の 個別指導の

形式で 、学習指導に あ た っ て い ま す 。希望者は 、学校や 塾に

行く よ う に 決ま っ た 時間に フ リ ース ペ ース か ら 学習

サ ポ ート の 場に 通う よ う に な り 、時間の 使い 方が 構造化

さ れ る よ う に な り ま し た 。

 も ち ろ ん 学習は 本人の 意志に 基づ く も の で す が 、学習

サ ポ ート の 場を フ リ ース ペ ース か ら 物理的に 離し た

こ と で 、プ ロ グ ラ ム の 利用者に と っ て は 、フ リ ー

ス ペ ース は 勉強か ら 離れ て く つ ろ ぐ 場と な り ま し

Ⅳ 具体的な援助技法-3 さまざまな支援プログラムの可能性-1 社会復帰への援助

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た 。ま た 、フ リ ース ペ ース に 来た ば か り の メ ン バ

ーに と っ て も 、フ リ ース ペ ース は 常に 自由に し て い

ら れ る 場と し て 確保で き る よ う に な り ま し た 。

 こ の よ う な 工夫は 、さ ま ざ ま な 回復段階に あ る 利用者

が 、同じ 場所を 利用す る 場合に は と て も 有効で す 。ま

た 、す べ て の 活動が 同じ 場所で 満た さ れ る の で は な

く 、必要に 応じ て 通っ て い く ス タ イ ル は 社会の 中で

は 必要な 行動で あ り 、構造化が な さ れ る こ と は 重要だ

と 思い ま す 。

事例紹介③「ホ ーム ヘ ル パ ー資格取得を 目指し た 活動」(仙台・フ

リ ース ペ ース )

 「ひ き こ も り 」の 状態か ら 社会復帰を 考え る と き 、就労

を 将来の 目標と し て い て も 、い き な り 何か を は じ

め る の は 困難で す 。そ こ で 、自分に は こ れ が で き

る と い う 自信に も な り 、研修を 通し て 技術を 身に 付け

る こ と が で き る 資格と し て 、ホ ーム ヘ ル パ ー2 級取得

の た め の 講座を 設け て い ま す 。

 こ の フ リ ース ペ ース で の 活動の 第一歩は 、老人施設や 障害

者施設な ど で の ボ ラ ン テ ィ ア 活動で す 。自然に 介助の 仕

方な ど が 身に つ き 、福祉サ ービ ス の 手ご た え と 成功体験

も 得る こ と が で き ま す 。そ の 後、次の 一歩へ の ス テ

ッ プ ア ッ プ と し て 、ホ ーム ヘ ル パ ー2 級の 取得を 進

め て い ま す 。

 講師は 、フ リ ース ペ ース の メ ン バ ーが 訪問し て い る

施設の 職員が 、ボ ラ ン テ ィ ア で 引き 受け て い ま す 。参

加は 強制的で は な く 、自然に 必要と 感じ た 人が 受講し て い

Ⅳ 具体的な援助技法-3 さまざまな支援プログラムの可能性-1 社会復帰への援助

122

Page 133: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

ま す 。一人で は 勇気が い る こ と で も 、仲間が い る こ

と で 安心し て 参加で き る 面も あ り ま す 。家族会の 親た

ち の な か に も 一緒に 受講し て い る 方も い ま す 。

■就 労 を 視 野 に 入 れ た 活 動

  就 労 を 続 け て い く た め に は 、 作 業 能 力 や 職

場 の 対 人 関 係 に 適 応 す る こ と な ど が 必 要 で す

本 人 の 履 歴 書 が 必 要 な 場 合 に は 、 ひ き こ も っ

て い た 期 間 の 記 載 を 工 夫 し て い き ま す 。 ま た

ひ き こ も っ て い た 人 の な か に は 、 疲 れ や す く

持 久 力 の 低 く な っ て い る こ と も あ り 、 短 時 間

の ア ル バ イ ト な ど か ら 徐 々 に ス テ ッ プ ア ッ プ

し て い く こ と も 望 ま れ ま す 。

  援 助 の 実 践 と し て は 、 「 ひ き こ も り 」 に 理

解 の あ る 職 場 を 開 拓 し 、 事 業 者 と の 相 談 の な

か で 、 訓 練 と し て 働 き 始 め て い く 方 法 が あ り

ま す 。 ま た 就 労 が 継 続 し て い る 場 合 で も 、 職

場 に お け る 対 人 関 係 な ど の 困 難 を も つ こ と が

あ り 、 定 着 し て い く た め の フ ォ ロ ー が 必 要 に

な り ま す 。

  こ れ ら の 援 助 を 、 本 人 の ニ ー ズ と 回 復 の 状

況 に あ わ せ て 行 い 、 自 立 に い た る ス テ ッ プ を

確 実 に し て く こ と が 望 ま れ ま す 。 保 護 的 な

「 福 祉 作 業 所 」 な ど に 通 所 し て 、 仲 間 づ く り

を お こ な う と と も に 、 働 く 能 力 を 向 上 さ せ て

い く こ と も 効 果 が あ り ま す 。 ま た 、 本 人 の 適

性 に 応 じ て 、 夜 間 に お け る 就 労 や 、 イ ン タ ー

Ⅳ 具体的な援助技法-3 さまざまな支援プログラムの可能性-1 社会復帰への援助

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Page 134: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

ネ ッ ト な ど の 技 術 を 利 用 し た 自 宅 内 で の 就 労

を 検 討 し て い く な ど の 柔 軟 な 対 応 が 望 ま れ ま

す 。

事例紹介④「高齢者施設へ の 訪問に よ る 交流活動」(仙台・フ リ ース

ペ ース )

 就労を 考え る と き に は 、役割を 持っ て 行動し 、責任を 果

た す こ と が 必要で す 。し か し 、緊張し な が ら 一人で 責

任を 負う の は 、非常に 大き な 課題で す 。

 そ こ で 、資格の 有無に 関係な く 、他者に サ ービ ス を 提供

す る 活動と し て 、高齢者の 施設に 玩具を 持っ て 訪問し 、い

っ し ょ に 遊び な が ら 交流を す る 活動を お こ な っ て

い ま す 。

 訪問の 頻度は 決ま っ て い ま せ ん 。施設か ら 依頼が あ れ

ば 、月に 6 ・7 回の 活動と な る と き も あ り ま す 。活動の

時間は 、1 回あ た り 1 時間か ら 1 時間半程度で す 。

 ス タ ッ フ は 毎回2 名付き 添い ま す 。事前に 担当と 役割な

ど を 決め 、ス ム ーズ に 活動が 行わ れ る よ う 援助し ま

す 。現在は 活動が 忙し く 、参加人数が 足り な く な り 、あ わ

て て 人集め を す る と い う こ と も あ り ま す 。

 こ こ で は 、他者と 交流す る な か で 成功体験を 積む こ と

を 目的と し て い ま す 。施設の 職員や 利用者(高齢者)に も 、訪

問す る 者が 「ひ き こ も り 」に 悩む 若者で あ る こ と を

伝え 、対人関係の 緊張が 強い こ と に つ い て の 理解を 得て

お き ま す 。こ う す る こ と で 、高齢者に も 訪問す る 側

に 友好的に 働き か け て も ら え る よ う に な り ま す 。

こ の 橋渡し が ス タ ッ フ の 役割で も あ り ま す 。

Ⅳ 具体的な援助技法-3 さまざまな支援プログラムの可能性-1 社会復帰への援助

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Page 135: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

事例紹介⑤「有償ボ ラ ン テ ィ ア 活動」(仙台・フ リ ース ペ ー

ス )

 有償ボ ラ ン テ ィ ア と は 、活動に 対し て 小額の 報酬が 支払

わ れ る ボ ラ ン テ ィ ア 活動の こ と で す 。自分が 活動し

た こ と が 相手に 喜ば れ る だ け で な く 、実際に 賃金と

な っ て 支払わ れ る こ と は 、社会生活に お い て は 当然の

こ と で あ り 、仕事を 続け る 動機付け に な り ま す 。

 こ こ で の 活動の 多く は 、高齢者の 家庭で の 家事援助や 障害者

な ど へ の 外出の 支援で す 。内容は 、庭木の 伐採、草取り 、ペ

ン キ 塗り 、荷物の 移動、買い 物や 旅行へ の 付き 添い な ど が

あ り ま す 。依頼が あ れ ば 、ス タ ッ フ が 事前に 訪問し

て 要望を 聞き 、活動に か か る 経費を 見積も っ て き ま す 。

依頼内容と 期日は フ リ ース ペ ース の 伝言ボ ード に 書き 込

み 、参加し た い メ ン バ ーが 、自分の 名前を 書き 入れ て 登録

し ま す 。

 活動内容に よ っ て 単価に 違い が あ り ま す が 、受け 取っ

た 報酬は 参加し た 人数で 均等割り に し ま す 。以前は 活動ご

と に 参加し た メ ン バ ーに 支払っ て い た の で す が 、活

動も 広が り 、現在で は 月末に ま と め て 手渡す こ と に し

て い ま す 。賃金の 中か ら 10 %を 、フ リ ース ペ ース の

「活動基金」に 積み 立て て い ま す 。

 活動の 多く は 二人一組で お こ な う よ う に し て い ま

す 。こ う す る こ と で 、責任や 緊張感を 分か ち 合い 、ゆ

と り を 持っ て 活動す る こ と が で き ま す 。ホ ーム ヘ

ル パ ーの 資格を も っ て い る 者と ま だ 勉強中の 者、慣れ

て い る 者と 初め て の 者、と い う よ う に 組み 合わ せ

Ⅳ 具体的な援助技法-3 さまざまな支援プログラムの可能性-1 社会復帰への援助

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Page 136: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

る こ と で 、経験を 積ん で い る メ ン バ ーが ア ド バ イ

ス を し た り 、互い に 学び あ う こ と が で き ま す 。

 ま た 、参加す る メ ン バ ーの 安心と 依頼者の 信頼を 大切に

す る た め に 、ス タ ッ フ は 必ず 毎回付き 添っ て い く

よ う に し て い ま す 。ま だ 独立し た 活動で は な い の

で 、ス タ ッ フ の 存在は 不可欠で す 。

※ 活動中の 事故な ど に 備え て 、精神科デ イ ケ ア や 小規模作業

所の 利用者を 対象と し た 傷害保険や 、ボ ラ ン テ ィ ア 活動

を 対象と し た 保険な ど に 加入す る こ と も 必要で す 。

ま た 、こ れ ら の 活動の な か に は 、行政か ら の 助成事業

と し て 協力を 得て い る と こ ろ も あ り ま す 。

事例紹介⑥「小グ ル ープ に よ る 清掃ア ル バ イ ト 」(東京・非営

利団体)

 ひ き こ も っ て い る 若者た ち が 、社会に 参加す る 一歩前

の 活動と し て 、グ ル ープ で の ア ル バ イ ト を す す

め て い ま す 。こ の 活動で は 、就労の 訓練の み で は な

く 、社会参加の た め の き っ か け 作り を 目的と し て い

ま す 。参加メ ン バ ーが 実際の 作業を 通し 、職場の 雰囲気を 感

じ た り 、一緒に 働く 人た ち と の 関わ り 方な ど を 学ん

だ り し て 、社会参加へ の 自信や 意欲を 深め る こ と を 目指

し て い ま す 。

 活動の 受入先に つ い て は 、「ひ き こ も り 」に 理解の あ

る 職場を 選び ま し た 。現在で は 、ビ ル 管理会社の 理解と 協力

を 得ら れ 、4 カ 所で 清掃に 関わ る 活動を お こ な っ て い

ま す 。

Ⅳ 具体的な援助技法-3 さまざまな支援プログラムの可能性-1 社会復帰への援助

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Page 137: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

 メ ン バ ーの 中に は 、は じ め か ら フ ル タ イ ム で 働

き た い と 望む 者も い ま す が 、余裕を も っ て 参加し て

も ら い た い た め 、週一回(ビ ル の 執務者が 少な い 土曜日

あ る い は 日曜日)の ペ ース で 実施し て い ま す 。ま た 、

勤務時間は 実働5 時間で 、休憩や 昼食時間は 他の ア ル バ イ ト に

比べ て ゆ と り が あ り ま す 。こ の よ う な ペ ース で

活動を 続け て い る う ち に 、物足り な く な っ た メ ン

バ ーた ち は 自分で 他の ア ル バ イ ト な ど を 見つ け 、仕

事を す る よ う に な っ て い き ま す 。

 参加メ ン バ ーは 、同じ 施設で お こ な っ て い る デ イ

ケ ア な ど の 活動に 関わ っ た 人に 限定さ れ て い る の

で 、ス タ ッ フ も 含め 顔見知り が 多く 、安心し て 参加で き

る よ う で す 。仕事先で の 各グ ル ープ も 5 〜6 名の 少人数で

構成さ れ て い る た め 、互い に 関わ る 密度も 濃く 、他人と

の 関わ り 方を 学ぶ 良い 機会と な っ て い ま す 。

 ま た 、ビ ル 管理会社の 現場責任者が 定期的に 巡回に 当た る の

で 、安心し て 作業を お こ な う こ と が で き ま す 。時々、

分か ら な い こ と や う ま く で き な い こ と が あ る

場合は 、質問し た り 、コ ツ を 教え て も ら う こ と が で

き ま す 。ス タ ッ フ も 常時一緒に い る の で 、メ ン バ ー

間の ト ラ ブ ル な ど に も 不安は 少な い よ う で す 。

 作業内容に つ い て は 、メ ン バ ーが あ る 程度責任を 任さ

れ 、達成感の あ る も の が 望ま し い と 考え て い ま す 。

現在は 、清掃業務の う ち 、主に 床の 洗浄と ワ ッ ク ス 塗り を

任せ ら れ 、グ ル ープ で 共同作業を 進め て い ま す 。こ の

作業は チ ーム ワ ーク が 大切で あ り 、全体の 進行具合を み な

が ら お こ な っ て い ま す 。

 こ の 活動の 報酬は 、一般の ア ル バ イ ト と 同額が 、メ ン

Ⅳ 具体的な援助技法-3 さまざまな支援プログラムの可能性-1 社会復帰への援助

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Page 138: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

バ ーの 申し 出た 銀行口座に 振り 込ま れ ま す 。「お 金が 入っ

て 行動範囲が 広が っ た 」な ど と 喜び 、達成感を 持っ て い

る よ う で す 。

Ⅳ 具体的な援助技法-3 さまざまな支援プログラムの可能性-1 社会復帰への援助

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-2 インターネット相談リ ス ク と 可 能 性

  現 在 、 さ ま ざ ま な 機 関 で 、 「 ひ き こ も り 」

を 呈 し て い る 本 人 や 家 族 な ど を 対 象 に し た イ

ン タ ー ネ ッ ト 相 談 が 行 わ れ は じ め て い ま す 。

従 来 の 面 接 カ ウ ン セ リ ン グ の 技 法 と 異 な り 、

本 人 や 家 族 は 電 子 メ ー ル で 相 談 内 容 を 送 り 、

そ れ を 受 け 取 っ た ス タ ッ フ は 面 接 を 行 わ な い

で 返 信 す る と い う プ ロ セ ス に な っ て い ま す 。

  従 来 の 面 接 相 談 で 対 処 す る こ と が 難 し い

「 ひ き こ も り 」 状 況 を 、 イ ン タ ー ネ ッ ト に よ

っ て 扱 っ て い く た め に は 、 相 当 程 度 の 知 識 と

経 験 が 必 要 で す 。 対 処 に あ た っ て は 、 さ ま ざ

ま な リ ス ク を 生 じ る こ と も あ り 、 相 談 の プ ロ

セ ス が 希 薄 に な る 傾 向 も あ り 、 本 人 や 家 族 の

状 態 や 関 係 性 に 注 意 し て 、 以 下 の よ う な 問 題

を 丁 寧 に 扱 う 必 要 が あ り ま す 。

●  声 の ト ー ン や 表 情 と い っ た 非 言 語 メ ッ

セ ー ジ を 受 け 取 る こ と が 難 し く 、 本 人 像

を 誤 認 し や す い 。 ま た 、 意 図 し な い メ ッ

セ ー ジ を 伝 え や す い 。

●  イ ン タ ー ネ ッ ト に の め り 込 み や す く 、

い わ ゆ る 「 昼 夜 逆 転 」 な ど を 引 き 起 こ し 、

社 会 生 活 を 妨 げ る こ と が あ る 。

●  相 談 頻 度 が 不 規 則 に な り 、 安 定 し た 援

助 関 係 を 維 持 す る こ と が 難 し い 。

●  相 手 の 理 解 や 反 応 を 直 接 確 認 す る こ と

が で き な い 。 情 報 通 信 の エ ラ ー な ど に よ

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り 、 相 談 内 容 な ど の プ ラ イ ヴ ァ シ ー が 守

ら れ な い こ と も あ る 。

  相 談 の 適 用 範 囲 と し て は 、 一 義 的 に は 面 接

に 結 び 付 け る た め の サ ポ ー ト と し て 、 メ ン タ

ル ヘ ル ス に か ん す る 説 明 お よ び 専 門 機 関 の 紹

介 と い っ た 情 報 提 供 の サ ー ビ ス が あ げ ら れ ま

す 。 医 療 機 関 と の ネ ッ ト ワ ー ク の な か で は 、

受 療 の 勧 奨 を お こ な う こ と も で き る と 思 い ま

す 。 ま た 、 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 補 助 す る た

め に 、 郵 送 で 連 絡 し て い る よ う な こ と を 、 メ

ー リ ン グ リ ス ト な ど を 通 し て 伝 え る こ と も 可

能 で す 。

  一 方 、 精 神 医 学 的 な 診 断 や 治 療 ツ ー ル と し

て イ ン タ ー ネ ッ ト 相 談 を 利 用 す る こ と は 、 現

段 階 で は 慎 重 に お こ な う 必 要 が あ り ま す 。 こ

の 場 合 、 問 題 に 対 す る 直 接 的 な ア プ ロ ー チ は

行 わ ず 、 面 接 に よ る カ ウ ン セ リ ン グ を 補 完 す

る う え で 、 自 宅 に い る 本 人 と コ ン タ ク ト を と

る こ と な ど に 限 定 し た 利 用 に と ど め る こ と が

望 ま れ ま す 。

実 施 す る 際 に 必 要 に な る 条 件

  上 記 の よ う に 、 イ ン タ ー ネ ッ ト 相 談 に は さ

ま ざ ま な 問 題 が あ り ま す が 、 人 と の 接 触 に 困

難 を も っ て い た り 、 専 門 機 関 で 自 分 の 状 態 や

感 情 を 十 分 に 表 現 で き な い よ う な 状 態 に 対 し

て は 、 以 下 の 利 点 を あ げ る こ と が で き ま す 。

●  専 門 機 関 ま で 出 向 く 必 要 が な く 、 自 宅

に い な が ら 相 談 を お こ な う こ と が で き る 。

●  氏 名 や 住 所 な ど を 教 え る 必 要 が な い た

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め 、 私 的 な 状 況 を 伝 え や す い 。

●  夜 間 や 休 日 な ど 、 自 由 な 時 間 に 相 談 メ

ー ル を 送 る こ と が で き る 。

●  感 情 を こ と ば で 表 現 す る こ と に よ り 、

問 題 の 意 識 化 、 外 在 化 に 効 果 的 で あ る 。

●  相 談 の 過 程 を 記 録 、 保 存 す る こ と が で

き 、 状 態 の 変 化 を 振 り 返 る こ と が で き る 。

●  ス タ ッ フ に と っ て は 、 相 談 内 容 を チ ェ

ッ ク し 、 対 処 方 法 を 検 討 し て 答 え る こ と

が で き る 。

  相 談 の 枠 組 み を 保 証 す る た め に は 、 次 の よ

う な 条 件 に 基 づ い て 、 慎 重 に 実 施 し て い く こ

と が 必 要 に な り ま す 。

■イ ン フ ォ ー ム ド コ ン セ ン ト

  相 談 の 規 則 ( 一 回 性 ・ 情 報 提 供 へ の 限 定 な

ど ) を 定 義 付 け 、 さ ま ざ ま な リ ス ク と 限 界 性

( 相 談 内 容 の 記 録 な ど ) に つ い て 同 意 を 得 ま

す 。 ま た 、 プ ラ イ ヴ ァ シ ー の 保 護 な ど へ の 倫

理 的 な 配 慮 を 示 し 、 ス タ ッ フ の 責 任 の 範 囲 を

理 解 し て も ら う こ と も 必 要 で す 。 ど の よ う な

ス タ ッ フ が 相 談 を お こ な っ て い る か を 伝 え る

こ と も 重 要 に な る こ と が あ り ま す 。

■対 処 の 方 法

 ク ラ イ ア ン ト の 生 活 リ ズ ム を 安 定 さ せ た り 、

依 存 関 係 を 防 い で い く た め に 、 相 談 時 間 と 頻

度 、 内 容 量 な ど を 調 整 し て い き ま す 。 主 訴 と

異 な る 相 談 内 容 を 制 限 し て い く こ と も 必 要 で

す 。 ま た 、 担 当 す る ス タ ッ フ を バ ッ ク ア ッ プ

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す る 機 関 の 体 制 も 必 要 で す 。

  一 方 、 ク ラ イ ア ン ト に と っ て は 相 談 に よ る

変 化 を 自 分 で 受 け 入 れ て い く こ と に な る た め

心 理 的 な ア プ ロ ー チ は 慎 重 に お こ な う 必 要 が

あ り ま す 。 精 神 症 状 が 強 い と き や 、 行 動 化 を

生 じ る 恐 れ が あ る と き に は 、 と く に 注 意 が 必

要 と な り ま す 。

■他 の 連 絡 方 法 の 確 保

  イ ン タ ー ネ ッ ト 相 談 は 緊 急 対 応 の 困 難 さ を

伴 い ま す 。 電 子 メ ー ル に よ る 接 触 に 加 え て 、

可 能 で あ れ ば 直 接 面 接 す る チ ャ ン ス を 用 意 す

る こ と が 重 要 で す 。 危 機 介 入 の ニ ー ズ が あ る

場 合 に は 、 他 の 連 絡 方 法 を 確 保 し て お き ま す 。

参考文献:メールカウンセリング「現代のエスプリ – 388- 」1999.至文堂

NHK 「 ひ き こ も り 」 サ ポ ー ト キ ャ ン ペ ー

ン:http://www.nhk.or.jp/hikikomori/  2003.1

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4節 緊急時の対応

-1 ケア会議の開き方「 ひ き こ も り 」 事 例 の 緊 急 事 態 を ど の よ う

に 捉 え る か                          

「 ひ き こ も り 」 の あ る 時 点 で 、 本 人 が 暴 力

的 、 反 社 会 的 な 行 動 や 傾 向 を 引 き 起 こ し て し

ま う 場 合 が あ り ま す 。 そ れ は 家 庭 内 暴 力 で あ

っ た り 、 近 隣 へ の 迷 惑 行 為 で あ っ た り 、 自 傷

行 為 で あ っ た り し ま す 。 ま た 、 自 傷 他 害 を ほ

の め か す よ う な メ モ や 手 紙 が 発 見 さ れ る こ と

も あ り ま す 。 変 化 に 乏 し い と み な さ れ が ち な

「 ひ き こ も り 」 事 例 に お い て 、 こ れ ら の 緊 急

事 態 を ど う 捉 え れ ば よ い で し ょ う か 。

多 く の 場 合 に お い て 、 「 ひ き こ も り 」 を 維

持 さ せ て い た 環 境 の 変 化 が み ら れ ま す 。 例 え

ば 、 き ょ う だ い の 進 学 や 就 職 ・ 結 婚 、 親 の 病

気 に よ る 入 院 や 死 亡 、 新 た な 同 居 者 の 出 現 、

仕 送 り の 中 断 、 近 隣 に 住 む 人 の 苦 情 、 税 金 や

年 金 掛 け 金 な ど の 請 求 。 援 助 者 が 意 図 し な い

と こ ろ で 、 環 境 の 変 化 が あ る 日 突 然 生 じ 、 そ

れ が 「 ひ き こ も り 」 の 生 活 を 脅 か し 、 本 人 の

心 の 中 に 緊 張 が 高 ま っ て き ま す 。 そ し て 、 そ

の 緊 張 に 耐 え る こ と が で き な く な っ て 、 あ る

い は 、 そ の 緊 張 に 対 処 す る か の よ う に 、 問 題

と さ れ る 行 動 が 現 れ て き ま す 。 ま た は 、 社 会

や 周 囲 の プ レ ッ シ ャ ー に 押 さ れ て 「 ひ き こ も

り 」 か ら 社 会 に 少 し 出 た け れ ど も 、 社 会 と の

隔 た り や ず れ の た め に 不 安 と 緊 張 が 高 ま り 、

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応

-1 ケア会議の開き方

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緊 急 を 要 す る よ う な 行 動 が 現 れ る こ と も あ り

