jr東日本 ev-e301系蓄電池駆動電車 · 制輪子 動台車 合成制輪子 付随台車...
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2014- 9「車両技術 248 号」28
JR 東日本 EV-E301 系蓄電池駆動電車※長
は
谷せ
部べ
和かず
則のり
※※白しろ
木き
直なお
樹き
※滝たき
口ぐち
裕ひろ
之し
写真 1 外観
要旨近年、自動車業界におけるハイブリッド自動車や電気自動車の開発が進む中、東日本旅客鉄道株式会社(JR 東
日本)では、試験車両“NEトレイン(New Energy Train)”を用いた新動力システムの開発を 2000年から開始し、2007 年にキハ E200 形ディーゼルハイブリッド車両を営業投入した。これに引き続き、2008 年から大容量の蓄電池を搭載し、非電化区間を走行する蓄電池駆動電車及び地上充電設備の開発に着手した。その後、蓄電池駆動試験電車“NE トレイン スマート電池くん”を製作し、2012 年 3 月まで各種試験を行った。今回、これらの成果を踏まえ、蓄電池駆動電車システムの実用化の目途が立ったことから、蓄電池駆動電車 EV-E301 系量産先行車を製作し、2014 年 3 月に東北本線の一部区間及び烏
からすやま
山線に導入した。ここでは、“NE トレイン”による蓄電池駆動電車システムの開発経緯も踏まえて、EV-E301 系の概要について紹介する。(編集部注:クモヤ E995 形試験電車“NE トレイン スマート電池くん”は本誌 240 号 2010 年 9 月参照)
1 はじめに鉄道は、ほかの交通機関と比較して、エネルギー効率が
高く省エネルギーであると言われている。しかし、列車運転用エネルギーの占める割合は、業務の運営に必要とされるエネルギーの中でも大きい。そのため、列車エネルギー消費の抑制及び CO2 排出量削減を図ることは、重要な課題であり、車両の省エネルギー化のために、“軽量化”、“動力装置の高効率化”、“回生ブレーキの有効活用”などの方策がとられてきた。
2 NE トレイン2.1 ディーゼルハイブリッド車両
非電化区間を走行する気動車は、内燃機関を直接の駆動源とする原理上、回生ブレーキが構成できないこともあ
※ 東日本旅客鉄道㈱ 鉄道事業本部 運輸車両部 車両技術センター※※ 東日本旅客鉄道㈱ 鉄道事業本部 運輸車両部
写真 2 室内
JR 東日本 EV-E301 系蓄電池駆動電車 29
図1
編成
図
2014- 9「車両技術 248 号」30
車両性能
最高運転速度(㎞ /h) 100加速度(m/s2) 0.56(2.0 ㎞/h/s)減速度
(m/s2)常用 1.0(3.6 ㎞/h/s)非常
ユニット当りの定格
ユニット構成 Mc+Mc'出力(kW)速度(㎞/h)引張力(kN) 30
ブレーキ制御方式
回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ、直通予備ブレーキ、耐雪ブレーキ、抑速ブレーキ
制御回路電圧(V) DC 100抑速制御 あり運転保安装置 ATS-P、EB・TE 装置列車無線 デジタル列車無線、防護無線
非常時運転条件
1M 車の開放時、特性が半分落ちるが、烏山線を往復できる。M 車開放限流値増を扱うことで、30 ‰を起動可。
蓄電池のみでの走行可能距離 / 蓄電池の条件
50 ㎞
その他
会社・車両形式 東日本旅客鉄道㈱・EV-E301 系使用線区 東北本線(宇都宮~宝積寺)、烏山線 軌間(㎜) 1 067基本編成 2M 使用線区の最急勾配 25 ‰用途 通勤用 電気方式 DC 1500 V 主回路用蓄電池 630 V車体製作会社 総合車両製作所㈱ 製造初年 2014 年台車製作会社 総合車両製作所㈱ 1 次製作両数 2主回路装置製作会社 三菱電機㈱、GS ユアサ㈱ 車両技術の掲載号 248
凡例 ●;駆動軸 ○;付随軸 VVVF;主制御装置 SIV; 補 助 電 源 装 置 CP; 空 気 圧 縮 機