ま す 。 ほ か に は 、 ひ き こ も っ て い る 本 人 か ら

親 や き ょ う だ い へ の 家 庭 内 暴 力 が 以 前 か ら 続

い て お り 、 そ の 暴 力 を 受 け て い た 家 族 が 我 慢

の 限 界 を 感 じ て 相 談 に 来 ら れ る 場 合 も あ り ま

す 。

い ず れ の 場 合 も 、 本 人 ・ 家 族 や 周 囲 の 安 全

を は か る 必 要 性 か ら 、 事 例 の 言 動 を 「 問 題 行

動 」 と 捉 え 、 い か に そ の 「 問 題 」 を な く す か

に 主 眼 点 を 置 い た 対 応 を 求 め て 相 談 に 来 ら れ

ま す 。 し か し 、 今 ま で 動 き の 少 な か っ た 「 ひ

き こ も り 」 本 人 や そ の 家 族 関 係 が 、 動 き 始 め

た 徴 候 と し て 捉 え る こ と も 可 能 で す 。 緊 急 事

態 は 、 「 問 題 行 動 」 と し て 捉 え る だ け で は な

く 、 そ の 動 き が 「 ひ き こ も り 」 か ら の タ ー ニ

ン グ ポ イ ン ト に な る 「 チ ャ ン ス 」 と 捉 え る 視

点 も 重 要 で す 。

緊 急 事 例 の 相 談 を 受 け た と き の 援 助 の 流 れ

1) 第 1 線 機 関 に お け る 緊 急 の 相 談 を 受 け た と

家 族 や 周 囲 の 人 か ら 、 緊 急 で あ る 、 す ぐ に

で も 何 と か し て 欲 し い 、 入 院 さ せ た い 、 会 っ

て ほ し い 、 警 察 に 連 れ て 行 っ て ほ し い な ど の

期 待 が 、 家 族 の 身 近 な 機 関 で あ る 、 学 校 、 市

町 村 役 場 、 福 祉 事 務 所 、 医 療 機 関 な ど に 寄 せ

ら れ ま す 。 継 続 的 に 個 別 面 接 や 家 族 教 室 と か

で 関 わ り を 持 っ て い る 場 合 に は 、 情 報 の 集 積

が あ る た め 、 そ の 後 の プ ラ ン も 立 て や す い の

で す が 、 初 回 相 談 が 緊 急 対 応 を 求 め る 場 合 も

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応

-1 ケア会議の開き方

134

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少 な く あ り ま せ ん 。 そ の 場 合 、 答 え を 早 急 に

出 す の で は な く 、 ま ず は 、 情 報 の 収 集 、 緊 急

度 と 重 症 度 の と り あ え ず の 判 定 を 行 い ま す 。

緊 急 度 の 判 定 の た め に は 、 「 ひ き こ も り 」 の

程 度 や 「 ひ き こ も り 」 が い つ か ら 始 ま っ た か

と い う 情 報 だ け で は な く 、 緊 急 を 要 す る 当 該

行 動 が い つ か ら 、 ど れ く ら い の ス ピ ー ド で 始

ま っ た か が 重 要 な 情 報 に な り ま す 。 ま た 、 家

族 や 周 囲 の 身 体 的 精 神 的 被 害 の 程 度 、 家 族 や

周 囲 の サ ポ ー ト 能 力 、 本 人 の 援 助 を 利 用 す る

能 力 な ど も 必 要 な 情 報 で す 。

第1線機関の 役割

継続的な 支援の 始ま り

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応

-1 ケア会議の開き方

135

家族や近隣からの訴えや期待

・「ひきこもり」の開始時期、「ひきこもり」の程

・問題行動の始まり、行動のエスカレートの速度

・家族や周囲のサポート能力

・本人の援助を利用する能力

情報の収集

緊急度と重症度の判定

・ 即日の対応と介入

・ 1週間以内の対応と介入

・ 判断困難

・ 本人への直接介入、家族

の避難や分離

・ 家族への継続支援

・ 判断困難

Page 146: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

緊 急 度 や 重 症 度 が 高 く て 単 独 の 機 関 の み で

は 支 援 が 困 難 な 場 合 、 ま た は 、 緊 急 度 や 重 症

度 の 判 断 が 困 難 な 場 合 、 そ ん な 場 合 に は 、 コ

ン サ ル テ ー シ ョ ン や コ ー デ ィ ネ ー シ ョ ン が で

き る 機 関 を 利 用 す る こ と が 、 次 の ス テ ッ プ に

な り ま す 。 地 域 事 情 や 事 例 本 人 の 年 齢 に も よ

り ま す が 、 保 健 所 、 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー 、

児 童 相 談 所 な ど が そ の よ う な 機 関 に な り ま す

ま た 、 こ れ ら の 機 関 に お い て は 、 危 機 を 感 じ

た 第 1 線 の 援 助 者 が ア ク セ ス し や す い 工 夫 と

「 ひ き こ も り 」 事 例 に つ い て ア ク セ ス で き る

合 意 を 予 め 形 成 し て お く こ と は 重 要 で す 。

2) 2 次 機 関 と し て の 判 断

保 健 所 や 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー な ど の 2 次

機 関 で 、 市 町 村 や 学 校 な ど の 第 1 線 機 関 か ら

の 緊 急 事 例 の 相 談 が あ っ た 場 合 、 ま た は 、 自

機 関 で 受 理 し た 場 合 も 含 め て 、 や は り 緊 急 度

と 重 症 度 を 正 確 に 判 定 し 、 そ の 段 階 に 応 じ て

単 独 機 関 だ け の 対 応 で よ い か 、 第 1 線 機 関 と

2 次 機 関 と の 連 携 協 力 だ け で よ い か 、 多 数 の

関 係 機 関 を 集 め た ネ ッ ト ワ ー ク ミ ー テ ィ ン グ

を 開 催 す る か 、 を 判 断 し ま す 。 ネ ッ ト ワ ー ク

ミ ー テ ィ ン グ を 開 催 す る の は 、 大 変 な 労 力 と

大 勢 の 人 の 時 間 を 費 や す こ と に な り ま す 。 そ

の た め に 、 開 催 す る こ と を た め ら う 傾 向 に な

り ま す 。 ま た 、 現 場 よ り 遠 く な れ ば 遠 く な る

ほ ど 、 緊 急 度 や 切 迫 感 は 感 じ 取 れ な く な る も

の で す 。 コ ー デ ィ ネ ー タ ー 機 関 の 担 当 者 に 求

め ら れ る こ と は 、 家 族 な ど 身 近 な 人 や 第 1 線

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応

-1 ケア会議の開き方

136

Page 147: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

の 支 援 者 が 感 じ て い る 切 迫 感 を 、 十 分 納 得 い

く ま で 、 よ く 把 握 す る こ と で す 。 そ し て 、 そ

れ が 、 次 の ス テ ッ プ の ネ ッ ト ワ ー ク ミ ー テ ィ

ン グ を 開 催 し て い く 原 動 力 に な る の で す 。

3) ケ ア 会 議 ( ネ ッ ト ワ ー ク ミ ー テ ィ ン グ ) を

開 催 す る

ネ ッ ト ワ ー ク ミ ー テ ィ ン グ は 、 多 機 関 ・ 多

職 種 が 集 ま り そ れ ぞ れ の 持 っ て い る 支 援 の 枠

組 み を 組 み 合 わ せ な が ら 支 援 し て い く た め の

仕 掛 け で す 。 元 々 は 、 ア ル コ ー ル 関 連 問 題 や

児 童 虐 待 の 分 野 で 活 用 さ れ て い る ケ ア 会 議 の

方 法 で す 。 「 ひ き こ も り 」 は 比 較 的 新 し い 概

念 の た め 、 高 齢 者 や 従 来 の 精 神 障 害 者 の ケ ア

会 議 と 異 な り 、 参 加 す る 機 関 に は 「 ひ き こ も

り 」 に 対 す る 理 解 や 認 識 ・ 対 応 方 法 に ず れ が

存 在 す る こ と が あ り ま す 。 「 ひ き こ も り 」 事

例 に 対 す る ネ ッ ト ワ ー ク が 何 も な い か ら こ そ

ネ ッ ト ワ ー ク ミ ー テ ィ ン グ を 開 催 し な け れ ば

な ら な い の で す 。

開 催 に あ た っ て の 留 意 点 が い く つ か あ り ま

す 。 ア ル コ ー ル 問 題 や 児 童 虐 待 以 上 に 、 「 ひ

き こ も り 」 に つ い て は 各 機 関 の 対 応 に 温 度 差

が あ り 支 援 方 法 も さ ま ざ ま で す 。 現 時 点 で 集

ま っ て い る 情 報 を 適 切 に 伝 え な が ら 、 当 該 機

関 が ネ ッ ト ワ ー ク ミ ー テ ィ ン グ に 参 加 す る 必

要 性 を 説 明 し ま す 。 集 ま る タ イ ミ ン グ も 非 常

に 重 要 で す 。 集 ま っ て ほ し い 機 関 や 職 種 す べ

て の 日 程 を 調 整 し て い る と 、 何 週 間 も 先 に な

っ て し ま い ま す 。 し か し 、 真 に 緊 急 な 事 態 で

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応

-1 ケア会議の開き方

137

Page 148: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

あ る か ら に は 、 そ の 緊 急 度 に 応 じ て 即 座 に 関

係 者 を 集 め た ネ ッ ト ワ ー ク ミ ー テ ィ ン グ を 開

催 し な け れ ば 意 味 が あ り ま せ ん 。 タ イ ミ ン グ

を 重 視 す る と 、 集 ま る メ ン バ ー の 必 要 度 の 高

い 人 か ら 優 先 的 に 時 間 を 合 わ せ て い く こ と に

な り ま す 。 派 遣 依 頼 の 公 式 文 書 を 起 案 し 送 付

す る 時 間 が な い 場 合 も あ り ま す 。 そ れ で も 開

催 が 必 要 で あ れ ば 、 口 頭 で 依 頼 す る こ と も や

む を え な い で し ょ う 。 ど う し て も 関 係 者 の 集

ま る こ と が 困 難 な 場 合 に 、 コ ー デ ィ ネ ー タ ー

が 個 別 に 電 話 連 絡 を お こ な う 、 複 数 の 関 係 機

関 に 出 向 い て 経 過 を 説 明 す る な ど の 対 応 を 迫

ら れ る こ と が 現 場 で は よ く あ り ま す 。 一 同 に

関 係 者 が 会 さ な い こ の 方 法 は 、 誤 解 や 合 意 の

ず れ が 生 じ る 可 能 性 が あ り ま す 。 こ の 点 に 留

意 し な が ら 、 合 意 の 得 ら れ た プ ラ ン や 方 針 を

関 係 機 関 に 伝 達 す る こ と で す す め て い き ま す 。

  ケ ア 会 議 の 開 催 に お い て は 、 事 例 の 情 報 を

そ れ ぞ れ が 共 有 す る こ と に な り ま す 。 複 数 の

機 関 で の 情 報 を 共 有 す る 際 の プ ラ イ ヴ ァ シ ー

の 留 意 点 は 、 別 の 項 目 で 触 れ ら れ ま す が 、 今

後 の ネ ッ ト ワ ー ク 支 援 を 展 開 す る 上 に お い て

も 家 族 の 同 意 は 必 要 な こ と で す 。 場 合 に よ る

と 家 族 が 同 席 す る こ と も い い か も し れ ま せ ん 。

4) ケ ア 会 議 ( ネ ッ ト ワ ー ク ミ ー テ ィ ン グ ) で

何 を お こ な う か

ケ ア 会 議 ( ネ ッ ト ワ ー ク ミ ー テ ィ ン グ ) が

行 わ れ る に あ た り 、 冒 頭 で 司 会 が 確 認 し て 伝

え て お く べ き 事 項 が 何 点 か あ り ま す 。 今 回 の

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応

-1 ケア会議の開き方

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Page 149: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

会 議 が 必 要 に な っ た 理 由 、 会 議 の 目 的 、 各 参

加 者 の 立 場 と 役 割 、 当 事 者 の 同 意 の 有 無 、 参

加 者 の 守 秘 義 務 、 終 了 時 刻 な ど で す 。 こ れ ら

の 項 目 に つ い て の 確 認 は 会 議 を め り は り よ く

進 行 さ せ ま す 。 そ の 上 で 、 情 報 の 共 有 、 評 価

役 割 の 明 確 化 、 援 助 プ ラ ン 、 危 機 状 況 で の 具

体 的 な 対 応 に つ い て 、 参 加 者 か ら の 追 加 補 足

意 見 を 加 味 し な が ら 進 め て い き ま す 。 「 ひ き

こ も り 」 事 例 は 、 情 報 が 限 定 的 で あ り 一 面 的

に な り や す い 傾 向 が あ り ま す 。 多 方 面 か ら の

情 報 を 集 め る こ と に よ り 、 正 確 に 状 況 を 把 握

で き る だ け で な く 、 事 例 の 健 康 な 面 や 「 問 題

行 動 」 の 意 味 を 発 見 す る こ と に つ な が り ま す 。

ネ ッ ト ワ ー ク ミ ー テ ィ ン グ の 開 催

各 機 関 の 役 割 を 明 確 に し て い く 中 で 、 専 門

機 関 や 行 政 機 関 に だ け 役 割 が 集 中 し て し ま う

こ と も よ く み ら れ ま す 。 そ れ ぞ れ の で き る こ

と と で き な い こ と を 明 確 に し な が ら も 、 決 し

て 「 た ら い ま わ し 」 や 一 極 集 中 の 「 押 し 付

け 」 に な る の で は な く 、 各 関 係 機 関 が そ れ ぞ

れ に 持 ち 味 を も っ て 同 時 に 関 わ れ る よ う な 重

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応

-1 ケア会議の開き方

139

開催時に伝えること会議が必要になった理由会議の目的各参加者の立場と役割当事者の同意の有無参加者の守秘義務終了時刻

明らかにしていくこと情報の共有評価役割の明確化援助プラン(介入、保護、分離)危機状況での具体的な対応問題行動の意味

Page 150: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

層 的 な 支 援 の 輪 が で き る こ と を 目 指 し ま す 。

何 よ り も 、 援 助 プ ラ ン で で き あ が っ た 支 援 の

輪 が 、 家 族 や 本 人 に と っ て 、 大 勢 の 人 か ら 支

援 さ れ て い る と い う 実 感 や 安 心 感 に つ な が る

よ う な も の で な く て は な り ま せ ん 。

5) 介 入 、 保 護 、 分 離 の 選 択

事 例 本 人 に 誰 が ど の よ う に 介 入 す る の か 、

ど の よ う な 形 で 保 護 を お こ な う の か 、 家 族 が

家 庭 か ら 離 れ る こ と で 分 離 を す す め る の か 、

こ れ ら 具 体 的 な 対 応 に つ い て 、 そ の 是 非 と メ

リ ッ ト ・ デ メ リ ッ ト に つ い て 十 分 論 議 を し て

お き ま す 。 「 ひ き こ も り 」 は 、 保 健 医 療 機 関

が 相 談 の 窓 口 に な っ て い る こ と が 多 く 、 そ の

事 実 だ け で 周 囲 は 病 気 と し て 捉 え 、 医 療 の 枠

組 み の 中 で の 支 援 や 保 護 を 念 頭 に 置 い て い る

場 合 が よ く み ら れ ま す 。 し か し 、 「 ひ き こ も

り 」 事 例 の 保 護 を 、 疾 患 の 存 在 や そ の 疑 い を

前 提 と し た 医 療 的 な 枠 組 み で お こ な う こ と は

無 理 な 場 合 が 少 な か ら ず あ り 、 か え っ て 事 態

を 混 乱 さ せ て し ま い 、 そ の 後 の 継 続 的 な 支 援

に は つ な が っ て こ な い 場 合 も 多 く あ り ま す 。

「 ひ き こ も り 」 事 例 の 緊 急 介 入 で は 、 医 療

の 枠 組 み だ け で 捉 え る の で は な く 、 そ の 問 題

と し て 生 じ て い る 事 態 に 対 し て 社 会 一 般 的 な

介 入 を 第 一 選 択 と し て い く こ と も あ り え る 選

択 肢 で す 。 暴 力 や 近 隣 へ の 反 社 会 的 な 行 動 に

は 警 察 に よ る 司 法 対 応 が 自 然 で あ り 、 家 庭 内

暴 力 や 犯 行 を ほ の め か す よ う な 言 動 に は 、 虞

犯 行 為 と と ら え て 児 童 福 祉

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応

-1 ケア会議の開き方

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Page 151: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

2 次 機 関 ( 保 健 所 、 精 神 保 健 福 祉 セ ン タ ー 、

児 童 相 談 所 な ど ) の 役 割

法 や 少 年 法 を 根 拠 と し た 介 入 も 可 能 に な り ま

す 。 ま た 、 近 隣 へ の 迷 惑 行 為 に つ い て も 、 自

治 会 や 管 理 組 合 な ど か ら の 通 常 の 介 入 が 自 然

で す 。 こ の よ う な 社 会 の 常 識 的 な ル ー ル に 沿

っ た 介 入 は 、 当 初 本 人 は 反 発 し な が ら も 、

「 こ ん な こ と を し た ら こ の よ う な 処 遇 を 受 け

る の は し よ う が な い 」 と い う 納 得 が 生 じ ま す

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応

-1 ケア会議の開き方

141

第1線機関からの訴えと期待

介入方法の選択

・ 医療対応

・ 福祉対応(児童相談所など)

・ 警察や司法の対応

・ 一般的な社会のルールの適用

・ 家族の避難や分離

ネットワークミーティング

介入の実施

・ 処遇や介入に対する本人

の納得や現実の受け入れ

・ 介入後のサポート

継続的な支援の始まり

Page 152: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

こ の 納 得 と 現 実 の 受 け 入 れ は 、 次 の 変 化 の ス

テ ッ プ に な り ま す 。 加 え て 、 危 機 介 入 後 の 適

切 な サ ポ ー ト を タ イ ミ ン グ よ く 提 供 で き れ ば

そ の 介 入 は 次 の 継 続 的 な 支 援 に つ な が り 、 回

復 を 促 し て い く チ ャ ン ス に な り ま す 。 ど の 選

択 肢 を 選 ぶ か 、 そ の 法 的 根 拠 は あ る の か 、 判

断 が 高 度 な 場 合 、 そ れ ぞ れ の 専 門 家 か ら の ス

ー パ ー バ イ ズ を 受 け る こ と も 必 要 で し ょ う 。

警 察 、 弁 護 士 、 少 年 鑑 別 所 な ど 、 司 法 領 域 の

専 門 家 と の 連 携 も 躊 躇 す る こ と な く 求 め て い

く こ と も 重 要 で す 。

緊 急 時 対 応 が 円 滑 に 進 む た め に

「 ひ き こ も り 」 の 介 入 の 難 し さ 、 法 律 の 適

応 の 難 し さ に つ い て 、 関 係 機 関 と 日 頃 か ら コ

ン セ ン サ ス を 形 成 し て お く こ と は 大 事 な こ と

で す 。 そ し て 、 事 例 を 丁 寧 に ア セ ス メ ン ト し

援 助 プ ラ ン を 立 て 経 過 を フ ォ ロ ー し た 後 、 そ

の 転 帰 か ら 学 ぶ と い っ た 日 々 の 経 験 の 蓄 積 が

「 ひ き こ も り 」 事 例 の 危 機 介 入 ネ ッ ト ワ ー ク

の 構 築 に つ な が り 、 ひ い て は 回 復 を 支 え る ネ

ッ ト ワ ー ク や 予 防 ・ 早 期 発 見 の ネ ッ ト ワ ー ク

に も 展 開 し て い き ま す 。

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応

-1 ケア会議の開き方

142

Page 153: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

-2 暴力が生じている場合の家族支援緊 急 時 対 応 が 必 要 と な る 状 況

ひ き こ も っ て い る 本 人 が 同 居 者 ( 多 く は 家

族 ) に 対 し て 暴 力 的 に な る 場 合 に は 、 家 族 も

援 助 者 も 苦 慮 す る こ と が 多 く 、 緊 急 対 応 が 必

要 と な る こ と が あ り ま す 。

本 人 は 援 助 機 関 の 利 用 を し ば し ば 拒 絶 し 、

家 族 も ま た 自 ら の 自 責 感 や 世 間 体 な ど か ら 本

人 の 相 談 ・ 援 助 に 消 極 的 な 態 度 を と る こ と も

少 な く あ り ま せ ん 。 し か し 、 放 置 す る と 傷 害

事 件 や 家 族 の 精 神 健 康 状 態 の 悪 化 な ど に 発 展

す る こ と も あ る の で 注 意 を 要 し ま す 。

家 庭 内 暴 力 の 存 在 を 打 ち 明 け ら れ た と き

家 庭 内 暴 力 が 生 じ て い る こ と が 分 か っ た 際

に は 、 援 助 者 は そ の 実 態 に つ い て 確 実 に 把 握

し 、 過 小 評 価 し な い よ う 心 が け る こ と が 大 切

で す 。 本 人 の 暴 力 の 存 在 を 語 り た が ら な い 家

族 は 多 く 、 ま た 語 っ た と し て も そ れ が ご く 一

部 に 過 ぎ な い こ と が あ り ま す 。 そ の 理 由 と し

て は 、 本 人 に 対 す る 自 責 感 や 憐 憫 の 情 、 体 面

を 気 に す る な ど と い っ た 点 の 他 、 本 人 の 暴 力

や 報 復 を 心 底 恐 れ て い る こ と な ど も 挙 げ ら れ

ま す 。 暴 力 が 長 期 化 し て い る 場 合 に は 家 族 が

抑 う つ 状 態 や ト ラ ウ マ 反 応 な ど を 呈 し て い る

こ と も あ り 、 そ の 際 に 被 害 者 と な っ て い る 家

族 の 訴 え は い っ そ う ま と ま り を 欠 く こ と が 多

い の で す 。

援 助 者 は 本 人 の み な ら ず 、 家 族 の 精 神 状

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応 -2 緊急時対応における家族支援

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Page 154: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

態 ・ 健 康 状 態 に も 目 を む け 、 家 族 か ら 暴 力 の

訴 え が あ っ た 場 合 は 、 例 え 表 現 が 軽 微 で あ っ

て も 看 過 せ ず 、 本 人 と 家 族 へ の 介 入 の 必 要 が

あ る か ど う か を 検 討 す べ き と 考 え ら れ ま す 。

家 族 支 援 の 指 標

援 助 者 は 被 害 を 受 け て い る 家 族 に 対 し 、 暴

力 的 な 環 境 を 回 避 す る ( 暴 力 を 一 旦 抑 止 す

る ) い う 選 択 が あ り え る 点 を 早 い 時 点 で 提 示

す る こ と が 大 切 で す 。 同 時 に 、 ど の よ う な と

き 、 ど う 対 応 す る か 、 な ど を 家 族 と 協 議 し て

お く と よ い で し ょ う 。 家 族 に 抑 う つ 状 態 な ど

が 存 在 す る 場 合 に は 、 家 族 自 身 の 心 理 的 ・ 精

神 的 援 助 を 必 要 と す る こ と も 多 い も の で す 。

具 体 的 な 対 策 と し て は 、 1 ) 被 害 を 受 け て

い る 家 族 の 緊 急 避 難 、 2 ) 警 察 の ポ リ ス パ ワ

ー に よ る 介 入 、 3 ) 精 神 保 健 福 祉 法 に お け る

措 置 入 院 、 4 ) 近 親 者 な ど の ネ ッ ト ワ ー ク に

よ る 説 得 、 な ど が あ り ま す 。 こ れ ら に 関 し て

は 、 サ ポ ー ト す る 専 門 的 支 援 者 ( 家 族 の 状 況

を よ く 把 握 し 、 「 ひ き こ も り 」 本 人 な い し 被

害 を 受 け て い る 家 族 と 良 好 な 関 係 が 保 て て い

る 者 な ど ) の 存 在 が 必 須 で あ り 、 積 極 的 援 助

の 一 環 と し て 対 応 す る こ と に な り ま す 。

ま た 、 こ の 時 期 は 、 地 域 保 健 師 の 家 庭 訪 問

な ど 第 三 者 が 接 触 す る 良 い 機 会 で あ る と い う

見 方 も で き ま す 。 地 域 で の 支 援 活 動 を 積 極 的

に 活 用 し 、 第 三 者 が 本 人 と 会 い 、 状 態 を 判 断

す る 場 面 を ぜ ひ 設 定 し た い も の で す 。 家 族 が

安 全 に 本 人 と の 関 係 を 取 り 戻 す た め に も 、 第

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応 -2 緊急時対応における家族支援

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Page 155: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

三 者 的 立 場 の キ ー パ ー ソ ン の 存 在 は 重 要 で す 。

被 害 者 の 安 全 を 守 る こ と

緊 急 時 対 応 に 至 っ た 場 合 に は 、 家 族 の 安 全

を ま ず 第 一 に 考 え る こ と が 肝 要 で す 。 家 族 へ

の 対 応 は 、 被 害 を 受 け て い な い 家 族 の 中 に 協

力 者 が あ る か ど う か 、 被 害 者 に 対 応 へ の 余 力

が あ る か ど う か 、 医 師 や 地 域 の サ ポ ー ト が あ

る か 、 な ど 総 合 的 に 検 討 し ま す 。 被 害 者 の 身

体 的 ・ 精 神 的 健 康 度 と サ ポ ー ト 体 制 の 確 立 の

度 合 い に よ り ま す が 、 こ れ を 検 討 し た 結 果 、

例 え ば 被 害 者 に 重 篤 な う つ 状 態 や PTSD 症 状 が

持 続 す る 場 合 に は 、 中 長 期 的 に 生 活 を 分 離 す

る と い う 選 択 も あ り う る こ と を 念 頭 に 置 い て

お き ま し ょ う 。

避 難 が 想 定 さ れ る 場 合 に は 、 そ の 準 備 と し

て で き る 限 り 具 体 的 な ア ド バ イ ス を お こ な う

こ と が 望 ま し よ い で し ょ う 。 例 え ば 、 当 面 の

生 活 費 、 健 康 保 険 証 、 貯 金 通 帳 ・ カ ー ド 、 数

日 分 の 着 替 え な ど を す ぐ 持 っ て 出 ら れ る と こ

ろ に 保 管 し て お く こ と が 挙 げ ら れ ま す 。 ま た

経 済 的 に 困 窮 し て い る ケ ー ス な ど で は 福 祉 事

務 所 な ど と 連 携 を 取 っ て い く 必 要 も あ り ま す 。

暴 力 か ら の 避 難 先

緊 急 避 難 が 必 要 と な っ た 場 合 、 基 本 的 に 、

本 人 に 家 族 の 居 場 所 ( 避 難 先 ) は 教 え ず 、 一

定 の 期 間 は 連 絡 を 取 ら な い ほ う が よ い と 考 え

ら れ て い ま す 。 数 日 単 位 の 短 期 避 難 の み で 対

策 を 講 じ ず に 戻 っ た 場 合 に は 、 暴 力 が エ ス カ

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応 -2 緊急時対応における家族支援

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Page 156: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

レ ー ト す る 可 能 性 も あ る か ら で す 。

被 害 者 の 避 難 先 と し て は 、 親 戚 や 友 人 宅 、

ホ テ ル な ど が 利 用 し や す よ い で し ょ う 。 自 宅

以 外 に ア パ ー ト な ど の 生 活 場 所 を 確 保 し て 、

随 時 避 難 で き る 態 勢 を 整 え て お く と い っ た 方

法 も あ り ま す 。

ま た 、 婦 人 相 談 所 や 一 時 保 護 所 な ど の 公 的

シ ェ ル タ ー 、 民 間 シ ェ ル タ ー な ど の 利 用 も 考

慮 す る と よ い で し ょ う 。 公 的 シ ェ ル タ ー の 相

談 窓 口 は 福 祉 事 務 所 ( 夜 間 ・ 休 祭 日 で は 警

察 ) と な っ て お り 、 着 の み 着 の ま ま で 避 難 し

て き て も 保 護 が 可 能 で す 。 こ れ ら の 施 設 の 多

く は 配 偶 者 間 暴 力 の 被 害 者 と な る 女 性 を 対 象

と し て い ま す が 、 ケ ー ス の 状 況 に 柔 軟 に 対 応

す る 施 設 も ま れ で は あ り ま せ ん 。

そ の 他 、 本 人 な い し 被 害 を 受 け て い る 家 族

が 医 療 機 関 と 繋 が っ て お り 、 主 治 医 が い る 場

合 に は 、 加 害 者 ( 患 者 ) の 治 療 に 留 ま ら ず 、

被 害 者 ( 家 族 ) の 入 院 を 含 め て 対 応 し て い る

こ と も あ り ま す 。

た だ し 、 こ れ ら の 資 源 や 施 設 の 状 況 に は 地

域 差 や 施 設 間 差 が 存 在 し 、 長 期 的 な 滞 在 が 難

し い 、 公 的 サ ポ ー ト 体 制 が 確 立 さ れ に く い な

ど の 難 点 が み ら れ る と こ ろ も あ り ま す の で 援

助 者 は 利 用 方 法 な ど に つ い て 、 あ ら か じ め 調

査 し て お く 必 要 が あ る で し ょ う 。

本 人 の フ ォ ロ ー に つ い て

被 害 者 が 避 難 し た 場 合 、 と く に 本 人 が 未 成

年 の 場 合 に は 、 分 離 に 対 す る 不 安 が 起 こ る こ

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応 -2 緊急時対応における家族支援

146

Page 157: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

と が あ り ま す 。 し か し 、 家 族 の 逃 避 に よ っ て

本 人 は 確 か に 一 旦 取 り 残 さ れ た 形 に な り ま す

が 、 こ の 機 会 は 自 ら の 加 害 行 為 に つ い て 振 り

返 る 良 い チ ャ ン ス で も あ る 点 を 付 記 し ま す 。

本 人 の も と に 被 害 が 重 篤 で な い 家 族 が 残 る 場

合 に は 、 残 っ た 家 族 と 避 難 し た 家 族 が 連 絡 を

取 り 合 い 、 本 人 に そ の 状 況 を 伝 え 、 関 与 の 放

棄 で は な く 生 命 や 精 神 状 態 の 危 機 に 起 因 し た

緊 急 避 難 が 一 義 的 な 理 由 で あ る と 伝 え る こ と

は 本 人 の 分 離 不 安 を 軽 減 し 、 自 ら の 行 為 を 振

り 替 え る 方 向 性 を し ば し ば 与 え ま す 。

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応 -2 緊急時対応における家族支援

147

Page 158: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

-3 緊急時対応の法的根拠緊 急 時 の 法 理

■基 本 的 な 考 え 方

「 ひ き こ も り 」 そ の も の を 対 象 に し て 危 機

介 入 を 整 備 し た 法 律 は あ り ま せ ん が 、 法 の 一

般 原 理 と し て 緊 急 時 に 介 入 が 許 さ れ る た め の

幾 つ か の フ ァ ク タ ー が あ り ま す 。

① 緊 急 性

緊 急 行 為 と し て 本 人 の 意 思 を 無 視 し て も

介 入 が 許 さ れ る 場 合 の 「 緊 急 性 」 は 、 自 傷

や 他 害 な ど の 結 果 の 発 生 が 切 迫 し て い る 状

態 で あ る こ と 、 そ の 結 果 を 生 じ る こ と が 目

前 に 迫 っ て い る 状 態 で あ る こ と が 必 要 で す 。

② 重 大 性

重 大 性 に は 程 度 が あ り 、 生 命 や 身 体 に 対

す る 危 害 、 人 の 自 由 や 生 活 の 平 穏 に 対 す る

危 害 、 器 物 の 損 壊 ( 細 か く 言 え ば 壊 さ れ る

物 の 価 値 に も よ り ま す が ) な ど 、 そ の 程 度

は さ ま ざ ま で す 。 介 入 の 強 度 は 介 入 に よ っ

て 防 ご う と す る 結 果 の 重 大 性 の 程 度 と バ ラ

ン ス を 持 っ た も の で な け れ ば な り ま せ ん

( 比 例 原 則 ) 。

③ 明 白 性

介 入 を 行 わ な い と 一 定 の 結 果 が 生 じ る こ

と が 明 ら か で あ る こ と が 必 要 で す 。 家 族 や

関 係 か ら の 情 報 、 今 ま で の 行 動 傾 向 な ど か

ら 、 客 観 的 な 根 拠 に 基 づ い て 一 定 の 結 果 が

発 生 す る こ と が は っ き り し て い る と 言 え る

か ど う か を 検 討 し ま す 。

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応  -3 緊急時対応の法的根拠

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Page 159: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

④ 介 入 目 的 の 正 当 性

介 入 の 目 的 は ひ き こ も っ て い る 本 人 自 身

の 生 命 や 健 康 を 守 る こ と で あ る か 家 族 を 含

め た 他 人 の 生 命 や 身 体 の 安 全 、 自 由 や 平 穏

の 確 保 な ど 適 正 な も の で な け れ ば な り ま せ

ん 。 関 係 者 が 介 入 の 目 的 を 確 認 す る 必 要 が

あ り ま す 。

⑤ 介 入 手 段 の 相 当 性

a. 介 入 手 段 の 正 当 性

介 入 の 手 段 が 医 学 や 心 理 学 、 教 育 学 や

社 会 福 祉 学 な ど に よ っ て 承 認 さ れ る 手 法

で あ る こ と が 必 要 で す 。

b. 介 入 手 段 の 適 合 性

介 入 手 段 は 当 然 の こ と な が ら 発 生 し よ

う と し て い る 事 態 を 解 決 す る 効 果 を も つ

も の で な け れ ば な り ま せ ん 。 緊 急 時 の 問

題 が 起 こ る 場 合 は 、 ひ き こ も っ て い る こ

と 自 体 が 緊 急 か つ 重 大 で あ る と い う よ り

は 、 そ れ に 付 随 し て 、 重 大 な 自 傷 行 為 や

他 害 行 為 の 可 能 性 が 高 ま っ て い る と い う

こ と が 多 い と 思 わ れ ま す 。 介 入 手 段 の 適

合 性 は 、 「 ひ き こ も り 」 全 般 に 適 合 的 な

手 段 で あ る こ と を 求 め て い る の で は な く 、

発 生 し よ う と し て い る 個 別 の 緊 急 事 態 に

適 合 的 で あ る こ と が 必 要 で あ る と い う 意

味 に 理 解 す べ き で し ょ う 。

c. L R A ( less restrictive alternative )

介 入 の 目 的 を 達 成 す る た め に 、 も っ と

穏 や か な や り 方 で は そ の 目 的 が 達 成 さ れ

ず 、 こ れ 以 外 に 危 機 を 回 避 す る 方 法 が な

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応  -3 緊急時対応の法的根拠

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Page 160: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

い と い う こ と ( 介 入 手 段 の 必 要 最 低 限 度

性 ) を 十 分 に 検 討 す る 必 要 が あ り ま す 。

  以 上 の よ う な 諸 条 件 が 満 た さ れ る 場 合 に は

個 別 的 な 法 律 が な く て も 介 入 が 許 さ れ る ( 超

法 規 的 違 法 性 阻 却 ) と 考 え ら れ ま す 。 ま た 、

こ う し た フ ァ ク タ ー は 、 個 別 的 な 法 律 の 介 入

の 実 質 的 な 根 拠 に も な る も の で す か ら 、 個 別

的 な 法 律 を 運 用 す る 場 合 に も 、 形 式 的 な 条 文

だ け に と ら わ れ ず に 、 実 質 的 に 上 記 の 条 件 が

認 め ら れ る か ど う か を 検 討 す る と よ い で し ょ

う 。

■緊 急 性 の 種 類 と 程 度

  本 人 の 意 思 に 基 づ か な い 介 入 を 認 め る た め

の 「 緊 急 性 」 の 条 件 は 、 上 記 の よ う に か な り

時 間 的 に 切 迫 し た 限 定 的 な 状 態 を い い ま す 。

し か し 、 実 際 の 事 態 は 徐 々 に 事 態 が 悪 化 し 、

緊 急 度 が 高 ま っ て ゆ く も の で す 。 関 係 者 と し

て は 、 緊 急 で あ れ ば 何 で も 許 さ れ る が 、 緊 急

で な け れ ば 本 人 や 家 族 の 自 由 意 思 に 任 せ る し

か な い と い う よ う な 二 者 択 一 的 な 考 え を も つ

の で は な く 、 緊 急 性 の 高 ま り に 応 じ て 介 入 の

度 合 い を 調 整 す べ き で ( 比 例 原 則 の 考 え 方 )

最 終 的 に 本 人 の 意 思 に 基 づ か な い 介 入 が で き

る の は 究 極 の 「 緊 急 」 の 場 合 で す が 、 そ こ に

至 る ま で に 発 生 し て い る 事 態 の 程 度 に 応 じ た

働 き か け を 検 討 す べ き で す 。

■自 己 決 定 権 と 緊 急 時 の 法 理 の 関 係

 緊 急 時 の 法 理 は 、 重 大 な 事 態 の 発 生 が 目 前

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応  -3 緊急時対応の法的根拠

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Page 161: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

に 迫 っ て い る と い う 特 殊 な 場 合 に 適 用 さ れ る

法 理 で す か ら 、 ど ち ら か と い え ば 例 外 的 な 法

理 と い う こ と に な り ま す 。 そ う し た 特 殊 な 場

合 以 外 は 自 己 決 定 権 の 尊 重 が 原 則 と さ れ な け

れ ば な り ま せ ん か ら 、 本 人 の 意 思 に 反 し て 強

制 的 な こ と を す る こ と は で き ま せ ん 。

  け れ ど も 、 自 己 決 定 権 に つ い て は 、 本 人 に

十 分 な 情 報 が 与 え ら れ 、 自 分 が 置 か れ て い る

状 況 や 将 来 の 見 通 し に つ い て の 情 報 が 確 保 さ

れ て い る と い う 前 提 条 件 が 保 障 さ れ て い る こ

と が 重 要 で す 。 Aと B、 二 つ の 選 択 肢 が あ る 場

合 に 、 Aと Bは 、 そ れ ぞ れ ど の よ う な 内 容 の も

の で あ り 、 ど の よ う な 違 い が あ る の か が わ か

ら な い 状 況 で 、 闇 雲 に ど ち ら か を 選 ん で い く

と し た 場 合 、 そ の よ う な 選 択 を 権 利 と し て 保

障 さ れ た 自 己 決 定 と 呼 ぶ こ と は 適 切 で は な よ

い で し ょ う 。 自 己 決 定 権 は 、 最 終 的 な 決 定 権

が 本 人 に あ る こ と を 意 味 し て い ま す が 、 最 終

的 な 決 定 の 前 に は 十 分 な 情 報 の 収 集 と 吟 味 が

必 要 で す 。 そ し て 、 情 報 の 収 集 と 吟 味 は 、 通

常 、 さ ま ざ ま な 形 態 に よ る 人 と の コ ミ ュ ニ ケ

ー シ ョ ン に よ っ て も た ら さ れ る も の で す 。

  家 族 や 友 人 と の 交 流 、 地 域 、 そ の 他 の コ ミ

ュ ニ テ ィ へ の 社 会 参 加 が 十 分 に 果 た さ れ て い

る 場 合 、 人 は さ ま ざ ま な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン

の 機 会 に 恵 ま れ 、 自 己 決 定 の 前 提 に な る 情 報

の 収 集 や 吟 味 が 行 え る こ と に な り ま す が 、

「 ひ き こ も り 」 の た め に 、 そ の よ う な コ ミ ュ

ニ ケ ー シ ョ ン を 持 つ 機 会 を 失 い 、 情 報 の 収 集

と 吟 味 が し に く い 状 態 に な っ て い る 場 合 、 本

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応  -3 緊急時対応の法的根拠

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Page 162: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

人 の 自 己 決 定 権 を 支 え る た め に は 、 む し ろ 、

不 足 し が ち な 情 報 の 提 供 と そ の 吟 味 の 支 援 を

す る こ と が 大 切 で あ る と い え る で し ょ う 。 そ

の た め の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の き っ か け を 掴

ん だ り 、 本 人 の 気 持 ち を 尊 重 し な が ら 必 要 な

情 報 の 理 解 を 助 け る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 工

夫 が た い へ ん 重 要 な 役 割 を 果 た す こ と に な り

ま す 。

  自 己 決 定 と い う と 他 人 か ら の 一 切 の 干 渉 な

し に 自 分 だ け で 決 め る べ き こ と が 求 め ら れ る

よ う に 見 ら れ る か も し れ ま せ ん 。 し か し 、 自

己 決 定 権 の 保 障 は 、 人 の 話 を 聞 き な が ら 自 分

の 考 え を 形 成 す る 、 自 分 の 意 見 を 述 べ な が ら

相 互 に 考 え を 練 る 、 と い う 民 主 主 義 社 会 の 対

話 過 程 の 基 本 を 保 障 す る た め に 重 要 な 原 理 で

あ っ て 、 社 会 と の 関 係 を ま っ た く 度 外 視 し て

孤 立 し た 個 を 作 り 出 そ う と す る も の で は な い

は ず で す 。 こ う し た 観 点 か ら も 、 ひ き こ も っ

て い る 人 と の 対 話 の 持 ち 方 を 工 夫 し て ゆ く こ

と は た い へ ん 重 要 な こ と に な る と 思 い ま す 。

精 神 保 健 福 祉 法 に よ る 対 応

  ひ き こ も っ て い る 本 人 に 精 神 障 害 が 認 め ら

れ 、 そ の 精 神 障 害 の た め に 自 傷 あ る い は 他 害

の お そ れ を 生 じ て い る と き は 、 精 神 保 健 福 祉

法 に 基 づ く 措 置 入 院 ( 同 法 29 条 ) を 用 い る こ

と が で き ま す 。

  ま た 、 そ の 精 神 障 害 の た め に 判 断 能 力 が 低

下 し て い て 、 医 療 の 必 要 性 を 理 解 す る こ と が

で き な い 状 態 に あ り 、 適 切 な 医 療 を 施 さ な い

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応  -3 緊急時対応の法的根拠

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Page 163: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

と 本 人 の 医 療 及 び 保 護 を 図 れ な い 状 態 に あ る

場 合 は 、 医 療 保 護 入 院 ( 同 法 33 条 ) あ る い は

そ の た め の 移 送 ( 同 法 34 条 ) を お こ な う 可 能

性 も あ り ま す 。

児 童 福 祉 法 に よ る 対 応

  ひ き こ も っ て い る 本 人 が 18 歳 未 満 の 場 合 に

は 児 童 福 祉 法 に 基 づ く 要 保 護 措 置 を 用 い る こ

と も 考 え ら れ ま す ( 同 法 第 2 章 第 4 節 ) 。 本 人

が 14 歳 以 上 で 傷 害 行 為 な ど 犯 罪 行 為 を 行 っ た

場 合 に は 少 年 法 が 優 先 さ れ ま す が 、 そ れ 以 外

で 、 危 機 的 な 状 況 が 迫 っ て い て 家 族 に 監 護 さ

せ て お く の が 適 当 で な い よ う な 場 合 に は 、 福

祉 事 務 所 あ る い は 児 童 相 談 所 に 通 告 し て 所 定

の 措 置 を 促 す こ と が で き ま す 。

少 年 法 に よ る 対 応

  ひ き こ も っ て い る 本 人 が 20 歳 未 満 の 場 合 で 、

傷 害 行 為 な ど の 犯 罪 行 為 を 行 っ た 場 合 、 刑 罰

法 令 に 触 れ る 行 為 を お こ な う お そ れ ( 虞 犯 )