MBT;主回路用蓄電池 BT;蓄電池 <>;パンタグラフ ◎;車いすスペース 連結器 ▽;密着 +;半永久
個別の車種形式クモハ
EV-E301クモハ
EV-E300車種記号(略号) Mc Mc'空車質量(t) 40.2 37.7定員(人) 133 133うち座席定員(人) 48 48特記事項
電気駆動系主要設備
集電装置
形式 / 質量(㎏) PS38方式 シングルアーム式
制御装置
形式 / 質量(㎏) SC100
制御方式2 レ ベ ル 変 調 電 圧 形 三 相VVVF インバータ、2 レベル変調三相 3 重昇降圧チョッパ
仕様 2MM 制御×2 群
主電動機
形式 / 質量(㎏) MT78A方式 三相かご形誘導電動機1 時間定格(kW) 95回転数(min-1) 2 350特記事項
主回路標準限流値
力行(A) 632(編成でのパンタ点電流)ブレーキ(A) 648(編成でのパンタ点電流)
電気ブレーキの方式 回生ブレーキブレーキ抵抗器
形式/質量(㎏) -形式/質量(㎏) SC101
補助電源設備
補助電源装置
方式ダイレクト 2 レベル IGBT インバータ方式
出力 100 kVA
蓄電池種類/質量(㎏) アルカリ蓄電池容量(Ah) 70(5 時間率)主な用途 制御用
蓄電池走行設備
充電を行う運転動作の範囲放電を行う運転動作の範囲
蓄電池
種類/質量(㎏) リチウムイオン電池方式セル数×モジュール数
8 セル×22 モジュール×10 バンク
容量 190 kWh急速充電時間 5~10 分(烏山駅)特徴
充放電装置
形式/質量(㎏)方式仕様 電力変換装置と一体形
その他
表 1 JR 東日本 EV-E301 系蓄電池駆動電車 車両諸元
JR 東日本 EV-E301 系蓄電池駆動電車 31
車体の構造・主要寸法
構体材料 / 構造 ステンレス鋼 / 軽量ステンレス構体車両の前面形状 非貫通運転室 全室
長さ(㎜)先頭車 19 570中間車 -
連結面間距離(㎜)
先頭車 20 000中間車 -
心皿間距離(㎜) 13 800車体幅(㎜) 2 800
高さ(㎜)屋根高さ 3 620屋根取付品上面 3 980(パンタ折りたたみ)
床面高さ(㎜) 1 130
車体特性・構造及び主要設備
相当曲げ剛性(MNm2)相当ねじり剛性(MNm2 / rad)曲げ固有振動数(Hz)ねじり固有振動数(Hz)内装材 メラミン樹脂化粧板
側窓構造下降式(上段下降 下段固定)単窓:固定式
妻引戸 片引戸
側扉構造 両引戸 1 300 ㎜片側数 3
戸閉め装置形式 TK116B方式 単気筒複動式
腰掛方式 ロングシート車体連結装置
先頭車 密着連結器、半永久連結器中間車
空調換気システム
冷房方式 屋根上集中式ユニット空調装置暖房方式 腰掛下シーズ線ヒータ(け込み式)換気方式 自然換気送風方式 天井ダクト:ラインフロー吹き出し
室内灯照明方式 間接照明灯具方式 LED
移動制約者設備 車椅子スペース
便所主要設備 -汚物処理 -
その他の主要設備
主幹制御器形式 / 質量(㎏) MEC13方式 ワンハンドル
速度計装置 直動式指示計車両情報制御システム
モニタ装置 MON22 形モニタ装置モニタ表示器 カラー LCD
非常通報装置 対話式非常通報装置
行先表示器前面 3 色 LED側面 3 色 LED
車内案内表示 液晶式(ワンマン運賃表示器内)
放送車内向け スピーカ 6台(自動放送付き)車外向け スピーカ 4 台(片側・両側切替可)
車両間連結電気系 ジャンパ連結器空気管系 空気ホース、密着連結器(先頭部)
その他の主要設備
空調装置形式 / 質量(㎏) AU736方式 屋根上集中式容量(kW) 38.4
暖房装置容量(kW) 13.25形式 / 質量(㎏) HE309、HE280
標識灯前部標識灯 LED後部標識灯 赤色 LEDその他
その他
空気ブレーキ設備
電動空気圧縮機
形式 / 質量(㎏) MH3108-C1200M圧縮機容量 1 238 ㍑/min圧縮機方式 往復形単動、2 段圧縮