が 認 め ら れ る 場 合 、 保 護 者 の 正 当 な 監 督 に 服

し な い 場 合 な ど ( 同 法 3 条 ) に は 、 警 察 の 介

入 を 求 め て 少 年 法 に よ る 保 護 処 分 を 促 す こ と

が で き ま す 。

刑 法 に よ る 対 応

  児 童 福 祉 法 や 少 年 法 は 、 す で に 起 こ っ て し

ま っ た 犯 罪 行 為 な ど に 対 処 す る と い う よ り は

本 人 の 保 護 と 健 全 育 成 の た め に 、 将 来 的 な 生

活 状 況 の 改 善 を 目 指 す た め 、 自 傷 や 他 害 行 為

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応  -3 緊急時対応の法的根拠

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Page 164: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

が あ っ た こ と は 保 護 の 必 要 性 を 推 測 さ せ る 要

素 に は な り ま す が 、 保 護 的 な 措 置 の 必 須 条 件

と は さ れ て い ま せ ん 。 こ れ に 対 し て 刑 法 に よ

る 対 応 は 、 処 罰 を 目 的 と す る も の で す か ら 現

実 に 犯 罪 行 為 を 行 っ た こ と が 必 要 で す 。 け れ

ど も 、 家 族 に 対 し て で あ っ て も 人 に 危 害 を 加

え る こ と が 許 さ れ な い こ と は 、 最 低 限 の 社 会

の ル ー ル で あ り 、 第 三 者 の 介 入 に よ っ て 抜 き

差 し な ら な く な っ て い る 家 族 間 の 関 係 に 変 化

を 与 え る と と も に 、 本 人 に 一 般 社 会 の ル ー ル

を 再 認 識 し て も ら う こ と が 効 果 的 な 場 合 も あ

り ま す 。

  以 上 の よ う な 介 入 方 法 は 、 よ く も 悪 し く も

本 人 に 大 き な 衝 撃 を 与 え る で し ょ う し 、 ま た

い ず れ の 処 分 も 本 人 が 社 会 に 出 て 行 く と き に

マ イ ナ ス の ス テ ィ グ マ ( 烙 印 ) を 与 え て し ま

う 危 険 性 が あ り ま す 。 従 っ て 、 緊 急 時 の 法 理

の 基 本 的 な 考 え 方 を 踏 ま え て 介 入 の 適 否 を 慎

重 に 検 討 す る 必 要 が あ り ま す 。

-4 緊急時対応のプライヴァシー保護プ ラ イ ヴ ァ シ ー と 情 報 の 共 有

  プ ラ イ ヴ ァ シ ー 権 と は 、 自 分 に つ い て の 情

報 を コ ン ト ロ ー ル す る 権 利 と 定 義 さ れ ま す 。

「 ひ き こ も り 」 の ケ ー ス マ ネ ジ メ ン ト の た め

に は 、 さ ま ざ ま な 関 係 機 関 の 人 た ち が 情 報 を

共 有 す る 必 要 が あ る 反 面 で 、 そ の 情 報 は 人 に

知 ら れ た く な い 情 報 を 多 く 含 む と 考 え ら れ る

の で 、 本 人 や 家 族 の プ ラ イ ヴ ァ シ ー の 保 護 と

情 報 の 共 有 化 の 間 に 一 定 の ル ー ル を 設 定 し て

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応  -3 緊急時対応の法的根拠

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お く こ と が 必 要 に な り ま す 。

プ ラ イ ヴ ァ シ ー 保 護 に つ い て の 基 本 的 な 考

え 方 は 、 情 報 の 提 供 者 自 身 の 同 意 が な け れ ば

そ の 情 報 を 他 に 漏 ら す こ と は 原 則 と し て 許 さ

れ な い と い う こ と で す 。 同 意 が な く て も 情 報

の 利 用 が 許 さ れ る 場 合 と し て は 、 個 別 的 に 法

律 が 例 外 を 認 め て い る 場 合 で あ る か 緊 急 法 理

の 適 用 が 認 め ら れ る 場 合 と い う こ と に な り ま

す 。

■家 族 が 有 す る 情 報

  家 族 支 援 を 進 め て 行 く 時 に 、 当 然 、 家 族 か

ら 本 人 の 状 態 に つ い て の 情 報 が 提 供 さ れ る こ

と に な り ま す 。 し か し 、 家 族 が 独 自 に 持 っ て

い る 情 報 に つ い て は 、 そ の 情 報 を 持 っ て い る

家 族 自 身 の 承 諾 が あ れ ば 、 情 報 を え た 関 係 者

が 他 の 関 係 者 に 情 報 を 提 供 す る こ と は 許 さ れ

る こ と に な り ま す 。 家 族 が 持 っ て い る 情 報 が

本 人 に 関 す る も の で あ る と し て も 、 本 人 か ら

と く に 打 ち 明 け ら れ た 情 報 で は な く 、 家 族 が

と も に 生 活 し て い て 観 察 し た 情 報 は 家 族 自 身

の 情 報 と い え ま す か ら 、 そ の 情 報 利 用 に つ い

て は 情 報 の 所 有 者 で あ る 家 族 の 同 意 が あ れ ば

よ い と い う こ と に な り ま す 。

  家 族 が 通 常 の 生 活 状 態 の 中 で 外 に 現 れ て い

る 状 態 を 観 察 し て え た 情 報 で は な く 、 本 人 か

ら 家 族 に だ け に 打 ち 明 け ら れ た 情 報 は 、 本 人

の 同 意 を え て か ら 情 報 を 提 供 す る よ う に 指 導

す べ き で し ょ う 。

本 人 が 隠 し て い る 日 記 帳 や 引 出 し の 中 な ど

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応  -3 緊急時対応の法的根拠

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を 、 家 族 が 無 断 で 調 べ て え た 情 報 は 、 本 人 の

プ ラ イ ヴ ァ シ ー を 侵 し て え た 情 報 で す か ら 、

そ う し た 行 動 を 慎 む よ う に 指 導 す べ き で す 。

■関 係 者 が 職 務 上 知 り え た 情 報

家 族 あ る い は 本 人 か ら 職 務 上 知 り え た 情 報

に つ い て は 、 関 係 者 の 立 場 に よ っ て 医 師 法

や 公 務 員 法 に よ る 守 秘 義 務 が あ り 、 家 族 ・

本 人 の 承 諾 が な け れ ば 他 の 機 関 の 関 係 者 に

情 報 を 提 供 す る こ と は 許 さ れ ま せ ん 。

情 報 の 共 有 化 の た め に は 、 情 報 を 提 供 し た

家 族 ・ 本 人 か ら 情 報 使 用 の 目 的 と 範 囲 を 明

確 に し た 承 諾 の 書 類 を も ら っ て お く こ と が

望 ま し よ い で し ょ う 。 重 要 な こ と は 、 情 報

の 共 有 化 を 含 め た 本 人 や 家 族 と 関 係 者 の ケ

ー ス マ ネ ジ メ ン ト に お け る 信 頼 関 係 の 構 築

に あ り ま す か ら 、 最 初 か ら ま ず 書 類 を 書 い

て く だ さ い と い う 対 応 は 必 要 あ り ま せ ん が 、

重 要 な 事 柄 な の で 関 係 者 の 意 識 を 確 認 す る

た め に も 書 面 で の 確 認 作 業 を お こ な う べ き

で し ょ う 。

ネ ッ ト ワ ー ク 会 議 、 ケ ー ス カ ン フ ァ レ ン ス

な ど で 情 報 を 共 有 化 す る 場 合 、 本 人 か ら 得

た 情 報 に せ よ 、 家 族 か ら 得 た 情 報 ( 本 人 に

関 す る も の を 含 む ) 情 報 に せ よ 、 そ の 情 報

源 か ら 、 そ の 情 報 を 本 人 と 家 族 の 支 援 の た

め に ( 情 報 使 用 の 目 的 ) 、 ネ ッ ト ワ ー ク 会

議 で 共 有 化 す る こ と ( 情 報 使 用 の 範 囲 ) を

承 諾 し て も ら っ て お く べ き で し ょ う 。 家 族

が 日 常 生 活 の 中 で 本 人 の 生 活 を 観 察 し て 得

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応  -3 緊急時対応の法的根拠

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て い る 情 報 は 家 族 自 身 の 情 報 で す か ら 、 そ

の 使 用 に つ い て は 家 族 の 承 諾 で 足 り ま す 。

テ ー ブ ル の 上 に 封 か ら 出 さ れ て 置 か れ た ま

ま の 手 紙 な ど 、 日 常 生 活 上 、 普 通 に 目 に 触

れ る 範 囲 内 の 情 報 は 既 に 開 披 さ れ て い る 情

報 と い え ま す か ら 、 そ れ を 家 族 が 見 聞 し て

得 た 情 報 は 、 と く に 本 人 の 承 諾 な ど を 要 す

る プ ラ イ ヴ ァ シ ー に は 当 た り ま せ ん 。 し か

し 、 本 人 が 机 の 中 に し ま っ て お い た 手 紙 や

日 記 、 鍵 を か け て あ る 部 屋 の 中 の も の な ど

は 本 人 が 開 披 し な い 意 思 で あ る こ と を 示 し

て い る 情 報 で す か ら 、 そ の 情 報 を 本 人 の 承

諾 な し に 持 ち 出 す こ と は 許 さ れ ま せ ん 。

ま た 、 近 い 将 来 必 要 に な る 支 援 の 準 備 的 な

段 階 と し て 、 本 人 や 家 族 が 特 定 さ れ な い よ

う に 匿 名 化 し て 、 ネ ッ ト ワ ー ク 会 議 の 情 報

共 有 の 準 備 を し て お く こ と も 機 動 的 な 活 動

と プ ラ イ ヴ ァ シ ー 保 護 の バ ラ ン ス の 観 点 か

ら 有 効 な 工 夫 と い え る で し ょ う 。

緊 急 時 法 理 と プ ラ イ ヴ ァ シ ー

  緊 急 時 の 法 理 に よ っ て 介 入 が 認 め ら れ る よ

う な 場 合 に は 、 プ ラ イ ヴ ァ シ ー 権 を 制 約 す る

こ と も 違 法 と は な り ま せ ん 。 こ の 場 合 に も 、

情 報 の 内 容 や 種 類 に よ っ て 本 人 の プ ラ イ ヴ ァ

シ ー へ の か か わ り 方 に 程 度 の 差 が あ り ま す し 、

起 こ り つ つ あ る 事 態 の 緊 急 性 ・ 重 大 性 の 程 度

も 違 い が あ り ま す 。 そ の 情 報 を 開 示 す る こ と

で 損 な わ れ る 本 人 の プ ラ イ ヴ ァ シ ー と そ の 情

報 を 開 示 す る こ と で 回 避 し よ う と す る 結 果 の

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応  -3 緊急時対応の法的根拠

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重 大 性 と 緊 急 性 の 程 度 の バ ラ ン ス を 常 に 考 え

て 適 切 な 対 処 を す る 必 要 が あ り ま す 。

自 傷 行 為 や 他 害 行 為 の 可 能 性 が 明 ら か に 差

し 迫 っ て い る よ う な 状 況 で あ れ ば 、 通 常 の 場

合 で は 許 さ れ な い よ う な 本 人 の プ ラ イ ヴ ァ シ

ー に 関 わ る 情 報 を 開 示 す る こ と も 許 さ れ る で

し ょ う 。 た だ 、 こ う し た 場 合 に も 、 で き る 限

り 本 人 と の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 大 切 に し 、

本 人 か ら 承 諾 が 得 ら れ る 可 能 性 が な い の か を

検 討 す る こ と も 必 要 で す 。

  ま た 、 精 神 保 健 福 祉 法 ( 2 3 条 ) や 児 童 福

祉 法 ( 25 条 ) 、 少 年 法 ( 6 条 ) は 、 そ れ ぞ れ

保 護 を 図 ろ う と す る 対 象 者 ( 精 神 障 害 者 、 要

保 護 児 童 、 審 判 に 付 す べ き 少 年 ) に つ い て 通

報 ・ 通 告 の 制 度 を 設 け て い ま す 。 そ れ に 必 要

な 範 囲 で 情 報 を 提 供 す る こ と は 、 個 別 法 に よ

り 許 容 さ れ て い る こ と に な る の で 、 そ の 範 囲

内 で の 情 報 の 共 有 化 は 許 さ れ る こ と に な り ま

す 。

Ⅳ 具体的な援助技法-4 緊急時の対応  -3 緊急時対応の法的根拠

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5節 援助者のメンタルへルス

ま ず は 、 自 分 の メ ン タ ル ヘ ル ス に つ い て 積

極 的 に 考 え 、 そ の 建 設 的 意 味 を 発 見 し ま し

ょ う 。 メ ン タ ル ヘ ル ス の 維 持 向 上 は 心 理 的

成 長 に つ な が り ま す

個 人 的 ・ 家 族 的 ・ 社 会 的 な レ ベ ル で さ ま ざ

ま な 問 題 を 抱 え て い る 「 ひ き こ も り 」 本 人 や

家 族 と 長 年 付 き 合 っ て い く こ と は 、 非 常 に 根

気 が 要 る 仕 事 で す 。 「 ひ き こ も り 」 の 援 助 の

特 徴 と し て 、 す ぐ に 「 目 に 見 え る よ う な 変

化 」 が お き に く い た め 、 援 助 者 が 「 達 成 感 」

を 持 ち に く い と い う こ と が あ り ま す 。 ま た 、

援 助 者 一 人 で お こ な う も の で は な く 、 チ ー ム

あ る い は も っ と 広 く ネ ッ ト ワ ー ク を 利 用 し ま

す か ら 、 そ れ ら へ の き め 細 か な 配 慮 が 必 要 に

な り ま す 。 援 助 者 の も っ と も 基 本 的 な 仕 事 は

「 人 の 身 に な っ て 考 え る 」 こ と で す 。 い う の

は 簡 単 で す が 、 こ れ は 大 変 ス ト レ ス の 多 い 仕

事 で す 。 加 え て 、 援 助 者 に は 、 記 録 を つ け る

こ と 、 部 下 を 教 育 す る こ と 、 い わ ゆ る 雑 事 と

い う 管 理 的 な 業 務 、 人 に よ っ て は 研 究 と い っ

た 仕 事 が あ り ま す 。 「 紺 屋 の 白 袴 」 に な ら な

い よ う 、 援 助 者 自 身 が 自 分 の メ ン タ ル へ ル ス

の 維 持 ・ 向 上 に つ い て 留 意 し て お く 必 要 が あ

り ま す 。

援 助 者 が 、 自 分 の メ ン タ ル へ ル ス の 維 持 向

上 に 努 め る こ と は 、 た ん な る 健 康 維 持 が 目 的

で は あ り ま せ ん 。 こ の ガ イ ド ラ イ ン で 縷 々 述

べ て き た 『 「 ひ き こ も り 」 本 人 や 家 族 が 安 心

Ⅳ具体的な援助技法 -5 援助者のメンタルヘルス

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Page 170: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

し な が ら 変 化 ・ 成 長 で き る よ う な 援 助 環 境 の

提 供 と 維 持 』 に 役 立 ち ま す 。 し か し 、 そ れ だ

け な ら ば 、 一 般 的 な 労 働 衛 生 に お け る メ ン タ

ル ヘ ル ス の 目 標 と な ん ら 変 わ り ま せ ん 。 メ ン

タ ル ヘ ル ス の 専 門 家 が 自 分 の メ ン タ ル ヘ ル ス

を 考 え る と い う こ と は 、 援 助 者 自 身 が パ ー ソ

ナ ル に も 職 業 的 に も 心 理 的 成 長 を す る と い う

役 割 も 果 た し ま す 。

援 助 者 は 、 人 を 理 解 す る 多 く の 武 器 を 持 っ

て い る の で す か ら 、 ち ょ う ど 「 人 の 身 に な っ

て 考 え る 」 よ う に 、 「 自 分 を 他 者 と し て 見 る

こ と に よ っ て 他 者 ( 自 分 ) の 身 に な っ て 考 え る

こ と が で き る 」 と い う 他 の 職 業 に は な い 素 晴

ら し い 利 点 を 持 っ て い ま す 。 こ の よ う に 、 自

分 の メ ン タ ル ヘ ル ス に つ い て 配 慮 す る こ と に

建 設 的 な 意 味 を 発 見 す る こ と が 、 ま ず は も っ

と も 大 切 な 作 業 な の で す 。

ぼ ん や り と し て 自 分 を 振 り 返 り ま し ょ う

ま ず は 、 自 分 が ス ト レ ス 状 態 や そ の 結 果

( 心 身 の 調 子 の 変 化 ) に 気 付 く こ と が 大 切 で

す 。 ス ト レ ス 状 態 に は 、 不 安 、 緊 張 、 不 快 、

怒 り な ど が 伴 い ま す 。 つ ぎ に は 、 そ れ ら を 解

消 す る た め に 、 自 分 が ど ん な 手 段 を 意 識 的 に

と っ て い る か を 考 え て み ま し ょ う 。 意 識 的 に

と い っ て も 、 は っ き り と 意 識 し て や っ て い る

場 合 か ら 、 な ん と な く と っ て い る 場 合 ま で あ

り ま す 。 「 厭 な こ と を 忘 れ よ う 」 「 出 来 な い

こ と は 人 の せ い に す る 」 「 ひ と り で あ れ こ れ

空 想 す る 」 「 多 忙 の た め 余 裕 が な く 気 付 か な

Ⅳ具体的な援助技法 -5 援助者のメンタルヘルス

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Page 171: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

い 」 と い っ た こ と も 対 処 行 動 の ひ と つ で す 。

自 分 の メ ン タ ル ヘ ル ス に つ い て 考 え る こ と は

建 設 的 で あ る と い う こ と を 思 い 出 し て 、 1 日

1 回 、 短 時 間 で も 自 分 を ぼ ん や り と 振 り 返 る

時 間 を 作 り ま し ょ う 。

対 処 行 動 が 多 種 多 様 で あ り 柔 軟 性 が あ る 場

合 は う ま く い っ て い る と い っ て よ い で し ょ う

反 対 に 、 対 処 行 動 の 種 類 が ひ ど く 少 な く な っ

て い る 場 合 ( た と え ば 、 ひ た す ら 「 忘 れ よ う

と す る だ け に な っ て い る 」 ) 場 合 は 、 誰 か 信

頼 で き る 人 に 相 談 し ま し ょ う 。

「 ひ き こ も り 」 や 援 助 技 法 に 関 連 す る 事 柄

に つ い て 知 る こ と が 大 切 で す          

当 た り 前 の こ と の よ う で す が 、 「 ひ き こ も

り 」 の 特 徴 に つ い て 、 援 助 者 が 学 習 す る こ と

は 、 専 門 的 な 技 量 を 磨 く だ け で な く 、 自 分 の

メ ン タ ル ヘ ル ス の 維 持 向 上 に も 役 立 ち ま す 。

こ の ガ イ ド ラ イ ン で 強 調 し て き た 「 家 族 援

助 」 と か 「 ま ず は で き る と こ ろ か ら 始 め る 」

と い う こ と を 知 っ て い る の と そ う で は な い 場

合 で は 、 援 助 者 の ス ト レ ス 状 態 は 大 い に 違 い

ま す 。 「 ひ き こ も り 」 の 援 助 に 際 し て は 、 と

り わ け 「 で き る こ と と 出 来 な い こ と 」 を 知 る

こ と が 大 切 で し ょ う 。 最 初 か ら 、 大 き な 目 標

を 立 て る と 、 そ れ は 援 助 者 に と っ て 大 変 な 苦

痛 に な り ま す 。

「 ひ と と の 交 流 を 始 め た か と 思 う と ま た ひ

き こ も る 」 「 ア ル バ イ ト を 始 め た か と 思 う と

短 期 間 で 止 め て し ま う 」 あ る い は 「 も う 相 談

Ⅳ具体的な援助技法 -5 援助者のメンタルヘルス

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Page 172: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

に こ な い と い う 主 張 が 実 は 前 向 き の こ と を 考

え て い る サ イ ン で あ る 」 「 援 助 的 か か わ り か

ら ひ き こ も っ て い な が ら 実 は 保 護 や 支 え を 求

め て い る 」 な ど と い っ た 「 ひ き こ も り 」 の 特

徴 を 知 っ て い る と 、 ず い ぶ ん 援 助 者 の 不 安 は

減 少 し ま す 。

具 体 的 に は 、 「 ひ き こ も り 」 に 関 す る 本 を

読 む 、 セ ミ ナ ー に 参 加 す る 、 自 分 の 所 属 す る

施 設 で ケ ー ス カ ン フ ァ レ ン ス を 開 く 、 な ど と

い う 学 習 の 機 会 を 持 つ こ と が 大 切 で す 。

人 や 家 族 に 対 し て 援 助 者 が 経 験 す る 感 情 の

価 値 を 知 り 、 援 助 に つ な げ ま し ょ う

援 助 の 中 で 、 援 助 者 は 本 人 や 家 族 に つ い て

い ろ い ろ な 感 情 を 経 験 し ま す 。 本 人 に 肩 入 れ

す る あ ま り 親 に 批 判 的 に な っ た り 、 親 へ の 共

感 か ら 本 人 に 厳 し く な っ た り 、 あ る い は 本 人

と 親 の 板 ば さ み で 身 動 き が 取 れ な く な っ た り

す る 場 合 が あ る で し ょ う 。 会 う た び に 不 快 感

や 苛 立 ち が 募 っ た り す る こ と も あ り ま す 。 家

族 か ら ち っ と も 問 題 が 解 決 し な い と 言 わ れ つ

づ け 混 乱 し た り 、 い っ き に け り を つ け よ う と

思 う こ と も あ り ま す 。 本 人 や 家 族 の 孤 立 感 に

共 感 す る あ ま り 、 あ れ こ れ 過 剰 に 世 話 を 焼 い

て し ま い 、 「 ひ き こ も り 」 を 強 化 し て し ま う

こ と も あ り ま す 。

■逆 転 移 の 価 値 を 知 る こ と

こ う し た 援 助 者 の 情 緒 反 応 の こ と を 逆 転 移

と い い ま す 。 逆 転 移 は 、 一 見 す る と 援 助 過 程

Ⅳ具体的な援助技法 -5 援助者のメンタルヘルス

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Page 173: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