空気タンク元空気タンク 330 ㍑供給空気タンク 165 ㍑
ブレーキ制御装置
形式 / 質量(㎏)C207C208
台 車
形式動台車 DT79付随台車 TR255D
車体支持装置 ボルスタレス式けん引装置 1 本リンク枕ばね方式 空気ばね上下枕ばね定数 / 台車片側(N / ㎜)
動台車付随台車
軸箱支持方式 軸ばり式軸ばね方式 コイルばね
上下軸ばね定数 / 軸箱(空車時)(N / ㎜)
コイルばね動台車付随台車
ゴムばね動台車付随台車
総合動台車付随台車
軸距(㎜) 2 100台車最大長さ(㎜)
動台車 3 014付随台車 3 299
車輪径(㎜) 860
基礎ブレーキ
動台車 踏面片押し式ユニットブレーキ
付随台車踏面片押し式直動式ブレーキ及びディスクブレーキ
ブレーキ倍率
制輪子動台車 合成制輪子付随台車 焼結合金制輪子
ブレーキシリンダ×個数
動台車 4付随台車 4
駆動方式 平行カルダン方式歯数比(減速比) 6.06継手 TD 継手軸受 密封複式円すいころ軸受
質量(㎏)動台車付随台車
記事
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戸閉め表示灯(赤)
車椅子スペース
図 2-1 形式図 クモハ EV-E301(Mc)
戸閉め表示灯(赤)
車椅子スペース
図 2-2 形式図 クモハ EV-E300(Mc’)
JR 東日本 EV-E301 系蓄電池駆動電車 33
り、電車に比べてエネルギー効率が劣っており、排気ガスの排出及び騒音の発生の点でも、電車に比べて課題があった。このため、JR 東日本では、ディーゼルハイブリッド試験車両として、NE トレイン(New Energy Train)を開発し、動力システムの革新による非電化区間を走行する車両の環境負荷低減を目指すこととした。この NE トレインの成果として、2007 年 7 月にキハ E200 形ハイブリッド車両を小海線に導入し、ディーゼルハイブリッド車両の実用化を果たした。その後も、リゾートハイブリッド車両として、2010 年 10 月から 12 月にかけて、長野、秋田及び青森地区に HB-E300 系車両を導入した。(編集部注:キハ E200 形ハイブリッド車両は本誌 234
号 2007 年 9 月、HB-E300 系リゾートハイブリッド車両は240 号 2010 年 9 月参照)2.2 蓄電池駆動電車
一方で、自動車業界におけるハイブリッド自動車や電気自動車の開発の進展に伴い、蓄電池の出力、容量などの性
能が著しく向上し、価格が低下している。これを背景として、鉄道車両に大容量の蓄電池を搭載して非電化区間を蓄電池の電力のみで走行できる可能性が見えてきた。このため、ディーゼルハイブリッド車両の開発で得た知見を踏まえながら、2008 年に NE トレインを蓄電池駆動電車に改造(試験車愛称“スマート電池くん”)し、地上充電設備を含めた蓄電池駆動電車システムの開発を開始した。このシステムによって、電化区間及び非電化区間の共通運用が可能となり、車両の運用効率向上に加え、内燃機関及び変速機などの機械部品の削減によるメンテナンスの省力化、内燃機関から排出する排気ガスの解消、CO2 の排出量及び騒音の低減が可能となる。その後、2012 年 3 月まで各種試験を行い、蓄電池駆動電車システムの実用化の目途が立ったことから、EV-E301 系量産先行車を製作し、2014 年 3 月に東北本線の一部区間(宇都宮~宝
ほ う し ゃ く じ
積寺間 11.7 ㎞)及び烏山線(宝積寺~烏山間 20.4 ㎞)に導入した。
台わく
つり
どい
さ
図 3 車体断面
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3 編成及び車両性能EV-E301 系は、車両形式に蓄電池駆動電車であること
を表す EV(Energy storage Vehicle)を付与し、宇都宮寄りの 1 号車を EV-E300 形、パンタグラフのある烏山寄りの 2号車をEV-E301形とする 2両固定編成とした。また、定員は各車ともに 133 名としている。
主回路性能及び主回路機器仕様において、起動加速度は0.56 m/s2(2.0 ㎞/h/s)とし、特急車両程度の加速度とした。また、減速度は 1.0 m/s2(3.6 ㎞/h/s)である。烏山線では、最高速度は 50~60 ㎞/h 程度であるが、東北本線の一部区間を走行するため、性能上の最高速度は 100 ㎞/hとしている。
4 架線・蓄電池ハイブリッドシステムEV-E301 系が宇都宮から烏山へ運行する時の電化区間
と非電化区間の主回路システム動作を次に示す。(1) 電化区間(東北本線)では、パンタグラフを上昇し
て、架線からの電力によって走行するとともに蓄電池の充電を行う。
(2) 電化、非電化区間の接点駅である宝積寺駅で、パンタグラフを下降し、非電化区間(烏山線)を蓄電池の電力で走行する。
(3) 烏山駅に到着すると、パンタグラフを上昇し、烏山駅に新設した地上充電設備を使用して、急速充電を行う。
このように、EV-E301 系では、電化区間、非電化区間を直通して運用するため、走行区間の架線の有無に合わせて、パンタグラフの上昇及び下降の扱いが発生し、その頻度が通常の電車よりも多くなる。また、充電設備下で行う急速充電では、通常架線下よりも大きな集電電流で充電を行うなど、架線条件によって、電流の制限値が異なる。このため、EV-E301 系では、地上から送信される地点情報を受信し、車両が自ら在線している場所の架線状態を自動的に認識する“架線認識装置”を搭載している。
5 デザイン5.1 コンセプト
EV-E301 系は、“人に優しい未来につなぐ、次世代車両”を全体的なコンセプトとした。また、蓄電池駆動電車システムの“先進性”を表現するとともに、導入線区とな る烏山線沿線のイメージも取り入れた車両デザインとした。5.2 エクステリアデザイン(1) 先進性の表現 新たな前頭形状とストライプを用い
たカラーリングでシャープな印象を創出し、先進性を表現した。
(2) 環境へのやさしさの表現 シルバー/グリーンの配色比率で、環境に対する配慮、沿線風景との調和、さわやかさを表現した。
(3) 蓄電池駆動電車システムの表現 床下の主回路用蓄電池箱及びパンタグラフにもグリーンを配色し、外観上の特徴とすることで、EV-E301 系の最大の特徴である“蓄電池駆動電車システム”を訴求した。
5.3 インテリアデザイン(1) 先進性の表現 連続性をもたせた LED 間接照明及
び従来に例を見ない新たな断面形状をもつ天井、お客さまへの情報表示スペースを明確化するため、妻上部を黒色とした客室内の配色など、先進的で今までの通勤車両にない客室イメージの構築を目指した。
(2) 次世代サービス E233 系で採用したユニバーサルデザインの考え方を踏襲しながら、車椅子スペースの充実など、誰もがさらに利用しやすい車両を目指した。
(3) 烏山線のポテンシャル 四季を感じられる沿線の景観、和紙に代表される伝統工芸、烏山が活気づく“山あげ祭り”などの“緑”、“彩り”及び“活気”が感じられる要素を、腰掛及び床材のデザインに用いて表現した。
5.4 シンボルマークEV-E301 系は、愛称を一般公募し、蓄電池を意味する
“accumulator”を引用した ACCUM=アキュムとした。車両のエクステリアには、ACCUM のロゴと“架線”、“蓄電池”及び“モータ”相互のエネルギーの流れをイメージしたシンボルマークをデザインした。
6 車体構造6.1 主要寸法
車体断面は、腰部に絞りのないストレート車体とした。車体寸法は、車体長 19 570 ㎜、車体幅 2 800 ㎜、車体高さ3 620 ㎜とした。パンタグラフ折りたたみ高さは、狭小トンネル対応の 3 980 ㎜としている。また、床面高さは、レール上面から 1 130 ㎜とした。6.2 構体