の 妨 害 要 因 の よ う に み え る の で 、 援 助 者 は つ

い 自 分 を 責 め た り 、 あ る い は 同 僚 が そ う い う

状 態 に 陥 っ て い る と 批 難 し た く な り ま す が 、

そ う で は あ り ま せ ん 。 逆 転 移 は 、 援 助 者 が

「 一 時 的 に 相 手 の 身 に な る 、 つ ま り 自 分 と 相

手 を 同 一 化 す る 」 こ と か ら お き ま す か ら 、 逆

転 移 感 情 は 、 本 人 や 親 の 心 の 一 部 分 な の で す

つ ま り 、 援 助 者 が 経 験 す る 感 情 を 、 逆 転 移 と

し て 理 解 す る こ と は 、 そ れ だ け 本 人 や 家 族 を

理 解 で き た こ と に な り ま す 。 た と え ば 、 つ い

つ い 厳 し く な っ て い る 場 合 に は 、 本 人 の 心 の

中 に , 見 か け と は 違 い 非 常 に 厳 し い 倫 理 的 側

面 が あ る こ と を 意 味 し ま す 。 過 剰 に や さ し く

な る こ と は 、 本 人 の 心 の 中 に あ る 激 し さ を 援

助 者 が 感 じ 取 り 、 そ れ に 脅 え た 結 果 か も し れ

ま せ ん し 、 本 人 の 無 力 感 へ の 同 情 の 結 果 の 場

合 も あ り ま す 。 本 人 と 家 族 の 板 ば さ み に な る

と い う こ と は 、 そ の 家 族 の 中 で 「 板 ば さ み 状

況 」 が 続 い て い た こ と の 現 れ の 場 合 も あ り ま

す 。

援 助 者 が 経 験 す る 逆 転 移 に は 、 援 助 者 の 生

活 上 の 出 来 事 が 関 係 し て い る こ と も あ り ま す

援 助 者 の 生 活 に も よ い こ と も 悪 い こ と も お き

ま す 。 援 助 者 の 家 族 の 病 気 、 死 、 事 故 、 子 ど

も の 進 学 な ど さ ま ざ ま で す 。 ま た 、 ラ イ フ サ

イ ク ル 上 の 変 化 も あ り ま す 。 若 い 援 助 者 は 、

「 ひ き こ も り 」 本 人 に 共 感 し 親 に 批 判 的 に な

る か も し れ ま せ ん 。 3 0 歳 代 に な る と 援 助 者

と し て の 自 信 が 出 来 て き て い ろ い ろ 試 し た く

な り か え っ て 軋 轢 を お こ す か も し れ ま せ ん 。

Ⅳ具体的な援助技法 -5 援助者のメンタルヘルス

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Page 174: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

中 高 年 の 場 合 は 、 余 裕 が 出 来 て き ま す が 、 親

に 共 感 し 、 自 分 の 子 ど も と 「 ひ き こ も り 」 本

人 と を 同 一 視 し 、 不 安 に か ら れ る か も し れ ま

せ ん 。

特 殊 な ケ ー ス と し て 、 逆 転 移 が 、 援 助 者 と

援 助 者 が 勤 務 す る 施 設 と の 関 係 に 刺 激 さ れ て

起 き て く る こ と が あ り ま す 。 援 助 者 が 施 設 に

対 し 情 緒 的 葛 藤 を 抱 え て い る と き 、 家 族 や 本

人 と の 援 助 関 係 に 逃 げ 込 ん で し ま い 、 な ん で

も 一 人 で や っ て し ま お う と い う 気 持 に な る 場

合 が あ り ま す 。 反 対 に 、 援 助 に つ い て 投 げ や

り に な る こ と も あ り ま す 。

■逆 転 移 を い か に 活 用 す る か

で は 、 逆 転 移 に 気 付 き 、 そ れ を 活 用 す る に

は ど う し ら よ い の で し ょ う か 。 3 つ の 方 法 が

あ り ま す 。 第 1 は 先 述 し た 「 ひ と り で ぼ ん や

り と し な が ら 振 り 返 る こ と 」 、 第 2 も 先 に 述

べ た 「 学 習 す る こ と 」 で す 。 第 3 の 方 法 に つ

い て は 次 に 述 べ ま す 。 ( 注 : 第 4 と し て 、 援

助 者 自 身 が 、 病 気 を 治 す 目 的 で は な く 、 自 分

の 心 理 的 成 長 の た め に 何 ら か の 精 神 ・ 心 理 療

法 ( 個 人 精 神 分 析 的 心 理 療 法 、 家 族 療 法 、 ト

レ ー ニ ン グ と し て の 集 団 療 法 な ど ) を 受 け る

と い う 方 法 が あ り ま す 。 こ れ は 、 大 変 効 果 的

な 方 法 で す が 、 費 用 や 時 間 、 文 化 的 違 い か ら

わ が 国 で は 特 定 の 分 野 の 専 門 家 を 目 指 す 人 が

そ れ ぞ れ に 応 じ た 特 定 の 心 理 療 法 を 受 け る と

い う 状 況 な の で 、 本 ガ イ ド ラ イ ン で の 説 明 は

省 き ま す )

Ⅳ具体的な援助技法 -5 援助者のメンタルヘルス

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Page 175: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

援 助 者 も 支 え を 体 験 す る こ と が 必 要 で す

■同 僚 ・ 仲 間 に よ る 支 え

人 間 は 社 会 的 存 在 で あ る と い わ れ ま す が 、

援 助 者 が た っ た 一 人 で 行 え て い る 援 助 活 動 は

ま っ た く あ り ま せ ん 。 す べ て の 援 助 活 動 は 集

団 の 中 で 行 わ れ て い ま す 。 施 設 に 勤 務 す る 人

は 受 け 付 け や 事 務 の 人 も 含 め 皆 同 僚 な の で す

し た が っ て 、 援 助 者 は 自 分 の お こ な っ て い る

援 助 活 動 を 同 僚 と 共 有 し 、 そ れ に つ い て 同 僚

か ら 理 解 さ れ 情 緒 的 に 支 え ら れ る 必 要 が あ る

の で す 。 た と え ば 、 逆 転 移 と い う 理 解 が 共 有

さ れ て い な い と 、 援 助 者 は 同 僚 か ら 「 あ の 人

は 冷 た い 人 だ 、 我 慢 の な い 人 だ 、 お 節 介 だ 」

と し か み な さ れ な よ い で し ょ う 。 「 ご く ご く

小 さ な で き る と こ ろ か ら 始 め る 」 と い う 考 え

が 浸 透 し て い な い と 、 援 助 者 は 「 歯 を 磨 け る

か ど う か と い っ た ど う で も よ い こ と に こ だ わ

っ て い る 、 ち ゃ ん と し た 援 助 を す べ き だ 」 と

い っ た 批 難 を 受 け る で し ょ う 。

こ の よ う に 援 助 者 が 支 え を 体 験 す る 具 体 的

方 法 が ケ ー ス カ ン フ ァ レ ン ス 、 コ ン サ ル テ ー

シ ョ ン 、 ス ー パ ー ビ ジ ョ ン な ど で す 。

■ケ ー ス カ ン フ ァ レ ン ス に よ る 支 え

ケ ー ス カ ン フ ァ レ ン ス は 、 事 例 の 見 立 て や

援 助 経 過 の 評 価 の た め に 行 わ れ ま す が 、 も う

ひ と つ 大 事 な 目 的 は 事 例 発 表 者 を 援 助 し 、 支

え る こ と で す 。 で す か ら 、 ケ ー ス カ ン フ ァ レ

ン ス で は 、 不 十 分 な 点 や 盲 点 を 明 ら か に し い

Ⅳ具体的な援助技法 -5 援助者のメンタルヘルス

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Page 176: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

ろ い ろ 異 な っ た 視 点 か ら 議 論 す る こ と は も ち

ろ ん 大 切 な の で す が 、 ま ず な に よ り も 参 加 者

が 「 発 表 者 の 労 を ね ぎ ら う こ と 」 が 大 切 で す

発 表 者 の 労 を ね ぎ ら い 、 盲 点 を 明 確 に し つ つ

も そ れ を 肯 定 的 に と ら え 返 し な が ら 意 見 を 述

べ る 、 と い う の は そ れ 自 体 が 重 要 な 技 術 と 考

え ま し ょ う 。 経 験 と 工 夫 が 必 要 で す が 、 ま ず

は そ の よ う な 意 識 を も つ こ と が 始 ま り で す 。

■コ ン サ ル テ ー シ ョ ン と ス ー パ ー ビ ジ ョ ン に

よ る 支 え

コ ン サ ル テ ー シ ョ ン と ス ー パ ー ビ ジ ョ ン は 、

か な り 似 通 っ た 方 法 で す が 、 前 者 に お い て 相

談 す る 者 と さ れ る 者 が 対 等 の 関 係 で あ り 、 相

談 さ れ る 側 が 抱 え て い る 問 題 解 決 を 援 助 す る

の が 目 的 な の に 対 し 、 後 者 は 経 験 の あ る 者 と

経 験 の 少 な い 者 と い う 上 下 関 係 が あ り 、 教 育

が 目 的 で あ る と い う 点 で 異 な っ て い ま す 。 こ

の 二 つ と も 継 続 的 あ る い は 定 期 的 な 場 合 と 不

定 期 な い し は 1 回 だ け の 場 合 が あ り ま す 。 ま

た コ ン サ ル タ ン ト ( あ る い は ス ー パ ー バ イ ザ

ー ) が 一 人 で 相 談 す る 側 ( コ ン サ ル テ ィ ー あ

る い は ス ー パ ー バ イ ジ ー と い い ま す ) が 複 数

と い う こ と も あ り ま す 。 典 型 的 な の は 、 定 期

的 な 1 対 1 の ス ー パ ー ビ ジ ョ ン で す 。 相 談 す

る 側 は 、 じ っ く り と 話 を 聞 い て も ら い 、 「 共

に 考 え る 」 と い う 体 験 を 持 て ま す 。 と り わ け

逆 転 移 感 情 は ケ ー ス カ ン フ ァ レ ン ス の よ う な

集 団 の 中 で は 話 し づ ら い も の で す が 、 1 対 1

の ス ー パ ー ビ ジ ョ ン な ら ば ず っ と 打 ち 明 け や

す く な り ま す 。 し か も 、 継 続 的 で す か ら 、 情

Ⅳ具体的な援助技法 -5 援助者のメンタルヘルス

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Page 177: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

緒 的 な 支 え が 安 定 し た も の に な り ま す 。

援 助 機 関 の 中 で 、 こ れ ら を 実 行 す る に は 時

間 と 労 力 が 必 要 で す が 、 ぜ ひ 実 行 し た い も の

で す 。

援 助 過 程 の 中 で 達 成 感 や 充 足 体 験 を も ち ま

し ょ う                          

上 に 述 べ た よ う に 、 「 ひ き こ も り 」 の 援 助

で は 達 成 感 を も ち に く く 、 し た が っ て 職 業 上

の 充 足 感 を 持 つ の が 困 難 で す 。 し か し 、 達 成

感 や 充 足 感 な し に 、 援 助 活 動 を 続 け て い る と

「 燃 え 尽 き 症 候 群 」 に 陥 っ て し ま い ま す 。 で

は 、 本 当 に 援 助 者 は 達 成 感 を も て な い の か と

い う と そ う で は あ り ま せ ん 。 ち ょ っ と 視 点 を

変 換 し て み ま し ょ う 。 小 さ な 変 化 が い か に 大

き な 意 味 を も つ か 、 小 さ な 改 善 が い か に 大 き

な 改 善 の 序 章 に な っ て い る か が み え て き ま す

本 人 や 家 族 が 後 戻 り し た か に 見 え て も 、 目 標

を 一 度 で も 達 成 し た と い う 体 験 は 継 続 し て い

ま す 。 援 助 過 程 は 進 展 し て お り 落 胆 す る 必 要

は な い の で す 。

こ の ガ イ ド ラ イ ン で 述 べ て い る 「 小 さ な 目

標 」 、 そ れ を 達 成 す る た め の さ ま ざ ま な 援 助

技 法 を 考 慮 す れ ば 、 援 助 者 は 達 成 感 を も ち や

す く な り ま す 。 そ の 意 味 で 、 ガ イ ド ラ イ ン は

援 助 者 の メ ン タ ル ヘ ル ス の た め に 書 か れ て い

る と も い え る の で す 。

Ⅳ具体的な援助技法 -5 援助者のメンタルヘルス

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付 録

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Page 179: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

「社会的ひきこもり」に関する相談・援助状況実態調査報告(ガイドライン公開版)

伊藤順一郎 1、吉田光爾 1、小林清香 2、野口博文 1、堀内健太郎 1、田村理奈 1、金井麻子 1

国立精神・神経センター 精神保健研究所 社会復帰相談部 1 東京女子医科大学 2

要旨

近年、通学・就労といった社会参加や対人的な交流を行わずに自宅を中心とした生活おくる

ひきこもりとよばれる状態を呈する人々に関する社会的関心が高まっている。

そこで本研究では①公的機関における援助の中心となっていると考えられる全国の保健所・

精神保健福祉センターにおける現在の相談・支援状況を把握するとともに、②支援した事例に

関する情報を収集しその特徴を把握することで、今後のひきこもり支援のあり方を考えるう

えで必要となる基礎資料を作成することを目的とした。調査の対象は全国の保健所・精神保健

福祉センターで平成 15年 3 月に実施された。回答率は保健所 94.7%、精神保健福祉センター100%であった。

平成 14年 1 月から 12 月間の全国の保健所・精神保健福祉センターにおけるひきこもりに

関する相談は、電話相談 9986件(延べ)、来所相談で 4083件(実数)であり、あわせて

14069件であった(新規・継続問わない)。ひきこもりに関する支援について「家族の個別

来所相談」「本人の個別来所相談」「電話相談」などは両機関においてほとんどの箇所で実施

されていた(総計で各 84.4%、96.5%、90.2%)。

また、援助場面への本人の登場が少ないひきこもり支援の糸口として重要なだけでなく、家

族自身の精神的健康を保持するために必要であると言われる家族支援については、「家族だけ

の相談には応じていない」とする機関は少なく、また精神保健福祉センターでは機関主体の家

族教室(62.3%)・家族主体の家族相談会(24.6%)を積極的に開催・支援していた。特に精神

保健福祉センターでは保健所に比べ事例が集積していること、サービス内容も比較的多彩であ

ることなどから、今後支援の中核となることが期待される。

ひきこもりを呈している本人については、平成 14年 1 月から 12 月までの間に保健所・精

神保健福祉センターに本人・家族が来所相談にきたひきこもりを呈する事例のうち、3293件(総来所相談の 80.7%)について情報を得た。平均年齢は 26.7歳、男女比は男性 76.9%、女性 23.1%であった。本人の問題行為について、近隣への迷惑行為などを含む対他的な問題

行為を呈する事例は少ないものの(4.0%)、家庭内暴力の存在するもの(19.8%)、器物破

損や家族の拒否など家庭関係に影響を与える行為のある事例は多く( 40.4%)、家族関係の

調整・支援についての必要性が示唆された。また、全事例のうち小・中学校における不登校経

験者は 33.5%であり、不登校とひきこもりとの関連を今後検討していく必要が示された。

全事例のうち調査時点で援助が終了しているのは 16.0%、援助が継続されているのは

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56.9%、中断・音信不通が 24.1%であり、援助に長期的な関わりが必要であることが示され

ると同時に、中断事例がかなり存在することが明らかになった。なお、援助終了時点ないし

現在継続中の場合の調査時点で就学・就労が確認されたのは全事例のうち 6.3%(206事例)

であり、就学・就労などの再社会参加への支援体制をどのように充実させていくかが今後の重

要な検討課題であると考えられた。今回得られた結果は、今後のひきこもり支援に関しての

あり方を考える上で基礎的な資料となると考えられる。

A.調査目的

 近年、通学、就労といった社会参加や対

人的な交流を行わずに自宅を中心とした生

活おくる社会的ひきこもりとよばれる状

態を呈する人々に関する社会的関心が高ま

っている。全国の精神保健福祉センター・

保健所を対象にした調査 1)では、83.4%の機関が精神病ではないひきこもりの事例

を経験しており、また6割の機関がそう

した事例の増加を感じているという状況

が明らかになった。

こうした社会的関心をうけ、平成 13年5月には厚生労働省から「10代・20代を中心とした「社会的ひきこもり」をめぐ

る地域精神保健活動のガイドライン(暫定

版)」2)が発行され、保健所・精神保健福

祉センターなどにおける援助活動の指針

が呈示されるなど、ひきこもりを巡る研

究や支援体制の整備が社会的にとりくまれ

つつある。

しかし、社会的認知が高まってから一定

期間を経た現在、保健所・精神保健福祉セ

ンターにおける相談状況や、それに対す

る支援体制についての詳細な調査は行われ

ておらず、支援整備の展開状況が明らかに

なっていない。

 また保健所・精神保健福祉センターなど

で支援を提供した事例について集積的に情

報収集をした研究は、センターの新規事例

を検討した別所らの報告 3)をのぞき無く、

実際にこうした機関から提供された支援内

容、その後の転帰などについては十分に

明らかになっていないのが現状である。

 そこで本研究では、①保健所・精神保健

福祉センターにおける現在の相談・支援状

況を把握するとともに、②支援した事例に

関する情報を収集しその特徴を把握するこ

とで、今後のひきこもり支援のあり方を

考えるうえで必要となる基礎資料を作成す

ることを目的とした。

B.対象

1.援助機関調査

 平成 15年 3月時点で把握された精神保

健福祉センター 61ヶ所(指定都市 12、都道府県 49)、保健所 582ヶ所を調査対象

とした。

2.ひきこもり事例に関する調査

 平成 14年 1月 1日から 12月 31日まで

の間に、保健所・精神保健福祉センターに

おいて、本人またはその家族が来所相談

(二回以上とする)をした者のうち、以下

の「社会的ひきこもり」の基準にあては

まる事例全てを調査対象とした。なお、事

例の把握について新規・継続は問わなかっ

た。

170

Page 181: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

<本研究における「社会的ひきこもり」の

基準>

① 自宅を中心とした生活

② 就学・就労といった社会参加活動がで

きない・していないもの

③ 以上の状態が 6ヶ月以上続いている

ただし、

④ 統合失調症などの精神病圏の疾患、ま

たは中等度以上の精神遅滞( IQ55-50)をもつ者は除く

⑤ 就学・就労はしていなくても、家族以

外の他者(友人など)と親密な人間関

係が維持されている者は除く。

C.方法

 全国の保健所・精神保健福祉センターを

対象に、二部構成の質問紙を作成し、郵送

した。第一部は期間におけるひきこもり

の相談数や施設での援助状況について尋ね

た「援助機関調査」調査票である。

 第二部はひきこもり事例の年齢・性別な

どの基礎属性や、提供された援助・転機な

どを尋ねた「ひきこもり事例に関する調

査」調査票(以下個票)である。

 配票・回収は厚生労働省精神保健福祉課

から各都道府県・政令指定都市・中核市・

その他保健所設置市・特別区における精神

保健福祉主管課を通じ実施された。

事例の情報は援助機関職員が機関記録よ

り抽出したが、抽出された記録は全て ID番号で管理し、個人が同定されない配慮し

た。

D.結果

1.回収状況

本調査では、精神保健福祉センター 61

ヶ所(回収率 100%)、保健所 551ヶ所

(同 94.7%)の回収があった。また、こ

れらに加えて、保健所支所(53ヶ所)と、

実質的に相談業務を担当している保健セン

ターで振り替えて回答したもの(29ヶ

所)などがあった。本調査ではこれらを

便宜的に保健所の枠内で集計した(保健所

総計 633ヶ所)。

2)ひきこもり事例調査全国での保健所・精神保健福祉センター

への来所相談は 4083件(実数)が報告さ

れた。そのうち個票が回収されたのは

3293件(80.7%)であった。なお、精神

保健福祉センター・保健所における重複事

例が存在すると考えられたが、収集され

た情報は限定的であるため、これらの峻

別は不可能と判断した。

 

2.援助機関調査についての結果

1)事例数

全国の保健所・精神保健福祉センターに

おける精神保健福祉相談(電話・来所)と、

ひきこもりに関する相談(電話・来所)の

都道府県別の集計を表 1に示す。全国でひ

きこもりに関する相談は、電話相談で

9986 件(延べ)、来所相談で 4083 件(実数)であり、あわせて 14069件であった。

保健所・精神保健福祉センターにおける

精神保健福祉に関する相談のうち、ひきこ

もりに関する相談の割合は、保健所で電話

相談 1.2%・来所相談 1.7%であり、政令指定都市の精神保健福祉センターで電話相

談 3.7%・来所相談 15.1%、都道府県精神保健福祉センターで電話相談 2.4%、来所

相談 8.2%であった。

171

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またひきこもりに関する相談のうち、

精神保健福祉センターで担当した相談は、

電話相談のうち 35.9%(3581件)、来所

相談のうち 41.7%(1700件)を占めて

いた。

都道府県別にひきこもりに関する総相談

件数を見ると、比較的政令指定都市のある

自治体で相談が多いことがわかる(図1)。

なお、各都道府県の人口 10万人対の相談比率を計算すると、大都市を有する自治体

にひきこもり事例が多い、という傾向は

見られなかった。(図2)

 1機関あたりの平均事例数は、保健所で

は平均 4.0事例(SD=6.3、最頻値 0.0、中央値 2.0)、精神保健福祉センターでは

29.8事例(SD=29.8、最頻度 20.0、中央値 24.0)であった。分布を図3・4に

示した。

2)提供している支援

 保健所・精神保健福祉センターで提供し

ている支援を機関種別に表2に示す。

 「家族の個別来所相談」「本人の個別来

所相談」「電話相談」などは両機関におい

てほぼすべての機関で実施されていた。

 保健所・精神保健福祉センター別にみる

と、保健所では「医師による訪問」

( 29.1%)や「専門職による訪問」

(58.5%)など、アウトリーチサービス

を実施している機関の割合が多かった。

 また数は少ないものの「他障害と合同の

デイケア活動」(17.9%)や「家族教

室・心理教育」(12.2%)など、精神障

害などの既存サービスを転用した支援も行

われていた。

他方、精神保健福祉センターでは「ひき

こ も り 専 門 の デ イ ケ ア 活 動 」

(23.0%)、「家族教室・心理教育」

(68.9%)などが保健所と比べて多く実

施されていた。また「講演会の開催」

(63.9%)や「研修事業」(45.9%)、

「広報類の作成」(36.1%)など、地域住民や専門職に向けての情報発信をしている機

関が多かった。また「本人への薬物療法」

(41.0%)をしている機関も多かった。

 しかし、どちらの機関においても、

「ボランティアによる訪問」(保健所

1.1%、センター 3.3%(以後断りのない

場合は同順で記述)や、職親や職域の開拓

事業などによる「就 労の組織的支援」

(1.1%、6.6%)、サポート校との連携な

どによる「進路相談・進学の組織的支援」

(0.8%、1.6%)などを実施している機

関は少なかった。

 また、ひきこもり援助に関して、ガイ

ドライン発行後何らかの研修を受けたス

タッフがいる機関は、保健所で 41.9%、精神保健福祉センターで 67.2%であった。(表3)