車体は、特に強度を要する台枠の一部を除き、ステンレス鋼材によって構成した軽量ステンレス構体である。前頭部は、踏切事故対策として前面を強化している。また、EV-E301 系は、通常の電車と比較して、機器が増えることによって車体質量が増加することから、車体強度を向上させるため、必要な補強を追加した。一方で、蓄電池の電力消費を抑制するためには、車両の軽量化が求められる。これに伴い、車体強度への影響を確認したうえで、一部の材料の変更(アルミ化)や軽量穴の追加などの可能な限りの軽量化を図った。
写真 3 シンボルマーク及び主回路用蓄電地箱
JR 東日本 EV-E301 系蓄電池駆動電車 35
7 客室7.1 客室構造及び客室設備
EV-E301 系の客室は、2 両ともに共通の見付とし、後位寄りに機器室を設けている。座席は、片側 3 扉の各ドア間に、12 人掛けの腰掛を配置し、1 両当たり 48 席を確保している。腰掛は、片持ち式構造のロングシートを採用しているが、腰掛の座面下にヒータ、空制及び電気機器が納められるように、腰掛と独立したカバー状のけ込みを設けている。座ぶとんは、S ばねを採用して、座り心地の向上を図っている。また、S ばねと取付枠とを一体化し、枠の取付及び取外しの作業性向上を図っている。座席の有効幅は、460 ㎜とし、座ぶとん及び背ずりにバケット形状を採用することで、一人ずつの着席区分を明確化した。
室内灯は、LED 式の間接照明を採用して、消費電力の低減を図るとともに、客室全長にわたって、切れ目のないように連続的に配置することで、今までにない客室イメージを実現している。また、側天井も新規となる 3 面折りの断面形状を採用し、1 面を和紙調の黒色とすることでデザイン上のアクセントとしている。客室内の化粧板は、メラミン化粧板を基本として構成している。
バリアフリーに対する機能の拡充として、次駅名などを表示する車内案内表示器を兼用した液晶式運賃表示器を運転室背面の上部中央に設置した。また、乗降口は、開閉時にチャイム音を鳴らすとともに赤色のランプが点滅し、目や耳の不自由なお客さまへの案内機能をもたせるとともに、側引戸の戸先ゴムを黄色とすることで、車内外からの側引戸扉自体の視認性向上を図っている。
つり手及び荷物棚の高さは、優先席を含む先頭寄りの12 人掛け腰掛部を一般席部と比べて 50 ㎜低くすることで、身長の低いお客さまに対応した。また、優先席部のスタンションポールは、湾曲した形状に加え、表面に滑り止め加工を施すことで、さらに扱いやすい構造としている。荷物棚は、軽量化のため、アルミ製丸パイプを使用した。
なお、後位寄りには、車椅子スペースを設けており、車椅子に着座した状態で使用可能な高さに、乗務員と通話ができる非常通報装置を設けている。7.2 窓及び扉
側窓は、上下分割構造を採用し、上部を開閉可能な下降窓とした。また、その隣の固定窓と組み合せて窓枠を設けることで、窓の面積を確保している。側窓のガラスには、赤外線吸収仕様のガラスを採用した。側窓の車体内側には、FRP 製の窓きせを設けている。
側引戸は、内外共にステンレス鋼板を使用し、ハニカム心材を用いた軽量化構造としている。側引戸の有効幅は、1 300 ㎜である。また、連結部の妻引戸は、傾斜式戸閉め装置を採用することによって、自然に閉扉する構造にするとともに、ワンマン時の限定した側引戸のドア扱いを考慮して、車椅子でも通り抜け可能な有効幅 800 ㎜を確保している。
8 運転室設備運転室は、ワンマンに対応した非貫通の全室運転台とし
ている。衝突時における乗務員の保護のため、車体前面部の強化構造を図るとともに、運転室背面には救出口を設けている。蓄電池駆動電車として、新たに必要となった急速
充電及び架線認識装置などのスイッチ類は、操作する場面及び手順並びに誤扱い防止などを配慮して、運転室内に配置した。
前面窓ガラスは、メンテナンス性を考慮し、運転士側と助士側とをおよそ 2:1 で分けた 2 枚分割構成とし、上下方向に円弧を描いた大形の二次曲面ガラスとした。
前部標識灯は、LED を採用し、前面上部に左右 2 灯ずつ配置している。また、後部標識灯は、前面下部に縦長に配置して、デザイン上の特徴としている。
写真 4 室内(優先席スペース)
写真 5 車椅子スペース及び機器室
写真 6 運転室
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戸閉め知らせ灯
図4
運転
室機
器配
置
写真
7 運
転台
JR 東日本 EV-E301 系蓄電池駆動電車 37
図5
床下
機器
配置
a)
床下
機器
配置
ク
モハ
EV
-E30
1(M
c)
b)
床下
機器
配置
ク
モハ
EV
-E30
0(M
c’)
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パンタグラフ
パンタグラフ
列車無線アンテナ
列車無線アンテナ
空調装置
列車無線アンテナ
列車無線アンテナ
空調装置
図6
屋根
上機
器配
置
a)
屋根
上機
器配
置
クモ
ハE
V-E
301(
Mc)
b)
屋根
上機
器配
置
クモ
ハE
V-E
300(
Mc’
)
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図7
動台
車(D
T79)
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図8
付随
台車(
TR25
5D)
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図9
主回
路つ
なぎ
2014- 9「車両技術 248 号」42
9 機器配置9.1 床下機器配置
床下機器は、1 号車に補助電源装置及びその関係機器、電動空気圧縮機を設置し、2 号車に電力変換装置などの主回路関係の機器を設置している。主回路用蓄電池箱は、各車両に 1 群単位(5 台)ずつ、編成で 10 台を設置している。9.2 屋根上機器配置
屋根上には、急速充電に対応したパンタグラフを 2 号車に 2 台搭載している。また、各車両共通の機器として、空調装置、列車無線アンテナを配置している。
10 主要機器10.1 主回路システムの構成
パンタグラフを介して、供給された架線電圧 DC 1 500 Vの電力は、DC/DC コンバータによって、DC 630 V に降圧して、中間リンク回路に供給される。中間リンク回路には、主回路蓄電池に用いる大容量のリチウムイオン電池、DC 630 V を入力とする VVVF インバータ装置及び 2 台の主電動機を配置した。また、補助電源装置は、主回路蓄電
池からの電力で駆動することを基本とする方式とした。中間リンク電圧を DC 630 V としたのは、リチウムイオン電池の安全性の確保からである。EV-E301 系は、2 両編成で運行するため、この主回路システムを 2 群構成で搭載して、冗長性を確保している。
なお、中間リンク電圧を DC 630 V にしたため、VVVFインバータ装置及び誘導電動機に、DC 1 500 V 架線下で走行する一般的な電車の装置を使用できない。このため、設計の初期段階では、中間リンク電圧を DC 1 500 V とし、主回路蓄電池の上流部に DC/DC コンバータ装置を配置するシステムも検討したが、有限のエネルギー源である主回路蓄電池のエネルギーを電圧変換ロスで減らさないため、本システムを採用することとした。10.2 主回路システムの駆動方法
本システムは、電化区間と非電化区間とでは、システムの駆動方法が異なる。(1) 非電化区間 力行は主回路蓄電池からの電力で力行
することを基本としている。ブレーキ時は、回生エネルギーを主回路蓄電池に充電し、次の力行エネル
図 10 力行性能曲線
JR 東日本 EV-E301 系蓄電池駆動電車 43
ギーとして利用する。(2) 電化区間 主回路蓄電池からの電力で力行している
間に、架線から電力を受け取るため、実際には主回路蓄電池の充電量(SOC)に、ほとんど変化は起きない。ブレーキ時に発生する回生エネルギーは、主回路蓄電池に充電することを基本とするが、主回路蓄電池がフル充電の場合には、一般的な電車と同じように架線に戻す。