3)個別の支援事業の概要

本人・家族の個別相談の体制について訪

ねた結果を表4に示す。多くの機関が「既

存の窓口」で対応をしており(保健所:

94.6%、 精神 保健 福祉 センター :

82.0%)、また「専用の窓口」で対応し

ている機関も精神保健福祉センターで

11.5%存在した。「本人が来所すれば相

談に応じるが、家族だけの相談には応じ

ていない」とする機関は保健所で 10ヶ所

(1.6%)、精神保健福祉センターで3ヶ

所(4.9%)存在した。

172

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本人向けのデイケアについては平均で

月 4.0回、一回につき 2.9時間、4.9人の参加があった。(表5)

 家族向けの会や教室の実施状況について

表6に示す。「家族主体の相談会の支援」

が保健所 3.8%・精神保健福祉センター24.6%、「機関主体の家族教室」が各

9.5%・62.3%、「機関主体の講演会」が

各 6.5%・21.3%、「特になし」が各

78.4%・23.0%であった。主として精神保健福祉センターを中心に家族会・家族教

室が支援されたり、実施されたりしてい

た。

 なお「家族主体の相談会」「機関主体の

家族教室」の頻度は平均でそれぞれ年

10.0回、年 7.7回であった。 電話相談については、専用の電話相談窓

口を設けている機関は少なく(保健所1ヶ

所、センター3ヶ所)、多くの機関が既存

の窓口で対応するか、窓口はないが相談が

あれば対応するという回答であった。

(表7)

4)ひきこもり事例の分担・振り分け

 ひきこもり事例における児童相談所や教

育機関との分担について、条件を提示し、

その場合の分担・振り分け状況について尋

ねた。その結果を表8に示す。

保健所ではいずれの条件でも「個別のケ

ースで判断」という回答が一貫して目立ち、

ひきこもり事例を自機関で対応すること

については事例のもつ性格によって判断

するという状況がうかがえる。

他方、精神保健福祉センターでは「本人

が義務教育年齢であり、いわゆる「不登

校」の状態」の場合には、他機関への振り

分ける(37.7%)、という回答が目立つ

が、一貫して他の条件では自機関で対応す

るという回答が多かった。

保健所・精神保健福祉センターいずれも、

「本人が義務教育年齢であり、いわゆる

「不登校」の状態」という条件の場合、

「 他 の 資 源 に 振 り 分 け る 」 ( 各

35.7%、37.7%)という回答が他の条件

に比べて多い。その場合の振り分け先は保

健所で「児童相談所」(56.6%)「公立の

教育相談機関」(61.3%)であり、精神保健福 祉 セ ン タ ー で 「 児 童 相 談 所 」

( 73.9%)「公立の教育相談機関」

(60.9%)であった(表9)。

しかし、本人の年齢によって業務分担し

ている場合において、本人が加齢してい

く際の援助を継続している体制について

の問では、「援助を継続させる体制はほぼ

できている」という回答はいずれの機関

も低く(各 9.3%・8.1%)、「不十分」

「全くできていない」という回答が目立

った。(表 10)

5)支援の拡大

 平成 13年5月に本研究班が「10代・20代を中心とした「社会的ひきこもり」をめぐる地域精神保健活動のガイドライ

ン(暫定版)」を発行してから、保健所・精神保健福祉センターで新たに構築・充実さ

せた支援について尋ねた(表 11)。

 保健所では新たに構築させたものの中

で回答が多い順に、「家族の個別来所相

談」(16.4%)、「本人の個別来所相談」

(10.9%)、「他資源との連携による支

援」(9.8%)、「家族教室・心理教育」

(8.4%)、「講演会開催」(8.1%)、専

173

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門職訪問(6.0%)であった。精神保健福

祉センターでは多い順に「家族の個別来所

相談」(27.9%)、「家族教室・心理教

育 」 ( 27.9% ) 、 「 講 演 会 開 催 」

(27.9%)、「本人の個 別 来所相談」

(24.6%)、「他資源との連携による支

援」(24.6%)、であった。

 今後新しく実施する予定の対応や活動に

ついては、保健所では「講演会開催」

(8.9% )、「家族教室・家族心理教育」(7.9%)とする回答が多く、精神保健福

祉 セ ン タ ー で は 「 デ イ ケ ア 活 動 」

( 17.0% ) 、 「 広 報 類 作 成 」

(17.0%)、「家族教室・心理教育」

(14.9%)が多かった(表 12)。

6)援助上の困難感と今後の展望

 ひきこもりへの支援について、どの程

度困難があるかについて尋ねた(表

13)。

 保健所では「困難なく対応できる」が

0.9%、「やや困難」が 29.1%、「かなり困難」が 67.8%、「全く対応できない」

が 1.1%であった。 たいして精神保健福祉センターでは「困

難なく対応できる」が 3.3%、「やや困難」が 59.0%、「かなり困難」が37.1%、「全く対応できない」が 0.0%であった。

 今後、機関としてひきこもり支援につ

いて必要だと考える取り組みについて尋

ねた結果を表 14に示す。 保健所では多い順に「他の専門機関の拡

充」(85.3%)「回復後につながること

のできる居場所や就 労の場の確保」

(73.6%)「自機関の援助職への知識・

支援技術の提供」(65.7%)「自機関の治

療相談体制の充実」(50.1%)「地域への情報提供・広報活動」(46.9%)「ひきこ

もり支援の業務上の明確化」(39.8%)

であった。

一方精神保健福祉センターでは「回復後

につながることのできる居場所や就労の

場の確保」(85.2%)「他の専門機関の拡

充」(80.3%)「自機関の治療相談体制の

充実」(63.9%)「自機関の援助職への

知識・支援技術の提供」(42.6%)「地域

への情報提供・広報活動」( 41.0%)

「ひきこもり支援の業務上の明 確 化」

(32.8%)であった。

 両者を比較した場合、保健所で多い回答

は「自機関の援助職への知識・支援技術の

提供」であり、精神保健福祉センターでは

「自機関の自機関の治療相談体制の充実」

であった。

3.「ひきこもり事例に関する調査」

1)相談事例の年齢分布・性別

 相談事例における、ひきこもりを呈し

ている本人の性別は男性 76.4%、女性22.9%であった(表 15)。また、平均年

齢は 26.7±8.2才であった。年齢の内訳を

表 16に示す。10代後半から 20代が中心だが、30歳を超えても大きく減じてはお

らず、36歳以上の人も 1割近くを占めた。

 不登校を含めた最初の問題発生時の年齢

は、平均で 20.4歳(±7.5)であり、主と

して 19~24歳が多かった。18歳までに問題が発現した事例は 46.8%であった(表 17)。

現在の年齢と問題発生時年齢の差をとっ

て経 過年数とすると、平均で 4.3 年(±2.3)であった。半数は 5年未満だが、

174

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最初の問題発生からかなりの時間が経過し

ている割合も多く 10年以上の事例も 2割近く(760件)みられた(表 18)。

2)来談経路

 来所相談の経路を表 19に示す。ひきこもりの相談は家族からのものが最も多く

(合計 72.2%)、本人からの相談は少な

い(6.6%)。また学校や福祉事務所など

他の機関からの紹介による事例も 19.0%存在する。

 初回の相談については 直接来談

52.4%、電話相談 42.1%であった。

3)援助開始時の本人の活動範囲

 事例の援助開始時点の活動範囲について

表 20に示す。「友人とのつきあい・地域への活動には参加」9.2%、「外出可

能 」 40.8% 、 「 条 件 付 外 出 可

能」20.9%、「外出不可能で家庭内では

自由」17.0%、「自室で閉じこもっている」9.7%であった。

4)ひきこもりに関連した問題行動

 対象者への関与中に存在した事例の問題

行動をたずねた(表 21)。家庭内暴力に

ついては、何らかの暴力が存在している

相談事例は全体の 19.8%、本人から親への暴力が存在している事例が 17.9%あった。また家族関係に直接影響を与える行為

としては、器物破損が 15.1%、家族への拒否が 21.4%、家族への支配的な言動が

15.7%見られ、これら3つのいずれかが存在している事例は 40.4%であった。 近隣への迷惑行為なども含む対他的な問

題行為は、事例の 4.0%に問題が見られた。

 自傷・自殺に関する行為で、自傷行為が

2.1%、自殺企図が 3.2%に見られた。 また、強迫的な行為(17.9%)・被害

的 な 言 動 ( 14.5 % ) ・ 食 行 動 異 常

(7.6%)などの精神症状的な見地からの

検討も考えられる問題も見られた。その

他には昼夜逆転が 41.1%と多かった。

なお、男女別にみると、男性では「家庭

内暴力」「器物破損」が多く、女性では

「食行動異常」が多かった。

5)本人の精神医学的診断の既往歴

 本人の精神医学的診断の既往歴について

尋ねた結果を表 22に示す。結果、「診断

無し」という回答が 46.6%と最も多く、

「不明」という回答も 15.8%で多かった。

診断が把握された中では、強迫性障害や

PTSDなどを定義に含んだ「神経症性・ス

トレス関連障害」(16.6%)が最も多く、

ついで「その他」(6.8%)、「人格障害」

(5.6%)、「感情障害」(4.6%)が多かっ

た。重複診断をのぞいて何らかの診断の既

往歴がある事例は 1174事例(35.7%)

であった。なお本研究ではひきこもり事

例の定義上の問題から統合失調症は除外し

ている。

6)本人の不登校経験

「小学校」「中学校」「高等学校」「短

期大学・大学」それぞれにおける本人の不

登校経験を尋ねた(表 23)。なお、高等

学校・大学などについては、「不登校」と

いう概念は本来的にはそぐわないが、本

研究では便宜的に使用することとした。

 それによると不登校経験有の事例は、事

例全 数に対して、「小学校」 11.4%、「 中 学 校 」 31.6% 、 「 高 等 学

175

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校」33.0%、「短期大学・大学」12.3%の割合で認められた

また、得られた回答をもとに集計した

ところ、「小・中学校いずれかでの不登校

経験」は全事例に対して 33.5%で認めら

れ、「小・中・高・短大・大学いずれかで

の不登校経験」では 61.4%で見られた。 ただし、本調査項目については教育機関

の段階があがるほど欠損値が増えている

上での結果であることに注意されたい。

7)本人の就労・アルバイト経験

 本人の就労・アルバイト経験について

は、「経験あり」が 53.1%、「経験な

し」が 40.3%であった(表 24)。なお不

登校経験と就労・アルバイト経験の関連を

みると、「小中学校でのいずれかの不登校

経験あり」群では就労経験のあるものが

33.2%、「不登校経験なし群」では就労

経験のあるものが 65.6%であった(表

25)。

8)提供された支援

 提供された支援で多いものは「家族への

個別来所相談」(79.5%)、「家族向けの家族教室・心理教育」(29.9%)、「本人へ

の個別来所相談」(28.5%)、「電話相

談」(24.0%)などであった(表 26)。

本人を対象とした面接以外の支援の実施率

は、ひきこもり専門のデイケア(7.8%)、他障害と合同のデイケア(3.8%)、就

労 ・ 進 学 の 組 織 的 支 援 ( 各

1.7%、0.5%)など低かった。

また、機関調査と比較した場合、機関と

して取り組んではいるものの、個別の事

例での実施率が低い支援項目も「家庭訪

問」や「他の資源との連携による支援」な

どで見られた。機関調査回答では「医師訪

問」が 55.4%、「その他専門職訪問」では 18.1%に対して、個票では「専門職訪

問」がされている事例は 18.1%である。また、他資源との連携による支援は、機関

調査回答では 51.6%であったが、個票回

答では 20.7%であった。

9)連携先機関

 ひきこもり支援に関して連携した専門機

関を尋ねた。結果を表 27に示す。最も多

い回答は「該当なし」(43.0%)で担当

機関単独で支援している事例が半数近くで

あった。次いで「精神科医療機関」

(26.9%)「精神保健福祉センター」

(10.8%)などであった。

  「 精 神 障 害 者 小 規 模 作 業 所 」

(1.6%)、「地域生活支援センター」

(0.9%)、「職親登録事業所」(0.3%)

など、従来の精神障害者向け機関・サービ

スなどとの連携率は低かった。

10)家庭内暴力がある場合の避難の有無

 家族間に何らかの家庭内暴力がある場合、

家庭外への避難があるかどうかについて

尋ねた(表 28)。その結果、「家族の避

難あり」が 31.2%、「本人の避難あり」

が 1.6%、「非難はない」が 51.3%であり、家庭内暴力の存在する事例のうち、暴

力からの避難が3割近く存在することが

わかった。

 避難者が家族の場合の続柄では、「母

親」が 50.2%、「父親」が 12.4%、「両親」が 11.2%であった(表 29)。 家族の避難先では「その他」が

176

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45.1%、「親類・知人宅」38.2%、「女性センターなどシェルター」は 3.4%であった(表 30)。

11)対象者の現在の状態

 対象者の平成 15年 3月現在での援助状

況について表 31に示す。現在の援助状況

については「援助継続中」が 56.9%、「中断・音信不通」が 24.1%、「援助終了」が 16.0%であった。 援助が終了している場合の本人の状況を

複数回答で尋ねた(表 32)。終了した事

例のうちで回答が多かったのは「改善は

特に見られないまま終了」(25.9%)、

「ひきこもってはいるが困難間・不安感

が減少した」(16.3%)、「家庭関係の

改善」(14.2%)であった。ひきこもっ

ている状態像そのものの変化と関連して

いる状況については、「非常勤・アルバ

イトの終了」が 8.1%、「教育機関への就

学」が 5.3%、「常勤の就労」が 1.3%、「その他の社会的活動への参加」が 6.1%であった。

 援助が継続している場合の現在の活動範

囲を表 33に示す。「就学・就労はしてい

るが援助継続中」が 6.9%、「友人とのつきあい・地域への活動には参加」が

13.4%、「外出可能」41.1%、「条件付外出可能」16.3%、「外出不可能で家庭内

では自由」13.0%、「自室で閉じこもっている」6.1%であった。 なお、援助終了時もしくは援助継続中の

場合平成 15年 3月に就学・就労が調査項

目の回答上から確認されたのは 206事例(全事例中の 6.3%)であった(表 34)。

12)支援提供の様式

 なお、支援内容の項目から、支援提供が

誰に対して行われているか、という支援

提供の様式を「家族のみ」「本人と家族」

「本人のみ」「その他の類型」に分類した

集 計を表 に示す。「家族のみ」が

59.8%、「本人と家族」が 25.1%、「本人のみ」が 9.0%、「その他の類型」が

6.1%であった(表 35)

E.考察

1.相談件数について

平成 13年度における倉本の調査 1)では、

実数・延べ数が区別されていないものの、

精神病でないひきこもりの相談は、電話相

談 2464件、来所相談 3759件であった。集計方法が異なるため、安易に比較をして

断ずることはできないが、今回の調査で

はいずれの数字も上回っていることから

(電話相談(延べ)9986件、来所相談

(実数)4083件)ひきこもりに関する相

談が近年増加している様子がうかがえる。

また、精神保健福祉センターでは精神保

健福祉相談の内のひきこもり相談の割合が

保健所と比して高いこと、ひきこもりの

全事例のうち精神保健福祉センターでうけ

る割合が多いことなどから、精神保健福祉

センターが現在ひきこもり援助において

中核的な役割を果たしていることが推測

された。

政令指定都市を有する都道府県ではひき

こもりの相談が多く見られたが、このこ

とはこれらの自治体に人口が多く、また

援助の中核となる精神保健福祉センターの

施設数が多いことが影響しているものと

思われる。各都道府県の人口比で除すと、

177

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この傾向はなくなることから、「都市圏

にひきこもりが多く生じる」とは、安易

にはいえないように思われる。

各保健所・精神保健福祉センターにおけ

るひきこもり来所相談の数については、

1つの保健所での事例数は多くないこと

がわかった(平均 4.0事例(SD=6.3)、

最頻値 0.0、中央値 2.0)。しかしこれを

して実際に地域にひきこもり事例が少な

い、と結論づけることは避けたい。なぜ

ならば住民が保健所をひきこもりに関し

て相談しうる機関として認知していない

可能性や、精神科医療機関など他の援助資

源にアクセスしている可能性もあるから

である。しかし現時点で1保健所あたり

の事例数が多くないという事実は、本人・

家族の来所相談や電話相談といった従来援

助以外の新規サービスを組織化・展開でき

ない状態の原因のひとつになっているか

もしれない。

一方精神保健福祉センターでは、機関ご

とに事例数のかなりのばらつきが存在す

る。キャッチメントエリア内の人口の多

寡も影響していると思われるが、センタ

ーは基本的には県庁所在地・政令指定都市

などの大都市に位置することから、ひき

こもり事例への対応のあり方にセンター

間で地域差があることを示していると思

われる。今後こうした地域格差をどのよ

うに解決していくかが課題となるであろ

う。

2.提供されている支援について

1)支援の開始について

 相談・支援を開始するにあたり、開始時

に本人が登場する割合は 218 事例

(6.6%)と極めて少なかった。外出や対

人接触に恐怖感・不安感をもつことが中核

的な問題であるひきこもり事例にとって、

本人自らが援助機関に接触することの難し

さを表している。

逆に、このことは本人の登場しないま

までも、家族を相談の主体とした相談を始

めることが、問題解決の糸口を掴むうえ

で重要であることを示している。特に精

神科を含め医療機関は、保健診療上の枠組

みや本人の受診を条件としたこれまでの

医療モデルが前提にあるため、本人不在の

まま援助活動を開始しにくい面もあると

思われる。保健所・精神保健福祉センター

などで、「家族のみの相談には応じてい

ない」と回答した機関は少なく、これら

公的機関で家族を主体とした相談に積極的

に門戸を開くことは、今後のひきこもり

支援の上で「家族支援」というモデルを提

示する意味でも望ましいと考えられる。

また実際に関与中に本人の個別来所相談

を提供したとする事例は 28.5%であった。本人の来所相談が継続して行われているか

どうかは本調査からは不明であるが、相

談を継続する中で本人との接触を持ちうる

ことを示している。また来談の経路の中

で学校や警察・福祉事務所など他機関から

の紹介による事例は全体の 2割近く存在し、

少なくない。本人・家族が何らかの機関に

アクセスした際に、保健所・精神保健福祉

センターなど適切な援助機関につながる

ことができるように、機関間の連絡・連携

をしておく重要であることを示唆してい

る。

なお、事例の半数が電話相談によって開

始されていたことや、機関でひきこもり

178

Page 189: mhlw · Web viewたとえば、一緒にゲームをする、ペットがいたらそれにふれる、散歩をする、一緒に喫茶店に行く、などです。「本人がやってみたい何かを手伝う訪問」になると、訪問の幅も広がります。選択肢として「一緒に相談機関まできてみる」という

専用の窓口が設置されることは少なかっ

たことを考慮すると、一般の電話相談に関

与する援助職がそのことを意識化し、ひ

きこもり事例に対応しうる電話相談体制を

準備しておくことが重要であると思われ

る。

2)提供されている支援の内容

 上述したようにひきこもり事例では開

始時に本人が不在であることが多く、家族

相談から解決の糸口をさぐる必要がある。

また、家族を本人と相談機関をつなぐ役割

としてとらえるだけでなく、ひきこもり

事例の家族では家族機能の健康度および精

神的健康度の低下が見られることから 4)、

家族を主体にした相談・援助を開始すると

いう枠組みで臨むことが望ましい。この

点については、ほとんどの機関について

家族の個別来所相談を実施しており(保健

所 97.0%、センター 98.4%)、また「家

族だけの相談に応じていない」とする機

関は少なかった(保健所 1.6%、センター5.0%)ことから、多くの機関で「家族主体

の相談」という枠組みがとられてきてい

ると考えられる。

 また、家族支援に関しては、家族教室・

心理教育を実施している機関は少なくなく

(保健所 18.0%、センター 60.7%)、今

後実施を予定している機関も多かった(保

健所 9.9%、センター 28.8%)ことから、

統合失調症などの既存の支援で培われた家

族支援の技術を応用していくことが期待さ

れる。

 本人向けの支援については、「ひきこ

もり専門のデイケア」などの取り組みを

実施している精神保健福祉センターは少な

くない(23.0%)が、保健所で実施して

いる機関は乏しかった(1.1%)。しかし

保健所については 1機関における事例数

が乏しい機関が多いことから、そのよう

な機関にひきこもり専門のデイケア活動

の組織化を望むのは困難であることも予

想される。逆に「他障害と合同のデイケ

ア・グループ活動」の実施度は比較的して

多いことから(18.0%)、他障害のデイ

ケア・デイサービスや思春期対策など他

の既存事業を積極的に活用していくことも

今後の検討課題であるだろう。

また不登校経験者が多いこと、就労経験

者が少ないことを考慮すると、就学・就労

についての支援はひきこもりという状態

からの回復の上で重要であると考えられ

る。しかし、現在これらについて組織的

な支援は十分に行われてはいない。ハロ

ーワークや若者向けの就労支援事業など他

の資源・事業とより積極的に連携を結ぶこ

とや、ひきこもっている本人に対する就

労・就学を支援するNPOなどを積極的に助成・育成していくことなどが今後重要性

を増していくと考えられる。

なお、個別の支援の中で連係している資

源として「精神障害者小規模作業所」「地

域生活支援センター」など従来の精神障害

者向けサービスの連係は極めて少ないこ

とも明らかになった。これらの従来の精

神障害向けのサービス・制度を就労や社会

参加のうえで、活用・応用していくこと

について今後さらに検討が必要であろう。

3)機関間の連携について

本調査では小・中学校いずれかにおける

不登校経験者は、ひきこもり来所相談事例

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の 33.5%であった。倉本らの調査(2001)1)でも 40.7%に不登校経験があ

るといわれており、逆に不登校経験者の

うち 5年後で「就学就労をしていないも

の」は 23%であったという森田らの報告4)もあり、不登校とひきこもりに関しては

関連があると思われる。こうした義務教

育年齢における不登校事例への対応につい

て、保健所・センターでは、児童相談所・

公立の教育相談機関などに振り分けるとい

う回答が多くあげられている。しかし、

加齢における事例のひきつぎについては

十分ではないという意識が保健所・セン

ターには存在することが明らかになった。

今後、不登校からひきこもりへの遷延化防

止という点において、不登校事例の予後や、

児童相談所や教育相談機関との連携につい

て検討していくことも課題であろう。

 