10.3 電力変換装置電力変換装置は、DC/DC コンバータ及び VVVF イン
バータ装置で構成され、2 レベルインバータを採用して、素子数の低減による品質向上を図っており、それぞれ 2 群ずつを 1 つ箱に納めた一体箱構成とし、機器の小形化を図った。インバータ装置は、走行風によって冷却する方式であるが、DC/DC コンバータは、停車中の急速充電を考慮して、走行風が得られない場合でも十分冷却ができるような冷却フィン付きの構造を採用している。10.4 主電動機
主電動機は、三相かご形開放形誘導電動機とした。EV-E301 系では、インバータ電圧が DC 630 V であるため、一般的な電車の誘導電動機を採用することができない。このため、同程度の蓄電池電圧で走行するキハ E200 形ハイブリッド気動車に使用している誘導電動機を採用することで、機器の共通化を図っている。10.5 主回路用蓄電池
EV-E301 系は、主回路蓄電池の充電量(SOC)が重要となるため、キャパシタに比べて、パワーは劣るがエネルギー密度の高いリチウムイオン電池を採用した。主回路蓄電池は、22 直列で DC 630 V を確保し、10 並列(10 バンク)とすることで、190 kWh の出力を確保した。主回路蓄電池は、各バンクごとに 1 箱に納め、各車両に 5 箱ずつ、編成で 10 箱を床下に搭載している。
主回路蓄電池の容量は、走行で消費するエネルギーの他に、充電を失敗した場合の余裕、ダイヤ乱れなどを想定して決定した。また、リチウムイオン電池の安全性を確保するため、蓄電池の制御部と電力変換装置の制御部とで、二重に保護をしただけではなく、万一の場合にも、蓄電池箱の破裂を防ぐ構造とするなど、高い安全性を有している。10.6 集電装置
集電装置は、シングルアーム式パンタグラフを採用しているが、すり板を強化するなど、急速充電時の大電流に対応した構造としている。また、集電舟のホーンを緑色の蛍光塗料を用いて塗装することで、デザイン上の特徴とするとともに、夜間などにおける視認性の向上を図っている。10.7 ブレーキ装置
ブレーキ方式は、回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキを採用している。ブレーキ種別は、常用ブレーキ、非常ブレーキ、直通予備ブレーキ、耐雪ブレーキ及び抑速ブレーキの 5 種類である。ブレーキ制御装置は、1 台車当たり、1 台を設置している。常用ブレーキは、1 両単位で制御を行う。付随台車のブレーキ力を極力、動台車の回生ブレーキで負担する電空協調制御を行うことで、回生電力量を増やすとともに、制輪子摩耗量の低減を図っている。また、ブレーキ時の滑走によるブレーキ距離の延伸及び車輪フラットの発生を防止するため、各軸に速度発電機を取り
付けて速度を検出し、滑走を検知した場合は、滑走した軸のブレーキ力を一時的に弱めて、再粘着を促進させる滑走再粘着制御を設けている。
なお、EV-E301 系の特徴として、パンタグラフが上昇した状態での非電化区間への進入防止及び急速充電時の車両移動防止のために、架線認識装置によって、得られた架線状態に基づき、非常ブレーキを作用させる機能を有している。10.8 空調装置及び暖房装置
空調装置は、38.4 kWh(33 000 kcal/h)の空調機を屋根上に 1 台搭載している。暖房装置は、客室内の腰掛下のけ込み部及び車椅子スペースの壁部に、シーズ線式ヒータを搭載している。
空調制御は、モニタ画面から“冷房”、“暖房”又は“送風”を手動で選択する方式であるが、“冷房”又は“暖房”が選択された場合は、車内温度が設定された基準温度に保たれるように、自動で能力選定を行う。10.9 戸閉め装置
戸閉め装置は、直動空気式で、半自動機能付きである。また、戸閉め作動時は、側引戸が閉まった直後に、一時的に戸閉め力を弱めることで、万一、手や指がドアに挟まった場合でも、容易に脱出できる戸閉め力弱め機構を設けている。10.10 モニタ装置
モニタ装置は、従来からの機能(運転情報及び車両情報の表示、ワンマン装置制御などの乗務員支援機能、冷暖房などのサービス機器の制御機能、故障記録及び試験関係の検修機能など)に加えて、在来線デジタル無線アプリケーションなどにも対応している。
また、運転台に設置したモニタ表示器を有効に活用して、蓄電池駆動電車システムにおける乗務員支援を行っている。蓄電池状態を表すエネルギーフロー画面では、力行、惰行、ブレーキ及び停車の各モードで、主回路システムの各機器間のエネルギーの流れを確認できるようになっており、蓄電池の充電量や架線認識の状態なども表示する。10.11 運転保安装置
運転保安装置は、ATS-P を搭載している。また、EV-E301 系の特徴として、在線位置における架線状態に関する地上からの情報を架線認識装置へ送るための伝送機能を有している。10.12 行先表示器及び車内案内表示装置
行先表示器は、前面、側面ともに 3 色グラフィックLED 表示器を配置している。また、車内案内表示器は、一般的な電車のように、側引戸かもい点検ふた部に設けるのではなく、各車の乗務員室背面に設けた液晶式運賃表示器に、次停車駅、行先駅、ドア開き方向、運行情報などを表示する。10.13 放送装置及び非常通報装置
放送装置は、客室への車内放送及び車外放送両方の機能を有している。また、自動放送装置を設けており、必要な地点で適切な放送を自動的に行う。非常通報装置は、乗務員と相互に通話可能なタイプとし、車椅子スペースを含めて、1 両当たり 2 台を設置している。
2014- 9「車両技術 248 号」44
10.14 ワンマン運転設備EV-E301 系は、烏山線内でワンマン運転を行うため、
それに対応する機器として、車外の出入口に乗降口を案内するワンマン表示器、室内に整理券発行器、運賃箱及び液晶式運賃表示器(車内案内表示器を兼用)を設置している。ワンマン表示器及び整理券発行器は、ワンマン時の限定したドア扱い(後乗り・前降り)を考慮して、片側 3 扉のうち、中央を除いた前後の 2 扉に設置している。
11 台車台車は、ボルスタレス台車を採用し、前位を付随台車、
後位を動台車としている。車輪は、付随台車が波打車輪、動台車が一体圧延車輪である。車軸軸受は、密封複式円すいころ軸受としている。動力伝達方式は、平行カルダン式の駆動装置を採用して、主電動機と歯車装置との間を TD継手で接続している。また、歯車装置の歯数比は、6.06 である。車体支持装置は、車体の上下荷重を台車枠上部に取り付けた左右の空気ばねで支持する構造である。けん引装置は、車体に取り付けた中心ピンと台車枠とを 1 本リンクで結合する方式としている。軸箱支持装置は、軸ばり式を採用している。ブレーキ装置は、付随台車が踏面片押しブレーキ及びディスクブレーキの併用、動台車が踏面片押しブレーキである。また、先頭軸には、滑走防止のため、セ
ラミック噴射装置を設けている。
12 おわりにEV-E301 系は、性能試験や充電試験などで機能確認す
るとともに、乗務員の訓練運転を行い、2014 年 3 月 15 日から、量産先行車 1 編成が烏山線で営業運転を開始し、お客様に大変好評を得ている。今後、烏山線の気動車全数をEV-E301 系に置き換える予定である。今後とも、ご利用されるお客さまや地域の皆さまに末永く愛される車両となっていくことを願っている。
また、今後、蓄電池のさらなる技術向上とともに蓄電池駆動電車への取り組みがさらに加速し、蓄電池駆動電車が大いに発展することを期待する。
〔参考文献〕(1) 神孫子博:“ハイブリッド車両と蓄電池駆動電車システ
ムの開発”JR EAST Technical Review-No.40(2) 真保光男 神孫子博 薗田秀樹 柴沼健一:“蓄電池駆
動電車システムの実用化に向けて”平成 25 年電気学会 産業応用部門大会 4-S7-9
(3) 滝口裕之:“蓄電池駆動電車 EV-E301 系の概要”日本鉄道車両機械技術協会 R&m 2014.5