4)ひきこもり本人の生活状況

 現在の年齢については、20代を中心としながらもかなり多様な年齢層を含んで

いる。注目すべきは 35歳を超えるものも少なくない点である。またひきこもりの

継続期間とまでは言えないが、最初の問題

発生から 10年が経過している事例も少な

くなく、現在のひきこもり事例が長期化

した場合、こうした壮年期の事例数も増加

していくことが懸念される。年齢が高く

なると通常の就学・就労といった社会参加

上の困難が多くなることが予想されるこ

とから、今後壮年期以降のひきこもり対策

について検討していく必要もあるだろう。

 本人の活動範囲については、「自室で閉

じこもっている」という状態を呈する者

も少なくはない。しかし外出可能で地域

の活動への社会参加もあるものや、家庭内

では自由であるなど、一概に「ひきこも

り」といってもその活動範囲は様々であ

ることが明らかになった。本人の活動範

囲に留意し、提供可能な支援や利用可能な

資源を検討していくことが望ましい。

 ひきこもり状況下でさまざまな問題行

動が生じることはこれまでにも報告され

ている 1) 3) 5) 6)。本研究のひきこもり事例

においては、家族外に対する対他的な問題

行動を呈するものは多くないながらも、

およそ 2割で家庭内暴力の問題が存在し、

4割で家族関係に直接影響を与える問題

(器物破損や家族への支配的言動など)が

見られた。小林ら 5)の調査では、本人が家

族を拒否していたり、支配的な言動がある

など家族関係に緊張のある場合、家族機能

や精神的健康度が低いことが示唆されてい

る。これらから、家族関係に問題が生じや

すいひきこもり事例では、暴力に対する

緊急時対応も含め、家族関係を調整するた

めの適切なサポートが必要であることが

再確認された。また、家庭内暴力が存在す

る事例について確認されただけでも3割

の家族について避難が生じており、その

避難者の半数は母親であったが、女性セン

ター等シェルターの使用はきわめて少な

かった。アクセス可能な範囲にそうした

公的資源が存在するかどうか、といった

問題もあるが、今後DVに対応する女性センターなどへのひきこもり事例の緊急的

な受け入れが検討課題になると思われる。

強迫的な行為、被害的な言動、食行動異

常など、精神症状としての把握が検討され

る行為も、事例のうち少なくない割合で見

られた。診断についても、神経症圏や感情

180

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障害を中心として 35.6%の事例に何らかの既往歴があった。別所ら 3)の報告では、

調査項目に本研究では存在しない「統合失

調症」の項目が存在するものの、32.8%の事例に精神医学的診断がついており本研

究の結果に類似している。強迫行為などの

問題が例えば強迫性障害といった明確な精

神障害としてとらえうるものかどうか、

あるいは、精神症状的な問題や報告された

診断の障害がひきこもる前からの一次的

なものなのか/ひきこもることによって生じた二次的なものかについてはさらに詳

細な情報収集が必要であり本研究では明ら

かにできない。しかし、いずれにせよ、

こうした問題や診断の存在は、精神医学的

な対応が様々な援助活動の一環として検討

される一群が存在することを示唆するも

のである。

5)本人の転帰について

平成 14 年1月から 12 月までに保健

所・精神保健福祉センターで支援したひき

こもり事例のうち、援助を終了した者は

16.0%(528 事例)で、56.9%(1875事例)は援助継続中であり、長期的な関わ

りを必要としていることが明らかになっ

た。また、現在「中断・音信不通」の事例

は 24.1%(792事例)と、援助を終了し

たものを上回っていること、また終了し

た場合においても「改善は特に見られな

いまま終了」したものが 27.7%(137事例)存在することなどから、継続的に支援

することの難しさが浮き彫りになった。

中断した事例の中断理由などは本調査から

は明らかではないが、長期的な関わりを

必要とし明確な変化の見えにくいひきこ

もり事例において、相談者の援助継続のた

めのモチベーションを維持することや、

支援者のバーンアウトなどの問題に今後留

意が必要かもしれない。

また、終了した場合においても就学・就

労といった形での終了は少なく、援助終了

時または調査時点で就学・就労が確認され

たのは全体の 6.3%にとどまった。ひきこもり支援における支援目標は就学・就労と

いった形での変化が目標ではないとして

も、ひきこもりからの回復について重要

な視点であることにかわりはなく、就

労・就学支援についての援助モデルの呈示

が今後重要な検討課題であると思われる。

6)精神保健福祉センター・保健所の役割

 精神保健福祉センター・保健所では、多

くの機関でひきこもり事例への対応を何

らかの枠組みで行っていた。また多くの

機関で家族相談を実施していた。既に述べ

たように、医療機関においては、家族の

みの相談が多いひきこもり支援に乗り出

しにくい現状もあると思われる。家族が

身近に相談しうる援助機関としての保健

所・精神保健福祉センターへの期待は大き

いといえよう。

 また、精神保健福祉センターでは、保健

所と比べて提供しているサービスの種

類・関与している事例は明らかに多い。機

関としての人員や予算の問題のみならず、

事例数が多いことはデイケアや家族教室

など組織化された支援も構築しやすく様々

なサービスを展開しやすい面もあると思

われる。こうした点で、精神保健福祉セン

ターはひきこもり支援の上で各都道府県に

おける中核的な位置をしめているといえ、

181

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期待は大きい。また今回の調査では、研修

事業・講演会・広報類の作成を行っている

センターも少なくないことがわかった。

先駆的に開発された援助モデル・援助技術

を研修事業などで保健所など他資源などへ

広めていくことや、地域住民へのひきこ

もり支援に関する情報発信をすることな

ど、各都道府県におけるひきこもり支援

についての情報を集約し、発信する役割を

になうことも必要であると考えられる。

 一方保健所は、地域における第一線の身

近な相談機関としてその役割は大きい。ま

た保健所は精神保健福祉センターと比較し

て、専門職による訪問活動が活発である。

訪問活動によるサービスの提供の有効性は

下時点では明らかではなく今後の検討が必

要であるが、支援上のニーズを自ら来談し

て表明することの難しいひきこもりの本

人にとって、保健師など専門職による訪問

による相談・サービスの提供は大きな可能

性をもつものであるといえるだろう。た

だし、保健所の「支援技術の提供」へのニ

ーズは高いことから、これらの支援活動

をバックアップする面でも精神保健福祉

センターなどによる研修事業の実施が必要

であろう。

7)地域資源の開発について しかし、ひきこもり事例に関しての対

応についての困難感は保健所・精神保健福

祉センター両者ともに決して少なくない。

また「回復後につながる場の確保」「他の

専門機関の充実」といった、自機関ではな

い他資源へのニーズは多い。フリースペ

ースの開設や就学・就労支援などのひきこ

もり支援を行っているNPO法人や自助集

団を財政面でも補助しながら育成してい

くことが重要であると思われる。

また、精神保健福祉センターが中核的な

役割を担うことが期待されるとはいって

も、各都道府県に 1ヶ所の設置が基本であ

るセンターへのアクセシビリティは地域

住民にとって必ずしもよいものではなく、

実際の利用には問題がある場合も多いと思

われる。本人向けの宿泊施設を併設するよ

うな民間施設への助成なども考えうるで

あろう。ただし、これらの助成・育成を

行うためには、第三者的な視点による適正

な事業評価活動なども今後必要になってく

ると考えられる。また、訪問活動につい

ても今後メンタルフレンドやボランティ

アの育成など、訪問活動をサポートする

ような事業の展開が検討されるかもしれ

ない。

 なお、これらの支援体制の整備ととも

に、機関で行われている援助や他資源の情

報について、地域の家族や本人が知り、活

用できるように、インターネットや広

報・パンフレットなどによって情報発信

していく事業の推進も重要であろう。

F.総括通学・就労といった社会参加や対人的な

交流を行わずに自宅を中心とした生活おく

るひきこもりとよばれる状態を呈する

人々に関する社会的関心が高まっている。

 本研究では①全国の保健所・精神保健福

祉センターにおける現在の相談・支援状況

を把握し、②支援した事例に関する情報を

収集し、ひきこもり支援のあり方を考え

るうえで必要となる基礎資料を作成する

ことを目的とした。

182

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 平成 14年 1月から 12月間の全国の保

健所・精神保健福祉センターにおけるひき

こもりに関する相談は、電話相談 9986件9986 件(延べ)、来所相談で 4083 件(実数)であり、あわせて 14069件であった。ひきこもりに関する支援について

「家族の個別来所相談」「本人の個別来所

相談」「電話相談」などは両機関において

ほとんどの箇所で実施されていた。

また、本人が援助場面の登場することが

少ないひきこもり支援の糸口として重要

なだけでなく、家族の精神的健康を保持す

るために必要であると言われている家族

支援については、「家族だけの相談には応

じていない」とする機関は少なく、また

精神保健福祉センターでは機関主体の家族

教室・家族主体の家族相談会を積極的に開

催・支援していた。特に精神保健福祉セン

ターでは保健所に比較して事例が集積して

いること、サービスの内容も比較的多彩で

あることなどから、今後の支援の中核と

なることが期待される。

 ひきこもりを呈している本人について

は平均年齢は 26.7 歳、男女比は男性

76.9%、女性 23.1%であった。本人の問題行為について、近隣への迷惑行為などを

含む対他的な問題行為を呈する事例は少な

いものの、家庭内暴力の存在するもの、器

物破損や家族の拒否など家庭関係に影響を

与える行為のある事例は多く、家族関係の

調整・支援についての必要性が示唆された。

また、全事例のうち小・中学校における不

登校経験者は 33.5%であり、不登校とひ

きこもりとの関連を今後検討していく必

要が示された。

全事例のうち調査時点で援助が終了して

いるのは 16.0%、援助が継続されている

のは 56.9%、中断・音信不通が 24.1%であり、援助に長期的な関わりが必要である

ことが示されると同時に、中断事例がか

なり存在することが明らかになった。

なお、援助終了時ないし現在継続中の場

合の調査時点で就学・就労が確認された割

合は少なく、就学・就労などの再社会参加

への支援体制をどのように充実させてい

くかが今後の課題であると考えられた。

本研究は「こころの健康科学研究事業:地域精

神保健活動における介入のあり方に関する研究

(H12-こころ-001)の一環として行われた。調査

にご協力頂いた方々、および保健所・精神保健福

祉センターの皆さまに深く感謝いたします。

文献

1)倉本英彦:ひきこもりの現状と展望,こころの臨床アラカルト 20(2):231-235,2001

2)障害保健福祉総合研究事業 地域精神保

健活動における介入のあり方に関する研

究(H-12-障害-008):10代 20代を中心とした「社会的ひきこもり」をめぐる

地域精神保健活動のガイドライン(暫定

版),20013)別所晶子ら:「ひきこもり」について

の相談状況調査報告書,20014)森田洋司ら:不登校に関する実態調査,

平成 5 年度不 登 校生徒 追 跡調査報告

書,20015)小林清香ら:「社会的ひきこもり」を抱

える家族に関する実態調査 ,精神医学

45(7):749-756,2003

183

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6)斎藤環:社会的ひきこもり-終わらな

い思春期,PHP新書,1998

184

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表1 都道府県における精神保健福祉相談・ひきこもり相談 (施設別)

総計 保健所 政令指定都市精神保健福祉センター

都道府県精神保健福祉センター

精神保健福祉相談

ひきこもり相談

精神保健福祉相談

ひきこもり相談

精神保健福祉相談

ひきこもり相談

精神保健福祉相談

ひきこもり相談

電話 来所 電話 来所 電話 来所 電話 来所 電話 来所 電話 来所 電話 来所 電話 来所

北海道 24140 5481 535 278 17568 4671 308 147 3504 367 155 82 3068 443 72 49青森県 4000 794 58 31 2063 592 33 22 1937 202 25 9岩手県 2470 639 59 26 1312 436 18 7 1158 203 41 19宮城県 14180 3473 53 99 6797 2842 53 59 3264 401 . 35 4119 230 416 5秋田県 2506 456 64 20 1649 415 21 18 857 41 43 2山形県 5613 646 76 34 4235 503 67 32 1378 143 9 2福島県 4056 1160 64 52 3358 1060 31 28 698 100 33 24茨城県 9136 2088 31 30 5965 1402 20 14 3171 686 11 16栃木県 6334 1327 97 45 5361 1089 47 25 973 238 50 20群馬県 7081 2085 102 43 4025 1874 35 23 3056 211 67 20埼玉県 32411 6165 544 141 25866 5706 393 95 6545 459 151 46千葉県 22111 2888 172 66 12893 2420 157 52 646 240 15 14 8572 228 . .東京都 115485 20606 1217 464 88626 19309 867 315 26859 1297 350 149神奈川県 74846 16869 1092 356 68238 16614 702 227 3474 160 236 83 3134 95 154 46新潟県 11658 2335 111 51 10728 2162 62 27 930 173 49 24富山県 8103 1556 222 111 6772 1097 155 44 1331 459 67 67石川県 6582 1144 122 59 3602 765 35 24 2980 379 87 35福井県 5254 1372 134 84 4390 979 104 28 864 393 30 56山梨県 5837 918 87 26 3513 735 21 6 2324 183 66 20長野県 5801 1427 187 61 4855 1427 117 29 946. 70 32岐阜県 4671 1142 44 41 2331 1010 8 6 2340 132 36 35静岡県 12532 2899 126 101 8315 2611 98 50 4217 288 28 51愛知県 28461 11354 211 126 25102 10839 119 66 1665 273 44 25 1694 242 48 35三重県 8335 1422 86 24 4752 716 61 21 3583 706 25 3滋賀県 8084 1366 210 73 6868 1209 210 73 1216 157 . .京都府 14281 4821 284 105 10225 4518 129 63 3076 145 120 20 980 158 35 22大阪府 29141 13744 593 266 29141 13744 471 163 . . . . 3710 553 122 103兵庫県 28283 8280 262 127 24944 8050 211 77 1310 26 14 4 2029 204 37 46奈良県 1354 1116 111 45 547 1079 38 24 807 37 73 21和歌山県 5260 2181 31 15 4714 2134 24 12 546 47 7 3鳥取県 2820 520 97 52 2165 170 52 27 655 350 45 25島根県 4538 1422 21 13 3948 1261 16 8 590 161 5 5岡山県 11163 3096 309 67 10829 2373 305 42 334 723 4 25広島県 18238 5218 313 165 15328 4477 156 70 1738 220 64 34 1172 521 93 61山口県 9328 1443 183 58 8353 1260 159 28 975 183 24 30徳島県 4731 997 110 74 3897 740 77 36 834 257 33 38香川県 5020 3025 52 21 3540 570 52 21 1480 2455 . .愛媛県 7038 2056 34 40 5320 1033 34 38 1718 1023 . 2高知県 4439 928 273 72 3239 780 233 57 1200 148 40 15福岡県 39343 9906 578 182 35032 9358 380 134 2401 312 119 26 1910 236 79 22佐賀県 4542 978 89 25 3523 604 67 12 1019 374 22 13長崎県 6298 1216 90 38 5694 1133 88 38 604 83 2 0熊本県 11388 1965 152 99 7686 1503 15 12 3702 462 137 87大分県 8911 2062 126 66 7705 1771 48 20 1206 291 78 46宮崎県 5258 1076 69 37 2981 791 46 24 2277 285 23 13鹿児島県 8658 2327 65 40 7086 1949 41 20 1572 378 24 20沖縄県 3433 1120 24 34 2865 964 21 19 568 156 3 15

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合計 66686216166

2 9986 408352794

614274

5 6405 2383 21078 2144 767 32311783

8 16773 2814 1377※電話は延べ、来所相談は実数。

図1 各都道府県に お け る ひ き こ も り

に 関す る 総相談件数

                         図2 各都道府県に お け る

  ひ き こ も り に 関す る 総相談件

数 (対10 万人)

  40件以上  35-40件未満  30-35件未満  25-30件未満  20-25件未満  15-20件未満  10-15件未満  5-10件未満  5件未満

  400件以上  350-400未満  300-350未満  350-300未満  200-250未満  150-200未満  100-150未満  50-100未満  50未満

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188

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表2 機関と し て ひ き こ も り 支援に 関し て 行っ て い る 取り 組み

  全体 保健所

精神保健福祉センタ

(n=694) (n=633) (n=61)

n (%) N (%) n (%)

本人個 別 来所談 586 (84.4) 527 (83.3) 59 (96.7)

家族個 別 来所相談 670 (96.5) 610 (96.4) 60 (98.4)

本人薬物療法 29 ( 4.2) 4 (0.6) 25 (41.0)

医師による訪問 189 (27.2) 184 (29.1) 5 ( 8.2)

他の専門職による訪問 382 (55.0) 370 (58.5) 12 (19.7)

ボランテ ィア訪問 9 ( 1.3) 7 ( 1.1) 2 ( 3.3)

ひきこもり専門のデイケア活動 21 ( 3.0) 7 ( 1.1) 14 (23.0)

他障 害と合同のデイケア活動 123 (17.7) 113 (17.9) 10 (16.4)

就 労の組織的支援 11 ( 1.6) 7 ( 1.1) 4 ( 6.6)

進路相談・進学の組織的支援 6 ( 0.9) 5 ( 0.8) 1 ( 1.6)

家族教室・心理教育 119 (17.1) 77 (12.2) 42 (68.9)

他資源との連携による支援 356 (51.3) 319 (50.4) 37 (60.7)

電話相談 626 (90.2) 567 (89.6) 59 (96.7)

インターネット相談 19 ( 2.7) 14 ( 2.2) 5 ( 8.2)

講演会開催 152 (21.9) 113 (17.9) 39 (63.9)

広報類作成 79 (11.4) 57 ( 9.0) 22 (36.1)

研修事業 53 ( 7.6) 25 ( 3.9) 28 (45.9)

その他 48 ( 6.9) 36 ( 5.7) 12 (19.7)

あてはまるものはない 6 ( 0.9) 6 ( 0.9) 0 ( 0.0)

欠損値  4 ( 0.6)  4 ( 0.6) 0 ( 0.0)

( 複 数 回 答 )

表3 ガ イ ド ラ イ ン 後ひ き こ も り に 関す る 研修を 受け た ス

タ ッ フ の 有無

  全体 保健所 精神保健福祉センタ

189

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(n=694) (n=633) (n=61)

n (%) N (%) n (%)

何らかの研修に参加したスタッ

フがいる 306 (44.1) 265 (41.9) 41 (67.2)

研修には参加したスタッフはい

ない 370 (53.3) 352 (55.6) 18 (29.5)

欠損値 18 (  2.6) 16 (  2.5) 2 (  3.3)

表4 本人・家族へ の 個別相談の 体制

  全体 保健所 精神保健福祉センター

(n=694) (n=633) (n=61)

n (%) N (%) n (%)

専用窓口にて対応 19 ( 2.7) 12 ( 1.9) 7 (11.5)

既存の窓口にて対応 649 (93.5) 599 (94.6) 50 (82.0)

本人来所前 提・家族のみ相

談無し 13 ( 1.9) 10 ( 1.6) 3 ( 4.9)

欠損値 13 ( 1.9) 12 ( 1.9) 1 ( 1.6)

表5 本人向け の ひ き こ も り 専門デ イ ケ ア の 概況

平均 最小 - 最大 最頻値 ( 回答数 )

月あたりの平均回数

( n=21 )

4.0 回 1-13 1   ( 7)

一回の平均時間( n=21 ) 2.9 時間 1-6 2  ( 14 )

一回の平均参加人数

( n=21 )

4.9 人 1-10 4   ( 9)

表6 家族向け の 会・教室の 実施状況

  全体 保健所 精神保健福祉センター

(n=694) (n=633) (n=61)

n (%) N (%) n (%)

家族主体の相談会の支援 39 ( 5.6) 24 ( 3.8) 15 (24.6)

機関主体の家族教室 98 (14.1) 60 ( 9.5) 38 (62.3)

機関主体の講演会 54 ( 7.8) 41 ( 6.5) 13 (21.3)

特に無し 510 (73.5) 496 (78.4) 14 (23.0)

その他 26 ( 3.7) 19 ( 3.0) 7 (11.5)

190

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欠損値 41 ( 5.9) 40 ( 6.3) 1 ( 1.6)

( 複 数 回 答 )

表7 電話相談の 実施体制

  全体 保健所 精神保健福祉センター

(n=694) (n=633 ) (n=61)

n (%) N (%) n (%)

専用窓口で対応 4 ( 0.6) 1 ( 0.2) 3 ( 4.9)

既存の窓口で対応 354 (52.1) 304 (48.0) 50 (82.0)

特に設けていないが応じ

ている 314 (46.2) 308 (48.7) 7 (11.5)

その他 7 ( 1.0) 6 ( 0.9) 1 ( 1.6)

欠損値 14 ( 2.1) 14 ( 2.2) 0 ( 0.0)

表8 ひ き こ も り 事例の 他の 機関へ の 分担・振り 分け に 関す る 状況

    全体 保健所精神保健福祉センタ

ー(n=670) (n=609) (n=61)

  N (%) n (%) n (%)義務教育・不登校 自機関で担当 84 (12.7) 71 (11.8) 13 (21.3)

他機関に振り分け 238 (35.8) 215 (35.7) 23 (37.7)個別で判断 341 (51.4) 317 (52.6) 25 (41.0)

18歳以下就学中 自機関で担当 144 (21.8) 114 (19.0) 30 (49.2)他機関に振り分け 120 (18.1) 112 (18.6) 8 (13.1)個別で判断 397 (60.0) 375 (62.4) 23 (37.7)

18歳以下未就学 自機関で担当 233 (35.2) 198 (33.0) 35 (57.4)他機関に振り分け 50 ( 7.6) 44 ( 7.3) 6 ( 9.8)個別で判断 377 (57.0) 358 (59.7) 20 (32.8)

19歳以上就学中 自機関で担当 230 (34.8) 192 (32.0) 38 (62.3)他機関に振り分け 35 ( 5.3) 31 ( 5.2) 4 ( 6.6)個別で判断 395 (59.8) 377 (62.8) 19 (31.1)

19歳以上無職 自機関で担当 322 (48.2) 280 (46.1) 42 (68.9)他機関に振り分け 16 ( 2.4) 13 ( 2.1) 3 ( 4.9)個別で判断 329 (49.3) 314 (51.7) 16 (26.2)

保護者のみの来談 自機関で担当 276 (41.2) 235 (38.6) 41 (67.2)他機関に振り分け 13 ( 1.9) 11 ( 1.8) 2 ( 3.3)

  個別で判断 380 (56.7) 363 (59.6) 18 (29.5)

表9 義務教育・不登校事例に お け る 振り 分け 先機関保健所 精神保健福祉センター

(n=212) (n=23)N (%) n (%)

精神科医療機関 5 ( 2.4) 4 (17.4)心理相談機関 3 ( 1.4) 2 ( 8.7)精神保健福祉センター 9 ( 4.2) 0 ( 0.0)保健センター 0 ( 0.0) 0 ( 0.0)保健所 0 ( 0.0) 0 ( 0.0)児童相談所 120 (56.6) 17 (73.9)公立の教育センターなど教育相談機関 130 (61.3) 14 (60.9)

191

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民間の支援団体 3 ( 1.4) 1 ( 4.3)そのほか 4 ( 1.9) 2 ( 8.7)

複数回答・有効回答のみ集計

表10  加齢に よ る 不登校か ら の ひ き つ ぎ 状態

  全体 保健所 精神保健福祉センター(n=694) (n=663) (n=61)

n (%) N (%) N (%)完全にできている 0 (0.0) 0 (0.0) 0 (0.0)ほぼできている 64 (9.2) 59 (9.3) 5 (8.1)不十分 257 (37.0) 227 (35.9) 30 (48.4)全くできていない 211 (30.4) 190 (30.0) 21 (33.9)欠損値 162 (23.3) 157 (24.8) 5 (8.1)

表11  ガ イ ド ラ イ ン 後構築・充実さ せ た 取り 組み

  全体 保健所 精神保健福祉センター(n=694) (n=633) (n=61)

n (%) N (%) N (%)本人個別来所談 84 (12.1) 69 (10.9) 15 (24.6)家族個別来所相談 121 (17.4) 104 (16.4) 17 (27.9)本人薬物療法 2 ( 0.3) 2 ( 0.3) 0 ( 0.0)医師による訪問 19 ( 2.7) 19 ( 3.0) 0 ( 0.0)他の専門職による訪問 40 ( 5.8) 38 ( 6.0) 2 ( 3.3)ボランティア訪問 3 ( 0.4) 1 ( 0.2) 2 ( 3.3)ひきこもり専門のデイケア活動 10 ( 1.4) 5 ( 0.8) 5 ( 8.2)他障害と合同のデイケア活動 14 ( 2.0) 11 ( 1.7) 3 ( 4.9)就労の組織的支援 1 ( 0.1) 1 ( 0.2) 0 ( 0.0)進路相談・進学の組織的支援 1 ( 0.1) 1 ( 0.2) 0 ( 0.0)家族教室・心理教育 71 (10.2) 53 ( 8.4) 17 (27.9)他資源との連携による支援 77 (11.1) 62 ( 9.8) 15 (24.6)電話相談 61 ( 8.8) 53 ( 8.4) 9 (14.8)インターネット相談 4 ( 0.6) 4 ( 0.6) 0 ( 0.0)講演会開催 68 ( 9.8) 51 ( 8.1) 17 (27.9)広報類作成 32 ( 4.6) 25 ( 3.9) 7 (11.5)研修事業 34 ( 4.9) 18 ( 2.8) 16 (26.2)その他 42 ( 6.1) 32 ( 5.1) 10 (16.4)あてはまるものはない 338 (48.7) 320 (50.6) 18 (29.5)欠損値 102 (14.7) 100 (15.8) 2 ( 3.3)

(複数回答)

表12  今後実施す る 予定の 取り 組み

  全体 保健所 精神保健福祉センター(n=541) (n=494) (n=57)

n (%) n (%) N (%)本人個別来所談 12 ( 2.2) 12 ( 2.4) 0 ( 0.0)家族個別来所相談 4 ( 0.7) 4 ( 0.8) 0 ( 0.0)本人薬物療法 1 ( 0.2) 1 ( 0.2) 0 ( 0.0)

192

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医師による訪問 11 ( 2.0) 10 ( 2.0) 1 ( 2.1)他の専門職による訪問 10 ( 1.8) 8 ( 1.6) 2 ( 4.3)ボランティア訪問 5 ( 0.9) 4 ( 0.8) 1 ( 2.1)ひきこもり専門のデイケア活動 20 ( 3.7) 12 ( 2.4) 8 (17.0)他障害と合同のデイケア活動 14 ( 2.6) 13 ( 2.6) 1 ( 2.1)就労の組織的支援 8 ( 1.5) 3 ( 0.6) 5 (10.6)進路相談・進学の組織的支援 2 ( 0.4) 2 ( 0.4) 0 ( 0.0)家族教室・心理教育 46 ( 8.5) 39 ( 7.9) 7 (14.9)他資源との連携による支援 37 ( 6.8) 32 ( 6.5) 5 (10.6)電話相談  4 ( 0.7) 4 ( 0.8) 0 ( 0.0)インターネット相談 3 ( 0.6) 2 ( 0.4) 1 ( 2.1)講演会開催 47 ( 8.7) 44 ( 8.9) 3 ( 6.4)広報類作成 26 ( 4.8) 18 ( 3.6) 8 (17.0)研修事業 16 ( 3.0) 13 ( 2.6) 3 ( 6.4)その他 31 ( 5.7) 26 ( 5.3) 5 (10.6)あてはまるものはない 340 (62.8) 326 (66.0) 14 (29.8)( 複数回答。各項目に つ い て 既に 実施し て い る 機関の 回答お よ び 欠損

除く )表13  ひ き こ も り を 支援す る 上で の 困難感

  全体 保健所

精神保健福祉センタ

(n=694) (n=633 ) (n=61)

n (%) n (%) n (%)

困難なく対応できる 8 ( 1.2) 6 ( 0.9) 2 ( 3.3)やや困難 220 (31.7) 184 (29.1) 36 (59.0)かなり困難 452 (65.1) 429 (67.8) 23 (37.7)全く対応できない 7 ( 1.0) 7 ( 1.1) 0 ( 0.0)欠損値 7 ( 1.0) 7 ( 1.1) 0 ( 0.0)

表14  今後の ひ き こ も り 支援の 上で 必要な 取り 組み ・支援

  全体 保健所

精神保健福祉セン

ター

(n=694) (n=633 ) (n=61)

n (%) n (%) N (%)

他の専門機関の拡充 589 (84.9) 540 (85.3) 49 (80.3)自機関治療相談体制( )充実システム・マンパワー 356 (51.3) 317 (50.1) 39 (63.9)自機関援助職への知識・支援技術の提供 441 (63.5) 416 (65.7) 26 (42.6)地域への情報提供・広報の充実 321 (46.3) 297 (46.9) 25 (41.0)ひきこもり支援の業務上の明確化 271 (39.0) 252 (39.8) 20 (32.8)回復後につながることのできる場の確保 517 (74.5) 466 (73.6) 52 (85.2)

193

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その他 31 ( 4.5) 26 ( 4.1) 5 ( 8.2)あてはまるものはない 7 ( 1.0) 6 ( 0.9) 1 ( 1.6)欠損値 11 ( 1.6) 10 ( 1.6) 1 ( 1.6)

( 複 数 回 答 )

表 15   ひ き こ も り 本 人

の 性 別

表 16   ひ き こ も り 本

人 の 年 齢 分 布

   (n=3293) (%)   (n=3293) (%)

男性 2517 (76.4) 0-12 16 ( 0.5)女性 755 (22.9) 13-15 135 ( 4.1)不明 21 ( 0.6) 16-18 321 ( 9.7)

19-24 955 (29.0)25-29 760 (23.1)30-34 597 (18.1)

35- 466 (14.2)欠損値 43 ( 1.3)

平均年齢 (SD)

(n=3250) 26.7 (8.2)

表17  最初の 問題発生年齢(不登校含

む )

表18  問題発生か ら 現在年齢ま で

の 経過年数

  (n=3293) (%)     (n=3293) (%)

12 歳未満 222 ( 6.7) 1 年未満 136 ( 4.1)

13-15 歳 633 (19.2) 1-3年未満 819 (24.9)

16-18 歳 685 (20.8) 3-5年未満 569 (17.3)

19-24 歳 959 (29.1) 5-7年未満 437 (13.3)

25-29 歳 352 (10.7) 7-10年未満 448 (13.6)

30-34 歳 194 ( 5.9) 10年以上 760 (23.1)

35 歳以上 - 154 ( 4.7) 欠損値 124 ( 3.8)

欠損値 94 ( 2.9) 平均 ( SD )

平均年齢 ( SD ) ( n=3169 ) 4.3 (2.3)

( n=3199 ) 20.4 (7.5)

表19  本人の 来談経路 表20  本人の 活動範囲

  (n=3293) (%)  

(n=329

3) (%)

家 族 ・ 親 戚 ( 同 2140 (65.0) 友人とのつきあい・地域活動に 304 ( 9.2)

194

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居) は参加

家 族 ・ 親 戚 ( 別

居) 237 ( 7.2) 外出は可能 1344 (40.8)

本人から 218 ( 6.6) 条件付外出可能 687 (20.9)

知人・友人から 59 ( 1.8) 外出 不可・家庭内では自由 560 (17.0)

学校から 72 ( 2.2) 自室で閉じこもっている 321 ( 9.7)

警察から 17 ( 0.5) 不 明 64 ( 1.9)

福祉事務所から 104 ( 3.2) 欠損値 13 ( 0.4)

その他機関から 433 (13.1)

不 明 12 ( 0.4)

欠損値 1

( 0.0

表 21  問 題 行 為 ( 総 数 ・ 性 別 別 )

総 数 男 性 女 性

  n=3293 (%) n=2517 (%) n=755 (%)

昼夜逆転 1352 (41.1) 1061 (42.2) 287 (38.0)家庭内暴力(本人から親) 579 (17.6) 477 (19.0) 100 (13.2)家庭内暴力(親から本人) 53 ( 1.6) 35 ( 1.4) 18 ( 2.4)家庭内暴力(本人以外の家族間) 54 ( 1.6) 38 ( 1.5) 16 ( 2.1)器物破損 496 (15.1) 415 (16.5) 77 (10.2)家族への拒否 705 (21.4) 561 (22.3) 140 (18.5)家族への支配的な言動 517 (15.7) 397 (15.8) 117 (15.5)強迫的な行為 590 (17.9) 449 (17.8) 137 (18.1)被害的な言動 477 (14.5) 335 (13.3) 136 (18.0)深夜徘徊 61 ( 1.9) 47 ( 1.9) 14 ( 1.9)食行動異常 251 ( 7.6) 143 ( 5.7) 106 (14.0)薬物問題 18 ( 0.5) 14 ( 0.6) 4 ( 0.5)

195

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飲酒問題 64 ( 1.9) 54 ( 2.1) 10 ( 1.3)インターネット・電話の過度な使用 192 ( 5.8) 162 ( 6.4) 30 ( 4.0)万引き・盗み 12 ( 0.4) 11 ( 0.4) 1 ( 0.1)いじめ・校内暴力(加害) 14 ( 0.4) 10 ( 0.4) 4 ( 0.5)性的逸脱行動 9 ( 0.3) 7 ( 0.3) 2 ( 0.3)動物や他人への残虐行為 10 ( 0.3) 5 ( 0.2) 5 ( 0.7)近隣への迷惑行為 82 ( 2.5) 69 ( 2.7) 12 ( 1.6)その他の非行・触法行為 23 ( 0.7) 23 ( 0.9) 0 ( 0.0)いじめ・校内暴力(被害) 76 ( 2.3) 43 ( 1.7) 33 ( 4.4)自傷行為 70 ( 2.1) 30 ( 1.2) 40 ( 5.3)自殺企図 105 ( 3.2) 67 ( 0.0) 38 ( 5.0)その他 371 (11.3) 259 ( 0.3) 111 ( 0.0)不明 55 ( 1.7) 41 (10.3) 12 (14.7)該当なし 624 (18.9) 474 ( 1.6) 145 ( 1.6)欠損値 60 ( 1.8) 50 (18.8) 10 ( 1.3)

家庭内暴力がある  ( 本 人 ・ 親 ・

家 族 間 )641 ( 19.8 ) 520 (20.7) 119 ( 15.8 )

家族関係に影 響を与える行為があ

( 器 物 破 損 ・ 支 配 的 言 動 ・ 家 族 の

拒 否 )

1306 ( 40.4 ) 1041 ( 41.4 ) 257 (34.0)

対他的な問題行為がある  ( 万 引

き ・ 盗 み ・

い じ め ・ 性 的 逸 脱 行 動 ・ 残 虐 行

為 ・ 近 隣 へ の 迷

惑 行 為 ・ そ の 他 非 行 ・ 触 法 行 為 )

133 ( 4.0) 112 ( 4.4) 20 ( 2.6)

( 複 数 回 答 ・ 下 欄 に つ い て は 重 複 回 答 を 除 い て 処 理 を し た )

表22  本人の 精神医学的診断の 既往歴 表23  本人の 不登校経験

 

(n

=3293

) (%)  

(n=329

3) (%)

感情障 害 153 ( 4.6) 小学校 あり 376

(11.4

)

神経 症性・ストレス関連障

害 545

(16.6

) なし 2353

(71.5

)

人格障 害 184 ( 5.6) 不 明 417 (12.7

196

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)

アルコール・薬物関連障 害 14 ( 0.4)

進 学 ・ 就 学 せ

ず 1 ( 0.0)

AD/HD.LD 21 ( 0.6) その他 2 ( 0.1)

高 機能広 汎性発達 障 害 60 ( 1.8) 欠損値 144 ( 4.4)

その他の発達 障 害・器質性

障 害 57 ( 1.7) 中学校 あり 1040

(31.6

)

その他 224 ( 6.8) なし 1773

(53.8

)

不 明 520

(15.8

) 不 明 350

(10.6

)

診 断 無し 1536

(46.6

)

進 学 ・ 就 学 せ

ず 5 ( 0.2)

欠損値 72 ( 2.2) その他 2 ( 0.1)

いずれかの診 断あり( 重 複

のぞく ) 1174

(35.7

) 欠損値 123 ( 3.7)

高等学校 あり 1086

(33.0

)

表24  本人の 就労・ア ル バ イ ト

経験 なし 1189

(36.1

)

 

(n

=3293

) (%) 不 明 313 ( 9.5)

就 労・アルバイト経験あ

り 1750

(53.1

)

進 学 ・ 就 学 せ

ず 387

(11.8

)

就 労アルバイト経験なし 1326

(40.3

) その他 16 ( 0.5)

不 明 169 ( 5.1) 欠損値 302 ( 9.2)

欠損値 48 ( 1.5)

短大・大

学 あり 404

(12.3

)

なし 385

(11.7

)

表25  小学校・中学校の 不登校経験と 就

労経験 不 明 159 ( 4.8)

就 労・アルバイト経験

進 学 ・ 就 学 せ

ず 1311

(39.8

)

197

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あり なし 不 明 その他 12 ( 0.4)

なし 1126 536 55欠損値 1022

(31.0

)

小・中

での

(N=17 1

7 )

(65.6

%)

(31.2

%)

(3.2

%)小・中いずれかで

不登校 1103(33.5

)

不 登 校あり 361 686 40 小・中・高・大い

ずれかで不登校 2023(61.4

)

 

(N=1087

(33.2

%)

(63.1

%)

(3.7

%)

                        ( 不 登 校 経 験 不 明 事 例 ・ 欠 損 は 除 く )

( 複 数 回 答 )

表26  事例に 提供さ れ た サ ービ ス

総計 保健所

精神保健福祉セン

ター

 

( n=3

293 ) (%)

( n=191

3 ) (%)

( n=13

79 ) (%)本人の個別来所相談 940 (28.5) 416 (21.7) 524 (38.1)家族の個別来所相談 2618 (79.5) 1493 (78.0) 1125 (81.8)本人への薬物療法 180 ( 5.5) 99 ( 5.2) 81 ( 5.9)専門職の家庭訪問 594 (18.0) 541 (28.3) 53 ( 3.9)ボランティアなどの家庭訪問 24 ( 0.7) 19 ( 1.0) 5 ( 0.4)ひきこもり専門のデイケア・グループ活

動 258 ( 7.8) 79 ( 4.1) 179 (13.0)他障害と合同のデイケア・グループ活動 126 ( 3.8) 76 ( 4.0) 50 ( 3.6)就労の組織的支援 55 ( 1.7) 31 ( 1.6) 24 ( 1.7)進学の組織的支援 16 ( 0.5) 6 ( 0.3) 10 ( 0.7)家族向けの家族教室・心理教育 985 (29.9) 451 (23.6) 534 (38.8)他機関・資源との連携 679 (20.6) 547 (28.6) 132 ( 9.6)電話相談 791 (24.0) 627 (32.8) 164 (11.9)インターネット・電子メール相談 23 ( 0.7) 20 ( 1.0) 3 ( 0.2)その他 264 ( 8.0) 193 (10.1) 71 ( 5.2)不明 1 ( 0.0) 1 ( 0.1) 0 ( 0.0)該当無し 26 ( 0.8) 21 ( 1.1) 5 ( 0.4)欠損値 13 ( 0.4) 9 ( 0.5) 4 ( 0.3)

表27  連携先の 機関 表28  家庭内暴力が あ る 場合

198

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の 避難

 (n=329

3) (%)(n=641) (%)

精神科医療機関 886 (26.9)避難あり(本人) 10 ( 1.6)

心理相談機関 68 ( 2.1)避難あり(家族) 200 (31.2)

精神保健福祉センター 356 (10.8) 避難なし 329 (51.3)保健センター 195 ( 5.9) 欠損値 102 (15.9)他の保健所 164 ( 5.0)精神障害者小規模作業所 52 ( 1.6) 表 29 避難者のうちわけ精神障害者グループホーム 1 ( 0.0) (n=233) (%)地域生活支援センター 31 ( 0.9) 父 29 (12.4)職親登録事業所 9 ( 0.3) 母 117 (50.2)民間の支援団体・自助グループ 161 ( 4.9) 配偶者 2 ( 0.9)児童相談所 93 ( 2.8) きょうだい 13 ( 5.6)学校 119 ( 3.6) 祖父母 3 ( 1.3)公立の教育相談機関 63 ( 1.9) 他 3 ( 1.3)適応指導教室 14 ( 0.4) 両親 26 (11.2)ハローワーク 22 ( 0.7) 複数人 23 ( 9.9)警察 107 ( 3.2) 欠損値 17 ( 7.3)民間の企業 8 ( 0.2)その他 232 ( 7.0) 表 30 避難者の避難先

不明 32 ( 1.0)  

(n=233) (%)

該当無し 1343 (40.8) 親類・知人宅 89 (38.2)欠損値 173 ( 5.3) ホテル 12 ( 5.2)

(複数回

答) 女性センターなど 8 ( 3.4)

その他 105 (45.1)欠損値 19 ( 8.2)

表31  現在の 援助状況 表32  援助を 終了し た 場合の 状況

  (n=3293) (%) (n=528) (%)援助終了 528 (16.0) 教育機関への就学 28 (5.3)中断・音信不通 792 (24.1) 常勤の就労 7 (1.3)援助継続中 1875 (56.9) 非常勤・アルバイトの就労 43 (8.1)転居 21 ( 0.6) その他の社会的活動への参加 32 (6.1)死亡 2 ( 0.1) 友人の獲得 4 (0.8)不明 62 ( 1.9) 居場所の確保 33 (6.3)その他 3 ( 0.1) 家庭関係の改善 75 (14.2)欠損値 10 ( 0.3) ひきこもっているが困難感 不安感が改善・ 86 (16.3)

改善は特に見られないまま終了 137 (25.9)その他 91 (17.2)不明 24 (4.5)該当無し 19 (3.6)欠損値 33 (6.3)

( 複 数 回 答 )

199

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表33  援助継続中の 場合の 活動範囲

表34  援助終了時ま た は 平成15年3 月で

就学・就労が 確認さ れ た 事例

 

( n=7

92 ) (%)   (n=3293) (%)

就学・就労はしているが継続援助中 130 ( 6.9) 就学・就労している 206 (6.3)

友人とのつきあい・地域活動には参加 252(13.4

) 就学・就労なし 2097 (63.7)

外出は可能 770(41.1

)中断・欠損値・不明

等 990 (30.1)

条件付外出可能 306(16.3

) (援助継続/終了を問わない)

外出不可・家庭内では自由 244(13.0

)自室で閉じこもっている 115 ( 6.1)不明 36 ( 1.9)欠損値 22 ( 1.2)

表 35  提 供 さ れ た 支 援 の 様 式

家族のみ 本人のみ 本人+ 家族 その他

保健所 n 1169 123 413 177(n=1882) (%) (62.1) (6.5) (21.9) (9.4)

精神保健福祉センター n 776 170 403 21(n=1370) (%) (56.6) (12.4) (29.4) (1.5)合計 n 1945 293 816 198

(n=3252) (%) (59.8) (9.0) (25.1) (6.1)

※「家族のみ」とは提供された支援が「家族来所相談」や「家族教室・心理教育」のみのもの「本人のみ」とは「本人来所相談」「本人薬物療法」「デイケア活動」「就労支援」「就学支援」などの本人向けサービスのみも

の「本人+家族」は上記の二群の両方から1つずつ以上の支援項目が提供されていたもの「その他」とは上記の「家族来所相談」や「本人デイケア活動」など家族や本人に対する来所による直接支援と考えられる支援

内容がなく、専門職の訪問や資源連携などによって支援されていた事例なお、欠損値除く。

200

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研究費の名称:厚生科学研究費補助金

こころの健康科学 研究事業

地域精神保健活動における介入のあり方に関する研究 (H12-こころ-001)

作成者一覧

主任研究者

伊藤順一郎(国立精神・神経センター 精神保健研究所)

分担研究者

池原毅和(東京アドボカシー法律事務所)

金 吉晴(国立精神・神経センター 精神保健研究所)

益子 茂(東京都多摩総合精神保健福祉センター)

研究協力者

秋田敦子(わたげの会)

大島 巌(東京大学大学院医学系精神保健学分野)

狩野力八郎(東京国際大学早稲田サテライト)

小林清香(東京女子医科大学)

後藤雅博(新潟大学医学部保健学科)

楢林理一郎(湖南クリニック)

吉川 悟(システムズアプローチ研究所)

野口博文(国立精神・神経センター 精神保健研究

所)

金井麻子(同上)    田村理奈(同上)

有泉加奈絵(山梨県精神保健福祉センター)

加茂登志子(東京女子医科大学精神医学教

室)

倉本英彦(青少年健康センター)

近藤直司(山梨県精神保健福祉センター)

原 敏明(横浜市北部児童相談所)

藤林武史(福岡市こども総合相談センター)

吉田光爾(国立精神・神経センター 精神保健

研究所)

堀内健太郎(同左)

土屋 徹(同上)

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